都会の少年とド田舎の少女が出会う夏の純愛物語



人は田園風景を懐かしみ憧れてしまう所がある。ド田舎に暮らし快活な笑みを浮かべて川遊びする少女、都会から家族で田舎暮らし体験しにやってきた少年。少女が川に石を投げようとした時、手元が狂い少年の頭に当たったのがきっかけとなり2人は都会に帰るまでの2週間かけがえのない日々を送る。

透き通る川で水遊びする少女の姿はかつて天女が絹を洗う為に舞い降りた伝承そのものの様に美しく可憐だった。川で捕まえた同じ魚を2人で頬張り、星を眺め、お互いの住む村と街がどんな所か語らう。少年は少女に恋し、2人は一生分の思い出を作ろうとするかのように仲を育む。

向日葵に囲まれた田舎道。少女が伸ばした手を恥ずかしそうに握り返す少年。少年の腕を引っ張り共に田圃へ落ちる2人。陽炎で揺らぐ畦道。頬を優しく撫でるような熱気を伴った風。暑さで上気した少女の顔を直視できず目を逸らす少年とそれを不思議そうに見つめ首を傾げる少女。満ち足りた夏の日々。

そして別れの時が来る。少年は少女に抱きついて別れを惜しみたかったが家族の前もあり羞恥で出来なかった中、少女から少年に抱きつき泣いて別れを惜しんだ。山に吸い込まれ木霊する少女の泣き声。夏の終わりを予感させる蜩の鳴き声。少年はまた来ることを約束し少年少女の特別な夏は終わりを迎えた。

翌年、再びその村の田舎暮らし体験に応募しようとした家族は知る。秋の大災害で村丸ごと流され消えていた事を。小さな村の出来事故都会では小さく扱われ少年とその家族はそれまで知ることができなかった。少女の消息も知ることが出来ず、月日は無情に流れ遠い記憶と化していった。

十数年後。勤人となった青年は社会の歯車となっていた。交差点を行き交う人々、騒音鳴り止まぬ電光板、踏み潰された吸い殻が溜まる溝。ありふれた大人の夏が始まる。喧騒な街に嫌気をさした人は皆知りもしない空想の田園風景広がる村を懐かしむ。青年は忙殺されていたことで忘れていた約束を思い出す。

無理を言って休暇を貰い青年はかつて少女が住んでいた村へ訪れる。今はもう村はなく、バスも来ない廃村と化した地。それでも少女と遊んだ川は残っており青年は当時の田園風景を思い起こし重ね懐かしんだ。誰もいない川に向かって自分の住む街を話し、愚痴を吐き出し、そして会いたいと小さく呟いた。

頭に衝撃が走る。足元に転がる衝撃の正体。青年は転がる石を拾い、目を見開き、後ろを振り向く。「もぉ、待たせすぎだよ。私も今きたんだけどね」青年はかつての少女へ抱きついた。止まった時が再び動き出し青年の青春のモラトリアムが終わる。空を覆い尽くす入道雲が夏の始まりを告げていた。end

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人は田園風景を懐かしみ憧れてしまう所がある。ド田舎に暮らし快活な笑みを浮かべて川遊びする少女、都会から家族で田舎暮らし体験しにやってきた少年。少女が川に石を投げようとした時、手元が狂い少年の頭に当たったのがきっかけとなり2人は都会に帰るまでの2週間かけがえのない日々を送る(リプ続く

— れみこん?? (@remikonhurakon) December 20, 2022



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