シーズン14 秘密と真実


シーズン14 目次 & ショートカット

オープニング : 第一話 : 第二話 : 第三話 : 第四話 : 第五話 : 第六話 : 第七話

第八話 : 第九話 : 第十話 : 第十一話 : 第十二話 : 第十三話 : 第十四話 : 第十五話 

第十六話 : 最終話


オープニング  



キュピル
「・・・・・・・・」

深夜。

キュピルの元へ届いた一通の魔法の手紙を読む。
もうこの手紙は何回読んだ事か・・・。

キュピル
「・・・・・・・・・。」










キュピル
「皆、聞いてくれ。俺からの重大なお願いがある」
ジェスター
「何ー?」
ルイ
「何でしょうか?」
ファン
「どうしました?」




キュピル
「家をちょっと改造してクエストショップを創立、立ち上げようと思う」











マキシミン
「おい、QPの家が何か工事始めてるぞ」
イスピン
「あれ、本当だ・・・。」
マキシミン
「けっ、なんだよ。しばらく見ないと思ったら今度は改装かよ。あいつ裕福になっちまったのか?」
イスピン
「何?妬んでるの?そんなこと考えてる暇があったら君も骨身を惜しまないで働いたら?」
マキシミン
「うるせぇ、ちょっと冷やかしてくる」
イスピン
「全く!」



マキシミン
「ククク、よぉキュピル。久しぶりだな」
ジェスター
「あー!マキシミン!」
ルイ
「あ!!」
マキシミン
「ゲッ!こいつらの事すっかり忘れてたぜ!」
ジェスター
「覚悟は良いー?」
マキシミン
「んなことよりとっととキュピルに合わせろ」
ルイ
「キュピルさんはいません!!」
キュピル
「いや、居るから・・・」

大工道具を持ってキュピルが部屋からやってきた。

マキシミン
「おい、この改装はなんだ?まさか豪邸にしちまう気か?」
キュピル
「ちょっとは広くなるな。今ナルビクの市役所から申請が通った通達が来たから
隣の土地まで家を拡大させる」
マキシミン
「このブルジョアめ」
キュピル
「だが隣の土地はクエストショップ建てちまうから結局家の広さは変わらないがな」
マキシミン
「・・はぁ?クエストショップだと?リカス奴とかぶるじゃねーか」
キュピル
「うちのクエストショップはちょっと他のとは一味違うぞ。お前も困ったらうちの所を頼りな。ハッハッハ」
マキシミン
「・・・おい、あいつの性格少し変わったか?」
ファン
「色々ありましたから・・・」
マキシミン
「・・・変な奴だ。いや、元からか」




〜〜一週間後〜〜



ジェスター
「わーい、完成〜!!」
キュピル
「ファンのおかげで早く完成した。」
ファン
「こういう事は任せてください。それにしてもまさかキュピルさんがクエストショップを立ち上げるなんて
思ってもいませんでした。急にどうしたんです?」
キュピル
「ちょっとした風の吹きまわしだよ。」
ファン
「そうですか?」
ジェスター
「私が看板書くー」

そういってジェスターが大きな筆を持って外に出た。

キュピル
「綺麗に頼むよ」

ルイ
「へぇー、結構内装も綺麗ですね」
キュピル
「仮にもお客を通す場所だからな。そこそこ家具も良い物を買った」
ルイ
「ちなみにおいくらで・・・」
キュピル
「大体全部合わせると850KSeedぐらいかな・・」
ルイ
「は、850K!?ど、どこからそんな大金が!?」
キュピル
「この前ギーンにクエストショップを立ち上げようと思うと言ったらカンパしてくれたんだよな」
ファン
「それって何かまずい気が・・。まさか税金から・・」
キュピル
「そこはちゃんとギーンも実費から出してくれたらしい。使い道ないからやるだとかどうとか・・」
ルイ
「ある意味とんでもない人と知り合いになりましたよね・・・」
キュピル
「まぁ、そうだな・・・」

向こうは向こうで上手く行ってるようだ。
・・・そういえばミーアとの連絡がつかないな・・・。
でもあの人も正直な事言うと刺しても死ななそうな人ではある。

キュピル
「基本は俺が経営するよ」
ルイ
「私も手伝いますよ。何だか楽しそうですし!」
ファン
「僕も手伝います。」
キュピル
「ありがとう。」
ジェスター
「でーきたー!」
キュピル
「お、ジェスターが書き終わったようだ」

三人が外に出る。そして書かれた看板の文字を見て驚愕する。

キュピル
「げっ!!」
ルイ
「ジェスターのクエストショップ・・・」
ジェスター
「キュピルは私の下僕だからこのクエストショップは私の物ー。えっへん」
キュピル
「い、今すぐ書き直せー!!!」
ジェスター
「えー」
ファン
「しかも既に屋根に固定してますからあれは簡単には取り外せませんよ!?」
キュピル
「・・・・ジェ〜〜ス〜〜〜タ〜〜〜!!!」
ジェスター
「何で怒ってるの?いいじゃんー」
キュピル
「俺は怒ったぞJOJOーーー!!!」

ジェスター
「あ、なんか嫌な予感!」

ジェスターが屋根から降りて家に逃げる。その後をキュピルが追う。

ルイ
「・・・結局この名前でやらないといけないんでしょうか?」
ファン
「・・・当分はそうだと思いますよ・・」


こうしてジェスターのクエストショップが今開業した



第一話


キュピル
「とりあえず開業しただけじゃ意味がない。広告とかでうちの店の存在を知らしめないといけない」
ファン
「そうですね。ナルビク新聞の広告をお願いしてきましょうか?」
キュピル
「お願いするよ。広告費は後で見積書と共に用意してくれると助かる」
ファン
「わかりました」

ジェスター
「何かキュピルとファンが難しい事してるよー?」
ルイ
「お二人の邪魔をしないようにしてくださいね。ジェスターさん」
ジェスター
「つまんなーい!」


ガチャ

その時誰かが入ってきた。

ジェスター
「あ、もしかして一人目のお客さん?」
友人A
「うーっす」
ジェスター
「・・・・」

ジェスターがすぐにルイの後ろに隠れた。

友人A
「なんだ、ジェスターのクエストショップっつってたからてっきりジェスターが一杯いるのかと思ったら
そう言うわけじゃないのか」
キュピル
「あれはジェスターが勝手にそういう名前にしただけだ・・・」
友人A
「いい名前じゃないか。俺は感動した!!」
キュピル
「お前だけだ!それで一体何の用だ」
友人A
「おいおい、それがお客さんに言う台詞か」
キュピル
「何かお前さんの場合は気が抜けるんだよなぁ・・・」
友人A
「ひでぇな、おい。まぁいいけど、QPに頼みたい事があるんだ」
ジェスター
「友人Aが最初のお客さんだなんて嫌ー!」
友人A
「そんな事言わないでくれよ、マイハニー!」
ジェスター
「嫌ーー!!」
ルイ
「ま、まぁまぁ・・」

ルイがジェスターをなだめる。

キュピル
「まさかお前が一番最初の依頼者だとは思わなかった・・・」
友人A
「前々から頼もうと思っていたから別に依頼っつうわけでもないが・・
実は俺の知り合いに『盲目のジェスター』がいるんだが・・」
キュピル
「盲目のジェスター?」

ジェスター
「盲目って何ー?」
ルイ
「目が見えないって事です」
ジェスター
「大変だね・・」

友人A
「その盲目のジェスターが可哀相なんだ・・・。
産まれた時から目が見えなかった訳ではない。自分のご主人と一緒に狩りをしていたら
ピンガの大軍に遭遇したらしくてな・・」
キュピル
「ピンガ?確か極寒の地の奥地にいる敵だな・・・。そいつは普通の人では倒せない相手だ。それで?」
友人A
「結局退路を失ったそのご主人は討ち死にしちまってな・・。その際そのジェスターも目を矢で射られてな・・。
そこを偶然他の旅人が来て間一髪そのジェスターは助かったそうだ。
手術は成功して無事一命は取り留めたようだが・・・。
視力までは取り戻す事は出来ず自分の主人も失った。」
キュピル
「悲惨な話だな・・」
友人A
「全くだ。それだけじゃない。その盲目のジェスターは生まれつき体が弱いんだ。
産まれた時から走る事も出来ずちょっとしたことですぐに疲れてしまう。だから普通の子とは違う生活をしてきた。
・・・そんなジェスターが目まで見えなくなってしまった・・・。」

ジェスター
「・・・何だか可哀相・・・」
ルイ
「そうですね・・」

友人A
「そのジェスターは施設に送られたそうだがちょっとしたツテで俺が今面倒を見てる」
キュピル
「待て。お前確かしゅららだとかなっつだとか言うジェスターも面倒見てなかったか?」
友人A
「見てる」
キュピル
「更にもっと言うとその二人のジェスターの元々の飼い主は生きてないか?(注:飼い主はイシュラ」
友人A
「拉致った」

キュピル
「・・・念のため確認するがお前の家にジェスターは何人いるんだ」
友人A
「あー、そいつは聞かない約束だ」
ジェスター
「警察に通報!」
友人A
「されても痛くもかゆくもない!なぜなら向こうから俺の元へ居るのを願うからな。」
キュピル
「何であいつはジェスターに好かれる?」
ジェスター
「私は好かないよ!」
友人A
「閑話休題。要件を言おう。その盲目のジェスターの保護者は俺になってるが
エルティボで暮らしている。自分の主人が住んでいた家から離れたくないらしくてな。
それでその盲目のジェスターから一つのお願いが届いた。
非力な彼女を助けてやってくれないか?」
キュピル
「ジェスターのためなら何でもやってやるお前じゃなかったのか?何故俺に頼む?」
友人A
「いや・・・その、なんだ。俺は他からもちょっと呼ばれててな・・」
キュピル
「・・・ジェスター好きもほどほどにしておけよ」
友人A
「お前に言われたくない」
キュピル
「いや、お前にこそ言われたくない!」


友人A
「まーまー、とりあえず承諾してくれや。な?」
キュピル
「うーむ、仕方ない。引き受けよう」
友人A
「・・・報酬について忘れてたな。今度一緒に飲みに行った時俺がおごってやる。それでいいか?」
キュピル
「そいつはいいな。取引成立だ」
友人A
「よし、そいじゃ報告待ってるぞ。そのジェスターに連絡はこっちから入れておく。」
キュピル
「わかった」

そういって友人Aが外に出た。
出る直前にジェスターに向き直り

友人A
「今度一緒に遊びに行かないか!?ジェスター」
ジェスター
「嫌だー!」
友人A
「嫌われたもんだ・・」

そういって今度こそ出て行った。


ルイ
「何だかんだで友人Aさんとは仲が良いのですね」
キュピル
「数年単位でもう居るからなー。さっそく『盲目のジェスター』とやらに会いに行こう。」
ルイ
「一人で行かれるんですか?」
キュピル
「念のため一人連れて行きたいな。まだ仕事内容が明確になっていない。」
ルイ
「それなら私が一緒に行きましょうか?」
キュピル
「ジェスター、ファンと二人で留守番出来るか?」
ジェスター
「一人で出来るもん!」

キュピル
「・・・まぁファンがいれば大丈夫だろう。さっそく支度して船に乗ろう」
ルイ
「はい」






〜〜翌日




==エルティボ


キュピル
「到着だ」
ルイ
「最後に船に乗ったのは・・・嫌な事件の前でしたね」
キュピル
「・・・そうだな」
ルイ
「そういえば・・キュピルさん。ジェロス・・でしたっけ?あの戦いの時
キュピルさんは恐ろしく強かったですけど・・今もその力は残ってるんですか?」
キュピル
「残念な事にその力は消えてしまった。一体なんだったんだろうな?」
ルイ
「霊的な力に違いありません・・・!」
キュピル
「・・・多分違うと思うけどなぁ・・」
ルイ
「そうですか?」

真顔で言われても困る・・・。
船から降りて町のちょっとした外れまで歩くとそこに目的の家があった。
キュピルがノックする。

キュピル
「ジェスターのクエストショップから来たキュピルです」

しばらくすると返事が返ってきた。

「友人Aさんのお知り合いですか・・?」

キュピル
「そうです」

扉が空いた。

盲目のジェスター
「どうぞ、入ってください」
キュピル
「失礼します」
ルイ
「お邪魔します」

狭いが生活感のある家である。
ゆっくりとした足取りで盲目のジェスターが椅子に座りこちらに向き直る。

ルイ
「(何だか目が見えてるような感じがします・・。目に傷もありませんし・・)」
キュピル
「(いや、このジェスターは本当に目が見えていない。)」
ルイ
「(ではどうして私達の居る場所が分るのですか・・?さっきの向き直りとか・・)」
キュピル
「(目が見えなくなると他の感覚が鋭くなるものだよ)」
ルイ
「(そうですか・・)」

キュピル
「話は友人Aから伺っています。・・申し遅れました、キュピルと申します」
ルイ
「ルイです。以後お見知り置きを・・」
盲目のジェスター
「私はファナです。えっと、いきなり要件述べても大丈夫ですか?」
キュピル
「どうぞ仰ってください」
ルイ
「(キュピルさんの敬語ってあんまり聞いた事ないから貴重かも・・?思ったより丁寧・・・)」
キュピル
「(・・・今失礼な事思わなかったか?)」
ルイ
「(何で分ったんですか!?)」


ファナ
「恐らく友人Aさんからもう話は聞いてると思いますけど・・私のご主人様はピンガの大軍から奇襲を受け
この世から去りました・・・。そのご主人様のお墓は万年雪の山荘という場所から少し外れた場所にあります。
毎日ご主人様のお墓参りに行っていたのですが・・極寒の地3と近い場所にあってここ最近モンスターの
活動範囲が広がってしまいご主人様のお墓に近づけない状態なんです・・。生まれつき体の弱い私なので
自分でどうにかすることができず・・・
それでお墓周辺にいるモンスターを全て倒してきてほしいのです」
キュピル
「わかりました。お引き受けしましょう」
ファナ
「ピンガに気をつけてください。突然木の陰から現れて攻撃してきます。奇襲されないように・・・」
キュピル
「大丈夫ですよ。それでは行って参ります」
ファナ
「行ってらs・・げほっ、げほ!」

突然ファナが咳を始めた。

ルイ
「大丈夫ですか!?」
ファナ
「大丈夫です・・・いつもの発作ですから・・」
キュピル
「(そういえば友人Aの話によるとファナは体が弱いんだっけか・・・。
何か喘息の一つ持っていてもおかしくはない・・・)」

ファナの家で少しだけ装備の点検を行い武器を構えると外に出て行った。



ルイ
「ファナさんが少し心配ですね・・」
キュピル
「ああ・・・。不謹慎だがジェスターが健康で嬉しい」
ルイ
「聞かなかった事にします・・・。ところでキュピルさんにとってモンスター討伐は易しい内容ですか?」
キュピル
「まー、敵によりけりだが・・・。余程の事がない限り大丈夫だろう。ルイもいるしね」
ルイ
「ふふふ・・」
キュピル
「ふふふって・・・」

人の通らない雪道を歩いていく。雪は大分深く積もっていて
足が雪に埋もれる。なるべく大きく足をあげて移動する。
粉雪が降っていて白い吐息が出る。

雪か・・・。

そういえばこの近くにエユの家もあったな・・・。

ジェスターを連れて来ていたらもしかするとエユの家にもついでに行ったかもしれない。
時間短縮のために今回は連れてこなくて正解だったかもしれない。

ルイ
「キュピルさん、何か考え事していますか?」
キュピル
「何かは考えているさ」
ルイ
「少しだけ深刻そうな顔をしてましたよ?」
キュピル
「ふーむ・・・」
ルイ
「ふーむって・・・。何を考えていたのですか?」
キュピル
「いやぁ、単純にこの近くにエユの家があってね。もしジェスターを連れて来ていたら
寄り道してたかもしれないって」
ルイ
「この近くにジェスターさんの本当の飼い主の家が・・。少し興味が湧きますね」
キュピル
「誰も出入りしていないからきっと埃だらけだろう。・・・まぁそのエユの家でちょっと酷い目にもあったけど・・」
ルイ
「酷い目・・ですか?」
キュピル
「まだファンすら家に居なかった頃の話だ。エユの事で色々探し回って・・
その時にエユの家に入った。まぁ暗くて何も見えなかったり窒息死しそうになったりジェスターに鉄球落とされたり・・・」
ルイ
「良い思い出がありませんね・・」
キュピル
「他にもあるぞ。エユの家には地下通路があって試行錯誤して通路を歩きまわっていたら
瀕死のジェスターを見つけたり魔法の扉を見つけて外に出たら紛争地帯だったりな」
ルイ
「もはや家とは呼べません・・・。その話の続きが気になります。」
キュピル
「もうルイにも話していい頃だろう。歩きながら続きを話そう」

ルイは初めてキュピルの過去について聞くことが出来た。
一言一句逃さずしっかり聞き耳をたてる。

キュピル
「その後俺は一人じゃこれはもうどうしようも出来ない場所に来たと思ってな・・・。
偶然手に入れた魔法の本を使ってルシカルに援軍を要請した。
届いたかどうか分らなかったからジェスターを連れて一緒に紛争地帯を歩きまわった。
あちこちに火の手があがる森の中を死に物狂いで走っていくと砦を見つけた。
・・・その砦こそエユがいる場所だった。」
ルイ
「どうして分ったんですか?」
キュピル
「エユの家の地下通路に本と手紙があってな・・・。そこから得た情報だった。
その途中で俺とジェスターはまた離れ離れになってしまった。
砦の中で奮戦していくと・・ついにエユを見つけた。奴はかなり高階級の位置にいたよ。軍師だってよ」
ルイ
「頭良いのですね・・」
キュピル
「物凄く頭よかったよ。エユはびっくりしていたさ、まさか俺が目の前に現れるとはってね。
・・・だけどそこから先が辛かったな・・・。・・・あいつと戦う羽目になった。」
ルイ
「・・それは一体何故ですか?」
キュピル
「・・・俺が侵入者だったからだ。砦にいた兵士を片っ端からやっつけちまったからな。
もちろん被害は大きかったが・・。あいつは愛国者だった。
砦一つ潰そうとした俺を倒さなくてはいけなかった。
・・・でもお互い倒す気なんてなかった。わざと力を抜いてどうにかする方法があるはずだと考えた。
その途中エユから見て敵軍が攻めてきた。その事に俺達は全く気付かなかった。
結局気が付いた時には包囲されていた。すると今度は逆になった。
さっきまで俺達は戦ってたのに協力してその敵軍と戦った。
その途中にはぐれたジェスターが現れた。ジェスターはまた瀕死状態だった。
乱戦になった状態でジェスターがエユの所に走っていくものだから当然他から見て敵と見なされた。
ジェスターにも刃が向けられて斬られそうになった瞬間エユはジェスターの身代わりになった。
・・深い傷を負った後、あいつは最後に俺にこう言った。」

エユ
『お前は一体何のために俺のところに現れた、それもジェスターを連れて。
 俺との約束を破って何故こんな危険な所にジェスターを連れてきた。
   もう二度と俺の目の前に現れるな。・・・そしてジェスターを守ってくれ。
        俺の一生の願いだ   』

キュピル
「そういって奴は緊急テレポートして離脱した。」

ちょっとだけ雪が強くなってきた。だけど昔の記憶を辿りながらキュピルが話を続ける。

キュピル
「エユが離脱した後俺とジェスターはもっとピンチに陥っていた。エユの仲間だと思われていたからな。
ここまでか、そう思った時にルシカルが武装した飛行船で援軍に来てくれた。
命からがら俺とジェスターは脱出して戦線から離脱した。」
ルイ
「・・・・」

かける言葉が見つからないルイ。

キュピル
「その後まっすぐ俺とジェスターはナルビクに帰った。
散々自分を責めたな・・・。考えてみればエユはジェスターの事を誰よりも思っている。
そんな大切なジェスターを俺に預けた。それなのに俺はジェスターを危険な場所に連れていった。
・・・その時にジェスターが俺を慰めてくれたんだよな・・・。」

ジェスター
『キュピルは約束なんか破ってないよ。だって私の意思でエユを探しに行ったんだもん。
だから落ち込まないで?』

キュピル
「ルシカルもまた何かあればいつでも協力してやると言ってくれたな・・。
まぁこんな場所に来るのはごめんだとも言っていたが。
・・・その戦争はまだ続いているらしい。本当に終わらないな・・・。
・・・・。恐らくエユは生きている。ただ帰ってこれないだけでな・・。」

しばらく沈黙が続いた後

キュピル
「だけどしばらくすると誰もいない所でジェスターは泣いていた。やっぱり寂しいのは事実だろうし
何よりも悲しかったんだろう。自分の親があんな危険な所に居ることを初めて知ったわけだしな・・・。
一見強がってるように見えるジェスターだけど実際は繊細で傷付き易い。
・・・その日からは何が何でもジェスターを守ろうと自分に誓ったよ。
ジェスターに何かあればエユに申し訳が立たないからな・・・。
これで話は終わりだ。悪かった、重い話をして」
ルイ
「いえ・・。私こそごめんなさい。でもキュピルさんは本当に良い人ですね」
キュピル
「俺が良い人?」
ルイ
「そうですよ。他人の事をここまで深く思っているなんて中々できません。
その強い心に・・憧れます。」
キュピル
「少し照れくさいな。・・・あのファナという盲目のジェスターを見て少しジェスターと似ているなと思ってな・・。
・・・そのファナの飼い主もファナを守るために命を落とした。エユと同じだな。その飼い主に敬意を払おう」
ルイ
「・・そうですね」

そういって二人とも目の前にあるお墓に敬意を払った。
・・・小さな墓石だが今の二人にとってそのお墓が輝いてるように見えた。

キュピル
「・・・モンスターは居ないな」
ルイ
「偶然居ないだけでしょうか・・・?どうしましょう?」
キュピル
「居ないものは狩れない。周囲を少し散策して見つけたら狩ろう。居なかったら一度戻ろう。
雪も強くなっている」
ルイ
「はい」

墓石を中心として周囲100m辺りを歩き回ったがモンスターは一体も見つからず
一度断念してファナの家に戻ることにした。









==ファナの家



ファナ
「モンスターが居なかった・・ですか?」
キュピル
「はい。まだ一度しか足を運んでいないので他に移動したか、それとも偶然居なかっただけかは判断できません。
しかし常駐しているわけではないようです。」
ファナ
「それなら・・お墓参りに行っても大丈夫でしょうか?」
キュピル
「まだ安全とは言い切れません。しかし我々が護衛していれば大丈夫でしょう」
ファナ
「わかりました。それでは明日の朝出発したいと思いますが大丈夫でしょうか?」
キュピル
「お任せください。」
ファナ
「あ・・・。あの。」
キュピル
「はい?」
ファナ
「見ての通り私の家は客室がないのですが・・」
キュピル
「お気づかいなさらずに。どこでも寝れますから」
ルイ
「(出来たら暖かい所が良いです・・・)」
ファナ
「外は寒いのでリビングを自由に使ってください。」
キュピル
「ではお言葉に甘えて使わせていただきます」




==深夜 2:00


ルイ
「zzz・・・zzz・・・」
キュピル
「zzz・・・・・・」


ルイはソファーの上で、キュピルは少し離れた所の床の上で寝ている。

・・・・。

・・・・・・・・・。

キュピル
「・・・?」

不審な気配に気づきキュピルが起き上がる。
なんだ・・?この気配は・・?
ルイは熟睡しているが・・。

・・・・。

・・・・・・・・。

外が少し怪しい。武器を持って一度外に出る。


==外


キュピル
「・・・・?」

外は凄い吹雪だ。そのせいで視界が悪く3m先も見えない。
その時雪に混じって不気味な姿が見えた。

キュピル
「・・・・!!」

巨大な人影。
あれは・・・雪の女王・・・!?
以前こいつとは戦った事があるが記憶が無く実際倒したかどうか微妙な所だ。

キュピル
「まさかここで再び垣間見ようとは・・」

こんな状況で戦ったらどんな被害が出るか分らない。
大人しく身を隠してやり過ごそう。
しばらくジッとしていると雪の女王が遠のき吹雪が止んだ。
・・・どうやら行ってくれたようだ。

こんな深夜に一戦交えずに済んでよかった。



==ファナの家


キュピル
「やれやれ」
ルイ
「ん〜・・・zzz・・・・・」
キュピル
「ルイもまだまだだな」

苦笑しながら再び自分の寝床に入る。・・・本当に言葉の通りだな。床に寝るとは・・。
怪しい気配も消え安心して眠りにつく





==翌日


キュピル
「準備はよろしいですか?」
ファナ
「はい、大丈夫です」

ルイの手に掴まりながら応えるファナ。

キュピル
「先に先導するのでルイと共にゆっくり来てください」
ファナ
「わかりました」

そういってキュピルが走って先に進みルイとファナはゆっくり歩き始めた。
万が一墓石の近くにモンスターが居たら大変なことになるため先に確認する必要がある。

・・・恐らく大丈夫とは思うが・・・。
昨日の事もあって少し嫌な予感がする。






キュピル
「うーむ・・・」

雪が強い。
というよりも吹雪と言うべきか?
さっきまでは粉雪だったのにどうして突然・・・。

まさか近くに雪の女王が?
一瞬そう思ったが気配は全く感じられない。恐らく天候によるものだろう。
あまりの雪の強さに足跡が二分程で消えてしまう。



走り続けて一時間程経過した。
おかしい、辿りつかない。
ルイと一緒に行った時は歩いて一時間だったというのに・・・。
走ってもまだ辿りつかないということは・・・。

まさか・・・迷ったか・・!?





ファナ
「あ・・・そっちじゃなくてこっちです」
ルイ
「あ、ごめんなさい」
ファナ
「多分三叉の場所ですよね?」
ルイ
「良くわかりましたね」
ファナ
「私もよくここで迷いました・・・。」
ルイ
「(キュピルさん大丈夫でしょうか・・・?足跡が見当たらないようですが・・・)」




キュピル
「まずい、完全に迷ってしまったようだ」

既に一時間半が経過した。一旦走るのをやめ元の道を引き返す。
10分ほど引き返して足跡が消えた

キュピル
「この猛吹雪のせいでもう俺の足跡が消えたか・・・・。」

これでは戻る道がわからない。
一体どうすればいいんだ・・・。

キュピル
「くそー、吹雪が強すぎる!」

その時何かが自分の横を通った。
頬から血が出た。
・・・・切り傷!?

また何処からか飛んできた。今度は見切りしっかり回避する。

キュピル
「そこかっ!!」

キュピルが剣を投げ飛ばす。見事に命中したようだ。
すぐに剣を回収しに前に飛び出るとピンガが数体いた。

キュピル
「お前らか・・!」

三体のピンガが同時に矢を飛ばしてきた。全て剣で弾き返すと一気に三体まとめて切り捨てた。
仲間が一瞬でやられたのを見て他のピンガが後ろへ逃げ始めた。

キュピル
「逃がさん!」

ピンガが持っていたクロスボウを手に取って矢をどんどん連射させる。
命中し足止めしたピンガを全て斬る。
全員倒したようだ。

キュピル
「今のは少し危なかったな・・・。・・・・ん、これは?」

ピンガに何か刺さっている。今俺が飛ばした矢ではないようだが・・・。
抜き取ってみると鏡の破片が刺さっていた。

キュピル
「こいつは・・・」

見覚えがある。

キュピル
「間違いない、雪の女王が持っている鏡の破片じゃないか・・・」

この鏡には魔力が宿っていると聞く。
どんな効果があるか分らないが・・・。

キュピル
「・・・こいつだけじゃない。他にも刺さっている」

今倒したピンガ全てに鏡の破片が刺さっていた。
・・・偶然とは思えない。
何か裏があるかもしれない・・・。

その時突然鏡の破片が光りだした。光が一本の線となり
ある方角へ伸び続けて行った。

キュピル
「そこへ行けばいいのか?」

光が伸びて行く方向へ走り続けて行く。





ルイ
「・・・!ファナさん、モンスターです」
ファナ
「やっぱりまだモンスターは残っていたんですね・・・。」
ルイ
「私が倒して行くのではぐれないように気をつけてくださいね」
ファナ
「はい」

ルイが魔法を唱え銃に強化魔法を付加する。
そして手なれた動きで次々と銃を発砲する。
的確な場所を撃ち、撃たれたモンスターはすぐに倒れた。
墓石までの道のりは残りわずかだったため敵を倒しながら進んでいくといつの間にか墓石のある場所に辿りついた。

ルイ
「(おかしいですね・・・。キュピルさんが見当たりません・・・・)
ファナさん。到着しました」
ファナ
「やっと・・・お墓参りが出来ます。」

ファナが墓石に近寄る。
その間もルイは周りに目を光らせる。
・・・その時何か異常な物を見つけた。

ルイ
「あれは・・・・」

木の陰から何かが光った。それが何なのかすぐに気付きファナを抱き寄せて慌てて前に飛び込んだ。
ファナが居た場所に矢尻が飛んで来ていた。

ファナ
「い、一体何が・・?」
ルイ
「ピンガです!」

片手で銃を扱いピンガに攻撃する。急所を撃たれたピンガはそのまま倒れた。
ところがその後ろから他のピンガがぞろぞろと現れてきた。

ファナ
「この感覚・・・もしかしてピンガの群れ・・・!?」
ルイ
「ここは危険です。一度下がりましょう」

ルイがファナの手を引っ張って一度引き返す。
その時突然吹雪が吹いた。

ルイ
「うっ・・!」

一気に寒くなった。そして吹雪の中から雪の女王が現れた。

ルイ
「こ、これは・・・!」
ファナ
「これ・・は・・。まさか・・・。」
ルイ
「ファナさん!私の傍から離れないでくださいね!」

ファナをどこか遠くの場所へ連れて行きたいが吹雪のせいで視界がはっきりせず
安全な場所を見つける事が出来ない。戦うしかないだろう。
しかしファナを守りながら戦うのはルイにとってかなり難しかった。

ルイ
「えいっ!」

トラバチェスとの戦いでよく使ったAKL-47を取り出し雪の女王目がけて乱射する。
しかし謎の魔法陣が浮かび上がり全て弾が弾かれてしまった。
そしてその魔法陣からアイスミサイルが飛んできた。
あれに当たれば凍って動けなくなってしまうだろう・・・。
銃で全てのアイスミサイルを撃ち落とす。

ルイ
「これならどうです!」

ルイがグレネードを投げつける。
防がれる前にグレネードが爆発し熱気を浴びせる。
雪の女王が少し呻(うめ)いた。

ルイ
「今のうちに逃げましょう・・!」

ファナの手を引っ張って逃走を計る。
しかしピンガの群れが行く手を塞ぎ一斉に矢を飛ばしてきた!
吹雪のせいで確認が遅れルイの体に矢が何本か刺さる。

ルイ
「うっ・・!」
ファナ
「ルイさん!・・!げほっ、げほっ!!」

ファナが咳をする。苦しそうにその場で縮こまる。

ルイ
「こ、ここで負けるわけには・・・。私が・・なんとか・・」

しかし手足が自由に動かない。
・・まさか矢に毒が塗られていた・・・!?
ルイが膝をつく。

ルイ
「か、体が・・痺れて・・」

気がつけばすぐ後ろに雪の女王が迫って来ていた。
巨大な杖を振り上げ今まさにトドメをさそうとした瞬間。

キュピル
「はぁっ!!」

キュピルが自分より高さが5倍はある敵にタックルを食らわす。
しかし的確な場所に衝撃を与え雪の女王がその場で転ぶ。
すぐにルイの所まで駆け寄りそして目の前にいるピンガ達を蹴り飛ばす。
踏んだり斬ったり殴ったりもはや剣士というよりはファイターばりの闘いを見せる。

キュピル
「ルイ、はぐれて申し訳なかった。」
ルイ
「あ・・・あー・・・・」

大丈夫と言いたいようだが口もうまく動かす事が出来ず変な声になる。

キュピル
「・・・とにかくここから離脱するぞ。」
ファナ
「ルイさんが・・げほっ!ピンガの矢から毒を貰ったようです・・・!げほっ!!」
キュピル
「大丈夫か!?くそ、こうなったら気合だ!!ファナさん。ルイの背中に乗ってください!」

ファナがルイの背中に乗る。

キュピル
「おりゃー!」

キュピルがルイを背負い二人まとめて一緒に運ぶ。
が、行く手に雪の女王が立ちはだかる。

キュピル
「ちくしょう、邪魔だ!」

再びタックルする。さっきよりも体重があるため威力が増し再び雪の女王が転倒した。
一瞬吹雪が止んだ。その隙に道を確認し坂道を降りて行った。



たった15分でファナの家に到着してしまった。




==ファナの家



キュピル
「危険な目に合わせて大変申し訳ない」

ファナの咳も今は落ち着いている。

ファナ
「私は大丈夫です。それよりルイさんを・・」

ソファーの上に寝かせたルイの様子を見る。
意識ははっきりしているが体が動かないようだ。
ルイの腕を取って脈を測る。・・・・物凄く不規則だ。
時々脈が物凄く早くなったかと思えば突然遅くなったり安定していない。

キュピル
「どこか痛いところはあるか?あるなら瞬き二回。ないなら一回」

ルイが瞬きを1回する。どうやらないようだ。

キュピル
「そうか。それなら単純に神経麻痺させる毒だろう。
そいつにはこれがよく効く」

キュピルが自分の荷物からある袋を取り出す。
その袋の中には粉薬が入っていて水で溶かしてからルイの口に流し込んだ。
飲み込んだのを確認するとキュピルが立ち上がる。

ファナ
「これで治った・・のですか?」
キュピル
「まぁ見て貰うと分ります」

キュピルが剣を抜く。
突然の行為に二人とも驚く。そして剣をルイに向ける。
ルイが瞬きを何度も繰り返す。徐々に剣をルイに近づけさせる。
瞬きの回数が増えて行く。『やめて!』という意思が読み取れる。しかしお構いなしに剣を近づけさせ
ついに腕に剣先が少しだけ当たった。その瞬間

ルイ
「痛いっ!!!!」


ルイが飛びあがり少しの間痛みに悶えた。もちろん普通ならこの程度悶えるほどではない。

キュピル
「あの薬を飲むと感覚が鋭くなるんだ。だから痛みの感覚も鋭くなって
ちょっとした痛みでも激痛に感じられる。麻痺した神経を無理やり目覚めさせるって所かな?」
ルイ
「何するんですかっーーー!!!」
キュピル
「ぐえぇぁっ!!」

ルイがファナの家にあったフライパンで思いっきりキュピルの頭を殴る。
殴ってからルイが我に返った。

ルイ
「はっ・・・。治った・・・。・・・そ、それよりキュピルさん大丈夫ですか!?」
キュピル
「俺の屍を越えて行け・・・」


・・・荒治療とはいえど治ったようだ。
しかし暫くの間意識を失ったとか・・・。



==夜

ルイ
「えーっと・・そのー・・キュピルさん?」
キュピル
「・・・・・・」
ルイ
「怒ってます・・?」
キュピル
「当たり前だ!今まで麻痺で苦しんでる人をあの方法で何人も治療したが
動けるようになったその三秒後に思いっきり殴られたのはルイが初めてだ!」
ルイ
「ごめんなさい・・・でも本当にびっくりしましたし痛かったし殺されるかと思いました・・・」
キュピル
「殺すはずないだろう・・・」

話を聞いたファナが陰でクスクス笑っている。
確かに少し可笑しな話ではある・・・。

キュピル
「ひとまず・・・思ったより厄介な敵に会ってしまったものだ」

昨日の夜に雪の女王を見かけたが・・・あの時はなんともないと思ったが、なんともあった。
しかし雪の女王は本来こんな町の近くに現れない。本当の奥地にひっそりと居て人目の付かない場所にいる・・。
それなのに何故?

これは少し調べる必要がある。


キュピル
「・・・・・・・・」

ファナに直接聞けば早いが・・・
・・・いや、この場合は友人Aに聞いたほうが一番早いか?

キュピル
「ルイ。ちょっとジェスターとファンの様子が心配だからエルティボまで行って電話かけてくる」
ルイ
「わかりました」

嘘を言ってファナの家を出てエルティボまで移動する。
そして適当な店に入ってそこにある公衆電話を手に取る。
宛先は友人Aだ。


友人A
「うぃーっす。友人Aだ」
キュピル
「キュピルだ」
友人A
「おぉ、お前か。どうだ?ファナは元気か?」
キュピル
「今日雪の女王に襲われた。命からがら逃げたが正直危なかった」
友人A
「何だと?ならあの噂は本当だったのか」
キュピル
「おい、あの噂って何だ。まさか俺に隠し事か?」
友人A
「OKOK、包み隠さず話す。実はファナのご主人には少し悪い噂があった」
キュピル
「悪い噂?」
友人A
「雪の女王が大事にしている雪の水晶玉を持っているという話だ」
キュピル
「何だ、その雪の水晶玉というのは?」
友人A
「そのまんま雪の女王が大切にしている道具だ。なんでもそいつは
命よりも大事な水晶玉とか何とか・・・色んな話を聞く。共通してることは命より大事な物ということ」
キュピル
「・・・嫌な予感がする。」
友人A
「QP、ちょっと何があったのか話を聞かせてくれ。」
キュピル
「ああ」

ルイと一緒に墓石を確認しに行った事。夜に雪の女王を発見した事。
先に先導しに走ったが道に迷ったがその時に出会ったピンガの事。
そして雪の女王との戦いの事・・。起こった事を全て話した。

友人A
「間違いないな。雪の女王は間違いなく雪の水晶玉を探している。
・・・ファナのご主人は雪の女王によって殺されたんだ。
だがその時雪の水晶玉は持っていなかった。だからまだ探している。
そしてついに昨日の夜、見つけたはずだ。・・恐らくファナの家にあるはずだ。」
キュピル
「くそー、参ったな。そいつを早く返さないと大変な事になる気がする」
友人A
「しかし何でファナのご主人はそんな危険な代物を持っていたんだ?
手元に置いておく理由が分らないな・・・・」
キュピル
「・・・確かに言われてみるとそうだ。とっとと売るなり何なりしてれば・・・狙われる事はなかったはずだ。
少し調べてみる必要がある」
友人A
「QP。思ったより事が大きくなってるかもしれん。・・・だが、お前ならいけるか?」
キュピル
「あぁ、やれる。初めての依頼だからな。最後までやりとおす。」
友人A
「それでこそ俺が認めた男だ。終わったらマグノリアワインで一杯やろうぜ」
キュピル
「お、マグノリアワインか。てっきりブルーホエールかと思ってた。楽しみだ」

二人とも笑う。

キュピル
「じゃあな」
友人A
「おう」

一度受話器を置くと再び小銭を入れてダイヤルを回す。今度は自宅に電話をかける。

ジェスター
「はーい、皆のアイドルジェスターだよ!」
キュピル
「・・・それ頼むから言わないでくれ。恥ずかしい」
ジェスター
「えー恥ずかしくないよ」
キュピル
「俺が恥ずかしい!!それよりちゃんと良い子にしてるか?」
ジェスター
「私は子供じゃないもん!」

後ろからファンの声が聞こえる。

ファン
「良い子にしてません!キュピルさん!」
ジェスター
「してるもんーー!!」
キュピル
「ジェスター、ちょっとファンに変わってくれないか?」
ジェスター
「うんー」

しばらくするとファンが出てきた。

ファン
「キュピルさん!ジェスターさんがキュピルさんの部屋に入って悪戯してます!」
キュピル
「うわ、それはまずい。早くどうにかしないと・・・って、それは今置いておこう。
少しファンに聞きたい事があるんだ」
ファン
「何ですか?」
キュピル
「雪の水晶玉って知ってるか?」」
ファン
「雪の水晶玉・・知っていますよ。雪の女王が持ってる水晶玉の事です。それがどうかしましたか?」
キュピル
「その雪の水晶玉に何か特別な力が秘められているとかそういう話を知らないか?」
ファン
「こういう話があります。その雪の水晶玉の中には何千万年の間、大気のマナを吸い続けて出来あがった
マナの滴があると言われています。そのマナの滴はどんな病気も治すと言われています」
キュピル
「どんな病気も・・だって?ってことは・・・喘息とかそういうのも治せるのか?」
ファン
「治せるそうですよ。実際に見た事はないのでよくわかりませんが・・・」

これで話の筋が通った。

キュピル
「その雪の水晶玉を割る事は出来るか?」
ファン
「まさかキュピルさん。今手元にあるのですか?」
キュピル
「今手元にはないが依頼者の家にあるかもしれない」
ファン
「それは凄いですね・・・。でも割る事はできないそうです」
キュピル
「できない?」
ファン
「はい、どんな攻撃を受けても決して割れなかったそうです。
これも一節の話にすぎないのですがその雪の水晶玉は雪の女王が死んだ時に割れるそうです。」
キュピル
「・・・つまり中にあるマナの滴を手に入れるには・・雪の女王を倒す必要がある?」
ファン
「そうなります。」
キュピル
「・・・わかった。ありがとう」
ファン
「キュピルさん。キュピルさんの実力は相当な物だと思っています。
しかし無茶な事はやめてください。お願いしますよ」
キュピル
「ああ、大丈夫だ。それじゃ」
ファン
「頑張ってください」

受話器を置いた。

・・・・覚悟を決めた。



依頼を達成するためにも。

ファナを助けるためにも・・・。



何よりもファナの事を誰よりも思っていたそのご主人のために。



俺は雪の女王を倒す。






今、心の中でファナのご主人とエユが重なって見えた。

・・・・。


さぁ、ファナの家に戻ろう。
そして戦闘準備だ。





==ファナの家



キュピル
「ファナさん。」
ファナ
「はい?」
キュピル
「話は全て友人Aから聞きました。・・・雪の水晶玉を持っているそうですね」
ファナ
「・・・!どうしてそれを・・・!?」
キュピル
「それを机の上に置いてくれませんか?」

ファナが困惑した表情を見せつつも近くの箱の中から雪の水晶玉を取り出し机の上に置いた。
雪の水晶玉が白く輝いている。

ルイ
「わぁ・・綺麗・・・」
ファナ
「私は・・数回しか見たことありませんけど・・きっと今も綺麗なんでしょうね・・」
キュピル
「ファナさん。マナの滴というのはご存知ですか?」
ファナ
「・・・はい。私のご主人様から話を聞いた事があります。
どんな病気も治す力を持っているそうですね・・・。
・・・ご主人様は私の病気を治すために・・・この雪の水晶玉を手に入れてきました。
・・・。でもそのために命を落とすことになるなんて・・・。」

ファナは元から全て知っていたのか・・・。

ルイ
「(あの・・。キュピルさん。私には話の筋が読めません・・・)」
キュピル
「(終わったら全て話そう。それまで我慢しててくれ)」

キュピル
「ファナさんのご主人様は誰よりも貴方のことを思っていました。
・・・きっと今も貴方の健康、生存を誰よりも願っているはずです。
・・・・。しかし、この雪の水晶玉の在り処が雪の女王に知られたようです」
ファナ
「え・・・!」
キュピル
「実は昨日の夜・・・。謎の気配に気づき外を見ると・・・雪の女王が居ました。
その時は何もしてこなかったのですが・・・恐らく今日の夜に再び来るはずです。
しかし・・強大な軍隊を連れて襲ってくるはずです」
ファナ
「大変・・・!早く・・早く返さないと!」
キュピル
「・・・その必要はありません。」
ファナ
「え・・・?」
キュピル
「・・・・雪の女王を倒します。」

それだけ言って武器を手に取り外に出ようとした。

ルイ
「キュピルさん!私も行きます!」
キュピル
「ルイはここに居てファナを守ってくれ。外を見ろ」

二人とも外を見る。外は猛吹雪で雪の女王の他にもピンガが沢山居た。

ルイ
「凄い数・・!尚更キュピルさんを一人に出来ません!」
キュピル
「ルイ。」

キュピルがルイの方に向き直る。

キュピル
「・・・絶対に死なない」
ルイ
「・・・約束ですよ?」
キュピル
「ああ」

そういって今度こそ外に出た。







戦いながらキュピルの脳裏に様々な言葉が思い返される。



エユ
『お前は一体何のために俺のところに現れた、それもジェスターを連れて。
 俺との約束を破って何故こんな危険な所にジェスターを連れてきた。
   もう二度と俺の目の前に現れるな。・・・そしてジェスターを守ってくれ。
        俺の一生の願いだ   』





ジェスター
『キュピル・・・。キュピルが死んだら・・・私もうどうすればいいのか分らない・・・・』





シルク
『目、覚ませ!現実から目をそらすな!あれを見ろ!燃える都市を!
 お前はここを守りきれなかった、そのせいで兵士の侵入を許した!』
キュピル
『も、もう俺に生きる資格がない・・!!』
シルク
『違う!逆だ!お前はこれからもっとたくさんの人を守らなければいけない!
お前が死ねばもっと多くの人が死ぬってことを自覚しておけ!』





ファン
『なんか寂しくなりますね』
キュピル
『う〜む、やっぱりちょっと不安に感じる。それにジェスターがいない飯って何か
普段殆どの会話はジェスターが占拠してたから静かだな』
ファン
『そうですね』




キュピル
『・・・・・。ルイ。ルイはジェスターの事どう思ってる?』
ルイ
『え?・・・それは好きとか嫌いとかそういう意味ですか?』
キュピル
『そんなアバウトな物じゃない。全体的に見てジェスターの事をどう思ってるかって』
ルイ
『えーっと・・・。・・・子供でワガママだけど可愛くて・・』

まだまだ色々言いたいだったがキュピルが止めた。

キュピル
『俺ならたった一言で言えるよ』
ルイ
『一言ですか?』
キュピル
『ああ。・・強い・・だよ』







ファナは強い。






その時雪の水晶玉が割れた。

ファナ
「あっ・・・!!」
ルイ
「雪の水晶玉が・・・割れた・・・!!!」

数分してドアが開いた。

キュピル
「言ったろ?・・・雪の女王を倒すって」















==マグノリアワイン


友人A
「結局依頼達成してから数週間も経っちまったな。おごるの遅くなって悪かったな」
キュピル
「奢ってもらってるんだから文句は言わないさ。それで、どうだ。ファナは元気にしてるか?」
友人A
「ああ。目も見えるようになったし体も強くなった。全部お前のおかげだ。俺からも本当に感謝してる」
キュピル
「お前が礼を言うとかやめてくれよ。調子が狂う」
友人A
「いや、しかし本当にお前は強いな」
キュピル
「・・・・俺から言わせてもらえばファナのほうがもっと強いさ」
友人A
「ほぉ、そうか。・・・確かに強いかもな。・・ハッハッハ」
キュピル
「ハハハハ」






ファナ
「・・・ご主人様。本当にありがとうございました・・・」

墓石の前でファナが沢山の花を持って座っている。
そしてその花を墓石の前に置くと自宅に帰っていった・・・。


この寒いエルティボにも春がやってきた。




第一話 終わり



追伸

今回は前々から暖めてきたシーズンなので
今までの中での一番の最高傑作になることを願いたい。

それと途中エユの話がいくつか出てますが実はノベルゲームで完成した部分の話です
キュピル達が砦に侵入した所まで出来あがっていますがそこから先はまだ出来あがっていません・・・。
でもそこで詳しく語ってたりするのでもし見たい方がいれば中途半端の状態ですがリリースします。



第二話


クエストショップの運営を続けているキュピル。
前回、依頼の途中に倒した雪の女王の戦利品を店の中に飾る。

ジェスター
「この杖でかーい!」
ルイ
「ほんと、よく雪の女王の杖を持ちかえりましたよね・・・。」
キュピル
「こういう戦利品を持ちかえると集客率がアップするんだ。実力のある店だという事が分るからね」

キュピルの狙い通り『ジェスターのクエストショップ』の注目度が上がってきている。
一発目の依頼からいきなりこんな戦利品を持ちかえってきたら誰だって注目するだろう。
特に普通のクエストショップ、ギルドと違って依頼した瞬間、すぐ動いてくれるという所が斬新だ。
本来普通のクエストショップやギルドは依頼してもそれを引き受けてくれる冒険者やギルド員が現れない限り
その依頼は達成されない。そのため達成までやたらと時間がかかってしまう。

ところがこのクエストショップは経営者自らが戦ってくれるため達成するまでのスピードが速い。

とはいえどまだ設立したばかりなので客自体は少ない。
今キュピルの元にお客さんが一人来た。

主婦
「ちょっとー。ゼリークリームを5つ集めてきてくれないかしら?お肌の美容に良いんですって!」
キュピル
「は、はい。わかりました。ゼリークリーム五つほどでしたらすぐに集めて参りますので
よければ店でお寛ぎください」
主婦
「あらやだ、嬉しいわねぇ」
キュピル
「(おばちゃんって言いたい・・・)」


結局たったの10分でゼリークリーム五つ集め依頼を達成した。
報酬は500Seed・・・・。


キュピル
「ふぅ」
ルイ
「お疲れ様です」
キュピル
「別に疲れるほどの仕事してないよ」
ルイ
「あの主婦はまた来る気がします・・・。ゼリークリームストックしておいたほうがいいかもしれませんね」
キュピル
「・・・俺もそんな気がする」

その時また誰か入ってきた。この店では客が連続して入るのは少し珍しい。
が、客かと思いきや見知った顔の人だった。

キュピル
「お・・・!」
ミーア
「久しぶりだな、キュピル」
ルイ
「ミーアさん!」
ジェスター
「あ、ミーアだ!!」
ファン
「え、ミーアさんですか?」

ファンが家から店の中へ入ってきた。

キュピル
「ミーア!よく来てくれたな、ハハハ!」
ミーア
「ふっ・・ここがお前の店か・・。立派だな」

久々にあった戦友。
初めてあった時は全く話さなかったが今では会えただけでも非常に嬉しく感じる仲だ。

ルイ
「まさかミーアさんが来るとは思っていませんでした。でもとてもうれしいです」

ルイがにっこり笑う。

ミーア
「私もだ、ルイ。しかしあまり話をしている時間がない。キュピル、手紙だ」
キュピル
「手紙?」

キュピルがミーアから手紙を受け取る。魔法で作られた手紙だった。
その手紙を見た瞬間キュピルの顔が一瞬険しくなったがミーア以外気付かなかったようだ。

キュピル
「・・・そうか、態々遠くからありがとう」
ジェスター
「今見ないのー?」
キュピル
「ミーアがせっかく来てくれてるのに申し訳ないじゃないか」
ジェスター
「確かに」

ジェスターがいかにもって顔をしている。

ミーア
「まだ開店したてでは客も少ないだろう?」
キュピル
「そうだな、まだ少なくて若干苦しいが上手くやっていくさ」
ミーア
「そんなお前に良い物がある」
キュピル
「良い物?」

そういうとミーアがもう一通手紙を差し出した。
アノマラドの国王直々に書かれてる手紙だ・・!!

ミーア
「こっちに来る途中に貰った。私には関係のないことだがお前にとってはいい物のはずだ」
キュピル
「どれどれ・・」

手紙を開くとモンスターの討伐依頼が書かれていた。
どうやら今各地のギルド、クエストショップに討伐以来を出しているらしい。

キュピル
「こんな手紙が配られるとは・・懐かしいな。いつ以来だ?」
ファン
「ゼリーキング討伐以来だと思います。あの時はアクシピターかシャドウ&アッシュのどっちかのギルドが
成し遂げてたような記憶があります」
キュピル
「ふむ・・・して、今回の討伐モンスターとは・・」
ミーア
「ドラグーンだそうだ。」
キュピル
「ドラグーン?ドラグーンってペナインの森5で見るあのドラグーンか?」
ミーア
「そうだ」
ジェスター
「なーんだ、ドラグーンだったらすぐ倒せちゃうじゃん〜」
ミーア
「気をつけた方がいい。そのドラグーンは通常サイズの10倍ほどの大きさだ」
キュピル
「じゅ、十倍・・・。ってことは・・俺の十人分くらいの大きさ・・・か?」
ルイ
「す、凄い大きさですね・・・。そんな大きなモンスター見たことありません!」
ファン
「何故そんな巨大化してしまったのでしょうか・・」
ミーア
「色んな説があるが一番有力なのは何かの力に干渉したということだ。
それがマナなのか魔法なのか私には分らないがな」
ジェスター
「ってことはその力を断ち切っちゃえば元の大きさに戻るってこと〜?」
ファン
「どうでしょうか・・・。それ以上大きくならないだけで大きさはそのままだと思います」
ミーア
「普通に相手していては10秒も持たないだろう」
キュピル
「どうすればいい?」
ミーア
「そこを考えるのがお前の仕事のはずだ。・・・頑張れよ、キュピル」
キュピル
「もちろんだ。この討伐以来を達成すればうちのクエストショップも有名になるだろう。」
ミーア
「そう思って届けたがどうやら正解のようだな。では私はこれで失礼しよう」
ジェスター
「ミーア〜。また遊びにきてね〜」
ミーア
「ふっ・・もちろんだ」

そういってミーアは一瞬で消えた。
前よりも忍術が鋭くなったような気がする。

キュピル
「ドラグーンの討伐依頼か・・・。」
ルイ
「キュピルさんならきっと倒せますよ!」
キュピル
「いや・・実は俺にも苦手分野があるんだ・・」
ルイ
「キュピルさんの苦手分野・・ですか?」
キュピル
「実は俺よりでかくて尚且つ素早い敵が苦手だ・・・。今回はまさにドンピシャだ。
でかいという事は力もあるし射程もある。更に素早いと言う事は相手の有利な間合いを維持することが出きる。
・・・俺の一番苦手としているパターンだ。特にモンスターとなると思考も読みにくいからな」
ファン
「まずは情報を集めることから始まりそうですね」
キュピル
「そうだな。」
ルイ
「それではさっそく情報集めて参ります」

ルイが店の外に出る。

ファン
「では僕も集めてきます」

ファンも店の外に出る。

ジェスター
「どうするー?キュピルー?」
キュピル
「そうだなぁ、ここは情報集めは二人に任せて荷物でもまとめようかね」
ジェスター
「夜逃げ〜」
キュピル
「違う・・・。ペナインの森ということは一度行くと中々戻れないから恐らく長期遠征になるだろう。
何があっても大丈夫なように装備をまとめるってことさ」
ジェスター
「ねぇキュピル。私思ったんだけど今回の依頼はキュピル一人だと危なくないー?」
キュピル
「・・・確かに少し危険と言えば危険だな・・」
ジェスター
「私も行く?えっへん!」
キュピル
「ふーむ・・・どうしようか・・・。」
ジェスター
「あー、いかにも戦力にならなさそうって目してる。私はキュピルより強い!!」
キュピル
「ま、まぁ・・・。うーむ。」
ジェスター
「何で迷ってるの?」
キュピル
「いや、あまり危険な目に合わせたくないから・・・」

ルイと一緒にエルティボへ行きエユの事を話して改めてジェスターの事を再認識してから
ジェスターを守ろうという意思が強く残っている。

ジェスター
「キュピルらしくなーい!私だってやるときはやるもん!!だから行く!」
キュピル
「わかった、でも危険な任務だから何が起きてもいいようにちゃんと自分で荷物をまとめておいて」
ジェスター
「は〜い!」

ジェスターが店から出て家に戻って行った。

キュピル
「(そうだな・・俺もひとまず荷物をまとめるとしよう)」



荷物をまとめ始める事一時間。ファンが帰ってきた。

ファン
「戻りました」
キュピル
「おかえり」
ファン
「キュピルさん。大事な情報を掴みました」
キュピル
「大事な情報?」
ファン
「ギルドの人から聞いたのですがやはりそのドラグーンはマナの力に影響されて巨大化したそうです。
マナの影響を受けてか多彩な魔法を扱うらしく既にギルドの方でも何名か犠牲者が現れたとか・・」
キュピル
「そいつは強そうだな・・・。」
ファン
「何でも近づくだけでやられてしまうとか・・・。」
キュピル
「本当に近づくだけでやられるのであればそいつはかなり難しいな。ルイみたいに俺は遠距離技ないから・・」
ファン
「少し調べてみる必要がありそうです。僕も同行しましょう」
キュピル
「ファン。結構危険な任務だ。大丈夫か?」
ファン
「もっと危険な所を一緒に行ったじゃないですか。大丈夫ですよ」
キュピル
「ハハハっ、確かにそうだったな。それならファン、よろしく頼むよ」
ファン
「はい。」

扉がまた開いた。今度はルイが戻ってきた。

ルイ
「キュピルさ〜ん!いい物持ってきましたよ!!」
キュピル
「良い物?」
ルイ
「じゃーん!ドラグーン発見装置!」
キュピル
「おお、どこでそいつを手に入れてきた」
ルイ
「マキシミンさんから奪ってきました!」
キュピル
「・・・まぁ、あいつなら大丈夫だろう・・」
ルイ
「ギルドの方でこの装置が一個1000Seedで配られてるそうです。どこにそのドラグーンがいるのか
一目でわかるそうですよ。」
ファン
「良い物手に入れてきましたね」

今度は自宅へ続く扉が開いた。ジェスターだ。

ジェスター
「荷物まとめたよ〜」
ファン
「はっ・・僕もまとめないと」

ファンが家に戻る。

ルイ
「ジェスターさんとファンさんも一緒に行くのですか?」
キュピル
「二人とも連れて行くことになった。」
ルイ
「ってことは私は・・・?」
キュピル
「申し訳ないけど誰かは店に居ないといけないから・・・。ルイ、留守番よろしく頼む」
ルイ
「はい・・・」

ルイが少し残念そうに項垂れる。

ファン
「荷物まとめてきました」
ジェスター
「早いね・・・」
キュピル
「よし、さっそく行こう。ペナインの森5の近くでテントを張ってそこを中心に行動しよう。
ドラグーンやっつけてこの店を有名にするぞーー!!」
ファン
「おぉ、意気込んでますね」
ルイ
「キュピルさん、ファイトです!」

三人が店から出る。
外に出るとボロボロのマキシミンがいたがスルーすることにした。

ワープポイントに乗りペナインの森1まで移動した。




==ペナインの森1


ワープした瞬間いきなりたくさんの人に出会った。

キュピル
「おぉ、やはり人が多いな」
ファン
「ここを拠点にしてる人が多いみたいです」
ジェスター
「せっかくだからここを拠点にしないー?ワープポイント近いから夜ご飯の時帰れるよー」
キュピル
「いや、ペナインの森5で張ろう。ここは色々まずい」
ジェスター
「何で?」
キュピル
「夜になればわかるさ。さ、ここからはモンスターがいる。気をつけて行こう」

キュピルが剣を構えジェスターは鉄の棍棒を持つ。
ファンは後ろでいつでも魔法を唱えられるようにスタンバイする。

キュピル
「ペナインの森5は向こうだったな。」




ペナインの森2へ移動しそこから4へ移動する。その最中たくさんの人に出会った。
全員ドラグーン発見装置を片手に持ち必死に捜索しているようだ。

ジェスター
「ねぇキュピルー?全然装置が反応しないよー?」
キュピル
「ってことはここには居ないってことになるな。」
ファン
「発見装置という名前ですが実際には対象となるモンスターの近くに来ないとその装置は役に立ちません。」
ジェスター
「えー。じゃぁ持ってればすぐに見つけられるってわけじゃないんだ・・・」
キュピル
「それでも発見しやすくなる。」

途中街中で見知った人とも出会ったが素通りしペナインの森5目指して移動する。



==ペナイン4


キュピル
「もうちょっとでペナイン5だ。そんなに遠くないから楽だね」
ジェスター
「あれ?」

ジェスターが遠くの一点を見つめている。
あまりにも遠すぎて分らなかったので双眼鏡を手に取り見つめる先を見る。

キュピル
「ん・・・あれは・・。」

巨大な槍を持って戦う筋肉質の男と忍術のような技を使って華麗に戦う少女。
確かあれはシャドウ&アッシュに所属しているシベリンとレイと言った人たちだ。
噂によると相当強いらしい。

キュピル
「あんな強い人たちまで参加してるのか。こいつは負けられないな」
レイ
「ん・・」

向こうがこっちに気付いたらしい。
シベリンに何か合図をすると何処かに行ってしまった。

キュピル
「少し急いだ方がいいかもしれない。」
ファン
「そうですね」

偶然にも二人が向かった先がペナイン5なので二人の後をついていく。


==ペナインの森5

ジェスター
「見失っちゃったよ・・・?」
キュピル
「まぁ・・・問題ないだろう。よし。ここの崖を少し登るか」
ジェスター
「えー、なんで?」
キュピル
「安全だからだよ。ここはモンスターが多いけど崖の上は比較的少ないんだ。ちょっと待っててくれ」

そういうとキュピルが一番最初に登り始めた。

10mぐらいの崖を登りきると上からキュピルがロープを投げてきた。

キュピル
「まずはファンが掴まってくれ」
ファン
「はい」

しっかり自分に巻きつけるとキュピルが引っ張り上げた。
上まで引き上げた後はロープをほどいて崖の下に落とした。

キュピル
「ジェスター。自分に巻きつけるんだ」
ジェスター
「飛べるから良い〜」

そういって髪をパタパタ上下に動かして飛んできた。
ふわりとやってきて着地した。

キュピル
「・・・一人だと飛べるんだったな」
ジェスター
「えっへん!」
ファン
「少し進んだ先にテントを立てておきます」
キュピル
「そうしてくれ」

荷物を降ろしてテントを張る準備をする。
うむ、ここなら安全そうだ。




==数十分後


キュピル
「テント設置完了!」
ファン
「罠も周囲に張っておきました。奇襲に対応できます」
キュピル
「助かる」
ジェスター
「わーい、キャンプ〜」
キュピル
「仕事で来た事を忘れるなよ、ジェスター」

時刻を確認する。・・・昼の三時か。もうちょっとだけ行動する時間があるな。

キュピル
「少し捜索しようと思う。」
ファン
「わかりました。チーム編成はどうしますか?」
キュピル
「そうだな、今回は俺一人で良い。万が一見つけてしまった時は合図を送る」

そういってキュピルが打ち上げ花火を見せる。

キュピル
「二回撃ちあげたら発見の合図だ。見逃さないでくれ」
ファン
「分りました。キュピルさんが創作している間に様々な道具を設置しておきます」
キュピル
「わかった」
ジェスター
「キュピルいってらっしゃいー」
キュピル
「とりゃ!!」

10mある崖から飛び降りる。着地する際に転がり衝撃を和らげる。慣れたものだ。
武器を構えてペナインの森5の深部へと移動する。


==ペナインの森5-1


ここはペナイン4と比べると比較的強い敵が揃っている。
途中ピンキーミラクルだとかいったクマとパンダが合体したような敵に襲われたが
何の事もなく倒す事が出来た。

キュピル
「・・・はっ!」

すぐ真後ろに武道白虎がいた。
気配を隠していたため発見が遅れ振り向いた瞬間に四発の高速パンチを浴びせられる。

キュピル
「いでででっ!」

殴られた衝撃で後ろに転がりすぐに前に移動する。

キュピル
「一閃!」

一撃で武道白虎を切り倒す。
剣を鞘に納める。

キュピル
「あいっててて・・。顔面殴られるとやっぱ痛いな・・・」

ポケットに入れていたドラグーン発見装置を取り出す。反応は何もない。

キュピル
「そういえば小さなドラグーン自体見つからないな・・一体何故だ?」

再び歩きはじめる。その時何か踏んだ。
・・サンドワームだ。首から酸のような物を飛ばしてきた!
が、回避し尻尾を掴んでどこかに投げ飛ばした。

キュピル
「一体どこにいるのだろうか・・・」




探索すること数時間。気がつけば日は暮れ7時になっていた。

キュピル
「しまったな、ちょっと探索しすぎた。戻らないと迷ってしまう」

元来た道を辿る。

その途中で明りを見つけた。
・・・ここは俺達の拠点から大分離れてる場所だ・・。一体だれの拠点だろう?
少し近寄ってみる。
すると巨大な槍が見えた。もしや・・・。

シベリン
「ん?」
レイ
「・・・・・」
キュピル
「あぁ、失礼・・。てっきり何の明りかなっと思ってね」
シベリン
「そうですか。そういえば先程もお会いしましたね?」
キュピル
「そうですな。お二人もドラグーン探しを?」
シベリン
「そうです。最近ちょっと小さな仕事ばっかりやってたから良い機会だと思いましてね。」
キュピル
「ここでは敵同士・・っていうわけだけどドラグーンは見つかりましたかい?」
シベリン
「ハハッ・・ところが全然見つからなくてね・・・。」

渋い顔をするシベリン。
やたらと睨みつけてくるレイ・・・。

キュピル
「同じみたいですな・・。普通のドラグーンも見つからないってのが少し気になりますね・・」
シベリン
「・・・そういえばそうだな。レイ、どう思う?」
レイ
「・・・ボスの所にでもいるんじゃないの?今皆で必死になって探してるから
下手に表に出るとやられちゃうってのを分ってるんじゃないかしら」
キュピル
「なるほど、そういう考えもあるか」

つまり住処そのものを探す必要があるということだろうか。

シベリン
「ここに長時間居ていいのかい?早く帰らないと可愛いジェスターが待ちくたびれちゃうぜ」
キュピル
「やべ、忘れてた。忠告ありがとう」

そういって二人の元から離れて駆け足で戻って行った。
・・・またあの二人とはどこかで会う気がする。




==拠点


キュピル
「ぜぇ・・はぁ・・。」

最後の崖登りが少し堪える。

キュピル
「戻った・・」
ジェスター
「おかえり〜。見てみて〜!」

ジェスターがバッと何か出してきた。美味しそうなクリームシチューだ。

ジェスター
「私が作った!えっへん!」
キュピル
「おぉ、旨そうじゃないか。食べていいか?」
ジェスター
「うんー」
ファン
「僕は後ろで手伝ってましたけどそれは正真正銘ジェスターさんが作ったクリームシチューです」

武器と装備を外してテントに頬り投げスプーンを受け取ってシチューを食べる。
余計な味付けはなくシンプルな味だがまろやかで食べやすく具も多い。

キュピル
「美味しいな」
ジェスター
「私が作ったから当然!えっへん!」

ずっと胸を突き出して勝ち誇ったポーズを取る。

キュピル
「わかったわかった・・・」

焚火の傍で飯盒で炊いた米と持ってきた肉を焼いて食べる。
まるで本当にキャンプのようだ。

冷たい風が吹いた。

ジェスター
「あ、寒い」
キュピル
「もうすぐ春も終わって夏に入ろうとしているのに珍しいと思うか?」
ジェスター
「うん」
ファン
「高地は寒いですよ。」
ジェスター
「ワープしてきたからわかんなーい!」
キュピル
「正論だな、はははっ。空を見てみろ」
ジェスター
「んー?」

ジェスターが空を見上げる。
たくさんの星と月が見える。

ジェスター
「お〜!」
キュピル
「ペナインの森は空気が澄んでいるからナルビクなんかより遥かに綺麗に見えるだろう。」
ファン
「あ、キュピルさん。ジェスター座です・・・」
キュピル
「げっ、ジェスター座?」
ジェスター
「あ!!」

突然ジェスターが踊りだし崇拝しはじめた。
そういえば以前もこんなことがあったような・・・。

ジェスター
「キュピルも崇める!!ほら!」
キュピル
「い、いや俺ジェスターじゃないから!」
ジェスター
「問答無用〜!」
キュピル
「ぎえぇぇぇ」

ジェスターが上に乗って無理やり土下座させられる。
そしてジェスターが疲れて眠るまで背中の上で延々と踊られた・・・。
途中でやけになってその体勢のまま食べ続けた。








その頃・・・



ルイ
「・・・・・」

一人で黙々とご飯を食べるルイ。
考えてみると一人で自宅を過ごすというのは物凄く久しぶり・・っというか夜は初めてである。

ルイ
「何か・・・寂しい・・・です・・」

今頃キュピル達は何をしているのだろうか・・・。
もしや三人でワイワイ楽しくやってたりする?

ルイ
「・・・あー、なんか悔しいです!」

何故か苛立ちを覚えるルイ。
そんなルイに一つの野望が

ルイ
「はっ・・・。誰もいないってことは・・。今なら皆さんの部屋に入れる・・・。
ってことは秘密も分る・・!」

やってはいけないと分りつつも好奇心を抑える事が出来ず
こっそりキュピルの部屋に入る。


==キュピルの部屋


ルイ
「そういえばキュピルさんの部屋全然入った事ない・・・」

扉から入ってすぐ右にベッドがあり目の前に机とパソコンと呼ばれる道具がある。
すぐ左には棚があり色んな石やコレクションが並べられている(主に希少価値の高いアイテム)
その中でも一番気になるのは鍵のかかった机の引き出しである。

ルイ
「失礼して・・・オープン・ザ・ロック!」

ルイが解錠魔法を唱え鍵をあける。この程度のロックだったら簡単に解ける。
ついに見たかった机の中身がわかる・・・。

引き出しを開けると一枚の写真があった。

ルイ
「これは・・」

大きな巨剣を装備している剣士。首には鎖で出来たアクセサリーを装備している。
その隣には若いキュピルがいた。棒きれを持っている。剣に見立てているのだろうか?
そしてキュピルの隣に茶髪の女性がいた。魔法石を握っている。

ルイ
「これは大分古い写真みたいですね・・・。他には・・。ん・・・?」

写真の裏に魔法の手紙が張り付いていた。
そういえば・・今日ミーアからも魔法の手紙を渡されていたような気がする。その手紙とは別物のようだが・・。
封筒を開けて中の手紙を読み始めた。









==翌日、早朝五時



キュピル
「起きろ〜朝だぞー」
ジェスター
「zzz・・・zzz・・」
キュピル
「起きろ〜〜!!」
ジェスター
「むぅ〜・・うるさーい!」

ジェスターが近くに置いてあった缶詰を投げてきたが片手でキャッチする。

ジェスター
「もうちょっと寝る〜・・」
ファン
「おはようございます。早いですね」
キュピル
「明るくなったらすぐに行動。夜は行動できないからね」
ファン
「ジェスターさん。起きてください。キュピルさんが呼んでますよ」
ジェスター
「zzz・・・zzz・・」
ファン
「・・・だめですね。」
キュピル
「やれやれ、それなら七時までちょっと辺りを見てくるよ。もしかしたらドラグーンがいるかもしれないからね」
ファン
「分りました。帰ってきた辺りにちょうど朝ごはんが出来てるようにしておきます」
キュピル
「助かる」


そういって崖から飛び降り再び散策に入った。

昨日と比べてすぐに何かが違う事に気付いた。
少々血なまぐさい。

・・・この血の臭いはまぎれもなく人間の血の臭い。
ははん、読み通り争いが始まったな?

ジェスターはペナインの森1のワープポイントの近くにテントを張ろうと言ったがとんでもない。
一人でもライバルを減らそうととんでもない行動に出る輩が一人はいる。
今回は一人ではなく相当大人数だったようだが・・・。

キュピル
「しかしここまで血の臭いが漂っているのは・・なぜだ?」

ちょうどペナインの森1の方から風が吹いてるとはいえここまではっきりとした臭いになるはずが・・。
少し気になりペナインの森1へ近づくことにした。



歩き続けて三十分。
悲惨な光景を目にした。

キュピル
「うっ・・こいつは酷いな・・」

ワープポイントの近くにあった沢山のテントは皆潰れ死体しか残っていない。
死体を分析する。

キュピル
「・・・切り傷じゃない・・。この傷は・・」

皮膚が溶け、肉も骨も溶かされている傷跡・・・。
そして彼方此方にある打撲の跡。
まちがいない、ドラグーンだ!!

普通のドラグーンはこんな強力な酸を手から飛ばせない。

・・・ということはここに討伐対象のドラグーンが来たんだ。


その時後ろから誰かが来るのが分った。

シベリン
「おい、何なんだこれは・・!?」
レイ
「・・人」
キュピル
「む、お二人でしたか」
シベリン
「君は昨日の・・。・・・失礼、名前はなんでしたっけ?」
キュピル
「キュピルと申します。」
シベリン
「キュピル?・・・ナルビクについ最近クエストショップを立ち上げた若いオーナーって君のことだったのか」
キュピル
「もう名前が広まってるとは嬉しい限り」
シベリン
「雪の女王の杖を持ちかえったら噂になりますって」
レイ
「・・・そんなことより」

レイが話の腰を折る。
確かに、今はそんな話をしている場合ではない。

レイ
「貴方はここの生き残り?」
キュピル
「いや、いま来たばっかりだ」
シベリン
「これは・・酷いな・・・。まだ生きている人がいないか探そう」

三人で生存者がいないか探す。
とにかく手当たり次第声をかけるが既に脈はなく殆どの人が死んでいた。
が、その時。

レイ
「・・生きている」
シベリン
「何だって?」

シベリンとキュピルがレイの元に集まる。
筋肉質の男がまだ息をしていた。

シベリン
「大丈夫ですか!?」
キュピル
「傷の手当てをしよう」

鞄から応急用具を取り出し簡易治療する。
経験上どこを治療したほうがいいのかはすぐわかった。

キュピル
「痛みは続くが死にはしないだろう」
筋肉質の男
「ありがたい・・・・。」
キュピル
「すまないが質問させてくれ。ここで何があった?」
筋肉質の男
「ドラグーンだ・・。巨大なドラグーンが沢山のドラグーンを引き連れて奇襲してきた・・・。
出かかった・・・。俺の10倍はあろう大きさだった・・」
シベリン
「10倍・・・」

ということは18m弱あるってことか?
・・・それはちょっと大げさかもしれないが・・・。

筋肉質の男
「最初に俺が気付いたが・・」
キュピル
「あまり喋るとスタミナを消耗するから要点だけ喋ってもらえば良い。そのドラグーンは何処へ行った」

男は北西の方を示した。・・・グリンツ鉱山の方だ。
試しにドラグーン発見装置をグリンツ鉱山周辺の方へ電波を飛ばす。
・・・反応が出た!!

キュピル
「・・ありがとう。」
シベリン
「この人を一度ナルビクに戻そう。手伝ってくれないか?」
キュピル
「もちろん」

筋肉質の男は二人の肩を借りてワープポイントまで移動しナルビクへ移動した。
後は向こうの人が気付いてすぐ助けてくれるだろう。

キュピル
「さて、親玉がどこにいるか検討がついた」
シベリン
「君は一人で行くのか?」
キュピル
「一度戻って装備を整えてから行く」
シベリン
「ふふっ、それなら俺達は先に行かせて貰うぜ」
レイ
「・・・油断しちゃだめ」
シベリン
「わかってるさ、レイ」

そういって二人は先に行ってしまった。
・・・あの二人は強いからウカウカしていると先を越されるかもしれない。
早く戻らないと!


拠点に戻った時時刻は六時だった。

ファン
「おや?おかえりなさい。思ったより早かったですね。」
キュピル
「ドラグーンの居場所を突き止めた。」
ファン
「本当ですか!?」
キュピル
「だが、ライバルがいてこのままでは先を越されてしまう!すぐに出発する!」
ファン
「ご飯はどうしますか?」
キュピル
「ノンビリ食ってる時間はない!」
ジェスター
「zzz・・・zzz・・・」
キュピル
「・・・・ええい、じれったい!俺一人でい行く!」
ファン
「き、危険です!」
キュピル
「どっちにしろライバルが先に行ってるんだ、実質戦力は三人だ」

そういって武器と防具を装備し適当な食べ物と飲み物を掴んで崖からまた飛び降りた。

ファン
「と、とりあえず早く援護しにいかないと・・」
ジェスター
「私はまだ寝るぅ〜・・・」
ファン
「いい加減にしてください!」





久々に重たい装備を着用した。
愛用の剣と鎧。そして大きな盾。
元々重装タイプだがここ最近軽装が多かった。少し感覚が戻るのに時間がかかったが大丈夫だろう。
持ってきた食べ物を口に頬張りつつ水も飲んで朝食を済ませる。

重い装備を着用しているのにも関わらずいつもと変わらない速度で走る。
慣れた装備は私服と変わらない感覚で行動できる。


グリンツ鉱山に辿りついた。
ドラグーン発見装置を取り出す。

・・・。どうやらグリンツ鉱山の中にいるようだ。
今まで森の中にいると思っていたがまさか鉱山にいたとは・・・。どおりで見つからないはずだ。

キュピル
「さぁ、いくぞ!」

一人しかいないが気合を込めて叫ぶ。
グリンツ鉱山の中に突撃する。



中に入ると既にモンスターの死体で一杯だった。
一部下っ端ドラグーンの死体もあった。・・・あの二人・・強い。
先を越されては全てが水の泡!

ドラグーン発見装置を頼りに奥へ突き進んでいく。
その時行き止まりの場所に来た。

キュピル
「・・・おかしい。装置はこの先にあると反応しているぞ・・」

もしや壁を作った!?
ならば無理やり破壊するまでだ!

刀を腰の鞘に収納し背中に背負っていた大きな重たい盾を左腕につける。
そして体重を乗っけて勢いよく壁を叩きつけた!!

・・・が、ぶつからずそのまま通りぬけてしまった。

キュピル
「うわっ!」

そのまま前に転ぶ。
・・・通れる壁とは・・・。

壁の先に巨大なドラグーンが居た。


キュピル
「ついに現れたな、親玉!」

・・・でかい。確かにあの筋肉質の男の10倍はあるかもしれない・・・。
しかしよくこのドラグーンはこの空間に入れたな。
大きさから考えると通路を通れないはずだが・・・。

そんなことはどうでもいい。

シベリンとレイの姿が見当たらない。
もしや先にこっちが辿りついた?
・・・それとも奴にやられたか?

どちらにせよこいつを倒せば・・・

久々に緊張と闘士が体中を巡る。
左腕には盾、右手にはいつもの剣。
・・・いつでもいける。


キュピル
「行くぞ!」


キュピルが前に飛び出す。
前に飛び出した瞬間周囲に沢山のドラグーンが現れた!
潜伏していたか・・!?

すぐに後ろへバックステップする。
五体のドラグーンがまとめて襲いかかってきた!

キュピル
「はぁっ!!」

五体まとめてタックルで吹き飛ばす。
重量があるため簡単に転ばす事が出来た。
すぐに倒れたドラグーンを踏みつける。
そして周りに居るドラグーンを次々と突き刺した!

雑魚は全て処理した。
・・・が、気がつけば親玉が居ない!
どこへ消えた!?

後ろから気配がした。

慌てて振りかえると親玉ドラグーンがいた。
でかいのに速い!

ドラグーンが巨大な拳で殴ってきた!
すぐさま盾を翳し防御する。だが後ろに転がった。

キュピル
「ぐっ・・!」

一撃が重い。

キュピル
「こいつでも喰らえ!」

スローナイフをいくつか投げつける。
刃には毒が塗られている。
するとドラグーンがフェードアウトしていくかのように消えた。

キュピル
「・・・!?」

今度は上から気配がした。
慌てて上を見上げるとドラグーンが手から酸を吹きだしながらこちらに向かって落ちてきている!
盾を傘にして受け身のポーズを取る。

ドラグーンが盾の上に乗っかった。

キュピル
「うおおぉっ・・!?」


つ、潰される・・・!

その時シューシュー音が鳴っているのに気付いた。
・・・まずい、盾が溶けてきている!!
ぐっ・・跳ね返さないと・・・潰されるか酸に溶かされてしまうか・・どっちにしろ死が待っている!!

キュピル
「ぐううぅぅっ・・・!!」

渾身の力を込めて押し上げようとするがあまりの重さに現状を維持するので精一杯だ。

キュピル
「これで・・どうだ・・・!!!」

剣で思いっきりドラグーンの足を刺す。
一瞬軽くなった!
軽くなった瞬間に剣を振り回しドラグーンの足の指を切断する。
出血状態を起こしドラグーンが一旦その場から離れる。
すぐに盾を頬り投げた。

・・あと一秒遅かったら盾についた酸が腕を溶かしていただろう・・・。

キュピル
「ぜぇ・・ぜぇ・・・」

しかし今ので体力を消耗してしまい息が切れてしまった。
チャンスと見たドラグーンは両手から酸を吹きだしながらキュピルに掴みかかろうとした!
それを横に転がってよけるがドラグーンの膝にぶつかり跳ね飛ばされる。
床に転がったキュピルを蹴りあげ空中にあがったキュピルをドラグーンが掴んだ。

キュピル
「!!!」

まずい、酸で溶かされる!
そう思った瞬間ドラグーンがうめき声をあげた。

シベリンが通れる壁から現れ紅い龍を槍から放ちレイが鋭いクナイをドラグーンに投げ飛ばした!
直撃し痛みでドラグーンが手を離す。間一髪のところで助かる。

キュピル
「助かった・・と、言いたいが・・」

何故このタイミングで二人が現れた?
・・・・まさか意図的に・・遅れたわけではないだろうな・・・。
考えている場合じゃない。早くドラグーン退治に加わらねば。
立ち上がろうとしたがダメージが積み重なっているせいか上手く立ち上がれない。

キュピル
「ぐぅっ・・・」

まさかこんなに強いとは・・。やはり巨大なだけあるか・・・。

シベリン
「はぁっ!!!」

シベリンが槍を振り回しながら一回転しドラグーンを中心に四体の龍を召喚し
龍を天へ昇天させながら爆炎を放った。縦に長いドラグーンにとってこの攻撃はまさに全身にダメージの入る攻撃。
キュピルの一撃と違ってとてつもない大きなダメージを与える。

レイがジャンプしドラグーンの膝、腹、腕、の順番に登って行き頭まで登る

キュピル
「なんてジャンプ力だ・・・!」

ミーアと同等か?いや、それ以上かもしれない。
そしてドラグーンの頭の天辺から火炎瓶をいくつも落としドラグーンを発火させる。
最後に後ろにくるくる回りながら爆弾がくっついたクナイをいくつも投げつける。

ドラグーンが後ろに倒れる。

シベリン
「火傷の効果はてき面だね、レイ」
レイ
「・・まだ終わってない」

ドラグーンが立ち上がり天井を突き破って外に出た。
・・・いや、正確には突き破ったのではなく天井をすり抜けた。
なるほど、ここの天井も通れる壁だったのか。
こうやって外に出てたのか・・・って、そんな事考えてる場合じゃない!!

二人とも来た道を戻りドラグーンを追うようだ。
もうここにはいなかった。

キュピル
「くそっ・・・このままあの二人に倒させてたまるか。」

立ち上がろうとするが体のあちこちが痛み中々立ち上がれない。
あの蹴り飛ばしが効いた・・・。鎧は肉体への攻撃を守ってくれる。
しかし打撃などの『衝撃』や『魔法』は一切防いでくれない。
・・・食らった攻撃の殆どが衝撃。・・・くっ・・・。

ジェスター
「キュピルー!」
ファン
「遅くなりました・・・って、いないですね。ってことは・・もしかして・・」
キュピル
「いや、倒してない。逃げられた」
ファン
「そのドラグーンは今はどこに行きました?」
キュピル
「天井を通りぬけた。ここの天井も通れる壁だった。」
ファン
「それならばすぐに追いましょう。いい道具があります」

そういってファンが鞄から丸いボールを取り出した。

キュピル
「それは何だ?」
ファン
「戻り玉です」

キュピル
「・・・どっかで聞いたことある。」
ジェスター
「それ使うとどうなるのー?」
ファン
「入口まで戻ります。トォー」

そういってファンが地面に戻り玉を叩きつけた。緑色の煙がもくもくと立ちこめ
一瞬気を失ったがすぐに意識が戻り気が付いたらグリンツ鉱山の入り口にいた。

キュピル
「なんと、便利な・・」
ファン
「キュピルさん、回復ポーション渡しておきます。ポーションも持たずに行くのは危険です・・」
キュピル
「・・・確かにファンの言う通りだった」

貰ったポーションをすぐ飲み干す。
・・・よし、これでまだ頑張れる。

ジェスター
「じぃー・・・」
キュピル
「・・・?」

ちょうどシベリンとレイが鉱山から出てきた。
こちらを見るなり困惑している。

キュピル
「おっと、あっちは俺の幻影だ(嘘」
レイ
「・・・まさか影分身・・」
ジェスター
「早くドラグーン倒さないとあの二人に先を越されるよー?」

ジェスターのその発言で全員ハッとし慌ててドラグーン発見装置を取り出し
位置を確認する。まだそんな遠いところに行っていない。
シベリンとレイが崖を登り始める。キュピル一行も崖を登り始めた。
一番最初に登り終えたのはキュピルだった。キュピルがロープを投げファンが掴まり引き上げる。
最後にジェスターが飛んで登ってきた。
ジェスターが登り終えたと同時にシベリンとレイも上り終えた。ほぼ全員同時に進み始めた。

しばらく進んでいくとドラグーンが居た。まだ回復しきっていない。

キュピル
「あいつを倒すのは俺だ!」
レイ
「・・・悪いけどさせない」
キュピル
「!」

突然足が動かなくなった。よくみるとレイが何か呪術の類をかけてきたようだ。

キュピル
「卑怯だぞ!そっちがその気なら俺だって!」

キュピルが刀をブーメランのように投げ飛ばした。レイがそれを回避する。

シベリン
「おい、こっちは足どめしただけだ。実力行使こそ卑怯じゃないのか?」
キュピル
「何だと。やる気か!?」
シベリン
「ドラグーンと決着をつける前にこの人をどうにかしないとな」

そういってシベリンが矛先をキュピルに向ける。
剣と槍が混じり合った。

ファン
「ジェスターさん。僕達はあのドラグーンを倒しましょう」
ジェスター
「よーし、キュピルに良い所見せちゃおうっと〜」
レイ
「・・・させない」

レイがジェスターを狙ってクナイを投げてきた!

ジェスター
「うっ!」
ファン
「ジェスターさん!」

不意打ちだっため回避することが出来ず腕に刺さる。

キュピル
「!!!」
シベリン
「よそ見してる場合じゃないぜ」
キュピル
「うわっ!」

シベリンが巨大な槍で思いっきりキュピルを弾き飛ばす。
後ろにのぞけった瞬間シベリンの巨大な槍が胴体を突いた。
鎧が守ってくれたが衝撃までは守れずそのまま木にぶつかるまで吹っ飛んだ。

キュピル
「ぐっ!強い・・・」

ジェスター
「むぅー!キュピルの仇〜!」

ジェスターがシベリンに向けて棍棒を振り回し始めた。
しかし簡単に弾かれてしまった。

ジェスター
「あっ!」
シベリン
「可愛いお譲さんには手を出すことはできない。早くあのキュピルとか言う男と共に帰りな」
ジェスター
「むぅー!!!」

ジェスターが隠し持っていた折り畳み式のナイフをポケットから取り出しシベリンに向けて突き刺した!
キュピルに言われて危険な所に行くときはナイフを隠し持つよう言われていた。

シベリン
「っ!?」

突然の不意打ちに回避することが出来ずそのまま刺されるシベリン。

レイ
「!、守護者として守る・・」

レイが本気でジェスター目がけて攻撃を仕掛けてきた!

ジェスター
「!!」
キュピル
「何が何でもジェスターは守る!!!」

キュピルが着用していた鎧をレイに投げ飛ばした。まさか鎧が飛んでくるとは予測できず
そのまま鎧にぶつかる。そしてキュピルが高速に前に飛び出しレイにドロップキックを浴びせる。

ジェスター
「キュピルいけいけ〜!」
シベリン
「レイ!おい・・・もう怒ったぞ!!」

目の色を変えてシベリンが襲いかかってきた!
レイもすぐに体勢を立て直しキュピル目がけて襲いかかってきた!

キュピル
「うおっ!?」

何とか攻撃を回避する。
鎧を外した事によって回避力は上がるが一度でも攻撃を貰えば即死亡・・・。
くっ・・・!

防戦一方だったがその時流れが変わった。

ファン
「チェックメイトです」

ファンが強大な魔法を唱え終わり周囲に居る物を全て凍らせる技を発動した。
シベリンとレイの動きが止まり氷結した。そしてドラグーンまでもが凍ってしまった。

キュピル
「助かった!」
ファン
「早くドラグーンを倒しましょう。ドラグーンの巨大な奥歯を持ちかえれば倒した証になるはずです」
キュピル
「奴が凍ってる隙に一撃必殺の技をかける!!」

キュピルが凍ってるドラグーンの頭の上に登っていく。
三十秒かけて天辺まで登ると刀を取り出す。そして剣に毒をぬる。

キュピル
「対超巨大モンスター用の毒だ。さぁ、倒れろ!!」

そういってドラグーンの頭に剣を突き刺した。
次の瞬間氷が割れドラグーンが暴れだした!
暴れだした事によって振り落されそのまま18mの高さから落下していく。

キュピル
「うわっっ!!?」
ジェスター
「んーーー!!」

ジェスターが飛び上がってキュピルを空中でキャッチする。
力の限り髪を上下に動かして浮力を得る。しかし圧倒的にキュピルが重く対して遅くならないうちに
地面に激突した。

キュピル
「いでででっ!!!」
ジェスター
「私は頑張ったもん」
ファン
「ヒールをかけます」

キュピルにヒールをかける。すぐに怪我が治った。

キュピル
「ありがとう。さぁ、早く奥歯を引っこ抜くぞ」
ファン
「手伝います」

巨大なドラグーンの口の中に入る。
ナイフを取り出して歯茎を無理やりえぐり取る。・・・俺は歯医者じゃないので
正しい抜き方は分らない。

キュピル
「よし、抜き取ったぞ!」
ジェスター
「でか〜い!」

50cm程の大きさの奥歯。確かにでかい。
鞄に詰め込む。

キュピル
「あの二人が凍ってる隙に早く脱出しよう」
ファン
「分りました。ウィングをどうぞ」

ファンがウィングを全員に渡す。受け取った瞬間、即使ってナルビクへ帰還した。









==翌日


ナルビク新聞の一面にでかでかと『ジェスターのクエストショップ』の写真が出ている。
窓からジェスターがピースしている・・・。

奥歯を市役所に届けその翌日に莫大な賞金が届いた。
なんとその額500K。

キュピル
「もう建築費用を返せそうだ・・・。」
ルイ
「凄い大金ですね!!」
ジェスター
「お金持ち〜!!」
キュピル
「いや、そうはいかないんだ。・・・この金でまた色々買わないといけないんだ・・・・」
ジェスター
「何買うの?」
キュピル
「まず壊れてしまった盾だ。あれは特注品だったのにな・・・。
次に鎧。投げ飛ばしたらそのままどっか一個なくなっちまった。下半身しかない鎧は役に立たない。
そして拠点用具だ。今日見に行ったら綺麗に全部盗まれていた・・・。」
ファン
「計算しますと・・・」

・・・・・。


ファン
「・・・差額、50Kです」
ジェスター
「ん?買わないといけない道具の値段が50K?」
ファン
「違います。必要な道具、装備全て買いますと残るお金は50Kって事です」
ジェスター
「・・・・・・・・」
キュピル
「・・・・・・」
ルイ
「・・・・・・・」

ジェスター
「何で鎧投げたの!?キュピルのせいでお金がなくなった〜!わあああ!」
キュピル
「ジェスターを守るにはこれしかなかったんだ!というか守られたんだから感謝ぐらいしろって!」
ジェスター
「お金お金お金〜〜!!」
キュピル
「ええい、この金の亡者め!」

二人の取っ組み合いが始まった。
もちろん互いに本気は出していないけれども・・・・。

ジェスター
「わあああああ!」
キュピル
「むぐぐ!!頬をひっぱぁるぬぁぁ!!」

ルイ
「・・・何だか笑っちゃいますね。あんなに苦労されてたのにこれしか残らないなんて」
ファン
「でも手に入れたのはお金だけじゃないですよ」
ルイ
「・・・名誉ですね?」
ファン
「その通りです。きっとすぐにまたお客さんが現れますよ」

するとクエストショップに誰かが入ってきた。
お客さんだ!!

主婦
「ちょっとちょっと〜。またゼリークリームなくなっちゃったのよぉ〜。早く取っ手来てくれないかしらぁ〜?」
ファン
「・・・・・・・」
ルイ
「・・・・・・」
主婦
「あらやだ。喧嘩?なんでお二人は下を向いているのかしら?オホホホ・・・」

ルイ
「なんか・・キュピルさんが可哀相です・・・」
ファン
「僕もそんな気がします・・」


キュピル
「いででで!髪引っ張るなぁぁ!!」
ジェスター
「わあああああ!」






















夜。寝付く前にキュピルが鍵のかかった机の引き出しを開けた。

キュピル
「・・・・?」

・・・鍵がかかってない。
・・・おかしい。しっかり鍵を閉めたはずなんだが・・・・。

手紙を取り出す。
・・・・。しっかり元に戻しているつもりのようだが・・・。

キュピル
「・・・読まれた後がある」







ルイ
「・・・キュピルさん・・・。私は・・・どうすればいいんでしょうか・・・」


続く



第三話

巨大ドラグーンを倒し名声を得たクエストショップ。
・・・しかし?


キュピル
「・・・うーむ・・・」

店内一人で待ち続けるキュピル。今日はまだ誰も客が来ない。
一体何故来ないのだろう?

紙とペンを取り出し客観的に見て冷静に分析する。

キュピル
「まず俺のクエストショップ・・・。」

紙の中心にジェスクエと書く。
次にちょっと遠い所にアクシピター、S&A(シャドウ&アッシュ)を書く。
そしてアクシピター、S&Aに線を繋げる

キュピル
「ギルド・・っと。」

ジェスクエの近くにリカスのクエストショップ・・・略してリカクエでいいか・・・。
リカクエを書く。

キュピル
「リカクエは冒険者が依頼を受注して達成するタイプ・・・。
ギルドはギルド員が受注して依頼を達成する・・・。
どちらもスピードに欠ける・・・しかし・・・」

値段を比べてみる。
・・・ギルドと比べれば圧倒的に低価格。
しかしリカクエと比べると少しだけ高い。

あまり一度安売りするとその後が大変なのはよく知っている。
・・・しかし・・・これではどちらにせよ意味がない。

キュピル
「・・・特別な所で勝負するというのはどうだろうか・・・」

今までみたいに単純に依頼を請けるのではなく
もっと特別な事・・・・。
・・・・。とりあえずアイテム収集や討伐依頼だけではなくもっと幅広い物を受け付けてみよう。

一度外に出て黒板に書かれてる内容を一度消し新たに書き直した。

キュピル
「討伐依頼・アイテム収集・雑用・その他何でも引き受けます。ぜひ一度ご相談ください・・・っと」

まぁ明らかに無理な物は心苦しいが断りを入れねばならない。
犯罪事もお断りだ。

キュピル
「さて・・・」

時計を見ると昼の二時。
六時ぐらいまで店を開けておくかな。







ジェスター
「じぃー・・・・」
ルイ
「キュピルさんずっと席に座ってますね・・・」
ジェスター
「エコノミー症候群にならないの?」
ルイ
「たまに立ち上がってますから大丈夫ですよ」


キュピル
「(・・・・後ろから二人の視線を感じる・・・)」

あえて振り向かないでいるが

ジェスター
「じぃー・・・・」
キュピル
「・・・・・・・」

しかしジェスターの視線が強烈だ。

キュピル
「・・・やれやれ、ジェスター。一体何を見てるんだい?」
ジェスター
「あ、ばれてる」

ジェスターがひょこひょこと歩いて来た。

ジェスター
「その紙何ー?」
キュピル
「これ?まぁ仕事で使ったものだ。特に面白いものじゃない」
ジェスター
「えー」

その時誰かが入ってきた。

キュピル
「ん?」
少年
「おじゃましまーす」
キュピル
「(なんだ、子供か。親とはぐれてしまったのだろうか?)」

少年が机の前まで移動する。身長はジェスターよりも少しだけ小さい。6歳ぐらいだろうか。

ジェスター
「えっへん!」
キュピル
「比べたな?今」
ジェスター
「何でわかったの?」
少年
「おじさん!お願いがあるんだ!」
キュピル
「お兄さんと呼んでくれ。お願いとは?」
少年
「おじさん!このキーホルダーの謎を解いてほしいんだ!」
キュピル
「・・・・・はぁ、キーホルダーの謎?」
少年
「うん!」
キュピル
「・・・一見普通のキーホルダーにしか見えないが・・・」

仕掛けは特になさそうなキーホルダーだ。
だがよくみると意外と貴重な素材で作られた物だということがわかった。
キーホルダー自体が鍵の形をしていて真ん中に魔法石が埋め込まれている。

キュピル
「・・・こんな貴重なキーホルダー初めてみる」
少年
「そのキーホルダー一週間預けるからそれまでに謎解いてね!!」
キュピル
「お、おい!」

そういって少年は外に出て行ってしまった。

キュピル
「・・・・キーホルダーの謎・・・」
ジェスター
「今の何だったの?」
キュピル
「恐らく依頼・・・だろうか・・」

しかしまともな交渉せず、キーホルダーを押しつけられた形になってしまった。

キュピル
「うーむ」

キーホルダーを眺める・・・・そして魔法石に触れてみる。
触れた瞬間急に時空が歪みだした!!

キュピル
「!?」

強風が吹き体が宙に浮き、そしてそのまま何処かに飛ばされていく

キュピル
「うわっ!!!」



ジェスター
「あれ?キュピル何処行ったの?」

ちょっとだけ目を離した隙にキュピルがいなくなっていた。
机の上にはキーホルダーが置いてあった。







==???



「・・き・・・さい」

・・・・。

「起き・・・てく・・・い」


・・・・・・。

「起きてください」

キュピル
「はっ・・・」

意識がはっきりとしすぐに起き上がる。
ここは・・・どこだ?
辺りを見回すと森の中に居た。
雑草が伸びていて手入れされている感じはしない。どうやら道なき森の中のようだが・・。


「気がつきましたか?」

キュピル
「気がついた・・・が、何処に居る?声しか聞こえない。」

「私はあの少年の母親です」

キュピル
「少年の母親・・?その少年ってのは俺にキーホルダーを渡してきた少年の事か?」

「そうです。私はあの子を産んですぐに病気で亡くなりました。
魔術師だった私はまだ幼いあの子を守るために私の魂を魔法石に宿らせどんな時でもあの子と一緒に居ました。
あの子が危ない目に遭っても・・・私の小さな魔法であの子を助けてあげていました。
ですが・・・あと少しであの子を助けてあげる事が出来なくなります」

キュピル
「助けてあげる事が出来なくなる?それは一体どういうことだ?」

「私の魔法は完璧ではないのです。あの子が産まれてから5年と11ヶ月が経ちました。
あと三日で生後六年を迎えます。しかし六年を迎えるその日に・・私の魔法は効力を失います。」

キュピル
「・・・それはつまりあの少年をもう守ってやれないということか?」

「その通りです。ですがいつまでもあの子を守るわけにはいきません。
いつかは自分の力で物事を解決しなければいけません。あの子を成長させるためにも私は
生後六年を迎えたら潔くこの世から消えようと思っています。
・・・ですが消える前にあの子に・・ある物を渡したいのです」

キュピル
「ある物・・・?」

「私がいつまでも見守っているという証の物・・・・。その子に私の指輪を渡したいのです。
その指輪はその子が産まれた時に夫が買ってきたものです。
薬指には結婚指輪・・・そして小指に夫が買ってきた指輪を嵌めていました。
この小指につけている指輪を渡したいのです。その指輪の名前は記憶の指輪・・。」

キュピル
「わかった。このぐらいの事なら協力しよう。」

「ですが問題があります」

キュピル
「問題?」

「私は肉体を持たない幽霊です。当然指輪など持っていません。」

キュピル
「それならどうすればいい?」

「この魔道石の中は私の記憶と創造で作られた世界です。
・・・二年程まではこの世界をコントロール出来たのですが徐々に私の力が薄れて行くにつれ
魔法石の力をコントロールすることが出来なくなり未知の世界となっています。
ですがどこかに・・・記憶の指輪があるはずです。それがどこにあるかまでは分らないのですが・・・」

キュピル
「・・・ちょっと大変そうだけど依頼として引き受けよう」

「報酬はちゃんと用意しております。・・・あの子に指輪を届けてやってください」

キュピル
「任せろ」

グッとポーズを取る。
何故か童心に返った気がする

「・・・その前に一つだけ警告があります」

キュピル
「・・・警告?」

「私はあと三日でこの世界から消えてなくなります。
完全にコントロールを失ったこの世界は恐らく崩壊・・・消えてなくなるでしょう。
崩壊する直前に貴方を元の世界へ御戻ししますが・・・
三日経つ前に指輪を見つけてきてください」

キュピル
「分りました。」

「手始めに近くの村から探してみると良いでしょう。
そこは私が今コントロールできる唯一の村です。
・・・お願いします」


そういって声は聞こえなくなった。
キュピルを中心に魔法の光が現れ、その近くの村とやらに飛ばされた。







==小さな村



キュピル
「・・ここが唯一コントロール出来ているという村か?」

非常に小さな村だ。民家がいくつか存在しているだけで店というものは見当たらない。

キュピル
「・・・コントロール出来ていない場所は襲われる可能性がある。
武器も道具もないから何とかここで装備を整えておきたいが・・・。」

その時民家から誰かが出てきた。

青年
「ん・・・。外人か?見ない人が来たな」
キュピル
「ちょっと訳があってこの村に来た。
すまないけど記憶の指輪について何か知らないか?」
青年
「記憶の指輪?あぁ、知っているよ。この世界を作った指輪らしいな」
キュピル
「この世界を作った指輪?」
青年
「この世界は作られた世界なんだってな。俺はよくわからねーけどな。」
キュピル
「(確かのあの母親が作った世界だからな・・。ここの世界の人たちはそのことについて知っている?)
その指輪がどこにあるか分るか?」
青年
「昔はこの村にあったんだ。だが今はない」
キュピル
「どうして?」
青年
「四年ぐらい前からこの村にモンスターが襲うようになった。その時指輪をはめていた死体がなくなったらしいな」
キュピル
「指輪をはめていた死体・・・」

少し聞いてゾッとする。

青年
「まぁそのモンスターの住処にでも行けば何か分るんじゃないのか?」
キュピル
「わかった、ありがとう」

その時地響きがした。

キュピル
「うおっ」
青年
「また来たみたいだ」
キュピル
「また来た?モンスターか?」
青年
「そうだ。皆自分の家の地下に洞窟を掘ってそこに逃げ込む。お前も早く来いよ。食われるぞ」

武器がない今。倒せるかどうか微妙な所だ。
ここは大人しく隠れよう。

キュピル
「助かる」

青年に引っ張られて民家に入る。そして棚を動かして錆びた鉄の板を開ける。
洞窟は広く他の民家の所とも繋がっているようだ。
既に何人かの住人が避難していた。

お爺さん
「む・・。見ない奴じゃの」
青年
「外人。記憶の指輪を探してるんだとさ」
お爺さん
「記憶の指輪となぁ・・。昔はこの村にあったんじゃがのぉ。」

その時若い女性の人が慌てて駆け込んできた。

若い女性
「う、うわあぁ!」

若い女性と一緒に何体かのモンスターが入りこんできた!
それを見るなり近くにいた住人がパニック状態に陥った。

青年
「モンスターが入りこんだ!!もうだめだ!!」
キュピル
「おい、落ちつけ。諦めるのは早い。ここは俺に任せろ」

そういってファイティングポーズを取る。
見た目は巨大な芋虫ってところか・・・。
すぐに若い女性の近くに居た巨大な芋虫を蹴り飛ばす。
サッカーボールのように弾き飛び壁にぶつかった。

キュピル
「早く向こうの隅に隠れて」
若い女性
「あ、ありがとう!」

住人を隅に待機させる。
洞窟から地上へと続く板が開きっぱなしになっている。あれを閉じないと・・・。
するとまたモンスターが何体か入ってきた!
こっちを見るなりいきなり糸をはきだしてきた!

キュピル
「ぬっ!」

腕に絡みついた。そのまま凄い力で引っ張られていく。

青年
「おい、踏ん張れ!そのまま引きずられると食われるぞ!」
キュピル
「そいつはまずい」

一度わざと転がり踏ん張りやすい体勢に持っていく。両足で踏ん張り腕と手で糸を逆に引っ張り始める。
芋虫が今度は徐々に引っ張られてきた。

キュピル
「おらぁっ!」

一度引き寄せて芋虫を宙に浮かせそのままグルッとフル回して壁に叩きつける。
それと同時に糸が切れた。

老人
「なんと強い・・・」

すると今度は三体の巨大な蚊みたいな敵が現れた。うわ、きもい。
羽音を聞くだけで痒くなる。
鋭い針で突き刺してきた!

キュピル
「ええい、叩き折ってやる!」

根元を素手で掴むと思いっきり肘でベキッと折る。
そして折った針をそのまま武器として使う。
槍のように扱い次々と他のモンスターを刺していく。

老人
「・・・お主よ。一つワシ等の願いを聞いてくれんかね?」
キュピル
「こんな時に一体何です?」
老人
「恐らく地上に親玉がいるはずじゃ。・・・そいつを倒してきてはくれぬか?
もし倒してくれるのであれば記憶の指輪の詳細な在り処を教えよう」

この程度の敵なら素手でも戦えるだろう。

キュピル
「わかりました。」

そういって地上に転がり出た。


==外

外に出ると沢山のモンスターがいた。
さっきの巨大な芋虫に巨大な蚊・・・。
そして人間と狼を合体させたモンスター、人狼がちらほら・・・。
少し人狼は素手では苦労するかもしれない。

キュピル
「全員かかってこい!」

大きな声をあげて注目を集める。
真っ先に人狼が襲いかかってきた。

キュピル
「うおりゃっ!」

一段攻撃の回し蹴りを浴びせる。
顔面にヒットし一撃で倒す。

キュピル
「さぁ、どんどんいくぞ!」

重くそして鋭いパンチを次々と色んなモンスターに浴びせて行く。
囲まれた時はモンスター一体を掴んで振り回し周囲の敵を巻き込んでいく。
何体もの敵をまとめて相手していると変わったモンスターがいるのに気がついた。
・・・ドロドロしていて粘膜質で出来ているモンスター・・・。これは・・スライムか?

キュピル
「スライム・・・初めてみるな」

本でしか見た事ない。
とにかく倒せば指輪のありかが分る。
素手で殴ろうとした瞬間後ろから大きな声が聞こえた。

若い女性
「素手で攻撃しちゃだめ!!飲み込まれて死ぬよ!!」

ピタッと拳が止まる。
・・・確かにこんな敵に素手で攻撃した所で暖簾に腕押し・・・。

キュピル
「ありがとう、危うく変な行動を取る所だった」

こういう敵にはこういう攻撃が一番。
地面にあった砂を握り振りかける。
砂を取り込み水分が失われていくスライム。
ドンドン砂をかけていくと結局スライムは何もしないでそのまま水分を失い溶けて消えて行った。


キュピル
「やれやれ、これで全部か?」
青年
「おぉぉ!やったぞ!モンスターが帰っていくぞ!」
老人
「近頃稀に見る勇気ある若者じゃの・・」
青年
「俺だってその気になりゃこのくらい・・・」
若い女性
「じゃぁ、やってみせれば?」
青年
「・・・明日から本気出す」

キュピル
「さて、全員無事のようだし・・・。お爺さん。その指輪の在り処を聞かせてくれませんか?」
老人
「よかろう・・・。」

老人が近くの岩の上に座る。

老人
「あれは四年前のことだ・・・。あの頃はまだ村は大きかった。
色んな店があり人口も100人を超え・・・。人々は活気に溢れていたわい・・・。
それも全部記憶の指輪のおかげじゃった。
あの指輪には不思議な力が宿されていてな・・・。毎年豊作じゃった。
・・・ところが突然モンスターが襲ってきた。
力を持たぬワシ等は逃げまとった・・。その時に記憶の指輪を失った・・・。

指輪がなくなってからモンスターの襲撃は一気に増えた。
多い時は日に三回もきたの・・・。
この現状に耐えられなくなった村人は他の場所へ逃げたか・・・あるいは死んだか・・・。
こうして数人しか居ない村になってしまった。
恐らくその指輪はまだモンスターが持っておるじゃろう・・・」

キュピル
「ふむ・・・・」
老人
「・・・青年よ。その指輪を何故探しておるのだ・・?」
キュピル
「実はある人からその指輪を探すように言われてきているのです」
老人
「・・・お主さえよければ・・。記憶の指輪を見つけたら返してくれんかのぉ・・・?」

これは困った。返してあげたいのは山々だが返してしまったらあの少年に指輪を渡す事が
出来なくなる。・・・・どうしたものか・・・。

・・・・。

返すにしろ返さないにしろまずは指輪を取り戻してからだ。

キュピル
「・・・ひとまず指輪を先に手に入れてから考えます」
老人
「うむ・・・そうじゃの。」

老人が立ち上がる。

老人
「彼に武器と装備を分け与えなさい。そして誰か一人彼についていきなさい。そして彼を助けるのじゃ・・」
若い女性
「私が行きます」
キュピル
「いや、一人で行ける」
若い女性
「村を救えるかもしれないこのチャンスを黙って見ているわけにはいきませんから。
貴方がダメと行っても私は勝手に行きますよ」
青年
「(勇気あんなー・・・)」
キュピル
「・・・そうか。わかった」

一人の男が剣を渡してきた。
・・・ボロボロに錆びている。
他の女性がキュピルに食べ物と水を分け与えた。
恐らく今食べ物と飲み物は貴重なはずなのに・・・。

老人
「・・・こんなものしかないが・・・どうかよろしく頼む」
キュピル
「分りました。・・それではさっそく行ってきます」

そういって若い女性と共に村を後にした。




キュピル
「方角は向こうでいいのか?」
若い女性
「向こうにモンスターの巣窟があるの。きっとそこに指輪があるはずよ」
キュピル
「わかった。・・・ただ巣窟に入る前に一つだけいいか?」
若い女性
「何かしら?」
キュピル
「名前は何て言う?」
若い女性
「へリス。」
キュピル
「キュピルだ。よろしく頼む」
ヘリス
「こちらこそ」

握手を交わす。

キュピル
「ちょっとだけ待ってくれるか?」
ヘリス
「なにかしら?」
キュピル
「この錆びた剣を少しだけ手入れする。このままでは斬れそうもない」

そういって剣を取り出し近くにあった巨大な岩で砥ぎ始めた。

ヘリス
「凄い、何でもできるのね」
キュピル
「これは砥いでるというか錆を無理やり落としてるだけだな」

実際に砥ぐにはちゃんとした砥石が必要だ。
これはあくまでも応急処置。

ヘリス
「もっと貴方みたいに勇気のある人がうちの村に一杯いればなぁー・・。
アックス・・・なんて臆病なの!」
キュピル
「・・・あの青年のことか?」
ヘリス
「そう。もう嫌になる」
キュピル
「いつまでも逃げるわけにはいかないよな」

適当に錆を落として剣を再び鞘に納め歩きはじめる。

ヘリス
「貴方は何処から来たの?」
キュピル
「ナルビク」
ヘリス
「ナルビク?聞かないね・・・」
キュピル
「そうだろうなぁ。」
ヘリス
「親は?家族はいるの?」
キュピル
「親はいない。家族は・・・」

ジェスターとルイとファンが出てきた。
・・・はたして家族と言えるだろうか?

何年もずっと考え続けているのに・・・。
いまだに結論が出ない。

キュピル
「・・・家族は・・・」
ヘリス
「いないのね」

思わず頷いてしまった。

ヘリス
「どうやって生きてきたの?」
キュピル
「君は色んな事を知りたがるんだな」
ヘリス
「強い人は初めてみたから」
キュピル
「俺は小さいころから色んな所で戦ってきて運よく生きのびてきた。ただそれだけのことだ」
ヘリス
「ふーん、それで強くなるんだ?」
キュピル
「実際にはきちんとした修行は積まないと強くならない。ただ勇気は修行じゃ身につかないけどな」
ヘリス
「アックス・・・。ねぇ、好きな人はいるの?」
キュピル
「・・・そこまで聞いちゃうか?」
ヘリス
「別にいいでしょ?」
キュピル
「俺が凄い小さかった頃一目惚れぐらいはしたかな。しただけで一度も会話しなかったけど」
ヘリス
「今は?いないの?」
キュピル
「さぁーなー・・。どうだろうね」

少し歩く速度を速める。あんまりこれ以上聞かれたくない。
速度をあげるとヘリスは走りながらなおも聞いて来た。

ヘリス
「あ、いるんでしょ?どんな人?美人?やさしいの?」
キュピル
「うるさいなー!俺から好きになるわけないだろう!」
ヘリス
「別に男なんだからそっちから好きになってもいいじゃない。ってか、いるんだ。ふーん」
キュピル
「何か居る事前提になってるがいないからな!仮に誰かが俺に告白をしてきたとしても
俺は断ることしかできない!」
ヘリス
「何で?何で断ることしかできないの?つよがっちゃってるだけ?ん?」
キュピル
「あー、くそ。置いてく!!」
ヘリス
「やーいやーい」

ヘリスがからかいながら走ってくる。
全力で走って振り切ろうとしているが足が速く振りきれない。
30分ほど走ってもついてくるので振りきることを断念する。

キュピル
「思ったより体力あるな・・・」
ヘリス
「逃げ切る体力を持たなかった人は皆食べられたか他の村に逃げたから・・」
キュピル
「・・・とにかくお前さんの村を早く救うためにもモンスターの住処へ行こう」
ヘリス
「はい」

田舎道を抜けると乾燥した大地へやってきた。
歩いていた道が乾いた土へと変わる。・・・砂漠だ。

キュピル
「ここまで急激に景色が変わるものか・・・」
ヘリス
「植物は全部モンスターが食べた。・・・明日にはさっきあった草木もなくなってる」
キュピル
「俺が今居る世界ではこんなにモンスターは凶悪ではない。・・・・ここは恐ろしい世界だ」
ヘリス
「恐ろしい?確かにそうかもしれないね。・・・でも思う事があるの」
キュピル
「思う事?」
ヘリス
「そう。もし私達がモンスターと同じ力を手にしていたとすれば・・・。
きっとモンスターと同じ事をしているかもしれないって。
木を切り倒し・・・自分達にとって都合のいい事をして・・・。
無力な人たちを傷つけるんじゃないのかなって。」
キュピル
「・・・思う所はある。」
ヘリス
「貴方もそう思うの?」
キュピル
「・・・少しな。具体的には言わないが」

そこからお互い無言になりひたすら歩き続けた。
しばらくすると大きな穴が現れた。

ヘリス
「ここよ」
キュピル
「随分と大きな穴だ」

縦に伸びていて降りるというよりは飛び降りるに近い

ヘリス
「・・・行くの?」
キュピル
「この高さから落ちたら流石にやばいかもしれないな・・・。この下には何がある?」
ヘリス
「そのまま、モンスター達が一杯いるわ。・・・村を襲撃したモンスター達がね」
キュピル
「・・。よし、行くか」

キュピルが穴から飛び降りた。さっき自分でやばいかもしれないと言っておきながら
結局無謀にも自ら飛び降りた。慌ててヘリスが穴を覗き見る。

ヘリス
「キュピル!」

やまびこのように声が返ってくる。
・・・・。返事が無い。
・・・・・・・。

流石に飛び降りる勇気が無くそのまま立ち往生するしかなかった。







キュピル
「くっ・・」

壁に剣を突き刺しながらゆっくり減速していく。
100mぐらい降りて行くと異変が起きた
壁から無数の触手が大量に生えていてこちらを見つけなり触手が伸びて捕食しようとしてきた!
壁を蹴飛ばして大きくジャンプする。
伸びてきた触手を空中で斬る。錆びていても何とか斬れるようだ。

ゆっくり空中で回りながら触手を斬っていく。が、途中で壁に再びぶつかり大きく弾き飛ばされる。
体勢が崩れた隙に別の新しい触手がキュピルを捕まえた。

キュピル
「やべ・・」

そのまま触手が入っていた穴に引きずり込まれてしまった。
狭い穴の中には大きな口の形をした気色悪い生物がいた。
完全に引きずり込まれる前に剣を横に持って穴にひっかけつっかえ棒の役割をさせる。
しかし触手の力が強くこのままでは剣が折れてしまいそうだ。

キュピル
「やばい・・・このままでは・・・」

その時外から一本の触手が伸びてきた。・・・もしやこいつ等・・・頭悪い?
このままではどの道食べられてしまう。外から伸びてきた触手にあえて掴まる。
すると引き寄せようと強く引っ張ってきた!!
足に絡まっている触手が逃がすまいと必死に引っ張る。手足が痛い。
しかしこれで右手が空いた。一瞬で二つの触手を錆びた剣で斬る。
触手が千切れ再び深い穴の底へと落ちて行った。

どんどん落ちて行くにつれて触手の量が増えてきた。
もう掴まるまいと必死に空中で斬っていく。
すると底が見えてきた。激突する前にもう一度壁に剣を突き刺して減速する。
ギリギリのところまで減速し地面にぶつかる直前に壁から離れて転がって着地する。
衝撃を和らげ何とか着地に成功した。

・・・どのくらい落ちただろうか?5Kmぐらいは落ちた気がするが・・・。
人間が入ってきた事に気付いたのがやや大きめな穴からたくさんの芋虫が現れた。
こいつは村を襲ってきた奴だ!

キュピル
「おらおらー!どきやがれー!」

斬ったり千切ったり投げ飛ばしたり蹴り飛ばしたりとファイターばりの戦いを見せる。
敵を薙ぎ払いながら穴の中へどんどん入っていく。
すると途中に沼のような所に現れた。
・・・地下水だろうか?いや、それにしては大分ぬるぬるしている・・・。

キュピル
「とにかく前進あるのみ。戦いに快適さは必要ない」

ドロドロする沼の中を突っ切る。
・・・すると天井から蜂が大量に現れた。よくみると天井にハチの巣が一杯あった。
これは気色悪い。
攻撃的な蜂はこちらを見つけるなりいきなり攻撃してきた!
刺される前に沼の中を潜り攻撃を回避する。
目をあけると何か異常がおきそうなので目を瞑ったまま泳いでいく。
・・・?何か流れがあるような・・・。

いや、気のせいじゃない。まちがいなくこの沼に流れが発生している!
酸素を吸いこもうと水面に上がった瞬間蜂に刺された。痛い!
すぐに酸素を肺一杯に吸い込んで潜る。
が、急激に沼の流れが強くなりそのまま流されていくと突然地面に激突した。

キュピル
「いでっ・・」

汚い水が頭上から落ちてくる。
・・・どうやら底が抜けて水のない所に落ちたようだが・・・。

キュピル
「ここは?」

大分調子に乗って奥地まできたが・・・。
・・・・。

ドン

キュピル
「何だ?」

ドン・・・ドン・・・

徐々に音が近づいてくる。
突然目の前の壁が壊れ巨大なトカゲのような敵が現れた!
ドラグーンとキングマンティスを足して二で割ったような見た目だ。
手の変わりに鎌があって二足歩行していてそして長く鋭い尻尾が生えている。
しかも結構大きい。3mぐらいか?

錆びた剣を抜刀して戦闘態勢に入る。
その時敵が作った穴の向こうに祭壇のようなものがみえた。
・・・もしや指輪か?

そんな事を考えていたら巨大なトカゲがその鎌で先制攻撃してきた!
間一髪のところを避ける。鎌が地面に突き刺さった。
敵が鎌を引っこ抜くと鎌が刺さった地面の割れ目から毒々しい色の水が溢れてきた。

キュピル
「うっ、酷い臭いだ」

熱気が感じられないが蒸気が出ている。これは猛毒の可能性が高い。
端の坂道のところへ毒水が流れて行く。
なるべく鎌を地面に振り下ろさない方がいいかもしれない。
接近戦に持ち込む。

すぐに敵の細い足折ろうと思いっきり踵で蹴り飛ばす。
しかし敵の足は硬く折ることはできなかった。
すると今度は敵の鋭い足先で思いっきり蹴りあげてきた!
これも間一髪のところで避けるが左腕に足先がかすった。
服が斬れ腕に切り傷が出来る。

キュピル
「鋭い・・・」

錆びた剣で敵の足を思いっきり叩いた。
あの堅さではこの剣で斬ることはできないだろう・・・いっそ鉄パイプでも扱っているような振り方をする。
ガンッと硬い物にぶつかる音が響いた。
こんなカマキリのように細い足のくせにこんなにも硬いのか・・まるで鉄で出来ているみたいだ。

すると敵がクルッと一回転した。一瞬何をしているのかわからなかったが真横から長い尻尾がやってきて
反応が遅れそのままぶつかり壁に吹き飛ばされる。
運の悪いことに毒沼が流れている場所へ吹き飛びそのまま沼に水没した。

キュピル
「(あ、熱い!!!)」

皮膚が解けるような感覚を味わい慌てて飛び出した。
間違いない。強烈な毒水だ!!
全身浅い火傷を負う。地面の上に狂ったように転がり毒水の水分を地面に吸わせる。
・・・大丈夫か?これで。

しかしそんなことをしていると再び巨大トカゲがその鎌で突き刺そうと振りおろしてきた!
横に転がって避けるが再び地面から毒水があふれ出た。
そして端の方へ流れじわじわと毒水が貯まり始めた。
・・・あまり戦いを長引かせると足場が全て毒水になってしまうかもしれない。
そうなる前に早く決着をつかねば。
・・・しかし武器があまりにも貧弱でこれでは傷一つ与える事ができない・・・。
その時ふとある方法を思いついた。

キュピル
「毒水・・あの水たまりに突き落としてやれば・・・!」

その時敵が鋭い鎌を前にして突進してきた!当たれば突き刺さって即死だろう。
そんな危険な鎌の上に乗り高くジャンプして巨大トカゲの後ろへジャンプする。
一瞬で移動したキュピルを敵が一瞬見失う。

キュピル
「落ちろ!!」

錆びた剣を敵の踵すぐ近くの地面に突き刺しテコの原理を利用して敵の足を持ち上げる。
体勢が崩れそのまま毒水のたまりへと敵が落ちて行った。
敵が大きな悲鳴を上げ這い上がってきた。が、キュピルが顔面を蹴り飛ばし再び毒水の中へと落とす。
それをしばらく繰り返していくと敵が溶け始めドロドロの液体へと変わりそのまま消えて行った。

キュピル
「もし俺があの毒沼に10秒以上浸かっていたら・・・」

考えるだけでゾッとする。仮想世界で死ぬだなんて考えたくもない。
敵が空けた穴を通る。そこには大きな祭壇があった。

キュピル
「やっぱりそうだ。ここに指輪を祀っていたんだ。」

・・・・・。

・・・・・・・・・。


ってことは敵は祭壇ごと盗んだってことか!!




随分と大胆な行動にでたもんだ!!

キュピル
「祭壇は流石に持ち帰れない。指輪だけを持ち帰ろう」

祭壇の天辺に指輪があった。
その指輪を手に取る。触れた瞬間指輪が光り緑色のオーラーが溢れキュピルごと包む。
数秒するとモンスターの巣窟の入り口に戻っていた。

キュピル
「ここは・・・さっきの所か。おーい、ヘリス。指輪をとりかえs・・・」

辺りを見回すと深刻な状況になっていた。
中規模な盗賊達がヘリスを取り囲んでいた。
既に盗賊達と出会ってから大分時が経っていたのかヘリスは既に意識を失っていて
一人の盗賊がヘリスを拉致し馬に乗って村の反対方向へと走って行った。

キュピル
「おい!ヘリスに何をしている!」
盗賊
「む、変な青年が来たぞ」
盗賊2
「構わん、こいつをやっちまえ!」

持っていた指輪を手にはめる。
・・・体に力がみなぎるかと思ったが別にそんなことはなかった。
この世界でファンタジーな事は思わない方がいいようだ。

錆びた剣を抜刀する。が、抜刀した瞬間盗賊に笑われた。
何故か悔しい。あまりの悔しさに剣を投げて先制攻撃する。錆びてはいるが先端は鋭い。
そのまま一人の盗賊に突き刺さり絶命した。
すぐに敵も意識を切り替え襲いかかってきた。だがこんな盗賊に負けるほど落ちぶれちゃいない。
素手で敵の攻撃をカウンターし強烈な一撃をドンドン浴びせて行く。
殺す事は出来ないが敵の意識を吹っ飛ばすには十分すぎる一撃だ。
気が付いたら一人を除いて全員気絶していた。

盗賊
「うっ・・・お、おれを除いて8人いたのが・・もう全滅かよ!?お前モンスターか!?」
キュピル
「ああ、そうだ。この世で一番恐ろしい人型モンスターさ・・・」
盗賊
「ひ、ひぃぃぃ!!」

ハッタリをかます。盗賊が逃げ出したので錆びた剣を引き抜いてもう一度盗賊の足元に投げる。
悲鳴をあげてその場に倒れる。
剣を引き抜き今度は喉元に剣先を向ける

キュピル
「ヘリスを何処にやった。言え」
盗賊
「お、俺達のアジトだよ!お、女は結構高く売れるからな・・・」

思いっきり敵の顎を蹴り飛ばす。ついに泣いてしまった。

キュピル
「場所は!!」
盗賊
「ひ、東へずっと歩いていくとそこにある!」
キュピル
「嘘だったら貴様をあの世で地獄に落とすぞ。俺にはそれができる魔法を持っている」
盗賊
「う、嘘じゃありません!!!」

どうやら嘘ではないようだ。
もう一度敵の顎を蹴り飛ばし気絶させた。
ヘレンが連れ去られた場所へ走ってもいいが念のため
太陽の位置を確認して方角を確認。そして東の方へ走り続けた。



東の方へひたすら走り続ける。息が切れない程度に、しかしなるべく迅速に走っていく。
・・・まるまる半日走り続けると砂漠を抜け更に数時間走ると敵の小さな拠点らしきものが見つかった。
木で出来た防壁・・・複数の見張りに矢倉・・・。なるほど、大分しっかりしているようだ。

・・・だがここまで来るのに大分体力を消耗した・・・。
少し休みたいところだが・・・下手に時を遊ばせるとヘリスが何処へ行くか分らない。
・・・それに依頼の制限時間もある。
もう一日経過してしまった。残り二日だ。
指輪は既に確保しているので別にヘリスの事を放っても問題ないのだが・・・・。

・・・・・・・・・・。

しかし放ったら自分じゃなくなる気がした。


体に鞭を打って無理やり前に出た。さて、いっちょ派手に暴れてやるか。














==キュピルの自宅


ルイ
「あの・・・。キュピルさんが無断で消えてから一日が経ちました・・・。
やっぱり何かあったのでは・・・」
ファン
「ジェスターさん。突然キュピルさんが消えたんですよね?」
ジェスター
「うん、キーホルダーの謎を解いてって男の子が言って私がちょっと窓見てもう一度キュピル見たら
もう居なかった・・・」
ルイ
「ファンさん!今キュピルさんは何処にいますか!?特殊ワープ装置機で居場所わかりますよね!?」
ファン
「落ち付いてください。・・・何度か試しているのですが特殊な場所にいるようでワープできません」
ルイ
「・・・キュピルさん・・」
ファン
「何だか落ちつかないみたいですね?」
ルイ
「そりゃそうですよ・・・」
ジェスター
「キュピルは強いからドーンと構えてれば大丈夫〜」
ファン
「そうですよ、よくあることですから」
ルイ
「・・・で、ですが・・。やっぱり落ち付きません・・!!」

ルイが一人勝手にうろうろしはじめる。
二人とも顔を見合わせ早くキュピルが早く帰る事を祈った。



続く



第四話

謝罪:第三話で記憶の指輪を手に入れてきてほしいと言った依頼主が後一週間でこの世から消えると
    言っていましたが正しくは 三日 です。失礼しました



盗賊の拠点は今騒ぎになっていた。
突然矢倉が倒れたからだ。

見張りの盗賊
「敵襲!敵襲!」

近くに置いてあるドラを思いっきり何回も叩く。
ドラの音を聞いた盗賊達がすぐに武器を持って外に出てきた。



盗賊
「おい、敵はどこだ」
キュピル
「向こうらしいぞ!」
盗賊
「行くぞ、お前等!」

数人の盗賊達がキュピルが示した方へ走った。
・・・馬鹿だ。誰が侵入者なのか判別できていないようだ。

何人かに侵入者はどこだと聞かれたが全部同じ方向を示し戦いを逃れる。
拠点の中に少し大きめの建物があった。木で出来た防壁に似合わないレンガで作られた建物・・。
その中に入ると見張りがいた。

見張りの盗賊
「おい、今侵入者が来ているはずだ。こっちなんか来ないでとっとと倒しに行け」
キュピル
「わかった」

そういって錆びた剣を抜刀し思いっきり見張りの盗賊の頭を叩いた。
一発で気絶させる。

それを見た他の幹部らしき盗賊達が立ち上がりシミターを手に取ったり大きな斧を構えたりした。
・・・ちょっと錆びた剣で戦うには厳しいかもしれない。
それならばと、さっき気絶させた盗賊から新品のシミターを奪い取る。
これで戦える。

大きな斧を持った盗賊が大振りで攻撃してきた!
こういう攻撃は防御するのではなく回避する。回避し斧が地面に突き刺さった所をシミターで思いっきり突いた。
盗賊がその場に倒れる。次に両手にシミターを持った盗賊がクルクル回りながら襲いかかってきた!
一見付け入る隙はないようにみえる。しかしこの技には弱点がある。
それは常に相手を視界に入れる事が出来ない。
盗賊が再び回ってキュピルから視界を逸らした瞬間、キュピルが持っていたシミターを投げつけた!
次にキュピルを視界に捉えた時には既にシミターが目の前まで飛んできていた。
盗賊が叫び後ろに倒れた。彼が持っていた二つのシミターを奪い取る。

今度は盗賊が三人同時に襲いかかってきた!
全員シミターを持っているようだ。
さっきの盗賊がやっていたことを同じ事をする。
一瞬で一回転し敵が持っていたシミターを全て弾き飛ばす。

盗賊が再びシミターを手に取ろうと背を向けた瞬間キュピルが盗賊二人にシミターを投げつけた!
背中に刺さり盗賊は死んだふりをした。
もう一人に盗賊がシミターを拾いキュピルに向き直る。
が、向き直った瞬間既にキュピルが目の前に来ていた。突然の出来事で反応が遅れ
その一秒後には思いっきり顎を蹴られていた。

キュピル
「うおりゃっ!!」

強烈なサイドキック。
盗賊が後ろに倒れた。最後に顔面に踵落としをして気絶させる。

キュピル
「さて、他は?」

その時突然背中を斬られた

キュピル
「!?」

斬られた後思いっきり蹴られ前に転ぶ。すぐに起き上がって確認する。
が、確認する前に再び剣で斬られた。

キュピル
「(やっぱり流石盗賊って所か・・・。ちょっと勝てたから良い気になって油断したのが失敗だった・・。)」












==ジェスターのクエストショップ




ジェスター
「キュピルが帰ってくるまで私が店長だよ!」
ファン
「・・・な、何だか不安です。大丈夫ですか?ジェスターさん」
ジェスター
「うん、大丈夫ー」

ガチャ

ジェスター
「あ、誰か来た」

主婦
「ちょっと〜。聞いてくださる!?あのポイズンゼリーがお肌にいいらしいのよ!
何でもゼリーの毒が古くなった皮膚の層を剥がしてくれるとか!ちょっと集めてくださらないー?」
ジェスター
「えー・・またこの人ー・・?」
主婦
「えーって何よ!」
ファン
「ジェスターさん。これも店長に務めです。頑張ってください」
ジェスター
「は〜い・・」

そういってジェスターが武器を持って外に出て行った。

主婦
「あの白いちびっ子が帰ってくるまで私の暇をつぶしてくれないかしらー?実はね・・」
ファン
「(・・・長話が始まりました・・・・。)」




ルイ
「(ジェスターさんもファンさんもあのおばs・・主婦の人に掴まってますね・・・)」

扉を閉めて少し考え事を始めるルイ。
・・・脳裏にあるのはキュピルの机の中にあった手紙である。

ルイ
「(・・・)」

自分の部屋に戻って机の中に入れてある二枚の手紙を取り出す。
一枚はキュピルの部屋にあった手紙にコピー。
もう一枚はミーアがキュピルに手渡した手紙のコピー。
一応キュピルには気付かれていない。

キュピルの机にあった手紙の内容をもう一度見る


『一人立ちしてしまったキュピルへ

キュピル、この手紙が届いたということは良い知らせだ。
ついにルルアとティルが次元移動させる魔法の研究に成功した。
今この手紙はその魔法を使って送っている。

お前が城下町ギルドで戦闘に巻き込まれ敵の次元移動の魔法でやられて
そっちの街へ来てからもう何年経つ?
向こうで色々友達も出来ているだろうけどそろそろ戻って来ないか?
お前の本当の世界へ・・。

・・・と、ついでに頼みたい事もあるんだ。
シルクと全く連絡が取れなくなってしまった。前にもこんなことがあったから
別に気にしちゃいないんだがそろそろ三か月経とうとしている。いくらなんでもおかしい。
・・・それで不本意だが作者(シーズン6参照。こういう名前の人がいるんです)に聞いてみたら
お前じゃなきゃ探せないと言うんだ。
だから一度戻ってくれないか?俺達は待ってる。

追伸

私だよ、ロビソンの手紙を魔法で送る前に確認しておいてよかった・・。
色々追記しておくよ。実は人を次元移動させるのって凄く難しいんだ・・・。
それにこの魔法も耐久性がなくて多分数回使ったらまた研究し直さないといけないと思う。
だからもしこっちの世界に来るなら気をつけて。きっと戻れる可能性は限りなく低いはずだから

手紙に黒い魔法石を同封しておくね。この魔法石使うと私のところに手紙を送る事が出来るから。じゃ』


中に黒い魔法石が入っていたらしいが封筒にはもう入っていない。
ということは既に使った・・・?



ルイ
「(キュピルさんが・・元の世界に帰る・・・)」



ルイが二つ目の手紙を広げもう一度読み返す。これはミーアが渡してきたものだ。


『信頼なるキュピルへ

色々とまずい事が起きている。
このままでは・・また逆戻りになるかもしれん。
この自体を解消するのに必要なアイテムはまだ見つからないか?
ミーアにも探させているが情報が何一つない。

ジャスト三日後にミーアをそっちにもう一度派遣する。その時に返答をよこしてもらいたい。

                            ギーン』

ルイ
「(・・ギーンさんからの手紙。また逆戻りって・・一体どういうことでしょうか・・・)」


この二つの手紙を何度も何度も読み返す。
頭で考えているうちに段々ややこしくなってきた。

少なくとも一つ分っている事はこの手紙は隠されていると言う事。
つまり皆には秘密にしたい・・・。


秘密にされているのがルイにとって少し気に食わなかった。
















ヘリス
「・・・・」

牢屋に投げ入れられてから数時間が経過した。
寒くて凍えそう・・・。
まさか穴の上で待っていたら盗賊に出会うなんて・・・。

その時重たい扉が空いた。
開いた瞬間ヘリスが即立ち上がり盗賊を突き飛ばして扉から勢いよく出ようとする。
一瞬外に出たが別の盗賊に掴まり結局牢屋の中へ再び投げ入れられてしまった。

ヘリス
「いい加減もう解放してよ!!」
盗賊
「うるせ」

そういって盗賊がキュピルを牢屋に投げ入れた。
そして再び重たい扉を閉め閉じ込めさせた。



キュピル
「ぐお〜・・・。久々に激痛・・・。」
ヘリス
「あら、随分派手にやられたみたいね」
キュピル
「なんだよ、その他人事のような台詞・・・。せっかく助けに行ってやったというのに」
ヘリス
「まだ助けてもらってないよ。助けてくれたらありがとうって言ってあげる」
キュピル
「こんちくしょうめ・・・。それよりほら。指輪。取り返したぞ」

指にはめていた指輪をはずしヘリスに投げる。

ヘリス
「あ、指輪・・・」
キュピル
「ヘリス・・・どのくらい出血しているかわかるか・・?」
ヘリス
「何処?」
キュピル
「背中。見えない」

そういって上半身裸になる。

ヘリス
「背中の傷も酷いけど・・・。傷跡多いね」
キュピル
「いや、頼むって。傷がどのくらい酷いか教えてくれ」
ヘリス
「普通に人だったら大激痛と言えるぐらいの傷。何でそんな平然としていられるのか不思議」
キュピル
「いや、マジで痛い。叫んでいいなら叫ぶ」
ヘリス
「別に叫んでいいよ」
キュピル
「いてええええええええええええええええええええ」



叫んだら余計傷口が広がり出血量が増えた。

ヘリス
「流石にちょっとその量はやばいかもね・・・。抑えててあげる」

ヘリスがキュピルが脱いだ上着で傷跡を思いっきり押し当てる。
出血を抑えているのは事実だが思いっきり傷口に触れているため物凄い激痛が走る

キュピル
「うわ、いでででで!!死ぬ!!もうこれは死ねる痛み!!!」
ヘリス
「そんなに元気があるなら死なない!」

そういってヘリスがキュピルの頭を叩いた。

キュピル
「久々に見た。ヘリスほど男気勝る女を見たのは・・・」
ヘリス
「あら?これでも私はレディーだからね。」

ヘリスがウィンクする。しかしキュピルには見えない。

ヘリス
「・・・でも・・。ちょっとこれは本当に治療しないと・・やばいかもしれないね・・」
キュピル
「魔法とかって使えるか?」
ヘリス
「魔法?全然だめね、私は。キュピルこそ使えるの?」
キュピル
「・・・ほんのちょっとだけなら」

アノマラド魔法大立学校で覚えた魔法が頭に出てきた。
しょぼい火の玉を召喚する魔法ぐらいしか覚えていないが・・・。
・・・・・。

魔法・・か・・。

・・・・・・・・。

そういえば・・・。

・・・・・・


キュピル
「あああああぁぁぁぁぁ!!!」
ヘリス
「うわ、何!五月蠅い!」

また頭を叩かれる。

キュピル
「そうだ!俺は霊術が使えるんだった!!」
ヘリス
「霊術?何それ?」
キュピル
「ちょっと昔色々あって霊術っていう類の魔法みたいなものが扱える。まぁ、今度この扉が空いた時に
見せてやるさ・・・。
・・・ちょっとそれまで休ませてくれ・・・」

そういってうつ伏せになって寝る。
ヘリスが背中の傷をずっと抑えててくれている。


・・・・・・。

ヘリス
「キュピル。何で助けに来たの?」
キュピル
「何でって・・・。俺一人だけで帰ったらあの村長に怒られるじゃないか・・」
ヘリス
「でも相当危険な事だってのは自覚してたんだよね?結果がこれだし」
キュピル
「・・・まぁな。錆びた剣で何処まで戦えるか正直微妙だとは思った。」
ヘリス
「じゃぁ、何で・・」
キュピル
「・・・これは俺が元いた世界の話だ。
俺が12歳ぐらいの話かな。俺に師匠がいたんだ」
ヘリス
「へぇ、キュピルの師匠?」
キュピル
「そう。その師匠にこんな事を言われた事があるんだ。
『自分の信念は貫け』って。・・俺の信念は誰かがピンチに陥ってるって分ったら助けてあげる事。
ついでに悪って結構嫌いなもんで・・・」
ヘリス
「正義感が強いんだ」
キュピル
「あんまり良い正義感とは言えないのかもしれないけどな。
・・・・ちょっと寝ていいか?行動するにも体力を回復してからにしたい。
ちょっと寝れば傷も少しは癒える・・・」
ヘリス
「流石に癒えるとは思えないけど・・・」
キュピル
「俺の自然回復力を舐めちゃいかん」

そういって寝る体勢に入った。
・・・寝てる間もヘリスはずっと背中の傷口を抑えててくれていた。



ヘリス
「(この人の事・・少し分ってきた気がする。無茶する人なんだ・・・。
もし誰かがこの人の事を好きになったらその人はきっと苦労するね・・・・。)」






キュピルが寝てから六時間程が経過した。
ドアの向こうで誰かが来る気配がした。その瞬間今まで熟睡していたキュピルが起き上がった。
ヘリスが何か喋ろうとしたがキュピルが手で制止する。
そして重たいドアが開いた。開いた瞬間キュピルが両手を横に突き出し何か魔法みたいな言葉を発すると
盗賊の足が動かなくなった。

盗賊
「こ・・これはなんだ!?」
キュピル
「いまだ!ヘリス!脱出するぞ!」

キュピルがヘリスの腕を引っ張って牢屋の外へ脱出した。
盗賊は食料を持っていた。それを見てキュピルが食料を受け取る。

キュピル
「ありがとう」
盗賊
「お、おい!これ俺の脚動けるようになるのか!?」
キュピル
「さぁ・・・最近使ってないからわからない。もしかしたら永遠に足を動かせないかもしれない」
盗賊
「た、助けてくれー!!」

もちろん嘘だけど・・・

キュピル
「助けてほしかったら治療道具のある場所教えるんだ」
盗賊
「そ、そこにある!」

盗賊が牢屋を出てすぐ右にある棚を示した。
近い所にあってよかった・・。
棚をあけると中には包帯や一般的な治療道具が入っていた。

ヘリス
「治療してあげる」
キュピル
「頼む」

盗賊がもがいているが動けないようだ。
ゆっくり治療してもらい止血してもらう。
もう大丈夫だろう。

キュピル
「さぁ、とっととこんな場所から抜け出して村に帰るぞ!」
ヘリス
「そうね。」

キュピルが止血に使っていた服を再び着て牢屋の外においてあった錆びた剣を再び装備した。

キュピル
「(依頼主からの残り時間も大分少なくなってきた・・・。恐らく今から村に戻ればギリギリ間に合うだろう・・)」


建物から外に出ると沢山の盗賊達がいた。
キュピル達を見つけるやいきなり剣を抜刀して襲いかかってきた!
しかしもう戦う必要はない。

キュピル
「ヘリス。ちょっと急いで駆け抜けるぞ。よいしょ」
ヘリス
「わ!!」

ヘリスを持ち上げて肩に乗せる。
そして全速力で盗賊のアジトから抜け出す。

ヘリス
「ちょ、痛い!降ろして!」
キュピル
「我慢しろ!」

立ちはだかる盗賊は全員飛び蹴りで吹っ飛ばす。
ヘリスを担いでいるので余計威力が増しているだろう。
このまま勢いにのって拠点の外に出ようとするが門が閉まられている!
確かに考えてみたらさっき空いていたのが不思議でしょうがない。

ルートを変え見張り台を登り始める。

ヘリス
「ちょっと何する気!?」
キュピル
「まぁ見てろ。あと大人しくしててくれ」

見張り台の天辺まで登るとそこから壁に密着している防壁を乗り越えて地面に飛び降りた!
高さは大体8m。

地面の上に着地する。思いっきりがに股になって着地の衝撃に耐える。
足がジーンとする。

キュピル
「・・・・・・・・」
ヘリス
「・・・大丈夫?」
キュピル
「ここから先は・・歩いてくれ」
ヘリス
「はいはい。それより早く降ろして頂戴」

肩に乗せていたヘリスを降ろす。
降ろした瞬間門が開き盗賊が襲ってきた!

キュピル
「やばい、急げ」

キュピルが錆びた剣で敵の攻撃を弾きつつ後ろに後退していく。
ヘリスが先に奥へ逃げ始めた。
何とか防戦していると馬にのった盗賊が現れ勢いをつけて攻撃してきた!
が、しゃがんて攻撃を回避しそしてすぐジャンプして盗賊が乗っていた馬に乗る。

盗賊
「げ」
キュピル
「いい馬だ。よこせ」

思いっきり盗賊の頭を殴って落馬させる。
紐を引っ張って馬の向きを合わせる。

キュピル
「ほれ、行った行った!」

紐をグイッと引っ張って離し前にダッシュさせる。
ちょっと走るとヘリスが視界に現れた。
ヘリスの横を通る。そして腕を引っ張って走りながら馬の上に乗せる。

ヘリス
「凄い、乗馬も出来るのね」
キュピル
「ごめん、見よう見まねでやってみた。簡単な命令は分るけど後は全然知らない。主に止まり方。」
ヘリス
「・・・キュピルってどこか抜けてる。ちょっと落ちなさい」
キュピル
「え!?」

ヘリスがキュピルを突き飛ばして落馬させる。

キュピル
「ぎえええぇぇぇぇっっっっ!!!!」
ヘリス
「はいや!」

ヘリスが紐で馬をコントロールする。後ろに下がってキュピルの横で止まる。

ヘリス
「乗って」
キュピル
「・・・落とす事ないだろ!!」
ヘリス
「つべこべ言わずに早く乗った乗った!盗賊来てるよ!」
キュピル
「げ」

後ろから他の馬にのった盗賊達が追いかけてきた。
すぐに馬に乗る。ヘリスが再び馬に命令を下すと全速力で駆け抜けた。

しかし一人しか乗っていない盗賊の馬の方が圧倒的に早かった。
盗賊が横に並ぶと片手で斧を振り回し攻撃してきた!
斧相手に剣で防御するのは非常に難しい。
ヘリスが精密なコントロールで敵の攻撃を避ける。

キュピル
「うまい」
ヘリス
「攻撃して!」
キュピル
「任せろ」

キュピルが剣で突きを繰り出す。
しかし距離が離れすぎていて微妙に届かない。
盗賊の攻撃も届かない。
しばらくすると盗賊が間隔をつめてきた。お互い射程内に入った。

キュピル
「うおりゃ!」
盗賊
「ふんっ!」
キュピル
「ぐっ!」

剣で攻撃したが斧で弾かれた。辛うじて剣を吹き飛ばされずに済んだ。
しかし盗賊が立て続けに斧で攻撃してきた!
敵の攻撃で剣で防ぐ。しかし圧倒的な重量のある斧を剣で防ぐのはかなり難しい。
何とか防ぐ事に成功したが立て続けに防ぐのは無理だ。
敵が再び攻撃してくる前にすぐに突きを繰り出し見事に命中させた。
胴体に剣が突き刺さり敵が落馬した。

キュピル
「初めて馬の上で戦ったが悪くない・・・」
ヘリス
「右からも来てるよ!」

弓を構えた盗賊が結構離れた位置から矢を放ってきた!
しかしキュピル達に当たらず変な方向へ飛んで行った。
走り続けていると森林地帯を抜け砂漠地帯に入った。
砂に足を取られ馬の速度が落ちる。
狙いが定まりやすくなってしまった。

再び盗賊で矢を飛ばしてきた!的確な攻撃だ!
剣で矢を弾く。
弾いたのはいいが反撃が出来ない。

キュピル
「ちくしょう、このままじゃ防戦一方だ」
ヘリス
「霊術とかどうとかは馬に使えないの!?」
キュピル
「やってみないとわからないがやってみる。やってる間は敵の攻撃を上手く避けてくれ!」

キュピルが両腕を広げ霊術を唱え始める。
両手に黒い魔法弾が現れる。
敵が詠唱を通すまいと矢を連射してきた!ヘリスが上手く避け続けるが二本ほど矢がキュピルに命中した。
内心腹を立てながらも霊術の詠唱を通し見事敵の馬の足を止めた。

・・・・何とか盗賊を振り切ったようだ。



・・・・。


キュピル
「・・・ヘリス」
ヘリス
「・・・ごめん」
キュピル
「分ってればいい」

矢は抜かずそのままにしておく。毒はないようだし下手に抜けば出血する。

ヘリス
「早く村に戻って手当てしましょ。飛ばすから掴まって!」
キュピル
「何処に捕まればいい?」
ヘリス
「そうね、私のお腹かしら?」
キュピル
「なら掴らせてもらうよ」

ヘリスにお腹に手を伸ばしてしっかり押さえる。
キュピルがしっかり掴まっているのを確認するとのさっきより早く走るよう馬に命じた


キュピル
「何でさっき戦ってる時この速度で振り切らなかった。追いつかれたのはこれが原因じゃないのか?」
ヘリス
「私だって馬に乗ったの久しぶりだから忘れただけ」
キュピル
「・・・はいはい」

若干呆れつつも後はヘリスに任せることにした。







馬で走り続けて大体4時間ぐらいだろうか。
盗賊の拠点を出たのが大体昼過ぎだったが気がつけば日も暮れ星が見え始めていた。
そしてやっと見覚えのある道にやってきた。

ヘリス
「もうちょっとよ」
キュピル
「ふぅ、指輪手に入れるまでは簡単だったがその後が大変だったな・・・」

今回は時間がかかっただけでさほど難しくはなかった。

その時ヘリスが馬を止めた。

キュピル
「どうした?」
ヘリス
「・・おかしい・・・。向こうに村があったはずなんだけど・・・」
キュピル
「近づいてみよう」

村があった場所に近づくと木材の破片や石が飛び散っていた。
・・・家という家は全てなくなっており存在していたのは老人が座っていたあの岩だけ。
他はすべて消えていた・・・。

キュピル
「・・・こいつは・・・。間違いなくモンスターに襲撃されたな・・・・」
ヘリス
「そんな・・・・」
キュピル
「・・・きっと指輪をもう一度奪いにきたのだろう。だけど指輪がなかった。」
ヘリス
「・・・ってことは私が盗賊に捕まってなければ・・・村を守れた可能性があったっていうこと・・・?」
キュピル
「まだ嘆くのは早い。あの地下はどうなっている?」
ヘリス
「そ、そうだ。そこに皆いるかもしれない」

ヘリスが瓦礫をどかして地下通路の入り口を探す。一カ所だけ見つければいい。
探し続けると四角いマス目を見つけた。ヘリスがそのマス目の取っ手を掴んで横にずらす。
中に入るともっと悲惨な光景が待っていた。

ヘリス
「うっ・・・」
キュピル
「何があった?・・・!」

地下通路にモンスターがまだいた。
ちょうど地下通路に隠れていた村人全員を食べ終わったところのようだ・・・。
敵もこちらに気づいたらしくあの巨大な芋虫が迫ってきた。

キュピル
「ここで奴のデザートになるわけにはいかない。一旦外に出るぞ」

無言のヘリスの腕を引っ張って外に出る。
外に出てすぐに地下通路への入り口を閉める。ひとまずモンスターはこれで出れないだろう。
・・・ただどっかが開いている可能性が高いから永遠に閉じ込めれるわけではない。

キュピル
「(ヘリスには言いづらいがこの村はもうだめだ。恐らくまだ近い所に仲間がいるだろう。
ここで囲まれたらこの剣で敵を全員倒せる自信がない)」
ヘリス
「わ、私・・・これからどうすれば・・」
キュピル
「・・・とにかく安全な場所へ移動しよう。」

再び馬に乗る。
騎手はヘリスにやらせる。

キュピル
「向こうの森に逃げるんだ」
ヘリス
「わかった・・」

馬に命令を下し近くの森へ逃げ込む。
森へ入った時にちょうど他のモンスター達がやってきた。
あと少しでも遅れていたらあのモンスター達に見つかり追撃されていただろう。






暗い森の中でひっそり息をひそめる。
モンスターは一応近くにはいないようだが・・・見つかる可能性があるから焚火して温まる事はできないな・・・。

ヘリスの方に向き直る。
結構気は強い方ではあるが流石にショックを受けたようだ。

ヘリス
「・・・・・・」
キュピル
「ヘリス」
ヘリス
「何・・」
キュピル
「近くに安全な村はあるのか?」
ヘリス
「・・・行ってみないとわからないけど遠くに少し大きな村が・・・」
キュピル
「まずそこに逃げ込m・・・」

その先を言おうとしてやめた。
・・・逃げ込んで果たしてどうするんだろうか・・・。

これは俺しか知らない事だが・・・。
考えてみればあと一日でこの世界は消えてなくなるんだ・・・。
どれだけ生きのびたとしてもヘリス達はあと一日しか生きれない。
この世界の消滅によって皆消えてなくなるんだ・・・。

皆消えていなくなるのにどうして俺は助けたいと思っているんだろう?
目的の指輪だって手に入れているわけだ。帰ろうと思えばいつでも帰れるはずだ・・。
そう考えたら急に馬鹿らしくなってきた。
なんだ・・別に必死になる事なんか・・・。

・・・・・。

いや、だめだ。
これではまるで現実逃避しているみたいじゃないか。
逆に考えるんだ。・・・ヘリス達はあと『一日』は生きることが出来ると・・・・。
まだ一日、残された命があるのにここで俺が守らなかったらきっとヘリスは一日経たずにモンスターに見つかって
死んでしまうだろう。

残されたこの時間・・。その間だけでもヘリスには生きてもらいたい。

・・・。

しかし・・・。

ヘリスが住んでいた村は・・・。
唯一コントロールが出来る村とか言っていた・・よな?
考えてみればそのコントロールって一体・・・何だったんだ?


ヘリス
「・・・これから私・・どうやって生活していくのかな・・・」
キュピル
「・・・・ヘリス」
ヘリス
「何・・・?」
キュピル
「あと一日経てば全てが変わる」
ヘリス
「・・・全てが変わる・・?どういうこと?」
キュピル
「モンスターが全員居なくなる」
ヘリス
「・・・それ本当?」
キュピル
「本当だ。今俺が霊術を使ってモンスターに呪いをかけた。
だからあと一日・・。あと一日生きのびよう」
ヘリス
「・・・わかった」
キュピル
「・・・戦わなくても奴らは一日経てば勝手にいなくなる。
どうせだから何処か行こうと思うが・・ヘリス。行きたい場所とかってあるか?
気分転換とかになればいいんだが・・」
ヘリス
「・・・私ね、困った時とか悩んでる時ある場所に行くんだ」
キュピル
「ある場所?」
ヘリス
「うん、海なんだ」
キュピル
「海か。俺も何か考え事するときとか海を見ながら考えるな」
ヘリス
「キュピルも海を見たことあるの?」
キュピル
「見たことあるも何も自宅の目の前に海がある」

考えてみれば良い立地?

ヘリス
「最高ね、それ」
キュピル
「どれ、それなら海に行こうか。ここからどのくらいかかるんだ?」
ヘリス
「ここから大体馬にのって三時間ぐらい」
キュピル
「・・・そんな遠くにまで行って考え事するのか?」
ヘリス
「悪い?」
キュピル
「いや、別に構わないのだが・・・。それなら往復する頃にはモンスターは死滅しているな」
ヘリス
「そうね。さっそく行きましょ」

ヘリスが立ち上がって馬に乗る。
・・・馬が疲れている。

ヘリス
「気合出しなさい」

ピシッと馬を叩く。なんという鬼

キュピル
「・・・大丈夫か?」
ヘリス
「行ける行ける。このぐらいでへばってもらっちゃ困るわ」
キュピル
「・・・ヘリスに尻を敷かれたら地獄を見るな」
ヘリス
「何か言った?」
キュピル
「いや、何も。行こう」

馬に乗って海を目指して走った。









==キュピルの家


ジェスター
「・・・キュピルが消えてから二日目だね」
ファン
「そうですね・・。流石に二日間も連絡なしっというのは・・少しキュピルさんらしくないですね」
ジェスター
「キュピルはどっか行くときは一言は残してくれるのに・・・」
ルイ
「(・・・まさか・・。キュピルさん・・・。私達を置いて元の世界に・・・帰ったのですか?)」

せっかくクエストショップを立ち上げたのに・・・。
・・・まさか・・。
クエストショップを立ち上げたのは元の世界に戻るため?
キュピルが居なくなって収入が消えてもクエストショップを経営すれば一応僅かな収入は入る・・・。

・・・もし本当にこれを残してキュピルが元の世界に戻っていたとしたら・・・
キュピルがジェスター達に何も言わずに消えたのも説明がつく。
もし一言でも言っていたらきっと全力で引きとめられていただろう・・・。

しかし・・・。

そう考えるとゾッとする。


何も残さないで消えてしまうなんて・・・。

この事は二人に話しておいたほうが・・いいのだろうか?



・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

ルイ
「(いや・・もう私だってキュピルさんと過ごして一年半経ってるんです。
キュピルさんが何も言わずに元の世界に帰るはずがありません・・・)」

もう少しだけ信じて待ってみよう・・。
あと一日経っても連絡がつかなかったら・・その時話してみよう。


ジェスター
「ルイ・・?何か暗い顔してるよ?」
ルイ
「え?あ、そうですか?」
ジェスター
「早くご飯作ってー」
ルイ
「そ、そうでした。今作りますね」

無理やり笑顔を作って台所の前に移動する。

ジェスター
「うーん、暑〜い・・・」
ファン
「相変わらずマイペースですね」
ジェスター
「ごろーん・・」








海に到着した。
・・・ナルビクの海と違ってかなり激しい波が近くの崖にぶつかっている。

ヘリス
「到着したわ」
キュピル
「・・・・・」
ヘリス
「・・・キュピル?」
キュピル
「・・zzz・・・・」
ヘリス
「・・・何勝手に眠ってるの!!」

思いっきりキュピルの頭を叩く

キュピル
「ぐえ。な、何だ!敵か!?」
ヘリス
「海に到着。あと私にずっと馬を動かしておいて勝手に眠らない!」
キュピル
「(別にいいじゃないか・・・)」

疲れていたわけだし・・・。
って、考えてみたらヘリスの方が全然寝てないんだった。

キュピル
「随分激しい波だ」
ヘリス
「でもこの音が落ちつくの」
キュピル
「・・・ほぉ」

馬から降りて崖の近くまで移動する。
ここからもし落ちたら下の尖っている岩に突き刺さって即死だろう・・。

キュピル
「近くに砂浜とかあるかと思ったらここ一帯全部崖なんだな」
ヘリス
「そうね・・。ここは島じゃないから」
キュピル
「それなら大陸か?」
ヘリス
「さぁ・・。私、自分の世界のことよく知らないんだ。誰かが永遠に続いていたとか言っていたけど・・」
キュピル
「・・・世界か」

二人とも地面に座る。

ヘリス
「・・・何だかお腹減っちゃったね」
キュピル
「海についてそれが一番か。」
ヘリス
「だって、最後に食べたの盗賊の拠点で奪った小さな食べ物よ?
それに村でもロクなもの食べてないから・・・」
キュピル
「ふむ・・・。それならちょっとだけ待ってて」
ヘリス
「ん?」

キュピルが辺りをうろうろしはじめた。
ちょっと遠くまで移動し崖の近くで止まった。一体何をしようとしているのか分らない。
ヘリスが眺めていたら突然キュピルが崖から飛び降りた!!

ヘリス
「な、何を考えているの!!!」

慌ててヘリスがキュピルが飛び降りた場所の近くにかけよった。
ちょうどキュピルが地面に着水した。
・・・どうやら近くに岩がなくて深い所を探していたようだ。
キュピルが激しい波に抗いつつ海の中を潜った。

ヘリス
「・・・・もう知らない」

さっきいた場所まで戻ってそこで寝転がる。
・・・目を閉じて今まであった事を振り返る。

モンスターに襲われたり盗賊に捕まったり村がなくなったり・・・

・・全然ろくなことがない・・・。

・・・・・。

でも、色々とキュピルに助けてもらっている・・。
その事は実感していた。


目を瞑ると急に眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまった。





一時間ほど経過してキュピルがやっと崖を登り終えた。

キュピル
「ぜぇーはぁー・・・。と、とっ捕まえたぞー・・」

キュピルが何匹かの魚を口に加えたり服の中に入れてたり手で握り締めてたりしていた。

キュピル
「ヘリス・・って何だ。寝てしまったのか」

魚を適当な所に投げて薪を集めに行く。
ここなら焚火しても大丈夫だろう。
どっちにしろモンスターが来ても、もう知るもんか

だって後15時間しかないんだ。
15時間だったらどうにでもなる。

木と木を擦り合わせて種火を作りそこからドンドン火を広げていく。
大きな焚火になったら今度は適当な棒を魚の口に突っ込ませて焼き魚にする。
味付けも何もないけど・・まぁ、いいか。

キュピル
「・・ヘリス、起きろ」
ヘリス
「・・何?」
キュピル
「ほい、焼き魚」
ヘリス
「・・・・」

ヘリスがすぐに起き上がり、がっつきはじめた。

キュピル
「そんな急いで食べなくてもいい」
ヘリス
「魚食べたの凄く久しぶり」
キュピル
「そうか。俺は毎日食ってたから食いあきてる・・・」
ヘリス
「・・・・」

とりあえずお腹空かしているのは同じなのでキュピルも食べ始める。
三匹しか捕まえてこなかったが・・・。
先にヘリスが食べ終わりもう一匹食べ始めた。

キュピル
「あ!俺の分がー!」
ヘリス
「毎日食べてるんでしょ?いいじゃん」
キュピル
「腹は減ってる・・・」

まぁ・・いいか。

先に食べ終わり今度はキュピルが横になる。
・・・そろそろ朝か・・・?

大体5時ぐらいだろうか・・・。
波の音を聞きながら色々考える。

・・・・。

色々考えてると・・・ふと、ティルから送られた手紙の事を思い出した。
・・・元の世界に戻って来ないか?・・・か・・。

・・・。

もし・・・。

もし俺の傍にジェスターやファン。ルイが居なかったらきっと俺はすぐに戻っただろう。
・・・だけど・・・。

・・・。

その時視界にヘリスが入った。
バッとある物を突き付けられた

キュピル
「ん?」
ヘリス
「お礼」

起き上がり受け取る。
・・・記憶の指輪とネックレス・・・。
ネックレスは木で出来ていてる。

ヘリス
「きっと指輪はもう使わない。本当のお礼はそのネックレスね。」
キュピル
「・・・そうか、ありがとう。でもいいのか?」
ヘリス
「その気になればこんなネックレス一時間で作れるから」
キュピル
「・・・それならありがたく受け取るよ」

指輪とネックレスを受け取りポケットの中に入れる。
・・・・残りの時間をどう過ごすか。

ヘリス
「ねぇ、おしゃべりしていい?」
キュピル
「構わん」
ヘリス
「じゃ、遠慮なく。何処から来たの?」
キュピル
「前にも言わなかったか?」
ヘリス
「忘れた。」
キュピル
「ナルビ・・・」

・・・ナルビクと言おうとして一瞬戸惑った。
・・・そして何を思ったか


キュピル
「・・城下町ギルド」

自分が元いた世界を言った・・。

ヘリス
「親は?家族は?」
キュピル
「・・・親はいない。家族は・・・いる。血の繋がらない家族だけど最高の家族」
ヘリス
「どうやって生きてきたの?」
キュピル
「いつも戦って生きてきた。それにしても君は色んな事を知りたがるんだな」

一昨日と同じ事を言う

ヘリス
「好きな人はいるの?」
キュピル
「・・・・・・・」

下を俯く。

ヘリス
「あ、いるんだね?可愛いの?美人?」
キュピル
「可愛いかもね。美人かもしれないね」
ヘリス
「へー。どんな人なの?」
キュピル
「心配性」
ヘリス
「ふーん、告白したの?」
キュピル
「出来ない」
ヘリス
「何で?あ、さては怖いんでしょ?ふられるのが怖いんだ!!」
キュピル
「・・・怖い・・か。怖いというよりは・・・。逆に・・もしその人が『はい』って言ったら・・。
『はい』と言われる方が俺は辛い」
ヘリス
「変なの。まるで嫌いな人に告白された感じ」
キュピル
「・・・なぜならその人は俺と違う世界に居る人だから。
・・今度は俺が色々喋っていいか?」
ヘリス
「うん。聞かせて」

キュピル
「俺は複数の世界を渡って生きてきた。
産まれた世界をAとする。・・そして今俺が住んでる世界をBとする。
俺が12歳になるまではずっとAの世界で過ごしてきた。
ところがある日突然戦争が起きてね。突然謎の魔法で飛ばされて俺はBの世界にやってきたんだ。
最初は戻る方法を探したんだけど戻れる方法が見つからずBで済む事を決意した。
最初の3年間は孤独だった。ずーっと一人だった・・・。
そんな時友達が出来てな。そいつの名前はエユ。エユと大分仲が良くなった頃に
エユが遠い所に行かないといけなくなった。その時ジェスターっていう子供を預かるように言われて
それからずーっとそのジェスターと生きてきた。」

話してる間はヘリスはずっと何も言わずに聞いていた。

キュピル
「ある時ジェスターと話してもう一人仲間が欲しいねって話しになってファンっていう動物(?)を飼い始めた。
ファンは凄いぞ。何でもできる」
ヘリス
「何でも?」
キュピル
「本当に何でも。この三人と三年間過ごしてきた。
ある時ルイって人も仲間入りした。・・このルイがまたとんでもなく一癖二癖あってな・・・。
始めは常識人かと思ったけど案外そうでもなかった」
ヘリス
「おかしな人ね」

キュピル
「でも良い人だよ。・・・そして俺がBの世界へやってきてからついに七年が経った・・・。
ある時俺のところに一通の手紙が届いたんだ。それはAの世界からやってきた手紙だった。
その手紙はAの世界へ帰れる事を証明していた。つまり俺はその気になれば
いつでもAの世界へ帰る事が出来るんだ。実はBの世界へ居る時、ファンの力を借りて
一度だけAの世界へ行った事があるんだ。・・・ただ、それは機械に頼っていて永続的に
居れるものじゃなかった。それに今は行けなくなってしまった。
・・・ところがAの世界からやってきたこの手紙はAの世界へ再び戻る事が出来ると言っていた。
つまり一時的じゃなくてずっと居られるんだ。
・・・でもAの世界に戻ったらBの世界にはもう戻れないかもしれないそうだ」

ヘリス
「・・・それでどうしたいの?」

キュピル
「・・・Bの世界で色んな事があって・・自分でも信じられないが疲れているようだ・・。
ジェスターやファン・・ルイは俺の事を心配してくれているようだけど・・・。
何故か・・その心配がまたプレッシャーに感じるんだ。かといって心配してくれてないって思うと
それが逆にまた腹が立つ・・自分でも言ってる事がよくわからない。
・・でもAの世界にいる人たちは違うんだ。・・本当に幼馴染の頃からの友達や師匠もいる・・。
正直に言うとAの世界へ帰りたい」

ヘリス
「・・・でも帰れないんだよね?」

キュピル
「そう。技術的な問題で帰れないのではなくて・・・。Bの世界でやらないと行けない事が残ってるから
帰れないんだ。」
ヘリス
「じゃぁ、もしBの世界でやらないといけない事を全て片付けたらどうするの?」
キュピル
「・・・そうだな。もし・・。ジェスターをエユの所に返す事が出来て・・。
あとBの世界で起きてる重要な出来事を終わらせる事が出来たら・・・。
その時に俺はAの世界に帰るかもしれないね」
ヘリス
「ルイとファンって人はどうするの?」
キュピル
「・・・あの二人は俺がいなくても絶対生きていける。ジェスターは不安だけど」
ヘリス
「私には分るよ。その二人は貴方を必要としている」
キュピル
「どうしてわかる?」
ヘリス
「女の勘」
キュピル
「・・・そいつは侮れないな。・・・でも本当に必要としているのだろうか・・・。
生きていくために俺が必要だというのならそれはお断りだ。それは守るじゃなくて甘やかしている気がする」
ヘリス
「・・・・」

キュピル
「恐らく数カ月単位じゃ終わらないだろうけど・・・。
もしかしたら一年後にはAの世界にいるかもしれない」
ヘリス
「キュピルはジェスターとかファンとかルイって人たちの事が嫌いなわけじゃないよね?」
キュピル
「嫌いじゃない。」
ヘリス
「好きでもないの?」
キュピル
「・・・・」

無言になってしまった。
一体俺は・・何が気に入らないというのだろうか・・・。
自分でも分らない。こんな事を考えるのは初めてだ。

ヘリス
「・・・もし好きならさ。その人たちと一緒にAの世界へ行く事は出来ないの」
キュピル
「え?」
ヘリス
「Bの世界に居続ける理由がないんだったらさ。Aの世界に皆で行けばいいじゃん。これで解決」
キュピル
「・・・・。」

確かに解決なのかもしれないけど・・・。
ジェスターはそうはいかない。

ジェスターを勝手にAの世界へ連れて行く事は出来ない。
なぜならあくまでもエユに預かってもらうように頼まれている身だ。
決してジェスターは俺の物ではない。

ファンは一応連れていこうと思えばいけるだろう。

・・・ルイ・・・。

キュピル
「・・・・・」
ヘリス
「連れていくことで何か問題でもあるの?」
キュピル
「・・・残念だけど問題以前の物がある。
・・・そもそも向こうに行けるのは一人まで何だ」
ヘリス
「何で?」
キュピル
「俺もよくわからない。でも一人が限界なんだってさ」
ヘリス
「ふーん・・よくわかんない」
キュピル
「俺も」


・・・・・。


そこから全く喋らなくなった。
ずーっと海の向こうを見続けている。

・・・夜は明け・・


昼を迎え・・・


そして日がまた沈み始めた・・・。


その間ずっと海の向こうを見つめ続けていた・・・。








そして時刻は六時になった。

・・・この世界の崩壊まであと一時間・・・。




キュピル
「ヘリス」
ヘリス
「何?」
キュピル
「モンスターの消滅まであと一時間だよ」
ヘリス
「ほんと?」
キュピル
「間違いない」
ヘリス
「よーし、モンスターが居なくなったらまずは村の復興!」
キュピル
「一人で?」
ヘリス
「私が村長になる」
キュピル
「なんという野心家。ヘリスがそんな野心家だとは思わなかった。嘘だけど」
ヘリス
「嘘なんだ・・・。・・・でもキュピル」
キュピル
「ん?」
ヘリス
「・・・なんだか怖い」
キュピル
「怖い?」
ヘリス
「そう・・。何だか・・体から力が抜けて行く・・・」
キュピル
「・・・大丈夫か?」
ヘリス
「・・うん、大丈夫・・・。」

しかしヘリスの体が震えている。
・・・まるで何かに脅えているみたいだ。

キュピル
「・・・無理するな」
ヘリス
「無理してない・・。」

・・・・・。

キュピル
「ヘリス。」
ヘリス
「何?」
キュピル
「・・・一時間ほど眠ったらどうかな?」
ヘリス
「・・・。うん、そうする。」
キュピル
「一時間経ったらおこしてあげる」
ヘリス
「お願いね」

そういってヘリスが横になり眠り始めた。

・・・。

きっと起きた頃には・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。



ヘリスの手に錆びた剣を握らせる。



そしてヘリスから離れる。











キュピル
「おーーーーーーーい!!!!」


海に向かって叫んだ。


キュピル
「そろそろこの世界から脱出する!応答してくれー!!」


その時キュピルを中心に緑色の光が現れキュピルを何処かに飛ばした。







==???


「・・無事記憶の指輪を手に入れたみたいですね」

キュピル
「あぁ、手に入れてきた。この指輪をあの少年に渡せばいいんだよな?」

「そうです。・・・どうでした?この世界は・・・」

キュピル
「少し大変な世界だった。・・・なぁ、本当にこの世界は消えてしまうのか?」

「残念ですが私の消滅と共にこの世界は消えてなくなります。」

キュピル
「そうか・・・」

残念そうな顔をする。

「ですが・・・記憶は残るはずです」

キュピル
「記憶?」

「この世界が消滅したとしても貴方はこの世界の出来事を記憶しています。
・・・その記憶を失わない限り・・。その世界はまだ存在しています」

キュピル
「まるで絵本の最後の部分みたいだ」

「・・・ふふ、でも嘘は言っていませんよ。」

その時空気が揺れ始めた。

キュピル
「む?」

「・・・どうやら世界の崩壊が始まったようです。私もあと数十分しか持たないでしょう・・・」

キュピル
「・・・飛ばしてくれるか?」

「はい。・・・それでは・・あの少年・・・私の子供の事をよろしくお願いします」


そういって再びキュピルを中心に緑色の光が溢れ始めた。
・・・・さようなら、ヘリス。




意識が途切れる前に最後に声が聞こえた。




「報酬は・・・見てのお楽しみです」











世界が崩壊する1分前。



その時ヘリスが起きた。

ヘリス
「・・・・あれ・・。キュピル・・・?」

・・・いない。
手には錆びた剣を握っていた。

ヘリス
「・・・・そっか。元の世界に戻ったんだね。
・・・キュピル、頑張って。私も頑張るから」

・・・そしてヘリスは消えた。


世界は消えた。


















次意識が戻った時はクエストショップの自分の椅子の上に座っていた。

隣から声が聞こえる。


ファン
「・・・!!ワープ装置機がキュピルさんの居場所をキャッチしました!!」
ルイ
「行きましょう!!」
ジェスター
「とつげき〜」

ワープ装置機の稼働音が聞こえる。
・・・ワープしたようだ。

ジェスター
「あ!キュピル!」
ルイ
「見つけました!!・・・・ってあれ?ここクエストショップじゃありませんか?」
ファン
「おや・・・本当ですね」




キュピル
「ただいま」









翌日。約束通り少年がやってきた。
キュピルはその少年に記憶の指輪を渡してあげた。
指輪を受け取った少年は笑った後そのまま何処かに行ってしまった。

・・・そういえば・・・。報酬って一体何だったんだろう?

・・・その時ポケットに何か入ってるのに気付いた。

・・・・


キュピル
「これは・・・ネックレス・・・」


ネックレスを首につけてみる。
・・・。つけた瞬間声が聞こえた。




ヘリスの声が聞こえた。





キュピル
「・・・そうか。頑張るさ。・・・お前も頑張れよ」


・・そして声は聞こえなくなった。





・・・なんだかあの世界に行って自分の気持ちを確かることが出来たような気がした。







==深夜

キュピル
「・・・これをギーンに」
ミーア
「・・・やはり情報は掴めずか・・」
キュピル
「まだ掴めて居ないが絶対に掴んで見せる。・・・そのためにクエストショップを立ち上げたんだからな
ミーア
「・・・また来る」
キュピル
「ああ」


そういってミーアは消えた。

・・そのやりとりをルイは見ていた。



続く



追伸

最初に記述した通りあのミスは酷い。サーセーン



第五話



???
「・・・ここがジェスターのクエストショップ・・・なんですよね?」
???
「とても話に聞いたような場所とは思えない。・・・でもここであってるんだよな?」
???
「はい。一応ここであってるみたいですよ」
???
「・・・はぁ。結局話の尾ひれがついただけなのかもしれないな。段々信じられなくなってきた・・」
???
「と、とりあえず中に入ってみましょうよ。もしかしたら凄いかもしれませんし」
???
「・・・そうだな」



==ジェスターのクエストショップ


キュピル
「ん、いらっしゃい」

巨剣を背負ったかなり厳つい男と
巨弓を背負った爽やかな青年が入ってきた。

巨剣を背負った男
「(・・・おい、こいつが店主か?)」
巨弓を背負った男
「(・・・一応そうみたいですよ)」
巨剣を背負った男
「(ますます信じられなくなってきた・・。こんな若造が強いはずないじゃないか・・)」
キュピル
「・・・し、失礼な。全部聞こえてますよ」
巨剣を背負った男
「なにぃ・・・。さては超能力が扱えるのか?」
キュピル
「いや、普通に・・堂々と目の前で話してましたが」
巨弓を背負った男
「ハハハ・・・。ご無礼をお許しください。実は僕達、旅の者なんですが
旅の途中貴方の噂を聞いたんです。何でも巨大なドラグーンを倒したとか雪の女王を倒したとか」
キュピル
「自慢する気はないが一応俺の事だ」
巨弓を背負った男
「おぉ、やっぱりこの方みたいですよ」
巨剣を背負った男
「・・・信じられないな」
巨弓を背負った男
「え?」
巨剣を背負った男
「俺よりも小さいしガタイもそんなによくない・・・。もし本当にあの巨大ドラグーンを倒したと言うのなら
単純にドラグーンが弱かったんじゃないのか?」
ジェスター
「あー!どんだけ苦労したのかわかってるのー!?」
キュピル
「・・・む、どこだ?ジェスター」
ジェスター
「ずっと机の下に隠れてたよ〜」
キュピル
「うお、本当だ」

足元からジェスターが現れそのまま近くの椅子に座った。

キュピル
「それで、何が言いたい?」
巨剣を背負った男
「俺は自分の実力に自信を持っている。・・・こういう話は何度も聞いてそんな人と何人も戦ったが
結局どいつもこいつも強くなかった。・・・俺と勝負しろ」
巨弓を背負った男
「ちょ、ちょっと。態度でかすぎ・・・。」
巨剣を背負った男
「いや、自分より弱い奴に敬意を示す必要なんかない」
キュピル
「久々にマジギレ。初対面でもそれなりに相手を敬うのがこの世界なんだよな。
今のこいつは敬意の欠片も見えないから困る」

ジェスター
「おー、喧嘩だ喧嘩だー」
キュピル
「売られた喧嘩は買うぞ。悪いけど俺も負ける気はしない」
巨剣を背負った男
「おもしれぇ。やってやる」
巨弓を背負った男
「あ、あの。一応これも依頼という形で受け付けれくれませんか?街中で戦い沙汰になると
色々後処理が大変なので・・・」
キュピル
「そうだな。確かに特訓という形の依頼にしておけば街中で戦っても問題はない・・。
それなら物分りの良さそうな君に書いてもらうよ」
巨弓を背負った男
「はい。僕の相棒本当に身勝手てごめんなさい・・・。」
キュピル
「久々に感動。こういう人の気持ちを理解(ry」
ジェスター
「キュピル、もうそのネタ飽きたー」
キュピル
「久々に(ry」
巨弓を背負った男
「掻き終わりました」
キュピル
「ありがとう」

書類に目を通す。
・・・あの巨剣を背負った男は「ヘル」と言うのか・・。
そしてこの巨弓を背負った男は「テルミット」と言うらしい。

キュピル
「ヘル・・・地獄か」




マキシミン
「ん?なんか人だかりが出来てるぞ」
イスピン
「何をするんだろう?」
シベリン
「レイ、ちょっと見てきてもいいか?」
レイ
「・・・別に」


ファン
「えーと、これより。キュピルさんvsヘルさんの試合を始めます!審判は僕が努めます」
ルイ
「キュピルさーん!頑張ってください!」
ファン
「大丈夫です、いつも通り戦えばきっと勝てますよ」

鎧は一切つけてなく生身の状態で剣一本だけのキュピル。
そして重装備に包まれ巨剣を構えるヘル。

ヘル
「いつも通り狩って見せる」
テルミット
「間違って殺さないようにね」

シベリン
「・・・うっ、あの時のあいつじゃないか・・」
レイ
「・・・・・・」

渋い顔をする二人。

マキシミン
「おーっと、何だ?そういえばお前等あのキュピルに負けたんだったな。ククク」
イスピン
「そういうこと言わない。マキシミン」
マキシミン
「とにかくこいつは見物だな」


キュピル
「さぁ、どっからでもかかってこい!」
ヘル
「なら遠慮なく行かせてもらうぜ・・!」


ヘルが接近し巨剣を片手で振り回し始めた。
まるで棒きれを振り回しているかのように素早く振ってきている。

ルイ
「あ、あんな巨剣を片手で軽々と・・」
ファン
「恐ろしい力を持っていますね」
ジェスター
「カジ思い出した・・・」

キュピル
「うおりゃっ!」
ヘル
「っ!」

振り終わった瞬間にキュピルが急速接近しタックルをくらわす。
一度接近してしまえば巨剣というのは振り回せなく弱い。
そのまま一気に喉元にナイフを持って行って終わらせようとした。
ところが即座に起き上がりヘルが高くジャンプした。

イスピン
「立ちあがりが早い!」
マキシミン
「ふむ・・・あんな巨剣を持っておきながら転倒してすぐに起き上がれるとはこいつ・・
どっかのギルドにでも所属していたか?俺よりは強くないが結構できるぞ」
シベリン
「・・・さり気なく今自慢しなかったか?」


ヘルが地上から5mぐらいまで飛び上がり巨剣を投げ飛ばしてきた!
巨剣が地面に突き刺さり爆発を起こした。

キュピル
「くっ!」

何も身を守る物がないキュピルはせめて巨剣から離れ両腕でガードし体勢を維持することしかできなかった。
その後巨剣は勝手にヘルの元へ戻って行った。

キュピル
「一体どうなっている」
ファン
「キュピルさん!ヘルさんの靴と剣にはどうやら何か特殊な仕掛けが施されているみたいです!」


ヘル
「ほぉ・・。あの攻撃を避けるとは中々やるな」
テルミット
「ヘル。あの人反射神経と瞬発力は君より上かもしれないよ」
ヘル
「だがそれ以外はこっちが上だ」


キュピル
「次はこっちの番だ!」

キュピルが剣を構え突撃していった。
ヘルが接近してくるキュピル目がけて巨剣を投げ飛ばした!
しかしジャンプして巨剣の上に乗り空高くジャンプする。

キュピル
「一閃!!」

必殺技の一つ、一閃を繰り出す。強烈な斬撃がヘルを襲う。
しかしヘルの鎧に弾かれてしまった。だが衝撃までは守る事ができずヘルがよろけた。

キュピル
「(そろそろか?)」

キュピルが唐突にジャンプした。
ジャンプした瞬間キュピルの後ろからヘルの巨剣が戻ってきた。
もしジャンプが遅れていたらその巨剣に切り刻まれていただろう。

ヘル
「この攻撃を避けられたのは初めてだ。ここからは本気で相手してやる」

ヘルが思いっきり吠える。
思わず怯みそうになった。

ジェスター
「うるさーい!」
マキシミン
「耳宛てついてるだろう。お前は」
ジェスター
「あ、マキシミン!」
マキシミン
「・・・げ、こいつキュピルのジェスターだったか!」
ジェスター
「覚悟はいいー?」
マキシミン
「今はキュピルの戦い見てなくていいのか?」
ジェスター
「あ、そうだった」

クルッと振りむいてまた観戦を始めた。


ヘル
「はぁっ!!」
キュピル
「ぐっ!」

ヘルが物凄い勢いで剣を振り回し始めた。
1.5mはあろう巨剣だというのに一秒間に二回攻撃してくる。いや、もっとか?
キュピルが持っていた愛剣が弾き飛ばされる。

キュピル
「しまった!」
ヘル
「とどめだ!!」
キュピル
「まだだ!」

キュピルがしゃがんで攻撃を回避しヘルの足元へ飛び込んだ。
そのまま足を持ち上げて転倒させる。
そしてあろうことかヘルの巨剣を奪い取った!!

テルミット
「ヘルの巨剣を奪った・・!!」

ルイ
「おぉ、キュピルさんやりますね!」
ファン
「し、しかしあの巨剣を振り回せるのでしょうか・・・」


キュピル
「ぐっ・・なんだ、これは。半端なく重い・・・!」

両手で構えるがかなり重い。
ヘルが起き上がってきた。巨剣で攻撃を繰り出す。
ところが手から巨剣が離れヘルの元へ戻って行った。

ヘル
「こいつは俺の剣だ。」
キュピル
「しまった、あいつ剣を自分のところに戻す事が出来るんだった」

慌てて弾かれた自分の剣を拾いに行く。

ヘル
「逃がさねぇよ!」

ヘルがまたしても巨剣を投げてきた。しかし上手く回避する。
ところがその巨剣が突如上に天空に昇り天からメテオを落としてきた!

ファン
「観客に被害が!バリア!」
ルイ
「手伝います!」

観客と一部の建物にバリアを張る。二人が戦ってる場所にはバリアは張っていない。あくまでもフェアに。

キュピル
「四番バッター、キュピル!」

剣を盾にし必殺技の一つを放つ

キュピル
「リベンジガード!!!」

剣が光り隕石をヘルに向けて跳ね返した!!
この技は紅魔館での死闘の時にかなり役立った技だ

ヘル
「なに!?」

自分に向かって飛んでくる隕石をヘルは巨剣で真っ二つにした。
ところが割れた隕石の先からキュピルが物凄いスピードで飛んで来ていた。
それを巨剣で守ろうとしたが先にキュピルが先制攻撃を繰り出しヘルを転倒させた。

ヘル
「ぐっ!」
キュピル
「ただの喧嘩になりゃ俺は負けねー!!」
ヘル
「俺だって!」

お互い武器を捨てて揉みくちゃになりながら乱闘が始まる。
しかしこの試合の勝利条件は相手を死の一瞬手前にさせること。(喉元にナイフをつきつけるとか。
二人ともチャンスを見計らっている。

ヘル
「うおおっ!」
キュピル
「うわっ!?」

ヘルがキュピルを両手で持ち上げて投げ飛ばした。空中で体勢を整えるがヘルが巨剣を投げつけてきていた!
しかしまたしても巨剣の上に乗り柄の部分に捕まってずっと巨剣の上に乗る。
すると巨剣がヘルの所まで戻って行った。落下していく剣の上からキュピルがヘルに飛びかかる。
もう一度ヘルを転倒させた。

そして両足でヘルの腕を踏みつけ巨剣を封じ左手で顔を抑えて右手で喉元に剣を突き付けた。

キュピル
「ヘル。お前の負けだ」

ファン
「そこまでです!この勝負キュピルさんの勝ちです!」

わーっと一部で歓声が上がった。
中々激しい戦いだっため気がつけば観客はかなり多くなっていた。

キュピル
「どうもーどうもー」


ファン
「これでまたクエストショップの知名度が広まったんじゃないのでしょうか?」
ルイ
「良い感じですね」



テルミット
「アハハ・・。君が負けるなんて珍しいね。やっぱり噂通りだったてことだよね」
ヘル
「・・・みたいだ・・。あの隕石を跳ね返してくるとは予測がついていなかった。あれで勝ちだと思っていた」
テルミット
ついに君より強い人を見つけたよ。ほら、どうするの?」
ヘル
「行ってくる」



ヘル
「・・キュピルさん」
キュピル
「ん?」

急に呼び捨てじゃなくなったため思わず振り返ってしまった。

ヘル
「俺は旅の者だが旅に目的はあった」
キュピル
「ほぉ」
ヘル
「それは自分よりも強い人を見つけることだった。俺は子供の頃から喧嘩は強かったし
大人になって世界各地を巡り歩いては決闘しそれでも一度も負けた事はなかった。
しかしついに俺より強い奴を見つけた」
キュピル
「それで何が言いたい?」


ヘル
「キュピルさん。俺を弟子にしてくれ!!!」






キュピル
「ナ、ナンダッテー!!?」





キュピル
「で、弟子!?」
テルミット
「あ、僕もお願いしたいです。」
ファン
「キュ、キュピルさん!先に言っておきますけどもうこれ以上部屋はありませんよ!
ルイさんで最後です!もうこれ以上住める人は増えません!」
ヘル
「いや、部屋は要らない。外で寝る。」
テルミット
「僕も部屋は要りませんよ」
キュピル
「参ったな・・・・。・・・・」

その時ふと良い案が思いついた。

キュピル
「そうだ。弟子とはまたちょっと違うかもしれないがうちのクエストショップに就職するってのはどうだ?」
ヘル
「それでも構いません。忠義を尽くして精一杯働きます」

初めて会った時とは打って変わって態度が急変。
なんだかこそばゆい。

キュピル
「よし、とりあえず詳しい事は中で話そう。よろしく頼む」
テルミット
「よろしくお願いします」




・・・・こうしてクエストショップで働く人が二人増えた。







==夜

ルイ
「それにしても急に仲間が二人も増えたなんて・・。全然実感が湧きません」
キュピル
「実感はしないだろうね。ここで住む訳じゃなくてどっか外で過ごす訳だから」
ファン
「もし長期的にここで働く気があるなら何処かアパートとか取ってるかもしれません」
ジェスター
「ねーねー。これからはあの二人もクエストショップにいるの?」
キュピル
「そうなると思うよ。でも大丈夫。こっち(キュピルの家)には来ないよう言っておくから」
ジェスター
「うん、よかった」
キュピル
「あの二人はかなり強いみたいだしこれで受けられる仕事のバリエーションも増えたと思う」
ルイ
「私だってやるときはやりますよ」
ジェスター
「私も!」
キュピル
「わかってるって。これからは小規模から中規模の依頼も受け付けるようにしておくよ。
その時は二人ともよろしく頼む」
ルイ
「はい、任せてください」
ファン
「最近は僕も戦う事が出来るようになったので必要であれば言ってください」
キュピル
「なんだかまるで傭兵集団みたいだ」

記録ファイルにヘルとテルミットの書類を挟んで棚に居れる。
とにかく今日は寝よう。明日から仕事を増やす。


・・・そして探さなければならない。あれを。





==翌日・ジェスターのクエストショップ




ヘル
「おはよう」
テルミット
「おはようございます」
キュピル
「ん、早いね」

時刻はまだ7時だ。
今さっき店をあけたばっかり。

テルミット
「僕達は早起きに慣れてますから」
キュピル
「良い習慣だ。ジェスターも見習ってほしい。
しかし残念ながらうちのクエストショップはまだそんなに有名じゃないから
仕事はそんなにない」
ヘル
「武器の点検でもして気長に待っている」

そういってヘルが近くのソファーに座り巨剣を磨き始めた。
家と繋がっているドアからルイがやってきた。

ルイ
「おや、おはようございます」
テルミット
「おはようございます。ルイさん」
ルイ
「挨拶が爽やかですね」

確かに、と頷くキュピル。
ヘルは気にしていないようだ。

キュピル
「昨日は何処で寝たんだ?」
テルミット
「昨日はナルビクの砂浜で寝てました。」
キュピル
「・・・やっぱり大丈夫か?何か部屋がないと可哀相に感じてきた」
ヘル
「俺達は外で生活してきたからこのぐらい慣れている」
キュピル
「ならいいんだけど・・。・・・そういえば俺も外でよく寝たなー」
テルミット
「へぇー。キュピルさんも野外でよく寝てたんですか。」
キュピル
「やはり外で寝れる訓練はしておかないとこういう仕事は務まらないからね。ハハハ」
テルミット
「確かに。アハハ」


その時クエストショップの入り口のドアが開いた。
・・・スーツを着ていて眼鏡をかけていて髪がオールバック・・・。
まるで政府高官の人みたいだ・・・。

政府みたいな人
「あー、失礼。君がここのクエストショップの噂の店主かね?」
キュピル
「はい」
政府みたいな人
「昨日戦っていた人も一緒みたいだな」

ヘルとテルミットの方をチラッと見た後再びキュピルの方へ向き直った。

政府みたいな人
「君にぜひ一つ頼みたい事がある」
キュピル
「話してください。あ、そこの椅子にどうぞお掛けになってください」
政府みたいな人
「失礼するよ」

杖を横に置く。

キュピル
「それで、頼みというのは何でしょうか?」
政府みたいな人
「・・実はクラドで原因不明の奇病が発生している」
キュピル
「・・原因不明の奇病・・ですか」
政府みたいな人
「マスメディアを規制させクラドも完全封鎖。この事はまだ民衆には知られていない。
実は三日前からクラドでおかしな奇病が発生し始めた。感染すると心が昂り激昂状態に陥るという
大変危険な奇病・・。この問題の一番厄介なのは精神に異常を来すということだ。
毒や傷などといったものは治療の方法が存在する。しかし精神の治療というのは簡単にはいかない。」
キュピル
「・・・確かに。仮に一人病院に連れて行ったとしても激昂状態では治療もままならないでしょう」
政府みたいな人
「んむ。自分の親友や家族などの見分けもつかなくなり会った人から攻撃を始める。
もしこの奇病がクラドだけでなくナルビク・・ライディアにまで広がりアノマラド大陸全土に広がったら・・」
キュピル
「・・とんでもないことになりますね」
政府みたいな人
「何としてもこの奇病をクラドで留めなければならない。・・・何も原因がわかっていないが引き受けてくれるか?」
キュピル
「何故うちに頼むのですか?アクシピターやシャドウ&アッシュに頼めばうちより良い働きするかもしれませんよ」

正直向こうに勝てるほどうちはまだ大きくない。

政府みたいな人
「・・・既に二日前から頼んでいる。だが現地に向かった者は全員通信が途絶えた・・・。
・・・別にダメ元というわけではない。昨日の君達の戦いを見て彼等なら行けるかもしれないと思ったのだ。
戦闘力だけではなく機転を利かせることのできるその頭脳と行動力。・・・どうか引き受けてくれ」
キュピル
「・・・・しかし・・・。」

あまりにも危険すぎる。

テルミット
「キュピルさん。この話。何処かで聞いた事があります」
キュピル
「本当か?」
テルミット
「はい。その時はモンスターが原因でした。もしかするとこれもモンスターが原因かもしれません」
ヘル
「・・・だとしたら倒せば終了だな」
キュピル
「・・・テルミット。その言葉を信じて良いか?」
テルミット
「・・あまり信用されても困りますけど・・こういう事例があったってのを頭に入れてくれれば助かります」
政府みたいな人
「報酬ははずもう」
キュピル
「・・・一つだけ、報酬を追加してもらってもいいですか?」
政府みたいな人
「行ってみたまえ。出来る限り用意する」
キュピル
「もしこの依頼を達成した場合、このクエストショップを有名にしていただけますか?」
政府みたいな人
「・・・?その程度ならお安いご用だ」
キュピル
「分りました。引き受けましょう」

・・・名声を求めるには理由がある。しかし今はその事については考えずこの依頼について考えよう。

政府みたいな人
「クラドの近くに安全な拠点を用意してある。移動可能なコンテナだ。必要があれば移動させて構わない。
そのコンテナは君達だけが使えるよう役人に伝えておこう。」
キュピル
「ありがとうございます」
政府みたいな人
「また数日後にここに来る。・・・くれぐれもこの事は内密に」
キュピル
「承知しております」
政府みたいな人
「それでは検討を祈る」

そういって政府みたいな人はクエストショップから出て行った。

ルイ
「・・・大丈夫ですか?」
キュピル
「ファンをちょっと呼んできてくれ。もしかするとあの事件と関わりがあるかもしれない」
ルイ
「わかりました」


・・・・。

ファン
「呼びましたか?」
キュピル
「ファン。こういう依頼がきた。かくかくしかじか・・・」

ファン
「・・・テルミットさんと同じく僕も似たような事を聞き覚えがあります。
確かクラドで蝶の木が問題を汚染された時にこのような事が起きませんでしたか?」
テルミット
「それです。あの時は高熱を出し一度熱が引いて治ったかのように見えたら
その人が突然狂い始めたり幻覚を見るようになりました。・・・今回は激昂・・・」
ヘル
「・・・確か今回の依頼者はアクシピターとシャドウ&アッシュにも依頼したと言っていたな。
もしかすると奴らも感染し俺達を見つけたら襲ってくるかもしれない」
キュピル
「もしそうだとしたらかなり厄介だ。彼等は一筋縄で倒せるほど弱くはない」
ヘル
「でも俺は恐れない。自分の強さに自信はある」
キュピル
「とにかくまずは情報集めだ。まずはクラドにいくぞ。
確かクラドの近くに拠点を用意したとか言っていたはずだ。」
ファン
「キュピルさん。メンバー構成はどうしますか?」
キュピル
「今回は全員で行く。ヘル、テルミット。よろしく頼む」
ヘル
「頑張ろう」
テルミット
「任せてください」
キュピル
「準備が出来たら行こう」






==クラド周辺



警備員
「む、申し訳ないのですがこの先は通行止めです」
キュピル
「俺達はこういう者なんだが話は聞いていないか?」

名刺を警備員に見せる。

警備員
「ジェスターのクエストショップ・・オーナー・・キュピル・・。
はっ・・。話は伺っております。」
ファン
「後で誰か一人僕達の拠点に来てくれませんか?色々お話を伺いたいのですが」
警備員
「分りました。現状に詳しい人を一人そちらに派遣致します」
キュピル
「皆行こう」
ジェスター
「何だか大変な仕事引き受けたんだね」

ジェスターがルイにぴったりくっついてる。

ルイ
「気をつけましょう・・。病原菌でしたら目に見えませんし・・」


柵の中に入り案内されたコンテナに入る。そこそこ大きい・・・。

キュピル
「・・・む、この扉・・。相当重たいぞ」
ヘル
「手伝おう」

二人がかりで大きな扉を開ける。これだけ厳重な扉だったら菌ですら中々入れないだろう・・。
中に入るまたもう一つ扉があった。
扉を閉めると突然天井から何かを噴射した。

ジェスター
「ぎゃー!罠だ〜!」
ルイ
「ジェスターさん。これは消毒ですよ」
キュピル
「消毒・・・ってことはやはりウィルスの可能性が高いのだろうか?」
テルミット
「現地に詳しい人に早く伺いましょう」

消毒が完了し再び重たい扉を開け中に入る。
部屋というよりは本当に拠点と言ったほうがいいだろうか。
様々な機械が置かれており一部武器や装備もおかれていた。

ファン
「これは立派ですね。」
ジェスター
「機械は全然わかんなーい!」
ファン
「この機械は・・スキャン装置ですね。人体をスキャンしその人に何か病気を持っているとか
状態異常があるかどうか確かめる事が出来る装置です。
他にも物質の性能を調べたりすることもできるみたいです」
キュピル
「この五月蠅い音が鳴っているモーターは何だ?」
ファン
「電力装置っぽいですね。これを稼働させて電力を供給させているみたいです」
ヘル
「初めての任務がこんな大層な物になるとはな」
テルミット
「ヘルさん。中々やりがいがあるんじゃないかな?」
ヘル
「ああ」

初っ端から大きな任務を任せたことになるが・・・あの実力なら大丈夫だろう。

ジェスター
「ねぇキュピル・・・。ペストを思い出さない・・?」
キュピル
「・・・そういえば俺の体から完全にペストが消えたのかどうか気になるな・・・」
ファン
「試しにスキャンしてみますか?」
キュピル
「頼む」

キュピルが大きなカプセルに近づく。

キュピル
「・・・どうやって使うんだ?」
ファン
「そのカプセルの中に入ってください。外から僕達が閉めますので」
キュピル
「わかった」

キュピルがカプセルの中に入る。ルイとファンがカプセルの扉を閉める。
ファンがモニターの装置に触ってスキャンを実行する。
青い光を発しくまなくスキャンする。

・・・・

ファン
「スキャンが終了しました。出ても大丈夫です」
キュピル
「よっこらしょっと・・」

重たい扉を開けて外に出る。

ルイ
「どうでしたか?」
ジェスター
「じぃー」
ファン
「・・・キュピルさん。まだ体内にペストが残っています」
キュピル
「・・・やはり薬だけじゃ治療は不可能か?」
ファン
「体内に残ってはいますが再発は殆どないと思います。何か刺激が入らなければですが・・」
キュピル
「どういうものが刺激に入る?」
ファン
「・・・ちょっとわからないですが滅多な事が無い限り刺激されないと思います。なので安心しても大丈夫ですよ」
ヘル
「持病持ちか?」
キュピル
「まぁ、ちょっと・・・」
テルミット
「大変ですね・・」

その時誰かが入ってきた。

係員
「お招きに上がりました。」
テルミット
「今ここで何が起きているのか詳しく話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」
係員
「はい、そのために参りましたので」

全員近くの椅子に座る。

キュピル
「まず一番最初に・・・。奇病について詳しく教えてもらいたい」
係員
「現在クラドで発生している謎の奇病に感染しますと知能指数が著しく低下し人の見分けがつかなくなります。
そして抑えきれない激昂状態に陥り人を見つけ次第殺しにかかります」
ジェスター
「怖い・・」
ファン
「その奇病の原因について何か分っていますか?」
係員
「残念ながらこの奇病の出どころは一切掴んでいません。しかし奇病について詳しく分析する事は出来ました」
キュピル
「詳しく教えてくれ」
係員
「この奇病は魔法によって作られた人工ウィルスです。属性は闇で作られており
感染者を内側からじわじわと侵していきます。そしてある一定のレベルに達すると突然気を失い
次に目覚めたときにはその奇病が発症します」
ヘル
「・・・つまり感染してもある程度の猶予があるということか?」
係員
「そういうことになります。」
テルミット
「その猶予はどのくらいあるのですか?」
係員
「およそ一日だと思われます。」

キュピル
「ふむ・・・。」
ルイ
「私達の他に入った人たちは何人いますか?」
係員
「12人です」
ルイ
「多いのか少ないのかちょっとわからないですね・・」
ジェスター
「無事に戻ってきた人って何人いるの?」
係員
「残念ながら二人だけです」
キュピル
「その二人は今ここにいるのか?」
係員
「はい。別のコンテナで現在待機しています」
キュピル
「その人の名前は?」
係員
「ルシアン・カルツ様とボリス・ジンネマン様です。」
キュピル
「・・・アクシピターの連中だ」
ファン
「その中でもエース級と言われてる人達です。」
係員
「ですが・・・。ボリス・ジンネマン様がこの奇病に感染している疑いがあるそうです」
テル
「・・・本当にエース級なのか?」
係員
「ルシアン・カルツ様を守ろうとしてボリス・ジンネマン様が身代わりになったとルシアン様から話しを伺っております」
キュピル
「・・・・身代わりになって感染したのか?」
ファン
「この奇病の感染ルートを教えてくれますか?」
係員
「一つは空気感染です。もうひとつは接触感染。
クラドに入る際はこのガスマスクを装着してください」

係員が魔法で作られたガスマスクを手渡す

係員
「マナが底をつかない限り吐きだした二酸化炭素を再び酸素に変えてくれます。
補充はこちらに戻って行ってください」
キュピル
「わかった。接触感染について詳しく教えてくれ」
係員
「この奇病に感染した人の血や唾液・・・汗・・そういった物に触れると感染するそうです。
しかし触れるだけでは感染しません。それらを口に含んだり傷口に浸透すると感染します」
テルミット
「なるほど・・つまり奇病に侵された人の攻撃をルシアンさんが受けそうになりその攻撃を
ボリスさんが身代わりになり・・傷口から奇病者の何かが入った・・そういうことですね?」
係員
「その通りです。」
キュピル
「・・・今回は色々気をつけなければいけないな・・。まだ治療方法も見つかっていないんだよな?」
係員
「見つかっていませんが発症を遅らせる事が出来ます」
ルイ
「遅らせる?」
係員
「万が一、感染の疑いが見つかった場合専用の装置を使うことによって活動を抑える事が出来ます。
元々このウィルスは魔法で作られているため魔法解除を施せばある程度の活動を抑える事が出来ます。
ですがどれだけ抑えたとしても一週間が限界です」
キュピル
「わかった。他に何か留意すべき点はあるか?」
係員
「今のところ特にありません」
キュピル
「最終的に

『奇病の発生源を突きとめる・奇病の治療方法を発見』

この二つを完了すればいいのか?」
係員
「そうですね」
キュピル
「わかった。他に誰か聞きたい事は残っているか?」

しばらく沈黙が流れる。

キュピル
「ないみたいだ」
係員
「分りました。もし他に尋ねたいことがありましたらまた仰ってください。いつでもお答えになります」
キュピル
「わかりました。ありがとうございます」
係員
「では失礼します」

そういって係員は外に出て行った。


ジェスター
「・・・なんだか大変なことになっちゃったね?」
キュピル
「そうだなぁ」
ヘル
「いつ出発する?」
キュピル
「皆の疲れが回復した頃に行こう」
ルイ
「わかりました」
ファン
「部屋割はしっかりしているみたいですね」

ファンが扉を一つあける。
部屋はベッドが一つあるだけで物凄く狭いが部屋数は非常に多い。20ぐらいある?
・・・でもそんなに人数はいない。五部屋で十分。

ルイ
「武器もかなり多いです」

ルイが棚を一つ開けるとそこにはたくさんの銃器が置かれていた。

ルイ
「おぉ・・・これだけあれば私は長く戦えそうです」
ヘル
「・・・銃器は俺は扱えないな」
テルミット
「僕は弓派なので・・」
キュピル
「ルイ。何か適当な銃を俺にも用意してくれ。出来れば威力の高いハンドガンがいい。」
ルイ
「わかりました。こんなのはどうでしょう?」

ルイがコルトパイソンをキュピルに渡す。

ルイ
「ハンドガンとはまたちょっと違いますが破壊力は大変高いです。
壁も壊せるかもしれませんね」
キュピル
「わかった、ありがとう」
ルイ
「リロードは凄く特殊なので私がやります」
キュピル
「・・・出来たらリロードが簡単な物にしてくれないか?万が一ルイと離れ離れになったら
扱えなくなってしまう」
ルイ
「・・・大丈夫です!しっかりついてきますので!」
キュピル
「まぁ、それならいいんだけど・・。よし。二時間後にクラドにいくぞ。それまでに準備は済ませてくれ」
ジェスター
「メンバーはどうするのー?」
キュピル
「最初だから全員で行こう。ジェスターも準備すませておいて」
ジェスター
「うん」


二時間経つまでの間。全員疲労を回復に努めたり装備を整えておいたりしていた。



==二時間後


キュピル
「皆準備は出来たか?」
ルイ
「大丈夫です。キュピルさん」
ファン
「同じく準備は整っています」
ジェスター
「大丈夫だよー!」
ヘル
「いつでもいけるぞ」
テルミット
「僕も大丈夫ですよ」
キュピル
「よし、皆今からガスマスクつけておいてくれ。行こう」

全員ガスマスクをつける。ファンとジェスターは専用のを用意させてもらった。



==閉鎖されたクラド



ファン
「・・・計器に反応があります。空気中に病原菌が漂っています」」
キュピル
「ここからは絶対にガスマスクを外すな。感染する」
ジェスター
「うん」

皆物影に隠れながら移動する。
外に何人か人が居る。恐らく見つかれば攻撃されるだろう。
なるべく無意味な戦闘は避けたい。そしてなるべく村人は殺さないようにしたい。

テルミット
「しかしキュピルさん。どこから捜索するか検討はついていますか?」
キュピル
「・・・そうだな・・・。探すとするなら・・・」

頭の中で選択肢を作る。
家などが思い浮かんだが流石に家に原因があるとは思えない。
・・・そうだ。

キュピル
「辺りに人間以外の生き物がいるか探してほしい。
前回蝶の木がモスなどといった有害なモンスターを呼びそのモンスターが原因だった。
今回も似たような可能性がある。」
ヘル
「わかった。人間以外の生き物を探せばいいんだな?」
テルミット
「どうしますか?二手に分かれて捜索しましょうか?このままでもいいのですが
隠れて進むとするなら大人数ですと少々見つかりやすくなりますし・・」
キュピル
「そうだな。二手に分かれよう。ヘルとテルミット。頼む」
テルミット
「分りました。」

そういってヘルとテルミットは裏路地へ行った。

ルイ
「キュピルさん。慎重に行きましょう」
キュピル
「ああ」

家と家の隙間を通っていく。この辺に人はいないようだ。
その時家に梯子がかかっていた。屋根へと登れそうだ。

ジェスター
「ねーねー。ここから登れば屋根にいけるよね?モンスターがいるかどうか分りやすいんじゃないの?」
キュピル
「そうだな・・。二人だけ登ってみるか。全員で登ると見つかるかもしれない。」
ジェスター
「私が登るー」
キュピル
「・・・不安だから俺も登ろう」
ルイ
「私達はここで見張ってます。」
キュピル
「わかった」

先にキュピルが登り続いてジェスターが登った。


キュピル
「身を低くして移動してくれ」
ジェスター
「うんー」

大通りが見える方へ進んでいく。
・・・ここからならクラドを一望することができる。

キュピル
「・・・どうだ?モンスターは見つかったか?」
ジェスター
「・・うーん・・・。」

見つからない。モスとかは結構目立たない色しているから見つけていないだけだろうか・・?

ジェスター
「じぃー・・・」
キュピル
「ん?何を見ているんだ?」
ジェスター
「ヘルとテルミットー」
キュピル
「お」

二人が建物の中に入って行った。
あそこは・・・クラドにあるクエストショップだな。
確か酔っぱらいの父親がいる家・・・。
・・・生きているといいんだが。

キュピル
「・・・うーむ、モンスターがいない」
ジェスター
「建物の中にいるのかな?」
キュピル
「モスが建物の中に居るとは少し思えないな・・・。・・・モスの仕業じゃないとしたらどうするか・・」
ジェスター
「何も見つからないし降りる?」
キュピル
「そうだな」




ルイ
「何か見つかりましたか?」
キュピル
「残念だが何も見つからなかった。感染した人間だけでモンスターはいなかった」
ジェスター
「あとヘルとテルミットがクエストショップに入って行った〜」
ファン
「二人は大丈夫だと思います。強いので」
キュピル
「さて・・・。とりあえず次はどうしようか」
ファン
「キュピルさん。蝶の木を少し調べてみませんか?」
キュピル
「蝶の木?」
ファン
「はい。もしかすると関係があるかもしれません」
キュピル
「ちょっと遠いな・・・。今時刻は昼の二時だからまだまだ行動できるが
もし蝶の木が今回の件と関係していたらここより危険な可能性が高い。」
ファン
「では今日は行かないでおきますか?」
キュピル
「そうだな。今はやめておこう。とりあえず建物を一つずつ調べてみよう」
ルイ
「わかりました」


表通りに出てすぐに鍛冶屋に入る。
中に入ると剣を持った店長がひたすら壁を斬っていた。
・・・狂っている。

キュピル
「(しぃー。まだこっちには気づいていない)」
ジェスター
「(キュピル・・。怖い・・。この建物調べるのやめようよ・・)」
キュピル
「(いや、隅々まで調べる必要がある。ここは俺に任せてくれ)」

キュピルが足音を立てないように慎重に近づいていく。
そしてすぐ真後ろまで接近すると拳で思いっきり後頭部を殴った。
一発で気絶し倒れた。

キュピル
「しばらく起きないだろう。」
ルイ
「捜索しましょう」


建物を隅から隅まで探すが特に変わった事はない。
・・・。はずれかな・・・。

次の建物に入る。今度は宿屋だ。
しかしこの建物にはたくさんの感染者がいて見つからずに倒すのは極めて困難だった。

キュピル
「(ルイ。麻酔銃はないのか?)」
ルイ
「(こんなこともあろうかと持ってきています)」
キュピル
「(ナイス)」

ルイが感染者に麻酔銃を放つ。刺さって数秒後に倒れ眠り始めた。
他の感染者にも麻酔銃を放って全員眠らす。

キュピル
「よし。探索だ。俺とルイは二階へ行く。ファンとジェスターはこの部屋を探してくれ」
ジェスター
「うん。」
キュピル
「何かあったら大声で叫んでくれ」

キュピルとルイが二階へ上がった。


==二階

一部屋ずつ探索する。
時々宿泊者が部屋にいてこちらを見つけるなり襲いかかってきたが
すぐにキュピルが殴って気絶させるかルイが麻酔銃で眠らせるなどをして対処する。

・・・しかし殆どの部屋を探したが特に気になる物は見つからなかった。
そして最後の部屋を探索する。

キュピル
「やれやれ。この建物も何もなしか?」
ルイ
「ジェスターさん達が何か見つけているかもしれません。戻ってみませんか?」
キュピル
「そうだな。・・・・ん・・」

その時キュピルが何かに気付いた。
・・・木箱に穴があいている・・。

キュピル
「・・・何でこの木箱に穴が空いているんだ・・?そういえばこの部屋だけやたらと散らかっているな・・」
ルイ
「うーん、誰かここで暴れたんでしょうか・・?」
キュピル
「ちょっと箱を動かそう」

キュピルが箱を持ち上げて他のところに置く。
・・・箱の下に千切れた謎の触手が見つかった。

キュピル
「なんだ、この触手は?」

キュピルが手に取ってみる。誰かが斧のようなもので千切った跡がある。

ルイ
「・・・不気味な触手ですね・・。」
キュピル
「何か関係があるのかもしれない。持ちかえろう」
ルイ
「えぇー!持ちかえるんですか!?」
キュピル
「こういうのは何でも持ちかえるもの」

キュピルが鞄の中に千切れた触手を詰め込む。帰ったらスキャンしてみよう。

キュピル
「さぁ、下に戻ろう」

ジェスター
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

キュピル
「!」
ルイ
「!」

ジェスターの叫び声が聞こえた。二人とも慌てて下に降りる。


==一階

キュピル
「どうした!ジェスター!!」
ジェスター
「気持ち悪いのがある!!」

ジェスターの指の先には先程キュピルが見つけたのと同じ千切れた触手があった。
・・・こっちも誰かが剣やナイフで斬った跡がある。

キュピル
「これはさっき上で見つけたのと同じ奴だ・・・。」
ファン
「物凄く気持ち悪いですね・・・」
キュピル
「持ちかえってスキャンしよう」
ファン
「わかりました」
ジェスター
「持ちかえりたくな〜い!!」
キュピル
「我慢我慢」

再び鞄の中に千切れた触手を入れる。

キュピル
「この階は隅々まで調べたか?」
ファン
「さっき調べていたのですがこの建物に地下があるようです。恐らく倉庫かと・・」
キュピル
「倉庫か。調べたか?」
ファン
「・・・残念ながら鍵がかかっていました。魔法を使って解除を試みたのですが
複雑なプロテクタがかかっていたので解除できませんでした」
キュピル
「そうか・・・それなら鍵を探す必要があるな・・・。
ここの店の店主が持っていると思うが・・・。姿に見覚えはある。
大通りにいけばいるかもしれない」
ジェスター
「さっきの屋根まで行って探そう〜」
キュピル
「そうだな」




==屋根


さっきと同じくキュピルとジェスターが屋根の上に登りルイとファンが下で見張りをすることにした。

キュピル
「・・・・どこだ・・・」
ジェスター
「あ」
キュピル
「見つけたか?」
ジェスター
「ううん。ヘルとテルミットー」
キュピル
「あの二人は目立つな」

クエストショップから出てきた。
・・・ん?ずっとクエストショップにいたのか?何か見つけたのだろうか・・・。
また別の建物に入って行った。あれは村長が住んでる家だな。
・・・。

・・・・・・。

キュピル
「だめだ、見つからない」
ジェスター
「建物の中にいるのかな・・」
キュピル
「見つけ次第鍵を奪おう」
ジェスター
「うん」


ルイ
「見つかりましたか?」
キュピル
「だめだった」
ファン
「そうですか・・・」
キュピル
「・・・時刻は四時か」

もうちょっとだけ探索する余裕があるな。
六時になったら日が暮れ始め危険なので撤退しよう。

キュピル
「さぁ、他の建物を探索しよう」







・・・・。

・・・・・・・・。

他の建物を探しても特に気になる物はなかった。
強いていえば宿屋で見つけたあの千切れた触手が他の建物でも見つかった事ぐらいか。

ファンがヘルとテルミットに魔法のメッセージを送り帰るように言う。
・・・7時には全員自分の拠点に帰ってきた。




==拠点


キュピル
「どうだ、何か見つかったか?」
テルミット
「こんなものを見つけました」

テルミットが千切れた触手を取り出した。

キュピル
「・・・俺達も同じような物をたくさん見つけた」
ファン
「スキャンしてみましょう」

千切れた触手を机の上に置きカプセルの中に入れてスキャンを実行する。
・・・・。

・・・・・・・・・・。

ファン
「・・・結果が出ました。全て同一のもののようです。
状態から見ると誰かと戦闘しその際斬られた触手の一部のようです。
自然に抜け落ちたり何かのためにわざと触手を落とした・・っというわけではないみたいです」
ルイ
「その触手の正体とかはわかりますか?」
ファン
「残念ですがそこまではわかりません・・・あくまでのスキャンですので」
キュピル
「そうか・・。しかし触手という情報が一つ増えたな。」
ヘル
「キュピルさん。明日はどうする?」
キュピル
「そうだな・・・。ちょっと蝶の木に誰か行かせようと思う。
全員じゃなくて何人かに分れて行こうかと思うが・・・」
テルミット
「・・・大丈夫でしょうか?蝶の木は危険な所です。」
キュピル
「・・・そうだな・・。ちょっと危険か・・」
ルイ
「私が行きます!」
キュピル
「お・・。・・何か最近ルイ張り切ってるな」

キュピルが何か困ると必ずルイがフォローに入ってくる。

キュピル
「しかし本当に危険だ。分れて行くのはやめよう」
ルイ
「大丈夫です。一人で行こうとは思っていないので」
キュピル
「え?」
ルイ
「キュピルさん。行きましょう。私とキュピルさんならどんな事が起きても絶対大丈夫です」
ファン
「ルイさん。何か企んでいませんか?」
ルイ
「え、え?別に企んでいません・・・」
キュピル
「(・・・今一瞬ルイが焦ったな。・・・何か企んでいる。・・・)」

キュピルがしばらく考えた後

キュピル
「わかった。行こう」
ジェスター
「大丈夫なの?キュピル」
ヘル
「キュピルのペット。心配しなくても大丈夫だ。・・・キュピルさんは強い。」
ジェスター
「うん、知ってる」
ヘル
「・・・・・」
キュピル
「ただルイ。危ないと感じたらすぐ下がるぞ。いいな?」
ルイ
「はい!」
キュピル
「よし。今日はここまでにして皆各自この拠点内で自由行動とする。
明日の朝九時にここを出発する。以上」






ルイ
「(・・・・・)」

ポケットからキュピルの机の中にあった手紙のコピーを取り出す。

ルイの心境に複雑な思いがあった。
・・・私が活躍すればキュピルさんは・・・・・残ってくれるだろうか・・・?
・・・それとも活躍すればするほど早く帰ってしまう・・・?

元の世界に帰ってしまう・・・。

その事が頭の中で一杯だった。





==翌日・朝九時


ジェスター
「ご飯がまずーい!」
キュピル
「文句言わない。もう出発するぞ」
ジェスター
「えー」
ファン
「ジェスターさん。今日は僕とヘルさんとテルミットさんでクラドをもう一度捜索します。
行きましょう」
ジェスター
「うん・・・」
ヘル
「疲れてるのか?」
ジェスター
「違うよ。ちょっと怖いだけ」


全員ガスマスクをつけてそれぞれの場所へ移動を始めた。





==蝶の木へ続く道


キュピル
「な、なんだこれは!?」

あんな綺麗な道がここまで酷く汚染されているとは。
それにモスも大量にいる。

キュピル
「ルイ。これは確定のようだ」
ルイ
「みたいですね・・・。間違いなく蝶の木が絡んでいると思います」
キュピル
「戻ろう。皆を呼ぶ」
ルイ
「・・・大丈夫ですよ。キュピルさん。このぐらい全部私一人で倒せます」
キュピル
「・・・ルイ。功を焦っているのか?」
ルイ
「違いますよ。」

ルイが無駄に自信を持っている。危険な状態だ・・・。
・・・いや、それともこれは企みの一つか?
確かめるためにあえて乗ってみるか・・。それにその気になれば確かにこの程度の敵は大した事ない。

キュピル
「・・・わかった。期待してるよ」
ルイ
「!。頑張ります!」

無駄にルイが張り切っている。
奥へ進む。




キュピル
「モスの粉にかからないように気をつけるんだ。感染するかもしれない」
ルイ
「なるべく遠くから倒しちゃいましょう」

ルイが狙撃銃を構えモスを撃ち落としていく。
キュピルもコルトパイソンで狙いをつけ撃ち落としていく。
リロードはルイに任せている。



==蝶の木・深部


キュピル
「む・・・あれは・・・」
ルイ
「・・・怪物の木・・!」

怪物の木が行く手をさえぎっている。
大きい・・・。

ルイ
「燃やしちゃいましょう」
キュピル
「山火事にしないようにな」

ルイが魔法を唱える。

ルイ
「メガバースト!」

炎の玉が怪物の木にぶつかり瞬く間に燃え始めた。
しばらく眺めているとそのまま消えてなくなった。

キュピル
「・・・!ルイ、走れ!モスが集まっている!」
ルイ
「わっ!」

ルイの腕を引っ張って蝶の木・最深部へと移動する。
走りながらキュピルがコルトパイソンで後ろに迫ってきているモスを撃ち落としていく。
威力が高いので一体だけではなく貫通して後ろのモスにも攻撃が入っていた。


==蝶の木・最深部

キュピル
「・・・む」
ルイ
「・・・何ですか・・これは?」

蝶の木へ続く道の途中に木の根で作られた巨大な壁が立ちはだかった。
太く水分を持っている。・・これは燃やせないだろう・・・。
ルイが木の根に近づく

キュピル
「・・・!ルイ、気をつけろ。その根からウィルスの反応がある。触れれば感染するぞ」
ルイ
「あ、危なかった・・」

触る直前だったようだ。

ルイ
「しかし参りましたね・・・。これでは蝶の木がどうなっているのかわかりません」
キュピル
「まるで蝶の木を守っているかのようだな。ますます怪しくなってきた」
ルイ
「キュピルさん。この木の根。結構太いみたいですけど爆発物を仕掛ければ壊せそうですよ」
キュピル
「本当か?」
ルイ
「はい。ちょうど今手元にRPG-7があるので壊して進めそうですよ」
キュピル
「ふむ・・・それなら進めそうだ。しかし・・・」




・・・・嫌な予感がする。




キュピル
「ルイ。嫌な予感がする。壊す前にヘル達を呼ぼう」
ルイ
「でも今から呼びに戻ったら昼になっちゃいます。
そしてまたここまで移動するのに時間がかかるので・・・。そしたら殆ど探索する時間がなくなります」
キュピル
「安全を優先させよう」
ルイ
「大丈夫ですよキュピルさん。私達は強いですから」
キュピル
「無謀と勇気は違う」
ルイ
「キュピルさん。何か不安に思う事があるみたいですが全部私が何とかします」
キュピル
「・・・・ルイ?」
ルイ
「はい?」

キュピルが少し表情を険しくする。

キュピル
「・・・何を思っている?」
ルイ
「え?」
キュピル
「様子がおかしい。どうしてそんな功を焦るようなことをしている?」
ルイ
「え・・・別に・・・」

ルイが困った表情をする。

ルイ
「・・・・・・」
キュピル
「ルイの事をここ最近よく観察させてもらっていたがドラグーン退治後辺りか少し様子が変だぞ。」
ルイ
「気のせいですよ」

いや、気のせいじゃない。
ここは追求しよう。

キュピル
「ルイ。正直に話せ。何を企んでいる」
ルイ
「私は・・・。別にただ・・・」

ルイが俯く。

キュピル
「・・・何か見たのか?」
ルイ
「えっ!?」

ルイが過剰反応した。・・・。

キュピル
「ルイ・・。もしかして何か見てはいけない物を見たのか?」
ルイ
「べ、別にそんなことないです。・・・ちょっと最近私変でした・・・?次から気をつけm・・」
キュピル
「誤魔化すな!」

ルイがビクッと跳ねる

キュピル
「ルイ・・・。お前まさか・・・」

脳裏に開けられた手紙がちらついた。
・・・読まれた後のある手紙・・・。

・・・・。まさか・・・

ルイ
「キュピルさん!聞いてください!私は・・・」
キュピル
「・・・犯人はルイだったか」
ルイ
「え・・・」
キュピル
「手紙に読まれた跡があった」
ルイ
「手紙?・・・何の手紙ですか?」
キュピル
「・・・・」

キュピルが目と鼻の先まで近づく。
そして突然腕を掴んだかと思えばポケットに入っていた手紙を取り出した。

ルイ
「あ!」
キュピル
「最初は何かのメモ用紙かと思ったが・・・こいつはとんでもない物を見てくれたな」
ルイ
「返してください!」
キュピル
「返すも何もこれは俺の手紙じゃないか!」

手紙の内容を確認する。確かにあの手紙だ。・・・コピーしたのか

キュピル
「さぁルイ。全て白状してもらおうか」
ルイ
「わ、私は・・・・」

しばらくルイが黙り続けた。

ルイ
「・・・キュピルさん・・。キュピルさんは元の世界に帰っちゃうんですか?」
キュピル
「・・・・・・」
ルイ
「答えてください!」
キュピル
「何故答える必要がある?」
ルイ
「だって・・・。仲間・・じゃないですか」

言葉が詰まった。仲間という言葉に何かあるらしい。
追求しよう

キュピル
「・・仲間?勝手に人の許可も取らずに手紙を読むのが仲間か?」
ルイ
「・・・・!!!」

ルイが泣きそうな顔をする。
しかし容赦はしない。・・・特に二枚目の手紙は深刻だ・・・。
ギーンとのやりとりの手紙・・・

ルイ
「キュピルさん・・・・」
キュピル
「一つ答えて貰おうか。功を焦っていたのはこの手紙を読んだからか?」
ルイ
「・・・そうです」
キュピル
「何故功を焦る?そもそもこの手紙からは何の共通点も見えてこないが」
ルイ
「・・・私が活躍すればキュピルさんがこの世界に留まってくれるかなって思ったので・・・」
キュピル
「・・・・。」

少しキュピルも言葉を失う。
勝手に手紙を読まれた事には心底腹が立っているが・・・。

ルイ・・・。本気で俺の事を心配してくれている。

ルイ
「ジェスターさんとか・・どうするんですか?」
キュピル
「エユにちゃんと返してから戻る」
ルイ
「やっぱり戻るんですか!?」
キュピル
「・・・。元々俺がいた世界はここじゃない・・・。それに・・・。」
ルイ
「それに・・・何ですか?」
キュピル
「・・・・」
ルイ
「黙らないでください!」

ルイが怒った表情で近寄ってきた。

キュピル
「・・・シルク・・。俺の師匠が本気で心配なんだ・・。俺がこうして生きているのも強くなったのも・・。
全部シルクのお陰だからな・・。親のいない俺にとってシルクは父親みたいなものだった。
自分の父親が消えたと知ったら普通誰でも心配するだろう・・」
ルイ
「・・・それだけじゃないですよね?」
キュピル
「何?」
ルイ
「キュピルさん。私にはわかります。それだけじゃないですよね?戻る理由は!」
キュピル
「・・・・ルイ。」

しばらく沈黙が続いた後・・・。

キュピル
「・・・・」
ルイ
「キュピルさん・・。今から全て私は正直に話します。だからキュピルさんも正直に話してください」
キュピル
「・・・続きを言ってくれ」
ルイ
「私がキュピルさんの事をこんなにも心配しているのは・・・。





キュピルさんの事が好きだからです!!!!










キュピル
「・・・・!!?」
ルイ
「私は言いましたから!キュピルさん!!元の世界に戻る理由は!?」
キュピル
「ル、ルイ・・・・」

キュピルが今までの中で一番険しい表情をする

キュピル
「・・・ルイ・・・ごめん・・・。本当にごめん・・・・。
・・・俺は・・・元の世界に・・・






救ってあげないといけない婚約者が・・・・いるんだ・・・」



ルイ
「っ!!!!」




ルイがキュピルから三歩程離れる。

キュピル
「・・・俺しか知らないんだ・・・。六歳のころからずっとその婚約者は時空の歪みに閉じ込められているんだ・・・。
だけど・・・つい最近・・時空の歪みを壊す技術をギーンが持っているのを知ったんだ・・・。
ギーンはトラバチェスの再建に協力してくれたら惜しみなく協力すると・・言っていた」
ルイ
「・・・私には話さずギーンさんに話したんですか?」
キュピル
「・・・・」
ルイ
「・・・・・・こんなのって・・・・」


その時突然触手が数本伸びルイを捕まえた!

ルイ
「あっ!!!」
キュピル
「ルイ!」

あの木の根っこで作られた壁から伸びている!!・・・奴は動くのか・・!!
剣を抜刀しルイを救おうとする。しかし触手の方がスピードが高くルイは木の根で作られた壁の向こうへと
連れて行かれた。






キュピル
「ルイーーー!!!!」













==拠点


ファン
「中間報告しに戻ってきたのですが・・・。キュピルさん達まだ帰ってきてないですね」
ヘル
「大きな発見をしたというのに待ち遠しいな」

その時キュピルが慌ててコンテナの中に入ってきた。

ジェスター
「あ、おかえり〜。ねーねー。凄いの発見したんだよ!」
キュピル
「た、大変だ・・・!!!ルイが蝶の木に連れて行かれた・・・!!!」
ファン
「な、なんですって!?」
ヘル
「・・・キュピルさん。聞いてください。俺達が見つけたあの千切れた触手の正体がわかったんです」
テルミット
「・・・さっきある建物で一本の触手を見つけたんです。その触手が襲いかかってきたので斬って
すぐにスキャンをかけた結果・・。あの触手は蝶の木の根っこだということが分かったんです。
その木の根っこからは有り得ない数の奇病が・・・・」
ファン
「・・・・これまでの奇病とは全く違うタイプです。
・・・・正直どんな効果が表れるか予測は・・・」
キュピル
「早くルイを助けに・・!!ルイは・・ルイは・・・あいつは・・・!!!!」
ジェスター
「キュ、キュピル。落ち着いて・・。凄い混乱してるよ・・・?」

今までの中で一番焦っている。
・・・こんなこと・・・あってたまるか・・・・。


ヘル
「主人の命令は絶対だ!テルミット!すぐに救出の準備にとりかかるぞ!」
テルミット
「はい!」
ファン
「・・・行きましょう。キュピルさん」
ジェスター
「ルイを助けに行く!」
キュピル
「・・・頼む・・・」










==蝶の木・内部

ルイ
「は、離して・・ください!!」

木の根・・触手にきつく巻きつけられている。
一本の触手が伸びルイのガスマスクを外した。

ルイ
「あっ!!!」

・・どんどん蝶の木の内部へと引きずり込まれていく。
蝶の木から物凄い魔力を感じる。
・・・そして蝶の木が完全にルイを内部に取り込む。


そして儀式が始まった。



続く



第六話


ルイがキュピルに告白するもキュピルには元の世界に救わなければいけない
婚約者がいることを告げる。しかしその直後、ルイが蝶の木にさらわれる。

ルイを救いに全員で蝶の木へ向かう。



テルミット
「誰かが蝶の木に悪さをし、それに気付かなかったクラドの村人達はまんまと蝶の木から
奇病を貰いそのまま広がったに違いありません!」
ファン
「まだ予測の域を越えませんが可能性は高いです」
ジェスター
「キュピル!ルイはどうして掴まったの!?」
キュピル
「・・・油断してしまったんだ・・・。」
ヘル
「早く救いに行くぞ!」

ヘルが真っ先に先陣を走る。
立ちはだかるモスを全て巨剣で薙ぎ払う。

ヘル
「はあぁぁっ!!」

巨剣をブーメランのように投げつけ周囲にいたモス全てを切り刻む。

テルネット
「ヘル!援護するよ!」

テルネットが巨弓を構え一度に矢を5本放ち全てモスに命中させる。
テルネットが戦う姿は初めてみるがかなり出来ると見た。

キュピル
「こっちだ!」

ヘルに道を教え蝶の木へと急ぐ。
道中再び怪物の木が現れ行く手を阻む

ヘル
「斬り倒されな!!」


ヘルが巨剣で思いっきり怪物の木を斬る。
深い斬り後が出来たが数秒後に回復してしまった。

ヘル
「なに・・・」
ファン
「燃やします!メガバースト!」

ファンがメガバーストを放ち怪物の木を燃やす。
・・・そのまま眺めていると怪物の木は燃え尽きてしまった。

キュピル
「いまだ、通ろう」

そして問題の蝶の木へとやってきた。



ヘル
「なんだ・・・!この大きな木の根で出来た壁は・・!」
キュピル
「この壁の向こうから突然触手が伸びてきてルイが掴まった・・・」

・・・たった二時間前の出来事だ。
ルイとの会話が蘇る。
しかし今は思い返す時ではない。


ファン
「この木の根から病原菌が溢れています・・・。触らない方がいいでしょう。
そして水分を多く含んでいます。恐らく燃やそうとしてもあまり燃え移らないかと・・・」
ヘル
「こいつはそう簡単に斬り倒せないな・・・」
キュピル
「くそ・・・ルイの持っている爆発物があれば・・・」
ヘル
「キュピルさん。俺が今から巨剣を投げる。その巨剣の上に乗ってこの壁を乗り越えてくれ」
キュピル
「名案だ。今すぐ行こう」
ジェスター
「私絶対一人じゃ乗れない!」
キュピル
「それならジェスター。一緒に行こう。しっかり掴まっててくれ」
ジェスター
「うん!」

ジェスターが背中に飛び乗る。

ヘル
「行くぞ!」

ヘルが斜め上に巨剣を投げた。すぐにキュピルが乗る。
ぐんぐん加速していき木の根で出来た壁を乗り越えた。そして巨剣から飛び降りる。

高さ10mから落下していく。

ジェスター
「ん〜〜〜!!」

途中でジェスターがキュピルを掴んで飛び始め落下速度を軽減させる。
衝撃を少し和らぐ事が出来た。

二人とも立ち上がり蝶の木に向き直る。

キュピル
「・・・これが・・・蝶の木・・なのか・・?」
ジェスター
「・・・・酷い・・・グロテスク・・・」

太い木からまるで皮膚が化膿したかのようにぶくぶくと膨れ上がっており
時々破裂してはそこから莫大な病原菌を噴出していた。

・・・皮膚感染しないか心配になる。

しばらく待っているとテルネットに抱きかかえられながらファンがやってきた。
最後にヘルがやってきた。

ヘル
「・・・全然噂に聞いていたのと違うな。汚い」
テルネット
「これは本来の姿じゃないはずです。本当はもっと綺麗で・・万人の心を魅了する木のはずです」
ヘル
「これじゃ万人に嫌われる木だな。早い所なんとかしよう」
ジェスター
「だけど・・・こんなのどうすればいいの・・?斬り倒せば終わりじゃないと思う・・」
キュピル
「同意だ。これは・・・ちとどうすればいいのかわからないな・・・」

その時蝶の木から木の根で出来た触手が伸びてきた。
そして勢いよくこちらめがけて飛んできた!

キュピルがジェスターを抱きかかえて横に飛んで回避する。

ファン
「気をつけてください!あれに当たると間違いなく感染します!」
キュピル
「何が何でも当たれないな!!」
ヘル
「こんな触手斬り落としてやる!!」

触手がテルネットめがけて飛んできた。

ヘル
「烈風剣!!」

剣を一瞬で横に振って空気で出来た刃を触手に飛ばす。
その刃が触手にぶつかり真っ二つに斬れた。

キュピル
「やるな、ヘル!」
ヘル
「まだまだ来る!」

気がつけば沢山触手が伸びていた。

キュピル
「うおりゃっ!!」

愛剣で思いっきり触手を斬り落とす。

ジェスター
「えいっ!」

ジェスターも鉄の棍棒で触手を叩きへし折る。
数は多いがそんなに耐久力はないようだ。

ファン
「メガバースト!」
テルネット
「ジャッジメント!!」

ファンが周囲の触手を焼きつくしテルネットが矢を天空の放ちしばらくして
触手目掛けて雷を纏いながら落下し突き刺さった。そして触手を黒こげにした。

かなり優勢ではあった。
しかし・・・。

触手が無限に湧いてくる。
疲労が貯まってくればこれは必ず劣勢を強いられるはずだ・・・


キュピル
「ファン!優勢には優勢だが蝶の木本体にダメージが入ってるとは思えない!
何か浄化する方法はないのか!?」
ファン
「以前ライディアから生命の水を汲んで来て根に流し込んで浄化したという話を聞いた事があります!」
キュピル
「・・・」

くそ・・早まったか・・?この状態でライディアに行くことはできない。

だがまだだ。きっと何か方法があるはずだ。
しかしそのまま戦っていくとモスが現れた。
モスが毒粉を撒き散らし始めた。

ファン
「この粉は皮膚にも害があります!触れないように気をつけてください!」
ジェスター
「無理〜!!」
ファン
「皆さんにシルフウィンドをかけます!」

ファンが詠唱し全員にシルフウィンドをかける。
風を纏い毒粉を吹き飛ばす。

キュピル
「くそ・・・蝶の木本体をやるしかないのか・・!?」
ヘル
「このやろ、こんな木とっとと斬り倒してやる!!」

ヘルが巨剣を投げる。突き刺さるかと思いきや刺さる直前巨剣が謎の力によって弾き飛ばされた。
その後巨剣はしっかりヘルの手に戻ってきた。

ヘル
「・・・なんだ?今バリアのようなものに弾かれた気がするぞ」
キュピル
「・・・俺も攻撃を仕掛ける!」

キュピルが剣を持って接近する。だが剣を振る前にバリアによって弾かれ遠くに飛んだ。

キュピル
「ぐっ!」
ジェスター
「治療〜!」

ジェスターがポーションを渡してきた。すぐに一気飲みする。

キュピル
「ジェスター・・・。あのバリア・・・見覚えがあると思わないか・・・?」
ジェスター
「・・・ちょっとだけ青いバリア・・・・。
・・・私も見覚えがある・・」
ファン
「・・・僕にも見おぼえがあります・・。このマナの流れ・・・そして独特のバリア・・・!」
テルネット
「あのバリアを破る方法を知っているのですか!?」

テルミットが矢を放ちながら問う。

キュピル
「違う・・・あのバリアは・・・!!」

突然蝶の木から天に向かって強烈な闇のオーラーが飛んで行った。
あまりの強烈なオーラーに全員吹き飛び木の根で出来た柵にぶつかりそうになった。

ジェスター
「吹き飛ばされる〜!」
キュピル
「しっかり掴まってるんだ!」

キュピルが剣を地面に突き刺し暴風に耐える。ジェスターもキュピルの手にしっかり掴まる。
ヘルも巨剣を地面に突き刺しむしろ風を遮っている。
テルネットとファンはその巨剣に隠れている。

しばらくすると風は止み・・・蝶の木が真っ二つに割れ
割れた蝶の木から一人の人物が宙に現れた。


キュピル
「・・・・ルイ!?」
ファン
「・・・あれは・・本当にルイさんですか・・?」

黒い皮膚。
髪の毛が固まっていて角のようにも見える髪・・。
そして体から緑色の触手が何本も生え指から赤い爪が50cm程伸びている。

・・・そして強烈な闇のオーラーを発し続けている。


テルネット
「ルイさんが・・・闇に染まっている」
ダークルイ
「・・・・ウラ・・・ウラ・・ミ・・・」
ヘル
「うら・・み・・・?恨みだと?」
キュピル
「・・・・」

ダークルイが目を開ける。
黄色い目・・・。完全に魔物化としている・・・。

ダークルイ
「ギュ・・・ピル・・・。」

ダークルイが消えたかと思えば突然キュピルの目の前に現れた。

キュピル
「!」
ヘル
「危ない!」

ヘルがキュピルに向かってタックルする。
その直後ダークルイの長く伸びた赤い爪がヘルに突き刺さる

ヘル
「うぐあっ!!」
テルミット
「ヘル!!」
キュピル
「ヘル!・・・くそ、ルイ・・・!?」
ダークルイ
「・・・ウ・・・ウア・・・!!!」

ダークルイが自分の頭を抱え苦しそうにもがく。
地面に自らの頭を叩きつける。

ダークルイ
「早・・く・・!!逃げ・・・て・・・・!!」
キュピル
「ルイ!お前意識が・・・!?」
ダークルイ
「もう・・・持たな・・い・・・!!早く・・・・!!!!
ウギィィァァァ!!」

ダークルイが凄いスピードで蝶の木にぶつかる。
また他の壁へとぶつかる。・・・狂っている。

キュピル
「・・・撤退だ・・。撤退する・・・!!!ファン!緊急テレポートを!」
ファン
「わかりました!」

ファンが詠唱を始める。
この魔法は詠唱が完了するのに1分かかる。
そのため戦闘中には残念ながら使えない。(守りきる事ができれば無事
また長距離移動にも向いていないが脱出には十分だ。

全員が息を飲んで詠唱を見守る。
が、途中でダークルイが飛んできた!

ダークルイ
「ギュピルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
キュピル
「くっ!!!」

鋭い赤い爪を前に突き出しながら飛んできた!
それを剣で弾いて爪をへし折る。
しかしへし折った瞬間また新しい爪が生えてきた。

キュピル
「くそおおぉぉぉっっっっ!!!」

ダークルイの触手を引っ張って引き寄せる。
そして思いっきり腹を蹴り飛ばして後ろに転倒させる。そして倒れたダークルイの上に乗っかり肩を抑えつける。

キュピル
「ルイ!意識を保て!!自我を捨てるな!」
ダークルイ
「ウウウウ・・!!!!」

一段と激しく暴れている。
しかししっかり抑えつけている。

ダークルイ
「む・・り・・!・・・く、くる・・しぃ・・・!!」
キュピル
「ルイ!こいつを・・・預ける・・・!」

キュピルがルイの手に手紙を握り渡す。

キュピル
「俺達が治療方法を見つけるまでその手紙を預かっててくれ。
・・・預けている間、俺はその手紙に関する全ての事を全て忘れる。
・・・全てが終わるまで何処にも行かない。いいな!?」
ダークルイ
「・・・・・ぅぅ・・!!」

ダークルイが泣いている。
赤い血の涙・・・。

ファン
「キュピルさん!詠唱が終わりました!」
ジェスター
「キュピル・・・」
キュピル
「待ってろ・・・ルイ・・」

ルイから飛び離れファンの元へ急ぐ。
その瞬間ダークルイが立ち上がり攻撃を仕掛けてきた。
だが先にファンの魔法が発動しダークルイの攻撃は空振りした。

ダークルイ
「・・・・・・・・・」

自我がなくなっている状態にも関わらずダークルイが持っていた手紙をポケットにしまう。
その直後誰かがやってきた。

???
「素晴らしい出来だ・・・。やはりこの木を選んで正解だった。
・・・これでトラバチェスを再び我がものに出来る・・・・」
ダークルイ
「・・・・・・」

ダークルイが謎の人物を睨みつける。
その表情は怒りと憎しみに満ちている。

???
「おやおや、私を睨まないで貰いたいな。君は今日から私の下僕なのだ。
・・・言う事は聞いてもらうぞ」
ダークルイ
「・・・・っ!!?」

突然頭に強烈な電撃が走る。

ダークルイ
「・・・・ハイ・・・」
???
「・・・あいつから預かった手紙をこっちに渡しなさい」
ダークルイ
「・・・・・・・」
???
「聞こえなかったのか?渡せと言っている」
ダークルイ
「・・手紙・・は・・・私・・・が・・・・!!!」
???
「・・・ばかな。まだ自我を保っているのか・・・!?実験は不完全だったのか?」
ダークルイ
「手紙は・・・渡さない・・・!」

ダークルイが飛び上がり木の根で出来た壁を乗り越えて何処かへ消えて行った。

???
「・・・私だ。すぐに一号を追って手紙を奪い返せ。ギーンとのやりとりが書かれているはずだ」

『分りました。全軍、追え!』

???
「・・・・私の野望はまだ潰えん・・・!!」







==拠点


ファン
「ヘルさんのスキャンが終了しました」
テルミット
「ヘルは・・・大丈夫なんですか?」
ファン
「大丈夫です。あの攻撃には病原菌はなかったみたいなのでヘルさんは何も感染していません」
テルミット
「ホッとしました・・。もしヘルさんが自我を失って暴れたら手のつけようがありませんからね」
ヘル
「・・・それは本当の俺の事を心配しているのか?」
テルミット
「気のせいですよ」
キュピル
「・・・・・」

半目でずっと何か考えている。
ジェスターがチラッと視界の先に入るが認識出来ていないらしい。

ジェスター
「キュピルが奇病にかかったー!!わー!!」
ファン
「・・・今はそっとしておきましょう」
ジェスター
「えー・・・。」



キュピル
「(・・・ルイ・・・・)」

・・・・・。

・・・・・・・・・・・。


キュピル
「皆」

その場にいた全員がキュピルを見た。

キュピル
「今日は大変な目に遭わせて申し訳ない。・・・冷静な判断を失ってしまった。
今思えばあれは行くべきではなかった」
ファン
「キュピルさん。何を言っているんですか。
あんな話を聞いたら仮に皆さんが止めても僕はきっと行きましたよ」
ジェスター
「私もだよ。それにもしあの時キュピルが行かないなんて言ったらきっと私キュピルの事嫌いになってた」
ヘル
「そんなことは気にしなくていい。俺はあんたを信じている。・・・唯一俺を倒した男だからもっと
胸を張って誇ってほしい。」
ジェスター
「えっへん!」
ヘル
「・・・いや、君では・・・」
ジェスター
「私はキュピルより強いもん!」
ヘル
「・・・そ、それは本当なのか?」
ファン
「・・・い、一時期は」
ヘル
「・・・・・」

何故かヘルが青ざめている。
何を考えているのは分る・・・・。

テルミット
「僕達はキュピルさんに従い尽くします。ですからそんな事はもう考えなくていいですよ」
キュピル
「・・・ありがとう。明日についてだが・・。まずはライディアに行って生命の水を貰ってこよう。
もらってきたらまた蝶の木に行って根にかけて浄化させる。
・・・それですべてが終わればいいんだが・・・・」
テルミット
「・・・治療方法を探さないといけませんね」

その時誰かが入ってきた。
・・金髪の少年だ。この少年は知っている。ルシアンだ。

ルシアン
「話は聞いたよ!・・・僕はボリスを助けてあげたい!
確か君達は蝶の木まで行ったんだよね?」
ファン
「そうです」
ルシアン
「僕も蝶の木に行ったんだ・・・怪物の木を倒してその奥に木の根で出来た巨大な壁を見つけて・・・。
どうしようかって悩んでいたら突然向こうから触手が伸びてきたんだ・・・。
その時僕が捕まりそうになってボリスが・・・。それで慌てて僕がボリスの手を掴んでエスケープしたんだ。」
キュピル
「・・・・捕まらなくてよかったな・・」

キュピルが悔しい表情をする。

ルシアン
「ボリスは後三日ぐらいで自我を失っちゃうんだ・・・。
僕の事を忘れる前に早く治療方法を見つけたいんだ。
・・・僕もチームに混ざっていいかな?」
キュピル
「歓迎しよう。ルシアン・カルツ君」
ルシアン
「よろしくね!」

ルシアンと握手する。

ジェスター
「わーい、アクシピターの人が仲間になった〜。きっと強いよ〜!」
ルシアン
「僕はアクシピターの中でもエリートだからね!ワーハッハッハッハ」
ヘル
「(・・・おい、この金髪小僧が本当にエリートなのか?)」
テルミット
「(世の中どんな人間がいるか分りませんよ。ヘルさん・・・)」

キュピル
「今日はもう遅いし皆疲れているだろう。
ルシアン君以外の人たちはもう休んで構わない。」
ルシアン
「え?僕は?」
キュピル
「ちょっと情報交換したい。何を見つけたのか。そしてこっちで何があったのか伝えたい」
ルシアン
「うん、わかった」



ルシアンとこのクラドで何が起きているのか情報を交換した。
ルシアン達の方で見つけた事とこっちで見つけた事は殆ど同じだった。
むしろこっちのがより多くの事を見つけていた。

・・・ダークルイの事について話しておいた。

ルシアン
「・・・キュピル君。何としてでもルイさんを助けてあげようよ。」
キュピル
「もちろんだ。」
ルシアン
「明日ライディアに行って生命の水を貰いに行くんだよね?
僕ライディアの村長さんと面識があって以前生命の水を貰った事があるんだよ!」
キュピル
「それは本当か?」
ルシアン
「もちろん!だから今回もきっと協力してくれるよ」
キュピル
「・・・助かる。・・・大分話しこんでしまったな。明日は少し早く出ようと思っているから7時にここに来てくれ」
ルシアン
「わかった!それじゃまた明日ね!」

そういってルシアンが拠点から出て行き自分の所に戻って行った。
純粋な子だ。

・・・さぁ、俺も今日は早く寝よう。
適当にご飯を食べてすぐに寝た。






==翌日・7時

キュピル
「皆。準備は出来てるが?長く歩くぞ」
ジェスター
「皆準備出来てるみたいだよ〜!」
キュピル
「よし、行こう」

閉鎖されたクラドを横断することはできないので
一旦ナルビクまで戻りワープポイントからライディアへ飛んでいく。
ヘルとテルミットはまだワープポイントを登録していないらしく一旦自宅に戻って
ワープ装置機に乗ってライディアへと案内した。



==ライディア・村長の家


アロナ
「・・・よくぞライディアへ参られた。・・して、何用でこんな大人数に?」
キュピル
「アロナ村長。実は・・・」

クラドで奇病が起きている事を話す。
前回蝶の木が何かに侵された時、生命の水で治療出来た事を話し
再び生命の水を貰えないかと尋ねる

アロナ
「・・・わかりました。そのような事情があるのであれば許可しましょう。
このペンダントを持って行きなさい」

アロナが水色のペンダントを渡した。

アロナ
「生命の水を汲む事が出来る神殿への入り口のカギです。一度使うと消えてなくなりますので
必要な分を必ず持って行ってください」
キュピル
「ありがとうございます」
ファン
「アロナ村長。実は奇病に侵された人たちがいるのですが・・・。
この奇病は生命の水で治療することはできますか?」
アロナ
「・・・・私には分りません。しかしアイゾウム先生に尋ねてみてください。
アイゾウム先生に治せない病気はないと言われていますから」
ルシアン
「アイゾウム先生の腕は本当にすごいんだよ!」
キュピル
「わかった。行ってみよう。失礼します」



==緑の樹の魔法商店

アイゾウム
「いらっしゃいませ。何かご用でしょうか?
・・・おや?そこにいるのはルシアンさんですね。お久しぶりです。・・いつもいるボリスさんはどうしたんですか?」
ルシアン
「アイゾウム先生。実は大変なことになったんだ・・・・」

ルシアンが奇病の事について話す。

アイゾウム
「・・・それは大変です。早く治療しないとアノマラドが危機に・・・」
ルシアン
「治療方法は分る?先生・・・」
アイゾウム
「・・・このような症状は初めて聞きます。しかし診断してみれば何か分るかもしれません。
ボリスさんを連れて来てもらえませんか?彼を診断して何か治療方法がないか探ります」
ヘル
「・・・ルシアン。ボリスはまだ自我を保っているのか?」
ルシアン
「うん・・。一応まだ自我は保ってるけど特殊な装置から離れるとすぐ病気が進行して
自我を失っちゃうみたい・・・。だからここには連れて行けない・・・」
アイゾウム
「それなら私が行きましょう」

すると近くにいたピニャーが走ってきた。

ピニャー
「先生いけません!そんな危険な所!」
アイゾウム
「ピニャーさん。今ここで私が動かなければもっと多くの人が病に侵されることになります。
・・・私の事は大丈夫ですからお店の方を頼みますね」
テルミット
「ピニャーさん。僕達がアイゾウム先生を護衛しますから安心してください」
ヘル
「どんな奴が来たとしても俺がこの巨剣で真っ二つにしてやる」
ピニャー
「・・・それなら・・アイゾウム先生をよろしくお願いします」


キュピル
「皆。提案がある」

メンバーの全員がこっちを見る。

キュピル
「少し人数が多くなってきた。
アイゾウム先生は早く動く事が出来ないしあまり負担をかけてもいけない。
だからヘルとテルミットとルシアンは先に拠点に戻ってボリスを診断させてくれ。
俺とファンとジェスターは生命の水を汲みに行く」
ヘル
「わかった。拠点でまた落ち合おう」
ルシアン
「任せて」

そういうと四人は先にクラドへと向かい始めた。


キュピル
「さぁ、生命の水を汲みに行こう」
ジェスター
「うん!」
ファン
「早くこの問題を解決してルイさんを救いましょう・・・」
キュピル
「そうだな・・・」

早歩きで神殿へと向かう。








==クラド周辺

ダークルイがクラド周辺で逃げ回っていた。
体や腕から生えた触手を伸ばして追手を攻撃したりして何とか逃げ続けていた。

隊長
「捕獲しろー!!」

行く手に麻酔銃を構えた兵士達が一斉に射撃した。

ダークルイ
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
兵士
「ぐわぁっ!!」

長く伸びた赤い爪で麻酔弾を全て撥ね退け前方にいた兵士を全員突き殺した
隊長だけ攻撃を回避していた。

隊長
「なんという戦闘能力だ・・・!元が人間だったというのが信じられん・・。逃がすな!」

兵士を引き連れて隊長が再び追いはじめる。
ダークルイがそのまま逃げ続けていると目の前に基地みたいなのが現れた。
コンテナで作られている拠点・・・・。

一瞬キュピル達がいる拠点に辿りついたのかと思ったがコンテナから敵がわんさかと現れ
ダークルイが違うと判断し方向を変えた。
だが方向を変えた先に何かの装置を取り付けた兵士が数人待ち構えていた。
ダークルイが強行突破しようとする。

ダークルイ
「ウギィッィッァッッッ!!」
兵士
「ふんぬっ!!!」

兵士達がひと塊りになり突進してきたダークルイを受け止めた。
そしてすぐに転ばし注射器を取り出した。

兵士
「この実験体め!」

皆片手で押えながらそれぞれ注射器を取り出し一斉にダークルイに刺した。
その瞬間ダークルイが今までの中で一番激しく暴れ周りの兵士を吹き飛ばした。

兵士
「うわっ!!・・・くそっ。パワースーツをつけていながら弾き飛ばすとは・・・。」
兵士2
「正真正銘の化け物だ。」
隊長
「お前達。注射は刺したか?」
兵士
「ばっちりです」
隊長
「よくやった。もうあの実験体はまともに動く事もできないはずだ」

ダークルイがよろよろと立ちあがり逃げようとする。
しかし体が痺れ思うように動けない。

ダークルイ
「に・・・げ・ない・・と・・・。手紙・・・マモル・・・・」
兵士
「・・・!あの状態であの実験体はまだ自我を持ち続けているぞ」
隊長
「まずい、逃げるぞ!」

さっきよりも格段にスピードは落ちたがダークルイが再び逃げ始めた。
兵士が全員追いはじめるが速度は同じで差が縮まらない。
・・・ずっと一定の方向へダークルイが逃げ続ける。
そしてある時突然ダークルイが消えた。

隊長
「何が起きた!」
兵士
「隊長!!実験体が崖から落ちました!!」
隊長
「なに」

深い谷底へとダークルイが落ちて行く。
・・・流石にこの谷底を降りて追うのは無理がある

隊長
「くそ!専用の装置を持ってこい!ここを降りて追うぞ!」
兵士
「いくらなんでも危険なのでは・・」
隊長
「奴を捕まえた奴は二階級昇進だ!」

それを聞いた瞬間兵士達が歓声を上げながら拠点に戻り崖へ降りる準備を始めた






ダークルイ
「・・・・・・」

落下し続けて行くと地面が見えた。
しかし体が痺れて受け身のポーズをとる事が出来ずそのまま地面に叩きつけられる

ダークルイ
「ぅぅ・・・・ウアアアアアアアアアア!!!」

ダークルイが号泣する。赤い血の涙が黒い皮膚をなぞっていく。
・・・苦しい。痛い。悲しい。

嫉妬、怒り、軽蔑

負の感情がどんどん湧きおこる。

・・・だがそんな中でもまだ自我をダークルイはギリギリ保っていた。

ダークルイ
「ギュ・・・ピ・・ル・・・。」

早く・・・この辛くて気持ち悪い奇病・・魔法を・・・解除・・・しなくては。
体が痺れつつも谷底を歩いていく。



15分ほど谷底を歩き続けると所々崖から木が生えている場所を発見した。
触手を伸ばし登っていく。
どんどん登って行き崖から脱出する。
そして何も考えずに前へ進んでいく。

するとまた何かの拠点を見つけた。

・・・あれは・・・。

ダークルイ
「・・・キョ・・テン・・・」

キュピル達がいる拠点だ。
自我を保ちながら拠点の敷地内に入っていく。
途中係員がダークルイを発見し係員が腰を抜かす。
しかし無視してキュピル達がいるコンテナの拠点に入る。

消毒液を噴射され終わった後中に入る。

ダークルイ
「・・・・」

しかし拠点の中には誰もいなかった。
・・・物の抜け殻・・・・。

・・・そういえば・・・拠点の中に奇病の進行を遅らせる装置があったはず・・・。
その装置に入って始動させればもう少しの間自我を保つ事が出来るかもしれない。
そしてキュピル達が帰ってきたら急いで治療方法を探してきてもらう・・・。

それに・・・。

皆の傍に居たい・・・。

一人じゃもうどうしようもできない・・・。


助けて・・・。


ダークルイがカプセルの中に入る。
そして両腕をカプセルの中にある拘束具に通し体を固定させる。
最後に触手を伸ばして機械を作動させカプセルの扉を閉める。

あぁ・・これで少しは楽になれるかな・・・・。





だがその直後ダークルイにとって予想だにしなかったことが起きた。
突然体が痙攣し呼吸困難になりそして自我を手放しそうになった。

ダークルイ
「ウグアアアアァァァギィィィィィイアアアアアア!!!!!!!!」

カプセルの中で激しく暴れる。
だが拘束具でしっかり両腕を固定されている。
カプセルの中で闇の力が強まっていく。一体何が起きている・・。

ダークルイが目を開ける。
すると目の前にはあの係員がいた・・・。

係員
「・・・隊長。一号を捕獲。この奇病の進行を遅らせようと自らカプセルに入ったようですが
今私がカプセルに本当の働きを命じ奇病を進行させています」

『よくやった。二階級昇進だ!』

係員
「ありがとうございます。もうこの一号は自我を保つことは不可能なはずです
・・・あと5秒で全てが完了します。カプセルを拠点から運び出します」

ダークルイ
「ギアアアアアアアアァァァァァッッッッッッッッ!!!!!!!」


精一杯もがく。
病状を遅らせようとした結果、まさか進行してしまうとは。
裏切られた気持ちになりダークルイがまた泣きだす。
そして最後にもう一度目を見開き・・・そこで自我を失った。

ぐったりと項垂れ固まった髪の毛が前に倒れる。

・・・・ルイは完全に闇に堕ちた









ルシアン
「こっちです、先生!」

ルシアンがアイゾウム先生を連れてルシアンの拠点に入る。
カプセルの中にボリスがいてそこで眠っていた。

ヘル
「カプセルを開ける事は可能なのか?」
ルシアン
「数十分程度なら大丈夫って係りの人が言っていたよ」
アイゾウム
「・・・診断を開始しますのでカプセルをあけますよ」

アイゾウムがカプセルを開けボリスの診断を始める。
結果が分るまで数十分かかるそうだ。
その間キュピル達が戻るのを待っていた。

しばらく窓を眺めているとキュピルが帰ってきた。
自分達の拠点に入っていくのを見た。



==キュピルの拠点


ジェスター
「重かったー!!」
キュピル
「ちょっと汲み過ぎたか?」
ファン
「しかしこのぐらいは必要だったと思いますよ」
ジェスター
「でも綺麗な場所だったねー」
キュピル
「うむ・・・。思わず見とれてしまった」
ファン
「流石水晶洞窟の中にあるだけはありましたね」
キュピル
「よし、さっそくヘル達を連れて蝶の木へ行こう。
ファン。ルシアンのいる拠点まで行って呼んで来てくれないか?」
ファン
「分りました」

ファンがキュピルの拠点から出てルシアンがいる拠点へと移動する。

ジェスター
「じぃー・・・・」
キュピル
「ん?どうした?ジェスター」
ジェスター
「何かある」

ジェスターが指で示す。
その先へキュピルが移動する。

キュピル
「・・・ジェスター。これは奇病の進行を遅らせるカプセルだよ」
ジェスター
「うん、知ってる」
キュピル
「なら何でこれを見ていた?」
ジェスター
「・・・ねぇ、何か前ここにあったカプセルと違くない・・?」
キュピル
「・・・・?」

キュピルがカプセルを開けて中を見る。
・・暴れないように腕を固定する固定具。
特に誰か入っていたような形式はなく別に不自然な点はなかった。

キュピル
「気のせいじゃないのか?」
ジェスター
「えー。だって私カプセルに落書きしたもーん」
キュピル
「って、こら!落書きしたのか!」
ジェスター
「あ、嫌な予感。わぁ〜〜〜」

ジェスターが逃げ出したのでキュピルも追いかけた。
全く、本当は構ってもらいたいだけなんじゃ?



ルシアン
「来たよ!キュピルー!って、あれ?鬼ごっこしてるの?僕も混ぜて!!」
ヘル
「・・・本当にあの金髪小僧はエリートなのか?」
テルミット
「ちょ、ちょっと僕も心配になってきました。アハハ・・・」
ファン
「キュピルさん・・行きましょう」
キュピル
「おっと、そうだった。こんな事してる場合じゃなかったな。
ジェスター。準備は出来てるか?」
ジェスター
「うん。私はいつでも大丈夫だよ。」
キュピル
「よし、蝶の木へ行こう。時間は・・・二時か。まだいける」

生命の水がたっぷり入ったボトルを背負い蝶の木へと向かう。




==道中

キュピル
「そういえばルシアン君。ボリスの容態はどうなんだ?」
ルシアン
「うん・・・。アイゾウム先生によるとやっぱりすぐには原因究明することはできないみたい・・」
ヘル
「まぁ当然と言えば当然だったかもしれないな・・・。」
テルミット
「ですけど拠点内には精密検査をする機器が沢山あるので究明することはできると仰っていました」
キュピル
「何とかして早くアイゾウム先生には治療方法を見つけて貰わないとな」
ジェスター
「・・・・ルイのあの症状も治るかな・・?」
キュピル
「ルイは・・・・ちょっと特殊だった。正直同じ方法で治るとは思えない」

ダークルイになった姿を思い出す。
・・・おぞましい姿だった・・・。
誰が見ても化け物と言っただろう・・・。

ルシアン
「ゆっくりしてたら日が暮れちゃう・・。スピードアップをかけるよ!」

ルシアンが風魔法、スピードアップを全員にかけ移動速度を速める。
ルシアンは元々走るのが好きらしく皆の歩き速度に走ってついていった。



==蝶の木・最深部


ヘル
「また巨剣を投げるぞ。投げたら飛び乗ってくれ」
キュピル
「わかった」

先にキュピルとジェスターが乗り次にファンとテルミット。
そして何回か失敗したがルシアンが乗り最後にヘルが壁を乗り越えてやってきた。

真っ二つに割れていたはずの蝶の木が再生されていて元に戻っていた。
しかし汚染されたままで辺りに無数の触手が待ち構えていた。

キュピル
「気をつけろ。もし触手に見つかったら第二のダークルイになってしまうかもしれない・・。
そうなるまえに早くあの蝶の木を浄化するぞ」
ルシアン
「僕前にも浄化したことあるからどこに流し込めばいいのか知ってるよ!」
キュピル
「よし、なら俺が水を注ぐ。ルシアン君は場所を教えてくれ。あとサポートもよろしく頼む」
ルシアン
「へへっ、任せて頂戴」
ヘル
「キュピルさん。俺もサポートします」
キュピル
「頼む」
テルミット
「僕も離れた所で巨弓で触手を撃ち落とします」
ジェスター
「もし誰か怪我したら私のところに来て〜。ポーション一杯あるよ〜」
ファン
「万が一動けないのであれば僕がミニテレポートで助けに行きます」
キュピル
「おっと、これ以上話している余裕はないみたいだ」

触手が更に増え捕まえようと何本も触手が伸びてきた!!

キュピル
「みんな!!一大決戦だ!気合を入れて行くぞ!!」

全員が「おっー!」と叫びキュピルとルシアンとヘルが突撃していった。

ルシアン
「いきなりこんなたくさんの触手が!皆僕が斬り落としてやる!
シルフカッター!!」

剣に風をこめ一つの玉を飛ばす。その玉が触手にぶつかり
突風を巻き起こした。突風に巻き込まれた触手は竜巻の中で発生した無数の空気の刃に切り刻まれた。

ヘル
「なにっ・・・。これがアクシピターのエリートの実力か・・・?」
ルシアン
「ワーッハッハッハ。どんどんいくぞ〜」
キュピル
「ルシアン君。あまり調子に乗らない方がいい」
ルシアン
「むぅ・・・よくボリスにも言われるよ。」
キュピル
「それで何処に水を注ぎ込めばいい?」
ルシアン
「水は順番に注ぎ込まないといけないんだ。
じゃないと水が早く蒸発しちゃって浄化できないんだ。
あの四つの窪みに全ての生命の水を注ぎ込むと浄化完了!まずはあの窪みに注ぎ込むよ!」
キュピル
「・・・って、蝶の木に一番近い場所じゃないか!」
ルシアン
「でもここじゃないといけないよ」
キュピル
「ちくしょう、やってやる!」

生命の水が入ったタンクを背負ったまま接近していく。

テルミット
「バルクショット!!」

テルミットが一秒間に弓を10本放つ。
全て一本の触手に命中し千切れて地面に落ちた。


ヘル
「キュピル!左右から触手が同時に来るぞ!」
キュピル
「くっ!」
ルシアン
「チャンスガード!」
キュピル
「緊急回避ーーーー!!」

ルシアンが持っていた盾で触手の攻撃を防ぐ。
キュピルは前方にダイブして足元に飛んできた触手の攻撃を回避。
ヘルは襲いかかってきた触手を斬り落とした。

キュピル
「生命の水、放水開始!」

窪みにたっぷりと生命の水を注ぎ込む。

キュピル
「次は!?」
ルシアン
「向こうだよ!」
キュピル
「げぇっ。あんな高い石畳の上に注ぎ込まないといけないのかよ!」
ファン
「ミニテレポートを詠唱します!」

ファンがミニテレポートの詠唱を始めた。
ファンの詠唱に反応し触手が一本飛んできた。

テルミット
「シャドーショット!」

テルミットが触手の影に矢を突き刺した。
その瞬間触手の動きがピタリと止まった。

ジェスター
「わあああぁぁ!!」

止まった触手にジェスターがガンガン鉄の棍棒で殴り触手を折る。

ジェスター
「むぅー!!」
ファン
「ミニテレポート詠唱完了です!」

ミニテレポートをキュピルにかけ高い石畳の上へとテレポートさせる。

キュピル
「放水開始!」
ルシアン
「キュピル!モスが一杯来た!!」
キュピル
「なにっ!?」

すぐ目の前にモスが一杯飛んで来ていた。
毒粉を一杯撒き散らそうとしている!
撒き散らす前に生命の水をモスに放水し弾き飛ばした。
弾き飛ばされたモスは普通の蝶に戻りどこか飛んで行った。

ルシアン
「召雷剣!!」

剣から力強い雷を放つ。
飛んでいたモスを撃ち落とす。
だが四方向からモスがドンドン飛んできて落としても落としてもきりがない。

ヘル
「テルネット!!」
テルネット
「わかった!」

ヘルがテルネットに巨剣を投げる。
その巨剣の上にテルネットがのっかり巨剣が天に向かって飛んでいく。

そして巨剣の上からテルネットがジャンプし弓を天に向ける。

テルネット
「ジャッジメントオール!!」

暗雲に矢を何本も放つ。一体何本放ったのかわからない。
そしてその数秒後に雷を纏った無数の矢が全てのモスに命中し撃ち落とした!!

ルシアン
「わぁ!凄いね!今度僕にも教えてよ!」
テルネット
「これ凄く難しい技だけど今度またクエストショップに来たら教えてあげるよ」
ルシアン
「よーし、まずはこの状況を切り抜けるぞ〜!」

ルシアンが一層はりきって戦い始めた。
だが調子に乗り始めている。

キュピル
「生命の水を注ぎ込んだぞ!次はどこだ!?」
ルシアン
「向こうだよ!」
キュピル
「向こうじゃわからん!」

キュピルが高い石畳の上から飛び降りる。

ルシアン
「こっち!」

ルシアンが走る。
だが目的の場所へ走ってる最中触手が飛んできてルシアンの背中を思いっきり叩く

ルシアン
「いたっ!」
キュピル
「・・!生命の水放水!」

ルシアンの背中に生命の水をかける。
傷が癒えた。

キュピル
「この生命の水には傷をいやす効果がある。奇病の心配はしなくていい」
ルシアン
「いてて・・・。ありがとう。次から気をつけるよ」
ヘル
「おい、そんなこと話してないで早く行け!アクシピターのエリートボーイ!」

ヘルが必死に触手を斬り落としている。
斬っても斬ってもきりがないから大変だ。

ルシアン
「この窪みに生命の水をそそぎこんで!」
キュピル
「よし!」

キュピルが放水を始める。
だが放水している途中蝶の木に異変が現れた。
突然闇の力が強くなり全員に暗黒魔法のブラインドがかかる。

ジェスター
「ま、前が見えない〜〜〜!!」
キュピル
「ファン!バリアでジェスターを守ってくれ!」
ファン
「わかりました!」

感覚に身を任せジェスターにバリアを張る。
キュピルも感覚と勘に頼って放水を続ける。
しばらくするとブラインド状態が解除された。

キュピル
「どうなった?」
ルシアン
「うわっ!危ない!」

前が見えるようになった瞬間先端が鋭い触手が突き刺そうとしてきた!

キュピル
「一閃!」

キュピルがジャンプして攻撃を回避し触手を斬り落とした。

ルシアン
「わお、凄いや」
キュピル
「伊達に戦っているわけじゃないから。さぁ、注いだぞ。最後だ!」
ルシアン
「急いで!一つ目の窪みに注いだ生命の水があと少しでなくなっちゃう!そしたらやり直しだよ!
最後の窪みは向こう!」
キュピル
「くそっ!凄い遠いな!触手に構わず走るぞ!援護を頼む!!」

キュピルが残り少なくなった生命の水が入ったタンクを手に持って走る。
左手にはタンク、右手には剣だ。

全触手がキュピルの行く手を阻もうと妨害を始めた。

ヘル
「我が主人に手出しはさせん!バーニングアース!!!」

ヘルが思いっきり叫び巨剣を地面に突き刺す。
突き刺した瞬間あちこちの地面から火柱が立ち触手を焼きつくした。

ジェスター
「キュピルを守る〜!!」

ジェスターが前に出て一本の触手を殴り始める。

ファン
「メガバースト!!」

ファンも魔法を唱えて援護する。

こんなにも沢山の人が援護しているにも関わらず
前方にまだ触手が沢山残っている。これでは前に進む事が出来ない!!

ルシアン
「ラグランジュの神速剣!」

ルシアンが何かの魔法を詠唱し攻撃速度速める。

ルシアン
「エスケープ!」

キュピルの目の前に移動する。

ルシアン
「円舞!!!」

円斬りに連を組み合わせた強力な範囲攻撃を繰り出す。
前方にいた全ての触手全てスライスされた。

キュピル
「ありがとう!」

最後の窪みに生命の水を注ぎ始めた。
注ぎ始めた瞬間蝶の木がまだ強烈な闇の魔法を発動してきた!
ポイズンを発動し直接キュピルを毒状態にする。

キュピル
「ぐっ・・・」

体が急に重くなった。しかし後は注ぐだけなんだ・・・!!
体が倒れても放水は続ける。
一本の触手がキュピルを突き刺そうとしてきた!!

ルシアン
「殺!!」

触手を突きキュピルを守る。

キュピル
「・・・・よしっ・・!!」

全ての窪みに生命の水を注いだ。
その瞬間全ての触手が暴れだし
蝶の木から謎の悲鳴が聞こえた。




グオオオオッッッーーーーー





まるで怪物の断末魔だ。
その光景を全員息を飲んで見守る。

そしてしばらくすると辺りに闇は消え・・・

元の蝶の木に戻った。





ルシアン
「やった・・!!イヤッホ〜〜〜!!!!」

ルシアンが飛び跳ねる。

ルシアン
「やったよ!!蝶の木が元に戻ったよ!!」
ヘル
「・・・テルミット。綺麗な木だと思わないか?」
テルミット
「僕もそう思います。・・・これが本当の姿なんですね」
ヘル
「さっきまでの醜い姿が嘘のようだ。」
ジェスター
「あ、蝶々も戻ってきたよ〜」

綺麗な蝶々が沢山集まってきた。

ファン
「・・・計器に反応なし。さっきまで空気中に沢山の病原菌が飛んでいたのに急に死滅しました。
もうガスマスクを外しても問題ないですよ」

全員ガスマスクを外す。

キュピル
「・・・ちょ・・・ちょい・・・誰か毒消しを・・・。苦しい・・・」
ファン
「今キュアをかけます!」
ジェスター
「奇病じゃないよね?」
ファン
「ただの毒みたいです。キュアで治りますよ」

ファンがキュアを詠唱し治療する。

キュピル
「ありがとう。あー、辛かった。」
ルシアン
「クラドはどうなったのかな?」
ヘル
「原因となっていた元を立ち切ったんだ。
跡はアイゾウム先生が治療方法を発見すればクラドも復活するだろう」
テルミット
「凄く大変でしたけどやりましたね」
キュピル
「よし、拠点に戻ろう。」





==ルシアンの拠点


ルシアン
「先生ー!治療方法は見つかった!?」
ボリス
「・・ルシアン!」
ルシアン
「あ、ボリス!!」

ルシアンがボリスの傍にかけよる

ルシアン
「どうしたの?元気になった!?」
ボリス
「ああ・・・。アイゾウム先生が治療方法を見つけてくれた。ルシアン、大丈夫だったか?」
ルシアン
「キュピル達に手伝ってもらったけどこの難事件を解決したよ!!」
キュピル
「初めましてかな?ボリスさん。噂は聞いていますよ。」
ボリス
「初めまして。こちらも色々噂を伺っています。若きクエストショップのオーナーとして」

二人とも握手をする。

ボリス
「ルシアンが迷惑をかけていたら申し訳ない」
ルシアン
「ちょっと、それって言う事?」
ヘル
「・・・ルシアンは強かった。もしかすると俺より強いかもしれんな・・・」
ルシアン
「あったりまえじゃんー。ワーハッハッハ!」
ヘル
「・・その性格だけは仇になりそうだけどな」

ヘルが苦笑いする。

テルミット
「アイゾウム先生。治療方法を見つけたんですね」
アイゾウム先生
「ええ。元々ウィルスに魔法がかかっていただけの物だと分ったので
抗生物質に魔法解除を付加させてみました。それが正解だったようですね」
ファン
「クラドの人たちはその治療を施せば治りますか?」
アイゾウム先生
「すぐに治りますよ。ここに薬があるので早く飲ませてあげてください」
ジェスター
「・・・え?のませるの?」
アイゾウム先生
「内側の病気を治すにはこれが一番早いので・・」
ヘル
「・・・やれやれ。あの激昂状態の奴等を抑えて飲ませなきゃいけないのか・・・
これは蝶の木より大変かもしれないな・・・」
テルミット
「アハハ・・・」



その後、まる一日かけてクラドの人たち全員に薬を飲ませた。
クラドは無事復活し閉鎖も解除された。



・・・しかしダークルイは見つからなかった。







==ジェスターのクエストショップ

政府みたいな人
「よくぞやってくれた!君はシャドウ&アッシュとアクシピターでは成しえなかった事をやってくれた!」
キュピル
「いや、アクシピターの人に少し手伝ってもらいました。
・・・・それに・・残念ですが・・完全に被害がなかったわけでもありません・・・」
政府みたいな人
「・・・その件は非常に残念だった。・・・報酬についてだが」
キュピル
「一定の資金と名声を頂ければそれで結構です」
政府みたいな人
「いやいや、それだけじゃ流石に労に見合わないだろうと思ってな。
君達にプレゼントを用意した」
キュピル
「プレゼント?」
政府みたいな人
「外を見たまえ」

キュピルが立ちあがり窓から外を見る。
・・・なんか巨大なコンテナが・・・。

キュピル
「・・・って、これクラドの近くにおいてあったあのコンテナで出来た拠点じゃないですか!?」
政府みたいな人
「これを君にプレゼントしよう。移動が可能だから遠くに行く時きっと役に立ってくれるはずだ」
キュピル
「・・・いや、しかしこんな大きな物・・・置くスペースが・・・」
政府みたいな人
「そう言うだろうと思ってナルビクの市役所に既に通してある。
・・・コンテナを置くスペースに加え、来週までには更に隣の空き地が使えるようになるはずだ」
キュピル
「と、隣の空き地ですか!?」
政府みたいな人
「うむ。これから人数も増えるだろうと思ってな。適当にクエストショップを拡張させたまえ」
キュピル
「あ、ありがとうございます!!」

こんな凄い報酬が来るとは夢にも思っていなかった。

政府みたいな人
「それでは私は失礼するよ。君達の今後の活躍に期待している」
キュピル
「より一層頑張ります」


そういって政府みたいな人は店から出て行った。


キュピル
「・・・・皆ーー!!聞いてくれーーー!!!」











政府みたいな人
「・・・見事キュピルが証拠を抹殺してくれました」
???
「・・・奴はこれからも利用できそうだ」
政府みたいな人
「・・・それで、実験体・・一号はどうですか?」
???
「良好だ。これから我々の力になってくれるだろう」
政府みたいな人
「ふふ・・・皮肉なものですな。・・奴が頑張ったおかげでクラドの件は民衆に触れず・・・
そして一号・・いや、ルイでしたかな?ルイは我々の手に堕ちたのですから」
???
「全くだ。・・・奴のクエストショップに十分な報酬を与えたか?」
政府みたいな人
「十分すぎる程与えました。・・・我々の目論見通り更に拡張し人員を増やすでしょう。
・・・ルイを探すために、そして奴・・・ギーンに頼まれたものを探すために。」
???
「ギーンめ・・・。・・・まぁいい。これからも活躍を期待している。
くれぐれもキュピルはまだ潰すな。奴に悟られないように利用しつづけるのだ」
政府みたいな人
「はっ・・・」






???
「・・・一号」
ダークルイ
「・・・・・?」

緑色の培養液が入った透明のケースにダークルイが入っている。
意識ははっきりしているが何故自分がここにいるかわからないようだ。

???
「・・なに、すぐに出番がくる・・・。それまでそのままでいるといい・・・」
ダークルイ
「・・・・・」

何故か言いようのない安心感が湧きダークルイが目を閉じて眠り始める。












マキシミン
「あぁ!?なんだ!?あいつのクエストショップ改築を始めたぞ!?」
イスピン
「まだ一カ月そこらしか経ってないのに」
マキシミン
「ははん・・・さては潰れたか?元に戻すための改築か?」
イスピン
「・・・僕の目からはそんな風には見えないけど?だって隣の空き地に新しい建物を建てるみたいだよ?」
マキシミン
「・・・ちっ、きにいらねー!」





一週間後。


クエストショップは今より大きくなり・・・
人員の募集を始めた。


続く



第七話



ジェスター
「わぁ〜クエストショップも広くなったね〜!」
キュピル
「うむ。近くの空き地に新しい建物を作って今あるクエストショップと合体させた。
だから相当広くなっている。今までは受付スペースしかなかったが
関係者専用の部屋と何人かここで泊まれるようになった」
ヘル
「ということは俺達はここで寝る事が出来るということか・・」
テルミット
「でも夏場ですからそんなに必要ないと言えば必要ないですけど使わせてもらいます」
ファン
「ちなみに向こうの扉を通りますと蝶の木の事件で使ったあのコンテナ型の拠点に入る事が出来ます。
もしまた危険地帯に行く事があるようでしたらあのコンテナに乗って目的地まで移動しましょう」
キュピル
「・・・どうやって移動するんだ?・・・タイヤはついてないしな・・」
ファン
「ワープです」
キュピル
「久々に魔法の便利さを思い知った」
ファン
「ですが流石に大きいのでワープするのにエネルギーをチャージする必要があります。
・・・・まるまる一日チャージする必要があるので機動性は皆無です」
キュピル
「移動できるだけで十分だ。」

コンテナ型の拠点からヘルとテルミットがやってきた。

テルミット
「ファンさん。整備全て終わりました」
ファン
「御苦労さまです」
ジェスター
「んー?何やってたの?」
テルミット
「ファンさんに頼まれて機械の整備を行っていました」
ヘル
「テルミットが機械に強いとは全く思わなかった。」
テルミット
「アハハ・・・。ファンさんと比べたら足元にも及びませんけど少しの自信はありますよ」
ジェスター
「何だか近代的〜」
キュピル
「魔法・・というよりは科学だな」
ジェスター
「でもこんなにクエストショップが広くなったのに家は大きくしないんだね」
キュピル
「広くなったのはいいが土地代が余計高くなって絶賛赤字中」
ジェスター
「えー!わー、もうだめだ〜!」
キュピル
「・・・そんな悲観するな・・。」
ファン
「そういえばキュピルさん。人員の募集を行っていますよね?」
キュピル
「ん?そうだな」
ファン
「普通に街中で募集しているのですか?」
キュピル
「・・いや、大々的に募集はかけない。俺が筋のいい人を見つけてスカウトをかける。
だから一気に人は増えないが徐々に実力のある者を連れてくる予定だ」
ファン
「なるほど、わかりました」
テルミット
「これから僕達に後輩ができるんですね」
ヘル
「俺の管轄に置いた奴は可哀相だな。みっちりしごかれるな」
テルミット
「ヘルさんより強かったりして・・」
ヘル
「・・・テルミット。今何か行ったか?」
テルミット
「僕は何も言っていませんよ」
キュピル
「(嘘だ・・・)」

ファン
「・・・そういえば、ここ受付の部屋の隅に結構立派な机が四つあるのですがあれは何ですか?」
キュピル
「これからきっと書類の手続きで忙しくなるだろうと思って作業用スペースを用意したんだ。
ここの机は俺の机だ。そしてここがジェスターの机」
ジェスター
「おー、立派〜」
キュピル
「そしてこれがファンの机」
ファン
「活用させてもらいます」
ヘル
「残り一個の机は誰のだ?」
テルミット
「ヘルさんか僕でしょうか?・・・でも僕達は上層部の仕事には関わっていないので違いますね・・」
キュピル
「ここの机は・・・ルイの机だ。」

あの日からルイは消え行方も分らなくなった・・・。

キュピル
「絶対ルイは生きて帰ってくる。そう信じてルイの分も用意したんだ。」
ジェスター
「・・信じてるんだね」
キュピル
「当たり前だ。もし帰って来なかったら死んだあと請求書叩きだしてやるぜ」

キュピルが笑って言い釣られて他の何人かも笑い和やかなムードになる。

キュピル
「さぁ、そろそろ店を開けるぞー。」

キュピルがボタンを一つ押してシャッターを開ける。
開けた瞬間何人かの依頼者が入ってきた。
キュピルとファンが受付を務める。

内容は特に労のかかるものはなくアイテムの収集や下級モンスターの討伐がメインだった。
キュピルやヘル、テルミットが出撃し依頼をこなしていった。
・・・あの主婦のおばちゃんが来た時はこっそり冷蔵庫からゼリークリームを出したのは秘密だ。



==昼間

キュピル
「行き先上場」
ジェスター
「ふんふんふ〜ん♪」

ジェスターが自分の新しい机で何かやってる。
・・・折り紙で遊んでいる。まぁジェスターに戦闘面以外での仕事は要求していない。


ガチャ

キュピル
「おっと、ようこそ」
ルシアン
「遊びに来たよ!」
ボリス
「お邪魔します」
テルミット
「あ、ルシアン君!」
キュピル
「おぉ、いつぞやの。」
ボリス
「アクシピターの仕事が一息ついたので少し寄らせてもらいました」
キュピル
「まぁゆっくりしていってくれよ」

あの一件以来、この二人とは異様に仲がよくなった。

ルシアン
「わー、凄いね!なんか前と比べたら立派になったね」
テルミット
「あの一件で僕達は凄い有名人になりましたから」
キュピル
「ルシアン君達の方の報酬はどうだった?」
ルシアン
「うん・・・僕達はあくまでもアクシピターに属しているだけだから
多くのギルドポイントを貰ったのといつもより多めに報酬金を貰っただけだったよ」
ボリス
「ルシアン・・・そこは仕方ない。」
ルシアン
「でも多くのギルドポイント貰えたのは嬉しいな!あのムカつく三人をぎゃふんを言わせたし!」

一体誰の事を言ってるのかわからないが嬉しそうなのは事実だ。

ルシアン
「テルミットはちゃんとお給料貰った?」
キュピル
「ギクッ」
テルミット
「アハハ・・・。僕達は元々お金のためにこのクエストショップについたわけじゃないので」
キュピル
「い、一応100K程は・・・。」

貰った総額から考えるとあまりにも少ない。

キュピル
「・・・次からもっとあげれるよう頑張る・・」
テルミット
「気にしないでください」
ボリス
「そういえば巨剣を背負った人は・・?」
キュピル
「ヘルの事か。彼は今出撃中だ。そこのボードに出撃状況が書かれてる」

壁にくっついているホワイトボートに

『キュピル=待機中』
『ジェスター=待機中』
『ファン=作業中』
『ルイ=長期出撃中』
『テルミット=待機中
『ヘル=出撃中』

っと書かれている。

ボリス
「・・これはお客さんが見てもあまり意味のないような気もしますが・・」
キュピル
「ま、まぁ・・・俺が把握しやすいから」
ボリス
「相変わらずですね」

ルシアン
「いいなー。アクシピターと違ってこっちは皆仲がよくて」
テルミット
「アクシピターに嫌な人でもいるんですか?」
ルシアン
「一杯いるよ。変な奴もいるし・・・。でも皆嫌いなわけじゃないけどね。
・・・あ、そうだ!ボリス〜。こっちに所属するってのはどうー!?」
ボリス
「ルシアン・・・。お父さんとの約束を忘れたのか?
ラグランジュの跡を継ぐためにアクシピターで好成績をあげて・・っていう話を」
キュピル
「無理はしないほうがいい。」
ルシアン
「うーん・・残念だなぁー・・」
ボリス
「ルシアン。そろそろアクシピターに戻った方が良い」
ルシアン
「そうだね。それじゃまた今度遊びに来るよ!」
テルミット
「いつでも待ってます」


そういってルシアンとボリスはクエストショップから出て行った。
その10秒後。ちょうどすれ違いでヘルが帰ってきた。

ヘル
「依頼を達成させた。」
キュピル
「お疲れ様。残りの手続きは全部こっちでやっておくよ」
ヘル
「助かります」
ジェスター
「ヘルは待機中〜」

ジェスターが掛札をひっくりかえして出撃中から待機中に変えた。

キュピル
「(ふぅ、大きくなっても客の出入りが変わらなかったらどうしようかと思ったがそんな事はないみたいだな)」


今のところ物事は順調に動いていた。






==数日後


ある時キュピルに一通の手紙が届いた。
・・・いや、手紙というよりは・・和紙・・・?

キュピル
「・・・これはまた珍しい依頼だ・・」
ジェスター
「んー?」
キュピル
「今クエストショップ宛てに手紙が届いたんだがちょっと特殊な依頼だ。」
ジェスター
「どんな内容なの?」
キュピル
「何だかクエストショップにいる人たちと一戦交えたいらしい・・」
ヘル
「いい度胸だ。」
テルミット
「確かに変わった依頼ですね・・・」
キュピル
「一応全員で来るようにと書いてあるな。ひとまずそんな時間もかからないだろうし行ってみようか。」
ファン
「僕は戦えませんけど大丈夫でしょうか?」
キュピル
「大丈夫だろう。恐らく実際に戦うのは俺とヘルとテルミットだけだろう」
ジェスター
「あれ?私は?」
キュピル
「いけるか?」
ジェスター
「私は世界で一番つよーい!!」
ヘル
「(・・・いや、それはないはずだ・・)」
ファン
「場所はどこなんですか?」
キュピル
「そうだ、場所は・・・。・・・紅の林にある道場・・・?
あそこに道場なんてあったっけ?」
ファン
「・・・記憶にありません」
テルミット
「紅の林にある道場・・・」
キュピル
「知っているのか!?雷電!」

テルミット
「一応噂には・・・」
ヘル
「行こう」
キュピル
「台詞盗られた、もう駄目だ」





==紅の林


敵の攻撃を掻い潜り手紙に記された道場を目指す。
・・・しかし走っても走っても林の中を彷徨うだけで一向に目的地にたどり着く気配が無い

キュピル
「どういうことだ?」
ファン
「手紙に記された道はどうなっているんですか?」
キュピル
「・・・実は既に目的地に辿りついているはずなんだ」
ヘル
「・・・と、いうとだ?」
キュピル
「今俺達はここにいる」

キュピルが指で示す。

キュピル
「ここからずーっと、こっちまで歩いてきてここまできた。
・・・さて、どう思う?」
ジェスター
「ゴールだね。でも道場ないよー?」
ファン
「・・まさか悪戯・・・でしょうか?」
テルミット
「あー!ちょっとそれ僕も思ってましたけどまさか本当に悪戯だったなんて!」
キュピル
「これは酷い営業妨害。いますぐけちょんけちょんに説教してやる。帰るぞ〜!」


「・・・はぁ、やれやれ・・。どれくらい強いのかと思ったら・・こんなのも見破れないなんて・・」

突然何処からともなく声が聞こえ全員足を止めた。

ヘル
「・・・!?そこか!!」

ヘルが巨剣を投げ飛ばす。突然巨剣が何もない所で止まった。

「貴方は見破ったようね」
ヘル
「ふんっ!」

ヘルが巨剣に魔力を流し幻術を破る。
突然何もない所から赤い道場が現れた!

キュピル
「な、なんということだ。あんな場所に道場があったとは・・」
ジェスター
「すごーい!」
テルミット
「・・・全然気付きませんでした」

「上がりなさい。・・師匠がお待ちよ」

全員少し腹を立てながら道場の中に入る。





==赤い道場

キュピル
「失礼します」

中に入ると一面畳で敷き詰められていた。
入口のところに短髪で赤い髪の女性が一人立っていた。


赤い髪の女性
「土足厳禁よ。」
ジェスター
「はーい」

ジェスターが素直に言うことを聞いて靴を脱ぐ。
全員一回顔を見合わせた後靴を脱いで畳に上がった。

ヘル
「手紙を出したのは君か?」
赤い髪の女性
「私の師匠よ。あそこに今座ってらっしゃるわ」

赤い髪の女性が部屋の奥を示した。
・・・刀を抱いて座禅している赤い髪の女性がもう一人居た。
赤と白色の和服を着ていて自分の腰の所まで髪が下がっていた。
ありゃ髪を降ろしたジェスターよりも長いな・・・。

キュピルが依頼主に近づく。
が、近づいた瞬間突然足元から竹槍が飛んできた!!

キュピル
「うおっ!」

かろうじて回避したがもし回避できなかったら・・・今頃足に突き刺さっていただろう。

赤い髪の女性
「師匠は瞑想中よ。近づいたら罠を発動させるわよ!」
ヘル
「ふざけてるのか!」
テルミット
「ヘルさん。落ち着いて。」
和服を着た女性
「・・静かに。」

全員しばらく黙るがその後一向に話が進まない。

ジェスター
「つまんなーい!」
キュピル
「・・・わかったぞ」

キュピルも座り座禅を始めた。
その瞬間和服を着た女性が一瞬ピクリと動きまた止まってしまった。

・・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

10分ほどが経過した。

二人とも全く動かない。
しばらくすると和服をきた女性の人が立ちあがった。

和服を着た女性
「よくぞ参られた。して、そなたがキュピルか?」
キュピル
「瞑想中だ。」
和服を着た女性
「ほぉ・・・」

不敵な笑みをあげる。
キュピルも立ちあがる

キュピル
「間違いなく、俺がキュピルだ。して・・何用で俺達に挑戦状を?」
和服を着た女性
「・・・こんな辺境な所にもお主らの噂は来ていてな。いかほどの実力かと思って呼んだ。
噂にそぐわない実力を持っているであろうな?」
ヘル
「変な喋り方だ。キュピルさんが出るほどの事じゃない。俺がこいつを片付ける」

ヘルが前に出る。

キュピル
「どれ、ここは部下の実力を一つ見させてもらおうか」

キュピルがニヤニヤ笑いながら言う。
その一言にヘルの士気が上昇する。

和服を着た女性
「・・・お主。名は何と言う」
ヘル
「ヘルだ。名字はない」
和服を着た女性
「・・ほぉ。」
ヘル
「貴様は?」
赤い髪の女性
「言葉を慎みなさい!!さっきから好き勝手言って!!」
和服を着た女性
「まぁ良い。・・・私の名は『輝月(きつき)』・・三代目だ。」

ジェスター
「下から読んでも上から読んでもきつきだよ?」
ファン
「名前で遊ばないでください・・・」

輝月
「・・・して、一人目の対戦相手はヘル。お主でよいのだな?」
ヘル
「上等だ。いつでも受けてやる」
輝月
「逃げるなら今のうちじゃぞ?」
ヘル
「何だと!?くそ、女の癖に生意気な」

ジェスター
「今私も否定された気がする」
キュピル
「気のせいだよ」

輝月
「・・・剣を抜け」


二人とも間合いを空け武器を構える。

キュピル
「じっくり観戦させてもらおうか」

胡坐をかくキュピル。

テルミット
「輝月って人は刀を使うんですね・・」
キュピル
「一時期俺も刀を使っていた時期があったが最近はパワー勝ちしやすい剣を使っているな。
それに俺の愛用の武器は剣だしな」

輝月が抱いていた刀を抜き構える。
その構えはまるで剣道のようだった。

キュピル
「・・・」



真っ先に動きだしのはヘルだった。
まずは一番最初に巨剣を投げて様子を見る
しかし輝月が刀を一振りし巨剣を斬った!!

ヘル
「なにっ」

ヘルが巨剣を呼び戻す。その際巨剣はくっついた。

輝月
「どうした・・?それで終わりじゃなかろうな?」
ヘル
「当たり前だ!」

ヘルが前に飛び出て攻撃する。
縦斬り、横斬り、袈裟斬り、逆袈裟・・・。
息もつかせぬ連続攻撃!

ところが輝月が横に一度ステップし攻撃を全て回避した。

キュピル
「よく見ている」
ファン
「冷静ですね」

輝月の刀がヘルの横っ腹めがけて突いた!!

ヘル
「甘い!」

ヘルがその場でクルッと周り回転切りを仕掛ける。
輝月の刀を弾く。
そしてすぐに接近し輝月の腹目がけて蹴りを繰り出した!
蹴りが命中すると思われたがその0.5秒後に突然輝月が消えヘルの背後に現れた!

ヘル
「!」
輝月
「・・・・」

輝月が思いっきりヘルを背中から斬った。
綺麗に攻撃が入り深い所まで斬られた。

ヘル
「ちっ!」

しかしこの程度でくたばるヘルではなかった。
すぐに向き直って必殺技を繰り出した。

ヘル
「いくぞ!」

ヘルが巨剣の上に乗ってサーフィンボードのように道場の中を飛んでいく。
そして屋根の所まで飛んでいくと巨剣から降り沢山の幻影の巨剣を投げ飛ばしまくった!

全ての足場に幻影の巨剣が落ち着弾してその一秒後に爆発を起こした!

テルミット
「これは避けようがありません」
キュピル
「新しい技だな。しかし俺はすぐにこの技の弱点を見抜いた」
テルミット
「え?」


ヘル
「どうだ!」
輝月
「お主、それで本気か?」
ヘル
「な!?」

またしてもヘルの背中に輝月がいた。
一見完璧な技に見えたが輝月が先に攻撃を先読みし武器を投げられる前に
ヘルの後ろへと回り飛んだのだ。

輝月
「五花月光斬」

刀で月を描き一瞬に連続斬りを加えた。
月が乱れ最後に破片となって割れ更にヘルを襲った。

キュピル
「マキシミンの技より更に完成度が高いな・・・」


空中で致命的なダメージを受けヘルがそのまま落下して畳の上に落ちた。

輝月
「この者はもう戦えまい。ほれ、次の者は誰ぞ?」3
ジェスター
「ヘルがそんなんでくたばるわけないよ〜」

ところがヘルが動かない。

キュピル
「・・・ジェスター。輝月は冷静に物事を捉えて戦っているだけじゃなく
その威力もヘルに負けない物がある。・・・・その秘密を探らないといけない」
テルミット
「僕が行きましょう」

テルミットが巨弓を構えて前に出た。
ファンとジェスターがヘルを端に運んで行った。

テルミット
「よろしくお願いします!」

深くお辞儀をする。

輝月
「ほぉ・・試合の前のお辞儀か。そなたのような好意ある者は久しいぞ」
テルミット
「(一体この人はどんな挑発を売ってきたんでしょうか・・・)」
輝月
「どこからでもかかってくるがよい」

輝月が刀を構え直す。

テルミット
「では遠慮なく行かせてもらいます!」

テルミットが一度に矢を10本セットし拡散させながら矢を放った!
しかし輝月が全て刀で真っ二つにしてしまった。
ところが今度は電球を纏った矢が高速で輝月めがけて飛んで行った!!
さっきとは比較にならない程高速だっため輝月が横へステップして避けた。
横へ回避した瞬間テルミットが先読みして輝月の影へ矢を放った。
見事に輝月の影に矢が刺さり動きを封じた。

輝月
「影縫いとな・・?」
テルミット
「行きます!!」

テルミットが天へ向けて矢を放った。

テルミット
「ジャッジメントショット!!」

屋根を突き抜けて矢が飛んで行きそして雷を纏って矢が落ちてきた!!

輝月
「反!」

輝月が刀で何か文字を描く。あれは・・・術だ。
文字を描き終わるとその瞬間輝月の周囲に薄い膜が出来た。

ファン
「あれはバリアですね」
キュピル
「魔法とはまたちょっと違うバリアだ。一体どういう効果があるか・・」

雷を纏った矢が反という名で作られたバリアによって弾かれ
なんとテルミットめがけて飛んできた!!

テルミット
「うわっ!」

テルミットが横に転がって避ける。
ところが輝月がすぐにテルミット目がけて飛んできた!

ジェスター
「あれ!?影縫いされたんじゃなかったの!?」
ファン
「効力はまだ続いていたはずです!
キュピル
「良く見るんだ。あの反とかいう術で影縫いの矢も弾き飛ばしている」

よくみると刺さっていたと思われる場所から矢が消えていた。
万能ともいえる技だ・・・・。

輝月
「そなたは中々面白い技を放った。本当はもっと戦いたかったが
容赦すればきっと私が危うくなるだろう。一閃!」
キュピル
「・・・!」

一瞬キュピルの目が大きく見開いた。
・・・一閃?

キュピルの技と酷似した攻撃を輝月は繰り出した。
しかしキュピルと比べると輝月の方が華麗で何よりも素早かった。

テルミット
「まだやられる訳にはいきません!」

テルミットが輝月に一本の矢を直接投げてカウンターを計った!
輝月の腕に一本矢が刺さるが全く怯まずそのまま一閃を繰り出した。
大きくテルミットが吹き飛びそのまま気絶してしまった。

輝月
「次は誰ぞ?」
ジェスター
「私ー!!!」
輝月
「・・・女子(おなご)か。やめたほうがいいぞ?」
ジェスター
「あー、私を舐めると痛い目に会うよー?」
キュピル
「最近ジェスターが戦っている姿はあまり見ていなかったからな。
少し見物させてもらおうかな。・・・でもジェスター。無理するな。痛かったらすぐ降参しろ」
ジェスター
「皆私を甘く見てるーー!!」
ファン
「キュピルさん。ジェスターさんの武器は僕が作ってあげた特製の武器です。
・・・あのお決まりの技が決まれば誰でも一撃で倒れるはずです」
キュピル
「久々にチートジェスター。俺の十倍の力で殴りつけて圧倒的な立場にいたのが昔のジェスターなんだよな。
今のジェスターはただのペットに見えるから困る」
ファン
「それ聞こえたら絶対殺されます」


ジェスター
「いくよー!」

ジェスターが鉄の棍棒を持って輝月向かって走り出した。
しかしヘルやテルミットと比べるとその速度はただの走りだ。

輝月が呆れながらも峰打ちでジェスターに攻撃をしかけた。ただの通常攻撃だ。
しかしその油断は明らかに判断ミスだった。
ジェスターが持っていた鉄の棍棒のスイッチを入れ中に入っている機械を作動させる。

ジェスター
「フルスィング!!」

思いっきり棍棒を振って輝月の刀を弾き飛ばした!!
弾き飛んだ刀がファンの目の前に刺さる。

ファン
「ヒィィィィィイ!」
キュピル
「そこまでびびらなくても」

キュピルが大笑いする。


輝月
「なにっ・・・」
ジェスター
「わああああ!」

ジェスターが大きく振りかぶって鉄の棍棒をガンガン振り下ろす。
輝月がステップでその攻撃を避けて行くが刀がないので反撃ができない。

ジェスター
「わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ジェスターが自ら興奮状態に入って攻撃速度を高める。
さっきとは桁違いの攻撃速度に輝月が苦戦し始めた。

キュピル
「おぉ、ジェスター。やるな!見なおしたぞ」
ジェスター
「えっへん!」
ファン
「あ、ジェスターさん危ないです!」

キュピルに褒められ癖で勝ち誇るポーズをしてしまった。
その圧倒的な隙に輝月がタックルでジェスターを転ばせた。

ジェスター
「ぎゃ!」
キュピル
「馬鹿!戦闘中にポーズ取る奴がどこにいる!」
ジェスター
「あー!私の事馬鹿って言ったー!!わあああぁぁぁぁ!!」
キュピル
「ぎ、ぎえええぇぇぇぇぇ!!」

ジェスターが今度はキュピルに攻撃を仕掛ける。
道場の中をひたすらキュピルが逃げ回る。

輝月
「・・・その女子は戦意喪失したようじゃな。さぁ、次はお主か?」

輝月がファンを指差す。

ファン
「すいません。僕は戦う事が出来ません」
輝月
「なんだ、つまらんのぉ。・・・キュピル」

キュピルの動きがピタッと止まった。
同時にジェスターの攻撃が飛んできたが片手で受け止めた。

ジェスター
「えー・・・何でこんなに強くなったの・・・・」
キュピル
「その鉄の棍棒。スイッチ入れ忘れてるよ」
ジェスター
「あ、本当だ!止められたのも納得〜」

そういってジェスターがファンの所に戻って行った。

輝月
「お主の部下は全員倒したぞ。・・・リーダーとやらの実力を見せてもらおう」
キュピル
「望むところだ。君からは何故か他人とは思えない物を感じる」
輝月
「どこからでもかかってくるがよい・・」

気が付いたら輝月が刀を持っていた。多分拾ったのだろう。
キュピルも持っていた愛用の剣を抜刀し居合いのポーズをとる。

輝月
「ほぉ・・その構え。まるで剣道じゃな?」
キュピル
「悪いが輝月の戦法には乗らない。さぁ、どこからでもかかってくるがいい!」

今度はキュピルが挑発した。

輝月
「面白い奴やな。ではこちらから行かせて貰おうか」

輝月が左足の踵を上げすり足で接近してくる。
そのポーズはまさに剣道そのもの。

キュピル
「(間合いだ・・・正しい間合いを取らなければ恐ろしいダメージを受けることになるはずだ・・・)」

これまでヘル、テルミット、ジェスターが戦ったが輝月に関する戦いの情報はそれほど集まらなかった。
強いて言えば輝月の攻撃はあのヘルやテルミットがたったの数回の攻撃で撃沈してしまうほどの威力を持つ事・・・。
その秘密は間合いにあるだろう。

剣は相手を斬るだけでなく相手を叩きつけたり振り回すだけで相手にダメージを与える事が出来たりと
多様性な乱戦に向いていたり初心者にも扱いやすい武器である。
しかしその反面。刀は刃が片面にしかなく剣よりは軽いため叩きつけても大したダメージも得られず
まさに斬る事しかできない。

しかし逆を言えば刀は斬る事に関しては他のどの武器にも引けを取らない。いや、最強と言うべきか。
・・・その形に秘密があるという話は聞いた事があるが・・・。

キュピル
「(奴の一振りは必ず回避しよう・・・)」

気がつけば輝月が近くまで近寄っていた。しかしまだ攻撃してこない。

キュピル
「(焦るな。奴が攻撃を仕掛けてくるまで待つんだ)」

ついに剣と刀がぶつかる距離まで接近してきた。
輝月が刀でキュピルの剣を少し抑える。キュピルも威嚇として刀を剣で軽く弾く。
まさに一触即発状態。どちらが先に動くか誰にも分らなかった。

・・・・。

キュピル
「でいやっ!」

先に動いたのはキュピルだった。素早く輝月の胴体目がけて突きを繰り出した。
しかし当たると思ったその直後輝月が消えキュピルの背後に現れた。

キュピル
「想定の範囲内!」

キュピルが後ろ蹴りを繰り出す。輝月はそれを刀で受け止める。
しかしキュピルがそのまま刀ごと輝月を後ろに押し出す。
一瞬輝月がよろける。そのよろけを見逃さなかった。

キュピル
「一閃!!」
輝月
「!?」

キュピルが一瞬で輝月を斬った!胴体を斬り出血状態に陥らせる。
この出血は後々響くはずだ。

輝月
「・・・そちも一閃を扱えるときたか」
キュピル
「・・・・・」

キュピルが集中状態に入る。

輝月
「陣!」

輝月がまた刀で何か文字を書いた。
キュピルは何も動かず眺めている。すると輝月の周囲に多数の魔法陣が現れ
あろうことか輝月にヒールをかけた!

ファン
「あれは回復の術だったようです!」

キュピル
「ちくしょう、攻撃すればよかった!」

キュピルが急いで剣を投げた!しかし刀で弾き飛ばされた。

輝月
「自ら武器を手放すとは愚かな・・・」

輝月が突撃してきた!
刀を突き出しキュピルの肩を突こうとした。
その攻撃をしゃがんで回避しすぐに飛び上がって輝月の顎に頭突きする。

輝月
「っ!」
キュピル
「容赦はしない!」

左ジャブ二発から始まって次に右腕から強烈なテンプシーを繰り出す。
輝月の顔面を思いっきり殴り更に左アッパーを浴びせる。

キュピル
「必殺!銀と月の故郷のアルカディア!!」

かなり懐かしい技を出す。素手の時にだけ発動できる技で
精神を極限まで高めて手の痛みを全く感じなくさせて岩をも砕く強烈な攻撃を繰り出す!
輝月が刀で防ごうとするが刀を真っ二つに折りそのまま輝月の腹を殴った。

輝月
「あぐっ!?」
キュピル
「うおりゃっ!!!」

そしてキュピルが飛んで空中で回し蹴りを繰り出し輝月を吹っ飛ばす。

ジェスター
「わーい!キュピルが勝った〜!」
ヘル
「いや、威力としては弱いな・・」
ジェスター
「あれ?起きてたの?」
ヘル
「今起きた。・・・ちっ、キュピルさん以外全滅か」
テルミット
「やはり相当の実力者です」

輝月が立ちあがる。

輝月
「・・拳で向かってくるとは思っていなかったぞ・・。これは本気で戦わねばならんようだのぉ」
キュピル
「今更か」

キュピルが投げた剣を回収する。

輝月
「参る!!」

輝月が走り一閃を繰り出す!
キュピルがそれを剣で防ぎ横斬りを繰り出す。
しかしジャンプして輝月が回避しキュピルの剣の上に乗って更にジャンプして
空中で縦に回転しながら刀を振り下ろした!
後ろにバックステップして攻撃を回避し輝月が着地した瞬間突きを繰り出す。
が、当たったと思ったらそのまますり抜けてしまった

キュピル
「すり抜けた・・!?」
輝月
「分身だぞ」
キュピル
「はっ!」

気が付いたら後ろにいた。これは全く予測していなかった。

輝月
「さっきの礼を返さねばいかんな。五花月光斬!」

刀で月を描き精神を極限まで高めて一瞬でキュピルを斬る。
逃げようとしたが足が動かなかった。
強烈な攻撃を貰いキュピルがその場で倒れる。

輝月
「終わりのようじゃな」

輝月が背を向ける

赤い髪の女性
「流石師匠!」

部屋の隅でずっと立っていた赤い髪の女性が喜ぶ。

キュピル
「甘ーーーーーい!!!」
輝月
「!?」

今度はキュピルが輝月の上を取っていた!
剣を下に向けて落下し輝月の肩を思いっきり突き刺した!!

輝月
「ぐあっ!!」
キュピル
「あんな技で俺がくたばると思ったか!」

ヘル
「強いな!キュピルさん!」
テルミット
「逆境に物凄く強いお方です」
ジェスター
「キュピルは傷付けば傷付くほど強くなるよ〜!」

輝月
「う・・ぐっ・・!!こ、この・・・!」
キュピル
「あらよっと」

輝月の攻撃をジャンプして回避しまた肩の上に落ちる。
輝月が体勢を崩し後ろに倒れる。

キュピル
「終わりだ!」

キュピルが輝月の腹の上に落ち、輝月の首に剣を近づけさせる。

キュピル
「輝月、俺の勝ちだ」


ジェスター
「わーい!今度こそキュピルが勝ったよ〜!」
テルミット
「キュピルさん!大健闘でしたよ!」
ヘル
「ふっ、俺の師匠が負けるわけないだろう」
ジェスター
「あれー?一番最初に負けたのに何で誇ってるの?」
ヘル
「・・・・・・・」

ヘルが無言になってしまった。
キュピルが輝月の上から離れる。

キュピル
「ファン。治療頼む」
ファン
「わかりました」

ファンが上位回復魔法を唱える。
輝月の傷がすぐに癒えた。

輝月
「ほぉ・・便利な技だな」
キュピル
「強かった。もし貴方があの時油断しないで俺にトドメを刺していたら負けていた」
輝月
「・・・油断が命取りとはよく言ったものだ。
しかしどうであろうと私の負けには変わらない。噂は本物だったということじゃな?」
キュピル
「しかし・・・。一つお聞きしたい事が」
輝月
「何だ?申してみよ」
キュピル
「一閃・・・。その技は何処で覚えたのですか?」
輝月
「修行しているときだ」
キュピル
「・・・シルク・・という名前に聞き覚えは?」
輝月
「・・・?知らないな」
キュピル
「そうか。それならいいんだ」

この世の中似たような技は一杯ある。
被る事だってあるだろう。

輝月
「ふむ、お主らのその力に興味が湧いたぞ・・・。
しかしまた修行のし直しじゃな」

キュピルが少し考えた後、ある事を切り出してみた

キュピル
「輝月さん。俺達の仲間になりませんか?」
輝月
「仲間?」
赤い髪の女性
「ちょっと何?ナンパ?」
ヘル
「少し黙ってろ」
赤い髪の女性
「なによー!!!」

キュピル
「俺達がいる所はクエストショップと言って依頼を貰ってそれを実行する場所にいるんだ。
・・・時には危険なモンスターの討伐を依頼されることもある。でもそこで俺達は退かずに
色々な知恵を振り絞って討伐する。こうやって俺達は強くなっているんだ」
輝月
「ほぉ・・・。・・・最近人里から離れておったからな。
昔と違って今は人々の考えは変わっておるかもしれんな。どれ、ここは一つ乗ってみようじゃないか」
赤い髪の女性
「えぇ!!?じゃぁここの道場と私はどうすればいいんですか!?」
輝月
「適当にまた幻術で隠せばよい。私が修行で居なくなるのはよくあることだったはずだろう?」
赤い髪の女性
「ま、まぁそうなんですが・・・・」
輝月
「お主の行動を見させてもらうぞ」
キュピル
「よろしく頼む」

輝月と握手する。

赤い髪の女性
「し、師匠〜!ちょっと待ってください!やっぱり今回は何か不安です!私もついていきます!」
輝月
「・・・道場はどうするのだ?」
赤い髪の女性
「門下生に任せます」
テルミット
「(ここ門下生居たんですね・・・・)」
ヘル
「(激しく通いづらそうな場所だな・・・。)」

キュピル
「うーん、まぁ。今人員募集してるし構わないか・・・」
赤い髪の女性
「何、その嫌そうな目」
キュピル
「と、とにかく撤退だ。長く店を空ける訳にはいかないからな」
ジェスター
「はーい」


・・・新しい仲間が二人増えた。




==クエストショップ

ファン
「・・・そういえばキュピルさん」
キュピル
「ん?」
ファン
「輝月さんと・・えっと、あともう一人の方名前なんでしたっけ?」
キュピル
「えーっと、書類によると・・・琶月(はつき)と言うらしい。それでどうした?」
ファン
「輝月さんと琶月さんの事なんですがあくまでも修行で来たと一貫して主張しているので
簡単な依頼は引き受けないそうです」
キュピル
「確かに。ヘルとテルミットと違って単純に仲間になったのじゃなく修行という目的があるからな。
それなら二人には簡単な仕事は渡さないようにしよう。下手すると信頼を失う」
ファン
「分りました。それと・・・」
キュピル
「何だ?」
ファン
「思った事を呟く道場を使っちゃっているのですが構いませんよね?」
キュピル
「・・・あぁ、そういえばうちにも道場(?)あったの忘れていた・・・・。少し様子を見てくる。」

道場に向かいながらもう一度書類に目を通す。

・・・輝月(17)
・・・琶月(15)

琶月はともかく輝月はこの若さであんなに強いのか!?なんか悔しい。



==思った事を呟く道場



輝月
「ほぉ・・まさかここにも道場があるとは思っていなかったぞ。中々良いではないか」
琶月
「師匠がここを使いたいと仰ってます!文句は言わせませんから!」
キュピル
「何でお前はそんな上から目線なんだ」


キュピルが一度咳払いした後

キュピル
「・・と、とりあえず。ここは自由に使っても構わない。
あくまでも修行という名目で来てもらってるからね。ただ難しい依頼が来た時には同行して貰うよ」
輝月
「よかろう、それまでここで瞑想でもして待っているぞ」
琶月
「本来なら忌々しい事だが師匠の寛大な心で承諾した!頭を下げて感謝しなさい!」
キュピル
「だから何でお前はそんな上から(ry」








==数日後


ヘル
「ふんっ!」
輝月
「相変わらず動きが単純じゃのぉ」
ヘル
「ぐあ!」

道場で何人か特訓している。
気がつけばこの道場は訓練場になってしまっている・・・。

テルミット
「ヘルさん。動きに変化をつけたらどうでしょうか?」
ヘル
「ちっ、修行するしかないな・・・。」
輝月
「まだまだ若いな。ヘルよ」
テルミット
「(輝月さんも十分若かったような気がします・・・)」
キュピル
「どれどれ・・。ここいらで俺も参戦してみるか」
ヘル
「キュピルさん。仇取っ手ください」
輝月
「ほぉ・・キュピルが来るか。では琶月。たまにはお主の修行の成果を見せてもらおう」
琶月
「えぇ!?無理です!」
輝月
「だらしない奴じゃのぉ」

結局輝月がキュピルの相手をした。
戦いは引き分けに終わってしまった。








ジェスター
「じぃー」

ジェスターがクエストショップにあるホワイトボードを見つめている。

キュピル=『出撃中』
ジェスター=『待機中』
ファン=『出撃中』
ルイ=『長期出撃中』
ヘル=『訓練中』
テルミット=『訓練中』
輝月=『待機中』
琶月=『訓練中』


ジェスター
「待機してるの私と輝月だけだー」
輝月
「ジェスターと申したな・・・?」
ジェスター
「んー?」
輝月
「私の目からはお主が怪力を持っているとは思えぬ・・・。
・・あの時何故私の刀を飛ばすことが出来た?」
ジェスター
「秘密〜」
輝月
「フフフ・・、秘密と申すか。ここは面白い連中が多いの。」

その時誰か入ってきた。
・・兵士?

兵士
「キュピル様はおられますか!」
輝月
「あやつは今出撃中だ。」
兵士
「では、この手紙をキュピル様にお渡しください。大事な依頼ですのでお忘れにならないようよろしくお願いします!」

そういって兵士が出て行った。

輝月
「ジェスターにやろう」
ジェスター
「くれるの?わーい」
輝月
「キュピルに渡すんじゃぞ」
ジェスター
「えー」



数十分後、キュピルとファンが返ってきた。

キュピル
「クラドでルイの事を聞きまわってみたがダメだったか・・・」
ファン
「ルイさんは何処へ行ったのでしょうか・・・」
ジェスター
「キュピルー。手紙が届いてるよ」
キュピル
「手紙?」

キュピルが手紙を受け取り中身を読む。

キュピル
「・・・ケルティカで襲撃があったそうだ。
モンスターの襲撃らしいが裏に人為的な何かを感じたらしい。
モンスターの討伐と詳しい調査を求めるらしい」
ファン
「大きな仕事になりそうですか?」
キュピル
「大きな仕事になるな。全員戻ってきたら話をしてケルティカへ行こう」
ジェスター
「じゃぁ今のうちに準備してこよーっと」
ファン
「コンテナ型の拠点は使いますか?」
キュピル
「モンスターの襲撃を受けている訳だからな・・・。まともな場所を用意してくれてるとは思えない。
コンテナ型の拠点を持って行こう」
ファン
「分りました。いつでもワープ出来るようにスタンバイしておきます」


・・・数時間後、全員集まった。
キュピルが依頼内容の事を話す。


ヘル
「襲撃事件か。ただ倒すだけなら楽だが調査とまで来てると少し面倒だな」
テルミット
「単純にモンスターが気まぐれで襲撃してきたとは考えにくいですからね・・・。
誰でも人為的な物が絡むのではないかと心配になります。」
輝月
「行ってみれば分ることじゃろうて?琶月。私の荷物も頼んだぞ」
琶月
「は、はいー!!」

琶月が部屋に戻る。
そして輝月は先にコンテナ型の拠点に入って行った。

ジェスター
「お菓子も持った!水も持った!しゅっぱ〜つ!」
キュピル
「まだ早い。ってか遠足じゃないからな」
ジェスター
「バナナはおやt・・」
ファン
「入ります」
ジェスター
「えー・・・」



全員荷物をまとめコンテナ型の拠点に入った。


キュピル
「皆、準備は出来たか?」
ファン
「いつでもワープ出来ます」
テルミット
「僕達は大丈夫ですよ」
琶月
「はぁ・・はぁ・・ぜ、全部荷物詰め込みました・・・」
輝月
「御苦労だ、琶月」
キュピル
「全員大丈夫そうだから行こう。ファン」
ファン
「分りました。転移装置始動させます!」

ファンが大きなレバーを降ろして作動させる。
ワープ装置機と連動し大きな魔法の光に包まれながらコンテナ型の拠点はケルティカへとワープしていった。




==襲撃されたケルティカ


キュピル
「到着か?」
ファン
「到着です」
ヘル
「魔法とは理解しがたい分野だな」
輝月
「同意しようじゃないか、うん?」
琶月
「な、何で私を見るんですか・・・」

全員外に出る。何人かの兵士がモンスターと戦っていた。

キュピル
「む、現在進行形で襲撃されているようだ。援護するぞ!」
ヘル
「師匠に怪我をさせたらまずい。テルミット、いくぞ!」
テルミット
「はい!」

輝月
「どれ、琶月よ。お主の実力を見せてもらおうじゃないか?」
琶月
「また私に振るんですか!?しかしこの程度のモンスター!」

琶月が抜刀し敵陣へ飛び込んだ。
後ろから輝月が不気味な笑みを浮かべながら歩いていく。


ヘル
「烈風剣!!」

ヘルが巨剣を横に振って空気の刃を飛ばす。
前方にいた敵を蹴散らす。

兵士
「あ、貴方達は!?」
キュピル
「ジェスターのクエストショップのオーナー、キュピルだ。依頼されてここまで来た」
???
「君がキュピル君か!」
キュピル
「ん?」

一人立派な装備をつけた人がやってきた。
見た感じ兵長っぽそうだ。

兵長
「どうやら私の部下は無事君のところへ辿りついたようだな。私はここの兵長だ、よろしく頼む」
キュピル
「よろしくお願いします・・・っと、言いたいが今は呑気に挨拶を交わしている場合ではないようです」

ヘルとテルミットが前線で戦っている。
何故か味方から孤立して琶月も戦っている・・・。
よくみると輝月がわざと敵を琶月の所へ誘導させている。・・・訓練の一環らしい・・。

琶月
「ひぃぃ!もう勘弁してくださーい!」
輝月
「お主、それでも私に仕える者か?ほれ、まだまだ」
キュピル
「・・・ありゃ、ちょっとやり過ぎだ。・・・でも援護しにいったら輝月に何か言われるだろうな・・・。
よし、向こうの敵を倒しに行くぞ」
兵長
「助太刀いたしますぞ」

キュピルの後を兵長とその兵士達が付いて行った。

ジェスター
「あー!コンテナ型の拠点にモンスターが入ろうとしている〜!」
ファン
「ジ、ジェスターさん!喰いとめてください!」
ジェスター
「うんー!」

ジェスターが一人で扉の前に立ちモンスターの侵入を防いでいる。

ファン
「誰か拠点を守ってください!陥落したら帰れないですよ!」
輝月
「おやおや・・。そいつはちと困るのぉ。琶月。この場は任せるぞ」
琶月
「えぇぇぇ!!?」

輝月がジェスターの横に立ち居合いのポーズをとる。

輝月
「この場は私が凌ごうではないか。お主は適当に琶月の援護でもしてやってくれんかね?」
ジェスター
「はーい」
輝月
「いい子じゃ」

ジェスターが琶月の傍まで行って適当に援護し始めた。
裏からモンスターがぞろぞろとやってきた。

輝月
「何処からでもかかってくるがいい」





ヘル
「おいおい、こいつ等ちょっと数多すぎるんじゃないのか!?」
テルミット
「モンスターを倒すのではなくモンスターの侵入を防ぎましょう。
あの城壁に穴が空いていてそこからモンスターが来ているようです!」
ヘル
「だったらあの穴を閉じてしまえばいいんだな?うおらっ!」

ヘルが巨剣を投げ飛ばし巨剣が建物に突き刺さる。そして一秒後には爆発し
建物が崩れてモンスターの侵入経路を塞いだ。

テルミット
「た、建物を壊すのはどうかと思いますけど・・・」
ヘル
「贅沢言ってる場合じゃない」
テルミット
「後で始末書書くことになっても僕は知りませんからね・・・」



琶月
「もー!何で私がこんな目にー!!」
ジェスター
「おー、千手観音〜」

琶月が物凄い勢いで刀を振り回して敵を斬る。しかしその姿はまさに『適当』





輝月
「どうした?この程度、私にとってはただ刀を振っているだけじゃぞ?」

輝月の完璧なガードにモンスターもコンテナの中に入れなかった。
近寄ると瞬時にバラバラにされる。

ファン
「輝月さん、助かります!」
輝月
「なに、お互い様かて」




キュピル
「よし、後はここだけだな!?うおおおおぉぉぉ!!」

キュピルが突撃してモンスターを蹴散らしていく。
狩り残した敵は兵長や兵士が集団リンチしていた。
敵の猛攻っぷりに流石のモンスターもジワジワと撤退し始め気がつけば侵入してくるモンスターは
居なくなっていた。まだ残っているモンスターは状況が読めていないだけの奴か取り残された奴か。

こうなれば兵士に任せてももう問題はない。
優勢になると強くなるのが兵士というものだ。

ものの30分でモンスターを撤退させた




琶月
「あ゙ーあ゙ー。死ぬかと思ったー!」
輝月
「あの程度でくたばってもらっては困るぞ。フッフッフ・・」
琶月
「師匠!サド師匠ーー!」

兵長
「ぬわーー!!建物が崩れておるー!!」
ヘル
「ウッ・・・」
テルミット
「ギクッ・・・」
兵長
「これはモンスターの仕業なのかー!?」
ヘル
「そ、そうだ。俺達は必死に喰いとめようとしていたのだが間に合わず建物を壊されてしまった」
テルミット
「えぇぇ!?」
ヘル
「(話に併せておけ!)」
テルミット
「(ほ、本当にもう・・・しょうがないですね・・!!)」
キュピル
「・・しかし建物自体が倒れたんじゃなくて三階から壊れてるぞ?まるで何かがそこに突き刺さって爆発したかの」
ヘル
「モンスターが爆弾を投げつけてきたんだ!巨剣を投げ飛ばしたんだが間に合わなかった!」
キュピル
「・・・?そうか・・」



兵長
「何はともあれ君達のお陰で無事にモンスターを撤退させることが出来た。感謝しよう」
キュピル
「依頼されたらしっかりこなす。それがモットーですから」
兵長
「なるほど。」
キュピル
「とにかく詳しい話を聞かせてください。そこに我々の拠点があるのでそこで」
兵長
「了解した。全軍、休憩ーー!!」

兵長が叫んで兵士を休憩させる。




==コンテナ型拠点




ファン
「お茶です」
兵長
「いや、結構だ」
ジェスター
「じゃー私が飲むー」
輝月
「茶か。私にも頼もうか」
琶月
「師匠が飲みたいと仰っています!」
ファン
「お、大きな声を出さないでください。仕事中なんですから・・・」



キュピル
「・・・モンスターの襲撃の裏に人為的な物が見える・・そう仰っていましたが根拠はあるのですか?」
兵長
「これを見てくれ」

兵長が写真を手渡す。
・・・写真は真っ暗で何が写っているのかよくわからない。
しかしよく見ると人みたいなのが写っている。

兵長
「これは偵察兵に撮らせた写真だ。・・・その写真にモンスターもいるのがわかるか?」
キュピル
「・・・」

かなり暗いが確かにモンスターもいる。
・・・これはもしかしてモンスターに指示を出しているのか・・・?

兵長
「今君が考えている通り。この人物がモンスターに指示を出しているのではないかと睨んでいる」
キュピル
「しかしモンスターに命令を下すことは・・・果たして・・・」

可能なのだろうか・・・?

兵長
「言いたい事は分る。この写真も見てくれたまえ」

兵長が二枚目の写真を渡す。
・・・こっちはさっきよりもはっきり写っている。
写真には何人かの魔術師がモンスターに何か暗黒魔法をかけている。
これは・・・催眠と操りの術か?

兵長
「・・・これはかなり決定的だと思うが?」
キュピル
「・・こいつはグレーだな・・・。わかった。調査してみます。場所は特定出来ていますか?」
兵長
「・・・大変心苦しいのだが・・・。この偵察兵は敵に見つかってしまい殺された。
この写真は殺される直前に魔法で送られた物だ」
キュピル
「・・・わかりました。自力で探してみます」
兵長
「我々はこの街を守るのに精いっぱいだ。・・・よろしく頼む」
キュピル
「他に何か分っている事とかはありますか?」
兵長
「・・・残念だがこれだけなのだ。もしこの街が陥落しそうになった時は救援信号を送る。
その時は一度戻ってきてはくれないか?」
キュピル
「わかりました」
兵長
「では私はこれで失礼しよう」

そういって兵長は拠点から出て行った。
なんかさっきとの印象が全く違う・・・


キュピル
「皆、聞いてくれ」

全員がキュピルの方を振り向く。

キュピル
「事情は大体掴んだ。裏に誰かモンスターを操っていると考えていいだろう」
ヘル
「モンスターを操るか・・・」
ジェスター
「人間も操ったりしないのかなー?」
ファン
「仮に人間も操ったとしたらそれは非常に恐ろしい魔法ですね・・・」
キュピル
「・・・しかしモンスターを操っていると思われる敵の場所が特定できていない。
これからその場所を探さなければいけないのだが・・・検討も一切ついていない」
輝月
「闇雲に探しても無駄じゃな」
キュピル
「その通りだ。・・・だからどうにかしてある程度。方向だけでも場所を掴みたい。
誰か良い案はないか・・・?」
ファン
「・・・・・」
テルミット
「・・・・・」
キュピル
「・・・我らの参謀官でも名案は浮かばないか・・・。
これは少し辛い仕事になりそうだ」
テルミット
「(いつのまにか僕も参謀官に入っていたんですか・・・・・)」
輝月
「敵はどの方向から襲撃してきたのだ?その方向からは割り出せんのか?」
テルミット
「残念ですが襲撃してきた時から既にモンスターは四方向から攻めてきたようです。」
琶月
「まさか拠点が四つあるとか言わないよね・・・」
キュピル
「・・・」
ファン
「・・・可能性としてはありますね。」
ヘル
「敵の拠点が一つとは確かに限らない。」
琶月
「・・・・・」
キュピル
「仕方ない。ここは敵の拠点が複数あると想定して探そう。
四つチームを結成し東西南北に分れて行動しよう」
ヘル
「なら、俺はいつも通りテルミットと行こう」
輝月
「琶月と行こうかの?」
琶月
「・・な、何ですかその企んでる目は・・」
キュピル
「そうだなぁ。ファンとジェスターでチームを組んでくれ」
ファン
「分りました。」
キュピル
「残った俺は一人で行動する」
ジェスター
「大丈夫?」
キュピル
「俺から言わせてもらうとむしろ二人のが心配だ。」
ジェスター
「私は強い!」
キュピル
「・・・ファン、よろしく頼む」
ファン
「分りました」
キュピル
「よし。各自準備が出来次第出発してくれ。俺は北に行く」
ファン
「僕達は東に行きます」
ヘル
「なら俺は西だ」
輝月
「ということはワシ等は南に行けっていうことじゃな?」
キュピル
「俺はもう準備が出来ているから出発する。夜にまた会おう」

そういってキュピルが先に拠点から出て行った。
次にヘルとテルミットが出て続いて輝月と琶月。最後にジェスターとファンが出た。






==東

ジェスター
「歌う森〜。わぁーわぁー♪」
ファン
「楽しそうですね」
ジェスター
「うんー。何かここにいると歌いたくなるー」
ファン
「歌う森・・・。別に何か特別な魔力が宿っているわけではないようですけど歌いたくなるのは何ででしょうね」
ジェスター
「どーれーみーふぁーそーらーしーどー♪」
ファン
「何気にジェスターさん音程あっていますよ。もしかしたら歌上手かもしれませんよ」
ジェスター
「えっへん!」

ジェスターが歌いながら東の森を突き進んでいく。
道中にモンスターがいたが人間じゃない二人は見つかっても襲われる事はなかった。



==西

テルミット
「はぁ・・。建物の件聞かれた時本当にびっくりしました・・・」
ヘル
「・・・俺もだ。流石に今思えばちょっとやばかったな」
テルミット
「やばいってものじゃないですよ、全く」
ヘル
「テルミット、ここは走って駆け抜けるぞ。関係ないモンスターがわんさかいる」
テルミット
「ここで矢を消費するわけにもいきませんからね。」

道中モンスターが現れるも襲撃してきたモンスターとは全く関係がない者ばっかりだったので
無視しで全力で西に走り続けた。






==数時間後・南




輝月
「随分と歩いたな?」
琶月
「大体10Km程です」
輝月
「お主は何も感じないのか?この邪気溢れる魔力を」
琶月
「は?・・あぁいやいや!・・・何も感じないです」
輝月
「未熟。今日はお主が拠点を見つけるまで帰らんことにした。」
琶月
「えぇぇぇ!!」
輝月
「こんなにも魔力が溢れているのだ。見つけられないはずがなかろう?」
琶月
「ぜ、全然差がわかりませんー!」


輝月は拠点を見つけたらしい。
しかし自ら何処にあるかは言わないようだ・・・・。


==北


キュピル
「む」

・・・この近くにある?
直感だが・・そんな感じがした。

キュピル
「・・・精神を統一させて何かおかしな所が無いか探ってみよう・・・」

キュピルが目を閉じてまずは気から探る。

・・・・。

・・・・・・・・。

今一瞬ざわっと来た。
目を開けて辺りを見回す。しかし何もない。

キュピル
「・・・もしかしてマナの流れなのか・・?」

こういう時にファンがいれば楽に特定できるのだが・・・。
仕方ない。この辺をよく探してみるとしよう。



==東

ファン
「ジェスターさん。この近くでマナが不規則な動きをしています。
・・・少し怪しいです」
ジェスター
「歌いすぎて喉が痛ーい・・・」
ファン
「・・・・。」
ジェスター
「で、この近くを探せばいいのー?」
ファン
「そうですね。幸いマナの流れを可視化する魔法を覚えているのでそれを発動させて
一緒に探してみましょう」

ファンがマナの流れを可視化させる魔法を発動させる。
一本の青い煙みたいなのが目の前に現れた。

ファン
「これが不規則な動きをしているマナです。
正常な動きをしているマナはいつも通り透明無色です」
ジェスター
「じゃぁ、この変な煙みたいなのを追っていけばいいってことー?」
ファン
「そうなりますね」
ジェスター
「よし、追いかけよう〜!」

ジェスターが青い煙の出どころを探る。

・・・・。

・・・・・・・・・・。

青い煙を追い続けて20分。

ジェスター
「あれ?ファンー。青い煙が地面に潜っちゃったよ?」
ファン
「・・・ジェスターさん。ここです。どうやらここからマナを排気しているようです」
ジェスター
「ってことはここに入口があるの?」
ファン
「入口ではないかもしれませんが少なくとも入れるかもしれません」
ジェスター
「蓋みたいなのがあるのかなー」

ジェスターが地面に触って探す。

ジェスター
「あ、なんか金具みたいなのがあったよー!」
ファン
「やりましたね、ジェスターさん。きっとそこから今回の事件と関係ある拠点に入れます」
ジェスター
「えっへん!開けるよ〜!」

ジェスターが金具を引っ張って蓋を開ける。
蓋をあけるとそこから青い煙がぶわっと上がりパイプで出来た道が現れた。

ファン
「完全に排気口ですね」
ジェスター
「んー?」

ジェスターが覗き見る。が、

ジェスター
「あ!わああああ!!」
ファン
「!」

深く覗きすぎてジェスターが下に落ちてしまった。
そのままパイプを通ってどんどん下へ落ちて行く。

ファン
「た、大変です!えーとえーと、こういうときは。
・・・・ジェスターさんを連れてワープして脱出!」

ファンも穴の中に入りパイプを通って行く。

・・・・敵の拠点へと入って行った。




==南

琶月
「あ!!今強いマナを感じました!!」
輝月
「やれやれ、やっとか。お主、それでも私の弟子かの?」
琶月
「師匠が凄すぎるだけですー!!」

琶月が地面から生えている金具を見つけ引っ張る。
そして排気口を見つけた。

輝月
「うむ、どうやらここから敵の拠点へ入れるようじゃな」
琶月
「一度戻って皆さんにお知らせしましょう。」
輝月
「何を言うとるんじゃ、お主は。こんな拠点お主だけで壊滅できるじゃろうて?」
琶月
「はぁー!?」
輝月
「さっさと行かんか」
琶月
「ぎゃあああぁぁ!!」

輝月に背中を押され穴の中に落ちる。
パイプの中を通って行きドンドン下っていく。

輝月
「全然頼もしくないやつだのぉ」

輝月も着ている着物を手で押さえながら排気口に飛び降りた。



==西

テルミット
「・・・!ヘルさん!」
ヘル
「どうした」
テルミット
「今不規則なマナの動きを感知しました!」
ヘル
「怪しいか?」
テルミット
「かなり怪しいです。・・・ここから不規則なマナを感じます」
ヘル
「・・・良く見ると地面から金具が生えているぞ。なんだこいつは」

ヘルが引っ張る。
すると穴が現れた。

テルミット
「うっ、その穴から強烈なマナを感じます」
ヘル
「なるほどな。どうやらここはマナの排気口らしいな」
テルミット
「みたいです」
ヘル
「正規の入り口ではないな・・・。ということはここから入れば奇襲できそうだな」
テルミット
「確かに。」
ヘル
「よし、行くぞテルミット」
テルミット
「ちょ、ちょっとまってください!一度戻って報告しないんですか!?」
ヘル
「俺の予測では輝月とか言う奴も見つけたはずだ。
あいつに功を取られてたまるか」
テルミット
「む、無茶ですよ!」
ヘル
「俺より強い奴はキュピルさんしかいない!」

そういってヘルが穴の中に飛び込みパイプの中を下っていく。

テルミット
「あー、もうーそう言う所は昔から変わらない!」

テルミットも混乱しつつ穴の中に飛び込んでヘルの跡を追う。





==北


キュピル
「だめだ。全然わからない」

やはり魔法の類はあまり才能がないらしい。
これ以上探しても無駄だ。一度撤退して皆の結果に期待しよう。



==ケルティカ



キュピル
「ん?」

拠点に戻ってみると誰もいない。

キュピル
「なんだ、まだ皆探しているのか。熱心だなぁ」

結構遅くなってしまったのでてっきり誰か一人ぐらいはいるかと思ったのだが・・。
とりあえず誰か返ってくるまでゆっくりさせてもらおう。

そう思い椅子の上に座って机に突っ伏し寝始めた。







パイプをずっと下り続けて行くと突然 ガーーー と機械のなる音が聞こえた。

輝月
「こいつはまずいかもしれんのぉ。琶月。刀でパイプを突き刺すのじゃ」
琶月
「は、はい!」

落下を止めるために二人とも刀をパイプに思いっきり突き刺し落下を食い止める。
下を見ると何か機械みたいなのがグルグル回っておりそのまま下に落ちたらバラバラになっていた。

琶月
「ひ、ひぃぃ・・・」
輝月
「危機一髪じゃったの」
琶月
「師匠が突き落とすから!」
輝月
「フッフッフ・・。お主の慌てよう。実に面白かったぞ」
琶月
「はぁ・・もう嫌・・・」
輝月
「ともかくまずはこのパイプに穴を空けんといかんのぉ。琶月。ちょっと足場にさせてもらうぞ」
琶月
「え?」

輝月が琶月の上に落ちる。

琶月
「ぎゃぁー!!」
輝月
「頑張らんか」

輝月が刀を正方形になるようにパイプを斬る。
パイプに人が通れる穴が空いた。

輝月
「ほれ、ここから脱出するのだ」
琶月
「はいぃぃ!!」

パイプから脱出すると沢山の生命体がカプセルの中に閉じ込められていた。
カプセルの中には謎の液体が入っており生命体は意識が無いようだ。

輝月
「ふむ、こいつはモンスターかのぉ?」
琶月
「不気味ですね・・・」
輝月
「悪の組織は壊滅させないといかんな?さぁ、琶月。頑張るのじゃ」
琶月
「何で私なんですか!?」
輝月
「修行じゃ。私にはぬるいからな」
琶月
「嘘だー・・・」
輝月
「心配せんでいい。危なくなったら援護してやる」






ジェスター
「ぎゃぁー!!」

ジェスターがパイプの中を落ちて行く。
途中でパイプの傾斜が緩くなり滑り台のようにパイプの中を滑って行った。
そして一番下まで降りる。

ジェスター
「ずでーん」
ファン
「ジェスターさん、ぶつかりますよ!どいてください!」
ジェスター
「ぎゃー!」

ジェスターの背中にファンがぶつかる。

ジェスター
「痛い!・・・ファンー!!」
ファン
「どいてくださいって言ったじゃないですか!それより帰りますよ!」
ジェスター
「うん」
ファン
「・・・・・」
ジェスター
「・・・?どうしたの?」
ファン
「・・・ま、魔法が発動できません!」
ジェスター
「えー」
ファン
「これでは帰れません・・・。」

部屋には不規則な動きをするマナが一杯見える。
・・・このマナが魔法の発動を妨害している。

ファン
「・・・」

だめだ、何度試みても発動しない。

ジェスター
「どうするの?」
ファン
「どうするも何も・・・。・・・どうしましょうか」
ジェスター
「・・・・」

厳しいPT編成だ・・・。






ヘル
「でいやっ!!」
テルミット
「バルクショット!」

パイプの中を落ちて行ったが落下距離はたったの5mだった。
すぐに着地し着地した瞬間敵兵と戦闘になった。

ヘル
「奇襲どころか俺達は奇襲されたような感じがするぞ」
テルミット
「同感です!まさかここで敵兵と会うなんて思ってもいませんでした!」

ヘルが敵陣に突っ込み陣形を崩す。バラバラになった所をテルミットが射抜く。

ヘル
「はぁっ!!」

ヘルが巨剣をフリスビーのように投げる。
自身を中心に巨剣がぐるぐると回り敵は壊滅した。

ヘル
「よし」
テルミット
「ヘルさん。やはり進むのはよしましょう。せめてもう少し味方を・・・」
ヘル
「テルミット。ここで引き下がったら輝月に功を取られる」
テルミット
「そんなに敵視しなくてもいいじゃないですか」
ヘル
「あいつに・・俺よりも年下に、しかも女に負けては俺のプライドが傷つく」
テルミット
「(確かに僕達よりも年下でしかも女性・・・あの強さには嫉妬みたいなものは覚えますけど・・・)」
ヘル
「この依頼は俺が先に達成する。見てろ」

ヘルが敵拠点を突き進み始めた。
テルミットも一度溜息をついた後ヘルの跡を付いて行った。まぁ、いつものこと・・・。


ヘル
「おーっと、また敵が来た」
テルミット
「完全に僕達の居場所がばれています」
ヘル
「見つかってるからしょうがない。俺達の今回の仕事は基地の壊滅だ。全員かかってこい!」

ヘルとテルミットが再び戦闘を始めた。




警告!警告!
B1Fにて侵入者を発見!敵は巨剣と巨弓を持って基地で暴れている!
ただちに撃破せよ!!繰り返す!


輝月
「おやおや、あの二人は西へ行ったのではなかったのかね?」
琶月
「師匠の手柄を横取りしようとだなんて図々しいですね!」
輝月
「まぁ琶月よ。よく考えるのだ。あやつ等は別の入り口から入ったのだろう」
琶月
「と、いうことは・・・?」
輝月
「ここの基地は私が想像していたのよりも物凄く大きい場所だったということじゃな。久々に腕が鳴るのぉ」
琶月
「おぉ、師匠が本気モードに!」
輝月
「邪魔者はヘルとテルミットに任せようじゃないか。ワシ等はこの拠点の怪しい所を探そう」
琶月
「はい!」




ファン
「どうやらヘルさんとテルミットさんがこの基地にいるようです」
ジェスター
「よかったー・・・」
ファン
「・・しかしあの二人は僕らとは正反対の方向に向かっていたはずです・・・」
ジェスター
「迷ったんじゃないの?」
ファン
「・・・もしかすると・・・ここの基地は物凄く大きいのかもしれません」
ジェスター
「ふーん・・・」
ファン
「また興味無さそうな顔して!」
ジェスター
「とりあえず敵は皆ヘルの所に行ってるんだよね?だったら今のうちに色々探さない?」
ファン
「ジェスターさんがまともな事を言っています・・・」
ジェスター
「あー!私を怒らせたー!」
ファン
「な、ナンデモナイデス!それよりキュピルさんも基地にいるかもしれませんよ。探してみましょう」
ジェスター
「うん!」



一方キュピルは・・

キュピル
「zzz・・・zzz・・」


・・・。起きるのに当分時間がかかりそうである。




続く



第八話


敵基地に侵入した一向。しかしキュピルだけが見つけられず拠点で休憩中。





「いい調子だと思わないかね・・・?これほどまでに私の計算通りに事が運ぶと逆に怖くなるな?」
「・・・侵入者は二人のようです。」
「あいつは?」
「・・・まだ確認されていませんが奴の実力を考えると侵入しているはずです」
「奴が一番重要なのだ。探せ」
「はい」

・・・

「もう少ししたらお友達をつくらせてやる・・」

カプセルに入ってる人・・ダークルイに男がほほ笑む。




ジェスター
「おー、見てみて。ファン。何か一杯扉があるよ」
ファン
「この構造・・・。トラバチェスの基地と少し作りが似てますね」
ジェスター
「・・・・。」

急にジェスターの表情が暗くなった。思いだしたらしい。

ファン
「早い所誰かと合流したいですね・・・。僕達だけでもし敵に見つかったら
まともな抵抗も出来ずに掴まる可能性があります」
ジェスター
「それは嫌ー!」
ファン
「お、大きな声出さないでください!」
ジェスター
「とにかく見つからなければいいんだよね?」
ファン
「そうですね」
ジェスター
「それならミーアみたいに天井裏に潜りこもうよ!」
ファン
「・・・幸い空調がありますね。蓋さえ外せば入れると思いますよ」
ジェスター
「でも天井高すぎてとどかなーい!」
ファン
「・・・ここでは魔法が使えないので浮遊魔法も使えませんね・・・」
ジェスター
「私飛べるけどファンを持ち上げては飛べないと思う・・・」
ファン
「大人しくここから入るのは諦めましょう」
ジェスター
「・・・じぃー」
ファン
「・・・?」
ジェスター
「あ、人だ」
ファン
「!。そこの扉に隠れましょう!」

ファンがジェスターを押し込んで近くの扉に隠れる。
息を殺して気配を探る。・・・・敵兵のようだ。

ジェスター
「・・・・・・」
ファン
「・・・・・・」

そのまま待機していると反対側のドアの開く音が聞こえその部屋に入って行った。

ファン
「・・・行ったのか行ってないのか分りませんが以前危険な状態にあります」
ジェスター
「念のためこの部屋でも隠れておかない・・・?」
ファン
「そうですね・・・」

何処か隠れそうな場所がないか探る。
ここは何に使われている部屋なのか分らない。
適当に机と椅子が置いてあって・・・。ただそれだけだ。
壁や床は綺麗ではあるが・・・。

ジェスター
「ねー、ファン。机の上に椅子を四つ置いてその上に更に椅子置いたら天井に届きそうじゃない?」
ファン
「安定性が最悪ですが届きそうですね」
ジェスター
「椅子を運ぶよ。よいしょ!」

ジェスターが椅子を持ち上げて机の上に乗せる。
そしてファンが机の上に乗っかって椅子の位置を調整させる。

ファン
「ジェスターさん。もう大丈夫です」

ファンが揺れる椅子の上に乗っかり天井にある通気口の蓋をあける。

ファン
「外れました。しばらくここに隠れましょう」
ジェスター
「うん」

ジェスターも椅子の上に乗っかり天井へと登ろうとする。
しかし途中でバランスを崩す。

ジェスター
「わぁー!落ちるー!」
ファン
「ジェスターさん静かに!早くこっちに!」

ジェスターがジャンプして天井裏に入る。それと同時に椅子が崩れ大きな音が鳴った。
慌ててファンが通気口の蓋を閉める。


「おい、今向こうから崩れた音が聞こえなかったか?」
「侵入者か?」

敵兵が入ってきた。

「何で机の上に椅子が乗っかっているんだ」
「・・・通気口か!」

敵兵が持っていた銃で天井に向けて乱射しはじめた!

ジェスター
「わぁーー!!」
敵兵
「いたぞー!!」
ファン
「ジェスターさん!とりあえずこっちへ!」

ファンが先導し通気口の中をひたすら這って進んだ。
銃弾が天井を貫通しいくつか小さな穴があいている。

何とか隣の部屋まで移動し安全な所に来た。
しかし見つかってしまった事には変わりない。

ジェスター
「どうするの?」
ファン
「とにかく遠くへ移動しましょう。近くに居ては危険です」

通気口が続く限り遠くへ移動し始める。





ヘル
「ぜぇ・・・。小休憩入ったか?」
テルミット
「ふぅ・・・。全員倒したみたいですけど・・・・。もうちょっと経てばきっとまた敵が来ます」
ヘル
「思ったより数が多い。ここの拠点は大きいかもしれないな・・・」
テルミット
「だから戻りましょうって行ったじゃないですか。今からでも遅くありません」
ヘル
「いや、逆だ。もうここまで来ちまったら戻れない」

その時警報が鳴った。

警告!警告!
地下3階にて侵入者を発見!ジェスター種と謎の生き物が天井裏を這って
現在逃走中!ただちに撃退せよ!

ヘル
「・・・なんだ?ジェスターとファンもこの基地に侵入しているのか?」
テルミット
「地下三階らしいですよ。でも僕達が居る場所は地下一回です。途中階段とかはありませんでしたし・・」
ヘル
「・・・別の場所から入ってきたということか。・・・俺達の反対方向へ進んでいたのであれば・・・」
テルミット
「・・・ここは想像以上に広い基地なのかもしれません」
ヘル
「ヘル。俺の予測が正しければ輝月もこの拠点にいるはずだ。
手柄を取られる前に先にこの拠点を潰すぞ」
テルミット
「敵兵全員相手する気ですか!?」
ヘル
「流石にそいつはだるい。適当にこの拠点を破壊し尽くせばいいだろう?」

そういってヘルが壁に巨剣を投げ爆発させ穴をあける。
奥に多数の機械があった。

ヘル
「機械を全部ぶっ壊しちまえばこの拠点の能力は落ちる!」

そういってヘルが機械を壊し始めた。

テルミット
「ま、まぁ確かに全員敵兵相手するよりは楽かもしれませんが・・・。
(流石に僕達だけで壊滅出来るとは思えないです・・・)」

心の中で輝月達の活躍を願うテルミットであった。





輝月
「琶月」
琶月
「何ですか?師匠」
輝月
「この扉。やけに厳重だとは思わぬか?」
琶月
「・・・確かに・・。他と比べると非常に大きいですね・・・」
輝月
「・・うむ、鍵がかかっておるようじゃのぉ」
琶月
「・・・はっ、まさか!」
輝月
「琶月。下がっておるがよい」

輝月が刀を抜刀し構える。

輝月
「一閃!!」

輝月が一閃を繰り出す扉を真っ二つに斬る。

輝月
「こんなもんかのぉ。お主もはよこのぐらいは出来るようにならんとな?」
琶月
「師匠・・・普通これが出来る人は化け物です・・・」
輝月
「化け物か。ッフッフ・・。それもよいかもしれんのぉ」
琶月
「よくないです!」

輝月達が入った部屋には入り口で見かけたあのカプセルがたくさんあった。
しかし中に生命体はいなく、ただ唯一。中央に巨大なカプセルが五つあり
その中の一つに生命体がいた。
皮膚は黒く長い髪がゆらゆらと動いている。体からは何本もの触手が生えている・・。

輝月
「これは酷い化け物だな?流石の私もこんな姿にはなりたくはないぞ」
琶月
「こ、こっち睨んでますよ」

意識があるらしくこっちをずっと見ている。首は動かさず黄色い目で輝月達の跡を追っていく。

輝月
「・・・うむ。ここに機械とかいう物が沢山あるが・・・どうやって使うのだ?」
琶月
「私に聞かれても知りません・・・。・・・こう言う時にファンかテルミットかキュピルがいればいいんですが・・」
輝月
「なら探せばよいだろう?幸いファンという奴はワシ等と同じ階にいるようじゃが?」
琶月
「でも天井裏を這って進んでいるんですよね?見つかるでしょうか?」
輝月
「餌でおびき出せば良い」
琶月
「白い方はともかく絶対そんなんじゃ釣られませんって・・・」
輝月
「そうかのぉ?ワシが昔飼っていた兎は餌をちらつかせればすぐ飛んできたのだが・・・」
琶月
「・・・はぁ・・・。なんか私師匠の事が分らなくなってきます・・・」
輝月
「まずは天井裏に行かんとどうも始まらんな?踏み台にさせてもらうぞ」
琶月
「いぃっ!?」

輝月が飛び上がり輝月の頭を蹴り飛ばして天井を刀で斬る。
四角い穴が開き天井裏に輝月が着地した。

輝月
「ほれ、早くこんか。」
琶月
「もう嫌ー!!」
輝月
「だらしない奴じゃ。先に進むぞ」

そういって輝月が腰を低くして天井裏を進み始めた。

琶月
「あー!あー!わ、私はどうすればー!?」

・・・・。

琶月
「・・・師匠の鬼ーー!!!赤鬼ーー!!」





ファン
「今聞きなれた声が聞こえませんでしたか?」
ジェスター
「うん。聞こえた。琶月っぽかったよー?」
ファン
「もしかしたら近くに居るかもしれません。だとしたら救われます・・・」

二人が前に進む。
しかし真っ暗で何も見えない。

・・・・・

・・・・・・・・・。

進む事数分。


ゴンッ!



ファン
「痛っ!」
輝月
「やれやれ、ワシの事も見えずに突き進んでくるとは。そんなにここは暗いかの?」
ファン
「はっ、輝月さん!ジェスターさん、助かりましたよ!」
ジェスター
「わーい!」
輝月
「ファンよ。お主に聞きたいことがあるのだ」
ファン
「何ですか?」
輝月
「何か変わった機械を見つけたのじゃが私は機械については全く分らなくてな。見てもらえんか?」
ファン
「わかりました。何処にあるのですか?」
輝月
「ここから下がってゆくと穴がある。その下にあるぞ」
ファン
「了解です。」






琶月
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁっっっっっっっーーーーーー!!」





輝月
「!」
ファン
「!」
ジェスター
「わっ!何?」」

物凄い大きな琶月の叫び声が聞こえた。
とたんに輝月が反転し物凄い勢いで戻って行った。

ジェスター
「はや!」
ファン
「急ぎましょう。ジェスターさん」



輝月
「琶月!何が起こったと言うのだ!」
琶月
「し、師匠〜〜!!あれを見てください〜〜!!」
輝月
「・・・!」

さっきまでカプセルに入っていたあの気色悪い生命体がガラスを壊し外に出てきていた!!
黄色い目でぎろりと輝月達を睨む。

輝月
「どれ、この化け物は私が相手しよう。琶月よ、下がっておるといい」
琶月
「は、はいー・・・!!」

輝月が刀を構える。剣先に全神経を集中させる。
先に攻撃してきたのは化け物からだった。
触手を伸ばし輝月の刀を奪い取ろうとした。しかし触手を斬り落とし
一気に化け物の方へと突進する。

輝月
「甘い!」

強烈な一振りで化け物を叩き斬る。しかし長く伸びた赤い爪でガードされる。

輝月
「・・・っ!?あんな爪に防がれるとはの・・・」
ファン
「琶月さん!一体何が・・・って、あああ!!」
ジェスター
「あああ!!」
琶月
「どうしたんですか?二人とも叫んじゃって」
ジェスター
「ル、ルイー!!!」
琶月
「ルイ?あー、何かクエストショップのボートに長期出撃中とか書いてあったね?
あの人がルイっていうの?うわー、気持ち悪ー。解雇しちゃったら?」
ジェスター
「わああああああ!!」
琶月
「ぎゃぁーー!!」

ジェスターの逆鱗に触れ琶月を襲う。
しかし今はそれどころではない。

ファン
「ジェスターさん!ルイさんを上手く取り押さえてください!
輝月さんもその人を殺さないようにしてください!」
輝月
「何故だ?こんな化け物生かしておいて良い事はないと思うが?」
ファン
「事情は後で説明します!僕はこの機械を上手く操作させて何か出来ないか調べます!」
輝月
「うぬ・・・ちょっとややこしいことになったの。しかし生け捕りもまた新しい技として身につけておいて
損はなさそうじゃな。琶月、ちょっと手伝え」
琶月
「このジェスターを何とかして!」
ジェスター
「わあああぁぁぁぁぁ!!」
輝月
「ジェスター。ルイとやらを助けるのが先だろう?」
ジェスター
「あ、そうだった。ルイー!」

琶月から離れる。

ジェスター
「ルイー!私ー!!分るー!?」

ダークルイがジェスターを見る。しかし隙だらけのジェスターに向けて
一本の針を飛ばしてきた。

輝月
「お主の事全く分っていないようだぞ」

輝月がジェスターの前に瞬間移動し針を刀で防ぐ。

輝月
「琶月。峰打ちで戦うのだぞ。触手ぐらいなら斬り落としても構わんじゃろうて」
琶月
「は、はい!」


ファン
「(ここの部屋は生命体を維持する部屋と書いてありますね・・・・。
・・・この部分の回路をOFFにすると生命体は苦しくなってカプセルから抜け出し自律行動を始めるらしいですが・・。
どういうことでしょうか・・・?既に回路がOFFになっている・・・?
・・・しかし輝月さん達の話ではついさっきまでルイさんはカプセルの中に居た・・・・。
まるで僕達が来たのを確認してから回路をOFFにした・・・という感じがします・・・。
生命体の活動を一時的に停止させる方法・・・。)」

ファンが必死に機械の中にある情報端末を操作して情報を探る。
その間輝月と琶月が必死で取り押さえようとしている。

ダークルイが触手を一度に五本伸ばし輝月の刀を奪い取ろうとした。
三本までは斬り落とすことに成功したが一本が直接輝月を殴りもう一本で刀を奪い取ろうとした。
必死に刀を握りながら輝月が何か行動を起こした。

輝月
「はあぁぁぁ!!」

輝月が叫び一瞬強い衝撃波が走った。自身の気を発散させ周囲の人を吹き飛ばした。(味方含む

ジェスター
「ぎゃー!」
輝月
「あの触手が邪魔だ。全て斬り落とすぞ、琶月。ゆくぞ」
琶月
「はい!」

琶月が先に前に飛び出しダークルイの注意を引く。

琶月
「足どめ!」

琶月が刀で文字を描き術を発動させる。ダークルイの足元に手が伸び足をしっかり押さえる。

琶月
「師匠!今です!」
輝月
「五花月光斬!」

輝月が高速で移動し前に僅か一秒の間に15回の斬撃を繰り出す。
ダークルイから生えていた触手だけに留まらず爪やその他脅威となりそうなもの全てを落した。
しかし

ジェスター
「・・あ!また生えてる!」
輝月
「・・・これはちと面倒じゃのぉ・・・。ファン!この者の取り押さえる方法は見つからんのか!?」
ファン
「・・・!」

突然ブレーカーが落ちた。
タッチパネルに触れても何の反応も返って来ない。
それどころか電気も消え周りが暗くかなり危険な状態だ

ファン
「だめです、操作を受け付けなくなりました」
琶月
「この役立たず!」
ファン
「そんな事言わないでください!」
輝月
「峰打ちで気絶させるぞ」

もう一度剣を構え直しダークルイと戦いはじめる。
輝月と琶月が戦っている中、ジェスターはただひたすら眺めていた。

ジェスター
「ルイ・・・」







ヘル
「やったぞ、テルミット!奴らの巨大な発電装置をぶっ壊したぞ!」
テルミット
「ヘルさん!しかし真っ暗で僕達も何も見えません!」
ヘル
「ライト使えライト」

ヘルが簡単な魔法を唱えてライトを発動させる。しかし隣でテルミットがもっと強いライトを発動させて
かなり遠くまで明るくなった。

ヘル
「これでエレベーターとかは使えなくなった。奴らもすぐに再出撃できないはずだ」
テルミット
「無茶かと思っていましたが徐々に基地の能力が下がってきています。」
ヘル
「このまま破壊活動を続けるぞ。」

ヘルが再び巨剣を投げつけて爆発させ、床に大きな穴をあける。



ファン
「て、天井で爆発!」
ジェスター
「わぁーー!!」

落ちてくる瓦礫をジェスターが走って回避する。
天井が崩れた瞬間突然魔法で作られた明りと共に誰か落ちてきた。

ヘル
「ファン!ジェスター!」
テルミット
「輝月さん達もいますよ!」
ファン
「良い所に!ルイさんを取り押さえてください!」
ヘル
「なに!?」

近くで輝月と琶月がダークルイと死闘を繰り広げていた。

ヘル
「テルミット!ルイさんを取り押さえるぞ!援護を頼む!」
テルミット
「はい!」

ヘルも戦闘に加わる。
巨剣は使わず直接体当たりしたり足を引っ掛けて転ばせたりと補助的な行動を中心に戦った。
テルミットが後ろで強化魔法を持続的に発動させヘルの身体能力を向上させている。

転んだ所や体勢が崩れた所を輝月と琶月が峰打ちで追い打ちをかける。
ダークルイに攻撃させる暇を与えず徐々にダメージを蓄積させていく。
このまま押し切れる。

基地に潜りこんでから三時間が経過していた。










ルイ
「キュピルさん・・。今から全て私は正直に話します。だからキュピルさんも正直に話してください」
キュピル
「・・・続きを言ってくれ」
ルイ
「私がキュピルさんの事をこんなにも心配しているのは・・・。
キュピルさんの事が好きだからです!!」
キュピル
「・・・・!!?」
ルイ
「私は言いましたから!キュピルさん!!元の世界に戻る理由は!?」
キュピル
「ル、ルイ・・・・」
キュピル
「・・・ルイ・・・ごめん・・・。本当にごめん・・・・。
・・・俺は・・・元の世界に・・・
救ってあげないといけない婚約者が・・・・いるんだ・・・」
ルイ
「っ!!!!」
キュピル
「あいつは・・・」

ルイ
「・・・許さない・・・」

キュピル
「何だって?」

突然ルイの姿が変わりダークルイへと変わる。

ダークルイ
「・・ラミ・・ウラミ・・・」
キュピル
「・・・・!」

突然目の前にジェスターとファンが現れる。
しかしダークルイの視界に入った瞬間鋭い爪で刺し殺されてしまった。

キュピル
「!!!!」

ダークルイに飛びかかりたい。しかし体が動かない。まるで金縛りだ。
今度は目の前にヘルとテルネットが現れた。
ルイと戦うが太い触手で思いっきり叩きつけ二人を弾き飛ばす。
今度は輝月と琶月が現れたがその二人と同じようにして弾き飛ばされた。
そしてじわり・・じわりとルイがキュピルに近づいてきた。

キュピル
「・・・・・・」

何も考える気が起きない。
ルイに殺されるか・・・・。・・・・俺はこれが本望だと言うのか・・?
その時ルイがまた何か呟いた。しかしルイではない別の誰かがしゃべっているように聞こえる。

「永遠に戦い続けるキュピル。お前は何処まで戦い続ける?
周りの人を見てみるが良い。戦っている者はいるか?お前程幼いころから戦争に巻き込まれ
その中で生きのびようと必死にもがいて尚戦い続ける者はいるか?
あのような出来事をトラウマとせず、なお自ら戦地へと足へ運び味方を巻き込みながら
何故戦い続ける?そいつは簡単だ。・・・なぜなら・・・・」

キュピル
「それが俺の日常だから」

口が勝手に動いた。
するとまたルイが喋り出した。しかしさっきの人とはまた違う別の誰かの声が聞こえた。

「人は本当の戦いを忘れてしまった。戦いは一つの日常とした。
戦いは一つの遊びとした。戦いは一つの権威とした。
キュピルは過去に大戦争に巻き込まれ逃げ出したいと思っている中戦い続け
そしてその夢が叶った。平和なナルビクへやってきた。
それなのにお前はまだ戦っている。何故戦い続ける?・・・そいつは簡単だ。・・・なぜなら・・・・」







キュピル
「う、うわぁぁ!?」

急に落下し何が起きたのか判断する前に床に転げ落ちた。
・・・どうやら椅子から落ちたようだ・・・。

キュピル
「な、何だったんだ・・・。俺は今物凄く不快な夢を見た気がする・・・」

自分じゃなくなるような夢・・・。疲れているのだろうか・・・?
時計を目にする。

キュピル
「しまった、11時じゃないか。ファン!今起きた!」

・・・・。

・・・・・・・・・・。

キュピル
「・・・・・?おーい!誰かいるかー!?」

・・・・・。

・・・・・・・・・・。

キュピル
「・・・・・?」

立ちあがり全ての部屋を確認する。
変えの着替えがある程度で誰も居ない。

輝月達がいないのならともかくジェスターやファンまでもがいないのはわからない。

・・・・何かあったのか?
武器を手にし再び歌う森へと入る。
しかし暗闇に包まれた森の中では明かりも全く聞かず探そうとすること自体が無謀だった。

・・・・。

不安に胸が押しつぶされそうになるがジタバタせず拠点にもう一度戻った。




キュピル
「はぁ・・・」

顔を洗って一度シャキッとする。

キュピル
「まずかったな・・・。PT編成をあんな風に分けるんじゃなかった・・・」

せめて二チームまでだった。四つに分けたからこんなことになったんだ。
流石に編成ミスがあった。

キュピル
「・・・しかし・・・。」

何故帰って来ないのか?
考えられる原因をあげてみる。

まずは輝月達だ。
・・・まだ輝月と出会って五日しか経っていない。
だが輝月の実力は既に身に染みている。彼女達は俺より年下かつ女性だが
実力は正直俺より上だと思っている。ただ唯一俺が輝月に勝る点は経験と根性だ。
ただひたすら修行を積んで実力をつけても経験だけはどうしようもない。

・・・そう、つまり想定外な事が起きると始めのうちは上手く対処できているように思えても
次第に上手くいかなくなると焦り始める・・・・。そこから崩れて行くタイプだ・・・。
・・・つまり今何か想定外な事が起きているのか?
・・琶月に関しては輝月にべったりくっついているから基本的に一緒に居ると考えていいだろう・・。


次はヘル達だ。
ヘルも普通の人と比べたら遥かに強い。しかし自分の強さを過信しすぎている所がある。
ああいうタイプは何か発見したらとことん追いかける・・・。
・・・・まさか敵の拠点を発見したのか・・!?
だとしたらヘルの性格からして間違いなく拠点に侵入して戦っているはずだ。
もしそうならばこれはかなりまずいことになった。

いくらヘルとはいえ流石に敵の拠点一つまるまる相手にするには無茶がある。
自分より弱い奴に関しては無類の強さを発揮するかもしれないが自分より強い奴を見つけた時・・。
ただ闇雲に戦うダメなヘルへと成り下がる・・・。
テルミットはヘルのサポートをしてくれているはずだ。基本的に二人が離れて行動するということは
あまりないはずだ・・・。


最後にジェスターとファンだ。
・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。

だめだ、どれだけ考えても帰って来ない理由が思いつかない。
ジェスターだけなら迷子になっているかもしれないが・・ファンもついている。
更にもっといえばファンはテレポートを覚えている。例え道が分らなくなったとしても
身に危険な事が起きたとしてもすぐテレポートで帰って来れるはずだ・・・。

それなのに二人はいない。

・・・・。

キュピル
「それはつまり魔法の使えない場所に来たということだ」

・・・。

しかし魔法が使えない場所・・・。
それがどこなのかキュピルには分らなかった。

・・・そして再び頭を抱えて悩み始めた。





キュピルの推測は当たっていた。

押していたかと思っていたがいつまで経っても疲れた気配を見せないダークルイの猛攻に
輝月が若干困惑し始めていた。

輝月
「何故・・・?何故この者は疲れぬのだ・・?そして何故これだけ攻撃を受けているのに
立っていられる・・・?」
ヘル
「ちっ、威力不足だと言いたいのか!?」

斬っても斬ってもすぐ再生する触手。
間違ってルイを斬ってしまった時もすぐに傷が再生した。
その時誰かが入ってきた。

???
「一号。データーは十分集まった。そろそろ本気を出して終わらせろ」
琶月
「誰です!」
???
「誰でも良い」
ファン
「・・・!!こ、校長・・・!?」
ジェスター
「え!?あ!!!」

ファンとジェスターが見た人物は紛れもなくトラバチェスの元統領・・・。
そしてアノマラド魔法大立学校で校長もやっていた人物・・・そう、あいつだった。
二人が校長に気を取られている隙にルイに異変が起きていた。
突然闇のオーラーが拡大し全員を吹き飛ばした。

輝月
「っ!」
ヘル
「ぐわっ!」
琶月
「師匠!」
テルミット
「ヘル!」

後ろに下がっていた二人がそれぞれ自分と親しい人を助け出す。


輝月
「・・・ファン、ジェスター。この者を助け出したい気持ちは分る。だがこのままでは我々の身も危ないようじゃぞ?」

輝月が刀を反転させ峰打ちから刃をルイに向けさせる。

ジェスター
「ルイを殺さないで!」

輝月が何か行動を起こそうとした。
しかし突然ダークルイが消え輝月の後ろに現れた。
そして気付く前に鋭い爪で輝月の背中を突き刺した。

輝月
「はぐっ!?くっ、小癪な・・!」

輝月が刀で後ろに居るダークルイを斬りつけようとした。
だが冷静な判断を失ってしまった輝月の攻撃は子供でも避けられそうな技になっており
簡単に避けられそしてまた鋭い爪で突き刺された。

琶月
「師匠によくも!」

琶月が抜刀してダークルイに襲いかかる。
大きく振りかぶってダークルイを一刀両断しようとする。
だが太い触手を飛ばし強烈なカウンターを貰う。
顎にぶつかり後ろに倒れる前に更に強烈な攻撃をお見舞いした。

琶月
「うっ!」
ヘル
「隙だらけだ!!」

琶月に気を取られている隙にヘルとテルミットが連携攻撃を仕掛ける。
ヘルが巨剣を投げ飛ばす。テルミットはルイが何処に避けても矢が当たるように
計算しながら矢を連射する。

ヘル
「こいつは避けられない!!」
テルミット
「流石のルイさんもこの攻撃は回避できないはずです・・」

しかしダークルイは攻撃を回避したのではなく闇のオーラーで攻撃を全て跳ね返した。

ヘル
「!」

大量の矢が襲いかかる。まだ手元に巨剣はなくガードする術を失いたくさんの矢が突き刺さる。
トドメに自分の巨剣が突き刺さりヘルがその場で倒れる。
ダークルイがテルミットを睨みつける。

テルミット
「・・・降参します」
ファン
「・・・僕も降参します・・」
ジェスター
「・・・」

校長
「データー収集完了。こいつ等を閉じ込めろ」

通路からたくさんの兵士が現れ倒れた輝月や琶月、ヘルを連れ出し
テルミット、ファン、ジェスターも連れて行かれた。



校長
「・・・キュピルがいないか」
兵士
「お知らせいたします。上の者の報告によりますとキュピルは拠点で寝てるとのことです。」
校長
「ということは奴は自らは拠点に籠って奴らだけをこの拠点に入れさせたというのか?・・・舐めたな・・やつも。
すぐに計画を実行に移せ」
兵士
「はっ」







==翌日


とうとう朝になっても皆は帰って来なかった。
これは間違いなく何かあったと見ていいだろう。

キュピル
「・・・しかし、俺はどうすればいい・・・」

何処へ行けばいいのかわからない・・・・。
一人という孤独とプレッシャー・・・。
・・その時ふと気がついた事がある。

キュピル
「そういえば・・・。モンスターの襲撃はどうなったんだ?」

一度拠点から出てケルティカの兵長に聞くことにした。


兵長
「モンスターの襲撃?てっきりお主らの活躍のお陰で脅威は消え去ったと思っていた」
キュピル
「ということは俺達が来て撃退してからまだ一度も襲撃してきてない・・ということですか?」
兵長
「うむ。」
キュピル
「わかりました」
兵長
「何かあったのかね?今なら兵も自由に動かせる、もしかしたら協力できるかもしれないぞ」
キュピル
「・・・」

この際頼る事にする。









==数時間後






レンガに囲まれた狭く薄暗い部屋の中で全員閉じ込めらられていた。


ヘル
「うおりゃっ!!」

硬く閉ざされた鉄の扉に何度もタックルする。

看守
「うるさいっ!!飯抜きにするぞ!」
ヘル
「飯三日抜いたって人は生きていける!」

ヘルがガンガンぶつかる。

輝月
「ぬぅ、うるさい奴じゃのぉ。ゆっくり休憩してられんわ」
琶月
「師匠・・・こんな時に休憩してるというのどうかと思いますが・・」
輝月
「うむ?なら琶月はこの状況を打破できるというのか?」
琶月
「いやー・・そのー・・。・・・鉄の扉にタックルする・・?」
輝月
「ならやってみるととよい」
ヘル
「うおりゃっっ!!」
看守
「だあああ、もううるせーー!!!」

看守が隙間から威嚇射撃してきた。

ヘル
「見てみろよ。俺達を撃ち殺す気はないようだ。」

再びヘルが鉄のドアにタックルを始めた。

看守
「いい加減にしろ!」

正真正銘ヘルを狙って撃ってきた。
辛うじてヘルが回避するがタックルする気力は一時的に失ったようだ。

ヘル
「ちっ、面倒だ」
輝月
「やっと静かになったか」
テルミット
「何百回もタックルしてましたが全然ドアにダメージは入っていませんね・・」

ヘルが諦めて皆のところに戻る(戻ると言っても僅か2m程しか離れていないのだが)

ジェスター
「うーん・・・。」
ファン
「どうかしましたか?」
ジェスター
「そういえばキュピルだけいないね・・・・」
輝月
「・・・あやつまで掴まっては困るな」
テルミット
「現状ではキュピルさんが救出してくれるのを祈ってますからね・・・」
琶月
「でも流石にあの男でもこの拠点を制覇するのは厳しいんじゃないかな?」
ヘル
「キュピルさんを舐めるな。」
輝月
「琶月よ。仮にあの男が掴まったとしても私等で脱出はできる」
ファン
「出来るんですか!?」
輝月
「時が来れば・・の話じゃがな。奴らがこのままワシ等を餓死させようというんだったら少々話は変わるがの」
ヘル
「武器がないのにどうやって脱出する気だ。俺みたいに体術も扱えない癖に」
輝月
「そう血気にはやるでない。今は協力する時じゃろうて?いざというときはお主に行動してもらう」
ヘル
「・・・まぁ・・・そうだな・・・。・・しかし、改めて聞き直すが・・・。
武器なしで本当にどうやって脱出する気だ。今俺から見れば輝月は和服を着たただの少女だぞ。」
輝月
「それを言うたらお前の相棒かてただの少年じゃろうて?」
テルミット
「僕こうみえても24です・・・」
琶月
「えぇーー!!18にしか見えない!!」
テルミット
「ありがとうございます(?」
輝月
「いずれワシ等をここから連れ出そうとする時がくる。その時一致団結して
敵兵を押し倒し武器を奪い取ればいいかて。」
ジェスター
「うーん・・・。上手くいくといいんだけどねー・・」
ファン
「何か久々にジェスターさんが悩んでます・・」

ヘル
「・・・ったく、誰か入ってくるまでゆっくりするか・・・。で、トイレはどこだ」


・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


琶月
「最低ーーーーーー!!!!」
ジェスター
「キュピル早く助けに来てーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
ヘル
「俺に言うな!!!!!!!!!」
ファン
「さ、流石にここではしないでくださいよ!!」
テルミット
「・・・・・・・・」
ヘル
「黙るな!」
輝月
「ヘルよ、するんじゃったら端でしろよ」
ヘル
「するか!!!!!」
看守
「うるさい!!もういい加減にしろ!!!!」
ジェスター
「わあああああああああああああああ!!!!」








キュピル
「うっ、今なんか嫌な予感がした。なるべく早めに助けに行くか・・・。それで何か見つかりました?」
兵長
「兵士を全員動員させて歌う森を捜索させた結果三つの穴が空いていたそうだ。
その穴は一見それぞれ違う所に繋がっていると思ったが・・・全て一つの拠点繋がっているらしい。」
キュピル
「!!。間違いない、今回の襲撃者の拠点だ!」
兵長
「なんと!ということはその拠点を制圧してしまえばケルティカはもう安全と見て良いか?」
キュピル
「断言はできないが十中八九安全になるはずだ」
兵長
「では、チームを編成して今すぐ突撃しにゆこう。何人か兵士を貸し出すが必要か?」
キュピル
「いや、ソロで隠密行動してる。どっかで激しく暴れててくれ。裏で奇襲する」
兵長
「理解した。みなのもの、一度ケルティカへ戻ってくれ。チームを編成し発見した拠点へ襲撃をかける」



・・・。

必要最低限の防衛兵をケルティカに置き、残りの隊は攻撃部隊に回った。






キュピル
「ここが・・敵の拠点か」

地面に穴があいている。
・・・反対の方格からケルティカの軍隊が侵入しドンパチやってくれているはずだ・・。
さっそく穴の中に入り皆を探すことにする。

穴の中は排気口らしくパイプの中を滑っていけそうだ・・・。
何があってもいいように抜刀して穴の中に飛び降りる。
ぐんぐん落下していく。途中から傾斜になり滑り台のようにパイプの中を滑って行った。
そして一番下まで到着した。
金網を壊して通路に降りた。

・・・。

敵はいないようだ。向こうがしっかり引き付けているようだ。
下手にゆっくり動くよりここは迅速に行動しよう。通路の中を走っていく。
長い通路を走り続けると行き止まりにきてしまった。
仕方ないので何処か適当な扉を開ける。
しかし殆どが個室で何処かに続いてはいなかった。

途中エレベーターを発見したがIDカードが必要らしく乗ることができない。
当然IDカードは持っていない。

・・・・。

キュピル
「(・・・くそ、中々他に繋がっている道が見つからない)」

まさかいきなり閉じ込められたか?
そう感じながら他の部屋を調べて行くと机の上に椅子が転がっている部屋にきた。
天井を見るといくつか銃弾が通ったような穴があり排気口の蓋が外れていた。
まさかここに誰か通ったのか?

キュピルが机の上に乗っかり椅子を一つだけ置いてジャンプし天井裏に登ろうとした。
そこから排気口の中を這って進もうとしたが途中ワイヤーで結ばれた手榴弾を発見した。
・・・もしこのワイヤーに気付かず行き来しようとするものならピンが外れてその場で即爆発しただろう・・・。
恐らく再度戻って来た時のために仕掛けておいたのだろう。

残念ながら今この場でこのワイヤーを斬ることができそうなものはない。
剣だとワイヤーを斬る前に引っ張ってしまうのでダメだ。
・・・斬る物・・・。見つけたらまた戻るとしよう。

一旦通路に戻り他にどこか別の場所に繋がっていないか一つ一つ調べて行く。
しかし全ての扉を調べても個室しかなくここから他のところへ行くには排気口から
別のところへ行ってみるかエレベーターを使うしかなさそうだ・・・。
他の部屋から天井裏に忍び込めないか試行錯誤してみるがそもそも排気口のある部屋が三つしかなく
二つは地上へと伸びているので登る事ができない。
一つはさっき調べた場所だ。

・・・・・。閉じ込められてしまった。

キュピル
「これはやるしかない」

エレベーターの前に立つ。
そして気合を込めてエレベーターの扉を無理やりこじ開けようとする。

キュピル
「うぐぐぐぐっっっっっ!!!!!」

全身から汗が噴き出す。
重い・・・・!!!!
だがほんのわずかだが扉が開いた。少しでも開けば跡はテコの原理で簡単に扉をあけることができる。
他の部屋から拾った硬い棒でエレベーターの扉をこじ開ける。
・・・。ここはどうやら最下層らしい。上へ登る事が出来る緊急用梯子がある。
その梯子を登って一つ上の階へ行く。ここより更に上へ行こうとしたがエレベーターが邪魔で通れない。
・・・こんな狭くていいのか?

とにかくこの扉をもう一度こじ開けねばならない。
慎重に扉の前に移動する。そしてまた渾身の力を込めてエレベーターの扉を開ける。

キュピル
「ぜぇ・・・。」

何とか一つ上の階へ移動することができた。
ここの階もさっきと同じく沢山の扉があった。
調べて行くと・・・どうやらここも個室を中心に構成されているらしい。何処かに続く・・というわけではないようだ。
全ての部屋を調べたが全て個室でまた実質閉じ込められてしまった。

キュピル
「うーむ・・・」

今度は排気口を調べる。この階にも排気口はあった。
一つ一つ壊して調べて行くと別の場所へ続いていそうな排気口を見つけた。
さっそく排気口の中に入り這って進んでいく。
どんどん進んでいくと目の前に金網が現れた。
その金網から外の様子を覗くと研究室らしい場所に来た。
金網をまた壊して研究室に入る。誰もいないようだ。

沢山の薬品がある。しかしどういう効果があるのかキュピルには全く分らない。
外に出ようと扉を開けようとするがここを通るにはIDカードがまた必要らしい。
・・・やれやれ、まーた閉じ込められてしまった。
諦めて研究室の中を調べて行く。
すると分厚い赤いフォルダが目についた。
中身を確認すると何かの研究データーがかかれていた。しかし異国語で書かれているため
何て記しているのか全く分からない。

キュピル
「(しかしモンスターを操って襲撃してくる敵の事だ。どうせ良からぬ事に違いない)」

フォルダを鞄の中に詰める。こいつは頂いていこう。
その時ある事に気がついた。フォルダの下にもう一枚紙があった。
そっちはキュピルでも分る言葉で書かれていた。
・・・どうやら目の前にある薬瓶の説明書きらしい。
この中に色んな薬品があるらしく調合することで色んなものが作れるらしい。

キュピル
「物を溶かす薬品とかって作れないかな・・・」

調べていると作れる事が判明した。
BA−1とGH−2という薬品を混ぜBA−4という薬品を作る、次にBA−2とBA−3を混ぜBAA−1を作る。
最後にBA−4とBAA−1を混ぜてPO−1を作成すれば完成らしい・・・。
間違えると毒ガスが出る可能性があるので慎重に混ぜて行く。

・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

キュピル
「よし、できた」

瓶の蓋をしっかりきつく閉めポケットの中に居れる。
これを使えば最下層の排気口にあったあのワイヤーを溶かすことができるんじゃないだろうか?
下手に斬るより溶かしたほうが安全といえば安全だ。(その後引火するかどうかわからないが。

研究室から排気口にもう一度潜り元の通路に戻る。
そして半開きになったエレベーターの扉を通り緊急用梯子で下に降りて行く。
最下層の通路に戻り一番最初に見つけた排気口の中に潜る。
まだ手榴弾は残っていた。

薬品を取り出し慎重に糸に液体を垂らす。
液体が糸に触れた瞬間ジュッと音を立てて溶けて行った。
そしてそのまま鉄を溶かし下に落ちて行った・・・。

これで通路の奥にある手榴弾を手にする事が出来る。
手榴弾を手にし安全ピンにロックをかけてポケットの中に居れる。
そしてそのまま奥へと突き進んでいく。

・・・・。

・・・・・・・・。

大分長く這った。
どんどん進んでいくと正方形の形にくくり抜かれた穴があった。
その穴から下の部屋に降りるとカプセルがたくさんある部屋に入った。
中央に大きなカプセルが五つありそのうちの一つが割れている。

ガラスの破片があちこちに飛び散っており激しい戦闘の跡があった。
ここで何があったのだろうか・・・。
・・・・その時何か落ちているのに気がついた。

キュピル
「これは・・・」

・・・・何処かでみたことある。
何だろう・・・。この御洒落な髪留めは・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・。

はっ!思いだした!
これは輝月が長い後ろ髪を止めるのに使っていた髪留めピンだ!
ということはここで輝月が戦闘をしたということ?
・・・。これを回収するほど余裕がなかったのだろうか・・・。
早く探さないといけない。

通路に出て他の部屋を捜索しはじめる。
しかしここの通路の扉は殆どIDカードを必要としており入れる部屋が限られていた。
その中で一際セキュリティーレベルの高い扉を見つけた。
この扉を開けるにはIDカードだけではなく暗証番号、指紋認証する必要があるらしい。

・・・・。

キュピル
「・・・・?」

よくみるとこの扉。機能していない。
IDカードを確認する機能は生きているようだが暗証番号と指紋認証は何故か知れないが
通電していない。どっかで電源でも壊された?
しかしどちらにせよIDカードが無ければ通れない事には変わりない。
諦めて別の扉を捜索し始める。



捜索し始めて二時間が経過していた。











ヘル
「・・・やばい、そろそろ我慢の限界だ」
琶月
「我慢しなさい!」
ヘル
「限界つってるだろ!」
ジェスター
「わああぁぁぁぁ!!」

その時牢屋の扉が開いた。
全員扉の方を見る。
しかし何かが一つ放り込まれ再びドアが閉まった。

ヘル
「・・・ちっ、やられたな」

その数秒後、放り込まれたものから煙が噴射された。
睡眠ガスだ!!
急激に瞼が重くなり一瞬で眠ってしまった。

兵士
「全員眠ったのを確認」
兵士2
「早く連れ出せ。」

兵士が扉を開けた。
しかし扉を開けた瞬間。

ヘル
「トイレエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
兵士
「う、うわっ!!!」

ヘルが物凄い勢いで兵士を突き飛ばし看守室にあったトイレに閉じこもった。
敵兵全員ヘルに気を取られている隙にもう一人後ろから接近してきていた。

兵士
「ぐわあぁっ!!」
兵士2
「!?」
輝月
「油断したな・・」
兵士2
「ひぃっ!?」

手にはナイフを持っており次の瞬間にはもう一人の兵士も首を斬られていた。

輝月
「・・・ぬぅ・・。流石に・・私も・・眠気が・・・」

敵を倒し扉を開けた所で輝月がその場で気を失った。


・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。


ヘル
「あー、マジで恥書くところだったぜ。もう眠気とかそんなレベルじゃなかったぞ。」

ヘルが牢屋に戻り全員を叩き起こす。

ヘル
「起きろ。脱出できるぞ」
テルミット
「うぅ・・・。はっ・・・。ヘルさん!漏らしていませんよね!?」
ヘル
「五月蠅い!」

ヘルがテルミットの頭を叩く。

テルミット
「冗談ですよ。皆さんを早く起こしていきましょう」

ヘルが誰かを起こすたびに全員臭いを確認する。
・・・ヘルが今にも怒りそうな顔をしている。

琶月
「全くもー・・・。・・・・あれ・・・?そういえば師匠は・・・?」
ジェスター
「眠いー・・・。・・・そういえば・・・輝月いないね・・?先行っちゃったの?」
ヘル
「あいつ眠らなさそうな体質してるからな。」
琶月
「師匠はちゃんと眠ります!」
ファン
「輝月さんはかなり強いですからもしかしたら先行しているかもしれませんね」
琶月
「でも私を置いて何処か行った事は・・・ないんだけど・・・」
ヘル
「・・・」

ヘルが少し何か考え始める。

ヘル
「・・・テルミット。何故俺達はルイさんに殺されずこうして今掴まっていると思う?」
テルミット
「え?・・それは・・・。」
ヘル
「もし俺達に何も用がないというのであれば既に殺しているはずだ・・。それなのに俺達は生かされている」
ジェスター
「キュピルを脅すために・・?」
ヘル
「・・・それも考えたが・・。何故睡眠手榴弾を使って連れ出そうとした?
仮に何処かの部屋に連れて行って処刑なり脅しなりするにしても兵士二人では運ぶのに時間がかかる・・」
ファン
「・・・もし僕達を運び出そうと考えていたのであれば兵士二人で大体僕達の誰か一人をスムーズに運べますね・・・」
テルミット
「・・・一人だけ運び出して何をするかはわかりませんが・・・嫌な予感しかしません」
ヘル
「ちっ、まさかだとは思うが俺がトイレ行っている間に輝月は他のところに運ばれたのか?」
琶月
「は、早く師匠を助け出さないと!」
ヘル
「慌てるな。まだそうと決まった訳ではない。それに実際本当に運び出されたのかすら怪しい。
とにかくまずは俺達の武器を取り返しに行くぞ。その後輝月を探しに行く」
ファン
「先導よろしくお願いします」
ヘル
「任せろ」

体術を覚えているヘルを先導に全員牢屋から脱出する。
が、脱出しようとした時琶月がある物に気がついた。

琶月
「・・・こ、これは・・」
テルミット
「どうかしましたか?」
琶月
「このナイフ・・」

倒れている兵士のすぐそばに一本のナイフが落ちていた。

琶月
「師匠が隠し持っているナイフです。・・何でこんな所に・・・?」
ヘル
「・・・急ごう。ついでにこいつは使わせて貰おうか」

ヘルがナイフを逆手で持ちアサシンのように構える。
そして通路へ出て行った。







キュピル
「・・・!」

キュピルが通路の角に身をひそめる。
今誰か来た。
・・・二人・・兵士がいる。
・・・誰か運んでいるようだが・・・怪我人か?

IDカードを使ってある部屋に入っていった。
兵士が中に入り扉に閉まった後その扉の横で待機する。
・・・部屋の中から声が聞こえる。


「御苦労だった。・・・二つ目の計画を実行する・・・。この場は任せる」
「はっ」
「私は他に行くところがある。」

そういって声の主は他の部屋へ移動した。
・・・どうやら今待ち伏せしている扉とは違う場所のようだ・・・。
そのまま数分間身を潜めているとキュピルが待機しているドアが開いた。

開いた瞬間キュピルが敵兵士を引き寄せ口を抑えた。
そしてそのまま何も喋らさずに剣で首を斬った。

キュピル
「悪く思わないでくれ・・」

敵兵士の胸ポケットにIDカードが入っていた。
そのIDカードを手に取り部屋の中に入る。



==生体研究室


部屋に入ると一人の研究者と銃を持った兵士が三人いた。
そして目の前に手足を拘束された輝月の姿があった。どうやら輝月は眠っているらしい・・・。
一度深く息を吸った後キュピルが物凄い勢いで前に突進し研究者を突き飛ばした
敵兵士がキュピルに気付き銃で撃ち殺そうとしてきた。
だが狙いを定められる前に再び素早く行動し敵兵士の腕を斬る。
深く肉を斬られ敵兵士が叫びながら変な方向へ銃弾を飛ばす。
様々な機器に銃弾が当たり故障する。

他の敵兵士二人がキュピルに狙いをつけて発砲してきた!
しかし今斬った敵兵士を身代わりにし銃弾を受け止める。
そして身代わりにした敵兵士が持っていた銃を奪い敵に向けて発砲する。
デタラメに撃ったが見事命中し敵兵士二人が後ろに倒れる。

キュピル
「全員倒したか・・!?」
研究者
「ククク・・・」
キュピル
「!?」

研究者が今何かのボタンを押した。
その瞬間輝月が起き叫んだ

輝月
「うぐああっっ!!!」
キュピル
「おい貴様!何をした!」
研究者
「時期にそいつも化け物になるぜ・・・。一号のようにな・・・」
キュピル
「化け物・・一号・・?どういうことだ!!」

研究者の胸倉を掴んで尋問する。
だが何も言わずに研究者が舌を噛んで自殺してしまった。
こうなってしまってはもうだめだ。早く輝月を助けることに専念せねば。

とにかくこの機械の動きを止める!
機械の後ろに大量のケーブルが繋がっており剣で全部切断する。
だがまだ動作している。

今度は機械を直接壊そうと強力な蹴りを繰り出す。だがびくともしない。

キュピル
「くそっ・・!どうすればいいんだ・・。拘束を外した方が早いか・・・!?」
輝月
「キュ・・ピル・・!私の・・腕と足を斬れ・・!」
キュピル
「腕と足・・・いや、そいつは無理だ・・!!」
輝月
「あの化け物になるよりかは・・・マシじゃ・・!!」
キュピル
「あの化け物・・一体誰の事なんだ・・!」

しかし聞いてる時間はない。急がないとその化け物とやらになってしまう。
その時ポケットにある物があることを思い出した。

キュピル
「輝月!火傷したらすまん!」

ポケットから手榴弾を取り出し拘束具に投げる。
輝月の近くで大爆発が起きた。
台が壊れ輝月が前に放り出された。
輝月の背中にケーブルがいくつか繋がっておりそれを全て外す。

輝月
「ぐぅっ・・・」
キュピル
「大丈夫か!?」
輝月
「もう大丈夫だ・・・。・・・助かったぞ・・」
キュピル
「輝月。皆が何処に居るか知らないか?」
輝月
「眠りに落ちる前までは一緒にいたのじゃが・・・。そこから先は知らぬ・・。気が付いたら拘束されていた・・」

短時間の出来ごとだったがかなり体力を消耗している。
仕方ない。自力で探そう。

キュピル
「立てるか?」
輝月
「あぐっ・・・!」

かなり辛そうだ。これは背負って移動したほうがいいな。
輝月はそのまま気絶してしまいキュピルが輝月を背負う。そして再びまた
片っ端から部屋を捜索し始めた。

捜索を再開してから10分後。輝月に異変が起き始めていた。

キュピル
「・・・・!?」

輝月の腕が少し黒くなっている。
一度降ろして輝月がどうなっているのか確認する。

キュピル
「・・・皮膚が・・・さっきより少し黒くなっている・・・」

・・・嫌な予感がする。
早くファンを探さないと。

もう一度背負い部屋の捜索を再開する。
次の部屋の扉をあける。するとそこに沢山の武器があった。
中には見覚えのある武器もあった。

キュピル
「これは・・・ヘルの巨剣だ。テルミットの巨弓もあるし輝月と琶月の刀もある。
・・ジェスターの武器もだ!ファンの魔法石もある・・・。」

この武器を回収したいが輝月を背負っている間は無理だ。
後でまたこの部屋に戻ろう。

また部屋を一つ一つ開けて確認していくと怪しい物音がした。


ガンガンガン


ガンガンガンガン


声も聞こえる


「ちくしょう!壊れろ!」
「師匠のナイフで叩きつけないでください!!」
「IDカードがないと開かないとは参りましたね・・・」

・・・聞き覚えのある声だ。
その扉の前のところに近づく。

キュピル
「おい!聞こえるか!?」
ジェスター
「あ!!キュピルの声だ!!」
ヘル
「キュピルさん!?無事でしたか!」
キュピル
「あぁ!俺は大丈夫だ!だが輝月がかなりヤバイことになっている!」
琶月
「師匠がどうかされたんですか!!?」
キュピル
「皮膚が黒くなって・・皮膚の所々に緑色のブツブツが出来ている。気持ち悪い!」
ファン
「それは・・・早く拠点に戻ってスキャンをかけないと大変なことになりそうです。」
ヘル
「とにかくこの扉を開けてくれないか!?IDカードが必要らしいんだ!」
キュピル
「待ってくれ。IDカード持っている。今あける!」

キュピルがIDカードを使って扉を開けようとした。ところが開かない。

キュピル
「何故だ・・・何故開かない・・!?」

ファン
「キュピルさん!IDカードは認識してくれていますか!?ランプがついているか確認してください!」

つまり機械そのものが動作しているか確認しろってことか?
確認するとランプが消えている。

キュピル
「ファン!ランプがついてないぞ!」
ファン
「何処かでケーブルが外れたか切れたりなどして恐らく電力が通っていない状態です!」
キュピル
「うっ・・・・」

さっきの部屋で色んなケーブルを斬ったのは失敗したか・・・?

テルミット
「ファンさん!どうすればいいんでしょうか!?」
ファン
「そのケーブルを探すのはかなり困難です・・。」
キュピル
「・・・ファン。すまない。実はそのケーブル切ってしまったんだ・・」
ジェスター
「キュピルの馬鹿ー!」
琶月
「馬鹿ーー!!」
ヘル
「キュピルさんを責めるな!それでファン!キュピルさんはどうすればいい!?」
ファン
「・・・分りません・・・こればかりは・・」
キュピル
「くっ・・・」

何か・・・この扉を開ける方法はないのか・・・!?
・・・そう考えていたらある物を思い出した。

・・・・物質を溶かす液体・・・。
この扉にこの液体は通用するか・・!?

キュピルがポケットからワイヤーを溶かすために作った液体を取り出し扉に向けて投げつけた。
瓶が割れ液体が扉に付着する。物凄い蒸気を出しながらドンドン扉を溶かしていく!

キュピル
「よし!扉を溶かす事ができそうだ!」

だが蒸気の数が段々少なくなってきた。そして全てを溶かしきる前に全て蒸発してしまい
結局扉を全て溶かす事ができなかった!

キュピル
「た、足りなかったのか・・・!?」
ファン
「キュピルさん!何をしたんですか!?」
キュピル
「ある部屋で作った薬品をかけた!物質を溶かす薬品だ!」
ファン
「それです!その薬品を使って扉を溶かしてください!」
キュピル
「だが今全部使い切った!溶かしきれなかった!」
ファン
「もう一度作ってきてください!」
キュピル
「遠いが行ってくる!!」

輝月を背負い直しもう一度薬品が置いてあった部屋へ急ぐ。
通路を戻り沢山のカプセルが置いてあった部屋に移動する。
天井裏にある排気口へ潜ろうとしたが輝月を背負ったまま潜る事ができない。
仕方ないので輝月を誰にも見つからない場所に隠し、机を踏み台にして排気口に上る。
全速力で排気口の中を進み個室へ戻る。

そして半開きになったエレベーターの中を通り梯子を登る。
一つ上の階へ移動し研究室へと続く排気口に潜る。
研究室に入り調合方法の紙を参考にしながらもう一度調合する。

キュピル
「今度はさっきよりも沢山作らないと・・」

五つぐらいないと恐らく足りない。
慎重・・・かつ迅速に作っていく。
・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

キュピル
「よし、できた!」

大きめの瓶五つにたっぷり調合した薬品を詰め込む。
そしてもう一度来た道を戻りエレベーターの前へ移動する。
梯子を下りてる最中異変が起きた。

突然ガーーーーとエレベーターが動く音が聞こえた。

キュピル
「・・・!」

上からエレベーターが落ちてきている・・・!
誰かが乗ったんだ!!

梯子から飛び降り最下層にあるエレベーターのドアを急いで通る。
最下層の通路に戻りその三秒後に敵兵士が乗ったエレベーターが到着した。

敵兵士
「だれだ!」
キュピル
「お前の味方だ!」
敵兵士
「うそつけ!」

敵がキュピル目がけて発砲を開始する。

キュピル
「ちっ、追いかけられていたら輝月を安全に運び出せない・・・ここで倒さないと・・!」

だが倒す時間すら惜しい。
持っていた薬品を手に取り敵兵士に投げつける。
瓶が割れ敵が悲鳴を上げながら溶けて行った。
一つぐらい無くても全部溶かせるはずだ!

排気口の中を通り輝月を隠している部屋に到着する。
輝月をもう一度背負い直そうとした時その姿を見て驚愕する。
皮膚は更に黒くなっており実質茶色になっている。
そして緑色のボツボツから1cm程度の触手が生えている・・・。
これは・・・ルイのあの奇病と同じか!?

キュピル
「くそ!」

生えかけの触手を引き抜く。
そして再び輝月を背負いファンのいる部屋へ移動する。


キュピル
「持ってきた!」
ファン
「早く扉にかけてください!」

持っている薬品全てを扉に投げつける。
物凄い勢いで溶け始めついに扉を全て溶かしきった。

琶月
「し、師匠!!!」

琶月が師匠に抱きつく。

琶月
「ひ、酷い姿!!」
テルミット
「これは酷いですね・・・」
キュピル
「ファン!早くテレポートで脱出しよう!」
ファン
「実は・・掴まった時に魔法石を奪われてしまいました・・・」
キュピル
「その部屋なら見つけた。こっちだ!」
ヘル
「輝月は俺が背負う。俺のが力があるからな」

ヘルが楽々と輝月を背負いキュピルの後についていく。
そして一つの部屋に入る。

テルミット
「僕達の武器です!」
ジェスター
「捨てられたと思った・・・」
ファン
「この魔法石を使えばテレポートを詠唱できます」
キュピル
「よし、詠唱してくれ」
ファン
「・・・実は・・この拠点に呪文抵抗を張られており・・・魔法が詠唱できません・・」
キュピル
「・・・なんだって・・」
ヘル
「・・・ん?テルミット。俺達が一階に居た時ライトの魔法発動できなかったか?」
テルミット
「電源壊した時ライトの魔法を詠唱できましたね」
ファン
「!。ということはそこなら魔法を詠唱できるはずです!」
キュピル
「急ごう!ヘル!案内してくれ!」
ヘル
「承知!」


ヘルとテルミットが先導する。
まず中央に五つのカプセルが置いてある部屋に移動し天井に空いた穴を潜って一つ上の階へ移動する。
そして壊れた壁を通りドンドン突き進んでいくと更に天井に一つ穴が空いておりその穴を通って上の階へ移動する。
するとファンの握っていた魔法石が光りはじめた。

ファン
「ここなら詠唱できます!緊急テレポート!」

ファンが高速で魔法を詠唱しテレポートを発動させる。
そして全員を拠点へと飛ばす。






兵士
「・・報告。ターゲットの離脱を確認。この後すぐにスキャンをかけるはずです」
校長
「ククク・・・もう奴は我々の策にはまったも同然だ。
まさかケルティカにいるあの兵が我々の兵士だとは気付くまい・・・
兵士
「スキャン装置は既にすり替えています」
校長
「よくやった」





==コンテナ型拠点


キュピル
「早くスキャンを!」
ヘル
「輝月をカプセルの中に詰め込むぞ」
琶月
「詰め込むって言わないでください!」

ジェスター
「じぃー・・・。ねぇ、キュピルー!!」
キュピル
「どうした」
ジェスター
「私の書いた落書きがまた消えてる!」
キュピル
「そんなことはどうでもいい」
ジェスター
「どうでもよくないよ!だってこのカプセルまた別のにすり替わってるよ!!」
キュピル
「別のにすり替わっているだと・・・?」
ファン
「・・・・念のため機能をチェックします」

ファンが機械を操作しどういう動作をするのか確認する。

ファン
「・・・・・!!!。ヘルさん!輝月さんをそのカプセルから出してください!
全く別物のカプセルです!」
ヘル
「なんだと」
ファン
「不正な処理でプログラムコードが書きかえられています。・・・一体誰が・・・」
テルミット
「・・輝月さんの容体が更に悪化しています。早く治療しないと・・」
キュピル
「・・・ちっ、こうなれば一か八かだ・・・。あの人に頼ろう」
琶月
「あの人・・って・・!?師匠を助けられるなら・・お願いします!」

琶月が泣きながらキュピルに問う。

キュピル
「ファン!ナルビクへ一度帰還してくれ!一日経過してるから移動できるよな!?」
ファン
「できます!ナルビクへ一度帰還します!」

テルミットがレバーを動かしてワープ装置を起動させる。
その30秒後。魔法の光に包まれコンテナ型の拠点はナルビクへと帰った。




==ナルビク

キュピル
「ちょっと呼んでくる!!」
ヘル
「まさかアイゾウム先生じゃ・・ないよな?」
キュピル
「もっといい人がいる」



==アクシピター


ルシアン
「あれ?キュピルだ!」
ボリス
「・・・どうしたんですか。そんな焦った顔をして」

ルシアンとボリス。
・・・そしてミラとティチエルがいる。

キュピル
「ティチエルさん!!お願いです!貴方じゃないと治せない患者が・・!!」
ティチエル
「え?どういうことですか?」
ミラ
「ん?おぉ、一体どこのどいつかと思えばいつしか一緒にバーベキューした奴じゃないかー」
ルシアン
「バーベキュー?」
ミラ
「忘れたのか?ロシュの店に置いてあるバーベキューセットを買おうとして
こいつとボリスが勝負したじゃないか」
ルシアン
「・・・・あああ!!僕すっかり忘れてたよ!!ってことはあの時初めましてじゃなかったんだね!」
ボリス
「ルシアン。それより早くキュピルさんが言っている患者の所へ行こう。
彼がここまで酷く焦っているのは初めてみる。」
ティチエル
「私に出来ることがあれば何でもします!」
キュピル
「ありがたい・・。来てくれ・・・!」



==コンテナ型の拠点

キュピル
「連れてきた!ティチエルさん。この人です」
ミラ
「うっ・・・こいつは・・酷いな・・・」

輝月の容態は更に悪化していた。
まさにダーク輝月になる一歩手前の状態だった。
体から触手が生え髪も硬くなっており皮膚は黒くなっている。
ヘルとテルミットが一生懸命触手を斬り落としている。

キュピル
「キュアで・・治してくれ!」
ミラ
「おいおい!いくらティチエルが優れた回復魔法を覚えているからってこりゃちょっと・・・・」

無理と言いかけてやめた。

ミラ
「ティチエル。・・キュアをかけてやってくれ・・。あの傍で泣いている女の子を見たら心が痛んだよ・・」
ルシアン
「ティチエル頑張って!」

ティチエルが杖を構えてキュアを唱える。
いつものキュアと違ってかなり長く詠唱している。

ティチエル
「アビスの神様・・・この子の病気を取り除いて・・・」

ティチエルが杖を振り回し輝月にキュアをかける。
かけた瞬間輝月が叫び暴れ始めた。
ヘルとテルミットが飛びかかり抑える。
もう一度ティチエルがキュアを唱え輝月にかける。
より一層激しく暴れ出しキュピルと琶月も抑えに入った。

だが効果は表れてきている。触手が勝手に剥がれ
緑のボツボツも消えてきている。

ボリス
「・・・治ってきている・・。もうひと踏ん張りだ」
キュピル
「ぐっ!」
ヘル
「くそっ、輝月め、暴れるな!」
テルミット
「わっ!輝月さん僕の髪を引っ張らないでください!」
琶月
「うううううう!!」

ジェスターとファンは後ろで固唾をのんで見守っている。
そしてティチエルが今までの中で一番強いキュアを発動した。

ティチエル
「キュア!!」


拠点の周囲に白い光が現れ輝月の中へ入り込んでいった。
入った瞬間輝月が全員を弾き飛ばす程暴れたがすぐに大人しくなった。

キュピル
「いでで、頭ぶつけた」
ヘル
「・・・大人しくなったな。どうなった」
ルシアン
「・・・あ、見て!皮膚の色が元通りになっていくよ!」

輝月の皮膚の色が正常な色に戻っていく。
緑色のボツボツも消えてなくなり触手が生えてこなくなった。
そして穏やかな表情に戻り髪も普通の赤い髪に戻って行った。

ファン
「・・治り・・ました・・・?」
ティチエル
「ふぅ・・。最初どうなるかと思ったけど・・。無事上手くいったみたいです」
ミラ
「やるじゃないか、お譲ちゃん!」
ボリス
「ティチエルさんの白魔法は本当にすごいですね・・」

琶月
「よかった・・・よかった・・・・」
キュピル
「・・・とりあえずもう大丈夫そうなら輝月をベッドで寝かせてあげよう」
ヘル
「運ぼう」

ヘルとテルミットが輝月をベッドに運び寝かせる。

キュピル
「本当にありがとう。」
ミラ
「さーて、噂のオーナーから報酬を頂こうかな?」
キュピル
「え?報酬?あ、やべ。全然考えてなかった」

ミラがニヤニヤしている。
ルシアンもわくわくした表情で見ている。

キュピル
「・・・・よ、よし。バーベキューだ!!また全員でバーベキューすっぞー!」
ミラ
「そうこなくっちゃね」
ルシアン
「おー、何だか久しぶりだね!ボリス!」
ボリス
「・・・キュピルさんと喧嘩したあの日を思い返します」
ジェスター
「わーい、バーベキューだー!」
キュピル
「確かバーベキューセットがまだ家にあったはず。ヘルとテルミットに頼んで用意してもらってくれ。
・・・ちょっと俺は後処理してくる」
ジェスター
「後処理ー?」
キュピル
「まだ依頼を達成していない。ケルティカへ行ってくる」


そういって再び一人でケルティカへワープする・・・。







校長
「・・・どういうことだ。いつまで経ってもカプセルからデーターが送られてこないぞ」
兵士
「反応ロスト。・・・。ありえない話ですが・・治療されました」
校長
「・・・。」

その時無線が入った。
ケルティカに配置している兵だ。

兵長
「報告。キュピルが再度ケルティカへ戻ってまいりました。いかがいたしましょうか?」
校長
「・・・今回は我々の存在を悟られてしまっている。これ以上探索されては
想定以上の被害が出る。我々の拠点をボロボロにしたと偽って報告し依頼を達成させろ」
兵長
「了解しました」


校長
「・・・・奴はまだまだ利用させてもらう・・・」






兵長
「キュピルさん!大丈夫でしたか!」
キュピル
「大丈夫です。無事味方も救出することに成功しました」
兵長
「それはよかった。」
キュピル
「そっちこそ大丈夫でしたか?」
兵長
「我々の兵は皆精鋭。キュピルさんが裏で主要施設を破壊してくれたおかげで
僅かな被害は出た者の拠点無事制圧、そして爆破した。
これでもうモンスターは襲ってこないはずだ」
キュピル
「そうか・・・。爆破したか・・」

もう少し探索したかったが・・・こうなっては仕方が無い。

兵長
「まことに御苦労だった。報酬は口座に振り込んでおくのでご確認を」
キュピル
「ありがとうございます。では自分はこれで失礼します」


自分のクエストショップへ戻ることのできる特別なウィングを使って帰還する。


兵長
「・・・キュピルは帰還しました」
校長
「拠点へ戻ってこい。施設を移転させる。」
兵長
「はっ」







ヘル
「おい、俺はいつまで肉を焼いてればいいんだ。早く喰いたいんだが」
ジェスター
「焼きおにぎりやいてー」
ヘル
「だから俺はいつまで焼いていればいいんだ・・」
ミラ
「似合ってるぜ、お兄さん」
ルシアン
「海の男!」
ジェスター
「イケメンー(棒声」
ヘル
「もうちょっとだけ焼いてやる」
テルミット
「(乗せられてますよ・・・)」

キュピル
「おーい、銀行から金降ろしてきたぞー。なんか花火とかでも買ってきたらどうだ?」
テルミット
「あ、では僕が買ってきます。肉残しておいてくださいよ?」
キュピル
「残念ながら保障できない」
テルミット
「うぅぅ・・」
キュピル
「冗談だ。ついでにちょっと食材も買ってきてくれ」
テルミット
「はい」


キュピルがクエストショップの方に目をやる。
・・・輝月と琶月はこない。
ちょっと様子を見てきてやるか・・・




琶月
「・・・・・・」
輝月
「・・・・・・」

輝月はずっと寝ている。
琶月が隣で待機している。

ノックしてキュピルが入る。

キュピル
「琶月。ちょっと外の空気吸ってきたらどうだ?」
琶月
「・・別にいいです」
キュピル
「もう心配することはないさ。きっと明日には目覚めてる。
逆にお前がずっと看病して疲れて体調でも崩したらどうするんだ?
今度は輝月がお前の事心配するぞ」
琶月
「・・・・・」
キュピル
「10分でも5分でもいいから外行って何か食べてきな。その間俺が見ててやるから」
琶月
「・・わかりました・・」

そういって琶月が外に出た。
窓から様子を眺める。
・・・ヘルがルシアンに肉を投げつけている・・・。


キュピル
「・・・やれやれ」
輝月
「肉の臭いがするな?」
キュピル
「何だ、起きてたのか」
輝月
「あやつがずっと横でメソメソしてるもんだから起き上がりたくなくての・・。」
キュピル
「それほど心配していたということだ・・・。現に皆心配してたからな?」
輝月
「キュピルよ。一つ問いたい」
キュピル
「ん?」
輝月
「何故私をここまで必死になって助けた?・・・まだ出会って一週間も経っておらんこの私に?」
キュピル
「よくわからないが輝月は出会ってまだ日が浅い人は助けないのか?」
輝月
「・・・私は初めてみたのだ。自分の命を投げ捨てて助けに来た者をな。」
キュピル
「どこら辺のことだ?特に危なかった所なんてあったっけかな」
輝月
「とぼけんでもよい。私は全部知っておるぞ・・・。病魔に侵されつつもお主等の活躍はしかと見ていた」
キュピル
「・・・琶月と輝月を見ていたら昔を思い出したんだ」
輝月
「昔じゃと?」
キュピル
「俺はこの世界ではない別の世界からやってきた人なんだ。
城下町ギルドという場所から来た・・・と、言っても知らないか。俺がまだ向こうの世界に居た頃
毎日戦争があったんだ。皆自分の事で精一杯で・・・俺もそうだったんだけど・・・。
だけどどんな時でも自分より他人の事を優先する人が一人居たんだ。
どうしようもない絶望の中、そこで死ぬはずだった俺はその人に助けられてね。
輝月と同じ事を俺は言ったんだ。
『どうして自分の命を投げ捨てて助けに来れるの?』って。」

輝月
「その者は何と答えたのだ?」
キュピル
「『俺は自分の命を投げ捨てたつもりなんてない。
自分だけ助かろうとすると視野が狭くなって死ぬ。
自分と同じように仲間の事も大切にしてやるんだ。そうすれば絶対物事は上手く行く。
ただそれだけのことさ』・・・そう答えた。
俺も同じだ。輝月。別に俺は命を投げ捨てたつもりなんてない。
一人の仲間として俺は助けただけだよ。仮に俺が輝月を見捨てて帰ったら・・。
その報いはきっとすぐに返ってきただろうね」
輝月
「フフッ、面白い事を言う奴じゃ・・・」

キュピルが立ちあがる。

キュピル
「さて、陰気な話はここまでだ。寝た振りをしていたということはもう元気なのか?」
輝月
「うむ、私は元気だ」
キュピル
「それなら外行こう。修行ばかりじゃなくたまには楽しもう」

キュピルが輝月に手を差し伸べる。
輝月が頷いてキュピルの手に掴まり起き上がる。

琶月
「師匠〜!食べ物持ってきましたよ・・・って・・。何師匠にナンパしてるんですかああああああああ!!!」
キュピル
「してねええええええええええええ!!!!」








ヘル
「肉うめー」
テルミット
「ヘルさん。ちょっと花火に火つけるの手伝ってください」
ヘル
「俺さっきまで焼いていたというのに・・・。」
輝月
「どれ、私が焼いてやろう」
ヘル
「なに・・。・・・まぁ、いいか。任せる」
輝月
「で、琶月よ。バーベキューとはどういうものなのだ?」
琶月
「えっ!?」

ジェスター
「おー、打ち上げ花火ー」
ティチエル
「わぁー、綺麗!」
ミラ
「(真っ白コンビ・・・)」

ヘル
「いい感じに上がったな」
ファン
「・・・ん?何か・・落ちてきてませんか?」
テルミット
「わっ!不発弾です!」
ファン
「ひ、ひぃぃぃ!」
ヘル
「弾き返してやる!」

ヘルが落ちてきた花火の不発弾をサッカーボールのように見立てて蹴る。
が、蹴った瞬間爆発した。

ヘル
「うおぉぉっっっ!!!熱ちぃいぃ!!!」

海に飛び込みそのまま何故か泳いでどこかに行ってしまった。



キュピル
「うちの家も大世帯になったものだ・・・」

・・・ファンから話しは聞いている。
今回潜りこんだ拠点にルイが居たらしい・・・。

・・・・。

ルイ。例えどんなことになろうと俺は諦めない。
待ってろ。

・・・。

でも今は遊ばせてもらう!



続く



第九話



輝月は全快し今は何の問題もなく活動している。


==思った事を呟く道場


ヘル
「せいやっ!!」
テルミット
「うわっ!!」

ヘルの一撃が見事に決まりテルミットが倒れる。
ファンがすぐにヒールでテルミットを治療する。

テルミット
「あいたたた・・・。実力上がったと思いますよ。ヘルさん」
ヘル
「そ、そうか?・・・よし。輝月!俺と勝負だ!!」
輝月
「ふふ・・その程度の腕でワシに挑むか。」

輝月が笑いながら抜刀する。
挑発に乗らずヘルも慎重に巨剣を構える。

ヘル
「(輝月の戦法は一撃必殺型だ・・。奴の持久力は未だにどのくらいあるのかわからない・・・
だが見た目相応の体力だということは分っている!それならば俺も一撃必殺で・・・)」

ヘルから物凄いオーラーが溢れる。

ファン
「おぉー、かなり気を発散させています」
テルミット
「やっぱり絶対レベル上がっていますよ」

輝月の眉がピクッと動き、その瞬間輝月が前に瞬間移動しヘルを斬りつけた!

ヘル
「はあぁっ!!」

輝月が接近してきた瞬間ヘルが身に纏っていた気を爆発させ輝月を後ろに吹き飛ばした!

ヘル
「くらえっ!!!」

すかさず巨剣を投げ飛ばし輝月に突き刺さる。
そのまま壁に刺さりぐったりと倒れた。

ヘル
「いよっしゃ!!!」
琶月
「師匠ー!!」

輝月
「はよ偽物だということに気付いたらどうじゃ・・?」
ヘル
「な、なにっ!?」

気が付いたら輝月が後ろにいた。
首の近くに刀が・・・

輝月
「私の勝ちじゃな」
ヘル
「・・・くそっ!また負けた!!」

ヘルが悔しそうに倒れる。

琶月
「ハーッハッハッハ!!私の師匠は世界一ーー!!」

ファンとテルミットが耳を抑えて静かにしてくれっと目で訴えかける。
しかし全く気付いていない。
その時キュピルが道場にやってきた。

キュピル
「おー、やってるね」

ヘルがキュピルに気付き駆け寄ってきた。

ヘル
「キュピルさん!いや、師匠!!輝月を倒してくれ!!!」
キュピル
「ははん、その様子はまた負けたな?」
ヘル
「うっ・・・。と、とにかく・・あいつの戦い方を観察したいんだ・・。
キュピルさんじゃないと皆すぐやられちまうから頼みます!」
テルミット
「(すぐやられてすいません)」
琶月
「(すぐやられても嬉しいです)」

キュピル
「いよーし、輝月。一発俺と勝負だ」
輝月
「ふふっ、ワシにそんな軽々しく挑む奴はお主しかおらん。
じゃが油断するとワシに負けるぞ?」
キュピル
「輝月もあまり油断しないほうがいい」

二人とも抜刀し見合う。

ヘル
「始まる!」


キュピル
「いくぞ!」

キュピルが前に走る。しかし突進ではなく普通に前進している。
まずは距離を詰めると言ったところか。

輝月の攻撃の射程内に入る。
だが攻撃を仕掛けてこない。

キュピル
「輝月、お前さんの戦法はカウンター型だ。
誰かが攻撃してこないと迂闊に自分も攻撃出来ない」
輝月
「ほぉ?」

突然輝月が消え後ろに回り込んでいた。

輝月
「その考えは間違えだ」
キュピル
「いや、合っている」

輝月の後ろからの攻撃をすぐに剣で受け止め弾き返す。
体重のあるキュピルのが圧倒的に強く輝月が後ろに弾き飛ばされた。
すぐに輝月が体勢を整える。
だがその間キュピルは何もしてこなかった。

キュピル
「さぁ、またどこからでもかかってくるがいい」
輝月
「・・ぬぅ、侮辱しおって!」

輝月が怒り積極的に攻撃を仕掛けるようになった!
面・・胴・・籠手・・突き。
剣道の技を一気に繰り出してきた。
だが冷静に判断し各、技に対応する防御を取る。そして

輝月
「五花月光斬!!」

輝月が後ろにバックステップし大きな魔法の月を刀で描き
キュピルの月の中に拘束させる。
そして一気に輝月が前に突進し一秒間に12回の斬撃を繰り出した!

琶月
「やった!師匠の勝ちだ!」
ヘル
「キュピルさんがあれで負けるわけがない!」
ファン
「一応ヒールの準備しておきます・・」

輝月
「ふっ、流石に今のは油断か?」

赤く長い髪を靡かせながら振り返る。
が、そこにキュピルはいない。

輝月
「!」
キュピル
「必殺、デジャブアタック!もちろん今考えた適当な名前!」

輝月の肩の上に乗っかり剣を突き刺した!

輝月
「うぐあっ!!」
キュピル
「輝月。大技放った後のその油断はやめたほうがいい。
同じ相手に同じ技は通用しないパターンが多い。」
輝月
「ぐっ・・このっ・・!!」
キュピル
「あらよっと」

前の戦いの時と全く同じ状況が繰り広げられている。
再び輝月の肩の上に着地し輝月がバランスを崩し後ろに倒れる。
そして剣を首元に近づけさせる。

キュピル
「輝月。残念だがまた俺の勝ちだ」


ヘル
「いよっしゃー!!流石俺の師匠だ!!」

ヘルがガッツポーズを取る。

テルミット
「本当に恐ろしい人です。僕達だと一瞬で終わるのに
キュピルさんの場合、長期戦に持ち込まずにすぐ倒してしまいます」
琶月
「うぅぅ・・・」
ファン
「治療してきます」


キュピル
「さて、ヘル。どうだろうか?大体輝月との戦い方は分ったんじゃないのかな?」
ヘル
「・・・カウンター戦法ですか?」
キュピル
「まぁ・・正解っちゃ正解なんだけど数値で二人を現してみると」

[ヘル]

攻撃:90
防御:20
俊敏:40

[輝月]

攻撃:40
防御:70
俊敏:90

キュピル
「だと思うんだよなぁ」
ヘル
「俺のが圧倒的に攻撃力高い・・。しかし輝月の攻撃力が40・・?
お言葉かもしれませんが輝月の一撃は相当重たいですよ」
キュピル
「これは力を現してるんじゃなくてどのくらい積極的にこの行動をしているかってのを現してる。
輝月の場合自分から攻撃はあまりしないタイプ。だからひたすら相手の攻撃を守って一瞬の隙をついて
強烈な一撃を繰り出すカウンタータイプ。ちなみに俊敏ってのは単純に素早さと置き換えてもらって構わない」
テルミット
「ちなみに僕は数値に現すと、どうなんですか?」
キュピル
「んー、後でレポート用紙にまとめてあげるよ」
テルミット
「ありがとうございます」
キュピル
「それとヘルも輝月同様、攻撃がワンパターンだ。なるべく戦闘中に新しい技を生み出したり
違った場所から攻撃するとか突然違う技を出したりとか色々工夫すれば輝月に勝てるはずだよ」
ヘル
「おぉ、ありがとうございます。師匠」

ファン
「治療完了d・・・ヒェェェェェ!!」
キュピル
「ん?うわっ!」

輝月が再び刀を持ってキュピルに向かって襲いかかってきた!!

輝月
「解せぬ!!何故お主にだけ勝てぬのか!!」
キュピル
「お、落ちつけ!」

剣で防御する。

ヘル
「おい、輝月てめー!負けたからってヤケになってんじゃねーぞ!」

ヘルとテルミットもキュピルの援護をしようとする。

キュピル
「いや、援護しなくていい。」

そういってキュピルも抜刀し再び戦闘モードに入る。

輝月
「はぁっ!!」
キュピル
「くっ!」

怒りに身を任せている。
輝月がここまで怒りを露わにするのは初めてみる。
何がそんなに悔しかったのだろうか?
だがお陰で隙だらけだ。

キュピル
「輝月、隙が出来ているぞ」

輝月の肩を突き飛ばす。
輝月が後ろに倒れる。起き上がる前にすぐ乗っかり、刀を取り上げ
ヘルに投げる

ヘル
「こいつが輝月の刀か。軽いな?」
テルミット
「でも刃は凄い鋭いですよ」
輝月
「私の刀に触るな!!」
キュピル
「おい輝月。ちょっと頭を冷やせ。どうした?らしくないな」
輝月
「黙れ!」

輝月が起き上がろうとしているがキュピルが両肩をしっかり押さえているため起き上がれない。

キュピル
「負けたのが悔しいのか?」
輝月
「当たり前じゃ!!」

しばらくキュピルが黙り数秒後笑い始めた。その際輝月の肩を抑えつけるのをやめる。

輝月
「何がおかしいのだ!」

起き上がりキュピルの頭を叩くが全く痛くない。

キュピル
「ハッハッハ・・・いや、皆昔の俺と似ているなーって思ってね。
凄く懐かしい気持ちになっちゃって」
ヘル
「昔のキュピルさん?」
キュピル
「うん。俺も今輝月が言ったように凄い負けるのが嫌いだったんだ。負けず嫌い。
この性格って凄い厄介なんだ。
当時の俺は凄く弱くて誰と戦っても負けた。」

テルミット
「キュピルさんにそんな時代があったなんて思えないですね・・・」
ファン
「でも事実なんですよ」

キュピル
「ある時負けたのが凄い悔しくなって自分の師匠に向かって剣で殺そうとしたんだ。
もちろん本当に殺そうと思っていた訳じゃない。一瞬の衝動にかられたんだ。
でも当然俺より凄い強い人だからすぐ強烈な一撃を貰って気絶しちまってね。
その後目が覚めたら隣に俺の師匠が居たんだ。そしてこんな事を言ってくれた。

『負けず嫌いってのは良い事だ。負けて諦めてそこで努力をやめる奴・・
向上心の無い奴は何をやっても負ける。キュピル、お前はまだまだ強くなれる。
その負けず嫌いが消えない限りな』

ってね」

ヘル
「負けず嫌いか・・」
テルミット
「キュピルさんのお師匠さんは良い人ですね。いきなり剣持って襲いかかったら
普通追い出されそうですけど・・」
キュピル
「だから輝月。俺は師匠みたいに上手い一言なんて何も言えないけど・・
また練習相手が欲しい時は言ってくれ。どんな時でも相手するよ。もちろんヘルやテルミットもね」
輝月
「・・・取り乱してすまなかった」
キュピル
「いや、むしろ逆に安心した」
輝月
「安心?」
キュピル
「まだ年相応の人なんだなって」
輝月
「・・・・それはどういう意味じゃ?」
キュピル
「何でもない」

後ろでヘルがニヤニヤしている。
それがまた輝月の気に障ったらしく真横に刀が飛びヘルが今度は逃げ始めた。しかし笑っている。
再び輝月が追いかけまわし始めた。

輝月
「おのれ!」
ヘル
「笑いが堪え切れないぜ!」


テルミット
「・・・何か二人とも思ったより子供ですね」
琶月
「師匠もこっちに来てから色々変わりました
少し人間性を帯びてきたかも・・・。」
ジェスター
「遊びに来たよー!あれ?鬼ごっこしてるの?私も混ぜて〜。わぁ〜〜」
ファン
「ジェスターさん、鬼ごっこじゃないですよ・・・」








==深夜



ナルビクの人目につかない場所にキュピルがいた。

キュピル
「・・まだ来てないのかな」

「いや、来ている」

壁によりかかってる一人の男が居た。白髪でオールバックの髪型・・。ギーンだ。

キュピル
「こうやって直接会うのは何カ月ぶりだろう」
ギーン
「少なくとも我々が一緒に戦った時以来だな。」

二人が握手する。

ギーン
「キュピル、ついに探している宝珠の在り処を突き止めた。これが宝珠が存在する島の地図だ
・・・その宝珠の入手。君に依頼したい。」

ギーンが古びた半分の地図をキュピルに渡す。
座標の半分が書かれている。
・・・これだけではどこの島なのか分らない。しかし

キュピル
「その依頼、引き受けよう。・・・それに元々それが条件だったじゃないか。時空の歪みの解除・・・」
ギーン
「・・・元いた世界の話だったか?そこにお前の婚約者が閉じ込められているという話」
キュピル
「ああ・・。・・・ただ、ちょっとこの一カ月の間かなり色んな事があってな・・。
ギーン、一見戦争は終わったように見えるけど全然終わって何かいなかった。まだ続いている」
ギーン
「・・・校長・・元トラバチェス首相のことか?」
キュピル
「もう知っていたか。・・校長が生きていた。そして秘密裏に何か計画を進めていた」
ギーン
「ミーアに探らせているが全く情報が掴めていない。そっちで既に何か掴んでいるのか?」

ギーンにこれまで起きた事を全て話す。

クラドの事件・・ルイがダークルイになったこと・・ケルティカの依頼で発見した敵拠点。
輝月が汚染されそうになったこと・・・。

ギーン
「今すぐケルティカで発見した拠点を調べさせる。」
キュピル
「まだそんなに時間は経っていないが調べるなら早く調べたほうがいい。
・・調べてる間、俺はトラバチェスの再建に必要な宝珠・・記憶の宝珠を探す」
ギーン
「その宝珠を手に入れれば未来永劫、トラバチェスは平和な国になるだろう。
・・その前に馬鹿が思いつきそうな火種は全て潰す必要はあるがな。」
キュピル
「ギーン、アノマラドとオルランヌの戦争って今休戦しているんだよな?」
ギーン
「あぁ、我々が校長を一時的に潰しジェロスを倒した事によってオルランヌも戦意喪失している。
現在はアノマラドと停戦協定を結んでいる。
・・だが最近になってまた動きが出始めた。・・停戦協定を結んだ時徴兵した兵はそのまま保持していたのが
一番の問題だっただろう。」
キュピル
「・・戦争・・終わってくれないかな・・」
ギーン
「記憶の宝珠さえ手に入れば再発せず終わらせる事が出来る」
キュピル
「オルランヌにジェスターの本当の飼い主・・エユがいるはずなんだ。
俺が元の世界に帰る前にジェスターはエユに帰してあげたい」
ギーン
「・・・最善は尽くそう。」
キュピル
「次会う時は俺が記憶の宝珠を手に入れた時だな」
ギーン
「そうだな、また会おう。戦友」
キュピル
「ああ」






半分に引き裂かれた地図・・・。


その地図に島の名前が書かれていた。

幻の島ラビラル島・・・。





再びいつも通りクエストショップで経営を続けて行くキュピル達。

・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。



輝月
「うぬ?何だか昨日と比べてキュピルの心が沈んでいるように見えるな?」
ヘル
「そうか?俺にはいつもと変わらないように見えるが?」
キュピル
「堂々と目の前で話すとはどういう神経しているんだ」

また誰か一人クエストショップにやってきた
長年使いこまれた革の帽子を被っていて顎髭を生やした40代後半程の男性がやってきた。

40代後半の男
「君がキュピル君かね?」
キュピル
「さようで」
40代後半の男
「ぜひここに依頼したいことがあるんだが・・・」
キュピル
「ぜひ仰ってください。ジェスター」
ジェスター
「はーい」

ジェスターが椅子を運んできた。

ジェスター
「座っていいよ!」
40代後半の男
「ありがとう」

脱帽し、革のコートも椅子にかける。
コートの内側に沢山の冒険用道具があった。

キュピル
「冒険家ですか?」
40代後半の男
「トレジャーハンターだ。ダンジョンにある宝を取ってくる危険な職業だ。
本題に入ろう。この地図を見て貰いたい」

男が古い地図を広げてキュピルに見せる。
・・・見た事ある島の地図が乗っている。

キュピル
「・・・ここは・・どこの地図ですか?」
40代後半の男
「幻の島、ラビラル島だ」
キュピル
「ラビラル島!!」
40代後半の男
「知ってるとは驚きだ、知ってる人自体大分限られていると思ったんだが・・。
長年の調査と探索の結果ついにこの島の位置が発覚した」
キュピル
「それは素晴らしい」

って、ちょっとまて。

何故一枚の地図を持っている?
ギーンがあれだけ探してついに島の座標を割り出したがそれでも半分の情報しかないというのに・・。
・・・それをこの男が座標を割り出した?


40代後半の男
「ここに来れば好きな場所にワープが出来ると聞いた。ラビラル島へワープさせてくれないか?
それとサバイバル経験のある者も一緒に同行してもらいたい」
キュピル
「・・・その話は何処から聞いたのですか?」
40代後半の男
「このような職についてると色んな所で耳にする事が出来る」
キュピル
「うーむ・・。」
40代後半の男
「報酬の方はそこで何か見つけてから相談することになるがいいか?」

・・・

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。


色々疑問に残る人物ではあるが・・。
見せてもらっている地図は間違いなくギーンから貰った半分の地図と一致している。

本当にラビラル島だというのならば・・。行かねばならない。


キュピル
「わかりました、いいでしょう。ただし、いくつか注意してもらいたいことが」
40代後半の男
「何だ?」
キュピル
「向こうで何が起きてもこっちでは責任は負いません。それとワープは基本的に
我々がいないと作動しないのでその事も熟知しておいてください」
40代後半の男
「その事はむしろ当たり前だと思っている。」
キュピル
「それならいいです。あとワープ技術を持った人が今いないのでまた翌日来てくれませんか?」
40代後半の男
「わかった、この地図は君に預けよう」

そういって40代後半の男はキュピルに古びた地図を渡し、革の帽子とコートを着て外に出ようとした

キュピル
「あ、お名前は?」
40代後半の男
「ディバンだ」

そういってディバンはクエストショップから出て行った。

キュピル
「地図を渡すなんて相当信頼されているのかそれとも万が一何かあっても取り返す自信があるのか・・」


・・ひとまずこの依頼も後始末が結構大変そうだ。



==夜

ファン
「・・・ラビラル島ですか。噂にしか聞いた事はなかったのですが・・存在していたんですね」
キュピル
「らしい。一応地図は借りてる。ワープできそうか?」
ファン
「座標は既に判明しているようなので何時でも可能です・・・しかし良いのですか?」
キュピル
「良いって何が?」
ファン
「特殊ワープ装置機をあまり一般人の人に乱用させるとここのクエストショップをワープポイントだと
間違えそうな人が出てきそうです・・・」
キュピル
「まぁ・・今回はちょっと事例が特殊だったって思ってくれると助かる」
ファン
「・・・?わかりました。明日、いつでも出発できるようにしておくのでPT編成しておいてください」
キュピル
「わかった」




キュピル
「ヘル!テルミット!来てくれ!」
ヘル
「お呼びですか?」
テルミット
「はい!」
キュピル
「新しい依頼で幻の島・・ラビラル島へ行くことになった」
テルミット
「ラビラル島ですか。まさかそんな島に行く日が来るとは夢にも思わなかったです」
ヘル
「なんだ?そのラビラル島・・ってのは?」
テルミット
「ラビラル島はとても不思議な島です。ある話ではその時はそこにあったのに
再び同じ場所に行ってもその島が見つからなかったり・・・」
キュピル
「まるで雲を掴むような・・・まぁ、ちょっと表現としては違うかもしれないけど。」
ヘル
「それで、今回はその場所に行く・・ってことですか?」
キュピル
「そうだ。ある依頼人と共にその島を探索することになる。サバイバル経験のありそうな二人を呼んだ訳だ」
テルミット
「わかりました。装備と荷物を整えておきます」
ヘル
「久々に長期野外活動になるな」



==翌日


輝月
「なんじゃ、お主等三人でどっか遠くにでも行くのか?」
ヘル
「へっ、実力のある者だけが召集されたんだよ。今から幻の島に行ってくるのさ」
輝月
「何じゃと!!」

輝月がキュピルの元まで走り襟首を掴む。

キュピル
「ぐえ」
輝月
「お主・・!!見損なったぞ・・!!人を見る目があると思っていたが飛んだ思い違いだったようだな!!」
キュピル
「一体何の話だああああ!!」

キュピルをぐわんぐわん揺らしながら問い詰める。

輝月
「私がヘルよりも実力が劣ると言うのか!」
キュピル
「んな事言ってなあああーーい!!サバイバル経験は劣るだろうとは思っているが!!」
ヘル
「き、輝月。その、ちょっと今俺嘘は言ったが・・・」

が、聞こえなかったらしく

輝月
「琶月!!今すぐ支度じゃ!!ヘルより実力があると言う事を見せつけるのだ!」
琶月
「え゙っ!!は、はいーー!!」
キュピル
「ぐえー、目が回った・・」


ディバン
「どうだ、そっちの準備は出来ているか?」
キュピル
「はい、一応・・。自分の他のあと四名行くことになりました」

キュピルの横にヘルとテルミットと輝月と琶月が並ぶ。

ディバン
「後ろ二人はサバイバル経験が乏しいように見えるが」
キュピル
「俺もそう思うんですが・・どうにも行かないと気が済まないらしく・・。責任はこっちで取るので
見逃してください」
ディバン
「別に構わない。さぁ、行こう」
ファン
「向こうにあるコンテナに乗ってください。乗ったらテルミットさんお願いします」
テルミット
「わかりました」


六人がコンテナの中に乗る。


ファン
「気をつけてくださいー!」
ジェスター
「行ってらっしゃい〜!!」

ジェスターが白い布を振りながら皆を見送る。

テルミット
「それでは行きますよ、シートベルトをしっかりつけてください」

テルミットがレバーを降ろす。
青い光に包まれコンテナ型拠点は幻の島、ラビラル島へワープした・・・









     幻の島  ラビラル島 へ ワープ飛行中に
  異常事態が  発生。  ワープ飛行を  中断します。
                                       』



突然ガタンと地面にぶつかる。

キュピル
「うわっ!」
琶月
「ぎゃー!」

そのままコンテナ型拠点はゴロゴロと転がり落下していく。
一体何が起きているのか分らない。

ディアナ
「これがワープか?なんて新しいワープの方法だ!どうみても異常事態だな!」
ヘル
「同感だ!」

そのまま数十秒間転がり続け大きな衝撃が走った後やっと落下が停止した。
・・・・。

キュピル
「・・・止まったか?」
テルミット
「止まった・・みたいですけど・・。拠点逆さまになってしまいましたね・・」
ヘル
「どうせならあともう半回転すりゃよかったのによ・・・」
輝月
「天地逆転じゃな」
琶月
「あの、この状態でシートベルト外したら頭から天井に落ちていくんですけど・・」
ヘル
「今俺達が座ってる場所がこの場合天井になるんじゃないのか?」
キュピル
「元天井だな」

ディバンがシートベルトを外し空中で半回転して綺麗に地面に着地する。
それを見たヘルとテルミットとキュピルも真似して地面に着地する。
しかしキュピルだけ失敗して背中から地面に落ちる。

キュピル
「ぎえぇ!」
輝月
「マットにさせてもらうぞ」

輝月がシートベルトを外しキュピルの上に落ちる。クルッと回転しキュピルの上に綺麗に着地する
・・・っと思ったらキュピルがギリギリの所を横に転がって回避する。

キュピル
「回転して綺麗に着地できるなら態々俺の上に落ちなくてもいいだろうに!」
輝月
「つまらん奴じゃのぉ。琶月、お主もはよ降りれい」
琶月
「わ、私は皆みたいに空中で回転できないんだけどー!!」
輝月
「お主が外さないなら私が外すぞ」
琶月
「ぎゃああ、やめてーー!!師匠本当にやめてくださいー!!」

輝月が刀の鞘で輝月のシートベルトを外す。
頭から琶月が落ちて行く。

琶月
「ぎゃあああああ!!」
テルミット
「おっと!」

テルミットが琶月を受け止める。

テルミット
「流石に頭から落ちたら痛いですよね」
琶月
「あ、ありがとう〜!!!」
輝月
「はぁ・・」
琶月
「今師匠溜息つきましたよね、しましたよね!?私に何か恨みでもあるんですか!?」
キュピル
「ううむ、何かいきなり凄いことになっているが・・扉は開くか?」
ヘル
「扉は開くようです」

ヘルがパルプを回して扉を開ける。
外に出ると大雨が降っていた。

ディバンが無言で外に出る。革の帽子を抑えながら大雨の中歩いて行った。
もう片方の手には古びた地図を持っている。

キュピル
「依頼人を放置するわけにはいかない。行こう」
ヘル
「ああ」
テルミット
「ジャングルですね・・」




==森林地帯


ディバンがナイフを使って草を切って前に進む。
草に触れないように気をつけながら全て刈り取っている。

琶月
「こんな事しないで豪快に草の根をかき分けて突き進めばいいのに」
テルミット
「この草・・毒があります。」
琶月
「セーフ!」
ヘル
「・・・何がセーフだ。しかし一々切らないでっという点には同意しておくか。
俺の巨剣で一辺に刈りとる!」
ディバン
「やめろ!毒の粉が舞い散ることになる。ナイフで慎重に切り取る必要がある」
ヘル
「・・・わかりました」
ディバン
「ここは専門家の私に任せて君等は後ろにいるんだ」

依頼人を守るはずが逆に守られてしまった。



慎重に切り続けていくと毒の草はなくなり変わりに湖に辿りついた。


ディバン
「・・・湖か。ということは今我々はこの辺りにいることになるのか・・。ここに辿りつくには・・
・・・・。・・・!いや、違う。今我々は湖にはいない。」
ヘル
「どういうことだ?」
ディバン
「この湖をちょっと観察すれば分るだろう」
キュピル
「泳いだ方が一見早そうに見えるが・・・。何があるか分らないからな・・」
ディバン
「いいか、湖に近づくな」

キュピル達に指を指して歩き始めた。

キュピル
「っとのことだ。好奇心あったとしても近寄らないように」
輝月
「・・・なるほどな。琶月よ、近づいても助けんから近寄るでないぞ」
琶月
「うっ、なんか怖いので近寄りません」
テルミット
「・・・今僕も分りました。これは水なんかじゃありません。巨大スライムです」
琶月
「ええっっ!こんな超巨大スライムがいるんですか!?
・・・・た、確かによくみると何か動いている・・。風でかと思ったら違うんだ・・」

近寄らないように気をつけながら巨大スライムを迂回して進む。
しかしその途中巨大蝙蝠が襲いかかってきた!

ディバン
「!」

ディバンが慌ててしゃがみ振り返る。

ヘル
「はぁっ!」

ヘルが巨大蝙蝠を斬り落とす。

ディバン
「そいつは吸血蝙蝠だ。一度吸いつくと血を全部抜き取られるぞ」
琶月
「うぅぅ・・何ておぞましい島なんでしょう・・・。」
ディバン
「君達二人は特に注意した方が良い。髪が赤いから血と間違えられるだろう」

ディバンが輝月と琶月を指差す。
琶月は怯え輝月は怪しげに二ヤリと笑った。

キュピル
「ディバンさん。道は覚えていますか?拠点がないと元の場所に戻れません」
ディバン
「あぁ、そいつは心配ない。探検家に遭難という言葉はない」
キュピル
「そりゃ心強い。

巨大スライムを刺激しないように迂回して進み適当な所で道筋から逸れる。
しばらく更に進んでいくととてつもなく深い崖が現れた。
・・・幅30mぐらい、深さは・・計り知れない。

テルミット
「これは・・ちょっと渡れないですね・・・」

ディバンが革のコートの内ポケットから何か玉みたいな物を取り出し崖下に落とした。
・・・しばらくすると玉から強烈な閃光を発し崖下を明るく照らす。
双眼鏡で崖下を観察している。

ディバン
「崖下は不気味な生物がうようよしている。ここを降りるのはよしたほうがいい」
琶月
「・・・ところで不気味な生物ってどんな・・形・・」
ディバン
「知りたければ自分で見るがいい」

琶月の手に双眼鏡を渡す。
恐る恐る琶月が双眼鏡を覗く

・・・覗いた瞬間琶月が倒れてしまった。

輝月
「世話の焼ける奴じゃ、どれどれ」

輝月が双眼鏡を奪い取り下を覗く。
・・・

輝月
「・・・」
ヘル
「輝月も黙らせる生物か。見ないでおくか・・」
輝月
「なんじゃ、怖いのか」
キュピル
「あんまり喋ってるとディバンから離れてしまうぞ」



崖に沿って進んでいく。
雨風は強いがさっきの森林地帯と比べると草がないので幾分か歩きやすい。
気絶した琶月はテルミットが背負っている。

途中でディバンが静かにするように皆に促し姿勢を低くする。
全員姿勢を低くする。

・・草の根を掻き分けて誰か来る。

ヘル
「人か・・?」
キュピル
「まさか・・ここは幻の島だ・・」

すると真っ先にディバンが振り返って逃げ始めた。

ディバン
「おい、逃げろ!!巨大虎だ!!」

ディバンが革のコートの内ポケットから先端が鉄で出来ていて先が鋭い筒状の棒を取り出しスイッチを押す。
スイッチを押した瞬間、空気圧で先端の鉄が勢いよく飛び出し木に深く刺さった。もう一度ボタンを押して
ディバンが勢いよくジャンプする。そのままディバンが刺さった木の所まで飛んで行った。

テルミット
「あれはフックショットですね。」
キュピル
「虎がこっちに来るぞ」

滅茶苦茶でかい虎が現れた。・・全長5mはあるかもしれない

輝月
「こんなものに怖気ついてどうするのだ。」

輝月が刀を取りだす。
虎が物凄い咆哮で輝月を威嚇する。髪が後ろに靡くが輝月は全く動じない。

テルミット
「加勢しますよ!」
ヘル
「輝月に良い所取られてたまるか」

虎が輝月を喰らおうと突進し鋭い牙で突き刺しに来た!
しかし輝月が刀を一振りし虎の牙を斬り落とす。

ヘル
「烈風剣!!」

巨剣を横に振って空気の刃を飛ばす。虎に突き刺さり横に倒れるがすぐに起き上がった。

テルミット
「ジャッジメントショット!」

天空に矢を放ち雷を纏わせて虎目がけて落ちて行く!

テルミット
「今は天候が悪いので威力倍増です!」

虎に突き刺さるが全く怯まず再び輝月目がけて噛みついてきた!

輝月
「そんな攻撃当たる訳がなかろう」

華麗なステップで避け強烈な一撃をお見舞いする。
虎が再び横によろけた。

キュピル
「とどめだ!!」

キュピルがいつの間にか木の上に上っておりそこから飛び降りる。

キュピル
「一閃!!」

ズバッと虎を一刀両断する。
真っ二つに斬れ虎は息絶えた。

ディバン
「おい、虎を倒したのはいいが早く移動したほうがいいぞ」
輝月
「ふっ、なんじゃ?虎に怖気ついて逃げたのによく言うな?」
ディバン
「死にたくなければ俺の言う通りにするんだな」

・・・しばらくすると急に空が暗くなった。

キュピル
「何だ?」
テルミット
「・・・!!きゅ、吸血蝙蝠の群れです!!」
ヘル
「やべっ・・血の臭いを嗅ぎつけたのか・・!?」

全員ディバンの後を追い逃げ始める。しかし何十匹もの吸血蝙蝠が後を追ってくる。
ディバンはフックショットを使って木から木へと移動して逃げ続けている。
一方キュピル達は草の根を掻き分けて進んでいるため移動速度が落ちている。

輝月と琶月を中心に吸血蝙蝠が群がっている。

輝月
「くっ、寄るな!」

刀で蝙蝠を何体も斬るが斬っても斬ってもきりがない。

テルミット
「琶月さん!いい加減起きてください!」
琶月
「うーん・・・。・・・ぎゃー!!何この蝙蝠!!うぅ・・」
ヘル
「おい、また気絶したぞ。このヘタレ!!」
キュピル
「やべっ!毒の草だ!!」

キュピルが止まった瞬間後ろで何人かが追突してきたが毒の草には触れずに済んだ。

ディバン
「面倒ばかりかけやがる!」

ディバンが複数のフックショットを同時に放ち全員の服にひっかける。
そして引き寄せて木の上へと連れて行く。

キュピル
「助かった、ありがとう」
ディバン
「死にたくなかったら今度こそ俺の言う通りに動け。木の上に移動しろ」

全員木の上に移動する。
生い茂る葉が枝を隠し吸血蝙蝠が次々と枝にぶつかって落ちて行く。
毒の草の上に吸血蝙蝠が落ち毒の粉が舞い上がる。

ディバン
「くそっ、思ったより状況はよくないな。」

一匹の吸血蝙蝠がディバンに襲いかかった!
しかし拳で吸血蝙蝠をたたき落とす。

ヘル
「やるな」
テルミット
「緊急エスケープで一旦難を逃れましょうか?」
ディバン
「あぁ、そうしてくれ!」

テルミットがエスケープを発動し適当な場所に移動する。


一瞬で景色が変わった。何処かにワープした証拠だ。
が、無重力間に包まれている。空中だ!!

ディバン
「空中に逃げてどうする気なんだ!!」
テルミット
「何処に移動するか分らないんです!!」
ディバン
「とんでもない連中だな!」

そのまま崖下へと落ちて行く。
ディバンがフックショットを放ち岩と岩の隙間に刺す。
そのまま壁に張り付く。他の皆は崖下へと落ちて行く。

ディバン
「だめだな、ここでお別れだな。どうやって帰るか考えないとな」




ヘル
「おい、もう一度エスケープ発動できないのか!?」
テルミット
「緊急エスケープは連続では無理です!」
輝月
「私はまた死にたくないぞ」

そういって輝月が着地の体勢に入る。
いくら何でもこの高さでは・・

そのまま下に落ち何かがクッションとなって着地した。
・・・巨大昆虫がうじゃうじゃいる!!

ヘル
「さっき輝月と琶月が見たのはこいつ等か!!」
キュピル
「げぇっ、気持ち悪い!」

巨大な蟻やカナブンのような虫が一杯いる!
捕獲しようと鋭い脚で攻撃してきた!

ヘル
「うおらぁっ!!」

ヘルがその場で回転切りし、周囲に烈風剣を飛ばす。
空気の刃が昆虫だけではなくキュピルや輝月にも当たった。

キュピル
「うぐっ!」
輝月
「っ・・・!・・お主!」
ヘル
「こうしなければ全員今頃あの足で突き刺されていた!!」
キュピル
「とにかく先にこの虫を倒すぞ」

キュピルが死闘し始める。逆境にはとにかく強い。
輝月も戦闘に加わる。

テルミット
「僕は琶月さんを守りつつ矢で援護します」

全員ひたすら虫を倒し続ける。
すると突然白い糸が体に絡みついた。

ヘル
「・・・巨大蜘蛛・・!!まずいっ・・!」
テルミット
「ヘル!」

テルミットが矢を連射するが堅い甲殻に守られており突き刺さらない。
そのまま糸で丸められてしまい何処かに連れていかれてしまった。

キュピル
「足が動かない・・!?・・・くそ、地面にも糸を貼り付けるとは策士だな!」

足が動かなくてもまだ腕は動く。ひたすら剣を振って敵を倒す。
蜘蛛が直接キュピルの前にやってくる。剣で斬ろうとするが堅い甲殻に弾かれてしまった。
弾かれた衝撃で後ろに倒れキュピルも糸を浴びてしまいそのまま白い塊となってた。

キュピル自身気付いていないがリーダーがやられたチームの士気の低下はとにかく激しい。
急に冷静さを失い脱力感も襲う。

輝月
「くっ、まさかキュピルがやられるとは誤算じゃった。油断した・・」
琶月
「うぅ〜ん・・・。・・・・ガクッ・・」
テルミット
「起きた瞬間気絶しないでください!」

テルミットが蜘蛛の口を狙って矢を放つ。ここならダメージを与える事が出来る。
しかし気がつけば周りにいる敵は全て蜘蛛になっておりあちこちから蜘蛛の糸が飛んでくる。
この攻撃を全て回避するのは至難の業だ。

輝月
「(うぬ、ここはやり過ごしたほうがよさそうじゃな・・)」

輝月が何か呪文のような物を唱えるがその後被弾してしまう。
一度当たってしまうと後はやられるがままだった。そのまま糸に丸められてしまい
ねばねばする繭の中へ閉じ込められてしまった。
テルミットと琶月も数で押し込まれ太刀打ちできず繭に閉じ込められてしまった。

何処かへ運ばれているのはわかるが急に眠くなり気を失ってしまった。



ディバン
「・・・蜘蛛達が何処かに移動を始めたな。この様子では住処か。」

ディバンが壁によりかかりながら地図を広げる。

ディバン
「・・・ここが蜘蛛の住処らしいな・・・。
・・・そして俺が探している宝も・・・その近くか・・。
なるほど、この際利用させてもらおうか」


ディバンが崖の壁を伝って蜘蛛の跡を追う。
・・しばらく追い続けると何処か穴の中へと入って行った。
その近くに神殿のようなものがあった。

ディバン
「あれだな」





輝月
「どうやら何処かに行ったようだな」

輝月が身を低くして岩の陰に隠れていた。
先程やられたのは分身だ。一体まで作りだす事が出来る技・・。
分身を作り出した後は気配を完全に消し、ばれないようにここまで移動した。

輝月
「全く、キュピルまでやられるとは情けない奴だ。
琶月も捕らわれている以上助け出さねばならんのぉ・・。」

雨で濡れた砂利道を歩きはじめる。
・・・草鞋の紐が切れてる。
その場に草鞋を捨て素足で歩き始めた。



・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。



蜘蛛にやられてから二時間が経過した。

・・一つの繭が動いている。


キュピル
「ぐっ・・・ぐぐっ・・・うおりゃああっ!!」

繭を剣で突き破り外に出る。
一度気を失ったが目覚めは比較的早い方だった。

キュピル
「残りのこの繭全部味方のか・・?」

一つ適当な繭を選んで剣で斬る。
ヘルが現れた。寝てる。

キュピル
「起きろ、掴まっちまったぞ」
ヘル
「・・・う・・。・・・こんちくしょう」

ヘルが起き上がる。状況を察したのかヘルも巨剣で繭を斬り始める。
キュピルが一つの繭を斬る。

キュピル
「起きろ、琶月」
琶月
「・・・・・・」
キュピル
「起きろーーーーーーー!」
琶月
「・・・・・・」
キュピル
「だめだ」
ヘル
「俺に任せてください」

ヘル
「おい、起きろ」

ヘル琶月の顔をビンタする
それでもまだ寝ているのでもう一度顔を叩く。
するとパチッと琶月が目を覚ました。

琶月
「・・・ひ、ひぃぃ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」
ヘル
「おい、俺だ。仮に蜘蛛だったとしても言葉通じねぇぞ」
琶月
「はっ・・。なーんだ、ヘルかー・・・」
ヘル
「呼び捨てにするな」

軽く頭を叩く。琶月が「ぎゃ」と言い頭をさする。
ヘルが琶月を起こしてる間キュピルがテルミットを救出する

テルミット
「頭が・・くらくらします・・。糸に睡眠効果があったのかもしれません。」
キュピル
「他にも繭がある・・・」
ヘル
「どうします?斬ってみますか?」
キュピル
「斬ってみよう」

ヘルが残りの繭を全て斬る。
大体は意味不明の物や木の実、空っぽだったりしたが
一つだけ奇妙な物を見つけた。

ヘル
「なんだ、こいつは?」

ヘルが変わった石像を手にする。
目には宝石が埋め込まれている。

琶月
「宝石!宝石だ!!!」
テルミット
「凄い・・輝いています」
キュピル
「せっかくだから頂戴しよう。」

石像を鞄の中に入れる。

キュピル
「ここから脱出しよう。上に上がっていけば出れるはずだ」
琶月
「もう蜘蛛の糸に絡められるのは嫌・・・。早く出ましょうよ」
テルミット
「確かにそうですけど・・。この道を通って大丈夫でしょうか」
キュピル
「と、いうと?」
テルミット
「こんな狭い所で蜘蛛にあったら一網打尽にされます」
キュピル
「・・・そうだな・・。しかし下の道通っても意味がないしな・・。そうだ、久々に無茶しよう」
ヘル
「無茶?」

琶月
「・・あれ?そういえば師匠は?」

誰も聞こえなかったらしい。







キュピル
「上に向かってドンドン掘れ掘れ!」
ヘル
「これは確かに無茶だ!!」

剣や手を使って斜め上にドンドン土を掘っていく。
ヘルの巨剣をスコップ変わりにして進んでいく。




輝月
「・・・む」

壁の陰から落胆したディバンが居た

ディバン
「・・・そこにいるのは輝月と言う奴だったか?」
輝月
「おや?生きておったか。てっきり蜘蛛に掴まったと思っておったぞ」
ディバン
「俺は何度もこういう事態に遭遇してきている。お前こそ蜘蛛に掴まったかと思っていたぞ」
輝月
「私も伊達に修行を積んでいる訳じゃないからな。」
ディバン
「一つ聞きたい。お前はあの拠点の中にあるワープ装置は扱えるか?」
輝月
「扱えぬ。そのような類は全く分らん」
ディバン
「あれはただレバーを降ろせばいいだけのようにも見えたぞ」
輝月
「レバーを降ろせば動くのか?」
ディバン
「さぁな。しかしあいつ等がやられてしまった以上俺達だけで脱出手段を考えなければならない」
輝月
「おやおや、やられてしまったと思っておるのか。これから救出しに行こうと思っておったのに」
ディバン
「なに、正気か?お前一人であの蜘蛛の大軍をやっつけられるのか?」

輝月がフッと笑い

輝月
「あやつ等があのまま繭の中に閉じ込められているとは思えんな」







キュピル
「掘った土は後ろに投げて道を塞ぐんだ。そうすれば蜘蛛もやってこない」
ヘル
「どんどん掘るぞ!」

ヘルが巨剣でザクザク掘っていくと突然硬い何かにぶつかった。
・・・調べてみると岩石だ。

琶月
「・・・」
テルミット
「迂回しましょう。」
ヘル
「横に掘るぞ」

横に掘り続ける。
が、まだ岩石にぶつかった。

キュピル
「うーむ、どうやら崖の所に来ているかもしれない。
前進するんじゃなくて後退するか。」
琶月
「えー!戻ってどうするの!!」
キュピル
「今まで通ってきた道は土で全部埋めてある。
今いる位置を平行に後ろに進んでまたちょっとしたら上に向かって掘ればいいと思う」
テルミット
「とりあえずこっち掘りますよ。琶月さん、横にずれてください」
ヘル
「というか琶月、お前も手伝え!」
琶月
「手伝ってるよ!掘った地面埋めるのに・・・」
ヘル
「手で土叩いてるだけだろ・・」

ヘルがまた巨剣で土を掘り始める。
3m程進んだら再び斜め上に向けて土を掘り始める。

テルミット
「・・・それにしても掘っても掘っても全然地上に出ません。
あとどのくらいあるんでしょうか・・」
キュピル
「・・・考えてみたら今俺達が何処まで地下に連れていかれたか分らないよな・・」
琶月
「・・・もうー!師匠助けて〜〜!!」
ヘル
「・・!地上に出たぞ!!」
キュピル
「おぉ!」

巨剣と土の隙間から明りが少し漏れてる。
士気が上がって掘り続ける。頭だけ外に出せそうな穴を作る。

キュピル
「外に敵がいないか見てくる」

キュピルが頭を穴の中に突っ込み外を確認する。
が、頭を外に出した瞬間突然何かが頭の上に乗っかり穴の下に落ちる。

キュピル
「ぐぇ」
ヘル
「敵か!」

今度はヘルが頭を外に出す。
輝月とディバンが目の前に居た。

輝月
「ほぉ、お主はいつからモグラになったのだ?」
ヘル
「げぇっ、輝月!」
輝月
「何が『げぇっ』じゃ」

輝月がヘルの顔を踏む。
ヘルが三秒間思考停止した後、輝月のニヤついた顔を見て

ヘル
「お前ふざけるんじゃねーぞー!!!」

ヘルが穴の下で激しく暴れて無理やり穴を通ろうとした。

テルミット
「わっ!ヘル、暴れないで!」
琶月
「ぎゃー!!」
キュピル
「いでででで!!」

輝月
「ふん」

輝月が全体重を乗っけてヘルを穴の下に落とす。
次出てきたのはキュピルだった。

キュピル
「ヘルの事は置いて・・・それより輝月無事だったか。」
輝月
「態々素足になってまでお主等を助けに来たと言うのにこの様子ならば必要なかったようじゃな」
キュピル
「いや、合流出来て本当に良かった。依頼人もいるようd・・ぐおっ!」

キュピルが突然穴の下に引き込まれた。琶月がキュピルの足を引っ張ったようだ。
穴から琶月の頭が出てきた。

琶月
「師匠〜〜〜〜〜〜!!!!」
輝月
「話の途中だったぞ、琶月」

輝月が琶月の顔を踏む。

琶月
「ぎゃあ!!」
ディバン
「シッ!!あんまり叫ぶと蜘蛛が来るぞ!輝月とか言うお前も程ほどにしておけ!」
輝月
「こんな楽しい事をやめなくてはいけないとは心惜しいのぉ」

輝月が渋々後ろに引く。

ヘル
「(あのサディスト野郎め・・・覚えておけ・・・)」
テルミット
「ヘルさん、いつまでうつ伏せで倒れているんですか・・・。早く穴掘って出ましょう」

再びヘルが起き上がり巨剣を使って穴を掘る。
全員通路に出る。ヘルだけ険悪なオーラーを出している・・・

琶月
「師匠〜!見てください!目に宝石が埋め込まれた石像を見つけたんですよ!」
ディバン
「何だと」

ディバンが琶月から石像を奪い取る

琶月
「ああ!!」
ディバン
「こいつは・・・間違いない。神殿に入るために必要な石像だ!
おい、もう一個あるはずだ。見つからなかったか!?」
キュピル
「いや、見てないです」
ディバン
「蜘蛛の巣で見つけたのか?」
ヘル
「繭を斬っていたら出てきた」
ディバン
「さっき私が神殿に足を運んだ時入口が閉まっていた。
古文書によると目にダイヤが埋め込まれた石像が二つ、入口に飾られていたそうだが
私が見た時その石像は見当たらなかった。恐らくこれがその石像だ」

ディバンが静かに興奮している。
が、その横でもっと興奮している琶月がいた。

琶月
「ダイヤ!!ダイヤですって師匠!!さっそくダイヤをくり抜いて・・」
ディバン
「ダメだ!!このダイヤには魔力が込められている!このダイヤがない石像はただの石だ」
キュピル
「帰る時に貰えばいいじゃないか」

・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

ディバン
「あぁ、そうしたまえ」
琶月
「よし!!!」

その時地響きがなった。

ディバン
「・・まずいぞ。我々の声に気付いて蜘蛛共がやってきたようだ」
キュピル
「輝月、ここから出口までどのくらいの距離だ!?」
輝月
「すぐそこじゃ」
キュピル
「皆、早く脱出しよう」
ディバン
「待て、蜘蛛共が石像を持っていたということはもう一つここにある可能性が高い!
巣と神殿は非常に近い所にあったからな」
ヘル
「ならどうする!」
キュピル
「穴に潜れ!」

全員ヘル達が作った穴の中に潜る。
テルミットが魔法を使って穴を塞ぐ。
その直後蜘蛛がやってきたが人の姿は無く暫くその場に留まっていたが何処かに行ってしまった。

琶月
「で・・・この先本当にどうするんですか・・。私もう蜘蛛見るのも嫌なんですけど・・」
ヘル
「我慢しろ。」
琶月
「師匠に言われるのならまだ分るけどこんな奴に言われるのは納得できないー!!」
輝月
「琶月、我慢するのだ」
琶月
「はい!!」
ヘル
「・・・」
キュピル
「落ちつこう、な?」

ディバンが革のコートの内側からメモ帳を取り出し自分で書いたメモを読み始めた。

ヘル
「・・・何の文字かさっぱり分らん」
ディバン
「ラビラル島で使われていた古代語だ。昔この島にラビラル人が住んでいた。
そのラビラル人が残した伝書がある。」
テルミット
「一体何処でそういう情報を手に入れているんですか?」
ディバン
「時にはお偉いさんを殴り飛ばして手に居れる時がある」

・・・・。
思ったより手段を選ばない人間なのかもしれない。

ディバン
「ラビラル人が残した古来の伝書によるとここの巨大蜘蛛と共に文明を歩んできている。」
琶月
「えぇ・・・もう嫌だ・・」
ディバン
「・・共存できたということは襲わない条件があるはずだ。」

ディバンが別のメモ帳を取り出し解読を始める。
写しただけでまだ解読出来ていない部分もあるらしい・・・。
その様子を皆見守っている。

琶月
「蒸し暑いなぁー・・」
ヘル
「ギャグか?」

・・・。

ディバン
「・・・奴等を従わせる呪文があるらしい」
輝月
「ほぉ、それはもしや生命操作の呪文のことか?」
ディバン
「・・使えるのか?」
輝月
「知っているだけじゃ」
キュピル
「生命操作・・。何とも危険な臭いがする名前だ」
ディバン
「誰か呪文を扱える人はいるか?生命操作の呪文の内容が書かれている」
テルミット
「僕は魔法しか扱えません」
キュピル
「魔法も呪文も扱えない・・」
琶月
「確か師匠呪文使えませんでしたっけ?」
輝月
「うぬ、扱えるぞ」
ディバン
「この呪文であの巨大蜘蛛を操ってくれ。」

ディバンが訳のわからない言葉で書かれたメモ帳を輝月に渡す。

輝月
「・・・・うぬ、これはまた難しい呪文じゃのぉ。
出来ない事はないが・・・生贄を必要とするぞ」
キュピル
「い、生贄・・・。それは・・やばいのか?」
輝月
「別に深刻に考える事はない。生贄にされた者の気力を奪い取るだけじゃ。なぁ?」
琶月
「こ、こっち見ないでください!!」
輝月
「苦しまぬようワシが気絶させてやろう」
琶月
「ひぃぃぃ!!!」










琶月が呪文陣の上で横になっている。

テルミット
「・・・なんだか凄く可哀相なんですけど・・」
輝月
「いつものことだ」
テルミット
「・・・もっと可哀相になりました・・」
輝月
「琶月が目覚める前に唱えるぞ」

輝月が怪しげな呪文を唱え始める。
紫色の霧に包まれる・・・。

輝月
「はぁっ!」

紫色の霧が一気に拡散した。

輝月
「今巨大蜘蛛に何が起きても広い所で待機と命令した。もう大丈夫じゃろうて」

呪文が終わりそれと同時に琶月が目覚める。

琶月
「うぅーん・・・。・・・師匠酷いですよー!!」
輝月
「すまなかったの、琶月。」
琶月
「うっ・・謝られると逆に怖いです・・」
キュピル
「むしろ今琶月気力吸い取られたはず・・なのに・・。すぐ起きるって・・・」
ヘル
「・・・あいつ、実は凄まじい根性持っているのかもしれねぇな・・」

ディバン
「呪文がいつまで続くか分らない。とっとと進むぞ」

ディバンがテルミットが塞いだ穴を拳でたたき壊す。
外に出るといきなり蜘蛛がいたがこちらを見ても攻撃してこない。
ディバンが冷や汗をかく

ディバン
「・・・成功のようだ」
キュピル
「下に降りて繭を探してみよう」



複雑に枝分かれしている穴を通って行く。
バラバラになって行動すると永遠にはぐれてしまう可能性があるので共に行動していく。
道は適当だ。

ある程度まで通路を潜り続けると突然真下に続く道が現れた。
その壁には蜘蛛の糸で張り巡らされていて蜘蛛が一杯いる・・・。
それをみた琶月が再び気絶してしまいテルミットが仕方なく背負う。

ディバン
「これは女王蜘蛛のいる場所に続いている可能性が高い。
いいか、この蜘蛛の糸には触れるな。」
ヘル
「どういうことだ?くっついて動けなくなっちまうのか?」
ディバン
「よくみるんだ。壁に白い粒が一杯ついているだろう?」
テルミット
「・・・ついてますね」
ディバン
「あれは蜘蛛の卵だ。触れた瞬間子蜘蛛が一杯出てくるぞ」
キュピル
「おぞましいな・・。しかし仮に出てきたとしても生命操作されているはず・・」
ディバン
「卵は呪文を受け付けない事が多い。孵化した子蜘蛛は操られていない可能性が高い。
・・・万が一孵化させた場合は急いで逃げる必要がある。」
輝月
「子蜘蛛一匹に逃げる必要はないと思うのぉ。」
ディバン
「一匹だったら別にいい。だが一万匹産まれたらどうする」
輝月
「・・・流石にワシも見るのは嫌じゃな」
ヘル
「・・・俺も同意するか・・」
キュピル
「しかしこの穴は相当深そうだ。どうやって降りる?」
ディバン
「壁に張り付いている蜘蛛を足場にして降りる。」
キュピル
「流石は探検家・・」

ディバンが先に降りはじめた。時折フックショットを用いて移動している。
かなり勇気のある人のようだ。

ヘル
「俺達も続くぞ!」

ヘルも飛び降り続いてキュピル、輝月、琶月を背負ったテルミットが降りた。
ディバンの後を追っていく。

ヘル
「とぉっ!」

ヘルが蜘蛛の上に着地する。顔を踏んづけている。

琶月
「うぅーん・・・ぎゃあああ!!嫌だ!蜘蛛!ひいいいい!!」
テルミット
「わっ!!暴れないでください!!」
琶月
「無理無理無理無理無理!!!!」

琶月が暴れテルミットが足を滑らせてヘルの乗っかっている蜘蛛の上へと落ちる。
衝撃に耐えられる蜘蛛が壁から剥がれ一緒に落ちて行く。
ディバンが呆れている。

ディバン
「まだ下が見えない。」
キュピル
「ヘル!テルミット!琶月!いっそ蜘蛛の糸に掴まれ!」
ディバン
「正気なのか?」
キュピル
「いつものことだ」
ディバン
「いつものことならしょうがない」

ヘルとテルミットがキュピルの指示に従い蜘蛛の糸に掴まる。
触った瞬間小さな粒が破裂し子蜘蛛が大量に孵化した。

テルミット
「出てくる前に全部燃やします!バースト!」

テルミットが炎の玉を生み出し子蜘蛛にぶつける。
孵化した子蜘蛛が全て燃え灰になって落ちる。
炎がそのまま糸を焼きつくし燃え広がっていく。

ヘル
「子蜘蛛消えろ!」

ヘルが壁を勢いよく蹴って糸を引きはがし壁に向かって巨剣を投げつける。その直後爆発し
子蜘蛛を退治する。そのままヘルは下に落ちて行くが近くの大きな蜘蛛の上に着地する。

キュピル
「ナイス!」
ディバン
「炎がこっちにまで燃え広がってきているぞ!」
テルミット
「ウォーター!」
キュピル
「そのまんまだな、おい」


テルミットが水を召喚し火を消す。

ヘル
「おい、琶月。邪魔するぐらいなら気絶しておけ」
テルミット
「既に気絶しているようです・・」
ヘル
「連れてきて一体何に役だった・・こいつは・・」
テルミット
「少なくとも輝月さんの呪文で・・・」
ヘル
「・・なるほどな」

ヘルとテルミットが先行して進む。
ディバンとキュピルと輝月がその後に続く。

降り続けて行くとついに一番下まで辿りついた。

キュピル
「大分深いな。1Kmぐらいは降りたんじゃないのか?」
ディバン
「戻る時の労は考えないようにする」

ディバンが真横にある巨大な穴を歩いていく。
常に何か罠や危険な物がないか気を張り巡らしている。

キュピル
「俺達も後に続こう。」

キュピルもディバン達の後に続いていく。
















==ケルティカ



ケルティカにギーンとミーアがやってきていた。
二人ともいつもとは違う服装をしており自分がトラバチェスの者だとは分らないようにしている。

ギーン
「キュピルの言っていた拠点を探索する。奴の話によれば東、南、西の方角を一定距離進んだ所に
侵入できる場所があるそうだ」
ミーア
「・・・南から探そう」
ギーン
「いつもの直感か?」
ミーア
「そうだ。」
ギーン
「ミーア、お前の直感は侮れない。従う」

二人ともケルティカの南口を通る。



南の方角へ一定距離進むとミーアが不自然な地面に気付いた。
周りにギーン以外誰も居ない事を確認すると取っ手を掴んで蓋を外す。

ギーン
「これが奴の言っていた入口か」

ミーアがさっそく飛び込む。
ギーンも強力な浮遊魔法を唱え重力を半分にして飛び降りる。
途中呪文抵抗(魔法が扱えなくなる領域)に遭遇したが魔法の達人となったギーンにもうそんな小細工は通用しない。

一定距離を降りるとミーアがパイプに張り付いていた。

ミーア
「ここから侵入できる」

パイプに穴が空いていた。
・・・斬った後がある。
二人ともその穴の中を通り施設内に侵入する。

中に入るとそこはものの抜け殻だった。何も残っていない。
しかしギーンが魔法陣を作り強力な魔法を詠唱する。

記憶の空間を作り出し一か月前にそこで起きた出来事を再現する。


謎の生命体がカプセルの中に閉じ込められており緑色の液体に漬けられていた。
ギーンが無線を取り出す。

ギーン
「黒」

しばらくして無線から返答が返ってきた。

「了解しました」


ギーン
「くまなく調査するぞ」

ミーアが頷く。



通路を歩くと兵がいた。しかし記憶の魔法で再現された兵であり実体者ではない。

ミーア
「・・・この兵。間違いなくトラバチェス兵だ」
ギーン
「反トラバチェス兵か。奴を完全に仕留めなかったのが一番の失敗だ」
ミーア
「仕留めたと思ったその直後にジェロスが動き出した。仕方ない」
ギーン
「ジェロスを破壊した後残骸が何も残っていなかった事を不思議に思うべきだったな」

二人とも施設をくまなく調査する。
すると巨大な扉を発見した。

扉を開け中に入ると白衣を着た研究者が沢山居た。
そして中央に巨大なカプセルが五つあった。

その一つに知っている人が居た。

ミーア
「・・・ルイ。久しいな」
ギーン
「こんな形であいつと対面したくない」

変わり果てたダークルイの姿を見て二人とも呟く。

ギーン
「ルイは俺を妙に恨んでいるが・・戦友だったことには変わりない」
ミーア
「・・・元トラバチェス首相は間違いなく禁忌のウィルスを作り出している」
ギーン
「ペストと言い今回の件と言い・・・奴はウィルスを作り出す事だけは達人だ。
だが潰さねばならない技術だ」
ミーア
「・・・。ルイは治せるのか?」

ギーンが暫くダークルイを見つめた後

ギーン
「・・・こいつは強力な魔法で精神を封印されている。信じられんが屈折な精神力の持ち主だったのだろう。
強力な効果を付加する魔法は解除することが難しい。ましてや解除を不能にする場合その効果は倍増する。
キュピルには・・悪いが治すのは難しい」
ミーア
「だがキュピルの話に寄れば半狂気化した人物を治した魔術師がいるようだが」
ギーン
「そいつは俺より優れた治療魔法を覚えている可能性が高い。・・・・・。
・・・・ここで判断を下すのはやめるべきだ。治療してみなければわからない」
ミーア
「私が間違っていた、その通りだ」
ギーン
「調査を続ける。」

ギーンがローブを翻して通路に戻る。
ミーアもギーンの後に続いていく。

ダークルイが二人を見て何故か悲しそうな目で見ていたような気がした。






一方その頃、国の情勢に変化が表れ始めた。

オルランヌが着々と開戦の準備を始めそれに気付いたアノマラドは防衛壁の建設に入った。
攻められてもいいように軍備を強化し兵器の量産に入る。兵士を徴兵し数を揃える。
それはアノマラドだけではなくオルランヌも同様に行っていた。
いつ開戦してもおかしくない状況。

休戦という約束・・誓約はもはや何の意味も成していなかった。

その実態にマスメディアも気付き新聞、ニュースで流そうとした。
だが国の厳しい規制によりその事実は誰一人民衆に知れ渡っていなかった。


ある所にオルランヌの最前線指揮官がいた。
・・・元は軍師だった彼だがある理由でこの階級に落ちた。

彼は知っていた。この戦いは私欲によって行われる戦争だと。
それもオルランヌに属さない、第三者による私欲だと・・・。

いくら愛国者の彼でも私欲で戦うのは嫌だった。猛烈に反対した。
しかし王の怒りを買い死亡率の高いこの前線に配置された。

権力を失った彼にもうこの戦いを止めることはできない。
今唯一、彼が出来る事は素早くこの戦争を終わらせて互いの国の被害を最小限に抑える事。
・・・そして・・必ず生きて帰りどのような事があろうと国民に知れ渡す。

だが・・それでも平和になったあの国を攻撃するのは心苦しすぎる。

・・・もし・・あいつならこんな時どうするのだろうか・・・。

「・・・俺は・・もう一体何のために戦ってきたのか分らない・・。
こんなことになるとは全く思っていなかった・・・。」


椅子の上で頭を抱える。


そしてぼそりと・・・エユが呟いた。


エユ
「教えてくれ・・キュピル」



物語は複雑に絡み合いながら急速に進んでいく。


続く



第十話

幻の島、ラビラル島へやってきたキュピル達。
だがその一方で複雑な出来事が展開されている。



==蜘蛛の巣窟


キュピル
「もう歩いて相当な時間が経つ・・・。」
テルミット
「もう・・ヘトヘトです。琶月さん、自分で歩いてください」
琶月
「可愛い乙女にこんな所歩かせる気?」

ヘルがギロリと琶月を睨む。物凄い形相だ。

琶月
「うぅ・・しょうがないわね・・」
ヘル
「輝月を見習え!素足だぞ!」
琶月
「えっ!!」

今更気付いたらしく慌てて琶月が輝月の傍に近寄る。

琶月
「わわわっ!!師匠!私の草鞋をお使いください!!」
キュピル
「(何だかんだ酷い目にあわされてるけど自分の師匠の事慕っているんだな・・・)」
輝月
「いつ気付くか敢えて言わなかったがやっとか、琶月よ」

土下座して自分の草鞋を献上する琶月の頭を踏みつける。

ヘル
「・・・お前、足切れてるぞ。岩で切ったか?」
輝月
「もしかするとお主の巨剣による誤爆かもしれぬな?」
ヘル
「なんだと!ちっ、黙っていりゃ予備の靴を差し出してやろうと思っていたのにな!」
輝月
「ほぉ?そんな事を思っていたのか?なら潔く渡せばいいじゃろうて?」
テルミット
「あ、その靴は使わない方がいいですよ」
キュピル
「何故?」
テルミット
「ヘルさんは水虫ですから」

・・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

全員一斉に笑い転げ始めた。もちろんヘルとテルミットは除く。

ヘル
「おい!テルミット!!俺はもう水虫治したぞ!!!」
テルミット
「ね、念のため言っただけですよ!!」
琶月
「アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」

琶月が狂ったように笑いそれに釣られて他の人も笑い転げ始める。

キュピル
「やばい、流石の俺もこれは・・・笑わずにはいられない!!腹いて〜!!」

ディバンも無表情を装っているが頬が引き攣っている。琶月をちらっと見て吹きだす

キュピル
「帰ったらヘル専用のスリッパを用意しよう、水虫がうつる」
ヘル
「キュピルさんまで!!テルミットーー!!」
テルミット
「ご、ごめんなさい!でも一応半年前に治っていますよ!」
輝月
「ククククク・・・・。一応その好意だけは受け取っておこう」

輝月がニヤニヤした顔でヘルを睨みつける。
好意とも敵意とも見れる眼差しだ・・・。

ディバン
「おい、面白かったが急ぐぞ」
ヘル
「面白くも何ともない!!」

ヘルがその場で吠えるが全員無視して先に進んだ。




さらに進んでいくと地面も壁も天井も全て蜘蛛の糸で張り巡らされたドーム状の部屋に辿りついた。
そしてその奥に超巨大な蜘蛛がいた。それを見て琶月が再び気絶しそうになるがいい加減輝月も呆れて
琶月を励まし何とか意識を保たせている

ディバン
「女王蜘蛛だ。」
キュピル
「輝月の生命操作の呪文は効いているのか?あまりにもでか過ぎて効いているのかどうか疑いたくなる」

大きさは20mぐらいあるかもしれない・・・。
いつしか戦ったドラグーンよりも大きい。

輝月
「まだ効力は続いておる。安心するがいい」
キュピル
「ならいいんだが・・。この糸にも子蜘蛛の卵がくっついているようだ」
琶月
「師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い師匠怖い」
キュピル
「怖くて輝月に縋りついているのか輝月が怖いのか・・・」
ヘル
「両方だろ」

輝月がヘルを睨むがヘルは眉を上げて何も言ってなかったように装う。
珍しく輝月が琶月を優しくしている。

キュピル
「(いい加減この二人の相性の悪さも何とかしてやりたいな・・・)」
テルミット
「どうするんですか?歩けば間違いなく子蜘蛛が孵化しますよ」
ヘル
「燃やすのはどうだ」
ディバン
「いくつか大きい繭も混ざっている。中に重要な古文書や石像があるかもしれない。
燃やすのはだめだ」

ディバンが強く否定する。

キュピル
「輝月がずっと生命操作の呪文を唱えているってのはどうだ?孵化した瞬間動かなくなる」
輝月
「なるほど、名案じゃな」
琶月
「え?」







琶月
「ぎゃあああーー!やめてやめて!師匠考え直してください!」
ヘル
「お前は生贄以外何も役立っていない!死ぬ訳じゃないんだからこのぐらい我慢しろ!」
琶月
「もう嫌だーー!!泣く!!泣いてやるー!」

これ以上騒ぐ前に輝月が呪文を唱える。
唱えた瞬間琶月の気力が消えその場で失神した。

ディバン
「行くぞ」

輝月と琶月・・あと何かの時のためにテルミットを残して三人で進む。

卵を踏みつけた瞬間子蜘蛛がうじゃうじゃと卵から出てきた。
しかしすぐに呪文の効力が効き始めその場で静止した。

キュピル
「子蜘蛛だけに卵を踏みつけた時蜘蛛の子を散らすように出てくるな・・」
ヘル
「ここを素足で歩きたくないな」

女王蜘蛛に近づき大きめの繭に辿りついた。女王蜘蛛がこっちを見ている。
今にも襲われそうな気がして三人とも冷や汗をかくが襲ってこない。

とりあえず繭を剣やナイフで切り始める。
が、中から出てきたのは大きめの蜘蛛で全員ぎょっとし思わず後ろに倒れそうになったが
粘々する蜘蛛の糸のおかげで転ばずに済んだ。

ディバン
「・・・次だ」
ヘル
「マジであぶねーな・・」


どんどん繭を切り裂いていくが中から現れてくるのは蜘蛛ばかり・・・。
だがその時ディバンが違う物を見つけた。

ディバン
「あったぞ!石像だ!!」
ヘル
「いよっしゃ、これで神殿に入れるんだな!?」
キュピル
「よし、必要な石像は確か二つだったよな。その神殿とやらにさっそく行こう!」

その時何かが倒れる音が聞こえた。
全員音が聞こえた方向に目をやると輝月が倒れていた。

キュピル
「一体何があった!?」
テルミット
「突然気絶しました!!何だか呪文を詠唱してる時凄く苦しそうにしてましたけど・・・!」
ヘル
「あいつめ!急いで戻るぞ!」
ディバン
「待て!」

二人ともディバンの方を見る。

ディバン
「忘れるな、今は呪文を詠唱されていないぞ」

キュピルが物凄く渋い顔をする。そして下の方に目をやる。
子蜘蛛がわらわらと集まってきていた・・・

キュピル
「・・・ごめん、割った」
ディバン
「走れ!!!」

三人とも慌てて糸の無い所に向けて走り始めた。
走って糸に着地した瞬間卵が割れ子蜘蛛は弾き飛んで足に噛みつく。
それが一匹だけではなく何百匹もいるから非常に痛い。

全員死に物狂いで輝月達の居る所に戻る。
糸のない所に辿りついたら全員すぐに子蜘蛛を取り除き始めた。だがわらわらと子蜘蛛が集まってきていて
取り除いても取り除いてもすぐに次の子蜘蛛がかみついてくる!

ヘル
「こんちくしょう!!!」

ヘルが怒って自らの気力を爆発させ子蜘蛛を吹き飛ばした!
それと同時にキュピルとディバンも吹き飛ばされ壁に叩きつけられたがその衝撃で子蜘蛛がはじけ飛ぶ。
その時地響きが鳴った。

女王蜘蛛を見るとこちらに向けて歩いてきている。目の色が赤い。

ディバン
「早く脱出だ!効力が切れた!!」
キュピル
「ジェスターとファンを連れてこなくて大正解だった!
ヘル、テルミット!気絶してる二人を頼む!」
ヘル
「・・・了解」

ヘルが輝月を背負いテルミットが再び琶月を背負った。テルミットの方はもう慣れてしまったようだ。
急いで元来た道を辿る。

そこそこのスピードで走って逃走しているのだが女王蜘蛛の方が移動速度は早かった。
巨大なために向こうの一歩はこちらの20歩に値している。
いくら頑張って走った所ですぐに追いつかれてしまった。

女王蜘蛛が糸を飛ばしてきた。普通の蜘蛛より圧倒的に量が多い。
通路を覆い尽くす事ができるのではないのかという量だ。

ヘル
「キュピルさん!」

ヘルがキュピルに輝月を投げ飛ばす。
突然の事だったので受け止める事が出来ずそのまま一緒に倒れる。

ヘル
「烈風剣!!!」

ヘルが巨剣を大きく横に振って空気の刃を飛ばす。
蜘蛛の糸を切り、向かい風となって蜘蛛の糸は途中で勢いを失いヘル達に届く前に落ちた。

ヘル
「どんなもんだ!」
キュピル
「早く逃げよう、次が来る。」

今度はキュピルが輝月を背負って逃走を開始する。
ディバンとテルミットはもう先に移動したようだ。
ヘルが最後尾で蜘蛛の糸を弾き返しながらゆっくりと逃走している。

ヘルが喰いとめている間に先に進む。大分走ってようやくさっきの深い穴の所までにきた。
降りて来た時は壁に蜘蛛の糸がびっしりついていたのに今見ると全部なくなっている。

キュピル
「燃やしたのか?」
テルミット
「はい。登る際蜘蛛の卵が邪魔になるので・・。ディバンさんはフックショットで先に上がりました。
これから僕達も上ります」
キュピル
「あの高さを登るのか・・・」
テルミット
「・・・ヘルさんは?」
キュピル
「頑張って女王蜘蛛抑えてもらっている。俺の目利きが正しければこの程度なら防ぎきれるはずだ。
俺達は輝月と琶月を今背負ってるから先に登ろう。頑張って時間を稼いでもらう」
テルミット
「わかりました」
キュピル
「ロープできつく結んで固定させたほうがいい。登ってる最中に起きて暴れたら困る。」
テルミット
「確かに・・・」

二人とも協力し合いながら自分の背中に琶月と輝月をきつく縛る。緩みがないことを確認し
凹凸(おうとつ)のある壁に手をかけて登り始める。二人とも荷物を背負ってよく崖を上っていたため
それほどスピードは落ちずに登っていく。もちろん通常より疲労は貯まりやすいが登りきれない事はなさそうだ。

登り始めて暫く経過した後ディバンの声が聞こえた。

ディバン
「俺は登り終えたぞ!フックショットを貸してやる!」

そういって数十秒経過した後にフックショットが落ちてきた。が、二人とも登っていたため
フックショットを受け取る事が出来ずそのまま落ちて行った。

キュピル
「ヘルが使ってくれるはずだ。登ろう」
テルミット
「はい」

二人とも汗だくになりながら一生懸命登っていく。



ヘル
「くたばれ!」

ヘルが女王蜘蛛に巨剣を投げつける。しかし硬い甲殻に弾かれてしまった。

ヘル
「くそ、だめか」

とうとう穴の所まで来た。ここから先は登らなければならない。
よくみるとフックショットが落ちている。

ヘル
「悪いんだが俺は空飛べる。」






キュピルとテルミットが登ってる最中巨剣に乗って空飛ぶヘルがやってきた。

キュピル
「うわ、ヘルずるいな!」
ヘル
「フックショットが落ちてました。それと一人ぐらいなら連れて行けます」
テルミット
「最近その技使ってなかったらすっかり忘れていました・・・。」
キュピル
「テルミットを連れてってくれ。俺はフックショットですぐ登る」
ヘル
「わかりました」

ヘルが琶月を背負ったテルミットを引っ張り先に飛んで行った。
キュピルもフックショットを使って素早く移動を開始する。
壁にフックショットを放ち刺さった所まで飛んでいく。
飛んで行った先でしっかり手と足を使って壁に張り付いたら針を引き抜きもう一度上へ向けて
フックショット放つ。この繰り返しでドンドン登っていく。

が、上っている最中下から蜘蛛の糸が飛んできた!

キュピル
「やべっ」

フックショットを上に放ち糸の届かない所へ逃げる。
回避できたが一部の糸が壁に張り付きフックショットを放ってはいけない部分が出来た。
少し登りづらい。

狙いを定めてフックショットを放って行く。
その最中輝月が目を覚ましたらしく首が動いている。
まだ意識が朦朧としているらしく話しかけてはこない。

すると今度は地響きが鳴った。
女王蜘蛛が壁に糸を吐きだし直接壁を登り始めた!
数分かけて登った場所をたったの一歩で進んでいく。

キュピル
「これはまずい」
輝月
「何じゃ・・何が起きておるのだ・・・」
キュピル
「寝てていい」

フックショットを使って更に上へあがっていく。まだ辿りつかないのか!

その時ヘルが再び巨剣にのってやってきた。

ヘル
「テルミットを上に運んだ!キュピルさん!掴まってくれ!」

ヘルの手をしっかり握り巨剣の上に乗る。そして勢いよく上に飛んでいく。

輝月
「ようやく意識がはっきりしたぞ・・。それよりこの縄はなんじゃ。外せ」
キュピル
「上に辿りついたら」

女王蜘蛛が登るのと同じスピードで飛んでいく。
すぐに上に辿りついた。

テルミット
「琶月さん起きましたよー!」
琶月
「縄外してー!!」
テルミット
「絶対すぐまた気絶しますからこのままにします・・」
琶月
「うっ・・・確かに気絶してばっかりだけど・・。」

ヘルとキュピルが通路に降りる。
すぐに縄を外して輝月を解放する。

ヘル
「途中でびびって気絶したのか?」

また輝月がヘルを睨む。
キュピルが間に入る。

キュピル
「要因も気になるが今は脱出しよう。ディバンは先に行ったようだな」

すぐそこまで女王蜘蛛が迫っていた!
それどころか普通の蜘蛛までこちら目掛けて接近してきている。効力が切れたようだ!

ヘル
「おい、もう一度呪文を詠唱しろ」

輝月が少し考え

輝月
「・・・やっても効果はなかろう。」
ヘル
「ちっ」
キュピル
「行こう」

先にキュピルが走り残りの人も後に続いた。
が、すぐ進んだ先で蜘蛛が現れ道を塞がれた!

キュピル
「どけーーー!!」

キュピルがタックルし蜘蛛を転がす。
転がった蜘蛛に更にタックルして無理やり押し進める。
ちょっと進んだ先で分岐点が現れ違う道の所に蜘蛛を転がり落とした。

ヘル
「後ろにも蜘蛛が追い付いてきているぞ!」

ヘルが後ろからやってくる蜘蛛の糸を払い落としている。
テルミットは矢で蜘蛛の進行を少しでも遅らせている。

キュピル
「早い所前線を突破しよう。輝月、援護を頼む」
輝月
「よかろう」

二人が先に先行し道を切り開く。
行く手に蜘蛛が現れた時はまずキュピルが真っ先に蜘蛛にタックルし転倒した蜘蛛を輝月が真っ二つに斬る。
真っ二つになった蜘蛛を見て頑張ってここまで意識を保たせていたが琶月が気を失う。

キュピル
「思いのほかペースがいい!喰いとめるのもそこそこにして早く来い!」
ヘル
「ああ!!」

出口まで残り半分。その時広い道に出た。
何十匹物の蜘蛛が行く手を塞いでいた!この量ではタックルして転倒させたところで
他の蜘蛛に仕留められるのが落ちだ。
輝月もこの量を一度に仕留めるのは難しいらしい。

その時進行方向から何かが転がってきた。岩だ!!
蜘蛛を潰しながらこちらに向かってくる。蜘蛛を全て潰し輝月が岩を一刀両断する。

ディバン
「外にある岩をこの穴の中に落とすのは苦労したぞ」

再びディバンが出口に向かって走り始めた。
道中の蜘蛛は全てさっきの岩がやってくれたようだ。

キュピル
「今の岩で追手も倒せたらどれだけよかったか・・」
ディバン
「入口の近くに居る柔らかい蜘蛛は潰せるが甲殻の堅い蜘蛛にはぶつかった衝撃で砕ける」

数分走り続けると外に出た。まだ雨が降っている。

ディバン
「神殿の扉を開けるぞ」

蜘蛛の巣窟の目の前に神殿があった。
崖を切り崩して作られている・・・。
入口を通ると巨大な石の扉があり二つの台座があった。
ディバンが袋から石像を一つ取り出しキュピルに投げもう一つの石像を片手に持つ。
二つの台座に石像を置く。

置いた瞬間石像の目に埋め込まれた宝石が輝きだし石の扉が横にスライドし開かれた。

キュピル
「一体どんな仕組みが・・・。」
ディバン
「遺跡というのは不思議だろ?好奇心と探検心が燻られる。」

するとヘルとテルミットが蜘蛛の巣窟から現れ神殿に向けて走り始めた。
後ろには蜘蛛の大軍がいる。

ディバン
「こっちだ!」

二人とも死に物狂いで走ってきている。
開かれた石の扉を通り全員通ったのを確認したらディバンが石像を一つ台座から取り上げ
閉まる前に石の扉を通って避難する。蜘蛛が一匹だけ閉じきる前に入ってきたが
総員の攻撃を受けすぐに倒された。




ヘル
「おい、真っ暗だ。テルミット、ライトを詠唱してくれ」
テルミット
「・・・!皆さん、この空間には呪文抵抗がかけられています。」
キュピル
「呪文抵抗・・懐かしいな。ってことはここでは魔法も呪文も詠唱できないのか?」
テルミット
「呪文は分りませんけど・・・」
輝月
「言っておくが周りを明るくする呪文はないぞ」

しばらくすると明るくなった。ディバンがランタンを取り出し火をつけたのだ。

キュピル
「ここが・・神殿内部か?」

壁に沢山の古代文字が彫られている。
装飾も多く今持っている石像と似たような石像が一杯並んでいる。
しかし目にダイヤモンドは埋め込まれていなかった。
ディバンがメモ帳を開きながら壁に書かれている古代文字を解読している。

ディバン
「俺はこの古代文字を解読している。腕に自信があるなら先に進んでもいいぞ」
ヘル
「・・・自信はあるが灯りがない」

その時灯りがもう一つついた。キュピルが懐中電灯を持っている。

キュピル
「正直ランタンと比べたら余りにも小さな明かりだがある」
ヘル
「僅かな光でもあれば十分です。行きましょう」
輝月
「・・・ヘル。ここは動かぬほうがよいぞ。僅かな灯りでは危険じゃ」
ヘル
「へっ、びびってんのか?」
輝月
「良いか?お主のために言うてることを忘れるでないぞ」
ヘル
「俺は行く」

ヘルがキュピルから懐中電灯を受け取り先に進んだ。

キュピル
「・・・どちらかといえば俺は輝月寄りの意見だが・・
ヘルを一人にさせると危ないから行ってくる」
テルミット
「僕も行ってきます。琶月さんはここで降ろしちゃうので輝月さんお願いします」
輝月
「元々そやつは私の弟子じゃからな。面倒をみる義務がある」

テルミットが縄を解いて背負っていた琶月を降ろす。
そしてキュピルとテルミットはヘルの後をついていった。




大きな石の階段を30段程上り少し進んだ先にヘルがいた。
ここから先はもうランタンの明かりが届かない。

ヘルが懐中電灯で回りを確認する。


キュピル
「ヘル、とりあえず離れずに移動しよう」
テルミット
「魔法が使えないので恐らくヘルさんの能力も一部使えないはずです。例えば巨剣に乗るとか・・」
ヘル
「この様子からして何か生き物がいるとは到底思えないがな」
キュピル
「うーむ、俺の経験からするとこれは生き物じゃなくて・・・罠があるような・・」



ディバン
「・・・!」

その時壁に四角い窪みがあるのを発見した。
手で触れ押してみる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・




ヘル
「!」
キュピル
「うお!」
テルミット
「わっ!」

突如三人が立っていた床が下にずり落ち始めた!
慌てて上に戻ろうとしたが戻る前に石がスライドし蓋をされてしまった。

キュピル
「完全に真っ暗だ。懐中電灯で壁を照らしてくれ」

ヘルが壁を照らす。まだ壁は動いている。
・・・いや、正確には床が下にずり落ちている。



ディバン
「向こうで何かが動いたようだ」
輝月
「・・・解読はまだか?」

輝月が階段に座っている。
その横で琶月が寝ている。

ディバン
「まずはメモに内容を移す。その後から解読するのがトレジャーハンターの基本だ」
輝月
「ほぉ?」






キュピル
「一体どこまで下がるんだ」
テルミット
「心配になりますね・・」

ドンドン床がずり落ちて行くと空洞が現れた。
・・・いや、空洞かと思ったら通路だ。

キュピル
「通路だ。飛び移ろう」

下に下がりきる前に全員通路に飛び移る。
ヘルが最後に飛び移り通路に着地した瞬間、突然さっきまで乗っていた床が高速で落下し
見えなくなってしまった。

ヘル
「・・・あのまま乗っていたら死んでいたかもしれないな」
キュピル
「(その前にもっと死んでもおかしくない状況が色々あった件について)」



懐中電灯で通路の先を照らす。高さはそれなりにあるのだが幅は人一人通れるかどうか・・・。
ヘルの巨剣の幅程度しかない。(そのため巨剣を横にして進むと時々つっかかる。

キュピル
「進もう」

勇気を出して進む。
壁に文字が書かれていたが何て書かれているのか全く分からない。
気にせず進んでいくと深い段差があった。

キュピル
「まだ下に降りるのか」
ヘル
「何があるんだ?」
キュピル
「段差だ。下に続いている。一段大体3m」
テルミット
「確かに階段というよりは深い段差ですね・・」
キュピル
「よいしょっと」

狭い道の中を飛び降りる。
この程度の高さなら特に受け身をとらなくても大丈夫だ。

三段目を降りたその時。


ガラッ!

キュピル
「うわっ!」

突然足場が崩れ落下しそうになった。
間一髪のところで崖に掴まり下に落ちずに済んだ・・・。

テルミット
「大丈夫ですか!」
キュピル
「な、なんとか・・・。」

下を見ると岩で作られた鋭い刺が・・・。
もし掴まって居なかったら・・そう考えるとゾッとする。

キュピル
「・・・慎重に行こう」

自力で這い上がり前に転がる。
が、転がった瞬間再び床が崩れ落下した!

キュピル
「ぎええぇ!!」

崖に掴まれずそのまま落下。下を見ると刺が。
壁に両手両足で懸命に留まろうとする。皮が擦りむいて激痛が走るが死ぬよりはマシだ。
が、しかし平らな壁で止まりきれず途中で壁から離れてしまい背中から刺の上に落下する。

キュピル
「いぃっ!!」

荷物や武器のおかげで背中は守られた。しかし太ももに刺さり再び激痛が走る。

ヘル
「キュピルさん!今縄を投げます!」

ヘルが縄を投げてきた。しっかり体に結んで引き上げてもらうように指示を出す。
刺が太ももから引き抜かれ血が溢れだす。
引き上げられた後は急いで包帯を取り出し止血する。

キュピル
「・・とりあえずこれで大丈夫だ。幸い怪我しても支障のない所に刺さってくれた。ただ戦闘は難しい。」
ヘル
「わかりました。・・しかし・・。懐中電灯一本では罠を見破るのも大変だ・・」
キュピル
「もっと強い明りがあれば・・わかるんだが・・・。しゃあない、罠が見破れなくて死ぬよりはこっちの方がいい」

キュピルが上半身裸になり服に油を染み込ませて剣の鞘に巻き付けた。
そしてマッチを取り出して服を燃やした。

キュピル
「特殊な加工をされた動物油だ。かなり長持ちする。けど物が物だから五時間持てばいいほうだ」
テルミット
「その前に輝月さんと合流できればいいのですが・・」
キュピル
「ヘルとテルミットは罠看破はどのくらい出来る?」
ヘル
「俺は基本的に突っ込むタイプだからな・・・。主にテルミットに任せていた」
テルミット
「僕は一応出来るレベルですけど自信はちょっと・・」
キュピル
「ふむ・・。わかった。また俺が先頭になろう」

狭い通路で並びを変更する。かなりきつい。
すれ違う時に完全に壁に密着しなければいけないため上半身が壁で擦りむいて地味に痛い。

キュピル
「よし、いこう」

キュピルが松明を前に突き出してゆっくり進む。

・・・・。

・・・・・・・・。

キュピル
「この床は罠」

キュピルが足で崩す。崩れた先にはまた刺があった。

ヘル
「よくわかるな・・」
テルミット
「今のは僕も分りませんでした・・」
キュピル
「横にも罠」

キュピルが壊れた床の破片を拾って前に投げた。
その瞬間横の壁から太い一本の針が飛び出し岩を砕いた。
それをみて二人とも背筋が凍った。

キュピル
「・・・こんな狭い所でこの罠に引っかかったら全員即死だな・・・。
更に気をつけるんだ。床も崩れるぞ」
ヘル
「横の壁は太い刺が来る・・・。だが屈んで行くと崩れる床か・・・。どうすればいい!」
キュピル
「まぁ、見ててくれ」

キュピルがもう一度石を投げる。太い針が岩を砕く。
その直後キュピルが前に飛び出し太い針を鉄棒に見立てて掴まり勢いをつけて向こう側に着地する。

テルミット
「おぉ、流石です!」
キュピル
「真似してくるんだ」

二人とも石を投げて太い針を出させそれ掴まってそのままの勢いでジャンプした。
無事にこっちまでくれた。

キュピル
「よし、進もう」
テルミット
「慣れてますね」
キュピル
「昔は戦闘よりもこっちの分野の方が強かったんだよな・・・」

その時突然真上からギロチンが落ちてきた。
それにキュピルがすぐに気付き慌てて後ろにバックする。
すぐ目の前でギロチンが落ちた。

キュピル
「・・・あっぶない・・。今のは気付かなかった」
ヘル
「こんな所でくたばったら輝月に何て言われるか・・」
キュピル
「輝月でも見破れるかどうか」
ヘル
「違いない」

しばらくするとギロチンが戻って行った。

キュピル
「この床を見てくれ。」
テルミット
「・・・ちょっとだけ出っ張ってますね。・・・まさか」
キュピル
「これがスイッチだ。踏んでしまうと・・」

キュピルが踏んですぐ足をひっこめた。
またギロチンが落ちてきた。

キュピル
「こうなる」
ヘル
「・・・気をつけます」

スイッチを踏まないように全員慎重に歩いて行く。
少し進んでいくと異常なスイッチの量が現れた。

テルミット
「こんな量・・。とてもじゃないですが踏まずに移動できません」
ヘル
「ちっ、これは面倒だ・・」
キュピル
「・・・助走つければギリギリ行けるレベルだ。先に荷物を投げよう」

キュピルが荷物を投げる。が、投げた先の床が崩れ落ちて行った。

キュピル
「・・・・・・。違う方法で進もう」
ヘル
「・・あの中に大事な物は?」
キュピル
「冒険に必要な物一式。後でロープ使って引き上げる。」


キュピルが松明を咥えてよーく手と足を湿らしておく。
右の壁に右手と右足、左の壁に左手と左足を突き出して体を支え前に移動し始めた。

キュピル
「こうやって壁を押し出すようにして体を支えれば地面に足をつける心配もない。」
ヘル
「なるほど」
キュピル
「ただし気をつけるんだ。壁にもスイッチがある。これを押さないように気をつけて進んでくれ」

二人ともキュピルの真似をして進んでいく。
安全な所まで進み荷物が落ちた穴を見る。
そんなに深くないので回収できそうだ。

ロープを体に巻きつけ穴の中にゆっくり入る。上でヘルとテルミットがキュピルを支えている。
荷物を回収し上に戻る。


キュピル
「回収できてよかった。行こう」
テルミット
「この通路は何処まで続くんでしょうか・・・」








ディバン
「・・・解読は済んだ。この神殿の最奥には宝が眠っている。
その宝はラビラル島に住む長の遺品や財宝などといったものだ。その中でも特に気になる物があった」
琶月
「それは何ですか!?ダイヤモンドより貴重な宝石ですか!?」

先程琶月が目覚めた。ディバンの話に夢中だ。隣で輝月が暇そうにしている。

ディバン
「記憶の宝珠だ。その宝珠に魔力を流し込む事によって人々に記憶を埋め込むことができるそうだ。
ラビラル島の長はこの記憶の宝珠を使い村の民の記憶に自分の権力と強さを刻み込んでいた。
刻み込まれた記憶は一生忘れることはない」
輝月
「ほぉ?ということはその宝珠を使ってワシの存在を主張すればこの世の者全てが
ワシの事を認識するのか?」
ディバン
「流し込む魔力によって範囲は違うようだがそういうことだ。もしお前が記憶の宝珠に向けて
説教でもすれば全員その説教は忘れないだろう」
輝月
「面白い宝珠じゃな。それよりお主。さっき罠があると言うたな?
キュピル達は今頃罠にやられているのではなかろうな」
ディバン
「誰も罠を見破れなかったらそうなる。行くぞ」

ディバンがメモ帳をコートの内ポケットにしまい階段を上る。
輝月と琶月もディバンの後に続く。

30段ある階段を上り先へ進むと狭い通路があった。

輝月
「うぬ?この部分だけ真新しいな・・・・」

輝月が正方形の床を示す。

ディバン
「・・・ここで何かが起きたようだな。踏まないように行くぞ」

ディバンが目の前の通路に入って行く。
輝月と琶月もその後に続いて行く。




ディバンの罠の看破能力は凄まじかった。
どんな些細なことでも絶対に見逃さない。

その能力は輝月も琶月も安心できた。








キュピル達が一定距離進むと異常事態が起きた。

キュピル
「い、行き止まり・・・!?どういうことだ!?」
テルミット
「途中に別れ道なんてありませんでしたよ!」
ヘル
「強いて言えば俺達が落ちる床に乗った時ぐらいだな・・・。
まさか上にあった通路が本物だというのか?」
キュピル
「・・・だけどもう戻れないぞ。・・・」

キュピルが壁に耳をあてる。そして壁を硬い物で叩く。

・・・・。

キュピル
「この壁の先に通路がある。破壊できないだろうか・・・」
ヘル
「・・・ちっ、魔力があればな・・。こんな壁巨剣で刺して爆発させるってのにな」
キュピル
「・・・どうするか・・・」





ディバン
「・・・行き止まりか」
琶月
「えー。でも途中に別れ道なんてありませんでしたよ?」
輝月
「何処かに仕掛けでもあるんじゃろうて。」
ディバン
「そのようだ」

ディバンが壁を押す。押した所が凹み何かが動く音が聞こえた。
だが目の前の壁は動かなかった。

ディバン
「・・・他にもスイッチがあるのかもしれん」





キュピル
「よいしょ!」

キュピルが荷物からハンマーを取り出し壁を無理やり壊そうとしていた。

キュピル
「地道に壊して行くぞー!」

キュピルが小さなハンマーを振りかぶり壁を叩きつけようとした瞬間。
壁が上に上がっていき道が現れた。空振りに終わりキュピルが前に倒れる。

キュピル
「いでっ!くそ、なんだこの壁は。タイミングがよすぎるぞ。」
テルミット
「でも道が開きました!」
キュピル
「そうだな。・・・よし、気を取り直していこう」


三人が進んでいくと突然真っ暗になった。

キュピル
「うお!なんだ!?」
ヘル
「松明の炎が消えたのか?」
キュピル
「いや、まだまだ持つはずだ。」

そしてその直後。突然強い光が三人を襲い気がつけば元に戻っていた。
手にはちゃんと松明があった。

キュピル
「・・・・?なんだったんだ?」
ヘル
「・・・さぁ・・・」
テルミット
「さっきキュピルさんが転んだ場所まで戻りましたね」
キュピル
「・・・もう一度行こう」

今度は真っ暗にならずそのまま突き進む事が出来た。







ディバン達が必死にスイッチを探していると突然壁が崩れ道が現れた。

ディバン
「おい、何かスイッチに触ったか?」
琶月
「何もしてませーん!」
輝月
「何も見つけておらんぞ」
ディバン
「・・・遅れて動く仕掛けだったのか?」

その時一瞬強い魔力を感じそしてその魔力は消えて行った。。
全員通路の先を見ると異様な光景があった。

キュピルとヘルとテルミットが居た。
だがしかしキュピルは刺で腹を貫通しており
ヘルはギロチンで絶命している。
テルミットは横の壁から突き出た太い針に突き刺さっており息絶えている。

・・・全員死んでいる。

琶月
「ひ・・・ひ・・ぎゃああああああああああ!!!」
ディバン
「おい、生きてるか」

ディバンが全員の頬を叩く。だが既に冷たくなっており手遅れだ。

輝月
「・・・おい、キュピル。お主はここでやられる男じゃないだろう?
ヘルもテルミットもだ。」

輝月も傍により確認する。だが確かに死んでいる。

輝月
「・・・・お主・・・。勝ち逃げする気か・・!恨むぞ!」











キュピル
「うっ、今誰かに恨まれた気がした。まさか棚に隠しておいた秘密のお菓子をジェスターに見つけられたか・・?」
ヘル
「輝月だったりしてな」
テルミット
「うーん・・・。秘密のお菓子・・・。覚えておきます」
キュピル
「覚えておかなくていい!それよりさっきから何も罠が無い。逆に心配にならないか?」
テルミット
「・・確かにちょっとだけ心配になりますけど・・・。」

その時一瞬強い魔力を感じた。

テルミット
「・・・!強い魔力を感じます!今なら魔法が使えるかもしれません!」

テルミットがすぐにヒールを唱え全員の疲労を回復させる。
だがその直後魔力は消え魔法は再び使えなくなってしまった。

キュピル
「・・・今の一瞬は何だったんだ・・・?」
ヘル
「しかしラッキーだったな。」
キュピル
「む」

目の前に誰かいる。
・・・輝月と琶月とディバンだ。

・・・・。

ヘル
「まて!!俺達が先に進んでいたのにこいつらが先にいるってのはおかしい!」
キュピル
「ん・・・。」

キュピルが近づいて様子を見る。
・・・ただ座っているだけかと思いきや違う・・。
・・何故か知らないが息絶えている。

キュピル
「・・・死んでる」

よくみると叩きつけられた跡がある。
天井を見ると穴がある。

キュピル
「まさか落とし穴に落ちたのか?」
ヘル
「・・・ださいな」
テルミット
「・・・・・」

全員何か違和感を覚えていた。
明らかに・・何かおかしい。

キュピル
「・・・琶月は分らないが・・・。輝月とディバンがこの程度の罠で落ちるとは思えない。
特にディバンだ。・・・ただの落とし穴で落ちるとは思えないな・・。少し推測してみよう」

久々に推測する。

キュピル
「輝月と琶月とディバンの死体がここにある。全員高い所から落ちて衝撃死している。
考えられる原因としては罠により上から落下。しかしディバンと輝月が落とし穴に引っかかるとは思えない。
ここで逆に落ちてしまった原因等を考えてみる。例えばモンスターが現れ無理やり突き飛ばされて落ちた等だ。」
テルミット
「ですけど輝月さんがいますから並大抵のモンスターは倒してしまうと思います」
ヘル
「それに奴の事だ。危険な所では戦わないだろう」
キュピル
「同意だ。だからその線もない。・・・ん・・・。もう一個今思いついたぞ」
ヘル
「・・・何ですか?」
キュピル
「これは・・・もしかすると・・・。魔力で作られた影武者・・・」

キュピルが輝月の持っている刀を奪い取る。
抜刀し調べてみる。

キュピル
「・・・ヘル、テルミット。以前輝月と道場で勝負した時刀を投げたけど
あの時と比べてこの刀。少し変だと思わないか?」
テルミット
「・・・何だか重さが違います」
ヘル
「おりゃ!」

ヘルが刀を壁に叩きつける。真っ二つに折れてしまった。
折れた瞬間刀は消えてしまいマナとなって消えて行った。

テルミット
「・・!再び魔力が溢れてきました!ライト!」

テルミットがライトを詠唱する。周りが明るくなった。
だがその直後再び魔力はなくなってしまいライトは消えてしまった。
一瞬だが遠くまで見渡せた。

キュピル
「どうやら偽物ってことでいいみたいだ。先に行こう」

キュピルとテルミットが先に進む。
ヘルが偽物の輝月を見る。

ヘル
「・・・・」

顔面を思いっきり蹴り飛ばして二人の跡を追った。







輝月
「・・・何故か知らぬが無性に腹が立ったぞ」
琶月
「と、突然どうしたんですか師匠」
輝月
「さぁ?」

怪しく笑う。

ディバン
「どうやら偽物のようだ。巧妙につくられているが魔力によって作られている」
輝月
「あやつ等がここで死ぬわけがなかろう。」
琶月
「師匠さっきまで随分とさk・・」

輝月がそれ以上言う前に琶月の頭を叩く。

三人とも先に進んでいく。







キュピル
「お」

通路を抜けだしいきなり広い所に出た。
先も横も光が届かず見渡せない程広い。

テルミット
「キュピルさん、この空間に魔力がまた溢れています」
キュピル
「ライト使えるか?」
テルミット
「使えます」

テルミットがライトを詠唱し周りを明るくする。
キュピルが松明を消して油を節約する。

部屋の隅から隅まで見渡せるほど明るくなった。
部屋の全貌が明らかになり全員驚愕する。

ヘル
「なんという広さだ・・・」
キュピル
「これは・・・ナルビクぐらいあるな」

部屋の中央には水が流れている。まるで川だ。
近づいてみると水深は深く流れも急だ。更に変な魚もウヨウヨいる。

キュピル
「泳ぐのはちょっと厳しそうだな・・・」

どうしたものかと全員熟考する。







ディバン達が通路を進んでいくと行き止まりになってしまった。

ディバン
「・・・床から光が溢れている。」
輝月
「魔力も感じるな?あれはライトじゃな」
琶月
「ライトですか?ライトって・・テルミットさんがよく使う魔法のあれですか?」

ディバンが床をツルハシで崩す。





キュピル
「うおっ!」

突然上から石が降ってきた!
慌てて後ろに回避する。

ヘル
「そこに誰かいる!」

ヘルが巨剣を投げつける。


ディバン
「おい!馬鹿野郎!!俺だ!」
ヘル
「む」

ディバンが高さ50mの所から水に向けて飛び降りた。
水に着水してから流れが急な事と不気味な魚が居ることに気付き噛まれる前に這い上がった。
上で琶月が怖いと言って飛び降りてこない。

・・・が、暫く待っていると輝月が琶月を突き飛ばしたらしく無様な格好で琶月が落ちてきた。
ディバンが縄で琶月を引き上げる。しばらくして輝月も降りてきた。

輝月
「なんじゃ、お主のその格好は。露出狂か?」
キュピル
「明りがなかった!!」

キュピルが刀の鞘に巻きつけられた燃えた服を見せる。・・油が染み込んでいる。

輝月
「ほぉ、哀れじゃな?」

またニヤニヤ笑っている・・・。

キュピル
「そっちは無事見たいでよかったが・・・こっちは色々ボロボロだ・・」

ヘルとテルミットは無傷だがキュピルは色んな所に怪我を負っている。
その時ディバンが驚いたような声をあげた。

ディバン
「・・・これはラビラル人が作った三途の川か・・!」
キュピル
「三途の川?三途の川って・・確か魂がその川を通るともう二度と現世に戻れなくなるっていうあの川か?」
ディバン
「ラビラル人の長は絶対的な立場にいる。長のみが知るその記憶の宝珠は民からすれば
神の力だったのだろう。長になる物は試練を乗り越え、そして川を渡り事実上死人となりそして神となる。
記録にはそう書かれている」
ヘル
「・・・神か」
ディバン
「試練・・試練と呼べるような物は何もなかったぞ」
キュピル
「ナ、ナンダッテー!こっちはもう見て分ると思うが酷いもんだった!
穴に落ちて針で刺されるわ太い針が横から突き出してくるし・・・ちくしょー・・」
ディバン
「・・・どうやらここから先は君達しか行けないようだ」
テルミット
「どういうことですか?」
ディバン
「試練無き者はこの川は渡れず・・。試練を突破していない者がこの川を渡ろうとすると
川にいる魚が食らいつこうとするらしい。」
輝月
「ほぉ、試してみようではないか」
琶月
「え?何々!?」

輝月が琶月を突き飛ばして川へ落とす。
最初は何ともないと思ったが突如魚が琶月に群がり噛みついた!

琶月
「い、痛い!助けて!!」

輝月がすぐに琶月を引き上げる。
一回噛まれただけで済んだようだ。しかし深い傷が出来てしまった。

輝月
「うぬ・・ここまで酷い傷が出来るとは思わなかった。すまぬ、琶月」
琶月
「え?あ、そのー・・・」

琶月が照れくさそうに視線をそらす。

ヘル
「茶番はいい。俺達ならここを進めるんだな?」

ヘルが川に飛び込む。が、何故か魚が群がりヘルに噛みつく

ヘル
「ぐああぁぁーーーーー!」

あまりの痛さにヘルが川から飛び上がるようにして出て行った。

ヘル
「おい!!俺も噛まれたぞ!」
ディバン
「ズルしたんじゃないのか?」
ヘル
「ズルだと!?」
ディバン
「試練の道で先頭を歩いた奴は誰だ」
キュピル
「俺だ」
ディバン
「川に入ってみろ」

キュピルが川に入る。
・・・魚が寄って来ない。それどころかキュピルから離れて行く。

テルミット
「・・・罠の看破は全てキュピルさんがやっていました。
僕達にはこの川を渡る資格がないようですね」
ヘル
「ちっ、ここには魔力があるんだ!キュピルさんを一人にはさせられん!」

ヘルが巨剣を投げその上に乗る。このまま渡りきれると思ったが途中で見えない壁にぶつかり
川に落ちた。そしてまた悲鳴を上げながら戻ってきた。

ヘル
「ち、治療してくれ!テルミット!」
テルミット
「はい!」
輝月
「ださいのぉ」
ヘル
「あぁ!?」
キュピル
「・・・行ってくる。荷物は任せた」
ディバン
「おい」

ディバンがメモ帳だけ取り出し革のコートをキュピルに渡す。

ディバン
「上半身裸だと寒いだろう。ポケットにフックショットや探検用具が入っている。使え」
キュピル
「・・・考えてみればこれは依頼失敗だ。依頼者を最後まで護衛できなかった」
ディバン
「気にするな。」

キュピルがコートを身につける。・・・よし、行ける気がしてきた。
松明だけ持って川に入る。川の流れに逆らうようにしながら前に進んで行き松明が水に浸からないように
慎重に泳いで行く。ヘルが透明の壁にぶつかった所まで来たがキュピルはそのまますり抜けて行けた。

無事対岸まで泳ぎきることに成功した。

テルミット
「キュピルさん!僕達はここで待っています!気をつけて行って来てください!」

キュピルが手を上げて応える。
そして松明に火をつけて奥の狭い通路へと入って行った。

ヘル
「・・・何もなければいいんだがな」
ディバン
「三途の川を泳ぎ切った後も試練は続く。記録にはそう書かれてある。
恐怖の間、後悔の間、勇気の間。この三つを乗り越えた時王座につくとある」
輝月
「・・・モンスターでもおるのか?」
ディバン
「自分との戦いらしい。・・・トレジャーハンターにしてここで待たないといけないとは暇だな」







暗くて狭い通路を歩いて行く。
罠があるかもしれない、慎重に歩いて行く。

・・・進むにつれて明りはとうとう松明の炎だけになった。テルミットのライトはもう届かない。
曲がり角を曲がり光は完全に途絶えた。

キュピル
「・・・・・・・」

道が複数に分かれている。
適当に方向を決め進んでいく。

・・・複雑な通路だ。
グルグル回っているような気もする。いや、実際他の通路と繋がっているのだろう。
道が分岐した時は右を選びその次は左を選ぶ。その次は右と交互に進んでいく。

キュピル
「・・・ふぅ・・」

額の汗を拭き取る。
松明は確かに燃えている。だがそれでも通路は暗かった。
さっきまでは視界5m先まで明るく照らしてくれていたのに今では足元ギリギリまでしか照らしてくれない。

・・・炎は小さくなっていない。まだ元気に燃えている。
それなのに明りがなくなっていく。

キュピル
「おい・・どうした・・。こんな所で明りなくならないでくれ・・・」

もしこんな所で明りが無くなったら・・・。
俺は未来永劫この迷宮で彷徨い続けることになる・・・。

その時突然炎が消えた。

キュピル
「き、消えた・・・。」

油がなくなったのだろうか?
いや・・それとも他の要因か・・?

とにかくヘルから返してもらった懐中電灯をポケットから取り出しスイッチを入れる。

・・・つかない。


キュピル
「おいおいおい・・!どうした・・。明りという明りが何も通じないぞ・・」

手に持っている松明を落とす。
その時猛烈な熱さを感じた。

キュピル
「あつっ・・!!・・・なんだ、たいまつは・・燃え尽きたんじゃなかったのか・・!?」

感覚を頼りに松明をもう一度拾い上げる。
そして火がついているであろう部分を顔に近づける。
・・・顔が熱い。

・・・火がついている。
確かについているのだが・・・


視界に明りはない


・・・。

まさか・・・。

キュピル
「目が・・見えなくなったのか・・・?」

更なる不安がキュピルを襲う。
ディバンは言っていた。・・・三途の川を通った者は事実上死人となると・・。
ということはつまり・・・今俺は死んでいる?死んでいるから徐々に体の機能が失われている?

・・・憶測が憶測を呼ぶ。そして悪い方向へ続いて行く。

キュピル
「死者は光ではなく闇を好む・・・。・・・こ、こんなところでくたばってたまるか・・!
・・・お、落ちつけ。ちょっと根拠のない推測をしちまったな・・・。これは何かの試練なのかもしれない。
落ちついて・・壁に手を当てて進んでいこう」

明りのない松明を前に突き出しながらゆっくり前に進んでいく。
・・・壁にぶつかった。まだ枝分かれしているようだ。

キュピル
「さっき俺は・・・。
・・・・あれ・・・どっちに行ったんだっけ・・・。」

左・・?右・・?
あれ・・・。

・・・。

キュピル
「もういい、適当だ。左!!」





歩き始めて二時間が経過した。
真っ暗な中を二時間も歩き続けると言うのはかなり酷な物だった。
今彷徨っているんじゃないのかっという錯覚に陥る。

・・・いや、錯覚じゃない。


事実かもしれない・・・・。



キュピル
「・・・・・・」

強いプレッシャーがキュピルを襲う。
喉も渇く。ポケットから水の入った瓶を取り出し飲む。
・・・中身は空になってしまった。
水を飲んで少しだけ心が落ちついた。

キュピル
「まだ慌てるような時じゃない・・・」




更に一時間が経過した。

さっきより松明の炎が小さくなっているような気がする。熱が小さい。

キュピル
「だめだ、これ以上松明の炎を消耗させるわけにはいかない・・・」

安全のためにつけていたが渋々炎を消す。
・・・・更に不安になった。

・・・・。

キュピル
「疲れた・・・。ちょっと休もう・・」

暗闇に閉じ込められてから既に三時間が経過している・・。
時間感覚さえも狂いだす・・・・。

・・・。

キュピル
「・・・ヘルや・・輝月達はどのくらいまで待ってくれるか・・・?」

考えてみればこの試練・・・。キュピルの中では一時間もあれば終わるかと思っていた。
ところが何処まで続くか分らない中で早くも三時間が経過してしまった。

更に帰り道さえも分らない・・・。

・・・・・。

もし・・・。

ディバンや輝月が俺が試練に失敗したと思い帰ってしまったら・・?
・・・帰る手段が完全になくなる。

・・・。

だめだ!俺にはこの通路を抜けられる気がしない!

キュピル
「一旦戻らないと・・・!」

戻ってもう一度態勢を整えてから行けばいい!
立ちあがり戻ろうとする、だが真っ暗でやはり道が分らない。
・・・。

キュピル
「・・今俺は戻ろうとしたのか・・・?」

・・・・。

あぁ、だめだ・・・。色々混乱している・・・。
光が全くなくなっただけでこうも不安になるなんて・・・。

孤独というのも身に染みる・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

キュピル
「・・・進もう。何故とりみだしてしまったんだ」

深呼吸し落ちつく。
再び前進を続ける。大丈夫だ・・・。ちゃんとこっちに進めば辿りつくはずだ・・。
まだ行き止まりに来ていない。

っということは絶対に進んでいるんだ・・・。

・・・それとも同じ所を行ったり来たりしている・・?

いや、それはない。絶対に進んでいるんだ!!!


自分にそう言い聞かせ恐怖を克服する

その瞬間風が吹いた。

キュピル
「・・・風?・・・向こうからだ・・!」

風の来る方向へ走りだす。
・・・ついにこの通路から抜け出せるか・・!!

走り続けていると突然足元が崩れ落下した。

キュピル
「うわっ!!!」

しまった、罠か・・!?

そのまま深い所まで落ちて行く。
何十秒かそのまま落下を続けて行くと柔らかい何かに落ちた。

キュピル
「ぐっ・・・。・・・助かったのか?」

クッションみたいなものがあった。・・・よかった・・・。

でも一体何があったんだ?
その時光が現れた。

キュピル
「うっ・・・」

久々に見た光に目が眩むが・・・よかった。光りだ・・・。
クッションとなった物を見る。

キュピル
「ル・・・ルイ・・・!!!」

ルイの死体が沢山ある。数え切れない。

キュピル
「な、なんだこれは。何でこんな所にルイの死体が・・・。いや、冷静になろう。
・・・これもまた偽物だ。魔力で作られたものだ・・・」

「違う」

後ろから声が聞こえた。振り返り懐中電灯を取り出しスイッチを入れる。
ちゃんと点いてくれた。

そこにはルイが立っていた。

ルイ
「偽物なんかじゃない。全て本物」
キュピル
「ルイ、どういうことだ。何故ここに」
ルイ
「キュピル・・・。私は貴方の記憶によって生み出された・・・。偽物なんかじゃない」
キュピル
「いや、偽物だ。俺の記憶によって作られたのなら間違いなく偽物じゃないか」
ルイ
「ならキュピルの記憶をもう一度呼び起こす?」

目の前に蝶の木が現れた。
俺とルイがいる・・・。

俺がルイを問い詰めている・・・。
ルイが困惑しきった顔で俺を見ている。

・・・。

今俺がルイのポケットから手紙を奪い返した。
取り返そうとしているが俺が制止させている。
そして一番よく覚えているシーンにやってきた。

ルイの告白を聞いてうろたえている俺がいた。
だがしばらくしてルイが後ろに後ずさりし始めた・・・。

その直後蝶の木から触手が伸びてきた。
その触手にルイが掴まりさらわれて行った。

何度思い返しても心が痛くなる・・・。

ルイ
「・・・キュピルが私の事を邪険に扱った事は一度や二度じゃない。
何時だってキュピルの事を心配していた。それなのに貴方は私を突き飛ばす・・・。
・・・もしあの時。貴方が不要な問い詰めをしなかったら?」
キュピル
「やめろ」
ルイ
「もしあの時。貴方が私に疑念を抱かなかったら?」
キュピル
「それ以上言うな」

ルイ
「もしあの時。貴方が蝶の木を前にして問い詰めなかったら?」
キュピル
「言うな!!」

キュピルが手で耳を塞ぐ。聞きたくない。
だが今度は直接頭の中に響いて来た。


『もしあの時。貴方が私の心配に気付いてくれたら?』





『もしあの時。貴方が私を受け入れてくれていたら?』





『きっと私は今もキュピルの傍に居たのに。』



キュピル
「・・・分かっている・・・わかっている・・・・つもりだ・・」

気がつけばルイじゃなくてダークルイになっていた。


ダークルイ
「・・人の心配を踏みにじって・・そして・・・人の気持ちを理解しないその心が・・。私をこんな姿にさせた
キュピル
「ルイ・・・ルイ・・!」
ダークルイ
「・・・泣いても遅い。もう全部・・間に合わない」

さっきキュピルのクッションとなったルイが全員起き上がった。だが全員ダークルイとなっている。

キュピル
「来るな・・。こっちに来るな!」

『もう後悔しても遅い。ここで永遠に後悔の念に抱かれて悶え死ね・・・』

ゆらゆらとダークルイが迫ってきている。

・・・だ、だめだ・・・。今ここで・・ダークルイを斬らないと・・・俺が死ぬ・・・!!!
相手はただの記憶じゃないか・・・記憶なのに・・・記憶なのに・・・!何追い詰められているんだ・・・!!

ダークルイが目の前まで迫ってきた。今ここで抜刀して居合い切りすれば確実に仕留められる。
・・・だが指がピクピク動くだけで抜刀しようとしない。

ダークルイがキュピルの肩に噛みつく。他のダークルイもキュピルの腕などに噛みついて来た。

キュピル
「ぐっ!!」

振りほどこうとする。だが離れない。

『私の痛み・・心の痛みは・・こんな比じゃない・・・。・・闇へ堕ちましょう。・・・さぁ』


ダークルイが一斉に手を差し伸べてきた。
手が勝手に差し伸べてきた手を握ろうとしている。

やめろ・・・握るな・・!握ったら間違いなく・・・後悔の念に抱かれて本当に死ぬぞ・・・!!!


死んだら・・死んだらどうするんだ・・・!!

ジェスターやファンを残して死ぬことになる!!
まだあの二人にしておきたい事を何もしていない!!

それに!!

記憶のルイに殺されたら!

本物のルイを救うことだって出来ない!!!


今ここで俺がもう一度立ちあがって前に進まなかったら!!記憶の宝珠を手に居れる事が出来なかったら!!
再びこの大陸で戦争が起きるかもしれない!そしたらまた俺みたいな人が・・次々と現れる!!

キュピルの手とダークルイの手が触れ合う。
そして手を握る。だが

渾身の力を込めてダークルイの手を潰す。
ダークルイが悲鳴をあげる。

キュピル
「俺は・・!!ここで死ねない!!今ここで死んだら自殺したのと同じだ!!
俺は絶対にルイを救う!!救わなければならない!!!
ここで偽物のルイに殺されたら本物のルイを救う事が出来なくなる!
俺はまだやらなければいけない事が沢山残っているんだ!!!!!」

キュピルが叫びながら剣を抜刀した。鞘に巻きつけられていた服の燃えカスが舞う。

キュピル
「うああああぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」



悲鳴に似た叫びをあげながらダークルイを次々に斬る。
斬られたダークルイはすぐに消えていなくなった。そして全員を斬りキュピルがもう一度叫んだ。

キュピル
後悔は忘れてはいけない、だが後悔に縛られてもいけない!!」


その瞬間暗闇から解放された。

最後にルイの声が聞こえた。



『ふふっ・・・それでこそキュピルさんです。・・・待っていますから』






キュピル
「ぐえっ!」

いきなり頬り出され地面に叩きつけられた。
・・・起き上がる。相変わらず真っ暗だが回りを照らすことはできるみたいだ。

刀をしまい再び松明に火をつける。すると目の前に謎の人物が立っていた。
首から上は鳥の頭をしている・・・。

キュピル
「誰だ」
鳥頭
「汝の勇気を問う。」

目の前に扉が現れた。
そして鳥頭の謎の人物は消えてしまった。

・・・なんだ・・この扉は・・・?

その時再び声が聞こえた。


『扉の先に記憶の宝珠がある。その手に記憶の宝珠を握りしめ絶対的な地位を主張したければ
その扉を潜れ。ただし、扉を潜った時。汝に呪いをかける


そこで声は途絶えた。


・・・・呪い・・・?

・・・。

だが・・・この扉を潜れば・・・ギーンが欲している記憶の宝珠が・・手に入る。
そしてそれと引き換えに・・時空の歪みを元に戻す技術も受け取る事が出来る・・・。

・・・だが・・

記憶の宝珠を手にした時のその呪いって・・・一体・・・何だ?



怖くて扉を開ける事が出来ない。
手が震えている。

呪い・・・。


・・・だがしかし・・・。


キュピルは他の人と比べてある一点だけは高かった。


その高い一点のおかげでここまでこれている。



キュピル
「俺は小さいころから恐怖を味わってきている。
それと同時に温もりも知っている。その異常な環境で育った俺はある一点にだけは自信がある。
それはな・・・。」

キュピルが扉のドアノブに手をかけ回した。


キュピル
「人を救おうとする勇気だ」






扉から光が溢れだしキュピルを包み込む。



白く輝く光の中にキュピルは立っていた。


先程の鳥頭がキュピルの元まで歩いて来た。



鳥頭
「恐怖、後悔を克服し勇気も重ね備えた人間よ。
汝に記憶の宝珠を授ける。」

鳥頭がキュピルのポケットに黄色い宝珠を突っ込む。

鳥頭
「汝はこれより、ラビラル島の長だ。・・・私は長い年月の間。ラビラル島の長をやってきた。
ついに私は解放されたのだ・・」



そういって鳥頭は昇天して行った。

そこで更に光が強まり・・・キュピルは意識を失った。








輝月
「・・・・もう待ち続けて12時間になる。・・・キュピル・・無事じゃろうか・・」
ヘル
「・・・流石の俺も心配になってきたな。ちっ、やはり俺がついていなければ・・!」

ヘルが再び川に飛び込み泳ぎ切ろうとした。が、例によって魚に喰われ慌てて戻ってきた。

輝月
「学習能力がないのぉ、お主は」
ヘル
「突き飛ばすぞ」

その時川から誰かが浮かんできた。
・・・・キュピルだ!!

輝月
「キュピル!」
ヘル
「師匠!」
テルミット
「キュピルさん!!」
琶月
「おー、戻ってきた」
ディバン
「引き上げるぞ」

危険を顧みずヘルとディバンが川の中に飛び込む。
魚に噛まれつつもキュピルを岸まで引き上げる。

ディバン
「おい、生きてるか」
キュピル
「・・・」

キュピルが無言でポケットから記憶の宝珠を取り出し見せつける。
そこでもう一度キュピルは気を失った。

輝月が記憶の宝珠を拾い上げる。

輝月
「・・・ディバンと言ったな?一つ相談があるのじゃが・・」









久々に夢を見た。

何だか懐かしい夢だ。


家にルイがいる。ジェスターもファンもいる。もちろん俺もいる。

・・・ヘル、テルミットもいる。
輝月と琶月もいる。

・・・皆いる・・・。


何だか幸せな夢だ。








キュピル
「・・・・はっ」
ジェスター
「じぃー」
キュピル
「・・・ジェスター?」
ジェスター
「あ、起きたー!起きたよ〜〜〜!!」

ジェスターが叫ぶ。ファンがすぐに部屋にやってきた。

ファン
「キュピルさん。指何本に見えますか?」
ジェスター
「ファン、指ないじゃんー」
ファン
「言わないでください!」
キュピル
「・・・0本って言えばいいのか1本って言えばいいのかわからないな・・」
ファン
「ギャグ飛ばせるぐらいなら大丈夫そうですね。心配しましたよ、一週間も眠り続けていました。
正直意識が戻るかどうか本当に微妙な線だったので・・・」
キュピル
「・・・そうか・・」

・・・ポケットに何か入っている。
記憶の宝珠だ・・・。

ジェスター
「その黄色いの何ー?」
キュピル
「秘密」
ジェスター
「えー!」

その時ヘルとテルミットが入ってきた。

ヘル
「キュピルさん起きましたか」
キュピル
「あぁ、起きた。・・・それよりここは・・自宅?どうやって戻ってきた?」
テルミット
「そりゃもう・・凄く大変でしたよ・・・。蜘蛛の巣窟の出来事より大変でした・・」

また誰か入ってきた。輝月と琶月だ。

輝月
「礼を言って欲しいものじゃな?ワシ等が通ったあの道までお主を背負って登ったのだからな」
ヘル
「おい、俺が巨剣に乗せてやったんだぞ。登ってないだろ!」
輝月
「黙れ」
キュピル
「二人ともありがとう」

キュピルがお礼を言うと喧嘩は止まった。

その時また誰か入ってきた。・・・ディバンだ。

キュピル
「・・・こんな事言うのも失礼ですが、まだいたんですか」
ディバン
「まだいたも何も俺はここのクエストショップの一員になったぞ」
キュピル
「・・・なにぃ!?」
ディバン
「俺もそろそろ歳だ。誰か頼れる相棒でも居ないとやっていけないんでな。」
輝月
「うぬ、ワシから提案してな。あのままでは恐らく記憶の宝珠はディバンの手に渡ると思ってな。
ワシの寛大な心がそれはあまりにも可哀相だと思ってどうにかしてお主の手に記憶の宝珠が
留まらないか考えてみたのだ。その結果ディバンを味方にするっということにしたのじゃ」
キュピル
「・・・まぁある意味新しい事業は開拓できたわけだ。トレジャーハンターっという事業を」
ディバン
「そういうわけだ。この歳で定職就くのもあれだが今後もよろしく頼む」

ディバンとキュピルが握手する。

ディバン
「記憶の宝珠はお前が持ってればいい。俺が持っていても仕方がない」
キュピル
「・・・ありがとう。」

記憶の宝珠をポケットにしまう。

キュピル
「・・・あぁー。頭が痛い。・・・もうちょっと寝てていいかな?」
ジェスター
「秘密のお菓子教えてくれたらいいよ〜」
キュピル
「・・・・テルミットか?」
テルミット
「ぼ、僕じゃありません!琶月さんが・・」
琶月
「あ!ちくった!!」
キュピル
「減給」
琶月
「ぎゃあああああ!!それだけはやめて!!」
キュピル
「浮いたお金はジェスターに回す」
ジェスター
「ほんと?わーい!」
琶月
「ひぃぃ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

キュピルの部屋で笑いが起きた。
その後、ファンが全員元の位置に戻るように指示し再び一人になった。

キュピル
「・・・今すぐギーンに記憶の宝珠を届けよう」

キュピルの部屋にある特殊ワープ装置機を起動させる。
最近は消音性に優れるから助かる。










ギーン
「ふん・・・」

トラバチェスに聳え立つ高い塔の天辺にある部屋で一人、王座に腰をかける。

ギーン
「(拠点を調査したが収穫が『そこに奴がいた事実』だけとはな・・・。
・・しっかり情報の死守はしているようだな)」

その時ミーアが王室に入ってきた。

ミーア
「ギーン。オルランヌが不穏な動きを見せている。
一部のマスメディアも気付いているようだ」
ギーン
「なに」

ギーンが王座から立ちあがり杖を魔法で引き寄せる。
そして何か魔法を詠唱すると目の前に魔法で作られたモニターが召喚された。

そこにはオルランヌの最前線が映し出されていた。

ギーン
「ちっ、思ったより早かったな。」
ミーア
「このままでは再び戦争状態に突入する。」
ギーン
「何か抑止力となるものはないものか・・・」

その時髪の長い男性が一人入ってきた。

髪の長い男性
「ギーン殿。アノマラドも軍備を整えているようです。
恐らくオルランヌの全面戦争に入る気かと思われます」
ギーン
「アノマラドは気付いていないのか。オルランヌが今狙っているのは我が国トラバチェスだということを」
髪の長い男性
「恐らく気付いていないと思われ。」
ギーン
「・・・ミーア。これが抑止力となるかもしれん」
ミーア
「・・アノマラドを利用するということか?」
ギーン
「アノマラドを後方から支援する。強大な軍事力を持った隣国が攻めてきたら流石のオルランヌも
迂闊にトラバチェスに攻めてこようとはしない。仮に攻めてきたとしても軍力は半分以下だ。」
髪の長い男性
「・・もう一つ報告があります。元トラバチェス首相がオルランヌに技術移転をする動向をキャッチしたようです。
代価はやはりトラバチェスの陥落かと」
ギーン
「何処までも繋がりを見せているなあのクソ野郎は・・。わかった、下がっていい」
髪の長い男性
「はっ」


ギーン
「・・・で、いつまでそこに隠れているつもりだ」
キュピル
「何だ、もうばれていたのか」

キュピルがカーテンの傍から現れた。

キュピル
「・・・やっぱりまた戦争は起きちまうのか?」
ギーン
「このままでは避けられないだろう。・・・ここまで来たということは手に入れたのか?」
キュピル
「お望み通り手に入れてきた」

キュピルがギーンに記憶の宝珠を渡す。

ギーン
「・・・相変わらず学校の成績以外は優秀だな、お前は。」
キュピル
「悪かったな!あれでも一応真面目に魔法の勉強してたんだ!」
ミーア
「・・・マイナーバーストの会得にいkk」
キュピル
「言わなくていい!」
ギーン
「何はともあれよくやった、キュピル。」
キュピル
「記憶の宝珠さえあれば戦争は止まるか?」
ギーン
「・・・間に合えばな」
キュピル
「間に合えば?」
ギーン
「伝書によれば記憶の宝珠はただ魔力を流せば良いというわけではないようだ。
・・・古の魔力を流さなければならない。今とは違う昔の魔力を作らなければ・・・」
キュピル
「それは難しいのか?」
ギーン
「ありとあらゆる伝書を調べているがまだ情報が掴めていない。」
ミーア
「恐らくこのペースでは開戦するのが先だろう」
キュピル
「・・・そいつは・・大変だ・・。」
ギーン
「キュピル。元トラバチェス首相・・いや、お前の場合は校長って言った方が分かりやすいか。
校長のいた拠点を調べたぞ」
キュピル
「どうだった?」
ギーン
「残念だが既に物の抜け殻だった。」
キュピル
「そうか・・」
ギーン
「拠点はまた探し直しだ。・・・だが一つ、不思議に思わないか?」
キュピル
「・・・何が?」
ギーン
「馬鹿が、察しが悪いな。お前が引き受けた依頼が校長に繋がっている事が多いと思わなかったか?」
キュピル
「・・・言われてみればそうだ。クラドの事件から始まって次はケルティカ・・・。そして記憶の宝珠・・。
考えてみればディバンが俺達の所に留まったっていうのも少し不思議な話だ・・・」
ミーア
「スパイか?」
ギーン
「・・・泳がせておけ。こっちで見張っててやる。お前が下手に動けば気付かれる可能性がある」
キュピル
「わかった。頼む」
ギーン
「また何かあったらお前を呼ぶ。」


そういってギーンが手を横に振った。その瞬間キュピルの足元にワープゲートが現れワープしていった。



ギーン
「・・・引き続き古の魔力について調べるとしよう」

ギーンが立ちあがり資料室へと足を運んだ。
刻一刻とタイムリミットが迫ってきている・・・。



続く



第十一話



記憶の宝珠を手に入れギーンに無事引き渡す事が出来た。
しかし色んな疑惑が残っている。

・・・でも調べようがないので結局いつもの生活に戻っていた。






輝月
「・・・・・・・」

自分の部屋で瞑想をする。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。



キュピル
「待て!ジェスター!その鍵を返せ!」
ジェスター
「わぁ〜〜〜〜〜!!」

廊下でキュピルとジェスターが追いかけっこをしている・・・。

キュピル
「返さないとおやつ抜きにするぞ!」
ジェスター
「これがあれば秘密のお菓子取れるからいいもん!」
キュピル
「なら飯も抜きだ!」
ジェスター
「お菓子をご飯にする!」
キュピル
「これは酷い」


輝月
「・・・集中できぬ・・・」

雑念が入り気がつけばあれこれ考えている・・・。
我慢の限界なので文句を言いに行く。


輝月
「お主等!ここで騒ぐな!瞑想の邪魔じゃ!」
ジェスター
「え〜」
キュピル
「チャンス!」
ジェスター
「ぎゃぁぁ!!」

ジェスターが輝月の方に振りかえった瞬間にキュピルが飛びかかり鍵を強引に奪う。

ジェスター
「あっ!!返して!!」
キュピル
「元々俺のだ!」
輝月
「・・・話聞いておるのか!」

輝月がドンと壁を叩く。ジェスターがビクッと驚く。
・・・なんかいつもより機嫌が悪いようだが・・・。


キュピル
「輝月、真の瞑想というのは周りがどれだけ騒ごうか邪魔してこようが一切集中を切らすことなく
続けて行くのが本当の瞑想だ。これで瞑想の邪魔をしたと言うなら謝るが瞑想のレベルとしてはまだまだだ」
輝月
「っ・・・・」

輝月が一瞬険しい表情をしたが正論だっため何も言わずすぐに自分の部屋に戻った。
・・・そして再びベッドの上に座る。



輝月
「・・・やれやれ、私とした者がどうしたことか・・・。」

・・・・。少し頭を冷やす。
再びベッドの上で瞑想を続ける。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

一時間ほど経過しそろそろ切り上げようと思ったその時、ノックがかかった。

輝月
「誰じゃ?」
琶月
「私です。入ってもよろしいですか?」
輝月
「うぬ、参れ」

扉を開けて輝月の部屋の中に入る。

輝月
「どうした?」
琶月
「あのー・・。何かヘルさんとキュピルさん、物凄く特訓しているようですが・・」
輝月
「・・・・・」
琶月
「・・・師匠、大丈夫ですか?少し顔色が・・」
輝月
「心配せんでよい。向こうがいくら練習を積もうと私には勝てぬ」
琶月
「だといいんですけど・・・」




キュピル
「ヘルは心身ともにかなり出来あがっている。そんなヘルには少し荒技を教えたいと思う」
ヘル
「流石師匠。俺の事をよく分かっています」
キュピル
「正直ヘルには丁寧な技より豪快な技や荒い技を教えた方が上手く活用してくれると思う。
俺が扱うととんでもない事が起きるから絶対に使わないんだがヘルなら使えるはずだ。
ヘル、確か気を発散させて周囲の者を吹き飛ばす技を覚えていたな?」
ヘル
「覚えています」
キュピル
「その上位互換の技だ。とりあえず気を発散させてみてくれ」
ヘル
「わかりました」

ヘルが集中し剣を地面に突き刺し思いっきり叫ぶ。
怒声と共に気を発散させ周囲の物を吹き飛ばした。

ヘル
「こんな感じですか?」
キュピル
「その気を爆発させて威力をあげよう」
ヘル
「気を爆発・・・しかしどうすれば?」
キュピル
「当然俺は出来ないんだがこの前文献を読んでいたら面白い事が書いてあった。
どうやら気は引火するらしいぞ」
ヘル
「・・引火ですか」
キュピル
「元々火属性の技に優れるヘルだ。すぐ扱いこなせるはずだ。やってみ。」
ヘル
「わかりました」





輝月
「・・・修行しているようじゃな」

輝月が窓から覗いて二人の様子をうかがう。
・・・今ヘルの気に巻き込まれてキュピルが吹き飛んでいた。
そのまま海に落ちてしまった。
・・・何か色々叫んでいるが無視しよう。



キュピル
「あああ!しまった!!依頼書が!!」
ヘル
「こんなに強い技になるとは!」
キュピル
「やばい。しかもこれ期限近い。俺は一旦これで失礼するから今日の試合頑張れよ。
今までの内容を思い出して戦えば輝月に勝てるはずだから」
ヘル
「わかりました。頑張ります」
キュピル
「そいじゃ依頼こなしてくるよ。」



・・・二人は去ったようだ。


無視しようと心に決めていたのに気がつけば話を盗み聞きした自分がいる。


輝月
「・・・私に勝てるはず・・じゃと?」

・・・・。

心が揺らぐ。








キュピル
「ふぅ、やっと依頼達成したぞー・・・。」

キュピルが時刻を確認する。もう夜の8時だ。

キュピル
「すっかり暗くなってしまった。今頃ヘルと輝月が対戦しているんじゃないのかな・・・」

ヘルがどうしても輝月に勝ちたいと言うので一応弟子なので戦いの秘訣を教えて
色んな技を共に編み出したり教えたりした。

キュピル
「不思議だよなぁー。教えるとつい勝ってほしいって思いたくなる。公平公平っと・・」

ひとり言を言いながらクエストショップに帰還する。






==思った事を呟く道場


ヘル
「今日の俺はいつもと違うぜ!」
輝月
「またワシに立ち向かうか。」
ヘル
「甘い!最近の俺はハードな訓練を続けてきた!それに加えテルミット、キュピルさん、いや師匠に
技を色々教えてもらった!今日こそ輝月、お前を倒す!」
輝月
「随分目の敵にされてるようじゃな。よかろう、じゃが何が起きても文句はなしだ」

そういって輝月が刀を抜刀した。ヘルも巨剣を構える。

テルミット
「二人とも頑張ってください。」
ジェスター
「わくわく、どきどき!」
琶月
「師匠絶対に負けないでください!」

ヘルが輝月に突進した!

輝月
「また突進か。」
ヘル
「うおおぉぉっ!」

ヘルが思いっきり輝月に向けて巨剣を振りかざす。
しかし避けられただけではなくヘルの真後ろに回った。
輝月がヘルに向けて刀を振ろうとしたその瞬間。ヘルが巨剣を地面に突き刺し魔力を送って爆発させた!
新技に輝月がビックリし回避できずに直撃する。
後ろに輝月が吹っ飛んだ所をヘルが高速で接近し輝月の首根っこを掴む。

輝月
「っ・・!」

輝月を蹴りあげ空中に浮き上がらせる。態勢が整う前にヘルが魔法の靴で高くジャンプする。
そして巨剣で輝月をめった切りにする!

輝月
「お主、その振りの大きさは命取りじゃぞ」

大きく振りかぶった巨剣を刀で受け止める。そして受け止めた衝撃で後ろに飛びヘルと距離を離す。

ヘル
「にがさねぇ!」

ヘルが空中で巨剣を投げつける。
輝月が着地したのと同時に巨剣が輝月の胸目掛けて突き刺さる!

琶月
「ひぃっ!」
輝月
「甘い!」

輝月の分身だったらしく本物は途中で先に着地していたようだ。
ヘルが地面に降りてきた瞬間輝月が刀を構えてヘルに飛びかかった!

輝月
「五花月光斬!!」
ヘル
「うおぉぉぉぉっっっ!!!」
輝月
「!」

ヘルが思いっきり叫び気を爆発させる。
輝月が接近した瞬間にその爆発に巻き込まれ後ろに吹き飛ばされる。

輝月
「ぬぅ、接近できぬか・・。訓練は伊達じゃなかったということか」
ヘル
「当たり前だ!」

ヘルが再び巨剣を輝月に投げる!
だが輝月はその攻撃を避ける。・・・が、避けたと思った瞬間巨剣が爆発した!
爆風は回避したものの何と巨剣そのものがバラバラになり破片が輝月に突き刺さる!
足にささり輝月の俊敏性が激減する。

輝月
「なにっ・・!」
ヘル
「うおおぉぉっっ!!」
輝月
「!!」

ヘルが再び輝月に接近し馬鹿力で輝月の頭をぶん殴る!
刀で受け止めようとしたが力勝負になると完全に輝月が負ける。
早いがかなり重たいパンチを連続で繰り出し
最後にヘルが輝月を再び蹴りあげて空中に浮かす。
そしてヘルが高くジャンプして輝月の首根っこを再び掴む。

ヘル
「終わりだ!」
輝月
「ぐぅっ!!」

輝月が暴れる。だがしっかり抑えつけられている。
ヘルの手に魔力が宿る。輝月を下にして勢いよく畳の上に落下し地面とぶつかった瞬間爆発し
強烈な一撃を輝月に与えた。それと同時にその爆発にヘルが巻き込まれ遠くに吹き飛ぶ。
煙が一気に広がった。

テルミット
「ヘルさん!室内だから程ほどにしてください!」
ヘル
「あぁ」
琶月
「し、師匠・・・」
ジェスター
「窓オープン!」

ジェスターが窓を次々と開けて煙を外に逃がす。
・・・風が吹いて煙が外に出て行く。

視界がはっきりすると畳の上に輝月が倒れていた。ダメージのでかさに動けないらしい・・・。

ヘル
「へっ、俺の勝ちだな!!」
輝月
「ま・・・まさ・・か・・。この・・私が・・・!一度も・・攻撃できずに負けた・・・!?」
ヘル
「子供、しかもひ弱な女に負ける訳には行かねーんだよ!」
輝月
「っ・・・!!!」

輝月が眼孔を見開き血走った目でヘルを睨みつける。

輝月
「・・愚弄したな・・!!!」
ヘル
「まだやる気か?また負けるぜ?」
輝月
「っ・・・!」

輝月が怒りに震えている。
しかし輝月も引き際は心得ている。・・・確かに今勝負してもこのありさまでは・・・。
・・・だが・・・。

テルミット
「ヘルさん。・・・とりあえず戻りましょう」
ヘル
「あぁ、そうだな。やっと借りが返せたぜ。」

ヘルとテルミットが道場から出て行こうとした、その時。

輝月
「・・・ククク、ハハハハハハッ!!!!」
ヘル
「!?」
テルミット
「!?」

全員驚き輝月に振りかえる。
傷だらけなのに立ちあがっている。
その様子を見た琶月がハッと我に帰り輝月を抑え始めた。

琶月
「ダメです!師匠!!落ちついてください!」

琶月が必死に制止させようとするが狂ったようにもがき琶月を振りほどく。

琶月
「うっ!」
輝月
「・・・貴様・・・」

輝月が異様なオーラーを出しながらヘルにじわりじわり接近する。
強力なプレッシャーに圧倒され一瞬ヘルとテルミットは動けなくなったがすぐに我に振りかえった。

ヘル
「な、なんだ!やる気か!?」
テルミット
「輝月さんから異常なオーラーを感じます・・・。ヘル、ここは退いてキュピルさんに頼った方がいいかもしれません」
ヘル
「・・いや、キュピルさんの手を煩わせる程の事じゃない。今度こそ倒して気絶させる」

ヘルがバラバラになった巨剣を魔力で修復する。元通りになった巨剣を構えて輝月に接近する。
その時、輝月が何かを投げつけてきた。

ヘル
「ぐわっ!な、何だ!前が・・!!」

どうやらインクを投げつけてきたようだ・・・。一時的に暗闇に包まれて前が見えない。

ヘル
「こ、この!卑怯だぞ!!」
輝月
「死ね!」

輝月が怒り狂って刀を振ってきた!流石に視界がはっきりとしない状況では危険だ。
・・・本気で殺しにかかってきている。
琶月がもう一度飛びかかる。

琶月
「ダメです!師匠!!!落ちついてください!!ジェスターも手伝って!」
ジェスター
「輝月らしくないよ!わああああ!!」

二人がかりで抑えてやっと動きを止めることができた。

琶月
「テルミットさん!師匠に影縫いを!」
テルミット
「わかりました・・」

テルミットが矢を構え輝月に影を射ぬく。影を射ぬかれ輝月の動きが止まる。

テルミット
「・・・ヘル、今度こそキュピルさんを呼ぼう」
ヘル
「・・・あぁ・・」

ヘルが目を必死に拭いている。・・・それでも取れないらしい。
そして二人は居なくなった。


琶月
「し、師匠・・・・師匠・・・うぅ・・。」

琶月が泣き崩れる。

ジェスター
「・・・はい、救急箱。」

ジェスターが輝月に救急箱を差し出す。

輝月
「・・・」

輝月がボロボロの状態で立ち上がる。そして影に刺さっている矢を引っこ抜きジェスターの肩を押す。

ジェスター
「ぎゃ。・・・あー!人の親切を踏みにじった〜!」
輝月
「黙れ!」
ジェスター
「うっ・・・。・・・ぐすん・・・。」

輝月がジェスターを怒鳴った。今度はジェスターが泣き始めた。

ジェスター
「怖いよー!!わーーん!!」
琶月
「あわわ・・・。えーっとえーっと・・。と、とりあえず私もキュピルさん呼んでこようっと・・・」

琶月が道場から居なくなる。そして輝月も道場から出て行った・・・。






キュピル
「ただいま」
テルミット
「キュピルさん!す、少し問題が・・・」
ヘル
「輝月の野郎め・・・。俺が快勝したら逆切れしやがった」
キュピル
「ヘル、その目はどうした。」
ヘル
「あの野郎、勝負が終わった後インクを投げつけてきやがった!まだ前が見えねぇ・・・」
キュピル
「ファンに頼んでキュアをかけてもらってよく洗うといい。・・・しかしそれはまた輝月らしくないな」

その時琶月が入ってきた。

琶月
「あ、キュピルさん!・・・えっと、その・・。ジェスターさんが・・・泣いてます」
キュピル
「なんだって」

キュピルが急いでジェスターの元まで行く。





ジェスター
「ぐすん・・・」

キュピルに背中をさすってもらうジェスター。
さすっている間琶月から出来事を聞く。

キュピル
「そんなことがあったのか。うーむ、前々からヘルが輝月の事を目の敵にしていたのを知っていたが・・。
・・ちょっとヘルの肩を持ちすぎたか・・?流石に度が過ぎちまったな・・・。
・・・だが輝月の言動も少し気になる。感情に若干乏しい輝月があそこまで怒り狂うとはな・・」
琶月
「・・私どうすればいいでしょうか・・」

普段琶月はキュピルの事を邪険に扱うがやはりこう言う時は頼りになると分かっているらしい。

キュピル
「とりあえず後で俺が輝月の所に行ってくるよ。」
琶月
「お願いします・・」
キュピル
「ジェスター、落ちついたか?」
ジェスター
「うん・・。」
キュピル
「ちょっと輝月の所に行ってくる。少し昼寝するといいよ」
ジェスター
「もう夜だよ」
キュピル
「なら、歯磨いて早く寝て」

そういってキュピルが道場から出て行った。
さて、輝月を探さないと・・・。


クエストショップには当然いなかった。ヘルとテルミットもいないし
輝月の部屋を訪ねてみたけどいない。

キュピル
「(輝月は今怪我を負ってボロボロのはずだ。遠くにはいないはず・・・)」
ディバン
「キュピル、輝月に用があるのか?」
キュピル
「ディバンか。・・その巨大な荷物は?」
ディバン
「一応俺は元住んでいた家があるからな。そっちから荷物を持ってきた」
キュピル
「引っ越しか。輝月の居場所知っているのか?」
ディバン
「砂浜にいたぞ。・・・怪我負っていたが何かあったのか?」
キュピル
「ちょっとな」
ディバン
「男が『ちょっとな』って使うときは大抵でかい事がある」

流石ディバン。・・・長年生きていることだけあってか読心に長けている

キュピル
「それなら訂正・・・。ちょいとね」
ディバン
「ちょいとじゃしょうがないな。」

あまり触れてほしくないと遠まわしに言いその場を後にする

・・・ディバンの言う通り砂浜に輝月がいた。
あちこちから血が流れて傷だらけだ。傍から見れば不審者・・・。

キュピル
「輝月、治療しないと後が辛いぞ」
輝月
「・・・痛みには慣れておる」
キュピル
「はいはい、やせ我慢やせ我慢」

そういってキュピルが消毒液と包帯を取り出す。

輝月
「お主に治療されなくても自ら出来る」

立ち上がり呪文を唱える。前にも見たことある。確か陣という名前の呪文だったか。
輝月が刀を振って陣を発動させる。
緑色の光が輝月を包む。・・・だが完全には回復しなかったようだ。

輝月
「・・・呪文の威力も落ちてきたか・・・。・・・一体私はどうしたというのだ・・」
キュピル
「単純に疲れてるんじゃないのかな。ほら、包帯巻くぞ」

輝月の抵抗を振り切ってキュピルが包帯を巻く。

キュピル
「出血多量はあまり舐めないほうがいい。代償が大きいからな。
それにその和服に血が付いて台無しだ。血は洗っても流せないぞ」
輝月
「替えの服はいくらでもある」
キュピル
「全く、強情だな」

腕と足の治療は完了した。
・・・後は背中なんだが・・・。

キュピル
「背中は戻ったら自分でやってくれ」
輝月
「何故だ?」
キュピル
「何故って・・・。女だからじゃないか。流石に外で・・ましてや男の俺がやったらマズイだろう」
輝月
「・・・何故この世は女と男で差があるのだろうか・・・。」
キュピル
「む」
輝月
「・・・何でもない。」
キュピル
「・・・何かありそうだな。話しを聞いてみてもいいか?」
輝月
「・・・お主に話した所で何になる」
キュピル
「いや・・まぁ・・しかし・・」
輝月
「・・・一人にさせてくれんか?今日は私が惨めに見えるのだ・・」
キュピル
「・・・・」

こうなってしまってはもうだめだ。
治療箱だけ置いてその場を去った。





==クエストショップ

琶月
「あの・・・。師匠どうでしたか・・・?」
キュピル
「うぅーむ。ちょっと閉じこもっちまった。しばらく戻って来ないかもしれない」
琶月
「・・・はぁ・・。やっぱり師匠まだ気にしてるんですね・・・」
キュピル
「琶月。さっき輝月から少し気になる話を聞いたんだが・・」
琶月
「・・・もしかして女と男での差・・・のことですか?」
キュピル
「それ。・・・何か知ってそうだな。輝月のためにも少し話を聞いてもいいか?」
琶月
「わかりました。・・・まだ師匠が三代目と名乗る前の頃の話です・・・。

師匠が12歳だった頃、羅月と名乗る男が道場を構えていました。道場を築いた一代目当主です。
その羅月様の娘が輝月・・師匠です。そしてもう一人、羅月様には息子もいました。
その息子の名前は霞月(かつき)。師匠と同い年・・12歳です。

羅月様の実力は誰もが恐れました・・。羅月様の言った事は絶対です。
その羅月様の娘として産まれた師匠はその類稀なる才能でその若さから強者達を打ち破っていきました。
私もその頃の師匠と戦った事があったのですがたったの一合で負けてしまいました・・・。
一方、息子霞月は才能に恵まれていなく師匠と比べると弱者でした。
一応門下生には勝つ程度の力はあるのですがやはり総合的に見ると親の七光りって感じでした・・・。

ある時羅月様が言いました。『私も歳だ。そろそろこの道場を子に引き継がなければならぬ』っと・・・。
私は師匠が選ばれる・・っと思ったのですが・・・。二代目当主に選ばれたのは霞月様でした。

当然師匠は猛抗議しました。『何故あのような弱者が選ばれて私が選ばれないのだ!』っと・・。
羅月様は言いました。
『今は輝月の方が強いかもしれない。だが後々霞月の方が強くなる。・・・何故かって?輝月、お前が女だからだ。』

あの時の会話はよく覚えています・・・。師匠は狂ったように笑いました。
『あの霞月が私に敵うはずがなかろう!クククク・・・』

・・・ですが羅月様の言うとおりでした。
師匠が15歳になり霞月様も15になった時。・・体格の違いが起きました。
霞月様の体格は当然大きくなり力も師匠より強くなって行きました。
子供のころはあんなに弱かったのに、師匠より修行量は少ないのに。『男』という利点のおかげで
少しの修行で見る見る霞月様は力をつけていきました。
もちろん霞月様も羅月様の血を引いているということもあって単純に『男』だったからすぐに力がついた
っというわけではなかったと思いますが・・・。逆に『男』であり尚且つ血を引いていたから
急速に力をつけたって考え方はできると思います。

当然師匠は焦りました。まだギリギリ霞月には勝てる実力を持ち得ていたのですがこのままでは
いつか負ける日が来てしまう・・っと。ですがいくら修行を積んでも一向に力は強くなっていきませんでした・・。
理由は簡単です。『女』だったからです。男と比べて女は力がつきにくい・・・。筋肉は当然つきにくいですし
何よりも女の特徴である胸や脂肪がとにかく邪魔だったみたいです・・・。
特に脂肪は師匠にとってかなり厄介だったみたいです・・・。体に何の役にも立たない重りがついているのと
同然と師匠は言っていましたから・・・。
霞月様の三倍修行してようやく霞月様と同等になる程度でした。

そして羅月様が老死する一か月前。羅月様は二人に言いました。
『輝月、霞月。最後に私の前で戦え。そして勝った者に我が刀を授けよう』っと・・。

二人は急激に焦り始めました。名刀が欲しかったというのもありますが・・・。
実は師匠の一族にはあるしきたりがありました・・。

それは親が死ぬ一か月前、『自らの子同士を闘わせる』。
一見ただの戦いに見えるかもしれませんがこの勝負はどちらかが死ぬまで続きます。
・・そして負けた者は術によって勝った者の力となり存在ごと消えてしまいます。

試合前日まで二人とも激しい修行を積み重ねていきました。
そして二人は門下生に囲まれながら羅月様の前で戦いました・・・。

・・・・結果は師匠の惨敗でした。
師匠は霞月様相手に力で勝負したのが失敗でした・・・。技術も師匠と同じレベルまで既に成長してましたので・・。
単純に師匠は戦法を誤ったのだと思います・・・。

霞月様は言いました。

『女が男に勝てるはずがない。恨むなら自分を恨め』

・・・初めて霞月様に負けてしまった時の師匠の顔は・・今も忘れられません・・・。

その時師匠の中できっと何かが弾けたんだと思います。

突然狂いだし笑いながら羅月様を刀で刺し殺しました。
それを見て霞月様は驚愕しました。・・羅月様の力が師匠に移ったのです。
一族同士がトドメを刺した時、力が移る。子同士の戦いだけでなく親と子にも適応されたのです。

突然霞月様の何十倍も強くなった師匠が霞月の前に立ちはだかりました。
そして霞月様は無残な死を遂げました・・・・。

自分の親を殺してまで負けたくなかったその執念・・。それとも師匠は死にたくなかったから親を殺してでも
生き延びたかったのでしょうか・・・。・・・それとも・・道連れに・・・。
発狂した師匠の姿を見た門下生は当然師匠と距離を置くようになりました。

・・・ともあれ・・輝月様は三代目当主になりました。
他に当主になる者が当然いませんでしたから。
圧倒的な力を身に付けた師匠の元にはその力を伝授してもらうべく門下生が沢山集まりました。
もちろんその集まった門下生達は何が起きたのかは知りません。

・・・ですが驚くべき事が起きたのです。

少しずつ・・・ですが。師匠から力が失せていったのです。
その圧倒的な力は何十時間も毎日修行を積み重ねていって初めて保持できる力でした。
・・もちろん師匠は何十時間も毎日修行を続けて行きました。ですが力は徐々に消えて行ったのです。
ここでもまた・・師匠の前で性別が立ちはだかりました・・・。男なら保持できるのですが女では・・・。

そして二年が経過し師匠は17歳になりました。
・・・圧倒的な力をつけたあのころを比べると師匠は非常に弱くなりました。
失せて行くその力に師匠は焦り・・・考えられない事に、もし過去の師匠と戦わせたら
過去の師匠が勝つかもしれません・・・。
力を失った当主の元に残る門下生は殆どいませんでした。・・・残ったのは私と数人の門下生のみです。

女は男に勝てない・・・。その言葉を振り払うかのように師匠は毎日修行を続けて行きました。
・・・それなのにまだ力は抜けて行く・・・。その時キュピルさん達の噂が入りこんできたのです。
そしてキュピルさんと戦い今に至るわけです・・・。」


しばらく沈黙が続いた後、琶月が再び口を開いた。



琶月
「師匠は男と女の差に強いコンプレックスを持っています・・・。
力だけじゃなく、女だからという理由で物事が進まなくなったという事も数多くありましたから・・・」

キュピルが少し考えた後答えた。

キュピル
「琶月。輝月が俺の所に残った理由はやはり・・・」
琶月
「恐らく・・キュピルさんの力が知りたいんだと思います。
・・・師匠は一応口では男女関係ないと思っているようなので・・・。」
キュピル
「・・・琶月はどう思う?」
琶月
「え?」
キュピル
「女は男に勝てない、ということ」
琶月
「・・・私は・・・。・・・すごく・・悔しいですけど・・・。
武術では女は男に勝てないと思います・・。ヘルと比べるとやはり凄くわかるのですが・・・。
師匠はヘル以上に修行を重ねています。それなのにヘルと比べて凄くかよわい見た目をしています。
いえ・・・女の限界なんだと思います・・。」

キュピル
「確かに魔法や知力云々の世界と違って武術は圧倒的に男の方が有利だ。
とにかく力がつきやすい。一見これは克服できる問題に見えるかもしれないがこの差は大きい。
例えば足の筋肉だ。この筋肉が少ない女性は瞬発力が衰える。
腕の筋肉なら力がない。それに女性はさっき琶月が言ったように自分の体内に宿る子を守るための脂肪がつく。
・・・体格だけで結論を言えばやはり男性の方が圧倒的に武術に向いている。」

琶月
「・・・やっぱり・・そうですよね・・」
キュピル
「だが琶月。現状では仮に輝月が男だったとしてもヘルにも負けるし更に腕はドンドン錆ついていくぞ。」
琶月
「・・・原因が分かってるみたいですね・・・。何ですか?」
キュピル
「一番要因として響いているのが心だ」
琶月
「心・・?」
キュピル
「理由は簡単だ。力が消えて行くその焦りに心が負けてしまっている。
だから正しい判断が下しにくくなっているんだ。
輝月にはもっと柔軟が考えが必要だ、それに克服する手段はかなりある。」
琶月
「・・・それは例えば?」
キュピル
「戦いは力技だけじゃない。テクニックだって重要だし頭の回転の速さも必要だ。
輝月は今ひたすら基礎能力だけを鍛えている。・・・はっきり言って輝月の基礎能力はもう出来あがっているはずだ。
基礎能力をこれ以上延ばすのではなく別の部分を伸ばしたほうがいい。
・・・琶月。15歳の輝月と比べて更に磨きのかかった技はあるか?」
琶月
「・・・術は更に上達していると思います。・・というか・・力以外はむしろ磨きがかかっていると思います。
・・・最近術の能力も落ちているみたいですけど・・」
キュピル
「輝月は決して弱くなっていない。むしろ強くなっている。
・・・だが何処かで力が消失したように見えて前が見えなくなりそしてスランプに陥る。
その結果、あたかも力が消失したかのように見える。この負の連鎖がまた焦りを呼んで輝月を弱くしている。
その事を輝月に分らせないといけない。もう一度輝月の元に行ってくる」
琶月
「あ、あの!」
キュピル
「何だ?」
琶月
「・・・師匠の事、よろしくお願いします・・・。きっと・・私では解決できません・・」

キュピルがグッと親指をたてて砂浜に向かった。



男と女の力の差か・・・。
そんなこと、一回も考えた事はなかった。

・・・現に俺より強い女の人は多い。
その人ともちろん力勝負すれば勝ちやすいのは確かだ。

結局は力なんかじゃない。前が見えているかどうか。

何度やられても立ち上がることのできる心・・・。





キュピル
「輝月」
輝月
「・・・またお主か。一人にしろと言ったはずじゃぞ?」
キュピル
「とりあえず、このタオルで前は隠しておけ。背中に包帯を巻く」
輝月
「・・・・」
キュピル
「それ以上出血すると命に関わる。それに男女関係ないって自分で言ったろ」
輝月
「・・・琶月から聞いたのか?」
キュピル
「悪いが全部聞いた。」
輝月
「人の過去をやすやすと話しおって・・・。・・・お主は私を恐れているか?」
キュピル
「逆に問う。輝月、何に恐れている。恐れるものは何もないはずだ」
輝月
「・・・お主に分るか?この屈辱・・恐怖・・怒り!自分が自分でなくなっていくこの感触!!
・・・力だけが消えて行くと思っておった・・。だが今、術の効果まではっきりと落ちているではないか・・・。」
キュピル
「輝月。約束しよう」
輝月
「・・約束じゃと?」
キュピル
「今から俺は輝月の背中に包帯を巻く。巻いている間輝月は深呼吸して気持ちを落ちつかせる。
深呼吸してる間は何も考えずに景色を見てるんだ。
そして気持ちが落ちついたら陣を使ってみろ。ほら、タオル」
輝月
「サラシぐらい巻いておる。」

輝月が黙って和服を脱いだ。・・・かなりキツメにサラシを巻いているようだ。
キュピルが消毒液で消毒してから背中に包帯を巻き始めた。
・・・傷は思ったより深かった。
和服の背中にあてがっていた部分は血でべっとり汚れていた。

・・・あと数十分止血が遅れていたら大変なことになっていたかもしれない。

キュピル
「(本当にやせ我慢が得意だな・・輝月)」

巻き終わるのに20分ほどかかった。

キュピル
「終わった。落ちついたか?」

輝月が和服を着直しながら答えた

輝月
「・・・何も考えずに、ただ景色を見ていたのは何年ぶりじゃろうか・・・」
キュピル
「夜のナルビクの海はいいだろ?俺も落ち込んだりもうだめだと思った時はいつもこの海を見ている」
輝月
「ほぉ、お主でも落ち込む事はあるのか?」
キュピル
「こう見えても結構ナイーブだ。落ち込みやすい」
輝月
「・・・ふっ、意外じゃのぉ。・・どれ、お主に言われた通り。陣を使ってみようか」

輝月が立ち上がり呪文を唱える。そして刀を一振りして陣を唱えた。
さっきと比べて強く光っていて眩しい程だった。

輝月
「・・・呪文の効果が上がった・・・。どういうことだ?」
キュピル
「呪文や魔法の効果は精神力に大きく左右される。心が揺さぶられている状態だとその威力は半減だ。
・・・輝月。武術も同じだ。心が揺さぶられていて前が見えない状態だと力はいつもの半分になるぞ」
輝月
「・・・・・」
キュピル
「明日の朝、道場に来てくれ。効率のいい修行方法を考えよう。
今の輝月はもう基礎体力は出来あがっているはずだ。・・技を教える、それで強くなれるはずだ。」

輝月が振り返りキュピルの襟首を掴んだ。

キュピル
「っ!?」
輝月
「頼む、今すぐ教えてくれ・・!!
・・・悔しいのだ・・。あんな奴に負けた事が・・!!一度勝てた相手に負けたことが屈辱でならんのだ!!」
キュピル
「ヘルには教えてやれなかったが・・・。その感情がダメなんだ、輝月」

キュピルが輝月の手を取って離した。

キュピル
「いいか?絶対に人を見下すような心をもっちゃだめだ。思っても心にしまわずすぐに捨てろ。
その感情は人を弱くする。」
輝月
「・・・しかし・・!」

いつもの口調を変えて涙目になりながら懇願する。

キュピル
「・・・難しいよな。いきなりこんな事言われたって普通誰も分らない。
正しい心ってのは本来誰かが優しく接してくれた時、正しい心が見えてくるんだ。
・・・でも最近の人達は誰かに対して優しくしようとしない。その結果他の人も誰かに対して優しくならない。
こういう連鎖のせいで今は誰かに優しくするってのは少なくなってしまった」
輝月
「うっ・・くっ・・・」

輝月が泣き始めた。

キュピル
「・・・琶月が心配していたぞ。たまには琶月に優しくしたらどうだ?
きっと琶月も輝月に優しくしてくれる。・・・輝月には大切な仲間がいるじゃないか」
輝月
「・・・お主は・・・キュピルは・・・・・・」

その時冷たい風が吹いた。
・・・季節の変わり目だ。

キュピル
「・・・もうすぐ秋が始まるな。寒くなってきた、戻ろう」

泣きじゃくる輝月の肩を押して家に戻る。
とりあえずクエストショップの方の裏口ではなく自宅の入り口から入って少し落ちついてから部屋に帰らせよう。

家に入る前に輝月が立ち止った。

キュピル
「どうした?」
輝月
「・・・一つだけ教えて欲しい。・・・真の強者とは何なのだ・・・?
本当はお主は知っておるのだろう?」
キュピル
「知っている。でも今言っても輝月には分らないかもしれない」
輝月
「言ってくれ!」
キュピル
「『強い』、だよ」

そういって家の扉を開けた。
家に帰るとファンとジェスターがいた。
ジェスターが空気を呼んで暖かいミルクを用意してくれた。

キュピル
「落ちついたら部屋に戻りな」
輝月
「・・・かたじけない」


ジェスター
「キュピルー。今日ちょっと寒いね」
キュピル
「そうだな。季節の変わり目って少しナイーブになるよな」
ジェスター
「・・・何か久しぶりに昔のキュピルに会ったって感じがするー」
キュピル
「昔の俺って一体どんな俺なんだろうね」
ジェスター
「口調が優しかった!」
キュピル
「・・・悪かったな」
ジェスター
「あー、今のキュピルに戻った」

数分後、輝月は全員に礼を言うと部屋に戻って行った。

ファン
「何かあったみたいですね」
キュピル
「もう大丈夫だよ。きっと上手く行く」
ファン
「キュピルさんがそう言うのであればもう大丈夫ですね」
キュピル
「根拠が分らん」


・・・そして全員寝る支度をしベッドに入って寝付いた・・・。




・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。


ガンガン


キュピル
「・・・・・」


ガンガンガンガンガン


キュピル
「誰だよ!こんな深夜に!マキシミンだったらぶっ飛ばす!

勢いよく窓をあけて殴る準備をする。が、窓の向こうに居たのは輝月だった。

キュピル
「うっ・・」

振りあげて拳をすぐに降ろす。

キュピル
「何だ、輝月か・・。てっきり俺の腐れ縁の知り合いかと思った・・。部屋に戻ったんじゃなかったのか?」
輝月
「・・・何故いつも通り私と接することができる」
キュピル
「?」
輝月
「・・・私の過去を聞いた者は少なからず態度が変動した。・・・恐れを抱いてな。」
キュピル
「別に恐れるような話は何もなかったと思うが・・」

また輝月がキュピルの襟首を掴む。

輝月
「ワシは・・!!私は!!自分の親を殺したのだ!!
自分が消える事を恐れ生きのびるために殺し・・。霞月を無残な殺し方を・・・してしまった・・・。
・・・ヘルに負けた時・・・。過去の記憶が蘇って再び我を見失ってしまった・・。」
キュピル
「間違っていたと思っているか?」
輝月
「・・・怖いのだ・・・。・・・死が・・・。死から逃れるためにもしかすると私は・・力を欲していたのかもしれぬ・・」

表では万能で既に悟りを開いていて賢人のように見える輝月。
だが本当はまだ17歳・・・。子供だ。・・・怖くて当然だ。

キュピル
「死が怖くない人が居たらそいつは精神が狂っている。・・・輝月。
親殺しの罪は確かに重いかもしれない。他人に知られたら輝月が怖く見えて誰も近寄らなくなるかもしれない。
・・・だけどよかった。」
輝月
「・・・よかった?」
キュピル
「たまにいるんだ。こんな事を思う人が。
『一度やっちまったものはしょうがない。忘れてこれからは前を見てちゃんと生きていけよ』って。
・・・俺は逆だと思うんだ。悔いは永遠に心の中に残しておかなければいけない。
そしてそれを糧にして生きて行く。・・・忘れたらまた繰り返しだからな。
輝月がやってしまったことをちゃんと覚えていてそれをずっと悔い続けていたってことを知って今安心した。
だけど輝月。さっき永遠に心の中に残しておかなければいけないと言ったが常にそれを思い出す必要はない。
・・・時々でいい。例えば寝る時や風呂入ってる時とかな。その一分の間だけでいい。ずっと思いだしていたら
逆に疲れるだろ?」
輝月
「・・・私はどうすれば・・・」
キュピル
「自分で考えなって言いたいが流石にそれは辛すぎるな。ヒントだけあげよう。
・・・輝月、今日はちゃんと琶月に優しくしてやれたか?」
輝月
「・・・突然優しくなったワシを見て気持ち悪がると思ったが・・。
・・・奴は素直じゃった」
キュピル
「それがヒントだ。後は自分で考えな」
輝月
「最後に聞かせて欲しい。・・・何故お主は私を恐れぬ?それだけが不思議なのだ。
ましてや・・・何故お主は・・色んな事を知っている」
キュピル
「・・・難しい質問だな・・・。俺自身よくわからない。何で恐れを抱かないんだろうね。」
輝月
「・・・お主のその眼。・・・決意と覚悟に満ち溢れておるぞ。・・・何を思っている」

・・・・・。

輝月に言われて初めて気がついた。

・・・そうか・・・。気が付いたら俺は覚悟を決めていたのか。

人生に覚悟を決めて生き続けるとは何とも奇妙なものだ・・・。

キュピル
「言われて初めて気がついた。俺も人生が怖いよ」

そう言って窓を閉めようとした時輝月が止めた。

輝月
「何の覚悟を決めておる」
キュピル
「プライバシー」

そういって今度こそ窓を閉めようとした。・・・が、全力で閉めようとしているが輝月も全力で止めるものだから
全く閉まらない。次第に疲れて観念した。

キュピル
「ぜぇ・・。なんだ、力が抜けて行くとか行っておきながら全然力あるじゃないか・・って・・」

よくみたら窓枠に刀が挟まっていた。・・・・これは酷い。

輝月
「死をも恐れぬその覚悟。・・・ますますお主に興味が湧いたぞ。・・・明日の朝、
寝坊せずちゃんと道場に来るのだぞ」
キュピル
「何という上から目線。大丈夫、寝坊しない」

そう言うと輝月は刀を仕舞った。今度こそ窓を閉め・・・ようと思ったら輝月が話しかけてきた。

輝月
「キュピル。・・・私はまだここに居てもよいか?」
キュピル
「どういうことだ?」
輝月
「・・・一時的に我を見失い・・そして発狂した私を見て皆h・・」

輝月が喋ってる最中キュピルが遮った。

キュピル
「ナルビクじゃよくある事。・・・ただ一応ヘルには謝っておくといい。プライドが邪魔するかもしれないが
さっき俺の言った心の修行だと思えばいい」

まだ輝月が何か話しかけようとしてきたがここで窓を閉め鍵も閉めた。
少し一度に話しすぎた。出来れば一つずつ確実に理解させてから次を教えたい。


しかし・・・・

・・・覚悟か・・・。


この覚悟はきっと今の世界から決別するための覚悟なんだろうな・・・。

・・・改めて考えてみるとまるで俺はこの世界に居ちゃいけない存在かのように考えている。


・・・・


キュピル
「(・・・あぁ、辛い・・。・・・辛いが・・・・。・・・時空の狭間に閉じ込められたあいつの方がもっと辛いだろうな・・)」















==早朝・思った事を呟く道場


キュピル
「来たか。おはよう」
輝月
「うぬ、おはよう」
琶月
「おはようございます!」
キュピル
「おや、琶月も来たのか」
琶月
「一応せっかくですからテルミットさんぐらいには勝とうかなーって・・・」
キュピル
「・・・テルミット強いぞ?ヘルより」
琶月
「えっ!!」
キュピル
「ヘルと比べてかなり冷静に物事見るからな・・・。さて、さっそく修行しよう。
もう二人は自覚してるから分ると思うけど絶対に力で勝負してはいけない。相手も女性だったらともかく
男の人に力で勝負したらちゃんと修行してる人が相手だと力負けする」
輝月
「・・・ぬぅ」
琶月
「やっぱりそうですよね・・・」
キュピル
「そこ二人!落ち込まない!その落ち込む心が人を弱くする!
だからこの力不足を他でカバーすればいいだけの話じゃないか。
・・・俺もそこそこ力あるつもりなんだけどやっぱり本当に力ある人と力勝負したら負けちまう」
輝月
「ほぉ、まぁお主のような細い腕じゃ当然じゃな?」
キュピル
「・・・悪かったな。試しに腕相撲してみるか?」
輝月
「・・・」
キュピル
「今勝てるかどうか不安になったか?なーに、まずは当たってみようぜ。この心が大切。」
輝月
「そこまで言うのであればやってみよう。・・・手加減なしで頼むぞ?」
キュピル
「こい」

琶月が合図して二人とも一斉に力を込める。・・・拮抗してる。

キュピル
「ぬぐぐぐ・・・!!うおぉー!」
輝月
「どうした?それがお主の本気か?」
キュピル
「いっ!?」

突然輝月の力が強くなった。

キュピル
「げぇっ!本気じゃなかったのか!」
輝月
「ククク・・・」
キュピル
「だが腕相撲にはテクニックというものがあるのだよ・・」
輝月
「・・っ!」

キュピルが突然力を強めたり弱めたり手首の向きを変えるなどをしてきた。
始めは力押しで輝月の勝ちになるかと思ったが最終的にキュピルがテクニック勝ちした。

輝月
「ぬぅ・・・。そんな技があるとは思わなかったぞ」
キュピル
「戦いも腕相撲と同じだ。力だけが全てじゃない。テクニックや呪文、魔法で他をカバーする事が大事だ。
・・特にヘルみたいな武力馬鹿・・って言ったら流石に可哀相だけど武力一点で押し切ろうとする人は
力さえ抑えてしまえば実はあっさり倒せる」
輝月
「心得ていたはずなのだが・・・。ふむ・・。」
キュピル
「ま、さっそく基礎のトレーニングから始めよう。琶月も容赦なしにビシビシしごいていくぞー」
琶月
「は、はいぃぃ!」





ヘル
「・・・あの二人。朝から疲れているようだが何かあったか?」
テルミット
「さぁ・・。昨日の戦いの疲れでしょうか?」



机の上でグッタリと倒れている輝月と琶月がいた・・。
何故かキュピルも居眠りしている。

ファン
「(お疲れ様です、コーヒー置いておきますよ)」
キュピル
「(ありがとう・・・zzz・・・・)」






ジェスター
「えいっ!ていっ!わぁーー!!」
琶月
「ひぃいっ!」
キュピル
「うーむ、琶月はどうもパニックになりやすいなぁ。そこを克服しないと向上が見込みにくいな」
琶月
「うぅぅ・・」
キュピル
「でも逆に言えばそれを克服すれば一気に伸びる。とりあえず冷静に物事を判断してみようか。うおりゃ!」
琶月
「わっ!い、いきなりボールを投げないでよ!・・あ、つい私語が・・。」
キュピル
「よく避けれたな。この繰り返しだこんちくしょう!」
琶月
「途中からストレス発散に変わっていませんか!?」





輝月
「はぁっ!」
キュピル
「うおっ!」
輝月
「トドメじゃ!!」
キュピル
「ヤケクソ!」

キュピルが輝月にタックルする。
・・しかし簡単に避けられ後ろを取られてしまった。

輝月
「私のペースに持ち込んでしまえば後は容易い」
キュピル
「・・・果たしてそれはどうだろうか・・」
輝月
「・・・?・・・!!」

輝月の足元に罠が仕掛けられていた。
粘着性の強いガムテープが張られていた。

輝月
「何故だ・・!ワシがこの場所に着地するのを読んだというのか!?」
キュピル
「どうも輝月は敵の攻撃を回避した後は敵の背中を取る癖がある。」
輝月
「敵の背を取る事は基本中の基本じゃが?」
キュピル
「そうなんだが仮に相手が輝月の事を良く知る相手だったらどうなる?
後ろに回り込んでくるってすぐ読まれてしまう。今みたいにね。
それに初めて戦う相手でも同じ行動を何度も繰り返したら看破されやすくなる。
なるべく違う行動をかき混ぜながら戦うといい」
輝月
「・・・わかった。・・・それより・・お主。このガムテープなんとかしてくれぬか?動けないのだが」
キュピル
「・・・やべ、ファンー!俺この外し方分らん!」
輝月
「(何処か抜けておるな・・・)」」






ファン
「輝月さんの戦闘パターンをデーターにしてみました。」
キュピル
「・・・こうやってみると結構変わった戦い方しているよな。カウンター型?」
ファン
「そうですね。自分からはあまり仕掛けないタイプです」
琶月
「大技には五花月光斬しかないみたいですけど・・・。分身とか術は?」
ファン
「あれはどちらかというと大技には値しないので・・」
輝月
「・・キュピルよ、お主はワシの戦闘データーを見てどう思う?」
キュピル
「少し決定力不足だと言わざるをえない。カウンターだけに頼らず自ら攻める力も少しつけたほうがいい。
輝月、確か一閃を覚えていたよな?」
輝月
「覚えておるぞ。・・あの技を会得するには労がいたぞ」
キュピル
「俺の一閃と輝月の一閃は技が大分似ているが本質が大分違う。
輝月の一閃は瞬時に相手を斬る瞬間技。それに対し俺の一閃は重力や勢いに身を任せて
強烈な一撃を与える強打技。この二つの利点を取っていけば新しい一閃が開発できるんじゃないのか?」
輝月
「・・・ではお主の技から教えてもらおうか」
キュピル
「後で輝月のその一閃も教えてくれ」


輝月
「一閃!!」
ファン
「行動数値67です。・・隙が少し大きいです」
キュピル
「やはり威力をあげるとどうしても隙が大きくなるよなぁ・・・。隙を少なくしつつ威力をあげるにはどうすればいいか・・」
琶月
「・・・師匠の五花月光斬と組み合わせたらどう?」
キュピル
「・・・組み合わせる?」
琶月
「師匠の五花月光斬は敵を一時的に拘束させて一気に斬る技ですからその拘束部分をチョイスするってのは
どうでしょうか?」
キュピル
「・・・なるほど。・・・しかしそれだと月光一閃って感じな技になるな。
それに拘束まで成功させたなら態々一閃を使わず普通に月光斬放った方が・・強いような・・」
琶月
「・・・で、ですよね・・・」
輝月
「・・・案外そうでもないかもしれぬぞ。お主等の会話を聞いて一つ閃いたぞ」
キュピル
「ほぉ、さっそくやってくれ」
ファン
「いつでも数値測れます」

輝月が一閃を繰り出す。
・・・案山子を斬る時一度に五回斬っている!

キュピル
「おぉ、攻撃部分を五花月光斬と組み合わせたか」
ファン
「数値32です。隙が激減しました。威力も上昇しています・・けど輝月さん。
手首きつくないですか?」
輝月
「連発は無理じゃな。鍛えればいけるかもしれぬが・・。欠点として
拘束させずに攻撃するから命中率が低いことじゃろうか?」
キュピル
「うーむ、最終的に俺には扱えない技になってしまった・・・。魔法でも術でも何でもいい。
俺に教えてくれー!」
輝月
「お主なら教えてやらんでもないが?」
キュピル
「・・・素質0なんだがいいか?」
輝月
「・・・素質0なら諦めるべきじゃな」
キュピル
「ちくしょうめー!」








キュピル
「ぜぇ・・・ぜぇ・・」
輝月
「くっ・・はぁ・・・」
キュピル
「戦いは・・・ぜぇ・・・。長期戦になればなるほど・・・はぁ・・・。
お互いの・・げほっげほっ・・・。思考能力が落ちる・・・。大技は基本的にこの段階まで来ると・・
でないって思った方がいい。ぜぇ・・。喋るのも辛いんだが・・」
輝月
「はぁ・・・お、お主・・。ならばこの時・・はぁ・・どうすればよいのだ・・。」

キュピルが深呼吸してとりあえず息を整える

キュピル
「ふぅ・・・。とりあえず敵より早く回復する事が大切だ。こうなるとトドメ指す事もままならない。
怪我を負ってしまった時も出来れば攻めの手を休んで回復することに専念したほうがいい。
・・・ちなみに俺は自然回復力は物凄く高いぞ。スタミナも体力もすぐ回復する」
ジェスター
「キュピルは凄い大けが負っても一日寝るとすぐ治っちゃう!」
輝月
「・・・お主は妖怪か何かの類か?」
キュピル
「悪かったな・・・」
ジェスター
「なりかけた時もあったけどね〜」
キュピル
「懐かしいな。幽霊刀の件か?」
輝月
「なにっ、幽霊刀じゃと!?」
キュピル
「なんだ、知ってるのか。まぁ刀だし知ってるのも不思議じゃないか」
輝月
「お主、その刀は今でも持っておるのか!?」
キュピル
「いや、元ある島に返した。あれは人が手に負えるものじゃない」
輝月
「・・・惜しいことしたの、お主は」
キュピル
「はてさて・・・あんな辛い思いをしてまで強い力を手に入れたいだろうか・・・。
少なくとも俺はただの一般人でありつづけたいね」

キュピルが笑いながら答える。輝月が不思議そうな顔をする。

輝月
「何故力を求めぬ?力こそが全てだというこの世の中だぞ」
キュピル
「力ってのは必要悪だよ。今日のトレーニングはここまで。ジェスター、風呂沸かしてあるか?」
ジェスター
「うん!・・・・あ!でも洗うの忘れた!!」
キュピル
「ぐおおぉぉぉ!!洗ってない風呂は超ぬるぬるするから嫌なんだ!!」
琶月
「シャワーにすればいいじゃないですか・・」

輝月
「・・・必要悪・・か。」











キュピル
「これより模擬戦を始める!これまでの修行を思い出して戦うんだ。
負けたら基本的にヘルにも勝てないと思っていい」
輝月
「中々厳しいの?」
キュピル
「まぁ、何気にヘルは相当強いからな。さぁ、かかってこい!」

二人とも武器を抜刀し戦闘を開始する。

輝月
「お主と試合をするのはあの日以来じゃな」
キュピル
「無駄口叩いてるとまたやられるぞ」

キュピルが挑発をかける。輝月がそれに一瞬ムッとしたのか余分な行動を起こした。

キュピル
「隙あり!」
輝月
「っ!」

キュピルが空いた左手で輝月の頬をビンタする。この攻撃によって再び輝月が怯んだ。

輝月
「くっ!」
キュピル
「うおりゃっ!」

輝月が体勢を崩した状態で刀を突き出してきた!しかしキュピルがしゃがんで回避する

キュピル
「必殺、コークスクリューアッパー!」

ボクシング技で思いっきり輝月の顎を殴る。
輝月が宙に浮き浮いた所を更に蹴りで壁に吹き飛ばす。

キュピル
「どうした輝月!こんなものじゃないだろ!」
輝月
「うぬ、その通りじゃ」
キュピル
「!」

上から声がした。慌てて上を見上げると輝月が刀を下に向けてキュピル目掛けて落下してきた!
見上げた瞬間刀が胸に突き刺さりキュピルが後ろに倒れる。

輝月
「お主のあの技を真似させてもらったぞ」

輝月が刀をグリグリと回す。
キュピルが右手で畳をバンバンと叩いて降参と告げる。

輝月
「なんじゃ、試合が始まって一分しか経っておらんぞ」
キュピル
「し、死んだら意味が・・・。」

ジェスターが治療箱を持ってきた。・・・これはちょっと模擬戦にしては痛すぎるダメージを受けた。

キュピル
「・・・術の威力あがったな」
輝月
「しかし・・・ワシもまだまだ未熟のようじゃ。お主の挑発に乗っかってしまい危機を招いてしもうた」
キュピル
「これもテクニックの一つだ。・・マキシミンっていう知り合いがいるんだがそいつはとにかく挑発の達人だ。
戦いは力だけじゃなくこういう精神面も攻撃したりする方法あるっていうことを覚えておいてくれ。
・・・しかし・・痛い・・・」






==夜


ファン
「キュピルさん、手紙が届いていますよ」
キュピル
「ん、手紙?」
ファン
「置いときますね」

装飾の施された手紙を受け取る。
・・・ティルからだ。

封を開けて誰にも読まれないようにこっそり読む。
・・・手紙だけではなく魔道石も入っていた。

『キュピルへ

ごめん、ちょっと複雑な出来事が起きちゃった・・・。
ルルアちゃんと一緒にキュピルを迎えようと思ったんだけど出来なくなっちゃったから先に言っておくね。ごめん。
それとキュピルを元の世界に戻すには私達の力が必要なんだけどちゃんとした魔術が整わない場所に行くから
この魔道石をキュピルに渡しておくよ。その魔道石に元の世界に戻るように祈れば勝手に始動して
キュピルを元の世界に戻してあげる事ができるよ。用事が済んだらそれ使って戻ってきてね。

・・・それとシルクの件なんだけど・・・。
まだ連絡つかなくて・・・。正直あんな奴の事だから絶対どっかで生きているのは分るんだけど・・。
・・・。とにかく出来るだけ早く戻ってきて。』


キュピル
「(これに祈ればいいのか・・・)」

・・・ジェスターがこっそり手に入れてしまったら一番困るので・・。
常に身肌離さず持っていよう。

・・・。

キュピル
「(・・・しかし・・・。使ったらこっちの世界にもう二度と戻れなくなるかもしれない・・か・・・)」

・・・・・・・・。

キュピルの中で様々な優先順位が揺らぐ・・・

キュピル
「・・いかんいかん、とりあえず今日は輝月にボロ負けして治療してたから全然デスクワークが終わっていない。
片付けておかないと」

ペンを取り出して書類に向き合ってひたすら文字を書き始めた。





それから数日後・・・




キュピル
「zzz・・・zzz・・・」
ヘル
「キュピルさん、最近輝月と特訓しているらしいな」
キュピル
「はっ」

まだ営業中だと言うのに思わず机の上で寝てしまった。
ヘルに話しかけられて起きる。

ヘル
「俺より強くなりそうか?」
キュピル
「輝月の心持次第。もし雑念がずっと入っているんだったら難しいかもしれないな」
ヘル
「雑念・・か」

その時琶月とファンが慌てて入ってきた。

琶月
「た、た、た、大変です!!!」
ファン
「困った事が起きました!!!!」
キュピル
「一体どうした、二人とも慌てて」
琶月
「あrjほさfほさhふぃおさfほ;あ!!!!」
キュピル
「落ちつけ、ちゃんとした言葉で喋れ」

琶月は全くあてにならないのでファンに尋ねる。

ファン
「依頼を達成しようとコンテナ型拠点に乗り込み僕と輝月さんと琶月さんとディバンさんとジェスターさんで
遠くの場所でアイテム収集を行いに行ったのですが・・・!突然コンテナ型拠点がどこからか遠隔操作を受け
全く意図していない場所に飛ばされました!!」
キュピル
「場所は!?」
ファン
「オルランヌです!」
キュピル
「なんだって・・!!」

遠隔操作を受け・・・オルランヌに飛ばされた・・。

・・・・。

これはヤバイことになったかもしれない。

キュピル
「ファンと琶月はどうやって脱出した?」
ファン
「一応緊急脱出装置を使ってナルビクに戻りました。
・・・僕と琶月さんは辛うじて逃げれたのですが・・・三人はボタンを押しても反応しなかったらしく・・・
それで・・」
キュピル
「ヘル!テルミット!今すぐチームを編成し援軍しに行く!」
テルミット
「分かりました!!」
キュピル
「必要な装備を今すぐ整え承諾中の依頼は全て中断して輝月達を救出する!
・・・また奴が絡んだ可能性が高い。ファン、ギーンと連絡を取ってくれ」
ファン
「・・・!・・分かりました!」

キュピル
「くそっ・・・よりによってオルランヌか・・・。」

すぐに全員支度を整えてキュピルの前に集まった。
その直後キュピルの後方から強い魔法の光が現れた。
魔法の光からギーンが現れた。

ギーン
「キュピル、話は聞いたぞ。・・・奴か?」
キュピル
「限りなくブラックに近い。遠隔操作を受け尚且つオルランヌに飛ばされた。これだけで相当臭う。
更に二人だけあえて逃がしている。・・・どうだ?」
ギーン
「追う価値はあるな。今すぐテレポートを発動させるぞ!近寄れ!」
琶月
「あの・・・この人誰ですか?」

テルミットが何処かで見た事あるような顔をしている・・・って顔している。その後


テルミット
「ああああぁぁぁぁぁ!!!!
トラバチェスの現国王です!!!!」


ヘル
「・・・なんだって!!?」
琶月
「ひぃぃぃ!!!そ、そんな偉い人と知り合いなんですか!!?」
ギーン
「馬鹿どもが!今はそんなことはどうでもいい!行くぞ!」

いつもの毒舌を吐きつつテレポートポータルを開く。

ギーン
「コンテナ型拠点が飛んだ場所付近へ通じている。行くぞ」
キュピル
「行こう!」

キュピルとギーンが真っ先に入り続いてファンが入った。
ヘルとテルミットが顔を見合わせた後勇気を振り絞って中に飛び込み最後に琶月が文句言いながら飛び込んだ。









==????


校長
「・・・流石はキュピル。即座にギーンも呼んできたか。
むしろお前に感謝したいところだ。・・・キュピル、貴様を骨の髄まで利用してやる・・・。」







キュピル
「っと・・!」

空中に降ろされ地面の上に着地する。・・・ここは?
何処かの施設内らしいが・・・。

目の前にコンテナ型拠点がある。
すぐにコンテナ型拠点の中に入り輝月とジェスターとディバンがいないか調べる。
だが既にものの抜け殻だった。

ギーン
「こいつがお前の言っていたコンテナ型拠点か?」
キュピル
「そうだ」
ギーン
「・・・こいつは後で調査する必要がある。お前の話を聞いているとこいつは少し臭う」
琶月
「え?これ臭いですか?」
ギーン
「・・・馬鹿が」

聞かれないように小さく呟く。

キュピル
「・・・以前ケルティカの近くにあったあの拠点と似ている」

ギーンがこの部屋にある機材を調べる。
ファンは既に情報端末を見つけこの拠点について調べているようだ。
ヘルとテルミットは近くに敵が居ないか警戒している。

ギーン
「・・・この紋章・・。旧トラバチェスの紋章の物だ。間違いなくここは奴の拠点だ」
キュピル
「・・・ってことはダークルイもここに・・」

・・・何としてでもこの拠点を潰さねば・・・。

ギーン
「ファン。お前の事だから既に何か情報は掴めたか?」
ファン
「はい。この部屋については大方分りました。ここはターミナルみたいです。
ここからたくさんの人が魔法を使って様々な場所に移動できるみたいです。」

その時マナがあるマス目の上に集約されていった。

ヘル
「誰か来る!」
テルミット
「隠れましょう!」

全員コンテナ型拠点の中に入り様子をうかがう。
しばらくすると強そうな兵士が現れ奥の扉に向かって歩いて行った。

ギーン
「・・・かなり人通りの多い場所にきたようだな」
キュピル
「このコンテナ型拠点が何故遠隔操作されたのか・・調べないと・・・」
ギーン
「キュピル。このコンテナ型拠点は作ったものか?」
キュピル
「いや、クラドの一件の依頼を達成した時に報酬として貰った」
ギーン
「誰から?」
キュピル
「・・・」

そういえば・・・・彼等はどこ所属だったんだ?



キュピル
「・・・・所属不明。アノマラド政府・・・だったかのような気もするが・・」
ギーン
「紋章は見たか?」
ファン
「・・・そういえば紋章はつけていませんでした」
ギーン
「クソが・・。確認すればよかったものを・・」
キュピル
「相変わらず口が悪い!よくそれで国王務められるものだ!」
ギーン
「国王に向かってそんな口答え出来るお前も当てはまる」
キュピル
「制圧したトラバチェスで国王名乗るとか考えてみればお前は相当荒技使ったもんだ・・」
ギーン
「選挙制度のないトラバチェスに感謝する」

二人ともニヤニヤし互いに茶化しあっている。
その様子を見たヘルや琶月達は困惑している。

キュピル
「閑話休題、このコンテナは・・・奴らが作ったものだと考えていいのか?」
ファン
「・・・そういえば以前・・。輝月さんがルイさんみたいになりかけた時・・。
ジェスターさんがカプセルがすり替えられていたって話していましたね・・」
キュピル
「落書きがなくなったって話のあれか?」
ギーン
「いつの話だ」
キュピル
「ケルティカでの任務を遂行していた時の話だ」
ギーン
「おい、ケルティカで防衛兵長に会ったか?」
キュピル
「会った。というよりその人が依頼主だ」
ギーン
「そいつは校長が拠点を移転した時と同時に別の町へ移転した。
・・・そいつに限らず半分ほどが別の街へ移転した記録が残っている」
キュピル
「・・・・まさか?」
ギーン
「校長の手の者だった可能性が高い」
キュピル
「・・・まさか・・俺達のクエストショップ・・。」
ファン
「利用されていた可能性が高い・・っということですか?」
ギーン
「俺の読み通りだな。奴はお前の実力をよく知っている。もしおまえがクエストショップを立ち上げれば
奴は間違いなくお前を利用すると睨んだ。・・・そしてその通りになったが・・・。
・・・ミスを犯したのは利用された事に気付いた時期が遅かったということだ」
キュピル
「もっと密に連絡を取り合うべきだった」

その時テルミットが話しかけてきた。

テルミット
「・・・キュピルさん。申し訳ないのですが・・・僕達には話が全然見えません」

確かに彼等には話が全く見えないだろう・・・。

キュピル
「・・・戻ったら全部話そう。今はかなり危険な場所に潜りこんでいるという事実だけ頭に入れて貰いたい。
ランクSSに見合う難易度だ」
ヘル
「・・・わかりました」
琶月
「師匠を絶対に救います・・」

ファンが窓から外を覗く。・・・誰もいないようだ。

ファン
「マナの力も感じません。当分来ないと思います」
キュピル
「よし、行こう。入口は・・三つあるようだがどれを使う?」
ギーン
「ふん」

ギーンが魔法を唱え三つの白い光を生み出した。
そしてその白い光を透明化させると壁をすり抜けさせて入口を偵察させにいった。

ギーン
「・・・・。北西にある入口を使おう。二つの扉は人が多い」
キュピル
「わかった。行こう」
ヘル
「待て」

ヘルが呼び止める。

ヘル
「・・・そのトラバチェス国王の実力はどのくらいだ。死なせる訳にはいかないんだろ?」
キュピル
「ギーンの実力はヘルと輝月を足したぐらいの強さかな」

それを聞いてヘルとテルミットと琶月が目を見開く。

テルミット
「・・・そ、それなら安心ですね」
ギーン
「行くぞ、もたもたしてると誰か来る」

姿勢を低くしてスムーズに北西の入り口へ移動する。
北西の通路に入りギーンが少し離れた扉まで先導した。

扉の中に入ると監視室らしい部屋に来た。
兵士がいたのだが何故か全員気絶している。

ヘル
「・・・何故気絶している?」
ギーン
「先程の偵察させにいった白い光を爆発させ気絶させた」
キュピル
「万能だな・・」
ファン
「この監視室からこの施設の構造を見る事が出来そうです」
キュピル
「よし、調べよう」

ギーンが端末差し込み口に手を触れ魔法を唱えた。
・・・何も起きない。

キュピル
「何を唱えたんだ?」
ギーン
「コンピューターウィルスだ。ワームを送り込みデーターをトラバチェスへ送っている。」
キュピル
「魔法の域を超えて、もはや科学だな・・・」
ファン
「・・・ギ、ギーンさん!コンピューターウィルス発覚されていますよ!アラート宣言が下されています!」
ギーン
「なに。・・・奴は俺の魔導識別を既に知っていたのか」
ヘル
「・・・見つかっているのか?警報音も何も聞こえないが」
テルミット
「恐らくばれている事を悟らせないためだと思います」
キュピル
「しょうがない、テルミット。エスケープでこの部屋から移動しよう」
テルミット
「何処に出るか分りませんが大丈夫ですか?」
キュピル
「俺達の運を信じよう」
ファン
「ある程度の構造は把握できたので移動しても大丈夫です」
テルミット
「皆さん近寄ってください」

テルミットがエスケープを唱えようとした瞬間外の通路で人が集まる音が聞こえた。
扉が開いたのと同時にエスケープが発動し発見されるまえに移動した。


兵士
「・・・誰もいないぞ」
兵士2
「外部からのコンピューターウィルスか?」




エスケープが発動した次の瞬間には別の部屋に居た。
暗くてジメジメとした嫌な通路だ・・・。

ヘル
「・・・建設途中の通路のようだ」
琶月
「凄く蒸し暑いです・・・。ここから早く出たい・・・」
キュピル
「向こうは行き止まりのようだ。こっちだ」

穴の中を移動すると途中から舗装された通路に変わりさっきの通路と似たような場所に出た。
・・・正確には違うのだけれども。

キュピル
「闇雲に歩いているだけじゃ果てしなく効率が悪い。何とか目的地までの道のりが分かればいいんだが・・」
ファン
「さっき構造を調べた時牢獄と生命研究室の場所は頭の中に入れてありますよ」
ギーン
「どこだ。生命研究室に俺は用がある」
ファン
「生命研究室は地下二階の一番南西の所にあるようです。
牢獄は地下三階の厳重な扉が目印です。・・ちなみにスタート地点のコンテナ型拠点は地下一階です」
テルミット
「僕達は牢獄に用がありますから・・・」
キュピル
「・・・俺とギーンは生命研究室に行く。皆はジェスターと輝月とディバンを助けてやってくれ。
連絡は魔法でギーンに送ってくれ。ギーンも送り返す魔法を知っている」

テルミットが頷く。

ヘル
「ここが何階なのか知りたい」
ファン
「・・・ちょっとわからないです。ちなみに階層は全部で6つありました。地上から地下五階までです。」
キュピル
「・・・さっきの工事場所。妙に下に続いていた気がする。もしかしてここは地下五階か?」
ギーン
「断言はできない。・・・各自調べて動けばいい」
キュピル
「・・・そうだな。皆気をつけてくれ」
琶月
「キュピルさんも気をつけてください・・」

前だったら心配すらされなかっただろうが今は琶月も心配してくれている。
輝月の一件が効いたのだろうか。

ギーン
「キュピル。テレポートでもう一度コンテナ型拠点の所に戻るぞ。」
キュピル
「分かった」

二人はテレポートで一旦地下一階へ移動した・・・。

テルミット
「僕達はテレポートが使えないので地道に探して行きましょう。もしかするとここが地下三階かもしれませんから」
ヘル
「そうだな。・・・それより国王がいきなりやってくるとは・・・。ファン、キュピルさん・・いや師匠はどういう人なんだ?」
ファン
「実はギーンさんとはアノマラド魔法大立学校の同級生仲間です。最初は敵対視されていたんですが
今は見ての通りです」
琶月
「媚売っておけば何か良い事起きるかな・・・。」
ヘル
「媚売りは自分の師匠にしておけ」
琶月
「師匠には媚売っていません!誠意とまg・・」

全部聞き終わる前に全員移動を始めた。・・・琶月ががっくり項垂れる。





一旦コンテナ型拠点に戻ったキュピルとギーン。
が、拠点に戻った瞬間人の気配がした。

ギーン
「(誰かいるぞ)」
キュピル
「(任せてくれ)」

キュピルがゆっくり接近し勝手にくつろいでる敵兵士目掛けて剣を振り下ろした。
一撃で仕留める。

ギーン
「手慣れているな」
キュピル
「・・・今じゃ人を殺すことに全く抵抗を持たなくなってしまった。」
ギーン
「ふん、良心でも痛むのか?」
キュピル
「・・それは考えたくない。今は全部ルイの仇打ちだと思っている」
ギーン
「もう俺達の手は汚れている。今ここで俺達で食い止めて戦争を終わらせるか、それとも
逃げて手を汚す人を増やすか?」
キュピル
「分かっている」

適度な所で話を切り上げ移動を開始する。

ギーン
「待て、キュピル」
キュピル
「何だ?」
ギーン
「このコンテナ型拠点からマナを全て吸収する。長期戦に備えてな」

ギーンがワープ装置機からマナを全て吸収する。
・・・吸収されたことによってワープ装置機のシステムがダウンした。ファンが来ないともう動かないだろう・・。

ギーン
「・・・想像していたより莫大な量のマナだ・・・。これは全て保持しきれないな。強力な魔法を使わせてもらおう」

ギーンがキュピルに近づくと魔法を唱える。一瞬時空が揺れ気がつけばギーンが半透明色になった。
・・・よくみると自分もだ。

ギーン
「透明になる魔法だ。この装置のマナのおかげで長持ちするはずだ。」
キュピル
「何分くらい?」
ギーン
「10分だな」
キュピル
「確かに長持ちだ。」

確かここから一個下に降りて南西に向かった所に生命研究室がある・・と言っていたな・・・。
キュピルが先に進みギーンが後をついていく。
基本的に走らず足音を立てないように移動する。

途中何人かの兵士とすれ違ったが見えていないようだ。

階段に続く扉を発見し地下二階へと降りる。


キュピル
「(ここから南西だな。えーっと・・)」

ポケットから方位磁石を取り出す。
・・・・。向こうだ。

廊下を歩き続ける。・・・相変わらず広い。
作りがいつしかトラバチェスに忍び込んだ時の通路と似ている。
同じ技術者が作ったのだろうか・・・。

そして目的の生命研究室を見つけた。
やはり目的地が分かりつつ更に透明になっていれば相当早く辿りつけれる。
しかし問題が起きた。

キュピル
「・・・セキュリティーカードか」
ギーン
「・・・こいつは正真正銘、磁気カードでなければ開かない仕組みのようだ。
魔法類の物は一切受け付けない仕組みになっている。」
キュピル
「・・・それにセキュリティーレベルも高そうだ・・・。・・・それならいつもの手を使おう」
ギーン
「お前のいつもの手ってのはどんな手だ」
キュピル
「排気口。大抵繋がってる」
ギーン
「・・・通路に排気口はないようだが?」
キュピル
「・・・・残念・・」

少し排気口を探すのにも労が入りそうだ。
・・・透明なうちにカードを盗むっという手もあるが・・・。

どっちを選ぼうか・・・。
しかし迷っている間に時間は刻々と進んでいく。勿体ない。

キュピル
「よくよく考えたら誰もいないのに扉が開いたら不自然だ。排気口を探そう」
ギーン
「あればいいんだがな」

いつも通り各部屋を虱潰しに探す必要がありそうだ・・・。






テルミット
「厳重な扉が目安・・っと言っていましたが厳重な扉がさっきから複数見つかっているのですが
これ等全部牢獄なんでしょうか?」

ヘルが敵兵士に発見される前に巨剣を投げ今刺さった巨剣を引き抜いている。

ヘル
「さぁな・・・。開ければわかるんだがどいつもこいつも鍵がかかってやがる。」
ファン
「セキュリティーカードが必要みたいです・・・。ヘルさん、その敵兵士はセキュリティーカード持っていますか?」
ヘル
「・・・あったぞ」

ヘルが一枚カードを発見しファンに手渡す。
それを使ってファンが厳重な扉のカードキーの差し込み口にカードを差し込む。
・・・扉が開いた。
敵兵士を引きずって中に放り込む。

琶月
「ここは・・・何でしょうか?」

部屋は物凄く狭く左右に穴の空いた装置がフル稼働している。
・・・空気を吸い取っているみたいだが・・・。上の排気口から新しい空気が送り込まれ循環している。

ファン
「・・・これは・・・。」
ヘル
「奥に扉がある。開けるぞ」
ファン
「・・・皆さん、息を止めてください!」

ヘルが扉を開ける。開けた瞬間濁った色をしたガスが扉から溢れ出てきた!!
ヘルが慌てて扉を閉めガスを遮断する。
漏れ出たガスは左右の穴の空いた装置に吸い込まれて消えていった。

琶月
「・・・この先にガスがあるなんて・・。・・・凄く厳重です・・」
ファン
「・・・ガスを止めないと先に進むのは難しそうですね・・」
ヘル
「息を止めて中に入るってのはどうだ?」
テルミット
「やめたほうがいいと思います。きっと目も痛くなるので目も瞑らないといけなくなります。
そうするともし罠があった場合・・・」
ヘル
「・・・・お陀仏だな」
ファン
「ガスを止める装置かガスマスクを探しましょう。」
テルミット
「さっき僕がエスケープを使う前の監視室でガスは止められると思いますか?」
ファン
「断言はできませんがもしかすると止められるかもしれません。」
ヘル
「この死体はガスのある部屋に頬り投げるぞ。見つかったら困るからな。」

ヘルが息を止め目も瞑って再び扉を開け放りこんだ。

ヘル
「・・・さて、監視室を探すか・・。」
琶月
「師匠・・どうか御無事で・・・」

その時ファンとテルミットに魔法の通信が届いた。


ギーン
『ファン。排気口を見つけていないか?生命研究室に入るにはセキュリティーカードが必要なのだが
入口はここしかないため正攻法で侵入すると間違いなく敵に発見される』
ファン
『今僕達がいる部屋に排気口があります』
ギーン
『なに、場所はどこだ』
ファン
『恐らく地下三階の北東にある厳重な扉を開けて空気清浄機が並んでいる部屋です。
複数ありますが手前から二つ目の扉が今僕達が居る場所です。』
ギーン
『わかった、助かる』
ファン
『間違ってもその部屋から先に進まないでください。ガスが充満しています』
ギーン
『・・・気をつける』
ファン
『ギーンさん、僕達ここで待っているので来たら一度コンテナ型拠点の所に戻してくれませんか?』
ギーン
『何故だ?』
ファン
『ガスを止めるために一度監視室に移動します』
ギーン
『わかった、少し待ってろ』


そこで通信が切れた。



ギーン
「地下三階に排気口があるらしい。そこに移動するぞ」
キュピル
「もう魔法の効力が三分しかない。走ろう!」

足音は・・・仕方ない。
なるべく立てないように気をつけて走る。
途中兵士とすれ違った時振りかえったがばれてはいないようだ・・・。





==地下三階



地下三階に降りた所で効果が切れてしまった。
通路を調べると兵士が何人かいる。

キュピル
「・・・・少し面倒だな・・」
ギーン
「隠れる場所はない。どうする?」
キュピル
「・・・ファンと連絡してくれ。現状だと強行突破しかない」

ギーンが魔法を唱えファンと再び通信する



ギーン
『ファン。今地下三階まで移動したが通路に敵兵士がいる。場合によっては強行突破になるかもしれん』
ファン
『わかりました。合流したらすぐ送って下されば結構です。』
ギーン
『俺達が敵を引きつけることになるからな。いいだろう、行くぞ、キュピル』

そこで通信が途絶えた。
二人とも通路から飛び出る。敵兵士が反応する前にギーンがメガバーストを唱え巨大な炎の玉をぶつける。
それに気がついた他の兵士達が銃を構え射撃してきた!

ギーン
「バリアをかけてやる!行け、キュピル!」
キュピル
「うおぉぉぉっっ!!」

キュピルに半透明色のバリアがかかる。銃弾を弾き一気にキュピルが前に突進する。

キュピル
「一閃!!」

一太刀で敵を薙ぎ払う。

キュピル
「増援が来る前にとっとと行こう!」
ギーン
「わかっている!」

北東へ向けてひたすら走る
途中単体の敵兵士に遭遇したがギーンが魔法で先制攻撃しすぐに息の根を止めた。相変わらず過激だ。
すぐにファンの言う部屋に辿りついた。

ヘル
「キュピルさん、ご無事でしたか」
ギーン
「テレポート!」

会話させる暇も与えず四人をコンテナ型の拠点へ飛ばした。
すぐにキュピルが機械の上に乗って排気口を破壊し飛びこむ。ギーンも浮遊魔法で登って行き
最後に排気口を修復させて天井裏を這い始めた。

その数分後、さっき居た部屋に敵兵士がゾロゾロと集まってきたが既にそこには誰もいなかった。




ファン
「敵兵士は今地下三階に集結しているようです。今のうちに監視室を制圧しちゃいましょう」
ヘル
「行くぞ、テルミット!」
テルミット
「はい!」

コンテナ型拠点を出てすぐに北西の扉を通って監視室へ移動する。
敵兵士が二人居たがテルミットが矢を放ち敵を射た。

ファン
「今からガスの噴射を停止させます」

ファンが機械を操作し始めた。

ファン
「・・・解除に15分かかりそうです。」
ヘル
「それまで誰も来なければいいんだがな」
琶月
「誰も来ませんように誰も来ませんように誰も来ませんように・・・」
ヘル
「お前さっきから祈ってばっかりだな。少しは刀持って戦え」
琶月
「う、うぅぅ・・。モンスターはともかく人だと・・ちょっと・・」
ヘル
「全く・・・」






キュピル
「空気がうまい」
ギーン
「排気口じゃなくて空気口とでも呼ぶか?」
キュピル
「というか全く排気してないけどな。それより道が分らん。結構枝分かれしているが」
ギーン
「お前のその方位磁石で適当に南西に進め。真下についたら俺が魔法で穴あけてやる」
キュピル
「その過激なやり方、嫌いじゃない。しかしいつからそんな強力な魔法を連発できるようになったんだ」
ギーン
「トラバチェスの王族の紋章だ。こいつには魔法の力を増強させる効果を持っている」
キュピル
「まさに王の特権か」

キュピルが方位磁石を頼りに南西に進んでいく。
・・・一応現在地によるズレもあるだろうから気をつけないと。

排気口(厳密には違うが)の中を這って進む事20分。
キュピルが途中で停止した。

キュピル
「・・・方位磁石が狂った」
ギーン
「見せろ」

ギーンが狂った方位磁石を見る。
・・・さっきからグルグル回っている。

ギーン
「上に強い磁器を感じているようだぞ。ここでビンゴだな」
キュピル
「生命研究室のことか?」
ギーン
「そうだ」
キュピル
「強い磁器なんかあったのか・・」
ギーン
「キュピル。ここを破壊して生命研究室に行く前に忠告しておかなければならない」
キュピル
「何だ?」
ギーン
「・・校長は俺達がこの部屋に入る事は想定しているはずだ」
キュピル
「・・・だろうな」
ギーン
「激しい戦闘になるはずだ。・・・死んでもいいが狂気化だけにはなるな」
キュピル
「もっと素直になればいいものを。そんなんだからダインやカタリ達にツンデレギーンちゃんって呼ばれるんだ」
ギーン
「五月蠅い!」

ギーンが天井に両手を合わせる。両手から強烈な光が漏れだす。

ギーン
「はぁぁぁっっっ!!!」

その瞬間強烈な爆発が起きた。
当然ギーンとキュピルもその爆発に巻き込まれたがバリアによって被害は最小限に食い止めれた。

ギーン
「ふん、脆い床だな」
キュピル
「常識的に考えて床から襲撃されるとか想定外だ」

起き上がり生命研究室に潜りこむ。
中央に巨大なカプセルがありそこにはやはりダークルイがいた。
周囲には輝月をダークルイ化させようとしたあの機械があり周りには培養液の詰まったカプセルが一杯ある・・。
ケルティカの近くにあったあの拠点と構造が全く同じだ。

研究員
「誰だ!貴様等!」
キュピル
「ふん!」
研究員
「うぐおぉぉああぁぁっ!!」

キュピルが研究員の腕を掴み骨を折る。かなり痛そうだ・・・。
近くに居た敵兵士がやってきたが発砲してこない。ここで発砲すれば設備を破壊しかねない。
直接ナイフを持って襲ってきた!ナイフを突き出しキュピルを刺そうとした。
しかし見切りナイフを持つ腕を掴んで足を思いっきり蹴りそのまま転倒させた。
最後に剣で敵兵士の胸を突き刺した。

他の敵兵士もナイフで応戦してきた!が、圧倒的なリーチを誇る剣の前では
何もできずそのまま斬られるだけだった。

研究員
「ひ、ひぃぃ・・!!し、死にたくない!!」
キュピル
「死にたくなければ情報をよこせ。あの人間を元に戻す方法を言え」

キュピルがルイを指差す

研究員
「し、知らん!元に戻すことは想定していない!!」

キュピルが研究員の顔を踏みつける。

研究員
「ぐああぁっ!」
キュピル
「言わないと潰すぞ」

普段のキュピルからは考えられない程冷酷だ。
言わないのであれば本当に踏みつぶす気だ・・・。

研究員
「頼む・・・見逃してくれ・・!本当に・・知らないんだ・・!!!」
キュピル
「・・・許さん」

その時カプセルの割れる音が聞こえた。他の研究員がダークルイを始動させたようだ。

キュピル
「ルイ!!!」

キュピルがルイに向き直る。
その隙に踏まれていた研究員は逃げ始めた。
が、ギーンの放った魔法に当たり絶命した。

ダークルイ
「・・・・・」

前に見たときよりも凶悪な姿になっている・・・。
触手には鋭い刺が生えていて皮膚は闇色に染まっていた。
髪の毛も触手の一部のようにゆらゆらと動いている・・・。

ギーン
「この研究室のデーターを完全に削除し設備を破壊する!そうすれば開戦が遅れるはずだ!」
キュピル
「どういうことだ?」
ギーン
「校長はオルランヌに技術移転をし代価としてトラバチェスを攻め滅ぼすことを要求している。
その代価となる技術はそこに立っている狂気化したルイのことだ!」
キュピル
「・・・人間を狂気化させる技術・・・!」

もしその技術が普及し一般兵士に使われるようになれば・・・?
民間を徴収し・・狂気化させ奴隷化させたら・・・?

間違いなく過去最大規模の戦争が起きる・・・。
その時ダークルイがギーンに向けて刺の生えた触手を伸ばしてきた!
バリアによって弾くが一発でバリアが割れてしまった。

ギーン
「キュピル!狂気化したルイを止めろ!その間に俺はここの設備とデーターを全て破壊する!」
キュピル
「わかった!」

ダークルイがギーンに気が行っている間にキュピルが後ろに回り奇襲を仕掛ける!
だが、気配で察知されていたらしくすぐに振りかえって刺のついた触手でガードした。

キュピル
「ルイ・・・!!俺の事を思い出せ・・!!」

キュピルが思いっきりルイに頭突きする。
しかし全く怯まず硬い髪の毛を伸ばして突き刺してきた!

キュピル
「ぐっ!」

肩や腕に突き刺さり後ろにノックバックする。
ギーンが作業しながら無言でヒールを唱えキュピルを回復させる。

キュピル
「助かる」

ダークルイが一斉に触手を伸ばしてきた!!

キュピル
「武閃直伝!!ソードダンス!!!」

剣を振り回し襲いかかる触手を全て斬り落とす!

キュピル
「何としてでも絶対にルイを救う!」

強い意志がキュピルを一時的に強くする。
ダークルイの攻撃を回避し思いっきりダークルイ目掛けて飛び込み体を抑え転倒させる。
触手や髪の毛を伸ばしてキュピルを撥ね退けようとするがその前にキュピルがルイを突き飛ばし
ズルズルと床の上を滑って棚にぶつかり荷物が降ってきた。荷物を吹き飛ばしルイがすぐに起き上がる。

ダークルイ
「・・・・」
キュピル
「・・・・!」

ダークルイがスッ・・っと腕を前に出した。そしてキュピルを手招きする。

キュピル
「・・・・」

何をしているのかさっぱり分からない。
別に操られた訳でもない・・・。
しばらくするとダークルイの指から一本の細い触手が伸びてきた。
途中でぶくぶくと膨れ上がりキュピルに近づいていく。・・・かなり気持ち悪い。

キュピル
「・・・」

キュピルが警戒している。一体何が起きる・・・?


ギーン
「・・・・こ、こいつは・・!!」

ギーンが驚くべきファイルを見つける。・・・これは・・・。

ギーン
「キュピル!!気をつけろ!奴は自らの力で他人を狂気化させる能力を得ているぞ!」

キュピルが驚く前に目の前の触手が破裂し液体が飛び散った。
その液体を回避するが近くに居た研究員や兵士が浴び体の色が変色し始めた!

ギーン
「狂気化する前に完全に潰せ!!」

ギーンがメガバーストを唱え狂気化し始めている研究員や兵士を燃やす。
キュピルもダークルイを無視して剣で完全に絶命させて狂気化を防ぐ。
その時ダークルイが触手を一本伸ばしてきた!

キュピル
「うぐっ!」

キュピルの首に巻きつくとダークルイの目の前まで引き寄せた。
黄色い目がキュピルを睨みつける。一瞬恐怖に思考が停止したがすぐに正気に戻った。

キュピル
「ルイ!離してくれ!!ここでまだ狂気化するわけにはいかないんだ!!」

キュピルがジタバタもがく。だが脱出できそうにない

キュピル
「ギーン!!何とかしてくれ!!」
ギーン
「くそが!」

ギーンが魔法陣をダークルイの足元に作りだし強烈な火炎を噴射しダークルイを焼きつくす!

キュピル
「あっつーー!!!」

何とかダークルイから脱出できたが服に火が燃え移り床の上で転げまわる。
ギーンが水魔法を唱え火を消しヒールと唱えて傷を回復させる

キュピル
「拷問か!!」
ギーン
「文句言ってる暇あったらとっとと抑えろ!」

再びギーンが端末で操作を始めた。
その時ダークルイが五本の指から細い触手を再び生やし天井に向けてぶくぶくと膨らませていく。

キュピル
「ギーン!バリア張るんだ!液体が飛び散るぞ!」
ギーン
「シャワーは好きじゃない」

ギーンがバリアを詠唱しキュピルとギーンにバリアを張る。その直後触手が破裂し
霧のように細かい液体が部屋に充満した。既に敵兵士や研究員は死体となっているため狂気化することはない。
しかしバリアが解除された瞬間、この霧のように細かい液体を浴びることになる・・・そうなれば・・。

間違いなく狂気化することになる。

キュピル
「・・・ここから先は絶対に当たることができないな」
ギーン
「こんな厄介な技を身につけやがって・・」

ダークルイが首をかしげている。
・・・何故この人たちは狂気化しないんだろうっという不思議な目をしている。

キュピル
「ルイ・・許してくれ。この場を凌ぐにはルイを一旦戦闘不能にさせるしかないようだ」

キュピルが改めて剣を構える。
・・・ダークルイが触手を伸ばしてきた!攻撃を避けつつ前に前進し剣でダークルイを斬る!
しかし硬い触手によって攻撃を防がれる。

キュピル
「この攻撃は防げるか!?」

キュピルが回転し遠心力の力を借りて強烈な攻撃を放つ!
ダークルイのガードを崩し強烈な斬撃ダメージを与える!

キュピル
「うおおおぉぉ!!」

そしてダークルイを一瞬で滅多切りにする!
・・・初めてルイを斬った・・・。
越えてはいけない一線を越えてしまった気がした。

キュピル
「くそおおぉぉ!!!」

怯んでるダークルイに更に追い打ちをかける。一閃を繰り出しダークルイに深い傷を負わせ後ろに回る。
そして渾身の力を込めてダークルイの背中を剣で思いっきり斬り裂いた!!!
ダークルイが転倒しうつ伏せに倒れる。

キュピル
「はぁ・・・はぁ・・・。・・・ルイ・・?」

しばらくすると傷が修復し再びダークルイが立ちあがった。
しかし立ち上がる前にキュピルがジャンプしてダークルイの背中に剣を突き立てる。
グリグリと剣で背中を抉る。・・・背中から黒い液体があふれ出ている。

キュピル
「頼む・・・許してくれ・・・許してくれ・・・!!」

剣を引き抜きもう一度ダークルイの背中に剣を突き刺す。
ダークルイが触手を伸ばしキュピルを弾き飛ばす!

キュピル
「ぐおっ!」

その時ギーンが叫んだ

ギーン
「キュピル!奴の攻撃の威力がでかすぎる!あまり攻撃を食らうな!バリアが割れる!!」

ギーンが右手で魔法を詠唱し続け左手で端末を操作し続けている。

キュピル
「分かっている・・・」

バリアのおかげでダメージはない。・・・しかしバリアの崩壊した時、狂気化が訪れる。
しばらくダークルイがうつ伏せになっていると傷が回復し立ち上がった。

キュピル
「・・・ギーン・・!本当にルイを救う方法はないのか!?研究員の奴はルイを自由に操作していたぞ!」
ギーン
「言われなくても探している!!」

その時ダークルイがギーンを見た。

キュピル
「・・・!ギーン!」

ダークルイが一斉に触手を伸ばしギーンのバリアをたたき割ろうとした!
反応が遅れ直撃しギーンのバリアにヒビが入った!

ギーン
「ちっ!油断した・・!はぁぁぁっっっっ!!」

ギーンを中心に三重の魔法陣が現れる。
そしてギーンが青い光に包まれバリアが修復していく。
魔法陣から黄色い魔法玉が泡のように揺ら揺らと上に飛んでいき
その黄色い魔法玉が途中で破裂し中から刺が現れダークルイに突き刺さる!
突き刺さった場所から赤いエネルギーがギーンの手の中に入っていく。
ダークルイが苦しそうに悶絶し始めた!

キュピル
「な、何をやっているんだ?死なせるなよ!!?」
ギーン
「奴からエネルギーを吸い取っているだけだ!死にはしない!」

しばらくすると魔法陣が消えギーンを包んでいた青い光は消え赤いエネルギーの線も千切れて消えてなくなった。
ダークルイがふらふらしながら立ち上がる。

ギーン
「俺の最終奥義に値する強力な魔法だ。マナを瞬間的に全回復しそれと同時に疲労も回復。
最後に敵からエネルギーを吸い取るという攻守一体の回復魔法だ」
キュピル
「マナが全回復するならそれずっと使えばいいものを・・」
ギーン
「馬鹿が、この魔法は事前にチャージしなければろくに使えんぞ。詠唱完了に五時間もかけてどうする」
キュピル
「・・・そりゃ確かに戦闘中には詠唱できない長さだ」

ダークルイが立ちあがったかと思えばまた倒れた。
当分立ち上がれそうもない。
その隙にギーンが情報端末を操作する。

ギーン
「・・・キュピル!狂気化した人物を操作するファイルを見つけたぞ!!」
キュピル
「でかした!」
ギーン
「・・・その装置にルイを張りつけろ!」

ギーンが張り付け台を指差す。・・・確か輝月が狂気化されそうになったあの台。
キュピルがダークルイの腕を引っ張る。その時触手を伸ばしてキュピルを攻撃しようとしたので
慌ててキュピルがダークルイの腹を踏みダメージを与える。
すぐに持ち上げて張り付け台に叩きつける。ギーンが機械を操作しダークルイの背中に
太いチューブを差し込む。

ギーン
「ルイの闘争心を完全に叩きつぶし無力化させる!」

ギーンが素早く機械を操作し命令を与える。すると轟音と共にダークルイの背中に電撃が走る。
ダークルイが激しい痙攣を起こす。見ているだけで心が痛む。

その時一発の銃弾が飛んできた。
キュピルのバリアにヒビが入る。

キュピル
「!!!」

キュピルの後方にバリアに包まれた兵士と校長が居た。

ギーン
「現れたな!!」
校長
「・・・貴様等二人をルイの手によって狂気化させる予定だった。
だがどうやら予定通りにはいかなかったようだ。・・・実験、模擬戦ではダークルイは一発の攻撃で
バリアをたたき割る力を持っていた。それだけではなくその無数の触手を活かして対象を絶対に
逃がさずそして確実に仕留める力を持っていた・・。
・・・だがキュピル。お前がルイの前に立つとその戦闘能力が激減している。
結果、お前達はルイを抑え込むことに成功してしまった。これ以上黙って見ている訳にはいかない。
キュピル、ルイと肩を並べて狂気化するがいい。」

そういって校長と兵士が一斉に貫通力の高い銃弾を連射してきた!!
キュピルが慌てて物影に隠れる。

キュピル
「ギーン!!」
ギーン
「くっ、校長を絶対に仕留める!!」

ギーンが物影に隠れながら魔法を詠唱する。

校長
「そうはさせん!これで貴様等は終わりだ!」

校長が闇色の魔法陣を召喚する。
魔法陣から漆黒の粒が現れた。
それを見た瞬間ギーンが叫んだ

ギーン
「呪文抵抗だ!!バリアが消える!!テレポートで逃げるぞ!!」

ギーンが緊急テレポートを発動する。しかし

校長
「キュピルだけは逃がすな!!奴の戦闘能力は高い!狂気化させ味方につければ我々の勝利は確実だ!!」

兵士が突撃し逃げようとするキュピルを打ちぬく!
バリアが飛び散り貫通してそのままキュピルを射ぬく

キュピル
「うぐあっ!!」
ギーン
「キュピル!」

その瞬間テレポートの詠唱が完了しギーンは一人で逃げてしまった。

校長
「・・チェックメイト。」

部屋に舞う液体がキュピルの皮膚に付着する。

キュピル
「かっ・・・!あがっ・・・!!」

瞬きが激しくなる。傷の痛みが激痛に変わり皮膚が燃えるように熱い。
いや、皮膚から本当に煙が出ている。・・・も、燃える・・・。

校長
「お前はいい働きをした。我々の一号の作成を手助けしてくれたな・・。
きっちり蝶の木を回復させ後始末もよくやってくれた。
そして輝月という名の小娘も実験に協力してくれたな。あいつのデーターを参考にして
キュアに耐性を持つ新しい感染方法を生み出す事に成功した・・。
・・・我々のダミーの依頼をしっかりこなし・・・与えられた報酬を律儀に使い・・・
受け取った報酬でクエストショップを拡大、そして強力な仲間をかき集め・・
こうして今、仲間を連れて今お前はここにやってきた。」

キュピル
「がああああぁぁぁぁっっっっ!!!!!」



意識を手放しそうになる。吐き気と激痛、そして強烈な負の感情・・・。

校長
「・・・怖いか?安心しろ、すぐにお仲間がお前の後を追うだろう・・。
ん?それでも怖いか?ならルイの傍に置いてやろう。ルイでこれも寂しがらずに済むだろう。
・・・これからは我が強力な手先として働いてもらうぞ、キュピル。・・・貴様のその戦闘能力・・・。
期待しているからな・・・。ククク・・・」

キュピル
「クッ・・ウグア・・ギッ・・・ガガガッ・・・!!!!!」


キュピルが鋭い眼光で校長を睨みつける

校長
「・・・!」
キュピル
「ギィィグアアアッッッ!!!!」


強烈な負の感情。




殺す




半ダーク化したキュピルが校長に襲いかかる!体から生えた触手を伸ばし周囲に立っていた敵兵士を
叩き飛ばした!!

バリアを貫通し一発で敵兵士を絶命させる。

校長
「これだ・・この力だ・・!!私が求めていた最強の力!!」

すぐに校長がテレポートでその場を脱出し生命研究室への扉を固く閉める。
・・・そしてキュピルが地面の上に倒れる。


キュピル
「・・・・ギ・・・・。・・・・イヤ・・・ダ・・・。
オレ・・・ハ・・・マ・・ダ・・・。ヤル・・コト・・・ガ・・・・」

その時拘束を解除されギーンの操作によって無力化したダークルイがキュピルの傍によってきた。
・・・「友達だ」っという目をしている。触手を伸ばしキュピルの触手を掴む。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。







キュピル
「はぁ・・・はぁ・・・・」

真っ暗な暗闇の中にいる。
・・・ここは・・どこなんだ・・・。

体がふわふわする。

何も見えない・・・。


その時目の前に誰かが現れた。



ルイが目の前に居る。・・・泣いている。

・・・泣かないでくれ・・ルイ・・。俺はしっかりここにいるから・・・。

ルイに手を差し伸べる。それに気付いたルイが手に握りしめようとした。
だけど握りしめる前に途中ではっと何かに気付いたらしく途中で止まった。
そしてキュピルの顔をもう一度見る。

・・・どうした?ルイ?

ルイがキュピルの手を叩き落とす。
痛い、何をするんだ、ルイ。

何の音も聞こえない空間の中でルイの声が響いて聞こえてきた。



キュピルさん・・・私は貴方の手を握りません。今ここで握ったらきっと・・キュピルさんを
引き連れてしまうことになります。・・・私に先導させないでください。・・キュピルさん。
貴方が私を先導してください。そして・・・ちゃんとした姿でまた私の手を握ってくださいね。


気がつくと自分の体から触手が生えていた。
・・・俺は・・狂気化してしまったのか?
またルイの声が響いて来た。



逆境に強いのがキュピルさんです・・・。どんなに絶望的な状況でも・・・。
私はキュピルさんを信じています。もう私はどんなことからも逃げないと覚悟を決めましたから・・・。
いつか、キュピルさんの心の奥底に眠っている闇を振り払うと・・・決めましたから。

そのためにも・・・。今は。



正気を保ってください。












キュピル
「・・・っ!!!!」

体に突然激痛が走った。
意識がはっきりし始めた。

キュピル
「アッ・・グッ・・・!!」

重たい体を起こして立ち上がる。呼吸が荒い。
・・・負けるな・・・俺・・・。まだ・・・やることが・・・あるんだろうが・・!!!








キュピル
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」











キュピルが思いっきり叫び触手を目の前の扉目掛けて伸ばす。
頑丈な扉が壊れた。


『警報!警報!生命研究室に異常あり!至急ガスマスクを装着するように!!』






キュピル
「・・・ファ・・ン・・。ヘル・・・。テル・・ミット・・。琶・・月・・。
どこに・・・いる・・・?一人だと・・・何故か・・凄く寂しい・・・。」


壁によりかかりながらゆっくり移動を続けて行く。
途中で敵兵士に遭遇したがこちらを見るなり驚き悲鳴をあげながら逃げて行った。


・・・皆・・・どこだ・・・。

半ダーク化したキュピルの後ろをダークルイがついてきていた・・。



続く



第十二話




離脱したギーン、狂気化寸前のキュピル。そしてその後ろをついていくダークルイ・・・。





ギーン
「ちっ!」

憂さ晴らしに自分の王座を蹴る。

ギーン
「キュピル・・・無事でいてくれ・・・。」

最悪なケースが起きてしまった・・・。
校長が強力な魔法を扱えるようになっていた事が想定外だった・・・。
奴は一体どこであんな魔法を身に付けた。少なくとも一長一短で身につくものではない・・・。

その時ギーンの側近が入ってきた。

髪の長い男性
「ギーン殿!オルランヌがついにトラバチェスへ向けて進撃を開始したようです!!」
ギーン
「なんだと!」

・・・どういうことだ!?

これは・・・まさか・・・!!

ギーン
「・・・・オルランヌは既に狂気化の技術を・・受け取ったのか!?」

髪の長い男性
「真相は不明です。しかし進撃を開始したのは事実です」
ギーン
「くそが!最悪なタイミングだ!!」
髪の長い男性
「・・・忍び込んだ拠点で何か起きたのですか?」
ギーン
「最高に頼りになる奴が狂気化したかもしれん!くそっ・・・校長め・・・!!」

今すぐにオルランヌの進撃に対応する必要がある。
・・・キュピルを救うのは後回しだ。

ギーン
「俺の策通りに動け!可能な限り民衆のいない所で戦闘しろ!いいな!ラテス!」

髪の長い男性・・ラテスが頷いた

ラテス
「はっ!!」






==????



ファン
「・・・罠は全て止まりました」
ヘル
「ひゅ〜・・・。大分時間かかったな」
テルミット
「15分のはずが40分・・・。罠がガスだけではなく様々な所にもついていたんですね・・」

ヘルとテルミットの前には兵士の死体が何体か転がっている。

琶月
「はぁ〜・・よかった〜・・。これで師匠を助けられるんですね・・」
ファン
「他の罠に気付けてよかったです。行きましょう。」




『警報!警報!生命研究室に異常あり!至急ガスマスクを装着するように!!』



琶月
「ひぃぃ!!毒ガスが噴射するんだーー!!もうだめだーー!!」
ヘル
「慌てるな!ガスマスクはここにある!」

ヘルが監視室の壁にくっついている箱を壊しガスマスクを引きはがす

テルミット
「・・・ヘルさん。いつそのガスマスクに気付いたんですか?」
ヘル
「20分ほど前だ」
テルミット
「・・・入った時に気付いていれば15分時間短縮できたんですけどね」
ヘル
「・・・悪かったな」

ヘルがガスマスクを投げる。テルミットがそれを受け取る。
一応人数分のはあるようだ。

琶月
「どうやってつけるんだろう・・」
ファン
「こうですよ、こう」
琶月
「出来たら人間のお手本をみたいです」
ファン
「すいません」


テルミットが琶月に装着の仕方を教える。うまくつけれたようだ。

琶月
「こんなの生きてるうちに着けるとは思っても居なかったです・・」
テルミット
「僕もですよ、アハハ・・」
ヘル
「とにかく早くジェスターさん達を助けに行くぞ。」

ヘルが他の箱も壊し掴まっている人たちの分のガスマスクを荷物に居れる。
通路には敵兵士は居なくスムーズに階段まで辿りつけた。

・・・その時不自然な音が聞こえてきた。


・・・ペチャリ・・・

・・・・・クチャリ・・・・

ペチャ・・・グチャ・・・

琶月
「ひぃぃぃぃ!!ゾンビの音〜〜〜!!!」
ヘル
「現実的に考えてゾンビとか居る訳ねーだろ!テレビの見過ぎだ!・・・おい、本当にゾンビか?」
テルミット
「・・・ねっとりした物が近づいてくる音・・です・・。・・・ヘルさん、確認してきてください」
ヘル
「・・・テ、テルミット。お前がいけ」
琶月
「あれれ?怖いんですか?怖いんですか?」
ヘル
「う、うるさい!ゾンビ何か別に怖くない!!」

ヘルが階段を降りて地下二階の通路を様子見る。

ヘル
「デ、デタアアアァァァッッッッ!!!!」

ヘルが慌てて階段を上ってテルミットの後ろに隠れる。

ヘル
「ゾンビ!ゾンビが出たぞ!!!」
琶月
「ひぃぃぃぃぃ!!!!!もうだめだああああ!!」
テルミット
「う、嘘ですよね?」


その・・・声・・・・。

・・・まちがい・・・ない・・・。


入口から触手の生えた不気味な物体が入ってきた。
全員驚き武器を構える。・・・だが見覚えのある形をしている。



琶月
「あんぎゃああ!!ゾンビイイイイイイイ!!!!」
テルミット
「・・・・!キュピルさん・・・ですか!?」
ファン
「・・・!!キュピルさん!!」
琶月
「え?」

ファンが真っ先に近づきキュピルの容体を調べる。

キュピル
「ファ・・ン・・・。よかっ・・た・・・。一人じゃ・・・寂しくて死にそう・・だった・・・」
ファン
「それよりキュピルさん!!その姿・・!!まるでルイさんのように・・・!!・・・!」

キュピルの後ろにダークルイが居た。
ファンが攻撃されると思って慌てて後ろに下がった。所が攻撃してこなかった。
首をかしげてキュピルの後をついてっている。・・よくみるとキュピルの背中に生えている触手を
しっかり握りしめている・・・。何でだろう?


琶月
「・・・キュ・・ピル・・さんなんですか・・・?」
キュピル
「・・・琶・・月。輝・・月は見つかっ・・たの・・か・・?」
琶月
「い、いえ・・。これから救出を・・・。それより・・だ、大丈夫なんですか?」

琶月が怯えきっている。
荒い呼吸を続けているが何とか意識はまだ保つ事が出来ている。

キュピル
「・・・大丈・・夫・・・だ。・・何故か・・知らないが・・・。勇気も・・・湧いてきている・・・。
・・・まだ・・屈服・・しない」
ヘル
「それ以上喋らないでください。・・・体力を消耗します」

キュピルが頷く。実際喋るのは辛いらしい。

キュピル
「・・・助けに・・行こう。・・・ジェスター・・達を」

全員顔を見合わせた後、キュピルの指示に従うことにした。
ヘルとテルミットが先導し一番後ろをキュピルとダークルイがついていった。
ダークルイを見てヘルとテルミットと琶月が驚くが襲ってこない事に少し戸惑いを感じている。

ヘル
「何とかなったのか?」
テルミット
「かもしれませんね・・・」


地下三階に降り先程のガスが充満していた通路に入る。
・・・通路にはまだガスが充満していたがガスマスクのおかげで何ともない。
念のためヘルとテルミットがキュピルとダークルイにもガスマスクをつけさせる。
キュピルが頷いて感謝する。

視界の悪い通路を通り機関銃のついた監視カメラの前を通って行く。
既にこの通路にある罠はファンが全て解除した。


・・・罠で埋め尽くされた通路を通り奥の扉を開ける。
再び空気清浄機のある間に辿りつきガスを十分に吸い込ませてから次の部屋に移動した。

・・・牢獄があった。
中にはジェスターと輝月とディバンがいた。

ジェスター
「あ!!ヘルとテルミットだ!!助けて〜〜!!」

ジェスターがぴょんぴょん飛んで助けを呼ぶ。
ヘルが鉄格子を外し扉を開ける。

ジェスター
「わーい!!」
輝月
「・・・・・お主に借りが出来たな。・・・・」

複雑な顔をしている。

ディバン
「ったく。一体何なんだ、ここは。突然変な場所に飛ばされたかと思えばいきなり豚箱行きだ!説明が欲しいな!」
キュピル
「・・・ディバン・・は・・。こっちの・・者だった・・か・・」
ディバン
「・・・おい!キュピルなのか!?」

ジェスターと輝月がキュピルの姿を見て驚愕する。

ジェスター
「キュ・・キュピル・・・?キュピル!!」

ジェスターがキュピルの元に飛びつく。
キュピルの体のあちこちから生えている触手が一瞬蠢いた。

ジェスター
「どうしたの!!?もしかしてルイみたいになっちゃうの!?嫌だ!!やだ!!!」
キュピル
「・・・大丈・・夫。・・・一線で・・踏みとどまっている。・・・それより近づくと・・危ない・・よ・・。・・・ルイ・・もいる」

キュピルの後ろにいるダークルイを見てジェスターが後ろに下がる。・・・何もしてこない。

ファン
「これで全員救出することができました。・・・戻りましょう。これ以上ここで活動する事はできません」
ヘル
「・・・そうだな、戻ろう」




校長
「悪いが帰らせるわけにはいかないな」

通路に沢山の兵士を引き連れて校長が立ちふさがった。

校長
「・・・キュピル。何故お前は意識を保ち続ける事が出来る!何故だ!一度堕ちたはずだ!」
キュピル
「常識・・が通じない・・のが・・俺さ・・・」
校長
「・・・ぐぅぅ!!小癪な!!何から何まで常識はずれな男め!!
やれ!絶対に奴らを逃がすな!!既にこいつらの役目は終えた!!
唯一残された役目は狂気化し我々の手先となる事だけだ!」

一斉に銃弾を放った。

ディバン
「こ、こいつ等!撃ってきたぞ!!まるで戦争だな!!」
ヘル
「まるでじゃない!こいつは戦争だ!」

激しい弾幕の前に全員壁から出る事が出来ない。

ファン
「・・・テレポートを詠唱することができません!呪文抵抗です!」
テルミット
「エスケープも使えません!」
輝月
「・・・多少の犠牲はやむを得ぬようじゃな・・・。私が前に出る!」

その時キュピルが前に出た。

キュピル
「校・・長!!お前が・・・この・・世で・・一番・・生きていては・・いけな・・い・・存・・在だ・・!!!!」

キュピルが触手を伸ばし校長を叩きつける。
が、バリアによって防がれた。しかしそのバリアを叩き割る事はできた。

校長
「くっ、正常な思考を保ちつつその姿を維持できるか・・!」
キュピル
「アアアアァァァッッッッッ!!!!」

キュピルが叫び触手を一斉に前に伸ばす。・・・ダークルイが握っている触手を除いて。
撃ち続けていた敵兵士の胸を突き刺し毒を流して痙攣させ即死させる。

校長
「・・・惜しい・・惜しい人材だ。こいつが・・・我が手下だったならば・・・。
ルイ!何を突っ立っている!キュピルを倒せ!」

校長がダークルイに向かって叫ぶ。・・・しかしキュピルから生えている触手をより一層強く握りしめるだけだった。

キュピル
「・・・校・・長。・・・狂気・・化は・・・。負の感情・・を・・・、強く・・する・・・。
・・・俺・・の・・・。心・・は・・・。寂しさ・・・で一杯・・だ・・。
だが・・・ルイ・・は・・。俺以上に・・寂しさで・・一杯だ。」

ダークルイが赤い涙を流しながらキュピルの触手をもう一本握りしめる。
・・・勇気と反発心が湧いてくる

キュピル
「・・・この寂しさで満たされていた時。狂気化したルイが近寄ってきた。
そして互いの寂しさを緩和することができた。・・・その寂しさから解放され心が楽になった・・・。
それはルイも同じはずだ。・・・今ルイは俺を必要としている。・・そして俺もルイを必要としている。
・・・ルイは校長の言う事なんかもう聞かない。・・ここでまた校長の傍に行ってもまた寂しくなるだけだからな。」

校長
「貴様・・。」
キュピル
「校長!!そんな泥のような欲望を満たした先に何がある!!そんな他人の事も思いやれず
空しい快楽を追い求める貴様を・・・ここで・・コロス」

キュピルの目が黄色くなる。
・・・その時ルイがキュピルの触手をもう一本掴んだ。三本になるともう掴み切れず抱きしめることになる。
・・目が通常の色に戻る。

キュピル
「っ・・・。・・・今俺は・・・泥に包まれていた・・・?・・・校長を殺す事は・・だめなのか・・・?
・・・くそ・・わからない・・・」

ファン
「(・・皆さん。先程のキュピルさんの攻撃で呪文抵抗が消えてなくなりました。今からテレポートを詠唱します。
・・・キュピルさんの傍に近寄ってください)」

全員黙って頷きキュピルの傍に寄る。

ファン
「テレポート!」
校長
「・・!逃がすな!!」

銃弾を放った瞬間にテレポートが発動しキュピル達を逃がす。


校長
「・・・ちっ・・・また態勢を整えねばならんか・・・!
・・・だが問題はない。・・・既にオルランヌは動きだした。トラバチェスさえ滅ぼす事が出来れば
後はどうにでもなる。」

・・・しかし暫く考えた後訂正した。

校長
「・・・いや、奴を必ずこっちに引き入れねば面倒な事が続く。・・・態勢を整えろ、すぐに行動を起こす
兵士
「はっ」










==クエストショップ


コンテナ型拠点を残してクエストショップに帰還した。
キュピルがその場で倒れる。既に精神力の限界だった。

キュピル
「クッ・・・ハァ・・・・ハァ・・・グッ・・!ギ・・・ガ・・・」
ジェスター
「キュピル!」
ヘル
「・・・あの白いワンピースを着た少女を・・呼んで来い!名前は何ていったか!?」
テルミット
「ティチエルです!」
ヘル
「誰か早く呼んできてくれ!」

ファンと琶月が真っ先に飛び出てアクシピターへ向かった。


キュピル
「・・・ダメ・・ダ・・・。キュ・・ア・・・ハ・・ツウジナイ・・ラシイ・・・」

さっきからダークルイがキュピルの触手を掴んで遊んでいる。
・・・人種外とも言える見た目をした二人は傍から見ればかなり恐ろしい。

キュピル
「・・・つか・・れた・・・。・・・・・・」

キュピルが目を閉じる。

ジェスター
「・・・キュピル?・・・キュピル・・・。・・・死んで・・・ないよね・・・?」
ヘル
「・・・眠ってるだけだ。・・・だが起きた時・・狂気化してなければいいんだが・・・」
輝月
「・・・キュピルよ・・。本当は・・・私よりお主の方が辛かったのでないのか・・?
・・・キュピル、まだお主に恩を返せていないぞ!」
ディバン
「・・・俺はどうやらとんでもない場所にいるようだな。現実とは思えない・・」

ディバンが額の汗をぬぐう。

ディバン
「俺の半分以下の年齢の青年がこんな苦労しているというのに何もできん」

その時ティチエルとミラとボリスとルシアンが入ってきた。

ルシアン
「わっ!いつかの女の子の時よりも酷い状況だよ!」
ボリス
「・・・キュピルさんとルイさんだ」
ミラ
「・・・ティチエル。救えそうか?」
ティチエル
「試してみないと・・ちょっと分らないです。出来る限りの事はやってみます」
ファン
「手伝います」
テルミット
「僕も手伝います!」

ファンとテルミットがティチエルに魔力を送る。
ティチエルが杖を振り回し強力な白魔法の詠唱に入る。
全員固唾を飲んで見守る。

詠唱時間が五分を越え建物の外からでも分るほど強烈な白魔法の光が集まってきていた。

ティチエル
「キュア!!!」

ティチエルがキュピルとダークルイにキュアをかける。
強烈な白い光に包まれ全員目を瞑る。
ダークルイがキュアをかけられた瞬間いきなり床に倒れ意識を失った。

・・・眩しさが消えた時、再び目を開けた。
だが二人とも姿はそのままだった。

ヘル
「くそ!輝月の時は上手く行っていたのに何故だ!」
ミラ
「アタシでも分るよ。・・・あの時はなり掛けだったからさ。・・・この二人はあの時より酷い状態だ。
特にこの女性に関してはそうだ」
ルシアン
「・・・ねぇ、ボリス・・。キュピルはこのまま死んじゃうのかな・・」
ボリス
「息はしているようだ、ルシアン。・・・少し治療方法を探してみよう。」

一旦アクシピターの人達は外に出て居なくなった。

ヘル
「・・・これから俺達はどうするか。・・万が一キュピルさんが狂気化した場合は?」
ファン
「事実上営業者がいなくなるのでクエストショップの経営は一時休業となります・・・。」
輝月
「やる事は決まっておるじゃないか」

輝月が刀の入った鞘を前に突き出す。

輝月
「・・・キュピルを救う。ただそれだけじゃ。・・・キュピルには恩がある。」
ヘル
「・・・そうだな。治療方法が見つかりそうな場所を考えるか、テルミット」
テルミット
「大胆な事を言えばやはり先程僕達が忍び込んだ基地にあると思います。
・・・治療する方法とかが書かれていなくても資料は見つかるはずですから」
ファン
「向こうの拠点に再び行くには・・ギーンさんの力が必要です。
・・・しかし今ギーンさんとは連絡が取れません」
ヘル
「やられたのか?」
ファン
「恐らくやられてはいないと思います。・・・しかしどこに行ったのでしょうか・・」
ディバン
「・・くそ、相変わらず状況が読み込めないが・・・。この青年を助けなくてはいけないと言う事だけは分る。
俺の過去に呼んだ伝書にあらゆる呪いを解く伝説の聖杯の記録が残っていたと思うが・・」

ディバンがメモ帳を革の内ポケットから取り出しメモした記録を読み始めた。
流石はトレジャーハンター。そういうマヤカシチックな物はよくしっている。

その時ぬめりと音がした。キュピルが起き上がった。

ジェスター
「キュピル!」
キュピル
「・・・か、体が重い・・。どうなっている?」
ジェスター
「あ!狂気化してないよ!!」
ヘル
「キュアが効いたのか!?」
琶月
「見た目は・・・そのままみたいですけど・・・。」
ファン
「体調の方はどうですか?」
キュピル
「・・・さっきまでの苦しみは全て消えた。もう大丈夫だ・・・っと言いたいところだが」

キュピルが自分の姿を改めて確認する。

キュピル
「・・・また人間じゃなくなっちまった。・・・こんな姿じゃ外にも出歩けないな」

流石に慰める言葉は誰も出てこなかった。

キュピル
「・・・ティチエルがキュアをかけてくれたのか?」
ジェスター
「うん、そうだよ・・」
キュピル
「・・・ルイにもか?」
ファン
「かけてもらっています」
キュピル
「ルイ、起きろ。起きてくれ」

キュピルがルイを揺さぶる。
・・・ゆっくりと目蓋が開く、そしてキュピルを見る。

ダークルイ
「・・・・?」
キュピル
「俺の事が分るか?」
ダークルイ
「・・・・・」

起き上がり適当な触手を掴んで遊び始めた。
・・・分らないらしい。

キュピル
「・・・だめか・・」

まるで無邪気な子供のように自分の蠢く触手を手で掴んで弄っている。
一応ギーンが行った闘争心の破壊はしっかり効いているようだ・・・。

キュピル
「・・・クエストショップのルイの出撃状況を変えてくれ。長期出撃から待機中に。・・・一応ルイは帰ってきたんだ」
ファン
「わかりました」

ファンが直そうとしたら先にジェスターが立ちあがってジャンプしルイの掛札を変更した。

キュピル
「・・・そうだ、ギーンは?」
ファン
「連絡が取れません・・。一応通信履歴は残っていると思うので気付いたら返信を出してくると思うのですが・・」
キュピル
「追加でメッセージ送ってくれ。俺は大丈夫だっと」
ファン
「わかりました」

ファンが魔法を詠唱し通信を送る。・・・返信は帰って来ない。

ディバン
「あったぞ、こいつだ!」
輝月
「何じゃ、いきなり」

ディバンがメモ帳を皆に見せる。

ディバン
「あらゆる呪いを浄化する事が出来ると言われる伝説の聖杯・・!
これならば二人の呪い・・か?それを解く事が出来るかもしれん。この聖杯は今は生命の水と言われているようだな」

輝月と琶月以外の人が顔を見合わせる。

ヘル
「・・・今すぐライディアに行こう」
テルミット
「はい!」
ディバン
「伝説の聖杯の在り処を知っているのか!?」
ヘル
「知ってるも何も最近は無料でくれるぞ」
ディバン
「・・・信じられん」
ファン
「生命の水は浄化作用があるのを知っていますが・・万物に効くかどうかは定かではありませんね・・」
琶月
「そんな便利な水があるんですねー・・。水道水から出ればいいのに」
ヘル
「そんなことすれば間違いなく枯れるな。・・・生命の水を貰ってこよう。試す価値はあるはずだ」

ヘル達と輝月達、そしてディバンがクエストショップから出て行きライディアに向かった。

・・・。

・・・・・・・。

キュピル
「・・・懐かしいな、いつもの四人だけになったな」
ジェスター
「そうだね・・・」
ファン
「・・・何とかして治療方法を必ず探します」
キュピル
「生命の水では治せない・・そう睨んだ?」
ファン
「・・・はい。・・ですが材料にはなるはずです」
キュピル
「・・・そうだな。・・とにかく俺とルイは一旦自宅に戻る。ここだと窓から覗かれる可能性があるからな。
この姿を見られたら・・間違いなく客は来なくなるな・・」
ファン
「・・そうですね」
ジェスター
「そうなの?」

ルイを持ち上げて自宅に続く扉を通る。
・・・触手が色んな所に引っかかって物を散らかしたり何処かに吹っ飛ばす・・・。

キュピル
「ルイ、帰ってきたよ」

しかしその言葉はルイには届かなかった・・・。








トラバチェスから数万台にも上る戦闘機が発進した。
戦車・・装甲車・・武装ヘリ・・。もちろん歩兵もいる。

ミーア
「これは私達が校長を倒した時に残っていた兵器か?」
ギーン
「・・・争いのない世界を作るためにこれ等を量産する。矛盾している」
ミーア
「今回はあくまでも防衛だと私は思っている」
ギーン
「・・そうだな。・・・兵士にはなるべく生存を重視するように言ってある。
・・・あの戦闘機はどれも古い。更に魔法防御力が極端に低い。
魔法大国のオルランヌにこれ等の兵器が通じるとは少し思い難い。」

こちらの行軍速度は遅い。それに対し魔法大国オルランヌは間違いなく風魔法を活かした
機動力のある戦い、行動をするだろう。
待ち伏せ・・伏兵は基本的に通用しないと考えた方がよさそうだ。

ギーン
「物量だけはこっちが勝っているんだがな。・・・もし、カジが生きていればカジに指揮をさせたかった。
・・・ラテスはまだ指揮官としては未熟だ」
ミーア
「・・そろそろ行動した方がいい。時間が惜しい」
ギーン
「そうだな。・・・少しこの場はラテスに任せ俺達は俺達で行動する」


そういってギーンが杖で地面を突く。目の前に魔法陣が現れテレポートポータルが開いた。

ギーン
「・・・」
ミーア
「・・・何を躊躇っている」
ギーン
「いや・・。・・・ミーア、五分時間を貰っていいか?」
ミーア
「珍しい事を言う。」
ギーン
「・・・連絡が入った」


もう一度ギーンが杖で地面を突く。別のテレポートポータルが開きギーンが入った。





==クエストショップ


ディバン
「おい、伝説の聖杯を持ち帰ったぞ!」
テルミット
「生命の水と言ってください・・・」
ディバン
「俺はトレジャーハンターだ。太古の伝書に残された秘宝を見つけるたびに興奮する。」
ファン
「どのくらい貰えましたか?」
ヘル
「あぁ、かなり貰って来たぞ。事情が事情だったからな」

そういうとヘルが袋から巨大なペットボトルを三つ取りだした。

ヘル
「三つ、5Lずつ入っている。」
ファン
「・・・そんなに貰って来たんですか。コップ一杯分でも十分だったのですが・・。
ですがせっかくなので有効利用させてもらいます。」
ヘル
「あぁ、そうしてくれ」
輝月
「・・・キュピルと化け物は?」
ジェスター
「化け物言うな〜!!ルイだよルイ!!」

ジェスターが輝月にタックルする。が、簡単に受け止められた。

輝月
「うぬ・・・。では言いなおうそう。キュピルとルイはどこじゃ?」
ファン
「二人とも今部屋に戻っています。・・・生命の水届けてきます」

ファンが生命の水が入った巨大なペットボトルを自宅に持ち運んだ。


自宅に戻るとキュピルが何か家事を行っていた。
・・・触手を伸ばして一度にたくさんの事をしている。

ファン
「キュピルさん。生命の水貰って来ましたよ」
キュピル
「あぁ、ファンか。ありがとう。」
ファン
「何故家事をしているんですか?」
キュピル
「・・・考え事が止まらなくて。・・・何か行動したかった」
ファン
「そうですか・・・」

キュピルが生命の水が入ったコップを受け取る。そして一気に飲み干す。

ファン
「・・・どうですか?」
キュピル
「・・・・。普通に美味しい水だった」
ファン
「効果なしですか・・」
キュピル
「・・・やはり水をそのまま飲むだけではダメみたいだ。」

クエストショップに続く扉が開いた。・・ジェスターがやってきた。

ジェスター
「・・・だめだったの?」
キュピル
「・・・飲んだけどダメだった。」
ジェスター
「じゃぁ、体にかける!」
キュピル
「試してみるか」

もう一度コップに生命の水を注いで頭からかぶる。

・・・・。

・・・・・・・・・。

しかし変化はない。

ジェスター
「・・・だめ?」
キュピル
「・・・完全にダメっという感じはしない。というのも妙に触手がヒリヒリして痛い・・」
ファン
「効果があるのかそれとも悪化しているのか少し判断しづらいですね」
キュピル
「そうだな・・」

雑巾で濡れた床を拭く。

ファン
「・・・何とか治療方法を見つけ出します。ティチエルさんやアイゾウム先生の力を借りれば
治療方法は見つかるはずです」
キュピル
「頼む・・」

その時クエストショップに続く扉が開いた。・・・誰が来た?

キュピル
「ギーン!」
ギーン
「・・・!!!キュピル!その姿は・・まさか狂気化したのか!?」
キュピル
「見た目は狂気化状態だが白魔法のスペシャリストにキュアをかけてもらったら
姿はそのままだが精神的部分は回復した。」
ギーン
「ルイは!?」
キュピル
「・・・・残念だけどルイはキュアをかけても戻らなかった。
恐らくだけどキュアをかけてもらった時、俺はまだ完全に精神が狂気化に染まっていなかったってのが
大きいかもしれない・・」
ギーン
「ったく、お前という奴は本当に恐ろしい奴だ。・・・よく意識を保てたな」
キュピル
「・・・ルイに励まされた」
ギーン
「ルイに?」

その時ギーンがはっと我に帰った。

ギーン
「こうしている場合ではない。キュピル、ついにオルランヌがトラバチェスへ向けて進撃が開始された。」
キュピル
「なんだって!?ってことは・・・?」
ギーン
「・・・もうまもなく開戦だ。双方の戦陣がそろそろぶつかる」
ジェスター
「・・・また戦争が始まるんだ・・」
ファン
「ギーンさんがここにいるってことは指揮官はギーンさんではないのですか?」
ギーン
「相変わらず察しがいいな、ファン。そうだ、指揮官は別の奴に任せている」
キュピル
「切れ者のお前さんが指揮官をしない・・っということは何か行動するのか?」
ギーン
「お前も察しがいい。・・・精鋭と共にオルランヌへ行く」
キュピル
「・・・オルランヌ?・・・まさか少人数でオルランヌを直接たたくというのか!?無茶はやめておけ!」
ギーン
「ふん、無茶か?俺の記憶ではたった数人の、それも学生がトラバチェスを崩壊させた奴がいるが?」
キュピル
「・・・まぁ、確かに・・・そうだが・・。そうだ、ギーン。俺も行こう。」

ギーンが首を横に振った。

ギーン
「キュピル、お前が無事ならば連れて行きたいと思っていたがその姿ではダメだ」
キュピル
「何故?・・・こう言っては何だが体は狂気化した状態だ。戦闘能力ならかなり向上している」
ギーン
「そういう問題じゃない。・・・万が一お前が捕虜になったらどうする。
そして精神も病まない新しい狂気化の技術が開発されたらどうする気だ。」
キュピル
「・・・・」
ギーン
「・・・だがキュピル。・・もう一つ、お前に依頼をしておきたい。いいか?」
キュピル
「店は経営している。」
ギーン
「トラバチェスに行って防衛してくれ。・・・この戦いは防戦一方になる」
ジェスター
「何で?」
ギーン
「ふん、お前に話した所で理解できるか?」
ジェスター
「あー!私を馬鹿にしたー!」
ギーン
「キュピル。トラバチェスの首都が直接攻められる事が起きれば国の機能が完全にストップする。
・・・国の機能がストップすれば民が大きな被害を受け内乱を引き起こす火種にもなる。
トラバチェスの首都を守っている複数の拠点を防衛してもらいたい」

キュピルがジェスターを制止させながら答える。

キュピル
「あぁ、任せてくれ」
ギーン
「お前が味方でよかったと思っている。今から開けるテレポートポータルは常に使用可能状態にしておく。
・・・もし敗北が確定したらこのポータルを再び通って逃げていい。
・・・頼んだからな」

そういってギーンがテレポートポータルを開く。先にギーンが中に入り移動した。

キュピル
「・・・チーム編成しよう」
ファン
「分かりました」

キュピルとファンとジェスターがクエストショップに移動した。



ヘル
「・・・キュピルさん。何を話していたのですか?」
キュピル
「これから話す」
ディバン
「俺にもしっかり分かるように話して貰うぞ。・・何も聞いていないからな」

キュピル
「・・・そうだな、ディバンのためにも下から全て話していこう。
・・・恐らくまだ皆も聞いた事のない部分も混ざっている。
先に言う。・・・このクエストショップは個人の利益を追求するために企業したのではなく
トラバチェスを再建させるために建てた。」
テルミット
「どういうことですか?」
キュピル
「・・・ギーンに頼まれていた事があった。・・・戦争を止めるには、戦争を再発させないためには
記憶の宝珠と呼ばれる物が必要だっと」
ディバン
「記憶の宝珠・・・。ラビラル島に伝わるあの宝珠か」
キュピル
「そうだ。・・・もう二度と戦争を起こさないためにも記憶の宝珠を使ってアノマラド大陸に居る全ての人に
記憶を刻み込む・・・そうギーンは言っていた。・・・あまり詳細な所は聞いていないが・・・。
ともかく記憶の宝珠を探すためにこのクエストショップは建てられた。
・・・クエストショップには色んな旅人が来る。記憶の宝珠を知っている人が来るかもしれないって思ってな」
ファン
「・・・初耳です」
輝月
「ほぉ、ファンにも隠しておったのか?」

キュピル
「・・・事が起きるまでは隠そうと思っていたからな。
ただ途中からこのクエストショップにもう一つ・・役割が与えられた。」
琶月
「また別のアイテムを探す・・ためですか?」
キュピル
「・・・囮・・フェイクだ」
ヘル
「・・・囮だと?」
キュピル
「これは俺もギーンも全く想定していなかった。
どこで知ったのは分らないがトラバチェスの元首相が俺のクエストショップの場所を知っていたらしい。
・・・そして良いように俺達を利用してくれた」
テルミット
「ちょっと待ってください。良いように利用して『くれた』ですか?」
キュピル
「・・・ああ。もし校長が俺達を利用してくれなければ校長の拠点を割り出す事も出来なかったし
狂気化に関する詳細な情報を得ることだって出来なかった。これは幸運な事だった」
ディバン
「ちょっといいか?何故ここで元トラバチェス首相が出てきた。」
キュピル
「・・・半年ほど前。アノマラドとオルランヌとトラバチェスが戦争を起こした。知っているか?」
ディバン
「・・・少し聞いた事はあるな」
キュピル
「その三つ巴の戦争を引き起こした人物が元トラバチェス首相だ。・・・詳細な狙いは分らないが
人道に反した方法でアノマラド大陸全てを我がものにしようとしているのは確かだ」
ディバン
「わかった、とにかく今回の敵の主将だと思えばいいんだな。
・・・それで、利用されていたって事はいつ気付いた?」

キュピル
「ディバンは分らないと思うがケルティカの一件でトラバチェス元首相が関与したのを知った瞬間から
『もしかすると良いように使われているかもしれない』って気付いた」
ジェスター
「何で利用されているって分かったのにクエストショップの経営続けていたの?」
キュピル
「一つは記憶の宝珠を探し続けるため。
・・・もう一つはあえて利用されることによって向こうの情報を掴む・・っということ。
後はもう皆の知っての通りだ。・・・依頼を達成するために輝月と琶月とジェスターとファンとディバンが
コンテナ型拠点に乗って移動したら遠隔操作を受け拠点に飛ばされた。
あれは俺とギーンを誘い出す罠だった。・・もちろん罠と知っておきながら飛び込んだ。
これも情報を手に居れるために・・・。・・・その結果はあまりよろしくなかったけどな・・。」

キュピルが改めて自分の体を見る。
誰も口出しはしてこない。

キュピル
「・・・さっきギーンが来てトラバチェスとオルランヌが開戦した事を伝えてきた」
ファン
「開戦・・・ですか!?」
キュピル
「・・・ああ。」
ディバン
「・・・ギーンって奴は誰だ?」
キュピル
「現トラバチェス首相だ。」
ディバン
「・・・驚いたな、お前の顔は広いな。まさか首相とも知り合いとは」
琶月
「あの・・。さっき戦争を再発させないためには記憶の宝珠が必要って・・言ってましたよね?
手に入れたのに何で使わなかったのですか?」
ディバン
「・・・古の魔力だな?」
キュピル
「流石ディバン、その辺は詳しいな。・・・記憶の宝珠に魔力を流すと宝珠の力が発揮される・・・のだが
普通の魔力ではだめらしい。・・・古の魔力という特殊な魔力が必要らしい」
ディバン
「古の魔力は大昔ラビラル島に存在していた。・・・今の魔法とは全く違う代物だ。
今この世界で漂っている魔力を使って古の魔力を作るのは不可能と言われている。」
キュピル
「・・・不可能?」
ディバン
「らしいな。」
ファン
「・・・科学、魔法に不可能はありませんよ」
キュピル
「・・・話の続きに戻ろう。ギーンは俺達に頼みごとをしてきた」
輝月
「頼みごとじゃと?」
キュピル
「ああ。・・・トラバチェスの防衛を頼んできた。ギーンの話では既存兵力ではオルランヌを防ぐ事は難しいらしい。
万が一トラバチェスの首都が攻撃され国の機能がストップすれば一番被害を受けるのは民だ。
食糧難や水不足は当然引き起こすことになるし戦争と言う名前の深い傷跡を残すことにもなる。
・・・結果、新しい戦争や反乱を引き起こす火種になる。それを防ぐために何としても首都を守る必要がある。」
ヘル
「つまり、トラバチェスの首都にオルランヌ兵を入れないように守ってくれってことか・・・。」
キュピル
「その通りだ。・・・トラバチェスの首都は複数の拠点に守られている。
この拠点が陥落しない限り首都を攻めることはできない。仮に強行突破してきたとしても
険しい山岳や森林地帯を通ってきた兵士は疲労が貯まり体力も減っている。
首都に残っている守備兵で簡単にやられる」
ジェスター
「・・・何だか怖い・・」

・・・ジェスターが震えている。

キュピル
「・・・もう一度はっきり言う。こいつは『戦争』だ・・・来てくれとは言わない。
俺以外全く関係ない戦いだしな・・。」
ディバン
「・・・・・」
琶月
「・・・・・」

全員黙る。当然と言えば当然だろう。

キュピル
「・・・そろそろ行かないといけないな。」
輝月
「お主は行くのか?」
キュピル
「関係者だからね。・・・いい加減この連鎖を止めて見せる」

輝月が溜息をつく。

輝月
「・・・全く。お主の目に宿っていた決意というのはまさかこの事じゃないだろうな?
今お主が言ったのとは違う決意だったようにも思えたが・・。・・・まぁ、よい。
お主が行くというのであればワシも行くぞ」
琶月
「し、師匠!正気ですか!?戦争ですよ!死にますよ!!」
輝月
「・・・確かにワシもこういう事は避けたい。・・・私だって死が怖い。
常に死と隣り合わせな場所に行きたくない」
琶月
「な、なら行く必要ありませんよ!キュピルさんだって来なくていいって言ってますし・・」
ディバン
「・・・・。」

ディバンも降りるべきだなっという目をしている。・・・良く見るとテルミットもだ。

輝月
「私はキュピルに恩を返さねばならない。・・・今奴は困っておる。
・・・ここでワシはキュピルに恩を返す」

そういって輝月がキュピルの横につく。

ヘル
「はんっ、全員びびってのか知らないが俺より強い奴はキュピルさんだけだ!!
例え戦争に行ったとしても俺は負ける気がしない!行くぞ、テルミット!」
テルミット
「えぇっ!?・・・・。・・・はぁ、相変わらずって所ですね・・・。
・・・わかりました、ついていきますよ。だけど無茶なことしようとしたら止めますよ」
ヘル
「無茶はしない」

そういってヘルとテルミットもキュピルの横につく。

琶月
「・・・う、・・うぅ・・。師匠・・私は・・」
輝月
「・・・お主は来なくてもよい」
琶月
「え?」
輝月
「・・・弟子を死なせる訳には行かんからな」
キュピル
「・・・、琶月は来ない方が良い。・・・15歳が来る所じゃない。もっと言えば17歳が来る場所でもない」
ディバン
「お前はどうなんだ、キュピル。近い年齢だぞ」
キュピル
「二十歳はもう大人だ」

ディバン
「・・・お前20歳だったのか」
キュピル
「・・・もうちょい経てば21歳だけどね」
ジェスター
「そういえばキュピルはもう二十歳行ってたよね。最近凄い勢いで日が経って行くから気付かなかった」
ファン
「まともな誕生日会も開けませんでしたね。・・・アノマラド魔法大立学校が壊されたその数週間後が
誕生日でしたから」
ジェスター
「あれ?知ってたの?全然気付かなかった!」
キュピル
「誕生日は別にどうでもいいよ。・・・とにかく俺はもう行ってくる。
・・・ジェスターとファンは自宅に残っててくれ。」
ジェスター
「私も行く!」
キュピル
「・・・残っててくれ。出来たらルイの面倒を頼む」
ジェスター
「・・・行く!」
キュピル
「ファン一人じゃルイの面倒をみるのは重荷だ。残ってくれ」
ジェスター
「行くもん!」
キュピル
「・・・頼むから残ってくれ」
ジェスター
「絶対行く」

・・・・。

・・・・・・・・・・・。

キュピル
「ジェスター。・・・エユの約束を果たさせてくれ」
ジェスター
「ねぇ、キュピル。最近過保護になってるよ。・・・私だってちょっとずつ成長してるから」

今一瞬ジェスターが大人に見えた。

・・・・・。

キュピル
「・・・ジェスター、わかった。ただこれだけは守ってくれ。俺からは3m以上離れない。いいね?」
ジェスター
「うん!」
キュピル
「・・・っというわけだ。ファン。ルイの面倒を頼む」
ファン
「わかりました」

琶月とディバンがどうするか悩んでいる。
この際指示を与えることにする。

キュピル
「琶月、ディバンお願いしていいか?」
ディバン
「何だ?」
琶月
「・・・何ですか?」
キュピル
「俺達が戦地に行っている間、ファンは狂気化の治療方法を探すと思う。・・・その手助けをしてやってくれ」

ディバンが頷く。もし治療方法が見つかりアイテム収集することになればディバンの力が役立つだろう。

琶月
「・・・私からもお願いしていいですか?」
キュピル
「ん?」
琶月
「・・・師匠の事よろしくお願いします・・」
輝月
「私は死なぬぞ。」
キュピル
「大丈夫だよ、琶月。」

・・・・キュピルが振り返り自宅へ続く扉をあける。

キュピル
「・・・トラバチェスへ続くテレポートポータルは俺の自宅に今通じている。
ここのテレポートポータルはずっと開けておくらしい。
もし、もうだめだと思ったらテレポートポータルを通ってすぐに逃げても構わない。
・・・それじゃ準備ができ次第行こうか」

全員それぞれの行動を開始した。
・・・キュピルも一旦自宅に戻り必要な道具をそろえることにした。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。


キュピル
「(・・・大体こんなものでいいだろう・・・)」

ポーション・・道具・・装備・・・。
・・・正直今の体にあう装備はないが籠手ぐらいは使えるだろう。

・・・・。

キュピル
「・・・ルイの様子を見るか。」



自分の部屋を出てルイの部屋に入る。
・・・ベッドの上で丸くなっている。

キュピル
「・・・ファンがきっと治療方法を見つけてくれる。・・・それまで待っててくれ。ルイ・・・」

その時ルイが起き上がりキュピルを見つめた。
・・・が、またベッドの上で横になり目を瞑った。

・・・ルイの部屋から出てポータルの前で待機する。
しばらくすると皆やってきた。

ヘル
「準備はできた」
テルミット
「同じく出来ました」
輝月
「いつでも良いぞ」
ジェスター
「いけるよ〜!」
キュピル
「・・・よし。忘れ物ないように・・・って言っても仮に行った瞬間に忘れ物しても戻って来れるか」

苦笑しながら言う。

琶月とディバンとファンがやってきた。

ファン
「キュピルさん。ルイさんの面倒は見るので安心してください。・・・治療方法も探します」
琶月
「私はなるべくファンさんをお手伝いします」
ディバン
「・・適当にクエストショップの事も見てやる」
キュピル
「頼んだ。・・・そいじゃ」

そういってキュピルがテレポートポータルに飛び込んだ。
次にジェスターが飛び込み、ヘル、テルミット。そして最後に輝月が琶月に手を振ってから飛び込んだ。


ファン
「・・では僕達は与えられた仕事をこなしましょう」
琶月
「・・はい」










==トラバチェス・首都  




キュピル
「・・・ここはギーンの王座がある場所か」

ジェスターとヘルとテルミットと輝月がやってきた。

テルミット
「ここはどこですか?」
キュピル
「トラバチェス首都の王室だ。」
ヘル
「・・・部屋の端に3つのテレポートポータルが更に開いているぞ」
輝月
「何処かに繋がっているようじゃな?」

テルミットが近づき調べる。

テルミット
「・・・これは先程僕達が乗ったテレポートポータルと同じ仕組みで出来ています。
当分の間このポータルは開いていると思います。」
ヘル
「っということは試しに乗っても戻れるってことか」

ヘルがテレポートポータルに飛び込んだ。
・・・しばらくして戻ってきた。

ヘル
「拠点らしき場所に繋がっていたぞ。人は誰もいなかった」
キュピル
「そうか。・・・っということは3つ拠点あるのか・・」

同時に攻められたら少し大変だ。
その時誰かがやってきた。こっちを見るなり怪しい目で見てきた。

キュピル
「俺達はギーンの頼みでやってきた。別に怪しいものじゃない」
髪の長い男性
「・・・話は伺っています。念のため名前を仰ってください」
キュピル
「キュピルだ」
髪の長い男性
「・・・ギーン殿から話は伺った通りの名前だ。私の名前はラテス。よろしくお願いします」

キュピルも頭を下げる。

ラテス
「・・・状況は既にご存知ですか?」
テルミット
「既に開戦したっというのは聞きました」
ラテス
「では詳しくご説明する必要はありませんね。・・・貴方がたの実力はギーン殿から伺っています。
・・・今回私、ラテスがトラバチェス軍全てを指揮することになっていますが副指揮官がいない状況です。
三つの拠点に移動しそこで副指揮官をやってもらいたいのですがよろしいですか?」
キュピル
「副指揮官はこっちで決めていいですか?」
ラテス
「構いません」

キュピルが即答する

キュピル
「まずは俺が指揮します。もう一人はテルミット。そしてもう一人はヘルだ」
輝月
「ほぉ?私は指揮官に向いてないと言うのじゃな?」
キュピル
「・・・正直ちょっと難しい。一応詳細な指揮についてこれから決める。
大原則としてラテスから直接指揮が来た場合はラテスの指示に従う事。
そしてもし俺から指示が来たら皆は俺の指示に従ってくれ。
何の指示も出ていない間は各自それぞれ指揮してくれ」

全員頷いた。

キュピル
「ヘル、お前さんは前線に出て兵士を鼓舞しながら戦ってくれ。士気が向上する」
ヘル
「任せてくれ」
キュピル
「テルミット、君は籠城戦に持ち込んで冷静な判断を下しながら戦えばかなり長持ちするはずだ。」
テルミット
「了解です!」
キュピル
「最後にチームだ。俺はジェスターを連れてく。輝月はヘルと一緒に行ってくれ。・・・喧嘩はするなよ」

二人とも一瞬チラッと相手を見たが場はわきまえているようだ。

キュピル
「テルミット、籠城戦ということで一人にしたが大丈夫か?」
テルミット
「大丈夫です。でも何かあったら救援出してもいいですか?」
キュピル
「構わない。手が開いていたら援護するよ」

ラテス
「(・・・流石ギーン殿がほめたたえていただけはある。一人一人しっかり見ているようだ)」

キュピル
「輝月はヘルからなるべく離れないように戦ってくれ。二人が一緒に戦えばまず負けはないはずだ。
・・ヘル、輝月を守ってやってくれ」
輝月
「ヘルに守られなくても自分の身は自分で守れるぞ」
キュピル
「念のためだ。いいね?」
ヘル
「・・・わかりました」
キュピル
「よし、では行こう」

ラテスが間に入った。

ラテス
「キュピルさん。・・・貴方のその姿は兵士の士気が多少下がるかもしれません」
キュピル
「大丈夫、いい案がある」
ラテス
「・・・案ですか?」
キュピル
「見てれば分る」

そういってキュピルが一つのテレポートポータルに入った。ジェスターも後に続いた。
ヘルと輝月も別のテレポートポータルに入りテルミットも残りのテレポートポータルに入った。





トラバチェス兵
「・・・・!!な、何奴!!」

トラバチェス兵が首都から飛んできたキュピルを見て驚く。

キュピル
「うろたえるな。我が主・・ギーンの召喚魔法によって冥界から呼び出された悪魔だ。
この拠点を指揮するように主に頼まれた。・・・安心するがよい、私がついたからにはこの拠点は不落の要塞だ。」
トラバチェス兵
「お、おぉ・・。流石ギーン様。こんな化け物を召喚して扱えるとは・・・。」

異様なオーラーを出しつつ、いかにもありそうな事を言う。
・・・すっかり騙されたようだ。

キュピル
「これよりこの拠点は私が指示する!!」






ヘル
「いいか!皆よく聞け!!俺はトラバチェスの首都から派遣された指揮官だ!
指揮官だからといって俺は拠点に籠る気はさらさらねぇ!前に出て戦う!」

トラバチェス兵
「指揮官が倒れたらどうするんだろうか・・・」
トラバチェス兵2
「不安だな・・」






テルミット
「ラテスさんとギーンさんに頼まれてトラバチェス首都から指揮官として派遣されたテルミットです。
・・・相手は強大な力を保持した敵です。強大な力を持った敵は被害を少なくして一瞬で敵を潰そうと考えます。
その場合敵の攻撃力は凄まじいものがあります。ですが最初さえ凌げば相手はすぐに息切れを起こします。
籠城戦で耐え凌ぎ反撃の機会を待ちます」




全員指揮官の位置につき、それぞれの作戦を発表し始めたようだ。







==ジェスターのクエストショップ



ルシアン
「ファン?ファンファンだっけ?」
ファン
「ファンです。何か情報でも見つかりましたか?」
ルシアン
「アイゾウム先生連れてきたよ!」
ボリス
「・・・かなり強引に連れて来てしまったが・・。アイゾウム先生、本当に申し訳ありません」

アイゾウム先生が少し苦笑いしながら応える

アイゾウム
「アクシピターの皆さんにはいつもお世話になっていますから構いませんよ。
・・・それで、奇病にかかっている患者はどちらにいらっしゃいますか?」
ルシアン
「・・・先生。最初に一つ行っておく事があるんだ・・」
アイゾウム
「何ですか?」
ルシアン
「かなり重症だよ・・」


ディバンと琶月が一旦キュピルの家に入りルイを連れてきた。
大人しくしているが相変わらず恐ろしい見た目をしている。一瞬アイゾウム先生が怯んだ。

アイゾウム
「・・・びっくりしました。・・・ボリスさんの時より酷い状態ですね。これは末期症状ですか?」
ファン
「専用の装置で検査してみないとわからないのですが・・・。まだ進行状態だと思います」
アイゾウム
「・・・これは治療方法探すのはかなり大変です。」
ティチエル
「この人を救う事はできないのでしょうか・・・」

ルイがディバンと琶月を押しのけソファーの上で横になってしまった。

ディバン
「・・・力がとても強い。何時襲ってくるかわからないな・・」
ファン
「恐らく襲ってこないと思いますが・・・」
アイゾウム
「・・・確かナルビクにはメリッサさんがいましたよね。メリッサさんを呼んで来てください。
この奇病はウィルスによるものか、それとも魔法や呪いによる術的による病気なのか調べる必要があります。
奇病でしたら薬を、魔法や呪いでしたら解呪の方法を探さなければなりません。少しずつ調べて行きましょう」
ファン
「よろしくお願いします・・」
ミラ
「今からメリッサさんを連れてくる。一応アタシも顔が利くからね」

ミラがクエストショップから出る。
・・・ディバンがルシアンに話しかける。

ディバン
「坊主。・・・その紋章。まさかラグランジュの末裔か?」
ルシアン
「あれ?もしかして僕の事しってるの?」
ボリス
「どちらかといえばルシアンのお父さんの方だと思うけど・・」
ディバン
「俺はトレジャーハンターだからな。世界各地を渡り歩いている。お前の親父さんに世話になった事がある」
ルシアン
「わぁ!僕のお父さんと合った事あるんだ!それにトレジャーハンターだって!いいなぁー僕も冒険したいなー」
ディバン
「全てが終わったら連れてってやる。世話になってるからな」
ルシアン
「ほんと!?よーし、僕頑張るぞ!」
ティチエル
「冒険ってワクワクしますよね!」

何故かティチエルもその気になっている。
ちょうどその時ミラとメリッサが入ってきた。

メリッサ
「あら・・・。最近ルイちゃんを見ないわねって思ったら・・・こんな事が起きてたのね・・」
ファン
「・・・ちゃんですか。」
メリッサ
「女の子は皆ちゃんづけよ。」
アイゾウム
「メリッサさん。彼女の治療方法を探さないといけないのですがこれがウィルスなのか魔法なのか
調べなくてはいけません。そちらの技術で魔法検知できませんか?」
メリッサ
「そうね・・・。ルイちゃんはお得意様だからすぐにやってあげるわ」
ファン
「お得意様だったんですか」
メリッサ
「ええ。いつも霊感グッズを買ってくれるのよ」
ファン
「・・・・どこでルイさん買ってるのかと思えばメリッサさんの所だったんですか・・・」
メリッサ
「さっ、特殊な魔法陣を張るわよ。皆ちょっと離れて頂戴」

全員ルイから離れるとメリッサが腕を前に突き出し無言詠唱を始める。
・・・魔法陣が現れゆっくりと回転し始める。途中でルイが起き上がるが魔法の力で抑えつけられている。

メリッサ
「はぁっ!」

メリッサが叫ぶ。その瞬間魔法陣が淡く光りそして消えて行った。
・・・魔法陣が消えそして一枚のシックな紙がひらひらと落ちてきた。

ティチエル
「紙が落ちてきましたよ」
メリッサ
「この紙に結果が書いてあるのよ。えーっと・・・。
・・・・・どうやら魔法じゃないようね。マナの力は全く感じられなかったわ」
アイゾウム
「・・・ということはウィルスを想定しておいたほうがよさそうですね」
ファン
「遺伝子操作っという可能性はありませんか?僕の推測ではここまで人を凶暴化させ
圧倒的な体力を持ちますとウィルスの力を借りているのかもしれませんが遺伝子が操作されているような気もします」
アイゾウム
「・・・遺伝子操作されていた場合治療はかなり困難を極めますね」
琶月
「・・・その場合治療は無理なんですか?」
アイゾウム
「無理ではありません。薬できっと治せます。とりあえず話を聞かせてください。」


ファンが一連の出来事を話す。狂気化直前の輝月にキュアをかけたら完治した話し、
キュピルはキュアをかけた所精神は治療されたっという話・・・そして
ルイには全く効果がなかったという話。


アイゾウム
「・・・やはり遺伝子操作が考えられますね」
メリッサ
「そうねー・・。ティチエルちゃんのような高位魔術師のキュアでも治せないんだったら
遺伝子が怪しいよねー・・。もしかするとルイちゃんの中にいるウィルスはもう死滅してて
遺伝子がドンドン変わって行ってる状態かもしれないね」
ディバン
「難しい話が続いているがそいつは本当に薬で治せるのか?」
アイゾウム
「魔法の力を借りれば薬で遺伝子操作する事は可能です。しかし治療が長引く事は必須でしょう・・。」

ルイがつまらなさそうにしている。
再びソファーの上で横になってしまった。

ディバン
「当事者が一生懸命になっているというのにこいつは寝てばっかりだな」
ボリス
「・・・寝てばっかり・・か。・・・アイゾウム先生」
アイゾウム
「・・・なるほど、確かに考えられますね」
ディバン
「・・一体何の話だ?」
アイゾウム
「その形態を維持させるだけでもかなりの体力を消耗しているという可能性が今出てきました。
・・・だから寝てばっかりと」
ミラ
「それとこの病気は一体何の関係があるんだ?」
アイゾウム
「どの部分が集中的に疲労が貯まっているか、どの部分が集中的に使われているのかが分かります。
その原因を探る事が出来れば問題解決への第一歩になる可能性があります」
ファン
「まずは分る所から探って行きましょう。一応いくつかの資料はあるのでデータと共に試してみましょう。」
ルシアン
「・・・ねぇ、ボリスぅ。僕全然話が分らないんだけど・・」
ボリス
「頭のいい人が集まった会議だから分からなくても大丈夫だ」
ルシアン
「賢人の会議みたいだね!」
ボリス
「・・・それは少し違うと思うが」










エユ
「トラバチェスは民衆の居ない山岳付近に陣取っているのか?」
偵察兵
「さようでございます」
エユ
「三つともか?」
偵察兵
「そのようで」
エユ
「・・・どうやら向こうも民を巻き込みたくないという点では合致しているようだ。
しかし下手に山岳で開戦すると消耗戦が続く。なるべく今回の戦争は被害を最小限かつ最速で終わらせたい。
首都へ続く道が全て塞がれているということは回り道する場合かなりの悪路を通る必要があるか・・。」

エユが地図を開く。

エユ
「いいか?ここに街がある。ここの街から魔術師を全員呼んで来るんだ。
駆け出しでも初心者でも何でもいい。魔術師を全員呼んでくれ。」
偵察兵
「大規模なワープで一気に向こうに進む・・・そうお考えですか?」
エユ
「それは無理だ。テレポートは超上級魔法種の一つだ。この大陸の魔術師全員集めたとしても
我が軍隊を全てトラバチェスまでテレポートさせる事はできない。
スピードアップを唱える事の出来る魔術師を集めればいい。スピードアップは子供でも唱える事の出来る魔法だ。
これで一気に行軍速度を速めて山岳を迂回し戦闘を避けて直接トラバチェスを叩く。」
偵察兵
「・・・はたしてこれは上手くいく作戦でしょうか?仮に成功したとしても後続に影響が出ます」
エユ
「さっきも言ったようにこの戦争はなるべく被害を抑えかつ最速で終わらせたい。
勝利条件は簡単だ。トラバチェスの首都を落とせばいい。
・・・幸いな事にこちらには最強の兵器がある。・・・一度だけその兵器を使って首都を陥落させる」
偵察兵
「兵器・・・狂気化の事ですか?」
エユ
「・・・元トラバチェスの首相が指揮して開発した物だ。
対象を狂気化させ恐ろしい力を身につけさせた上で我々の指示に従う・・禁断の技術と言えるな。
感染方法は至って簡単だ。この試験管の中に入っている液体を飲ませるだけで良い。
魔法で拘束する必要はあるが対効果を考えると極めてローリスクハイリターンだ。
・・・ただし人道に反している。こいつを使うのは可能な限り抑えよう。」
偵察兵
「人道に反している、しかしそれでも使用なさる所が隊長らしいです」
エユ
「・・・時には心を鬼にしなくてはいけないこともある。早く魔術師を呼んでくるんだ」
偵察兵
「承知いたしました」

エユに忠誠を誓っている別の偵察兵に頼んでオルランヌから狂気化についての資料を
秘密裏にコピーしてきた書類を引き出しから取り出す。

・・・・

エユ
「(この女性が狂気化第一号・・・。元の名はルイ・アリス・トラクシーっと言うのか・・・。)」

・・・第二号も出来る予定だったらしいが第一号を引き連れて脱出したらしい。
中々やる・・・。

エユ
「(・・・この狂気化技術はトラバチェス側にも知れ渡っている・・か。
向こうは狂気化の技術を開発しようと思えば可能らしい・・が開発命令は下していない・・か。
・・・申し訳ないけどこっちは使わせてもらう。すぐに終わらせるんだ・・・この戦いを)」

被害を最小限にとどめるためにはどんな事でも実行する・・冷酷かつ元天才軍師・・。
エユを率いる軍隊がトラバチェスに牙を見せつけようとしている。







トラバチェス偵察兵
「報告!オルランヌ第一拠点に不穏な動きあり!何者かが街へ行きました!」
テルミット
「・・・街・・ですか?」

テルミットが少し考える。・・・そして考えた結果ある推測に辿りついた。

テルミット
「オルランヌ第一拠点の近くにある街は魔法が盛んに使われている街です。
もしかするとそこから魔術師を徴兵し戦闘を有利に進める・・あるいは回り道して
戦闘その物を回避しようとしているかもしれません」
トラバチェス偵察兵
「いかがいたしましょうか?」
テルミット
「呪文抵抗の陣を張りましょう。そうすれば魔法は使えなくなるはずです」
トラバチェス偵察兵
「それでは陣をさっそく張るよう指示致します」





エユ
「・・・トラバチェスの動きはどうだ」
副指揮官
「隊長の思惑通り呪文抵抗の陣を張り始めました。
中央に巨大な陣を確認したので間違いないかと。」
エユ
「トラバチェスはもっと優秀な偵察兵を出すべきだったな。これで奴は策にかかった。
呪文抵抗の陣を召喚するには大規模な人数を動員しかつその間は無防備となる。今すぐ奇襲作戦を実行する!」





トラバチェス兵
「・・・!おい!敵襲だ!!」
トラバチェス兵2
「おうおう、流石魔法大国オルランヌって所だぜ。全員シルフウィンドがかかってやがる。
テルミット隊長の言う通りに作戦を進めるぞ」


テルミット
「・・・奇襲ですか。まさかあれはフェイクだったとは驚きました・・・。
ですが籠城作戦を取っておいて正解だったみたいですね。」
副隊長
「呪文抵抗の陣はいかがいたしますか?」
テルミット
「引き続き張ってください。確かに張っている間は防御兵が減るので守備力は下がりますが
オルランヌは魔法大国なので主に魔法を使った攻撃を軸に戦ってくるはずです。
その主力攻撃を抑える事が出来るというのは結果的に拠点の防御力が上がります。」
副隊長
「分かりました。戦法の方は?」
テルミット
「基本的に城門を突破されるとかなり苦しい戦いになります。万が一投石などの対拠点用兵器が
視界に入った場合対拠点用兵器を集中的に攻撃してください。」
副隊長
「了解です」


トラバチェス第三拠点が交戦状態に入る。
魔法を封じられたオルランヌは結果的に苦手な物理戦を強いられることになり攻撃力が落ちている。
しかし呪文抵抗の陣を維持するためにトラバチェス側も半分程の兵を割いているため攻守ともに激減している。

だがテルミットの取った戦法により決してオルランヌ兵を拠点内に居れる事はなく
互いに損失が少ない状態の戦いが続いて行く。
結果的に時間稼ぎとなっている。








エユ
「開戦してから一日経ったな。戦況の方は?」
偵察兵
「報告。敵は引き続き呪文抵抗の陣を張り続けています。
主力となる魔法が封じられ攻撃力が激減、拠点を突破する勢いがありません!」
エユ
「呪文抵抗の陣を張っている間は攻守ともに下がっている。それなのに攻め落とせないのか?」
偵察兵
「対拠点用兵器を近づけさせようとしているのですがその前に破壊され現状共に損害が少ない状態での
持久戦となっています」



テルミット
「ジャッジメントショット!」

テルミットが矢を天に放ち暫くして投石機の上に雷と火を纏った矢が落ち爆発を起こした。
確実に投石機を破壊していく。

テルミット
「・・・!対拠点用兵器のハンマーが近づいています!集中攻撃してください!」

城門の前であの凄まじい威力を持つ鉄のハンマーが拠点に振り落とされたら一発でぺしゃんこになる。
全兵士が死に物狂いで対拠点用兵器を破壊しようとする。
しかし高い耐久力の前に中々壊れない。

テルミット
「車輪を狙ってください!少なくとも車輪が壊れれば破壊は出来なくともそれ以上前進することはありません!」

テルミットの指示通り車輪を集中砲火する。誰かが放ったロケットランチャーが車輪に命中し
兵士を吹き飛ばしつつ車輪を破壊することに成功した。・・・なんとか食い止めれたようだ。




偵察兵
「兵力・守備力共にトラバチェスが若干上回っている形です。やはり魔法を封じられてしまった現状では
兵器大国のトラバチェスのが上です。」
エユ
「・・・持久戦はこちらに取って不利になる。互いの損害が少ない所を見ると敵は完全に時間稼ぎを取りに来ているな。
どうやら向こうの指揮官は多少頭がいいようだ。このまま力技で攻め落とせるとは思えない。作戦を変えよう。
・・・次は第二拠点を攻略するか。」











数日後・・・次に動きがあったのはヘルと輝月がいる拠点だった。
平坦な場所で周りを遮る物が何もない場所。
唯一首都に続く道は山岳に囲まれておりその道を塞ぐかのように拠点が置かれている。
地平線の先から物凄い軍勢が突撃してきた!

ヘル
「来たな、オルランヌ!出撃する!!」

ヘルが巨剣を構えて誰よりも先陣に飛び出た!!

輝月
「お主が一人だけ前に出てどうする気じゃ!足並みを揃えよ!」
ヘル
「俺はもう待ちくたびれたんだよ!!」

しかし全くヘルは言うことを聞かず近づいてきたオルランヌに接近を続ける!
その後を兵士と輝月が追う。

オルランヌ兵が一斉に魔法を放った!

ヘル
「うおりゃっ!!」

巨剣を横に振り魔法弾を撃ち返す。撃ち返した玉がオルランヌ兵に着弾し爆発を引き起こす。

ヘル
「こいつでも喰らえ!!」

ヘルが巨剣を投げつける。投げつけた巨剣が一人の兵士に突き刺さり大きな爆発を起こした!
近くに居た兵士を巻き込む。
ついにオルランヌ兵がヘルの目の前までやってきた!持っていた槍を前に突き出してきた!

ヘル
「そんなヘボい攻撃でよく兵士になれたな!」

攻撃を回避し巨剣を魔法で引き寄せる。引き寄せた巨剣がヘルの直線状にいる兵士を巻き込みながら戻ってくる。

ヘル
「必殺技でもくらえ!」

ヘルが巨剣の上に乗っかり空高く飛ぶ。そして巨剣から降りて沢山の巨剣の幻影を投げ飛ばす!
巨剣の幻影が兵士に突き刺さりそして大きな爆発を起こした!
かなり広範囲で爆発が起き一気に数十人規模で倒した。

オルランヌ兵
「な、なんだあいつは!指揮官か?」
ヘル
「俺はトラバチェスの指揮官、ヘルだ!!ここから先は絶対に通さねぇっ!!!」


ヘルが叫び周囲のオルランヌ兵を怯ませた。
ちょうどその時トラバチェス兵と輝月が前線に到着し怯んだオルランヌ兵を一斉に攻撃し始めた!

トラバチェス兵
「あの指揮官は死にそうにないぞ!」
トラバチェス兵2
「ギーン様もいい子分を持っている」
ヘル
「俺はギーンの子分z・・・」

ヘルが叫ぼうとしたら輝月に抑えられた。

輝月
「言うな。言ったら不信感を持たれるぞ」
ヘル
「ぐっ・・!」

輝月がヘルを解放する。・・・一旦頭を冷やしてもう一度戦線に加わる。

輝月
「行くぞ!」

鎧に包まれた戦線の中で一人、和服を着た赤い髪の少女が居る。
その圧倒的な違和感に敵味方全員が若干動揺している。
しかし輝月の戦闘能力を見てすぐに動揺は消えた。

その時一斉に魔法弾が飛んできた!!
対抗してトラバチェス軍も後方で矢を一斉に放つ。互いに空中で相殺し合うが一部の魔法弾が
トラバチェス軍に直撃する。輝月の目の前に魔法弾が降ってきた!

輝月
「反!」

輝月の周りに膜ができる。その膜に魔法弾がぶつかり跳ね返っていきヘルに飛んでいった。
それに気付いたヘルはしゃがんで回避しオルランヌ兵に直撃した。

ヘル
「おい、わざとか?」
輝月
「お主を信用してやった」
ヘル
「・・・ちっ」

言い返すにも言い返せない。

ヘルが指揮している拠点は圧倒的に士気が高く有利に戦闘を進められていた。







開戦してから数時間後、オルランヌの偵察兵が慌てて帰ってきた。


偵察兵
「報告します。第二拠点では現在白兵戦が繰り広げられています。
敵指揮官自らが前線に立ち自軍を鼓舞しながら戦闘を薦めています」
エユ
「・・・我が軍の士気はどうなっている?」
偵察兵
「指揮官自ら前に立って戦い、そして魔法と武術を駆使した圧倒的な力を前に
こちらの軍の士気が低下しています!」
エユ
「猪突猛進な指揮官か。ならば戦法を変えよう。やや引き気味に戦いこちらの拠点に近づけさせろ。
近づいて来た所を拠点から援護砲撃を放ち一気に形勢を逆転させる」
偵察兵
「了解いたしました」







トラバチェス偵察兵
「報告いたします。我が軍の第二拠点、第三拠点が交戦状態に入りました。」
キュピル
「(ヘルと輝月とテルミットが交戦状態か・・・)
・・詳細な戦闘経過を報告せよ」
トラバチェス偵察兵
「現在、第三拠点は熾烈な攻防が繰り広げられていますが優勢な状態が続いているとのことです。
第二拠点も指揮官が自らが前に立ち徐々にオルランヌ兵が撤退を始めているとのことです」
キュピル
「第二拠点での戦いについて詳しく述べろ!オルランヌ兵は撤退しながら戦闘を続けているか!?」
トラバチェス偵察兵
「はっ・・さようでございます」
キュピル
「そいつは罠だ!オルランヌの拠点へと近づけさせ援護砲撃を入れようとしている!
今すぐ第二拠点の指揮官に下がるよう伝えろ!」
トラバチェス偵察兵
「は、はい!」

ジェスター
「キュピル怖ーい」
キュピル
「俺だってこんな威圧感のある喋り方したくないよ。でも一応設定上魔界から召喚された悪魔だから・・」
ジェスター
「デーモン!」





その時ヘルと輝月の頭の中に魔法のメッセージが届いた。

『第一拠点の指揮官、キュピル様からの通信です。【至急撤退せよ、罠がある。自軍拠点の近くで戦え】
との事です!英断を期待しています』


輝月
「ヘル。キュピルからの命令じゃ。今度はこちらが下がりながら戦うぞ」
ヘル
「ちっ、罠か。何があるのかしらねーがキュピルさんの言う事は絶対だ。
全軍!拠点へ一旦撤退するぞ!この先に罠があるらしい!」

ヘルがそう叫ぶと前線が少しずつ下がり始めた。
オルランヌ軍とトラバチェス軍の間に少しの空間ができる。
そのままスムーズに撤退する事が出来、第二拠点の目の前まで下がる事が出来た。

輝月
「敵は来ていないようじゃな?どうやらキュピルの言う通り罠があったようじゃな?」

再びヘルと輝月の頭の中に魔法のメッセージが届いた。

『第一拠点の指揮官、キュピル様からの通信です。【第二拠点の前で防衛戦を続けろ】とのことです!』

ヘル
「了解だ」








オルランヌ偵察兵
「報告!突如第二拠点の指揮官が撤退!それに伴いトラバチェス軍も撤退し第二拠点へと戻りました!」
エユ
「負傷か?」
オルランヌ偵察兵
「いえ、恐らく我が軍の拠点に接近している事に気付き状況撤退したのだと思われます!」
エユ
「・・・無能な戦士かと思ったがそういうわけではないというのか。
だが向こうから攻めてくる気がないのであれば都合が良い。第二拠点襲撃部隊の兵士を
全て第一拠点襲撃部隊と合流させろ。圧倒的な力で第一拠点を落とす。
だがその前に敵を知る必要がある。偵察してくれ」
オルランヌ偵察兵
「了解しました」
エユ
「第三拠点での戦いはどうなっている?」
オルランヌ偵察兵
「互いに死者が殆ど出ていない状況です。ですが兵力は削れない状態です。」
エユ
「それでいい、向こうも他の拠点にこれで援軍を出せなくなる。すぐに兵力を整えろ、第一拠点を攻める。
直接俺が指揮しに行く。」
オルランヌ偵察兵
「了解しました」





戦いは続いている。
魔法と弾丸、矢から爆弾が飛び交い彼方此方で爆音が鳴り響く。
全員疲労が貯まって行くが魔法によってすぐに疲労を回復し終わらない戦いへと再び戻って行く。


開戦してから一週間が経過した。

第三拠点は未だに攻防が続いている。
両軍共に時間稼ぎという目的があるため互いに順調だと思っている。

第二拠点は時々襲撃がやってくる程度であまり攻められてはいなかった。
しかし他に兵力を回す余裕はない。



そして第一拠点。




エユ
「出陣する!」

兵士を前に出させ一斉に第一拠点へと突き進み始めた。
偵察の報告によれば指揮官がずっと姿を隠しているらしく前に出てこないらしい。
まずは様子見も兼て兵卒を前に出す。





トラバチェス偵察兵
「報告です!オルランヌ軍がついに襲撃してきました!」
キュピル
「ようやくか・・・。すぐに迎撃準備を整えろ、籠城戦で勝負する」
トラバチェス偵察兵
「了解です!」

ジェスター
「・・・ねぇ、キュピル。私はどうすればいいの?」
キュピル
「ジェスターは物資の運搬を手伝ってくれ。恐らく弾切れを起こした人が物資支援を要請するはずだから」
ジェスター
「わかった!」
キュピル
「ちなみにもし『アパム』と叫んでたらそれは物資支援要請だから弾を渡してあげてくれ」
ジェスター
「アパム?わかった」



数時間後、オルランヌ兵が見え始めた。


キュピル
「きたな!砲撃準備!!」

スナイパーやロケット弾を全員構える。
射程距離に入る。

キュピル
「いまだ!一人も近づけさせるな!!」

一斉にスナイパーとロケット弾を発射する!
ところが、放った弾丸が謎のバリアによって防がれ全て跳ね返ってきた!
何人かが返り討ちにあい倒れる。

キュピル
「バリアか!?」





エユ
「愚か者め、俺を前にしてそんな単純戦法は使わせないぞ」

エユが後ろで高位魔法を唱え続けている。



キュピル
「ちっ、誰かが魔法を唱えているな・・!」

さっきから何人かが撃っては隠れ撃っては隠れと続けているが全て跳ね返され拠点にダメージが入る。
ついにオルランヌ兵の攻撃射程内に入り魔法弾が飛んできた!
拠点に有効な魔法が次々と飛んでくる。
そのまま防ぐすべもなく拠点にぶつかり大爆発を引き起こす。

キュピル
「白兵戦だ!白兵戦で行くぞ!」

城門の扉が開きトラバチェス兵が一斉に突撃を開始する。
バリアをすり抜け直接物理攻撃を仕掛けに行く!
何とか攻撃は通っているみたいだが飛び道具が使えないのが物凄く痛い。
オルランヌ兵が後ろに少し下がり遠距離攻撃でトラバチェス兵を攻撃し始めた。
トラバチェス兵の何人かがバリア内で射撃するが射撃した瞬間弾丸が跳ね返り銃が故障した。

キュピル
「くそ、あのバリアを何とかしない限り勝率が著しく落ちる・・・!」
ジェスター
「バリアは攻撃で壊せないの?」
キュピル
「見ての通り一般兵士があのバリアをすり抜けて中で戦っている。
恐らく攻撃した所ですり抜けるだろう。・・・かなり高位魔術師が後ろにいるはずだ。
そいつの詠唱を止めなければこのバリアは維持されてしまう」
ジェスター
「じゃあ、どうするの!?」
キュピル
「本当は出たくなかった・・・だがこれは一般兵士だけでどうにかなるレベルじゃない。・・・覚悟を決めよう」

キュピルが大声で叫ぶ

キュピル
「出撃する!」

トラバチェス兵に聞こえるように叫びキュピルが城門から飛び出る。
指揮官が戦線に参加したことにより士気が上昇する。

キュピル
「ハアアアァァァッッッッッッ!!!!」



触手を鞭のように振り回し周囲の敵を全て叩き飛ばす。

トラバチェス兵
「強い!」
トラバチェス兵2
「いまだ、指揮官に続け!」

キュピルを先頭に突撃する。オルランヌ兵が遠距離から攻撃しようとするが
キュピルの触手が伸び、10m先にいても攻撃を貰ってしまう。

キュピル
「喰らえっ!!」

触手が刃の形に変わりキュピルが突撃する。
キュピルの周囲10mのオルランヌ兵が全て刃の形をした触手に切り刻まれ即死した。
圧倒的な力を見せつけられオルランヌ兵の士気が激減する。

オルランヌ兵
「おい・・・あれは・・・狂気化じゃないのか・・・!?」
オルランヌ兵2
「トラバチェスも・・狂気化の技術を保持していたのか・・・!!?」





オルランヌ偵察兵
「報告!報告!!敵トラバチェス指揮官が戦線に参戦!
指揮官は狂気化しています!!」
エユ
「何だと!!」

エユが魔法を唱え最前線の状況を確かめる。
そこには確かに狂気化した人物がいた。

エユ
「馬鹿な・・・。いつトラバチェスは狂気化の技術を開発した・・・!?
全く開発している動きは見られなかったはずだ・・・!」
オルランヌ偵察兵
「如何いたしましょうか!」
エユ
「・・・」

エユが悩む。・・・そして

エユ
「狂気化は通常兵士の何百倍ものの力を持つ。ましてや指揮官クラスとなると元の個体も
十分強いと考えられる。奴一人で我が軍を全て片付けられる可能性が出てきた。
・・・・こちらも狂気化を使うぞ」

エユが試験管を取り出す。

エユ
「魔法で今すぐこの試験管を最前線の一歩手前の兵士に送れ。
そして適当なトラバチェス兵を一人捕まえすぐに飲まるんだ」
オルランヌ偵察兵
「了解しました」

魔術師が何人か集まり10本程ある試験管が魔法に寄って飛ばされた。
・・・・狂気じみた戦いが始まる。



続く


追伸

このシリーズ。まだまだ続きます。恐らく全シリーズ中最長



第十三話



狂気化の治療方法・・開戦した戦争・・オルランヌへ忍び込んだギーン・・・。
三つの物語が同時進行していく。

既に開戦されてから一週間が経過した。




ファン
「・・・・!アイゾウム先生、遺伝子を勝手に組み換え自己繁殖を繰り返すウィルスを発見しました!」
アイゾウム
「本当ですか?ついにやりましたね」
ディバン
「やれやれ・・・。これであのルイとかいう女を抑えつける作業は終わるのか。」
琶月
「何回弾き飛ばされた事でしょうか・・・ぅぅ・・」

原因を探るために血液や触手の一部をはぎ取ろうとする度にルイから激しい抵抗を受け皆を困らせていた。

ディバン
「で、治療方法はこれで見つかるのか?」
アイゾウム
「これからそのウィルスを細かく分析する予定です。明日になれば結果が分かるはずです」
琶月
「明日には薬が作れるといいんですけどね・・・」
ファン
「・・・貴重な薬とならなければいいのですが」


その日、ファンの部屋は一日中電気がついていた。
アイゾウムの必死な研究によって翌日、ようやく治療方法を発見した。



アイゾウム
「・・・ついに見つけました。治療方法を」
琶月
「おめでとうございます!」
アイゾウム
「・・・ですがかなり複雑な薬になります。
恐らくルイさん程症状が進行していなければもっと簡単な薬で済んだのかもしれませんが・・。
かなり時間が経過しているため遺伝子の殆どが組みかえられています。そのため
一つの薬を作るのに貴重な素材を大量に使わなくてはいけません」
ディバン
「薬の素材を言ってみてくれ。」
アイゾウム
「殆どの素材は私の店にありますが・・。・・持ってきて欲しいものはたった一つです。
・・・『精霊の木樹』です。」
ディバン
「・・・精霊の木樹か・・・」
アイゾウム
「ご存知ですか?」
ディバン
「あぁ。・・・一度取りに行った事がある。・・・ただし失敗に終わったけどな・・。」
アイゾウム
「っということは場所はご存知なのですね?」
ディバン
「知っている。・・・しかし・・・」

ディバンが何か難しそうな顔をしている。取りに行けるかどうか・・っという顔だ。

・・・・

ファン
「・・・準備が出来次第さっそく取りに行きましょう。アクシピターの人達がいるかどうか聞いてみます」

ファンがクエストショップから出る。

琶月
「何でそんな考えてるんですか?敵が強いんですか?」
ディバン
「いや・・・・。・・・まぁ、行ってみれば分るだろう。もしかするとすんなり手に入るかもしれないしな・・」
琶月
「・・・?」

数分後、アクシピターの一味がクエストショップに入ってきた。

ルシアン
「治療方法が見つかったんだって!?やったね!」
ティチエル
「私達はどうすればいいんですか?」
アイゾウム
「この方についていって精霊の木樹というアイテムを手に入れてきてください。
精霊の木樹はありとあらゆる物質を元の形に戻していく性質があります。
組み変えられた遺伝子はこの精霊の木樹で治療していきます。・・・場所が非常に曖昧で
何処にあるか知る人はとても少ないのですが・・・幸いにもそれはすぐ解決できました」
ディバン
「・・・俺の言う通りに行動してもらいたい。場合によっては惨事になるかもしれないからな。」
ボリス
「分かりました」
ファン
「一応アクシピターには依頼として受け渡してありますのでよろしくお願いします」
ミラ
「お、そいつは本当か?だったら今日は一杯飲めそうだな」
ディバン
「上手く行ったらだけどな。」
ファン
「ディバンさん。場所はどこですか?」
ディバン
「ここから走って一カ月かかる場所にある」
ミラ
「うわ・・そいつはちょっと勘弁してほしいな・・・」
ファン
「皆さん、大丈夫です。・・・キュピルさんの部屋に特殊ワープ装置機があります。
今までコンテナ型拠点に搭載してある方を使っていましたが私用の物が一つ残っています」
琶月
「あんな便利な物がもう一個あったなんて信じられない・・・」
ファン
「最近全く動かしていないので正常に動くかどうか少々不安ですが・・・」
ボリス
「・・・試してみよう」
アイゾウム
「私はここで待っていますので朗報をお待ちしております」
ファン
「分かりました」

アイゾウム以外の人全員がキュピルの部屋に入る。
・・・そして埃を被った特殊ワープ装置機の電源を入れる。
一瞬轟音が鳴り響き埃が舞った。

ファン
「これは旧型の特殊ワープ装置機です。・・・新しい方はコンテナ型拠点に積んでいたので・・。
・・・キュピルさんはこれに思い出があると言って残しておいたのですが捨てずに済んでよかったと思っています。」
ティチエル
「思い出?」
ファン
「結構複雑な思いでです」

脳裏に昔の出来事が蘇る。
・・・この装置に乗って昔の世界へ一時的に飛んだり別の世界へと沢山移動したあの出来事・・・。

・・・・。

でもある日、マキシミンのせいで異次元へ飛ぶ回路が壊れ修復不可能になってしまった。
異次元でなければ正常に作動するようだが・・・。
・・・一度解体したが通常ワープなら今でも使える。

ファンがディバンから詳細な位置を聞きながらモニターを操作して設定していく。

ファン
「準備ができました。行きましょう。
・・・それと気をつけてください。これは旧型なので一度ワープしますと二日間使えなくなります。
また、仕組みが特殊なのでこの装置に乗って移動した場合、三日後には強制的にこの自宅に戻されます。」
ミラ
「・・・わかった、行こう」

全員もう一度装備を確かめ特殊ワープ装置機に乗り込む。

ファン
「・・・言い忘れてましたが、このワープ装置機。本来は一人ずつしか送れません」
琶月
「え!?じゃぁ、こんなに乗ったら・・」
ディバン
「通りで狭いわけだ・・・」
ルシアン
「ボリスゥ、『差し詰め』状態だよ!」
ボリス
「ルシアン、『差し詰め』じゃなくて『鮨詰め』って言うんだ」

ファンがレバーを降ろす。
凄まじい光と轟音と共に全員精霊の森へとワープしていった・・・・。






==精霊の森




しばらく眩しい状態が続き全員目を瞑っていたがしばらくすると光も消え
皆周りを確認し始めた。
木々に囲まれ白い霧がうっすらと流れている。
・・・日の光も届かず少し肌寒い。ディバンとボリスがランタンを取り出し明りを確保する。

ディバン
「ここだ、懐かしいな。・・・ん、だが俺の記憶とちょっと違うようだな・・」
ファン
「・・・案の定違う所に飛ばされたようです。精霊の森から数キロメートル離れた場所のようです」
ディバン
「数キロメートルなら全く問題ない。
・・・いや、むしろ幸運だったと言うべきか。」
琶月
「?」

ディバンが特殊なコンパスを取り出し位置を確認する。
そして昔使っていた地図を広げ位置確認をする。
その時ルシアンが何かに気付いた。

ルシアン
「・・・あれ?今何かいなかった?」
琶月
「え、え、え、ちょっとまって。蜘蛛だったら私泣くから」

琶月が誰かの影に隠れようとしたが身近な人物がおらず一人で突っ立ってビクビク震えている。

ディバン
「安心しろ、樹木を守る妖精たちだ。こちらから危害を加えなければ向こうも危害を加えることはない」
ティチエル
「わぁー!妖精さんですか!?お話してみたいです!」
ディバン
「・・・お話か。出来るかもしれないな」
ティチエル
「ほんとですかっ!?・・・あのー、それで妖精さんって何処に居るんですか?見えないんですけど・・・」
ミラ
「・・・おじさん。本当に妖精がいるのか?」
ディバン
「おばさんには見えない」
ミラ
「何だって!」
ディバン
「冗談だ。」

ディバンが歩き始めた。方向を割り出せたらしい。
全員ディバンの後について行き始めた。



歩き始めて一時間ほど経過した。

ふとディバンが立ち止った。
・・・霧が濃くなってきた。

ディバン
「・・・いいか、先に忠告しておく。・・・ここから先は精霊に試されるぞ」
ボリス
「・・・試される?どういうことですか?」
ディバン
「精霊に過去を洗いざらい思いだされる。その中に精霊にとって気に食わない過去を持つ者は
森から弾き飛ばされる。」
琶月
「・・・弾き飛ばされた後はどうなるんですか?」
ディバン
「・・・俺は弾き飛ばされた一人だ。弾き飛ばされた世界は蟲と木々の触手が蠢く地獄の場所だったな。
ウィングを使って即脱出したからよかったが脱出手段を持たない者はそこで木々の腐葉土化するだろうな」

その話を聞いて全員慌ててウィングを取り出した。
・・・いつでも帰れる準備をしておく。

ディバン
「精霊にとって何が気に召さないのかは俺には分らん。・・・墓荒らしや財宝を持ちだしているからな、
俺は再び弾き飛ばされるだろう。」
ファン
「・・・皆さんに一つ追伸しておきます。先程特殊ワープ装置機に乗った際、二日間ワープ装置機が使えないと
言いましたけど訂正します。二日間、使用者はワープに関するあらゆるものが制限されます
・・・これはワープ者のEMP(環境マナ)を使用して飛ばすという特殊な物を用い・・・」
ミラ
「難しい話は要らない。・・・要するにウィングが使えないって言いたいんでしょ」
ファン
「・・・使えるには使えます。・・・ですが全く意図しない場所に飛ばされる可能性があるので
使用しないほうがいいと思います。・・・場合によっては無の世界へ飛ばされる可能性もあるので」
ルシアン
「・・・ってことはここから先を通るには勇気がいるってことなんだね」
ディバン
「・・・悪いが、ウィングが使えないなら俺は残る。・・・まだ腐葉土と化したくないからな」
琶月
「・・・・・私は・・・。・・・ごめんなさい・・・。私もダメです・・・
きっと進んだら・・・」

・・琶月にも何か好ましくない過去があるらしい。

ルシアン
「ねぇ、でも精霊に取ってどんな過去がダメなのか分らないんでしょ?
もしかしたら通るかもしれないじゃん」
ボリス
「精霊は戦いに関する事や裏切り、そして憎悪の心・・そして悪を憎む種族だ。
・・・でもルシアンなら行けるかもしれないな」

ボリスが和やかな表情で答える。

ルシアン
「ほんと!?じゃぁ、ボリスは!?」
ボリス
「・・・ルシアン。・・・俺の兄さんの話しは知っているだろ?」
ルシアン
「あ、そっか・・・。ボリスは戦ってばっかりだもんね・・・。
でもそれを言ったら僕だって学校でパイ投げ戦争仕掛けちゃったよ・・?」

ボリスが吹きだす。

ボリス
「・・・ルシアン、懐かしい事覚えているんだな」
ルシアン
「あの時はジョシュアとマキシミンも居たけどね!」
ミラ
「一体何の話をしているんだ?」
ボリス
「昔の話しだ。・・・とにかく俺は行けそうもないです。」
ミラ
「・・・実はアタイもだ。海賊やってるからね・・・。精霊が気に居るとは思えないよ」
ティチエル
「ミラお姉さん・・・。」
ミラ
「お譲ちゃんはいけるさ、あんた程純粋な子は見た事ないからねー」

ミラが笑いながら応える。

ファン
「・・・メンバーは決まったみたいですね。ルシアンさんとティチエルさんみたいですね」
ルシアン
「あれ?ファンは行けないの?」
ファン
「僕は一度だけ戦争に参加してしまったので絶対に無理ですね」
ルシアン
「えー、そんなー・・」
ティチエル
「二人だとちょっと心配だね・・」
ルシアン
「・・・何だか僕も通れるかどうか不安になってきちゃったよ」
ティチエル
「私も・・。歩いてる時蟻さん踏んじゃったかもしれない・・」

今度はディバンが笑う。

ディバン
「ハッハッハ、その程度だったら軽いもんさ。悪意を持って道理から外れていなけりゃ通れる。」
ルシアン
「うん、そいじゃ行ってくるよ」
ティチエル
「早く戻れるよう急いで行きますね」
ファン
「急がなくても大丈夫です。気をつけて行って来てください」
ルシアン
「よーし、冒険開始だ!」

ルシアンが意気込んで走り始めた。
ティチエルがその後を追う。

ボリス
「・・・何とかやってくれるだろう」
ミラ
「・・・何だか重いな。ここに残ってる人達は何か心当たりがあるって訳だしね・・」
ディバン
「別に何かしら持っていても不思議じゃない。
・・・ただし、琶月。お前は驚いたけどな。その若さでもう心当たりがあるのか」
琶月
「・・・ただ通れるかどうか心配なだけです」
ディバン
「(怪しいな)」







ルシアンとティチエルが真っすぐ前に進み続けると白い光がふわふわと飛び始めた。

ティチエル
「歓迎されているのかな?」
ルシアン
「でも通れたのは事実っぽそうだね」

一定距離進むと少し大きな川が目の前に現れた。
深さは30cmぐらいだろう。大したことはないが靴が濡れる。

ルシアン
「あ!これこれ!懐かしいなー」

ルシアンが所々置かれてある大きな石の上にジャンプし
そこからまたジャンプして大きな石の上に着地する。

ルシアン
「子供の頃ずっとこういうので遊んで夜になっても続けてたら怒られた記憶があるっけ」
ティチエル
「うーん、通れるかなー・・」
ルシアン
「大丈夫、いけるよ!」

ティチエルが意を決して石の上にジャンプする。
ゆっくりだが確実に前に進んで行った。
先にルシアンが対岸に到着しその数分後にティチエルもやってきた。

ルシアン
「ね!?楽しいでしょ?」
ティチエル
「うーん、ちょっと私には分らないかな・・・」
ルシアン
「えー。ま、いっか」

二人が更に進んでいく。



・・・・。


周りが明るくなってきた。もうランタンをつけなくてもよさそうだ。
ルシアンが息を吹きかけて火を消す。

ティチエル
「あ、見て見て!ルシアン!中央に大きな樹木があるよ!」
ルシアン
「わぁー!ほんとだ!これはすごいや!」

この木の樹齢は一体何年だろうか。
他の木と比べても圧倒的に大きく太さも他の比ではない。
その木の根っこで出来あがった沢山の窪みから水が湧きあがっておりその水がまた他の木々を潤していた。

・・・どこからともなく声が聞こえてきた。

『ようこそ、精霊の樹木へ。』

ルシアン
「あれ?何処から聞こえているんだろう?」

直接頭の中に呼びかけてきている。

『この森に入れる人は極めて少ない。・・・昔はもっと沢山の人が集まってここで宴会を開いた事もあった。
・・・でもそれも数百年も前の話し』

ティチエル
「数百年?長生きしてるんですね〜」
ルシアン
「おじいちゃん、おばあちゃんって比じゃないね」

『そうですね、貴方達からすればきっとヨボヨボのお爺さんお婆さんでしょう。』

ルシアンが要件を思い出し話しかける。

ルシアン
「あ、そうだ!僕達『精霊の木樹』っていうアイテムを貰いに来たんだけど何処にあるか知ってる?」

『精霊の木樹は今貴方達の目の前にある巨大な神木の事です。その木樹の
根っこを削り取れば良いでしょう。・・・ですが気をつけてください。
精霊の木樹は私達妖精より長生きしています。喋りこそしませんが自らの意思を持っています。
貴方が根っこを少し削る際精霊の木樹から何か語りかけられるかもしれません。』

ティチエル
「でも・・私達が木の根っこ削ったら凄く痛そう・・」
ルシアン
「ヒールじゃダメかな・・・」

『今時珍しい純粋な子なのですね。精霊の木樹もそのぐらいはお許しになると思います。』

ルシアン
「うん・・。じゃぁほんのちょっとだけ根っこ貰うね」

ルシアンが精霊の木樹の前に立ちお辞儀をする。
そしてナイフを取り出し根っこに刃を当て削り取り始めた。

『元々私達精霊と人間は共存して生活していました。
必要な物を必要な分だけ取り、互いの資源を共有していました。
私達は木々や薬草、そして安住な地を人間に分け与えました。
・・・そして人間は私達を崇拝し水不足に困った時は雨乞いをしてもらったりと
お互い必要不可欠な存在となっていました。

・・・ですが、ある時。人間に必要以上な欲が現れいつしか私達と敵対する存在になってしまいました。
あれから数百年も経過しますが世界は今も変わりません。
必要な物を必要以上に採集。その結果、枯渇しない資源も枯渇しそして新たな資源を求めて
戦いを引き起こし、更に物資を必要とし乱獲を引き起こす・・・。

人間は自らが招いた危機にまだ気づいていません。いずれこの大陸も人が住めない大地になるでしょう。』



・・・・。

・・・・・・・・。

突然脳内に精霊の木樹の記憶が入りこんできた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




ティチエル
「・・・ルシアン?」
ルシアン
「大丈夫だよ、ティチエル。この樹木も沢山の事があったみたい。今度皆にも精霊の樹木の記憶を見てほしいな」

気がつけばルシアンの手には削り取られた精霊の樹木の根っこを持っていた。

『・・・アーティファクト』

ルシアン
「ん?何か言った?」

『・・・貴方達が持っている大切な物。しっかり失くさないように気をつけてくださいね』

ルシアン
「あちゃー・・もしかして僕失くし物多いのばれちゃったの?この前もアイテム落としちゃったんだよね・・。
・・・行こうか、ティチエル」
ティチエル
「はい。妖精さん、さようならー」

ルシアンとティチエルが精霊の樹木を後にする。

・・・。

『・・・世界の崩壊がすぐそこまで迫っています。それはもう一カ月もありません・・・。』







ミラ
「ん・・・。お、ルシアン!ティチエル!」
ファン
「おや、かなり早いですね。もっと時間かかるかと思っていました」

時間的に2時間程度しか経過していない。

ルシアン
「えへへ!じゃーん!貰ってきたよ!」

ルシアンが神秘的な根っこを見せつける。

ルシアン
「精霊の樹木の根っこ!僕妖精と会話しちゃったよ!」
ディバン
「妖精と会話したと堂々と言える人間じゃなければここは通れないってことか」
ルシアン
「ん?それってどういうこと?」
ディバン
「何でもない。とにかく、でかしたってことだ」
ルシアン
「ルシアン様に出来ない事は何もないってことさー。わーっはっはっは!」
ボリス
「・・・ルシアン、調子に乗りすぎないように」
ファン
「しかし困りましたね・・・」
琶月
「ん?どうしたんですか?」
ファン
「予想以上に早く帰って来たのでどうしようかって事です。何度も言いましたけど
二日経たない限り戻れないので・・・」
ミラ
「・・・そうだった」
ディバン
「ここは安全な場所だ。ましてやルシアンとティチエルがいればな。
・・・ここで二日経過するのを待ったほうがいい」
ファン
「これを早くアイゾウム先生に届けたいところですが・・・。待つ必要がありそうですね」
ルシアン
「ねー、その間僕達探検してきていいかな?いいでしょ、ボリス?」
ボリス
「・・・ディバンさん、どう思いますか?」
ディバン
「二人は別に問題ないだろう。ここは動物は多いが誰も襲ってこない。
精霊の樹木に近づかなければお前等も探検しても問題ない」
ボリス
「・・・それならルシアンの事が不安なのでついていきます」

何人かが立ちあがり暇をつぶし始めた。






==クエストショップ・夜


アイゾウム
「・・・・もう少しで下準備は完成ですね・・・。」

ファンの部屋で薬を作る下準備をしている。
下準備さえ完成すれば精霊の樹木さえ届けばすぐに薬が作れる。



ドン




アイゾウム
「・・・・?」

大きな音が聞こえた。
・・・足跡も聞こえる。

誰かがクエストショップに入ってきたようだ。
身の危険を感じ部屋の隅にある大きな機械の後ろに隠れる。
その直後誰かが扉を蹴り破り突入してきた。

アイゾウム
「・・・・・・・」

息を殺して身をひそめる。
しばらくすると何処かに行ったようだ。
・・・声が聞こえる。


「隊長、一号を発見しました。
・・・・キュピルや他の者は見当たりません。その代りテレポートポータルがありました。
行き先は不明です。誰かを行かせてみようとしたのですが我々が乗っても反応しませんでした。
・・・・はい。・・・・はい。
・・・・・・。了解しました、テレポートポータルを閉じた後、帰還します」

激しい物音が鳴った後強烈なマナを感じた。
・・・そして誰もいなくなった。

アイゾウム
「・・・・今のは・・一体?」

恐る恐るアイゾウムが機械の影から出てくる。
その時異変に気がついた。

アイゾウム
「・・・か、火事です!!」

家に火がつけられている。
強烈な火魔法を唱えたのか既にリビングは火の海となっていた。

アイゾウム
「薬を持って脱出しないと」

ファンの部屋に置いてある必要な薬を持てるだけ持って窓を開け外に脱出する。
火の手は既にクエストショップにまで回っていた。


アイゾウム
「誰か来てください!火事です!!」








『緊急事態発生・装置に異常な熱処理を感知。緊急脱出装置を発動します。』

ファン
「・・・!皆さん!ワープします!気をつけてください!!」

突如特殊ワープ装置機から警告を受け取り慌てて荷物を身につける。
その直後強烈な光に包まれ緊急ワープした。



ワープした途端異常な熱さを感じた。
・・・家が燃えている!!!

ミラ
「うわっ、なんだ!?火事か!?」
ルシアン
「あれ?僕達洞窟見つけたと思ったら戻ってるよ?・・・って、うわ!火事だ!」
ファン
「こ、これは一体・・!とにかく脱出しましょう!」

ファンがキュピルの部屋についている窓を開ける。しかしプラスチックで作られた鉄格子がかけられている。
ボリスが窓に近づき力任せに鉄格子を壊した。

アイゾウム
「皆さん!」

煙に巻かれながらも命からがら脱出する。

琶月
「げほっ、げほ!・・・わあああ!!私の部屋が〜〜〜!!」
ディバン
「くっ、なんてことだ!!俺の部屋には伝書が・・!!」
ティチエル
「アイシクルレイン!!」

ティチエルが氷魔法を唱える。
天から氷の粒が大量に降り注ぐ。火によって氷は溶け水に変わり放水の役目を果たす。
・・・しかし一向に火の気配が弱まる気配がない。

ミラ
「だめだ、ティチエル!水圧がない!」

・・・その時何人かが集まってきた。

ブデンヌ
「おい!キュピルの家が火事になってるぞ!早く男を集めてこい!放水しろ放水!!」
マキシミン
「げぇっ!あいつの家が燃えてやがる!!俺の寝床が!!

気がつけば物凄い人が集まり海にホースを投げ入れ海水をくみ上げて放水を始めた。
・・・鎮火したのは数時間後の事だった。




琶月
「・・・クエストショップが・・・」
ファン
「・・・全焼です」

キュピルの家とクエストショップがあった場所。・・・そこにはもう焼け跡しか残されていない。

ティチエル
「・・・強いマナを感じました・・。火魔法がかけられていたかもしれません・・・」
ファン
「・・もし火魔法でしたら水をかけても効力がなくなるまで燃え続けますから・・・。・・・全焼したのも理由が付きます」

ディバンが大ショックを受け落ち込んでいる。
・・・仕事の生命線とも言える伝書が全て焼き尽くされてしまったのだ、無理もない。

マキシミン
「・・・おい、ファン。キュピルとジェスターはどうした」
ミラ
「あの二人はいない」
マキシミン
「ん、おばさんも居たのか。気付かなかった」
ミラ
「・・・あのなぁ!お前わざと言ってるだろ!」
マキシミン
「かっかするな。シワが増えるぞ」

ミラの怒りが頂点に達する前にボリスが間に入った。

ボリス
「アイゾウム先生。・・・ルイさんは?」
アイゾウム
「・・・分かりません。脱出するのがやっとだったので・・。
・・・そうだ、皆さんに報告しなければいけない事があります。」

アイゾウムがファンの部屋で薬を作る準備をしていた時、誰かが入りこんできた事を話した。
その入りこんできた者が『一号を発見した』っと言う事も報告した。

ファン
「一号・・・ルイさんのことです!」
琶月
「・・・もしかして・・・」
ファン
「・・・間違いありませんね。旧トラバチェス首相・・・。校長の仕業です」
マキシミン
「・・・おい。誰かに恨まれていたのか?」
ファン
「要約しますとある意味そうなるかもしれませんね」
ブデンヌ
「・・・俺のお得意様を潰しやがって。許せん!」
ファン
「(ギーンさんに早く連絡しないといけませんね・・・。ルイさんが連れ去られたっていうことは・・・
・・・嫌な予感がします。)」
ルシアン
「・・・アイゾウム先生。・・・薬は作れる?」

ルシアンが落ち込みながら言う。
・・・精霊の木樹をアイゾウム先生に渡す。

アイゾウム
「・・・時間はかかりますが貴重な素材は全て持って脱出しましたので
私の店に戻れば作れますよ。」
ルシアン
「ほんと!?よかったね!ファン!」
ファン
「肝心のルイさんが居ないのですが・・・」
アイゾウム
「・・・ただ・・困ったことにはなりました・・・」
ルシアン
「ん?何々?」
アイゾウム
「・・・いえ、もしかしたら何とかなるかもしれませんからまずはやってみます。
私の店に行きましょう。」

一行がライディアに移動しようとした時マキシミンが話しかけてきた。

マキシミン
「おい。・・・俺も行く」
ミラ
「何のために来るんだ」
マキシミン
「私用だ。・・・喧嘩を売った奴の顔を見たい」
ファン
「・・・別に構いませんがかなり大変なことになりますよ?」
マキシミン
「ふっ、俺の人生程大変な事はないな。それに・・・。俺の本能が言っているんだ。・・・ついていけってな。」

ミラが笑いだす。

ミラ
「アハハハハ!なんかアンタらしくない事言うね〜!」
マキシミン
「うるせぇーな、おばさん!」
ミラ
「ま、でも確かに私もそんな感じがするんだよね。・・・ついていけって」
ルシアン
「あれ?皆も?僕も何だ!」
ティチエル
「奇遇ですね!私もです!」
ボリス
「(・・・アーティファクトが光っている・・?)」

マキシミン
「お前等ライディアに行くんだろ?・・・俺は一応イスピンにしばらくソロ活動するって言ってからライディアに行く。」
ファン
「・・・わかりました」
ブデンヌ
「よく分からねぇ事になってるが・・。・・・何か協力できる事があれば何時でも言えよ」
ファン
「では人手が欲しくなった時言います」

焼け跡から離れワープポイントに向かう。
そしてライディアに移動した・・・。




==ライディア

ピニャー
「あ、先生おかえりなさい!・・・って、やけに大人数ですね。もう店は閉まってるんですけど・・・」
アイゾウム
「ピニャー。・・・ちょっと複雑な事情がありまして。・・・オレンを呼んで来てくれませんか?」
ピニャー
「オレン?何でですか?」
アイゾウム
「・・・必要な素材が不足しているので。」
ピニャー
「え?でも今日の昼あんなにたくさん素材運んだのになくなっちゃったんですか?」
アイゾウム
「・・・いいから早く呼んで来てください」
ピニャー
「わかりました・・・」

いつもと感じの違うアイゾウムに圧倒されピニャーが外に出た。

アイゾウム
「・・・皆さんお疲れじゃありませんか?」
ディバン
「先生こそ一番疲れているんじゃないのか?」
アイゾウム
「私はもっと忙しい時期があったのでこのぐらいは大丈夫です。・・・薬の完成まで時間がかかります。
今日はもう夜も遅いので皆さんここで寝ても構いません。暫く店は閉じておきますので」
琶月
「・・・ごめんなさい・・。私疲れたので・・ちょっと寝ます・・」

琶月が店の隅でうずくまり寝る体勢に入った。

ファン
「・・・次に備えて僕達も寝ましょう」
ルシアン
「先生も眠くなったらちゃんと寝てよ?先生が倒れたら一番困るから・・」
アイゾウム
「心配ありがとうございます。・・・疲れたらちゃんと寝ますから大丈夫ですよ」

全員横になり仮眠を取った。


・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。




==翌日


ガンガンガン


ピニャー
「うぅーん・・・なによ、こんな朝早くから・・・」

ピニャーが扉を開ける。
扉の先にはマキシミンとイスピンとシベリンとナヤトレイが立っていた。

ピニャー
「あら?シャドウ&アッシュの皆さま。どうしたんですか?店はまだ開いていませんけど」
マキシミン
「ファンの仲間だ。入るぞ」
ピニャー
「あ、ちょっと!困ります!もー!うちは宿屋じゃないんですからね!!!」
イスピン
「ほんとすいません・・」

マキシミン達が店に入りこむ。・・・何人か起きたようだ。

ボリス
「・・・8人全員が揃うのは久しぶりですね」
イスピン
「お久しぶりです、ボリスさん」
ミラ
「・・・マキシミンだけが来るんじゃなかったのか?」
マキシミン
「ああ、俺もそのつもりだった。・・・だがな、イスピンの奴がこいつ等にも話しちまってよ。
そしたらレイの奴。アーティファクトが反応していると言って全員集めたんだ!
ったく、審判だか守護者だか破滅だか知らんが・・・」

マキシミンがミストラルブレードを取りだす。・・・光っている。

レイ
「・・・アノマラド大陸で何かが起きようとしている。
・・・防がなければアノマラド大陸は消えてなくなる」
シベリン
「レイ?どういうことだ?」
レイ
「・・・分らない、でも頭が私に危機を呼びかけている」
マキシミン
「電波野郎だな・・・」
イスピン
「マキシミン、口が悪いよ」
マキシミン
「へーへー。すーいませんでしたー」
イスピン
「・・・大分話が逸れましたが私達も今回の一件に関係がある・・らしいので動向します」
ボリス
「仲間は多い方が心強いです。」
ルシアン
「うぅ〜ん、何々?・・・あれ?何でこんなに人が集まっているの?」
マキシミン
「お前はいつも終わった後に反応するな」





それから数時間後。朝を迎え全員起きた時にマキシミンがファンに話しかけた。

マキシミン
「ファン。・・・お前の所で一体何が起きた。」
ファン
「・・・話してもいいのかどうか難しい所ですね」
マキシミン
「言っておくが俺達はもう関係者だからな。事情を説明してくれ」
シベリン
「レイの言うアノマラド大陸の崩壊の危機と何か関係があるのかもしれない」
ファン
「・・・そうですね、レイさんの言う通り・・・アノマラド大陸の危機です。
全部説明しますが・・・決して他言しないでください」
ルシアン
「大丈夫!僕は口が堅いから!」
マキシミン
「(信用できねーな・・・)」


全員に今回の出来事を全て話した。


全ての始まりは入学したアノマラド魔法大立学校から・・・。
アノマラド魔法大立学校の崩壊、オルランヌの進撃。そして校長。
学校で起きた主要な出来事を全て話す。

次にトラバチェスへ進入しそこで起きた出来事も全て話した。
ペスト・・・アノマラドとオルランヌとの三つ巴戦争・・・。
そしてジェロス・・・。
戦いが終わりギーンが次期トラバチェス首相に選ばれ全てが終わったかのように思えた。

しかしギーンが校長がまだ生きている事をいち早く知り戦争の再発防止に努め始めた。
そしてキュピルに記憶の宝珠と呼ばれるアイテムを手に入れて欲しいと依頼し・・クエストショップを起業。

・・・そしてクラドで発生した疫病の事件。汚染された蝶の木・・・。そしてダークルイ・・・。
この時はまだ何でこうなったのか誰にも分らなかった。

そしてケルティカでの一件・・。校長の発見、研究室、半狂気化した輝月・・・。
半狂気化した輝月の出来事はアクシピターの面々はしっかり覚えていたようだ。

・・・それから数週間後が経過しディバンがやってきた。
ディバンが記憶の宝珠について知っており幻の島・・ラビラル島へ行った。
・・・そしてキュピルが記憶の宝珠を持ち帰ってきた。

これで当初の目的は達成した。・・・しかし新しい役目が与えられていた。
・・・囮。キュピルとギーンの狙い通り再びクエストショップは標的となった。
コンテナ型拠点が突然遠隔操作され謎の場所に飛ばされた。・・・そこでの出来事も一言一句漏らさず話す。

・・・狂気化したキュピル、ルイの帰還・・・。

命からがらの所を緊急テレポートで脱出しクエストショップに戻る。
その数時間後にギーンが再びやってきた。・・・そしてトラバチェスとオルランヌが開戦した事を告げる。
キュピルとヘルとテルミットと輝月がトラバチェスにワープし今防衛を任されている事も話す。
四人が防衛している間、残った人たちは狂気化の治療方法を探すことになった。

・・・そして一週間かけてついに原因を発見、治療方法も見つかった。
精霊の森へ移動し必要なアイテムを収集・・。が、その時校長の手先だと思われる者がクエストショップを襲撃。
ルイを連れさり放火。・・・そして今に至る・・・。


これ等の事を全て話すのに丸一日かかってしまった。

朝に話し始めたのに気がつけばもう夜になっていた。


イスピン
「・・・信じられない・・。オルランヌが・・・そんなことを・・・!」
マキシミン
「・・・イスピン。今オルランヌは別の政権が乗っ取ってんだろ?・・・お前は何もしていない」
イスピン
「だけど・・・僕の国で・・・こんなことが・・・!!」
マキシミン
「・・・平民の気持ちも考えろよなって言いたい」

シベリン
「・・・狂気化の技術が戦争に使われたら大変なことになるな。その話が本当だとすれば・・
このまま行けばアノマラド大陸は間違いなく崩壊する・・・」
ルシアン
「・・・もう冒険ってレベルじゃなくなっちゃったね」
ティチエル
「でも・・そんな大変な事が起きてるのにどうしてニュースや新聞には何も載っていないの・・?」
ディバン
「情報統制だな。汚い政府がよくやる手段だ」
マキシミン
「・・・しかし、驚いた・・。あのキュピルがそんな状況に追い込まれていたとは。」
シベリン
「ひゅー・・危なかったな、レイ。あの時もし二人を殺してたらとんでもない事になっていた」
レイ
「・・・・」
ファン
「(巨大ドラグーンの一件の事でしょうか・・?)
・・・今日はもう話し疲れてしまいました。・・・時間も時間です。・・・そろそろ寝ましょう」
琶月
「・・・師匠・・無事でいますよね・・」

・・・既に四人がトラバチェスに行って10日間が経過している・・。



・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

さらに数日が経過した。



ミラ
「ファン、今アイゾウム先生が薬を作ってもらっているけど・・・。・・・完成した後はどうするんだ?」
ファン
「・・・初めはルイさんに飲ませて完治すればそれで終わり・・・だったのですが・・。
・・・こんな状況になってしまったので何とかしてルイさんを連れ戻さなければいけません」
琶月
「でもどうやって移動するんですか・・?」
ファン
「・・・もう特殊ワープ装置機もありません・・。・・・ギーンさんを呼べれば・・・何とかなるのですが・・。
本人は今そんな状況じゃないと思います」
マキシミン
「・・・俺のコネを使えば何とかなるかもしれない」
ミラ
「はぁ!?お前のコネでトラバチェス首相を呼べるのか!?」
マキシミン
「ちげーよ!お前等マジックテレポートサービスの事しらねーだろ!」
ボリス
「マジックテレポートサービス・・・。料金を払えば指定した場所にテレポートしてくれるサービスのことか」
イスピン
「でもマキシミン。あの人たちは好きな場所にワープさせる技術はないよ。」
マキシミン
「だから俺のコネで何とかなっつってんだろ。トラバチェス行きの魔法を担当している知りあいがいた気がするんだ!」
ルシアン
「そうだったの!?うわー、凄いや!」
ディバン
「だが一ついいか?トラバチェスに行った後どうするんだ。どう考えてもトラバチェスにはルイはいないぞ」
琶月
「・・・考えてみたらそうですよね」
シベリン
「だけど直接元トラバチェス首相の元に移動することもできない。ましてや場所も分らないんだ。
・・・今はギーンっていう現トラバチェス首相の会わなければいけない。
今はルイさんに会いにいくんじゃなくてギーンさんに会いに行くんだ」
琶月
「あ、そっか・・」
ファン
「・・・実は何度もギーンさんに連絡を送っているのですが・・・。・・・最近繋がりが悪くて・・・」
ミラ
「・・・仮にギーンとか言う奴に会えなかったとしてもトラバチェスに行けば
トラバチェスの防衛を助けることもできるんだろ?無駄にはならない」
マキシミン
「首都で防衛してるわけじゃないだろ、どうせ。」
ルシアン
「でも行けば会えるかもしれないよ。行かなかったら絶対に会えないし・・・」

あーだこーだ会議が続く。

・・・結論がまとまったのはまた随分先だった。
結局マキシミンのコネを使ってトラバチェスへ行く事になった。




それからさらに数日が経過した。


アイゾウム
「・・・皆さん」

全員振り返る。

アイゾウム
「・・・ついに明日、薬が完成します」
ファン
「おぉ、素晴らしいです!」
アイゾウム
「・・・しかし問題があります」
ディバン
「問題?効果がないかもしれないとかか?」
アイゾウム
「いえ、効果はしっかり出るはずです。ルイさんに飲ませても必ず完治するはずです。
・・・見てください」

アイゾウムが半分完成した薬をみんなに見せる。・・別に普通の薬だが・・・。
その時マキシミンがハッと気がついた。

マキシミン
「・・・おい、まさか一つしか無いとか言わないよな?」
アイゾウム
「・・・正解です。素材の関係上これ一つしか作れませんでした」
琶月
「・・・先生が困ったことになりました・・って言ったのって・・もしかして・・。これのことだったのですか・・?」
アイゾウム
「その通りです。・・・やはり足りませんでした」
ディバン
「必要な素材はまた集めればいい。そうだろ?」
アイゾウム
「・・そうですが、素材の収穫時期は既に過ぎています。・・・それに襲撃を受けた事によって
貴重な素材の大半しか持ち出せず残りの半分は全て燃えてしまいました。・・・次また薬を作るとしたら
来年になるまで待たなければいけません」
ミラ
「来年!?来年って・・・」
アイゾウム
「・・・キュピルさんもルイさんもゆっくりとですが以前遺伝子組み換えが起きていると思います。
・・・・・・」

それ以上はアイゾウムは言わなかった。
言わなくても分る。

・・・もし来年まで待てば・・・その間に遺伝子組み換えはドンドン起き・・・。

・・・・・何が起きるか分からない。もしかしたら死ぬかもしれない。もしかしたら薬を使っても治らないかもしれない。
色んな事が頭によぎる。

アイゾウム
「・・・明日までには薬は出来あがると思います。私が手伝えることはここまでです。・・・申し訳ありません」
ファン
「とんでもないです。・・・先生、本当にありがとうございます。」
マキシミン
「お代の方がとんでもないことになりそうだな」
イスピン
「君はいつもお金の事ばかり気にしてる」
マキシミン
「うるせーな」
アイゾウム
「・・お代は払える時で良いです。今はきっと大変でしょう」
ファン
「・・・申し訳ないです」
アイゾウム
「気にしないでください。みなさんは明日に備えてもう寝ても構いません」

全員頷き明日に備える。

・・・・いよいよ明日、行動開始だ。











==???・生命研究室


中央に巨大なカプセルが置かれている。
・・・その巨大なカプセルの前に校長が立っている。

・・・カプセルの中に沢山の管が通っており、その管はルイに繋がっていた・・・。

校長
「・・・・・・」

校長のイライラは限界にまで達していた。
クエストショップを襲撃したがルイしか居なかった。

校長
「キュピルの奴は何処だ・・!捕まえて早く調整してやる・・・」

・・・・。

・・・・・・・・・。

その時誰かが入ってきた。
・・・オルランヌの現国王だ。

オルランヌ国王
「調子はどうかね?」
校長
「・・・ご覧の通りです。この者の調整はあと少しで終わります」
オルランヌ国王
「後少しというのはどのくらいだ。・・・我々も忙しいのでね」
校長
「あと数十分・・っと言ったところか?」
オルランヌ国王
「数十分か。・・・絶対に数十分で仕上げて貰いたい。どうやらトラバチェスも狂気化技術を身に付けたらしくてな。
そいつを早く前線に送り込みたい。」
校長
「なに?あのトラバチェスが狂気化を行ったのか?」
オルランヌ国王
「第一拠点に狂気化した指揮官がいるそうだが・・?・・・まさかトラバチェスに技術を漏らしたりしていないだろうね?」
校長
「・・・間違いない、奴だ・・キュピルだ・・!!」
オルランヌ国王
「・・・キュピル?」
校長
「狂気化・・二号だ。」
オルランヌ国王
「二号・・ということは、奴がこの一号を連れて脱出し・・・そして今トラバチェスを防衛しているというのか?」
校長
「そうなる。・・・面白い事になってきたぞ・・・」

その時フラッシュが焚かれた。

校長
「!!」
オルランヌ国王
「ぐっ!・・・誰じゃ!カメラのフラッシュを焚いた奴は!!」

物影から一人の男が現れた。

ギーン
「・・・ついにお前等の密会現場を押さえたぞ」
オルランヌ国王
「ぬっ!こいつ!何故ここに!!」
ギーン
「詳細な位置を特定するのに時間がかかった。まさかオルランヌの下でこの基地を作りあげていたとはな
・・・だが今の写真一枚を考えれば大した労じゃなかったな。貴様等の政権はこれで終わりだ。」
オルランヌ国王
「ぬぅぅっ!誰ぞこいつを捕まえろ!!」

その時上から死体が一杯降ってきた。
・・・それと同時にミーアとトラバチェスの精鋭隊が降りてきた。

オルランヌ国王
「なんとっ・・!」
ミーア
「・・・手は封じた。観念しろ」





「調整完了」




その時大きなアナウンスが流れた。
警報音が鳴り響き始め彼方此方から白いガスが噴き出し始めた。

校長
「ククク・・・、まだ最大の手が残っている・・・。・・・一号・・ついに完成したぞ・・!!
絶対に死なぬ絶対に衰えぬ神にも負けぬ力を持つ者!!

ルイが入っているカプセルに沢山の気泡が溢れ始めた。・・・ルイの姿が気泡に隠れる。


ビシッ!!


カプセルに大きなヒビが入る。培養液が漏れだした。
ギーンとミーア、そして精鋭隊が後ずさりする。

オルランヌ国王
「おぉ・・!これが一号の力か・・!」
校長
クックック!!ハーッハッハッハッハ!!!!
一号・・その力でギーンを捻りつぶせ!!」

高々と笑いルイに指示する。

・・・カプセルが完全に割れ体に赤い血筋が流れるルイが現れた。

精鋭隊
「・・で、でかい!」
精鋭隊2
「奇形だな・・・。」

もう殆ど原型が残っていなかった。その姿は化け物そのもの。
・・・全長3mにも達する巨大な怪物が吠えた。

校長
「行け!!完全体・ルイ!邪魔物を排除しろ!」

完全体・ルイが粘液が滴る巨大な触手を伸ばし攻撃してきた!
・・・ギーン達の横を通り校長に突き刺さった。

校長
「っっっ!!!?!??」

突き刺さった瞬間、紫色の液体が溢れその瞬間。校長が溶け黒い泥になってしまった。
黒い泥になってしまった校長と完全体・ルイをギーンが写真に収める。
フラッシュに驚き完全体・ルイが暴れ始めた!

オルランヌ国王
「どういうことだっ・・!!我々の事を認識できていないのか・・!?こっちは味方だ!」

完全体・ルイが再び吠え触手を振り回し始めた!!

精鋭隊
「ぐあぁっ!!」
精鋭隊2
「くはっ!!」
オルランヌ国王
「うぐあああぁぁっっ!!」

触手が伸び広範囲の技を放つ。触手にぶつかった物はすぐに溶け黒い泥になってしまった。


ミーア
「くっ・・。ギーン!校長とオルランヌ国王が死んだ!」
ギーン
「分かっている!このままでは危ない・・!一時離脱するぞ・・!」

ギーンが緊急テレポートを詠唱し即座に脱出する。


完全体・ルイ
「・・・・」

誰も居なくなった事を確認し完全体・ルイが何処かに移動を始めた。

完全体・ルイ
「・・・・・・・ギュピル・・・・」






==ナルビクフリーマーケット

ベスティナ
「いらっしゃいませ、安全t・・って、あー!マキシミン!ツケはいつになったら払ってくれるんですか!」
イスピン
「・・・君いい加減借金払ったらどうなの?」
マキシミン
「今はそんな事言ってる場合じゃねーだろ。おい、ベスティナ。俺達をトラバチェスの首都に送ってくれる奴は
いねーのか?」
ベスティナ
「あら?そんなの一杯いるわ。私だって出来るからね」
マキシミン
「トラバチェスの首都まで飛ばしてくれ」
ベスティナ
「お金」
シベリン
「・・・美しいお姉さん、トラバチェス行きのテレポートはおいくらですか?」
ベスティナ
「凄く遠いし・・・それに今向こうの首相さんから飛ばすなーって言われてるのよねー」
琶月
「私達はギーンさんのおしr・・」
ファン
「琶月さん。言った所で証明となる物が無いので信じてもらえません」
琶月
「そんな・・」
ディバン
「お前のコネで何とかなるって言わなかったか?」
マキシミン
「ベスティナ、今度こそツケ払うから飛ばしてくれよ。」
ベスティナ
「ダメな物はダメです。例えツケを払ったとしても飛ばしませんからねー」
ディバン
「ちっ、しょうがねえな・・・。・・・お前、今日から夜道は後ろに気をつけるんだな」
ベスティナ
「・・・脅しですか?」
ディバン
「さあな」
ベスティナ
「・・・・わかりました・・。まだ刺されたくないので特別に飛ばします。そ・の・か・わ・り!!絶対に
この事は秘密にしてくださいよ!」
ミラ
「マキシミンよりオジサンの方が役に立ったな」
マキシミン
「うるせぇ」

ベスティナが死ねっと呟きながら嫌々トラバチェス行きのテレポートを詠唱する。
ディバンが反論しようとした瞬間トラバチェスに飛ばされた。





==トラバチェス・首都



賑わいのない街に到着した。
・・・人が少ない。

ディバン
「あの女!」
マキシミン
「・・・暗いな」
ファン
「あの塔に行きましょう」

ファンが中央に聳え立つ塔を示す。

ファン
「あの塔の天辺にギーンさんの王室があります」
シベリン
「また凄い所にいるな」
ルシアン
「行けば通してくれるかな?」
ファン
「恐らく通してくれるはず・・です」

集団で塔のある場所まで向かう。
・・・塔に続く建物の前まで来た。ここから先は関係者以外は立ち入り禁止だ。

トラバチェス兵
「君達。ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。観光だったらここまでにしてほしい」
ファン
「僕達は観光者ではありません。ギーンさんに用事があってやってきました」
トラバチェス兵
「・・・首相に?証明できるものはあるか?」
ファン
「狂気化・・っという言葉に聞き覚えは?」

その言葉を聞いた途端トラバチェス兵の表情が変わった。

トラバチェス兵
「・・・・何処でその言葉を」
ファン
「ギーンさんの知りあいだからです。ついに狂気化の治療方法を見つけました」
トラバチェス兵
「・・・ちょっと待っててくれ」

トラバチェス兵が無線を取り出し何処かと通信を取り始めた。

・・・・。

・・・・・・・・。

しばらくしてトラバチェス兵が頷いた。

トラバチェス兵
「入室の許可が出た。ついでにたった今首相はお戻りになられたそうだ。
目の前にテレポートポータルを開けるそうだ。」

言った瞬間、目の前にテレポートポータルが開いた。
何人かお辞儀しそのテレポートポータルの中に入って行った。




==王室



ギーン
「ファン、狂気化の治療方法を見つけたのか!?」
ファン
「ついに見つけました。今ここに薬が一つあります」

ファンがギーンに見せる。

ギーン
「・・・・複雑な治療薬だな。」
ティチエル
「見ただけで分るんですか?」

ギーンが頷いた後、後ろに居る沢山の人達を睨んだ。

ギーン
「ファン、知らない顔が八人もいるんだが誰だ」
ファン
「強力な助っ人です。・・・恐らくキュピルさんより強いと思います」
ギーン
「頼もしい者を連れてきたな。」

マキシミン
「お前負けたよな、ククク」
シベリン
「・・・マキシミンの口を閉じたい」
レイ
「・・・・・」

ファン
「ギーンさん。・・オルランヌにダメージを与えれましたか?
ギーン
「ファン。・・・とんでもないことになった」
ファン
「?」
ギーン
「・・・後ろの八人は何処まで事情を知っている」
ファン
「全てです。アノマラド魔法大立学校の事から今の状況まで全て教えてあります。」
ギーン
「信頼できる者か。・・・わかった、この際全員に聞いて貰う」
ボリス
「・・・とんでもないことというのは一体?」
ギーン
「全て説明したいが悪いが時間が惜しい。要約して説明するぞ
俺とミーアはオルランヌに受け渡されたと思われる狂気化の技術を破壊するために忍び込んだ。
だが忍び込んだ時見た事のある基地に遭遇してな。・・・地下一階にキュピル達が使っていたコンテナ型の拠点を
発見した。・・どうやら以前遠隔操作によって飛ばされたあの基地はオルランヌにあったようだ。」
イスピン
「オルランヌは・・・そこまでやっているのですか・・・!?・・許せない」
ギーン
「・・・続けるぞ。誰にも見つからずに基地を探索した結果、最深部にもう一つの生命研究所がある事が発覚した。
そしてその生命研究所にオルランヌ国王が居たという情報も手に入れた。
俺達はすぐに生命研究所を破壊せずあえてそのままにした。・・・元トラバチェス首相とオルランヌ国王の
密会を写真に収め、会話を記録し、そして全ての真実をこのデーターに収めようとした。
・・・だがその時驚くべき事が起きた。助けたはずのルイがオルランヌがその生命研究室に居た。
何か知らないか?」
ファン
「・・・ギーンさん。実は一週間程前に校長の刺客と思われる者が現れクエストショップと家を焼き払い
ルイさんを誘拐して行きました」
ギーン
「・・・・。怪我人は?」
ファン
「幸いにも誰一人・・・。・・・」
琶月
「・・・・・」
ディバン
「・・・・・」

そこに住んでいた人達が思いつめた顔をする。・・・大切な物を全て焼き尽くされた・・・。

ギーン
「奇襲されて殺されずに済んだだけ幸運だったと思え。・・・しかし奴らが直接手を下すとは驚きだ。
アノマラドにばれてもいいのか、奴らは。・・・話を続けるぞ。
・・・三日間、ずっと張りついて隠れていた時元トラバチェス首相が現れた。
そしてその数時間後にオルランヌ国王も現れた。俺はすぐに二人の会話を記録した。
・・・そして会話が終わったその時に写真も撮った。・・・生命研究室の記録はミーアが保存してくれた。
これで奴らの政権を終わらせる材料が全て揃った。・・・そう思った時『調整完了』というアナウンスと共に
狂気化したルイがカプセルを突き破り外に出てきた。奴は完全体と呼んだな・・・。」
ファン
「・・・ルイさん・・・・。」
ギーン
「・・・奴は狂気化したルイに命令を下した。俺達を捻りつぶせとな。・・・ところが予想外な事がまた起きた。
ルイは俺たちではなく校長を突きさし・・そして謎の液体をぶちまけそして奴は液状化し死んだ。」
ディバン
「・・・!元トラバチェス首相は死んだのか・・・!?」
ギーン
「今度こそ奴は間違いなく死んだ。・・・ついでにオルランヌ国王もな」

ギーンが現像した写真を皆に見せつける。・・・そこには完全体・ルイと辛うじて原型の残っている
元トラバチェス首相の姿があった。

イスピン
「・・・!ガルニエや・・フレネルは!?」
ギーン
「知らんな。この一件には関与していなかったはずだが。
・・・ふん、似てるな・・・っと思えばお前がオルランヌ公国のお姫様・・。
『シャルロット・ビエトリス・ド・オルランヌ』か。」
イスピン
「っ・・!!」
マキシミン
「・・・イスピン。相手はトラバチェスの首相だ。知っててもおかしくない」
イスピン
「・・・」

マキシミンが小声で言う。

ギーン
「大公爵位後継者として認められ爵位継承式を目前にしたある時
突然姿を消した姫様がここにいたとは驚いたな」
ルシアン
「え!?イスピン!?今の話し本当なの!?」

ギーンが即座に現状の状況を読み取りフォローを入れた。

ギーン
「・・・・すまない、俺の記憶違いだ。よくみたらお前は男だ」
ルシアン
「アハハ!男と女間違えるなんて凄いね!」
ギーン
「・・・・・」

イスピンが安堵のため息をつく。・・・隠しているようだ。

ディバン
「トラバチェス元首相も死に・・・オルランヌ国王も死んだ。戦争はこれで終わるんじゃないのか?」
ギーン
「・・・いや、そういうわけにはいかない。奴らの幹部がすぐにトップに立つだろう。
始まる前なら終わらせる事が出来たんだが・・・。一度始まったらどっちかが完全にくたばるまで続く」
ルシアン
「・・・戦争って複雑なんだね・・」
ギーン
「話を戻すぞ。暴走した完全体・ルイは見境もなく攻撃を始めた。
その猛攻に連れてきた精鋭部隊は一瞬で全滅した。・・・ちょっと触れただけで泥になってしまった。」
シベリン
「・・・恐ろしいな・・」
ギーン
「・・・その後、俺とミーアは緊急テレポートで即座に脱出したためその後どうなったかは知らん。
・・・今ミーアと数人の偵察隊を派遣した所だが・・・」

その時ラテスが戻ってきた。

ラテス
「ギーン殿!・・・っと、なにやら人が多いですな・・。誰です?」
ギーン
「仲間だ、心配するな。それよりどうした」
ラテス
「第一拠点が陥落間近!・・・私の力不足でした。指揮が間に合わず戦場が混沌化しています。
テレポートポータルに敵が進入しそうになったため現在全ての拠点へ続くテレポートポータルは閉鎖しています」」
ギーン
「第一拠点は誰が守っている」
ラテス
「キュピルとジェスターです。・・・しかし緊急信号が送られてきたため第二拠点から輝月という者を
移動させたのですがその後第二拠点も危機に陥り現在防戦一方な戦いが続いています。」
ギーン
「第三拠点は!」
ラテス
「第三拠点は現在籠城戦を続けているらしく戦況としては優勢を保っています」
ギーン
「すぐに第一拠点へ行く。ラテス、お前は第二拠点へ行き指揮をとれ!」
ラテス
「承知!」
ギーン
「ラテス、第一拠点の戦闘が混沌化したと言ったな。詳細な報告をしろ」
ラテス
「・・・オルランヌが我が軍の兵士を狂気化させ狂気化した兵士が我が軍を攻撃しています!」
ギーン
「!!」
ファン
「!!」
ギーン
「いいか!狂気化した奴は敵味方関係なしに即抹殺しろ!手に負えない状況になるぞ!」
ラテス
「・・・既に狂気化した者は抹殺するよう指揮してあります。・・・しかし・・・私の決断が遅れ・・
・・・現在狂気化した一部の者はある液体を飛ばし正常な兵士が狂気化するという最悪な出来事が起きています」
ギーン
「くそがっ!既に最悪なパターンに入っているってことか!それでどうなっている!」
ラテス
「現在何とかキュピルの活躍により拠点は防衛できている・・のですが・・・。・・・・」
ギーン
「もういい、早く第二拠点へ行け。・・・俺達は第一拠点へ行くぞ」
マキシミン
「ふんっ、何処にあるのか知らないが徒歩で行くと相当時間かかるぞ」
ギーン
「言ったはずだ。俺はテレポートが使えると」

ギーンが杖で地面を突く。目の前に巨大なテレポートポータルが現れた。白い光を放ちゆっくりと回転している。

ギーン
「行くぞ!」
ミラ
「お、おい!国王が戦場に飛び込んでいいのか!?」
ギーン
「王座に座って優越感を楽しむのが国王の仕事か?違うだろうが!」

ギーンが真っ先に飛び込んだ。

ミラ
「・・・良い国王なのか悪い国王なのかわからないね」
ボリス
「この先は戦場だ。・・・皆気をつけるんだ」
マキシミン
「・・・阿鼻叫喚な場所へ行くことになるのか。俺の人生も悲惨だな。
・・・だがキュピルの人生も相当悲惨なもんだな」

冷めた顔をしながらマキシミンが歩いて魔法陣の中に入る。

琶月
「師匠・・今助けに行きます!」

琶月が刀を抜刀して魔法陣の中に入る。
続いてファンが入りボリス、ルシアンが入った。
そして残りの者は一斉に陣の中に入った。







狂気化した兵士
「グガアァァァッッッッ!!!」
キュピル
「はぁっ・・!はぁっ・・!!」

息を切らしながら刀と触手を振るう。
だめだ、このままじゃ・・・間違いなく拠点は陥落する・・・!!

ジェスター
「わああああ!!」
キュピル
「!!!」

ジェスターの目の前に狂気化した兵士が液をぶちまけようとしていた!
目にもとまらぬ速さで狂気化した兵士に接近し胴体を真っ二つにする。

キュピル
「ジェスター、こっちだ!」

ジェスターを抱えると狂気化した兵士を突き飛ばし拠点の中に一旦戻る。

輝月
「キュピル!!」

輝月が狂気化した兵士に五花月光斬を放ちバラバラにする。
血に塗れた手を伸ばしキュピルの手を掴み引っ張る。



トラバチェス兵
「い、嫌だ!!俺はあんな風になりたくなんかない!!」
トラバチェス兵長
「城門を閉めろ!侵入を防げ!」

城門が閉まった。閉まる直前にキュピルとジェスターと輝月が拠点の中に滑り込んだ。

トラバチェス兵2
「じょ、城門が閉まった!!お、おい!!開けてくれ!!俺がまだ外に!!!」
トラバチェス兵3
「嫌だ!今ここで開けたら悪魔が一杯拠点に傾れ込む!!」
トラバチェス兵2
「う、裏切り者!!死ね!消えろ!!」

外に取り残されたトラバチェス兵の周りに狂気化した兵士が近づいてきた。

トラバチェス兵2
「う、うわああぁぁぁぁぁ!!!!」




トラバチェス兵長
「バンバン放て!!弾切れなんて考えるな!!」
戦車長
「ガンガンぶっ放せ!!!」

援軍としてやってきた戦車、装甲車、武装ヘリがミサイルや砲弾をガンガン放つする。
しかし一部の狂気化した兵士は鉄鋼弾が直撃してもすぐに傷が再生し戦車に襲いかかってくる者までいた!

戦車長
「前方に悪魔が接近している!機銃隊何をしている!接近を許すな!」
機銃隊
「ダメだ!!数が多すぎる!!」

狂気化した兵士が触手を伸ばし戦車に穴を開ける。
中に乗り込んでいた兵士が掴まり外に放り出される。

トラバチェス兵
「し、死にたくない!!!」

次々と触手を伸ばし、エンジンに触手が突き刺さった。その一秒後に大爆発が起き
一台の戦車が跡形もなく消えた。




ジェスター
「やだ・・・もうやだ・・・。怖い・・・!」
キュピル
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・」
輝月
「お主・・・少し休んだらどうじゃ?ダメージが激しそうだぞ」

血だらけになっているキュピルを見て輝月が言う。
一部の触手は斬り落とされている・・・。

キュピル
「今の俺は普通の人より・・・強い状態になっている・・・。
俺が踏ん張ればここの拠点はまだまだ持つはずだ・・・」
輝月
「しかし・・。お主が倒れたら意味ないぞ」

その時見知った人たちが沢山現れた。

ファン
「キュピルさん!」
マキシミン
「おい!マヨネーズ!何だ、その姿は!」
キュピル
「ぶっ!」

キュピルが吹きだして笑う。

キュピル
「こんなシリアスな状況にマヨネーズってあだ名使うか、お前は!」
マキシミン
「結果的にリラックスできたんだからいいだろ、むしろ報酬として金が欲しいね」
キュピル
「お前は変わらないな・・・。・・・それより何故皆ここに。」
ボリス
「手伝いに来た。」
キュピル
「手伝い?手伝いってレベルじゃないぞここは!」
ディバン
「それを承知で来ている。」
ティチエル
「私が出来る事を精一杯やります!ヒールをかけるぐらいしかできないですけど・・」
キュピル
「怪我人が多い、ヒーラーが増えるのはとても嬉しい」
ギーン
「キュピル、かなり忙しいだろうがちょっと聞いてもらいたい事がある。」
キュピル
「何だ?」
ギーン
「ルイと治療方法の事だ」
キュピル
「・・・!治療方法が見つかったのか!?」
ファン
「沢山の方が協力してくれました。・・・ここに薬があります。」

ファンが薬を一錠見せる。

キュピル
「・・・一つしかないのか?」
ファン
「・・・一つしかありません」
キュピル
「くそっ、なんてこった・・!こんなにも沢山溢れているのに!・・・それで、ルイは!?」
ギーン
「オルランヌに連れ去られた。・・・更なる調整を施され完全体となった。」
キュピル
「完全体・・・!?・・・いや、ちょっとまて!ルイは家に・・・」
琶月
「・・・大変申し上げにくいのですが・・・。・・・元トラバチェスの首相の刺客が襲ってきて・・。
ルイさんを連れ去られた挙句放火されて・・・」
キュピル
「・・・!!」
ジェスター
「え・・・?じゃ、じゃぁ・・・。私の家は・・・?」
琶月
「・・・全焼しました」
ジェスター
「・・・・・・う・・・う・・・うわああああああああん!!!!」

ジェスターが大声をあげて泣き始めた。

輝月
「・・・・とんでもない事になったな・・」
ギーン
「まだ報告しなければならない物がある。この写真を見ろ」

ギーンがキュピルに一枚の写真を見せる。・・・更に凶悪な見た目になったルイと
液状化している校長・・・。

キュピル
「こ・・これは・・・」
ギーン
「校長の奴は俺達を捻りつぶせと言ったが・・・。調整不足だったのかは知らんが
今ルイは制御不能状態にいる。校長の命令に従わず暴走し奴の攻撃を受けた物は
皆泥のようなものになってしまった。」
キュピル
「・・・・・。」
ファン
「・・・キュピルさん。一応狂気化の治療薬を預けておきます」

ファンがキュピルに薬を渡す。キュピルがそれを内ポケットに入れる。
ついでにギーンから渡された写真も内ポケットに入れる。

キュピル
「・・・・・・・」
ギーン
「細かい話は後でする、今はこの場を鎮圧させるぞ。行けるか、キュピル?」
キュピル
「・・・・・・・・」
シベリン
「・・・ショックのあまりに放心している。当分動けないかもしれない・・・」
ミラ
「・・・無理もない。あたしだって自分の船が燃やされたらこうなる・・」

その時城門に亀裂が走った。外から強い衝撃が加われている!

ボリス
「!。城門が破れる!」
マキシミン
「ちっ!全員ぶっ飛ばしてやる!」

城門から触手が飛び出て来た。そのまま飛び出しマキシミンやシベリンを捕まえようとした。
だが槍や刀で反撃し触手を斬り落とす。

ギーン
「城門を開けろ!このままでは一方的に攻撃される!」
トラバチェス兵長
「了解しました!」

城門が開く。開いた瞬間狂気化した兵士達が傾れ込んできた!

シベリン
「投龍!!」

闘気で作られた龍を前に飛ばし敵を吹き飛ばす。
その隙に一気に前進した。

ルシアン
「いっけええ!!」
ボリス
「フローズンスレイ」

ボリスの持っている剣が凍り氷の刃で敵を切り捨てる。
刃に触れた敵は氷に包まれた。

ミラ
「数が多すぎるな!お譲ちゃん!あれやって!隕石!」
ティチエル
「えっと・・わかりました!メテオストライク!」

ティチエルが杖を振り回し、高々と振りあげ杖を振り落す。
その直後天空から無数の隕石が降り注ぎ超広範囲の敵に壊滅的なダメージを与えた!

マキシミン
「いまだ、突っ込むぞ!」
レイ
「はっ!」

レイが手裏剣を投げる。遠くに居る敵の足に突き刺さり機動力が低下した。

イスピン
「ダブルクロススラッシュ!!」

アンデット属性を持つ敵に有効な技と多勢に有効な技を同時に繰り出す。
一瞬で敵が十字型に斬り裂かれその場に倒れた。

マキシミン
「シルフランス!」
シベリン
「闘龍!」

二人が同時に遠距離技を放つ。
クロスするように飛んで行き二つの技がぶつかった瞬間強烈な爆発が起きた。
爆発に巻き込まれた狂気化した兵士が吹き飛んだ。

マキシミン
「これで大方消えたんじゃないのか?」
シベリン
「いや・・・まだまだ来ている。これはかなりの長期戦になりそうだ。
それに倒した不気味な兵士も何人か立ちあがってきている」
マキシミン
「こいつ等に名前をつけるとしたらゾンビだな」
シベリン
「ハハハ・・・、そりゃ名前じゃないな・・」

トラバチェス空兵
「これより一斉爆撃を開始する」
トラバチェス空兵長
「拠点の近くで奮闘している者がいる。巻き込むなよ」
トラバチェス空兵
「ラジャ」


上空からたくさんの武装ヘリが飛んできた。
一斉にミサイルを放ち狂気化していないオルランヌ兵に攻撃する。

オルランヌ兵
「あのヘリを撃ち落とせ!!」
オルランヌ魔術兵
「メガバースト!!」

巨大な炎の塊を生み出し武装ヘリ目掛けて投げ飛ばした!
一人の兵士だけではなく一斉に放ってきたため回避するのが困難だ。
何機かが直撃し制御不能になる。

トラバチェス空兵
「くっ!!制御不能!!・・・ただじゃ墜落しないぞ・・!!お前等も道連れだ!!!」
オルランヌ兵
「おい!こっちに落ちてくるぞ!う、うわああ!!」

数機のヘリコプターがオルランヌ兵目掛けて墜落し道連れにする。



戦車兵
「隊長!悪魔が近づいてきます!!」
小隊長
「操縦を変われ!」

小隊長が操縦席に座る。一気にアクセルを踏むと接近してくる狂気化した兵士を踏みつぶした!

小隊長
「うおおおおぉぉぉ!!!」

主砲をガンガンぶっ放し豪快な戦いを続ける。
一定距離進み敵を踏みつぶした後はバックし後方に下がりながら主砲と機銃を乱射する。
この戦車に近づける者は誰もいなかった。

戦車兵
「流石隊長!公道でしたら即免停ですね!!」
小隊長
「馬鹿野郎!ゴールド免許を剥奪されて貯まるか!」
戦車兵2
「無免許なのにゴールド免許っすか!」



ディバン
「おい、あの戦車孤立しているぞ。後ろに下がっているがその後ろに狂気化した兵士がいるぞ!」
輝月
「救わねばならんの。行くぞ!」
琶月
「あ、師匠!!・・・わ、私ここから飛び降りられません!」
ディバン
「お前はここから矢でも放ってろ!拠点に近づけさせるな!」

そういってディバンがクローショットを使って物資をドンドン運んで行く。


戦車が何かにぶつかった。

小隊長
「何だ!」
戦車兵
「!!!あ、悪魔です!!」
小隊長
「人身事故発生か!ひき逃げするぞ!」
戦車兵2
「悪ですな!喰らえ!!」

冗談を飛ばしながら機銃を後ろに回し狙いを定めて連射する。
だが鉄鋼弾を受けてものけ反る事はなくそのまま突進し機関銃をへし折った。

戦車兵2
「機銃損傷!!」
戦車兵
「キャタピラも損傷!!」
小隊長
「動けないか!?」

輝月
「五花月光一閃斬!!」

術を使って遠距離から狂気化した兵士を複数拘束する。
そして目の前に引き寄せ一気に敵を五回斬り最後に刀を振った。その直後月が割れ
その破片が敵に突き刺さり広範囲ダメージを与えた。

輝月
「大丈夫か?」
小隊長
「おい、女の子助けてもらっちまったぞ」
戦車兵2
「お譲ちゃん、ドライブ行こうぜドライブ!」
輝月
「全く、ここの者は何故こんな時でも冗談を飛ばせるのじゃ」
小隊長
「どんな時でも冗談を飛ばす!そして場を和ませる。そうすれば気持ちが落ちつき
冷静な判断が下せる。そうやって俺達は生きのびてきたんだ。」
輝月
「・・・冷静な判断か。・・・奴も同じことを言っておったな」
戦車兵
「おいおい、奴って誰だよ!既に彼氏持ちとか俺泣くぞ!」
輝月
「斬り落とすぞ」
戦車兵
「やっべ、怒らしちまった。隊長、基地へ逃げましょう。撤退路も作ってもらったことですし」
小隊長
「そうだな。一時退却するぞ!奥に潜りこみ過ぎた!」
輝月
「その車体の上に乗せてもらうぞ」
小隊長
「初乗り料金は660Seedからだ!」

・・・しかし動かない。

輝月
「どうした」
戦車兵
「隊長!キャタピラ損傷している事忘れていませんか!?」
小隊長
「おっと、忘れてた。乗り捨てるぞ!」
戦車兵2
「ボケ防止したほうがいいんじゃないんですか?帰ったらいい場所紹介しますよ!」
小隊長
「お前後で絞める」

隊長が自爆装置を起動させ戦車を乗り捨てる。そして別の乗り物に乗り込み再び何処かに走らせて行った。
輝月が溜息をつきながら拠点に戻って行った。
狂気化した兵士が戦車を乗っ取ろうとした瞬間、大爆発を起こした。






ジェスター
「・・・・」
キュピル
「・・・・」
輝月
「キュピル」

キュピルが無言で見上げる。

輝月
「いつまで私に闘わせる気じゃ。・・・さっき気の良い戦車兵にあったがあやつ等は笑っていたぞ」
キュピル
「・・・笑っていた?こんな状況だと言うのに?」
輝月
「『どんな時でも冗談を飛ばす!そして場を和ませる。そうすれば気持ちが落ちつき
冷静な判断が下せる。そうやって俺達は生きのびてきたんだ。』
・・・と言っておったな。」

一言一句間違わずに答える。

輝月
「お主も少し笑ったらどうじゃ。」
キュピル
「・・・まさか輝月にそんな事を言われるなんて想像もしていなかった。」

・・・そういえば自分の師匠・・シルクもそんな事を言っていた気がする。
キュピルがもう一度顔を下げる。

輝月
「・・・・・キュピル」

すぐにキュピルが顔を上げた。

キュピル
「いよっし!もう一回戦うか!!うおー!」
ジェスター
「あ!キュピル、待って!」

さっきまでジェスターも一緒に怖がっていたのにすぐにキュピルの後を追って行った。
輝月が溜息をつきながら少し微笑む。


ギーン
「キュピル!」
キュピル
「何だ!」

ギーンが拠点からキュピルに大声で話しかける。

ギーン
「ファンの連れてきた仲間が大健闘したお陰で凄い勢いで押し返している!
後は俺が拠点を守る!お前は仲間を連れてオルランヌの拠点へ襲撃しろ!」
キュピル
「分かった!ジェスター、行くぞ!」
ジェスター
「うん!」
輝月
「お主、ワシを置いて先に行こうとはいい度胸を持っておるな。琶月、行くぞ!」
琶月
「はい、師匠!」
ディバン
「俺は戦力外か?」

ディバンも文句を言いながらついていく。

ファン
「僕も行きます!」

ファンも皆の後を追う。

キュピル
「マキシミン!イスピン!シベリン!レイ!」

四人が振り返る。

キュピル
「ミラ!ティチエル!ルシアン!ボリス!今からオルランヌの拠点に特攻してこの戦いを止める!」
マキシミン
「おいおい!まさか自殺特攻じゃねーだろうな!」
輝月
「こんなたくさんの精鋭を集めておいて自殺特攻か。お主、目利きが利かぬな」
マキシミン
「何だって!」
シベリン
「マキシミン、よそう。・・・確かに俺もいい加減イライラしてきた所だ。さっきから倒しても倒しても
きりがないからな。」
ボリス
「・・・主将を打てば一時的にこの戦いは終わる。そうすれば狂気化した兵士の処理に専念できる」
ルシアン
「よーし!このルシアン様が主将を一瞬で倒しちゃうぞー!」
ミラ
「別にアタシは特攻するのは構わないけど・・。・・・ここからオルランヌの拠点までかなり遠いぞ。
まさか敵を倒しながら進む気か?」
輝月
「うぬ・・そいつはちとだるいのぉ。」

その時目の前を装甲車が通った。・・・叫んでる。

戦車兵
「隊長!!これ戦車じゃないです!!」
小隊長
「ちくしょう!見た目が頑丈そうだから戦車だと思った!」
戦車兵2
「隊長まさか学校成績悪かったんじゃないんですか!?」
小隊長
「学校なんて行ってないから成績そのものない!」
戦車兵2
「こいつはひでぇ!」
小隊長
「隊長に向かってその物良い!お前後で絞める!」
戦車兵2
「やばいな、二回も絞められたら死ぬかもしれない」

輝月
「・・・またあやつ等か。おい!」

輝月が叫ぶ。

小隊長
「ん」
戦車兵2
「お、あの時のお譲ちゃんだ」

装甲車が荒い運転して皆の傍によってきた。

小隊長
「なんだ?」
戦車兵
「もしかしてドライブの誘い、受ける気になった!?」
輝月
「ある意味そうじゃな」






小隊長
「邪魔だ、邪魔だ!!機銃ガンガンぶっ放せ!!」
戦車兵
「うおおおぉぉ!!」
戦車兵2
「死にたくなければ道を空けろ!!!」

装甲車がオルランヌ兵の中を突っ切って行く。
しかし行く先々でオルランヌ魔術師が装甲車に有効な鉄鋼魔法弾を飛ばしてくる。

輝月
「反!!」

輝月が装甲車の中で反を唱える。弾幕が次々と装甲車に当たるがドンドン跳ね返って行く。

小隊長
「いいぞ!魔法が使える奴は装甲車の中からドンドン唱えてってくれ!」
ボリス
「俺も反は使えます。」

ボリスと輝月が代わる代わるに反を唱える。
一部貫通してきているが殆どの攻撃は跳ね返せている。
だがダメージは確実に蓄積してきている。

ティチエル
「ヒール!」

ティチエルが装甲車にヒールをかけ回復させる。

戦車兵2
「一体どんな原理で回復しているんだ!」
小隊長
「お前が酔い潰れてる時に奥さんが来たぞって言うと速攻で酔いが醒めるのと同じだ」
戦車兵
「お前の奥さんが後ろから追いかけてきてるぞ」
戦車兵2
「おい、やめてくれ!装甲車壊される!」

シベリン
「一体その奥さんはどんな人物なのやら・・・」
キュピル
「とにかく、これで一気にオルランヌの拠点までつき進めそうだ」
ルシアン
「スピードアップ!」

装甲車にスピードアップがかかる。速度が倍になり敵を吹き飛ばす力も上がった。

小隊長
「こいつは人生の中で一番楽しいな!」
戦車兵2
「隊長今日から戦車兵から装甲兵になったらどうっすか!?」
小隊長
「金髪の坊主が必要だけどな!」





偵察兵
「報告!一台の装甲車が兵士を弾き飛ばしながら急接近しています!装甲車の中には
正常な意識を持つ狂気化した兵が搭乗しているとのこ!」
エユ
「・・・ついに来るか。狂気化した奴と一戦交えることになるな。準備したほうがいい」
偵察兵
「はっ・・・」



混戦は続く。


追伸

TWの設定に深く入り込んで行きます(TWそのもののネタバレはありませんがアーティファクトぐらいは出ます



第十四話


アノマラド大陸はもう一カ月もしないうちに滅びる。
・・・精霊はそう予言した。

・・・しかし今それを食い止めようとする人間が戦場に居た。




小隊長
「おい!拠点が見えたぞ!」

柵に囲まれた小さなテントが無数にあった。間違いない、オルランヌの拠点だ。

小隊長
「全部ぶっ壊してやる!」
戦車兵
「流石隊長!やる事はワイルドです!」
小隊長
「惚れたか?」
戦車兵2
「自分で言っちゃってますよ、この隊長。つまんないっす」
小隊長
「うるさい!」

マキシミン
「おいおいおい!マジで柵に突撃する気か!?」
ジェスター
「わあああ!」
琶月
「ひぃぃぃい!!」
ファン
「バリア!」

ファンがバリアを張る。バリアが先に柵にぶつかり柵を弾き飛ばした。

小隊長
「おい、見ろ。柵が恐れをなしてぶつかる前に吹っ飛んでったぞ!」
戦車兵2
「隊長がワイルドすぎて逃げたんすよ、あの柵はシャイっすね」

その時装甲車のタイヤが爆発した。

小隊長
「・・っ!タイヤが爆発したぞ!」
戦車兵
「俺達の事が羨ましすぎて爆発したんですよ!リア充爆発しろって!」
小隊長
「ちくしょう、逆恨みめ!」

そのまま激しく地面の上を回転し逆さまの状態で止まった。

小隊長
「ちっ・・・。おい、無事か?」
キュピル
「あいってててて・・・・。・・・大丈夫だ」
ディバン
「一体何が起きたんだ」
ファン
「狙い撃ちにされる前に早く外に出ましょう!」
戦車兵2
「ハッチ開けるぜ」

装甲車のハッチが開き後ろに出入り口が出来た。
すぐに全員飛び出すが外に出た瞬間オルランヌ兵に囲まれた。

イスピン
「自分の国の軍に囲まれると凄く辛い・・」
マキシミン
「辛かったら手出さなくていい。」
イスピン
「・・・君に励まされるなんて僕も弱気になったね」
マキシミン
「あー?どういう意味だ?」
キュピル
「・・・・」

睨み合いが続く。
その時誰かが割り込んできた。

エユ
「たったの数十人でここまで攻めてきたその勇気は褒めてやる。
だがそれでオルランヌを止められると思ったら大間違いだ」

兵士の間から・・・懐かしい顔の男が現れた。細身で自信に満ち溢れた風格・・・。

ジェスター
「・・・・え、エユ・・・?」
キュピル
「・・・・!!エユか・・・!!?」
エユ
「・・・なに」

エユが顔が一瞬物凄く険しくなった。憎悪に包まれている。

エユ
「・・・おい、そこの正常な精神を持つ狂気化した二号!」
キュピル
「エユ!!俺だ!キュピルだ!」
エユ
「・・・ふざけた事を抜かすな!お前がキュピルのはずがない!」
キュピル
「このジェスターを前にしてでも言う気か!!」

キュピルがジェスターを前に出す。

ジェスター
「エユ!!!」
エユ
「・・・ジ、ジェスター・・・。・・・間違いない・・・キュピルに預けたジェスターだ・・・。
・・・お前・・・本当にキュピルなのか・・・!?」

普段兵士の前では威厳溢れる態度を出しているが・・・兵士の前で初めて優しそうな雰囲気を出した。

ジェスター
「エユー!!」

ジェスターがエユの元に走り抱きつく。
オルランヌ兵はどうすればいいのか困惑しているようだ。

ルシアン
「(ねぇ、ボリス!僕達どうすればいいの!?)」
ボリス
「(ルシアン、しばらく様子を見るんだ)」
小隊長
「(おい、お前等。今のうちに爆発したタイヤ取りかえるぞ)」
戦車兵
「(サーイエッサー)」
ディバン
「(手伝おう)」
ミラ
「(ひゅー・・。流石にこの数を相手にするといくらなんでも大変だったからな・・・。戦わずに済みそうだ・・)」
レイ
「(・・・・待って。雰囲気が怪しい)」

戦闘を回避できそうな雰囲気が漂っていたがすぐに気配が変わった。

エユ
「・・・ジェスター」
ジェスター
「なに?」
エユ
「ちょっと眠っててくれ」

エユがスリープを唱えると糸が切れたようにジェスターが倒れ眠り始めた。

キュピル
「・・・・?」
輝月
「キュピル、気をつけろ。・・あの者から憎悪を感じるぞ」
エユ
「キュピル。・・・俺は言ったはずだ。
『二度と俺の目の前に現れるな。・・・そしてジェスターを守ってくれ。
俺の一生の願いだ』っと。・・・お前。意味理解しているのか?」
キュピル
「・・・・」
エユ
「ジェスター、こんな奴の傍に居て怖かっただろう・・・。戦場に二度も連れだされて・・・。
ましてやキュピルがあんな風になっちまったらな・・・。」
キュピル
「エユ!違う!」
エユ
「何が違う!・・・もうジェスターの面倒を見なくてもいい、たった今お前の信頼は地に堕ちた!
・・・昔の戦友ということで見逃してやる。早く帰れ」

全員キュピルを見る。・・・キュピルが少し悩む。
そして次の瞬間、キュピルが抜刀した。

エユ
「・・・・・」
キュピル
「エユ、俺もたった今お前の事を見損なった。・・・お前、ジェスターの事何も分かっていないな?」
エユ
「戦場に二度も連れだしたお前が何を言う!」
キュピル
「俺からも警告する!・・・今すぐオルランヌ軍を撤退させろ!さもなくば壊滅させる!!」
エユ
「・・・キュピル、お前はいつからトラバチェス軍についた」
キュピル
「俺は正規軍ではない。・・・これ以上オルランヌを見逃すわけにはいかない。ましてや狂気化の技術を
使ったからには!!」
エユ
「・・流石狂気化した奴が言うと説得力があるな。では聞くが何故滅ぼす?答えてみろ」
キュピル
「これ以上狂気化をばらまかれたら間違いなくアノマラドは怪物の住む島になる。
それを食い止めなければならない!」
エユ
「軍の規定ではこうなっている。狂気化させた者は最終的に全員始末する事。
この戦争が終われば全員居なくなる。これで問題ないだろう?」
キュピル
「・・・エユ、本当に全員始末できると考えているのか?」
エユ
「できるとも。狂気化した兵は全て俺の指示通りに動いている。最後に全員集めて自爆させればそれで終わりだ。」
キュピル
「・・・お前・・。見ないうちにすっかり残虐な性格になったな・・・」
エユ
「・・・そういうお前こそ角が立つようになった。第一こんな所に何年もいれば誰だってこうなる」
キュピル
「エユ、言っておく。既にコントロールの効かない狂気化した人間が一人いるぞ」
エユ
「誰だ」
キュピル
「お前等が言う『一号』だ。・・・完全体になった奴は敵味方の判別がつかなくなった」
エユ
「・・・もういい。お前の話しはうんざりだ。トラバチェスについてる癖に何故断言できる。」
キュピル
「エユ!俺の話を最後まで聞いてくれ証k・・」

エユがキュピルの台詞を遮る。

エユ
「キュピル。・・・俺は完全平和のために戦っているんだ。
平和を邪魔するならばいくらお前でも容赦はしない」
キュピル
「こんなやり方で平和な世界が実現できると思うのか!?」
エユ
「いいかキュピル!中途半端な平和は時が経てば新たな戦争を引き起こす!!
真の平和を掴み取るには常に国が絶対的な力を保持し他国の攻撃を抑止させ続ける事だ!!
そうすれば他国から攻撃を受ける事はなくなり民衆は戦争の事を忘れる事が出来る!!!」
キュピル
「違う!違う!!違う!!!絶対的な力で抑止させた所で何の解決にもならない!!
力で無理やり抑えつけたとしても民衆の反発は徐々に高まり次第に大きな爆発力を生む!!
第一他国はどうなんだ!!隣国が狂気化の技術を持っていたら安心して暮らす事なんで出来ないだろ!」
エユ
「あくまでも他国の攻撃を抑止させるために狂気化は存在している!攻める道具には用いない!!」
キュピル
「お前等が狂気化の技術を保持して他国を圧制している限り、狂気化より恐ろしい兵器を
作りだして逆に圧制し返してやろうと沢山の国が戦争への道へ歩き出すぞ!!」
エユ
「ならば聞く!!お前ならどういうやり方でこの大陸を平和に導く!!」
キュピル
「お前とは逆だ!全ての人に戦争の記憶を刻み込まなければいけない!!」
エユ
「戦争の苦しみを永遠に残させる気か!!」
キュピル
「戦争の過ちを知っているからこそ人々は戦争を起こさなくなる!!
戦争の歴史を忘れたら再び同じ過ちが繰り返される!!」

輝月
「(・・・・・)」


エユ
「だがキュピル!お前にはそれが可能なのか!」
キュピル
「必要なアイテムは揃っている。・・・だが・・・」

・・・・古の魔力がない・・・。

キュピル
「・・・今はまだ無理だ。だがすぐに・・」
エユ
「すぐにって何時だ。10年後か?100年後か?その間どうする気だ?
俺達は一カ月あればすぐに出来るぞ」

マキシミンがキュピルの肩を抑えつけた。

マキシミン
「キュピル、諦めろ。あいつは何を言おうと絶対に下がらないはずだ。・・・個人の恨みも感じられる」
キュピル
「・・あいつは・・・あんなんじゃない・・・。本当は誰よりも人の痛みを知っている男のはずだ・・・。
・・・それなのになぜ今は・・・」

エユ
「話は済んだか?・・・最後に。ジェスターの礼だけは言っておこう。ありがとう。
・・・そしてさよならだ」

エユが腕を上に高々と上げた。その瞬間凄まじい勢いでオルランヌ兵士が攻撃してきた!!

シベリン
「来たぞ!」
ティチエル
「私は装甲車の中に居ます・・!怪我したら装甲車の中に隠れてください・・!」
ディバン
「横転した装甲車を元に戻しておいたぞ。」
戦車兵2
「そこのお譲ちゃん!乗るんだったら早く乗りな!」
小隊長
「ガンガンぶっ放すぞ!」
ファン
「支援するので僕も乗せてください!」

ティチエルとファンが急いで装甲車の中に入る。
戦車兵が装甲車に搭載されている機銃を乱射する。

ルシアン
「シルフカッター!!」

ルシアンが竜巻を複数呼び起こし敵の攻撃の手を緩める。

ミラ
「アタシは今猛烈に怒っているんだ!鞭に打たれたくなかったら退きな!!」

強烈な眼光を放ち敵がミラと距離を置く。・・・あまりの恐さに戦意を失っているようだ。
装甲車の護衛に回り敵を誰一人近づけさせない。

琶月
「うっ、この!」

琶月が刀を振るいオルランヌ兵を退ける。が、今度は二人同時に襲いかかってきた!

琶月
「ひぃっ!」

その時クローショットが2本飛んできた。オルランヌ兵二人の剣を掴み武器を無理やり奪った。

ディバン
「女相手にそれは少し卑怯だ」

そういってディバンが剣を投げつけオルランヌ兵を撃退する。

ディバン
「お前のお師匠さんの傍にいたほうがいいんじゃないのか?」
琶月
「ちょ、ちょっと前に出すぎました・・・」


レイ
「忍術、投爆!!」

レイが火炎瓶をいくつも投げつけ辺りを火の海にする。

オルランヌ兵
「ちっ!小癪な!」
オルランヌ兵2
「向こうへ回って攻めろ!」

オルランヌ兵が回り道しようと火のついていない道を通ろうとした瞬間、突然地面が爆発し
数人の兵士が巻き込まれ即死した。

レイ
「・・・罠がないとでも思った?」
マキシミン
「(敵に回したくないな・・・あいつ・・・)」
オルランヌ兵
「死ね!」
マキシミン
「あぁ!?なんだ、お前!俺とやんのか!?そんなみじけー腕で俺に攻撃を当てようとはいい度胸してんな!
というかお前孤立してんぞ、死ににきたのか?クック、そうだよな。そんな醜い姿してんじゃ自殺したくなるよな」
オルランヌ兵
「う、五月蠅い!!」

マキシミンの毒舌に精神的ダメージを受け大ぶりな攻撃をする。

イスピン
「殺!!」
オルランヌ兵
「!!」

後ろから鎧をも貫く攻撃を受けオルランヌ兵が倒れる。

イスピン
「君の毒舌。初めて役に立ったね」
マキシミン
「こいつで飯食えればいいのにな」
輝月
「・・・!」

突然上から複数のオルランヌ兵が奇襲してきた!魔法の力を借りて重力を思うように操作しているらしい。
輝月がそれに真っ先に気付きマキシミンとイスピンの前に立つ。

輝月
「五花月光斬!」
マキシミン
「なに!それは俺の特許だからな!!これが本家、五花月光斬だ!」

輝月が刀を振って天に月を描き、描いた月に向けて刀を放った。
放たれた刀が月に突き刺さり細かい破片となってオルランヌ兵に突き刺さり爆発した!

マキシミン
「おい、全然五花月光斬じゃねーぞ!」

マキシミンが剣で月を描き一瞬で敵を滅多切りにした!

輝月
「うぬ、ならば名前を変えようか?爆花月光弾(ばくがげっこうだん)と?」
マキシミン
「ネーミングセンス良い奴につけてもらえ!」
輝月
「良いと思ったんじゃがな・・」

輝月が渋い顔をする。地味にダメージが大きかったようだ。


ルシアン
「ボリスー!敵が多すぎるよ!!それに魔法弾も飛んで来てる!避けるので精一杯だ!」
ボリス
「クレイアーマー!!」

大地の力を借りて泥の盾を形成し周囲に張り巡らせる。
防御壁がいくつも出来、隠れる場所が現れた。

ボリス
「アイスナム!!」

空気中の水分を冷却し敵の動きを鈍らせる。それと同時に泥も冷却され硬い壁となった。


戦車兵
「隊長!弾切れです!!」
小隊長
「自動小銃持って外に突撃してこい!!」
戦車兵2
「吶喊(とっかん)する!!うおおおおおおおおお!!!!!」

装甲車から二人の戦車兵がロケットランチャーを持って飛び出した。
ボリスが作った泥の壁に隠れ敵の攻撃が止んだ瞬間にロケットランチャーを放つ!
見事直撃しオルランヌ兵が吹き飛ぶ。

戦車兵2
「昇級間違いなしだな!!」
小隊長
「お前、俺より階級上がったら絞める!」
戦車兵
「・・・!グレネード!」

二人の目の前にグレネードが落ちてきた。慌てて横に転がって回避する。ボリスが作った泥の壁が壊れ
集中砲火を受けた。

戦車兵2
「やべ、ハチの巣にされる!」
ルシアン
「チャンスガード!」

ルシアンが戦車兵の前に立ち銃弾を盾で防ぐ。

ルシアン
「早く逃げて!」
戦車兵
「ありがとう!」
戦車兵2
「お前今日から戦友だ!!」

ルシアンが銃弾を防いでいると突然ロケット弾がルシアンの盾にぶつかり盾が弾き飛んだ!

ルシアン
「うわっ!」
ティチエル
「ルシアン危ない!バリア!!」

ティチエルが装甲車の中からバリアを詠唱する。
間一髪のところでバリアが完成しルシアンに放たれた銃弾を全て弾いた。

ボリス
「ルシアン、こっちだ」

ボリスがルシアンの腕を引っ張り装甲車の影に隠れさせる。

ボリス
「ブラインド」

ボリスがブラインドを広範囲の空間に唱え視界を悪くする。両軍とも命中率が低下した。
しかし接近戦主体なので殆ど問題ない。
唯一困っているのは戦車兵ぐらいか。





エユ
「・・・やはり実力はあるな・・・。損害は少なくしたい。一瞬で終わらせる・・・」

エユが魔法を唱える。




ファン
「・・・!皆さん!!頭上からメテオが降ってきています!!」
小隊長
「で、でかいぞ!!」
戦車兵2
「隊長の拳骨が降ってくるぞ!!」
小隊長
「今からお前の頭にメテオ(拳骨)を落とす」
戦車兵
「逃げろ逃げろ!」

装甲車が勢いよく発進しメテオの範囲外に逃れる。
しかし中心にいる人達は走っても範囲外に逃げれそうもない。

輝月
「キュピル!隕石が降ってくるぞ!」
キュピル
「隕石の軌道を逸らす!このおおおぉぉぉぉっ!!!!!」

キュピルが全触手を隕石に向けて伸ばす。
凄まじい勢いで触手が伸びそして強烈な力で隕石を受け止めた!
受け止めた瞬間キュピルが足が地面に少し沈んだ。

キュピル
「ぐぐぐぐ・・!!うらあぁっ!!!」

隕石をオルランヌ側に投げ飛ばし大きな損害を与えた!



エユ
「・・・やはり狂気化したキュピルが妨害したか。しかしここで手を緩めるわけにはいかない」



輝月
「また隕石が降ってきたぞ!」
キュピル
「何度来ても無駄だ!」
輝月
「・・・!う、ぐぁっ!!」
キュピル
「!」

いつのまにか輝月の後ろにオルランヌ兵が立っていた。・・・こいつら偵察兵か!?
偵察兵の投入という奇策にやられ気配を完全に押し殺した偵察兵が輝月を掴まえた。
輝月の首にナイフが突き刺さる前にキュピルが触手を伸ばし輝月ごと吹き飛ばす。
輝月ごと吹き飛ばすというキュピルの予想外な行動に偵察兵が動揺しその隙に輝月が刀で偵察兵を殺した。

キュピル
「大丈夫か!?」
輝月
「ワシの事はどうでもよい、それよりはよ隕石を何とかするのじゃ」

輝月が首を擦りながら答える。・・少しナイフの刃が当たったらしい。
とにかく輝月の言う通り急いで隕石の軌道を逸らすことにする。

キュピル
「くそっ!!負けてたまるかっっ・・・!!!」

渾身の力を込めて隕石を押し返し何もない所に隕石を吹き飛ばした。
が、吹き飛ばした瞬間隕石が三つ同時に降ってきた!!




マキシミン
「おい!イスピン!メテオが落ちてくるぞ!」
イスピン
「な、なんて大きさなの・・。これじゃ逃げ切れないよ!」
マキシミン
「逃げてどうするんだ!!ぶっ壊してやれ!!
シベリン
「それが一番良いようだな」

マキシミンがシルフランスを放ちシベリンが投龍を放つ!
隕石を貫通するが壊す事は出来なかった。

イスピン
「飛!!」
ルシアン
「僕も手伝うよ!!飛連破!!」
ボリス
「・・・」

ボリスから強烈な冷気を感じる。
そして兄の形見であるウィンターラーを取り出し強大な剣を抜刀する。
ボリスが勢いよく地面を蹴り空中へ高くジャンプする!
無言のまま目にもとまらぬ速さで剣を振り回し隕石を切り刻んだ!!

ルシアン
「わっ!流石ボリス!」

隕石が凍った。しかしそれでも隕石は割れない!!
ボリスが隕石から離れる。

ミラ
「あの隕石は大砲じゃなきゃ壊れない!『紅い射手』のお前等!いまだ、放て!」

ミラが鞭で地面をたたきつけ高々と手を上げる。
その直後どこからともなく大砲の弾が飛んできた!

マキシミン
「おい、毎回思うんだがどうしてそんな早く大砲の弾が届くんだ。ましてや地下にも飛んできたのを俺は見たぞ」
ミラ
「アタシ等だけの秘密」
マキシミン
「へーへー、そうですか!だがこれで隕石も壊れるだろう」

ところが大砲の弾は命中せずそのままオルランヌ兵に直撃した。

ミラ
「あいつ等!後でおしおきしてやる!!」

どこからともなくメガブレイズとアイシングピアスが飛んできた。
遠くからティチエルとファンが魔法を詠唱している。
しかし隕石は止まる事なく落ちてきている!

マキシミン
「・・・・・」

マキシミンが懐から無言でボロボロの剣を取り出す。
そして無意識のうちにその剣・・・ミストラルブレードを抜刀した。
マキシミンのオーラーが変わり強烈なプレッシャーを放ち始めた。

マキシミン
『こんな所で俺を使うとは。・・・だが呼びだしたからにはしっかり働いてやる。ショータイムだ』

強烈な魔法と風で作られた斬撃が一瞬で飛び交った!
凍りついた隕石がついに割れバラバラとなって彼方此方に降り注いぐ!
小さな破片はバリアで防ぐ事が出来る。

ルシアン
「わぁ!マキシミンも何か凄いね!」
マキシミン
『・・・・』

マキシミンが無言でミストラルブレードを納刀する。

ボリス
「・・・隕石がまだ二個もある。もう200mもない」

遠くでキュピルが触手を伸ばし隕石を押し返そうとしていた。一つはキュピルに任せても問題なさそうだ。
後一個・・・なんとかしなければいけない。だが全員に疲労が貯まってきていた。


戦車兵2
「おっしゃ、こら!!隕石ぶっ壊すぞ!!」
戦車兵
「月だって壊せるはずさ!」
小隊長
「ターゲットロックオン!いまだ、撃て!!」
戦車兵2
「ファイア!!!」

装甲車が物凄い勢いで接近し4連装のミサイルランチャーを連続で放った!

ファン
「威力を上げます!スピードアップ!」

ミサイルの速度が上がり衝撃力が向上する。
隕石に向けてミサイルが飛んでいく最中近くの地面に巨大な魔法陣が現れた。

ティチエル
「・・・何か来ます・・!」
ファン
「敵・・ですか!?」

魔法陣から巨剣と魔法弾に包まれた矢と巨大な雷が飛んで行った!!
巨剣が隕石に突き刺さり爆発し大量の矢が隕石に突き刺さる。突き刺さった矢も爆発し
隕石に亀裂が走った!トドメと言わんばかりの巨大な雷が隕石を貫通し更に深い亀裂を走らせる!

ヘル
「おい!来た瞬間ピンチとか情けないぞ!」
テルミット
「早く隕石を壊さないと!」
ギーン
「ちっ、今の魔法でも壊れないか!マナのチャージが必要だ!!」
輝月
「お主等!持ち場の拠点はいいのか?」
ヘル
「ふん、全員倒しちまったぞ」
テルミット
「もう僕がいなくても全然大丈夫な程優勢になりました。問題ありません!」
ギーン
「こっちも同じだ。首都から戦車隊の援軍がやってきた。奴らに任せておけば問題ない。」
琶月
「い、隕石がもうすぐそこまで!!」

小隊長
「装甲車に一発だけ積んであるミサイル撃つぞ!」
戦車兵2
「隊長!あるんだったらさっさと使ってください!!」
小隊長
「切り札は最後までとっておくものだ!お前等も撃て!!」
戦車兵
「サーイエッサー!!」

装甲車から巨大なミサイルが現れ物凄い反動と共にミサイルが放たれた!
それと同時に戦車兵二人も同時にミサイルランチャーを連射し隕石に飛んでいく!

先に小型のミサイルが着弾し更に亀裂を走らせる。トドメの巨大ミサイルが隕石に命中し
超巨大な爆発が起きた後、隕石は粉々に割れ小さな破片となって降り注いだ!


キュピル
「うおりゃぁっ!!」

キュピルが隕石を押しのけオルランヌの拠点に投げつける。テントが大量に潰されそれと同時に
敵のマナ供給路も破壊した。


エユ
「くっ!これ以上メテオを降らせる事は出来ないか・・!・・・キュピル・・・強い仲間を従えているな・・」
ジェスター
「うぅーん・・・」

今の衝撃でジェスターが起きたようだ。

ジェスター
「・・・あれ?エユ?キュピルは?」
エユ
「・・・・」

再び眠らせようとしたがマナの供給路が破壊されてしまい魔法を唱える事が出来ない。

エユ
「ジェスター、向こうに隠れて。敵がいる」
ジェスター
「ねぇ、キュピルは?」
エユ
「キュピルの事はいいだろ、早く隠れろ」
ジェスター
「・・・・」

ジェスターが疑心暗鬼になりながらもエユの指示に従う。
それがまたエユにとって気に食わなかった。



ギーン
「キュピル!」
ヘル
「キュピルさん!」
キュピル
「ギーン!ヘル!それにテルミットも!」
テルミット
「援軍にきましたよ。ここを叩けば一度に三つの拠点を防衛したことになりますからね」
キュピル
「よし!この勢いなら勝てる!!」

キュピルとヘルが突撃しオルランヌ兵を再び戦い始めた。

ヘル
「俺はもう二十日間も戦っているがいまだに疲れ知らずだ!喰らえっ!!」

ヘルが巨剣をブーメランのように投げつけ敵を一斉に薙ぎ払う。
テルミットもその後ろで矢を連射し装甲の薄いを所を的確に狙う。





ディバン
「誰も俺に気付いていないな・・・?」

ディバンがこっそりオルランヌの拠点の奥深くに忍び込んでいた。

ディバン
「トレジャーハンターってのはどんな時でも金銀財宝を求める」

こっそり敵の拠点から回復アイテムや弾丸、武器などを頂戴する。

ディバン
「お、こいつは金か。いただくか」

その時ジェスターが入ってきた。

ジェスター
「あれ?ディバンだ!」
ディバン
「・・!キュピルのジェスターか!ここは危険だ。離れるぞ」
ジェスター
「あれ?でもエユが・・・」
ディバン
「今キュピルとエユが対立している。お前騙されているぞ」
ジェスター
「・・・ちょっとまって!キュピルとエユが戦っているの!?」
ディバン
「そうだ」
ジェスター
「止めなきゃ!」
ディバン
「やめろ。・・・とにかくお前はキュピルの傍にいろ。いいな?」
ジェスター
「・・・う、うん・・」
ディバン
「良い子だ。・・・いいアイテムありがとよ」

そういって今さっき手に入れた時限爆弾を拠点にセットし急いで離れる。
数十秒後、オルランヌの拠点で大爆発が起き大損害を与えた。
爆発に気がついたエユが振り返る。・・・拠点からディバンとジェスターが出てきた。

エユ
「・・・!あいつ!逃がすな!」
ディバン
「くっ!」

革のコートに矢が突き刺さり穴が空く。
片手で革の帽子を押さえながらもう片方の手を使ってフックショットを放ち装甲車にひっかける。
ジェスターがディバンの腕にしがみつき吹き飛ばされないように気をつける。
そしてフックショットのボタンを押して勢いよく味方の所まで戻る。

エユ
「くそっ!ジェスター・・・!」





琶月
「大丈夫ですか!?」
ディバン
「武器奪ってきたぞ」
小隊長
「ガッツあるな!うちの隊に入らないか?」
ディバン
「遠慮する」
戦車兵2
「隊長、フラレマシタネ」
小隊長
「お前後で絞める!」
戦車兵2
「俺何回死ぬことになるんだか」
ファン
「・・・ジェスターさん!」
ジェスター
「・・ファン。キュピルとエユが戦っているの・・?」
ファン
「二人はまだ直接戦ってはいませんが現在敵同士です」
ジェスター
「何で・・・何でこうなってるの・・」
ティチエル
「・・・ジェスターさん可哀相・・・」




その時地鳴りが聞こえた。


エユ
「・・・何だ?」
偵察兵
「報告!!トラバチェス軍の増援です!!」
エユ
「なにっ!ただでさえあの精鋭共が暴れているというのに!」



戦車隊
「隊長!戦車と装甲車間違えるとかどんだけ低能なんですか!」
小隊長
「お前後で絞める!」
戦車隊2
「何人絞めることになるんでしょうかね。グハハハ」
小隊長
「ええい!!ガンガンぶっ放せ!!!一人倒すごとに酒一杯奢るぞ!」
戦車兵2
「隊長、自己破産してもしりませんよ」

戦車隊が一斉に主砲を放つ!
オルランヌ兵を蹴散らし一気に数が減った!


ギーン
「旧式とはいえやはり戦闘車両は役に立つな」
キュピル
「・・・ギーン、ここは任せるぞ」
ギーン
「何処に行く気だ!」
キュピル
「エユともう一度話をしてくる!」



輝月
「ぬ・・・キュピル・・。・・・行く気か」
マキシミン
「お前はここで戦ってろ!戦車隊が来たとはいえヤバイ状況には変わりないんだからな!」
ミラ
「あいつは・・危険を省みないんだな」





道中のオルランヌ兵を触手で吹き飛ばしながらエユの元まで一直線に走る

キュピル
「エユ!!」
エユ
「・・・!来たな、キュピル!」
キュピル
「もうお前の負けだ!!潔く降伏してくれ!」
エユ
「降伏?ふざけた事を言うな!・・・まだこっちには最大の切り札が残されている事を忘れるな・・!」
キュピル
「最大の切り札だと・・・・・。何をする気だ!」
エユ
「・・・たった今連絡が入った。・・一号がこっちに向かっているとな」
キュピル
「・・・一号・・・。ルイ・・・!?待て!一号をこっちに連れてくるな!!」
エユ
「ついに恐れたか。」
キュピル
「違う!今一号は制御不能な状態になっている!ここに連れてきたら大変なことになるぞ!
それこそアノマラド大陸の崩壊を早めることになる!」
エユ
「ふざけた事を言うな!制御不能な状態ならどうやってここに一号を連れてくる!
ここに連れてきてるということは一号は制御可能状態だったという証拠だ!他にどんな理由がある!」
キュピル
「そ、それは・・・」
エユ
「キュピル。・・・もう一度言う。・・・頼む、お前の仲間をつれてこっちについてくれ。
お前達がこっちに来れば・・。トラバチェスは確実に負ける。そうすれば長く続いた戦争は終わる!
そして絶対的な力を保持し続けることだってできる!そうすれば全ての国がオルランヌを恐れて
どこの国も戦争を仕掛けなくなる!お前が狂気化していたのは大きな誤算だったが今はそれが逆に取り柄だ・・!
・・・ジェスターのためにも、世界の人達のためにも来てくれ。平和のために!」
キュピル
「そんな恐怖政治で民衆が喜ぶはずがない!ましてや、力を持っている時点で平和が訪れるはずがない!」
エユ
「恐怖政治にはしない!!あくまでも世の中をよくするためにも絶対的な力が必要なんだ!!」

その時エユに無線機に通信が入った。


『隊長。一号が我々の護衛を振り切り単騎でそちらに急接近しています。後はよろしくお願いします』

エユ
「任せろ。すぐに終わらせる。・・・おい、一つ聞くぞ」

『はい?』

エユ
「・・・その一号は我々の命令に従っているか?」

『・・・それが言う事を聞かないのです。・・・今の所こちらに危害を加えたりはしていないのですが・・。』

エユ
「何か気になった事はないか?」

『・・・そういえば生命研究室に謎の泥が・・。それと通路にも正体不明の泥がありました。
・・・一号が通った跡に必ず泥があります。』

エユ
「・・・泥か。わかった」


エユが無線を切る。

キュピル
「・・・俺の言った通り制御できない状態だろ?」
エユ
「確かにお前の言う通り制御は出来ていないようだ。だがこちらの意志は伝わっているようだな。
危害も加えられていないようだ。すぐに一号がこっちに到着する。
・・・いくら狂気化したお前とはいえど一号を倒す事は出来ないはずだ」
キュピル
「エユ、一号はオルランヌにも危害を加えるぞ」
エユ
「さっきから何度も同じことを言ってるがキュピル。・・・証拠を出せ。証拠さえ出せば信じてやる」

キュピルから一瞬強烈なオーラーが溢れた。

キュピル
「エユ、今の言葉。俺は忘れないからな」

キュピルが内ポケットから一枚の写真を見せる。
・・・完全体・ルイが元トラバチェス首相を突きさし液状化している写真だ。
その横でオルランヌの国王が驚いている。

エユ
「・・・こ、こいつは・・・! ・・・誰が撮った写真だ」
キュピル
「現トラバチェスの首相、ギーンがオルランヌの地下に忍び込んで撮ってきたものだ。
攻撃を食らった者は皆黒い泥になった。」
エユ
「・・・く、黒い泥だと・・・?」
キュピル
「エユ・・。あの時お前が俺の話を最後まで聞いてくれれば争う前に・・その写真を見せれた」

・・・。

・・・・・・・・・。

エユの手が震え始めた。

キュピル
「エユ。今からでも遅くない。早く兵士を撤退させるんだ。一号が到着する前に」
エユ
「・・そんな馬鹿な・・・。・・・狂気化した奴が・・制御できないとなれば・・・。
それこそ本当にお前の言う通り・・・アノマラド大陸は崩壊する・・・」
キュピル
「聞こえなかったのか、エユ!早く兵士を撤退させるんだ!」
エユ
「・・・お前はどうする気なんだ?」
キュピル
「こいつを見てくれ」

キュピルが一錠の薬を見せる。

キュピル
「こいつは狂気化の治療薬だ。・・・これを飲ませれば狂気化を治療する事が出来る。
これで一号の暴走を止め元通りにする」
エユ
「・・・その薬はいくつあるんだ」
キュピル
「一つだ」
エユ
「お前の分は」
キュピル
「ない。・・・だが別に構わない。」
エユ
「別に構わないって・・・。・・・・キュピル・・。やっぱりお前は昔から変わらないな・・・。
自分を犠牲にしてまで他人を救おうとするその気持ち・・・・。
・・・・。・・・・わかった。俺も今、目が覚めた・・・・」

エユが立ちあがりキュピルの傍に近づく。

エユ
「キュピル。もう一度言っておく。俺は完全平和のために戦ってきた。この言葉にウソはない。
・・・だが国のやり方に疑問を持った事は何度もある。・・・ひとり言でお前に救いを求めた事もあるぐらいだ。
・・・。改めてジェスターの事を頼むぞ」
キュピル
「いや、ジェスターを連れて逃げてくれ。・・・かなり激しい戦闘が予測される。
もしかすると俺は負けるかもしれない。負けた姿をジェスターに見せたくない」
エユ
「その強がりな性格も変わらないな・・・」
キュピル
「早くオルランヌ兵を撤退させるんだ。こっちもトラバチェス軍を撤退させる」
エユ
「・・・分かった。」

エユが撤退命令を下そうと無線機を取り出した。

エユ
「聞け!」

その時無線に悲鳴が入った。



『う、うわあぁぁ!!』
『な、なんだあれは!!』
『隊長!!正体不明の化け物がこうg・・・』
『で、でかくなっている!!』
『あいつの攻撃を避けろ!触れれば泥になって吸収されるぞ!!』


エユ
「おい!!聞け!今すぐ撤退するんだ!!」
キュピル
「・・・!エユ!」



キュピルが遠くを指差す。





巨大な黒い塊が地平線から迫ってきていた。
かなり遠くにいたと思えば超高速で接近し一瞬でキュピルとエユの前にやってきた!!



エユ
「!!!」
キュピル
「避けろ!」

キュピルが触手を伸ばしエユを黒い塊から遠ざける。
黒い塊・・いや、違う・・!黒い泥が襲いかかってきた・・・!!

エユが氷魔法を唱え黒い泥を一時的に固める。

キュピル
「逃げるぞ!!」

遠くの方で黒い泥がオルランヌの拠点を飲みこんでいた。





シベリン
「・・・!なんだ、あれは・・」
イスピン
「・・・黒い・・・泥・・・?」
マキシミン
「おい!こっちに来るぞ!!逃げるぞ!」
ルシアン
「うわぁっ!やばいよ!凄い速い!!」


ギーン
「・・・!!黒い泥・・・!!」
ファン
「あの泥は・・・まさか・・・」
琶月
「わっ、何あれ!?」
小隊長
「やべぇもんきたな!ビックウェーブか!?」
戦車兵
「の、飲み込まれる!!」
小隊長
「おい!早く乗れ!!飲み込まれても知らんぞ!!」

ヘル達やマキシミン達が装甲車に乗り込む。

小隊長
「撤退だ!戦車隊撤退しろ!!飲み込まれる前に!!」

砲撃が鳴り止み全ての戦車が一斉に後退し始めた。
装甲車も遅れて発進しようとした。

ジェスター
「待って!キュピルがまだいない!」
小隊長
「お友達か!?」
輝月
「・・・・!来たぞ!」
ディバン
「エユとかいう奴もいるな」

キュピルが触手を伸ばし装甲車に掴まる。エユもキュピルの手に掴まる。
掴まった瞬間装甲車が勢いよく発進した。吹き飛ばされそうになったがしっかりと触手が巻きついている。
触手を引っ張って何とか装甲車に乗り込む。

キュピル
「もっとアクセル踏むんだ!追いつかれる!!」
小隊長
「言われなくても既に全開だ!!」
ルシアン
「スピードアップ!」
マキシミン
「意味あるか分からねぇが・・・シルフウィンド!」

スピードアップとシルフの加護が加わり装甲車が物凄いスピードでトラバチェスの拠点に撤退していく。
戦車を次々と追い抜かして行く。

ジェスター
「エユ!」
エユ
「ジェスター!・・・すまなかった・・・。本当にすまなかった・・・。」
ギーン
「・・・お前。確かオルランヌの前線隊長だったな。」
エユ
「・・・君は確かトラバチェスの現首相・・・。」
輝月
「お主は今どっちについておる。オルランヌか?トラバチェスか?」
エユ
「・・今はトラバチェスだ。・・・・・今は・・いや、この先・・もか?」
ヘル
「何があったのかは知らねぇが・・・。こっちに引き抜いたってことか」
テルミット
「・・・!見てください!黒い泥が戦車を飲みこんで行きます!」

黒い泥から大きな触手が大量に現れ戦車を次々と飲みこんでいく!
装甲車に搭載されている無線機から悲鳴が次々と流れ込んでくる。
ギーンが無線の電源を切る。

キュピル
「・・・見ろ。黒い泥が巨大な渦になっていくぞ・・・」

黒い泥が集まりドンドン天へ伸びて行く。
・・・そして途中から大地を覆うかのように横に広がり始め今度は雲を飲みこみ始めた。
空にも黒い泥がドンドン広がり始め、日を遮り凄い勢いで空も浸食していく。



それだけじゃない。


黒い泥はオルランヌ軍の兵士や魔術師、兵器をも飲み込み凄い勢いで広がり始めた。










『・・・アノマラドの崩壊が始まったようですね・・・』

精霊の木樹の周りに集まっている妖精たちが呟いた。

『もうアノマラドの崩壊を食い止める事はできません。』






琶月
「や、やばいですよ!!もうさっきの広い戦場の殆どが黒い泥で埋め尽くされましたよ!!」
ヘル
「縦にも伸びて行っている。・・・こいつは・・・どうやったら止まるんだ・・!?」

その時装甲車の中で一斉に何かが光りはじめた。

イスピン
「・・・!シュペリアキューブが・・・光ってる・・」
ミラ
「・・・アタシのエターナルサークルが・・。」
ボリス
「・・・ウィンターラーが光っている。・・・他のアーティファクトと共鳴している・・・?」
レイ
「・・・神の武具が反応している。・・・世界の運命が変えられようとしている。『審判者』・・・」
キュピル
「・・・・。・・・・!!」
マキシミン
「・・・おい、キュピル。・・・お前の剣・・光っていないか!?」

キュピルが愛用の剣を取り出す。・・・ひ、光っている・・・!!!

キュピル
「何だ・・・何で光っているんだ・・・?」
シベリン
「ナy・・じゃなかった。レイ。・・・彼も実は審判者・・あるいは守護者だった・・っていうことなのか?」
レイ
「・・・おかしい。審判の目はそれはアーティファクトじゃないと言っている・・・。審判者でも守護者でも
どちらにもつかない人間。」
ギーン
「・・・審判者。・・・守護者・・・。・・・テシスか」
レイ
「・・・知っているの?」
ギーン
「苗族の掟もな」

レイが一瞬警戒を強めた。・・・だがすぐに警戒を解いた。

黒い泥の飲み込む速度が上がってきている。
戦車隊やオルランヌ兵を次々と飲みこんで行き、飲み込むたびに速度が増していく。

ヘル
「このままじゃ追いつかれちまう!!」

もう100m手前まで黒い泥が近づいてきている!!このままでは・・・あと1分も持たない。

ギーン
「くそ、こんな高速移動していてはテレポートも詠唱できない・・・!」
エユ
「・・・!!」

黒い泥から触手が伸びてきた。装甲車のハッチに絡みつき無理やり装甲車の壁を引きはがした。

小隊長
「ぐっ!」
戦車兵2
「隊長!装甲車がオープンカーになっちまった!!」
戦車兵
「馬鹿!オープンカーってのは天井がない車の事だ!どうみても後ろに穴があいてるぞ!」
エユ
「氷魔法を放つんだ!少しは鈍るかもしれない!!」

ティチエルやボリス、レイにギーンと氷魔法を扱える者が一斉に魔法を放つ。
しかし既に規模が大きくなっており動きが鈍ることは全くなかった。

ティチエル
「フリーズを放ちましたけど凍りません・・・!」
ミラ
「ちっ!どうしようもなんないのかい!?」

その時一段とアーティファクトが強く光り出した。

ルシアン
「うわ、眩しい!!」
琶月
「一体・・何が起きているんですか・・・!?」

装甲車全体を包み込み次の瞬間、白い光が黒い泥を覆い尽くした。
そのまま何が起きたのか分らないでいると次第に光は薄くなりそして消えて行った。

テルミット
「・・・見てください。黒い泥が止まりました」

ぐねぐねと動いてはいるが広がりが止まった。

ギーン
「・・・止まったな」

装甲車がドリフトしながら止まった。

ヘル
「終わったのか?」
レイ
「・・・アーティファクトの力でアノマラドの崩壊を一時的に止めた。
・・・これはただの時間稼ぎにしかならない」
ディバン
「この時間稼ぎとやらはいつまで持つんだ?」
レイ
「・・・三日が限界」
輝月
「・・・三日。・・・琶月」
琶月
「・・・な、なんですか?」
輝月
「やり残したことがないようにな」
琶月
「そ、そんな・・!師匠!まさか・・もう死んだと思っていませんよね・・!?」
輝月
「冗談じゃ。・・・しかし・・・冗談だと思えるうちはまだよいが・・・」
ジェスター
「・・・キュピル・・・エユ・・」
キュピル
「・・・・・」

キュピルが一心に黒い渦を見つめている。

ギーン
「・・・とにかくトラバチェスの拠点に一旦戻るぞ。そこで対策を考える・・」
小隊長
「・・・行くぞ」

再び装甲車を走らせ拠点へ戻って行く。








拠点に戻ると騒然となっていた。あの黒い渦は何だと全員騒いでいる。

ギーン
「落ちつけ!!今から緊急会議を行う!!
・・・キュピル。お前達は休んでくれ。・・・この先何があるか分らない。分析は俺に任せろ」
ファン
「ギーンさん。分析は僕も手伝います!」
テルミット
「どこまで手伝えるか分りませんが僕も参加します」
ギーン
「・・・助かる」

三人が有能な兵士を集めて緊急会議を開いた。
残った者たちは休憩に入る。



・・・・。

・・・・・・・・・・。

シベリン
「・・・流石に疲れたな」
ティチエル
「皆さん・・お怪我はありませんか?」
ルシアン
「うーん・・・僕の盾が吹っ飛んじゃった・・・」
ボリス
「酷い傷はないようだな。・・・よかった」

ティチエルがワイドヒールを唱え皆の傷を癒す。

イスピン
「・・・あの黒い渦は一体・・・」
キュピル
「・・・・・・」

黒い泥から伸びてきたあの触手・・・。

・・・。

・・・・・・・・・。

考えたくない。

・・・・でも・・・。



それしかないというのも事実である。




キュピル
「・・・あの黒い泥は・・ルイが作りだした泥だ」
ジェスター
「・・・ルイが作りだした泥・・?」
キュピル
「・・・あの黒い渦がここから見えるだろ?」
ジェスター
「うん・・」
キュピル
「あれがルイだ。」
ジェスター
「え・・・」
キュピル
「・・・狂気化・・・。最後まで進むと・・・ああなっちまうのか・・」

その時ふと眠気が襲ってきた。
・・・間違いなく疲れだ。
一旦横になり目を閉じる。・・・強い睡魔がやってきてそのまま深い睡眠状態に入った。
その横でジェスターも横になり一緒に寝始めた。


エユ
「・・・完全平和実現のために作りだした兵器・・・狂気化・・・・。
・・・俺達はこいつで完全平和を実現しようとしたのか・・・?」
マキシミン
「おい、お前!あんなので平和が得られるとでも思ったのか!あんなのが彼方此方にあるぐらいだったら
俺は戦争してたほうがマシだね!」
シベリン
「マキシミン。・・・・・・・」

シベリンも黙る。・・・戦争より酷い物はないとでも言おうとしたのだろうか。
・・・しかし今の状況は戦争よりも酷い。




アノマラドを覆い尽くす能力を持つ狂気化・・・





ミラ
「・・・アタシ達はこれからどうすればいいんだろうね」
輝月
「・・・ギーンが分析してくれてるはずじゃ。・・・猶予は三日残っておるのだろ?焦る必要はない」
ヘル
「余裕だな」
輝月
「ふっ、心残りがないようにしておくのだぞ?」
ルシアン
「なんかもう死んだも同然って顔してるね・・・。・・・僕は諦めないよ。だって、アクシピターだけじゃなく
このままじゃ全部なくなっちゃうんだもん。そんなの絶対に許さないよ」
ティチエル
「私も同じです!・・・きっとあの黒い泥はアノマラド大陸だけじゃなくきっと海をも飲み込みます・・・。
・・・そしたら・・・」
ボリス
「・・・アノマラドの崩壊だけじゃなく・・・世界の終焉が訪れる」



世界の終焉・・・。



輝月
「・・・私かて最後まで諦めたりはせぬ。しかしやり残しはないようにしておきたいの。
・・・ま、しかし私の唯一の心残りはお主との決着がまだついていない事だけだがな。」
ヘル
「あ?・・・もうついただろ。」
輝月
「まだだ。・・・キュピルとの訓練の成果をまだ見せておらぬ」
ヘル
「なら、今この場でやるか?」
輝月
「望む所」

二人が武器を構える。

ディバン
「お前等やめておけ!こんな所で大けがしたらどうする気だ!
俺はつい最近入ったばっかりだがお前等の仲は既に熟知している!
いい加減にしておけ!!」

ディバンが珍しく声を荒げる。
隣で琶月も必死に頷いている。

ヘル
「・・・・なら、輝月」
輝月
「何じゃ」
ヘル
「・・・この一件を解決したら勝負だ」
輝月
「・・・・」

輝月が二ヤリと笑う。

輝月
「そうじゃな。」
イスピン
「今は休憩しましょう・・・。みなさん疲れているはずです」
マキシミン
「俺も流石にクタクタだ。・・・寝る」

マキシミンが何処からともなく酒瓶と新聞紙を取り出し酒瓶を枕に、新聞紙を布団にして寝始めた。

レイ
「・・・ホームレス」
マキシミン
「あ?何か言ったか?」
レイ
「別に」

その後も何人かが横になり寝始めた。
結局最後までずっと起きていたのはエユだけだった。








かなりの時間が経過した。






キュピル
「・・・・ん・・・・」



何か凄まじい音が聞こえたのでキュピルが起きる。
・・・空を見ると沢山の武装ヘリが飛んでいる。一体何をしているんだろう?

テルミット
「お目覚めですか?」
キュピル
「テルミット、今何をしているんだ?」
テルミット
「偵察です。空から見てあの黒い渦はどうなっているのか調べさせている所です」
キュピル
「そうか・・・。・・・あの黒い渦が止まってから何時間経過した?」
テルミット
「19時間です」
キュピル
「19時間・・・。かなり寝てたんだな・・・」

キュピルの他に寝ていたのはジェスターと輝月だけだった。
・・・二人とも泥のように寝ている。
輝月に至ってはうつ伏せで寝ているため傍から見ると死んでいるかのように見える。

キュピル
「・・・テルミットも寝たらどうだ?」
テルミット
「大丈夫です。少し仮眠取りましたから」
キュピル
「それなら良いんだが・・・」

キュピルが起き上がる。
・・・少し散歩しようかな。

散歩しようとした時誰かが起きた。輝月だ。

輝月
「ぬ・・・。・・・・顎が痛い」

キュピルとテルミットが吹きだす。
唐突に変な事を言うものだからキュピルが突っ込みを入れる。

キュピル
「そりゃうつ伏せで寝たら顎も痛くなる。」
輝月
「・・・寝た時は仰向けじゃったんだが・・・」
キュピル
「・・・寝相悪いのか?」
輝月
「ぬぅ・・・」

輝月が機嫌を損ねる。
・・・仕方ないので改めて外を散歩することにした。




外に出ると武装ヘリが何機も飛んでいたのが改めてよくわかった。

・・・一部の飛行機は雲を突き抜けて行った。


キュピル
「(・・・・・・)」

・・・・もし・・。

あの時ルイの事を追求しなかったら今もルイは隣に居てくれただろうか。
あんな黒い渦になったりしなかっただろうか・・・。

ギーン
「何を考えている」
キュピル
「む、ギーン・・。分析の方はどうなった?」
ギーン
「これから詳細な分析に入る所だ。数時間後になれば少しは分るはずだ」
キュピル
「そうか。・・・・・あれ・・・」
ギーン
「・・・どうした?」
キュピル
「ギーン。そういえばミーアはどうした?全然見ないんだが・・・」
ギーン
「安心しろ。ミーアは無事だ。オルランヌに偵察に行かせたっきりだが連絡は取り合っている」
キュピル
「オルランヌで今何をやっているんだ?」
ギーン
「向こうの動向を探ってもらっている。・・・情報によれば向こうも既に黒い渦の事は認知しているようだ。
当分攻めてくる気配もない。今ならあの黒い渦に専念できる。」
キュピル
「そうか」

・・・・。

・・・・・・・・・。

ギーン
「キュピル。・・・・いざとなったらどうするんだ?」
キュピル
「・・・いざとなったら?」
ギーン
「異次元のことだ。・・・お前は元の世界に帰る手段を持っているんだろ?」
キュピル
「・・・あぁ・・・」

キュピルがポケットから魔道石を取り出す。・・・こいつを持って念じれば・・・俺は元の世界に帰る事が出来る・・。

・・・。

ギーン
「そういえば・・・まだお前に時空の歪みを解除する魔法を教えていなかったな」
キュピル
「全てが終わってからでいい」
ギーン
「いや、今渡しておく」
キュピル
「・・渡しておく?」

ギーンがキュピルに石ころを渡した。

キュピル
「なんだこれ、ただの石?」
ギーン
「・・・高名な魔術師ならそれがどれだけ貴重な石かすぐにわかるんだがな」
キュピル
「悪かったな」
ギーン
「そいつを時空の歪みに向けて投げつけるんだ。・・・そうすれば時空の捻れが消え元の空間に戻る。
・・・それでお前の婚約者とやらを助けてやれ」
キュピル
「・・・・わかった」
ギーン
「・・・ついでに聞きたいが、お前の婚約者。一体どんな人物何だ?」
キュピル
「ギーンがそれを知りたがるなんて意外だ」
ギーン
「お前の婚約者なら誰だって気になるだろう。・・・特別な奴なのか?」
キュピル
「・・・そんな特別なもんじゃない。・・・いたって普通な人だ。」
ギーン
「・・・この世界から離れたくなるほど特別な奴かと思えば違うのか。」
キュピル
「そう言う訳じゃない。・・・本当にただの人間。」

キュピルがその場に座り壁によりかかる。ギーンも同じように座る。
二人とも遠くにある禍々しい黒い渦を眺める。

キュピル
「・・・本当は今俺はここにいないはずなんだ」
ギーン
「よく聞く台詞だな。」
キュピル
「よく聞く台詞?」
ギーン
「兵士に聞けば必ず皆そういう。・・・助けてもらったのか?」
キュピル
「・・・簡単に言えばそうだな。強大な戦争に巻き込まれて魔術師に時空の狭間に閉じ込められそうになった時・・。
・・・ミティア・・って言うんだがミティアが俺の身代わりになってくれてな。」
ギーン
「その事は誰も知らないと言ったな?」
キュピル
「誰一人知らない。・・・唯一知っているのは今話したギーン、お前さんだけだ」
ギーン
「何故話さなかった?」
キュピル
「・・・・向こうの世界に居る時は話せないんだ。・・・呪いだか魔法だか知らないが・・・。
話そうとすると口が勝手に閉じるんだ」
ギーン
「口封じの術か。・・・しかし今喋れてるということは・・・」
キュピル
「効果が切れたのか、それとも次元が違うからか・・・」
ギーン
「・・・・野暮な事を聞いたな」
キュピル
「いや、別に良い。・・・石、ありがとう」
ギーン
「お前はちゃんとそれなりの働きをしてくれた。その石じゃ足りないぐらいだな。
・・・俺はそろそろ分析に戻る」
キュピル
「分かった」

ギーンがミニテレポートを詠唱し移動した。
キュピルが立ちあがり拠点の裏へと回った。

・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

ヘル
「はぁっ!!くらえっ!」
キュピル
「ん・・・」

拠点の裏で岩石相手に巨剣を振り回しているヘルの姿があった。

キュピル
「何をやっているんだ?」
ヘル
「ん・・。キュピルさんか。見ての通り特訓です」
キュピル
「特訓?どんな時でも訓練を怠らないんだな」
ヘル
「当然です。・・・それに昨日輝月に勝負を申し込まれました。・・・あいつ、キュピルさんの訓練を受けて
自信がついているみたいです。・・・ちっ、だけど俺だって負けねーぞ・・!」

ヘルが岩石に向けて巨剣を投げつける。巨剣が突き刺さり爆発を起こし岩石をバラバラにした。
そしてその隣の岩石にターゲットを変更し再び巨剣を振り回し始めた。

キュピル
「・・・ヘル、出来る事ならお前はずっと輝月の傍に居た方がいい」
ヘル
「なにぃ!?」

ヘルが振り返る。不服らしい。

キュピル
「お前と輝月程仲の悪い人はそうそう見かけない。お互いプライドが高すぎる。
・・・だけどそれ故に互いに切磋琢磨しあってる部分がある。お前さんと輝月はかなり良いライバルだと思う」
ヘル
「違うな。・・・俺は今まで誰にも負けた事がなかった。キュピルさんに負けたのは仕方ないと思ったが
輝月に負けた時は何故か反発心が湧きあがった。」
キュピル
「それは何故?俺はいいのに輝月はダメなのか?」
ヘル
「女に負けるわけにはいかないと思ったからさ」

キュピルが眉間にシワを寄せる。

キュピル
「ヘル、こうは思いたくないんだがまさか男女差別しているわけじゃないよな?」
ヘル
「・・・・」
キュピル
「・・・違うようだな。・・・一体何なんだ?」
ヘル
「・・・単純な話です。・・・女は戦ってほしくないだけだ」
キュピル
「どういうことだ?」
ヘル
「ええい!キュピルさん!俺は今から猛特訓するので構わないでくれ!!」

そういってヘルが力任せに巨剣を振り回し始めた。・・・何かあるな。
一旦ヘルから離れることにする。


・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。


拠点の外周を回っていると何処からともなく声が聞こえた。

テルミット
「おや、キュピルさん。また会いましたね」
キュピル
「ん?何処だ?」
テルミット
「上ですよ、上」

上を向くと拠点の窓からテルミットが顔を覗かせていた。

キュピル
「おー、また随分と高い所にいるなー。景色はいいか?」
テルミット
「え?あー・・、そうですね。曇ってなければよかったんですけどね」

・・・・?窓から顔を覗かせていたのに景色を見てなかったのか?
・・・っと、そうだ、ヘルについてちょっと聞いてみるとしよう。

キュピル
「なぁ、テルミット。ヘルについてまた聞きたい事があるんだけどいいか?」
テルミット
「いいですよ。今そっち行きます」

テルミットが窓から飛び降り着地する瞬間に魔法を唱え、ふわりと舞い着地した。

テルミット
「何を聞きたいのですか?」
キュピル
「さっきヘルと話をしていたんだけど少し輝月への対抗心があまりにもキツかったから理由を聞いてみたんだ。
そしたら女は戦ってほしくないだけだって答えたんだが・・。テルミットは何か知っているんじゃないのかなって」
テルミット
「あー・・・。・・・知ってますよ」
キュピル
「聞いてもいいか?」
テルミット
「うーん・・・。・・・でもこんな状況ですし、大丈夫かな。いいですよ。
僕とヘルさんは幼馴染ってのは知ってますっけ?」
キュピル
「書類で確認してある」
テルミット
「僕達が住んでいた村は非常に小さな村で鉱山に囲まれた場所でした。
・・村というよりは集落と言ったほうがいいかもしれませんね。
オルランヌとトラバチェスの間に位置していたんですが
鉱山に囲まれているという事だけはあってその村の名産は鉄鉱石や貴重な銀鉱石や金鉱石。
更にはミスリルと呼ばれる魔術道具に必須と呼ばれる貴重な鉱石も手に入りました。

・・・しかし僕達が住んでいた村はこう呼ばれています。『破滅の村』・・・。
オルランヌとトラバチェスのちょうど国境線の真ん中に位置するということだけあって
両国の争いの火種に何度もなりました。元は大きな村だったのですが度重なる戦争で今は数十人しかいません。
・・・そして1年前。アノマラドとオルランヌとトラバチェスの三つ巴の戦争が再び起きたのです。」

その時キュピルが口をはさんだ。

キュピル
「それはあれか?アノマラド魔法大立学校が消えてしまったあの戦争のことか?」
テルミット
「そうです。・・・その時オルランヌとトラバチェスが同時に僕達の村に入りこんで来て
貴重な鉱石を同時に徴収しようとし争いが起きました。
その時にヘルと僕と・・もう一人、ナナミっていう人が居たんですけど村の資源を戦争何かに使われる訳には
いかないってことで立ち向かったのですが・・・その戦いでナナミさんが討ち死にしました。」
キュピル
「・・・もしかして、そのナナミって人が・・」
テルミット
「お察しの通りヘルと僕はナナミさんの幼馴染でした。・・・特にヘルさんとナナミさんは仲が良かったのですが・・。
・・・ヘルは自分の力が及ばなかったからナナミさんも戦う事になったと思っています。
あの時自分が誰にも負けない実力を持っていればナナミさんはまだ生きていた・・っと。
それから数日後、ヘルと僕は村から出て旅に出ました。理由は知っての通りです。」
キュピル
「・・・ふむ。しかしまだ分からないなぁ・・・。何故女に負けると反発するのか」
テルミット
「ヘルは頭の中では力が無い者は戦えない・・いや、戦わないって思っているみたいです。
戦いや争いから逃げまとう存在・・。・・・でもヘルにとって女性はそっちのがいいって思っているみたいです。
・・・ナナミさんは中途半端に強気で少しだけ強かったので・・・。時々輝月さんと被る時があるんだと思います。」
キュピル
「・・・もし輝月の前で圧倒的な強さを見せつけて、それで輝月が屈服して戦う事をやめたら
あの時、ナナミという人もきっと戦う事を止めて逃げてくれただろうって思っている・・ということか?」
テルミット
「うーん・・・ちょっと複雑ですけど・・。半分は合っているような感じもします」
キュピル
「・・・意外とヘルも可愛い奴だな。女を守るために強くなろうと決心し・・・
だけど自分より強い女の人を見つけて色々反発しているのか。・・・そういうことなら放っておいた方が
良い方向に進みそうだ。輝月は当分苦難が続くだろうけど」

輝月も女という部分に強いコンプレックスを抱いており男には絶対に負けないと思う気持ち。
反対にヘルは自分の力が及ばなかった故に幼馴染が死んだと思い、女には絶対に負けないと思う気持ち・・。

キュピル
「こりゃ将来どうなるか見物だな。」
テルミット
「アハハ・・・。ヘルさんが強くなったと思ったら今度は輝月さんが強くなっていますし輝月さんが強いって思ったら
今度はヘルが輝月さんに勝ったりしてますし・・。一体どこまで強くなるんでしょうね?」
キュピル
「二人とも自分の長所と欠点を知り始めたからな。かなり良い所まで強くなると思う。
はっきり言って輝月は俺より強いし今のヘルだったら俺より普通に強いよ。きっと何事にも負けない」
テルミット
「そうですね」
キュピル
「・・・しかし、テルミット。今の話を聞くとテルミットまで村から出る理由が分らないんだが・・」
テルミット
「あ、それは・・えーっと・・・」

何か言いにくそうな顔をしている。
・・・しかし本当に理由が思いつかない。

キュピル
「単純に放っておけないって思ったのか?」
テルミット
「そうです」

・・・・怪しいな。今のは違う。

キュピル
「・・・読心術を心得た俺の前じゃ嘘は通じないぞー。今のは違うな」
テルミット
「うっ・・・そ、その。聞かないでください・・・・」

久々に悪戯心が湧き問い詰めてみる。

キュピル
「まぁ、そう言うな。下手したら俺達も後二日の命かもしれないじゃないか。
やり残したことがあるんじゃないのか?そしたら手伝えるかもしれないぞ。もしかするとそのやり残した事ってのは
ヘルと何か関係があるんじゃないのか?」
テルミット
「・・・キュピルさん。・・・絶対に秘密ですよ?絶対にです」
キュピル
「おう、秘密にする」

テルミットがキュピルの耳元でひそひそと呟いた。

テルミット
「・・・ヘルってワイルドで素敵だと思いませんか?」

キュピル
「・・・・・?」

一瞬それが何で秘密なのか分らなかったがすぐにある答えに辿りついた。

キュピル
「・・・・ああああ!!テルミット!お前まさか!!!ヘルのことが!!!」
テルミット
「キュ、キュピルさん!!声が大きいです!!!!」
キュピル
「おっと、悪い・・・。」

・・・しかしこれは意外だ・・。こんな清々しくてどう見ても18歳にしか見えない好青年が・・。
・・・・。さっき窓から顔を覗かせていたのは景色を見ていたんじゃなくてヘルを見ていたのか・・・。

キュピル
「・・・まぁ、頑張れ。険しい茨の道だけれども」
テルミット
「・・・誰にも話さないでくださいよ?」
キュピル
「話す勇気がない」


苦笑いしながらキュピルが再び拠点の外周を歩き始めた。
・・・遠くからチラッと再びテルミットを見ると影からヘルの事を見ている・・・。かなり脈持ってるな・・・。


・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

ここの拠点は険しい山岳に挟まれている。
オルランヌの拠点へと続く方向は平坦な道なのだが・・。
首都へ続く道にこの拠点があるので地形的に防衛しやすいといえば防衛しやすい。

・・・その時山岳に誰か登っているのに気付いた。

キュピル
「ん?」

短髪で紅い髪の和服を着た子・・。琶月か。
それにしても命綱も着けずに何故あんな絶壁を登っている?
というか、服装的にも凄く危ない。引っかかったらどうする気だ。

琶月
「あっ!」

案の定服の端が岩に引っかかった。外そうとした瞬間足を踏み外し絶壁から転落した!
一瞬で触手を伸ばしクッションにする。その上に琶月が落ち無事助ける事が出来た。
すぐにキュピルが近づく。

キュピル
「琶月!何やってるんだ!今の自殺か!?」
琶月
「うっ・・・違います・・。・・・修行です」
キュピル
「修行?今のが修行だとは言わせないぞ。お前の場合確かに基礎体力をつけた方がいいとは言ったが
あんなのは効率の良い修行だとは言わない。ましてや命の危険のある修行なんかは」

キュピルが厳しく叱る。・・・とりあえずそこそこにして本題に切りかえる。

キュピル
「何故登っていたんだ?本当は修行じゃなくて別の理由だったんじゃないのか?」
琶月
「・・・師匠にやり残したことがないようにって言われたので・・。私の好きな事をしようとしました・・」
キュピル
「好きな事?まさか趣味はクライミングか?」

まさか琶月にそんな趣味があったとは

琶月
「違います!景色を見るのが大好きなんです」
キュピル
「景色?」
琶月
「この山岳の天辺に登ったら凄い遠くまで見れるんだろうなーって思ったんです」

景色か・・・。

キュピル
「俺も景色を見るのは大好きだ。特に小さい頃は何か起きるたびに好きな所に行って景色を見たもんだ。」
琶月
「そうなんですか?」
キュピル
「うむ。・・・どれ、ここの景色とやらも見てみるか。琶月も見るか?」
琶月
「あ、みたいですけど・・・。・・・登れるかどうか・・・」
キュピル
「あらよっと」
琶月
「ぐえっ!」

キュピルが触手を使って琶月を上に持ち上げる。適当な所で降ろす。
触手を戻した後はキュピルも直接手を使って登り始めた。
数十分後、キュピルも頂上にやってきた。
既に琶月が近くの岩に座って景色を眺めていた。

琶月
「・・・あの黒い渦がなかったらここはきっと凄く綺麗なんでしょうね」

キュピルも近くの岩に座って眺める。
・・・・空も覆っている黒い泥・・・。
何機も飛び交うレーダーを積んだ武装ヘリ・・・。

キュピル
「せっかく登ったのにあんまり綺麗じゃないなぁ・・・。」
琶月
「・・・・」
キュピル
「琶月。俺の前じゃ私語でいいよ。疲れるだろ。」
琶月
「いえ、いいです。慣れてますから」
キュピル
「もう残り二日しかないんだ。好きなようにしていい」
琶月
「・・・キュピルさんもやっぱり諦めたんですか?」
キュピル
「・・・。諦めたと言うかなんというか・・・。妙に肝が据わっているんだ・・・。
・・・今まで沢山の危機にぶつかってきたが・・・。こんなにも肝が据わっていた事はない。
必ず何処かで焦っていたり助かろうと必死になっていたんだが・・。今回はそれがない。」
琶月
「・・・どうしようもない・・・ってことですか?」
キュピル
「いや、方法はあるはずだ。今ファンとギーンとテルミットがそれを探してくれている。
・・・・琶月、怖いのか?」

琶月が少し考えた後答える。

琶月
「・・・当たり前です。・・・死にたくないです」
キュピル
「まだ15歳だしな・・。死ぬにしては少し若すぎる」
琶月
「キュピルさんだってまだ二十歳じゃないですか!死ぬにしては・・早いと思うんですが・・・」
キュピル
「・・・いや、俺はもういい。十分この世界を楽しんだ」
琶月
「・・・・え?」
キュピル
「・・・なんでもない。」
琶月
「・・・。もしもですよ。・・・あの黒い渦を消す方法が見つかったとします。・・・でも消すには
あの黒い渦の中に飛び込んで自分の命と引き換えにしなければならなかったとしたら・・・。
・・・キュピルさんは飛び込みますか?」
キュピル
「飛びこむ」

即答で答える。

琶月
「・・・私には分かりません・・・。死が・・怖くないんですか?」
キュピル
「・・・なぁ、琶月。輝月もそうなんだが二人とも物凄く死が怖いみたいだな。」
琶月
「当たり前です!無になるんですよ!無に!」
キュピル
「琶月。人は二回死ぬ」
琶月
「・・・二回?」
キュピル
「一回目は肉体が死んだ時だ。普通に殺されたり寿命を迎えたり事故にあったりとかそういう死に方。
二回目は分るか?」
琶月
「・・・・二回目・・・・。魂・・?・・・でも魂が存在するとしたら永遠に残りますし・・・・うーん・・・・」
キュピル
「二回目の死亡はもう自分の事を知っている人が誰もいなくなった時だ。」
琶月
「・・・誰も居なくなった時・・ですか?」
キュピル
「例えば俺があの黒い渦に飛び込んで死んだとしよう。ここで俺は一回目の死亡を遂げる。
・・・俺が死んでもジェスターやヘル、輝月に琶月が俺の事を覚えていてくれる。
誰かが覚えている間はまだ完全に死んでいないんだ。・・・でも100年ぐらい経過して
ジェスターもファンもヘルもテルミットも輝月も琶月もディバンも・・・ルイも全員死んで
誰も俺の事を覚えている人が居なくなったとする。・・・その時、俺は二回目の死を遂げる。」
琶月
「・・・」
キュピル
「もちろんだからといって一回目の死が怖くないって言う訳じゃない。
・・・でもね、琶月。たった一つの命でこの世界が救われるとしたらそれは安い命だ俺は思っている。
俺一人の犠牲でジェスターやファン、ルイが生き残れるんだったら俺は飛び込む」
琶月
「・・・それでいいんですか?キュピルさんは」
キュピル
「誰かがやらなければいけない。ただそれだけのこと」
琶月
「・・・・・・」
キュピル
「さて、そろそろ移動するかな。・・おっと、そのまえに。琶月に聞きたい事があるんだった」
琶月
「何ですか?」
キュピル
「かなり前から思っていたんだが輝月が俺達の所へ行くって言った時何故琶月もついて来たんだ?
あの時輝月は琶月も来いとは言っていなかったが・・・」
琶月
「・・・えっと・・・その・・・・」

琶月が顔を逸らした。

キュピル
「・・・・」

凄く嫌な予感がした。

キュピル
「・・・・ズバリと言っていいか?」
琶月
「ダメです」
キュピル
「輝月の事が好きなのか」
琶月
「っ〜〜〜〜!!!!」

琶月が刀を抜刀しようとしたので慌てて逃げた。

キュピル
「ホモの次はレズか!」
琶月
「え?どういうことですか?」
キュピル
「やべ、何でもない!」

キュピルが崖から飛び降り触手を使って綺麗に着地しそのまま何処かに逃げてしまった。
今になってうちのクエストショップのメンバーは全員とんでもない奴だったと改めて認識した。


キュピル
「(だからあんなに酷い扱い受けても全然平気で居られたのか・・・納得・・・・)」

複雑な気持ちで居ながら再び拠点の周りをグルグルと歩き始めた。

・・・・。

・・・・・・・・・・。




その時輝月が角から現れた。

キュピル
「おや、輝月か。何をしているんだ?」
輝月
「ん、キュピルか。そういうお主こそ、そこで何をしているんだ?」
キュピル
「ただの散歩だ。」

琶月の一件を思い出した。

キュピル
「そうだ、輝月。琶月が山岳の上に今いるぞ。登って少し話してきたらどうだ?」
輝月
「ほぉ、何故じゃ?」
キュピル
「ああ見えて意外と臆病だ。慰めてやってくれ」
輝月
「そうか。では行ってくる」

輝月が山岳へ向けて歩き始めた。
・・・頑張れ琶月。お前もテルミットも茨の道を突き進んでるな・・・。

再び拠点の周りをぐるぐる歩くことにした。


・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

キュピル
「ん?」

拠点の壁に寄り掛かって手帳を読んでいるディバンが居た。

キュピル
「何してるんだ?」
ディバン
「お前か。・・・昔の事を思い出していてな」
キュピル
「昔の事か。ディバンは俺の倍以上生きてるからなぁ・・。思い返す事は多そうだ」

キュピルもディバンの隣に座る。

ディバン
「ハハハ、とは言っても思い返す事は殆どトレジャーハンターの事だけどな」
キュピル
「いつからトレジャーハンターを始めたんだ?」
ディバン
「ガキの頃からだ。昔から光る物を集めるのが好きだった」
キュピル
「俺もビー玉とかは昔集めたんだけどなぁ」
ディバン
「また懐かしい物を言うな、お前は。まぁ、小さいころから色んな物を集めていた俺は次第にレアアイテムも
集めたくなってな。そして今こうやって俺はトレジャーハンターをやっているんだ。
このメモ帳に今まで手に入れたアイテムや古来の伝書について少しかかれている。
・・・今こうやってもう一度見ると色んな物を手に入れたなって思う」

ディバンの手帳には付箋が一杯ついている。ページを増分した後もある。

ディバン
「・・・しかし・・まさかクエストショップが燃やされちまうとはな・・・。」
キュピル
「・・・曰くつきの場所で悪かった」
ディバン
「別に良い。どっちにしろ職業上俺は色んな奴に狙われる。どんな事が起きても別にいいように
本当に大事な物は俺の秘密基地に隠してある」
キュピル
「秘密基地?」
ディバン
「正確な場所は言わないが俺が初めて光るアイテムを手に入れた場所を秘密基地にしてある。
一見、何もないが地面を掘ると鉄の蓋が現れる。その蓋を外すと小さな秘密倉庫がある。」
キュピル
「そりゃいいな。俺も次から秘密倉庫作ろうかな」
ディバン
「作る場所は気をつけた方が良い。時々地面そのものが陥没して全部土塗れになったことがある」
キュピル
「・・・それは嫌だな・・・」
ディバン
「ま、誰かに狙われたりしなければ作る必要何か無いんだがな」
キュピル
「・・・そうだな・・」

その時魔法のメッセージが届いた。
ギーンからだ。

ギーン
『キュピル。あの黒い渦について色々分かったぞ。なるべく早めに拠点に戻ってきてくれ」

キュピル
「・・・ギーンに呼ばれた。行ってくる」
ディバン
「何故か俺にも聞こえたぞ。ブロードキャスト(一斉送信)か?」
キュピル
「かもしれない。それじゃまた」

キュピルがディバンの元から離れ拠点に入る。






ギーン
「思ったよりすぐ来たな」
キュピル
「まぁね。・・・それであの黒い渦は?」
ギーン
「・・・あの黒い渦の中心に生命反応を感知した。・・・強さ、形状からしてルイで間違いない。」
キュピル
「・・・あの黒い渦の中心に・・・」

キュピルが改めて黒い渦を眺める。
・・・・渦が回り風を巻き起こしている・・・・。

ギーン
「中は空洞になっていてそこにルイがいる。・・・だが空洞になっていない部分は何があるか分らない。
様々な分析をかけた結果強いマナ反応も感じられた。もしかすると独自の世界があるかもしれない」
キュピル
「・・・独自の世界・・・」
ギーン
「・・・そして驚くべき事が分かった。そのマナ反応なんだが・・・。古の魔力が流れている」
キュピル
「・・・・!古の魔力だって!?」
ギーン
「そのマナを上手く外に引き出す事が出来れば・・・。・・・俺達の計画はついに実現する。」
キュピル
「・・・どうすればいい」
ギーン
「あの黒い渦を消せば自然とマナが外に漏れるはずだ。・・・そうすれば普通に使える。
・・・問題はあの黒い渦をどうやって消すか・・・だが。その事についてはファンが全て分析してくれた」

ちょうどファンが拠点の城門前にやってきた。

ファン
「キュピルさん。・・・分析が終わりました。あの黒い渦を消す方法も分かりましたよ」
キュピル
「流石。一体どうやって調べてるのか全く分からないが頼りになる。それで、どうすればいいんだ?」
ファン
「・・・誰かがあの黒い渦に真上から飛び込み、ルイさんを倒す、あるいはルイさんの狂気化を解除する事で
あの黒い泥は全て消えてなくなる事が分りました。どうやら様々な物質を取り込みそれを
媒体にして作りだしているようなのでルイさん本人が力を失えば自然と消えて行くようです。」
キュピル
「そうか。よかった、まだ対処方法が見つかって。」
ファン
「・・・・・・。ですがキュピルさん。・・・・一つ。問題があります」
キュピル
「問題?」
ファン
「既にギーンさんから聞いたと思いますがあの黒い渦の中にはルイさんが作りだした
独特の世界が存在しているようです。その世界にルイさんは居ます。
・・・・正直な所を申しますと仮にルイさんを無力化させて黒い渦を消したとしても・・・。
生きて帰れる保証がありません。そのまま独特の世界に永遠に閉じ込められる可能性が非常に高いです
キュピル
「・・・・」
ギーン
「・・・・100%閉じ込められる訳ではない。・・・だが別の次元に繋がっていた場合。
脱出は困難を極める。・・・下手すればそのまま餓死で死ぬかもしれない」
キュピル
「つまり・・・あの黒い渦を消すには誰かが犠牲にならなければいけないってことか」
ファン
「・・・・・・・」
ギーン
「・・・・・・・」

的を射た発言に二人とも黙ってしまう。
・・・琶月のシナリオ通りになってしまった。

キュピル
「・・・当然だと思うが誰が行くかは・・決まっていないんだよな?」
ファン
「決まっていません。今判明したばっかりなので。・・・立候補者を集めますか?」
キュピル
「集めた所で絶対に誰も手を上げない」
ギーン
「・・・仮に居たとしても余程の実力の持ち主でなければ狂気化したルイを無力化させるのは難しい。
対象はかなり限られる。」
キュピル
「ギーン。今すぐヘリを用意してくれ。俺が行く」
ギーン
「・・・既にお前がそういう事は予測していた。・・・そう思ってもう全て準備は済ませてある。
・・・どうせ最後は魔道石・・だろ?」
ファン
「ギーンさん・・!?魔道石って・・・一体?」

突然出てきた単語にファンが質問してくる。

キュピル
「ファン。・・・これは覚えてると思うが俺はこの世界の住民じゃないのは知ってるよな?」
ファン
「はい。」
キュピル
「・・・実は前の世界の人達から一通の手紙が届いてな。何回か連絡を取り合って・・・
元の世界に戻る方法を見つけたんだ。」
ファン
「・・・元の世界に戻る方法・・ですか」
キュピル
「そうだ。・・・この魔道石に祈りを捧げると俺は元の世界に帰る事が出来る。
・・・・ただし、二度とこっちには戻れなくなるが・・・」
ファン
「・・・・キュピルさん。一応念のため言っておきますが・・・その魔道石が黒い渦の中で
発動するかどうかも怪しいですよ。・・あってもなくても変わりません。」
キュピル
「ファン。・・・大丈夫だ。100%閉じ込められる訳じゃないんだろ?それに今の俺は狂気化している。
普通の人と比べれば遥かに強い。・・・ルイを絶対に止めて見せる。」

少し間を置いてから再びキュピルが喋った。

キュピル
「・・・それに。・・・さっきも言った通り俺は狂気化しているんだ。このまま時が経てば俺はきっと第二の黒い渦を
作りあげてしまうだろう。・・・化け物になる前にルイの狂気化を治療し・・。最後に俺が死ねば全て解決する。
・・・魔道石を使わないでルイを助けたらそのまま死んだ方が・・・世界のためになるだろうな・・・。」
ギーン
「・・・・・・」
ファン
「・・・・・・」

「俺も行くぞ」

三人とも声の聞こえた方に振りかえる。
・・・エユが立っていた。

エユ
「あの化け物は・・・俺達オルランヌが作りだした物だ。後始末も全て俺達オルランヌがやらねばならない。
キュピル、俺も行くぞ」
キュピル
「エユ、犠牲になるのは俺一人だけでいい。それにお前まで死んだらジェスターはどうするんだ。」
エユ
「・・・俺はもう生きて行くのが耐えられないんだ・・・。あんな化け物を使って世界を平和に導こうとした俺に
この世界で生きて行く資格はない・・・。・・・罪滅ぼしをしたい。」
キュピル
「正気になれ、エユ。・・・確かにお前はとんでもない事をしようとしたがお前まで死んだら
一番誰が悲しむのはジェスターだぞ!俺も死にお前も死んだらジェスターは正真正銘、孤児になる!
お前の子供同然のジェスターを残して死ぬきか!」

その時ジェスターの声が聞こえた。
・・・泣いている。

ジェスター
「キュピル!エユ!行かないで!」

ジェスターが声を押し殺して泣いている。
・・・全部聞いていたらしい。

ジェスター
「・・・エユもキュピルも居なくなるのは嫌・・・。ファン・・!何とかならないの・・!?」
ファン
「・・・・・・。最終的に二人が入らなくてもルイさんを止める事が出来ればあの黒い渦は消えます」
ジェスター
「じゃぁ、遠隔操作とか何かでやればいいじゃん!!キュピルとエユが行くことないよ!!」
ギーン
「・・・あの黒い渦の中には違う次元の世界が作られている。・・・次元を超えてまで遠隔操作はできない。」
ジェスター
「じゃぁ・・!じゃぁ・・・。・・・・うっ・・・。・・・キュピルとエユが行くなら・・私も行く・・・!」

エユがジェスターを慰めに行く。

キュピル
「・・・エユ、とりあえずジェスターを落ちつかせてやってくれ。それまで俺は待ってるから」
エユ
「・・・わかった」

エユとジェスターが部屋に入った。

キュピル
「・・・ギーン。今すぐヘリに乗って黒い渦に飛び込む。ジェスターが戻る前に」
ファン
「キュピルさん」
キュピル
「ファン。・・・後の事は全て頼んだ。俺がしてやれることはこれで最後だ」

ギーンが魔法を唱え整備士と連絡を取り合っている。

ファン
「・・・キュピルさん。僕はキュピルさんの事を尊敬しています。
いつかキュピルさんみたいに人を従える偉大な人物になりたいっと何時も思っていました」
キュピル
「俺は偉大な人物じゃない。普通の人間だ。」
ギーン
「ヘリを裏に用意したぞ。・・・・・・・」

ギーンが大きなため息をつく。
・・・・無言で一粒だけ涙を流す。

ギーン
「ったく、俺も情脆くなったな。・・・お前は俺の最高の友だった。第一印象こそは最悪だったがな。」

アノマラド魔法大立学校での出来事が思い返される。・・・新聞に書かれていた政治をネタに交流を深めて行ったのを
思いだした。考えてみればギーンはあの頃から政治に関わろうとしていたのだろうか・・・
ギーンが手を差し伸べてきた。キュピルも手を差し伸べ握手する。
力強く握りしめ互いの健闘を称える。


キュピル
「行ってくる。アーティファクトがあの黒い渦を止められる時間は残り48時間しかない。
二日以内に何とかしなければいけない。さぁ、いこう」

「待て。」

聞きなれた声が聞こえた。

マキシミン
「おい。・・・荷物まとめておいてやったぞ」

マキシミンがドサッとキュピルの荷物を放り投げる。

マキシミン
「勝手に話を聞いて悪かった・・っとは思っていない。むしろ感謝しろ」
キュピル
「お前最後の最後まで変わらないな。」
マキシミン
「・・・このまま見送るのもあれだな。・・最後にお前に一言言ってこの場から去るとしよう。
・・・お前は数少ない気軽に話しかけられる奴だった。・・・じゃあな」

そういってマキシミンがその場から離れた。

キュピル
「これが噂のツンデレか」
マキシミン
「うるせぇっ!!」

マキシミンがペットボトルを投げつけてきたが避ける。今度こそ正真正銘どっかに行った。

キュピル
「・・・行こう。邪魔が入る前に」
ギーン
「行くぞ」
ファン
「・・・」


キュピルとギーンが拠点の裏に回る。
・・・大型ヘリが一機スタンバイしていた。

二人ともすぐにヘリコプターに乗り離陸した。
その様子をヘルとテルミットに見られていた。

ヘル
「キュピルさん!何処に行くんですか!!」
テルミット
「・・・・!まさか・・・!」

事情を知っていたテルミットが顔を青ざめる。

テルミット
「・・・きゅ、キュピルさん!!」

キュピルが軽く手を上げて応える。そのままヘリは空高く飛んで行った。




戦車兵
「隊長。一機の大型ヘリが飛んで行きますよ。・・あの触手の生えた人間が乗ってますね」
小隊長
「次はヘリコプター操縦するか」
戦車兵2
「絶対に事故る」
小隊長
「今からお前を五回絞める」
戦車兵2
「勘弁してください」






琶月
「師匠・・・・」

輝月の肩に琶月が寄り掛かっている。

輝月
「・・・・琶月。」
琶月
「何ですか?」
輝月
「あのヘリにキュピルが乗っておるぞ」
琶月
「え・・・」

琶月が起き上がりヘリを凝視する。・・・あの特徴的な触手・・・。間違いない。
そのまま黒い渦の真上に行こうとしている。

琶月
「ま・・まさか・・・!!!」

自分の言ったシナリオ通りに動こうとしている・・・!?

琶月
「キュ、キュピルさんあの黒い渦に飛び込みますよ!!!?」
輝月
「・・・既に分かっていたことじゃ。・・・あの時、奴と会話していたら引き留めそうになった・・・。
・・・自分の気持ちを押し殺して奴から普通に去るのが辛かったな・・・」
琶月
「師匠・・・・」





ディバン
「・・・・・」

キュピルの乗ったヘリコプターを眺め続けていた。
そして手帳から一枚のページを破りフックショットをヘリに向けて放った。





ガン




ギーン
「何だ!?」
操縦士
「フックショットが引っかかっています!」

ギーンが念動力で操作しフックショットを回収する。・・・よくここまで届いたな。
紙が引っかかってる。・・・その内容を読みキュピルに渡した。
キュピルが無言で受け取り内容を確認した。


『俺の秘密基地はアノマラドのローロ街から西に5Km離れた所にある。生きて戻ってきたら
俺のコレクションをお前に見せたい』


ローロ街・・・。ジェスターが放浪した時に立ちよった街・・っという記憶が残っている。
キュピルが少し笑いフックショットと紙をポケットに入れた。

操縦士
「ギーン様。・・・黒い渦の真上へやって参りました」
操縦士2
「降下準備スタンバイOKです。ここからあの渦の中心に飛び降りてください。」

ヘリコプターの扉を開ける。

キュピル
「・・・緊張している」
ギーン
「キュピル。・・・・・最後に何か言いたい事はあるか?皆に伝えておくぞ」
キュピル
「まるで犯罪者が言う台詞だな。そうだなぁ・・・。
・・・・家が燃えてしまったからジェスターとファンとルイのために新しい家を建ててやってくれって言ってくれ。
ギーン、出来たら皆が立ちなおるまでカバーを頼む。じゃあな!ギーン!!」






そういってキュピルがヘリコプターから飛び降りた。












黒い渦に入る前にキュピルが顔を上げアノマラド大陸の日を目に焼き付けておく。






そして意を決し、黒い渦へ視点を落とした。








キュピル
「ルイ、今行くよ・・・・・・待っててくれ・・・」



続く



第十五話



アノマラド大陸の未来をかけた最後の戦いが始まる。





ジェスター
「・・・・あっ・・!!」
エユ
「・・・どうした、ジェスター?」
ジェスター
「今・・キュピルが・・・!今キュピルが黒い渦に飛び込んだ・・・!!」

外の見えない場所にいるのに何故そんな事が言えるのだろうか。

ジェスター
「キュピル!!」
エユ
「ジェスター!」

ジェスターとエユが部屋から出る。
・・・城門前にはもうキュピルはいなかった。















黒い渦に飛び込んだキュピル。



凄まじい轟音の鳴る黒い渦の中心へとドンドン降下していく。






そしてついに黒い渦の中に入った。




冷たくも温かくもある不思議な空間へと入って行く。












そして凄まじい風に吹き飛ばされ何処かに飛んで行った。















キュピル
「うっ・・・」

・・・・。

・・・・・・・・・・ここは・・・。

キュピル
「・・・・」

起き上がる。・・・・・・どこだ・・・?
目の前に細い道が続いていた。道の端には木々が生えていた。
後ろには闇が広がっていた。・・・何もない。
空も完全に闇に染まっており何もない所に道と木が生えているような感じだった。

立ち上がり道を辿る。


・・・・・・。


少し歩くと黒い泥で出来た川が流れていた。
かなり大きな川で対岸が見えない。・・・どこから流れて何処へ行くのだろうか。

中央に桟橋がある事に気がついた。・・・その桟橋に泥舟が一つ置かれてあった。
その泥船の近くに誰かが座っている。

キュピル
「・・・・?」

近づいてみると桟橋に座っていたのはルイだということが分かった。
・・・姿は正常でキュピルの記憶の中に残っているままのルイだった。

ルイ
「・・・・来たんですね、キュピルさん」
キュピル
「ルイ。」
ルイ
「何も言わないでください。・・・先に忠告しておきます。
ここから先は人が来る世界ではありません。・・・一度通ったらもう二度と生きて帰れません。
・・・それでも行くと言うのであれば船に乗ってください
それが嫌なら元来た道を辿って闇に帰ってください。・・・そうすればまだ貴方を元の世界に帰すことができます。」



・・・今ならまだ引き返せる・・・



・・・・最後にもう一度だけ皆に会いたくなった。


だけど、時間がないんだ。


キュピル
「・・・まさに、ここが俺にとって黄泉へと続く道ってことか・・・。
それならこの川は三途の川・・・」

ラビラル島で似たような物を見た気がする。

・・・もう覚悟は決めてある。

キュピルが黙って泥の船に乗る。


ルイ
「・・・では行きますよ」

ルイも船に乗り長い棒を一本使って船を動かし始めた。
・・・たった数秒で岸が消え、泥の川を横断し始めた。

キュピル
「・・・・・・」

その時船が沈み始めた。

キュピル
「・・・!」
ルイ
「・・・・・・」

ルイが試すような目でキュピルを見る。
しかし体が動かずそのまま船は沈み泥の飲みこまれていった。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・だけどこれでいい。


目を瞑り身を流れに任せる。

キュピル
「(大丈夫・・・・ちゃんと俺はルイに近づいてってる・・・・・)」


意識が飛んだ。








・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



はっ、と意識が戻った。

キュピル
「ここは・・・」

辺りを見回す。・・・・辺りは相変わらず闇に覆われていて何も見えない。
しかしさっきと違うのは目の前に2つの扉があるということ。
・・・だが片方の扉は鎖でしっかり固定されており開けれそうもない。

・・・・・。

一番左の扉を開けてみた。
扉の先は一本道の通路に延々と続いていた。その扉を潜り長い通路を歩き始めた。

・・・・・・・。


通路を進んで行くと再び目の前に扉が現れた。
扉を開けると見慣れた景色が目に入った。


・・・・ここは・・・。


・・・・家だ・・・・。


キッチン、リビング、四人の部屋・・・・
小さな家だけど十分生活していく事の出来る家。

間違いなく自分の家だった・・・。


キュピル
「・・・・・懐かしい」

もう一カ月近くも自宅から離れてるのか・・・。
キュピルが自分の部屋へ続く扉を開けた。

・・・・・あれ・・。この配置・・・・何年か前の配置だ・・・。

キュピル
「・・・・捨てたはずの飾りがある・・・。・・・・・」

自分の部屋から出てジェスターの部屋に入る。
・・・ジェスターの部屋も数年前の配置になっている。
ファンの部屋も既に解体されたはずの機械が残っていたり、今あるはずの機械がなかった。

・・・・最後にルイの部屋を開ける。

・・・ルイの部屋はなく、倉庫になっていた。



間違いない。



この家はまだルイが来る前の状態の家だ・・・・。


まだ三人で暮らしていた時のあの頃・・・・。


様々な記憶が蘇る。



その時景色がぼやけ始めた。


・・・・・・。










キュピル
「さて、今日からここがルイの部屋だ。自由に使ってもらっていい」
ルイ
「ありがとうございます」
キュピル
「ぬぅ、何か堅苦しいなぁ・・・。別に私語使っても全然構わないよ?」
ルイ
「いえ、もう今の喋り方に慣れてしまったので・・・」
キュピル
「そうか。まぁ、何かあったらいつでも言ってくれ」

そういってキュピルが扉を閉める。









あぁ、懐かしい。こんなこともあったなぁ。


気がつけばさっきまで倉庫だったはずの部屋がルイの部屋に変わっていた。


新しく出来たルイの部屋に、ルイが現れた。・・・新聞を読んでいる。
しばらくすると新聞を持ってリビングに出ていった。
後を追うとさっきまで誰も居なかったリビングに俺がいた。




ルイ
「キュピルさん、少し気になる事が・・」
キュピル
「ん?」
ルイ
「知ってますか?おとぎ話の『鋼管の霊簪』という道具を・・」
キュピル
「いや、知らない。ってまた霊に関する話か。それで?」
ルイ
「そのおとぎ話の内容を大雑把に説明すると
普段は髪を止める簪ですけどある人がその簪を凶器に使い
その簪で殺された霊が今でもまだ宿り続けているという話です。」
キュピル
「ふむ・・。まさかあの機械を使って探しに行くとか言わないでおくれよ。
おとぎ話なんだから存在しない・・」
ルイ
「所がそれは実話なんです」
キュピル
「なんという急展開。何故?」
ルイ
「この新聞をどうぞ」


『オトギ話は実話。強奪は事実

シェイディンロール地方に纏わるあのオトギ話『鋼管の霊簪』
遠い遠いアノマラド大陸で実際に簪を使っていたと思われる死体を発見。
国の調査によるとオトギ話に書かれている内容の殆どが一致しているという報告を受けている。
極めつけは髪に『鋼管の霊簪』をつけていたという事だ。
しかし調査隊員が『鋼管の霊簪』を国に納めようとしたその瞬間。
突然何者かが強奪。調査隊員は追跡を行ったが驚異的な足の速度に加え
透明化の魔法を掛けられていたため追跡不能になり断念。
現在も調査を続けているが以前盗人は見つかっていない。』





・・・・あの時の事件だ。

ルイが鋼管の霊簪を手に入れようとして勝手に特殊ワープ装置機を使い
熾烈な脱出劇が繰り広げられたあの出来事の始まりだ・・・。



・・・考えてみればルイと一緒に本気で共闘したのはこの時が最初だった。



再び景色が歪み始めた。



目の前が突然真っ暗になった。






ルイ
「・・・キュピル・・さん?」
キュピル
「・・・む・・・」

さっきのルイとはまた少し様子が違うみたいだ。
緊張が解れて普通に立つ。

ルイ
「あぁ、よかった。キュピルさんだ。助けてください・・・」
キュピル
「どういうことだ?」
ルイ
「本当にごめんなさい・・。許してください・・。」
キュピル
「いいから状況を話してくれ。」
ルイ
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

そういいながら声がフェードアウトしていき徐々に消えて言った。
ここは一体どういう空間なんだ・・・。
すると突然また目の前に扉が現れた。
その扉を開けるとまたルイがいた。
・・・だけど何人もいる。何十人も何百人も。全員泣いてる。気が狂いそうだ。
誰かの涙を見るのは一番嫌いだ。どう接すればいいのか分からないからだ。

キュピル
「泣くな・・。何があったんだ?言ってくれ・・。力になる」

一人一人全員に問いかけるかのように答える。
全員が口を揃えて答える


『貴方は迷宮に入った。精神の狭間に入った。
ぐるぐる回る。さ迷う迷宮。抜け出せる?抜け出せない?』

キュピル
「精神の狭間?ここはルイの心の中なのか?」


一人が泣くのをやめて此方に接近する。


ルイ
「私は謝っている」

別のルイが泣くのをやめて接近してきた。

ルイ
「私は泣いてる」

次々と別のルイが泣くのをやめてドンドン喋り出した

「私は困っている」
「私は助けを求めている」
「私は罪を償いたい」

そんなことがエンドレスに続く。

キュピル
「あぁ、助けるにはどうすればいいんだ!?」

すると突然何十人、何百人もいたルイが消え扉が現れる。
俺は急いでその扉を開け中に入った。

そこにはまたルイが一人だけいた。


キュピル
「どうすれば助けられる?」
ルイ
「これは私の記憶・・・。私の記憶が鍵・・・」

ルイが光っている玉を渡す。
それに触れると他人の記憶が頭の中に入ってくる。
・・・・これは・・ルイの記憶だ。
ジェスターや俺とかファンとか。出合った事の記憶とか
様々な記憶が詰まっている・・。





そう、これも覚えている。

ルイが鋼管の霊簪の呪いだったか術だったかを受け精神を操られ・・・
そしてルイの力によってルイの精神の中に入り込んだ時の出来事だ・・・。

記憶のキュピルが光ってる玉を受け取った。受け取った瞬間、記憶のキュピルと記憶のルイが消えて居なくなった。



ただ、一つ。自分と記憶の玉が残った。


・・・触れる・・のか・・?




浮いている記憶の玉に触れる。


・・・・すり抜けず、そのまま掴む事ができた。


・・・・・・。

考えてみれば・・・・。


ルイはこういう目によくあっている。


この鋼管の霊簪の時もそうだし・・・・幽霊刀の件でもそうだ・・・。
・・・そして今この狂気化・・・・。


・・・・何故ルイはこんなに悲惨な目に遭っている?

答えは簡単だ。



俺が傍にいるから・・・。





その時記憶の玉が光り出した。


キュピル
「・・・・!」



『鍵となるのはルイの幼少時代』



キュピル
「・・・ルイの幼少時代?それは一体・・何の事を言っているんだ?」

そういえば俺はルイの幼少時代を知らない。
・・・その幼少時代に一体何があるというんだ?

再び記憶の玉に質問してみる。
・・・だが返答はなかった。


変わりに目の前にボロボロのキュピルとボロボロのルイが現れた。
さっきまで真っ暗だった景色も気がつけば自宅に戻っていた。
二人とも気を失っておりファンとジェスターにそれぞれ自分の部屋に運ばれていった。

・・・・。

・・・・・・・・・・・。

ルイの部屋へ入る。


ルイが棚の前に立っており武器や装備を整えている。
さっきまでボロボロだったのに・・・次の記憶へ移ったのだろうか。

その時ファンが入ってきた。



ファン
「・・・準備はよろしいですか?」
ルイ
「はい。・・・行きましょう」



・・・何処へ行くのだろうか?

二人がルイの部屋から出る。
後をついていくと俺の部屋の扉を開け中に入って行った。

・・・・扉の先は黒い空間が続いていた。


・・・・これは・・・。

一瞬この黒い渦の中の世界かと思ったが今思いだした。これは幽霊刀の出来事の時だ。
・・・確かこの後ジェスターが来て助けに来てくれるんだっけか・・・・。

ルイとファンがどうなったか気になる。
二人の後を追おうと黒い空間の中へ入り込む。ところが足を踏み入れた瞬間突然
床がなくなり落下し始めた。

キュピル
「・・・・!!」

そのまま落下し続けると突然無重力になり虚無感に包まれた。


・・・・・・。


その時ルイの声が聞こえてきた。
・・・・これは・・・記憶の玉から聞こえてきている・・・。


ルイ
「・・・・キュピルさん。私がここに来て一年近くが経ちました・・・。
・・・来た時はこれからどうなるのか凄く不安でした。
だけど今はとても感謝しています。・・・だって、毎日が凄く楽しくなりましたから・・・。
時々無茶なお願いをして申し訳ありませんでした・・・。・・・鋼管の霊簪の一件の時、
もしキュピルさんが助けに来てくれなかったら・・・って考えると今でもゾッとします。

・・・今度は私がキュピルさんを助けに行く番です。待っててください・・・!」



そこで記憶の玉が割れた。そのまま下に落ちて行き見えなくなってしまった。

・・・・。

・・・・・・・・・。


幽霊刀の元あった島に行く時。

ルイはそんな事を思っていたらしい。
・・・結局はジェスターが助けに来た訳だが・・。




また景色が変わった。・・・気が付いたらルイの部屋に戻っていた。



・・・・・・椅子の上に座っておりひたすら試験管を振っていたり液体を混ぜ合わせたりしている。
今度はいつの時の記憶だろう・・・。


キュピル
「ルイ?」

ルイに話しかける。・・・しかし何の反応も示さない。
しばらくするとルイが突然立ち上がり喜んだ。何事かと思うと突然ルイが接近してきた。
そのままぶつかるかと思ったらキュピルをすり抜けて外に出た。

・・・・。


ルイが家から出て夜のナルビクの港に行く。
キュピルの部屋から自分が出てきた。・・・ルイの存在に気付き慌ててルイの後を追い始めた。



・・・覚えてる。



これは俺がドラキュラ化した時の出来事だ・・・。






また景色がぼやけ始めた。




ルイ
「ふふふ・・・これを使えば・・あこがれのドラキュラに・・・!
それにしてもいい風・・・。月も出ている・・・・。
今日は絶好日ね」


ルイが何か魔法を唱え始めた。


キュピル
「まさか、加重の魔法・・!?
ルイーーーーーー!!それはやめろーーーー!!」


ルイ
「え?」

ルイがキュピルの方に向く

キュピル
「死ぬなんて百万年早い!!」
ルイ
「あ、待って!!魔法g・・・」
キュピル
「ええい、話は全部家で聞く」
ルイ
「ぎゃあああ!」




キュピルがルイを連れて自宅に戻って行った。
・・・背中にはドラキュラの羽が生えていた。




・・・この後記憶では・・・。
ドラキュラ化した状態で日光に当たってしまい・・・重度のやけどを負った後、
五郎という男に会ってイニュイトをライディアまで運んで行ってあげたんだっけか・・・。


・・・・今度は自分の頭の中で記憶が蘇って行く。

五郎との会話の記憶が蘇る・・・







五郎
「そういや、ドラキュラさんの名前聞いてなかったぜ。名前は?」
キュピル
「そういや、名乗ってなかった。キュピルだ」
五郎
「キュピルさんか。キュピルさんは家族とかいるのか?」
キュピル
「家族か・・・。」

出てきたのはジェスターやファン。ルイ。

キュピル
「まぁ、いるな。血は誰も繋がっちゃいないが家族同然だ」
五郎
「へぇ、そいつは面白い。今度紹介してくれよ」
キュピル
「凶暴な人が一名、天才が一名、オカルト狂の人が一名。」
五郎
「ますます面白いな。」
キュピル
「面白いっていえるのが凄いな」

実際経験すると分かるそのびっくりさ。唯一俺だけが平凡?

五郎
「まぁ、家族ってのはいいもんさ。暖かいし旅から戻れば歓迎してくれる」
キュピル
「五郎さんの家族は?」
五郎
「うちの家族は全員凄いぞ。親父もお袋も兄貴も姉貴も。皆放浪族さ。
俺ら家族が全員揃うのは滅多にない。」
キュピル
「・・・また随分と破天荒な家族だ」
五郎
「破天荒の意味がちょっと違うぞ。破天荒とは誰も成し遂げたことがない人に対して使う言葉だ」
キュピル
「まじか。失礼した」

五郎氏は頭もいいのか・・・。

五郎
「ま、今こうして凄いスピードで降りてるのはその家族がライディアに集結しててな。
早く会いたいんだ」

なるほど・・。それならよく分かる。


キュピル
「それなら早くライディアに行きたいよな」
五郎
「ま、多分兄貴と姉貴の二人しか到着してないと思うけどな」

とは言いつつもさっきよりも五郎の降りる速度は上がっている。
何だかんだやっぱり早く会いたいみたいだ。

・・・家族か。そうだ。俺も早くライディアに戻って報酬金を貰って
美味しいもんを買って作らないとな。
帰るなりきっとジェスターは怒るだろうな。腹減った!ってね。






・・・。

・・・・・・・・・・。


この時からだった。


家族って何だろう?って考え始めたのは。



景色が変わった。
・・・自宅だ。


今扉から俺が出てきた。





キュピル
「ただいま!」



ルイ
「おや、おかえりなさい」
ジェスター
「あ、キュピルだ。そういえば居なかったね」
ファン
「お、キュピルさん。お帰りなさい」

そう言った後誰も続きを言わなかった。

キュピル
「・・・・・・・え、それだけか?」
ジェスター
「え?他に何かあるの?」
ルイ
「あ、そうだ。キュピルさん。ヴァンパイア。どうでした?翼消えてるみたいですけど」
ジェスター
「あ!!キュピルの手に凄い大金!!どうしたの、それ!?」




・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


耐え難い怒りが久々にやってきた。



キュピル
「ふざけんじゃねぇっ!!」



その後、記憶の俺は一度部屋に戻って装備を全て手に取り再び家を出て行ってしまった。




・・・・。



一体俺は何を期待していたんだろうか。


皆が俺の事を心配していなかったから怒った?

温かみも何も感じられなかったから怒った?

・・・・・。

でも両者どちら一方でも求めていたのは間違いだったような気がする。


・・・・家族同然とか言っていたけど・・・。







実際は家族じゃないから。







・・・・・。

次に呼び起こされた記憶はレッドとの会話だった。



レッド
「そう。最初こそトレーナーもポケモンもお互い事をよく知らないけど一緒に冒険したり何かをやって
お互い分かりあい何年も一緒にいたらそりゃ誰だって家族と言っちゃうさ」





・・・・・。

やっぱり今でもそれが分らない。



・・・・気が付いたらまた景色が変わっていた。



・・・・壮大な景色が目の前に現れた。
雪の上に座り双眼鏡を使って辺りを眺めている俺とルイが居た。

・・・ここはアディールが居たあの世界だ。





ルイ
「ナルビクとかと違って本当に大自然って感じですよね」
キュピル
「そうだな・・・。基本的にこの世界だとモンスターに敵う人は少ないらしい。
・・・確かにあんなティガレックスだとかドドブランゴだとかに襲われたらそうそう生き残る人はいないだろう」
ルイ
「ジェスターさんは無事だと思いますか・・・?」
キュピル
「・・・・・。ルイ。ルイはジェスターの事どう思ってる?」
ルイ
「え?・・・それは好きとか嫌いとかそういう意味ですか?」
キュピル
「そんなアバウトな物じゃない。全体的に見てジェスターの事をどう思ってるかって」
ルイ
「えーっと・・・。・・・子供でワガママだけど可愛くて・・」

まだまだ色々言いたいだったがキュピルが止めた。

キュピル
「俺ならたった一言で言えるよ」
ルイ
「一言ですか?」
キュピル
「ああ。・・強い・・だよ」
ルイ
「強い・・ですか?」
キュピル
「どんな人間でも言われて嬉しい一言ってのはある。でもそれは人それぞれではあるが・・・。
でもその中で誰に言われても嬉しい一言がある。それが『強い』だと思うんだ。
・・・ジェスターはこの程度じゃくたばらんよ」
ルイ
「・・・ジェスターさんのことかなり信頼してるんですね」
キュピル
「もう何年もいるからな・・。四年か?でも四年とは思えないほど長くいた気がするな・・・」

キュピルがかなり遠いところを見ている。

キュピル
「・・・・。なんだか昔を思い出すな・・・」
ルイ
「キュピルさん。よく昔の事を思い出してますけど・・・決まってある部分の所に来ると
必ず思い出してるように感じます。もしかしてキュピルさん・・・」

その時下から大声が聞こえた。

アディール
「おーい!!降りてこい!」
キュピル
「今降りる!!」

大声でキュピルが返した。

キュピル
「さぁ、降りるぞ」
ルイ
「・・はい」

慎重に断崖から降りて行く二人。

ルイ
「(・・・キュピルさん、もしかして孤児院育ちですか・・・?)」



ルイが胸の内で呟いた言葉が聞こえた。



別に孤児院育ちってわけじゃない。



ただ、何故だか知らないけど物心がついた時から既に自立していた。
親は産まれてこの方一度も見た事ない。もっと言えば俺に親が本当にいるのかどうかすら分からない。
もしかしたら魔法か何かで作られた存在なんじゃないのか・・・って思う時もたまにある。
もちろんそんなことは無かった訳だが・・・。

・・・・まぁ、孤児という点では合っていたかもしれない。


・・・・・・・。


景色が変わった。





目の前に俺と・・リオレウスとアディールが現れた。・・・このシーンはよく覚えている。
ボロボロのアディールが自らたつ。

キュピル
「おぉ、動けるか・・!!」
アディール
「これが・・・戦う者の末路だ・・・!!!」



アディールが携帯リュックから大樽爆弾と小樽爆弾を取り出し
リオレウス目がけて突撃した!!

キュピル
「ばか、よせ!!!」

リオレウスがアディールに思いっきりかみつく。
だがこれはアディールにとって想定内の出来事であり願っていた出来ごとでもあった。
そのままリオレウスがアディールに強く噛みつきながら空を飛ぶ


アディール
「キュピル・・!!聞・・け・・!!!」




アディールが最後の叫びをあげる



アディール
「誰かを救うなら・・命を惜しむな!!!
大切な奴がいるなら・・尚更だ!!!!」

とても弱ってるとは思えない叫びをあげた。
だが最後はとても小さな声で・・

アディール
「初めて誰かと一緒に戦って・・・
本当に楽しかった・・・。もっと一緒に戦いたかったな・・・」



その直後。



空中で大きな爆発が起きた。







戦う者の末路。


今まさに俺もその末路を辿っているんだろう。

・・・境遇を考えると今俺はまさにアディールと同じ立ち位置にいる。



大切な人を守るために命を捨てて今この黒い渦の中に居る。



・・・。


もしその通りに動いているとすれば。

この後俺はルイを助けて自分は死ぬ。


そうなれば本当の意味でシナリオ通りだ。願ったりかなったり。




気がつけばテントの中に居た。
・・・・あのシーンだ。





キュピル
「赤の他人である俺達を救って・・・。ジェスターの救出に協力して・・・。
散々協力した挙句にあいつは・・アディールは最後に俺たちのために死んだ・・・。」
ファン
「・・・・・・・」

キュピル
「ジェスターが・・・。ジェスターさえ遭難しなければ・・!
いや、違う。そもそもあの時俺がちゃんと適切な行動を取って
ジェスターと一緒に逃げていればアディールは死なずに済んだはずだ・・!!!
ファン
「キュピルさん・・・」

かける声が出てこない。


キュピル
「ちくしょう・・!!ちくしょう!!アディールを救う場所はいくつもあった!!!
それなのに俺はただ闇雲に行動し、逃げて・・あいつを死なせた!!
あいつは俺が殺したんだ!!!!







・・・・・・・。






頭の中である出来事が思い返される。

それと同時に周りの景色も変わった。


・・・この空間と俺の記憶がマッチする。





目の前に蝶の木が現れた。






キュピル
「・・・む」
ルイ
「・・・何ですか・・これは?」

蝶の木へ続く道の途中に木の根で作られた巨大な壁が立ちはだかった。
太く水分を持っている。・・これは燃やせないだろう・・・。
ルイが木の根に近づく

キュピル
「・・・!ルイ、気をつけろ。その根からウィルスの反応がある。触れれば感染するぞ」
ルイ
「あ、危なかった・・」

触る直前だったようだ。

ルイ
「しかし参りましたね・・・。これでは蝶の木がどうなっているのかわかりません」
キュピル
「まるで蝶の木を守っているかのようだな。ますます怪しくなってきた」
ルイ
「キュピルさん。この木の根。結構太いみたいですけど爆発物を仕掛ければ壊せそうですよ」
キュピル
「本当か?」
ルイ
「はい。ちょうど今手元にRPG-7があるので壊して進めそうですよ」
キュピル
「ふむ・・・それなら進めそうだ。しかし・・・」




・・・・嫌な予感がする。




キュピル
「ルイ。嫌な予感がする。壊す前にヘル達を呼ぼう」
ルイ
「でも今から呼びに戻ったら昼になっちゃいます。
そしてまたここまで移動するのに時間がかかるので・・・。そしたら殆ど探索する時間がなくなります」
キュピル
「安全を優先させよう」
ルイ
「大丈夫ですよキュピルさん。私達は強いですから」
キュピル
「無謀と勇気は違う」
ルイ
「キュピルさん。何か不安に思う事があるみたいですが全部私が何とかします」
キュピル
「・・・・ルイ?」
ルイ
「はい?」

キュピルが少し表情を険しくする。

キュピル
「・・・何を思っている?」
ルイ
「え?」
キュピル
「様子がおかしい。どうしてそんな功を焦るようなことをしている?」
ルイ
「え・・・別に・・・」

ルイが困った表情をする。

ルイ
「・・・・・・」
キュピル
「ルイの事をここ最近よく観察させてもらっていたがドラグーン退治後辺りか少し様子が変だぞ。」
ルイ
「気のせいですよ」

いや、気のせいじゃない。
ここは追求しよう。

キュピル
「ルイ。正直に話せ。何を企んでいる」
ルイ
「私は・・・。別にただ・・・」

ルイが俯く。

キュピル
「・・・何か見たのか?」
ルイ
「えっ!?」

ルイが過剰反応した。・・・。

キュピル
「ルイ・・。もしかして何か見てはいけない物を見たのか?」
ルイ
「べ、別にそんなことないです。・・・ちょっと最近私変でした・・・?次から気をつけm・・」
キュピル
「誤魔化すな!」

ルイがビクッと跳ねる

キュピル
「ルイ・・・。お前まさか・・・」

脳裏に開けられた手紙がちらついた。
・・・読まれた後のある手紙・・・。

・・・・。まさか・・・

ルイ
「キュピルさん!聞いてください!私は・・・」
キュピル
「・・・犯人はルイだったか」
ルイ
「え・・・」
キュピル
「手紙に読まれた跡があった」
ルイ
「手紙?・・・何の手紙ですか?」
キュピル
「・・・・」

キュピルが目と鼻の先まで近づく。
そして突然腕を掴んだかと思えばポケットに入っていた手紙を取り出した。

ルイ
「あ!」
キュピル
「最初は何かのメモ用紙かと思ったが・・・こいつはとんでもない物を見てくれたな」
ルイ
「返してください!」
キュピル
「返すも何もこれは俺の手紙じゃないか!」

手紙の内容を確認する。確かにあの手紙だ。・・・コピーしたのか

キュピル
「さぁルイ。全て白状してもらおうか」
ルイ
「わ、私は・・・・」

しばらくルイが黙り続けた。

ルイ
「・・・キュピルさん・・。キュピルさんは元の世界に帰っちゃうんですか?」
キュピル
「・・・・・・」
ルイ
「答えてください!」
キュピル
「何故答える必要がある?」
ルイ
「だって・・・。仲間・・じゃないですか」

言葉が詰まった。仲間という言葉に何かあるらしい。
追求しよう

キュピル
「・・仲間?勝手に人の許可も取らずに手紙を読むのが仲間か?」
ルイ
「・・・・!!!」

ルイが泣きそうな顔をする。
しかし容赦はしない。・・・特に二枚目の手紙は深刻だ・・・。
ギーンとのやりとりの手紙・・・

ルイ
「キュピルさん・・・・」
キュピル
「一つ答えて貰おうか。功を焦っていたのはこの手紙を読んだからか?」
ルイ
「・・・そうです」
キュピル
「何故功を焦る?そもそもこの手紙からは何の共通点も見えてこないが」
ルイ
「・・・私が活躍すればキュピルさんがこの世界に留まってくれるかなって思ったので・・・」
キュピル
「・・・・。」

少しキュピルも言葉を失う。
勝手に手紙を読まれた事には心底腹が立っているが・・・。

ルイ・・・。本気で俺の事を心配してくれている。

ルイ
「ジェスターさんとか・・どうするんですか?」
キュピル
「エユにちゃんと返してから戻る」
ルイ
「やっぱり戻るんですか!?」
キュピル
「・・・。元々俺がいた世界はここじゃない・・・。それに・・・。」
ルイ
「それに・・・何ですか?」
キュピル
「・・・・」
ルイ
「黙らないでください!」

ルイが怒った表情で近寄ってきた。

キュピル
「・・・シルク・・。俺の師匠が本気で心配なんだ・・。俺がこうして生きているのも強くなったのも・・。
全部シルクのお陰だからな・・。親のいない俺にとってシルクは父親みたいなものだった。
自分の父親が消えたと知ったら普通誰でも心配するだろう・・」
ルイ
「・・・それだけじゃないですよね?」
キュピル
「何?」
ルイ
「キュピルさん。私にはわかります。それだけじゃないですよね?戻る理由は!」
キュピル
「・・・・ルイ。」

しばらく沈黙が続いた後・・・。

キュピル
「・・・・」
ルイ
「キュピルさん・・。今から全て私は正直に話します。だからキュピルさんも正直に話してください」
キュピル
「・・・続きを言ってくれ」
ルイ
「私がキュピルさんの事をこんなにも心配しているのは・・・。





キュピルさんの事が好きだからです!!!!










キュピル
「・・・・!!?」
ルイ
「私は言いましたから!キュピルさん!!元の世界に戻る理由は!?」
キュピル
「ル、ルイ・・・・」

キュピルが今までの中で一番険しい表情をする

キュピル
「・・・ルイ・・・ごめん・・・。本当にごめん・・・・。
・・・俺は・・・元の世界に・・・






救ってあげないといけない婚約者が・・・・いるんだ・・・」



ルイ
「っ!!!!」




ルイがキュピルから三歩程離れる。

キュピル
「・・・俺しか知らないんだ・・・。六歳のころからずっとその婚約者は時空の歪みに閉じ込められているんだ・・・。
だけど・・・つい最近・・時空の歪みを壊す技術をギーンが持っているのを知ったんだ・・・。
ギーンはトラバチェスの再建に協力してくれたら惜しみなく協力すると・・言っていた」
ルイ
「・・・私には話さずギーンさんに話したんですか?」
キュピル
「・・・・」
ルイ
「・・・・・・こんなのって・・・・」


その時突然触手が数本伸びルイを捕まえた!

ルイ
「あっ!!!」
キュピル
「ルイ!」

あの木の根っこで作られた壁から伸びている!!・・・奴は動くのか・・!!
剣を抜刀しルイを救おうとする。しかし触手の方がスピードが高くルイは木の根で作られた壁の向こうへと
連れて行かれた。






キュピル
「ルイーーー!!!!」












何度思い返しただろうか。


気がつけば今目の前であのシーンが再現されていた。



・・・・・。

アディールが死んだ後に思った時と同じだ。


ルイを助けるシーンは一杯あった。



・・・・・けど一つも辿りつく事なく、ルイは狂気化してしまった。





自分の記憶とルイの記憶が重なった。
うる覚えだった記憶が鮮明に蘇った。





キュピル
「はぁ・・・はぁ・・・・」

真っ暗な暗闇の中にいる。
・・・ここは・・どこなんだ・・・。

体がふわふわする。

何も見えない・・・。


その時目の前に誰かが現れた。



ルイが目の前に居る。・・・泣いている。

・・・泣かないでくれ・・ルイ・・。俺はしっかりここにいるから・・・。

ルイに手を差し伸べる。それに気付いたルイが手に握りしめようとした。
だけど握りしめる前に途中ではっと何かに気付いたらしく途中で止まった。
そしてキュピルの顔をもう一度見る。

・・・どうした?ルイ?

ルイがキュピルの手を叩き落とす。
痛い、何をするんだ、ルイ。

何の音も聞こえない空間の中でルイの声が響いて聞こえてきた。



キュピルさん・・・私は貴方の手を握りません。今ここで握ったらきっと・・キュピルさんを
引き連れてしまうことになります。・・・私に先導させないでください。・・キュピルさん。
貴方が私を先導してください。そして・・・ちゃんとした姿でまた私の手を握ってくださいね。


気がつくと自分の体から触手が生えていた。
・・・俺は・・狂気化してしまったのか?
またルイの声が響いて来た。



逆境に強いのがキュピルさんです・・・。どんなに絶望的な状況でも・・・。
私はキュピルさんを信じています。もう私はどんなことからも逃げないと覚悟を決めましたから・・・。
いつか、キュピルさんの心の奥底に眠っている闇を振り払うと・・・決めましたから。

そのためにも・・・。今は。



正気を保ってください。











ルイ。



ルイは俺の事を憎んでいないか?


ルイは俺の事を恨んでいないか?



・・・・・もし、恨んでいたり憎んでいたりしたら・・・。


ごめんな・・・・。


・・・・・・・。



再び真っ暗になった。



・・・全ての記憶を思い返した。





もっと早く気がつけばよかった。



誰も俺の事を心の底から心配してる人はいないっていつも思っていたけど。


家族だとかそういう意味も全然分らなかったけど。






今全部分かった。






目の前に答えがあったじゃないか。







こんなにも俺の事を愛してくれていた人が居た。







・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。






今こうやって振り返ってやっと気がついた。





こんな所で言うのもなんだけど。









俺もルイの事が好きだ、大好きだ。







景色が急激に変わり始めた。





キュピル
「・・・ルイ・・・・。・・・・今行く・・・今行くから待っててくれ・・・・・。今度こそ、俺が先導してみせる。」




気がつけばさっきの所に戻っていた。・・・目の前に扉が二つ。
一つはさっき俺が通った場所。


そして鎖で固定されていた扉。



だけど今その鎖がボロボロに錆びていた。



そして音を立てて鎖が崩れて行った。





キュピル
「ルイ。・・・・俺の命の炎。ここで全て燃やす。


そういって扉を開けた。





強烈な光がキュピルを包んだ。



・・・・・やってきた。



ついにやってきた。





待たせてごめんな。







肉壁に覆われた気色悪い空間にやってきた。

・・・・その最奥地に完全体・ルイが居た。
全ての触手を肉壁に突き刺しており、この黒い渦と泥を全てコントロールしているらしい。
・・・完全体・ルイがキュピルに気付き、触手を全部肉壁から引き抜いた。

・・・凄まじい形相でキュピルを睨む。
だけどキュピルは微笑んでいる。


キュピル
「さぁ、ルイ。・・・最後の勝負だ。最後の戦争だ。・・・俺の人生最後の戦い。良い物にしてくれ・・・!
行くぞ、ルイ!!!」



キュピルが触手を伸ばしルイを牽制する。
完全体・ルイも触手を伸ばしキュピルの触手をたたき落とす・・が、途中から触手が刃に変わり
キュピルの触手を全て切り落としてしまった。
再び触手を生やそうとしたが、生えてこない。・・・・封じられてしまったようだ。だが問題ない。
俺の本当の武器は腕と剣だ。

赤く光っている愛剣を抜刀する。



















レイ
「・・・・・!」
シベリン
「・・・アーティファクトが強く光っている・・!」
イスピン
「・・・皆さん、見てください。あの黒い渦を」


黒い渦から何本もの赤い光が飛び出していた。



ギーン
「・・・・あれは何だ」
ファン
「・・・・キュピルさんの持っている赤い剣が輝いています」
ギーン
「何故分かる?」
ファン
「・・・・直感です」
ギーン
「・・・案外正しいかもしれない」
ファン
「キュピルさんは今、最後の戦いをしています








キュピルが完全体・ルイの攻撃を避けながら接近する。だが触手が妨害する。

キュピル
「この触手を先に全て斬り落とす!!」

キュピルが触手を次々と切り落としていく。
その時、撓る触手がキュピルの左腕を直撃した。
肉壁へ叩きつけられたがすぐに立ち上がる。

・・・しかし異変に気がついた。・・・左腕が黒い泥へ変わり消えてなくなってしまった。
いい、べつにいい。

まだ右腕が残っている・・・!!


キュピル
「一閃!!」

赤い光が更に強く輝いた。
キュピルを覆い凄まじい速度で沢山の触手を斬り落とした!

キュピル
「ルイイイイイイイーーーーーー!!!!!」

一気に完全体・ルイへ急接近する。長期戦になればなるほどこの戦いは不利になる。


短期決戦で行く。



接近してくる触手を全て切り落としそして完全体・ルイの目の前までやってきた。
持っていた剣を投げ捨てる。
赤い光がキュピルの拳に宿る。

キュピル
「銀と月の故郷のアルカディア!!」

俺が子供の頃に覚えた技。
完全体・ルイの腹を思いっきり殴り、一回転しながらアッパーを繰り出す。
アッパーを貰った完全体・ルイが宙に浮きあがった。そして再び腹目掛けて思いっきり拳を突きだした!
強烈な一撃を喰らった完全体・ルイが後ろに吹き飛んだ。が、吹き飛びながら触手を振り回し
キュピルの両足を叩き斬る。

キュピル
「うぐあぁっ!!!!」

強烈な激痛が襲う。
足が一気に液状化し両足が無くなってしまった。

あ・・足が・・・!

膝から下が完全になくなってしまった。



まだだ・・・・まだ終わっていない・・・!!!
俺はこの戦いで命を捨てる気でいる!!!

死を忘れた人間がこんなにも強いということを見せてやる!!



右腕を使いながら地を這って行く。這って進んでいる途中触手がキュピル目掛けて飛んできた。
体をくねらせて横に転がり攻撃を回避する。転がった先に捨てた剣があった。
剣を拾い肉壁に突き刺しながら進んで行く。

こんな状態だと言うのに攻撃を回避し続ける俺を見て完全体・ルイが段々イラつき始める。
完全体・ルイの攻撃が激化した。
その時キュピルの体から触手が生えそろった。

キュピル
「喰らえ・・・!!!」

触手を刃の形に変え完全体・ルイの触手を斬り落としていく。
が、切り落としていくと同時にキュピルの触手も再び液状化していく。
再び触手が全て消えてしまった。だが、完全体・ルイの触手もさっきと比べるとかなり数が激減した。

キュピル
「終わらせる!!!」

キュピルが剣を完全体・ルイ目掛けて投げつけた!
剣がルイの胴体に突き刺さり悲鳴を上げながら後ろに倒れる。
赤い光がより一層輝き始めた。光りが完全体・ルイを拘束する。

キュピル
「ルイ!!!!!」

キュピルが内ポケットに入れたディバンのフックショットを手に取り
完全体・ルイの体にひっかける。そしてスイッチを押して逆に完全体・ルイをこっちに引き寄せた。
キュピルのすぐ隣に転がってきた。

キュピル
「ルイ・・今助ける・・!!」

赤い光が拘束しているうちに内ポケットから薬を取り出す。
この薬を・・飲ませれば全て終わる。



その時一本の触手がキュピルを襲った。



キュピル
「・・・・!!!!!」

右腕に直撃し右腕が液状化してなくなった。
・・・両手両足が消えた。


これじゃ・・・ルイに薬を飲ませる事が出きない・・・・!!!




・・・・・・。


まだ、飲ませる方法が一個残っている。






キュピル
「くっ!」

キュピルが横に転がって落ちた薬を口で咥える。

キュピル
「ルイ!!!!!!!」


赤い光が更に強まった。完全体・ルイが悶え始めた。
薬をしっかり加えながら横に転がり完全体・ルイの目の前までやってきた。
倒れている完全体・ルイの上に乗っかり顔を見つめる。


キュピル
「ルイ。・・・・愛している。」



そういって薬を加えたままルイにキスをする。


口移しで薬を飲ませる。
吐きだされないようにしっかり飲んだと確信するまで長いキスを続ける。


・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




その時強烈な力が働きキュピルを吹き飛ばした。

キュピル
「ぐがっ・・・!!」

肉壁に叩きつけられそのままグッタリとする。
・・・完全体・ルイが白い光りはじめた。
・・・。・・・僅かにだが自分の体も白く光っている。





そして二人とも宙に浮き強烈な白い光を発した。

















ヘル
「・・・・おい!見てみろ!!」

ヘルが黒い渦を指差す。

黒い渦から今度は白い光が漏れだした。

琶月
「何が・・・起きてるんでしょうか・・・」
テルミット
「・・・・!!く、黒い渦が・・・溶けています!!」

端から黒い泥が白く光りながら蒸発していく。

ギーン
「・・・キュピル。・・・ついにやったか・・・!?」
輝月
「・・・あいつは・・どうなるのじゃ?」
ファン
「・・・それは誰にも分かりません。ただ一つ言える事は・・・」
エユ
「キュピルはアノマラド・・・・いや、世界を救った
ジェスター
「・・・・・・」












キュピル
「・・・・・・・」

ルイをずっと眺める。・・・触手は全部消え・・・皮膚も正常の色に戻り・・・・
・・・・そこには、キュピルの記憶の中でしっかり残っているルイに戻っていた。

ルイ
「・・・・・・」

目を瞑ったままルイが立っている。
しばらくして目を開け、キュピルを見つめた。
ルイがすぐにはっと我に帰りキュピルの元へ駆けつけた。
そして無言でキュピルの内ポケットから魔道石を取り出しキュピルの口にくわえさせようとした。

キュピル
「うがっ!?」
ルイ
「絶対にキュピルさんを死なせません!!!キュピルさんを生き延びさせるためにも・・・
まずは元の世界に戻って行ってください!!この空間はすぐに消滅してなくなります!!」
キュピル
「うぐががががっ!」

キュピルが何か喋ろうとしているがルイが魔道石をキュピルの口の中に押し込み喋らせない。

ルイ
「・・・大丈夫です。・・・絶対にまたキュピルさんの元に行きますから・・・。
・・・それまで待っててください・・・。キュピルさん・・・大好きです。・・・これはお返しです」


そういってルイがキュピルの頬に軽くキスをした。


・・・・・。


キュピルが魔道石に祈りをささげる。




俺を元の世界に返してくれ。




魔道石からも強い光が溢れた。







白い光がキュピルを包み込む。







キュピル
「ルイ・・・」
ルイ
「キュピルさん・・・」



そして次の瞬間、キュピルは白い光となって何処かへ飛んで行った。
その直後、ルイの居る世界も崩れ始めた。









黒い渦が一気に膨張した。




ギーン
「・・・!!」
ファン
「ば、爆発します!!」

黒い渦が風船のように膨らみ、そして鼓膜が破れるぐらいの爆音を鳴らして破裂し
小さな黒い泥へと変わった。泥が飛び散りながらドンドン蒸発し、泥は全て消えてなくなった。
・・・黒い渦があった場所に白い光が二つあった。

一つは天へ登り、一つは地へと下がって行った。

ギーンがある事にすぐ気がついた。

ギーン
「・・・・!!古の魔力・・!!!」

古の魔力がアノマラド大陸を覆っている。
記憶の宝珠を使うなら今しかない!!


ギーンが記憶の宝珠を手に持ち、そして思いっきり上へ投げた。
そしてすぐに巨大な魔法陣を召喚し古の魔力を集結させながら記憶の宝珠の力を解放させた。
















『アノマラド大陸に住む全ての人間よ。
この大陸の歴史を脳に刻まれよ。

このアノマラド大陸に一人の男が住んでいた。
彼は別の世界からやってきたいわゆる異邦人だった。
しかし我々と同じ普通の人間。ユーモアと勇気、そして博愛の持ち主だった。

ある時彼とその仲間がアノマラド魔法大立学校へ入学した。

だがそこで極限られた者しか知らない事件が起きた。』



記憶が流れ込んでくる。
・・・そこはアノマラド魔法大立学校。

しかしオルランヌ軍が学校へ乱入し戦争が始まった。



『我々の知らない所で悲惨な戦争が繰り広げられていたのだ。
彼は戦い、そして何人かの者が集いこの危機を脱した。
しかしその後、トラバチェスの陰謀を知り彼等はトラバチェスへ忍び込んだ。』


言葉だけじゃなく、脳に直接記憶が入りこんでくる。
その記憶はギーンだけの物じゃなく、キュピルの記憶も一部流れ込んでいた。

巨人の男、ゴーグルをつけた男、短身な男、携帯望遠鏡を持った者、
筋肉質な男、癖毛の多い者・・。



『今、記憶に入りこんだ人達は皆、アノマラド魔法大立学校の学生だ。
・・・彼等は全員、それぞれの思想を持っていた。
だが戦争と言う者の前ではその思想は何の意味も持たず、ただ己が信じた道を突き進んだ。
その結果、誰かは人を庇って死に、誰かは囮になって死に、誰かは裏切って死に、
誰かは何も知らずに死に、誰かは討ち死にあった・・・。』



別の記憶が入りこんできた。
トラバチェス内部で起きた全ての戦いの記憶・・・。

重い重い記憶が送り込まれていく。



『多大な被害と犠牲を出しながら彼等は戦った。
・・・そして今より一年前。三つ巴の戦争が終結した。
彼等の犠牲失くしてはこの戦いは終わらなかった。

戦争に犠牲はつきものと誰もが言う。
だがその犠牲は何のために存在する?
彼らの犠牲は果たして国の何に役立った?

・・・彼等は国の私欲によって殺された。そしてそれらの事実は極々限られた者しか知らされなかった。』


その時違う記憶が流し込まれた。


『民衆は誰一人知らない。戦争の理由を。
その戦争の理由を今、解き明かさん。』


・・・・重く長い記憶。


『前トラバチェス首相。
彼がこの長く続いた戦争の発端となった男。
彼は何を思ってこの戦争を起こした?

この大陸を我がものにするために?
最強の力を手にし誰もが恐れる人物となるために?

残念だが彼の思惑を知ることは最後まで出来なかった。

だが一つ、確かに言える事がある。


人は簡単に戦争を起こす事が出来るということだ



・・・冬、春。

季節が移り変わってゆく。



『多大な犠牲を払ったあの戦争。終結してから僅か半年後の出来事だった。
・・・新たな戦争がまた始まろうとしていた。』


ぼやけた記憶が入りこんで行く。
・・・一人の女性が立っていた。

『・・彼女は初めに話した男と共に暮らしていた。
だがある時。クラドで疫病が流行り男と調査した結果。それは前トラバチェス首相が起こした物だと知った。
そして数日後。・・・彼女は前トラバチェス首相の手によって狂気化という恐ろしい病気に感染した』

目の前に立っていた女性の姿が変貌した。
黒い皮膚、グロテスクな触手、髪の毛が集まり鋼鉄のように硬い毛に変わる。
・・・時々皮膚が割れそこから血が流れていた。
狂気化した彼女の目から赤い血の涙が流れた。・・・悲しんでいる。


『・・・そして数カ月後。恐ろしい出来事が始まった。』


セピア調の風景が目の前に現れた。
・・・・オルランヌ軍とトラバチェス軍が戦っている。
その戦いに混じって何人かの兵士が狂気化しており暴れ狂っている。


『狂気化した者は皆、人外の力を身につけ意識を失い何をしているのか分らないまま操られ
そして、戦争の道具として利用された』



・・・黒いコートを身につけ赤い剣を持つ男が現れた。



『・・・この未来の出来事をいち早く予測し、阻止しようと彼は立ち上がった。
彼は一度ならず二度も戦争に巻き込まれた。・・・常人なら逃げ出してもおかしくない。
だが彼は狂気に満ちた世界へ再び踏み入れた。』


突然視界に現れた男が苦しみ出し、体から触手が生え出した。



『・・・だが阻止することはできず、挙句の果てに彼は狂気化してしまった。』


・・・・。

暫く間を置いてから再び記憶が流れ出した。


『しかし彼の屈折な精神力と彼を支える者が集まり、体は狂気化しても意思を保つことに成功した。
・・・人外の力を手にした彼は何をしたか?』


再び目の前で戦争が始まった。


『彼はその力を持って戦争を食い止めようとした。
民衆の知らない所で始まった戦争。

彼はこの世界の住人ではない。それなのに彼はこの戦争を止めようと自らの命を投げ出して介入した。』


・・・目の前に巨大な黒い渦が現れた。


『しかし自体は上手く好転しなかった。・・・一番初めに狂気化した人物・・・。彼と共に暮らしていた女性の
狂気化が最終段階まで進んでしまった。・・・その結果、彼女は完全に人ではなくなり・・
コントロールの聞かなくなった魔物と化した。』


黒い渦が一気に広がり始めた。
周りの地形や建物、兵器を次々と飲みこんで行く。


『・・・もう誰も止める事はできない所まで進んでいた。
このままアノマラド大陸は黒い渦に飲み込まれ崩壊するしかなかった。

・・・だが、唯一。この黒い渦を消す方法が存在した。
しかしそれを実行するには確実に誰かが犠牲になる必要があった。』


再び目の前に狂気化した男が横向きに現れた。
・・・決意を露わにした表情をしている。

『・・・そんな中。彼は誰かに言われた訳でもなく、あの黒い渦の中へ飛び込むと宣言した。
・・・そして今より数時間前。彼はヘリコプターに乗り上空までやってきた。』

そのシーンが目の前に現れた。
・・・・男が手を上げて応え黒い渦の中へと飛び込んで行った。


・・・・そして数十分後。


黒い渦から赤い光が漏れだし・・・

しばらくすると強烈な白い光が溢れ始めた。



そして黒い渦は蒸発し最後は爆発して消えて行った。





『・・・我々は知らなくてはいけない。戦争の本当の真実を。
常に戦争の事は民衆に知れ渡らないよう情報統制を成されてきた。

だが、それは違う。

二度と、戦争を起こさないようにするためには


国ではなく



我々民衆が戦争の事について真に理解しなければならない



今、民衆の知らない所でこのような出来事があったと言う事を


永遠に記憶に刻み込んで欲しい。』















小隊長
「今の装甲車はF1より早いぜ!!この戦争が終わったらF1より早いタクシーを売りにしてタクシー企業を
起業する!よし、たった今起業する!!」
戦車兵2
「隊長!今世の中にはワープという優れた物が存在します!」
戦車兵
「倒産確定ですね」
小隊長
「創立5秒で倒産したぞ!」
ギーン
「無駄口叩かないで早くあの黒い渦の中心へ行け!!」
小隊長
「サーイエッサー」

スピードアップとシルフウィンドをかけられた装甲車が物凄い勢いで黒い渦があった場所に行く。

ヘル
「あの場所だ!・・・・おい!通り過ぎたぞ!!」
戦車兵2
「一時停止の標識も見えなかったんですか?」
小隊長
「あの標識は俺を見かけたら一時停止しろって意味だ」
ギーン
「いいからさっさと止まれ」

ギーンに一発殴られ装甲車がドリフトしながら止まる。

・・・誰かが立っている。


全員装甲車から降りる。

黒い渦の中心だった場所にルイが立っていた。


ジェスター
「ルイ!!」
ルイ
「・・・!ジェスターさん・・・!」

ジェスターがルイに飛びつく。しっかり抱きしめる。

ジェスター
「ルイ!ルイ〜〜!!」
ルイ
「お久しぶり・・・ですね。」

ギーンが咳払いしながら言った。

ギーン
「キュピルは?」
ルイ
「・・・全部説明します」


















そして翌日。


全ての真実を知った民衆が発起。軍隊を持つ国全てでクーデターが起きた。
・・・各地で政権が崩壊、そして旧態の政治は全て崩れ去った。


それから更に数日後。



平和を末永く願う同盟、アノマラド連合が結成。



長く続いた三つ巴の戦争は終戦した。









記憶は刻み込まれた。


だがこれで本当に戦いは消えた?


後世にまで果たして真の歴史というのは伝えられていく?




それは難しい。



次第に自分にとって都合の悪い真実は嘘・隠蔽に塗り替えられていく。


そしていつか人はまた争いを起こす。


でもその時。




また誰かが過ちに気付けばいい。
そして立ち上がればいい。







続く




第十六話




キュピルとルイ。二人は・・・・。









危険な山岳地帯を走り続ける。
だがここは小さいころから何度も通っている。ヘマは絶対にしない。
もはや突起と言える足場を走って通りぬけてゆく。通るたびに小石が崖へ落ちて行く。


キュピル
「はぁ・・はぁ・・・」

これ以上ないぐらいの速度で走り続ける。
もうちょっとだ・・もうちょっとで辿りつく・・・・。


・・・・・まさか。


ミティアが・・・・。




今の状況を一言で言うなら本当にこれしか出てこない。


これはもう運命だったんだと・・・。










==二日前



・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




キュピル
「・・・・・・・」

体が何だか軽い。
・・・あれから俺はどうなってしまったんだろうか・・・。死んでしまったのだろうか?

その時、暗い空間の中でキュピルを中心に魔法陣が一つ広がった。
それと同時に激痛が走りうめき声を上げる。

キュピル
「うぐぁっ・・・!!」

メキメキと強烈な音を立てて体に変化が現れる。
・・・次第に現実へと引き戻されていく感じがした。






キュピル
「う、うわぁっ!!!」

まるで高い所から落下していくような感覚に襲われビクビク震えながらキュピルが起き上がる。
ここは・・・・ベッドの上?

キュピル
「はぁ・・・」

・・・・何だかとても長い長い夢を見ていたような気がする・・・。
・・・ここは・・・・俺の家か。

キュピル
「・・・・本当に長い長い夢を見ていたのかな・・」

いつも通り起き上がり、まずは背伸びする。
次に窓を開け外の景色を確認する。

・・・・今日も街並は異常なしっと。いい天気だ。
その時誰かが部屋に入ってきた。

キュピル
「ん?」

「入りますよ?」

キュピル
「いいよ」

ドアが開き見慣れた顔の人が現れた。ルルアだ。

ルルア
「気分の方はどうですか?」
キュピル
「かなり良い。・・・ただ、なんか長い夢を見ていた気がした。・・・何か・・・。
俺が違う世界・・・なんというか違う異次元の世界へ飛んでしまう夢を見た気がした。
・・・そこで俺が何年も暮らして・・・。大切な人が・・・ん・・・・あれ?」

・・・・・。

キュピル
「夢じゃないって!!そうだよ!俺は元の世界に戻ったんだ!!!」


ルルアがビクッと驚く。

キュピル
「あまりにも普通だったから気付かなかった!おぉ、懐かしいな!俺の部屋!」
ルルア
「・・え、えーっと・・・。・・・とりあえずお体の方も大丈夫そうです・・ね?」
キュピル
「おう。・・・・ん。でも俺の記憶だと何かとんでもない状況になっていたような気がするけど・・・」

キュピルが鏡の前に立ち自分の体を確認する。

・・・・両腕両足が復活している。
それだけじゃない、触手も全て消えて皮膚の色も元通りになっている。
・・・狂気化が治っている・・・。

ルルア
「・・・両腕両足ない状態でした・・・」
キュピル
「・・・・どうやって治療したんだ?」
ルルア
「全部魔法ですよ。キュピルさんの細胞を活性化させて治療を数億倍も早めました。
魔法の力も借りてしっかり手とか足の形になるよう手助けはしましたけど」
キュピル
「なぁルルア。・・・こっちに来る時俺はある病気に感染していたんだが・・・。
体が黒く変色して触手が生えるという気色悪い病気だが・・・それも治してくれたのか?」
ルルア
「・・・・?そんな状態にはなっていませんでしたよ」
キュピル
「・・・・?」

キュピルが首をかしげる。
あともう一つだけ聞きたい事がある。

キュピル
「ところで・・・。どうやって俺をここに?」
ルルア
「キュピルさんが魔道石を使ってこっちの世界に戻ったっていう信号をキャッチしたので
テレポートですぐにキュピルさんの元まで移動しました!・・・そしたら・・・・。・・・・・」

ルルアが黙ってしまいガタガタ震え始めた。・・・・臆病だからしょうがない。

キュピル
「あー、そのなんだ・・。ありがとう・・・」

ルルアが頷く。

キュピル
「・・・さてと・・・。・・・そういえば今日はティルは一緒じゃないの?」
ルルア
「ティルさんは・・・。やる事が出来たって言って・・現在長期不在です。」
キュピル
「長期不在?場所とかって分かる?」
ルルア
「それが・・私には教えてくれなくて・・・」
キュピル
「・・・・」

この一件でもキュピルが首をかしげる。
そういえば俺にも教えてくれなかったなぁ・・・。
少しティルの件についても調べてみるか・・・。

キュピル
「わかった、ありがとう。・・・俺はもう自由に行動してもいいのかな?」
ルルア
「はい、大丈夫です」
キュピル
「それじゃ、ティルの件も兼て挨拶回りしてみるよ」
ルルア
「わかりました!」

とりあえず荷物は今は置いておこう。

・・・・・。



==城下町ギルド

大きな城の下にある町。
キュピルの記憶通りのままだった。今日も街のあちこちで武器を身につけ
どこで狩りをするかなどの話しで賑わっている。

・・・・もうこっちも戦争は終わったんだな。


元の世界の事を思い出す。・・・トラバチェスとオルランヌ・・・。

・・・・・・。

キュピル
「(・・・・・)」

とりあえず今やるべき事を手帳にまとめておこう。
しばらく雑念が入りこみやすそうだ。

手帳を内ポケットから取り出し書きだす。

・ミティア救出
・ティル調査
・シルク調査

キュピル
「・・・・よし。」

・・・その一個前のページを確認する。
記憶の宝珠の事について書かれていた。
更に一個前にはケルティカの事件での出来事・・・。

・・・・・。

また別の事を考えていた。
とにかく早く俺が帰ってきた事を皆に知らせよう。
まずはシルクの事についてよく知っているロビソンからだ。



==武器工房


ロビソン
「いらっしゃい。・・・・おぉ、キュピルじゃないか!」

ロビソンがカウンターから飛び出てキュピルの肩を何度も叩く。

ロビソン
「うっわー、何年振りだ?三か?ってことは・・おい、お前もう酒飲めるじゃないか。タバコも吸えるぞ。
飲め!吸え!!つーか、どうやって帰って来たんだよ!」
キュピル
「ロ、ロビソン。とりあえず落ちついてくれ。な?」
ロビソン
「・・・ふむ。キュピルにそんな事言われちゃお終いだな・・」
キュピル
「・・・悪かったな。」
ロビソン
「俺の中の記憶じゃお前はまだまだ12歳ってイメージがあるからな。あの日から急に消えちまったんだ。」
キュピル
「まぁ、戦いに貢献したとでも思って・・・。」
ロビソン
「ん、キュピルお前。随分といい剣持ってるじゃないか。見せてくれ」
キュピル
「ん?あぁ、いいよ」

キュピルが紐をほどいて鞘ごとロビソンに渡す。
まじまじと見た後キュピルに返した。

ロビソン
「・・・こりゃ相当な上物だな。使い手によって武器が変化する特殊な剣だ。」
キュピル
「向こうの世界でモナ怒りの血っという武器があるんだがそれをベースに改良してもらった剣だ。
怒りの血っという武器自体が使用者によって武器が変貌してしまうっていう特徴を持っているんだが・・。
一度壊れた時にジェスターに頼んで武器を修理しに行ってもらった時更にパワーアップした。」
ロビソン
「ジェスター?」
キュピル
「・・・ごめん。向こうの世界に居た時の大切な仲間」
ロビソン
「・・・あー、そういえば居たな。ジェスター」
キュピル
「ん?知ってるのか?」
ロビソン
「知ってるも何もお前一回だけこっちに戻ってきただろ」
キュピル
「・・・あぁー・・・」

ファンが奇跡的に開発する事が出来たというあの異次元転送装置機・・・。
・・・もう同じ物を作ろうとしても二度と作る事は出来ないっとファンは言っていたなぁ・・・。

ロビソン
「その時にお前ジェスターを連れていた気がするんだが」
キュピル
「居た居た。」

その時ロビソンにいくつか聞きたい事を思い出した。

キュピル
「そうだ、ロビソン。少し質問したいんだけどいいかな?」
ロビソン
「何だ?」
キュピル
「シルクについてだ。・・ティルからの連絡によると突然行方不明になった・・・って聞いたが・・・」
ロビソン
「・・・1年前だ。突然あいつがパッタリ帰って来なくなった。今まで長くとも三か月に一度程度は
生存報告ってことで手紙をよこしてくれるんだが・・・。・・・今回は連絡も前置きもなしにいきなり消えてしまった。
まるでお前が突然消えたのと似ている」
キュピル
「・・・俺が突然消えたのと似ている・・・」

・・・・まだ俺が12歳だった頃・・。
・・・この世界で戦争が起きていた。

その時、敵の猛攻にやられ侵入を許してしまった時。
ここ城下町で指揮官らしき敵と出会った。・・・無謀にも一人で突撃した俺は
善戦したかと思ったが相手の怒りを買い・・結果、俺は異次元へ飛ばされてしまいナルビクへと飛んできた・・・。

キュピル
「・・・ふーむ・・・。・・・しかし異次元だなんてそう簡単に行ける・・・はずがないんだが・・」
ロビソン
「それなんだ。・・・強い魔法を使えば必ず痕跡が残る。お前の時もそうだった。
・・だがここ一年の間に異次元へ飛ばしてしまうほどの強力な魔法を使った跡が残っていない。
それとこれを見てみろ」
キュピル
「ん?・・・鎖・・と宝石だな」

鎖で繋がれたチェーンの先に宝石が一つくっついていた。・・・ルビーだ。
ルビーが燃えるように輝いている。

キュピル
「・・・この鎖・・シルクのだな。覚えている。・・だけどこの宝石は何?」
ロビソン
「これはシルクの生命反応だ。あいつがいつも無茶するのは知っているからティルに頼んで
特殊な宝石を作ってもらった。あいつが死ねばこの宝石は輝きを失う。・・・見ての通り、あいつは生きている。」
キュピル
「異次元で生きているっという可能性は?」
ロビソン
「それもない。この魔法が適応される範囲はあくまでもこの世界の中だけだ。
仮にシルクがお前みたいに別次元へ飛んでしまった場合この宝石は輝きを失うことになる。
つまりシルクは今この次元の何処かで必ず生存している。・・・それも思ったより近くでな。」
キュピル
「・・・うーむ・・・。そうだ、ティルの事についても聞きたい。
ルルアから聞いたんだけどティルが突然やる事が出来たと言ってそれから帰ってきてないらしいが
何か知っているか?」
ロビソン
「・・・ティルについてはよく分らん。ルルアが知らないなら俺が知るはずないだろう。
あまり縁がないんだからな」
キュピル
「そうか・・・・」
ロビソン
「ティルについて一番詳しく知っているのはシルクかルルアだ。・・・ルルアがダメなら・・・そうだな。
ルルアに頼んでティルの店を開けて貰ったらどうだ?勝手にファイル盗み見りゃ何か分かるだろう」
キュピル
「・・・見ていいのだろうか・・」
ロビソン
「まぁ、ばれた所で拳骨一発貰うだけだろう」
キュピル
「・・それが嫌なんだが・・まぁ、それしか今はできなさそうだな。ありがとう」
ロビソン
「おう、そのまえにちょいと待てや」
キュピル
「ん?」
ロビソン
「久々にお前が戻ってきたんだ。今日の夜何人か集めて飲みに行こうぜ。お前も二十歳になったんだ。
もうジュース卒業できるぞ?」
キュピル
「(二十歳になってなくても飲んでいたとは言えない・・)
・・そうだなぁ、そいじゃここはありがたく奢ってもらうか」
ロビソン
「・・・まて!俺は奢るとは一言m・・」
キュピル
「ありがとう!」

そう言ってキュピルは工房から出て行った。



キュピル
「(あいさつ回りは中止だ。ルルアに頼んでティルの店を開けてもらおう)」



集合住宅の一室・・キュピルの部屋に戻る。
しかしルルアはもう居なかった。・・・自分の家に戻ってしまったのだろうか?

キュピル
「(まぁ、そんなに遠くない。ルルアの家に行くか)」

その時通路のドアが開いた。
あそこの住人は確か・・・。


リュー
「・・・ん?」
キュピル
「?」
リュー
「うげぇっ!キュピル!いつ帰ってきた!?」
キュピル
「誰?」
リュー
「おい、ひでぇな!リューだぜリュー!」
キュピル
「・・・!リューか!・・・八年ぶりにあったから全然分からなかった。」
リュー
「へへっ、どうだ?俺も大人になっただろ?」
キュピル
「・・・でもまだ計算してみたら14歳だな。まだまだ子供だな」
リュー
「うるせーな。それよりお前何処に行ってたんだ」
キュピル
「・・・すまん。ちょっと今忙しいからまた後でな」

普通にリューをスルーして外に出る。・・・ルルアを探すか。

リュー
「・・・・酷い」



集合住宅から徒歩10分ぐらいの所にルルアの家がある。無駄に一軒家・・・。

チャイムを鳴らし居るかどうか確認する。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・不在のようだ。
・・・何処に行ったのだろうか。

キュピル
「(参ったなぁ・・・。多分鍵はルルアが持ってるんだろうし・・・・)」

・・・・・。

ここいらでナルビクの世界に行って身につけた技を使ってみるか・・・。







==錬金術店前


ティルの店の前までやってきた。
よし、とりあえず裏口に回って・・・。

・・・・・・。

針がねを一本取り出し鍵穴に差し込む。こうやってこうやって・・・・。



ガチャッ


キュピル
「よし、開いた。マキシミンから教わってよかった」

・・・・あんまり向こうの事は思いださないでおこう。・・・どうせ二度と戻れないなら早く忘れた方が・・。

・・・・・・・・。


キュピル
「たまにいるんだ。こんな事を思う人が。
『一度やっちまったものはしょうがない。忘れてこれからは前を見てちゃんと生きていけよ』って。
・・・俺は逆だと思うんだ。悔いは永遠に心の中に残しておかなければいけない。
そしてそれを糧にして生きて行く。・・・忘れたらまた繰り返しだからな。
輝月がやってしまったことをちゃんと覚えていてそれをずっと悔い続けていたってことを知って今安心した。
だけど輝月。さっき永遠に心の中に残しておかなければいけないと言ったが常にそれを思い出す必要はない。
・・・時々でいい。例えば寝る時や風呂入ってる時とかな。その一分の間だけでいい。ずっと思いだしていたら
逆に疲れるだろ?」



キュピル
「(・・・・自分で忘れるなって言った癖に)」

雑念を捨てて店の中に入る。・・・懐かしい。
ここの店は八年間、何一つ変わってないんだな・・・。


==錬金術店


さて、とにかく色々物色していくとしよう。まずはどこから着手するか・・・。

キュピル
「(もっともスムーズに見つけられる場所。それはティル本人の部屋だな)」

ばれたら殺されかねないが・・・。
二階へ上がりティルの部屋へ勝手に入る。
部屋の中はかなり散らかっていた。

キュピル
「(・・・おかしいな。ティルはかなり神経質な性格しているから部屋を散らかすってことは絶対にしないはずなのに)」

・・・一体何があったのだろうか?
とにかく何か情報になりそうな書類を探そう。
手当たり次第に机の引き出しを空けて行く。しかに中に入っているのは魔法石などといった
錬金術に関する道具ばっかりだった。

・・・・・。

キュピル
「・・・・・ん」

机の下に何か落ちてる。
・・・・ノートだ。
ノートを拾いページを開いてみる。

・・・・。

日記のようだ。
・・・・他愛のない日常の事が書かれている。こっちで何が起きたのかすぐにわかるが
殆ど関係ない内容ばっかりだった。

キュピル
「・・・・これが最後のページか」

・・・最後のページだけ少し長い。


『今日、突然夜中にシルクが帰ってきた。・・・私の力が必要なんだって、変なの。
何で今まで連絡も出さないで、ずっと帰って来なかったのか聞いてみたら・・・。
とんでもない事を知っちゃった・・・・。・・・・シルクがずっと帰って来れなかった理由・・・。

・・・それを聞いたら私も居ても経ってもいられなくなっちゃった。
だから私もシルクの手伝いしてくる。それにしてもシルクがあんなにキュピルの事大切にしてるなんて
思わなかったな〜』

・・・・俺?

・・・・これはちょっとティルに悪いが写させてもらおう。
手帳を取り出し一字一句間違わずに手帳に書き記しておく。

・・・・・

キュピル
「これでよしっと。」

・・・調べなければいけない事が増えたな。
・・・まず一つ、シルクは一度帰ってきていた・・・。二つ、ティルが消えた理由はシルクの手伝いをしにいったため。
・・・そして三つ。・・・俺が関係しているらしい。

キュピル
「・・・・・・・」

こっちの世界に戻って来てからいきなり色々考えなければいけない事が増えてしまった。
・・・でもそういう毎日だったから違和感は感じない。そう、至って普通の日常。


・・・・・・。

キュピル
「(ティルとシルクが何処に行ったのか調べたいな。・・・出来れば何をしに行ったのかも)」

他にも何か情報となるものが無いか調べてみたが三時間ほど隅から隅まで探してみたが見つからなかった。

・・・・・時刻は午後七時を回ろうとしていた。


キュピル
「(・・・そろそろ潮時か。それにロビソンとの約束もあるし・・今日はこの辺で切り上げよう)」

店から出て裏口の鍵もしっかり閉めておく。これでよしっと。
さてと、工房にでも行くか。



==工房


キュピル
「来たぜ」
ロビソン
「ん、もう七時か。んじゃ店閉めるか」

ロビソンがカウンターから出てくる。

ロビソン
「ちょっと面子集めてくるからここで待っててくれ」
キュピル
「あいよ」


・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

キュピル
「・・・・・・!」

今強いマナを感じた。これは・・・テレポートか?

工房から強い魔法の光が放たれそこから誰かがやってきた。
・・・・作者だ(という名前の人物がいる。詳しくはシーズン6参照。

作者
「よくぞ、この世界へ再び舞い降りた。そなたを歓迎しよう」
キュピル
「おい、また随分と口調大きく変えたな。喋りづらくないか?」
作者
「正直喋りづらいでござるよ」
キュピル
「誰かの真似しないでくれ・・・。・・・それで、まさか作者もロビソンの飲み会面子に入っているのか?」
作者
「知らないね。・・・それより、キュピル。君は随分と面白い人生を歩むんだな。実にすばらしい。
人の生と書いて人生と読む。つまり人の一生を表s・・・」
キュピル
「はいはい、哲学も何時も通り何時も通り・・・。・・・ちょっと待ってくれ。
『君は随分と面白い人生を歩むん「だな」』?・・・未来形になってないか?」
作者
「そう、未来形。未来!そう、未来というのは未知なる未に飛来するの来。そう、つまり見知らぬ物が飛来s・・」
キュピル
「省略!!」
作者
「変わらないキュピルにショック。んっじゃ帰ろうかな」
キュピル
「・・・一体何しに来たんだ?」
作者
「そうだったYO。私はキュピルに一つだけ言いたい事があって来たんだ。
そう、ずばり言う。・・・真面目に言うぞ」
キュピル
「・・・・!」

作者が真面目になる所を初めてみる。・・・普段、シルクハットで顔を全て隠しているが
今その顔が一瞬見えた気がした。何処かで見た事のあるような顔をしていたが一瞬だったため
判別できなかった。

作者
「キュピル。今お前の人生という歯車は一人で空回りし続けている。
だがその歯車はいずれ沢山の歯車と噛み合いいずれ異次元をも巻き込む大きな歯車となるだろう。」
キュピル
「それは俺にとっても皆にとっても害となるものなのか?」
作者
「自分の目で確かめるが良い。・・・気になるか?気になるだろう。ククク・・・。いやぁ、面白いね。
いつの間にかこんな美味しい存在になってるんだ。面白い、うん、面白い」
キュピル
「・・・・・」
作者
「・・・・お前に聞く。」

一瞬崩れたかと思えばまたオーラが変わった。

作者
「キュピル。お前は万物をすら巻き込む巨大な歯車となって他社の運命を大きく変える存在となりたいか?
そう、今ここがお前のギアチェンジ(歯車)の判断すべき場所なのだ。」
キュピル
「・・・・すまない。何を言っているのかさっぱりだ。・・・もっと簡単に言ってくれ」
作者
「ここがお前の運命の分岐点だ。・・・この3分でお前の人生はこれ以上無い程変化する。
・・・お前はどのような運命を歩みたい?選択肢を出してやる。好きな方を選べ」

作者が魔法を唱えキュピルの未来図を画像にして召喚した。
・・・左の画像にはこの世界の皆と肩を並べて笑っているキュピルの姿があった。
・・・そして右の画像にはキュピルがただ一人。ポツンと突っ立っていた。・・真っ暗な暗闇の中で
ただ一点をどこかずっと見つめている。

作者
「左のお前はこのままの人生を歩んだ時の映像だ。実に幸せそうだ。
・・・右のお前は今ここでギアチェンジし運命を変えた時の未来のお前だ。」
キュピル
「・・・・。左の方が良いに決まってるじゃないか。そんな態々一人で寂しくなる未来なんて誰が選ぶ?」
作者
「そう、ここまでならば。・・・未来の続きを見せてやろう」

作者が再び何か魔法を唱える。・・・二つの画像が動き始めた。・・・左の画像はそのまま
シルクやティル、そしてミティア・・。見知った人たちと共にこの世界で生きて行くキュピルの姿があった。

・・・そして右の画像。

・・・キュピルが徐々に苦しみ始めそして床に突っ伏してしまった。
突然傷が現れ出血し始めた。・・・見れば見るほど何故この人生を選ばなければいけないのか分らなくなってしまう。
・・・傷だらけとなったキュピルが見上げた。・・・そして

キュピル
「・・・・・・!!!!」


見上げた先からルイが現れた。・・・傷だらけのキュピルにルイが手を差し伸べ、そしてその手を握り
傷だらけのまま何処かに歩いて行った。・・・そこで二つの画像は消えてなくなった。

作者
「お前の呪いとも言える人生。その悪夢が今覚めたのだ。長い長い苦しみから今解放され
やっとお前は平和、安静、幸福を手にする事が出来る。・・・」

ルイが画像に現れたのを見てキュピルの目の色が変わった。・・・過去を思い出している。
その目を見た作者がふぅっとため息をつく。

作者
「その道は茨の道だ。間違いなくお前を不幸へと突き落とす道となるだろう。
更なる戦いへ巻き込まれ泥沼へと沈んでゆく。
・・・それでも良いのか?」

キュピルが一度俯く。・・・そして決意に満ちた目でキュピルが顔を上げる。

キュピル
「どれだけ不幸な人生が来ようが戦いに巻き込まれようが俺はもう後悔しない。
・・・・俺の事をこんなにも思ってくれていた最高の人物に巡り合えたんだ。
俺はその人と共に居たい。・・・そして守ってやりたい」

作者が五秒ほど熟考し再び答えた。

作者
「・・・わかった。たった今キュピルは大きなギアチェンジをした。もうシフトチェンジする事は出来ないよ。
他者の運命すらを巻き込むその大きなギア。・・・この先、お前がどうなるか実に興味深い。」
キュピル
「・・・・・」
作者
「・・・そろそろロビソン君が帰ってくるな。ではキュピル。最後に・・・。
・・・お前の信じるその道へ突き進むのであれば・・。
ロビソンからシルクの隠し部屋を教えてもらえ。そして真実を知れ。
そうすればお前の選んだ道へ進む事が出来る。
・・・後は自分の信念と共に運命を歩みたまえ。では、またいずれあいまみおう。・・・孤高なキュピルよ」

そういって作者がテレポートし何処かへ消えて行った。


・・・ミティアの件を・・あいつは知っているのか・・・。
・・・確かにあいつは知っていてもおかしくないかもしれない。

ある種、神に近い人物だし・・・・。


・・・・・・・。

だが真実を知れ?どういうことだ?何か知らない事があるのか・・・?





作者が戻って10秒後。ロビソンが帰って来た。

ロビソン
「今強いマナを感じたが何があったんだ?」
キュピル
「いや?俺は感じられなかったけど」
ロビソン
「あー、そうだよな。お前は魔法には鈍感だからな」
キュピル
「悪かったな!」
リュー
「飲み会だって?やーりー」
キュピル
「お前まだ14だろ」
リュー
「うるせーなー!」
トーロン
「どうも、キュピルさん。いつのまにか異次元を越えて帰ってきてたのですね。びっくりしました。」
キュピル
「お!トーロンさん!お久しぶりでございます!」
リュー
「何この態度の違い。」
トーロン
「この世界に戻ってきていたのであれば一声かけて下さればよかったのに」
キュピル
「いやー・・ちょっと用事があってね」
リュー
「戻っていきなり用事?怪しいぜ!」
キュピル
「子供には分からない用事さ」
リュー
「・・・張っ倒す!」
キュピル
「おー、怖い怖い」
ロビソン
「これで四人だ。行こう」





==酒場


キュピル
「ここも懐かしいな〜。最後に来たのは八年前だ。」
ロビソン
「キュピルの分は奢ってやろう。お前等は自腹で払え」
リュー
「うわ、ひっでー。」
トーロン
「仕方ありませんね。リューさんの分は私が払いましょう」
キュピル
「なんという心広き人物。」
ロビソン
「んじゃまずは景気づけに酒用意するか。」
トーロン
「明日も店番しなければならないので私は程ほどにしておきます」
リュー
「んじゃ、変わりに俺がトーロンの分の酒も飲むぜ!」
キュピル
「リュー。お前さんまだ14だろ」
リュー
「うるせぇ、俺の勝手だろ」
キュピル
「うーむ、俺には良くわからないな。少なくとも14の頃にはまだ酒には手を出さなかったが・・・。
・・・酒を飲む人がカッコよく見えるのか?」
リュー
「別に何だっていいじゃないか」
キュピル
「ほぉ。・・・どれ、ならロビソン。あれ飲ませよう。」
ロビソン
「あれ?」
キュピル
「スピリッツ」
ロビソン
「・・・正気か?」
キュピル
「行ける」

ロビソンが定員を呼びとめ適当な酒とスピリッツを頼む。
数十秒後にバーテンダーがロビソンに向けてジャッキを四つ投げロビソンがそれをキャッチする。
それと同時に酒瓶も思いっきり投げられキュピルが慌ててキャッチする。

キュピル
「おいおいおい、随分とワイルドな店に変わったな。」
ロビソン
「俺の時限定。早くて便利だろ?」
リュー
「かっけーや」
キュピル
「・・・そうかぁ?」

キュピルが首をかしげる。その傍でトーロンが笑っている。

リュー
「んで、俺の酒ってどれだ?」
キュピル
「こいつだ」

キュピルがスピリッツの入った酒瓶を持ちジョッキにガンガン注ぎこむ。

キュピル
「さぁ飲め。」
リュー
「お、おう」

リューがスピリッツを飲む。
・・・が、口に含み喉に流し込んだ瞬間リューが噴き出した。

ロビソン
「うわっ、汚ないな。こっち向いて吹くな」
リュー
「ごほっ、ごほっ!・・・おい、キュピル!何だこの酒!」
キュピル
「スピリッツ程強い酒は中々無い。どうだ、ワイルドだろ?」
リュー
「ワイルドって・・・・。俺は普通にビールとかワインでいいぜ」
キュピル
「ビールとかワインなんて大人になりゃ誰でも飲める。ましてや子供が飲んだらただカッコつけて
だけにしか見えない。むしろカッコ悪いぞ」
リュー
「・・・そうなのか?」

ロビソンが意味を理解し話しを合わせる。

ロビソン
「まーそうだなー。二十歳になりゃ誰だってビールぐらい飲める。
結局酒飲んでその姿がカッコよく見えるってのはその人物自身に何か魅力があるか、
あるいは強い酒を紳士的に飲む時だけだな。」
リュー
「・・・」
キュピル
「酒飲んでカッコつけるよりもっと人生をカッコつける物を増やしておけ。」
リュー
「ちぇ、何かキュピルの奴。別人になってら」
キュピル
「ハッハッハ。俺が向こうの世界へ飛んじまった時もお前みたいな奴がいたからな。扱いになれたぜ」
リュー
「俺はペットかよ!」
キュピル
「ああ、その扱いに慣れたって人物はペットだったなー・・・」
トーロン
「おや?キュピルさんは人をペットにしていたのですか?」
キュピル
「そういう意味zy・・」
リュー
「うっわー、やべーよこいつ。まさかやベー事やってたんじゃないだろうな?」
キュピル
「ちげーよ!!」

しばらくすると肉類の料理が出てきた。ロビソンが勝手に注文したらしい。
適当に摘みながら話しの花を咲かせる。

トーロン
「いやいや・・・。それにしても久々に見たキュピルさんは別人って感じしかしません。
最後に会ったときはリューさんとそんなに変わらなかったイメージがあります」
キュピル
「若き頃の過ち。今こうやって大人になってから振り返ると正直全然カッコ良くないなって思う」

その時リューがタバコを取り出した。すぐにキュピルがとりあげた。

キュピル
「だからお前そういうのは大人になれば吸えるから止めておけって。体力落ちるぞ」
リュー
「シルクの野郎から吸っても良いってくれたんだい!」
キュピル
「・・・・シルクめ・・。リュー、お前はまだ14歳な上に自称最強を目指すんだろ?」
リュー
「自称じゃねぇ!」
キュピル
「だったらタバコはやめておけ。スタミナが激減する」
リュー
「だけどシルクの野郎は吸ってるぜ。吸ってるのにあんな強さを持ってるのかよ?」
ロビソン
「シルクは人間やめちゃってるからタバコなんて関係ない。あいつは化け物だよ化け物。」

四人とも笑う。確かに人間だというのにあんな強さを持ってるんだから
一言で言えば化け物としか言いようがない。
ロビソンもタバコを取り出し吸い始める。

ロビソン
「まっ、俺としちゃキュピルが何処まで強くなったか気になる所だけどな」
キュピル
「向こうの世界でかなり腕は鍛え上げたぜ。今の俺ならシルクと・・・。・・・いや、無理か。
いつもシルクは俺の二倍強かったからな・・・」
トーロン
「三倍ですね」
キュピル
「追い打ちかけないでくれ」

キュピルがやけ食いを始める。
リューも慌てて肉を口に放りこむ。

キュピル
「そういや、トーロンさんは今も店の営業続けているんですか?」
トーロン
「ええ。最近新しい事業にも手を出して良い感じに進んでいますよ。」
ロビソン
「トーロンの奴。移動店舗作りやがった。それもテレポートでだ。
日替わりで普段店に並びにくい物を並べているわけだから毎日儲かってるぞ」
トーロン
「近頃魔法技術のインフレが進んできていますのでこの際強い魔道石を購入して
テレポート可能な商店にしてみました。」
リュー
「ちぇー。あんな風に簡単にいってやがるけど常人には無理だぜ、あんなの」
キュピル
「向こうの世界で特殊ワープ装置機っていう名前の機械を発明した人がいる。
マナを集約させて無条件で好きな場所にテレポート出来る代物」

細目のトーロンが目を丸くする。

トーロン
「それは凄いですね。何処にでも本当に行けるのですか?」
キュピル
「行ける。・・・まぁ、座標を正確に計算しないといけないらしいけど・・・。
それと異次元の世界にも過去行けた事があった。・・・ただ奇跡的に出来た代物で
結局一カ月も持たずに壊れてしまったけどね」
トーロン
「あぁ、だからあの時一度キュピルさんが帰って来たっていう知らせが来たんですね。今納得しました」
キュピル
「きっと会えば意気投合しますよ」

どこか思い出に浸りながら自慢げに話す。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。


数時間後。



トーロン
「さて、では私はそろそろこの辺で失礼しましょう。お代はここに置いておきますので」
ロビソン
「あい、わかった。お疲れ」
キュピル
「お疲れ様」
リュー
「んがぁ〜・・・・zzz・・・・」
キュピル
「・・・・こいつ酔い潰れてやがる」

トーロンが軽く微笑んだ後、店から出て行った。
・・・リューは酔い潰れて当分に起きそうにないし・・聞くなら今しかないか。

キュピル
「・・・そうだ、ロビソン」
ロビソン
「何だ?」
キュピル
「・・・一つお願いと聞きたい事がある。」
ロビソン
「言ってみろ」
キュピル
「今から俺はロビソンにある一つの事を聞く。理由も何も聞かずにただ答えてくれ。
・・・シルクの隠し部屋って何だ?何処にあるんだ?」
ロビソン
「おい、その時点で二つ質問してるぞ」
キュピル
「・・・すまん」
ロビソン
「・・・・・どこから知った。俺とティルとシルクしか知らない本当に秘密の部屋だと言うのに」
キュピル
「頼む。あまり訳を聞かないでくれ。・・・何処にある?」

・・・俺の運命とやらを変える場所はその部屋にあるらしい。
作者から聞いたと言えば間違いなくロビソンは機嫌を損ねるだろう。
作者とロビソンは犬猿の仲だ。

ロビソン
「・・・・」
キュピル
「・・・・・」
ロビソン
「・・・キュピル。お前のその眼。・・・・若いころのシルクと同じ目をしている」
キュピル
「・・・シルクと同じ目?」
ロビソン
「そうだ。・・・あいつがまだ18の頃。そりゃもう誰が何を言ったって言う事を聞かなかった。
ただ自分が信じる道を突き進み孤高の道へと登って行った。あいつも34になってやっと人の言う事を
聞くようになってきたけどな。・・・異例の若さで人外の力を身につけたアイツの目と今のお前の目はそっくりだ。
ある時アイツ、お前と同じ事を言ってきた。『頼む、今から俺の言うことを黙って聞いて従ってくれ』ってな。」
キュピル
「・・・・・・・」

熱心にその話を聞く。
・・・自分の師匠の話はいつも真面目に聞く。

ロビソン
「・・・いいぜ、教えてやる。・・・あいつの秘密の部屋は城下町ギルドを北へ出て
20Km、進んだ所に小さな洞窟があるその洞窟に入って最初の分岐点で右に進め。
そして二番目の分岐点で更に右に進んだ先の行き止まりの壁に三回ノックしろ。
その後壁に張り付いて更に六回ノックするんだ。・・・そうすればあいつの秘密の部屋に入れる」
キュピル
「・・・相当厳重だ。確かに話を聞かなければ絶対に分らない」
ロビソン
「ついでに言っておくが秘密の部屋にシルクは居ないぞ。探してるんだったら諦めろ」
キュピル
「いや、違う。・・・何にせよありがとう。」
ロビソン
「ん、別に大したことは言ってない。・・・何をしようとしてるのか分らないが一つ、俺からアドバイスするとするなら
お前も自分の信じた道を突き進め。それでアイツも成功したんだ、絶対損にはならねぇよ。」
キュピル
「・・・おう、俺の信じる道を何処までも突き進むぜ。それじゃロビソン。今日は久々に皆と話せて楽しかった。
おまけに奢ってもらっちゃったしな。ありがとう」
ロビソン
「あい」
キュピル
「そいじゃ俺もそろそろ寮に戻るよ。明日そのシルクの隠し部屋に行く。」
ロビソン
「頼むから言いふらすなよ。過去に言いふらした奴が居て場所をやむを得ず変える目にあったからな」
キュピル
「大丈夫。それじゃおやすみ」
ロビソン
「おう、おやすみ」

キュピルが酒場から出る。


キュピル
「おーっと・・・少し冷えるな・・・」

・・・明日から11月。もうすぐ冬が始まるな・・。











==翌日



午前六時。朝早く寮から出て街の外れへと行く。
・・・武器とバックパックを持って北へ向けて走り始めた。

キュピル
「(・・・・・)」

昨日ベッドの上で横になってひたすら考え事をしていた。


・・・・作者は言っていた。


・・・・シルクの秘密の部屋に行けばもう一つの運命を辿る事が出来ると・・・。
あの時、作者がもしも俺の目の前に現われなかったら当然俺はこの運命を辿ることはなかっただろう。

・・・つまりあいつはある種の気紛れで俺の運命を勝手に変えたってことだ。


それもせっかくの平和を捨てなければならないらしい。
・・・平和を謳歌する事・・・。それが俺の夢だった。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

俺は・・・何を考えているんだろう。









走って二時間程経過した。部屋から持ってきたボロボロの地図を確認する。
・・・ここであってるようだ。

キュピル
「・・・シルクの秘密の部屋」

・・・一度も入った事が無い。
お弟子さんだと言うのに、全く。

洞窟の中に入る。バックパックからランタンを取り出し火をつける。


・・・・500m程歩くと分かれ道が現れた。
ずっと右を選べばいいんだよな

右の方向へ進み・・・更に1Km歩くと再び分かれ道が現れた。
その分かれ道も右に進む。・・・しばらくカーブの続く道を通り・・そして行き止まりが現れた。

・・・・・。

まずは行き止まりの岩の壁に三回ノックする。
そして張り付き六回更にノックする。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ


キュピル
「・・・!」

行き止まりの壁が上に持ちあがり道が出来た。
・・・唖然としていると再び壁が下がって来たので慌てて奥に進んだ。
壁が完全に下がり再び行き止まりとなった。

・・・・意外とハイテクな洞窟だ。

奥には扉が一つある。
その扉を開け中に入る。







==シルクの秘密の部屋


キュピル
「暗いな」



小さな空洞の中に家具がある程度だった。
想像していたのとは違い別の言い方をすれば小部屋っという形だった。
・・・ここに一体何があると言うのだろうか。

手始めに棚からファイルを取り出す。・・・・沢山の事が書かれているが
殆どクエストに関する書類で役に立つ情報は全く書かれていない。
別のファイルを取り出し調べてみるがこれも同じくクエストに関する事で有益な情報は何一つない。

・・・・・・・。

キュピル
「・・・・隅から隅まで探す」

・・・・。

棚には特に重要そうな物は見当たらない。
それなら次は机だ。

部屋の隅にある机へ向かう。机の上にランタンを置く。
・・・写真立てがある。

11歳の頃の俺とシルクとティル。そしてロビソンにルルアにトーロンが写っている。
・・・懐かしい、これはティルが自分の店を持って開店した時の記念写真だ。

・・・・・・・写真が少しぼやけている。もう九年も経つからな・・。
・・・・でも何でこの写真が飾られているんだろう・・・・。


机の引き出しを開けようとした。が、鍵がかかってる。

キュピル
「それならば」

再び針がねを取り出し鍵穴へ差し込む。
・・・・少し鍵の形が複雑だ。針がねの形を変えて解錠するのに必要なボタンを全て押していく。
全て押した後、鍵の形をさせた針がねを左へ回し解錠する。

ガチャ

キュピル
「よし」

机の引き出しを開ける。・・・ボロボロの手帳が一冊入っていた。
これは・・・見たことある。・・・茶色い革の手帳を持ったシルクの姿は今でも覚えている。
手帳を開き内容を確認する。

・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

カレンダーは去年と今年の物だ。
ということはこの場合は大分新しいほうだ。
・・・メモ書きされているページへ飛ぶ。


キュピル
「・・・これは・・?」


・・・・時空の歪みの事について書かれている。
何故こんな内容が・・?
手帳に気になる事がいくつか書かれていた。


『偶然、時空の歪みを見つけた。この時空の歪みは14年前の戦争の時に作られた物だとすぐに特定出来た。
恐らくこの時空の歪みに誰かが閉じ込められている可能性が高い。
時空の歪み。解除するには高位技術と高位マナを詰めた特殊な魔道石が必要。
が、必要な素材と魔力が全体的にこの地方では手に入らない物が多い。だが手に入らない事はない。
・・・とはいえど、皆と連絡のつかない場所にいかなければならない。』

・・・いかにもシルクらしい。
ティルみたいに文字に一切感情がこもっておらずただひたすらメモとして書いている。
内容から見てこれはミティアを閉じ込めている時空の歪みだと見ていいだろう。


次のページへ進む。

・・・。

『あの時空の歪みについて詳細な事がわかった。
高名な魔術師に頼んで分析した所、中にミティアが閉じ込められているらしい。
キュピルのために解除して奴が戻った時に驚かせてやろう。俺に不可能はない』


・・・どうやらシルクは途中でこの事について知ったらしい。
更にページを薦める。

・・・日付が大分飛んだ。10月1日・・・先月だ!!


『時間こそかかったものの今日、必要な材料が揃ったためティルに頼んで時空歪みの解除を試みた。
残念だが効果はあまりなかった。もっと専門的知識が必要らしい。
が、ティル曰く面白い事が起きたらしい。中途半端に時空の歪みが解除され現在
本来の空間と魔法に寄って捻じ曲げられた空間が半分合わさりあい強烈なマナを発し続けているらしい。
それを媒体にすることによってどうやら異次元へと続く扉を作りあげる事が出来るらしい。
上手くコントロール出来ればミティアを救出しつつここを異次元ワープポイントとして作りあげる事が
出来るかもしれない。そうすればキュピルの手助けをすることができるだろう』

・・・・・。

大分事は進んでいるみたいだな・・・。
まだ続きがある。


『気をつけなければいけない事が起きた。
中途半端な時空の歪みのせいで本来起きてはいけない現象が起き始めている。
異種のマナが溢れ始めた。下手すると意図せぬ物を勝手に異次元へ送り飛ばす可能性が現れ始めた。
何とか対策しなければならない』


・・・・。

キュピル
「・・・・・・・」

ひたすら頭の中で考えながら手帳を読み進めて行く。
そして次のページへめくる。
10月31日・・・・。

キュピル
「・・・!昨日シルクはここに来ていたのか」

とにかく早く続きを読もう。

『今日ティルと話しあい明後日、対策を講じることにした。もうこれ以上時を遊ばせる訳にはいかなくなった。
素人が見ても時空が異常に歪んでいる事が分かるほどまでに時空が膨張し始めた。
三日も過ぎればここを通った者は異次元へ飛ばされてしまう魔の空間へなってしまう。
そうすればミティアは当然異次元へ流され次第に他者をも巻き込み始めるだろう。
下手すればそのまま世界を飲みこみかねない。・・・残念だが専用魔法を用いてこの時空の歪みを
特殊解除することにする。この時空を自由に操ってキュピルに会いに行こうと思ったのに残念だ。
だが注意しなければならない。万が一この時空の歪みを正攻法で解除しようとする者が現れそれを実行した場合。
その時こそ異常な反応を示し異常な時空は破裂し間違いなくミティアは時間軸が大幅にずれた異次元へ
飛ばされるだろう。それだけじゃなくそのまま時空の歪みは膨張し世界すら飲みこむ可能性がある。

・・・とにかく。ティルが再度ここに来るまで俺はここに人が来ないように見張ることにする。一旦荷物を取りに
秘密のアジトへ戻る。』


そこから先は何も書かれていない。

キュピル
「ふーむ・・・・」

仮に俺がここで動かなかったとしてもシルクとティルがミティアを助け出してくれる。
いや、むしろ今俺が持っているこの石を投げつければミティアを
異次元へ飛ばしてしまうことになる。それどころか異常爆発(?)を起こしこの世界が危うくなる。
つまり何にしても救うのであれば俺はこのまま待機している方がいい。


・・・。

・・・・・・・・。


作者の意図がまだ分からない。ここに一体どんな真実があったと言うのだろうか。


ましてや一体俺とルイに何の関係があるのか。


正直ここに来た所でシルクがミティアを救ってくれるという事が分かっただけで
俺の運命を大きく変える要素が全く見当たらない。


・・・・・・・。

ということは俺はまだ重要な物を見つけていない?

・・・・・。


まだ探していない物がある。


今後ろに大きな宝箱がある。まだその中を調べていない。
箱を開けようとしたが鍵がかかっている。どうやら番号を入力しなければならないようだ。

・・・・。

くそ、番号なんて分かるはずがない。

・・・・試しにシルクの誕生日を入力してみる。

・・・・・・。

キュピル
「反応なし・・・だめか・・・」

とにかく手当たり次第入力するしかない。
誰かの誕生日・・・意味のありそうな番号・・・4649・・・5963。
ありがちな番号は全て入力したが全く反応しなかった。
最後に蹴り飛ばしてみたがビクともしなかった

キュピル
「くそ・・・。こいつは難しいな・・・。」


・・・・何故だ?

・・・・・何か俺焦っていないか?


・・・・別に制限時間があるわけでもないのに・・・。



何でもない時に焦りだした時。




いつもそこは運命の切り替えポイントだった。




キュピル
「・・・・・・・・・・・」



・・・・。そういえば・・・・。

以前ナルビクにまだ居た頃・・・。ジェスターに秘密のおやつを隠している金庫の番号を知られて
勝手に番号を変更された事があったな・・・。

あの時も相当手こずったけど結局ジェスターにとって密接な関係のある番号を入力したら開いてしまった。

・・・普通適当な乱数には設定しない。



ここに来て急に直感が研ぎ澄まされた。

とにかく・・・あのシルクの事だ。乱数は絶対ないはずだ。
何か意味のある物を数字にしているはずだ・・・・。

・・・・・・。その意味のある物とは何だ?


・・・・その時ハッと気がついた。

まだある物を入力していない。


さっきの机に戻り写真立てを手に取る。
・・・そして写真立ての中に入っている写真を抜き取り裏を確認する。年数と日付が書かれている。


557年 11/28。



キュピル
「・・・0557!!」

宝箱に番号を入力する。が、弾かれてしまった。


キュピル
「それなら1128!!」


高速で入力する。ところがまた弾かれてしまった。
・・・・違ったのか・・・?


・・・いや、絶対にこの番号が関係あるはずだ・・・!
九年も昔の写真を飾っている。シルクはこの日に何かあったはずだ。
それはシルクのプライバシーだから俺は知るはずがない。だがその日に何かきっとあったはずだ。

ナルビクに居た頃。趣味でよくやっていた推測が今ここで再び生きはじめる。

・・・でももっと考えてみるんだ。
シルクはとにかくこういう秘密の事に関しては人一倍警戒している。
俺と同じく秘密は誰にも探られたくない。


・・・・だから単純な番号にはしない。



・・・この写真の裏にある数字が関係している、かつ単純な番号ではない。



それならば残された選択肢はただ一つ。
今番号が見えた。







キュピル
「四則演算」



0557+1128


1685



キュピル
「1685」





ガチャ


キュピル
「・・・!開いた!」

単純な足し算でよかった。
宝箱の蓋を開け中身を確認する。
・・・大きな鏡が一つだけ置いてある。これは・・・何だ?

取り出し確認する。

運命の鏡と書かれている。
運命の鏡・・・?

鏡を取り出し何が映し出されているか確認する。
・・・鏡なのに自分の姿が見えない。ただ真っ暗だ。

キュピル
「ぬぅ」



・・・・鏡をただひたすらじっと見つめる。

・・・何かが出てきた。

・・・・鏡にミティアが現れた。
・・・懐かしい。そう・・・。青い髪・・に青い目・・・・。



青い・・髪・・・


青い・・・目・・・?



キュピル
「・・・・・・・」



鏡の中に映し出されたミティアの姿に変化が現れた。
・・・・徐々に大きくなっている。・・・正確には成長している。
一年を一秒で表しているようだ。

・・・・・ドンドン、ミティアが大きくなっていく。へぇー、未来のミティアはこういう姿を・・・。






キュピル
「・・・・・・!!!!!!!!!!」





見知った顔になった。

そう、それは紛れもない。絶対に忘れるはずのない人物。







ミティアがルイになった。






子供のミティアが成長し、大人になったその姿はどこからどう見てもルイだった。






持っていた鏡を思わず落としてしまった。

・・・慌てて箱の中に落ちた鏡をもう一度拾い上げる。


もう何も映し出されていない。







全てが分かった。



作者の言った意味もようやく分かった。








荷物をまとめカンテラを持ちシルクの隠し部屋から飛び出した。
行き止まりの壁の近くに赤いボタンを見つけ押す。行き止まりの壁が再び上に持ちあがった。

そしてミティアが閉じ込められている時空の歪みへと走り始めた。



ここから走って二日かかる。


だが二日じゃだめだ。





一日で間に合わせる。







危険な山岳地帯を走り続ける。
だがここは小さいころから何度も通っている。ヘマは絶対にしない。
もはや突起と言える足場を走って通りぬけてゆく。通るたびに小石が崖へ落ちて行く。


キュピル
「はぁ・・はぁ・・・」

これ以上ないぐらいの速度で走り続ける。
もうちょっとだ・・もうちょっとで辿りつく・・・・。


・・・・・まさか。


ミティアが・・・・。




今の状況を一言で言うなら本当にこれしか出てこない。


これはもう運命だったんだと・・・。




小さい頃、俺とミティアは婚約した。


そして時空を超えたその先でも


ルイは俺に告白し、そして今の俺はルイを迎えたい気持ちでいる。



これを運命と言わずにして何と言う。






だが俺が本当に好きになったのはルイの方だ。ミティアではなくルイだ。
・・・ジェスターの事も知り、ファンの事も知り


そして一緒に過ごし、一緒に時を過ごした



あの世界の住人となったルイの事が好きだ。





そのルイに会うためには



異常な時空の歪みへこのギーンから貰った時空解除の石を投げつけ




シルク達がミティア・・・いや、ルイを救出するのを阻止し




意図的にルイを異次元へ飛ばす。





その異次元の行き先はもう分かっている。







アノマラド大陸が存在するあの世界のどこかだ。






シルクの手帳に書いてあった。

『万が一この時空の歪みを正攻法で解除しようとする者が現れそれを実行した場合。
その時こそ異常な反応を示し異常な時空は破裂し間違いなくミティアは時間軸が大幅にずれた異次元へ
飛ばされるだろう』

っと。





そう。


ルイは本来この世界の住人だった。



小さい頃、俺とルイは戦争に巻き込まれルイは俺を助けて時空の歪みに閉じ込められた。


・・・それから長い年月が経ち


俺はアノマラド大陸へと飛ばされた。


そこで更に数年が経過したある時。
俺はルイと出会った。


時空の歪みに閉じ込められているはずのルイが何故その世界にいた?


それはこれから起こる未来の行動を表している。


・・・俺はこの世界へ再び戻った。



そして今。俺はギーンから貰ったこの時空解除の石を投げつけようとしている。


石を投げつけられ異常な解除を起こした時空の歪みは閉じ込めていたルイを異次元へ送り飛ばす。


この時、大幅に時間軸のずれた異次元へ飛ばされてしまい過去のアノマラドの世界へと飛ばされてしまう。



・・・そこでルイは成長し




俺とルイは出会った。





・・・・しかし・・。


ルイは元いた世界の事を覚えていないのだろうか?


・・・。




キュピル
「うわっ!」

足を踏み外し深い崖に転落しそうになった。慌てて崖に掴まる。・・・もういい、
考えるのを全てやめる。・・・とにかく、今は一刻も早くルイを異次元へ飛ばす。

すぐに這いあがり再び絶壁を走り始めた。







この世界へやってきてついに三日目を迎えた。


一切休憩せず城下町ギルドから200Km程離れている山岳地帯へひたすら走りぬけて行く。


何も考えずに。



ただ無心に。



走り続けた。













==時空の歪んだ山岳地帯


強いマナを感じた。
この辺だ・・・!

特に左から強いマナの波動を感じた。
すぐにマナの感じる場所へ移動しようとしたその時。


キュピル
「・・・・・!」

何かが降って来た。慌てて横へ回避する。回避した場所に巨剣が突き刺さった。
古代文字が彫られており、そして鎖が何重にも巻きつけられた特徴のあるこの巨剣・・・。間違いない。


『この先は通行止めだぜ。悪い事は言わない。帰っておけ』

キュピル
「シルク!!!俺だ!!キュピルだ!!」

すぐに岩場からシルクの頭が出てきた。そして俺の姿を確認しシルクが飛び降りてきた。

シルク
「キュピル!キュピルか!お前いつ戻って来たんだよ!戻ってきてたなら連絡しろってな!」
キュピル
「肝心のシルクが音信不通状態になっていたくせに!」
シルク
「音信不通?ロビソンから聞いてここに来たんじゃないのか?」
キュピル
「・・・?ロビソンはもう1年の間シルクは帰ってきてないって言っていたけど」
シルク
「・・・あの野郎。まさかポスト見てないとか言わねぇーよな・・・・。」

・・・それはあまり考えられない。
何か他に原因があったと思うが・・・。
だが今そんな事を考えても仕方ない


シルク
「とにかく悪かった。・・・だがそれならキュピル。・・・何故ここに?」
キュピル
「シルク。・・・・ちょっとそっちに立っててくれないか?」
シルク
「・・・・・」

シルクが壁によりかかる。
そしてキュピルは改めて左へ向き直る。

・・・・目の前に巨大な時空の歪みが存在していた。
マナが集約しボール型に膨らんでいた。そこから様々な物質が暴発していた。
雷・・火・・・闇・・・光・・・。それらが混ざりあい時々爆発を起こしていた。

キュピル
「・・・・・」

キュピルが時空の歪みに近づく。
シルクの片方の眉が上がる。

シルク
「キュピル。近づくな。危険だ」
キュピル
「シルク。・・・戦争ってどうして起きると思う?」
シルク
「戦争が起きる原因は簡単だ。・・・たった一人の誤った行動が戦争に繋がったケースが非常に多い。
それも私欲や名誉、見栄に走った戦争がな」
キュピル
「そう。そして俺はいつか戦争が全て無くなる日が存在すると信じて戦ってきた。
・・・・本当に無くなったのかどうかは分らない。だけどこっちの世界に戻って・・・俺はやっと
平和を手にした。・・・だけど」

キュピルが更に一歩前に踏み出した。

・・・今俺がやろうとしている事は全て理解している。


ポケットからギーンから貰った魔法石を取り出す。
それをシルクは見逃さなかった。

シルク
「・・・・キュピル。その魔法石は何だ」
キュピル
「シルク、俺を憎め!・・・たった一人の女性の優しさに惚れて俺はそれを求めるがゆえに世界を壊す!!!」
シルク
「・・・!!!」

キュピルの中で何かのタガが外れた。魔法石を時空の歪みに投げつける体勢に入った。
シルクが巨剣を投げつけ魔法石を破壊しようとした。
だが目の前に作者が現れ巨剣を弾き飛ばした。

シルク
「・・・!作者!!」
作者
「いいぞ!!実に良い!!!かつて世界を救おうと立ちあがった男が居た!!
だがたった一人の女に惚れたがゆえに今その男は世界を壊す存在となった!!
これほど数奇な人生を持つ者に出会えた事を私は嬉しく思うぞ!!」
シルク
「キュピル!!!!!!!」

シルクが身を投げ出し作者目掛けて突進した。
作者から強烈な魔法の光を発したがシルクは普通に突進し作者を壁に叩きつけた。

作者
「なにっ・・・私の魔法を潜り抜けただと・・!?」
シルク
「やめろ、キュピル!!」

キュピルが投げようとした瞬間にシルクがタックルして何とか阻止する。すぐにキュピルが起き上がる。
そして振り返った瞬間、シルクの拳がキュピル目掛けて飛んできた!
だがシルクの腕を掴み腕を曲げてはいけない方向へ思いっきり曲げ腕の骨を折る。
しかしシルクがすぐにもう片方の腕でキュピルの頭を殴りつけた。キュピルが地面に吹き飛び転がる。

シルク
「キュピル!今この時空の歪みは正攻法で解除すると異常爆発を起こす!そうしたら
この世界は消えてなくなる可能性がある!知らなかったなら今すぐその魔法石を捨てろ!」
作者
「シルクよ。キュピルはもう何もかも知っている。お前の手帳を読みそして
私がお前に渡した運命の鏡を見、何もかも知っていてやっている!
彼はもうお前の知っているキュピルではない!異常経験を積み過ぎたゆえにたった一つの優しさに
全てを壊された可哀相な人物だ!!!」
シルク
「おい、作者・・・!お前・・・この世界が壊れても良いと言うのか!?お前の楽しみは全て消えるぞ!」
ティル
「シルク!」

その時ティルがやってきた。大量の魔法道具を抱えている。

ティル
「・・作者・・!何で作者がここに・・!?・・それに・・・あれは・・キュピル・・!?
何でキュピルがこっちの世界に来てるの!?」
キュピル
「・・・・?ティル・・?・・・今の台詞。どういう意味だ?ティルが俺にこっちの世界へ飛ばす魔道石を
渡してくれたじゃないか。それどころか手紙でやりとりを・・・」

その時、一昨日ロビソンが言っていた台詞を思い出した。


『つーか、どうやって帰って来たんだよ!』


ティル
「え?私そんな手紙・・・・」
キュピル
「・・・どういう・・・・ことだ?」
作者
「キュピルを呼んだのは私だ。そしてキュピルをアノマラド大陸へ送り込むよう仕組んだのも私だ。
キュピル
「・・・・・!!!」
シルク
「なにっ・・・!!」
作者
「シルクよ!さっきお前は言ったな!この世界が消滅すれば私の楽しみが消えてなくなると!


良いか!



この世界を作ったのはこの私だ!



ティル
「・・・・どういうこと」
キュピル
「・・・・・・・・」
シルク
「・・・作者。前々からお前は敵の予感しかしなかった。だが確信が持てなかった。
・・・が、今ここでついに化けの皮を剥がしたな!」
作者
「この世界に人が存在するのも、この世界に自然があるのも、この世界に太陽があるのも!!
全てこの私が作った物だ!私は作者だ!全てを作りあげし者!!そしてシルク!
私の楽しみは数奇な人生を持つ者を作りあげその者の狂気と化した人生を遠くから眺めるのが私の楽しみだ!
特にシルク、ティル、ルルア、キュピル!
お前等は私の中でも最高傑作だった!通常の人間では味わうことのない人生を味わい
それが自分の人生だと思いこみながら戦い、そして最高の異常経験を積んで行った!
そしていつしか、誰かが自分の傍にいるとその者すら人生が狂い始めると思いこみはじめる!」

キュピルが立ち上がる。

キュピル
「・・・そんな・・・。・・・ということは・・・。・・・俺が飛んだあのアノマラド大陸も・・お前が作ったと言うのか・・?」
作者
「・・・いや、あの世界は違う。元から存在する独自の世界だ。私が作った物ではない」
シルク
「キュピル!こいつの言う事を信じるな!まやかしだ!!
世界を作れるはずがない!」
キュピル
「作者・・一体どういうことだ・・!」
作者
「キュピル。お前は私が作った存在だ。無から様々な物質を取り入れ人という形成を作りだした。
お前は覚えていないはずだ。自分の過去の出来事を。物ごころがついたころからお前は戦争に巻き込まれていた。
答えられるか!?自分の親の事を!」
キュピル
「いや・・まて・・!根拠がない!!」
シルク
「そうだ!!そんなデタラメに騙されるな、キュピル!」
作者
「デタラメ!私の言う事がデタラメだと言うか!では聞こうキュピル!
お前がアノマラド大陸で危機に面した時!絶望的な状況に会い一般人なら確実に死に直面する場面で
お前はどうなった!」

走馬灯のようにキュピルの脳裏で様々な記憶がフラッシュバックした。

作者
「お前は人とは思えない力を発しその危機を乗り越えた!!!
今回の戦争でもそうだ!お前がジェロスと戦った時、突然覚醒したのは偶然だと思っているのか!?
黒い渦に飲み込まれそうになった時、アーティファクトと一緒に共鳴したのは偶然だと思っているのか!?
否!それは私がお前を生かしたからだ!ここで死なれては最高のショーが見れなくなってしまうからな!!!」
キュピル
「いや・・あれは・・!」
作者
「あれは、とは?自分の実力だったと言いたいのか!?」

キュピルが黙ってしまった。・・・確かに、考えてみれば突然力が湧きだしてきたあの現象は・・・
ハッキリ言っておかしい・・・・

作者
「キュピルよ・・・。お前は私の作った台の上でただひたすら踊っていただけなのだ。」
キュピル
「いいや・・違う・・!第一!アノマラドで起きた戦争は・・・」
作者
「あれも私が起こしたのだよ!!」



キュピルの表情が一気に険しくなった。




キュピル
「嘘だ!!あれは校長・・前トラバチェス首相が起こした戦争だ!!」
作者
「いいや、私が起こした戦争だ!この姿を見るがいい」

作者が首を上げ初めて目元まで深く被ったシルクハットを外した。素顔が初めて晒された。

キュピル
「・・・・・!!!!!」
作者
「見覚えがあるかね?」
キュピル
「こ・・校長・・・!!?」

・・・紛れもなくその姿は校長・・前トラバチェス首相だった。
キュピルが後ろに後ずさりし石に躓いて尻餅をつく。

キュピル
「ま、まて・・!!校長は狂気化したルイの手によって・・・」
作者
「おぉ、あれは痛かったぞ。突然体が液状化したのだからな・・・。流石、私の作ったウィルスなだけはある・・。
そうだ、ジェロスでお前と戦った時。あの時も良い感じに追い詰めてくれたな?あれも痛かったぞ・・・」

作者が校長と同じ声質で喋る。
そしてポケットから一本の試験管を取り出した。・・・見覚えがある。

作者
「試しにもう一度、飲んでみるか?」

作者が目の前に突然テレポートしキュピルの首を掴んだ。

キュピル
「や、やめろ!!離せ!!!助けてくれ、シルク!!」
シルク
「くそっ、何をしようとしてるのか分らないが嫌な予感しかしないぜ!!」

シルクが高速で作者に接近する。
一瞬バリアのような物が見えたが普通に通りぬけ作者に攻撃した。
が、すぐにテレポートで逃げられた。

作者
「私は自由自在に存在を作りかえる事が出来る!」

作者がキュピルに狂気化の薬を飲ませる。その直後、強烈な吐き気に襲われ
体が急に発熱しだした。

キュピル
「い・・・嫌だ・・・!!!!ま・・・た・・・こんな・・・!!!」
作者
「言ったはずだ。私は自由自在に存在を作りかえる事が出来ると!」

作者がキュピルに魔法を一発飛ばす。その魔法弾に当たった瞬間突然狂気化が治った。
苦しみから解放されたが強烈な恐怖と屈服感に襲われた。
キュピルが後ろに下がりながら答えた。

キュピル
「ほ、本当に・・・本当に作者・・お前が俺の人生を全部そうなるように
仕組んで・・いたのか・・・!?」
作者
「そうだとも・・・。・・・どうだ?この20年間・・。お前は何回戦争に巻き込まれた?
何回有り得ない出来事に遭遇した?何回お前は人を殺した!?キュピル、お前はもう人ではない!!」
キュピル
「・・・・・。俺の人生は・・・・作者が全て決めていた?そうなるように全て仕組んでいた・・・?」

キュピルが同じ言葉をひたすら連呼する。

作者
「その通りだ。・・お前はミティアと婚約し、幼少時代から数々の戦争へ巻き込まれそして
アノマラド大陸へ飛ばされ、そこでも数々の戦争に巻き込まれ・・・温もり、優しさを一切知らずに育った!
いや、知らないつもりで育った!!
キュピル
「・・・ミティアは・・・いや、ルイは・・・・。ルイも・・・お前が作った人間・・・?
ってことは・・・ルイが俺に優しくしてくれたのも・・・お前がただ・・・そうさせた・・だけ・・・?」
シルク
「ティル!キュピルを気絶させろ!作者の奴!!どさくさに紛れこんで催眠術をかけているぞ!!」
ティル
「わかった!」

ティルが魔法石を構え雷魔法を唱え始めた。

キュピル
「・・・俺は・・・。・・・俺の人生はこの後・・・どうなるんだ?・・俺は・・どうすれば・・いいんだ?
一体何に・・すがりつけばいいんだ・・・?」
作者
「お前は私の最高傑作の一つだ。死なすには惜しい。それは勿論シルク、ティル、ルルアも同然だ。
キュピル。お前はあの歪んだ時空にその石を投げればいい。
またアノマラド大陸へ戻る事が出来るぞ」
キュピル
「・・・・俺の・・人生・・・。・・・全部自分で選んだつもりだった・・・。
・・・だけど作者がそうするように・・・仕向けていたのか・・・?
俺は・・選んだ・・つもり?」
作者
「そうだ、お前は選んだつもりになっていた!」

ティルの雷魔法が飛んできた。
だが作者が弾き飛ばした。

キュピル
「・・・・・・・・・」
作者
「これから先の人生も・・全て私が良いように作ろう。存分に私を楽しませてくれ・・。」








突然知った秘密と真実





全部自分の人生だから。



そう思っていた。


自分の人生だから割り切って生きて行けた。



そんな人生にルイがやってきて



ルイの優しさを知って好きになって





だけど俺の人生は全部作者がそうなるように仕組んでいた。


俺がその道を選ぶようにあいつが仕組んでいた。




じゃぁ・・・。



ルイに会えたのも・・・ルイがアノマラド大陸へ来たのも・・・




全部あいつが?





・・・この世界を作ったのも作者・・・




そしてその世界の住民でもあったルイも・・・・







作者が作った存在。






なら・・・




ルイが俺に優しくしてくれていたのも・・・



俺がルイの事を好きになってしまったのも




全部作者が?





俺は作者を楽しませるためのただの操り人形だったってこと?






なんだこれ






そう思った瞬間、急に心に強烈な負荷がかかった。








キュピル
「・・・・・・・・・・・。ハハハハ・・・・。」
シルク
「・・・キュピル!」
キュピル
「ハッハハハハハハハハハ!!!!!!
何か吹っ切れちまった!!!
結局自分で考えて決めた事って・・・こいつが全部そうなるように仕向けていただけなのか!
俺はただの操り人形だったってこと。ただ作者を愉快にさせるための一つの娯楽。
なら俺は何を考えたって無駄じゃないか!!
もうどうすればいいのかわからない・・・!!!」

気がつけばキュピルの目からボロボロと涙が溢れてきた。
急に自分が小さく、そして無力に感じられた。


ただ鳥籠に閉じ込められて


そこで数奇な人生という名前の餌をずっとつまんで籠の中から作られた世界を見ていただけ。





もうどうでもいい。





今となって俺の持つ信念や理念などは何の意味も持たない事が分かった。






俺ですら作られた存在。





作者
「強烈な精神力を持つ者の崩壊!!理性は失い精神崩壊したその姿!!
美しいとは思わないか!?最高だ!!」

作者も高々と笑いはじめる。

ティル
「シルク。・・・もうキュピルはダメみたい。・・・私より数十倍以上、通常ではありえない人生を
送ってきていたみたい。」
シルク
「当たり前だ。・・・俺の目から見てもあいつの人生は狂ってると思えたぐらいだ」
キュピル
「もういい・・・!もういい・・・!!!ハッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

キュピルの目から光が消え完全に精神が崩壊し始めた。

シルク
「キュピル!!お前は本当に作者に自分の人生を決められていたと思っているのか!?」
作者
「当然だ!実際に私がそうなるように仕向けたのだからな!」
シルク
「だったら作者!!お前はこの後俺をどうする気だ!!」
作者
「さぁな?少なくともお前も私の最高傑作の一つだ。お前の行く先をまだまだ見てみたいぞ」
シルク
「キュピル!・・・俺を見ろ!!!」

シルクがキュピルに近づきキュピルの腕を掴む。そしてキュピルの手にナイフを握らせ
シルクの首に刃を当てさせる。

キュピル
「シルク?どうした?作られた人生に耐えられなくなって死にたくなっちゃったか?
無理だよ、シルク。きっと死のうとしたって作者がさせない。」
シルク
「キュピル!お前はいつから作者に対して従順になった!!違うだろ!!
目を覚ませ!そして前を見ろ!今こそ自分で自分の人生を決める時だろうが!!!
作者に与えられたロールプレイをただこなすつもりか!?嫌だと思うなら逆らってみろよ!!
ロールプレイから抜け出して自分の道を作ってみろよ!!!」
キュピル
「無理だ!!自分で作ったと思った道があいつの作った道だったんだ!!!
もうどこへ行っても無駄だ・・!・・・俺はもう作者の操り人形なんだよ・・!」

作者が遠くから二人を見てニヤニヤ笑っている。

キュピル
「もう・・・わからない・・・この世界は作者が作ったんだろ・・・・。
・・・・だったら何を見ればいいんだよ・・・・。結局俺が選んだ道って既に作者が先回りしてるに
決まってる・・・!どうせ・・・どうせ作者の作ったシナリオに沿っちまうんだったら・・・もう・・・俺は・・・!!!」



酷く怯えている。
・・・・キュピルの末路。



それは余りにも悲惨なもの。





シルク
「・・・お前の言うアノマラド大陸へ戻れ!」
キュピル
「・・・・・・」
シルク
「そこは作者が作った世界じゃない!ということはそこにいる人!自然!全てが勝手に出来あがっていった物だ!
キュピル、久々にお前がこの世界にやってきて俺は凄く嬉しかった。だがお前はこっちの世界に居てはいけない!
早くこの魔法石を持ってあの歪んだ時空に突っ込め!!」
作者
「ほぉ、シルク。私の変わりに言ってくれるとは嬉しいぞ。さぁキュピル。
魔法石を持ってあの時空に飛び込むが良い。ルイが待っているぞ」
キュピル
「ルイ・・・・。・・・・ルイ・・・?・・・・ルイ・・・は・・。・・・この世界の住人・・・。
・・・この世界の住人?・・・・ってことは・・・ルイが俺をコントロールして結局俺は・・?」

キュピルが晒した絶大な隙をシルクが突いた。
キュピルの持っていた魔法石を奪い取り叩き割ろうとした。

作者
「・・・!貴様!!させるか!!」

作者がシルクの目の前に現れ片手でシルクを遠くに突き飛ばした。だが空中で体勢を整え
地面に着地した。

シルク
「キュピル!!!その魔法石をお前の手で叩き割れ!!!今の作者の言葉を聞いただろ!!
奴の考えたシナリオはお前が魔法石を持って時空の歪みに突撃しこの世界を終わらせる事だった!
だが今俺が魔法石を叩き割ろうとして作者は妨害した!!
今お前がそこで魔法石を叩き割ることに成功したらそれはお前が作者の操り人形ではなかったっていうことが
証明されるぞ!!証明されれはお前の今まで歩んできた人生は全て作者が仕組んだ人生ではなかった
っていう意味にもなる!!割れ!!!キュピル!!!!!!」

キュピルが落ちてる魔法石を拾った。

作者
「キュピルよ!その魔法石を叩き割る気か!?出来るものならやってみるがいい!!
だがどちらの道を選んでもお前は私の操り人形だということに変わりはない!修正はいくらでも効く!!」
ティル
「何焦っちゃってるのよ、作者!!動揺が見え見えよ!」

ティルが強烈な魔法を唱え作者にぶっ放す。
作者が腕を振って魔法を弾く。



・・・・


・・・・・・・・・・・



俺の人生





・・・示したい






俺が自分の意思でこの道を選んだと








示したい














キュピル
「俺は・・・・!!俺はあああああああああああああああーーーーーーーーー!!!!!!!!






キュピルが思いっきり叫びながら魔法石を地面に向けて叩き落とした。
その直後作者がキュピルの目の前に現れ阻止しようとした。
だが作者の腕にシルクが鎖が巻きついていた。

シルク
「やらせねーよ!!」
作者
「こいつ・・!我が意思に反して何故このようなことができる!!」
シルク
「誰にとんな事を言われたって俺は全て自分の意思で決めてきた!!
何があろうと俺は屈しないってティルと誓った!!!」
作者
「こやつ・・!私の知らぬ所で!!」





その直後。魔法石は地面に落ちた。


ギーンから貰った時空の歪みを解除する魔法石が粉々に割れその効力を失った。

割れた瞬間。



自分の思い出も全て割れた気がした。



キュピル
「・・・・・・」
作者
「ちっ!まずはシルク、貴様を我が手中に収めるべきだったか!」
シルク
「飼い犬に手をかまれるとはこういうことを言うんだよ!」
作者
「小癪な!」

作者が鎖を謎の力で切断しキュピルの首を掴んだ。

キュピル
「・・・・・・」

何の抵抗もしない。・・・・・・。

作者
「・・・シルクのせいで計画にズレが生じた。この世界を今終わらせる予定だったがそれは延期せねばならない。
とにかく・・せめて私に従順なキュピルとルルアを残しておくとしよう・・・。貴様等には少し力を与えすぎたようだ。
キュピル!また会うその時までゆっくりと自分の役割を見つめ直すがいい!」
シルク
「やらせるか!!」

シルクが瞬間的に作者の前に立ち巨剣で切り刻もうとした。
だが作者がシルクに息を吹きかける。作者の吹いた息が毒へと変わりシルクに直撃した。
目に入りこみ突然の激痛にシルクがその場で倒れ悶える。

シルク
「ぐわ!くそ、作者め!」
作者
「さらばだ、キュピル!」

作者がキュピルを時空の歪みに放り投げた。
そして時空の狭間へ閉じ込められた。
その直後。時空の歪みが爆発し時空の歪みは消えた。






キュピルとミティアは異次元へ飛ばされた

























長い長い人生だった。


でもその長い人生は全て作者がそうなるように仕組んだものだった。


俺は作られた人間。


作者を楽しませるための人間。



俺はただの操り人形。








最終回へ続く



最終回



長い長い人生だった。


でもその長い人生は全て作者がそうなるように仕組んだものだった。


俺は作られた人間。


作者を楽しませるための人間。



俺はただの操り人形。







・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





キュピル
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



寒い。


・・・・。


ゆっくり目を開ける。


・・・・ここは・・・・どこだろう。





ゆっくりと上体を起こし周りを見る。
・・・・ここは・・・・どこだろう・・・。

・・・全く知らなさそうな場所ではなさそうだが・・。


・・・でも全く分らない。



・・・・・・・。



記憶の後を辿る。



・・・・。


キュピル
「・・・・・・・・・・」

感情が湧いてこない。
とりあえず一旦立ち上がる。

・・・・大地が枯れている。

キュピル
「・・・・・・・・」

・・・立ってみて少し気付いた事がある。

・・・・・・・・・ここは・・・クライデン平原・・・?


・・・クライデン平原1で間違いないようだ・・・。


だけどおかしい。


何でこんなにも木々が枯れかけているのだろうか?


ナルビクのある場所へと足を進めて行く。



・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



キュピル
「・・・・・・・・・」

・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ナルビクの入口へと辿りついた。
・・・・入口となる門はボロボロになっていた。
レンガは崩れ、街を守る壁の殆どが無くなっていた。

ここは本当にナルビクなのだろうか?

崩れたレンガの上を通りナルビクへと入る。
誰も居なく、船などは全て無くなっていた。
・・・・・コンクリートは剥がれ土が一部むき出しになっており
建物や民家の殆どは壊れており外から部屋の様子が丸見えになっていた。

壊れた巨大な建物の中へと入る。
・・・朽ちた椅子や机が並べられていた。

キュピル
「・・・・・・」

・・・・近づいてみることによって建物や壊れた机などを見て老朽化による損傷だという事がわかった。
恐らくこの建物は相当昔に建てられたものだろう。
カウンターと思われる場所に黒い布を纏った人・・・いや、骨があった。
近づき触れるとそのまま風化してしまいなくなってしまった。
・・・擦れた文字でカウンターに何か書かれてあった。

【ベク・・ル】


キュピル
「・・・・・・」


何も考えずに外に出る
その時今何かが見えた。


『また遅刻して。君は絶対に僕の言う事聞こうとしないね』
『へっ、たかが10分遅れた所で何の問題ないだろ。どうせ今日も簡単な仕事しかねーんだ』
『・・・馬鹿』
『国王が直々に依頼を出してきた。早く来た方がよかったと思うぜ?』
『おい!それを何で早く言わなかったんだ!!そういうのは金が貯まるんだよ!!』

・・・亡霊のような何かが何処かへ走り去り消えて行った。

・・・・・・・・・・。


ナルビクのような街を再び歩く。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

中央にやってきた。
・・・・羽のついたモニュメントがあった。
だが右翼は折れ、このモニュメントからは何の力も感じられない。

・・・限られた人のみ。
気絶した時このモニュメントの前に緊急離脱する事が出来た。

何かの手続きや取引をするのではなく

特定の人物にのみ発動した。

・・・・何故か説明が頭に思い浮かんだ。



キュピル
「・・・・・・・・」

・・・・。

このモニュメントの近くに。

見知った家があるはず。


再び歩きはじめる。

・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ボロボロではあるものの、原型が残っている建物に辿りついた。
・・・・ここは俺の家。


ドアを開ける。
・・・しかし建物が半分斜めってしまっているため、ドアがずれ開かなかった。
そのままドアを引っ張っているとドアは壊れてしまい穴が空いてしまった。
既に朽ちており中身がスカスカだったようだ。

・・・・。

中に入る。

・・・・・・錆びた台所。
脚の折れた椅子。
ボロボロのソファー。
画面の割れたテレビ。

・・・そして5つのドア。

・・・・・・。


何も考えずにソファーの上に座る。

ふいに口から一言が漏れた。


キュピル
「ただいま」

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

今何かが見えた。



『ただいま』
『おかえりです。・・・ところで、これ見てください』
『・・・なんだこれは。』
『・・・霊感が上がる水晶玉らしいです』
『・・・またか!ええい、この家をお化け屋敷にする気か』
『この水晶玉使って私占い師になるー!大儲けできるかな?』
『お客さんは絶対に限られると思いますよ。』


・・・・・スッとその何かは消えて行った。


・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

ソファーから立ちあがり一つ目のドアを潜る。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

倒れている棚。
穴の空いてしまった机と床。
・・・そして錆ついた武器と防具。

・・・・・。

机の下に枯れた花と手紙が置かれてあった。

文字がかすれていて全ての文字を読み取ることはできなさそうだ。
読める所だけでも読んでみる。。



「・・・ル・・・んへ。
・・・から・・・年・・・・した。今キュ・・・はど・・・いますか?
・・・黒・・渦・・・・思い・・・ます。私・・・・・省・・・・
でも・・・・。・・・・あ・・・・時。
・・・・叶・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・もし
あの時に戻れるのなら・・・」

最後の所だけは強く書いていたのかクッキリと跡が残っていた。

・・・。

・・・・・・・・・。

机の下に見た事のある武器が置かれていた。
・・・・これは・・・。

キュピル
「・・・・・・幽霊刀」

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

何も考えずに幽霊刀を手に取る。

・・・・・・・・。

霊感が急に強くなり見えない物が見えだした。
何かまたいる。

・・・・青い髪に青い瞳の女性。
恐竜のような見た目をしたオレンジ色の生き物。
そして白くて長い髪の小さな生き物・・・。

・・・・三人が同時に頭を下げる。その先には花束。
そして部屋から出て行った。後を追うが居なくなっていた。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

隣の部屋に入る。
・・・しかし屋根が崩れておりその部屋はもう何も残って居なかった。
・・・・・・ただ一つ。床にある物が落ちていた。

・・・・金属で出来た棍棒。


・・・・・。

一度拾い上げる。・・・・しかしすぐに置いた。


部屋から出て隣の部屋へ入る。

・・・・沢山の機械が置かれていた。
だが殆どの機械はもう壊れていて動かないようだ。

・・・・一つだけ光っている機械があった。

・・・・・近づくとそれはデジタル時計だった。


・・・太陽光発電で動く時計らしい。
日付を見る。


・・・・・・。


15420年11月12日



・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・その横に手紙が置いてあった。
・・・さっきの手紙と違いこっちは全ての文字を読み取ることができそうだ。


『キュピルさんへ

どうやら僕もついに寿命を迎える日がやってきてしまいました。
異次元からの帰りを待っていたのですが最後まで待つ事はできなさそうです。
・・・僕の変わりにこの機械がキュピルさんの帰りを待ってくれるはずです。
この機械なら理論上、永久に壊れる事はありません。
もし・・・帰って来られたのでしたら。

機械の上についている赤いボタンを押してください。
それでは

1420年11月12日』


・・・この手紙によると

これは1万4000年前に書かれた手紙らしい。
赤いボタンを押してみる。


『おかえりー!キュピルー!』
『おかえりです、キュピルさん』
『おかえりなさい!待っていましたよ、キュピルさん!』

・・・三人の声が流れた。
その後、一人ひとりのメッセージが流れ出したが
その途中、機械が誤動作を起こし最後に白く光って壊れてしまった。

・・・・もう一度赤いボタンを押すがもう一度メッセージが流れる事はなかった。
辛うじて時計だけは動いているようだが・・・消えてなくなるのも時間の問題だろう。

キュピル
「・・・・・」

何も考えずに今度は隣の部屋へ移動する。


・・・・隣の部屋もボロボロだった。
床にはたくさんの穴が空いており踏み外さないように気をつける必要があった。
・・・何かが見えた。

・・・・一人の女性が立っている。
・・・・何かに気付いたかのようにこっちに振り返って来た。
そしてキュピルに気付くとにっこり笑い、そして満足したのかそのまま消えて行った。

キュピル
「・・・・・・」

今居る部屋から出て残された最後の扉を潜る。

・・・・そこは別の建物に繋がっていたようだ。

カウンターがあり更にもう一つのドア・・・。
壁には擦れた文字と掛札。

『・ュ・ル 長期・・中』
『ジ・・タ 死・』
『・ァン ・籍中』
『ル・ ・亡』
『・・ ・期・・中』
『・・ミット 長・出・・』
『・月 死亡』
『・月 死亡』

そこから先はかすれていて何も見えない・・・。
・・・・。ここはクエストショップらしい。

キュピル
「・・・・・・・・」

何も思わない。
ただ無感情。


無意識に自分の名前が書かれた場所にある掛札を外し、別の掛札をかけた。


『・ュ・ル 在籍中』


その時何か声が聞こえた。


『・・・言ってしまうのだな?』
『俺はこの大陸一強いということを証明しに行く。・・・結局、一人勝てずじまいの人がいるが・・・』
『待てばきっと帰ってきますよ。ね、師匠?』
『うぬ。それはいつになるか分らぬが・・・奴は帰るじゃろうて』
『では帰ってきたら教えてください。その時、またこちらに寄ります』
『じゃあな』
『・・・・・・』


・・・・大きな武器を背負った二人がそのまま壁をすり抜けて消え居なくなってしまった。
残り二人の人もその場で薄れて消えてしまった。

・・・・・・。


もう一つの扉に向かい開けようとする。
・・・しかしこの建物も曲がっており扉がずれていて開かない。
そのまま引っ張ってるとドアノブが外れてしまい開かなくなってしまった。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

その時また声が聞こえた。


『帰って来たぞ。』


・・・・。

・・・・・・。

キュピル
「・・・・・・」


・・・・この家から出よう。
もう何もない。

キュピルが家を通って外に出る。
出た瞬間、家が崩れた。・・・その直後、小さな爆発が起きた。
恐らく時計が壊れたのだろう。

・・・・。

崩れた家から離れ別の所へと歩き出した。

・・・・少し歩くと街の隅へと辿りついたようだ。
隅にはたくさんのお墓があった。

どれも朽ち果てており墓石が欠けていたりした。

・・・・近づいてみる。

・・・殆どの文字がかすれていて読みとる事が出来ないがいくつかは辛うじて読む事ができそうだ。


『ルイ・・リ・・トラ・シー 1・・・〜・・74』

・・・その横に小さな墓がある。

『ジ・・ター 1・・・〜・1・9』

・・・・今誰かが居た気がした。



『・・・ご冥福をお祈りいたします』
『・・・なぁ、何で奴はここにいないんだ?普通あいつこそが一番ここに居なくちゃいけない人物だ』
『・・・仕方ありません。・・・帰って来ない者は』
『とうとう、死んじまったか・・・。・・・俺の生きがいがなくなっちまったな・・・。
・・・俺達は何を思って生きて来たんだろうな』
『・・・貴方にそんな言葉は似合いませんと思いますが』
『・・・確かにそうだな。ま、俺も歳だしな。そんな時間かからないとは思うけど。あいつの許可取れてないが
死んだら隣に埋めてくれ。』

・・誰か居た気がした。そして会話も聞こえた。
だけどそこには誰もいない。


・・・・その隣の墓を見る。


『・・A  1・・1〜・11・・』

・・・・また誰か居た気がする。


『・・・もう誰も僕の知っている人は居なくなってしまいました。
僕は人間と比べると長寿です。何百年か生きると聞いてますが・・・最近体が思うように動かなくなって
しまいました。・・・一人だと色々家事が大変だということをこの歳になって初めて知りました。
・・・ルイさん。ジェスターさん。・・・そっちにキュピルさんはいますか?』



・・・・。

そして目の前に。


『ファ・ 1・・9〜16・・』


・・・・。



『・・シミン・・クネ 11・・〜・・79』

『・・・・・・・ ・・・・・・・』

・・・残りの墓はかすれすぎていてもう何も読めない。


その場から離れる。


・・・・・・。



砂浜に向かう。

・・・・長い間、誰も人がこなかったせいか物凄く平らだった。

・・・・。今日は寒い。曇っているせいもあるだろう。


・・・・。


・・・・・・・・・・。


今誰かがまた居た気がした。



『・・・ふっ、私の勝ちじゃな?』
『弱い奴と戦って楽しいか?』
『・・・』

和服を着た女性が海を眺める。

『・・・私が強さだけを求めなくなったのは今から40年前だ。
あの頃はまだ奴がおったな・・・』
『・・・その頃と比べれば俺達は歳をとったな。実力は衰えてきている。』
『・・・そうじゃな。・・・じゃが歳を取れば取るほど磨きがかかるものもある。』

キュピル
『心』

そういうと二人は消えて行った。

・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


砂浜を歩く。

・・・・少し歩き疲れその場に座る。

・・・今誰かが隣に座っている気がする。
・・・一人や二人ではない・・・何か・・・。


・・・・・。


落ちつかない気分になりすぐに立ち上がり移動を始めた。



砂浜から離脱し一部土がむき出しになっているコンクリートの上を再び歩く。



・・・・。

・・・・・・・・・。


大きな城の形をした建物の前にやってきた。
だが中は崩れてしまっており入ることはできなさそうだ。

・・・壁には蔦が生えてきている。
恐らく触れたら建物自体が壊れてしまいそうだ・・・。

・・・・今目の前を誰かが走った気がした。



『おーい、皆ー!早く行こうよー!僕もう待ちくたびれちゃったよ!!』
『・・・急いでも良い事ないけど』
『ほら、お姉さんも!早く行きましょ?』
『ったく!何で二人はあんなに元気なんだろうね』


・・・丸い台座のある所に走って行きそして消えて行った・・・・。
その丸い台座の上に乗っかる。

・・・・

人が乗った事を検知し作動しようとする。

『イ・・・イイ・・・イキ・・サキ・・・サキ・・・を指定・・・指定してくだ・・・くださ・・・い』


そして目の前に街の名前が現れた。

ライディア・・・
クラド・・・
カウル・・・
ナルビク・・・

試しにライディアに触れる。
対象者をライディアに飛ばそうとしフル稼働するがもう何千年も使われていなかったため
そのまま爆発を起こしてしまい動かなくなった。・・・もう二度と動く事はないだろう。


ここは昔、沢山の人が利用したワープポイント。


キュピル
「・・・・・・・・・・」


・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。

さっき崩れてしまった建物にもう一度向かう。


・・・・崩れてしまった建物の近くにもう一つ。崩れた建物があった。
・・・この建物。

さっきこの家が崩れた時一緒に崩れてしまったようだ。


・・・・・また何かいる。



『・・・建てなおしましたね』
『・・・はい』
『・・・結局、帰ってくるのかわかりませんが・・・僕はいつか帰ってくるような気がします。』
『・・・』

・・・二人の姿が一瞬見えた。


・・・・二人とも歳をとっていた。






・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


強烈な虚無感に襲われる。


・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

この世界にはもう何もない。


人が居なくなってしまった世界。



・・・・何でそんな世界に今、俺は居るのだろう。


こんな街知らない。


・・・でも。


全て知らない訳でもない。




・・・・・・・。



キュピル
「・・・・・・・・・・・」

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

誰も。

誰もいないんだったら。



死のうかな。



虚無感に包まれているからこそ、そう思ってしまう。



幽霊刀を投げ捨てる。

そして愛用の剣を抜刀する。


・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


首に刃を当てる。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

キュピル
「・・・・・」

何でこんな世界に飛ばされたんだろう。

皆が居る世界に飛ばしてほしかった。



結局分かった事はただ一つ。


一人じゃどうしようもないくらい寂しくなって生きていけない事。


生きようという力も湧いてこない。





・・・・。

・・・・・・・・・・・。








死のう。




そう思った瞬間。後ろから何かが近づいて来た。




『キュピル。お主は私に言ったはずだ。人は二度死ぬと。
私等はまだ死んでおらぬぞ。・・・お主がこの世界の事を覚えておるからな。
もし、お主が今ここで死ぬと言うならば。

それはワシ等の二度目の死も意味する。・・・それを承知でやっておるのなら好きにすれば良い』


・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。


『私とファンさん、そしてギーンさんとテルミットさん・・・沢山の人に協力してもらいながら
私達の最後の【希望】を作りました。・・・その希望は・・・目の前にあります。』


・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。


持っていた剣を仕舞う。
・・・。


キュピル
「・・・・・・」


何も考えない。
・・・何の感情も湧きあがって来ない。

・・・・。

もう俺は壊れてしまっている・・・・。

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


再び立ちあがる。

・・・・



・・・・・。




壊れた家の瓦礫を撤去する。
木材や鉄筋などを全て端に起いたり投げつけたりする。
・・・・やっとの事で全て片付ける。

・・・ある部屋にあった機械を見つけた。

・・・・・・故障している。

どのボタンを押しても反応しない。

・・・・。

倒れた本棚を起こす。
・・・真新しい本が一冊だけあった。それを手に取り中身を開く。



『作られた世界の寿命は一般の世界と比べると短い。
神の気紛れによって作られた世界は次第に忘れられ、そしてその世界は無くなってしまう。
この世界も同じ。
誰かが作った世界。
それはこの世界だけじゃない。

全ての世界は作られている。
自然に作られた世界なんて何一つ存在しない。

神や強大な力を持つ者が作りだした世界。
神だっていつか飽きがくる。
だからいつか世界は全て消えてなくなってしまう。

だけど世界そのものが消えることはない。

・・・力を失った世界からは活力が消え
人も消え、マナも消え、動物も消え
そして全てがなくなる。

だけど世界は残る。

・・・・。

作られた世界はいずれ忘れられてゆく。
だけど世界そのものは残り続けて行く。

それは誰かに覚えられているから。

神や強大な力を持つ者がその世界の事を忘れた時。
その世界は完全な消滅を迎え無に帰る。

・・・神や強大な力を持つ者はは気紛れだ。
一度消滅させようと思った世界を何時までも覚えている事はない。

しかし神がその世界を忘れていても。
その世界を知る者、覚えている者がいる限りその世界は存在し続ける。
全ての者が忘れられた瞬間、その世界は無に帰る。

無に帰った瞬間。
固定概念は全て失われ思想や理念などは全て意味をなさなくなる。
生きた証、存在を全て否定されそのまま無に帰る。

人は無に帰るのを恐れた。
それは人だけではなく、植物、動物、建物。・・・そして世界も恐れた。
無に帰るのを恐れた結果、何を導き何を求めたか。

それは希望

この世界の事を記憶している限りその世界は残る。
それならばこの世界の事を永遠に記憶し続ける者が現ればいい。

そして世界は永遠に生き続け、永遠に記憶し続ける『者』を作りだした。

その『者』は全てを知る者。
・・・その『者』は永遠に生き続ける。

しかしその『者』は生き記憶し続けても
神が忘れればその世界は活力を失う。

人は消えて居なくなる。
動物は消えて居なくなる。
全て消えて居なくなる。

その『者』を残して消えて居なくなる。

そしてこの世界はたった一人を残して皆消えていなくなる。

その『者』は生き続ける・・・永遠に』



キュピル
「・・・・・・・」

・・・・。

・・・・・・・・・・・。


『その【者】の名は・・・


キュピル



幽霊刀を扱える者。





・・・・。

・・・・・・・・・・・。

そうだった。


この刀を持っている限り・・

俺は永遠に生きれるんだった。


・・・・。

キュピル
「・・・・キュピル・・か」

・・・この世界に来て今初めて感情が湧いた。

・・・その感情は「寂しい」だった。






・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




キュピル
「・・・・・・」

何故、俺はこの世界に飛ばされたのだろう。

何故、世界が忘れられたこの時代に飛んできたのだろう。


・・・何故・・・俺なんだろう。



・・・皆の事は覚えている。


覚えているだけ。




キュピル
「・・・・・・」


砂浜まで歩きそこで横になった。


眠ろう。



『・・・起きてる?』

キュピル
「・・・・・」

『あ、起きてる』


起き上がる。ジェスターがいる。・・・半透明だ。


『久しぶりー!何万年ぶり?』

キュピル
「・・・・・・」

下を向く。

『あれ?もしかして寂しい?』

頷く。

『・・・キュピル。キュピルを私がまだ生きていた時の時代に戻せるよ』

キュピルがジェスターの顔を見る。嘘はついていないらしい。

『だけど・・・そしたらこの世界は消えてなくなっちゃう。
・・・私、それだけが一番怖いの・・・。・・・無に帰ったら何にも出来なくなっちゃうんだよね・・・?』

キュピル
「・・・何で今こんな事になってるんだ?」


『・・・きっと近いうちに分かるよ。うん、きっと。』

キュピル
「・・・今教えてくれないのか?」

『教えても良いよ。教えても良いけど・・・教えたら私が生きていたころの時代に戻せなくなっちゃうよ?
それでもいいなら教えるけど』

すぐに首をよこに振った。
・・・それは嫌だ。


キュピル
「・・・出来るのなら。・・・皆がまだ生きていたあの頃に戻りたい」

少しずつ感情がまた湧きあがってくる。
・・・元に戻って行く。


キュピル
「ジェスター。・・・俺を皆がまだ生きていたころの時代に連れてってくれないか?」

『・・・じゃぁ、二つ。約束して?
一つ目。・・・幽霊刀を持って行って。』

キュピル
「・・・俺を永遠に生きさせたい?」

『世界を維持させるにはそれしかないの。
・・・二つ目。・・・私達は消える』

キュピル
「・・・消える?どういうことだ?無に帰っちゃうのか・・・?」

ジェスターが首を横に振る。


『今はもうこのアノマラド大陸にマナはないの。
・・・でも霊体となった私達自身はマナで出来てるの。
・・・だから私達を媒体にして消えればキュピルを元の世界に戻す事が出来るの。
でもそれは無に帰るんじゃなくてキュピルが私達の事を見えなくなるだけ。・・・ただそれだけだよ。』

キュピル
「・・・・」


『・・・キュピル。』


キュピル
「・・・・元の世界に連れて行ってくれ」




『うん!・・・じゃぁ・・待ってるからね。』


ジェスターが笑う。
・・・キュピルも笑った。


『よかった、元気になって。・・・またね』





その直後。キュピルの周囲に沢山の霊体が現れた。
全員知っている。

ファンやルイ。ヘルやテルミットに輝月に琶月にディバン。
・・・それだけじゃない。ギーンやミーア。更にダインやカタリ、ハルララスやユーファにピアにカジ。
そしてマキシミン達を始めとしてナルビクに住む人達全員。
それだけじゃない、クラド、カウル、ライディアでも見た事のある人たち。


全員が集まった。


そして数分後。マナが爆発した。



強烈なマナに包まれ時空に歪みが発生した。


その歪みにキュピルは吸いこまれ消えて行った。








そしてこの世界から全てが消えた。




ただ、一人を残して。





一万四千年後のキュピル
「・・・俺はついに一人になった。・・・懐かしかった。昔の自分が
・・・あれほど俺は普通の人生を全うしたいと願っていたのに。
結局自ら進んでこの道を選んだ。
・・・ハハハ、だけど今思えばそれも別に良いね。
・・・ジェスター、ファン。・・・ルイ。
俺は永遠に生きる。・・・そして皆の事を覚え続ける・・・」



いつまでも若い容姿を保ったキュピルがそこにいた。







そしてその時代から遥か昔の時代。




とある家から強烈なマナ反応が起きた。







「今強烈なマナ反応を感じました。一体何が・・!?」
「キュピルさんの部屋からです!!」
「もしかしてファン、私に内緒で異次元転移装置作ったの?いけずー」
「違いますよ!とにかく部屋を開けますよ!あらゆる事態を想定していきますよ」
「流石にキュピルさんの部屋では武器は投げれねーな・・・」
「矢もです」
「琶月よ、いざとなったら盾になってもらうぞ?」
「ちょ、ちょ、ちょっと!!それは冗談じゃ・・・!」
「悲惨だな」
「・・・準備出来ました。開けてください。」

ドアが開いた。
武器を構えた皆が突入してきた。

部屋の中に一人の男が幽霊刀を支えにして立っていた。


その男を見て全員目を丸くして立ち止った。


男は喋った。



「俺は決めた。どんな異常経験を積もうが、どんな人生を歩もうが俺は生きて行く。
そう、例えそれがそのような道を歩ませようと仕向けられていても。
例えそれが誰かが仕組んだものだとしても。
もう永遠に生きると決めた俺には何の関係もない。

結局。限られた極々短い時間で生きなければいけなかったから俺は自由な道を歩みたかったんだ。
自分の時間を最大限有効活用できる人生。戦いなんてやめてずっと平和を謳歌する人生。
でもな。

永遠に生きると決めた俺にそんなものは別に要らない。

永遠だ。

・・・誰かが俺を作りだしてそして俺を戦いの道へ突き進ませようとしてその壮絶な人生を遠くから眺めて
楽しんでいたとしても。

俺が永遠に生きたらそいつは何時の日か飽きて忘れる。

その日が来るまで。


俺は何度だって戦ってやるさ。何度だって絶望の淵を繰り返してやるさ。
操り人形の紐が切れるその日まで。



・・・以上、ひとり言。・・・おっと、一言言い忘れてたね」


男が深呼吸し、そして喋った。



キュピル
「ただいま。」












シーズン14  秘密と真実







・・・・一冊の本が開かれている。

その本にはこう書かれてある。



『ここから先の物語はその【者】とその【者】を支えた人たちが幸せに生きていた時のお話』







後書き

注意:シーズン14以前からの伏線大回収の話です。壮絶なネタバレ・・っというか終わったので
    ネタバレと言うのか分かりませんが話しの核心的な事が書かれています。
    想像が好きな方は読むのをお勧めいたしません。気になる方はマウスで反転して文字を浮かばせてください。
    


シーズン14終了です。
実は言うと別の方向でこのシーズン14を終わらせていました。
が、結局の所。いまいち好きになれなかったのでとうとうこういった終わり方を使いました。

一線を越えていたキュピル。
しかし今回の出来事は一線どころか二線、三線越える出来事となりました。

最後の最後に懐かしい刀が再び出てきました。幽霊刀です。
以前、幽霊刀の創設者ルーピュキはある事を予言していました。
それはキュピルの永遠の命。
彼の見せた予言、そして作者が飛ばした一万四千年後のアノマラドの世界は同一世界です。
つまりルーピュキが一万四千年後のキュピルを見せた場合、ああいった世界を見せていたかもしれません。
しかしあの時に見せた予言と今キュピルが置かれている状況は微妙に違うため少し結果はずれているかもしれませんが。

そして一万四千年後の世界にある本がファンの部屋にありました。
その本には『全ての世界は作られている』と書かれてあります。
アノマラド大陸も作られた世界です。

しかしこの場合かなり複雑的な要素がからんでいます。
実際に神がこの大陸を作ったという説。そしてテイルズウィーバーというゲームがこの大陸を作ったという説。
本には二つの意味で書かれていたっと解釈しています。

作られた世界なのだからその世界には様々な人が介入してきます。
作った世界なのだから誰だってその世界を弄りたくなるものです。

キュピルもその一人です。キュピルは作られた存在。
・・・意味はもうお分かりのはずです。』


っと、色々喋りましたがこれ以上喋るとこの先のジェスターのひとり言が
とんでもない事になってしまうのでこの辺で・・。


簡潔にもう後書き終わらせます。
これ以上方向を踏み外さないために


次のシーズン。未定です

・・・まぁ、でも当分キュピル視点はなくなるのかな。本来のジェスターのひとり言に
今度こそ戻します(願望

それでは。