もしもダンガンロンパだったら(第三話


うっ・・・。

頭が痛い・・・・。

意識が戻って最初に感じた感覚は痛みだった。
ズキズキとした痛み。
なんでこんな痛みが・・・・。

ふと脳裏に気を失う直前の光景が映し出された。

琶月
「(そうだ・・・私はヘルに殴られて・・・。)」

「おい、起きたのか?」

琶月
「ん?」

瞼を開け、声が聞こえてきた方に目を向けるとそこには近くの椅子に座り目を瞑っている師匠の姿があった。

琶月
「わわわわ!!師匠!!!」

私は即座に起き上がりベッドの上で正座を始めた。

琶月
「お、おはようございます」

私はその場で土下座のようなポーズを取り師匠に朝のご挨拶をする。

輝月
「何を寝ぼけたことを申しておる。時刻はもう夜の9時じゃぞ。」
琶月
「うぇっ!!?夜の9時!!?寝れなくなっちゃう!!!」
輝月
「そういう問題じゃなかろう・・・・。それより、お主。痛みの方はどうじゃ。相当吹っ飛ばされて頭の打ちどころもかなり悪かったからな。どうじゃ、ちゃんとした思考は保てておるか?」
琶月
「は、はい!!私の視界にはいつも通り凛々しくて愛しい師匠の姿だけがっ!」
輝月
「そうか、いつも通りの琶月で残念じゃ・・・。」
琶月
「なんで!!!!???

・・・・あ、ところで・・・ここ、どこですか・・・?」

辺りを見回すと、一般的な椅子が二つと丸テーブルが一つ。そしてロッカーにベッドに棚置場に・・・。後シャワールームっぽそうな別の扉がひとつ。
まるで誰かの個室のようだ。

輝月
「うぬ、お主が思った通りここはお主の個室じゃ。」
琶月
「わ、私の個室?あ、あの・・・色々もっと説明を・・・。」
輝月
「説明したいのは山々じゃがそろそろ時間だ。来い。」

師匠が私の腕を引っ張り無理やりベッドの上から引きずりおろした。

琶月
「わぁっー!!まだ寝癖とか直していませんっー!!み、みだしなみもー!!」
輝月
「どうせ誰一人貧乳のお主に魅力なんぞ感じておらん。気にする必要はない。」
琶月
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
輝月
「うるさい!」

師匠はそのまま凄い力で私を引きずりながら校舎の中を歩き、そして食堂らしき場所へと連れて行った。
食堂へ着き、と師匠は私の腕を離した。

琶月
「うぅぅ・・・・あれ?皆?」

食堂には皆がそれぞれの席に座っていた。

キュー
「あ、琶月。大丈夫だった?」
琶月
「は、はい。大丈夫です・・・。」

師匠が皆の近くに置いてある椅子に座る。私も空いている残り一つの席に座ろうとするが隣にはあのヘルが・・・・。

琶月
「うっ・・・。」

私が躊躇っているとヘルと目があってしまった。

琶月
「ひっ・・。」
ヘル
「・・・さっきは悪かったな。ついカッとなってやっちまった。謝る。」
琶月
「へ・・・。」

謝られるとは思っていなかった。
私は逆にあたふたし始め、何も言わずに席へ座った。
・・・荒々しい人だけど、意外と筋の通った人なのかもしれない・・・・。それでも怖いけど。

ファン
「では、全員集まりましたね。」

ファンが長い首をあげて辺りを見回した。

ディバン
「いや、一人いないぞ。」
ヴィックス
「誰だ?」

全員が全員の顔を見合わせる。そして、誰がいないのか突き止める。

キュピル
「・・・いないのはギーンだ。やれやれ・・・・。」
ボロ
「俺達に恐れをなして逃げたに違いないっす。」
ガムナ
「おい、あんまり変な事言って聞かれたら真っ先に殺されちまうぞ・・・。」
ファン
「仕方ありません。彼の事は放って先に話を進めましょう。」

ファンは何一つ表情を変えずに話を続けた。
状況を呑み込めないでいる私に、ファンがフォローを入れる。

ファン
「琶月さん。気を失っていた間に校舎の中を探検し、脱出口がないか探しました。その報告会を行います。」
琶月
「あ、なるほど・・・ありがとうございます・・・。」
ヘル
「んじゃ俺から報告を始めるぞ。俺とテルミットは例の正面玄関にある巨大な扉をどうにかできないか試した。」
テルミット
「ヘルの超高校級の馬鹿力をもってしても、あの扉はビクともしなかった・・・。」
ディバン
「お前のその背中に背負ってるデカイ弓を使ってもダメだったのか?」

ディバンがテルミットの背負ってる巨弓を指さした。

テルミット
「あ、肝心の矢がないので何とも・・・。」
ボロ
「仮に矢があったところで鉄板は流石に貫けねーっすよ。」
ジェスター
「ボロはマシンガンを手に持ってるけど、それでババババババ!!って撃って壊せないの?」
ボロ
「ん?あ、これエアガンっすよ。バババババババッ!」

ボロがそういうと口で銃撃音を発しながら引き金を引いた。が、BB弾は出てこない。

ルイ
「・・・弾もないのですか?」
ボロ
「ここに足を踏み込んで気を失って次に目が覚めたらマガジンが全部無くなってたっす・・・。」
テルミット
「あ、僕と同じですね・・・。いつも矢筒も一緒に背中に番えていたのですが目が覚めたら無くなってて・・・。」
キュー
「うん、私は正直マガジンも矢筒もなくなってよかったって思ってるよ。」

恐らくキューは凶器の話をしているのだろう。・・・テルミットとボロはモノクマの話を真面目に受け止めている節は見えないが、仮にここから出るために人殺しを計ろうとした場合
弓もマシンガン(エアガンらしく流石に人を殺せはしないだろうが・・・)も、遠距離から手を下されたのであれば気づく前に死んでしまうかもしれない・・・。

ヘル
「あぁ、俺も目が覚めたら背中に背負ってた巨剣が無くなっちまってたなぁ。」
輝月
「ワシも腰に結び付けていた刀がなくなっておった・・・。」
ディバン
「誰もこの学園内に武器は持ちこめていないってことか。モノクマの言った通りだな。」
キュー
「あのさ・・・日常的に武器持ち歩いてるなんてどんな生活送ってんの?」

キューが至極まともな事を突っ込むが誰も答えずヘルが話の続きをしだした。

ヘル
「ついでに窓に打ち付けられてある鉄板も外せねーか試したが駄目だった。殴っても蹴ってもどうにもならねぇ・・。まるで鉄みたいな固さだ。」
キュー
「鉄だもんね。」

キューだけでなく、何人かも呆れた溜息をついた。

ファン
「正面玄関はダメでしたか。次どなたか報告を。」
ルイ
「あ、はい。私とジェスターさんで今みなさんがいるこの食堂について調べてみました。そこの扉を潜った先には大きなキッチンや冷蔵庫がありました。
冷蔵庫の中には霜降りのお肉や超高級食材がたくさん並んでいたので、お食事には困りそうにありませんね。」
ジェスター
「おいしいごはん作ってね、ルイ~。」
ルイ
「はい、喜んで。」

満面の笑みを浮かべるルイを余所にディバンが難しそうな表情をしていた。

ディバン
「食材があったのは良いが、この人数だ。何日持つか分らないな。」
ルイ
「あ、その点は大丈夫みたいですよ。毎日夜になると自動的に食糧が補充される・・ってモノクマが仰っていました。」
キュー
「モ、モノクマ!?襲われたりしなかった・・・?」
ヴィックス
「お、襲う!?それはどっちの意味だ!?あっふん!?」
ボロ
「いやぁぁん。」

ヴィックスとボロの間に座っていたキューが二人の顔面に裏拳をお見舞いした。
二人が悶え苦しんでいる間に報告は進んでいく。

ガムナ
「俺があの二人に変わって報告するぜ。俺とヴィックスとボロ三人でこの校舎内の廊下をくまなく歩いてみたら二階へ続く階段を発見した!」
ディバン
「二階へ続く階段だと?それはあのシャッターが下りていた階段以外で見つけたのか?」
ガムナ
「あ・・・いや・・・。あのシャッターが下りていた階段の事だ。」
ヘル
「んな事なら全員知ってらぁ!!」
ガムナ
「いやいや、そこのド・ヒンニューさんは気を失っていたから知らないはずだぜ。」
琶月
「ド・ヒンニューじゃありません!!琶月です!!!!」

椅子から立ち上がり机を勢いよく叩く。抗議だ抗議だ!

ファン
「他に報告することはありますか?」

講義空しくファンが間に割って入り、話の軌道を修正した。
私は渋々席に座って話に耳を傾けた。

ガムナ
「俺らは廊下をうろうろ歩き回っていただけだからなぁ。ただ、ここの学校の構造にいくつか気づいたことがある。
どうやら寄宿舎エリア校舎エリアの二つのエリアに分かれているみたいで結構広いぞ。校舎エリアには保健室購買視聴覚室体育館、後今はシャッターが下りているが二階へ続く階段がある。
おっと、それと普通の教室が二つと謎の赤くて天井にまで伸びた巨大な扉があったな・・・。」

ヴィックスとボロがよろよろと立ち上がる。

ボロ
「補足っすけど・・・保健室とその赤い巨大な扉は鍵がかかってたっす・・・・。」
ヴィックス
「その他の部屋は自由に出入りが出来た。まぁ、肝心の外へ脱出できそうな場所は見つからなかったけどな・・・。」

校舎エリアにはいろんな部屋があるようだ・・・。
ただ、残念ながら今はいけないエリアも多いようだ。

琶月
「(話は聞いても、中々校舎内の構造図が思い浮かばない・・・。)」
キュピル
「電子生徒手帳のマップでも見ればいい。」
琶月
「あ、なるほど。・・・って、どうして私が考えていたことがわかったんですか・・・?」
キュピル
「・・・・・・・・・。」
琶月
「そ、そこは無言ですか・・・。」

なにはともあれ、私は電子生徒手帳を起動させ校舎エリアの校内図を確認した。





ボロ
「補足入れておいてやるっす。1が体育館、2が体育館出入り口、3と4はトイレ、5は保健室。入れないっすけどね。」
ガムナ
「6が購買エリア、7があの巨大な鉄の扉がある正面玄関。」
ヴィックス
「8が視聴覚室、9と10は普通の教室。11はその赤い巨大な扉があった場所だ。その先に何があるのかはわからない。」
琶月
「(後で私もそれぞれの場所を簡単に探検しておこうかな・・・。)」
ヴィックス
「気持ち悪いのは、廊下も入れる場所も全て監視カメラが付いていて死角がない事だ。いつも監視されている感じがして落ち着かねぇ・・・。」

三馬鹿が一通りの校舎エリアを説明すると、ファンが口を開けた。

ファン
「長い報告ありがとうございます。では次に私から報告します。私はディバンさんと一緒に寄宿舎エリアの方を重点的に探索しました。」
ディバン
「寄宿舎エリアも校舎エリア程ではないがそれ相応に広かった。紙地図を偶然見つけたからそれを見ながら聞いてくれ。」

そういうとディバンはポケットから畳んだ紙地図をテーブルの上に広げた。



ディバン
「寄宿舎エリアには今俺らがここにいる食堂、それとそこの奥にあるキッチン。後は後コインランドリーがあった。洗濯や料理は自分でしろって事だな。」
ファン
「そして、ここ寄宿エリアに各個人の個室があります。個室の扉にはネームプレートがかかっていますので、自分の部屋を間違えないように気を付けてください。部屋の鍵はそれぞれの個室に置いてありました。」
ディバン
「寄宿舎エリアにもいくつか入れない部屋があった。??と書いてある場所がそうだ。そこがどんな部屋なのか、全く見当もつかないな。」
ルイ
「出口に通じる部屋…の訳はありませんよね・・・。」
ディバン
「流石にないだろうな。」

ないとは分かっていても、聞きたくなるルイの気持ちは良く分る。
それは私も同じ気持ちだ。

ヘル
「おい、このゴミ処理場ってのはなんなんだよ。」
輝月
「聞けば分るじゃろ。ゴミを処分する場所だ。」
ヘル
「んな事は分ってる!!このゴミ処理場の中に入ったらシャッターが下りててゴミを捨てられなかったんだよ!そのうちゴミ屋敷になっちまうぞ。」
ファン
「その点は心配ありません。私とディバンさんがゴミ処理場を調べていたところ、モノクマさんが現れて説明してくださいました。」
キュー
「モノクマにさん付けなんかしなくていいよ・・・。」
ディバン
「どうやら掃除当番っていう役割があるみたいでな。掃除当番だけがあのゴミ処理場のシャッターを開けられるらしい。」
ジェスター
「ゴミ掃除なんかいーーーやーーーだーーー!」
ヴィックス
「ジェスターの部屋はまさかゴミで散らかってる訳じゃねーよな・・・?」
ジェスター
「ちらかってないもん!」

ジェスターが首を横にぶんぶん振って長い髪を振り回す。
その長い髪が隣に座っているキュピルとファンにぶつかりまくるが二人は全く動じない。

ディバン
「さっき校舎エリアの殆どに監視カメラがあったとヴィックスが言っていたが、それは寄宿舎エリアも同じだ。各個室は勿論、ここの食堂もゴミ処理場もコインランドリーにも監視カメラがあった。
ジェスター
「個室にも監視カメラがあるなんて変態だっ!!モノクマは私やルイの着替えを覗きたいがために誘拐したんだよ。モノクマのロリコン!!」
琶月
「(酷い言われよう・・・・。)」
ディバン
「あぁ、その点は安心しろ。各個室にはシャワールームがついていてな。そこには監視カメラが存在しない。
ついでに校舎エリアと寄宿舎エリアにあるトイレにも監視カメラはなかったな。」
ルイ
「それを聞いて少しだけ安心しました・・・。」

ルイが溜息をつく。

ファン
「私達の説明は以上です。他にどなたか報告事項はありますか?」
ヘル
「おう、ド貧乳二号。お前も何か報告してみろよ。」

ヘルが輝月を睨みながら挑発した。
師匠も負けじとヘルを睨み返す。

琶月
「師匠はド貧乳じゃありません!!私よりもバストが2cmも多いんですよ!!」
キュー
「なんか増えてない!?」
輝月
「ワシは誰かのせいで気を失った琶月を看病していたのだ。誰かのせいでな。」
琶月
「し、師匠が私につきっきりで看病!!テンションあがっちゃいます!!!!!」

満面の笑みを浮かべながらゆらゆらと体を揺らす私の顔に師匠が着物の裾でパシンと叩いてきた。地味に痛い。

ファン
「・・・その他の報告は以上のようですね。有意義な会議でした。」
ヘル
「どこが有意義だ!結局ここから出るための情報もなけりゃ、俺達をここに閉じ込めた犯人の正体も不明のまま!それのどこが有意義なんだ!?」
輝月
「黙らぬか!さっきから叫んでばかりでうるさいぞ!」
ヘル
「気が立ってんだよ!!」

二人とも席から立ち上がり、今にも殺し合いが始まりそうな険悪な雰囲気。
すかさずルイが仲裁に入る。

ルイ
「ふ、二人とも落ち着いてください・・・。」
ヴィックス
「あぁ・・・・しかしこのまま本当に・・・ここに閉じ込められっぱなし・・なんて事はねーよな?マジで俺あのエロゲープレイしたくてムラムラして・・。」
キュー
「お願いだから私に近づかないでよ。」

ヴィックスはともかく、ルイやジェスターなどが落ち込んだ表情を見せている。やはり閉じ込めらていることに不安を感じているようだ・・・。

ボロ
「落ち込む事はないっすよ。」
ガムナ
「どうせこれもオリエンテーションの何かの一つだぜ!!」
ヴィックス
「おう、そうだな!」
キュー
「それまだ本気で言ってるの?」
ボロ
「隊長はこのまま閉じ込められた方が良いような気もするっすけどね。」
ヴィックス
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
琶月
「あーあーあー!!それ私の特許!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ファン
「所で、この中で科学が好きな方はいらっしゃいませんか?」


すっかり議論が止まってしまったその時。


ピンポンパンポーン


校内アナウンスと共に、壁にかかっているモニターの電源が入った。
一斉に話し声が止み、全員がモニターに釘づけとなった。モニターにはワインを片手に持ったモノクマの姿が映し出されている。

モノクマ
「えー、校内放送です。午後10時になりました。ただいまより”夜時間”になります。間もなく食堂はドアをロックされますので,立ち入り禁止となりま~す。
ではでは、良い夢を。おやすみなさい。」


プツッ。


静寂仕切った食堂にモニターの電源が切れる音が響く。

ヴィックス
「おいおい・・・ここの食堂。夜になるとロックかかっちまうのか!?」
ガムナ
「飯何も食ってねぇぇぇっっーー!!!」
ボロ
「ロックかかっちまう前に食糧持っていくっす!」

三馬鹿が即座に席から立ち上がるとキッチンの方へ走っていった。
気にする所はそこなのか・・・。

キュー
「あの三馬鹿の意見に賛同するのは不本意だけど・・・私達も何かごはん持っていこっか・・・。食べないと元気でないもんね。ジェスター大丈夫?」
ジェスター
「んー?大丈夫だよ。何で聞いたの?」
キュー
「あ、そう・・・。さっき落ち込んでいるように見えたから・・・。」

キューとジェスターもキッチンへと移動する。
その二人の後に続くように他の何人かもキッチンへと移動した。

輝月
「うぬ、琶月よ。」
琶月
「あ、はい?」

私もキッチンへ向かおうとしたその時、師匠に呼び止められた。

輝月
「明日、お主と二人でここの校内を探索しよう。」
琶月
「な、な、な、なんと!!!し、師匠と校内デート!!!!!!やったああああああ・・・・うぎゃぁっ!」

歓声をあげる私の鼻にひじ打ちを食らわしてきた師匠。私はその場で鼻を押さえながら蹲った。

輝月
「勘違いするな。ここから脱出する方法がないか探るだけじゃ。」

そういうと師匠はキッチンへは向かわず、そのまま食堂を後にした。
私はそのままキョトンとしながらうずくまっていると、キッチンから変わった事が聞こえてきた。・・・モノクマの声?

『おまえら~!もうロックかけるから早く出ていけぇ~!』
『げぇ、モノクマァッ!!』
『モノクマぁー!カンパンがねーぞー!!災害にあったらどうするんだ!!』
『がおおーー!!』
『ちゃんと返答しやがれ~~!!』

琶月
「はぁ・・・私も自分の部屋に帰ろ・・・。」

モノクマと三馬鹿の会話を聞いているうちに段々どうでもよくなってきた。
私はそのまま自分の個室へと戻ると、そのままベッドの上へ飛び込んだ。
これは学園が企画したオリエンテーションなのか。それとも頭の狂った人間が犯行に及んでいるのか。

琶月
「(人を殺せば外に出れる・・・なんて。そんなの、リアルティがない・・・・。)」

現実離れした話。だから、これはちょっと度の過ぎた悪ふざけか何かなのだろう・・・。あのたくさんある監視カメラは誰かが話を本気してしまった時に備えて
教員の誰かが監視して・・・それはそれでちょっと嫌だけど・・・。どう、実際の所はどうなのか・・・。
真偽について私が考えているうちに段々と眠くなり、うつ伏せになりながら私は眠りに落ちた。




・・・・。


・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



『オマエラー、おはようございます。朝です、7時になりました!起床時間ですよ~!
さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』


・・・何か聞こえたような気がしたが、私は気にせず眠り続けた。
だが、さらにしばらくして別の音が私の耳に入った。


「おい。」

誰かに呼ばれる声。

琶月
「んぁ・・・・。」

「起きろ。」

琶月
「う、うぅ~ん・・・もうこれ以上バストは大きくなりましぇん・・・。」

「何を馬鹿なことを申して居る!!起きろ!!」

琶月
「わぁっ!!!」

耳元で叫ばれた私はすぐにベッドから飛び上がり、即座に正座して声の主へ対面した。
私の耳元で叫んだのは師匠だった。

琶月
「あ、あれ!?師匠どうしてここに!?あ、そのまえにおはようございます。」

師匠は大きく溜息をつきながら困った目つきをしながらを私へ向けた。

輝月
「お主・・・扉の鍵が開けっ放しじゃったぞ。昨日の話を信じた愚か者がおったらどうする気じゃ。」

昨日の話・・・。
それは恐らく、モノクマが言った事を指しているのだろう・・・。

誰か一人、殺した者だけクロとなりこの学園を卒業できる・・・・。
校則にもそんな事が書いてあったっけ。

琶月
「で、でも私が生きているって事は誰も誰かを殺そうとなんて考えていないって事ですよね?」
輝月
「たまたまお主の部屋に寄らなかっただけやもしれぬ。それに、まだ閉じ込められて一日しか経過しておらぬぞ。
数日も経過すれば誰が血迷うかわかったものではない。お主もこれからは戸締りに気を付ける事じゃな。」

た、確かに・・・。そういう可能性もあったと考えるとゾッとした。
だけど、それ以上に私が先に考え付いたのは・・・

琶月
「し、師匠が私の事をこんなにも心配してくれているっ・・!!あぁ、もう師匠になら殺されても良いです!!師匠ぉぉ~~!!」

師匠に抱き着こうとし飛び上がったが、空中を飛ぶ私をビンタで叩き落とし、私はそのまま地面に叩きつけられた。

琶月
「ぐぇっ!!!」
輝月
「食堂に行くぞ。腹が減った。」
琶月
「あ、はい!」

スタスタと歩いていく師匠の後を私は追いかけて行った。
私達の個室がある廊下は照明が薄暗く、朝を迎えたと言うのに何だかまだ夜のような気がしてならない。
そもそも、全ての窓は厚い鉄板で打ち付けられているため陽の光を拝むことが出来ない。それだけで何だか憂鬱な気分になる。

食堂へたどり着くと、そこには既に何人かが集まっていた。

ルイ
「あ、おはようございます。」
キュー
「おはよう。早起きだね。」
ファン
「おはようございます。」

私は半ば驚きながら挨拶を返した。

琶月
「おはようございます。みなさんもお早いんですね・・・・。」
ルイ
「昨日はちゃんとしたお料理を食べることが出来ませんでしたから。これから朝食を作る所ですけれどお二人の分もご用意致しましょうか?」
琶月
「わぁ、本当ですか!?ぜひよろしくお願いします!」

超高校級のメイドに朝ごはんを作ってくれるなんて幸運だ!
ルイの作るご飯はさぞ美味しい事だろう。私はウキウキしながら食堂の椅子に腰を掛けた。

ルイ
「ちょっと待ってて下さいね。」

ルイはそれだけ言うとキッチンへと移動した。
・・・それから数分後。廊下の方からまた何人かが人がやってきた。

ヘル
「うーっす。」

食堂にヘルがやってきた。
それから更に一分後。

テルミット
「おはようございます。」

テルミットもやってきた。
そしてディバン、キュピルも続いて食堂に現れ、私が食堂について30分が経過した頃に今度は三馬鹿、ギーンもやってきた。
気が付けば、全員がここ食堂に集合していたのだ。

ジェスター
「やっぱりみんなお腹減ったんだね。」
キュー
「朝、こうやって全員食堂に集合していると誰も死んでいないって事が確認出来ていいね。」
ファン
「そうですね。これからは毎朝7時半までに食堂に集合するというのはどうでしょうか?」
ルイ
「賛成です。」

キッチンからルイが何品かの朝食をトレイに乗せて運んできた。
美味しそうな焦げ目のついた薄いお肉、サラダとフルーツを組み合わせたお野菜。甘い匂いがしてくるスクランブルエッグ。
とても短時間で作ったとは思えない、どれも美味しそうな朝食をルイは運んできた。

ルイ
「みなさん、きっと朝食に集まってくると思って14人分全員作ってあります。お好きなのを取って食べてくださいね。」
ヴィックス
「うおおおおおおおおお!!!!生高校生の生朝食!!!!」
ガムナ
「まじ惚れそう!!」
ボロ
「おっぱいでけーから俺は惚れた!!」
キュー
「絞め殺す!!」
ヴィックス
「ブェッ!」
ガムナ
「アヴァッ!
ボロ
「ボロッ!」
キュー
「あんたが一番むかつくーー!!」
ボロ
「何でおれwwwww」

三馬鹿とキューのやり取りを無視して私はルイの作ってくれた朝食を食べ始めた。
超高校級のメイドだけあって、どれも頬っぺたが落ちそうな程美味しかった。一体どうやってこんなに食材を美味しく調理できるのだろう・・・。
皆が朝食を食べている中、ただ一人ギーンだけが朝食を食べていなかった。

ルイ
「あら?お気に召しませんでしたか?」
ギーン
「ふん、誰が貴様の料理を食う?毒でも入っていたらどうする?」

それを聞いて真っ先にキューが怒りをあらわにした。

キュー
「あんたさ!!!すっごい失礼な事言ってる事に気が付かない!!?」
ジェスター
「そーだそーだー!ルイに謝れ~~!!」
キュピル
「二人ともやめろ。・・・ギーン、お前もちょっとは言葉を慎め。」
ギーン
「ほぉ、この俺にそんな口が聞けるとは。それ相応の覚悟は出来ているんだろうな?」

ギーンの眼光鋭い眼差しでキュピルを睨みつけるが、キュピルはそれに全く動じない。

ファン
「この朝食、とても健康的でおいしいですね。」

ファンが空気を読まず、思ったことを口にする。

ボロ
「お、おう。そうっすね。」
ガムナ
「いやぁ、まじで美味いぞ!!」
ヴィックス
「健康的なごはんおかわりぃ!!」
ルイ
「え?あ、はい。ただいまお持ちいたしますね。」

ファンの言葉を三馬鹿が強引に引っ張っていき、この悪い空気をうまく流した。
三馬鹿もちょっとは皆の事考えてくれているみたいだ・・・。

結局、その後はギーンは一言も喋らず二日目の朝は終了した。
食堂から出る前に、私達はファンが提案した朝7時半までに食堂に集まるというルールを明日から続けていくという事を取り決め、私達はそれぞれ自由行動をとり始めた・・・。



2日目は昨日師匠に言われた通り、校内を探検することにした。
寄宿舎エリアから校舎エリアへ移動する。校舎エリアに出て最初に目に入るのは二つの扉だ。
この扉の先には教室があり、学校机に椅子がおいてあり鉄板、それと監視カメラさえなければ極々普通の教室にしか見えないだろう。
教室内を隈なく調査して外へ出れる抜け道があったりしないか探したが当然そんな物は見つからなかった。

琶月
「こんな事さえ起きなければ今頃・・・師匠と一緒にここの教室で授業を受けていたのかもしれませんね・・・。」
輝月
「あるいは、お主は初日早々問題を起こして退学させられていたか。」
琶月
「あああああああああああああああああああああああ!!!」


・・・。

・・・・・・・・・。

教室から出て廊下を道なりに進むと、次に目に入るのは赤くて天井まで届いている巨大な赤い扉。
この扉の周辺だけ非常に暗く、とても不気味だ・・・。師匠が蹴っ飛ばして扉を開けようとしたが扉は開かなかった。

輝月
「この扉は一体何なのだ?他のものと比べて明らかに異様じゃ。」
琶月
「いずれ・・・開いたりするのでしょうか?」

私と師匠はこの扉の事は無視して廊下の奥へと歩いていく。
次に目に入るのは視聴覚室。この部屋の中にはたくさんのモニターと機材が置かれており、さながらPC室と言い換えてしまってもいいのでは?っと思えるような部屋だった。
出口に繋がりそうな物は当然ない。

輝月
「パソコン・・・じゃったか。それみたいに何か操作して助けなどを呼ぶことは出来ぬのか?」
琶月
「これはただのモニターですね。教室の教卓台の近くにあるビデオデッキに先生がCDやビデオテープとか入れると、こっちにも再生されるだけのものです。あとはこのモニター自信からDVDやビデオを再生する事も出来るみたいですね。
一人で見る用と皆で見る用のがあるって所です。」
輝月
「機械は苦手じゃ。」
琶月
「現代っ子になれませんねぇ、師匠。」

視聴覚室を出て左に突き進んでいくと正面玄関へと続く扉と購買室が見えてくる。
購買室へ覗き込むと、そこは人のいない購買室で、陳列棚にはたくさんの文房具や教材が置かれていた。

輝月
「流石に人はおらぬな。ほれ、輝月。そこの教科書を盗んで勉強でもしたらどうじゃ?」
琶月
「・・・流石に今は勉強する気になれないです・・・・・。」
輝月
「非常事態でなくとも勉強する気はなさそうじゃな。」
琶月
「あああああああああああ(ry」

師匠の突込みの事は一旦おいといて・・・。ちょっと気になったのは、カウンターの上にガチャガチャが置かれていた事だ。それも物凄くデカイ・・・。

琶月
「これ、試しに回せたりしませんかね・・・。」
輝月
「小銭を入れる場所と思わしき穴は開いておるな。小銭さえあれば回せそうじゃが。」

この学校で目が覚めた時から既に荷物がなくなっていたため当然財布も持っていない。・・・これを回せる日は来るのだろうか。
師匠はこのガチャガチャの中身が若干気になるらしく、壊そうとしていたが慌てて私は制止するよう説得した。

購買部から出て正面玄関へと続く扉を潜る。
そこには相変わらず巨大な鉄の扉が塞いでおり、まるで私達を永遠に閉じ込めさせようとしているかのようだった。
ここには既に何もないことは分っているのですぐに引き返した。

正面玄関から更に廊下の奥へ突き進むと保健室へと続く扉の前を通り過ぎた。
ここは確か三馬鹿の話によると鍵がかかっていたとか。私はためしに扉を開けようとしたが話の通り鍵がかかっていて開かなかった。いつか開く日が来るのだろうか?
そのまま保健室の前を通り過ぎると二階へと続く階段を発見した。しかし、階段の前には鉄格子のシャッターが下りており通れない。

輝月
「では壊そう。」
琶月
「わぁっー!!またですか!!」

私が再び抑止しようとしたその時、いきなり天井から私の目の前にモノクマが落ちてきた。

モノクマ
「こらぁーーー!!!」
琶月
「ワッーーーーーー!!!」

突然天井から降ってきたため、私は驚きの声をあげずにはいられなかった。

モノクマ
「僕は怒ってるんだよ!!」
琶月
「ひぃぃ!ごめんなさいごめんなさい!」

情けなくその場で頭を抱えながら座り込む私。

モノクマ
「勝手にシャッターとか鍵のかかっているドアを壊さないでほしいな!!もう!」
輝月
「知らぬ。校則にも書いてあるじゃろう。ほれ、『希望ヶ丘学園について調べるのは自由』じゃと。じゃから調べるためにワシはこのシャッターを壊す。」
モノクマ
「しょぼーん・・・最近の女子高校生って皆こんなに野蛮人なの?ゴリラなの?原始人なの?筋肉ムキムキの原始人の女性と誰も付き合いたがらないよ。はっ、だから今少子化が騒がれているの!?」

段々師匠のイライラゲージが上がってきているのが見える・・・・。

師匠
「モノクマは無視してシャッターを壊すぞ、琶月。」
琶月
「えっ!?」
モノクマ
「こらぁーーーーー!!そんな秩序を乱す暴挙に出ると言うのなら校則を追加するしかないね!!」

モノクマがそう叫ぶと、電子生徒手帳が震え音を鳴らし始めた。私はポケットから電子生徒手帳を取り出し起動させると、校則がアップデートされていた。

7、鍵のかかっているドア及びシャッターを壊すのは禁止とします

モノクマ
「ふぅ、僕って天才。これで勝手にドアやシャッターを壊される心配はなくなったね!じゃ~ね~!」

そういうとモノクマは地面に吸い込まれるように消えて行った。・・・どうやって吸い込まれたんだ?
私は師匠の顔色を窺うようにしながらしゃべりかけた。

琶月
「あのぉ~・・?」
輝月
「ちっ、奥へ行くぞ。」
琶月
「あ、はい!」

輝月が体育館へと向かう。私もその後にへ続いていく。
廊下から体育館へと続く扉をあけると、少し広い部屋へ出る。この部屋にはたくさんのトロフィーが置かれている。恐らくこれまでここの生徒が取得した輝かしい功績の何かなのだろう・・・。
その他にも校章の刺繍が縫われた旗などが置かれていたり、謎の置物や金色の模擬刀などが置かれている。

琶月
「さっきの話の続きじゃないですけど、もし日常生活をこの学園で送る事が出来たのであればきっと師匠の輝かしい功績の一つがここに並べられる事になったのかもしれないですね。」
輝月
「ふっ、当然じゃな。」

部屋の奥には鉄の扉があり、その扉を開けると体育館に入ることが出来る。
私と師匠は体育館へ移動し、広い体育館の中を適当に探索する。何処かに鉄板打ち付けるのを忘れている場所とかあったりすればいいのだが、当然そんな漏れはなく結局寄宿舎エリアの隅から隅まで探索しても外への脱出の糸口を手にすることは出来なかった。

琶月
「ところで、どうして体育館に来ると無性に走りたくなるのでしょうか。」
輝月
「そんなのはお主だけだと思うが・・・・。」
琶月
「うぇっ!?そ、そんなことないですよ!!きっと!!」

師匠は私の発言を無視して体育館から出ようとする。
私はその後を追い別の話題を切り出した。

琶月
「そ、それにしても・・・体育館にも特に出口に繋がりそうな所はありませんでしたね・・・。この部屋も特にはなさそうですし・・・。」

体育館から沢山のトロフィーや置物が置かれている部屋で私はボソッと呟いた。

輝月
「本当に閉じ込められておるという事か。」

心のどこかでは本当は私達をだまそうとして皆が嘘をついているのではと思っていたりしたが、改めて訳の分らないモノクマというやつに閉じ込められているっという事を再認識するとどことなく私は不安な気持ちになった。

琶月
「大丈夫・・・かな・・・・。」
輝月
「気にすることはない、琶月。のんびり構えておればいつか好機はやってくる。それまで気を強く持つ事じゃ。」
琶月
「あ・・・・はい!!そ、そうですよね!」

師匠の前で弱気な所を見せてしまった。評価が下がらないうちに何とか挽回策を・・・。
私はこの部屋をキョロキョロと見渡すと、金の模擬刀が目に入った。

琶月
「あ、そうだ。師匠。」
輝月
「何じゃ?」
琶月
「私達がこの学校で目が覚めた時、荷物とか全部なくなっていたじゃないですか。勿論、師匠の大切な愛刀も含めて・・・・。」
輝月
「・・・うぬ、そうじゃな。」
琶月
「つまり、今私達は身を守る武器が一つもないってことになります。だから護身用にあの模擬刀を持ち帰るってのはどうでしょうか?」

そういうと私はこの部屋に置かれてある金の模擬刀を手に取った。柄の部分を持つとボロッと金粉が剥がれ落ち私の手にこびりついた。

琶月
「うわっ!!!金粉がはがれた!!」

慌てて模擬刀を元の位置に戻し、手をパンパンと叩いて指についた金粉を落とそうとするが中々落ちない。

琶月
「せ、石鹸で洗わないとダメみたいですね・・・。」
輝月
「そんな面倒な物はいらぬ。琶月、お主が持ち帰ったらどうじゃ?」
琶月
「うぇっ!?私が!?」
輝月
「ノロマでマヌケなお主でも模擬刀を構えておれば殺人犯も少しは思いとどまるかもしれぬな?」
琶月
「う、うぅ・・何か全然説得力ないですけど・・・一応持って帰ります・・・。新聞紙とか包む物ないかなぁ・・・。」

ないよりはマシ・・・て所だろうか。
結局包む物は見つからなかったので私は模擬刀を手に持って、そのまま師匠と一緒に部屋へ向かった。
途中、三馬鹿とすれ違い貧乳と言ってきたらこの模擬刀で叩いてやろうと思ったが珍しく三馬鹿は何も言わずに私と師匠の横を通り過ぎて行った。残念。

寄宿舎エリアに到着すると、時刻は既に夕刻過ぎ。色んな部屋を隈なく探していたら大分時間が過ぎていたようだ。
陽の光を見ていないせいで、時間の進みが全く把握できない。

私と師匠は食堂前で解散し、明日ここ寄宿舎エリアを探索することにした。


ジェスター
「あー!!琶月が凶器持ってる!!殺される!」
琶月
「わー!!誤解です!!」


続く


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