第一話


あらすじ

ルーピュキに告げられたキュピルの運命。
幽霊刀と関わったせいで自分はもしかしたら死なない人になってしまったのでは?
と悩み出してしまいひとまず皆に相談したキュピル。


キュピル
「・・・・っというわけなんだ」
ルイ
「もしかしたら束縛・・・かもしれませんね」
キュピル
「束縛?」
ルイ
「はい、幽霊刀に自縛されその刀が存在する限り生き続ける可能性はありますね・・。
現にレベッカと戦った時も鋼管の霊簪が存在する限り彼女は何度でも蘇りましたし」
キュピル
「一理あるな。しかし霊能力の力を持つ武器は同じ能力を持つ武器でなければ壊れない・・。
あくまでも実体験だから試してみないと分からないけどな。」
ジェスター
「ねぇ、キュピル」
キュピル
「何だ?」

ジェスター
「どうして長生きしたくないの?別にずーっと歳とってヨボヨボのお爺さんになって
苦しいわけじゃないんでしょ?だったら逆にラッキーじゃん。なんで?」
キュピル
「そうだな、秘密ってことにしておこうか」
ジェスター
「えっー!」

机に突っ伏すジェスター

ジェスター
「わーん・・」
キュピル
「ほれほれ、長年一緒に生きてるから嘘泣きは通用しないぞ」
ジェスター
「むーん・・・・」
ルイ
「(嘘なきだったんだ・・・)」

ファン
「ひとまずキュピルさん。幽霊刀をしばらく使わないようにしてルイさんの通り
効力を消したり破壊したり色々試してみてはどうですか?」
ジェスター
「はいはーい!破壊なら私にお任せ!」
キュピル
「そうだな、ジェスターの武器の力を借りれば壊せるかもしれん。
その武器は殆どジェスターじゃなきゃ扱えんし。頼む」
ジェスター
「やっとキュピル私に頼ってくれたね」


==外


ジェスター
「いくよー?」
キュピル
「OK、そのまま地面に置いてある幽霊刀を思いっきり叩き潰してくれ。」
ルイ
「あぁ・・・貴重な幽霊刀が壊れる瞬間・・。少し悲しいですね・・・」
ファン
「ルイさんはキュピルさんを巻き込み過ぎたんですよ。」
ルイ
「罰ですよね。」
ジェスター
「えーーーい!!」




カキーン!!



幽霊刀が弾かれて吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ剣がキュピルに刺さる



キュピル
「ぐああぁっっ!!」




ジェスター
「あれ?あれ?」
ファン
「弾いてしまいましたね。その剣がキュピルさんに刺さったみたいで」
ルイ
「キュピルさん、大丈夫ですか!?」
キュピル
「む・・・ぐ・・・」

刺さった剣を抜き取る。傷が速攻で治る。

ルイ
「おぉ・・・。霊能力をマスターしてる人はダメージや怪我、痛みを幽霊に変わってもらうっていう
技があります・・・。この霊能力をマスターしてる人は私の知ってる限りではジョシュアっていう
人物だけなのですが・・・流石ですね・・。キュピルさん」
キュピル
「誰だよ、ジョシュアって・・・。現に今痛かったよ?ぐああー!って叫んだぞ?」
ジェスター
「面白いね、つまりキュピルをどれだけ倒しても何度でも起き上がるってことだよね?」
キュピル
「こういう事があるからすぐに破壊したい」
ルイ
「なるほど・・・。なら次は私が壊します。このRPG-7(ロケットランチャー)を使えば
流石に粉々ですよ!」
キュピル
「街中で爆発物を扱うなんて尋常じゃない行為だけどね」
ジェスター
「私で無理だったから多分無理なのに」


ルイ
「いきますよ。3・・2・・1・・ファイア!!」



ズドドォォン!!



剣が爆風で吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ剣がキュピルに刺さる


キュピル
「あぐあぁぁっ!!」




ルイ
「あちゃー、壊れませんでしたか・・・」
ファン
「物理ダメージでは全く壊れないようです」
ジェスター
「キュピル、泣かないで。ほら、いい子いい子ー」
キュピル
「ジェスターに慰められる今この瞬間プライドがズタズタに・・・」
ジェスター
「あー!せっかく人が心配したのに!えい!」
キュピル
「ぐふ!」
ファン
「キュピルさん、思わず口が滑りましたね」



==家

キュピル
「全くダメだったか・・・。ちょっと痛みが残ってるから寝てくる。すまない」

バタン

ジェスター
「寝ちゃったね。今午前13時なのに」
ファン
「昼ねですね。昼夜逆転しなければいいんですが」
ルイ
「出来ることなら私はキュピルさんをこのまま霊能力者にしたいんですけどね」
ジェスター
「ルイが犯人!」

ジェスターの言い分を無視してルイが話を変える

ルイ
「でもよくよく考えると死なない体質ってある意味凄いと思うんですよ。
何で利用しないんでしょうか?私には少し理解が・・」
ジェスター
「うーん・・。言われるとそうなんだよねぇー・・・。どうしてなんだろう?」
ファン
「ひとまず僕は一旦部屋に戻ってキュピルさんの愛剣を修理してきます。
ロマベヨ・・・なんでしたっけ?名前覚えていませんがとにかく修理してきます。」
ジェスター
「そういえばファン中々その剣修理進まないね。何で?」
ファン
「結構複雑な構造しててお手上げ状態なんですよ。ちゃんとした鍛冶屋に任せないと難しそうですね」
ジェスター
「へぇー」
ルイ
「私も家事を済ませてきます。」


ジェスター
「私一人になっちゃった・・・。何しようかなー・・・。
とりあえず自分の部屋に行こうっと」


==ジェスターの部屋


ジェスター
「うーん・・・。暇だなぁー・・・。・・・そうだ、
街でも歩いてこようっと」



==ナルビク


マキシミン
「へへっ、またぼろ儲けしちまったぜ。最近いい儲け場所があってな」
イスピン
「マキシミン。君そういうことばっかりしてると今すぐに罰が当たるよ」
マキシミン
「嫉妬か?俺が金持ちになってきたから嫉妬してんのか?」
イスピン
「そういうことじゃないよ!君の身を案じてるだけなんだよ」
マキシミン
「全く・・。他人の身を案じても飯が喰えるわけじゃn・・・」

ドン

マキシミン
「いてぇな、誰だ?」
ジェスター
「・・・・マキシミン・・・。」
マキシミン
「げ!キュピルのジェスター!」
ジェスター
「今私暇だから腹いせに攻撃させて、わっー!!」
マキシミン
「助けてくれ!俺はキュピルのジェスターだけが天敵なんだ!!」
イスピン
「ほら、僕の言った通り罰が当たったでしょ?」
マキシミン
「くそ、キュピルの家に行って助けを求めるしかねぇ・・!」



==家


マキシミン
「キュピル!オマエのジェスターなんとかしてくれ!」
ルイ
「騒がしいですね、今掃除機かけてますから埃立てないでくださいよ
というより一体誰なんです?キュピルさんのお知り合い?」
ジェスター
「ふっふっふっふ・・・。覚悟ー!」
マキシミン
「回避!!」

バキッ!!(キュピルの扉が壊れる


ルイ
「あああぁぁ!!掃除が増えた!」
マキシミン
「ラッキー、鍵が壊れた。キュピル、助けてくれ!金ならあるぞ!」


==キュピルの部屋

キュピル
「zzz・・・zzz・・・」
マキシミン
「寝てないでジェスターに何かいってくれ。こいつ俺の顔見ただけで攻撃してきたんだ。
俺は何も悪い事してないんだぞ。」
キュピル
「んー・・・?」
マキシミン
「寝ぼけるな」
キュピル
「うるさいなー・・・。ジェスターにボコボコにされてしまえ・・・・。zzz・・・」
マキシミン
「こいつ!」
ジェスター
「ナイスキュピル!シーズン8の恨み、今ここで晴らす!」
マキシミン
「うわああぁぁ!!」


ルイ
「掃 除 の 邪 魔 し な い で く だ さ い ・ ・ !」



ジェスター
「うっ・・・ルイの視線が凄い怖い・・・」
マキシミン
「げ、キュピルはまた怖い奴を仲間にしてたのか・・」
ルイ
「ほら、罰として掃除手伝って!」
ジェスター
「はーい・・・」
マキシミン
「んじゃ俺は帰るか」
ルイ
「貴方もですよ!」
マキシミン
「意味わかんねー」

キュピル
「zzz・・・・・zzz・・・」




ジェスター
「うー、結局キュピルのドアを直すことになった・・・」
キュピル
「zzzz・・・・」
ジェスター
「キュピルー、手伝ってー」
キュピル
「zzz・・・・」
ジェスター
「・・・・。熟睡してる・・。まるで夜に寝てるかのように・・・。
疲れてるのかなー?」
キュピル
「・・・zzz」


ジェスター
「よいしょっと・・・。このドアをここに置いて・・・。・・わ、わ!」

ドアの重みに耐えられなくなってバランスが崩れる

ジェスター
「ぎゃー!潰されるー!」

そのまま後ろに倒れてドアに押しつぶされるジェスター

ジェスター
「苦しい!誰か助けてー!重いよー!!」


ルイ
「全く・・・木屑が凄い散らばってて掃除機で回収するのも大変ですよ」

ガンガン音を立てて掃除機を回してるルイ。

マキシミン
「何で俺が罰金払わねいけないんだ・・。」

ドアの修繕費用に消えていくお金があまりにも悲しくて上の空状態




ジェスター
「い、息が苦しい・・・。たーすーけーてー!!!」

重圧から解き放たれる

ジェスター
「あ・・・」
キュピル
「全く、一体何をしていた。ってか、何故ドアが壊れてる・・・。」
ジェスター
「マキシミンがいけないんだよ!私は悪くない!(大嘘
キュピル
「何でもいいから寝かせてくれ・・・。何故か知らないが猛烈に眠いんだ・・・。
あまり他の人に迷惑かけないようにな」
ジェスター
「・・・迷惑なんかかけてないよ・・」
ルイ
「あぁ、今ドアが倒れてる事に気づきました。」
マキシミン
「おい、キュピル。オマエのジェスターちゃんと躾け(しつけ)ておけよな」
キュピル
「それはともかく扉直さないと。おちおちして寝られやしない」
ルイ
「私がやりますから大丈夫ですよ」
ジェスター
「私もやる」
マキシミン
「へっ、お前さんがやった日にはまた後ろに倒れるのが見え見えなんだがな」
ジェスター
「・・・もう怒った!!」
キュピル
「ジェスター、乱すな。」
マキシミン
「そうだそうだ、まだ飼い主に怒られるはめになるぜ?クックック」
ジェスター
「皆私ばっかりにイジワルする!何で私が悪者にならなきゃいけないの!!」

部屋を出るジェスター

キュピル
「お前は言いすぎだ。毒舌癖つけててよく仕事できるな。」
マキシミン
「毒舌のおかげで仕事が出来てるんだ。突っ込まないでくれ」




その夜、ジェスターが部屋から出てくる事はなかった。





==深夜2:00


ジェスター
「家出する。」

一人でボソッと呟き荷物をまとめる。
食料・・水・・道具・・とにかく必要だと思う物全てを詰める。
誰にも気づかれないようにこっそりリビングに出て玄関を通り外に出る。


==外


ジェスター
「私はしばらく帰ってこないからね・・!!」

決意を決める。


「ジェスター、そう早まるな」

ジェスター
「え?誰?」

突然上から声が聞こえた。
家の屋根にキュピルがいた。

キュピル
「本当に家出するのか?」
ジェスター
「待って、なんで起きてるの?」
キュピル
「昼思いっきり寝たせいで夜寝れなくなっちまっただけさ。
それで、本当に家出するのか?」
ジェスター
「キュピルがどんだけ引き止めても私は家出するからね。
皆・・ファンもルイもマキシミンもキュピルには気を使ってるのに私には皆無神経!
私だって嫌な気持ちになるんだからね!人形じゃないんだからね!」
キュピル
「誰も人形だとは思ってないはずさ。
それで、本当に家出するのか?」
ジェスター
「・・・・うん」

何度も聞かれるうちに少しずつ自信が削がれていく

キュピル
「じゃあさ、家出って言うと皆が心配するからこれをお願いするか。」
ジェスター
「誰も心配しないよ、絶対」
キュピル
「子供みたいな事を言うなよ、ほら」

キュピルが持っていた剣をジェスターに向けて放り投げる。
硬いアスファルトを突き破って地面に刺さる。恐ろしい鋭利を持つ刃・・
こんな武器キュピルはもっていたっけ?
よくみると見たことのある武器だった。

ジェスター
「これ・・・。キュピルの愛剣のロマベ・・なんだっけ?」
キュピル
「ロマベヨリネーア。」
ジェスター
「そう、ロマベヨリネーア。でもこれ壊れていたよね?何で今直ってるの?」
キュピル
「ファンがずっとそこに悩んでいるんだ。突然直ったり突然刃がボロボロになって使い物に
ならなくなったりと。ジェスターにお願いするよ。それを修理できる人を探してくれ」
ジェスター
「私ただの家出だから修理できる人なんて探さないよ」
キュピル
「肩書きだけでいい。暇があれば探してくれってことだ。
そして・・・ここから先は大事なことだ。よく聞いてくれよ」

キュピルが屋根の上からスッと飛び降りて下に降りる。
かなり身軽だ。

キュピル
「もしも、危機が襲い掛かってピンチになったら
この剣に助けを呼ぶといいよ」

そういうとキュピルはもう一本の刀。幽霊刀をジェスターに渡した。

ジェスター
「これ私が剣を引き抜くと電気ショックみたいなのが来て痺れるんだけど・・・。」
キュピル
「抜かなくてもいいんだよ。願えばいいだけ。もしかしたら抜いても電気ショックがこないかもしれない。」
ジェスター
「キュピルはこの剣がなくなって支障はないの?」
キュピル
「と、いうと?」
ジェスター
「今幽霊刀と切っても切れない縁なんでしょ?離れたら何か・・副作用とか」
キュピル
「ないから安心せい。」
ジェスター
「そう・・・」

しかし時間が立つにつれてドンドン悔しくなっていくジェスターがいた。
誰にも気づかれずひっそりと家出したかったのにキュピルには発見され
ここまで心配されることに逆に苛立ちも覚える。
だけど、こんな事に苛立ったり悔しくなっていく自分自身に幼さも感じてしまった。

ジェスター
「キュピル」
キュピル
「何だ?」
ジェスター
「キュピルの好きな放浪ってのを少し経験してみるよ。
放浪で何か私成長できるかもしれない・・・」
キュピル
「おう、ワシが小さい頃は何度も放浪して強くなったものだ。放浪してこい」
ジェスター
「うん、放浪してくる!」
キュピル
「じゃ、肩書き変えようか。家出から放浪に」



深夜二時過ぎ。ジェスターの放浪が始まった。
腰にはキュピルが結び付けてくれた二本の刀があった。
たった10分前はただの家出の予定が今は一つの剣を直す放浪に変わった。
そしてジェスターはナルビクを出た。


続く


第二話


ナルビクを出てから二日が経っていた。
道無き道を歩いていく。
人間では通ろうと思わない場所もジェスターは突き進んでいく。
ジェスター自身ほんの少しだけ飛ぶことが出来るので酷い悪路やちょっとした崖は
全て飛んでわたっている。

ジェスター
「ふぅー・・・。大分歩いた・・・」

時間は今一時辺り。お腹は空かない。
背負ってるリュックはやはり重たい。普段背負うことがない上に
荷物はいつもキュピルが背負っていただけにいつもよりも移動が辛い。

ジェスター
「あー、疲れたー・・・」

近くの木に寄りかかって座る。木々の枝や葉が重なり合い日光はここまで届かない。
少し暗くひんやりと寒い場所。
ふと思ってキュピルの愛剣を引き抜く。

ジェスター
「ボロボロだ・・・」

刃はかなりこぼれており、こんなんじゃ何も斬れない。
剣をしまう。
今度は幽霊刀を見つめる。だけど引き抜く事はしない。

ジェスター
「こうやって幽霊刀をよく見ると作りはかなり豪華・・・。
その分重いけどね。・・・・。ふあぁ〜・・・」

段々眠くなってきた。少しだけ仮眠しよう。
木を背に、刀を支えにして眠る。





そんなことを何度も繰り返し早くも四日が経った。

ジェスター
「・・・・・・」

ひたすら誰も知らない道を歩くがジェスターの捜し求めてる答えは見つからない。
そして何かの街につくこともなくキュピルのお遣いを果たす事も出来ない。
何故か後ろ向きな気分になってくる。

ジェスター
「・・・・・あ・・」

突如目の前が明るくなる。森を抜けたのだ。
そして少し前に進むとわかった。森を抜けたのではなくぽっかりとそこだけ木々がないだけだった。
でもその間は結構広く何よりも真ん中に小屋があった。

ジェスター
「誰かいるのかな?」

小屋に近づく。窓にはカーテンがかかっており人の気配はあった。


コンコン


扉をノックする。


「どなた?」

少し歳のいった声が聞こえた。

ジェスター
「旅の者です」

扉が開く。中から出てきたのは声の通りお婆さんだった。
結構いい歳してそう・・・。

お婆さん
「あら、可愛い旅の者だこと」

ジェスターに微笑む。思わずつられてにっこりした。

ジェスター
「ここで何やってるの?」
お婆さん
「私はここに住んでいるだけですよ。」
ジェスター
「そうなんだ。失礼しました」

ぺこりと頭をさげる。

お婆さん
「せっかくだからゆっくりしていってもいいのよ。
長旅で疲れてるでしょ?遠慮しなくてもいいのよ」
ジェスター
「いいの?」

お婆さんがにっこり笑う

お婆さん
「いいのよ。お婆ちゃんも久々のお客様で嬉しいから」
ジェスター
「じゃぁ・・ゆっくりさせてもらいますー」

小屋の中に入る




ジェスター
「わぁ」

中に入ると絵がずらりと並んでいた。
どれも非常に上手く思わず見とれてしまうほどだ。

ジェスター
「お婆ちゃんすごい!これ全部書いたの?」
お婆さん
「そうよ、一枚書くのに時間はかかるけどど、れもお婆ちゃんのお気に入り」

その中でも特にある一人の人物の絵が非常に上手い。
今にも飛び出てきて話しかけてきて何か動きそうだ・・・。

ジェスター
「いいなぁ・・・。私もこんな風に絵がかければ楽しそう・・・」
お婆ちゃん
「あら、それなら貴方も・・・。そうね、まず先に
貴方なんていう名前なの?」
ジェスター
「ジェスターって名前だよ。どっちかっていうと名字みたいなものだけどね・・」
お婆さん
「それなら・・ジェスちゃん!」
ジェスター
「じ、じぇす・・?」
お婆さん
「そのほうが可愛いわよ。決まり!」

ジェスちゃん・・。なんか新しい。
でもこのお婆ちゃんならそう言われてもいいかも。

お婆さん
「ジェスちゃんも絵を描いたらいいじゃない」
ジェスター
「えー。でも私さっきも言った通り絵かけないんだもん・・。」
お婆さん
「それは鉛筆が持てないとかじゃなくて?」
ジェスター
「鉛筆はもてるよ。ただ単純に下手なだけ・・」
お婆さん
「それなら問題ないわよ。絵はね、上手い下手関係ないのよ。
自分の思ったそのありのままの形をそのまま書けばいいの。
見て書いて似せようとして上手い下手で判断するのじゃなくて
自分の思った事をただ書けばいいの」

そう言うと鉛筆とスケッチブックを取り出した。新品だ。

お婆さん
「一緒に書きましょ」

にこやかに言われる。
私は鉛筆を持った。お婆さんも鉛筆を持った。

ジェスター
「でも何を書こうかな・・・。」
お婆さん
「人物とかどうかしら?」
ジェスター
「人物・・・」
お婆さん
「例えば、ジェスちゃんも旅の放浪と言っても住んでた場所があって
誰かと一緒に住んでたんでしょ?」
ジェスター
「どうしてわかったの?」
お婆さん
「ふふ、人間ね。歳を取るといろんな事を経験するから魔法使いになるの」
ジェスター
「えー。嘘だよね?」
お婆さん
「嘘じゃないよ。人の気持ちがよめるっていう魔法」

人の気持ちが読める・・・。
そういえば・・・。キュピルは私が家出する時私の気持ちを全部読んでた気がする・・・。
お婆さんが言ってることがなんとなく分かった気がする。

お婆さん
「分かったみたいだね。その一緒に住んでいた人とかを書いたらどうかしら?」
ジェスター
「うーん・・。キュピルっていう名前の不思議な人がいるんだけど・・。
私キュピル書いてみたい気はするけど見て書かないとダメになっちゃう」
お婆さん
「違うのよ。自分の思っているそのキュピルって人をただ書けばいいの。
そっくりそのまま似せるんじゃなくて自分の思ってる姿を書けばいいの。挑戦してみて」
ジェスター
「うん」

さっそく紙にキュピルを書くことにした。
そういえばキュピルも絵を描いていた・・・。
私が書き始めるとお婆さんもにっこり笑って何か書き始めた。



さらさら。



さらさら。


鉛筆の書く音だけがする。
だけど私はそれどころじゃない。
本当に下手でキュピルに全然見えない。人にすら見えないかも・・・。

ジェスター
「お婆ちゃーん・・。私やっぱり無理だよ・・・。全然人に見えない・・・」

お婆さんが紙を見る。

お婆さん
「そうねぇ・・・。ジェスちゃんは人って何だと思う?」
ジェスター
「ひ、人・・?」
お婆さん
「そう」
ジェスター
「人・・・」

出てきたのはどうも複雑だった。
これまで前の自分の主人だったエユの事とかその間に色んな人にも会ったし
今じゃエユと並ぶ親友だと思ってるキュピルにも会ったし・・。
だけど皆良い人とかじゃなくてマキシミンとかケデン帝都の人達とか
欲深い人達もいて・・・。

気が付いたら人のあれこれを考えていた。

ジェスター
「お婆ちゃん。私人って怖いと思う」
お婆さん
「怖い?」
ジェスター
「うん。キュピルって人とかは頼りになるからいいんだけど・・。
よくよく考えてみると人って怖いよね・・。自分の事ばっかり考えてる気がする」
お婆さん
「そうね、ジェスちゃんも色んな事を見てきたのね」

お婆さんがジェスターの頭を撫でる。
昔エユが・・。キュピルも良い事した時たまに頭を撫でてくれるけどその時の感覚と似照る。
このお婆さん本当に不思議・・・。

お婆さん
「欲深き邪念が渦を巻いた姿が人なのよ」
ジェスター
「邪・・念・・?」
お婆さん
「そう。その邪念の渦を表した姿が今ジェスちゃんが書いた
皆が言う『下手な絵』なのよ」
ジェスター
「でもキュピルは悪い人じゃないよ」
お婆さん
「もちろん。貴方の面倒を見てくれる人ですからね」
ジェスター
「どうしてわかるの?」
お婆さん
「お婆ちゃんはね、人柄も読む事が出来る魔法使いなのよ」

にっこり笑う。勿論本当にルイみたいに魔法使いってわけじゃない。
ジェスターもマナとかそういう流れは分かるけどお婆ちゃんからは全くそういうのは
感じられないし家もそういう作りになってるとは思えない。

お婆さん
「綺麗に人を上手く書ける人はね。その人のいい所を知っているのよ。」
ジェスター
「その人のいい所・・・?」
お婆さん
「そう。人はね。欲を持って生きているけどだからと言って悪い人が一杯いるってわけじゃないのよ。
よくよくちゃ〜んと見てれば人はみ〜んな良い人なのよ。悪い人なんていないの」
ジェスター
「でも・・。私今まで・・・その・・・」

平和を壊す一言ではあるけど

ジェスター
「私の命を狙ってくる悪い人とかいたり・・・。そういう人はやっぱり悪い人だよね?」
お婆さん
「違うの」
ジェスター
「でも殺されそうだったんだよ・・!」
お婆さん
「ジェスちゃん」

お婆さんがジェスターの両頬を手でむにゅっと押さえる。
顔がお婆さんの方に向けられる。思わず瞬きが多くなる。

お婆さん
「確かにその人達は悪い人よね。でもね。
その人は生まれた頃から悪い人じゃなかったのよ。皆何かしらあって
道がそれちゃっただけなの。どんな人でもね。
必ず人はいい所はあるの。その道がそれるきっかけさえなければ
その人はもしかしたら誰にでも優しく微笑む事の出来る人だったのかもしれないのよ。」
ジェスター
「・・・・・」
お婆さん
「確かに人を見下してたり自分が偉い、賢いからって威張る人とかって嫌な人よね。
でもね。やっぱりその人もただ寂しいだけなの。誰かにかまってほしいから
そうしてるだけなの。そしてその人たちの良い所を見つけてあげることで
嫌な人でも悪い人でも良い人になれるの」

ただただお婆さんの言う事を聞く。

お婆さん
「ジェスちゃんはキュピルって人の事をよく知ってるのよね?
それならキュピルの良い所はきっと知ってるわよね?
今までの事を思い出しながら描いてごらん・・・」


まるで催眠術にかかったかのようだった。
自然と手が動いて紙にキュピルを描いていく。

キュピルとの思い出が次々と出てくる。
その思い出を見ながらキュピルを書くことができる。
これが思った事を書くって事なの・・?


気が付くと紙にはそこそこキュピルに似た絵があった。


ジェスター
「少し上手くなった!」
お婆ちゃん
「おめでとう。ジェスちゃん。やっぱりそのキュピルって人とは何か深い思い出があるのね」
ジェスター
「うん。時々嫌って思う時はあるけどやっぱり思い出は多いかな。」
お婆ちゃん
「いい事よ。あなたはやっぱりいい子ね」

頭を撫でられる。

ジェスター
「えへへ」

思わずにっこり笑う。


そしてそのまままた絵の続きを書いた。

・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。


ジェスター
「出来たー!」

紙にはキュピルが写ってる。
御世辞にも上手いとはやはり言えないけどそれなりに人の姿には見えるし
なによりも顔は似ている。

ジェスター
「あれ?」

よくみるとお婆さんがいない。
あまりにも絵を描くことに夢中になりすぎて何処かに行ったのに気づかなかった・・?
しばらくしてちょっと離れた場所にお婆さんがいる事に気づいた。

お婆さん
「ジェスちゃん。ご飯できたわよ。今日はもう一泊していくといいわよ」
ジェスター
「ありがとうー。迷惑かけちゃってる?」
お婆さん
「とんでもない。今日はジェスちゃんが来てくれてお婆ちゃんは楽しい一日を送れたわよ」

にっこり微笑む。ジェスターも負けじと微笑む。

お婆さん
「いい笑顔よ」






夜遅く。

わざわざ布団まで敷いてくれてジェスターも何か頼りっぱなしでもどかしかった。
お婆さんはもう寝てしまっている。

窓を覗く。

ジェスター
「わぁ・・。すごい星の数。」

ナルビクとかだと明るくてあんまり見えないんだけど
こういった山小屋で見ると星が凄く多いことに気づく。

ジェスター
「・・・・あ、流れ星」

サッと現れてサッと消える。
次見つけたらお願い事してみようかな?

・・・・・。

・・・・・・。


ジェスター
「あっ!」

流れ星が現れた。
しかしすぐにまた消えた。

ジェスター
「あ・・・。お願い事言おうと思ったのに『あっ』になっちゃったよ・・」

もう一回現れるの待とうかな?
・・・・でも私も今日は歩き疲れちゃったから寝ちゃおう。







翌朝。



朝ごはんまで作ってくれて本当に感謝している。
でも長居するとただお礼しか言えない自分に嫌気がさしてしまいそうなので
早めに出発することにした。


お婆さん
「行っちゃうのね」
ジェスター
「うん。昨日は本当にありがとう。短かったけど一杯学んだ!」
お婆さん
「お婆さんもジェスちゃんから色んな事を学びました」

お婆さんが微笑む。
でも一体何を学んだんだろう?

お婆さん
「ジェスちゃん。これはお婆ちゃんからの贈り物」

そういうと一枚の紙を手渡す。
その紙にはジェスターの絵が描いてあった。

ジェスター
「あ!私だ!」
お婆さん
「さっきも言った通りジェスちゃんから沢山の事を学びました。
おかげでジェスちゃんの良い所を一杯見つけることができて綺麗な絵がかけました」

絵を受け取る。

ジェスター
「ありがとう。大切にする」
お婆さん
「あ、ジェスちゃん。これも忘れないでね」

お婆さんが一枚の紙を渡す。
・・・昨日私が書いたキュピルの絵だ。

ジェスター
「えー、でもこれ何か持って帰るの恥ずかしいかも」
お婆さん
「いいのよ。これをキュピルって人にあげたらきっと喜ぶわよ」
ジェスター
「うーん・・そうかなー?」
お婆さん
「そうよ。お婆ちゃんが保証してあげる」
ジェスター
「・・・うん。わかった。じゃぁ、これも一緒に持って帰る。」

そういうとカバンの中に紙を二枚いれた。

ジェスター
「それじゃ私はこれで次の場所に行くね。本当にありがとう!」
お婆さん
「またいつでもおいでね」
ジェスター
「うん!それじゃ!」
お婆さん
「行ってらっしゃい」

お婆さんに手を振る。
なんだかまるで田舎に里帰りしたみたいな感じだった。

でも私は帰る里はないけどね。
しいていえばキュピルの家になるのかな?


お婆さんから貰った紙とお婆さんに結び付けてもらった二本の刀をしっかり確認して
次の場所に進むジェスターだった。



続く


第3話


ジェスター
「お、おなかへった〜・・・」


食料も水も底を尽き、カバンをあさっても空っぽの瓶しかない。
おばあちゃんの小屋から出て早くも5日が経っていた。
その間に街につくだろうと思っていたが一向に見える気配がない。
そもそも人じゃない道を歩いてるため考えてみればアノマラド大陸にいる人達では
知らない街に進んでる可能性も否めない。

ジェスター
「ご、ご飯〜・・。み、水〜・・」

このままだと倒れかねない。早くお腹を満たせて喉を潤せる物を・・。

その時川の音が聞こえた。


ジェスター
「水ーー!!」

走って川の音がする場所に向かう。川だ!!

ジェスター
「あ・・・」

しかし汚い。葉っぱは浮いてて土が舞い上がって濁ってる。
飲んだら今度は腹痛に悩まされるだろう。

ジェスター
「・・・飲めないね・・」

また一気に喉が渇きだした。

ジェスター
「死ぬー・・・」


川を上っていく。
すると今度は少し変わった木が見えた。
この木は見覚えがある。

ジェスター
「・・・・あれ?」

この木・・・。ベリーの木!?


ジェスター
「ブルーベりーだ!!」

木に駆け寄って枝を登り実を取る。
それをドンドン口の中に放り込む。

ジェスター
「美味しいー!!」

すると今度はすぐ横にレッドベリーがある。
ブルーベリーの木から下りてレッドベリーの木に登り食べる。
味はそっけないが非常にみずみずしくまるで水を飲んでるかのようだ。

ジェスター
「潤う〜!」

ふと辺りを見回すと今度はホワイトベリーがあった。
ベリーの中でも珍味といわれる実・・・。すぐにホワイトベリーの木によじ登った。
そして実をニ、三個一気に摘み取り食べる

ジェスター
「!!」

凄く美味しい。しかもみずみずしい。さっきのブルーベリーとレッドベリーが
混ざり合ったような感じで今のジェスターにとって最高の味だった。

ジェスター
「幸せー・・・」


シュ

何かが飛んでくる。しかしジェスターは気づかない。

ジェスター
「そうだ。このホワイトベリーを摘み取って食r・・・



ゴツン!!



ジェスター
「ぎゃ!!」

頭に硬い物がぶつかった。バランスが崩れて木から落ち頭から地面に落ちる。
首と顔を傷めた。

ジェスター
「痛い!!」

あまりの激痛に喚く。

がたいのいい人
「このくそやろうめ!てめぇらのせいでうちの農作物の被害が甚大なんだよ!」

がたいのいい男がジェスターにスコップで追撃をかける。
ガツン、ゴツンと頭や体にスコップをぶつけられ非常に痛い。天国から地獄

ジェスター
「助けて!!」
がたいのいい人
「誰が助けるか!消えろ!」

一気に自分の体力が失せていくのが分かる。死にそう・・・。

???
「ちょっと、あなた!それあの子じゃない!」
がたいのいい人
「・・・あ?」

スコップの追撃がやむ。
だけど既に気絶しているジェスターがいた。






ジェスター
「うぅ・・・う〜ん・・・」

目が覚める。目覚めた場所は部屋の一室でベッドに埋もれていた。
頭が凄い痛いし体のあちこちがヒリヒリする。

ジェスター
「あ・・・ここは・・・」

急いで起き上がる。すると今度は腰や首が凄い痛い。

ジェスター
「・・・痛い!!」

あまりの痛みに声をあげる。


おばさん
「あらあら、起きたの?ゆっくり寝てて」

大体45歳ぐらいのおばさん(お婆さんまではいかない)が駆けつけてきた。

ジェスター
「ねぇ・・。一体何がおきたの・・?」

すると今度はさっきの、がたいのいいおじさんが入ってきた。
思わずベッドの中に体全身隠す。

おばさん
「ほら、怖がってるじゃない」
がたいのいいおじさん
「し、しかしな・・。」
おばさん
「大丈夫よ、さっきのはこっちが悪かったの」
ジェスター
「・・・そうなの?」

布団から目元まで顔を出す。

おばさん
「そうだ。名前言ってなかったわね。私の名前はエリス。
この人は私の旦那さん。」
がたいのいい人
「お、俺の名前はゲンだ。」
ジェスター
「私はジェスター・・。名前はそのまんま」
ゲン
「ジェスターか。ちょっと訳アリでそのままだとややこしいことになる」
ジェスター
「??。私が種族の名前のままだと厄介なの?」
エリス
「そうなのよ・・。実はね。うちはブルーベリー農場を営んでるだけど
たくさんの黒いジェスターが現れてみんなうちの農作物を食べていっちゃうのよ・・」
ジェスター
「それでさっき私間違えられちゃったんだ・・・。」
エリス
「貴方は白くてしかも単体だったからすぐに違うと気づいたわ」
ゲン
「だが、こいつも食ってた!同罪だ!」
エリス
「あなた!この子は人の子よ。私には分かる。野生なんかじゃないわ」
ジェスター
「あ、あのー・・。でも、私が悪いですから・・・」

思わず謝る。キュピルの家にいた時は謝るってのは殆ど無縁だったけど
今は事情が事情ってのもあり何よりも少し怖い。

エリス
「いいのよ。それに貴方大切に育たれていったみたいですし。
飼い主さんに凄い失礼な事をしてたわよ」
ゲン
「野生だったら別によかったのか?」
エリス
「違うわよ。それに私暴力的な事はよくないと思うわ。
それにさっきも言ったけどあの子は知らなかったからしょうがないわよ。許してあげて」

目の前でちょっとした討論が起きている・・・。

ゲン
「・・・わかった、わーかった!おまえさんが言うならそういうことにしておく。
・・・ゆ、許してやるよ。・・・わ、悪かった」
ジェスター
「あ・・いや・・。」

ちょっと変な人。
でも奥さんの事大切にしてるんだ。

その時突然ゲンが窓の方に走った

ゲン
「この気配・・・。来るぞ。多い・・!」
エリス
「まぁ、大変。網を用意しないとね」
ゲン
「そんなもんいらん!今度こそこのスコップで・・!」
ジェスター
「何が来るの?」
エリス
「さっきも言った通り私達の農場は野生の黒いジェスターに作物を荒らされてるのよ。
でも皆すばしっこくてねぇー・・。中々捕まえられなくて・・」
ゲン
「くそっ、行って来る!」
エリス
「あぁ、あなた。殺さないでよ!死体なんて見たくないわ!」

夫婦2人で外に出ていってしまった。
痛いのを我慢して窓を覗く。

ジェスター
「・・・・・」

見えない。近くの机の上に双眼鏡が置いてあったので
スコープ倍率を上げて見てみる。

ジェスター
「・・・あ、いた!」

沢山の黒いジェスターがベリーの木によってたかって登って食い荒らしている。
皆本当に黒い。男女共々、全員黒い。
その集団目指してつっきていくゲンの姿があった。
ジェスターが一人ゲンの存在に気づくと大半がすぐに逃げた。
残りの大半が何か投げてる。・・・手裏剣だ!
ゲンがスコップで弾いてるけどいくつか当たってる。大丈夫かな・・。

更に一定距離ゲンがジェスターの集団に近づくと残りの皆が撤退し始めた。
その移動速度もまた速くあっという間に消えていった。





ゲン
「くそ!また食い荒らされた!商売上がったりだ!
世界で一番上手いベリー農場は世界で一番被害の大きい農場だ!
今度あのジェスターを見かけたらケツを蹴り飛ばしてやる!」

ゲンが服にささった手裏剣を抜き取ってる。
よくみると手裏剣は木で出来ていた。確かに人間からすれば痛くなさそう。

エリス
「はぁ・・はぁ・・。ほんとっ、皆足が速いわね〜・・。網を持って走ったけど
全然だめだったわ」

ジェスター
「大変そうですね・・。」
エリス
「仕方ないわね。さぁ、ご飯にしましょう。ジェスターちゃんも一緒にたべましょ」
ジェスター
「ありがとうー。ちょうど食料もなくなってて・・。困ってました」
ゲン
「次から食料がなくなったら雑草でも喰うんだな。」
エリス
「あなた!!」
ゲン
「・・・悪かった・・。どうしても同じジェスターだからつい罵倒を・・」
ジェスター
「あ、あはは・・」

苦笑いしかできない。
食卓の席まで頑張って移動して座る。

エリス
「さぁ、ご飯よ。」

食卓は至って一般の家庭料理だった。
・・・でも、ルイの作るご飯の方が美味しいかな?




ジェスター
「ごちそうさまー。」
エリス
「お粗末様でした。ジェスターちゃん、デザート食べる?」
ジェスター
「デザート?」
エリス
「はい、ブルーベリーパイ。うちの農場で販売してる私お手製のお菓子よ」
ジェスター
「食べたいー。いただきます」

ゲンが何故かこっちを見つめている。
怖い・・・。けど、とりあえず食べる。

ジェスター
「・・・美味しい!!凄い美味しい!」
ゲン
「あったりめぇだろうが!うちの農場で取れて尚且つうちの女房が作ったんだ。
美味しくないわけねぇだろうが」
エリス
「もう、あなたったら」
ジェスター
「(変な人・・)」

心の中で呟くジェスターだった。
その日は何から何まで世話になりっぱなしのジェスターだった。



夜、寝室までエリスに抱っこされて運ばれた。やはりスコップで叩かれた部分が痛い。

ジェスター
「ありがとう、運ばれたの凄く久しぶりだった」
エリス
「いいのよ、ねぇ。貴方どこから来たの?私気になるなー?」

凄い興味津々だったので喜んで喋った

ジェスター
「ナルビクって港町から放浪してきました」
エリス
「まぁ、ナルビク!いいわねー。凄い漁業で活発な街で聞くわ!
そこに貴方の飼い主さんもいるの?」
ジェスター
「うん、いるよ。ところでここってどの辺なの?地図見ないで歩いてきたから・・」
エリス
「ここはね、ラデン山脈のちょうど登り始めた場所よ。
少し気温が低くて夏場は涼しいわよ。そうねぇ・・。一番最寄の街は『ローロ』かしら?」
ジェスター
「ろ、ローロ・・?分からない・・・」

随分と遠くまで歩いてきたってのが分かる。

エリス
「そうね、次に近い街はクラドかしら。クラドから凄い西に進んだ場所にローロって街があるのよ。」
ジェスター
「そうなんだ」
エリス
「さ、怪我で体が弱ってるからもう寝ましょうね?」
ジェスター
「うん」
エリス
「それじゃ、おやすみなさいー」
ジェスター
「おやすみー」

その日、ぐっすり寝れた。





翌日。朝から騒がしい。



ゲン
「このやろう!!また懲りずにきたか!!昨日の夜俺様が作った
この弓を受けてみろ!!」

わーわー聞こえる。
ゲンさんが弓から矢を放ってる。だけど弦の紐がゆるくて全然飛ばない。弓といえない。

ゲン
「くそ!スコップの方がまだ使える!」



今日もまたベリー農場は荒らされた。


そして、その翌日も。また翌日も。毎日ベリー農場は荒されている。



ゲン
「くそー・・・。商売上がったりだ・・・。ベリーの実は三日に一度実が出来るのだが
その中で売れる実は半分だ・・。更に運搬や製造の過程でいくつかダメになり
更に半分に減る・・。だからベリーって奴はいくら作っても足りなかったりする。
それなのにこんなにジェスターに食い荒らされちゃたまったもんじゃねぇ・・・」
エリス
「そうねぇー・・。そろそろ困ってきたわー・・」
ジェスター
「あの」

手をあげる。

ジェスター
「私があのジェスター達と話して交渉してきます」
エリス
「でも危ないかも」
ジェスター
「大丈夫。私本当は強いから!」
ゲン
「本当かー?あの時俺様にやられてたよな?」
エリス
「あなた・・。・・・でもそうよ。うちの夫ですらあんな状態なのに・・
それに怪我大丈夫なの?」
ジェスター
「心配しなくても大丈夫!怪我はエリスさんの美味しいご飯食べて
すぐ元気になったし、私には二本の剣と凄く強い棍棒があるから!」

現にもう前みたいにドタバタ走ったり元気に動くことが出来るようになった。
ここのベリーは美味しいだけじゃなくて滋養強壮効果もあるみたいだ。

エリス
「う〜ん・・。でも穏やかにお願いね?」
ジェスター
「自衛にしか使わないので大丈夫です。同族の血は見たくないから・・・」
ゲン
「よし、わかった。次きたらお前さんに託すとしよう。
困ったら直に戻って来い。スコップ持って駆けつけてやる」
ジェスター
「はーい」
エリス
「それじゃお願いね」





ジェスター
「大丈夫・・。私ならきっとできる」

いつでもジェスター集団が来ても大丈夫ように
腰にはエリスさんが結び付けてくれた二本の剣。
棍棒も背中に結び付けてある。ちょっと重たい。

ゲン
「張り切ってるな」
ジェスター
「あ・・」

ちょっと苦手なゲンさんに話しかけられた。

ゲン
「その、なんだ。・・・がんばれよ」
ジェスター
「・・・うん!」

その時、突然ゲンさんが窓の方に走った

ゲン
「・・・来たぞ!」
ジェスター
「わかった!」
エリス
「気をつけてね!何かあったら直に戻ってきてよ!」
ジェスター
「いってきまーす!」

勢いよく家から出て行った。






黒ジェスター
「おい、手っ取り早く摘み取って逃げる支度しろ!
あのゲンにスコップで殴られたくなければテキパキ動くんだな!」
黒ジェスター2
「は、はい!」
黒ジェスター3
「誰かくる!・・・あれ?ジェスター?」
黒ジェスター
「なに・・?」

白いジェスターが走ってくる。だけど、やたらと凄い武装してる。

黒ジェスター
「おい。そこの白い奴。ここは俺達の縄張りだ。
怪我したくなければ出てけ」
ジェスター
「出てくのはそっち!ゲンさんとエリスさんのベリー農場を荒すなー!」
黒ジェスター
「そうか。お前はあっちの味方か。女の癖に生意気な・・・」
ジェスター
「差別よくな〜い!!」
黒ジェスター
「黙れ!」

ジェスター
「!」

慌てて抜刀準備に入る。
周りの黒ジェスターも驚いて見てる。

ジェスター
「何でそんなにぴりぴりしてるの・・・」
黒ジェスター2
「そ、そうです・・。い、いつもみたいに逃げましょうよ・・」

女性の黒ジェスターがリーダーらしき黒ジェスターに話しかける。

黒ジェスター
「リーダーに逆らうんじゃねぇ・・・」

この黒ジェスター・・。凄いリーダー意識が強い・・・。
古典的な嫌われるタイプ・・。権力で物を押し通してるんだろう・・・。
私はずっと飼われて育ってきたから野生の特性は知らないけど何かムカツク!

黒ジェスター
「おい。お前達は引き続きベリーを収穫しろ。
俺はこいつを殺して見せしめにする。そうすればゲンもエリスも
大人しくこの農場を見捨てるだろう」
ジェスター
「何でそんなにこの農場を必要とするの!食べ物だったら他の場所行けばいいじゃん!
ちょっとやりすぎだよ!」
黒ジェスター
「誰も食べるためだけに取ってるとは言ってねぇーよ!!」

黒ジェスターが腰につけていたナイフを抜き取り襲いかかってきた!
周りの黒ジェスターから悲鳴が上がる。同族の戦い・・!!

ジェスター
「えええいい!!」

キュピルの愛剣である赤い剣を抜く。刃は鋭くないけど斬れるレベルだ・・!
思いっきり横に薙ぎ払う。剣の扱い方はキュピルの真似をすればいいはず・・・。
だけど凄い高くジャンプされて回避される。

ジェスター
「!?」
黒ジェスター
「甘い。俺は普通のジェスターとは一味ちげぇんだよ!」

そのまま勢いよく飛び蹴りしてきた!
すぐに横にステップして回避する
黒ジェスターが着地する瞬間を狙ってキュピルの剣を投げた!

黒ジェスター
「ありがとよ」

黒ジェスターが剣をキャッチする。取られた・・!!
だが、黒ジェスターがキャッチした瞬間剣の刃がボロボロになった。

黒ジェスター
「なに・・?」
ジェスター
「まだまだー!!」

今度は愛用の棍棒を手に取る。やっぱこっちのほうがいい!リーチ短いけど
スイッチを入れて出力をMAXにする。今この状態で思いっきり殴れば致命傷ダメージ・・!

ジェスター
「とぉー!!」
黒ジェスター
「動きがとろいんだよ!」
ジェスター
「っ!!」

回避されてしかも腹に膝蹴りを食らわされる。
更にナイフで追撃をかけられる。・・・が、それは上手く回避する。
その時罵声が聞こえた。

ゲン
「このやろう!!よくもエリスのお気に入りなジェスターに手を出したな!!
許さん!!」

ゲンがスコップを持って駆けつけてきた!

ジェスター
「ゲンさん!」
ゲン
「うおおおお!!」

スコップで黒ジェスターを叩き付ける。
しかし後ろにジャンプして避ける。
・・・が、そのジャンプの着地を狙ってジェスターが棍棒で殴る!

ジェスター
「当たって!」
黒ジェスター
「ぐっ!」

最大出力ではないが棍棒の攻撃が黒ジェスターに当たる。倒れろ!
・・・が、まだ元気だ・・。おかしい・・。とても同族の体力だとは思えない・・・。

ゲン
「こんのおおおお!!」

スコップで黒ジェスターの頭を殴る。見事に命中!

黒ジェスター
「小ざかしいんだよ!!」
ゲン
「あっ!!?」
ジェスター
「!!!!」

黒ジェスターのナイフがゲンの腹を突き刺す。
黒ジェスター達の間で更に悲鳴が広がった。


続く


第3.5話(非常に短いので今回は厳密に4話としません。


黒ジェスター
「・・・」
ゲン
「・・この!」

ゲンが叫ぶと黒ジェスターを思いっきり素手で殴った。
黒ジェスターがナイフを離して少し吹き飛ぶ。

ゲン
「おらぁー!殴られたくなければとっとと出てけ!!」

ゲンが回りの黒ジェスターを威嚇するとすぐに他の黒ジェスター達は逃げて言った。
状況が状況だと悟ったのかリーダーらしき黒ジェスターも逃げていった。

ジェスター
「だ、大丈夫!?」
ゲン
「ひとまず休まないといけねぇ。」

ゲンが腹にささったナイフを引き抜く。まるで痛みを感じてないかのように不器用に引き抜く。
しかし歯を食いしばってる辺りをみるとやはり痛いらしい。
しばらくすると、すぐにエリスもやってきた。
エリスがゲンをかかえて家に戻る。私も草の上に落ちてるキュピルの愛剣を回収して戻る。

その夜。怪我とは関係ない話で少し深刻な話題になった。





翌日。また黒ジェスター達がやってきた。
いつも通り農園を荒らし回っている。


黒ジェスター2
「・・・今日は来ませんね。ゲン」
黒ジェスター
「昨日ので俺等のことが怖くなったに違いない。いつも通り奪うぞ」

その日は気の済むまで荒らしまわったあげく戻っていった。
しかし、それは自らの首を絞めることに繋がっていた・・・。




ゲン
「今電話をした。今日の晩少し向こうに行って来る。」
エリス
「ついに怪我沙汰にもなったし・・・。もうどうしようもないのかしら・・・」
ジェスター
「・・・・」
ゲン
「ふん、これまでの罰が下るだけだ。俺等は何も悪くない。あいつ等が馬鹿なだけだ」

ゲンが電話帳をテーブルの上に置く。それをジェスターが見る。
ゲンが電話をかけた先は『専門・ジェスター駆除センター』。
どういった仕事をするのか分からないが少なくとも一つ分かるのは

どう考えても文明、力の差が圧倒的に見える展開になることだった。
圧倒的なパワー・・。


その夜の晩はジェスターとエリスだけで食事をした。

エリス
「ねぇ、ジェスターちゃん」
ジェスター
「ん・・?」
エリス
「もしかして、怖い?」
ジェスター
「うーん・・・。」

少し悩んでから言う

ジェスター
「怖いというよりは・・・。うーん・・。」

なんていえばいいのか分からない。
今ジェスターの中で。明日をイメージすると次々と殺されてく黒ジェスターのイメージしかない。
きっと銃器とかで一掃してしまうのだろうか。

エリス
「ジェスターちゃん。ここから離れたかったらもう離れていいのよ」
ジェスター
「え?」

一瞬何を言ってるのかわからなかった。

エリス
「ジェスターちゃんにとって赤の他人である私達の問題だから
あんまり深く考えないで次の街に行っちゃっていいのよ。食料とかお水は私が用意してあげる」

ようするにエリスは気をつかってくれてるようだ。
同族の血はやっぱり見たくない・・・・。でも。

ジェスター
「私あともう一日だけここにいます。そして黒ジェスター達がやってきたら
最後に忠告だけ言って私はもう次の場所に行きます。」
エリス
「うん、そうね。わかったわ」
ジェスター
「これってもう、どうしようもないんだよね?

シチューを食べながら言う。

エリス
「まだ打つ手はあるのかもしれないけど・・・。昨日はついに夫が刺されてしまい
あらゆる手段を尽くしたけど三ヶ月間ずーっと荒らされ続けて。
そうね、もうどうしようもないのかもしれない
ジェスター
「どうしようもない・・・かぁ・・・」

ジェスターもエリスと同じくなるべく穏便に済ませたかった。
しかしやはり命の危険までくれば・・。話は変わってしまうのだろう。
でもこれは自分達にとって最終的に利益をもたらすから言える一言である。
もし立場が逆だったらもっとあらゆる手を尽くしているかもしれない・・。

ジェスター
「(もしかして・・。)」

今ジェスターの頭の中で色々考えている。
どうしようもない。この言葉が出てくる時って・・。言い換えてしまえば
めんどくさくなった。面倒になったから絶対に解決できる手段を選ぶ。
まだその問題を解決しようと思う意欲があればこの一言は出てこないかもしれない・・。

ありとあらゆる条件が重なった時にひょいと出てくる何気ない一言。
しかしその何気ない一言こそ自らの地位、文明、力の差を表す一言。
今それにジェスターは気づいたような気がした。

ジェスター
「(簡単に言っちゃいけない言葉かも・・・)」


一人で激しく悩みご飯を食べた後はすぐに寝た。




翌日。今日この家を出ることになってるので
いつでも次の街へいけるように荷物を整える。
食料や水はエリスが用意してくれた。四日分くらいある。

ジェスター
「ありがとうー」
エリス
「いいのよ、また来てね。ジェスターちゃん」
ジェスター
「うん。」

その時扉が開いた。ゲンと五人ぐらいの作業服を着た男たちが入ってきた。
全員長い袋を抱えている。

ゲン
「やつ等はもう少しすれば来る。その間に準備を済ましておいてくれ」
作業員
「任せてください。すぐに撃って見せますよ」

そういうと袋から長い狙撃銃が出てきた。
これはルイの部屋で見たことある・・・。弾とかを色々チェックしている。

ジェスター
「・・・・あ」

窓から黒い塊が見える。黒ジェスター達の集団だ。

ジェスター
「それじゃ、私そろそろ行ってきます」
ゲン
「ん、もう行っちまうのか。まぁ、そうだよな。」
ジェスター
「私・・最後にちょっと黒ジェスター達の所にいって話だけしてきます。
その後そのまま私は再び放浪します。」
エリス
「分かったわ。ジェスターちゃん、それじゃ気をつけてね」
ジェスター
「お2人とも、お元気で」

慣れない言葉を使って出て行く。

ゲン
「・・・・ちょっと待ちな」
ジェスター
「え?」

ジェスターが振り返る。

ゲン
「腰に結び付けてる剣の紐が緩い。それでは落とすぞ」

そういうとゲンがきつく結び付けなおした。

ゲン
「これでいいだろう。気をつけてな。」
ジェスター
「うん、ありがとう」

淡々と言い扉を閉めた。今は色々複雑な気分である。




黒ジェスター2
「・・・誰か来ました。白ジェスターです」
黒ジェスター
「なに?ふん、また来たか。このベリーは俺達にとっても食べ物にもなるし金にもなる。
変な事を言うようだったら倒しておけ」
ジェスター
「黒ジェスターさん」
黒ジェスター
「え?」

思わずさん付けで呼ばれたので戸惑う。

ジェスター
「あと少ししたら圧倒的な力の差を見せ付けられることになるよ。
そうなる前に早く逃げたほうがいいよ。そして二度とここに来ないほうがいいよ・・・」
黒ジェスター
「・・・はっ、何を言い出すのかと思ったらそんなことか。
向こうに圧倒的な力があるはずはない。あったとしても何故三ヶ月間も出し惜しみした」

出し惜しみしたんじゃない・・・。穏便に済ませたかったんだ・・・。

ジェスター
「違う。穏便に済ませたかったの。だから・・・」
黒ジェスター
「うるせぇなぁ・・・。文句があるなら力で示せ。それが俺達のルールだ」
ジェスター
「すぐに見たこともない力に襲われるよ」

それだけ言ってジェスターは立ち去った。
すぐに銃撃が始まる。走って逃げよう。





走って5分ほど。一発目の銃声がこっちにまで届いた。
遠いが聞こえる。続いて2発目。三発目。次々と発砲音が鳴り響く。

きっと黒ジェスター達は一種の撹乱状態に陥っているだろう・・・。
未練を残しつつジェスターはその場を後にした。








==三時間後 ベリー農場。


エリス
「まぁ、凄い事・・・」
ゲン
「なんでぇい、実弾じゃなく麻酔弾だったのか」
作業員
「野生のジェスターは大変貴重ですから。こんなに大量のジェスターが
逆にここを襲うだなんて珍しい事だったんですよ。」

農場には一人残さず全員横に倒れて寝ている。

エリス
「ジェスター達はこの後どうなるんですか?」

恐る恐る聞く

作業員
「あぁ、それはそっちの自由でいいですよ。
我々の仕事はあくまでも依頼主のご要望通りに動くだけです。
完全にこの農場から駆逐したいのであれば我々が一匹残さず施設に送ります。
このまま逆に放置するならそれでも構いませんが。」
エリス
「・・・私にいい案があるわ!ちょっと聞いて」
ゲン
「・・・はぁ?」


この案が放浪しているジェスターの耳に入るのはそう遠くない日であった。
しかし今はそれを知る手段はなかった。

続く


4話


歩き続ける事実に一日。
木の側で刀で自身を支えながら寝てちょうど今起きたばっかりであった。
食料はまだ三日分もある。余裕があるって素晴らしい。

今歩いてる道は牧場道とも言えそうな道。土道だがぬかるんでなくて歩きやすい。
そして遥か遠くに城下町がるのが見える。

ジェスター
「あれが『ローロ』という名前の街なのかな!?」

初めて訪れたキュピルもきっと行ったことのない未知の街。興奮は隠しきれない。
髪をパタパタさせながら城下町へ全速力で飛んでいった。










==キュピルの家

ファン
「どうですか?キュピルさん。体調のほうは」
キュピル
「わからないなぁ・・・。昨日と変わらん」
ファン
「・・・・・・」
キュピル
「何、心配する事はない。いつも通り過ごしていればいい」
ファン
「キュピルさんは何時も通り過ごすことが出来るんですか?」
キュピル
「・・・・・・」

体の免疫力が低下している。病気にかかっているっぽい。
しかしあらゆる病院に行ってもこの病気は何なのか分からない。
今頼りになる人は二名だけだ。

ファンとルイ・・。

ルイ
「キュピルさん。やはり私が思うには幽霊刀と離れたのが原因だと思います。
今まで何度も幽霊刀の力に頼った影響で幽霊刀から離れると何か副作用みたいな
そういうのが起きてるんだと思います」
キュピル
「まいったな・・・。このまま風邪っぽい病気にかかるだけなら別にいいんだ。
悪化しないんだったらな・・・」
ルイ
「幽霊刀の伝記によると・・・。こんな・・・」

ルイから本を受け取る。

キュピル
「・・・・なるほど。化け物になる可能性があるのか。」
ルイ
「でも本音言っていいですか?」
キュピル
「何だ?」
ルイ
「私吸血鬼とかそういう化け物好きだからいっそのこt・・・」
ファン
「ルイさん」


ファンの威厳のある一言が飛び出る。
思わずルイが黙る

キュピル
「ファン、お前さんたくましくなったな。昔と比べると大違いだ」
ファン
「レベルが上がればこんなものです」
ルイ
「どうせ私は年齢というレベルしか上がりませんよーだ」
キュピル
「まぁまぁ。わし等人間はそんなものだ。ジェスターやファンみたいに約束された成長はしない」
ルイ
「うーん、でもこのままだとキュピルさんが人間じゃなくなりますよね」
ファン
「ジェスターさん・・・。なるべく早く放浪を終わらせてくださいよ・・。」
ルイ
「そうだ、ジェスターさんを探しましょう!ファンさんの技術と私の魔法があれば・・
キュピル
「別にいい。ジェスターには好きなだけ放浪してもらう。化け物になった時はなった時に考える。
さぁ、重い雰囲気はやめだ。腹が痛い。何か腹に優しい朝食作ってくれないか?」
ルイ
「それなら私が」


キュピルから離れ行く幽霊刀。異変は少しずつ起きていく。







==城下町 『ローロ街』


ジェスター
「わぁ!すごい!」

兵士に守れたでかい門をくぐると、そこはレンガで出来た橋に建物。
馬車やあちらこちらにいる魔術師。そして何よりも目前にある大きな城。

大きな時計塔だってあるし城壁の外に行けばそこには無限に広がる森と畑。
街は魔術店から武器店。少し中央の方に走って辺りを見回せば市場だってある。
広くて街も綺麗で何よりも活気に溢れていてジェスターの興味心を損なわせない。

ジェスター
「そうだ・・・」

この街に来て一番最初にやらないといけないこと。それは・・

ジェスター
「キュピルに頼まれた事をやらなきゃ・・」

このキュピルの愛剣を直してくれる人を探さないと。
まずは鍛冶屋に行ってみよう



==ローロ街・鍛冶屋


店主
「おや。珍しいお客さんだ。」

物凄い大柄な店主が現れた。

ジェスター
「すいませーん。ここって修理できますー?」
店主
「おう、できるぜ。うちの鍛冶の能力は凄いんだぞ。あのでっけぇ罐(かま)を見てみ。
どんなに上質な鋼鉄だってあの罐にかけちまえば溶かすのだって出来るくらいだ。
あれで武器を熱に一旦溶かし、形状を元に戻すんだ。
そうすることによって刃こぼれを直すことができるんだ」
ジェスター
「へぇー。すごい」
店主
「さぁ、小さな小さな剣士さん。お前さんの直したい剣とはどれなんだい?」
ジェスター
「これー」

赤い剣をカウンターに置く。

ジェスター
「よ、よいしょっと!」

カウンターが高くて置くのに一苦労した

店主
「ほぉ。こいつは中々上質な剣だな。ベースはモナ怒りの血だな・・・。
こんな上質で最強な剣で戦うジェスターはきっとお前さんだけだ。誇りに持て」
ジェスター
「良く分からないけど誇りにもてるんだ。えっへん」

胸をはって自身満々の笑顔で威張る。

店主
「ガッハッハ。おかしな奴だ。どれ、どのくらい刃こぼれしてるか見せてもらおう」

店主が剣を引き抜く。

店主
「だぁー!こいつはひでぇ刃こぼれだな!おめぇ今までよくそれで戦ってこれたな!」
ジェスター
「もう一本あるもん」

幽霊刀を示す

店主
「ん、そいつは・・・。随分と落ち着きを備えてる剣だな・・。それでいて
普通じゃないオーラーも出している・・・。ちょっと待ってくれ。見せてくれないか?」
ジェスター
「え?いいよ」

紐を解き渡す

店主
「・・・・・・・がぁー。こいつ。鞘から抜けないな。」
ジェスター
「それは霊能力がないと引き抜けないよ」
店主
「そうなのか。こりゃ参った。俺はそういのてんでだめだ」

店主が幽霊刀を帰す

店主
「とにかくコイツは俺が修理しておくぜ。代金は前払いでいいか?」
ジェスター
「うん。いくら?」

ポケットから小さな財布を取り出す。

店主
「そうだな。うちはどんだけ刃こぼれしても一律の値段にしてるんだ。
10000Seedでどうだ。」
ジェスター
「一万Seed?もうちょっと値下げしてよー5000!」

払えるには払えるのだが少し高額だ」

店主
「5000はきついな。9000」
ジェスター
「7000!」
店主
「ハハハ。可愛い剣士さんでもコイツは引き下がれねぇな。9000だ」
ジェスター
「むぅー。しょうがないなぁー」
店主
「こっちのほうがしょうがないんだが」

渋々9000Seed払う。

ジェスター
「それじゃぁ、また来る!」
店主
「任せておきぃ」

そういうと鍛冶屋から出た。



ジェスター
「さーて!何しようかな〜!」

初めておとずれた雰囲気のいいこの街。
お金は家を出た時、元々家出の予定だったため自分の貯金箱全部と
家の貯金を少し持ってきてる。

返す気はない。

ジェスター
「よし、今日は遊ぶぞ〜」

腕を横に広げて走り出す。





ジェスター
「う〜ん。と、いっても私この街のこと全然知らないからどこが名所なんだろう・・」
若い人
「そこの白い人。この街にきたのは初めてか??」
ジェスター
「ん?」

馬車に乗っていた若い男性が声をかけてきた

ジェスター
「そうだよ。その馬車何?」
若い人
「この馬車はお客さんを乗せて指定された場所まで運ぶ馬車だ。
別に貴族専用だとか荷物を運んでるわけじゃない。
この街の事全く知らないならこの街の名所を全部案内してやろう。ツアー価格でな」
ジェスター
「いくら?」
若い人
「レストランとか雑貨店で買う代金を除けば3000Seedでいい」
ジェスター
「乗った!」

ジェスターが馬車に乗る。乗り心地は良い。

若い人
「あいよ。それではさっそく行きますよ旦那さん」

馬に軽く鞭を入れて走らせる。

ジェスター
「旦那さん?私女性なんだけど・・」
若い人
「なに?こいつは失礼したな。ご婦人方」
ジェスター
「ご婦人?なにそれ?」
若い人
「本来は成人した女性に言う言葉なんだが見たところ成人はしてなさそうだな」
ジェスター
「ジェスター界での年齢なら私はもう成人してるよ(大嘘」
若い人
「ほぉ。それならご婦人でいいか。」
ジェスター
「でもなんかしっくりしないなぁ〜。」
若い人
「なら、何て言えばいいんだ?」
ジェスター
「天使!」
若い人
「さぁ、ご婦人方。今向かってる場所はこの街の一番の名所。時計塔だ」
ジェスター
「スルーされた・・・。
・・・時計塔?あのでっかい塔?」

Xとか\とかそういった文字でかかれてる。読めない。

ジェスター
「でも何時だか読めないんだけど」
若い人
「そいつは凄いな。今ご婦人が示した文字のXは5だ。\は9。」
ジェスター
「私の知らない言葉。」
若い人
「自分の飼い主から教わらなかったのか?」
ジェスター
「ちょっと待って。どうして私が誰かのペットだとわかったの?」
若い人
「普通は気が付くものだぞ。野生とペットの差は」
ジェスター
「どの辺り?」
若い人
「見た目」
ジェスター
「見た目で分かるの?」

質問攻め

若い人
「分かる。というよりこの辺の野生のジェスターは全員凶暴な上に群れて行動する。
ご婦人みたいに単独なのもそうだが何よりも街に来ない。捕まるからな。
それに仮に来たとしても誰かを襲う。それだけ凶暴なんだ」
ジェスター
「へぇー・・・」

心当たりがあるから少し困る。

若い人
「さぁ、ついたぞ。ローロ街の名物。ラシェン時計塔だ。
俺はここで待ってるから見物しにきな」
ジェスター
「わーい。いってきまーす」



=ラシェン時計塔

ジェスター
「へぇー。中にも入れるんだ。入ってみようかな」
受付
「入場料1000Seedです」
ジェスター
「・・・高いんだね・・」


=ラシェン時計塔内部

ジェスター
「この階段をず〜〜〜〜っと上っていけば展望台に出れるみたいだけど・・・
エレベーターとかそういうの全部ないんだ・・。凄い面倒!!やっぱ入るんじゃなかった!」

しかしここで引き返すのは正直いってお金が凄い勿体無い。

ジェスター
「・・・行こう・・・」

長い長い階段を上っていく。
平面地での移動なら足を使わずに少し浮いて移動したりして疲れずに移動が出来るが
登りは別。そこまで飛ぶことができない。

ジェスター
「うー・・。」



上る事10分。やっと展望台に到着した。

ジェスター
「やった!・・・けど思ったより人いないんだねー・・」

周りを見渡しても人一人いない。
・・・・あ、一人いた。・・・あれ?またジェスター?最近ジェスターよく見かけるなぁー
あれ・・でも・・。

ジェスター
「・・・私・・・?」

一瞬自分と見間違えた。

ジェスター
「髪も服も靴も目の色も全部私と同じ色だ・・・」

唯一の違いは私は冠を持ってきていないことだけだ。
(武器の違いは当然あるけど


だけどこっちに気づいていないようだ。


ジェスター
「私と同じ旅の者?それとも野生?」

でもさっき若い人から聞いた話だと野生のジェスターはこんなに大人しくないだろうし・・・。
それにここに来る意味が分からない。
その私そっくりなジェスターが展望台の柵の近くに行く。
柵の先には素晴らしい景色が広がっている。
が、高いので高所恐怖症な私にとってあんまり近づきたくない。

ちょっと気になる。話しかけてみようかな。

話しかけてみようと思ったその瞬間だった。
自分そっくりのジェスターが柵を乗り越え自ら落下しようとした・・!

ジェスター
「わわわ!!何やってるの!!」

慌てて自分にそっくりなジェスターの足を掴んで引き戻す。
誰かに引き止められたのに気づいたそのジェスターは暴れて落ちようとしている。

自分にそっくりなジェスター
「離して!!死なせて!!」
ジェスター
「そんな物騒な事言わないで!!とりゃあー!!」

普段から武器を取り扱ってるジェスターの方が少しだけ力が強く
なんとかして柵から離す事が出来た。スタッフとか誰かここに監視おいたほうがいい!
その後はまた柵を乗り越えて自殺しないようにしっかり肩を押さえつけている。

自分にそっくりなジェスター
「死なせてよー・・・。ひっく・・ぐすん・・・」
ジェスター
「ねぇ、どうしたの?こんな所で死んだら貴方の飼い主もきっと泣いちゃうよ?」
自分にそっくりなジェスター
「三日前にそのご主人様が死んじゃったから私も死ぬの!」
ジェスター
「(ガーン!逆効果だった!)」

余計暴れてしまった。とにかく暴れさせないようにしっかり肩を押さえつける。

ジェスター
「ねぇ、名前なんていうの?」
リリ
「リリ・・・」
ジェスター
「(・・・その名前まえ自分でつけようとした名前なんだけど・・・)」

ますます自分そっくりになってきて見殺しに出来なくなってきた。

ジェスター
「ねぇ、リリちゃん。どうしてその飼い主さんは死んじゃったの?」
リリ
「予期せぬ事故に巻き込まれちゃって・・・。
それで病院に行ったけど手遅れで・・・うっ・・・うっ・・わああああーーーーん!!」

大声で泣き出してしまった。余程懐いていたのだろう・・・。
とりあえず背中をさすって気が済むまで泣かせる。昔やってもらった時みたいに。

しばらくすると落ち着いたらしく冷静に話せるようになってきた。

リリ
「私・・ご主人様が死んだ時一人で生きようと決心したんだけど・・・
どうやって生きていけばいいのか全然分からなくて・・・。
ご飯も水も手に入らなくてお金もなくて・・・。私に力なんて全然ないから・・
それで・・餓死は苦しいからいっそ楽になれる飛び降りで・・・」
ジェスター
「ねぇ・・。その飼い主さんの知り合いとかお友達とかに頼ったりはできなかったの?」
リリ
「頼ったよ・・。だけど全部断られた・・・。皆自分が可愛いから面倒な事h・・」

その先はジェスターがさえぎった。

ジェスター
「だったら貴方も自分の事可愛がりなよ!!そんな逆に辛い方面に行かないでさ!」

ジェスターがこんな風に怒鳴るのは初めてだった。

リリ
「このまま生きていくのが辛いから死ぬの!だから死んで楽になる!」

また暴れ出した。だけど顔をしっかり抑えてこっちに向けさせる。
その顔は少し怯えてる。

ジェスター
「まだ全然色んな事試してないのに勝手に死なない!!!!」



ジェスターの声が響き渡る。
リリがまた静かになる。

リリ
「試したよ・・。誰か私を助けてって・・・」
ジェスター
「違うよ!自分ひとりだけで生きていく方法を試してない!」
リリ
「・・・・例えば・・?」
ジェスター
「自分で働いてお金を稼ぐと・・・か・・・」

言ってて段々自信がなくなってきた。
考えてみたら自分も偉そうな事はいえなかった。

今こうして旅できてるのもキュピルの気遣いのお陰だし
私だって自分で働いてお金を作ってるわけじゃないし・・・。

ジェスター
「・・・・・・・」
リリ
「どうしたの・・?急に黙っちゃって・・・」

でも、今ここは本当の事を言うんじゃなくて嘘でもいいからこの子を救わないと・・!

ジェスター
「いい?私も貴方と同じ状況に陥ったことがあるの。
自分の飼い主・・ご主人様が居なくなっちゃったことがあるの」

ある意味これは間違ってはいないかもしれない。エユの事である。

ジェスター
「それで最初は自暴自棄に陥った・・・。だけどね。私は生きたかったの」
リリ
「どうして・・?」
ジェスター
「確かにね、居なくなった時は「捨てられた・・・」とか「死んじゃったんじゃ・・・」とか思ったよ。
それで凄い苦しくなっちゃって生きていくのも辛くなって・・・。
だけど、どうしても死ぬわけにはいかなくなったの。
私の事を知ってる人が居る限り死んだと知らせたくなかった。弱い人だと思われたくなかった。」

少し間が開く

リリ
「・・・それは貴方の事を心配に思ってくれる人がいたからでしょ・・・?
私は誰も・・・。」
ジェスター
「じゃぁ、もし貴方の事を心配に思ってくれる人がいたら今からでも思いとどまる?」
リリ
「思いとどまる。だけどいないから・・・」
ジェスター
「私が心配してるじゃん!!」


気づいてよ!って一言多く言いたくなったけど踏みとどまる。

リリ
「え・・・?」
ジェスター
「もー、気づいてよ。私貴方の事がすっごい心配なの!
私と同じジェスターな上に見た目までそっくりだから死んでほしくない」
リリ
「うーん・・・でも・・。私・・・」

な、なんて手ごわい相手・・・。
もう強行策!

ジェスター
「分かった!お腹すいてるから正常な判断が出来ないんだ!
とりあえず下に馬車があるから乗ってレストラン行こう」
リリ
「え?え?」

無理やり腕を引っ張って階段を下りる。
下りは飛べるからすぐに降りれた。

とにかくこんな場所から離れさせて悪い思想を吹き飛ばさないと。



さっき乗ってた馬車に再び乗る

ジェスター
「おじさん!レストラン!」
若い人
「ちょっとまて、おじさんって何だ。俺はまだ24だからな!
しかもその双子みたいなそっくりさんは誰だ。いつ連れてきた」
リリ
「えっと・・その・・・」

さっきは自暴自棄に陥ってて根はそんなに強きではないようだ。
見た目は凄い似てても内面はかなり正反対だ・・・。

ジェスター
「いいから早く〜」
若い人
「・・・分かった分かった。それでは次の名物。シェルザパートっと言う
庶民の間で根強い人気を持ち味も上手い店だ。」

馬車は走っていく。



後編に続く




追伸

んー・・。なんかシーズン10長いな。思っていたより。
どうも前編・後編っと別れてしまう。そうなると少し面倒だしなぁ・・。


4.5話(後編)



若い人
「ここがシェルザパートだ。お値段もお手頃で上手い料理が食える場所だ。
俺はここまで例の如く待っている」
ジェスター
「分かった、食べてくる。行くよリリちゃん」
リリ
「え、でもお金・・・」
ジェスター
「分からない?私がおごってあげるの」

腕を引っ張って店の中に入る。



=シェルザパート


ジェスター
「(値段は普通みたいだね・・。特別高級だとかそういうのじゃなさそう・・)
とりあえず何でも頼んでいいからね。お腹が減ってちゃマイナス思考しか出てこないから」
リリ
「う、うん」

リリがメニューを見て考えてる間、周りを見渡して見る。
普通の人間同士で店に来てる物もいれば私達みたいに自立したペットが来ている人もいた。
そういう中では私達みたいにペット同士で店に入るってのもここでは普通なんだろう。

ジェスター
「メニュー決まった?」
リリ
「は、はい。とりあえずラーメンを・・」
ジェスター
「この店見た目はフレンチレストランっぽいのに何かメニューの種類多いよね。
よし、ワシもラーメンにしようっと」




注文した後の誰も喋らないこの間は何か色々辛い。

リリ
「ところで・・。どうしても疑問に思っていたんですが・・」
ジェスター
「ん?」

リリが質問してきた。

リリ
「その腰につけてる剣・・。貴方は剣士なんですか?
それにさっきは背中に鈍器みたいな棒を装備していたし・・」
ジェスター
「そうだね。どちらかというと戦士なのかなー?
私笛吹けないんだよねー。」
リリ
「そうなんだ・・・。もう一個質問していい?」
ジェスター
「なに?」

少し間を置いてから喋り出した

リリ
「どうして私の事を心配してくれたの?
会ったばっかりだから赤の他人の振りをして見過ごしてたりするよ。普通の人は・・」
ジェスター
「普通の人はそうかもしれないね。でも私同種の死体は見たくない。
もっと言えば死なせたくない。だからリリちゃんが自殺しようとした時引き止めたの」
リリ
「でも私は・・。この先、生きていく自信がないです・・」
ジェスター
「でも、そこは何としても生きていく方法を見つけてもらわないと私も困るよ・・。
ずーっとリリちゃんを養う事なんて私は出来ないし・・。自分で精一杯だから」
リリ
「具体的にどうすればいいんですか・・?」
ジェスター
「そうだね・・。まずは仕事・・とかを探してみるのはどう?この大きな城下町なら
私達ジェスターでも出来る仕事は結構あるはずだよ。」

じゃなきゃこの店内にいるペットはどうやってお金を稼いでるのか理解できなくなる。

ジェスター
「死ぬのはまだ早いよ。まずは試してみてよ」
リリ
「・・うん、わかった。探してみる」
ジェスター
「よし、それならまずは食べてお腹を満たさないとね」

言い終えたのと同時にちょうどラーメンが出されたので黙々と食べた。







若い人
「ここが宿。スカイバードっていう名前だ。値段も場所もお手頃だな。
さぁ、今日の移動はこれで終了だ。お疲れさん。」

馬車から降りる。

若い人
「どうする?明日も利用するか?」
ジェスター
「んー・・。大丈夫。歩くよ」
若い人
「わかった。またのご利用をお待ちしてますよっと」

そういうと若い人はどこかに言った。


ジェスター
「リリちゃんはこの後飼い主さんがいた家に一回戻るんだよね?」
リリ
「うん。一応寝る所だけあるよ」
ジェスター
「私はこの宿に後二日いるからその間何かあったらここに来て。」
リリ
「わかった。それじゃ」


その後は部屋を借りて宿のベッドに横になる。


ジェスター
「あー、疲れた〜・・・」

ずーっと野宿だったからベッドが気持ちいい。

ジェスター
「リリちゃん大丈夫かな・・・」

何か色々不安な所が多い。
けど自分も思っていた以上に疲れていたみたいで強い睡魔が襲ってきたので
寝る前にシャワーを浴びて身支度整えてから寝ることにした。




翌日。


目覚めは悪い方だった。久々のベッドでかなりの間眠ってしまったようだ。

ジェスター
「うーん・・。眠い〜・・・」

・・・でも、自宅じゃないし誰かが起してくれるわけじゃないからひとまず起きる。
時刻は・・。

ジェスター
「ぎゃ、11時!!」

久々に代寝坊した!
ひとまず昼食に近い朝食を軽く済ませて先ず自分のやるべきことを済ませておこう。
他の事はそれからで。

内心で呟きながら鍛冶屋に向かって走っていった。




==鍛冶屋


店主
「いらっしゃ・・ん、来たな」
ジェスター
「来たなって・・・。まるで私が敵みたいじゃん」
店主
「悪い悪い。」
ジェスター
「ところで、あの赤い剣の修理はどうなった?終わった?」
店主
「まだだ。硬度のある武器は修理が終わるのも時間がかかるものだ。
こいつは随分とまた硬いな。」
ジェスター
「なんだ、それならまだ終わってないってことなのね」
店主
「まぁ、そういうことだ。あともう一日欲しい。その頃には直しておく」
ジェスター
「うん。それじゃお願い」

鍛冶屋を出るジェスター。店主は再び工房に戻っていった。



ジェスター
「よーし。今日はまだ見てない場所を見て回ろう〜っと」

運がよかったらリリに会うかもしれないし。
街を駆け回るジェスター。

街を駆け回っていると凄い大きな荷物を運んでいる馬車を見つけた。
荷物は歩行者からでも分かる。たくさんのベリーだ。

ジェスター
「あれ?・・・もしかして・・・」

馬車を一生懸命追う。
しかし馬車も少なくとも走りよりは早い速度で走っているので
持ち前の移動が早い低空飛行をしても中々追いつけない。

ジェスター
「息切れ・・してきたー・・!!」

馬車が止まった。目的地についたらしい。
目的地の近くで見つけてよかった。
馬車から誰かが降りた。エリスさんかゲンさんかな?
・・男の人だ!

ジェスター
「ゲンさーん」
男の人
「ん?俺か?」
ジェスター
「あ・・・。すいません、人違いでした・・・」

全然違う人だった・・。ちょっと単純だったかも・・。私・・・。



馬車が止まった場所から少し歩くと今度は不思議な店を発見した。
かなり行列が出来ているが・・。

ジェスター
「なんだろう、これ?」

近づいてみると看板が見えた。占いって書いてある。

ジェスター
「こんなに並んでるってことは当たるってことだよね?」

せっかくだから並んでみることにする。




しかし並んでみたのはいいものの中々列が進まない。
並んだ時待ち人数は大体15人ぐらいだったと思うが一時間経って残りまだ12人もいる。
ってことは残りあと一時間ぐらいも待たないといけないのだろうか?

ジェスター
「(並ばなければよかった・・)」

待つのは基本的に苦手だ。
ずーっと座るだけでも少し苦手ってくらいなのに。

ジェスター
「(私の出番が来たら遠慮なく色々占ってもらおうっと・・・)」

並んだ分の楽しみは返上したい。



待つこと更に2時間。ようやく自分の番が回ってきた。

ジェスター
「ようやくだー!」

もう立ち疲れた。
中に入るとイメージとは全く違う占い師がいた。
そもそも部屋の中が占いっぽくない。
しかし逆を言えばインチキ占い師っぽくはない。

占い師
「・・・1万Seed」
ジェスター
「え?」
占い師
「前払いです」
ジェスター
「ほ、法外な値段!!」

思わず叫ぶ。
たった占いぽっちで1万も取られるなんて!

占い師
「法外だと思うなら出て行ってかまいません。しかし
占いは確実に当たると予言だけしておきます。」
ジェスター
「む、むぅー・・・」

キュピルの口癖である「むぅー・・」を思わず口ずさんでみる

占い師
「・・あなたの仮の飼い主さんの口癖を口ずさんでも結果は変わりません」
ジェスター
「え!なんで分かったの!」
占い師
「ですから、占い師ですから」

・・・せっかく並んだんだし、当たりそうだから払ってみる価値はありそうだ・・。

ジェスター
「・・わかった、払うよ」
占い師
「それでは、何を占ってほしいのですか?」
ジェスター
「一つだけ?」
占い師
「いくらでもどうぞ」

あぁ・・。だからこんなに待ったんだ・・・。
遠慮なくガンガンぶつけてみる。

ジェスター
「私このまま放浪続けてもいい事ある?」
占い師
「あります。少なくとも貴方のためにはなります」
ジェスター
「具体的にどんな?」
占い師
「そこは自分の目で確認してください」

肝心な所は言わないんだ・・・。

ジェスター
「じゃぁ・・。今月の私の金運。」
占い師
「最悪です。お金が高速で消えていきます」
ジェスター
「ぎゃぁー!一番聞きたくない!」
占い師
「避けられません。観念しなさい」
ジェスター
「なんで・・。じゃぁ・・。」

色々考えてみる。
難しい質問をぶつけてみようーっと思ったけど
全然出てこない。仕方ないから無難なものをドンドンぶつけて
時間だけ消費してみる(最低

ジェスター
「そうだ。私今月健康でいられるー?」
占い師
「雲行きが怪しいです。どちらかというと精神的なダメージが重なり
鬱病になる可能性があります。」
ジェスター
「・・・なんか占いって聞かなければよかったっての多いね・・。
それじゃぁ・・・。あ、そうだ。さっきの質問なんだけど・・。
私が放浪を続ける事によってデメリットっとかって起きない?」
占い師
「あなた自身が損する事は殆どありません。その代わり
別の人が死地に追いやられます」
ジェスター
「え!?なんで!?私が放浪中に誰かを殺しちゃうの!?誰が死ぬの!?」
占い師
「それは貴方の目で確認してください」
ジェスター
「なんで肝心な所を教えてくれないの・・・」
占い師
「しかし安心してください。別に貴方が殺すわけではありません。勝手に死地に向かってるだけです。
それどころか放浪中貴方にとって全く関係ない人物が対象ですので」
ジェスター
「なんだー。それなら大丈夫そうだね」
占い師
「他には?」

もう大事な質問が見当たらない。適当にぶつけまくる

ジェスター
「明日剣直る?」
占い師
「明日になれば分かります。他」
ジェスター
「・・・・。なら、私の恋愛運!」
占い師
「恋愛は対象外です」
ジェスター
「・・・・。そうだ、リリちゃんは無事就職できる?」
占い師
「本人次第です」
ジェスター
「もう、後半どんどん滅茶苦茶じゃん!」
占い師
「知りません」
ジェスター
「・・・・」

いたずらに時間が過ぎていった。




占いが終わった後ご飯を食べたり城下町から出て辺りを散歩してみたり
色々やってるうちに気が付けばもう夕方になっていた。

ジェスター
「今日はもう宿に戻ろうっと。」

今いる場所は宿のすぐ近くなのですぐ到着できる。

ちょっと歩いて泊まってる宿にもうたどり着いた。
・・・あ。

リリ
「・・あ、ジェスターさん」
ジェスター
「お、リリちゃんー。どう?見つかった?」
リリ
「それが・・・」


ジェスター
「えー・・それは・・ちょっと・・」
リリ
「すいません・・」
ジェスター
「仕事が見つからなかっただけならともかく仕事探すのすら全然やらなかったって一体・・・」
リリ
「その・・。好きな仕事がなくて・・」
ジェスター
「今はそういうの決められるほど状況が裕福じゃないでしょー。
そういうのはもっと裕福になってから決めなよ」
リリ
「う、うん・・・」
ジェスター
「しょうがないねぇー・・。とりあえず夜ご飯は一緒に行こうか。おごってあげる」


夜ご飯はリリと一緒に食べて済ませた後
また解散してジェスターはすぐに寝た。



==翌日



主人
「悪い、まだ時間かかる・・。
ジェスター
「えー。予定は今日だよねー?」

朝起きてすぐに鍛冶屋に来たがまだ出来ていないらしい。

主人
「まぁ、そういうなって!割り引いてやるから。な?な?」
ジェスター
「・・・うーん。わかった。・・・あ、そうだ。一つ頼みごと聞いてくれる?」
主人
「ん?なんだ?」
ジェスター
「あのね、私の知り合いが仕事がなくて困ってるみたいなんだけどここで
働かせてあげることって出来る?」
主人
「お、そいつはこっちも逆にありがたいな。
こっちもちょうど募集していたところなんだよな、これが」
ジェスター
「おぉー!それはいいね。知り合いにあったらさっそく言うよ。まだ仕事見つけてなかったら」

そういうと鍛冶屋を出てリリを探しに出た。



しかし街自体が広くリリの家も分からないのでがむしゃらに探しても見つからないと判断して
夜になるまで宿で待つことにした。


==夜

ジェスター
「まだかなー・・・。・・・お、来た」
リリ
「あ、こんばんわ・・」
ジェスター
「どう?仕事見つかった?」
リリ
「・・・ごめんなさい・・」
ジェスター
「大丈夫。私が変わりに見つけてあげたよ!」
リリ
「え?」
ジェスター
「場所はね、街の中心からちょっと東にいった所にある鍛冶屋だよ。」
リリ
「そこにいけば・・いいんですか?」
ジェスター
「うん。そこで働けるよ。頑張ってね。明日もまだいることにしたから夜また会おうね」
リリ
「はい・・」
ジェスター
「どうしたの?ちょっと疲れてる顔してるけど」
リリ
「いえ、なんでもないです。ありがとうございました」
ジェスター
「??」

ひとまず今日もまた浅い一日を終えた。


再び朝を迎えた。
いつものように鍛冶屋に足を運ぶがまだ修理できてないという。
その分ドンドン割り引いてもらっているのでいいんだがホテル代に消えてゆくので+-0である。

その日もまた適当に歩いて夜になるのを待つだけだった・・・。


しかし、夜になってもリリは来なかった。
が、一応鍛冶では働いてはいるので昼たまに遊びに行って
どんな感じかは確認してる。少々苦しそうではあるが働いてはいる。


こんなことがなんと三日も続いてしまった。



ジェスター
「もー!いつになったら修理終わるのー!!」
店主
「すまねぇ!こいつは意地でもいいから俺に修理させてくれ!
こんな頑丈な剣は初めてだ!その間ホテル代は俺が出す!」
ジェスター
「もう完璧にプライド勝負だね・・・。
ところでリリちゃんはどう?」

もう働いて四日立つはずだがリリにあえない。

店主
「その前にあの子は働きたいと願ってたんだよな?」
ジェスター
「え?そうだけど」
店主
「ならいいんだが。一応働いてるよ。」
ジェスター
「よかったー。」


その日もまた夜リリが現れるのを待った。
・・・来ないだろうと思っていたが今日は久しぶりに来た。
・・・・が、なんだろう。ちょっと困った顔してる。

ジェスター
「どう?仕事」
リリ
「その、すいません!!あそこで働くのはやめました!」

いきなり衝撃的な事を言われた

ジェスター
「え?ちょっと、どうして!せっかく働ける場所見つけたのに!?なんで!?」

つい怒鳴る

リリ
「ジェスターさん。その・・。」

リリの腕をぎゅっと掴む。

ジェスター
「もー仕方ないなー・・。どうしたリリちゃんってこう・・・。生きる気あるの?」
リリ
「ですから・・。ちょっと話を聞いてください・・」
ジェスター
「多分いいわけだよね?四日前ぐらいにも言ってたよね?何か
私の言う事をしっかり聞いて私の言うとおりにしたほうがいいよ。」

段々むしゃくしゃしてきた。

リリ
「ジェスターさん!!」

バッと掴んでいた手を振り解かれる。
ちょっと驚いた。弱気なリリが今日は何か強い。

リリ
「私のご主人様はこう言ってました・・!自分の意思をしっかり持って
動かないと悪い方向にしか動かないって・・・!
この後は全部私の意思で行動しますからもうジェスターさんは口出ししなくていいです!」

今初めて激怒ってのを一瞬覚えた。

ジェスター
「どういうことなの!!せっかく貴方が自殺しようとしてたのを
食い止めてあげて色々面倒見てあげたのに酷い恩返しだね!!」
リリ
「確かに自殺を食い止めてくれたり食事をおごってくれたのは感謝しています!
でも、それ以外貴方のやりかたには賛同できません!!」
ジェスター
「ちょっと凄い強きだね!?どういう風の吹き回しかな!」
リリ
「私のご主人様が亡くなった後、私自身の心が不安定でした。
そのせいで私は弱気だったんです。
不安定なところを貴方に助けてもらったのは今でも大きく感謝しています・・!
ですが、もう私は立ち直りました。しっかり自分で生きていく方法を見つけましたから
もう貴方の助言はいいです」

ジェスター
「本当なのかな?じゃぁ、見せてよ。リリちゃんの生き方。自殺なんかもってのほかだからね」
リリ
「当たり前です。少なくとも勝手にアレコレ物言って言う通りにしろって脅す貴方よりは
素晴らしい生き方をしてみせます。二日後。ここにまた来ます。」

思わず幽霊刀を引き抜こうとしてしまった。
怒りに身を任せると何でも出来てしまいそうな気がしちゃう。
だけど当然ながら幽霊刀を抜けるわけがなく、気が付いたらリリはもういなかった。

ジェスターも宿に戻った。
部屋に戻って怒りの次に来たのは哀だった。
ひたすら枕に顔をうずめて泣いた。


『私何か間違ったことした?』


ただひたすらそれだけ呟いて泣いた。
色んな誰かみたいに指導してやることなんて私は出来ない・・・。

しかし暫らく泣いた後やってきたのは再び怒りだった。
どうせ失敗すると叫びながらそのまま気絶したかのようにバサッとベッドに倒れ昏睡した。



翌日。一日立つと気分は一応収まった。
ひとまず鍛冶屋に立ち寄った。


ジェスター
「っということがあったんだよ。ちょっと理不尽だよ・・」
店主
「なるほど、そういうことがあったのか」

この日もまた修理が出来ていなかった。
だから暇つぶしに店主と雑談している。

ジェスター
「私絶対間違った事なんかしてない。だからリリちゃんは絶対に失敗する」
店主
「ハハハ、それはどうかな。」
ジェスター
「リリちゃんの肩を持つの?」
店主
「そういうわけじゃない。まぁ、明日の夜に結果が分かるんだろう?
その結果を見ればきっと分かるさ。」
ジェスター
「むぅー・・・」

なんか最近変な事ばっかりだなー・・・。っと思うジェスター。

店主
「そうだ。修理の件なんだが明後日の朝までに修理が出来なかったら
一旦剣を返す。その代わり推薦状を書く」
ジェスター
「推薦状?」
店主
「あぁ。俺よりもっと腕の立つ知り合いがいてな。そいつに頼めばきっと
この立派な剣を直してくれるだろう。まぁ、その前に俺が直してみせるがな!」
ジェスター
「まぁ、私は直ればいいや」
店主
「んじゃ、明後日。また来てくれ。」
ジェスター
「うん」


そういって鍛冶屋から出た。





そのまま一気に時は進み・・。




リリが指定した日になった。




リリは現れなかった。


自殺したと思った。
最初は勝ちという満足感を得た。次に不安を焦りがやってきた。
町中を駆け回って情報を集めてみた。

そして今度は強烈な敗北感が訪れた。


リリは近くの喫茶店で働いていた。かなり満面の笑顔で。
鍛冶屋で見た、ちょっと苦しそうな笑顔とは全く違う。
夜になっても働いてるのに笑ってる。

店から出た2人の客の一声が聞こえてきた。


「あの子いいよな。何であんな夜遅くまで働けるのか不思議だけどね」
「好きでやってるんだとさ。好きなら分かる気がするな」

そのまま喫茶店を眺めていたらリリがこっちに気づいたらしい。
苦笑いを返してきた。





もう、どうすればいいのか分からない。悔しいし怒りが溢れるし屈辱だってある。
本当にもうどうすればいいのか分からない。

今はもう不安しかない。このままではリリと私の立場が逆になって・・・。



そうなる前に一番頼りになる人と連絡を取った。







ジェスター
「・・・・。」

街角にある公衆電話の受話器を取って自宅の電話番号を入力した。
ダイヤルが鳴る。誰かが出た。


キュピル
「はい、もしもし。キュピルです」
ジェスター
「・・・・・」
キュピル
「もしも・・し?・・・うぐっ・・。がはっ、げほっ!」
ジェスター
「・・!!、キュピル!どうしたの!?」
キュピル
「うぐぐ・・。ジェスターか・・!久しいな・・・。」

受話器からちょっとだけファンとルイの声が聞こえる。
でも言葉としては少し聞き取れない。

ジェスター
「どうしよう・・。もう全部不安だよ・・・。」
キュピル
「どうした・・?不安になっちまったのか?」
ジェスター
「もう心細いよ・・・。私全部だめだった・・・」
キュピル
「・・・、ジェスター。お前さんの好きな話題でもしようか。
懐かしい話でもするか。」
ジェスター
「ううん・・。気遣いは大丈夫だよ・・」
キュピル
「・・成長したな。わかった。何があったか教えてくれ。手短に・・」

リリと関係する出来事を全て話す。
途中しゃっくり混じりの泣き声になったけど全部聞いてくれた。

キュピル
「・・・そうか。人に命令を与えたのか」
ジェスター
「うん・・。私やっぱり間違ってた・・?」
キュピル
「命令って奴はな・・・。大まかに分けて二つあるんだ。
一つは任意の命令。その人の意見を尊重しつつ何か指示を与えていく。
二つ目は強制。意見・主張を全て無視してただひたすら実行してもらう。

ジェスター、お前さんがやったことは二つ目の奴だ。
リリの意見を聞いてやらなかったのが失敗の一つだ。」

ジェスター
「でも私・・。リリちゃんのためだと思ってやって・・・。
とにかく仕事を見つけてあげたほうがいいよねって思って・・・。
だけど見つけてあげたらすぐ辞めてしかも別の仕事で凄い楽しくやってて・・・
何が違ったの・・・」

少し間を置いてキュピルは言った。


キュピル
「とっても簡単だよ。ジェスター・・。それはな・・。
・・・!、がはっ・・!!」
ジェスター
「・・・!」

受話器を落とす音が聞こえる。何か吐いた音だ。
だめだ・・。早く戻ってあげて看病してあげないと・・!どうしてこんな重症にかかってるの!?

暫らくすると再びキュピルの声が聞こえてきた。

キュピル
「ジェスター、口出しなしでな・・・。
いいか・・・。人は好きな事しか出来ないんだ・・・
人は・・。嫌な事は絶対に続けられないんだ・・・
そこが一番の・・違いなんだ・・・」

そういってまたキュピルが咳を始めた。

ジェスター
「キュピル、私戻る!家に戻る!」
キュピル
「帰るな!今帰ったら放浪の意味を成さない!
もっと放浪を続けろ・・・。」
ジェスター
「でも、キュピル・・・。死にそうじゃん・・・
キュピル
「ジェスター・・。たとえ俺が死んでもだ・・・。いいか。
俺の屍を越えてゆけ・・・。後ろを振り返るな・・。
誰でも親の死は訪れる。リリみたいにな・・・。」

受話器の後ろからファンが大声で「縁起でもない一言言わないでください」って言ってる。

ジェスター
「・・・・・」
キュピル
「ただ、ひたすら前を見て進んで生きろ。苦難の先には今ジェスターが一番
探している答えがある。後ろを振り返るな・・・。そのための放浪だろ・・」

そういって受話器から ツーツーツー っという音しか流れなくなった。
硬化がなくなった。小銭は今ない。

不安だけがジェスターを押しつぶし公衆BOXの中で泣いていた。






==キュピルの家


ファン
「・・・これでよかったんですか?」
キュピル
「一番大人にさせる方法でもある」
ファン
「ですが、ちょっと逆に可哀想なんでは・・・。
こんな大段な演技を仕掛けて」

ルイ
「私がジェスターさんだったら思わず戻っちゃいますよ。
だって、もう死にそうな声でしたし」
キュピル
「いや、インパクト与えたほうが記憶にも残って一番成長するかなって思って」
ファン
「・・意外と鬼畜ですね・・」
キュピル
「しかし体調が悪化方向に流れているのは確かだ。」
ファン
「それはそうですが・・・。」
キュピル
「いずれそうなる日が来るとしても遅らせよう。寝て少しでも体力を温存する」
ファン
「分かりました。」




4話後編終了


追伸

俺の屍を越えてゆけ!!
4話で言いたいことはもっとあったのに言い切れなかった。


第五話


店主
「推薦状と赤い剣だ。申し訳なかったな」

払った分のお金とキュピルの愛剣を返してもらった。

店主
「このローロ街から北西に進み山を登ると山頂付近に
冬凍山っという洞窟がある。」
ジェスター
「・・なんて読むの?」
店主
「『とうとうざん』だ。冬凍山という洞窟を越えた先に年中桜が咲いてる
『桜咲く村』という村にたどり着く。小さな村だがそこにある鍛冶屋は
世界中の傭兵やギルドに利用されるほどの腕を持つ鍛冶屋だ。
そこの店主とは知り合いだからこの推薦状を見せればやってくれるはずだ」
ジェスター
「わかった。私急いでるからそろそろ行くね」
店主
「急いでる?なぜだ?」
ジェスター
「私の飼い主さんが死にそうだから」



ローロ街を駆け抜ける。
途中チラっと喫茶店の前を通った。リリの姿はあった。
今はこの悔しさを糧にして進むしかない。
キュピルの行ってた通り放浪の先で私を救う答えがきっとあるはずだから。

ローロ街にも様々な後悔と反省、無念を残しその街から飛び出た。



ジェスター
「ん?」

看板がある。目印看板だ。

『左 冬凍山  右 桜咲く村』


ジェスター
「あれ?えーっと・・」

しばらく看板の前で悩むジェスター。
店主の話では冬凍山っという洞窟を通って桜咲く村につくと言っていた。
でも必ずその洞窟を通らないと桜咲く村には着かないとは言っていなかった。
ってことは必然的にこっちの方が近道・・・?

ジェスター
「・・・う、うーん・・でも・・・」

いそばが回れとも言うし・・・。

悩む。
どうすればいいんだろう?

ジェスター
「・・・うん、ここは素直に冬凍山に行こう。急がば回れ!」

大昔ことわざと四字熟語の勉強か何かで覚えた一言を呟き山に向かって飛んで言った。

しかし山までの道のりは非常に長く、一日でたどり着けるというものではなかった。
それでもジェスターはただひたすら飛んで走りこんだ。




ジェスター
「・・・・・・」

ひたすら山に向かって道のりに進んでいく。
道が森の中に入っていく。そして上り坂になった。
でも山はまだはるか向こうに見える。多分これはただの坂道だろう。
森の中に入っていく。少し道が粗い。

ジェスター
「視界が悪い・・。しかも上り坂だから飛んで移動も・・」

高速移動は使えない。ひたすら地味に上っていくしかないだろう。


だが、上っていけば行くほどドンドン木々が深くなり道も薄くなってきた。
まだ微妙に歩道らしき跡が見えるのだがそれも葉っぱや長く伸びた枝や草などで
隠され、邪魔され見づらくなっている。
不安になりつつも進んでいくと、とうとう歩道らしい歩道が見えなくなってしまった。
正確に言えば後ろを振り向けば歩道らしい歩道はあるんだがその先は完全に
消えてしまっている。一応木々の間から山は少し見える。

ジェスター
「あの山を目印にして進めば大丈夫」

しっかり山の特徴を掴んで進んでいく。
森などの木々が生い茂った場所は方向が分からなくなりがちだが
ジェスターはその手に関しては強かった。

ジェスター
「昔、色々経験したからね〜」

万が一道が分からなくなっても帰り道の確保は出来てる。
所々の葉を結んだり切ったり目印をつけることによって遭難の可能性はほぼ0となる。
(迷う時は迷うけど

そんな目印をつけながらゆっくりながらも確実に前進していた。


ローロ街を出てから初めて夜を迎えた
木々が深いこともあって道は殆ど見えない。とにかく深夜になるまでは歩こう。
一息ついてから歩き出す。

明確な目標があるとここまで頑張れる自分に改めてびっくりする。
それと同時にちょっと感心。

何歩か歩いた瞬間だった。
いきなり体が宙に浮いた。

ジェスター
「!?」

上に引っ張り上げられたのかと一瞬思った。けど違った。
落下してる。気が付いたら崖がら落ちていた。

ジェスター
「(死ぬ・・・!)」

ただひたすら心の中で連呼していた。
ぐんぐん下に落ちていく。

ジェスター
「こんな所で死ぬのは・・・絶対に嫌だ・・!!」

そして落ちた。


バシャーン


ジェスター
「痛い!!」

水に着水したようだ。相当運がいい。だけど痛い。
その前に荷物が多すぎて泳げない。沈む
溺れる前に近くの岸にたどり着こうとする。しかし真っ暗すぎて全然見えない。
水の流れは結構ある。どんどん水に流されていく。

ジェスター
「溺れ・・る・・」

もうだめだ・・。そう思った瞬間。
地に足がついた。流されて浅い場所に流されたようだ。
そのまま浅い場所に這い上がってなんとか危機を回避した。運が相当良い。

ジェスター
「ぜぇ・・はぁ・・」

危機一髪・・。本当に今のはダメかと思った。

ジェスター
「はぁ・・でもどうしよう・・・」

この深さだ。到底崖を上る事は出来ない。
上ってみようものなら途中で力尽きて落ちてしまうだろう。
どうすればここを抜け出して冬凍山に行けるか・・。

ジェスター
「あの看板を見つけた時素直に『桜咲く村』って書いてある方に
行けばよかったかな・・・。どうしよう・・」

日が昇らなければここは全く見えない。
かといってランプもない。
もしランプがあったら崖を発見することは出来ただろう・・。

日を待つにしてもここは川だ。
浅瀬とはいえど水に濡れていては寝ることだって出来ないし
下手したら風邪を引いて大幅に体力を消耗しかねない。
どこか川から上がれる場所を探さないと・・。
出っ張ってる石でもかまわない。

ジェスター
「早く見つけないと・・・」

探してる間も体力は消耗していく。
少し進んでいくとまた水が深くなってきた。
水が深くなってくると地に足がついてても流れがあるから下手すると流されてしまう。

ジェスター
「あ・・・」

ちょっと進んだ場所に小さな洞穴があるのに気づいた。深い場所を通る必要が
あるが頑張れば行ける範囲だ。
思い切って水の中を突っ切る。深さは大体お腹辺りまでだ。
・・・が、洞窟目前になった瞬間いきなり深さが肩まで上がった。流れが早い。
地から足が離れる。思わず流されそうになったが荷物が重いから何とか流されずに済んだ。
水から這い上がって洞穴の中に入る。

ジェスター
「さ、寒い・・・」

冷気があるわけではないが洞穴から風が吹いてる。
拭くものは何もなくその夜は冷たさに耐えながら寝た。




ジェスター
「ふぇっくしょん!!」

クシャミして起きた。
鼻がムズムズするし少し喉が痛い。

ジェスター
「風邪の引き始め・・?」

まだ完全に発熱はしていないみたいようだけど・・。
とにかくここは風が吹いてて寒い。

ジェスター
「あれ、でも・・。風がこの洞穴から吹いてるってことは何処かに繋がってるってこと・・?」

ということは上に戻れる可能性がある。
この先、川を歩いても深くて流される危険がある。今はそれにちょっとかけてみよう。
洞穴の中を突き進んでいく。


しかし洞窟の中は非常に暗くてまともに見て歩けるものじゃなかった。
剣の鞘を手にもって目の前に壁がないか、障害物がないか地道にチェックしながら進んでいく。
だけど当然ながら酷く進むのに時間がかかる。

ただただひたすら思うのは「辛い」


ジェスター
「・・・ん?」

何か音がする。
羽音・・?

羽音のするモンスターはあまり聞かない。
しいて言えばハニービーとかホースビーとか・・。
でもその程度の敵なら万が一刺されてもすぐに反撃できる。

その時鞘が何かにぶつかった。今まで宙を斬っていたのに。

ジェスター
「・・・?」

分からない。暗くて。
が、しかしより一層羽音が五月蝿くなったのは確かだ。
凄い不快な音だ。思わず鞘を振り回す。

また何かにぶつかった。多分さっきぶつかった奴だ。


ボトッ


何かが落ちた音だ。
より一層羽音が五月蝿くなった。
その時一瞬辺りが光った。この光は魔法を唱えた時に起こる発光だ・・。

ジェスター
「!!!!!!」

次々と瞬間的な発光が起こる。
そのたびに驚く。
この凄い不快な羽音は大量の蜂だ。
ハニービーよりもう少し小さいが見た目は近い。

見えた瞬間いきなり腕を刺された。

ジェスター
「痛・・・あれ?痛くない」

痛くないのは好都合。とにかく連続的に発光して辺りが見えるうちに
このハニービーらしき敵を全部叩き落しておこう。
ジェスターの愛用の棍棒を取り出す。それをぶんぶん振り回して
一匹ずつ叩き落していく。
一応敵も必死に抵抗してドンドン刺しにかかってくるのだが痛みは全く感じない。

ジェスター
「無双無双〜」

が、異変は突然起きた。突然体が一気にだるくなった。
正しく言えば目も開けられなくなるほどの睡魔。

瞬きする。それだけでもう寝れる。
敵を目前にして昏睡した。








「今どんな夢見てるんだろうね」
「きっと楽しい夢見てるんじゃないかな?」

ジェスター
「zzzz・・・・zzz・・・」

「うらやましいなぁ。」
「でもこんな所で寝てたら風邪を引いちゃう。運ぼうよ」
「でも僕達じゃ運べないジャン」
「起きるの待とうか」

ジェスター
「zzzz・・・・zzzz」




ジェスター
「は・・・はっくしょん!!」

本格的に風邪引いた気がする。

ジェスター
「そ、そうだ・・。私何を・・・」

確かホースビーみたいな蜂に刺されて・・・。
明かりがある。

「起きた?」

誰かに話しかけられた。
青年と若い女性だ。だけどちょっと半透明。

ジェスター
「誰?」
青年
「簡単に言っちゃえば幽霊」
ジェスター
「ゆ、幽霊・・・。私死んじゃったの?」
青年
「別に死んでなんかないよ」
若い女性
「たまたま私達はここを通っただけ。そしたら貴方を見つけた」
ジェスター
「そうなんだ。・・・は、はっくしょん!!」

体が震える。絶対に風邪を引いた。
熱もありそうな気がする。

青年
「中々手ごわい風邪にかかったみたいだな。
とりあえずこの冬凍山から早く抜けたほうがいいな」
ジェスター
「え?ここって冬凍山なの?」
若い女性
「気が付かなかったんだ」
ジェスター
「あれ・・。まって・・。でも・・」

地形的になんか色々おかしい。ここのはずは・・・

ジェスター
「は・・・はっっくしょん!!」
若い女性
「ここにいつまでも居たら酷い風邪を引いちゃう。
とにかくこっちおいで。出口まで案内してあげる」

出口まで案内してくれるのは助かる。
なんとか頑張って立つ。けどふらふらだ。
剣を杖にして頑張って歩く。

青年
「そうだ。自己紹介してなかったな。名前はテテルだ。よろしく。」
若い女性
「私はルルイ。」
ジェスター
「え?ルイ?」
ルルイ
「ルルイ。一文字足りない」
ジェスター
「ごめん、ルイっていう・・友達がいたからつい。私はジェスター・・。あ・・・」

突然体の力が抜けて倒れた。
体調が凄く悪化してきている。

ジェスター
「ごめん・・・手伝って・・・」
テテル
「無理だ。幽霊だから生きてる者に手を差し伸べても触れない。」
ルルイ
「自分の力で立って歩いて」
ジェスター
「う・・・う・・」

頑張って立つ。立つのも辛い。
風邪が酷く悪化してきた。
なんとか歩いて進んでいく。だけど辛い。

ルルイ
「そろそろ御霊(みたま)にお祈りする季節ね」
ジェスター
「御・・霊?」
テテル
「桜咲く村に住んでる村人達が年に一回冬凍山に登って山頂付近で
お祈りをするんだ。災害・奇病などから守ってくれと。
一時期そういったトラブルが立て続けに起きて崩壊しそうになったんだよな」
ルルイ
「でも、誰か一人が御霊に捧げものを渡したんだよね。
その捧げ者を御霊をご機嫌にさせるものだったんだけど
御霊は何よりもその一人の人間が凍冬山の山頂まで一人でやってきた事に
偉く感心したみたい」
テテル
「一族のためとはいえど年中凍えてしまいそうな気温であるこの冬凍山に
自らの力で歩いて登り災害・奇病を解消してくれと祈るなんて
普通の人じゃやらないだろうな。しかも同時に奇病にまでかかってたわけだから
もう完全に命を落とす気で上ってたんだろうな。」
ジェスター
「・・・・・・」

頭がクラクラしてあんまり話が聞けなかった。

ジェスター
「わ・・・」

また倒れた。

ジェスター
「もうだめ・・・。お願い・・。何でもいいから手伝って・・」

テテルが近寄る

テテル
「僕達は幽霊だけど魔法を使えば人や物を運ぶことはできる。
だからジェスターを運ぶことだって出来る。
けど、それは君のためにならないよ
ジェスター
「でも今は凄い風邪を・・ひいてるから・・・。」
ルルイ
「さっき私達が話した偉人も貴方以上に辛い状態で一人で歩いたんだよ。
自分の力で動かなかった日が一日でもあったら大きく後退しちゃうよ
ジェスター
「だ、だったら・・。少しだけでもいいから・・。休憩させて・・・」
テテル
「別に構わないが僕達は先にいくよ。早く行かないといけない場所があるからね」
ルルイ
「私達も大切な用件があるからね」
ジェスター
「・・・・・・」

ここでこの2人と逸れたらこの複雑な洞窟から抜けれないだろう。
そうなったら、この風邪だ。命を落とす危険性は非常に高い。


テテル
「でも君は幸運だよ」
ジェスター
「なんで・・・」

どう考えても幸運に思えない

ルルイ
「貴方はあのニービーに刺されたのでしょ?」
ジェスター
「ニービー・・・?」
テテル
「ちょっと小さな蜂だ。刺されても全く痛くないが変わりに眠くなる蜂」
ジェスター
「あぁ・・・」

思い出した。

ルルイ
「あの蜂に刺されたら良い事が起きるのよ」
テテル
「もしかしたら僕達にあった事がその効力なのかもしれないけどね」

苦笑いする2人。
けど笑う余裕はない。

テテル
「さぁ、頑張ってくれ。自分の力で歩くんだ
ルルイ
「貴方もここで死ぬわけにはいかないんでしょ?」
ジェスター
「うっ・・うぅぅ・・!」

頭が凄いズキズキする。

テテル
「自分の力で歩くのは一見大変に思えるかもしれない」
ルルイ
「でも簡単に見える所もある」
テテル
「目標を思い出すんだ。」
ルルイ
「貴方はその祈願を達成したいんでしょ?」
テテル
人は目標を作らないと何だって頑張る事はできない
ルルイ
どんな小さな事だってやろうと決めた物は必ず目標になる

ジェスター
「・・・・・・・・」

目標・・・。

ルルイ
「頑張って歩いて」
テテル
「夢中になれればもっと早くつくさ」


後はもう言われた通りひたすら歩いた。
どちらかというとこれ以上何言っても結局は歩くしか選択肢は残されていないと
思ったからってのも結構ある。


けど、本当に体力に限界はきていた。
お門違いではあるが一瞬この2人を恨んでしまいそうにもなった。

風邪を引いてる時は結局何言われても皮肉にしかならないような気はする。




二時間も連続で歩き続けた。それこそ止まったらぶっ倒れてしまいそうな気がした。
だけど努力は報われるものだ。
ちゃんと歩き続けたら光が見えた。出口が見えた。

出口が見えた瞬間士気が大きく上がって走って洞窟から出た

テテル
「なんだ、元気じゃん」

凍冬山の洞窟を越えると寒い山だった。

ジェスター
「・・・・・・」

テテル
「おー。桜咲く村が見えるな。」
ルルイ
「しっかり桜見えるね」
ジェスター
「・・・・・」

ジェスターがその場でバタッと倒れる。完全に力尽きたようだ。
熱もこれまで以上に高くなってて危険な常態にはなっている。

ルルイ
「どうする?」
テテル
「まぁ、ここまで頑張ったんだ。ご褒美ってことで」

テテルが指を動かす。その後ジェスターを指で示す。
指を上に上げる。ジェスターも宙に浮く。
そのまま洞窟を出てすぐ近くにある宿にお邪魔しジェスターを預からせた。

テテル
「さぁ、行こう」
ルルイ
「近いうちまたあの子とは会えるかもしれないね」
テテル
「同じ事を思っていたか」

その後2人は桜咲く村に下りていった。



ジェスター
「う〜ん・・・苦しいよ〜・・・」

洞窟の中を歩くのが一番辛いと思っていたジェスターだが
ある意味ジェスターにとって一番辛いのはここから先の風邪だった?


第六話


高熱にうなされてたジェスターだったが三日休んで無事回復。

ジェスター
「ふぅ・・。やっぱり風邪は引くものじゃないね」
女将さん
「そうですよー。あんたもまだまだ若いんだから体調には気をつけなさいって」
ジェスター
「はい。それでは私はこれで」
女将さん
「あぁ、まって。まだ御代もらってない」
ジェスター
「・・・え?テテルさんとかが払ってくれたのだと思ってた(ご都合主義」
女将さん
「そこまでは面倒みてくれないわよ、あの人たちは。お題は薬含めて4万Seed」
ジェスター
「・・・ぎゃ!!そろそろお金が・・!一応払えるけど・・・。ど、どうぞ・・」
女将さん
「はい、どうも。」
ジェスター
「(この宿の女将さんって冷たい・・・)それでは・・」

宿の扉から出て寒い冬凍山に出る。



=冬凍山(7.5合目


ジェスター
「ひゃー・・中々寒いね〜・・・」」

予定では寒い場所なんか行く予定はなかったため
暖かい服装など持ってきていない。
でもジェスターは暑いのよりは寒い方が得意である。

とはいえど、中々の猛吹雪。直接雪が頬に当たると流石に冷たい。
本来ここから桜咲く村が見えるはずなのだが今日は吹雪で見えない。
そんな中不思議な行列が出来ていた。

ジェスター
「何だろう?」

近づいてみると次々と人々が崖から落ちていってる。
が、よくみると斜面を滑っている。

ジェスター
「何やってるんですか?」
厚着の人
「この季節恒例の『斜面滑り』というスポーツ。
この冬凍山の5合目までは永久凍土って言ってず〜っと凍ってる土地なんだよ。
その影響もあってこの斜面を整備するとツルツルの氷が出てくる。
その氷の斜面を皆靴で滑っていくんだ。」
ジェスター
「面白そう」
厚着の人
「でも初めてやるんだったら怪我は覚悟したほうがいいかもしれない」
ジェスター
「私は運動のプロだから大丈夫。それに桜咲く村まで一気に近道できそうだね」
厚着の人
「そうだな、この斜面を一気に下れば3合目ぐらいまで下れる。相当近道になるよ」
ジェスター
「よーし、滑る!!」

ジェスターが斜面に近づく。
結構斜面は急だ。

ジェスター
「ドキドキ・・・。とりゃー!」
厚着の人
「あぁ、そんな勢いよく行くと・・・!」

ジャンプして氷の斜面に乗る。そのまま一気に猛スピードで滑っていく。
速度が速く空気抵抗が凄まじい。曲がり角だ。

ジェスター
「・・・どうやって曲がればいいの!?」

上手くバランスを保っていたが氷の斜面のカーブでどう曲がればいいのか分からず
そのまま脱線して大きく転倒する。

ジェスター
「ぎゃぁー!!」

そのまま勢いよくゴロンゴロンと雪の斜面を転がっていく。
かなり急な斜面だ。当分止まりそうもない。
そのまま成すすべもなくゴロンゴロン転がる。


転がる事30分。本当にもう永遠に転がるかと思ったぐらいだった。
ようやく斜面は滑らかになり勢いも徐々に失せていく。
最後に大きくバウンドしてようやく止まった。

ジェスター
「め、目回った・・・気持ち悪い・・・。」

そのまま雪に顔を伏せる。
気持ち悪くなくなるまでずーっとその姿勢でいた。

ジェスター
「最近なんか倒れてばっかりだー・・・」

起き上がって荷物を確認する。無くなった物はないようだ。
とりあえず立つ。


山を降りると雪は弱くなっていた。
桜咲く村が見える。桜が咲いている。

ジェスター
「雪降ってるのに桜が咲いてるなんて変なの」

ここからそんなに遠くなさそうだ。
雪を楽しみながら行く事にした。

ジェスター
「それにしても随分と遠くまで来たな〜・・。
家を出てからもうどのくらい経ったのかな?」

地道に計算してく。
大体三週間ぐらいだ。

ジェスター
「そういえばキュピル大丈夫かな・・。
とりあえず早く村にたどり着こうっと」

軽快に雪を走っていく。
雪が振る中、桜並木を通るというのは何とも不思議な感覚には陥った。
ナルビクは年中、中々暑いので雪が降る事は殆どない。

ジェスター
「多分、ルイとか雪見てなさそうだな〜」

ルイがいた前の地方も滅多に雪が降らないらしい。
どうにかしてこの風景を絵か写真に収めてみたい。

そんなことを考えるうちに桜咲く村に到着した。
見えてからは非常に早かった。



==桜咲く村

ジェスター
「すごい・・・」

何度も言ってるが雪が降ってるのに桜が咲いてる。
時折風が吹けば雪に混じって桜の花びらが舞い散る。
雪だと思えば桜の花びら。桜の花びらだと思えば雪・・・。
こんな不思議な村が存在していたんだ・・・。

ジェスター
「・・・はっ、そうだ。早く鍛冶屋にいかないと」

村という割には中々活気溢れてる。
ただ施設に関しては木造が目立つ。
そんな中一際目立つのが非常に大きな煙突があり
壁には鎧や剣。盾など様々な物が飾られてる建物がある。

これがローロ街で言っていた鍛冶屋だ。
建物の中に入る。


==桜咲く村 鍛冶屋

ジェスター
「こんにちは。あの、修理してほしい剣が・・」
髭の生えたおっさん
「ん?ダメダメ。悪いがちょっと忙しいんだ。
他のギルドから頼まれてる武器の製造や修理に忙しい。他を当たってくれ」
ジェスター
「じゃぁ、これ見て」

推薦状を渡す

髭の生えたおっさん
「む。・・・おぉ、懐かしいな。ローロ街にいるリマーからか!」
ジェスター
「(リマーって言うんだ・・。似合わない・・・)」
髭の生えたおっさん
「ふむ・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
ちょっと例の剣を見せてもらっていいか?」
ジェスター
「うん」

赤い剣を渡す。剣を受け取ると鞘から剣を引き抜く
マジマジと眺める。そしてそれを砥石で軽く研いでみる。
だが、砥石が削れるだけで剣自体は全く研げていない。

髭の生えたおっさん
「なるほど・・。この軽さと硬度から見てカーボンに銀とダイヤモンドの素材を混ぜて使ってるみる」
ジェスター
「ダイヤモンド?宝石の?」
髭の生えたおっさん
「それもかなり上質のな。並大抵の鉱石と比べちゃこいつは相当硬い部類に入る。
まぁ、リマーからの推薦ってなら受けてやろう。
ただし材料は全てそちらの負担でという条件でだ」
ジェスター
「お金だけじゃだめ?」
髭の生えたおっさん
「ダメだ。」
ジェスター
「おじさんケチだね」
髭の生えたおっさん
「ケチじゃない。うちに置いていないだけだ。
それと、おじさんじゃなくてクロークと呼んでもらいたい。」
ジェスター
「うーん・・。とにかく、その材料ってどこにある?」

クローク
「鉱石だけあればいい。カーボンと銀とダイヤモンド。
カーボンと銀はこの村で探せばどこかで売ってるはずだ。
ただし、上質なダイヤモンドは店では売ってない。売ってたとしても質の悪いダイヤモンドだ。
冬凍山7.5合目にある洞窟に行け。奥深くにある」

ジェスター
「私、冬凍山を通ってきたばっかりなんだけど・・」
クローク
「通ったなら分かるだろう。松明はしっかりとな。」
ジェスター
「わかってる。それじゃぁ先ず先にこの村でカーボンと銀売ってないか探してくる」
クローク
「いちいち言わんでいい。探してもらってる間この剣を詳しく分析しておく」
ジェスター
「わかった」


そういうと鍛冶屋を出た。


==桜咲く村

結構この村は交易も発展しているようだ。
山に囲まれてる影響もあるのか様々な街からの中継地点としても使われているらしい。
そのため色んな街からの品物が入ってきている。
村というよりは街に近い。

しかし鉱石を売ってる場所は少ない。
あるにはあるんだが銀やカーボンはない。

ジェスター
「・・・・ないなぁ・・・」

うろうろ探していると大きな声が聞こえてきた。

商売人
「さぁさぁ、寄った寄った!!
そこの旦那さん!これ見てみなって。
この石知ってるか?武器の素材に使われているレアな鉱石ですぜ。
この鉱石もってそこの鍛冶屋に行けば上質な武器にしてくれますよ!!」
旦那さんらしい人
「うーむむ・・。しかしなぁ・・」
商売人
「おっとー、そこの剣と棍棒持ってる可愛い旅人さん!」
ジェスター
「え?私?」
商売人
「そう、貴方様ですよ。貴方以外に可愛い剣士さんは何処にいるか?ってんだ。」
ジェスター
「え?そう?そう?えへへ」

商売の決まり文句である御世辞を間に受けるジェスター

商売人
「君も旅をしてるんだろ?それならこの石見てくれよ。この上質な鉱石!
間違いなくグレートアップを手伝ってくれる!」
ジェスター
「それなんていう鉱石?」
商売人
「こいつはカーボンっていう鉱石だ。この耐久度にしてこの軽さ!
剣の素材に使えば軽くて切れ味抜群!妖怪だろうが悪魔だろうが敵はびびるぞー!」
ジェスター
「買った!!後、銀の鉱石もない?」
商売人
「へへへ、ありますよ。こいつのことですね?」

商売人が袋から銀の鉱石を取り出す。
ライトに当たってキラキラと輝く

ジェスター
「それだー!二つとも買う!」
商売人
「よし、交渉だ。今なら10万Seed!!」
ジェスター
「ちょっと、まってよ!高すぎるって」

今ある手持ち金はもう5万Seedしかない。
気が付けば沢山あったお金は底を付きようとしていた。

商売人
「おーっと、だけど私も商売人!今買わないと値上げしちゃうよ!11万!」
ジェスター
「まって、本当に待って。私手持ち5万しかないの」
商売人
「なんだって?」

商売人が悩み出す

商売人
「う〜ん、困りましたね。」
ジェスター
「ねぇ、この辺りで何か働ける場所ってない?」

働くと言った瞬間ローロ街のリリの事を思い出し一瞬胸が痛んだ。
今は忘れなきゃ・・・。

商売人
「そうだなぁ、んじゃちょっとアルバイトしてもらおっかな。
ちょっとこの大量の鉱石をね。売るの手伝って欲しいんだ」
ジェスター
「わかった。」
商売人
「一個売れる事にいくらか分け前を上げよう。それでいいね?」
ジェスター
「OK〜」
商売人
「ハハハッ、面白いことになってきたぞー。俺の名前はラスクだ。よろしく」
ジェスター
「うん、よろしく」
ラスク
「分け前の値段は後で相談しよう。よし、どこか適当に座って売るのを手伝ってくれ」
ジェスター
「わかった」

ブルーシートの上に座る。
とりあえず売ってみよう。

・・・・。でもどうやって売ろうか?
とりあえず叫んでみよう。

ジェスター
「鉱石だよー!鉱石だよー!」

隣でラルクがずっこける

ラルク
「だはっ、なんじゃそりゃ。こりゃ1から教える必要がありそうだな。」
ジェスター
「ごめん・・。私商売するの初めてなの」
ラルク
「それじゃ仕方ないな。まずはそう叫んだって誰も来やしない。
慣れないうちは武器を持ってる人をターゲットに呼びかけるんだ。
全員に向けて喋るんじゃないぞ。ピンポイントにその人を呼んで交渉に持ち込め」
ジェスター
「わかった」

前を歩いてる人を探す。
武器を持ってる人は結構多い。あの感じのよさそうな青年に声をかけてみよう。

ジェスター
「そこのお兄さんー!」
青年
「ん?俺か?」
ジェスター
「そう!ちょっとこれ見てっていかない?武器持ってるならこの鉱石の良さが分かるよね?」
青年
「悪い、俺鉱石よく知らないんだ。んじゃ」
ジェスター
「あー・・・」

ラルク
「へへ、毎度あり。」

隣ではかなり順調のようだ。
しばらく続けてみるが売れない。
同じ品物なのにこうもはっきりと差がでるとは・・・。

ラルク
「不順調っぽそうだな」
ジェスター
「うん・・」
ラルク
「そうだな、武器を持ってる人という全体で見分けるんじゃなくて
武器を持ってて尚且つ色んな商店を見回してる人なんか捕まえやすい。」
ジェスター
「分かった。試してみる」
ラルク
「そうやって目標を絞っていくんだ。どうするべきか見えてくるだろ?」

ターゲットを絞ってみると必然的に声を書ける回数は減ったものの
しっかり狙いが定まってる気もした。
大きな棍棒を持ってる人を発見した。かなりあたりを見回してる。よし。話しかけよう

ジェスター
「そこの渋い人ー!」
渋い人
「あ?我輩か?」
ジェスター
「うんうん!なんか色々見て回ってるようだね。
せっかくだからこれも見てってみない?」
渋い人
「ほぉ」

お、食いついてきた。

ジェスター
「例えば、このカーボン見て!
この軽いさと耐久度を重ね備えた素材なら貴方の棍棒も強くなる事間違いなし!」

すると突然渋い人が笑い出した

ジェスター
「え?」
渋い人
「ハッハッハ!いやぁ、すまないね。お嬢ちゃん。
棍棒はな。軽いとだめなんだよ。」
ジェスター
「あ・・・」
渋い人
「そういうわけだ。またな」
ジェスター
「あぁー・・・」

同じ棍棒という種類を扱ってるのに武器の事を全く理解していなかった・・。




日が暮れてきた

ラルク
「よし。今日の商売はここまでとしよう。荷物を纏めて
後ろの建物へ運んでくれ」
ジェスター
「うん」

重い鉱石を何度も往復して運んで建物の中に収納する。

ラルク
「売り上げは・・・。おやまぁ、0か」
ジェスター
「えっと・・その、すいません・・。」

思わず頭を下げる。

ラルク
「気にするこたぁ、ない。商売って奴は人の心を伺って商売するものだ。
いきなり大売れしたら俺の顔が立たないがな、ガハハハ」

なんとも心の広い男である。

ラルク
「まぁ、何にせよこのカーボンと銀が必要だったんだよな?」
ジェスター
「です」
ラルク
「この成績だとちょっと上げれないが、明日。また挑戦してみるか?」
ジェスター
「いいの?」
ラルク
「構わん構わん。それじゃまた明日ここに来てくれ。」
ジェスター
「わかった。」
ラルク
「そいじゃ、」


ラルクが立ち去る。
夜になるとこの商店街も一気に静かになる。
静かにはなるが居酒屋などの営業店が今度は開き出す。

ジェスター
「桜咲く村ってローロ街とはまた違った賑わいがあるなぁー」

木造は木造で味を出している。段々お腹がすいてきた。
ふらっと空いてる店に立ち寄る。簡単にご飯だけ済ませちゃおう。


=居酒屋

定員
「へい、いらっしゃい。今回の大会に参加する方ですか?」

入るなりいきなり言われた。

ジェスター
「え?大会?何の大会?」
定員
「うちの店は毎週土曜限定で飲み比べ大会をやっていましてね。
出される飲み物を誰よりも多く飲めば優勝。賞金を出すという形です。」
ジェスター
「へぇー。参加してみようかな?」
定員
「わかりました。今夜は盛り上がります事間違いありませんな。
何せ何回もやってきましたがジェスターが飲み比べに参加するのは初めてですから。
お名前は?」
ジェスター
「えっと・・。」

なんかジェスターという種類の方で一度名前が出されてしまってるので
もう一度ジェスターとは少し言いにくい。誰かの名前を借りちゃおう。

ジェスター
「ルイです」
定員
「ルイ様ですね。では、さっそくあの台の近くにお並びください」

うきうきした気分で列に並ぶ。
しばらくすると凄い髪が派手な人がメガホンを持って喋り出した。

派手な人
「第246回!激・飲み比べ大会!今回の出場者は席についてください!」

定員の誘導にしたがって椅子に座る。デカイジョッキがある。
飲み物はなんだろう?

派手な人
「出場者の名前を挙げます!
一番、ジャック!」

すごい筋肉質な男だ・・・。

派手な人
「二番、テテル!」
ジェスター
「え?」

思わず顔を出して横を覗く。あ、いつかの人だ。
まさかこんな所でまた会うとは・・。

派手な人
「三番、デル!!」

まぁ、よくみる一般人。

派手な人
「四番、今回注目されてる人物!ジェスターのルイ!!」
テテル
「あ?」

テテルが顔を出してこちらを見る

テテル
「・・・なんだ。お前の名前ジェスターじゃなかったのか?」
ジェスター
「え、えっとー。その件はまたあとで」
テテル
「風邪は治ってるようだな。まぁ、ぶっ倒れないようにな」
ジェスター
「??」

意味をよく理解していない。

派手な人
「さぁ、一杯目!注いで注いで!」

定員が瓶を持ってくる。
初めて飲み物を理解した。

ジェスター
「あ、お酒」

こういうの初めてだったから、アルコール物を出されるとは一切思っていなかった。
お酒は前々から飲みたいって思ってたけどキュピルに止められてた。
今なら飲み放題だ。

ジョッキにビールが注がれる

派手な人
「まずは準備体操。ビールからです!はい、飲んで飲んで」

勢いに任せて飲む。
うーん、無味。

派手な人
「流石にここで倒れる人はいるわけありませんよね。
準備体操も終わった所で二杯目!焼酎です。まだまだ序の口!」

ジョッキに焼酎が注がれる。
それを一気に飲み干す。なんか喉が熱い。

派手な人
「まだまだ行けそうですねぇー。よーし、次は赤ワイン!そろそろ強くなってきました!」

ジョッキにワインが注がれる。普通ジョッキにいれないだけに
少し見た目に違和感がある。けど負けずに一気に飲み干す。
・・・なんか、胃が熱い。

派手な人
「棄権する人はいつでも申してくださいよ。ゲロなんて吐かれちゃ困ります。
さぁ、本番はここからです。異国の国から輸入したお酒。日本酒!」

白い瓶に入ったお酒だ。それをジョッキに注がれる。
臭いが少し強烈だ・・・。
それを一気に・・・。

ジェスター
「う・・・」

一気には流石にきつい。スローペースではあるが飲み干す。
でもまだまだ行ける。私思ってたよりお酒強いかも。
まだ時間そんなに経ってないってのもあるかもしれないけど。

派手な人
「珍しい、まだ誰もぶっ倒れません!期待のジェスターもまだ健在!」
ジェスター
「わーい」

アピールすると、わーっと歓声が上がる。

派手な人
「いよいよゲテモノと言われるお酒に入ります。次はエール!
こいつは、強い!」

ジョッキにエールが注がれる。ドキドキする。
それをまた飲み込む。

ジェスター
「うっ・・げほっ、げほっ!!」
派手な人
「おーっと、ダウンの予兆が!」

飲み込んだ瞬間非常に喉が熱くなった。まるで熱湯を飲んでるかのようだ。
でも頑張って飲み干す。飲み干してジョッキを机に置くと再び歓声が上がった。
すると三番の人が机から離れてどこかに走っていった。

派手な人
「ゲロはトイレでしてくださいよー。三番ダウン!
次はウォッカ!火酒とも呼ばれます。未成年がこんなの飲んだら一瞬でイチコロ!」

未成年・・。
ウォッカがグラスに注がれる。
うーん・・。段々酔いが回ってきた。クラクラする。
あれ・・。ちょっと気持ち悪い・・・。

でも気にせず一気に飲む。
飲みきると再び歓声が沸いた。

派手な人
「強い、強いぞ!このジェスター!いや、ルイ様!」
ジェスター
「アハハ、私は誰よりも強いからね!」
派手な人
「言った!そして完全に酔ってる!!」

再び歓声が舞い起こる。

テテル
「全く、ジェスターだから目だってるなぁ。」
ルルイ
「ほーら、テテル。お知り合いさんに負けちゃだめ」

観客席からルルイが問いかける。


派手な人
「ここから先は地獄の入り口!
次はスピリッツ!飲みなれてない奴はぶっ飛ぶ事間違いねぇぞー!」

ジョッキにスピリッツが注がれる。
えーい、もうどうとでもなれー。
ぐぐっと飲む。

ジェスター
「まらまら(まだまだ)いけるぅー!」
筋肉質な男
「・・ぐあぁ・・・ギブアップだ・・。」

筋肉質な男が机に突っ伏す。
ここまで残れたのは予想外だ。

派手な人
「いよいよ二名に絞り込まれました!
賞金が配られるのは一名のみ!勝者はどちらだ!!
次は酒のマニア程度にしか知られていない名手!ウーゾ!!」

ジョッキに注がれる。
腰に手を当ててグビグビ飲む。思わず客席から驚きの声が上がる。

ジェスター
「えーい・・。まらまら・・・まら、ひゅへる(まだ、いける)・・!!」
派手な人
「俺だったらもうぶっ倒れちまってるがな!」
テテル
「中々怖いな。あのジェスター」

気が付けば客席から「ルーイ!」と叫ばれてる。

派手な人
「つづいては、『どぶろく』!この酒を飲んだらタダじゃ済みません!」

定員がどぶろくをジョッキに注ごうとする。
・・が、ジェスターがそれをバッと奪い一気に飲み干す。
思わずざわめき出す。

派手な人
「なんて、何て強い奴なんだ!だが、しかしテテル様もまた強敵!
まだ酔っ払ってすらいません!」
ジェスター
「ひゃぇも、へっひょくはふのははたし!(でも、結局勝つのは私!)」

そういって、ジェスターが机にぶっ倒れた。思いっきり頭を打っている。

派手な人
「ダウンか!?」
ジェスター
「まらまら(まだまだ)!!」
派手な人
「ルイ様がお倒れになる前に次のお酒といきましょう!
正真正銘、地獄のお酒!閻魔も苦しむ至極のお酒!テキーラだ!
こいつのアルコール濃度はもはやガソリンとかわらねぇ!!」

ジョッキにテキーラが注がれる。
それをググッと一気に飲む。

視界がぐわんぐわん回る。あ、これもうだめだ。
後ろによりかかる。そのまま椅子ごと後ろに倒れる。
ウッ、今度は気持ち悪い。

何か誰かが色々言ってるけど耳に入らなかった。



6.5話に続く


追伸

良い子でも未成年の飲酒はせいぜいビールぐらいにしておいてください。
それ以上は死にます。ってかそもそも法律違反です。
ちなみにテキーラはアルコール濃度の高さゆえに喉を守るために塩と一緒に飲むそうです。

当然ですが、お酒飲んでない人が根性と気合でジェスターみたいに飲みまくったら
死にます。余程素質がない限り死にます。ジェスターは人じゃないから特別だと思ってください


6.5話



ラルク
「急性アルコールで倒れたぁ・・?アホだなぁ・・」
テテル
「とりあえず今まで酒を飲んだことがあまりないらしい。
当分、病院生活だからバイト来れないっということを伝言しておく」
ラルク
「あいよ。まぁ、俺もそろそろ別の市場に移っちまうけどな。
娯楽に飲み込まれて倒れちまうと世の中は厳しいってことを知る事になるさ」



ジェスター
「うぅー・・。苦しいぃ・・。目が回る・・・」

村にある小さな病院のベッドで苦しんでいる。
何度も嘔吐し水を飲まされ安静しまた苦しんで・・・。
強いお酒はもう飲みたくないと誓った瞬間ではあった。

ジェスター
「苦しいよ〜・・・助けて〜・・・」

その時誰か一人やってきた。テテルだ。

テテル
「伝言伝えてきたぞ。向こうも伝言だ。明日ぐらいにこの市場を出るんだとさ。」
ジェスター
「え!」

ガバッと起き上がる。そんなことされたら何時カーボンと銀が手に入るか分からなくなる。

ジェスター
「そ、それは絶対にだめ・・・。行かなきゃ・・!」
テテル
「行ってらっしゃい。俺は知らないからな」

病院のベッドを抜け出して市場に走る。




==市場


市場に入る。いつもより賑わいが凄まじい。

ジェスター
「うぅ・・ぅぅ・・」

うーうー言いながらラルクががいた場所まで走っていく。
少し走るとラルクの商店が見えた。

ラルク
「はい!いらっしゃい、いらっしゃい!
・・・・おや、」

ジェスターに気づいたようである。

ラルク
「病院抜け出してよかったのかい?」
ジェスター
「うん、いなくなっちゃうって聞いたから・・。
とりあえず働いてカーボンと銀を手にいれないと・・」
ラルク
「だめだ。その二日酔い状態で仕事されたら客に悪い印象を与え来なくなる」
ジェスター
「隠し通すから・・」
ラルク
「はぁ・・。世間について学んだほうがよさそうだなぁ。
いいかい?娯楽で明日に支障をきたす人は信用されなくなる
計画性が全くない事が丸分かりだからな。」

昨日と違って今日はかなり冷たい。

ラルク
「飲んだくれのおっさんが『信用してくれぇ〜』って言っても信用できないのと同じだな」
ジェスター
「でも・・カーボンと銀がないと・・」

もはや催眠術にかかってるかのように言う。

ラルク
「・・・・ま、でも結局仕事を放り出したわけじゃないのは評価できるな。」

それを聞いて少し安堵する。

ジェスター
「じゃぁ・・」
ラルク
「だが仕事をやらせる事はできない。さっきも言った通り客が寄り付かなくなる」
ジェスター
「・・・・う・・」

また吐き気が。ここで吐いたら最悪な事態を招く。
急いでその場から離れて人通りのない場所に移動し近くの草むらで嘔吐する。
苦しい・・苦しすぎる・・・。

最近悩みすぎてノイローゼになったり酷い風邪をひいたりお酒飲みすぎて凄く気持ち悪くなったり・・・。
なんだか今凄く家に帰りたい・・。なんで放浪なんてしちゃったんだろう・・。
いかに自分が守られてたかってのがよくわかる。

一歩外に出れば誰も守ってくれない・・・。




ジェスターの中で自問自答し続ける。
別に剣を直さなくてもキュピルなら許してくれる・・・。
ファンだって責めない・・・。ルイも何か言ったりはしない・・。

気が付けば思考から逃げていた・・・けどここまで色んな事を学んできた。
とにかく全部マイナスの方向に向かってるわけじゃないんだ・・。
自分にそういい聞かして村にもう一度戻る。


ラルク
「おや、戻ったか。吐いてきたか?」
ジェスター
「うん」
ラルク
「なんかさっきより表情明るくなったな。良い事でもあったのか?」
ジェスター
「なんかここ最近悪い事が立て続けに起きたから逆に幸せのハードルが下がっちゃったのかも」
ラルク
「ハハハ、そいつはいい。幸せのハードルが下がったってことは
幸せに感じる物が増えたってことだ。わがままな奴ってのはこの幸せのハードルが高いんだよな」

なんか一瞬昔の自分を言われたような気がした。

ラルク
「それで、どうすんだ?悪いが仕事だけは無理だぞ
酒の臭いも酷いしな」
ジェスター
「うっ・・臭いは嫌かも・・」

でも、こればっかりはしょうがないかな。

ジェスター
「わかった。お金で買うよ」
ラルク
「金か?二つで10万だが手持ちがなかったんじゃ?」
ジェスター
「片方だけなら買えるでしょ?」
ラルク
「なるほどな。それもまた一つの手かもしれんな。
銀が7万。カーボンが3万。」
ジェスター
「じゃぁ、カーボンを買います」
ラルク
「あいよ」

近くにおいてあったカーボンを手に取りジェスターに渡す。
これで残りの所持金は二万だ・・・。

ラルク
「銀はどうするんだ?これもなきゃいけないんだろ?」
ジェスター
「なんとかして別の方法で手に入れるよ」
ラルク
「おや、そうなるのか。ま、それを所望してるなら構わんさ。」

ただ諦めただけじゃない。
ジェスターなりにしっかり計画を用意してるつもりだ。

ジェスター
「ところで鉱石を売ってるならピッケルも売ってない?」
ラルク
「ピッケル?あるにはあるんだが・・・。
ははん、さては鉱石を自ら掘り当てる気だな?」
ジェスター
「ダイヤモンド掘るついでにいいのあったら掘る気」
ラルク
「ダイヤモンドを掘り当てる・・か・・。そいつは正気か?」
ジェスター
「嘘じゃないよ。ちゃんと冬凍山に入って探す。」
ラルク
「気が変わった。もう少しこの村に残るよ」
ジェスター
「どういうこと?」

首をかしげる。

ラルク
「もし冬凍山に入って良さそうな鉱石を見かけたらついでに掘り当ててくれ。
それを俺が買い取ろう。どうだ、悪い話じゃなかろう?」
ジェスター
「あ、そういうこと・・。うん。そうする」
ラルク
「助かる。実はいつも鉱石を買い取ってる旅人と交渉してたのだが
法外な値段をたたきつけてきてな。今は何処でもいいから仕入先を探していたんだ。そうだ」

ラルクがカバンから何かを取り出す。

ラルク
「それならこの本持っていくといいだろう。どのくらい価値があるのか。どういう見た目をしてるのか
全部書いてある」

そういうと鉱石のカタログの本を貸してくれた。

ラルク
「ピッケルは貸すぜ」
ジェスター
「飲んだくれは信用できないんじゃなかったの?」
ラルク
「そんなこと言うんだったら返してもらうぞ」
ジェスター
「う、嘘だよ。でもまだちょっと頭痛いから今日は休んじゃダメ?」

吐きまくったから大分マシになってきてはいるけど・・・。
それでもまだ辛い事には変わらない。

ラルク
「忘れちゃいけないがこれも仕事だ。俺も滞在時間を延ばすといっても
3、4日しか延ばせん。時間的に今すぐいったほうがいい」
ジェスター
「ということは時間的に四日以内に戻らないとだめなの?」
ラルク
「そうなるな。
ジェスター
「4日・・・」

行きと帰りの距離。作業時間。道のり。どれをとっても四日で戻るのは不可能でなくとも忙しい。

ラルク
「ほら、いってきな」

そういうとピッケルを差し出した。
それを受け取って市場を出る。冬凍山に行く前に一旦鍛冶屋による


==鍛冶屋

クローク
「ん、もう全部集めてきたのか?」
ジェスター
「私そんなに優秀じゃない。でも一個手に入れたよ」

カーボンをカウンターに置く

クローク
「ふむ。まぁ、このぐらいの大きさなら事足りる。後は銀とダイヤモンドだな」
ジェスター
「ところでその剣分析できた?修理できそう?」
クローク
「少し時間を貰うことになりそうだな。だが直せないことはない。
そのためにもまずは材料を集めてきてくれ」
ジェスター
「これから冬凍山に言って掘り当ててくる」
クローク
「銀は冬凍山にないぞ」
ジェスター
「大丈夫。ちゃんと目処あるから」
クローク
「・・ふーん、そうか。なら言って来い」

そういって鍛冶屋を出る。一通りの物は用意した。さぁ、掘るぞ〜



==冬凍山一合目

ジェスター
「うーん・・あの時は滑ったからいいけど今度は上らないといけないんだ・・・。」

長くて険しい雪道を登っていく。
今日も雪が降っている。





ジェスター
「はぁ・・はぁ・・」

大分上ってきた。荷物が段々重たく感じてきた。
後ろを振り返ると桜咲く村が小さく見える。今三合目という看板を見つけた。

ジェスター
「ぎゃ」

雪に足を取られて転ぶ。でも雪がつもってるから痛くない。
・・・・って思ったら頭が凄い痛い。

ジェスター
「・・い、痛い・・!!」

何かにぶつかったみたいだ。石?
でもよくみると違う。なんかある。

ジェスター
「・・盾?」

盾。そういえばキュピルとか誰も盾使ってない・・・。
ちょっと持ってってみよう。荷物がその分増えたけど。

ジェスター
「重すぎて持てなくなったら何処かに捨てちゃおう。」

再び山を登り始めた。





ジェスター
「よっこらしょー・・・。やっこらしょ〜・・・あぁー・・。疲れた〜・・」

近くの地面に座る。雪が冷たい。
さっき6合目を過ぎたから後少しなんだけど相当上ったから疲れた。

ジェスター
「この盾思ったより新しいなぁ」

拾った盾を眺める。あまり傷もなく比較的綺麗だ。
これは意図的に捨てたというより落としたに近い。

ジェスター
「でも雪で埋もれてた所を見ると二日以上は経ってるはず・・。貰っちゃおう〜」

盾を構えて剣を抜く。
・・・・あ、そうだった。幽霊刀しかなかった。

剣を引き抜いて出なかった所で気づいた。
ふざけるのも程ほどにして再び山を登る。



==冬凍山7.5合目

ジェスター
「やっとついたぁ〜〜!!」

見覚えのある洞窟の入り口と宿。
今日もさり気なく人が多い。
登り始めて5時間。突撃するのは少し休憩してからにしようっと。

洞窟の入り口付近で座って休んでると宿から四人グループの旅人がやってきた。
なんか髪の色が皆それぞれ派手で目立つ。

青い髪の青年
「まぁ、そう落胆するなよ」
赤い髪の少年
「だってあれ俺のお気に入りの盾だったんだぜ・・・」
深緑の髪の女性
「あんた何回も転んだからねぇ。背中につけずに手でもっておけばよかったんじゃないかい?」
白い髪の少女
「一番後ろを歩いていたのも原因かも・・」

全員言うと再度赤い髪の少年が深いため息をついた。

赤い髪の少年
「はぁー・・・。」
ジェスター
「あの・・」
赤い髪の少年
「ん?」

拾った盾を見せる。

ジェスター
「もしかしてこの盾は・・」
赤い髪の少年
「あああぁぁ!!俺の盾!!」

ガバッと奪い去る勢いで盾を取る。

ジェスター
「ぎゃっ!」
青い髪の青年
「クルァァ!!てめぇ、何せっかく拾ってあげた人を乱暴に・・!」
赤い髪の少年
「うわ、いてぇ!わりぃわりぃ!あまりの嬉しさに発狂しちまったぜ!あんがとよ!」
ジェスター
「あ、あんがと・・?」

呆然とする。

深緑の髪の女性
「ハハハッ、よかったじゃないか。白い人。私からもありがとうね」
ジェスター
「なんか賑やかで楽しそうですね」

ちょっと羨ましい

深緑の髪の女性
「にぎやかねぇ・・・。あたいにとっちゃ五月蝿すぎて逆に迷惑だよ」
赤い髪の少年
「うぉぉぉ!俺の盾があれば冬凍山ダンジョンなんて制覇しちまうよ!」
青い髪の青年
「ばかやろう、洞窟だ!」
ジェスター
「あれ?もしかして冬凍山の洞窟に行くんですか?」
白い髪の少女
「そうです」

ラッキー。便乗しちゃおうかな。

ジェスター
「実は私も冬凍山の洞窟に用があって潜るところなんです。ついてってもいいですか?」

初めて上手く丁寧語を使えたような気がする。

赤い髪の少年
「おう!俺が守ってやるよ!俺の名前はシクだ!」
深緑の髪の女性
「なーに気取っちゃってるんだよ!ヒヨッコのくせに!そうそう。あたいの名前はシノ。よろしく」
ジェスター
「私の名前はジェスターです。」
赤い髪の青年
「ジェスターか。シエスと名前が少し似てるな。」
白い髪の少女
「私がシエスです。術使いなのであんまり打たれ強くないですがよろしくお願いします」
青い髪の青年
「しまったなぁ。俺が最後になっちまったか。俺の名前はニュー。頼むぜ」

今朝までは一人でゲーゲー吐いて凄く苦しくて辛い思いをして
昼は一人で山を登って無言でずっと登り続けて・・・。
でも集団に入ったら一気に楽しくなった。集団って不思議。

ニュー
「よし、準備は皆いいな?」
一同
「おう」
ニュー
「シエスとシノは後列。俺とシクが前列を勤める。ジェスターの職業は何だ?」
ジェスター
「しょ、職業・・?」
シク
「何の武器をメインにして戦ってるか?ってことだぜ」

あ、なるほど。一瞬放浪って言いそうになった。

ジェスター
「私は戦士かな。魔法からっきしダメ・・・。」
ニュー
「戦士か。それなら俺達と一緒に前列を頼む」
ジェスター
「わかった」

陣を組んで松明を掲げ冬凍山の中に入っていく。
ちょっと楽しいことになってきたかも。



7話に続く


第七話


前衛の人と後衛の人それぞれ一人ずつ松明を持って奥の方に進んでいく。


シク
「へへっ、武者震いしちまうぜ」
ニュー
「あんまり調子に乗るな。そういう時が一番危ない」
シク
「よ〜〜っくわかっておりますよっと」

シクがこっちを向く

シク
「そういや、ジェスターさんは何処生まれなんだい?」

突然質問してきた。

ジェスター
「うーん私どこ生まれなのか分からないんだ」

実際記憶にないって言ったほうが正しい

シク
「それならどこに住んでるんだい?」
ジェスター
「ナルビクだよ」
シク
「ナルビク・・。しらねぇな・・」
ジェスター
「結構大きい街なんだけどね」
シノ
「あたいは知ってるぜ」
ニュー
「俺もな」
ジスタ
「私もです」

一瞬沈黙が流れた

シク
「・・・ア?俺だけなのか?知らないのは」
シノ
「もっと本を読んで勉強するんだね」
シク
「ちっ、俺は体を動かしてる方が好きなんだがよ」

悪態をつく。
その瞬間皆が武器を取り出した。一瞬何事かと思ったけど天井を見ると
敵がいることに気が付いた。気配を潜めてたのでジェスターは気づかなかった。

ニュー
「下がれ!」

全員一旦後ろに下がる。モンスターが下に落ちてきた。見たことない敵だ。

ニュー
「開幕、七点爆の併せ!併した後は各個攻撃!五手で詰み!」
一同(ジェスターを除く)
「了解!」
ジェスター
「え?え?」

言ってる事がよく分からなかった。七点爆・・?併せ?

ニュー
「ジェスターさんは併せが終わるまで防御!併せ終了後攻撃に!」
ジェスター
「わかった!」

命令がようやく来て行動できる。前衛で防御する。
そこそこ大きいモンスターがジェスター目掛けて氷のブレスを吐いた!

ジェスター
「ていっ!」

鉄の棍棒で氷のブレスを向かい打ち壊した。実質回避に成功だ。
その間後ろ四人が魔法を唱えている。一人唱えるたびにドンドン呪文の文字が大きくなっていく。
全員唱え終わったらしく魔法が発動された
巨大な炎の弾がモンスターに向かって七連射される!

見事命中しそのまま敵は倒れた

ジェスター
「す、すごい・・。こんな魔法きっとルイでも出来ないよ・・・」
ジスタ
「魔法じゃないですよ。術です」
ジェスター
「術?」
ジスタ
「代々伝えられていってる魔法です。併せれば併せるほど威力が強くなっていくのが特徴です。
単体だとあんまり強くなくて・・」
ニュー
「初めて会う敵は必ず併せる。強さを調べるためにな。まだこのあたりは対して強くなさそうだ」
ジェスター
「へぇー・・」

なんかこの人達。もしかしたら凄い強いかも。
陣を組みなおして再び歩き出した。


しばらく歩いてふと疑問が浮かんだ。

ジェスター
「ところで何で皆、額に水晶玉みたいな物をつけてるの?」

・・・・・。沈黙が流れてしまった。

ジェスター
「・・・・あれ?もしかしてまずいこと言っちゃった・・?」
ニュー
「ハハハ・・。ファッションさ」
シク
「そ、そう!うちの家はこれが流行っててさ!」
ジェスター
「・・?」

何か疑問が残った。
シノは苦い顔してるしジスタは少しおびえた顔してる。
・・・・。この話題には触れないほうがよさそうだ・・・。理由は分からないけど・・・。


途中いくつかの分かれ道があったけど最深に続く道を選んでるようだ。
所々鉱石が掘れそうな場所がいくつかあった。本を取り出し何の鉱石か調べる

ジェスター
「(うーん・・・。あんまり値打ちがなさそうな鉱石・・・)」

値打ちがないものを掘って荷物を重くするより価値のあるものをドカンを当てて
楽して帰りたい。今は素通りする。



二時間ぐらい歩いた。会った敵はさっきの敵一体だけだ。

ニュー
「よし、一旦ここで休憩しよう」
シク
「ふぃー。疲れたぜ」
シノ
「流石ニューだね。いつも指示が的確。あたいの後任としてピッタシだね」
ニュー
「いつかは引き継がないといけない。」

向こうのちょっとした事情があるらしい。

シノ
「そういや、ジェスターさんは何のために冬凍山に来たんだい?」
ジェスター
「最深に鉱石があってその鉱石を求めて来ました」
ジスタ
「へぇー。」
ジェスター
「皆は何が目的で冬凍山に来たの?」

少し間を置いてニューが喋った

ニュー
「一族のために討伐しなければいけない敵がいる」
ジェスター
「へぇー・・・」

ジスタと同じ返答をしてしまった。なんかちょっと重たい。一族って・・・。

ニュー
「鉱石ならあれなんかはどうだ?」

ニューが少し位置の高い場所を示した

ジェスター
「あ・・・、あれは・・」

鉱石の本を取り出し該当する鉱石を探す。
・・見つけた!

ジェスター
「黒炭だ!」

黒炭そこそこ需要があるのでピッケルを取り出す。
でも位置が高くて届かない。必死に試行錯誤していたら体が宙に浮いた・・っと思ったら肩車だった

シノ
「あたいの身長なら届くかい?」
ジェスター
「ギリギリ届く!」

ピッケルをガンガン黒炭にぶつける。破片がいくつもボロボロと落ちてきた。

ジェスター
「落石注意〜!」
シノ
「いていて・・」

「ハハハ」

結構削り落としたほうだ。降ろしてもらい黒炭をカバンに詰める。

ジェスター
「ありがとう」
シノ
「いいってことさ。」
ニュー
「さぁ、そろそろ行こうか」

全員立ち上がり陣形を組んで移動する。



少し進んだ所で全員同じことを思っただろう。

ジスタ
「なんか・・寒くなってきましたね・・」
ニュー
「寒さに耐え切れなくなったら松明の火を使え。火を切らすな」

厚着でも寒い。ジェスターの場合服一枚なので余計寒い。
・・・が、寒さには強いほうだ。
以前冬凍山を通って桜咲く村に進んだときこの道は通らなかったような気はする。

気が付いたら全員陣形が少しずつ崩れ松明に近寄っていた。
その時突然横の穴から蛇型のモンスターが奇襲してきた!
蛇型の敵がニューの腕にかみつく。

ニュー
「油断した・・!」

力づくで蛇を引き離す。その後剣を抜いた。
他の皆も槍を構えたり長刀を構えたりと武器を引き抜いた。
全員が構えた瞬間大量の蛇が天井から・・横から・・穴からとわらわら這い出てきた。

ニュー
「きをつけろ!毒をもっている!」

ニューが術を唱える。毒消しの術のようだ。

ニュー
「各個雷電なり暴れ石なり範囲攻撃の術を放て!範囲技を持つ者は術より技を優先しろ!」
一同
「了解!」

蛇に向けて全員雷を放ったり石を術で飛ばしたり応戦している。
シノが前に出て薙刀で敵を一掃する!

シノ
「ていやっ!!」

一掃したとはいえまだ大量に残ってる。
全員後ろにジワジワ下がりながら戦っている。
気が付けばジスタが前に出すぎている。弓なのに危険だ!

ジェスター
「ジスタさん下がって!」

気づいたらしく後ろに慌てて下がる。ジェスターが前に出る

ジェスター
「キュピルの範囲技を真似して・・!」

剣を引き抜こうとする。が、またしても幽霊刀だったことを忘れ引けない事を思い出す。

ニュー
「剣が抜けないのか!?」
ジェスター
「これ私には抜けないの!」
ニュー
「この剣を使え!」

予備の剣を投げられる。良質な剣だ。
剣を構えてキュピルの真似をする

ジェスター
「そりゃぁ〜!!」

姿勢を低くしてぐるぐる回転して周りにいる蛇を斬りつける。傍から見るとカッコワルイ。
しかし効果抜群。

ジェスター
「ありがとう!返す!」

剣をニューに投げる。ニューがそれを受け取り各個切り捨てる

シク
「皆下がれ!土々呂の併せが終了した!」

全員後ろに下がりシクとジスタが前に出る

シク&ジスタ
「土々呂!!」

術で岩を呼び出し蛇に向けて大量に落とす。
併せておいたので岩が倍増している。

なんとか一掃できたようだ・・。


ニュー
「思ったより手ごわくなってきたな・・・。奇襲に気をつけたい」
ジェスター
「毒大丈夫・・?」

心配してみる

ニュー
「大丈夫だ。毒消しの呪文でなんとかなった。とにかく先へ進もう。」

落とした岩の上を登って歩いていく。




進めば進むほどますます寒くなってきた。
全員松明から離れられない。

今まで黒い壁だったのだが壁が氷に変わり始めた。
それと同時に床も徐々に凍り出しており滑りやすくなっている。

ジェスター
「あ・・。あの鉱石は・・」

凍ってる壁の先に銀色に輝く鉱石を発見した。銀だ!
これはラッキーだ。自分で探していた鉱石を自ら掘り当てる事が出来るとは。
これで例の商人と交渉する必要性はなくなった。

ジェスター
「私ここの鉱石を掘りたいので先行ってください」
ニュー
「わかった。もし分かれ道があった場合進む方向に目印をつけておく。」

そういってニュー達は先に歩いて行った。
カバンからツルハシを取り出し周りの氷を削っていく。
なるべく銀を根こそぎ持って行きたいので関係ない部分はツルハシで削り
上手く銀を大量に持って行けるように削っていく。

何十分かツルハシで削っていくと上手く氷を剥がすことに成功した。
次に銀の部分にツルハシを当ててガンガン壊していく。破片となった銀がボロボロ落ちていく。
最終的には溶接してインゴットという素材になるらしいので余程細かくなければ関係ないらしい。


ジェスター
「あ・・」

何分か銀を削っていたら壁から銀がなくなってしまった。掘りつくしたようだ。
奥に行けばまたあるかもしれないから今は一旦ここでやめて銀の破片を拾う
その辺の石ころと大体同じ大きさの銀がいくつか手に入った。
一旦ニュー達の場所に戻ろう。

リュックをしょって松明を掲げ再び奥に進む。


奥に進むと崖が現れた。道がない・・・。
どうやってニュー達は進んだのだろうか・・。術?
そう思ってると横に狭い道があることに気づいた。
しかし本当に狭い。横幅大体50cmぐらいだろうか?
しかも途中から壁がなく歩くには相当な勇気が必要だ

ジェスター
「ごくり・・」

唾を飲み込む。この先に行かなければダイヤモンドは手に入らない・・・。
しかし落ちたら・・・この深さでは・・・。
高所恐怖症のジェスターにとっては下がりたくなってしまう光景だった。

しかし・・・行かなければ・・・。
でも怖い・・・!

・・・・。

10分ぐらい経った。これ以上時間を延ばすのもまずい。
ゆっくり・・・。ゆっくりと一歩踏み出す。
万が一足を踏み外した時のためにすぐに崖に掴まれるよう髪をパタパタさせておく。

ジェスター
「う・・・」

怖い・・・。
・・・・・。

一歩歩く。

・・・また一歩進む。

・・・また一歩・・・っと、その時。


ツルッ

ジェスター
「!!」

滑った。髪を思いっきりパタパタ動かして軌道修正する。せめて前の方向に倒れないと・・!
前のめりになってうつ伏せに倒れる。顎を思いっきり打った
そのまま勢いよく前に滑り出した。

ジェスター
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

下り坂になっているため勢いは止まらずドンドン滑る。
落ちないように必死にバランスを保つ。

・・・壁だ!!
しかしブレーキ方法なんか分からず下手に動くとバランスが崩れて落ちる可能性が否めないため
そのまま壁に激突した。

ジェスター
「い・・・い・・・痛いーーーーーーーーーー!!!」

思いっきり叫んだ。顔面激突だった・・・。
あまりの痛さに思わず泣きそうになる。

ジェスター
「・・・・・・」

何はともあれ細い道を渡る事は出来た・・・。それにしても横に転落しなかったのは
ある意味奇跡に近い・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

痛みが引いた所で再び立ち上がり歩き始めた・・・。



壁に激突した場所から横に進んでいく。この道も壁がなく万が一転落したら
さっきと同じように深い底に落ちていってしまうが道幅は三メートル程あり
端を歩かなければ落ちる心配はなかった。

歩いてる途中分かれ道があった。
左の方向にいくつかのお金が置いてあった・・・。
きっとニュー達は左の方に行ったんだ。お金を回収して後を追う。



しばらく進んでいく。
結構歩いたほうだ・・・。
ニュー達と別れてからどのくらいになる?三時間?
歩きつかれたので休憩する。でもさっきよりもより一段と寒くなっていて
あんまり長い間休んでると体が冷えて凍えそうになる。

ジェスター
「寒いなぁ〜・・」

松明の近くで体を温める。
・・・突然松明の炎が消えた・・。まるで酸素がなくなったかのように

ジェスター
「!?」

辺りを見回す。しかし何もない。
敵がいるのだろうか?何か魔法とか唱えられて・・・。

周りを警戒するが姿も気配も何も感じない。

偶然炎が消えたのだろうか?
とにかく暗すぎて何も見えない。
カバンの中を手探りでマッチを探す。
・・・・あった!

マッチを擦って火をつけようとする。
・・・・ところが、つかない。

ジェスター
「どうして・・。お願い・・。ついて!」

この先探索が出来なくなるとかそういう問題ではなく
この暗さでは帰れなくなってしまう。
真っ暗な状態で先ほどの細い道を歩く自信はない。
何度もマッチ箱に擦って火をつけようとするが磨り減るだけで火は一切つかなかった・・。

このままではこの冬凍山の中で凍え死にしてしまう・・。そんな絶望感を一瞬味わった瞬間に
ある事を思い出した。そうだ、懐中電灯!
カバンの中にあったはず。こっちは炎じゃないから電池さえあれば・・!

手探りで再び探す。・・・あった!スイッチだと思われるボタンを押す


ジェスター
「ついた・・!」

松明と比べると明かりは非常に暗いがなんとか数メートル先の足元を照らして歩く事は出来る。
安心した・・。とりあえずニュー達と合流できればきっと心強くなるはずだ。
急いで先を進む。


ウネウネした曲がり角を歩きいくつかの分かれ道も通る。
今度は長い直進の道。その道を走る。


ジェスター
「・・何か音が聞こえる・・」

声も聞こえる。ニュー達かもしれない。
でも向こう側に明かりが無いところをみるとジェスターと同じ現象に陥ったのかもしれない。
声の聞こえる場所に行く。



ニュー達がいた。戦闘している。


ジェスター
「遅くなったけど援軍に来たよ!」
ニュー
「明かりか!辺りを照らしてくれ!」

大きな懐中電灯で前方を照らす。敵の姿を見た時懐中電灯を落としそうになった。
巨大な龍みたいな敵だ・・!こっちに気づくやいきなり氷のブレスを吐いてきた!

ジェスター
「痛い!!」

避けることが出来ず直撃する。
五秒して誰かがジェスターに回復の術を詠唱した。

シノ
「ジェスター!他に明かりはないのか!?」
ジェスター
「これしかない!松明が突然使えなくなっちゃったの!」
ニュー
「奴の術のせいだ・・!弱点である炎から身を守るために術で炎が起こせないように
範囲魔法を放ってきた!」

龍が突進してきた。二手に分かれて回避する。

ジェスター
「シクさんとジスタさんは!?」
シノ
「重症を負っている。早くこいつを倒さないと治療できない!」

武器を持とうにも懐中電灯を両手で持っているので武器を取り出すことは出来ない。

ニュー
「くそ、明かりが・・・!!こっちまで届かない!」

さっきの攻撃で二手に分裂してしまい龍が間で邪魔をしていて明かりが届かない。
龍が体を撓らせて尻尾で思いっきりニューを叩き付ける

ニュー
「うぐあっ!!」
シノ
「術、円子!」

ニューに対して回復魔法を唱え回復させる。

ニュー
「くそっ・・明かり・・・」

今度は龍がこっちを向いた。口から細かな氷の破片を飛ばしてきた。

シノ
「うわ!」
ジェスター
「ぎゃ!!」

身を守る物がなく氷の破片が体に刺さる

シノ
「うぐっ!!」

氷の破片が肩にささる。その場に崩れる。

ジェスター
「シノさん!」

壊滅状態だ・・。あんなに強かった四人が倒れている・・・。
何処からとも無く声が聞こえる・・。知らない声だ


「おやぁ?どうしたんだい・・?こいつを倒して鍵を手にいれてよ・・!
そして僕の庭までやってきてさ。パーティーしようよ!
そのためにも・・最後まで頑張って挫けずに戦ってよぉー?」

一見励ましにも見えるかもしれない。
しかし明らかに見下してる。応援のカケラも感じられない。
誰だかしらないけど叫ぶ

ジェスター
「だったら手伝ってよ!」

「ん?誰だ・・?一族とは関係ないやつみたいだな・・・。」

ニューが叫ぶ

ニュー
「撤退・・・撤退だ!!全員下がれ・・・!!ジェスターも急いで朱点の敵から離れろ・・!」

倒れていた者も力を振り絞って立ち上がり急いで戦線から離脱する。
しかし龍が道を塞ぐ。

「ジェスターって言うんだー。・・そうだ、自己紹介しないとなー。
僕の名前は黄川人。ま、訳ありでこの人達とは敵対していてね。」

敵・・。この人は敵!でも姿は見えない。龍が喋ってるようにも思えない。

黄川人
「君がどのくらいの力なのか見せてよ。」

龍がこっちに向く。懐中電灯を床に置いて鉄の棍棒を手に取る。
氷の塊を吐いてきた!

ジェスター
「えいっ!」

思いっきり氷を叩き割る。
叩き割ったと思ったら再び氷の塊が飛んできた!
連続してドンドン割る

ジェスター
「とりゃー!」

全部叩き割って防御に成功する。
・・・っと、思ったら横から尻尾が飛んできた!

ジェスター
「っ!」

突然の不意打ちに気づかず直撃する。
そのまま壁まで吹っ飛ばされる

ジェスター
「痛・・・い・・・」

一撃で瀕死にまで持ってかれる。

黄川人
「なんだ、強くないのか・・。これじゃ、一族を助けることも出来ないね・・・
ニュー君。よーく見ておくんだね。今ここでひとつの命が燃え尽きようとしている。」

ドラゴンがジェスターを掴む。

黄川人
「もしかして人の死を見ても何の抵抗も持たなくなっちゃったのかな?
そりゃそうだよねぇ・・・。君たちは二年以上生きられないのだから・・・」
ジェスター
「離して・・・」

顔が青ざめる

黄川人
「さぁ、今のうちに逃げるんだね。僕の気が変わらないうちに」

シノがじりじり後ろに下がり始めた
シクがシノの腕を掴む

シク
「おい・・逃げるのかよ・・!」
シノ
「今逃げれば無駄死にせずに済む。」
ニュー
「シノの言う通りだ。ジェスターには申し訳ないが撤退しよう・・・」
ジスタ
「ちょっとまって!流石にそれは・・!」

一族が揉み合い始めた
黄川人が笑い出す

黄川人
「ククク・・・噛みあわない一族の意見・・!もっと仲良くしようよ・・!
ま、こっちは勝手に進めさせて貰うよ」

龍がジェスターを地面に押さえつける

黄川人
「もう僕の出番はなさそうだね。じゃ、また会えたら。ヨロシク」

声が聞こえなくなった。
龍がもう片方の手で拳を作りジェスターを潰そうとしている。
その傍らでも揉み合う一族。

ジェスター
「もうだめだ・・。私死んじゃうんだ・・」


目を閉じる。戻れなくてごめんね、皆。
そう思った瞬間突然ある一言を思い出した。




もしも、危機が襲い掛かってピンチになったら
この剣に助けを呼ぶといいよ




まるで声が再生されたかのようだった。
拳がもうすぐそこまでやってきている。



幽霊刀に祈った・・・。








ガキン!



目をあける。拳が見えない何かとぶつかったようだ。
それと同時に龍が大声を上げてジェスターを開放する。

右手には幽霊刀を握っていた・・・。



ニュー
「なんだ!?」

ジェスターはもう助からないと踏んでいたのだろう
相当に驚いてる。勿論ニューだけではなく他の人も全員

シク
「ほら見ろ!一人でも必死に抵抗してる!」

ジェスターが剣を持って龍に接近する。
龍が手で薙ぎ払おうとするがそれを綺麗に回避する。
体が凄い軽い・・!まるで無重力にいるみたいだ!

もはや飛んでるかの如く軽快なステップを繰り出し龍に接近する。
刀の射程内に入る。一気に龍の腹めがけて突き刺す

グォォと龍が鈍いうめき声を上げる

ニュー
「作戦変更だ。今なら勝てる」
シク
「全くもって図々しいぜ、だが勝てる戦を逃す手はないな!」

離れてるうちに回復の術を詠唱してたのか四人の体力は回復していた。
全員が武器を持って突撃する

ジスタ
「提案!ジェスターさんの援護に回ったほうがいいと思う!」
ニュー
「採用しよう。術で武人をジェスターにかけろ!また龍の攻撃にも備え
全員で陽炎をかけるぞ」

後ろで武人を扱えるものが術の詠唱に入る。

ジスタ
「武人!」

ジェスターを術の枠で囲み力を一時的に増幅させる。
ジェスター自身も急に刀が軽くなったかのように感じられた

ジェスター
「えええい!!」

龍に向けて会心の一撃を繰り出す。
しかし大きさに反して意外と素早い。龍が回避する。
そのまま宙返りして尻尾で叩きつけて来た!

ジェスター
「痛っ・・・!」

またしても命中し大きく吹っ飛ばされる。
ダメージは出かかったがすぐに回復の術を受けゆっくり立ち上がる。
しかし龍もこのチャンスを逃さない。辺りに巨大な雷雲を召喚し全員に稲妻を落とした
流石にこのダメージは全員でかく直に立ち上がれる者はいなかった。

ジェスター
「う・・!」

痛みが酷くて立ち上がれない。けど立ち上がった。というよりも無理やり立たされたに近い。
幽霊刀がジェスターをコントロールしている。動きたくなくても勝手に動かされている。
一瞬恐怖を覚えた。だけど的確な行動をしている。

再び猛烈な速度で龍に接近し刀をぶんぶん振り回す。
龍がまた尻尾で薙ぎ払おうとしたが今度は大きくジャンプして回避し龍の首元に剣を突き刺す
首に刀が刺さった瞬間龍が大きく暴れた。幽霊刀の加護を受けてるとはいえど流石に吹っ飛ばされてしまった。
刀は離していない。
再び龍が雷雲を召喚してきた!
今度は幽霊刀から何か出てきた。シールドみたいなものだ。
落雷をシールドで防ぐ。しかし一族、四人は命中している・・。四人の体力が危うい。

ジスタ
「もう技力尽きた・・・回復の術唱えられないよ・・!」
シノ
「あたいがまだ唱えられる・・!」

防戦一方のようだ。早いうちに片付けたい。
龍が一族の方に攻撃し始めた。瀕死状態なため直に倒れると思ったのであろう。
しかしシクは盾で。ニューは剣でガードし何とか防衛ラインを引いてる。

龍がジェスターから気を逸らしてるうちに後ろに回りこむ。
後ろに回りこんだ後は一気に尻尾から龍の背中に飛び乗る。
剣を思いっきり背中に突き刺す
またしても龍からは鈍いうめき声が上がる。そろそろ倒せそうだ。
しかし最後の抵抗なのか思いっきり龍が後ろに下がり背中に乗ってるジェスターをたたきつけた!

ジェスター
「っ・・!」

激痛がジェスターを襲う。体が動かない。・・・刀を落としてしまっている・・!
拾わないと・・・。

シク
「もうだめだ・・!防ぎきれん!」
ニュー
「くっ・・撤退だ・・撤退だ!!」

再びニューが撤退命令を出す。
今度は全員反抗しないで素直に撤退した。

ニュー
「しまった、ジェスター・・!」

ジェスターが動けない事に気づく。
龍に捕まってない以上救出できると判断したのであろう。
急いでジェスターの元までに行く。

龍が何か呪文を詠唱している。その隙にジェスターを背負う。

ニュー
「急ぐぞ」
ジェスター
「・・・剣・・!」
ニュー
「剣?」

落ちてる剣を拾う。

ニュー
「っ!電流が・・」
ジェスター
「私じゃないともてない・・」

ニューの背中から降りて剣を拾う。剣を拾った瞬間再び体が再び軽くなり殆ど怪我していない状態にまで
持ち直した。しかし今は撤退する時・・・。幽霊刀もそれを知ってか体が勝手に出口の方に向かっていった。
ニューと一緒に出口まで走る。その時龍の詠唱が終了した。
巨大な稲妻が2人を襲う!

ジェスターが幽霊刀をかかげてシールドを作る。
ニューは指輪を天に掲げた。2人とも稲妻をなんとかして受け止める体勢に入る。
落雷が2人に直撃する。

ジェスター
「うっ・・」
ニュー
「ぐっ!」

なんとか一撃は凌いだが二人ともよろけて倒れる。
龍が間を置かず拳で殴りかかってきた!
急いで立ち上がり出口の元まで逃げる。

シク
「俺の盾で守る!」
ニュー
「退け!ぶっ飛ばされるぞ!」
シク
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

ジェスターとシクを背に盾を構え防御の体制に入る。
拳がシクの盾に当たる。衝撃が走りシク事吹っ飛ばされた

シク
「うああぁっ!!」
ニュー
「うぐっ!」
ジェスター
「ぎゃっ!」

吹っ飛ばされた先にニューとジェスターがいたため巻き添えを食らう。
龍が今度こそと言わんばかりにもう一回先程よりも早い速度で上から殴りかかってきた。
ニューは立ち上がり直に撤退した。ジェスターも同じくその場から離れた。
シクだけが注意を惹きつけるためにその場に残った。


気が付かなかった。てっきり一緒に撤退したと思っていた。
龍のいた場所から大きく離れて追撃を振り切る。
しかしシクとジェスターがいつまで経っても来ない・・。

シノ
「シク・・は・・?」

全員息を切らしながら言う。

ニュー
「なに・・?」

後ろを振り返る。いない。

ジスタ
「ジェスターもいない!」
ニュー
「もしや・・逃げ遅れたか?」

全員沈黙する。救出は困難すぎる。
そう絶望に陥った瞬間2人の姿が見えた。

ジスタ
「いt・・」

いた!っと思いっきり叫びたかったのだが叫べなかった。
シクが人間とは思えないほど体が曲がって骨が折れていた・・。
ジェスターに力はないため一生懸命なんとか引きずっていた。

ジェスター
「シクが的になってくれて・・・」

その場に座りこむ。

ニュー
「シク!生きてるか?大丈夫か!?」

しばらくして目を瞑ったままシクが喋った




「試してみたい作戦も・・
覚えたい術もまだたくさんあります・・・。
だから俺・・まだ死ねません・・・」


翌日。シクはこの世から去った。
まぎれもなく敗北である。誰かが死んだ敗北はジェスターにとって初めてだった。
どうすればいいのか分からなかった。

気が付いたら幽霊刀は鞘に戻っていた。





















あの日から二週間後。随分と時が経ってしまった。
今私はダイヤモンドの鉱石が埋まってる壁を前にして佇んでいる・・・。




アレからどうしたのかというと
皆でシクの遺体を桜咲く村まで運び一族の家まで戻った。
そこで葬式を行いジェスターも参列した。

火葬も全部済んだ所でニューから全部聞いた。


彼等全員、黄川人が言ってた通り二年以上生きる事が出来ない。
産まれて二年で死ぬのではなく産まれて二年で急成長し老死する。
先祖代々からこのような呪いを受け継いでいるらしい。
この呪いは朱点という敵から貰いこの効力を消すには手っ取り早く言えば朱点を倒すしかないらしい。
そのためにも先程戦った龍と黄川人。やつ等を倒す必要があった。
そして討伐に向かってる途中でジェスターに遭遇したというわけだ。

額にある玉みたいなものが呪いの証。
産まれた時からずっとついているそうだ。だからジェスターが尋ねた時全員が呪いの事を思い出し
恐怖に怯え、苦痛に顔を歪ませ全員が黙ったのだ。
申し訳ないことを言った、とジェスターは思った。

この話を聞いてるだけで胸が痛んだが何よりもシクはまだ生後五ヶ月という言葉を聞いて驚いた。
五ヶ月・・。二年の四分の一である。彼は二年という短い人生を真っ当することすら出来なかった。
それが何よりもジェスターにとって苦しかった。

ジェスター
「この後どうするの?」

話を聞かせてもらった後ニューに尋ねた

ニュー
「呪いを消すためにも、シクの仇を討つためにも我々はもう一度あの龍に挑む。
奴のダメージが回復しきる前に奇襲をかける・・。」

しばらくしてからジェスターの口が開いた

ジェスター
「何のために戦ってるの・・?
二年しか生きられないのに人生を全部戦いで終わらせるの?」

少し間を置いてからニューが喋った

ニュー
「後世に何を残し何を伝えるか。俺達はもう答えをすぐそこまで見つけている。」
ジェスター
「でも死んじゃったら意味ないじゃん・・・」
ニュー
人は何かをやるために生まれて来る。それが何なのか、気づくかどうかで
人生の値打ちは変わる。

俺の親父が死んだ時の遺言だった。」
ジェスター
「・・・」
ニュー
「俺達がしなければならないこと。それは朱点を打ち倒し
先祖代々の悲願を達成すること。例え命燃え尽きようとだ。」

しばらく置いてニューが再び喋った

ニュー
「行き急げ・・・一気に駆け抜けろ・・・。俺達には時間がない」


あれほど強い忠誠を誓ってる人は見たことがなかった。
それはニューだけじゃなく他の人も全員同じだった。

三日後。ニュー達が再び討伐に出かけた。
ジェスターはラルクとの交渉が残っていたため行く事は出来なかった。


ラルク
「そうか。銀は手に入れたのか。それならもう交渉する必要はないだろう」
ジェスター
「ツルハシとか本とか返します」
ラルク
「いや、必要ないさ。ダイヤモンドまだ手に入れてないんだろ?掘ってきな。あげる。
俺はもう次の村に行かないといけない。お互い元気だったら、また会おうな」



ラルクが立ち去った後荷物を纏めてもう一回冬凍山に向かった。
龍のいた道順は覚えていた。


あの場所に再びたどり着いたのはシクが死んでから二週間後だった。
一族はいなかった。龍もいなかった。

ただそこに残されたのはジェスターだけだった・・・・。






ダイヤモンドが埋まってると思われる壁を発見した。
ツルハシを使って硬い壁を何度も叩く。

つい二週間前までここで激闘を繰り広げていたとは到底思えない。
生々しい跡がいくつか残っていても実感できなかった。


一時間後


ジェスター
「・・・・・・取れた」

大きくて綺麗なダイヤモンドが一個取れた。
この大きさならきっと修理に使えるはずだ。

荷物をかかえて龍のいた場所から立ち去る。
最後にもう一度後ろを振り返る。


ジェスター
「・・・・行こう」

ニューの言葉が自然と再生された。





『行き急げ・・・一気に駆け抜けろ・・・。俺達には時間がない』


三日かけて桜咲く村まで降りていった・・・。





続く・・




追伸

この話には元ネタがあります。
知ってる人は黄川人と龍と呪いにピンと来たはず。
しかし話は基本的に自作です。


第八話


クローク
「無事鉱石を全部手に入れてきたみたいだな」

カウンターの上に置いてある鉱石を受け取るクローク。
ダイヤモンドの鉱石が中々上質らしくマジマジと見ている。

ジェスター
「これで直せるよね?」
クローク
「あぁ、約束する。六時間待ってろ。すぐに終わらせてやる」
ジェスター
「別に急がなくても平気だよ」
クローク
「そういう訳じゃねぇよ・・・。俺にはやらなくちゃいけねぇ仕事が多いんだ。
とにかく少し時間がかかる。寝たらどうだ?」

早く家に帰りたいという一心で3日3晩寝ないで村まで降りてきた。
おかげで目も開けられないぐらい眠い。

ジェスター
「そうする」

そういって座ってるソファに倒れそのままグーグー寝始めた。
クロークは別に気にする事もなく工房へ戻り作業に入った。






ジェスター
「zzzz・・・・・zzz」
キュピル
「起きろ、ジェスター。ジェスター!」
ジェスター
「・・・わ!何?キュピル!?」

場所はよく分からないけど目の前にキュピルがいる。
ルイもファンもいた。

キュピル
「話は全部聞いたぞ。お前よく頑張ったな。見直したぞ」
ファン
「正直ジェスターさんがそこまで頑張れるとは思いませんでした。
てっきり3日で戻るかと思いましたが・・・」
ジェスター
「皆酷いなぁー・・・。私だってやる気を起せばこんなのお茶の子さいさいだよ?」
ルイ
「いや、いやぁ〜・・。感心・・・。幽霊刀も使いこなしたようですしねぇ・・・」
ジェスター
「でしょー?」
キュピル
「よし、今日は貯金使って何処か良い所へパァーッと行こうぜ。
本日の主人公は『ジェスター』だぜ」







ジェスター
「zzzz・・・・。・・・あれ・・・?」


目が覚めた。

ジェスター
「・・・あれ?あれ?・・皆は?」

あたりを見回す。クロークの工房だ・・・。
ってことは・・・夢・・・

ジェスター
「うーん・・・。もしかしたら夢でご馳走食べれたのに・・。
あ、でももしかしたら正夢かも!」

夢の内容を思い出す。正確とまでは言わずとも
似たような感じできっと正夢になってくれるだろう。
その時頭に何か ゴンッ とぶつかった。

ジェスター
「痛い!」
クローク
「呼んでるのに気づけよ。」
ジェスター
「殴った!慰謝料!土下座!謝罪!」
クローク
「うるせぇ。ガタガタ言わずにこっち来い」
ジェスター
「むぅー・・!」

機嫌を損ねつつもクロークの工房に行った。
時刻は午後の六時だった。




ジェスター
「あれ?こんな剣だっけ?」

赤い色の剣ではあるが少し刃の形や長さ。それに形状も少し・・・

クローク
「お前が上質な鉱石を持ってきたから改造してやったんだよ。
普通の修理じゃ釣りが来ちまうぐらいだったしな。うかつに刃に触れるなよ。」
ジェスター
「おぉー・・・」

まじまじと見る。

クローク
「だがコイツは未完成だ」
ジェスター
「え?何で?直したんじゃないの?」
クローク
「こいつは未完成の姿。完成した姿はもっと恐ろしい武器に変わるぞ。」

一瞬悪魔みたいな物を想像してしまった。

クローク
「ただし、俺が出来るのはここまでだ。これ以上はうちの工房じゃ作れん。」
ジェスター
「中途半端な所でやられるのが一番困るんだけど・・」
クローク
「言い直そう。そいつは殆ど完成に近い未完成だ。
だが一言付け加えておこう。こいつはどんな窯でも続きを作る事は出来んぞ。
ここから先は魔法の領域だ。どうすれば完成できるかは知らん。」

そういって剣を鞘に戻しジェスターに渡す

クローク
「ほら、とりあえず約束の修理は完了した。存分に斬りまくりな。」

剣を受け取る。何はともあれついに直せたんだ・・・。

ジェスター
「ありがとう。それじゃ私行ってくる」
クローク
「もしその剣を完成に持ってけたら暇があれば今度見せに来てくれ。」
ジェスター
「わかったー!それじゃ!」
クローク
「おっと、待て!この手紙をリマーに届けてくれ」
ジェスター
「リマー?誰だっけ?」
クローク
「ローロ街にある鍛冶屋の店主だ。会った事あるだろ?」
ジェスター
「あ、あの人かー」

クロークに修理を頼むといい っと推奨してくれた人だ。
手紙を受け取った後、鍛冶から出た。




==桜咲く村


これでもう心置きなく家に戻る事が出来る。
何の未練もない。地図を広げてナルビクへの帰り方を調べる。
ここに向かう時は崖から落ちてここに来たが本来の道は
冬凍山の洞窟に入ってすぐ右の方向に進めば橋があるらしい。そこからローロ街に戻れる。


桜咲く村から出て行く。
この村からはいろんな事を体験したなぁ・・・。
例えばお酒・・・。もう強いのは飲まない・・・。
他にも商売。私あんまりセンスないのかな。

そういえば、目標を絞ると全てにおいて効率が良いってのも教えてくれたなぁ・・。





==冬凍山6合目

急いで駆け上がったけど疲れは感じない。
今はどんなに疲れても急いで家に帰りたい。早く戻って皆の顔が見たい。
どんな事を体験したのか。どんなことを思ったのか。それをキュピルやルイ。ファンに話して
成長した私を褒めて欲しい。

六合目を少し過ぎた所である窪みを発見した。
確かここでシクの盾を拾ったんだ・・・。

ジェスター
「・・・・・・」





「試してみたい作戦も・・
覚えたい術もまだたくさんあります・・・。
だから俺・・まだ死ねません・・・」




二年しか生きられない彼等・・・。
ジェスターはもう二年以上生きている。もし彼等と同じ立場に立っていたらもう死んでいる・・。
生きる実感・・。あの時はその実感を強く感じることが出来た・・・。





==冬凍山7.5合目


冬凍山を登り終えた。桜咲く村から出て早くも8時間が経ってしまった。もう真夜中・・・。
結局ここから先の10合目まで登る機会はなかったけど
いつかきっとまた登る日が来るような気がする。

それにしてもここにある宿。随分と料金が高かったなぁ・・。それだけは今でも覚えてる。
でもあの宿の前でニュー達と知り合った・・・。
彼等は今どうしているのだろうか?無事黄川人を倒す事は出来たのだろうか・・・。

今にもあの宿から出てきそうだ・・・。
でも彼等はきっと時間が惜しいだろう。もし偶然会ったらきっと話してしまうだろう。
彼等の貴重な時間を奪ってはいけない・・・。

ジェスターはその場を後にし冬凍山に潜った。



==冬凍山(洞窟)


入ってすぐに現れる分かれ道を右の方向に進む。
さぁ、もう知らない道だ・・。松明を掲げながら進んでいく。
そのまま4時間ほど走っていくと後は何の分かれ道もなく外に出た。
外に出ると凄く暑かった。というよりも今まで居た場所が寒かったから
普通の気温が暑く感じる。

広がる緑と深い谷・・・。

崖から落ちたあの時は真っ暗で分からなかったけどこの7.5合目という高い場所から見ると
ここ周辺は非常に綺麗だった。日の出のお陰もあるのかな?
長いつり橋を歩いてる時にテテルとルルイの事を思い出した。

そういえば冬凍山の場所で風邪を引いた時道を教えてくれたなぁ・・。
でもあの時は本当に酷い風邪を引いていたのに最後までずーっと助けないで歩かされたのは
少し・・イジワルに思える。でも誰かに頼らず自分の力で動かないと
いつまで経っても誰かに頼りっぱなしになってしまう って事は教わったけどね。


しかし、流石にいくらなんでも疲れが出てきた。近くの芝生に寝転がる。
一気に眠くなった・・・。そのままグーグー寝てしまった・・・。




ジェスター
「・・・・あ・・・」

ぐっすり熟睡した後起きた。外は暗かった。星も一杯光っていた。
その光景を見たらまた眠くなった。もう一回寝た。




今度は眩しくて起きた。・・・朝だ・・。
凄い寝たんだなぁ・・・。

体の疲れも抜けてたし立ち上がり荷物を確認して再び走った。



==ローロ街への道のり


しかしローロ街までの道が非常に長い。これまでの比じゃない・・。
あの崖から落ちた場所まで走っても3日ほどかかる・・・。
どうしてこんなにかかるんだろう?まるで魔法にかかってるみたいで不思議な気分だった。

一刻も早く家に帰りたいけどここで焦って何か事故を起しても困る。
しっかり夜になったら野宿して朝になったらまた走っての繰り返しでローロ街に向かった。

結局ローロ街についたのは五日後だった・・・。
日も落ち街灯が点滅しだした時間帯だった。



==ローロ街


懐かしい風景が目に入ってきた。
そうそう・・。あの時計塔・・。あの時計塔でリリに合ったんだよね・・・。
今リリはどうしてるんだろう?
あの会話を思い出すと今でも心が痛くなる。一種の恐怖症になってしまった・・・。
とにかく鍛冶屋に行って手紙を渡さないと




カランカラン

扉を開けたらベルが鳴った。前はこんなの無かったのに。

リマー
「いらっしゃい。・・・おや?懐かしい顔だね」
ジェスター
「リマーさんに手紙届けにきたよ」
リマー
「今度は郵便配達の仕事でもやりだしたのかい・小さな剣士さん」
ジェスター
「違うよ。クロークさんからの手紙だよ。修理してもらったから帰るついでに手紙をって」
リマー
「なるほどなるほど。ありがとうね。」

手紙を受け取るリマー

ジェスター
「ところで・・・。リリちゃんあの後どうなったかわかる?」

リマー
「リリかい?あの後もたまにこの鍛冶屋には顔を出してくれるよ。
それに喫茶店でアイドル並に人気が出てるそうだ。」
ジェスター
「そう・・」


やっぱり私のした事は間違っていたんだ・・・。しゅんとする。

リマー
「・・・そうそう。リリからもし君に会ったら手紙を渡してほしいって言われて手紙を預かってるぞ」
ジェスター
「え?」

顔をあげ、手紙を受け取る。


『やっぱり貴方に合ってなければ私は今頃死んでいた・・・。
あの時は本当にごめんなさい。何回謝っても許してくれないかもしれないけど・・。
私は貴方に凄く感謝しています。ありがとう。


追伸:今度あったら一緒にお茶しようね。その時は貴方の飼い主さんも連れて一緒に。』

ジェスター
「ありがとう・・・ね・・・。」

ホッとしたのか今更・・っと思ったのか。落胆と安堵が混ざった複雑なため息が漏れた。


リマー
「ま、そういうことさね。良しとするかダメと取るかは君次第さ。
よし、仕事仕事」

そういってリマーは工房に戻っていた。

ジェスター
「リマーさん!もしリリさんに会ったらこう伝えてください!」
リマー
「ん?」

少し間を置いてから喋った

ジェスター
「『許さないよ。もし許してほしかったらお茶に行く約束。絶対に忘れないでね。行くから。』って」

そう行った後鍛冶屋から出て行った。





鍛冶屋から出た瞬間馬車に轢かれそうになった。

ジェスター
「ぎゃ!!」
若い人
「あぶねぇな!!・・・・って、おろ?いつぞやのご婦人方」
ジェスター
「あ、オヒサシブリ。・・・あ、そうだ。ねぇ、馬車乗せて!」
若い人
「どっかまたツアーでもするか?」
ジェスター
「今日はナルビクまで連れてってほしいなぁ〜」
若い人
「ナ、ナルビク・・・」

若い人が地図を取り出した。

若い人
「ナルビク・・ナルビク・・・。ここか。・・・滅茶苦茶遠いな・・・」
ジェスター
「ダメ?」
若い人
「ベリー農場までしか運べないな・・。そこから先は歩いてくれ。遠すぎる」
ジェスター
「それでもいいよ。歩くと3日かかっちゃうからね」
若い人
「馬車一日かかるけどな。肝心の値段は1万Seedだ。いいか?」

財布を確認する。なんとか足りる。

ジェスター
「大丈夫。足りるよ」
若い人
「ならいいんだ。出発するぞ」

馬車に乗る。
後は楽だった。




==ベリー農場までの道のり


ドンドン、ローロ街から離れていく。
私が一番最初に訪れた街・・・。さようなら。
いよいよ残った町はナルビクだけ。もう自宅まで後少しだ・・・・。

ジェスター
「あともう少しで・・帰るよ・・・・・待ってて・・・。・・・。zzz・・・」


ガタガタと揺れる馬車に乗っていたら気が付いたら眠っていた。
それに気づいた若い人は馬車に装備されてる毛布をジェスターにかけてあげた。




ジェスター
「zzz・・・。・・・・?
・・・・・・。」

起きた。まだ馬車は揺れてる。ってことはついてないんだ。

ジェスター
「・・・・今どの辺り?」
若い人
「おはようさん。結構寝てたぞ。ベリー農場まで後四時間ぐらいだな」
ジェスター
「へぇ・・・。うぅ〜ん!ふぅー・・・。」

背伸びする。
外を見ると少し明るくなっていた。
何か若い人が食べた。

ジェスター
「何食べたの?」
若い人
「眠気覚ましのガム。いる?」
ジェスター
「ガムはいいや。」

ゴミ箱があるならいいんだけど噛んだ後のガムを包み紙に包んでいたとしても
ポケットとかに入れるのは少し気が引ける・・・。

ジェスター
「・・・・・・」

外を見る。この道に見覚えは勿論ある。
あの時は放浪に胸をときめかせてこの道を走った・・・。
なんだか随分昔に感じる・・・。

今はどうなんだろう?
なんだか一人で何でも出来る自信は沸いたけど逆に一人で旅するのが怖くなった。
言ってる事が滅茶苦茶だけど・・・。




四時間後。馬車が止まった。


若い人
「到着だ。お疲れさん」
ジェスター
「ありがとうー。またね」
若い人
「暇があればベリー農場に行ってみな。あそこのベリーは美味いぞ」
ジェスター
「食べた事あるよー」
若い人
「・・・意外と何でも知ってるんだな・・・」




==ベリー農場


ジェスター
「え?」

農場見て真っ先に驚いた。
ジェスターが一杯いる・・・。何で?
全員黒くはないんだけど・・。

その時聞きなれた声が聞こえた。

ゲン
「お前ら〜!飯だ飯!作業中断!!」

ゲンが怒声で叫ぶ。ジェスター達がワーワーいいながら新しく出来た建物に入っていった。
ゲンがこっちを見た。

ゲン
「おい、そこのちびっ子。早く入らないと飯なくなn・・・っておいおい。
いつぞやの白いジェスターじゃないか!」

ドスドス音を立てながらこっちに走ってきた。思わず一瞬身構えそうになった。

ジェスター
「久しぶり。ねぇ、あれ何?」
ゲン
「ベリー農場。」
ジェスター
「いや、そうだけど・・。あのジェスターの数・・」
ゲン
「あぁ、あれはな。エリスからの提案でな。『雇ったらどう?』って言われてな・・。
俺は最初は反対したんだぞ?」
ジェスター
「反抗されなかったの?あのリーダーっぽい黒ジェスターから」
ゲン
「あの黒ジェスターだけは施設に引き取ってもらった。
リーダーが居なくなった瞬間皆素直になってな。思ったより可愛いぞ」
ジェスター
「ア、アハハ・・・」

なんか似合わない言葉。

エリス
「あら、どこかで見たことあるジェスターかと思ったら小さな剣士さん!」

エリスもこっちに走ってきた。

エリス
「久しぶり、いらっしゃい。見た?あの沢山のジェスター!皆可愛いでしょ?」
ジェスター
「素朴な疑問なんだけどあんなにジェスターを育てて赤字になったりしないの?ご飯とか・・」
ゲン
「いや、そうでもねぇんだ。逆に人手が増えたから更に沢山の畑を管理することができるようになった。
利益は前とそんなに変わらん。まぁ、たまに摘みぐいしたり悪戯する輩はいるけどな。ガハハ」
ジェスター
「へぇー・・・」

確かに前より広くなってるかも・・・。

エリス
「でもここに居たくないって子や他の所に行きたくなった子は自由にさせてるわ。
私達はあくまでも行く宛がない子を預かってる形。」
ゲン
「あんまり甘やかすと第二のリーダーが現れて決起、起されそうで警戒してるんだがな・・」
ジェスター
「うーん、様子みてたけど多分大丈夫だと思うよ。皆笑ってたし」
エリス
「あら、頼もしいお言葉!せっかくだからお茶しません?」

にっこり笑ってくれるエリス。

ジェスター
「ごめん・・。私行かなきゃ行けない場所があるんだ」
エリス
「あら、残念・・。」
ジェスター
「でもまた来るよ!その時は私の友達紹介するよ」
エリス
「それは楽しみだわ!待ってるわね」
ジェスター
「でも農場だと知らないで勝手に木に登ってスコップぶつけられやすい性格してるけどね」
ゲン
「ガハハハハ、まだ覚えておったか!こやつめ」

人差し指でツンと突かれた。

ジェスター
「それじゃ私もう行くね!」
エリス
「気をつけてねー。何時でも待ってるわよ!」
ゲン
「来る時はスコップ投げられないように友達によーく注意しておきな!」

そういってベリー農場を後にした。




==深い森

道なき道を歩いていく。でもちゃんとナルビクに繋がる道。
けど意図的にある小屋に行こうとしてる。

ジェスター
「お婆ちゃん・・・」

今はあのお婆さんにもう一度会いたい。
ここから五日もかかるけど焦らずゆっくり。
景色を思い出し、地図を広げながらその場所に向かっていく。

そして四日目の朝。懐かしい小屋を発見した。
その小屋の回りは森が少し開けていて日差しが入ってきてる暖かい場所・・・。


コンコン


ドアにノックする


・・・。しばらくしてドアが空いた。
こっちを見て驚いたみたいだけどすぐに笑ってくれた。

お婆さん
「まぁ、ジェスちゃん!会いたかったわ」

ギュッと抱きしめる。ジェスターも抱きしめ返す。

ジェスター
「私も」

放浪して初めて訪れたこの小屋。
ジェスターにとって、それはそれは深い思いれがあった・・・。
なによりも一番大切なことを教わった・・・。

お婆さん
「ジェスちゃんにね、見せたいものがあるの」
ジェスター
「ほんと?」
お婆さん
「ちょっと待ってて」

お婆さんがゆっくり歩いてある大きなスケッチブックを持ってきた。

ジェスター
「あ!」

そこには私が書かれていた。
机に向かって一生懸命、キュピルの絵を描いてる自分の姿が描かれていた。
まるで本物の私が紙の中に入っていて今にも動き出しそうなほど鮮明に・・。
そして愛情が篭っていた・・。

ジェスター
「お婆ちゃんが書いてた絵って・・・。私だったの?」

お婆さんが頷いた。

お婆さん
「ほんとはね、ジェスちゃんが旅立つ前に完成させたかったんだけど
時間が足りなくてね・・・。でもちょうど一週間前に完成したのよ」

2人ともにっこり笑った。


お婆さん
「さぁ、お行きなさい・・。お婆ちゃんは分かるよ。
早く行きたい所があるんでしょ?」
ジェスター
「どうして分かるの?」
お婆さん
「ふふ、お婆ちゃんになるとみ〜んな魔法使いになるのよ・・」

懐かしい一言を言ってくれた。
そして最後にもう一度抱きしめた後、ジェスターはその小屋から離れた。




==浅い森


森が段々浅くなってきた。
懐かしい光景が見え始めた。

ジェスター
「・・・パレンシア海岸だ・・!」

懐かしい敵もいるしとても懐かしい海もある。
もうここまできたらナルビクまであと少しだ・・!!






==ナルビク

ナルビクにたどり着いた喜びを感じる場合じゃない。
凄い速度で自宅へ戻っていく。

・・見えた!!

勢いよく走った後自宅の扉で一回止まる。
大きく深呼吸する。

ジェスター
「すー・・・はー・・・・。・・・よし!」

ドアノブに手をかける。
そして勢いよく扉を開けた・・・。






==キュピルの家



ジェスター
「ただいまぁーー!!!」





・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・。


ジェスター
「・・・?ただいまー」

・・・・。正夢にならない・・・。

家間違えた?でもそんなはずはない。だって扉の先は確かに見覚えのある。
とりあえず靴を脱いで家に上がる。

ジェスター
「キュピルー?ルイー?ファンー?皆でかけてるのー?」

・・・・・・。
まさか、みんなで美味しいものを・・・。
もしそうだとしたら久々に暴れちゃう!!

ジェスター
「本当に誰もいないのーー!?」


・・・・・。

その時ドアが一つ開いた。キュピルの部屋からだ!

ジェスター
「キュピル!ただいm・・・」
ルイ
「あ・・あ・・・アアアアアアアア!!!」

ルイが撹乱状態でキュピルの部屋から飛び出した。
冷蔵庫にぶつかってそのまま倒れた。

ジェスター
「ちょっと、ルイ!!何やってるの!?馬鹿になったの!?
ルイ
「じ・・じ・・ジェスターさん・・。」
ジェスター
「・・・うっ・・。酷い臭い・・・」

よくみたらルイは普通の姿じゃなかった。
何かいろんな変な物体がくっついてる。

ジェスター
「なにそれ・・。凄い臭う!」

その時キュピルの部屋からファンが出てきた。

ファン
「ルイさん!落ち着いてください!
・・・・って、ジェスターさん!いつ戻ったんですか!?」
ジェスター
「今」
ファン
「・・・好都合かもしれませんね。ジェスターさん。とにかく説明してる暇がありません。
キュピルさんの部屋に突撃してください。」
ジェスター
「ねぇ、待って。一体何があったの?キュピルは?」
ファン
「キュピルさんの部屋に置いてあった特殊ワープ装置機が暴走を起し爆発したのです。
その結果キュピルさんの部屋が不思議な事になり迷路みたいなことになっています。
かなり不思議で危険なダンジョンみたいなことに・・。
キュピルさんの安否は不明です。体調をずっと崩されていてベッドで寝ていたので・・。
爆発に巻き込まれた可能性は否めませんし・・。それに今どうなってるかは不明です」

立ち上がってキュピルの部屋を見る。部屋の先には普通にキュピルの部屋が見えるが
よく見ると景色がさっきから変わったりグネグネ動いたり気色悪い事になってる。

ジェスター
「行って来る」
ファン
「お願いします。でも気をつけてください。かなり精神を掻き乱されます。
強い意志を持ってください・・・


一旦自分の部屋の扉をあける。こっちは何ともないが
キュピルの部屋があった方の壁が少しグネグネ動いてる。気持ち悪い・・。
とりあえず一旦装備や道具を調えキュピルの部屋の前に立つ。

ジェスター
「・・・・・」

勇気を振り絞って中に突撃する。
足を踏み入れた瞬間中にグググッと引き込まれていった。
後ろを振り返ったらドアはもうなくなっていた。

・・・そして不思議な世界が広がった・・・。



続く

帰って終わり、それはハッピーエンドです。
ジェスターがしっかり放浪の意味を理解しているかどうかがこの先のキーポイント。



九話





(注;ホラー要素あり



前書き

思っていた以上にホラー要素が非常に強くなりました。
ちょっとこれまでのジェスターのひとり言と比べると比べ物にならない。
ホラーに全く耐性がなくて鬱になりやすい人は覚悟すべし

まぁ、バイオやったことある人なら普通に平気だと思うけどねぇ。
文章が別にグロイわけじゃないんだけど・・。心理戦がなぁ。黒い。








入った瞬間世界がぐるぐる回ってるかのような不思議な錯覚に落ちた。
目の前に山が。いや、針の床が・・。ん、気が付いたら赤いカーペットが敷かれた道がある。
・・・っと、思ったら今度は雪道の上に・・・。

・・・・。あ、今度は川が・・・。


・・・・。川が映し出されてからはその光景で固定された。
しかしこの川・・。綺麗というよりはどぶ川に近い。
その時肩に誰かの手が乗っかった。

ジェスター
「誰?」
キュピル
「ジェスターか、よくきたな」
ジェスター
「あ、キュピル」

思ったよりあっさりキュピルに出会えた・・・。

キュピル
「どうして、ここに?」
ジェスター
「どうしてって・・・。普通にキュピルを助けに来たんだよ?
ワープ装置機が爆発したって聞いてキュピルが取り残されたってファンから聞いたから・・」
キュピル
「そういうことか。わざわざすまないな。さぁ、行こう」
ジェスター
「どこに?」
キュピル
「向こう側だ」

川の反対側を示した。

ジェスター
「どこに続くの?」
キュピル
「出口だ。さっき道しるべを見つけた」
ジェスター
「へぇー。」

キュピルが歩き出す。
その後を付いていった。


・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。


キュピル
「んー、早く家に戻りたいなぁ〜・・」
ジェスター
「私も」

家でゆっくり出来なかったし・・・。
・・・・・・・。

・・・・・・・。

しかし何だろう・・・。

違和感を感じる・・・。


ジェスター
「キュピル。」
キュピル
「何だ?」
ジェスター
「これ返す」

キュピルの愛剣である赤い剣を返した。

キュピル
「お、サンキュウ。こいつがあれば戦えられる」
ジェスター
「他に何かないの?」
キュピル
「ん?お礼か?家に帰ったらお菓子でもやるよ」
ジェスター
「・・・・他は?」
キュピル
「何言ってるんだ?」
ジェスター
「じゃぁ、これ見て何か思う?」

幽霊刀を見せる

キュピル
「変な奴だな。幽霊刀だろ?それがどうした?」
ジェスター
「・・・・。じゃぁ、私を見て思う事は?」

キュピルが少し悩んで答えた。

キュピル
「・・・。髪型でも変えたか?」
ジェスター
「わかる?そうそう、ここ変えたんだ〜」

そういいながらキュピルに接近する。
すぐ隣まで来ると一気に表情を変えて赤い剣を奪取する。

キュピル
「おい、何をする」
ジェスター
「偽物!!偽物!!!!」

赤い剣を抜刀する。壊れる前より鋭くなった赤い剣・・・。

キュピル
「・・・!そいつそんなに鋭かったか・・!?」
ジェスター
「偽物!私はある所に行ってて家に居なかった!だから髪型を変える余裕もなかったし
何よりも私が帰ってきた事に驚いていなかった!偽者!!
本物だったら放浪から戻ってきた事に驚くはず!偽者!!!」

偽物
「・・・なぜ気づいた・・・。」

そう呟くと黒い塊に変形し飛び散った。

ジェスター
「・・・!」

そのまま蒸発してなくなった・・。
跡形もなくなった瞬間また景色が一遍した。
・・・・また川の場所に戻ってきた。

ただ、さっきと違うのは川に渡し舟がある事だった。
でも渡し舟には黒い怪物が乗っている。
人と獣が混じったような姿。それでいて全身黒くて目だけ赤い。
空想世界によく出てきそうな怖い生き物・・・。

黒い生物
「マッ、コノテイドヲミヤブルノハ、フツウダヨナ。
アノ、「ルイ」トカイウヤツハ、ソンナコトニモキヅカズ
マンマトダマサレテパニックニオチイッタ、バカモノダ」

ジェスター
「・・・ここはどこなの?」
黒い生物
「キニナルナラ、コノワタシブネニノリナ。ムコウノ「世」マデ
オクッテヤンヨ。アンシンシロ。キガイハクワエナイ。
タダシ・・・コノワタシブネニ・・モドリブネハナイゾ」

一歩を踏み出せない。

黒い生物
「ヒキカエスノモ、オマエノジユウダ。サァ、ドウスル」
ジェスター
「・・・その先に私の探し物はある?」
黒い生物
「アッタトシテモ、モドレンゾ。」
ジェスター
「あるなら私は乗る。その覚悟はある」
黒い生物
「イイダロウ。サァ、ノレ」

ジェスターが渡し舟に乗る。
見かけに対して作りは頑丈だ。
黒い生物が渡し舟を動かし始めた。

どんどん岸から離れていく・・・。

・・・。
暫らくした瞬間。突然黒い生物に首を掴まれた。

ジェスター
「いっ・・!き、危害加えないって・・言ったじゃん・・!」
黒い生物
「チョット、ネムッテモラウダケ」

意識が薄れていく・・・。




・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


気が付くと湿った洞窟だと思われる場所に立っていた。

ジェスター
「あれ・・?私さっき首を絞められて・・・。」

何事もなかったかのように平然と立ってる。
盗まれたものもないし怪我した場所もない。

ジェスター
「変なの・・・。」

松明を照らそうとする。
しかし火が灯らない。
松明が湿気ってる・・・。この一瞬でこんなにも?
確かにすごい湿度が高そうだけど・・・。

でもそんなに暗いって感じじゃない。何で少し明るいのかは分からないけど
暗くないなら歩ける。そのまま前に進んでいく。

進もうとした瞬間何か音がした。

ジェスター
「ん・・?」

後ろから。
振り返る。

何も見えない。けど何かが迫ってきてるような感じはある。
ちょっと気が変になりそう。急いで進む。


しばらく走っていくと火のような明かりが見えた。
誰かいる。

???
「くっ、どうすればいい・・」
ジェスター
「あ!」

火の傍にいたのはキュピルだった。

キュピル
「む・・。ジェスター!」

キュピルがこっちに近寄る。

ジェスター
「待って!」
キュピル
「・・!」

ピタッと止まる。

ジェスター
「疑問があるなら早く言って」
キュピル
「どうしてここに・・・」
ジェスター
「どうしてだと思う?ヒントはこれだよ」

直った赤い剣を見せる。

キュピル
「・・・・どうして、赤い剣を持っている・・・。」
ジェスター
「・・・そこなの・・?」

色んな意味でがっかりした。
きっとまた偽物だ・・・。

その時別の声がまたした。

???
「どうしたの?キュピル」
ジェスター
「!?」

岩の陰から誰かが出てきた。ジェスター・・・。私だ!

キュピル
「ジェスター。偽物が現れた」
ジェスター2
「私がもう一人いる・・・。キュピル。赤い剣返すよ」
キュピル
「助かる」

2人が抜刀する。

ジェスター
「ちょ、ちょっとまって・・・」

胸が高鳴る。こ、こんなはずは・・・。

キュピル
「今更何を怯えている。偽物なら偽物らしくシャキッとしておけ」

じりじりと迫る。
その時別の方向からまた声が聞こえた。

???
「待って、キュピル!その2人は両方偽物!!」
ジェスター
「!?」

またジェスターが現れた。
・・・しかも違う方向から別のキュピルが現れた。
キュピルが2人いて私が三人・・・。

キュピル1
「・・・俺が2人・・?」
キュピル2
「くそっ、ますます頭がゴチャゴチャになってきたな・・・」
ジェスター2
「え・・・、キュピルが2人・・?」

私も頭がゴチャゴチャになってきた・・。
要するに・・・。ここにいるジェスターは皆偽物だからいいとして・・。
キュピルは・・?全員偽物?片方当たり?

キュピル2
「くそ・・。放浪から戻ってきたジェスターがこんなにも分身して戻ってくるとはな・・」
ジェスター
「!!」
ジェスター2
「!!」
ジェスター3
「!!」

初めて私が放浪から戻ってきた事に気づいてくれた。
すぐにそのキュピルに近寄る。

ジェスター
「本物!」
ジェスター2
「本物!」
ジェスター3
「本物!」

・・・・・。

ジェスター
「偽物、帰って」

他の2人に言う。

ジェスター2
「・・・あんたが偽物でしょ?」

泥沼になるかと思われた瞬間、本物だと思われるキュピルが笑い出した

キュピル2
「ハハハハハ!!
・・・面白いね・・・。俺は偽物なのに・・」
ジェスター
「・・!」

慌てて戻ろうとした。他のジェスターもそうだった。
ところがキュピルの口から三つの手が伸びてきた。その光景は、はっきり言って気持ち悪い・・。
全員首を掴まれてる。

偽物
「俺の役割り・・・罠に引っかかった物を地獄へ落とすこと・・。
さぁ、行こうぜ。あの世に」
キュピル1
「うおおおおお!!!」

その時放置されていたもう一人のキュピルが動き出した。
赤い剣で偽物を斬り捨てた!

キュピル1
「どれが本物か知らないが大丈夫か!?」
ジェスター3
「・・・本・・物・・?」

今の一撃で偽物は倒れた。さすが!
ところが今度は銃声が聞こえた。

キュピル
「!!」

キュピルが撃たれた。そのまま後ろへ倒れる。

ジェスター
「キュピル!」
ルイ
「突撃!」

ルイが他のジェスターに向かって銃を乱射し始めた。
勿論私にも向けて

ジェスター2
「うっ!」

一人当たった。皆蜘蛛の子を散らすように逃げ、岩に隠れた。

ジェスター
「どうして撃つの!何でルイがここにいるの!?」
ルイ
「偽物に答える必要はない!」

その時ルイの方向から声が聞こえた。

キュピル3
「あぁ・・全くだ・・。しかし偽物とはいえどジェスターそっくりな奴を倒すのは少し気がひけるな・・」
ジェスター4
「私は・・ちょっと・・攻撃できないよ・・」
ルイ
「躊躇ったら負けますよ!」

ルイが岩に向けて爆発物を投げ込んできた。
慌てて岩から逃げる。

ルイ
「そこっ!!」
ジェスター
「あっ・・!!うっ・・!!」

背中に被弾した。そのまま前に倒れる。
そんな・・・。本物なのに・・私死ぬの・・・?

ルイ
「躊躇しちゃいけませんよ。それがここから抜け出す唯一の手段です」
キュピル3
「・・・貴様・・、本物のルイじゃないな・・!」
ルイ
「え・・・」
キュピル3
「この!!」

キュピルがルイを切り捨てた。
ルイが叫びながら倒れていった。

ジェスター4
「キュピルは・・そんな酷い人じゃない・・!!」
キュピル3
「うぐあっ・・・まて・・・俺は・・・ホン・・モ・・ノ・・ダ・・・!!」

そういいつつ赤い化け物に変身しつつある。
躊躇なくジェスター4が攻撃する。
疑いの洞窟・・・。そう名づけたくなった・・・。

あぁ・・撃たれた場所が痛い・・・。
そのまま意識がなくなった。・・・死んじゃったのかな・・・。




再び意識が戻った場所は果てしなく変な場所だった。
水みたいな場所に居て狭い場所をぐるぐると流されている。
永遠にそれがループしている・・。
よくみると私だけじゃなくて大量の私そっくりなジェスターとキュピル・・。
ルイもいる。・・・あ、ファンもいた。

・・・・・。
一瞬幽霊刀が光った気がした。




ジェスター
「・・・・ぁ・・・」

目を閉じてまた開けた時、またさっきの洞窟の場所に立っていた。
そう、さっきと同じ場所。疑いの洞窟を名づけたあの場所・・。
生き返ったの?でも・・。変なの・・。

辺りを見回すと沢山の私とキュピルとルイの死体があった。
全部争った後がある。きっと皆誰かが偽物だと思い込んで攻撃したんだろう・・。

でも、怖い事に皆自分が本物だと信じ込んでる。
一部は何かの化け物みたいだけど、それでも本当に心の底から自分が本物だと信じ込んでる。

・・・。

待って・・・。


ってことは・・・。



私は偽物?


本物だと思い込んでいて実は偽物・・・?
もし・・・そうだとしたら・・・。

ジェスター
「あ・・あ・・。胸が凄い苦しい・・」

強いストレスが襲う。
その場にしゃがむ。
・・・また誰か来たみたいだ・・・。

キュピル
「うわ・・・なんだこれは・・・。酷い有様だ・・・」
ルイ
「もしかして・・あの座り込んでるジェスターさんが全部・・・?」
キュピル
「相当強いな・・・。あのジェスター・・・。本物はあんなに強くない・・・。
いや、それともそれだけ強くなったのか・・?」
ジェスター
「分からない・・分からないよ!!私は偽物なの!?本物なの!?」
キュピル
「な、何だ!?」

思いっきり叫んで立ち上がり新しくやってきたキュピルとルイの元に近寄る。
2人が戦闘態勢に入る。

ジェスター
「分からない!!!誰が本物で誰が偽物で、
私が本物なのか偽物なのかも!!」
キュピル
「・・・・」

キュピルがしゃがみ込んで喋った。

キュピル
「俺、言いこと思いついた。全員自分の事が本物だと信じ込んでて
全員自分そっくりならさ、自分が偽物でもこの世界から抜け出して
自宅に戻ってもバレナイんじゃないのかって」
ジェスター
「・・・・」
キュピル
「つまりさ、偽物が本物になれるってことだ。このチャンス。掴んでみないか?」

キュピルが手を差し伸べてきた。

キュピル
「きっと俺も偽物なんだろう。こんなに一杯のキュピルに会ったら
俺も疑心暗鬼になったよ。だから俺も本物に昇格するために全員倒す」
ジェスター
「・・・・・」
キュピル
「さぁ、コンテニューだ。」
ジェスター
「・・・・・」

???
「貴方にコンテニューはありません。ゲームオーバーです」

また銃声が聞こえた。別のルイだ・・。キュピルが倒れる。
そして別のキュピルと私が現れた。
あぁ・・・。もう嫌だ・・・。もう・・どうしようもない・・・。



どうしようもない・・・。



ジェスター
「・・・・・・!」

ゲンとエリスの事を一瞬思い出した。
そういえば・・。あの時もどうしようもないってことになって・・・。
黒ジェスター達を片付けたんだっけ・・・。

自分の本当の世界を思い出した。
勇気が沸きだした。


ジェスター
「全員・・偽物・・」

銃声や剣の音が聞こえる中ぼつりと呟いた。

ジェスター
「全員・・偽物!!・・私だけが本物・・!!」

その場から急いで離れ別の方向に進んだ。
すると床が崩れてる場所を発見した。そこに飛び降りた。
・・・しかし飛びおりた場所は、先ほど叫んだ場所に戻っただけだった。
けど誰もいない・・・。

・・・・・。

誰かが現れた。・・・ファンだ・・。

ファン
「おや、ジェスターさん。どうしました?」
キュピル
「ジェスター!」

キュピルもやってきた。

ジェスター
「・・ファン、どうしてここにいるの?」
ファン
「どうしてって・・。皆さんが心配で援軍に来たんですよ」
キュピル
「これでジェスターとも合流できた!後は戻るだけだな!」

あ、わかった。



これきっと。




夢だ。




私には分かる。
だって、ファンが絶対こっちに来るはずないもん。しかも一人で。
幽霊刀を引き抜く。

キュピル
「・・・・・!?」
ファン
「!?」

2人とも驚く。幽霊刀が激しく共鳴している。

ジェスター
「夢から・・・覚める・・!!」

その幽霊刀で思いっきり自分の心臓を突いた。
痛みも全く感じなかった。ただ、世界がグネグネと曲がり壊れていった。












ジェスター
「・・・・・ん・・・」

凄く頭が痛い。
今度は何だろう・・・。

黒い生物
「スゲェナ、ヨクコノシレンヲ、ノリコエタナ」
ジェスター
「え・・・?」

起き上がるとさっきの川にいた。
あの黒い生物もいる。

黒い生物
「生きた者が三途の川を渡ると幻覚を見るようになる。
その幻覚を永遠に見続ける者は自分がいつの間にか死んだ事に気づかない。
途中で目が覚めればこの三途の川を生きたまま渡れる」

急にはっきりと喋り出した。

黒い生物
「さぁ、ようこそ。俺達の世界へ。死者の世界」

よくわからないけど向こう岸についたみたい。

ジェスター
「あれは・・幻覚ってことでいいの?」
黒い生物
「そうだ。あの幻覚から目を覚ます方法。それは自らの心臓を刃物で貫く事。
他の死にかたじゃダメだ。他の死にかたで死んだら水の中を永遠と泳ぐことになる。
それこそ死より辛い時間をずーっと味わう。」

・・・・。幽霊刀を見た。
・・・何だか助けてもらってるような気がする。


黒い生物
「さぁ、行け。俺は戻る」

そう言って黒い生物はもとの岸辺に戻っていった。
・・・今の私は混乱してる。だけど進まないときっと何も見つけられない。
凄い不安になりながらも進んでいった。





しばらく進むとグネグネ動いてる気色悪い階段を見つけた。
動いてるのに物凄く冷たい。
天高く空へ伸びてる。

その階段を登る。


何十分も、何時間もかかったと思う。
凄い時間をかけてその階段を登っていくと
エスカレーターが隣に現れた。

けどあえて無視した・・・。



・・・・。

すると今度はエレベーターを見つけた。不気味に浮いてる・・・。
上は登るみたいだけど、無視した。

今は誰かの力を借りたくない。


いつしか誰かが言っていた事を思い出す。


「自分で動かなかった日が一日でもあったら大きく後退しちゃうよ」


こんな信用できない場所で何かに頼って自分が休んだら・・・。
きっと酷い目に合う。

彼等が言っていた事は恐らく違うのかもしれないけど
今の私はこう捉える。



階段が終わった。宮殿みたいな建物を見つけた。
赤い宮殿・・・。

中に入る。






グォォォォオオオオオオ



ジェスター
「!」

何か野獣みたいな雄たけびが聞こえた。
赤い刀を抜刀する。

暗くて姿が見えない。
・・・いや、明るくなった。



ジェスター
「な、なにあれ・・・」

身長が3mはありそうな怪物が現れた。
背中には翼があるがその翼で何かを斬ることができそうな感じだ。
爪も鋭く牙も大きい。


今にも襲ってきそうだ。
いつでも襲い掛かってきてもいいように防御体制に入る。
・・・・ところが。

もだえ苦しんでる。


何も傷がないのに苦しんでる。
どうして?

巨大な怪物
「ウ・・グ・・アァ・・!!ジ・・・ジェ・・ス・・タ・・・。」
ジェスター
「え?」

どこかで聞いたことのある声・・・。怪物とは思えない声・・。

巨大な怪物
「アァ・・クソ・・・!!ウアアアア!!」

暴れ始めた。
思わず後ろに下がる。

巨大な怪物
「ジェ・・ス・・タ!!ユ・・・ユウレイ・・カタナ・・カエ・・・カエ・・シテ・・クレ・・!!」
ジェスター
「・・・!もしかして・・その声・・キュピル!?」

慌てて自分に結び付けてる幽霊刀の紐を外し巨大な怪物の方に投げた。
突然怪物から強烈な閃光が現れジェスターを襲う

ジェスター
「眩しい・・!!」

目を瞑って手で隠しても眩しい。
やがて暗くなる。

目をあける。



キュピル
「はぁ・・・はぁ・・・。」

まだ怪物の後が残ってるがそこには正真正銘キュピルが寝ていた。

キュピル
「幽霊刀の・・呪いが・・強すぎた・・・。」

何もいえない。

キュピル
「ルイの・・言ってた通りだな・・・。ジェスターを放浪に・・行かせるのが
怖くて・・・俺は幽霊刀に・・霊術をかけた・・・。
その霊術は・・・。対象が危機に陥った時・・・。守ってくれる守護霊の術・・・。


・・・・・だけど・・。」

キュピル
「だけど・・、離れれば離れるほど・・副作用なのか・・幽霊刀のせいなのか・・知らんが・・・。
ドンドン体は病にやられ・・・今度は変色しだし・・。そして化け物に・・。
ルイやファンへの被害を恐れワープ装置機を意図的に暴走させた・・。」

まだ何もいえない。正直言って驚いていて怖くて喋れない。

キュピル
「ははは・・・。逆に迷惑かけたか・・・?」
ジェスター
「・・・やっと・・やっとあえたよ・・・。本物のキュピルに・・・」

寝てるキュピルに近づき近くに座る。

ジェスター
「キュピル・・・。剣・・直したよ・・」
キュピル
「・・・おかえり、ジェスター・・・。
・・・流石だな・・・。」

赤い剣を受け取る鞘から引き抜いた。
鋭い刃が外気に晒される。

キュピル
「・・・・こりゃ・・すげぇな・・・。よくやったな・・」

キュピルが赤い刀を持ったまま目を閉じた。

ジェスター
「・・・死んでないよね?」

・・・・動かない。

ジェスター
「・・・・起きてよ。」

揺する。だけど起きない。躍起になって叫びながらゆする。
すると突然キュピルが起き上がった。

・・・・あれ?何か痛い。


キュピル
「ハハハハ、ニセモノ」

剣がジェスターを貫いてる。

ニセモノ
「名演技だっただろ?俺様が名演技すぎたからだまされるのも無理はない。
俺の役割り・・罠に引っかかった物を地獄に落とす事。
貴様はまだあの幻覚の中にいるのだ・・。抜け出せたように思えて
抜け出していない。さぁ、見せてくれ。パニックを」






今度こそ心が折れた。精神が壊れた。
撹乱状態に陥り、凄い大声で叫び、そしてこれからもさ迷い続けるその幻覚に怯え
あちこちにぶつかり、そして深い昏睡状態に陥った・・・。





最終話へ続く


追伸

バットエンド。・・・ジャナーイ
次の最終話で全ての勝負が終わります。
今度こそ放浪で学んだ事をいかせるかがポイント。今回は二割しか生かせてない。


最終話


『起きるんだ、守られし者よ。』


ジェスター
「・・・・・・ぅぅ・・」

凄い頭が痛い。あちこち何かにぶつかったのだろうか・・。
タンコブが一個出来てる。


『守られし者よ。そこで屈したら顔が立たなくなるのではないのか?』


声が聞こえる。

ジェスター
「誰・・・?」

『私の名はルーピュキ。幽霊刀の中にいる者だ。』

ジェスター
「え・・?ルーピュキ・・?もしかして・・キュピルが言っていた・・?」

前にキュピルがその人の名前を言っていたような・・。1000年生きるだとかどうたらで・・。


『君はまだ保護の霊術でまだ守られている』

ジェスター
「待って、どういうこと?保護の霊術?守られし者?」

『君が放浪に出かける前にキュピルが霊術の力をフルパワーに使い
この幽霊刀にお守りをかけた。対象に生命の危機が訪れた時
その危機から救う守りの霊術。私はその守護霊みたいな者だ』

ジェスター
「守りの霊術・・・。それって・・」

自分の記憶にニセモノのキュピルがそれと同じような事をいっていたような・・。

『そうだ、あの偽物は嘘をついていなかった。真実を話していた。』

ジェスター
「どうして?」

『この霊術に気づかせ早く効果を打ち切らそうと謀っているのだ。
この霊術も無限には続かない』

ジェスター
「あとどのくらい・・?」

『元々この効果は三回までしか効果がない。だがもう三回君は使った。
龍との戦い、偽のルイに撃たれ死亡したが蘇生、
そして今回の精神の修復と幻覚からの脱出・・・。。』

もう後がない・・。

ジェスター
「じゃ、じゃぁ・・。この後どうするの?守ってくれるの?」

『彼の霊術は確かに一流だ。しかしどれだけ一流の人でも
普通一回しかこの効果は現れない。それが三回も続いてる。
それだけで十分奇跡に近い。』

ジェスター
「じゃぁ・・あとは一人で何とかするしかないんだね・・」


正直、今こんな様々な面で死に直結するこの場所で
何の守りがないのは非常に心細い。

『守りの効果は切れた。最後にヒントだけ与えよう』

ジェスター
「ヒント?」

これまでの放浪で得た知識を全て満遍なく活用せよ

ジェスター
「これまでの放浪の知識・・・?」

『そうだ。急いだほうがいい。本物のキュピルも偽物のキュピルが言っていた通り
霊術の副作用で徐々に病に犯され化け物に変化しつつある。走ったほうがいい」

ジェスター
「待って!最後にキュピルがどこにいるかだけ!!」


しかし声は聞こえなくなりそれと同時に辺りの景色も段々はっきりしてきた・・。


ここは・・。最後に倒れた場所みたいだ・・・。
まずは何処に行けばいい・・・?

じっと座って悩む。

・・・・・。

ジェスター
「待って・・・。今の私にはもう時間がないんじゃ・・・。」

ここでずっと悩んでいても敵がまた新たな作戦で陥れに来るに決まっている。
モタモタしてる場合じゃない

ジェスター
「『行き急げ・・・一気に駆け抜けろ・・・。俺達には時間がない』
・・・そういえばこんな台詞言っていた人もいたね・・。」

立ち上がる。この神殿。奥にまだ道が続いてるようだ。
とにかく行ってない場所をしらみつぶしに進んでいくしかない。

・・・・でも、何をすればいいの?
そりゃ決まってる・・。本物のキュピルを探す事。
・・・だけど・・どう考えてもこの偽者が沢山いる中ですんなり見つけるのは不可能に等しい・・。

どうすればいいの・・?


・・・。
ある言葉を思い出した。


人は目標を作らないと何だって頑張る事はできない
どんな小さな事だってやろうと決めた物は必ず目標になる

今の私は目標を見失った状態・・・?
・・・そうだ、小さなことから目標を決めていこう・・。

小さな目標・・・。
そうだ、本物のキュピルを探すんじゃなくて本物だと分かる証拠や何かを探してみよう!
いきなり大きな物を見つけようとするから躓き挫折してしまう。
そうと決まれば進むしかない。


神殿の奥に進んでいく。しかしさっきから同じ光景が繰り広げられ
まるで一切進んでいないかのような錯覚に陥りそうになる。

ん・・・、前から音が・・。


キュピル
「ぐっ・・・」

キュピルだ。まずは偽物か本物かしっかり見分ける必要がある。
・・・・ところが・・。

キュピル2
「くそ・・この!」
キュピル3
「甘い!」
キュピル4
「こいつめ・・」

ジェスター
「・・・・!」

数え切れない程のキュピルが沢山いる。
とてもじゃないけど一人一人確かめるわけにはいかない。
全員何かで争っているようだけど十中八九、誰が本物か誰が偽物かで
もめているのだろう・・・。

キュピル
「ん・・・ジェスター!」
キュピル2
「なに?ちょうどいい、だれが本物か見定めてもらおう」

誰かがそういうと沢山のキュピルが一気にジェスターを囲む。

一同
「ジェスター、お前なら分かるだろ?誰が本物が!」
ジェスター
「え?え?」

強いプレッシャーがジェスターを襲う。
一触即発・・。でも私にはこの中に本物のキュピルがいる気がしない。
こういう時どうすればいいのか・・・。


ジェスター
「・・・・わかった」

全員が静まる。

ジェスター
「この中で本物のキュピルを見定めるために皆私の言う事を聞いてもらうよ。
直には見定められない。全員本物のキュピルだと仮定して
一緒に行動してもらうよ。誰か意見ある?」

何人か言ってるが最終的に全員承諾したようだ。

ジェスター
「よし、私的にまずこの世界を脱出する方法を探ったほうがいいと思う。
だけどこれはあくまでも私の個人的意見だから他に何か意見あったら聞くよー」
キュピル
「同意する。俺も脱出する方法を探すべきだと思う」
キュピル2
「いや・・。ルイやファンもいるかもしれない。探すべきでは?」
キュピル3
「馬鹿いうな。探してる途中見つかるだろ・・・」


ジェスターの頭の中にはある言葉が浮かんでいた。


命令って奴はな・・・。大まかに分けて二つあるんだ。
一つは任意の命令。その人の意見を尊重しつつ何か指示を与えていく。
二つ目は強制。意見・主張を全て無視してただひたすら実行してもらう。



過去に失敗を犯したあの屈辱・・・。
確かに、一人で全部考えてどうこう決めたらそのうち不満が溜まるのは明確だった・・。
今ならキュピル本人がいったこの言葉の意味をしっかり理解できる。


凄まじい人数がいるため決まるのに多少時間かかったが
最終的に出口を探す事になった。
まずは神殿の奥へ進んでいく。全員それぞれ赤い剣を構え腰には幽霊刀がある・・。

いくらか進んでいくと行き止まりになってしまった。

キュピル
「ん・・・。でも、この壁脆いな・・。壊せるんじゃないのか?」
キュピル7
「はー・・いや、無理じゃ・・」
キュピル3
「ばっか、お前そんな事言ってると偽者だと思われるぞ?」
キュピル4
「ええい、全員で剣で殴りかかれば壊れる!」

誰かがそういうと全員で壁を叩き壊し始めた。
ところが突然壁が爆発し何人かがそれに巻き込まれた。
全員何事かと剣を構える。

壁の向こうに大量のルイがいた・・・。

キュピル
「!」
ルイ
「!?」
ジェスター
「ややこしいよ・・・」

そのルイの集団の先頭にジェスターが一人だけ立っていた。

偽ジェスター
「偽物だ!!全員一斉射撃!!」
ジェスター
「皆戦って!」

すぐにドンパチ戦いが始まった。
しかし射撃武器を持ってる向こうの集団の方が圧倒的に有利だった。
次々と偽キュピル達が倒れていく。


〜〜10分後・・・


偽ジェスター
「全員倒したみたいだね。よし、行こう〜」

ジェスターとルイの集団が動いていった・・。


ジェスター
「・・・・・なんとかやり過ごせたみたいだね」



ジェスター一人だけが近くの瓦礫の窪みに隠れていた。
しかしこの状況こそ、またあのシーンを思い出す・・・。

黒ジェスター達を駆除すると決断したあのシーン・・。


「これってもう、どうしようもないんだよね?

『これは自分達にとって最終的に利益をもたらすから言える一言である。
もし立場が逆だったらもっとあらゆる手を尽くしているかもしれない・・。』

めんどくさくなった。面倒になったから絶対に解決できる手段を選ぶ。
まだその問題を解決しようと思う意欲があればこの一言は出てこないかもしれない・・。』


ジェスター
「・・・・」

でも今の私は違う考えを持っている。
確かに今回もまたどうしようもなかったから隠れた。
だけど解決しようとする意欲がなければ、どうしようもないと諦めていたら・・。
逆に隠れないで死んでいただろう。

絶対に合ってる答えなど存在しない。
だけど、参考になる事だってある。

放浪の旅を思い出し、生きた嬉しさと複雑な気持ち。

・・・。

今は本物のキュピルを見つけ出して早くこの世界から脱出しよう。





奥に進めば進むほどドンドン構造が複雑になっていく。
時々迷路やレバーなどの仕掛けが現れいく手を憚る。

それだけならまだいい。だけどさっきから何人もキュピルが現れて
何度も悩ませる。
もしかすると本物も混ざっていたのかも・・。
そう考えると凄い不安になるが一つだけ納得のいかない物がある。

それは、この神殿に入ってからキュピル全員が赤い剣と幽霊刀を持っていることだ。
この二つは私が持っているから普通持ってるはずがない。

目標は定めてある。

赤い剣と幽霊刀を持っていないキュピルを探す事。



あの台詞を思い出す・・・。


「そうやって目標を絞っていくんだ。どうするべきか見えてくるだろ?」

ジェスター
「あの商売も決して無駄じゃなかったんだね。」


ただし、一番注意しないといけないのはキュピルと偽ジェスターが一緒にいる時だ。
その場合幽霊刀と赤い剣は返したってことで本物なのに所持してる可能性がある。

もしそうなった時はその時に考えるとしよう。



ジェスター
「うーん・・・」

今また神殿の仕掛けに悩んでいる。
大きい扉があってこの先がいかにも怪しいのだが
どう頑張っても扉が開かない。
ただ、扉にはある手形が4個だけあった。

ジェスター
「・・・・・・」

その時突然首元に刀を突きつけられた。
しまった・・・。後ろから奇襲!?

偽ジェスター
「私の偽物・・!のん気にしてたのが命のつき・・!」
ジェスター
「うっ・・・」

下手に動くと危ない・・・。
けどこの手の状況は大分慣れてきた。思いっきり偽ジェスターの足を踏む。

偽ジェスター
「っ!」
ジェスター
「ていや!」

怯んでる隙に刀の鞘で思いっきり突き飛ばす。
後ろによろけた所を逃がさず鞘で追撃を加えて気絶させる。

偽ジェスター
「・・・・・」

なんとか倒せた。段々私も腕があがってきたかも。
・・・・。
・・・・・・。



もしかして・・。

一度手形のついてる扉に自分の手を当ててみる。
しかし何の反応もない。
気絶してる偽ジェスターの手を引っ張って両手を手形に合わせる。
偽ジェスターの持ってる剣と自分の持ってる剣を使ってうまく支えて
自分も両手を扉の手形に合わせる。


ゴゴゴゴゴ


扉が開いた。四つの手をそのまま合わせればよかったんだ・・。
一人じゃとても難しいけど出来たからいいや。
が、その瞬間後ろから音がまた聞こえた。

ジェスター
「・・・!」

先程の大群のルイがこちらに向かって突進してきてる!
先頭にはジェスターがいる。

偽ジェスター
「また偽物だ!倒せー!」

急いで扉を抜けた。だが後を追いかけてきている・・・。

扉の先にはまた長い階段があった。
この階段も不気味に左右に時折揺れ転びそうになる。
まるで登らせまいと思っているかのような感じだ。

ジェスター
「怖い・・怖い・・怖い!!」

後ろからルイが迫ってきている。時折銃弾が飛んでくるが
ルイたちも揺れる階段のせいで狙いが定まらないようで
此方まで銃弾が飛んでこない。

バランスをとりつつ登っていく。


ジェスター
「・・・え!」

階段を登りきると行き止まりに直面した。
まずい、ここで行き止まりは・・・。

何処か抜け道はないか探すと上の方に小さな四角い抜け道があった。
かがめば何とか入れる隙間かな・・?

近くの瓦礫に足をかけてなんとかよじ登る。

偽ジェスター
「逃がすなー!発射ー!」

慌てて奥に逃げる。銃弾の嵐が襲うがなんとか奥に逃げ込めた。
そのままドンドン奥に進んで直角の曲がり角を曲がる。


偽ジェスター
「追いかけろ〜!」
ルイ
「・・・さっきから妙に上から目線」
偽ジェスター
「誰が本物かどうか見極めてるんだから文句言わない」
ルイ2
「まず貴方が偽物かもしれませんね」
偽ジェスター
「え?」

後方から銃弾の音が鳴り響いた。



ジェスター
「よっこらしょっと・・・」

狭い抜け道を進んでいくと何処か広い部屋に出た。

ジェスター
「ここは?」

辺りを見回すと閉鎖空間だっということが分かった。
入り口は今来た場所だけのようだ。
ただ、一つ目につくのは真ん中に台座があり青いエネルギーの球体みたいなボールが
浮かんでいることだ。

ジェスター
「触ってみても大丈夫かな・・・」

人差し指でゆっくり触ってみる。
触ると感触は硬くてボールみたいな感じだ。
手にとっても全く害はないみたいだ・・。

ジェスター
「何か不思議・・。こんな暗くてジメジメして気が狂いそうな場所に
こんな綺麗な青いボールがあるなんて・・・。」

せっかくだからポケットの中に入れる。
さぁ、一旦この部屋から戻ろう。
しかしルイ達が一杯いるかもしれない・・。剣を前に突き出して
慎重に戻っていく。



==長い階段

ジェスター
「うっ・・」

無残な偽ジェスターの姿だけがあった。
あまり視界に入れないようにする。

ジェスター
「?」

階段を下りようとした時気が付いた。
偽物のジェスターの髪が右の壁にめり込んでる・・・。
というより吸い込まれてる。
・・・その壁に触れてみる。

ジェスター
「・・・!」

これは壁じゃない。映像だ。頭を突っ込んでみると奥に暗い道が続いていた。
・・・・・・。

この先何があるか全く検討がつかない。
しかしこのように隠してるってことは何か重大な何かがあるということだ。
一人では心細い・・・・。
また沢山の偽物を見つけてその人たちに頼る?
・・・・・・。確かに安全かもしれないけど・・二回目は少し危険な香りがする。
ある言葉を思い出した。

『自分の力で動かなかった日が一日でもあったら大きく後退しちゃうよ』


・・・今こそ自分の力で動かねばいけない時。
意を決して映像の壁を通って中に進んで入った・・・。





松明を使って周りを照らしながら慎重に進む。
この場所。今までの道と比べると非常に壁や道が脆い。
床が崩れて落ちるとか壁がないとかそういうことはないようだけど・・。


一定の距離を進むと扉が現れた。大分錆びている・・。
鍵はかかっていないようだ。ゆっくりとドアノブを回し中に入る。

中に入ると目の前にいきなり牢屋だけがあった。
・・・誰か人がいるようだ。暗くてよく顔が見えない。


「む・・・、ジェスター・・なのか?」
ジェスター
「その声・・・キュピルだね?」

近づくと松明の明かりに照らされてキュピルだという事がわかった。

キュピル
「何故ここにジェスターがいる・・。どういうことだ?」
ジェスター
「何も分からないの?」

少し間を置いてからキュピルが喋った。

キュピル
「あぁ・・何も分からない・・。病にやられて寝込んでて刻々とルイが宣言していた通り
化け物にもなりつつ・・。とにかく、ここから出ないといけない。扉をあけてくれるか?」

この鉄格子を横にずらすと簡単に扉は開く仕組みになっている。
・・・・だけど

ジェスター
「ごめんね、キュピル。私今まで一杯キュピルの偽物見てきて疑心暗鬼になってるんだ。」
キュピル
「・・・俺も偽物・・と?」
ジェスター
「・・・うん」

キュピル
「・・・そうか。それなら仕方ないな」

そういうと勝手に鉄格子が横にスライドされて扉が開いた。
やっぱり偽物だ!!
すぐさま後ろに下がる。ところが近くの岩に引っかかってしまい転んでしまう。

偽物
「見破ったまではよかったな。しかし、その後の運がなかった」
ジェスター
「何でこんな不条理な世界があるの!どうしてキュピルはここにきたの!」
偽物
「ルーピュキかキュピルにでも聞け!」

そういって鋭い爪で刺しにきた!
なんとか横に転がって回避する。ポケットの中に入っていた青い玉を落とす。

ジェスター
「あ!」

拾おうとするが、すぐに二回目の攻撃がやってきた。もう避けようがない。
が、その時敵の動きが止まった。

・・・・・・。

いや、止まったのじゃない。石化したのだ。
そのまま灰になって崩れ落ちた。

ジェスター
「一体何だったの・・?」

青い玉を拾う。これまでにないぐらい強烈に輝いてる・・。
松明の代わりになってしまうぐらいだ。
青い玉からレーザー光線が飛び出る。何もない壁の方にレーザー光線が当たると
その壁が崩れ新しい扉が現れた。

導かれてるみたいだ・・・。
新しく現れた扉の中に入る。

扉をくぐるとまた扉が現れた。
扉を開けるともう一回扉が現れた。
それが何度も続いてる。

でも、何かの会話が聞こえる・・・。



「ファン・・。ルイの言っていた通り幽霊刀から離れれば離れるほど
俺の体は病にやられ怪物へと変化してってる・・。」

「どうするんですか。このままではジェスターさんが戻る前にやられますよ・・?」

「最終手段がある。もし鬼や化け物に変化するようだったら・・
迷わずこのワープ装置機に俺を放り投げてくれ。」

「・・・場所はどこに設定してあるんですか?」

「俺もわからない。少なくとも化け物や鬼がいくのに相応しい場所らしい。
・・・・化け物になったら治す方法はないんだってな・・・」

「そんなはずはありません。ルイと僕の知識を生かせば薬は絶対作れます」

「確かに作れるかもしれない。しかし人間としての理性は消え
手に負えなくなる日は絶対に来るはずだ。」

「だから地獄へ行く・・ということなのですか?」

「俺もみすみす死にいくようなことはしない・・・。
もう駄目だと思ったら飛び込む。その際霊術を使って俺の魂だけをその世界の何処かに
置いておく。魂と体が離れている限り完全な死はないそうだ。副作用は知らないけどな。」

「・・・それで、その後は?」

「魂が体から離れると仮死状態に陥る。そうなると体は必要最低限の機能しか働かない。
病状を遅らせる事が出来る。・・ジェスターが帰ってきたら幽霊刀をもって送らせてくれ」

「分かりました。とにかくキュピルさん自身は生きて帰るつもりなんですね?」

「当たり前さ」




・・・。

扉を開けた。今度は狭い部屋に出た。
その中央に化け物が横たわっていた。
見た目はかなり酷い・・・。ほぼ悪魔と言える姿一歩手前まで来てる。

・・・・・。
ゆっくり呼吸している。今の打ちにトドメを・・・。

・・・・・・。でも。
でも私には分かる。

この化け物はきっとキュピルだ。
私には分かる。

だって私の好きな人がいってたもん。


ジェスちゃんはキュピルって人の事をよく知ってるのよね?
それならキュピルの良い所はきっと知ってるわよね?
今までの事を思い出しながら描いてごらん・・・


輪郭・・特徴。
確かに面影は薄いけどしっかりキュピルだって分かる部分がしっかりある。

青い玉が激しく震えている。
今の私には分かる気がする。青い玉をキュピルの上に乗せる。
青い玉がキュピルの中に入る。


・・・・。

手が動いた。
幽霊刀を握らせる。

キュピル
「・・・!!げほっ、がはっ!!」

凄い咳き込み始めた。

ジェスター
「わわ!大丈夫!?」

背中をさする。これで大丈夫のはずだけど・・・。
しばらく咳が続いたけど次第に咳も収まり見た目も元のキュピルの形に戻って言った。

キュピル
「はぁ・・はぁ・・・」
ジェスター
「分かる?私だって分かる?」
キュピル
「・・・おぉ、ジェスター。どうだ?放浪は楽しかったか?」
ジェスター
「第一声がそれなんだ・・・。」
キュピル
「しっかり学んできたんだろ?じゃなきゃここまでやってこれない」
ジェスター
「ここってどこなの?」
キュピル
「聞いたはずだ。一時的に身を置くための世界。
その割には随分と過激な世界だったみたいだけどな」

ハハハっと笑っている・・。

ジェスター
「笑い事じゃなーい!!」
キュピル
「ぎえぇ、怒るな。こう見えても相当辛かったんだぞ。」
ジェスター
「キュピルの三倍ぐらい私のほうが辛かった。」
キュピル
「まぁ、お守りがきいたみたいでよかったじゃないか・・」

深呼吸する。

ジェスター
「キュピル。私信じていいんだよね?このキュピルは本物だって」
キュピル
「約束する。正真正銘本物。」
ジェスター
「約束だよ」



キュピルが立ち上がる。


キュピル
「ここだとジェスターも不安でしょうがないだろう。
この世界じゃなきゃいけなかった理由はいろいろあるんだが・・。
家に帰ったら全部説明しよう。放浪のお土産話も知りたいしな。」
ジェスター
「うん、私も色々聞きたい事があるし話したいこともあるからね。帰ろう!」


キュピルがカバンからウィングを取り出した。

ジェスター
「・・・それで帰れるの?」
キュピル
「ちょっと特殊なウィング。町には戻れないけど近くまで行ける。捕まって」

手を繋ぐ。アイテムを使うと回りが赤い炎に包まれた。






ジェスター
「ん・・・」

目を開けると見たことのある光景が現れた。
ここは・・・三途の川?確か渡し舟に乗ってやってきたあの場所・・。
場所的に渡りきった場所みたいだけど・・・。

キュピル
「さぁ、ファンを信じよう」
ジェスター
「どういうこと?」
キュピル
「ここの三途の川は底なし沼って言っていいほど深いし到底泳ぎきれる距離じゃない。
誰か船を用意してくれるまで待つ」
ジェスター
「絶対来る自信ある?」
キュピル
「あるぜ?」

自信満々に答えてくれた。私も安心して待ってられる。


キュピル
「ジェスターはきっと何も知らないだろう。どうして俺がここの世界にいて
どうして化け物に変わって、どうして幽霊刀があるのか・・。」
ジェスター
「うん」
キュピル
「全部話す。聞き逃したら言ってくれ」


全部話してもらった。

まず、どうして幽霊刀があるのか・・・。
ルイの話によると幽霊刀はとある霊術師が作った儀式用の剣の一つであり
強力な霊能力を持ち合わせていた。

本の伝記によると、そもそも幽霊刀とは作ったその人の魂を封じ込め
永遠に生き続けるために作られた物だった。
そのため長く触れれば幽霊刀特有の不老不死が現れる。それが1000年以上いきるという話のあれだ。

この幽霊刀を使うには強烈な霊術の才能とセンスがないといけない。
才能がない物がこの幽霊刀を扱うとまず警告として電流が走る。それでも尚使おうとすると
刀を引くことは出来る。ただし、すぐに幽霊に変化し死を迎える。
キュピルは本当に偶然。この才能が幽霊刀と接したせいで開花してしまい
その危険性に気づかず多用していき少しずつ依存を強めていった。

幽霊刀は戦うために作られた武器ではない。
自身を永遠に生かすために作られたものだ。

幽霊刀を使うと体が軽くなる。しかしその代償として鬼へと変化してく。
この事に気が付いたのは放浪するジェスターを守るために幽霊刀にお守りの霊術を
かけ、ジェスターがキュピルから離れた時だった。

体が徐々に病にやられ、風邪でもない不思議な病気にかかったキュピルを見て
ルイが本でそれらしい部分を見つけた。
誰かを守る術は自分の命を削って初めてその人を守れる。
まさに不老不死を捨てる覚悟。
元々キュピル自身は不老不死なんて要らなかったし捨てたかった。
そのため好都合だと思っていた部分はあったが流石にこの鬼へと変化する副作用には参った。

化け物へ変化。
これは幽霊刀を正しい使いかたをしない者への罰の一つでもあった。
あまりの強力な力を得すぎた罰だろうか。
特に誰かを守るその霊術は非常に強力すぎた。極端に言えば
三回死んでも生き返ることが出来る程の力だからだ。
この強力な霊術の使用によって化け物への変化を速めた。

化け物へ変化しつつあるその自身の体を見てルイに頼み
どうすればいいのか調べてもらった。
しかし流石にどの本にもこの事は書いておらずあくまでも推測で留まってしまった。
出来た推測というのは『幽霊刀が作られた場所にいけば何か分かるのではないのか?』

アーリン・アネレル。ルーピュキ等の話によると
この剣は3000年前に作られた。3000年もあれば場所は大きく変化しているはずだ。
元々は普通の街だったが盛んな霊術や死霊術などの研究によりその技能が発達していき
次第には平気で誰もが幽霊を呼び出す街へと変化していった。
誰もが幽霊をパートナーとして共に生活してき豊かな生活に見える一方で
死霊術の研究も続けられていた。気が付けば死霊ばかりがその街に集まり
気が付けば呪われた街へと変化したらしい。

誰もがよりつかない街。どう考えても復興できない場所。
ということは今でもその形で残ってる可能性が高い。
一度ワープ装置機に乗りその街へキュピルとルイは行った。
ただ流石に偽物の自分、つまり死霊が大量に現れこの時はすぐに帰還した。

部屋に戻った後ルイは別の手段を探した。
その手段こそが体と魂を離れされる霊術である。
元々は毒、病などといった病状を遅らせるための防衛手段の一つであるが
この鬼へと変化していくこの病にも通用するのでは?と考えたのである。

今となってこそ分かるが予想は的中した。
ただし、この霊術を使用するには強力な媒体の何かが必要だった。
本来なら幽霊刀さえあれば力を利用して直に発動することが出来たが生憎
ジェスターが持っていて発動することは出来なかった。

しかし死霊術の研究を行っていたあの街には霊術を使うのに非常に適してる
環境になっていて媒体が必要なかった。
だからあの場所でなければいけなかった。

かなり危険の賭けでもあった。はっきりいって死霊が漂ってるこの場所に
ジェスターが無事にキュピルの元まで魂を持ってやってくる確率は低かった。

ルイがなんとかジェスターが帰ってきた時のためにすんなり道を作る方法を
考えていたが一人で突撃を繰り返しては死霊術の餌食にあい撹乱状態を起していた。
それに見かねてファンも一緒に居たがギリギリのレベルで撤退を繰り返していた。
そこにちょうどジェスターが戻りすぐに送らせたわけだが
参った事に色々とジェスターに伝える事を忘れていた。

そこから先はジェスターが体験したとおりだ。












これが全ての真実である。







キュピル
「幽霊刀・・・。今思えばルイはとんでもない物を拾ってきたなって思う」
ジェスター
「・・・・。ねぇ、キュピル」
キュピル
「ん?」
ジェスター
「キュピルはこの世界・・つまりナルビクの方なんだけど・・。
来る前にシルクとか本来の世界でも凄い冒険してきたんでしょ?」
キュピル
「あぁ」
ジェスター
「流石のキュピルもこんな凄い冒険はしなかったでしょ?」
キュピル
「いくらなんでもこれはなかったな・・・」
ジェスター
「これから、その幽霊刀。どうするの?」
キュピル
「ファン達がやってきたら、ここの地面に突き刺して置いてく。
元の場所にきちんど返しておく。」

正確には霊術の研究所に返したいのだが戻るのは危険だ。

キュピル
「それで因縁が晴れるかどうか知らないが・・・。
鬼に変化する理由は幽霊刀の力を使いすぎることが原因だ。
ってことは使わなければいい。二度といけないこの場所に返せば
もう使うことはないだろう」

しばらく沈黙が続く。


ジェスター
「なんか・・・私が放浪さえしなければこんな事にはならなかったんだね・・」
キュピル
「遅かれ早かれいつかはこうなってた。
いつまでもクヨクヨする事は馬鹿がやることだよ

・・・・・・。
・・・・・・・・・・。

ジェスター
「あ、そうだ。キュピルに見せたいものがあるんだ〜」
キュピル
「ん?」
ジェスター
「これ!」

ポケットから超しわくちゃな絵を取り出す。
紙にはキュピルが書かれていた。

キュピル
「うわ、俺だ。いつ書いた?」
ジェスター
「放浪初めて三日目ぐらいの時。お婆ちゃんの家で書いた」
キュピル
「お婆ちゃん・・?」
ジェスター
「今度紹介するー」

へぇー・・っと言ってその紙をポケットにしまいこんだ。

・・・・・。
・・・・・・・・。

波が荒くなってきた。
何かがくる証拠だ。


キュピル
「・・・・来た」



ルイ
「・・・!お〜〜い!聞こえますか〜!」
ファン
「おぉ、無事ジェスターさん全部やってくれたみたいですね・・・。」

キュピル
「ほいほーい!俺は無事だ!全部ジェスターがやってくれた!」

なんか凄い褒められてる。流石に照れる。
船が岸辺に着く。よくみるとあの黒い生物もいる・・・。

黒い生物
「カンドウノ、サイカイッテ、ヤツカ・・。
サァ、ワタリブネガ、ナクナルマエニ、ノリナ」

全員が乗る。この死霊だけはなんだか優しい。


渡り舟が進み始めた。
陸地には幽霊刀が地面に刺さっている。

ルーピュキの姿が薄く見える。
もう全て終わった。自由にしろ。
そう言ってるようにみえた。



キュピル
「さぁ、さらば。幽霊刀。皆も何か言ってみたらどうだ?」
ジェスター
「ばいばい!幽霊刀!私を守ってくれた刀!成長させてくれた幽霊刀!!」
ファン
「かなり悩まされた困った幽霊刀。今度こそその場所から迷わないでくださいよ」
ルイ
「さよなら!伝説の幽霊刀!私の憧れの幽霊!幽霊!!幽霊〜〜〜〜〜!!!」

キュピル
「何でルイだけ号泣してるんだよ・・・」
ジェスター
「ルイ、いっそのことあの島にのこったら・・・?」
ルイ
「あ、それは遠慮しておきます・・・」

流石にルイもそれは嫌らしい。
全員が笑った。黒い生物も笑ってる。


黒い生物
「ハッハッハ、オカシナヤツダ・・・。
サァ、ゼンイン、メヲツブッテオケ。
ナァニ、マボロシノセカイニ、ツレテッタリハシナイゼ。
ナゼナラ・・・。

ユウレイカタナ。ワレラノアルジガ、モドッテキタカラナ。
モウコノバショモ、アンタイサ・・・」




全員が目を瞑る。


再び目を開けた時



元の世界にきっちり戻っていた・・・。












==キュピルの家



ジェスター
「なんだか夢見てた気分〜・・・」

思い返すと本当にとんでもない旅をしたなって思う。

キュピル
「そうだ、ジェスター。放浪のお土産話。まだしてなかったな」
ジェスター
「あ、そういえば」
キュピル
「聞きたいな。聞かせてくれよ」
ルイ
「私も聞きたいです。どんなことがあったのか。特に幽霊刀のその守りの効果・・・」
ファン
「ルイさん・・・。やっぱり幽霊刀の事若干諦めてないんですね・・」
キュピル
「いい加減諦めてくれ。あのワープ装置機も壊れてなくなったんだろ?
見事に俺の部屋を巻き込みやがった・・・。」

一時期キュピルの部屋が凄い悲惨な事になっていたが今はしっかり修復されてる。

ジェスター
「うん、そうだね。私の放浪の旅。今から話すよ〜!」

全員がジェスターを見てる。





ジェスター
「まず、私の放浪の旅の始まり。
それは私が自暴自棄に陥って〜・・・・」







エピソード10 放浪    

               Fin


シーズン10終わりです。幽霊刀との因縁も長かったですね。実にシーズン2も跨いで・・・。
なんというかこの終わり方は漫画とか小説とかの最終回・・。

ただ、長い長いストーリー物は本当にこれで最終回に近いかも。
しばらくは一話単発型とか凄まじい大層な冒険はやりません。
ジェスターは大きく成長しました。


次のシーズンはこの終わりから大体三ヵ月後の話です(感覚短・・・。

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