ラストシーズン 無の中の有


オープニング : 第一話 : 第二話 : 第三話 : 第四話 : 第五話 : 第六話 : 第七話 

第八話 : 第九話 : 第十話 : 第十一話 : 第十二話 : 第十三話 : 第十四話 : 第十五話

第十六話 : 第十七話 : 第十八話 : 第十九話 : 第二十話 : 第二十一話 :  


∞話(最終話)


オープニング




キュピル
『・・・すやすや寝てるな。』
キュー
『zzz・・・zzz・・・』
キュピル
『・・・キュー。ごめんな、最後の一声を眠ってる形でかけて。
・・だけどキューが起きていたら行くのを躊躇ってしまいそうだったから。
大丈夫。・・・きっとキューが起きたら全部上手くいってるはずだよ。
・・・今までありがとう。これからキューを未来に返すよ。未来に返って、もしお父さんがいたらこう言ってあげて。

キューは切り札なんかじゃなかった。ただの可愛い娘だった ってね。』



最後にキューの頬にキスし、以後。キュピルは作者と共にこの世界から姿を消した。




・・・・・・アノマラド大陸は復興不能と思われるほどの大きなダメージを負った。


・・・それでも時がそれを解決した。


アノマラド大陸は無事、復興し作者が残した爪跡は綺麗になくなっていった。


今までと全く何一つ変わらないアノマラド大陸に戻って行った。




しかし、外見の爪跡はなくなっても奥深くに残っている爪跡は消えなかった。





それから長い長い年月が経過した・・・・。






==???



キュー
「ふんふんふーん♪」

キューが必死に何かを作ってる。

・・・。

キュー
「・・・よーし。ここまで出来た!」

その時ファンが部屋の中に入って来た。

ファン
「キューさん!キューさん!!」
キュー
「おーおー。今日も忙しそーだねー。ところでこれ見て。やっと手編みマフラーが三分の一まで完成s・・」
ファン
「後でじっくり見ますから!それよりこの宿に『W・L・C』が来てますよ!」
キュー
「ん、そうなの。・・・んー・・・」

キューがテレビの方に視線を移す。

・・・・。

・・・・・・・・。

何か考えているのかと思ったらただ、単純にテレビの番組を見ているだけだった。

ファン
「真面目に行動してください!」
キュー
「まーまー、ちょっと待ってー。今いい所だから。」

そうこうしていると、勢いよく部屋の扉が開かれた。

W・L・C兵長
「居たぞ!」
ファン
「キューさん!!」
キュー
「まーまー」

ファンが溜息をつく。W・L・C兵がキューに向けてクロスボウガンを向け鉄矢を発射する。
鉄矢がキューに突き刺さった瞬間、突然黒煙が上がり一瞬で煙が充満した。

ファン
「ヒィィィィ。・・・!」

突然首を持ち上げられ天井裏まで引っ張られた。

W・L・C兵長
「さっさと煙を外に追い出せ!」

窓や扉を開け煙を逃がす。
数秒経過してやっと部屋の中が認識できるようになった。
ところが部屋の中にはファンとキューはいなかった。

W・L・C兵長
「ちっ!あの小娘め!・・・だが、逃げたつもりでいるかもしれないが、今回はそうはさせんぞ」



キュー
「さーさー、早く逃げよう」

黒くて長く、癖毛の激しい後ろ髪をなびかせながらファンを持ち上げて走る。

ファン
「ま、毎回毎回何か作戦立てているんでしたら話してください・・・。こんな世の中なんですから・・」
キュー
「ファンにはもっと他の所で活躍してもらうからいいよ」
ファン
「・・・本当に、キュピルさん譲りですね・・・。その性格・・。」
キュー
「お父さん・・・。・・・さっ、早く行こ」

キューがファンを背負って思いっきりジャンプする。屋根を突き破り、外に出る。



==ケルティカ

W・L・C兵長
「居たぞ!逃がすな!」
キュー
「ひゃ〜。こりゃまた随分な数がいるね〜」

一斉にクロスボウガンをキューに定め鉄矢を乱射する。
流石にこの数を回避するのは困難・・・。そのままキューやファンに突き刺さり屋根から落下する。

W・L・C兵長
「仕留めた!!」

キューとファンが地面まで落ちると突然爆発が起き周囲にいたW・L・C兵を吹き飛ばした。


キュー
「ちっ、ちっ、ちっ、あま〜い。あれは偽物。逃げよう〜っと」
ファン
「アワアワアワワ」




W・L・C兵長
「ぐぬぬぬ・・・!!だが、今回は絶対に逃がさん!!行け!」

W・L・C兵長が魔物に命令を下す。大きな翼を広げキューの後を追いかける。・・・見た事ない魔物だ。

ファン
「・・・!キューさん!何か来てますよ!」
キュー
「おーおー。凄い怪物だなー」

魔物が口から火の玉を吐きだす。ゆっくり飛んできたかと思えば突然分裂し、
物凄い速度でキューにぶつかってきた!

キュー
「あっちぃ〜!」

一瞬で火が全身に燃え移りそのまま屋根から落下した。

W・L・C兵長
「やったか、確認しろ」


業火の如く燃えている。これは流石に死んだだろう。

W・L・C兵
「隊長、恐らく死亡したかと。撤退します」
W・L・C兵長
「消火して死体を確認してから撤退しろ!!あいつh・・」

突然炎が消え、そこからキューとファンが無傷の状態で現れた。

キュー
「じゃーん!」
W・L・C兵
「うわっ!」
キュー
「アタシ、サーカスに入団出来るかな?」
W・L・C兵長
「撃ち殺せ!」

後からW・L・C兵長が現れクロスボウガンを構える。それに伴い他の兵も全員クロスボウガンを構え
一斉に鉄矢を発射する。

キュー
「あらよっと〜」

雨のように降り注ぐ鉄矢の上を足場にしてどんどん上に上昇し屋根に乗っかる。

キュー
「アーッハッハ。まだまだアタシを捕まえるには100年早いみたいだね。あばよ〜」

そういうとキューは凄いスピードで何処かに逃げてしまった。

W・L・C兵長
「ええい・・・あの小娘・・・何て奴だ。これで六回目だ!」









==キューのアジト


キュー
「到着〜。」

一見何もない場所に辿りついた。
・・・しかし実はここにキューのアジトがある。
敵からやり過ごすために地面の中にアジトを作った。普段は砂の中に隠れているため
入口はまず素人じゃ見つからない。

ファン
「キューさん・・。実力があるのは分ります。分りますけど遊ぶのはやめてください」
キュー
「んー?テレビ見ちゃだめなのか?」
ファン
「違います!戦闘中に無駄な行動して遊ばないでくださいってことです!
毎回毎回わざと被弾して敵を驚かせて・・・」
キュー
「せっかくこのアタシを追いかけてくれてるんだぜ?一つや二つはサービスして上げた方が
ファンも増えるよ!・・・おっと、ファンはファンでも応援するファンの方だぜ」
ファン
「分ってます!・・・それは置いて・・。今日も見つかりませんでしたね・・」
キュー
「うん・・そうだね。やっぱり私達二人だけじゃ中々見つからないね。
こういう時にディバンがいればな〜。・・・あ、リザレクションとかで蘇らせる事とかできないかな!?」
ファン
老死ですから蘇らせた瞬間また死にますよ。」
キュー
「新手の拷問だ!さっそくやろう!」
ファン
「やめてください!!呪われます!」
キュー
「まーまー。」
ファン
「・・・しかしディバンさん・・。大分久々にその名前を聞いた気がします」
キュー
「んー、そうだね。懐かしいよね。ジェスターのクエストショップ」
ファン
「あの頃は本当に賑やかでした。今では僕達3人だけですから・・・」
キュー
「・・・そんなことないよ。絶対大陸を探しまわれば誰かは生きてるよ」
ファン
「・・・キューさん。あれから何年経過してると思っていますか?」
キュー
「細かい事は覚えていないぜ。」
ファン
「150年です!150年!!」

キュー
「うーん・・・。アノマラド大陸に沢山のモンスターが襲来してからもう150年経つんだね・・・。
やっぱり普通の人間は老死しちゃうよね。・・・おっと、アタシは一応普通の人間ってことにしておいてくれよ!」
ファン
「・・・まぁ、一見しますと普通の大人にしか見えないのは事実ですけど。」
キュー
「この幽霊刀さえあれば私は歳取らないもーん。永遠の20歳!!えっへん。」
ファン
「・・・その喋り方。ジェスターさんを思い出します」
キュー
「おーおー、ジェスターは生きてるぜ。ただ、音信不通になっちゃっただけ。」
ファン
「147年も音信不通ですか?」
キュー
「・・・・何でそんな細かい所まで覚えてるの?」
ファン
「技術者はこんなものです」
キュー
「そうなのか。」
ファン
「ひとまず、これまでの状況を確認しませんか?」
キュー
「そうだね」

ファンが棚から大きな地図を取り出す。
・・・アノマラド大陸の地図だ。大分縮尺がいい加減。

キュー
「相変わらず縮尺がいい加減だな〜」
ファン
「手作りですから勘弁してください。」
キュー
「いつものこと」
ファン
「本題です。・・・今日、ついにケルティカにまでW・L・C隊が回ってきてましたね」
キュー
「『W』e 『l』ost 『c』ontact』.・・・。接触を失う。一体どういう意味でこんな名前がついてるんだろうなー?」
ファン
「何か意図はありそうですけどね」
キュー
「唯一分ってるのはこの部隊は作者の回し物って事だけ。」
ファン
「しかし、その作者は140年前。キュピルさんが謎の一言を残して作者と共に消えて行きました・・・。」
キュー
「『俺が居なくなれば作者も居なくなる。』・・・・。お父さんの言葉通り、何処に行ったのか分らないけど
消えた瞬間アノマラド大陸も順調に復興していったよね。何故か分らないけどルイも一緒に居なくなっちゃったけど。」
ファン
「あの後、僕達は全力でキュピルさんとルイさんの消息を探りましたけど結局何一つ見つかりませんでした」
キュー
「・・・お父さんが行動してなかったらきっと今のアノマラド大陸に未来はなかったよ。」
ファン
「キューさん。こんな事を聞くのも野暮だとは思いますが、キュピルさんがいなくなって寂しくはないのですか?」
キュー
「んー、まー、慣れちまったぜ。それにもう何十年も経つし。」
ファン
「78年ですね。テルミットさんは老死。ヘルさんは戦死・・・。
・・・悲しい事に輝月さんは薬で身を滅ぼしてしまい19歳で死去。」
キュー
「まさか輝月が薬打ってたなんて全然思いもよらなかったよ・・・」
ファン
「相当強烈な薬を打ってましたよ。・・・この世界に耐えられなくなってしまったのでしょうか。」
キュー
「残された琶月が可哀相。」
ファン
「その肝心の琶月さんは・・・」

その時誰かが飛び込んできた。

琶月
「びゃー!もうダメ!!」

琶月が息絶え絶えに飛び込んできた。・・鉄矢が結構刺さってる。

キュー
「ありゃりゃ。また随分とやられたね」
琶月
「痛いー!治療してー!死ぬ〜!」
キュー
「おーおー、じゃぁ本当に死ぬかどうかこのまま放置してみよっか」
琶月
「ああああ!そんな殺生な〜!!」
ファン
「・・・不思議な事に琶月さんは輝月さんが死んでから・・歳もとらなくなって
どんな怪我を負っても死なない体質に・・不死身ですね。」
琶月
「不死身でも痛い物は痛い〜〜〜!!」
キュー
「じゃぁ、まずは矢を引き抜かないとね!」

そういうとキューはおもむろに鉄矢を掴み思いっきり引き抜く。

琶月
「あんぎゃぁぁぁあああ!!!」
キュー
「頑張れ、頑張れー」
琶月
「ドS!!師匠以上にドS!!!!」
キュー
「この鉄矢って返しがついてるから引き抜くの大変・・・。しかも痛そう」
琶月
「痛そうじゃなくて痛いんです!!!!」

キュー
「ほんと・・・これ一本刺さった時は本当に痛かったよ。」
琶月
「私今6本刺さってるんですが」

ファン
「琶月さん。結局ナルビクはどうでしたか?」
琶月
「あ・・・。ナルビクはW・L・C隊以外誰も居ませんでした。
一応家の明りはついていましたので住民はいると思います。」
ファン
「拠点のような物は?」
琶月
「残念ですけどただ在沖しているって感じでした。拠点のような物はないかと・・・」
ファン
「・・・相変わらずW・L・C隊の目的が分りませんね・・・。どうも以前のように征服する気はないようです。」
キュー
「何故だか知らないけど私とファンと琶月を捕まえようと必死になってるよね・・・。
兵を一人拷問で情報を吐きだしたと思ったら作者が絡んでる事しか分らなかったし・・・」
琶月
「その作者が絡んでるだけで十分目的がもう見えてくるじゃないですか!!
きっとキュピルさんの仲間でしたから捕まえて血祭りに!ぎゃああ!」
キュー
「うん・・アタシも最初はそう思ったんだけどそれにしては変なんだ・・」
琶月
「え?何でですか?」
ファン
「仮にそうだったとしたら何故100年以上も放置してから攻撃を仕掛けてくるのでしょうか?
作者がアノマラド大陸から消えてしまった以上、僕達は追撃を仕掛ける気もありませんでしたし
潰す気でしたら、もっと早く現れて潰しに来ても問題なかったと思います。」
琶月
「うーん、ほら!ヘルとか師匠とか死んで戦力ダウンしてから攻撃を仕掛けたかったとか・・・」
キュー
「仮にそうだとしても何で今なの?輝月は早々に死んじゃったし、ジェスターも・・何だっけ?元の飼い主さんの名前」
ファン
「エユです」
キュー
「そう、エユと再び暮らし始めてそれから数年経過したある日。突然ジェスターが戻ってきて
戻って来たその二日後に行方不明。お父さんは30歳の時に作者と一緒に行方不明。
それと同時にヘルも戦死。テルミットは40歳で戦いから身を引いた。
・・・ちょうど20年ぐらい経過すれば今の状況に凄く近い状態になっていたよ?」
琶月
「うーんうーん・・・。あー、もうますます分らない!何で作者は今になって復活しちゃったの!?
そして、何で私達をまた攻撃してくるの!?」
キュー
「・・・それだけじゃないよ。どうしてお父さんだけじゃなくてルイも行方不明になっちゃったのか。
他にもジェスターが帰って二日後に行方不明。・・・作者だけじゃなくて他の事も謎が一杯残っちゃってる。
ねー、ファン。本当に何も知らないの?」
ファン
「残念ですが、その時僕はその場に居合わせていなかったので・・・」
キュー
「かくいう私は起きたら未来に戻されていたし・・・。未来に戻ったらもう全部事が終わってたから分らない・・・」
琶月
「私が知っている事は皆が知っている事だけ・・・。・・・いつも詳しい話はキュピルさんだけが知ってる形だった・・」
キュー
「とにかく、理由を探るために今こうやって動いてるのよね。」
ファン
「・・・キュピルさんは言っていました。『俺が居なくなれば作者も居なくなる』っと。
・・・この言葉の通りに取ってみますと作者が再びこの世界に干渉してきたということは
キュピルさんもこの世界に戻ってきているのかもしれません。」
キュー
「もう一度言うけど行方不明のルイにジェスター・・・。気になる事は一杯あるのに分ってる事は少ない。
とにかく今はW・L・C隊の本拠地を探そー。」
琶月
「了解です!・・・・でも今は休ませてもらっていいですか?」
キュー
「おーおー、どうしようかなー?・・・私今、肩凝ってるんだよね〜。」
琶月
「・・・・・」
キュー
「誰かさんとは違って胸が大きいからもう大変〜。あ〜、困っちゃう。」
琶月
「・・・・鬼!」
ファン
「やれやれです・・・」

ファンが溜息をつきながらアノマラド大陸の地図に印をつける。

『ナルビク=× ○』 『ケルティカ=×、○』

・・・黒色の×マークと黄色の○マークを付け加えていく。×マークはW・L・C兵が居た場合につける。
○マークは探索済みの場所・・・。

・・・今の所殆どの街で接触している・・・。

ファン
「大分沢山の街を回りましたね。それでも本拠地は見つかっていない状況ですけど
お二人とも、次は何処に向かいます?」
キュー
「うーん、もうちょっと強く!」
琶月
「はい!」
キュー
「・・・いったたたたた!!強い!強すぎ!減給〜減給〜!」
琶月
「あああああああその悪魔の台詞はああああ(ry」

キュー
「お父さんの真似。ま、いまのアタシ達に給料なんてないんだけどね」
ファン
「・・・聞いてますか?」

・・・また溜息をつくファンであった。





ファンの持っている地図




第一話



キュピル
『キュー。この剣をあげよう』
キュー
『・・・あれ?この剣ってお父さんの愛剣じゃなかったのかよー?別にいいぜ、アタシは
幽霊刀をお父さんから借りてるからな!』
キュピル
『・・・そうだね、その刀があれば大抵の事はきっと乗り越えられる。
・・・だけどお父さんとしてはその刀は持ち歩くだけであんまり抜刀してほしくないんだ。』
キュー
『んー?何でなんだぜ?』
キュピル
『その刀は抜刀している間は冥界から力を与えられて人とは思えない力を手にする事が出来る・・・。
・・・だけど・・』
キュー
『先に言わせてもらうぜ。別に抜刀した所で反動も呪いもダメージもないぜ』
キュピル
『そう。別に抜刀した所で全く問題ない。強いて言えば体の体質が変化して寿命が偉く延びるくらい。
・・・だけど強い力を手に入れるってことはね。それだけ戦いに巻き込まれやすくなるってこと』
キュー
『・・・戦いに巻き込まれやすくなる?』
キュピル
『そう。力を持つ者にはそれ相応の責任がもたらされる・・・。・・・お父さんはキューがなるべく
平和に暮らせる世界を作ろうとしたかった。・・・だけど、ごめんな。
・・・キュー。・・・おまえは・・・・』









キュー
「・・・・あ」

目が覚めた。
・・・ちょっと懐かしい夢を見た。

・・・ベットの横に置いてある武器を二つ見る。
・・・キュピルの愛剣・・・そして幽霊刀・・・・。

・・・最近、幽霊刀は埃をかぶってしまっている。
持ち歩く事も大分少なくなってきている。

キュー
「んー、もうファンは起きてるかな」

土壁に囲まれた部屋から出る。



==リビング

キュー
「おはようー」
ファン
「おはようございます。今日はいい天気ですよ」
キュー
「土の中に居るから全く分らないぜ。やっぱり外で寝泊まりする方が気持ちがいいなー」
ファン
「我慢してください。W・L・C隊に見つかってしまった場合はここに隠れないと完全に
気配を隠しきれませんから。」
キュー
「魔法は偉大ってね」

時計に目をやる。・・・朝の五時半。昨日何時に寝たのかは忘れた。

ファン
「どうします?昨日お買い上げになられたコーヒー豆を挽いて飲みます?」
キュー
「お、いいね。飲もう飲もう!」
ファン
「それじゃ、さっそく」

ファンがコーヒー豆を挽き始める。

・・・・。

キュー
「昨日、琶月からナルビクの状況を詳しく教えてもらったけど・・・」
ファン
「どうなっていました?」
キュー
「アタシ達の故郷、『ジェスターのクエストショップ』・・・事、お父さんの家は今もう別の建物が
立ってたんだって。やっぱり2年も税金滞納してたらそうなっちゃうよねー」
ファン
「・・・大切な道具はとっくのとうに持ち出しているので大丈夫です。
・・・ですが、思い出の地という意味ではやはり悲しいですね」
キュー
「二年前まではお父さんのクエストショップを継いで仕事してたのにな〜。」
ファン
「・・・この一件が全て終わりましたら、あの土地を買い戻してまた家を建て直しましょう」
キュー
「・・・そうだね。」

その時琶月が部屋から出てきた。

琶月
「おはようございますー」
キュー
「おはよう。怪我はどう?」
琶月
「痛いのにはもう慣れました・・・。」
キュー
「よーし、じゃ、新しい技のサンドバッグに・・・」
琶月
「勘弁してください!」
ファン
「コーヒー淹れましたよ」
キュー
「ありがとう!」
琶月
「コーヒーよりやっぱりお茶ですよ、お茶」
キュー
「紅茶じゃだめ?」
琶月
「ダメです」
キュー
「残念・・・」

ファンが朝ごはんも持ってきてくれた。
・・・今日は米に目玉焼きとベーコンと味噌汁。

キュー
「あれ?豪華だね」
ファン
「昨日の昼。ケルティカで沢山買い物しましたから。」
キュー
「へぇー。じゃ、また買い物いこっかー」
ファン
「・・・たまにでいいです。あの買い物のせいでW・L・C兵に見つかったんですから・・・」
琶月
「難しい事はなし!ご飯ご飯!」

魔法の光で照らされたリビングで朝ごはんを食べる。
・・・W・L・C兵に追われてからこのような生活が続いているが全員、何ともなさそうである。いつもと変わらない日常。

キュー
「ファン。資金の方はまだ大丈夫?」
ファン
「まだ沢山あります。キューさんのクエストショップは大変評判がよかっただけはあります」
キュー
「ふっふふふ」
琶月
「いいなー・・・。私もうすぐ166歳になるけどいまだに刀剣の腕は・・・うぅぅ・・。
いつになったら師匠を越えられるんでしょうか・・・。」
ファン
「・・・さて、お二人とも。今日の行動は如何いたしましょうか」
キュー
「そうだね・・・。・・・・ファンー、地図見せて」
ファン
「どうぞ」

○と×が沢山ついた地図をキューに見せる。

キュー
「・・・よーし、今日は龍泉卿周辺を捜索してみよっかー。
それでもしW・L・C兵がいなかったら温泉貸し切って入ろ!!」
琶月
「温泉!温泉!!」
ファン
「お湯に入る楽しさがいまだによくわかりません」
キュー
「あっまーい。人間は温泉に入ることで疲れを癒す事が出来るのだ!」
ファン
「お二人とも果たして人間と言える存在なのか(ry」
琶月
「わ、私はともかく・・・キューさんは魔物ってことでいいですよ。」
キュー
「むしろ平気で166歳になるって言える琶月の方が・・・」
ファン
「少なくともここにいる人達全員は100歳超えですけどね。」



キュー
「ささ、早くご飯食べて龍泉卿に行こ!」
ファン
「何で僕が年齢の事言うと皆叩くんですか・・・。このシールドが無ければ死んでますよ?」
キュー
「女性に年齢の話しはタブーなの!!」
ファン
「見た目は若いんですからいいじゃないですか!」
キュー
「背中にタンコブ二つ作ってラクダにするよ」
ファン
「ごめんなさい」





==龍泉卿


キュー
「よいしょっと」

キューが茂みの中から顔を出し双眼鏡を使って辺りを見回す。

キュー
「・・・・うん。W・L・C兵はいない感じ」
琶月
「あ〜よかった〜。もしこれで居たら私泣いちゃいます。」
キュー
「アタシとしては居てくれた方がありがたかったんだけど・・・」
琶月
「えー!!何でですか!!」
キュー
「もうW・L・C兵のアジトを探し始めて一年経つのよ?追われ始めてから二年。
そろそろ進展が欲しくなって・・・」
ファン
「そうですね・・・。正直キューさんと一緒にいれば絶対勝てるのはもう身に染みていますが
それでも追われ続けると言うのはあまりいい気もちがしません」
琶月
「まー、そうだけど・・・。・・・とりあえず温泉入らない?」
キュー
「もうちょっと探してから」
琶月
「はい・・・」


龍泉卿は今も昔も殆ど変化はなかった。
・・・綺麗な泉が流れ水車小屋の滑車が回っている。
水車小屋の中には木槌があり上下に動いて穀物を挽いている。

キュー
「あ、これって小麦粉かな?ファン、パンとかうどん食べたいー」
ファン
「残念ですが、あれは餅ですね。」
キュー
「そう・・・」
ファン
「今11時ですからもうちょっと時間が経過したら定食屋で食べたらどうですか?」
琶月
「何だか旅行しに来た気分。」
キュー
「・・・・・。」

キューが曲がり角を曲がる。それに伴い他の二人も角を曲がる。

キュー
「・・・・・。」

更にキューが曲がり角を曲がる。二人も頭の上に?マークを浮かべるが素直についていく。
結局、その後二回曲がり、さっき歩いた道に戻って来た。

琶月
「・・・あの・・。ここさっきも来ましたよ・・・。ボケちゃいました?」
キュー
「つけられてる」
琶月
「!」

後ろを振り変えようとした瞬間にキューに言われた。セーフ。

キュー
「・・・こっち」

小さな声で狭い路地裏の中に入る。

・・・・。

突然前方と後方から鉄矢が飛んできた!!

キュー
「そーい!」
琶月
「ぎゃー!」
ファン
「ヒエエエエエ!!」

瞬間的に風魔法を唱え二人を空中に吹き飛ばす。それと同時に鉄矢が風によって跳ね返り
放った兵へと戻って行った。

W・L・C兵
「ぐあっ!」
キュー
「せっかくこのまま誰もいなかったら温泉に入ろうと思ってたのに。
温泉入ってる最中に来なくてよかった。あ、それともサービスシーン欲しかった?」

後ろに倒れるW・L・C兵を踏み台にして屋根の上に上がる。

キュー
「さー、二人とも。ちょっと暴れるよー。頑張って戦ってね♪」
琶月
「え!え!」

キューがもう一度何か魔法を唱える。重力半減の魔法だ。
非常にゆっくりとしたスペースで空中を漂い、徐々に落下し始める。

W・L・C兵長
「いたぞ!!放て放て!!」
キュー
「・・・また貴方なの?懲りないね・・・。逆にアタシが使えまちゃおっかな!!」
W・L・C兵長
「来るぞ!」

キューが再び魔法を唱える。今度は重力倍増の魔法だ。物凄い速度でキューが落下し着地する。
地面に衝撃が走り周囲の兵がよろめく。

キュー
「せいっ!」

黒いエネルギー弾を一斉に召喚し辺りにばら撒く。そのまま何人に付着し、しばらくすると大きな爆発を起こした!
対抗するかのように敵も手榴弾を一斉に投げつけるがキューはその場から一歩も動かない。

キュー
「ふっふーん。」
W・L・C兵長
「あの余裕な面構え・・・気をつけろ。」
キュー
「よいしょ!」

キューが再び風魔法を唱え手榴弾を一斉に上空に吹き飛ばす。上空で大きな爆発が起き
残骸がパラパラと落ちてきた。てっきりこっちに手榴弾を投げ飛ばしてくると思っていただけに拍子抜けである。

キュー
「うーん、ちょっと汚い花火だね?」
W・L・C兵長
「・・・この、馬鹿にしやがって!!!」
キュー
「おっと」

兵長が直接剣を抜刀して攻撃を仕掛けてきた。

キュー
「ふふ、その剣さばき。琶月よりダメかもね」

そういうと思いっきり兵長の腹を蹴り飛ばし周囲の兵を巻き込ませながら吹き飛んだ。

キュー
「あー、お腹減った!定食屋、定食屋っと」
W・L・C兵長
「こいつ・・!」


==定食屋


朱欄
「へい、いらっしゃい。代々伝わるスペシャルチヂミを食べて行かないかい?」
キュー
「お、あのチヂミ。まだやってたんだ」
朱欄
「ご先祖さん、朱蘭のチヂミなきゃあっしは生きていなかっただろうからね」
キュー
「へぇー。よくわかんないけどチヂミ食べようかな。あ、うどんも食べたい」
朱欄
「あいよ」
キュー
「そのヘラ。ちょっと古くない?」
朱欄
「これが先祖代々伝わる巨大なヘラでね。こいつ自体に味が染み込んでるから美味しいぜ」

その時W・L・C兵が入って来た。

W・L・C兵長
「撃て!撃ち殺せ!」

一斉に鉄矢が飛んできた。しかしキューが全て魔法で受け止め、更に錬金術で合成させ
巨大なヘラにしてしまった。

キュー
「よーし、じゃぁアタシのこのヘラとそのヘラ。どっちが美味しいチヂミ作れるか勝負!」
朱欄
「アハハ、面白いね。」
W・L・C兵
「舐めてやがる・・!もう我慢の限界です!!」
W・L・C兵長
「早まるな!・・・あの小娘の実力は半端じゃない・・!・・・黙ってチャンスを伺っておけ。」

キューと朱欄が大きな鉄板の上でチヂミを作り始めた。
その様子をクロスボウガンを構えながら隙を伺うW・L・C兵。かなり異様な光景である。

キュー
「(・・・変ね)」
朱欄
「よし、いっちょあがり!」
キュー
「あ、美味しそう」
朱欄
「食べるかい?」
キュー
「いただきまーす」

キューが両手を使って熱いチヂミを食べ始めた。

W・L・C兵長
「いまだ、放て!!」

また再び一斉にクロスボウガンから鉄矢が放たれた。
ところが今度はキューから強烈なオーラが溢れ鉄矢が謎の力によって跳ね返ってしまった。

W・L・C兵長
「伏せろ!」

W・L・C兵長は伏せたが他の兵は伏せ遅れた者がおり、何人かが鉄矢をまともに喰らい後ろに倒れた。

キュー
「うーん、美味しい。今度作り方教えてよー」
朱欄
「そいつは困るなー。このチヂミで商売続けてるからお姉さんに美味しいチヂミ作られたら商売あがったりだ」
キュー
「えー。」
朱欄
「ほら、また食べたくなったらここに来なよ」
キュー
「そうしよう、そうしよう」


・・・結局、定食屋を出たのは30分後だった。
その間ずっとW・L・C兵に囲まれていたが何も手出しはしてこなかった。

キュー
「じゃあね」
朱欄
「毎度」

キューがテレポートを唱えその場から撤退する。
W・L・C兵がすかさず追跡を行う。




琶月
「わああああああ!!!」
W・L・C兵
「こいつ、死なない!!」

何本も鉄矢の攻撃を受けているが不死身の用に立ちあがり下手な攻撃で敵を斬り捨てる。

琶月
「ぜぇーぜぇー。」
ファン
「お、恐ろしや・・」

キュー
「・・・琶月、ファン」
ファン
「キューさん!」
キュー
「ちょっと新しい事が分ったかも・・。今は撤退しよ」
琶月
「や、やっと撤退!」

キューがテレポートを唱え撤退する。
・・・その場には何もなくなってしまった。

W・L・C兵長
「・・・くそ、上に頼んであの小娘用の対策を用意せねば・・。毎度毎度手も足も出せん・・!」








==キューのアジト

ファン
「・・・×」

ファンがアノマラド大陸地図にまた一つ、×をつけたす。今度は龍泉卿にだ。

ファン
「○はまだつけませんよ。しかkり探索していませんから」
キュー
「そうね。」
ファン
「ところで、新しい事って一体何ですか?」
キュー
「うん・・・。今日実は敵が居る中で定食屋に入ってご飯食べたんだ。」
ファン
「そ、その余裕っぷり。禍々しいです・・・。」
キュー
「何か・・・お店の人。W・L・C隊の事見えていなかった気がする・・・」
琶月
「え、え、え??」
キュー
「普通の人だったらあんな鉄矢を向けられてたら少なからず動揺はするし、なにより放たれても
何ともなかった・・・。矢は刺さってないから痛みについては流石に分らないけど」
ファン
「・・・っということは、あの部隊は僕達三人しか見えていないっということですか?」
キュー
「そんな感じに思える・・・。今まで夜にしか遭遇したことなかったし市民とも会った事なかったから
今回の件は少しびっくりしてる・・・。巻き込んだらどうしようって少しヒヤヒヤしたけど」
ファン
「・・・一つ、僕も思った事があるのですが・・・」
キュー
「何?」
ファン
「どうして行く先々にW・L・C兵が現れるのでしょうか。決まって同じ人間がいるのにお気づきですか?」
キュー
「・・・兵長の事かな?」
ファン
「そうです。・・・まるで僕達の行き先がわかっているかのようで・・・」
琶月
「スパイ!スパイ大作戦!」
キュー
「そう、琶月が敵のスパイだったのね」
琶月
「ああああああ!!違います!違います!!」
キュー
「本当に違うのか拷問で調べなきゃ!!何か知ってる事があれば話せー!」
琶月
「あんぎゃあああぁぁぁぁっっっっ!!!」

琶月に刺さってる鉄矢を一気にドンドン引き抜く。・・・見るだけで痛い。

キュー
「次はあの兵長を捕まえて拷問かけてみる?」
ファン
「さらっと恐ろしい事言わないでください。・・・ですが有益な情報を手に入れるとしたらそれが
一番っぽそうですね。」
キュー
「今までは遊んでばっかりだったけど次はちょっと真面目に戦うよ」
ファン
「あれは遊びだったのですか・・」
キュー
「刺・激・的な遊び!」
ファン
「はいはい・・」
琶月
「あの、物凄く痛いです早くヒール(ry」








深夜





==龍泉卿

キュー
「ででーん」

キューが堂々と街の真ん中で仁王立ちする。
マントと一緒に髪が靡く。

キュー
「まだかなー・・。来ないかなー・・・。来ないんだったら温泉に入っちゃおうかな〜・・・」

もう待ち続けて二時間経過している。
定食屋には入っちゃったし、雑貨屋で時計買ってしまったし・・・釣りもちょっとだけ楽しんだし・・・
残る娯楽と言えば温泉ぐらい。しかし流石に裸の時に見つかるとちょっと戦いも大変。倒せなくはないけど。

キュー
「・・・お?」

ゾロゾロと黒い鎧に身を包まれた兵士がわらわらと集まってくるのが見えた。
そのまま待ってると挨拶代りに鉄矢が沢山飛んできた。
昨日作った巨大なヘラを取り出しそれで全部受け止める。

キュー
「あーあ。ヘラに穴空いちゃった」
W・L・C兵長
「小娘!今日は大人しくその命を差し出すか連行させてもらうぞ」
キュー
「そ・の・ま・え・に!!一言、言わなきゃいけない事があるんじゃないの!?」
W・L・C兵長
「は?」
キュー
「二時間もアタシは待ってたんだよ!!デートだったら彼女にビンタ喰らっても仕方がないよ!
これはアタシのビンタ!」

そういうと持っていた巨大なヘラをW・L・C兵長に投げ捨てる。それをW・L・C兵長が受け止める。
・・・よくみるとヘラに何か黒い魔法弾がくっついてる。

W・L・C兵長
「・・・!!」

慌てて持っている巨大なヘラを前に投げ捨てる。

キュー
「あ、女のプレゼントを投げ捨てた。これはもてないね。」

ヘラにくっついていた魔法弾が爆発しヘラごと木端微塵にした。

キュー
「さーて、お仕置きしなきゃねー。いっつもアタシを捕まえようと躍起になってるみたいだけど
今日は逆にアタシが捕まえちゃうよー」

そういうとキューが隠し持っていた赤い剣を抜刀する。・・・キュピルの愛剣だ。

キュー
「一閃!」

剣が一瞬白く光りW・L・C兵を大量に斬り捨てる。

W・L・C兵長
「こいつは・・!?」
キュー
「ふっふーん。そういえばアタシの本気。見せた事なかったねー。何時まで持つかなー?」




ファン
「・・・キューさんがキュピルさんの剣を抜刀してキュピルさんの技を使うと娘ってこともあって
キュピルさんが戦っているような錯覚に陥ります」
琶月
「むしろ一閃を使うと師匠にも見えなくないなー・・・」

茂みに隠れて双眼鏡で遠くから観戦する二人であった。



キュー
「せいや」

キューが高く飛び上がり剣先から黒い魔法弾をいくつも飛ばしてきた。
不規則な動きをしながらW・L・C兵に向かって突撃していき防護服に張り付いた。
W・L・C兵が必死にはがそうとするが防護服から剥がれない。しばらくすると再び大きな爆発を引き起こした。
爆炎の中、キューが一瞬で現れ次々と瞬間的にW・L・C兵を斬りつけていく。

W・L・C兵長
「撃て!殺せ!!」

常人ならば一撃貰っただけで死に至る凶悪な鉄矢を何本も発射する。
しかし飛んでくる鉄矢を逆に足場にしてしまい空高く飛び上がるキュー。

キュー
「てえええい!!!」

思いっきり地面を叩きつけ地響きを起こす。衝撃でW・L・C兵が何人か転ぶ。

キュー
「終わりだよ!」

キューが強力な魔法を唱え巨大な魔法弾を召喚する。そしてW・L・C兵の中心に向かって投げつける。
着弾する瞬間にW・L・C兵長を魔法で引き寄せ匿う。
その直後、強力な爆発が起きW・L・C兵長を除いた兵全てが全滅した。

キュー
「さーって、一杯聞きたい事があるんだけど話してもらえるかな?」
W・L・C兵長
「貴様に話す舌など持っていない・・・!」
キュー
「おーおー、言うねー」
W・L・C兵長
「・・・・・・・・・・死ね!」
キュー
「・・・・・!」

今W・L・C兵長が何かスイッチのようなものを押した。
その直後、W・L・C兵長が爆発し跡形もなく消えてしまった。

キュー
「・・・・・・・・・・」

爆発に巻き込まれたキューだったが何故か無傷であった。

キュー
「やっぱりバリアって強いね。ありがとう〜ファン〜」
ファン
「作戦勝ち・・・っと言いたいところですが兵長が死んでしまいました。・・・結局情報は引き出せませんでしたね」
キュー
「・・・なんとなく予測はしていたけどね。捕まえたら自殺するんじゃないかなって」
ファン
「・・・予測できていたのであれば対策はしなかったのですか?」
キュー
「きっと身ぐるみ剥いだとしても舌を噛み切って死んでたよ。」
ファン
「そうですか・・・。・・・しかし次はどうする気ですか?」
キュー
「・・・うーん・・・。・・・あ、そうだ!琶月〜」
琶月
「は、はいぃ!?」
キュー
「確かナルビクにW・L・C隊が居たって言ってたよね〜」
琶月
「はい、居ましたよ。二日前のお話ですけど。」
キュー
「ナルビクに行ってW・L・C兵を片っ端から捕まえて情報を探ろ!
・・・ついでに私達のクエストショップがどうなっちゃってるのか見てみたいしね」
ファン
「・・・わかりました。でも今日はもう夜遅いので帰って寝ましょう」
キュー
「そうだねー。帰ろう〜」

剣を一回振って血を吹き飛ばし、綺麗に拭いてから納刀する。
・・・そしてアジトへ戻るキュー達であった。




続く



第二話




キュー
『なー、お父さん』
キュピル
『どうした?』
キュー
『・・・一つだけ、絶対に約束して欲しい事があるんだけどいいかー?』
キュピル
『何だ何だ、内容にもよるけど言ってみてくれ』
キュー
『今も未来も絶対に消えていなくならないでくれよ・・?・・・そしたらアタシ孤児になっちまう・・・』
キュピル
『ハハハ、一体何を言いだすかと思えばそんなことか。当たり前じゃないか。
子が成長しきるまで守ってあげるのが親の役目。そんな事を心配するよりもっと他の事を心配しなよ』
キュー
『おーおー、言ってくれるぜ』









==キューのアジト

キュー
「・・・あっ」

目が覚めた。

・・・。

キュー
「・・・何でだろう・・・。最近になってお父さんとの会話のやりとりの夢を見る・・・。
・・・懐かしいなぁ。・・・結局お父さんとの約束は嘘だったけど」

目が覚めたら未来に送り返されていた。・・・ファンが出迎えてくれて何があったのか全て教えてくれた。
・・・もう事は全て終わっていた。そしてキュピルも居なくなっていた・・・。

キュー
「・・・うぅ〜ん!とりあえず今日は故郷に行く訳だからしっかりしておかないとっ」

ささっと着替える。

キュー
「今日はちょっとお洒落しようかな」

三人で作ったちょっとボロボロのクローゼットから大きな装備を取り出す。
・・・ダークウィング。禍々しい形をした黒い翼。見た目は堅そうだが実際に触ってみると実はふさふさしている。
何処で手に入れたのかは秘密。
背中に装備してリビングに出る。


==リビング

キュー
「おはよう」
ファン
「おはようございます。・・・おや、今日はダークウィング装備ですか?」
キュー
「今日はそんな気分。今何時?」
ファン
「今午前七時ですよ。」
キュー
「そっか。それならそろそろ行かないとね」
ファン
「早いですね。別にゆっくりしてから行ってもかまわないと思いますが。現に琶月さん寝てますし」
キュー
「んー、何故か知らないけど早く行きたい感じ。実家から二年も離れると恋しくなっちゃって。
あ〜これがホームシックって言うの〜?」
ファン
「・・・琶月さんの話ではクエストショップ、取り壊されてしまったようですが」
キュー
「新しい建物も建ってるらしいけど。でも、景色はそんなに変わってないはず。さささ、早く行こう」
ファン
「仕方ないですね、琶月さんに伝言を残してから行きましょう」

そういうとファンは琶月へメッセージを残し支度して外に出た。






==ナルビク


150年後のナルビク。キュピル達が居たあの頃と比べると少なからず建物は大分変化している。
しかしアクシピターやシャドウ&アッシュなどといった建物はしっかりと残っている。
・・・意外な事にマグノリアワインが消えてなくなり、ブルーホエールが大きな建物となっている。安さが勝った?
人の多さは相変わらずである。

キュー
「うんうん、この賑やかさ。これがやっぱりナルビク!」
ファン
「二年ぶりにナルビクに来ましたがそんなに変わっていませんね。」
キュー
「ちょっと、懐かしさにジーンと来ちゃう。ほろり」

口でそう言っているが本当に少しだけ泣いている。・・・かと、思えばその後大きなアクビをした。

キュー
「この暖かさで眠くなっちゃう。早く行こ」
ファン
「はい」


・・・あるいて5分。元クエストショップ・・キュピルの家が建っていた場所にやってきた。

キュー
「・・・すっかり他の民家が建っちゃったね」
ファン
「・・・2年前まではキュピルさんの家もしっかり残しておいたのですが一緒に取り壊されてしまっていますね」
キュー
「時代とは非情なり。ゆるせーぬ!」
ファン
「落ちついてください・・・」
キュー
「アタシは何時でも落ちついているよ。」
ファン
「時々本当にとんでもないオーラ発しますから正直不安になります」
キュー
「まーまー。・・・家はなくなっちゃったけど海の景色は変わらないね」
ファン
「そうですね。・・・そこの砂浜でよく皆して黄昏ていましたね」
キュー
「主にお父さんが中心だったけど・・・。・・・そういえばアタシはあんまりそこの砂浜で黄昏なかったなー。
いつもジェスターと遊んでた」
ファン
「僕は部屋でずっと新しい機械を作ってました」
キュー
「引きこもり?」
ファン
「違います!」
キュー
「・・・このまま感傷に深けちゃいそうだけどW・L・C隊には気をつけないとね。今は居ないみたいだけど」
ファン
「そうですね」

二人ともまた家があった場所を見る。・・・民家の割には大分大きい家だ。
じろじろ見ていると民家の住人らしき男が外に出てきた。

住民
「何か用?」
キュー
「あ、これは失礼しました。アタシは二年前、ここでクエストショップを営んでいたキューって言います」
ファン
「その助手のファンと申します。」
住民
「ああ、取り壊される前にここで店を営んでた人達か。助かった・・・」
キュー
「助かった?」
住民
「住所が同じもんだからアンタ達宛ての手紙が何通も来てるんだ。処分しようにも
何故か捨てた翌日にまたやってきて・・・。捨てなければ来ないんだが。」
キュー
「それはまた不気味な手紙・・・。はりーぽtt(ry」
ファン
「・・・言わないでください」
キュー
「そいじゃ、その手紙はアタシが預かりますよ」
住民
「助かる・・・これで呪いの手紙からおさらばだ・・・」

そういうと住民は一旦自宅に戻り、そして手紙の入った封筒をキューに差し出した。

住民
「そんじゃ、」
ファン
「ありがとうございました」

住民は家に戻って行った。

キュー
「一体何が書いてあるんだろう。」

封を開け中身を確認する。



『キューへ

お久しぶりです。元気でいますか?
一杯お話したいけれど時間がないので本題に入ります。
またこの世界に作者が戻ってこようとしています。
だけど今作者はとても弱っています。
力が弱った作者は今、回復状態に入っています。
このまま時が経てばきっとまた作者がアノマラド大陸に降臨し再びこの世界は混沌と化してしまう。
・・・だけど回復が終わるのはまだまだ先。
回復しきる前に作者を無理やりこっちに引きずり出せばすぐに倒せるはず。
・・・もちろん、それを阻止しようといろんな手段を用いてきっと阻止してくるはず。
・・・でも負けないで。今自由に動けるのはキューとファンと琶月だけだから。
作者を引きずり出す方法。その鍵となるアイテムを同封しておきます。

                                   お元気で』


封筒の中には宝石が一つ入っていた。

キュー
「これは・・・ガーネットだね」
ファン
「・・・差出人の名前が書いてありませんね。一体誰なんでしょうか」
キュー
「・・・この手紙からマナを感じる。きっと魔法を上手く扱える人」
ファン
「・・・まさか、ルイさん・・・!!?」
キュー
「・・・うーん、でもルイって感じはしないよ・・・。ルイのマナはもうちょっと濁ってた・・・。
このマナは凄く透き通ってて気持ちが良い感覚がする・・。こんなに魔法の上手な人・・・
私の知ってる人でいたっけかな・・・。」
ファン
「ギーンさんという可能性は?」
キュー
「ギーンとなら今でもたまに会って連絡取るじゃん・・・。態々手紙出す意味がわからないよ」
ファン
「確かにそうですね・・・・。差出人も気になりますが鍵となるこの宝石も気になりますね。
・・・このガーネットが何故鍵なんでしょうか」
キュー
「ガーネットは一月の誕生石。・・・宝石の言葉は『真実・友愛』。
・・・真実・・・?友愛・・?・・・そういえばお父さんはよく、真実がどうこう言ってたけど・・・。」
ファン
「キューさん、その頭の回転の速さと知識。改めて感心します。・・・きっと僕より頭がいいですよ」
キュー
「おーおー、ファンにこんな事言われちゃったぜ。」

その時誰かが走って来た。

琶月
「ああああー!私を置いていくなんて酷いーー!!」
キュー
「お、寝坊登場」
琶月
「はぁ・・はぁ・・。・・・W・L・C隊はいました?」
キュー
「まだ会ってないよ。もしかしたら今日はいないかもしれないね」
琶月
「あ、そうなんだ」

キューが辺りを見回す。

キュー
「・・・うーん、龍泉卿の時と違って今日は本当にいなさそう。
ファンー、この後どうしようかー?」
ファン
「僕は一旦戻ってこの宝石を詳しく分析してみようと思います。」
琶月
「あ!その宝石、何!?買ったの!?拾ったの!?貰ったの!?頂戴!」
キュー
「髪の毛引っ張るよ」
琶月
「ごめんなさい」

ファン
「キューさんはこれからどうするのですか?」
キュー
「うん、とりあえずナルビクをぶらぶらしようと思う。ついでに、お・買・い・も・の」
ファン
「・・・わかりました。」
キュー
「後、琶月はナルビクを探索しきったって言ってたけどやっぱり不安だからW・L・Cの拠点がないか探しておくよ」
ファン
「お願いします」
琶月
「え、何この信用度のなさ」

ファン
「それでは僕は一旦戻ります。」

そういうとファンはテレポートを唱え行ってしまった。

キュー
「さーって、今日も一杯買い物しよう。」
琶月
「ばんざーい!何買おうかな〜」
キュー
「あ、勘違いしちゃだめだぞー」
琶月
「え?」






==一時間後


琶月
「うぅぅ・・・荷物運び担当だなんて・・・」
キュー
「とりあえず、魔法商店にも行ったし、雑貨店にも行ったし、こんなものかなー。
琶月
「キューさん・・・。買いだめするならやっぱりファンさんも連れて・・・」
キュー
「・・・あ!そうだ!」
琶月
「無視ですか、そうですか」

キュー
「帰りにブルーホエールで食べていかない?」
琶月
「食べます!行きます!」
キュー
「じゃ、さっそく行きましょ!」




==酔っぱらいブルーホエール


中に入ると巨大なホールが待ち受けていた。

キュー
「おーおー、随分と大きくなったものね」

係の者が現れ、適当な席に座らせられる。・・・大きくなる前まではこんな係りの者すらいなかったのに。

キュー
「とりあえずお酒でも」
店主
「お譲ちゃん方。未成年はお酒飲んじゃだめだ」
キュー
「あら?こうみえてもアタシ達。150歳は超えてるよ」
店主
「ガーッハッハ。面白い話だ。まぁ、安心しろ。お前さんは歳食ってるように見えるから酒は出してやる」
キュー
「潰すぞ、おら」

琶月
「わ、私はソフトドリンクでいいです」

満面の笑顔で脅迫するキュー。

キュー
「とにかくビール頂戴!」
店主
「あいよ」

大ジョッキにビールをガンガン注ぎ込み、ドンとカウンターの上に置く。

店主
「そっちの赤髪は?」
琶月
「えーっと、じゃぁコーラ
キュー
「それって異世界の飲み物じゃなかったっけ・・・・。

・・・あ、枝豆とかもお願い」
店主
「完全にジジイ・・いや、ババアだな」
キュー
「捻りつぶすぞ、おら」

琶月
「わああああ!キューさんを怒らせちゃだめ!」
キュー
「あら、アタシは怒ってないよ。ほら、スマイルスマイル」
琶月
「だからそのスマイルが怖いんです」

キュー
「さ、とにかく飲みましょう。」
琶月
「私は食べる方がいいです」
キュー
「太るよ」
琶月
「太りません!!」







==キューのアジト


ファン
「・・・不思議なガーネットですね・・・」

色々試して詳しく分析した結果、このガーネット自体から微量のマナが無尽蔵に溢れてきている事が分った。
・・・ただ、そのマナはかなり特殊で僅かのマナでも莫大な魔力を生みだす事の出来るマナ。
この強力なマナを使いこなすのは困難だろう。

ファン
「・・・おや」

顕微鏡にかけて詳しく見てみると中に何か文字のような物が見えた。
・・・これは一体?
ゆっくり、丁寧にガーネットの向きを変え、レンズも動かして縮小させる。
・・・徐々に文字がはっきりと見えてきた。

ファン
「・・・何か書いてありますね。」

・・・文字かと思えば図だった。・・・何の図だろうか。

ファン
「・・・・・わかりませんね・・・・。・・・頭のいいキューさんなら何か閃いてくれるかもしれませんけど・・・」

いつ帰ってくるだろうか。








==3時間後


キュー
「うぅーん・・・・・。」
琶月
「・・・飲み過ぎじゃないですか?」
キュー
「ちょっとお腹痛くなってきた・・・。トイレトイレ!」
琶月
「女性なんですからもっと恥ずかしがって言ってください・・・。そんなんだからババアって・・・」



ゴン



琶月
「・・・・・・・・」
キュー
「トイレ!」







==数分後


キュー
「すっきり。・・・ん?」

一枚のポスターが目に入った。
近々ここブルーホエールでコンサートが開かれるらしい。・・・が、割とどうでもいい。

キュー
「何でこのポスターが目に入っちゃったんだろ。・・・・」

まじまじとポスターを見る。・・・・・・・・。

キュー
「・・・なるほどね。また今度来よう」





キュー
「琶月、今日はもう帰ろう」
琶月
「あれ、酔いが治まってる」
キュー
「ごちそう様。琶月、荷物忘れずにね」
琶月
「はい・・・」
キュー
「そいじゃ」
店主
「おう、また飲みに来い」

カウンターの上にお金を置き店から出ていく二人。





==ナルビク

キュー
「琶月。また夜ここに行くよ」
琶月
「え!?また飲みに行くんですか!?」
キュー
「そういうことにしておこうかな」
琶月
「最近キューさんの考える事がよくわからない・・・。で、何時行くんですか?」
キュー
「気が向いた時に。」
琶月
「ますます何考えているのか分らない・・・」


テレポートを唱えアジトに戻るキュー達。




==キューのアジト

キュー
「たっだいま」
ファン
「おかえりなさい。・・・・酒臭いですね。飲んできましたか?」
キュー
「ちょっとね。あ、それと一杯買いだめしておいたよ」

琶月がドサッと机の上に荷物を置く。

キュー
「当分雑貨用具には困らないはず」
ファン
「助かります」
琶月
「なんだ・・・好き勝手に買い物していると思ったら違ったんだ・・・。」
キュー
「んんー?アタシはいつでも計画的だよ。」
ファン
「キューさん。あのガーネットについて少し分った事があります」
キュー
「お、何が分った?」
ファン
「ガーネットから微量ながらもマナが無尽蔵に溢れてきています。」
キュー
「・・・それは凄いね。」
ファン
「このマナは微量でも大きな魔力を生みだす事が出来るため使いこなせば強力な物になります。
・・・・ですが、こんな形のマナ。見た事が無いため扱えるかどうか微妙です」

キューがガーネットを手に取る。

キュー
「本当・・。こんなマナ、見た事ない・・・。強い魔力を帯びているのはわかるんだけど・・・。
これはアタシでも使えない・・・」
ファン
「他にももう一つ、分った事があります。そのガーネットの中に図のような物が見えます」
キュー
「図?」
ファン
「これです」

ファンが撮影した写真を取り出す。
・・・よくわからない形をした図が確かにガーネットの中に掘りこまれていた。
しかしこれが一体何を表しているのか、そもそも図なのかどうかすら大分怪しかった。

キュー
「・・・・なんだろう・・・ちょっと丸い形してるね。図なのは確かみたいだけど」
琶月
「・・・暗号?」
キュー
「さあ・・・。」
ファン
「引き続きこのガーネットについて調べておきます」
キュー
「ありがとう。・・・そうそう、ファン。今日はちょっと夜にもう一度ナルビクに行くよ。」
ファン
「W・L・C隊を捕まえに行くのですか?」
キュー
「うん。W・L・C隊が居そうな場所も見つけちゃったしね」
ファン
「?。それで、何時行くのですか?」
キュー
「そうね・・・。午前2時かな?」
ファン
「随分と夜遅くですね。」
琶月
「あの、キューさん・・。もう一度ブルーホエールに行くって言ってましたけどそれは何時・・?」
キュー
「今言ったよ。2時に行くって。」
琶月
「・・・・・え!!?」







==深夜2時



深夜2時。それはブルーホエールが閉店する時間。
閉店間際にお店に入る三人。

係員
「申し訳ございません。本日は閉店で・・・」
キュー
「ちょっと眠っててね」

キューが睡眠魔法を広範囲に打ち出し、店の中にいた人全員を眠らせる。

琶月
「zzz・・・zzzz・・」
キュー
「起きろー」

眠ってる琶月を蹴り飛ばす。

琶月
「あんぎゃあああ(ry」
キュー
「こっちこっち」
ファン
「一体何を・・・」

キューがトイレから出てきた時に見つけたポスターの前で立ち止まる。

キュー
「問題!ででん!このポスターに仕掛けがあります!その仕掛けとは何でしょう?
なお、正解者には素敵な賞品が贈られます!」
琶月
「某ゲームみたいにポスターの裏を調べてみたらスイッチがあった」
キュー
「正解」

キューがポスターをめくり上げると裏に赤いスイッチがあった。

琶月
「わー!本当に当たっちゃったー!!!賞品って何?何?」
キュー
「賞品はね」

キューが赤いスイッチを押す。すぐ隣の壁が倒れ地下に続く階段が現れた。

キュー
「名誉ある斬り込み部隊!!」
琶月
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

キューが琶月を階段へと突き飛ばす。ごろごろ転がって下に落ちてく。

・・・・・・。

キュー
「どうやら何もないみたいね?」
ファン
「キューさん。もはや人としてどうk(ry」
キュー
「琶月は不死身だから有効利用しないと!」
ファン
「ああ、キュピルさん。貴方の娘は悪魔に成り下が(ry」

キュー
「ふっふーん。今日のアタシはダークウィングをつけてるから悪魔だよ。」

階段をゆっくり降りるキュー。



==???


キュー
「暗いね・・・。おーい、琶月ー。大丈夫ー?」
琶月
「ダ・・・ダメ・・・シンジャウ・・・」
キュー
「死んでみる?」
琶月
「鬱だ、死にたい」

キュー
「うーん、可哀相だから帰ったらアタシの持ってる宝石一個あげる」
琶月
「ほんとですか!!?やった!!」
キュー
「これが宝石と鞭」
ファン
「・・・・・」

その時鉄矢が飛んできた。

キュー
「お、やっとお出まし。レディーを待たせちゃダメだぜ」

キューが飛んできた鉄矢を素手で受け止める。
右手から白い魔法弾を飛ばし、途中で破裂させる。小さな光が沢山飛びまわり照明となる。
石壁の通路の先にW・L・C隊が待ち受けていた。

キュー
「やっとW・L・C隊の拠点を見つけた・・・。琶月の探索がダメダメってのが証明されたね」
琶月
「こ、こんな所にあるなんて普通分りませんよー・・・」
キュー
「でも今日は許してあげる。行くぞ〜!」

キューがキュピルの愛剣を抜刀し高々と剣を上げる。

キュー
「たあああぁぁっっ!!」

凄まじい勢いで突撃し次々とW・L・C隊を薙ぎ払って行く。

琶月
「キューさんって普段は大人っぽいお姉さんに見えますけど、
興奮しますと昔のキューさんと全く同じ性格になりますよね・・・」
ファン
「同意します・・。ですが、本人の強さは折り紙つきですから何故か安心しちゃいます」
琶月
「でもここはW・L・C隊の拠点でしょ・・?キューさん・・突撃してるけど大丈夫かな・・・」

気が付いたらもうキューは見えない所まで進んでいた。・・・キューが通った後の狭い通路は
W・L・C隊が全員気絶していたり、ボロボロにやられていたりしていた。

ファン
「キューさんが罠に引っかからないように気をつけて回りを見渡しておきましょう。戦闘は絶対大丈夫ですから」
琶月
「そうだね・・・」




==W・L・C隊拠点・中部


キュー
「あれれ?もう敵さん居なくなっちゃった?うーん、ちょーっと本気出し過ぎちゃったかなー。」
琶月
「キューさんみたいな化け物染みた人が目の前に現れたらそりゃW・L・C隊も逃げ出すでしょう・・・。
何度もぶつかってますから賢い人なら逃げますよ・・」
ファン
「変わりに罠があるかもしれませんから気をつけましょう。」
キュー
「はいはい。」

キューが一歩前に進む。

カチッ


キュー
「お?」

突然足元から無数の針が飛び出しキューを突き刺した!!

琶月
「わあああああああ!!!!」

・・・っと思いきや、キュー事上に持ち上げられていた。

琶月
「あれ?何で突き刺さってないの?」
キュー
「それどういう意味」


針が収納される。・・・が、キューがまた一歩前に進むと再び針は突き出てきた。
しかしまたしても針と一緒にキューが上に持ち上げられた。

ファン
「キューさん・・・貴方の足は鋼鉄ですか?」
キュー
「ふっふーん。私を罠にはめようだなんて100年はやーい。」

キューが針を全部叩き壊してしまった。
唖然とする琶月とファンを余所にして先に進むキュー。

キュー
「ドンドン進むぞー!」

カチッ

琶月
「あ!」

キューがまた何かスイッチのような物を踏んだ。
今度は天井が凄まじい勢いで落下しキューを潰した。

ファン
「キュ、キューさん!!!」

完全に天井が床まで落下してしまっている・・・。・・・潰された・・・?
ゴゴゴゴと鈍い音を立てながら天井が上に戻って行く。二人とも固唾を飲んで見守る。

キュー
「いったたた・・・。ちょっと今のは痛かったよ」

・・・天井に穴が空いている。

琶月
「何で生きてるんですか」

キュー
「さっきと言いどういう意味だ、おら」


またしても唖然とする二人を余所に先に進むキュー。

ファン
「・・・これがさっきのスイッチみたいです。」

踏まないように気をつけて進む。
気をつけて進んでる一方でキューはドンドン進んで行く。

ファン
「キューさん!あまり下手に進んではまた罠にひっかかりますよ!!」

キューが振り返る。

キュー
「ゆっくり進んでたら朝日が昇っちゃうよ。急いだ急いだ!!」

そういうとキューが走り始める。

カチッ

キュー
「お」

真横の壁から凄まじい数のガトリングガンが現れキューに狙いを定めて連射し始めた!

琶月
「ヒィッ!!」
ファン
「ヒィィィィー」

二人とも驚いて伏せる。

キュー
「もう怒った」

キューがガトリングガンに向けて空手チョップし銃身を全て叩き折る。

キュー
「せいやぁー!!」

全身にガトリングガンの銃弾を受けながらも全ての銃身を叩き折りながら先に進んで行く。

琶月
「もう心配するだけ損してる気がしてきました」



二人とも呆れながらキューの後に続いていく。
・・・その後も次々と現れる罠を全て強引に破壊するキューであった・・・・。






==W・L・C隊拠点・最深部


キュー
「はぁ・・はぁ・・。やっと最深部まで辿りついた?」
ファン
「やっぱり疲れるようですね」
キュー
「アタシの手にかかればあんな罠ノーダメージで切り抜けれるけど疲れるは疲れる・・・」
琶月
「どうしてノーダメージで切り抜けれるのか教えてください」

キュー
「秘密」

目の前には広いホールが広がっている。
・・・・何故か後ろに逃げたはずのW・L・C隊はそこにはいなかった。

キュー
「・・・おかしいね。一本道だったはずなのにW・L・C隊はいなかった・・。
隠し扉に隠し通路といった物も見当たらなかったし・・・。・・・本当にW・L・C隊の事がよくわからない・・。」
ファン
「テレポートで逃げたのでしょうか?」
キュー
「かもしれないけど・・・。」
琶月
「それにしても広い場所ですね。行き止まりですけど」

琶月が前に出る。

キュー
「・・・気をつけて。ファンはもう気付いていると思うけどここのマナ。凄く懐かしい」
琶月
「・・・懐かしい?どういう事ですか?」
ファン
「・・・マナは変化するのをご存知ですか?」
琶月
「知らない・・」
ファン
「自然と同じようにマナも巡り巡って違う物に変化して行きます。マナが変化することによって
僕達が扱える魔法にも多少の違いが出てきますが・・。今一番言いたいのはですね」
キュー
「・・・このホールに漂ってるマナは一世代前のマナ・・。つまり、お父さんたちの時代の頃のマナが
一杯漂ってるってこと・・・」
琶月
「それって珍しい事なんですか?」
キュー
「珍しいも何も・・・特殊な容器にでも詰めない限りマナは自然と変わっちゃう物。
ましてや、こんな広いホールで一世代前のマナが沢山溢れてるなんて・・・。
まるでここだけ時が止まってたような・・。」

キューが前に進む。5mおきに現れる三段ある階段を上って行く。
・・・ずっと進んで行くと目の前にガーゴイルの石像が現れた。
何か咥えている。

琶月
「・・・あ・・!!それって・・・!!」
キュー
「・・・アメジスト」

ガーゴイルの口に手を突っ込み、アメジストを引っ張りだす。

ファン
「・・・アメジスト。もしや?」
キュー
「・・・そう。二月の誕生石。宝石言葉は高貴、知性。」

キューが宝石を額に当てる。

キュー
「・・・これにもガーネットと同じように強いマナが流れてる。
こんな強力なマナ・・。普通は存在しない。・・・ねぇ、ファン。今ガーネットって持ってる?」
ファン
「貴重品は全部アジトに保管してあります」
キュー
「そう、なら一旦戻らないと」
ファン
「何か思い当たる事があるのですか?」
キュー
「マナの比較をしてみたかった。・・・あ、それと・・」

キューがマジマジとアメジストを見つめる。

キュー
「・・・ちょっと肉眼じゃ分らないけど何か図のようなものが書いてあるかもしれない」
ファン
「・・・!急いで持ち帰って確認してみましょう。」
琶月
「うーん、何が起きてるのかさっぱり。」




==W・L・C隊拠点・中部


キュー
「・・・!」
ファン
「どうかしましたか?」
キュー
「・・・迂闊。挟み打ちされたみたい」
琶月
「え!!W・L・C隊!?」
キュー
「・・・分らない・・・W・L・C隊じゃないかも・・・。何か凄く強い魔力を感じる・・。」

その時目の前から変わった装備をした部隊がゾロゾロと現れた。

琶月
「なーんだ、装備が変わったW・L・C隊でしたね。キューさんの敵じゃないです!」
キュー
「うん、W・L・C隊なら敵じゃない。・・・問題は後ろ」
琶月
「え?」

後ろから誰か一人来ている。・・・フードを被った人・・・。鉄のお面をつけており顔が分らない。
・・・結構強敵っぽそうな雰囲気はかもしだしている。

キュー
「ファン、琶月。前のW・L・C隊はお願い出来ないかな?」
ファン
「分りました。琶月さん、盾お願いします」
琶月
「その表現やめて!」

琶月とファンが前に出る。・・・まだお互い攻撃はしていない。

キュー
「・・・それで、挟み打ちして何の用かな?」
フードを被った者
「・・・・その誕生石。大人しく渡して」

・・・かなり脳に響いてくる言葉。
魔法を使って声色を変えている。

キュー
「まだまだアタシはW・L・Cの者にやられたりはしないぜー」

そういうと前に大きく突進しフードを被った者にタックルする。
しかし瞬間的に回避され、キューの背後に回ると後ろにバックステップしながら両手を前に突き出し
魔法を唱えて赤い弾を乱射する。火の玉のようだ。
キューも剣を抜刀して火の玉を一刀両断し、応戦する。
狭いこの通路で魔法弾を回避するのはかなり困難。一発一発斬り捨ててフードを被った者に近づいていく。

キュー
「そいやっ!」

キューが剣を投げる。
フードを被った者はそれを撃ち落とすが、魔法弾が剣に当たった瞬間。有り得ない勢いで回転して魔法弾を弾く。
そのまま、あろうことか刃を前に向けて敵に向かって突進し始めた!良く見ると魔法で操作されている。

キュー
「トドメ!!」

剣と一緒にキューも飛んでくる。
しかし瞬間的にバリアを唱える姿が見えた。

キュー
「ファン!」
ファン
「はい!」

ファンが即座に振りかえって援護攻撃する。

ファン
「ヘルバースト!」

メガバーストの上位魔法。業火の如く燃える炎の玉を生みだし巨大な魔法弾を飛ばす。

フードを被った者
「・・!」

真後ろから高速で炎の玉が飛んでくる。後方にもバリアを張って対応する。
ギリギリ間に会ってしまいバリアによって防がれてしまった。
ところがキューの居た方向からバリアの割れる音が聞こえた。

キュー
「バリアは複数出すと効力が弱まる。よく知ってるよね?」

凄まじい勢いでキューが前に突進しタックルしてきた。
それをまともに喰らい地面の上に倒れる。
トドメと言わんばかりに剣で胴体を貫こうとするが再びバリアによって防がれた。

キュー
「バリアって一度壊されると中々次のは出せない。・・・結構バリアが得意みたいだけど
今までにも、こういう展開が何回もあったのかな?」
フードを被った者
「・・・・・」
琶月
「キューさん!遊んでないで早く倒してください!ぎゃー!」

気がつけば琶月が火だるまになっていた。・・・敵は火炎放射機を使っているらしい。
後ろでファンがずっと水魔法を唱えて消火している。

キュー
「うーん、今回は撤退で。・・・じゃあね」

そういうとキューが緊急テレポートを唱え即座にアジトへと戻って行った。



W・L・C隊
「大丈夫ですか?」
フードを被った者
「・・・次でまた会える」
W・L・C隊
「はっ」






==キューのアジト

琶月
「あちっ!あちっ!あっちっち!!」
キュー
「あぁぁー!!ファン!早く火を消してあげて!アジトが燃えちゃう!!」

ファンが再び水魔法を唱えて一瞬で消火させる。

琶月
「あの、本当にもうこういう損な役回りは嫌です」

キュー
「まぁまぁ。・・・しばらく休養しましょ。この宝石について暫く調べてみたいし
さっき緊急テレポート使っちゃったからマナを溜めなおさなきゃ」
ファン
「分りました」
琶月
「・・・ところで・・キューさん。」
キュー
「ん?」
琶月
「ブルーホエールで私に宝石一個くれるって・・・」
キュー
「あー・・言ってたね。じゃー、これ。」

キューが宝石箱から一つ、宝石を渡す。・・・ダイヤモンド。

琶月
「やったーーー!!!!」
ファン
「太っ腹ですね」

その後、キューが小さな声で呟いた。

キュー
「ダイヤモンドに見せかけたガラス」
ファン
「・・・・・・・」

キュー
「さ、この宝石について調べよ!」
ファン
「はい」


・・・W・L・C隊・・・一世代前のマナ・・・そして差出人不明の手紙に、鍵となるガーネット・・・。

目的すら見えてこない今。

どうやって行動していくか。


続く



第三話



輝月
『・・・フ・・フフ・・ハ・ハハハ・・』
琶月
『・・・!!し、師匠・・!!?い、一体何を・・・!!』
輝月
『おぉ・・?琶月か。』
琶月
『し、師匠!その持ってる注射・・・!!』
輝月
『以前、キュピル等と共にトラバチェスへ行っただろう?
その時に、このような物を進められてな・・。ク、クフ。クフフフ・・』
琶月
『っっ!!!』
輝月
『気持ちが良いぞ?お主も打ってみるか?』
琶月
『あっ・・ああっ・・!!や、やめてください!!!!』

輝月が琶月の腕を掴む。・・・輝月のもう一つの手には注射器を持っている。
・・・身の危険を感じた琶月は空いてる手で自分の刀に手をかけ・・・。










琶月
「わああああああああぁぁぁっっっ!!!!!!!」

とんでもない夢を見た。

琶月
「はぁ・・はぁ・・・。・・・・何でこんな夢を・・・」

・・・いまだに信じられない。100年経った今でもだ。
きっとこの先何百年経っても信じられないでいるだろう。

琶月
「・・・もうキューさんは起きているかな。」



==キューのアジト



琶月
「おはようございm・・・って、何ですかこれ!!」

もはや洞窟と言えるリビングでキューが巨大な紙を持ってあちこち走り回ってる。
物凄く散らかっている。

キュー
「おー、おはよう。いやー、もう決めた!!」
琶月
「決めたって・・一体何を?」
キュー
「昨日ナルビクに行ったけどさ、自分の家が取り壊されてるのを見てその後どうするかちょっと考えたんだけど
せっかくだからここを家にしちゃおうって!!税金も払わずに済むから一石二鳥。うんうん。」
琶月
「えー!!窓がない上に大雨が降るとたまに雨漏りする家だなんて・・・。
まだまだ一杯ありますよ!水道も電気もガスも(ry」
キュー
「おーおー。最初の二つはともかく水道なら水魔法があるし電気なら雷魔法。ガスなら火炎魔法があるぜー」
ファン
「魔法は生活を豊かにしてくれますね」
琶月
「お、お二人は本当にそれでいいんですかーー!!?」
キュー
「モグラになった気分で住めば全然問題ないぜ。」
琶月
「あぁー・・。平和な一日が訪れるたびに窓から朝日に向かって、こう祈りたかった・・・。」
キュー
「何だ何だ、琶月は随分ロマンティストな事をするんだなー。壁に太陽の絵でも描いたらどうだー?」
琶月
「うぅぅぅ・・・・」
ファン
「外に出れば朝日を拝めますけどね」
キュー
「ま、とりあえず壁紙ぐらいは張ろうかなってね」
琶月
「それでこんなに散らかってたんだ・・・」

キューがバラバラっと壁紙をホイールから引っ張り手当たり次第に壁に張って行く。
ハッキリ言って雑で汚い。

ファン
「キューさん、僕がやります。何か落ちつかない気分になります。」

キュー
「お?そうか?じゃぁ、頼むぜー」

そういうと壁紙が巻かれてあるホイールをファンに投げつける。

ファン
「ヒィィ」

キュー
「弱腰だなぁー」
琶月
「キューさんって本当、時々八歳の頃みたいに無邪気な一面を出しますよね・・・。
でもちょっとだけ落ちつきます。」
ファン
「琶月さん、手伝ってください」
琶月
「え、」

キュー
「お二人がそっちやってる間にアタシはこの宝石について調べておこうかな」
ファン
「(最初からそうして欲しかったです。)」



==キューの部屋


・・・ナルビクから持ち帰った後、さっそく顕微鏡を使って調べてみると案の定、アメジストの中央に
図のような物が書かれてあった。
ガーネットとは全く違う図にだったが図に接点が全くない。
むしろ、これは一体何の図なのかすら検討がつかない。
ただ適当に細いミミズ線が不規則に描かれてるだけのようにしか・・・。

キュー
「うーん・・」

共通しているのはこの宝石二つからこの世界の物でない強力なマナが溢れている事。
ただそれしか分っていない。

キュー
「流石にこれだけじゃ、ちょっと分る事は少ないね・・・」

・・・宝石に詳しい人、魔法に詳しい人に聞いてみれば何か分るかもしれない。
そこで出てきた人物・・・。

キュー
「・・・あ、そうだ。久々にギーンの所に尋ねてみようかな!」



==リビング

キュー
「ちょっくらトラバチェスまで行ってくるぜー」
ファン
「外に出るのは危険ですよ。今W・L・C隊が必死に捜索しているらしくW・L・C隊特有のマナが
あちこちで反応してますよ。」

ファンがちょっと変わったモニターを見ながら言う。

琶月
「こ、ここに押し込んできたらどうしよう・・・」
ファン
「それは絶対にないので安心してください。誰かが意図的にこの結界石を壊さない限り
僕達以外は入れませんから」
琶月
「え?ここに結界石置いてあるの?」
ファン
「はい。見えない場所ですけど。主に琶月さんが壊したら困るので」
琶月
「酷い・・・」
キュー
「ま、っというわけで壁紙の件は頼んだよー」
ファン
「・・・聞いてましたか?今外に出るのは危険ですよ。
キューさんの実力は良く知ってるので大丈夫だとは思いますが迂闊に出入りしますと
ここのアジトの場所がばれてしまいます。・・・そうなると色々厄介です」
キュー
「一回!一回だけ出るだけ」
ファン
「・・・仕方ないですね。呪文抵抗を詠唱して一時的にマナを隠しますからそしたら行ってもいいですよ」
キュー
「ありがとうー」

ファンが呪文抵抗という変わった魔法を詠唱する。
周囲に紫色のマナが可視化され辺りに飛び散って土の中に吸収された。

ファン
「外に出てもいいですよ」
キュー
「行ってきまーす」

キューが誕生石を持って外に出る。

ファン
「・・・では、壁紙でも張りましょうか」
琶月
「生活感出るといいなー」






==トラバチェス

撹乱するために一旦ナルビクまで態々歩いて向かい、そこからマジックテレポートサービスを使用して
トラバチェスまで移動した。


ドドーン


キュー
「おっとっと・・・。一体何が・・・」

続いてまたドンドンと空砲が打ちあがった。
回りが凄く騒がしい。

キュー
「もしかしてW・L・C隊・・・?」

騒がしい方へ走って行く



==トラバチェス・中央エリア


キュー
「って、なんじゃこりゃー」

沢山の屋台が立ち並び、風船がいくつも空へと飛んでいく。
中央ではパレードが通っておりその近くではサーカス団らしき人達が何人も通っていた。
・・・今日はトラバチェスでお祭りをやっているらしい。

キュー
「おーおー、皆連れてくればよかったなー」

今始まったばっかりらしい。
もう少し落ちついてから屋台巡りしよう。ひとまずトラバチェスの中央に聳え立つ巨大な塔へ向かおう。



==トラバチェス・塔


トラバチェス兵
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。塔の敷地内では屋台は何一つ出ていないぞ」
キュー
「知ってるよ。それとアタシは関係者だぜ」
トラバチェス兵
「・・・身分証明書を出せ。」
キュー
「あー、ないんだよなー。追われてる身だから」
トラバチェス兵
「・・・ないんだったら入れる訳にはいかない」
キュー
「でもギーンに直接聞いてみてみろよー。キューが来てますって言えばすぐに本人は来るぜ」
トラバチェス兵
「首相は常に多忙状態だ。どこぞの馬の骨か分らない人間のために聞く訳にはいかん」
キュー
「あー・・・本当に面倒だね。もうめんどくさい!!」

そういうとキューは思いっきり高くジャンプして塀の上に着地し、更にそこから高くジャンプして
塔のベランダへと着地。そこから更にジャンプしてドンドン高く昇って行く。
・・・よくみると空中で二段ジャンプしている。一体どうやって。

トラバチェス兵
「し、侵入者!!ターゲットまもなく首相の部屋に入る!ギーン様を守れ!!」




==塔・最上階


窓ガラスを突き破って中に入る。

キュー
「お邪魔するよ!」
ギーン
「・・・おい、これで何回目だ」
キュー
「四回目かな?」
ギーン
「窓ガラスを修理するこっちの身になってみろ」

ギーンが王座に座ったまま右腕をぱっと前に突き出す。割れた窓ガラスの破片が空中へ浮き上がり
そのまま割れた窓へとすっぽり自ら入って修復された。

キュー
「すぐに修理できるんだからいいじゃんかー」

その時トラバチェス兵が入って来た。

トラバチェス兵
「動くな!」
キュー
「ふっふーん」

からかうかのようにトラバチェス兵の前で踊って見せる。

ギーン
「おい、忘れたのか?こいつが来たら無条件で通せと言ったはずだ。」
トラバチェス兵
「・・・そ、そうなのですか?」
ギーン
「・・・数年に一度しか来ないから忘れても仕方がないが・・・。とにかく下がっていい。こいつは客人だ。」
トラバチェス兵
「・・・失礼いたしました」

そういうと警備兵全員銃を降ろし、下がって行った。

ギーン
「で、いつまで踊ってる」
キュー
「いい踊りだろー?」
ギーン
「相変わらず馬鹿な事ばっかりやってるな」
キュー
「おーおー、言ってくれるぜ」

ふんっとギーンが鼻で笑う。
・・・ギーンも歳をとった。見た目は誰もが70代の老人だとすぐに判別できるだろう。
元より白髪だったが険しい顔つきで出来たシワが一層老人っぽく見させる。
若いころと違ってかなり厳かな見た目をしている。

キュー
「大分歳くったな〜。ギーンも」
ギーン
「これでも魔法を使って十分老化を遅らせてるつもりだ。
・・・幽霊刀の力が無ければお前はとっくの昔に老死しているはずだ。」
キュー
「羨ましいだろ〜?ピチピチなお姉さまだよ」

また鼻で笑われる。

ギーン
「で、用件は何だ」
キュー
「W・L・C隊って知ってる?」
ギーン
「知らん」
キュー
「ふーん、知らないのかー。」
ギーン
「おい、重要な事なら話せ。」
キュー
「・・・別に重要じゃないぜ」

・・・作者が絡んでいる時点で非常に重要。勿論それを理解してて言う。

ギーン
「・・・そのW・L・C隊ってのは何だ?」
キュー
「最近どっかでひっそり活動している組織らしいよ。意外と過激派な上に好き放題やってくれてるから
気をつけておいた方がいいかもねー。この前も襲われたし」
ギーン
「・・・襲われた?」
キュー
「そうそう。火炎放射機使って攻撃仕掛けられた時はびっくりしたぜ」
ギーン
「おい、重要な事なんじゃないのか?」
キュー
「仮に重要な事だったらもうそっちに話し行ってるんじゃないかな?」

・・・確かに今ギーンは知らなかった。

ギーン
「・・・それもそうか」

話しだけ聞けばかなり過激派っぽい。
しかしアノマラド連合から何一つそういった報告や被害通告が来ていない。
・・・一体どういうことだろうか。

ギーン
「・・・ま、お前の嘘という事もあるかもしれないしな」
キュー
「相変わらず口の悪い首相だぜ。」
ギーン
「本当にキュピルの娘だな。言う事考える事が同じだ」
キュー
「んー、そいつはありがたいのかありがたくないのか分らないね。」
ギーン
「ふん・・・。・・他に何か用件はあるんだろ?」
キュー
「あるよ。ちょっとこの宝石を見て欲しいんだ」

そういうとキューは二つの誕生石を見せる。ガーネットとアメジスト。

ギーン
「・・・む。何だ、この宝石は?・・・この世界の物じゃないマナが溢れてるな。」
キュー
「その宝石の中央にこんな図が書いてあったんだ」

そう言うとギーンに二枚の写真を見せる。・・顕微鏡で拡大させた図だ。

キュー
「何か分る?」
ギーン
「・・・これだけじゃ何も分らないな」
キュー
「やっぱり分らないかー・・・。」
ギーン
「・・・ん、いや。ちょっと待て」
キュー
「ん?」
ギーン
「このガーネットに描かれてある図。これはオルランヌの最北端にある国境線だ。」
キュー
「おーおー、よくそんな事が分ったなー」
ギーン
「教養はしっかり身につけておけ」
キュー
「こんな事普通はわかんない。・・・アメジストの方は?」
ギーン
「・・・・一見ただの棒線一本だが辛うじてアノマラドの最南端にある国境線と同じ形しているな。」
キュー
「・・・ナルビク辺り?」
ギーン
「そうだ」
キュー
「・・ふーん、なるほどー。ありがとうー」
ギーン
「・・・おい、何か分ったのか?」
キュー
「分らないよ。でも選択肢は一杯増えたね」
ギーン
「相変わらず何を考えているのかさっぱりだ。他にも何か用件はあるのか?」
キュー
「ないよ。」
ギーン
「・・・そうか」
キュー
「じゃ、アタシは戻るぜー。せっかくだからあのお祭りにでも参加しようかなー?」
ギーン
「俺はあんな祭りを開催した覚えはない。・・・市民が勝手にやってるのだろう。
報告によれば巷で有名なサーカスが来ているらしい。それに便乗して屋台でも出しているのだろう」
キュー
「ほぉー。水飴があればいいなぁ。」
ギーン
「・・・まだ若ければ外に行くのだがな」
キュー
「・・・そっか。じゃ、またね」
ギーン
「次また会うかどうか定かではないが、さようならとは言っておこう」
キュー
「相変わらずのツンデレギーンだぜ」
ギーン
「捻りつぶすぞ」
キュー
「おーおー、足早に退散といくかー」

今度は窓を空けてからベランダに出てそこから飛び降りた。

ギーン
「・・・・・・」





==トラバチェス・中央エリア


道端では沢山の芸人がそれぞれ芸を見せて小銭を稼いでいた。
口にアルコールを含ませて、口から火を吹く男・・。
ボールの上にボールが乗っかっており、その上に更にボールが乗っかってその上で逆立ちしている人。
・・・帽子にはあんまり小銭が入っていなかった。

キュー
「ふーん。思ったより凄そうな事してないなぁー・・・。」

その言葉が偶然芸人の耳に入ったのか凄い形相で睨みつかれた。

芸人
「おい、ババア!何か芸やってみせろよ。」
男の子
「変わった服着たババア!」
キュー
「誰がババアだ、おら。
あぁ〜、こんな誰もが惚れちゃう胸の大きい美しいお姉さまだっていうのに〜。」
女の子
「変わった服着てるってことはお姉さんも何か芸出来るんだよね?」
キュー
「おーおー、出来るぜー」
芸人
「・・・やってみろよ」
キュー
「じゃー、そこのお兄さん。お兄さん」
若い男性
「え?俺?」
キュー
「カッコイイ銃持ってるね。それアタシに向けて撃って。大丈夫、芸だから」
若い男性
「よ、よーし!撃つぞ。」

若い男性がキューの胴体に銃口を向ける。
数秒後、若い男性が発砲し弾丸がキューの体を貫いた。

キュー
「うっ・・!・・・あ、失敗した・・・」
若い男性
「え!」

そのまま苦しそうにキューが前のめりに倒れた。体から血が溢れている。

若い男性
「う、うわあぁぁっ!!」
女の子
「ヒャアアアアアァァァァッッッ!!!人殺しー!!」
若い男性
「ち、違う!!ってか、見てただろ!!?俺は悪くない!」

するとキューが起き上がった。

キュー
「なーんてねー」
若い男性
「え?」

さっきまで残ってた痛々しい傷跡がいつのまにか消えてなくなっていた。

キュー
「このキュー特製、オートヒール効果のあるペンダントを身につけていると重症負ってもすぐに
ヒールをかけてくれるよー!何と五回まで身を守ってくれるよ!効果は見ての通り〜。
さ・ら・に!!プラス5000Seedで貴方の持ってるアクセサリーにこのオートヒールの効果をつけちゃうよ!
自分の好きなアクセサリーが自分の命を守ってくれるアクセサリーに早変わり!さぁー買った買ったー」

一部始終を見ていた大人から子供までキューの周りに群がりすぐに購入者で溢れかえった。

キュー
「おーっと、押さないで押さないでー。」
芸人
「・・・・・・」

居心地の悪くなった芸人が小銭の入った帽子を回収してその場から撤収してしまった。

女の子
「お姉さん凄いー!」
男の子
「流石ババァー!ババァが強いのはいつの時代も同じだね!!」
キュー
「真面目に怒るよ。」



・・・数分後、キューのMPが底をつくまで購入者が殺到しキューのポケットはお札で一杯になった。

キュー
「にひひ」

・・・子供の頃、よくそういって笑ったなーっと自分で懐かしむ。

キュー
「お?」

目の前に懐かしい屋台がある。・・・タコ焼き屋とお好み焼き屋だ。

キュー
「おじさん!タコ焼き頂戴!あと、そっちのお兄さん!お好み焼き頂戴!」
オヤジ
「へい毎度」

ポケットに入っている札を取り出して二人に渡す。

キュー
「おつりは、いらないよー」

そういって目の前のタコ焼きとお好み焼きを素手で掴んで頂いていく。
その光景に唖然とする屋台の人。



キュー
「うーん、やっぱりヘルの作るタコ焼きと輝月の作るお好み焼きの方が美味しいなぁ〜。
・・・あの屋台の人達は喧嘩しないのかな?」

よくヘルと輝月が喧嘩していたのを思い出す。

キュー
「事あるたびにアタシは後ろで眺めていたなぁー・・・。たまにからかったりしたけど。
・・・・うぅーん、いけない・・。歳を取るとやっぱり感傷深くなっちゃう。」

158歳・・。でも幽霊刀のお陰で見た目は大体25歳前後。
ゆっくりとだが歳は取っているらしい。

キュー
「でもまだ若い!・・・・・お?」

適当に食べ歩いていたら全く知らない路地裏に入ってしまったようだ。
屋台も人も何もない。

キュー
「さっきの道に戻ろうーっと。・・・・。・・・・・・・・・。」

後ろを振り返った瞬間。見慣れた人達が現れた。
・・・・W・L・C隊。そしてその先頭にあのフードを被った者・・・。

フードを被った者
「・・・・・」

・・・おかしい。誰かに追跡されている気配はなかった。
それにあの人通りの中、W・L・C隊が堂々と通ったら異様な雰囲気に包まれるはず・・・。

キュー
「おーおー。アタシがせっかくこうやってお祭りを楽しんでいるのにまさか攻撃するのかー?」
フードを被った者。
「・・・・・」

W・L・C隊が一斉に火炎放射機を前に突き出してきた。・・・攻撃される。

大きくジャンプし近くの建物のベランダに着地する。更にそこから高くジャンプして
建物の屋根へと行く。
下でW・L・C隊が放火している。しかし建物は全てレンガで出来ているため燃える事はないだろう。
フードを被った者も魔法を唱えて無重力状態に入り、高くジャンプしてキューの後を追う。

キュー
「ストーカーは犯罪行為だぜ」

キューがくるっと後ろを振り返る。その直後。目の前に魔法弾が迫っていた。

キュー
「おっと」

突然の魔法弾にびっくりしつつもその場で手を使わずに側転して華麗に避ける。
空いた手で即座にポケットに手を突っ込み小銭を二枚取り出す。そしてフードを被った者に向けて投げつける。
小さな小銭はそのまま地面に落下すると思われたが、突然質量が変化し
巨大な魔法弾へと変わった。フードを被った者は即座にバリアを張り巨大な魔法弾を防ぐ。
防いだ瞬間、後ろから銃声が聞こえた。

キュー
「知ってたか?トラバチェスの名産品は銃器何だぜ」

何時、どこで調達したのか。何故かキューの両手にはハンドガンがあった。
・・・デザートイーグル。ルイがよく使っていた愛銃。しかしルイが持っていた物とは違うらしい。

突然の背後からの奇襲にバリアを張る余裕はなく、敵は横に転がって攻撃を回避する。
さっきまで立っていた場所に着弾し、レンガの屋根がかなり削れた。

キュー
「アタシ専用に改造した頼りになる武器だぜ」

銃弾は鉄鋼弾を使用されているらしい。・・・一発でも受けたら胴体を貫通し大ダメージになるのは明白。
キューがこの場を押している。

キュー
「せいや」

両手に持っていた銃を目の前に投げつけ、キューは大きくジャンプした。
勝手に引き金が高速で引かれ弾が乱射される。更にその真上でキューが再び小銭を投げつけ
巨大な魔法弾へと変える。最後に敵の背後に着地し剣を抜刀して斬りかかる。
唯一、逃げ場が残っている真横の方へとフードを被った者が飛び前転して回避する。が、しかし。

キュー
「その行動を待っていた!」

敵が飛んだ瞬間。着弾地点を予測してキューが剣を投げつける。
見事に敵が着地した場所に剣が飛んで来て敵の胴体に突き刺さる。

フードを被った者
「っ・・・!」
キュー
「ばぁーくはつ!」

どこぞの師匠と全く同じポーズを取る。その直後、剣が爆発し敵が吹き飛んだ。

キュー
「東方は赤く燃えている!!」

・・・ネタはここまでにして。
流石に今の攻撃で敵もやられただろうか?


その時、キューの持っていた剣が爆炎の中から飛んできた。

キュー
「おっと」

バック転しながら剣をキャッチする。
・・・爆炎の中から先程の敵が現れた。・・・フードが破れているだけだった。

キュー
「うーん、鉄のお面かぶってるから相変わらず素顔が見えないねー・・」

・・・敵が両手を前に突き出し、何か強力な魔法を詠唱し始めた。

キュー
「・・・何だかやばそう。危なくなったらさようなら〜!」

キューが緊急テレポートを唱える。


・・・・・・。


キュー
「あー!しまったー!昨日緊急テレポート使ったんだった!!まだ使えない!」

最低でも三日立たないと使えない。
目の前から巨大な魔法弾が飛んできた!側転で攻撃を避けるがホーミングしているらしく
そのまま半円を描いてこっちに再び戻って来た!

キュー
「おっとっと!」

二回目も何とか避ける。
その時、巨大な魔法弾がもう一個飛んできた。

キュー
「二個目?反則反則ー!」

大きさ、速さの割にはそのホーミング力がかなり強い。
避けたと思ってもその二秒後にはすぐに戻ってくる。

キュー
「むー・・・」

避けるので精一杯になってしまっている。
すると今度は三つ目が飛んできた。
流石にこれ以上魔法弾を作られると非常に回避が困難になるためその場から離脱を図る。
大きくジャンプして一旦魔法弾を上へと誘導し、重力を倍増させて高速で地面に落下する。
建物から飛び降りて地面へと着地し、物凄い速さで走って撤退する。
ところが魔法弾の方が一歩早く、キューの後ろスレスレを飛んでくる。
更に目の前にW・L・C隊が現れ一斉に火炎放射してきた!

キュー
「関係ないぜ」

W・L・C隊を突っ切る。オートヒールのお陰でこの程度の攻撃なら痛くも痒くもない。

背中に魔法弾が一瞬かすった。

キュー
「っ!!!!」

とんでもない激痛が走った。皮膚、肉が焦げて焼き落ちていくような感覚。
これに直撃したら・・・考えるだけでゾッとする。

キュー
「よいしょっと!」

いきなり横に側転して狭い路地裏へと逃げる。魔法弾が壁につっかかってその場で止まった。

キュー
「ふぅ・・・」

急いでテレポートを詠唱する。緊急テレポートが使えない以上、地道に詠唱して逃げるしかない。
その時、真後ろから銃声が聞こえた。

キュー
「わっ!」

辛うじての所を避ける。・・・フードを被った者・・。いつ新調した?
それよりその持っている銃・・・デザートイーグルだ。それもかなり改造を施されている。
下手するとキューの持っている奴以上かもしれない。

キュー
「おいおい・・・。トラバチェスの名産品は確かに銃器だけどだからってすぐに用意しなくてもいいんだぜ」

後ろでミシミシとレンガが崩れる音が聞こえた。・・・魔法弾がゆっくりと建物を壊しながら近づいている。
流石にこれはまずいと判断したキューは壁を蹴って反対側の壁へ飛んで行き、更にその壁を蹴って
ドンドン高く飛んでいく。


キュー
「ほんと、しつこいね・・・。」
鉄のお面を被った者
「・・・・・・」
キュー
「わっ」

突然目の前に現れた。
銃を前に突き出し乱射する。
キューが指で銃の形を作る。

キュー
「バン、バン!」

口で銃声音を鳴らす。
すると指先から鋼鉄の玉が現れ、敵の放った銃弾とぶつかって両方地面に転がった。

キュー
「ごめんね、私今一杯お金持ってるからこれ以上相手してるとお札落としちゃいそう。」

キューが逃げる体勢に入る。
が、お面を被った者が先回りしキューの逃げ場をなくそうとする。
すると突然キューの姿が消えた。・・・本当に突然消えたため状況がつかめない。テレポートされたか?

鉄のお面を被った者。
「・・・・・・?」
キュー
「ここ。がぶっ。」
鉄のお面を被った者
「っ!」

キューが鉄のお面を被った者の肩に思いっきり噛みつく。
・・・マナを吸い取っている。
慌てて鉄のお面を被った者がキューを振りほどく。

キュー
「ぺっ」

血の混じった唾液を吐きだす。

キュー
「マナ一杯もらっちゃった。じゃあね」

そういうと今吸い取ったマナを使って緊急テレポートを唱える。
その直後、すぐに緑色の光に包まれてキューは消えて行った。

鉄のお面を被った者
「・・・・・・・・・・。」







==キューのアジト



キュー
「はぁー・・。ただいまー」
ファン
「おかえりなさい。」
琶月
「キューさん、見てください!」

琶月が腕を引っ張ってリビングに連れて行く。

キュー
「おっとっと」
琶月
「じゃーん!」
キュー
「おぉ〜!」

土壁に囲まれていた壁が白い壁に変わっていた。
かなり生活感の溢れる部屋へと変わっていた。
写真だけ見せたらこういう建物があるのだろうと誰もが認めるリビングになっていた。

キュー
「すごーい!」
琶月
「えへへ」
ファン
「結構琶月さん手先が器用でしたよ。」
キュー
「おーおー。・・・じゃー頑張った二人にボーナス!」

そういうとポケットから大量のお札を取り出し机の上に置いた。

琶月
「お金!!!!」

琶月が真っ先に食いついた。

ファン
「・・・盗んできたのですか?」
キュー
「酷い事言うなぁー・・・。稼いできた!」
ファン
「・・・深くは聞かない事にします」
キュー
「これはちゃんとした綺麗なお金だよ!!本当に!」
ファン
「それよりW・L・C隊には接触しませんでしたか?」
キュー
「あ。・・・それがねー・・」

さっきまでフードを被った人と戦っていた事を話す。

ファン
「・・・おかしいですね。呪文抵抗を張っていたのにも関わらず接触ですか。」
キュー
「・・・あ、でも今日マジックテレポートサービス使っちゃった。」

・・・・・・・。

ファン
「それが原因です!!」


キュー
「しょうがないかー・・・。大人しく騒ぎが落ち着くまで土の中でうずくまるとするよ。
あー、こんな美人が土の中に閉じ込められているなんて〜。これじゃ箱入り娘!」
琶月
「あ、美人の傍に可愛い少女もいるよ!土の中に眠りし少女、月の光照らされた時覚醒する!ってね。」
ファン
「(・・・・・・)」
キュー
「琶月は・・・うーん・・・。」
琶月
「し、失礼な〜!」
キュー
「輝月みたいに髪長くしてみたらどう?」
琶月
「え、でも髪は階級の現れ・・・」
キュー
「こんなこと言うのもあれだけど、もう輝月は居ないんだよ。
大切な人だったのは分るけれど、そろそろその殻から抜け出してみたらどうかな・・・。」
琶月
「・・・・・」
キュー
「それよりファン。ギーンから誕生石に隠れてる図の事。一体何の物か分ったよ」
ファン
「本当ですか!?一体何の図でしたか?」
キュー
「ガーネットはオルランヌの海に面してる方の国境線。
アメジストはアノマラドの南の国境線が描かれていたよ。ナルビクの周辺ね」
ファン
「・・・キューさん、もしかすると?」
キュー
「うん、ファンの思ってる通りで合ってると思うよ。この誕生石が全部集めて図が完成すると・・・」
琶月
「え?どうなるんですか?」
キュー
「きっとアノマラド大陸の絵になる。

・・・でも、何でアノマラド大陸の絵が書いてあるのか・・・。
この誕生石の持ってる変わったマナの力とか肝心な所は全然解析出来ていない・・・」
琶月
「うーん、こう言う時にテルミットさんやキュピルさんがいれば何か進展しそうなんですけどね」
キュー
「あるいはディバンがいたら進展してたかもよ?こういうの詳しそう!」
琶月
「アハハ・・・。確かに」
キュー
「よいしょっと」

キューがペンを取り出し、地図にマークをつけたしていく。




キュー
「このオレンジ色の線がガーネットに書いてあった図。
紫色の線がアメジストの線。・・・そしてトラバチェスに×マークっと」
ファン
「・・・改めてもう一度色んな街を探索したほうがよさそうですね」
キュー
「うん、私もそんな気がする。・・・さてっと」
琶月
「?」

キューがソファーの上で横になる。

キュー
「ちょっと疲れたから寝る。おやすみ」
琶月
「歳ですね」
キュー
「外に叩きだすよ」

琶月
「ご、ごめんなさい!」



・・・誕生石の図。

鉄のお面を被った謎の人物・・・



考えなければいけない事は沢山だった。




キュー
「(・・・・・・)」

続く



第四話





琶月
『ああああああああああああっ!!!!!
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

キュピル
『は、琶月!!お前!!何をしている!!やめろ!!!』

キュピルが慌てて琶月の持っていた刀を叩き落とす。
琶月の首からは血がダラダラと吹きだしている。

キュピル
『・・・!き、輝月・・・!琶月・・・これは・・・!?』
琶月
『キュ、キュピル・・・さん・・!!わ、私・・・何故か・・首斬っても死なないんです・・・!!!
師匠を殺しちゃって・・殺しちゃって私も後を追おうとしているのに・・・死なないんです!!!!
私・・・私は・・・!!!!』


キュピル
『・・・・』
ファン
『キュピルさん。残念ですが輝月さんは首を斬られて・・・死んでいます。・・・どうしますか?』
キュピル
『・・・話しは全部琶月から聞いてる。・・・どちらかといえば正当防衛だが・・・・。
・・・・・まさか・・輝月が・・なぁ・・・・。
・・・そっとしておこう。』

泣き喚く琶月の後にして部屋から出る。

・・・・。

真っ赤に染まった手で顔を覆い泣き喚く琶月。



・・・・・。



・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






キュー
「はーつき!琶月!」
琶月
「わ、わっ!!・・・あれ?」
キュー
「琶月ったら変なのー。泣きながら寝てたよ。」
琶月
「え、あ・・・」

・・・目ヤニが一杯ついてる。
・・・何だか首が痒い。
心臓がバクバク鳴っている。

琶月
「キュ、キューさん・・・。その・・・すいません、しばらく一緒に居てください・・・。」
キュー
「どんな夢を見たの?」
琶月
「・・・大切な大切な人を殺してしまった夢です・・・・。」
キュー
「・・・それってもしかして、もう起きた事かな?」
琶月
「・・・はい。相手は・・」
キュー
「言わなくても分るからいいよ。・・・お父さんもずっと言っていたけど琶月は戦いに向いていない。」
琶月
「分ってます・・・修行しても修行しても・・。165歳になった今でも全然ですから・・」
キュー
「ううん。琶月は根が優しすぎる子だから武器持って戦うのは全然似合ってない。
お父さんもそういう意味で戦いに向いていないって言ってたし私も今の琶月でも全然
戦いに向いてるとは思ってない。壁にはなるけど」
琶月
「さ、最後の一言がなければキューさんへの忠誠心はMAXだったのに・・・」
キュー
「いつか武器を持たなくても平和な日が訪れたら良いね。
・・・でも、皆戦ってきたから今の皆がある。戦争があったから国は栄えた。
誰かが死んだからその人は成長した・・・。
お父さんには悪いけど・・・どれだけ頑張ってもこの世から戦争とか争いはなくならないよ。」
琶月
「・・・もしなくなったら?」
キュー
「戦争がなくなって人々が戦うのをやめたその時。人の終わりだよ。

さ、夜ご飯たべよ!」

キューが琶月の腕を引っ張って無理やり立ち上がらせる。

キュー
「琶月が見た夢。きっと輝月が自分の事忘れて欲しくないから見させたんだよ。
でも、ほら。輝月ってよく琶月が可愛いから意地悪してたじゃん。今回もそれと同じで
琶月に意地悪しただけ。
今日の夜ご飯はなにかな〜。」

そういって琶月を引っ張りながら部屋から出ていく。

琶月
「(・・・キューさん、ありがとう)」








キュー
「・・・えー・・・。今日の夜ご飯はこれだけ?」

食卓に並んでいるメニュー。お味噌汁にグラタンだけ。

キュー
「・・・しかも相性の悪い物ばっかり・・。なにこれ?グラタン食べながら味噌汁啜って欲しいの?」
ファン
「文句言わないでください!お米切れてしまったのです!仕方ないのでお肉を焼こうと思ったら
肉もなかったのです!」
キュー
「・・・あー・・食料一杯あったと思ったんだけどなー・・・。一週間もすればなくなっちゃもんなんだなー。
ねぇ、もう外に出ても大丈夫なんじゃない?」
ファン
「食料の問題もありますしもう大丈夫だとは思いますよ。普通に外に出て魔法を使っても
気付かれる可能性は凄く低くなってるはずです。」
キュー
「よーし、今から買い物いくぞー!」
琶月
「え!ご飯どうするんですか!?」
キュー
「あ、もちろん食べるよ。食べてから龍泉卿にレッツGO!あー白いお米食べたいな〜」
琶月
「自由気ままでいいですね・・。ズズッ」

お味噌汁を吸いながら妙に呆れる琶月。

キュー
「でもやっぱりグラタンとお味噌汁は合わないよ・・・。」
ファン
「食料の問題があったとはいえど確かにミスマッチではありましたけどね」
キュー
「うん、グラタンにラップかけといて。やっぱり今から買い物してくるよ」
琶月
「いってらっしゃい〜」
キュー
「琶月も行くよ!スタンドアップ!」
琶月
「ぎゃああぁぁっ!」

琶月の首根っこを掴んで持ち上げて外に出るキューと琶月。

ファン
「行ってらっしゃいです」









==龍泉卿

琶月
「わーん・・・・もう何でご飯中に買いだししなければいけないのー!」
キュー
「我慢、我慢♪」
琶月
「キューさんは買いだしでも楽しそうで羨ましいです・・・・」

龍泉卿の雑貨店へ向かう。雑貨店に米から野菜に具材に調味料まで何でも揃ってる。
欠点はたまに賞味期限の切れた物が棚から出てくる事・・・。

キュー
「・・・・あれ?」
琶月
「どうかしましたか?・・・まさかW・L・C隊・・?!」
キュー
「琶月がもうそう言った時点でW・L・C隊じゃないよ」
琶月
「酷いです」

キュー
「ねぇ、あそこにいるのって・・・・」


龍泉卿の宿屋の前に道着を着た人が何人か並んでいた。皆、腰には刀を結び付けており正座している。
・・・ちょっと高い所に長くて赤い髪の人が立っていた。

琶月
「え・・・し、師匠・・・!?」
キュー
「・・・ううん、よくみて。ちょっと輝月に似てるけど違う人だよ。うーん、輝月より柔らかそうな見た目してるねー。」

ちょっとその集団に近づく二人。



長くて赤い髪の女性
「以上だ!各自、出された課題をクリアしてから宿に戻る事!それまで飯は抜き!」
門下生全員
「はっ!」

そういって門下生が走って何処かに行った。

キュー
「へぇー、合宿かな?でもあの走り方。まだまだヒヨッコっぽそう。」
琶月
「赤い道場ってちゃんとまだ残ってたんですね・・・。もうなくなったと思っていました・・・」
長くて赤い髪の女性
「・・・・ん、そこにいる奴・・・。もしかして・・・琶月!?」
琶月
「え、あ、はい!そうです!」
長くて赤い髪の女性
「全員戻れ!」

何か呪文のような物を唱える。
・・・すぐにさっきの門下生が戻って来た。

長くて赤い髪の女性
「琶月をさっさと赤い道場に連れ戻せ!」
門下生全員
「はっ!」
琶月
「え、え、ぎゃー!離して!降ろして〜〜〜〜!!!!」

暴れる琶月の両手両足を持って赤い道場へと走っていく。

キュー
「あれ?これって誘拐?だとしたら助けないといけないね」
赤い髪の女性
「・・・お前は琶月の友達か?」
キュー
「まー、友達って言えば友達だけどあえていうならアタシの子分!!」

でーん、っと口で効果音を言いながら得意げに仁王立ちする。

赤い髪の女性
「ほぉ・・・。・・・ま、御苦労だったな。今日から琶月は解雇でもしといて。退職金はいらないから。」
キュー
「ちょっとちょっと。解雇なんてしないよ。それに琶月をこれからどうするの?」
赤い髪の女性
「さぁ、どうかな?」
キュー
「ふーん、秘密かー。最初に言っておくけど琶月は輝月と比べると全然戦えないよ?」
赤い髪の女性
「・・・っ!その汚れた名を呼ぶな!!」
キュー
「え?琶月の事?」
赤い髪の女性
「違う!輝月だ!!奴は赤い道場の面汚しだ!!」
キュー
「えー、そうかなー。輝月は強かったし何よりも素直じゃない所が可愛かったしなぁ〜。」

気が付いたら全く関係ない事を言っている。

キュー
「ところで、貴方の名前は何て言うの?」
赤い髪の女性
「『楡月』(ゆつき)。・・6代目だ。」
キュー
「ふーん。・・・・・・」

まじまじと楡月を見つめる。

楡月
「・・・どこ見てる」
キュー
「・・・何でもない。輝月より女の子らしいなーって。」
楡月
「だからその名を口に出すな!聞きたくもない!」
キュー
「お父さんが聞いたら悲しみそう。」
楡月
「何故、お主の父上が悲しむ?」
キュー
「私のお父さんの名前はキュピル。150年ぐらい前にナルビクのクエストショップで働いていた人だよ。」
楡月
「口に出したくもないが・・・輝月の道を狂わせた元凶の一人か!」
キュー
「あらら・・・。お父さんけなされちゃってるよ。お父さーん?聞いてるー?ねぇーどうするー?」

あからさまに天に向けて喋る。
耳を空に向ける。

キュー
「・・・ほぉーほぉー。へぇーへぇー。ふーん。・・・倒してだって。」

勿論、実際に聞こえた訳ではない。

楡月
「面白い事を言う。この私を倒せと言うのか。始めに言ってくがただモンスターが倒せる程度の実力では
私の足元にも及ばぬぞ。」
キュー
「じゃー、ここで勝負だ!」
楡月
「聞いていたか?・・・死んでも私は責任は取らんからな!」

そういうと楡月が刀を抜刀する。キューもキュピルの愛剣を抜刀する。

キュー
「んー!あちょー!」

カンフーのポーズを取って威嚇する。・・・本人は完全に遊んでいる。
その舐めた格好が癪に障ったのか楡月が攻撃を仕掛けてきた。

楡月
「一閃!!!」









==赤い道場




門下生が琶月を畳の上に投げ飛ばす。

琶月
「痛い!もっと丁寧に扱って!」
門下生
「黙れ、輝月の一番弟子が」
琶月
「うっ・・・」

きつく言われ思わず黙ってしまう琶月。

門下生
「我が道場の知名度・・・。輝月のせいでどれだけ堕ち込んだと思っている!」
門下生2
「我々にとって神とも言えた羅月様を・・親殺しの罪!!」
門下生3
「逸れ相応の責任を受けて貰おうか!」
琶月
「た、助けて・・キューさん・・。何か嫌な予感しか・・・」


その時赤い道場の扉が勢いよく開かれた。

キュー
「そーい」

キューが何かを投げつける。・・・・ボロボロになった楡月だ。

門下生3
「しっ、師匠おおおおおお!!」
門下生4
「き、貴様ー!一体どんな姑息な手を用いた!!」
キュー
「えー・・・。そんな事言われてもなぁー・・・。だって、一閃してきたから避けてそしたらもう一回
高速で反撃してきたから輝月の一閃を真似して繰り出しただけだよ?そしたら一撃で倒れちゃった!」

・・・・門下生からすればかなり強いのだろうがキューからすれば、それこそ足元にも及ばなかった。

門下生
「そんなバカな・・・何にしても師匠が・・・一撃で負けた?」
門下生2
「いや、嘘をついているに決まっている!!」
キュー
「あーあー、面倒だぜ。異論のある奴はかかってこい!」

ドーンと口でまた言いながら仁王立ちする。

門下生5
「師匠の仇を取るぞ!!」

全員刀を抜刀しキューに襲いかかる。

キュー
「ちょ、ちょっとまったー!5人同時ってそれこそ卑怯だよ!!」
門下生1
「うるさい!」

一斉に攻撃してきた。キューが高くジャンプして屋根に張り付く。

キュー
「本当にここの人達って皆面倒・・・」

キューが魔法を唱えながら剣を下に突き出し畳の上に着地する。
その直後、強烈な衝撃波が走り門下生全員吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
全員うめき声を上げながら倒れそのまま動かなくなってしまった。

キュー
「体力低いなー。・・・琶月、大丈夫?」
琶月
「あの、さっきの衝撃波。私も巻き込まれたのですが。」


壁の傍で琶月が呻いている。

キュー
「あ、やべ〜。大丈夫?」
琶月
「キュ、キューさん・・でも助かりました・・・いつもありがとう〜!」

琶月がキューに抱きつく。珍しくキューがそれを受け止める。

琶月
「わーん・・・」
キュー
「おっと、琶月ガード!」
琶月
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁっっ!!」

突然刀が飛んできたためキューが琶月を盾にする。

琶月
「痛い痛い痛い痛い!!酷い酷い酷い酷い!!!!!」
キュー
「アタシは琶月が大好きだー!盾的な意味で。」
琶月
「泣きたい・・・いや、泣きます。ぐすんぐすん・・・すぴーんすぴーん・・・」
楡月
「絶対・・倒す・・・!!」
キュー
「琶月ー!今の師匠を越えてみせろー!必殺!琶月投げ!」
琶月
「わああああぁぁぁぁぁっっっ!!」

キューが思いっきり琶月を投げる。頭から楡月に直撃しそのまま倒れ二人とも気絶する。

キュー
「さっすが琶月!!」

キューのテンションがドンドン上がって行く。





==一時間後


楡月
「お主の実力は認める・・・・・。私の負けだ。」
キュー
「ふふふ・・・」
楡月
「して、何が望みだ?道場破りか?」
キュー
「別に乗っ取ったりしないから。でも琶月は返さないよ、盾的な意味で」
琶月
「いつもいつも最後の一言はいらない・・・・。」
楡月
「我が道場の仕来たりその1。自分より強き者に従う。・・・逃したくはないが琶月は見逃してやる」
琶月
「どっちに転んでも私にとって良いように見えない!!」
キュー
「ふーん、強き者に従うんだ。じゃ、輝月がキュピルの元について行ったのは別に普通じゃん。
それに輝月は貴方達が思ってるほど悪い人じゃなかったよ。」
楡月
「自分の役割を忘れ、ましてや薬物中毒などもってのほか!!それだけじゃない!!
あいつは自分の父、羅月様を殺しその力を奪い取った!誰が見ても極悪人だと分るだろう!」
キュー
「そのさー、確かに薬物中毒はアタシもどうかと思ったけど役割は別にいいんじゃないの?
だって別に門下生を指導するだけでしょ?ってか門下生がちゃんと指導受けて名を残した人って
どれくらいいるの?ここに居る門下生達はちょっと名を残せそうもなさそうだけど。
まぁ、お父さん殺しちゃったのは今初耳だったけど・・・。」

何人かが今にも立ち上がってキューを攻撃しようとしているが
実力を身をもって知っているため攻撃を躊躇している。

楡月
「確かに、我々の役割の一つに門下生を鍛え上げることもある。だがそれだけじゃない。
この赤い道場の傍にある紅き慟哭の祠に毎日参拝し、赤い道場を立ち上げたご先祖様、羅月様の墓を
毎日手入れする役割がある。」
キュー
「それこそ門下生にやらせればいいと思うんだけど・・・」
門下生
「貴様、さっきから好き放題言いやがって!!」

門下生が刀を抜刀しキューに襲いかかる。絶妙な距離から袈裟切りが襲いかかってくる。
が、命中したと思った瞬間いつのまにかキューが後ろに回り込んでいた。

門下生
「そんな!?」
キュー
「せいっ!」

キューが門下生の背中を思いっきり蹴り飛ばす。また壁まで吹き飛び気絶した。

キュー
「いくらアタシが可愛いからっていきなり襲いかかるのは犯罪!」
琶月
「あの、勘違いしそうなコメントはやめてください」


キューがもう一度畳の上に座る。

キュー
「お墓の手入れだっけ?水かけて磨いてちょっとお花添えてそんな物だよね?
・・・やっぱり門下生に任せてもいいと思うんだけどなぁ〜。第一、輝月って自分のお父さんである羅月を
殺しちゃったんだよね?自分の手で殺しちゃったのに参拝しに行くって何か変」
琶月
「(・・・でも、そういえば・・・。師匠・・・。キュピルさんの元に行くまではちゃんと毎日参拝してた気がする・・・。
私も一緒に行こうとしたけれど止められたっけ・・・。何でだろう?)」
楡月
「お主と我々は別世界に居る。こちらの常識が通じていないようだな」
キュー
「はいはい。同じアノマラド大陸にいるのにねー」
楡月
「・・・・・・」

その時、誰かが入って来た。

琶月似の子
「あれ、師匠!何時の間に帰って来たんですか?・・・あれ?新しい門下生の子ですか?」
楡月
「・・・燈月(ひつき)。引っ込んでろ」
燈月
「は、はい!」

そういうと燈月という名の琶月似の子はさっきの部屋に戻って行った。

キュー
「へぇー、一番弟子いるんだ。でも見た感じ琶月と同等っぽそうな実力」
琶月
「私で例える所がとてもイジワルです。悪魔!!!」
キュー
「アタシはデーモン!!悪い子は食っちゃうぞー!」
琶月
「ぎゃぁぁぁっ!」

キューが琶月の頭に噛みつく。

楡月
「・・・もういい、邪魔だ。琶月は見逃してやる。とっとと帰れ」
琶月
「あ、キューさん。帰っていいそうですよ」
キュー
「うん、帰ろう」

二人とも立ち上がり赤い道場から出ていく。

楡月
「・・・・・・・・・」





==紅の道


琶月
「あ〜、お腹減った〜・・・。早く食料買って帰りましょうよ」
キュー
「そういえばそうだった・・・。よーし、お米買うぞー!」

すると、キューがくるっと振り向き琶月を見つめる。

キュー
「・・・・・・・」
琶月
「え、何ですか?」
キュー
「動かないで」
琶月
「?」

その時、琶月の背中に大量の鉄矢が刺さった。

琶月
「あんぎゃああぁぁっぁぁぁああぁぁぁっっ!!!」

琶月の後ろからW・L・C隊が続々と現れた。

キュー
「・・・本当にどこにでも現れるね」
琶月
「知ってたなら言ってくださいよ!!!ああああああぁぁぁぁっぁぁああっっぁつあぁぁ〜!」

痛みで悶絶する琶月。
流石に可哀相だったので鉄矢を引っこ抜き(ここでも当然叫ぶ訳だが)ヒールをかけてあげる。

フードを被った者
「・・・・・・・」
キュー
「今日も鉄のお面でお顔は隠してあるんだね。」
フードを被った者
「・・・・・」

フードを被った者が手を振り上げる。一斉にW・L・C兵が鉄矢を放つ。

キュー
「琶月ガー・・」
琶月
「ガードされる前に逃げます」
キュー
「あ〜!薄情者ー!」
琶月
「どっちがです!!!」

仕方なく高くジャンプして回避する。
竹に次々と鉄矢が突き刺さる。

キュー
「危ない危ない。・・・うーん、お腹も減って来たから早く倒さないと」

キューがデザートイーグルを二丁取り出し空中側転して鉄矢を回避しながら乱射する。
次々とヘッドショットを決め倒れて行くW・L・C兵。

琶月
「流石キューさん!」
フードを被った者
「・・・・・・・」
琶月
「ぎゃ!いつからそこに!」

フードを被った者が琶月の首根っこを掴み、思いっきり地面に叩きつける。

琶月
「痛い!!」
キュー
「あ!私の可愛い可愛い盾に手を出す子は許さないよ!」
琶月
「ついに名前ですら呼ばれなくなった・・・」


キューが竹に向かってジャンプし、竹を蹴って推進力をつけながら琶月の元まで駆けつける。
そのまま勢いに乗ってすれ違い様にフードを被った者を斬りつける。

キュー
「一閃!」

鋭い一筋が通る。しかし後少しの所で避けられてしまった。

キュー
「まだまだー!」

そのまま竹のある所まで飛び、もういちど蹴り飛ばして突撃する。

キュー
「おりゃー!」
フードを被った者
「っ!」

さっき斬りつけてから、たったの一秒でもう一度攻撃された。
何とかナイフで攻撃を防ぐが、その一秒後にもう一度キューが飛んで来て攻撃を仕掛ける。
歩が悪いと思ったのかフードを被った者はその場でジャンプして姿を消した。

キュー
「あ!逃げるなんて卑怯だぞー!アタシはいつも逃げてるけど」
琶月
「・・・キュ、キューさん!まだW・L・C隊来てますよ!」
キュー
「・・・うーん、これはもしかすると・・・?・・・琶月、行くよ!」
琶月
「あ、はい!」

キューが剣を振り回して次々とW・L・C兵を薙ぎ払って行く。
しかしいくら薙ぎ払っても続々とW・L・C隊の増援がやってくる。
だが、増援は一定の方向からしか来ていない。

キュー
「・・・やっぱり、近くにW・L・C隊のアジトがあるとしか思えない」
琶月
「え!?」
キュー
「ずっとここで戦ってるけどさっきから東北の方向から次々と増援がきてる。
これは東北の方に何か拠点のような物があるってことだよね」
琶月
「・・・キューさん!」
キュー
「W・L・C隊の拠点を潰す!」

東北の方向へ目指す。しかし進行方向に次々とW・L・C隊が現れ中々前に進めない。

キュー
「本気出すよー!!おりゃあぁぁっーー!!」

キューが何か魔法を唱え一気に突撃する。
キューが通った道が爆発し、一斉にW・L・C兵が吹き飛ぶ。

琶月
「ぎゃー!私を巻き込んでいます!!」

・・・気が付いたら遥か先までキューは進んでいた。
痛みをこらえながらその後を追う琶月だった。




キュー
「あれー・・・おかしいなぁ・・・」

ずっと東北の方向に突き進んでいたが、同じ所に戻ってきてしまった。
・・・・それどころかW・L・C隊の増援が止んでしまった。

キュー
「さっきもここ通った・・・」
琶月
「キューさん、これは石兵八陣と呼ばれる陣にはまりましたね」
キュー
「石兵八陣?」
琶月
「かの昔、別の世界で偉大な軍師がいたそうですがその軍師が考案した陣です。
兵の石像に仕切られた通路が迷路のように入り組んでいて出口を見つけることができなくなって
遭難してしまう陣です。それだけじゃなく潮の満ち引きにより水没し、中に居た者の命を奪ったとか・・・。」
キュー
「えー・・・。それはまた面倒だね・・・」
琶月
「でも安心してください。ここ、実は言うと紅き慟哭の祠へと続く道で私知ってますよ!」
キュー
「ねぇ、琶月。ってことは紅き慟哭の祠って何処にあるか分る?」
琶月
「場所は一応知っていますけど・・・。」
キュー
「連れてって」
琶月
「え!・・・でも言った所で何にもならないですし、それに私お腹へt(ry」
キュー
「悪い子は食っちゃうぞー!がぶっ」
琶月
「ああああああ!!痛い痛い!!」


大人しく紅き慟哭の祠まで案内すればよかったと後悔する琶月であった。










==紅き慟哭の祠


名前に反して祠は洞窟のような所だった。
・・・蛍が沢山飛んでおり神秘的な雰囲気を醸し出していた。

琶月
「わぁ・・・。ここに来たのは四回目ですけどやっぱり綺麗ですね・・・」
キュー
「・・・・琶月。気をつけて。何かある・・・」
琶月
「え?」
キュー
「敵とかモンスターとかじゃないと思うんだけど・・・。凄く変なオーラで満ちてる。なんていうか・・亡霊みたいな・・何か」
琶月
「ぼ、亡霊!!やっぱり帰りましょう!!」
キュー
「・・・でもまって。この気は・・・」

キューが祠の中に入る。
琶月も悩んだ後、見失う前に慌てて中に入った。






洞窟の中に松明などのような照明道具は一つもなかった。
存在する明りは蛍の光だけ。
足元も照らせない程の暗さ。しかし何故か暖か味のある洞窟。

琶月
「うぅ・・暗い・・・足元も前も何も見えない・・・キューさん、どこー・・・」
キュー
「こっち。」

キューが琶月の手を握って導く。しっかり握ってキューの傍を歩く。

しばらくすると火の明りが見えた。
・・・・最奥地が見えてきた。


キュー
「・・・ここが紅き慟哭の祠の最奥地みたいだよ」

最奥地には松明がいくつかあり明るく照らされていた。

・・・中央に巨大な魔法陣が二つあった。

キュー
「・・・あれ、魔法陣じゃん。お墓がない・・・」
琶月
「何で魔法陣が・・・?」
キュー
「琶月、一度でも最奥地に来た事ってある?」
琶月
「いえ・・・いつも入り口で師匠に見つかって止められていました・・・」
キュー
「・・・楡月もここにはお墓があるって言っていた・・・・。
でもここにあるのは魔法陣・・・。まさか魔法陣型のお墓じゃないだろうし・・・」
琶月
「あ、今それ言おうと思っていたのに言われた・・・」
キュー
「・・・・・」

キュー
「・・・・・!」

キューの幽霊刀が強く光り出す。

琶月
「わっ!どうしたんですか?」
キュー
「・・・・・ちょっと待ってて」

キューが幽霊刀をしっかり握りしめて魔法陣の上に立つ。

キュー
「・・・そいやっ!!!」

思いっきり幽霊刀を抜刀し力を最大限まで引き出す。
キューの能力と霊感が最大まで上昇する。

キュー
「・・・居た。」

キューが魔法を唱える。

キュー
「シィーインジヴィル。見えない者を見えるようにする魔法」

キューが何もない所で魔法を唱える。・・・しかし唱え終わるとそこに見覚えのある人が現れた。


・・・輝月だ。


琶月
「し、し、し、師匠!!!!!
え、え・・こ、こ、これって夢・・ですか?夢じゃないですよね?
・・・・・師匠〜〜〜〜〜〜!!!!!」

琶月が輝月の元に飛びつく。が、すり抜けて地面に激突する。

琶月
「いでっ!!」
輝月
「・・・相変わらずマヌケじゃな」
琶月
「うぅぅ・・・。・・・・でも・・・師匠・・・。何でここに・・・?」
輝月
「私は三代目の道場主だ。・・・道場主となる者はここである契約を交える。
結果、この地に魂を束縛され死ぬとここに縛り付けられる。
私だけではないぞ。キューがその気になれば羅月、霞月。そして四代目、五代目も見えるじゃろうて」
キュー
「うん。」
琶月
「そうだったんだ・・・。・・・師匠、私・・・」
輝月
「皆まで言わなくても分る、琶月。・・・・気にするでない。あの時の私は異常だったのだ。
・・・あやつ、キュピルに負け、一度勝てたヘルにも負け私の実力は日に日に落ちていった。
・・・それが耐えられなくてな。・・・その時、偶然トラバチェスで薬売りに出会ってしまった。
無知だった私はそれが危険な代物だとは気付かなかった。・・・・あとはお主の知っての通りだ。
その味を知った私は抜け出せなくなった。」
琶月
「でも、師匠・・・私・・私は・・・師匠を・・・・。殺さなければきっと・・ファンさんとかが治療方法を・・
見つけてくれたのに・・・・」

琶月が泣きながら言う。

輝月
「・・・もういい、琶月。・・・私の事はこれ以上気にするでない。
・・・それより私はお主の事が心配だ。・・・私が居なくても上手くやっていけておるか・・・?」
キュー
「うん、うまくいってるよ。おかげ様でいい盾になってるし。」
琶月
「うぅぅ・・・」
輝月
「相変わらずのようじゃな。・・・少し安心した」
キュー
「ところで輝月。あの二つの魔法陣って何?」
輝月
「この紅い二つの魔法陣のことか?」
キュー
「うん」
輝月
「・・・これは我が赤い道場、代々伝わる魔法陣。双月の陣という魔法陣だ」

輝月が浮きながら魔法陣の傍まで移動する。

キュー
「・・・双月の陣?」
輝月
「・・・そうじゃ。・・・双月の陣。
・・・強き体、強き心を得るための陣じゃ。」
キュー
「・・・これを使えば強くなれるの?」
輝月
「そうじゃ」
キュー
「・・・輝月は使ったの?」
輝月
「当然だ。・・・もし使わなければここに琶月はおらんはずだ」
琶月
「え・・?」
キュー
「・・・ちょっと詳しく説明して。」
輝月
「人はこの世に生れし時、様々な才能や己だけが持つ個性・・つまり性格を授かる。
その才能や性格を自由自在に操るのがこの双月の陣の力。
私は生まれて二歳の時にこの陣を羅月に使われ私が持つ才能と性格を弄った。
・・・元の私が持っていた刀術に必要な才能だけを残し他の才能を全て捨てた。
そして、私から戦いに不必要な性格を取り除き、このような性格になった。
・・・だが取り除いた才能や性格はそのまま消える訳ではない。
・・・取り除かれた才能、性格からまた新たな人が作られ、もう片方の陣に誕生する。」
キュー
「・・・それがもしかして・・・」
輝月
「・・・私から戦いに必要のない才能、戦いに必要のない性格から作られた者。それが琶月。・・・お主なのだ」
琶月
「・・・私が・・師匠の不必要な才能と個性から産まれた・・人?」
輝月
「琶月。お主がどれだけ練習を重ねても刀術が成長しないのは私の不要な部分だけで作られた人間だからだ。
・・・お主が面倒くさがるのは私の不要な部分だけで作られた人間だからだ。」
琶月
「・・・私は・・師匠の不要な部分だけで作られた人間?」
輝月
「・・・結果、私は戦いに必要な最高の才能と最高の性格だけを残し並の人間には及ばない力を身につけて行った。
これは全てこの双月の陣の力のおかげなのだ・・・。
・・・初めは優越感に浸れた。私は戦いにおける最強の能力が揃ったのだとばかり思っていたからな・・・。
しかし、こうやって今振り返ってみれば私も悲惨な者じゃな・・・。
戦いに必要な性格。怒り、嫉妬、悲しみ、憎悪。・・・我が兄弟、霞月を越えられぬ事に怒りを覚え
父・・羅月の力に嫉妬し、霞月と羅月を自らの手で殺した事に後で悲しみを覚え・・・
そして私の前に現れたヘルを憎んだ。」

しばらく無言になり、もう一度輝月が喋る。

輝月
「・・・ワシはもう疲れた。今、この地に束縛されてから私はこの双月の陣を使った事を後悔・・
いや、無理やり使わせた羅月を恨んでおる。・・・琶月、私はお主が羨ましかった・・・」
琶月
「・・・師匠が私の事を羨ましかった・・・?」
輝月
「・・・そうじゃ。・・・・ジェスターに、キュー。お主があやつ等と遊んでたまに弄られ。
それでも最後は笑いあえる。素直に楽しめるその性格が羨ましかった・・・。」
琶月
「で、ですけど師匠!師匠だって笑ったりしてたじゃないですか・・・!
ほ、ほら!キュピルさんとかテルミットさんと冗談飛ばしあったり・・・!」
輝月
「・・・分らなかった。」
琶月
「・・・分らなかった・・・?」
輝月
「・・・私には楽しい、面白いと言う感覚がわからなかった。・・・唯一、嬉しいだけはわかったのじゃがな・・・。
キュピルやテルミット、お主にキューに皆。お主等の内、誰かが笑えば私も頬ぐらいは横に広げておく。
そういう気持ちでしかなかった。」
琶月
「・・・じゃぁ・・・師匠・・・。今まで私の前で見せた笑顔って一体・・・。」
輝月
「・・・・・」
キュー
「さっき嬉しい気持ちは分るっていったよね?
・・・輝月が自然と笑ったならそれは嬉しかったってことじゃないかな?
・・・その不器用な性格はこの陣が原因だったんだ。
おかげで凄く可愛い性格になっちゃってたけど。」
輝月
「ふっ、可愛い性格か。昔は言われた時、嫌悪しか感じなかったが今は不思議と嫌な気はしないな・・・。
ワシが死んだことによって双月の陣にかけられた力が薄れてきておるのかもしれんな。」
キュー
「薄れてきていると言うよりは覚えてきたって言ったほうがいいような気がする。」
輝月
「・・・覚えてきた、か。・・・もし、この双月の陣を使っていなければ私はどんな人になっていたのだろうな?
ただの普通の女性として。琶月のような元気な女性になれたのだろうかね。」
キュー
「輝月、ちょっと一つ聞きたい事があるんだけどいい?」
輝月
「何じゃ?」
キュー
「今、琶月は死なない体になっちゃったんだけどそれはこの双月の陣と何か関係があるの?」
輝月
「・・・死なない体になった?それはどういう意味だ?」
キュー
「こういうこと」
琶月
「え?」

キューが銃を引き抜き琶月の心臓に発砲した。

琶月
「あんぎゃあぁぁぁぁっっっっああぁぁっぁあぁっぁぁーーー!!!!」
輝月
「っ!!お主!!!」
キュー
「大丈夫。」

しばらく地面の上を転げ回り、ちょっとして起き上がった。

琶月
「い、いきなり何をするんですか!!!死なないと言っても痛い物は痛いんですよ!!!カァッーー!!!」
キュー
「わっ!!初めて琶月が反抗してきた!!」

琶月がキューに噛みつく。キューが悲鳴を上げながら逃げ回る。

輝月
「・・・これは一体どういうことだ・・・?このような効果・・・ワシは知らぬぞ。」
琶月
「はぁ・・はぁ・・・。・・・ほんと、師匠!キューさん、私が死なない事を利用して盾にしてくるんです!!
一発呪ってください!!」
輝月
「・・・キュー」
キュー
「ん?」
輝月
「何故琶月が死なぬのかは私には分らぬ。・・・琶月、確かにお主は私の一部から生まれた人間・・・。
・・・じゃが、例え琶月が死なぬ体、魔物だったとしても奴は一人ではきっと生きていけぬ。・・・これからも琶月の事を頼んでも良いか?」
キュー
「うん、任せて。」
琶月
「あの、良い感じにまとめないでください。呪ってください」

キュー
「呪ってほしいの?ンムムムムムーー!」
琶月
「私に呪わないでください!!!」

輝月が軽くため息をついた。

輝月
「・・・相変わらずじゃな。それよりキュー。お主は一体何故生きておるのじゃ?」
キュー
「それどういう意味?」
輝月
「・・・お主の年齢は今いくつなのだ?・・・100は超えているはずだ。」
キュー
「おっと、可愛い可愛い女の子の年齢は聞いちゃだめだぞ!でも100は超えてるね」
輝月
「・・・その幽霊刀のおかげか?」
キュー
「うん」
輝月
「その刀を見るとキュピルを思い出すな・・・・。
・・・私は死んでからずっとここに縛り付けられておる。だから外で今何が起きているのか全く分らぬ。
どうじゃ?キュピルやファンは元気にしておるか?どうせお主等の事だ。生きておるのだろう?」
キュー
「ファンは全く変わってないよ。昔と比べてちょっと色が薄くなった気がするけどね。
お父さんは・・・作者と道連れにどっか消えちゃった」
輝月
「・・・そうか」
キュー
「あれ?思ったよりリアクションない。」
輝月
「あやつの実力はよく知っておるからな。・・・安心せい、お主のお父さんは間違いなく生きている。
あの黒い渦に飛び込んで突然部屋に戻って来た男じゃ。死ぬはずがなかろう?」
琶月
「うーん、師匠・・・その・・フラグが・・・」

輝月
「ふぬ?死ぬ前から琶月からフラグと言われ続けておるが一体何の事じゃ?」
琶月
「き、気にしないでください!」
キュー
「・・・さてと」

キューが魔法陣の上に立つ。

琶月
「キューさん、何をするんですか?」
キュー
「・・・気付かなかった・・・?この魔法陣・・・。誕生石が埋め込まれている」
琶月
「え!!?もしかして・・・」
キュー
「そう、あのガーネットとアメジストと全く同じ類の誕生石。
・・・この誕生石の名前はルビーだね。7月の誕生石・・・。」
輝月
「・・・?何を言っておるのか私には分らぬ。」
キュー
「うん、わかんないだろうね。・・・ねぇ、輝月。この宝石。貰ってもいい?」
輝月
「・・・その宝石はこの双月の陣に魔力を供給し続けておる。
・・・魔法陣から外せば恐らく双月の陣は消滅するじゃろう」
琶月
「双月の陣が消えたらどうなっちゃうんです・・・?」
輝月
「私はこの束縛から解放され消えるはずじゃ。・・・私としてはむしろ引っこ抜いてもらいたいものだな?」
キュー
「よーし」
輝月
「・・・だが一つ気がかりな点がある」
キュー
「ん?」
輝月
「・・・琶月も一緒に消える恐れがある」
琶月
「・・・え?私も・・・ですか?」
輝月
「・・・今のは推測じゃ。嘘か真か実際にやってみねばわからぬ」
キュー
「うーん・・・・もしそれが本当だったとしたら・・・流石に引っこ抜くのは躊躇っちゃう・・・」
輝月
「・・・何故その宝石が必要なのだ?」
キュー
「・・・ある人から手紙を貰ってね。その手紙にガーネットが入っていたの。・・・一月の誕生石。
手紙の送り主によると、そのガーネットは作者を倒すためのキーとなるアイテムみたい。
ガーネットにはこの世界の物じゃない特別なマナが溢れてた・・・。
そしてナルビクの地下でアメジストを見つけた。二月の誕生石。
・・・見つけたアメジストにもこの世界の物じゃない特別なマナが溢れていた・・・。
そしてこのルビーにもね。この世界の物じゃない特別なマナが溢れている。
・・・このルビーももしかしたら作者を倒すためのキーアイテムかもしれない」
輝月
「・・・ふむ。・・・私はもうお主等の役に立たぬ。琶月の件が大丈夫そうであれば引っこ抜いて構わぬ。」
琶月
「そ、そんな!わ、私は・・・私は・・・師匠と・・・」
輝月
「ふっ・・・。双月の陣の効果かどうか知らぬが・・・。話によるとお主は私の事が好きらしいな?」
キュー
「え?何?琶月ってレズだったの?」
琶月
「ああああああああああああああ!!!!!!!!!
誰から聞いたんですかあああああああ!!!!!!1」

輝月
「キュピルじゃ。」
琶月
「キュピルさん、絶対にゆるs(ry」

キュー
「おぉぉ・・・琶月が珍しく怖い・・・」
輝月
「ふっ・・。別に何とも思わぬ。じゃが私なんかよりもっと良い女でも見つける事じゃな。」
キュー
「ここにナイスバディ〜な可愛い女の子がいるよ!!あは〜ん?」
琶月
「えー・・・・」
キュー
「殴るよ」


琶月
「ご、ごめんなさい!!」
輝月
「・・・・ふふ」
琶月
「・・・あ!今師匠笑ったでしょ?絶対笑いました!!ほら、やっぱり師匠だって面白いと思ったら笑います!」
輝月
「・・・・お主等に会えて私は本当によかったぞ。」
琶月
「え、何そのこれから居なくなっちゃうような台詞・・・」
キュー
「輝月。私、一回戻ってファンに意見を聞いてからルビーを抜くかどうか決めるね。
抜くまでは輝月もここにいるんでしょ?」
輝月
「うぬ、というよりはここから動けぬ」
キュー
「じゃー、また会えるね。」
琶月
「何だ・・・てっきり居なくなっちゃうのかと思った・・・。
・・・じゃぁ、師匠。また来ます」
輝月
「・・・頑張るのだぞ、琶月。お主は三代目の一番弟子なのじゃからな?」
琶月
「はい!!」
キュー
「じゃー、帰るよー」

そういうとキューはテレポートを唱え始めた。
しばらくして琶月とキューは青い光に包まれてアジトに戻って行った。



・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





その時、誰かが紅き慟哭の祠に入って来た。


輝月
「ぬ?まさか琶月とキューか?最近の魔法は進んでおるのじゃな」

・・・いや、数が多い。

輝月
「・・・・・・・・」

久々に輝月の表情が険しくなる。
・・・・祠の入り口から沢山の兵士とフードを身につけ鉄のお面を着けた人が現れた。

輝月
「・・・・誰じゃ、お主等は。・・・少なくとも赤い道場の者ではないようじゃな?
・・・キューの仲間とも思えぬ」
フードを被った者
「・・・・いや、私はキューの仲間」

・・・魔法で声色を変えている。・・・この時点で仲間とは思えない。

輝月
「ふっ、何を言うておる?仲間であるならばこんな武装した兵士を連れてきまい?
・・・・目的は何じゃ。場合によっては死を覚悟してもらおう。」

そういうと輝月が実体のない刀を抜刀する。
・・・・気がつくと輝月の傍に複数の男女が現れた。
・・・羅月、霞月、そして四代目、五代目・・・。かつて赤い道場主であった人たち。
その中で霊体でありながらずば抜けて強力なオーラを身にまとっている人が一人いた。
・・・・羅月・・・輝月と霞月の父親。



羅月
「・・・先程の女人は輝月の旧知らしかったから特別に見逃してやったが。
・・・お主等。ここがどこだと分って来ているか?」

W・L・C隊が動揺する。
・・・この気迫・・・とても霊体の物とは思えない。

フードを被った者
「・・・・・」

フードを被った者が手を前に出す。一斉にW・L・C隊が飛び出し手に持っていた火炎放射器で炎を放射する。
しかし霊体である彼等には全く通用せず、実体のない刀で次々と斬られていく。

W・L・C兵
「ぐあっ!」
霞月
「糞姉者。笑っちゃうね、こんなのが俺達を攻撃しようとしているんだからね?」
輝月
「黙れ」
霞月
「久々の戦いだ・・・。思う存分戦う!!」

犬猿の仲である二人。しかし息はあっている。

次々とW・L・C兵を薙ぎ払って行く。
霊体である彼等に対する有効な攻撃手段は一つもなく唯一効果のある魔法攻撃は
謎の結界によって全て防がれてしまう。
全て双月の陣の効果だ。

羅月
「くだらん。・・・残ったのはお主だけだぞ?」
フードを被った者
「・・・・・・・・」
霞月
「観念したら?」
輝月
「・・・・・・」

フードを被った者が突進し霞月を突き飛ばす。

霞月
「っ!?霊体である俺を・・・!?」
輝月
「!」

突然変わった刀が飛び出し、霊体でありながらも反射的に攻撃を回避する。
しかし、後ろに立っていた四代目に直撃し薙ぎ払われその場で消えてなくなってしまった。

輝月
「倭月!?・・・何じゃ、この攻撃は!?」
霞月
「霊体が・・吸収された!?」
フードを被った者
「・・・・・・・」
羅月
「・・・下がってろ。・・・お主、覚悟は出来ておるか?」

羅月の強力なプレッシャーが更に強くなる。

・・・・。



・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。











==キューのアジト


ファン
「・・・・。買いだしに言くと言いましたよね?」
キュー
「うん」
ファン
「でも手ぶらですね。」
キュー
「うん」
ファン
「てっきり買って帰ってくると思いしかも帰りが遅いので何処かで食べているのかと思って
もうお二人の料理は捨ててしまいました」
琶月
「ノットエコ!!ノットエコ!!」
キュー
「食べ物にあやまれ〜」
ファン
「そもそもお二人が買いだしに行く所か余計な行動をしているからです!!
それどころかW・L・C隊と交戦までしたそうですね!!
また引きこもり生活になってもよいのですか!?」


ファンの強烈な叱責を喰らいキューと琶月が部屋の隅に逃げる。

ファン
「反省すべきです!」
キュー
「ひゃー、ファンが怖いよー。」

キューが笑いながら琶月に抱きつく。

琶月
「うっ・・・!あ・・ぐっ・・・・・・・!!。」
キュー
「あ、ごめん!ちょっと強く抱きしめちゃった?でも琶月可愛いんだもんー!!」
琶月
「はっ・・・ぁ・・・っ・・・・!!」
ファン
「・・・琶月さんの様子が何かおかしくありませんか・・?」
キュー
「・・・琶月?大丈夫?おーい?」










==紅き慟哭の祠


フードを被った者
「・・・・・・・」

羅月と激戦を繰り広げた結果。羅月は敗北し敵の謎の攻撃を受けてこの世から姿を消した。

輝月
「(・・・・奴・・・。確かに羅月の攻撃を受けていた。急所も何度か貫いた。
・・・だが奴は傷一つ・・・受けておらぬ・・・。・・・・奴は一体何者だ・・・。)」

気がつけばこの紅き慟哭の祠にいるのは輝月だけになってしまった。

・・・敵の隙を伺うべきと、羅月が戦っている最中に岩の陰に隠れ身を潜めている。
・・・今は不幸にもキューのシーインジヴィルのため一般兵にでも可視できてしまう。

輝月
「(・・・・・・・・・・)」
フードを被った者
「・・・・・・・・・」

誰もいなくなったと思ったのか、不用心にもナイフを納刀し双月の陣に近づく。
・・・そして屈み、魔法陣の中央に埋め込まれているルビーに手を触れる。

輝月
「一閃!!」
フードを被った者
「!!」

突然岩陰から輝月が飛び出し、敵を斬りつける。
フードを被った者が攻撃を回避しようとするが顔に刀が激突し思いっきり斬られる。


深く入った。


・・・・。

輝月
「・・・」

後ろでお面の割れる音が聞こえた。
・・・どうやらしっかり命中したようだ。

輝月
「・・・・・!」

突然体に激痛が走った。
・・・・霊体になってからの初めての痛み。

フードを被った者
「・・・・流石輝月。輝月はキュピルに負けるぐらい弱いからもう居なくなったと思ってたら・・・隠れていたんだね」
輝月
「・・・!?お主・・・その声は・・・!?」
フードを被った者
「このナイフは特殊なナイフ・・・霊体にも効く。・・・痛い?・・・消えろ」

ナイフを引き抜かれ体が前に倒れる。
・・・突然自分が自分でなくなっていくような感覚に襲われる。・・・このままでは・・・やばい・・・。
・・・フードを被った者が再び双月の陣に近づきルビーを引き抜こうとする。

輝月
「・・・・」

・・・最後の抵抗。






そして数秒後。



双月の陣からルビーが外されW・L・C隊が手中に収めた。









楡月
「・・・うっ・・!ぐっ・・・か・・・・ぁ・・・・!?」
燈月
「ぃっ・・・ぁっ・・・!!!」
門下生
「し、師匠!?」
楡月
「(・・・だ、誰かが・・・双月の陣から・・・・紅き宝石を・・・・!?)
あの・・・小娘か・・・?・・・ま、まずい・・・き、きえ・・・る・・・・!!)」







琶月
「き・・・・きえ・・・・消える・・・・?・・・消える・・・消える消える消える消える消える消える!!!!!!!!」
キュー
「琶月!落ちついて!」
ファン
「キューさん、これは一体!?」
キュー
「分らない・・・。ねぇ、琶月!消えるって一体何!?
・・・・あ・・・まさか・・・・」

今嫌な事を予想した。


・・・・W・L・C隊・・・ルビー・・・。




・・・・・そんな。




キュー
「・・・・怒った・・・怒った!!!!!」
ファン
「キューさん!?」

キューが立ちあがり、幽霊刀を手にしてテレポートを唱え始めた。
・・・行き先は・・・紅き慟哭の祠。



続く。



第五話

紅き慟哭の祠にW・L・C隊とフードを被り鉄のお面を着けた者が現れた。
善戦むなしくも・・・・




==紅き慟哭の祠


キュー
「むー!!!」

入口に辿りつくや否、いきなり幽霊刀を抜刀し全速力で中に突撃していく。
先程まで沢山飛んでいた蛍はいなくなっていた・・・・。
最奥地まで進んで行くと消えかかっている双月の魔法陣と・・・フードを被った者がいた。
後ろを向いているが今日も鉄のお面を・・・。

キュー
「・・・ん・・・」

足元に半分に割れた鉄のお面が転がっていた。
・・・今なら素顔が見れる?
しかしその辺はどうでもいい。それよりこの消えかかっている双月の陣を何とかしないと。

キュー
「今まで遊びで付き合ってあげてたけど今回は遊びじゃないよ」

キューが幽霊刀の力を最大限まで引き出す。
蒼いオーラが幽霊刀と体から溢れ出ている。・・・風も巻き起こしている。

フードを被った者
「・・・・・。」
キュー
「・・・即死したくなかったらポケットの中に入ってるルビーを返して」
フードを被った者
「・・・キューに渡す訳にはいかない」
キュー
「・・・え?・・・ちょっとまって・・・。今の声・・・」

・・・魔法で声色を変えていない。それとも変える力が残っていないとか?
その時、フードを被った者が消えた。

キュー
「!」
フードを被った者
「・・・・・・・。」

真後ろに現れ、物凄い力で背中を思いっきり蹴られた。
吹き飛んでる最中にフードを被った者が目の前に現れ、キューの腹に飛び膝蹴りをお見舞いする。

キュー
「っ!?」

慣性の力も働いていたせいで、普通の攻撃より遥かに重たい一撃となった。
非常に重い痛みがキューを襲う。
膝をつきそうになるが、すぐに立ちあがり魔法で霧を発生させ目晦ましさせる。
見失っている好きに一旦岩陰に隠れ体勢を整える。

キュー
「(ちょっと、今のは凄く痛かった・・・・。・・・・一撃で仕留めないと後が面倒そう。)」

キューが息を整え、幽霊刀を構え直す。

キュー
「一閃!!」

瞬きした瞬間には端から端まで移動していた。
手ごたえはあったが・・・今の感触は鉄にぶつかった感触。どうやら防がれてしまったようだ。
しかし怯む事なくその一秒後にはもう一度一閃を繰り出す。
また防がれたが今度はその半分の時間でもう一度一閃を繰り出す。
短い間隔で強烈な技をドンドン繰り出し反撃させる隙を与えない。

キュー
「おりゃぁっーー!!」
フードを被った者
「っ・・・・」

今肩を思いっきり斬った。このまま一気にたたみかける。
そう思った次の瞬間、マナが爆発しキューを吹き飛ばした。

キュー
「うっ!」

予想外の爆発に大きなダメージを受ける。
・・・・どうやら意図的に発生させたらしい。
キューが怯んでる隙に逃げ出してしまった。
だけど今回は逃がさない。

キュー
「逃がさない」

キューが懐から懐かしい遺品を取り出す。・・・フックショット。昔ディバンがよく使っていた物だ。
改良を加えた結果、反動が大きすぎてキューじゃないと扱えない代物となっているがその分
初速と飛距離が優れている。
すぐにフックショットが敵を捉える。

キュー
「おりゃ!」

ボタンを押して引きもどす。
・・・霧にシルエットが現れた。そして次の瞬間、
こっちを向いて逆に突撃してきた!手にはナイフを持っており、引き戻されている慣性を逆に利用して
強烈な突き刺しを繰り出す。しかしシルエットで予測出来たらしくその攻撃を回避し
こっちに戻って来た所を思いっきり敵の腹に膝蹴りをお見舞いする。

フードを被った者
「ぃっ・・・!?」
キュー
「さっきのお返し」

フードを被った者がその場に崩れ落ちる。
・・・霧が晴れた。

キュー
「早くルビー返して。」

キューが敵の長くて青い髪の毛を鷲掴みにして頭を持ち上げる。

フードを被った者
「・・・絶対に・・・キューなんかに渡さない・・・!!」
キュー
「え、ちょっとまって・・・。・・・ル、ルイ!!?

今まで敵として戦ってきたフードを被り鉄のお面を着けた者。
お面で素顔を隠していたのは・・・?
あまりの出来事に流石のキューも動揺し鷲掴みにしていた髪の毛を離してしまう。
その一瞬の隙にルイがキューの手を叩き、謎の光に包まれて何処かに逃げてしまった。


・・・・。


キュー
「・・・何で・・?何でルイが作者サイドにいるの・・・?」

・・・・・ルイが去った今でも動揺している。
・・・・しかしすぐに今やるべき事を把握する。

キュー
「そうだ、そんなことよりも双月の陣・・・!!」

・・・魔法陣からルビーが引き抜かれた今、双月の陣は消滅しかかっている。
このままでは消えるのも時間の問題・・・。

輝月
「・・・キュ、キュー・・・」
キュー
「・・・!輝月!無事だったんだ!」
輝月
「・・・あまり無事とは・・言えぬ・・・。奴・・・ルイに殺される直前・・ルビーに憑依した・・・。
双月の陣の元となっているものじゃったから・・・何の問題なくルビーの中へ逃げれた・・・。
その際ルビーの持つ・・・マナを沢山溜めこんだからまだ・・意識を保てるが・・・非常にまずいの・・・。」
キュー
「とにかくどうすればいいの!?」
輝月
「・・・一番なのは・・ルビーを取り返す事じゃ。・・・無理なのは分っておるが・・・」

確かに輝月の言う通り無理だ。
さっきのルイのテレポートは全く見た事のない方法でテレポートして行ったため
何処に飛んだのか特定する事が出来ない。

キュー
「何か・・・何か他に方法は・・・。・・・そうだ!!輝月!ちょっと待ってて!!」
輝月
「待つも何も・・・ワシはもうここから動けぬ・・・・」

輝月が膝をつく。
キューが緊急テレポートを唱えてアジトに戻る。




==キューのアジト


ファン
「キューさん!琶月さんの意識が・・・」
キュー
「原因は分ってる!とにかくファンも一緒に来て!」

キューが宝石箱からガーネットとアメジストを取り出しすぐにテレポートを詠唱して再び
紅き慟哭の祠へと移動する。



==紅き慟哭の祠


たったの15秒で戻って来た。

輝月
「・・・ファンよ・・久しぶりじゃな」
ファン
「き、輝月さん!」
キュー
「輝月!ルビーと同じ魔力を持った宝石を持ってきたよ!!
これをはめ込めばきっと・・・・」

キューが魔法陣にガーネットをはめ込む。
・・・微妙に形が合わないが・・・大丈夫だろうか?
・・・一応奥深くまで嵌めこんだ。・・・しかし双月の陣は相変わらず消えかかってる。

キュー
「・・・何で・・ダメなの?」
輝月
「・・・いや、無駄ではなかった・・・ようじゃぞ?さっきより幾分か消失に歯止めがかかった・・・。
・・・それでもあと数十分後には消える・・・じゃろうが・・」
キュー
「・・・・琶月・・・琶月・・・」
輝月
「・・・・やはり琶月も私と同じく・・・消えかかっておるのか?」
ファン
「たった三分前まで意識があったのですが・・・うめき声を上げながら琶月さんは・・・」
輝月
「・・・・終わりじゃな・・。赤い道場は・・・・。今頃、当主である楡月も燈月も・・・消えかかっておるじゃろう・・・」
キュー
「一体・・・どうすればいいの」
ファン
「大体状況は理解しました。元々ここにルビーが嵌っていたようですね・・・。
・・・大方W・L・C隊に取られてしまったのだと思いますけれども・・・。」
キュー
「ねぇ、ファン!一体どうすればいいと思う!?ルビーはW・L・C隊の手中に・・・。
特殊なワープで逃げられちゃったから位置が特定できないし・・・同じマナを持っていたガーネットとアメジストで
代用する事はできなかった・・・!このままじゃ・・・輝月も・・・琶月も・・・・」
ファン
「エ、エーット、コウイウトキ・・・イッタイドンナチシキヲオモイカエセバイイノカ・・・・」

ファンも頭をフルに回転させているようだが中々思いつかないらしい。

輝月
「・・・・・・・キュー。あまり後ろ向きに考えるでない・・・。
・・・私は別に消えた所で今と全く変わらぬ・・・から重く考える必要はない・・・。
琶月かて十分生きた・・・。悔いはなかろう。」

心なしか輝月の精神は昔と比べると貧弱になってしまった気がする。
こんな場所に100年以上も閉じ込められていたからだろうか・・・・。
そんなどうでもいい事を考えていると、ある事を閃いた。

キュー
「・・・・そうだ・・!ギーン!!」
ファン
「そうです!こういうときは博識のギーンさんに知恵を貸してもらいましょう!」

ファンが瞬時にテレポートを唱えてキューと共にトラバチェスへ移動する。


==トラバチェス・王室

キュー
「ギーン!」
ファン
「ギーンさん!」
ギーン
「・・・おい。いきなりここに飛ぶのはナシだと言ったはずだ!」
キュー
「もう、そんなことは後でいくらでも謝ってあげるから!!とにかく来て!」

ギーンの手を掴みテレポートを唱える。
無理やり紅き慟哭の祠まで連れて行く。



==紅き慟哭の祠



ギーン
「一体何のつもりだ。俺が居なくなった事に兵が気付いたらどうするつもりだ。」
輝月
「・・・・お主、相変わらず空気が読めぬな」
ギーン
「む、輝月。久しぶりだな。霊体でまだ現世に居たとはな」
キュー
「ねぇ、ギーン!助けて!双月の陣が消えそう!」

キューが今にも消えそうな双月の陣を指差す。

ギーン
「・・・双月の陣か。現物を見るのは初めてだが・・・・。
・・・おい、双月の陣の魔力供給源となる魔法アイテムはどうした?」
キュー
「ルイに奪われた!!・・・って、あ・・・」
ギーン
「・・・何だと?」
ファン
「ルイさんですか!?」
キュー
「・・・後で話す・・。今はこの双月の陣を・・・。
このままだと琶月も輝月も・・・」
輝月
「ふっ・・・。わか・・らんな・・・。今までお主は・・・何人もの人を・・・死においやったじゃろう?
・・・・何故、ワシ等の・・・死がそんなにも・・・怖いのか」
キュー
「・・・・・・・・・・」
ギーン
「・・・・以前見せたガーネットとアメジストを使っているのか・・・・。
・・・こいつも確かに強力なマナを持っているが陣の型に合っていないな・・・。これだとマナを最大限まで
引き出せない。・・・他にこの陣の型に嵌る魔法アイテムはないのか?」

キューが首を横に振る。

ギーン
「・・・・まずいな。後5分持つかどうかだな・・・」
ファン
「ギーンさん、最終手段に近いですが・・・双月の陣は消えてしまうにしても
何とかして輝月さんと琶月さんを生き長らえる方法はありませんか?」
ギーン
「・・・輝月。俺の質問に答えろ。お前はこの双月の陣を使ったのか?」
輝月
「使って・・なければこうは・・・なっておらぬ・・・」
ギーン
「双月の陣で生みだした奴は誰だ。」
輝月
「琶月・・・じゃ」
ギーン
「キュー。すぐに琶月を連れてこい。・・・・双月の陣の崩壊を食い止めるのはもう無理だ。
・・・だが、その二人を生き長らえる方法はある」

そういうとすぐにキューはテレポートを唱えてアジトに戻る



==キューのアジト


キュー
「琶月!」

琶月はリビングの隅で丸くうずくまっていた。
・・・・ピクリとも動いていない。

キュー
「死んでないよね!?絶対に死ななかったのか琶月の売りなのに!!」

どうしようもない事を叫びながらテレポートを再び唱える。
・・・・マナが枯渇してきた。



==紅き慟哭の祠


キュー
「琶月を連れてきたよ!」

グッタリしている琶月を床に寝かせる。

ギーン
「今から双月の陣の効果を完全に消す。・・・消せば双月の陣と共に自身も消滅する事は免れるはずだ。
・・・・輝月を左の魔法陣に、琶月を右の魔法陣に寝かせろ。」
輝月
「・・・・・どうする気じゃ?・・・効果を完全に消す・・・。一体どういうことじゃ?」
ギーン
「・・・輝月の余分な物だけをもって生まれたのが琶月だ。・・・言うなれば分裂。
双月の陣の効果を完全に打ち消すことによって分裂する前の状態に戻す。」
キュー
「それって・・・輝月が双月の陣を使う前の状態に戻るってこと?」
ギーン
「そうだ。・・・やり方は簡単だ。ただ逆の手順を踏んで逆流させればいいだけだからな。
だが問題はそこじゃない。・・・輝月、お前はもう死んでいる。・・・成功する保証はない」
ファン
「しかし、このまま放置しても助かる見込みはないはずです。」
ギーン
「・・・効果を完全に消す、か・・・。こんな事文献には載ってなかったからな・・・。
記憶も体も状態も何が起きるか分らん・・・。・・・覚悟は出来てるか?輝月」
輝月
「・・・琶月のためじゃ・・・。頼む」

ギーンが杖を三回地面を突く。・・・その瞬間、杖に秘められていたマナが一斉に溢れだし
たちまち祠の中は強烈なマナで満たされた。あまりのマナの多さに全員、まるで水の中を漂っているかのような
錯覚に陥る。さっきまでの焦りや不安が全て消えた。

ギーン
「・・・・・・・」

ギーンがひたすら魔法を詠唱し時々杖でまた地面を突く。
そのたびに杖からマナが溢れ祠を満たしていく。
そして次の瞬間。まるで大爆発が起きたかのような衝撃が襲いかかる。

キュー
「!」
ファン
「!?」
ギーン
「っ・・・!」

何が起きているのか分らない。マナの暴発のような物にも感じられたが・・・・。

ギーン
「・・・っ!来たぞ!」

ギーンがより一層強く杖で地面を突く。





辺り一面が真っ白に包まれた。



ギーン
「はああああああぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!」















==???



羅月
『月下照らされし月光の加護を受けし人子!相対なる子を産みだす!』

羅月が双月の陣の前で呪文を唱える。
・・・魔法陣の上に立っていた輝月の体が宙に浮き白い光に包まれた。
・・・そして白い光は丸い球体となり輝月から離れてゆく。

白い光は右隣にある魔法陣へと移動し、真上まで移動するとゆっくりと降下し始めた。
白い光が降下し終わり魔法陣に触れた瞬間、魔法陣から赤い光がスポットライトのように光り
その数秒後。光はガラスの破片のように割れて消えて行った。

・・・そして魔法陣の上に赤ん坊が現れた・・・・。

羅月
『輝月よ。今日からこの子がお前の一番弟子だ。・・・こいつは無能だ。どれだけ修行を積み重ねた所で
実力はこれっぽっちも向上しない。言わばクズだ。・・・好きにこき使え』

まだ二歳だった輝月には何を言っているのか分らなかった。


・・・・それから数年が経過した。



魔法陣の上に現れた赤ん坊は琶月と名付けられた。
・・・自分がどのようにして産まれたのか、親が誰なのか。そして故郷は何処なのか一切知ることもなく。
ただ輝月の一番弟子として常に傍に居た。






決して仲が深まるとは思われなかった。
輝月に対して従順な召使。それ以上でもそれ以下でもない。
ただ一生そういう関係が続くのだと誰もが思っていた。



しかしある日。輝月は重大な事を犯してしまった。



血の繋がった自分の弟。霞月を卑怯な手段で殺した。
自分の父親である羅月を殺した。


・・・・誰が見ても狂気としか思えなかった輝月に近づこうとする人はいなかった。
いたとしても羅月の持っていた力をただ教えて貰いたいがゆえに近づく人だけ。


輝月
『・・・・・・』
琶月
『・・・・あの・・・師匠・・・?』
輝月
『・・・・・・』
琶月
『・・・・・修行・・・しなくてもいいのですか?』
輝月
『・・・・・・・・・』
琶月
『(羅月様と霞月様を殺してしまってから一カ月・・・。ずっと師匠はこんな調子・・・・。・・・・よーし)』



琶月
『師匠ー!』
輝月
『・・・・・』
琶月
『師匠!!勝負です!!』
輝月
『・・・・?』

輝月がその一言に反応し振り返る。
・・・・琶月が刀を構えていた。

琶月
『最近師匠落ち込んでばっかりでろくに修行もしてませんよね。
絶対に私負けませんよー!勝ちます!勝ちます!』
輝月
『・・・お主、それ本気で言っておるのか?』
琶月
『え、あ、えーっと・・・。そのー・・・。・・・・30%ぐらい本気?』
輝月
『・・・・・・・』

輝月が溜息をつきながら刀を引き抜く。

琶月
『う・・う・・・。・・・たああああ〜〜!!』

琶月が隙だらけな攻撃を繰り出す。
次の瞬間、輝月の鋭い一閃が繰り出され琶月の体に直撃する。

琶月
『あんぎゃあぁぁぁぁああぁぁっっ〜〜〜〜!!!!』
輝月
『・・・・峰打ちじゃ。』
琶月
『・・・・痛い痛い痛い痛い!!峰打ちだとは思えないです!!ぎゃあぁぁ〜〜!!』

痛みに転げまわる。

輝月
『・・・・ふっ、一体何をやっておるのか。お主は』
琶月
『あ!師匠!今笑いましたね?笑いましたよ!!!』
輝月
『・・・別に面白いなどと微塵も思っておらぬ。お主の馬鹿っぽさに呆れただけじゃ』
琶月
『ふっふっふ、しってますよー。師匠!今の世の中、そういうのをツンd・・・』
輝月
『琶月!!』
琶月
『は、はいぃぃっ!!!』
輝月
『・・・修行じゃ』
琶月
『はい?』
輝月
『修行を再開する!・・・お主も参加しろ』
琶月
『え!!?で、でも私!!師匠に教わる程上手くは・・・・』
輝月
『確かに最悪な攻撃じゃった。・・・だからこそ修行するのだろう?・・・今日から特別にワシがお主の修行も見てやる。
・・・・覚悟しておくのだな。』
琶月
『・・・・はい!覚悟します!!』











琶月
『ギャッ!!』
輝月
『・・・お主、本当にセンスがないのぉ・・・』
琶月
『うぅぅ・・・』
輝月
『・・・お主の場合、初めは守備から覚えて行ったほうがよさそうじゃな。』
琶月
『守備・・・ですか?』
輝月
『そうじゃ。良いか?戦いとは必ず守備の方が優勢なのじゃぞ。相手が動き出したのを見てから
それに対応した守備をすれば良い。敵がこうすれば、自分はこうすればよい。
ある程度の範囲で対処する事ができる。』
琶月
『ほぉほぉ・・・・』
輝月
『お主はたまに街や村に降りてるようじゃからな。護身にもなる基礎から教えよう』
琶月
『はい!!』






輝月
『はっ!』

輝月が琶月の腕を掴む。

琶月
『えーっとえーっと・・・。・・・えいやっ!!』

琶月が逆に輝月の手を捻って体勢を崩し、竹刀で輝月に反撃する。
ピシッと軽い音が響いた。

輝月
『・・・お主。ワシがわざと待ってやったからよかったが実戦じゃったらその判断の遅さは致命的じゃぞ?』
琶月
『ああああ!もっと頑張ります!!!!』






輝月
『はぁっ!!』

輝月が刀を使って攻撃を仕掛ける。・・・っと、思いきやフェイントで琶月の服を掴んだ。

琶月
『えいっ!!』

琶月が思いっきり頭突きし竹刀で輝月を叩く。

輝月
『・・・琶月。大分やるようになったな?』
琶月
『あ、ありがとうございます!』
輝月
『・・・まぁ、常人ならとっくに覚えられる物をお主はその10倍、時間はかかったがな?』
琶月
『言わないでください・・・・ううぅ・・・』
輝月
『ふっ・・・お主はワシの一番弟子じゃ。・・・お主が嫌と言うまでみてやる。それこそ一生だとしてもな?
・・・これからもしっかりついてくるのじゃぞ』
琶月
『はい!!師匠!!!』











それから数年後。








輝月の目の前にキュピルが現れ、キュピルの力を知るためにキュピルの元で修行することになった。




・・・・・。




始めて人の輪の中に入った輝月と琶月。
・・・・輝月に至っては常識離れしてる所が多々あったり、ヘルに対して終始イライラしていたりもしたが
お互い共に満足行く生活は送っていた。




・・・そんなある日の事・・・・。





・・・・作者がモンスターを操りアノマラド大陸を崩壊させようとしていたある日の時。





琶月
『・・・あのー・・・。師匠?最近・・また元気ないですよね・・・。入りますよー・・・?』

琶月が輝月の部屋の中に入る。

輝月
『・・・フ・・フフ・・ハ・ハハハ・・』
琶月
『・・・!!し、師匠・・!!?い、一体何を・・・!!』
輝月
『おぉ・・?琶月か。』
琶月
『し、師匠!その持ってる注射・・・!!』
輝月
『以前、キュピル等と共にトラバチェスへ行っただろう?
その時に、このような物を進められてな・・。ク、クフ。クフフフ・・』
琶月
『っっ!!!』
輝月
『気持ちが良いぞ?お主も打ってみるか?』
琶月
『あっ・・ああっ・・!!や、やめてください!!!!』

輝月が琶月の腕を掴む。・・・輝月のもう一つの手には注射器を持っている。
・・・身の危険を感じた琶月は空いてる手で自分の刀に手をかけ・・・。









・・・輝月の首を斬った。

・・・・輝月に教えて貰った反撃の技。




体が反射的に動いてしまった。



勝手に動いてしまった。



輝月の首を斬り、血しぶきをあげて倒れてゆく輝月の姿を見てはっと気付く。



輝月が地面に倒れるまでの3秒間の間。

・・・・その三秒が長く感じられた。

スローモーションかのようにゆっくり輝月が倒れて行く。


倒れて行く輝月を見て事の重大さに気付く琶月。






大きな衝撃音を立てて輝月が後ろに倒れた。









琶月
「あ・・・・あ・・・・・・。し・・・師匠・・・・。
わ・・わた・・・わた・・・し・・・は・・・!!!!」
















琶月
『ああああああああああああっ!!!!!
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!』



キュピル
『は、琶月!!お前!!何をしている!!やめろ!!!』

キュピルが慌てて琶月の持っていた刀を叩き落とす。
琶月の首からは血がダラダラと吹きだしている。

キュピル
『・・・!き、輝月・・・!琶月・・・これは・・・!?』
琶月
『キュ、キュピル・・・さん・・!!わ、私・・・何故か・・首斬っても死なないんです・・・!!!
師匠を殺しちゃって・・殺しちゃって私も後を追おうとしているのに・・・死なないんです!!!!
私・・・私は・・・!!!!』


キュピル
『・・・・』
ファン
『キュピルさん。残念ですが輝月さんは首を斬られて・・・死んでいます。・・・どうしますか?』
キュピル
『・・・話しは全部琶月から聞いてる。・・・どちらかといえば正当防衛だが・・・・。
・・・・・まさか・・輝月が・・なぁ・・・・。
・・・そっとしておこう。』

泣き喚く琶月の後にして部屋から出る。

・・・・。

真っ赤に染まった手で顔を覆い泣き喚く琶月。




琶月
『師匠・・・!!師匠!!!!動いてください!!目を開けてください!!!!
こんな結末私は嫌です!!!あの時師匠・・・私が嫌と言うまで面倒を見てくれるって言ったじゃないですか・・!!
ま、まだ私は・・・師匠と離れたく・・・う・・・・う・・・・。

ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!





琶月の悲痛の鳴き声が響き渡った。





















輝月
「琶月・・・・琶月よ・・・・。聞こえるか・・・・?」
琶月
「・・・・し・・・師匠・・・・?・・・・師匠・・・。私今・・・懐かしい夢を見てました・・・・。」
輝月
「・・・私もだ、琶月よ。・・・・・琶月、お主がもう知っての通り。私と琶月は元は一人の人間じゃった。
・・・それを双月の陣を用いて強制的に分離させ琶月が産まれた。」
琶月
「・・・師匠」
輝月
「・・・琶月。お主の戦いのセンスは最悪じゃった。
・・・じゃが常に私の事を気にかけてくれたお主が今は愛おしく思える。」

輝月が琶月に手を差し伸べる。

輝月
「琶月。ワシ等は今、再び一つになる時がきたようじゃ。・・・・ワシ等は元に戻る。」
琶月
「・・・元に・・・戻る・・・ですか?」
輝月
「そうじゃ。・・・・元に戻る。それは私と琶月との永遠の別れを意味する。
・・・・もうお主は私に会う事は出来ぬ。・・・・お主も私に会う事はできぬ。」
琶月
「・・・い、嫌です・・・!私・・・私師匠と離れたくないです・・・!!」
輝月
「・・・安心するが良い。・・・確かに二度と会う事は出来ぬ。
・・・・しかしワシ等は元々は一つだったのだ。・・・・これから先。私とお主は輝月でもあり琶月でもある。
・・・・私に会いたければ自分の心に問いかけてみれ。
私はお主の中におる。・・・お主も私の中に居る」
琶月
「師匠・・・。・・・・師匠ぉ・・・。」
輝月
「・・・泣くな、琶月。・・・・そろそろ時間じゃぞ?」
琶月
「うっ・・・ううぅ・・・・」

泣く琶月の前に輝月が腕を組む。









輝月
「・・・・琶月!!」
琶月
「・・!は、はい!」
輝月
「・・・行くぞ!!」

輝月が手を差し伸べてきた。

・・・・一度だけ涙をぬぐう。











そして。







琶月
「・・・・はい!師匠!!!」
















輝月の手を取った。





















==紅き慟哭の祠



キュー
「・・・・・あ・・・・」

・・・今やっと意識がはっきりした。
凄く気分が落ち着いている・・・。

キュー
「一体どうなったの?」
ギーン
「・・・・前を見ろ」

目の前にあった双月の陣はきえていた・・・。
その変わり双月の陣があった場所に赤髪で腰まで伸びている一人の女性が立っていた。

・・・・輝月でもなく、琶月でもない。
でも二人の面影が確かに残った女性。

・・・・その女性の口が開いた。







赤髪の女性
「・・・・私の名前は輝月。三代目当主。・・・本名は、月夜琶紅(げつや・はく)。」









・・・・数時間後









==キューのアジト





琶紅
「ところで・・・キュー。」
キュー
「んー?」
琶紅
「この前キューからダイヤモンド貰ったけど・・」
キュー
「うん」
琶紅
「あれ偽物だったんだけど!!!」
キュー
「え、えー!何で気付いたの!?琶月の癖に!」
琶紅
「あーあー!!その琶月のくせにっていう台詞!!それが一番ダメ!!
確かに琶月だった頃は見抜けなかった!見抜けなかったけど今の私には全部見抜けるからね!!
それにこれ!これもこれも!!この宝石も全部偽物!・・・うぅぅ・・・。」
キュー
「・・・あー・・・。琶紅?」
琶紅
「何?」
キュー
「・・・今から頑張って双月の陣使うからもう一度分裂・・・」
琶紅
「それもやっぱり嫌」



輝月と琶月の合わさった性格。
基本は琶月がベースになっているようだが輝月の持っていた最高のセンスが受け継いだせいか
やけに騙されにくくなっている・・・・。非常に扱いづらい。

ファン
「性格は完全に琶月さん寄りですが才能や目利きは完全に輝月さんよりですね。」

ファンが焦りながら答える。

キュー
「あの頃の可愛い琶月にもう一度会いたい〜〜〜!!」
琶紅
「あああああ!その!なんかごめん!嫌わないでーー!!!」
キュー
「あ、そのヘタレっぷり。やっぱり琶月だった」

琶紅
「えっ!!!」


キューが紙に何か書く。


キュー
「結論: 琶月の悪い所>輝月の良い所。」
琶紅
「・・・・・」

キュー
「その黙る所は輝月っぽいね。」
琶紅
「・・・ふふっ」
キュー
「何だかんだでやっぱり輝月にも見えるし琶月にも見えるなぁ〜・・・」
ファン
「琶紅さん。赤い道場の件ですが・・・」
琶紅
「赤い道場の事はもういいよ。・・・ああいうのは結局一代限りがよかったんだよ。」

・・・双月の陣の消滅。それにともない楡月と燈月も消滅。
・・・・結果、赤い道場から再び当主が消え門下生も解散。
完全に赤い道場は廃墟となってしまった。
もう二度と赤い道場は復活することはないだろう・・・・。

キュー
「でも何で琶紅は当主務めなかったの?何か出来そうな気がするんだけどなー」
琶紅
「・・・・腕に自身が・・・・」


キューがもう一度紙に何か書く。


キュー
「結論:琶月の腕-輝月の腕=相殺されて琶月の腕」
琶月
「ち、違う!絶対違う!私だって強い!一般人と勝負したら勝てる!!」
キュー
「やっぱり琶月だ・・・・。」
ファン
「・・・キューさん。双月の陣って確か琶紅さんの悪い所だけを取り除いて輝月さんを作ったんですよね?」
キュー
「うん」
ファン
「ですが、こうやって分裂する前は完全に琶月さん寄りですよね」
キュー
「うん」


ファン
「って事は実は琶紅さんから殆ど取り除いたのが輝月さんで結局一つになった所で
殆ど取り除かれている訳ですから変化が殆どないってことに・・・。」





・・・・・・・・・。





琶紅
「・・・・・うぅぅ・・・」
キュー
「ファンの言う通りかも。やっぱり琶月だ」







結論:琶月=スーパーダメ人間。



琶紅
「絶対違う!!!いつか輝月を越えてみせる!!」







続・・・

ギーン
「おい。一言俺に感謝してから『続く』って言いやがれ。くそが」




続く


ギーン
「おい(ry」



今度こそ続く



第六話


双月の陣の消滅、輝月と琶月が本来の姿に戻り琶紅となった。
しかしその一方で、消滅の原因となったW・L・C隊のルビーの奪取。
・・・そしてW・L・C隊の隊長格を表していたフードを被った者の正体はルイ・・・。



キュー
「よいしょっと」

キューが大陸地図を広げる。
・・・龍泉卿と紅い道の所に×印がついている。





琶紅
「キューさん。これからどうするのですか?」
キュー
「今までなんとなくの目的しか持ってなかったけどこの前の出来事で明確に分った事があったよ」
琶紅
「それは一体・・?」
キュー
「W・L・C隊も本気で誕生石を狙っている事。前々からガーネットとかアメジストとか要求していたから
狙っていたのは分っていたけどこの前は自らルビーを奪取して行ったからね・・・・。
だったらこっちもW・L・C隊より早く誕生石を集めないと。」
ファン
「問題点としては誕生石の大体の位置ですら特定出来ていない事ですね・・・。」
琶紅
「偶然二つは手に入れてるけど・・・この広い大陸で残り全部集めるのは凄く大変・・・。」
キュー
「・・・そうだね。今の所大陸の西部辺りを中心に探索しているけど東部も探索しないとね」
ファン
「キューさん。一つだけよろしいですか?」
キュー
「ん?」
ファン
「今まで僕達はテレポートで自由自在に街から街へ、フィールドからフィールドへと移動してきましたが
東部への移動はテレポートで移動できません」
キュー
「え?それは何で?」
ファン
「必滅の地についてご存知ですか?」
キュー
「必滅の地・・・。・・・そういえば昔・・・。ボリスって人から必滅の地についてちょっと聞いた事がある気がする。
・・・確かマナの宿った砂嵐が吹き荒れていて普通の魔法じゃ妨害されちゃうんだっけ?」
ファン
「当たりです。仮にカーディフからサンスルリアまでテレポートで移動しようとしますと
必滅の地の砂嵐にマナの流れを阻害され、結果予期せぬ場所に降りたってしまうと思われます。」
琶紅
「ブルーコーラルからサンスルリアに移動するっていう手段はないの?」
ファン
「残念ながらそれも不可能です。キュピルさん達が生きていた一世代前でしたら恐らく行けたと思いますが
近年、必滅の地の侵食が深刻化しているらしくこの地図の見た目以上に影響範囲が広いそうです。」
琶紅
「・・・ってことは今サンスルリアは魔法じゃ一切移動できないの?」
ファン
「そうなりますね。行くとしたら船で行くか、あるいは徒歩、乗り物で行くことになりますね。」
キュー
「ここから直接魔法で行ける範囲はどこ?」
ファン
「ハイアカン限定です。レコルダブルは必滅の地に侵食はされていないものの影響下にあります。
まだ必滅の地の近くにあるレンムの東部地方にも魔法で行く事ができません。」
キュー
「・・・ってことは東部に行こうと思ったら長い事ここを放置しなきゃいけないんだ・・・。」
ファン
「そうなりますね」
キュー
「・・・まだ向こうに宝石があると分っていないから現時点で行くのはちょっと愚策かもね。」
ファン
「同意します。」
琶紅
「(よくわからない・・・)」

キュー
「・・・よし、決めた。とりあえず西部をくまなく探索してから東部に行こう!」
ファン
「具体的にどこを探索しますか?」
キュー
「んー・・・。とは言っても西部も凄く広いからなぁー・・・。
・・・ねぇファン!誕生石の位置を大体でいいから特定する機械とか作ってよ!」
ファン
「・・・実は既に作ってたりします」
キュー
「流石ファン!ってか、もう作ってたのなら出し惜しみしないで早く出して
ファン
「キューさん。完成した訳じゃありませんよ。現在進行形で作っています。」
琶紅
「何時頃完成予定?」
ファン
「・・・未定です。申し訳ないのですが、作成するに当たって必要な材料が足りない上に
技術力も少し不足しているみたいです」
琶紅
「えー!?あのファンが技術力不足とか言っちゃってるよ!?」
キュー
「それほど難しいってことなのか分らないけど早く作ってもらわないと困るなぁー。技術力は置いといて
足りないな材料って何?」
ファン
「・・・先にアイテムを言いますと、同じマナと質量をもった宝石・・つまりあと一つの誕生石が必要です。
X軸、Y軸、Z軸。この三つの座標位置を導き出せた時、始めて位置を特定できますので・・・。
あと一つあれば・・・」
琶紅
「・・・あの時ルビーを取り返せれたら・・・」
キュー
「おーおー、琶紅が何か言ってくれてる!じゃー、これは琶紅に一個集めて貰おうかなー?」
琶紅
「ああああああ!!ごめんなさい!ごめんなさい!」

キュー
「ヘタレ輝月。」
琶紅
「うぅぅ・・・。」

キュー
「でも何か今まで硬派だった輝月が急にヘタレになったように見えて何か可愛い!!実状は琶月だけど
琶紅
「話題切り替え!!誕生石はきっとキューさんが手に入れて来てくれるはずです!」
キュー
「これは酷い」

琶紅
「問題は技術力・・・。ファンさん、一体どうすればいいのですか?」
ファン
「技術力と評していましたが、実情の問題は至ってシンプルです。必要な機材が全く足りません。
かなり大がかりな開発になるのでここのアジトでは作業スペースも道具も何から何まで足りません・・・。」
キュー
「ギーンに頼んでスペースと機材貸してもらったら?」
ファン
「既にこの前の一件で尋ねましたがスペースはともかく機材はないそうです。」
キュー
「えー・・?あのギーンでも揃えられない機材って一体・・・?」
ファン
「・・・実際にはガーネットとアメジストの保持するマナを受け入れられるだけの器が見つかれば
機材に頼らなくとも作れるのですが・・。・・・難しい問題です」
琶紅
「うーん・・・。・・・・あれ?ファンでも作れないってことは
W・L・C隊もそういう特定する方法持っていないってことじゃないの?」
キュー
「・・・そうかな・・。誕生石があった付近で尽くW・L・C隊と接触している所を見ると・・・
意外と近くまでは自力で見つけ出せているのかもしれない」
琶紅
「だったらW・L・C隊のアジトに潜りこんで特定する装置なり人なり強奪、誘拐とかして・・・」
キュー
「意外と黒い事言うね、琶紅」

琶紅
「手段は問わない!」
キュー
「でもその方法、頂いた!」

琶紅&ファン
「・・・・・・・え?」











==龍泉卿


キュー
「今まで一番W・L・C隊の出現頻度の高い街!」
琶紅
「あの・・・キューさん・・。W・L・C隊と接触するのは別に構わないのですが、接触した後どうするんですか?
捕まえて拷問とかかけてアジトの場所を吐かせるのですか?」
キュー
「それでもいいけど、拷問は私の趣味じゃないからやらない」
琶紅
「私を盾にするのは拷問だと思いますけど。」

キュー
「琶紅は特例。」
琶紅
「いつか家出して自分だけの幸せを・・・。」

キュー
「ニヤニヤ。」
琶紅
「もう嫌だ〜!!ぐすんぐすん・・・すぴーんすぴーん・・・。」

道の端で膝を抱えて落ち込む琶紅。

キュー
「(そういう所が可愛いからついついやっちゃうんだよね〜?)
ほら、琶紅。一応W・L・C隊が来るまでは買い物を予定してるから行こうよ。
今日だけ特別に何か欲しいのあったら買ってあげる。」
琶紅
「ほ、ほんとですか!?」
キュー
「もちろん。嘘は言わないよ。」
琶紅
「で、では・・・。」






==武器店・「戦闘民族」


キュー
「ひゃ、百・・二十万Seed・・・?」
琶紅
「わくわくどきどき。」

目の前に飾られている超最高級品である刀。「天上天下」。
・・・・確かに物凄い刀だというのは一目ですぐにわかる。値段もそれ相応だというのもわかる。・・・しかし。

キュー
「・・・琶紅、これ本気?」

琶紅
「何でも買ってくれるって(ry」
キュー
「・・・・・・。」

キューが溜息をつく。

キュー
「・・・あー、今W・L・C隊が来てる気がするー!ここにいたらきっと危険だー。」

そういって店から飛び出すキュー。

琶紅
「あ!!嘘言わないでください!!」

琶紅も外に出る。



==龍泉卿


店の外に出た瞬間、鉄槍を前に突き出したW・L・C隊に思いっきり囲まれた。


琶紅
「うっ・・・。な、何で本当にいるの・・・。私の天上天下が・・・。」
キュー
「ありゃりゃ・・・。さっきのは嘘で言ったんだけどまさか本当にいたなんて・・・。」

二人とも両手を上に上げて降参のポーズを取る。

W・L・C隊の間からフードを被り鉄のお面をつけた人が現れた。
・・・・ルイだ。

ルイ
「・・・・・・・。」
キュー
「もう隠す必要なんてないはずだぜ。」
ルイ
「・・・・・・・。捕えろ。」
キュー
「おーっと、そうはいかない!」
ルイ
「・・・!」

突然キューの周りから白煙が舞い上がり視界を覆った。


琶紅
「わあああ!おいてかないでください!げほっ、げほ!!」

琶紅が咳き込んでいるとすぐ後ろにキューが現れた。

キュー
「(琶紅、とりあえずW・L・C隊来ちゃったから逃げて。)」
琶紅
「(え!戦わないんですか!?)」
キュー
「(言ったでしょ?今回はW・L・C隊のアジトを見つけ出すのが目的って)」
琶紅
「(だからW・L・C隊と戦ってルイさんとか気絶させて尋問・・・って・・・もしかして・・・!!?)」
キュー
「(当たり。ばいばい。)」
琶紅
「あ!!」

キューが緊急テレポートを琶紅に使い、琶紅を離脱させる。
マナの流れで逃げられるとすぐにルイが察知し銃を取り出して感覚に身を任せて乱射する。
あえてその攻撃を回避せず、急所だけ回避して全段被弾する。

キュー
「別に何て事・・・・ん・・・。」

・・・・何か変わった感覚が体に。
・・・・毒?

キュー
「あー・・・しまった・・・。麻痺か・・・。」

麻痺となると少し話が・・・。
長い時間、意識を失ってしまうと一番困る。
しかし意思に反して、そこでキューの意識は途切れてしまった。















==キューのアジト



琶紅
「ファ、ファ、ファンさん!!!」
ファン
「・・・やはり作戦通りになっちゃったようですね」
琶紅
「え!?ファンさん知ってたのですか!?」
ファン
「一応本人から話しは聞いていたので。」
琶紅
「何で私には話してくれないのーーー!!!!」
ファン
「・・・琶紅さん。・・・正直な所、流石のキューさんも無傷で帰って来れるとは思っていません。」
琶紅
「あ、当たり前じゃん!敵の本拠地だよ!?真の本拠地!ラスボス!」
ファン
「ちょっと落ちついてください。一応キューさんを魔法でマークしていますので
今何処に居るかすぐに分るようになっています。場所を特定しましたらすぐに助けに行きましょう。」
琶紅
「はい!!」





























==???







キュー
「・・・ん・・・・」

朦朧とする意識の中、明確に今意識が覚醒しつつあるのを実感する。

キュー
「・・・・ふあぁ〜・・。」

大きなアクビをする。手で口を抑えようとしたが腕が動かない事に気付く。

キュー
「ん?」

両腕には拘束具がつけられており壁に固定されている。

キュー
「何だよ何だよー。立ったまま寝かされてたの?」

適当に腕を動かそうとするが当然外れない。

キュー
「んー・・・とりあえずここはいつも通り牢獄って感じかな。」

さっそく脱出しようと思った瞬間、鉄格子の向こう側から一人のW・L・C兵が現れた。

W・L・C兵
「おい、今から隊長の元まで連行する。無駄な抵抗はするんじゃないぞ。」
キュー
「隊長さんの所に連れて行かれた後、アタシはどうなるのかな?」
W・L・C兵
「さあな。恐らくはお前のアジトの場所を吐かせるための拷問でもするんじゃねーのかな。」
キュー
「拷問かー。痛いのは嫌だから逃げるかな。」
W・L・C兵
「馬鹿言うな。」
キュー
「馬鹿言ってない。」

そういうと突然、キューの腕を拘束していた金具が真っ二つに割れ、それと同時に鉄格子も
カラカラと高い音を立てながら崩れて言った。

W・L・C兵
「なっ・・!?」
キュー
「ふっふっふ、アタシを舐めちゃだめだよ。呪文抵抗張り巡らさなかったのが失敗だったね」

キューがそのままゆっくりとW・L・C兵に前進する。アサルトライフルでキューを撃とうとするが
撃つ前にキューの強烈なストレートジャブが顔面に入り、そのまま気絶してしまった。

キュー
「・・・さってと。」












==通路



W・L・C兵
「あの小娘が脱走したらしいぞ。」
W・L・C兵2
「想定内と言えば想定内だな。呪文抵抗張り巡らさなければ当然そうなるだろう。」
W・L・C兵
「何故かけなかったのだろうな。」
W・L・C兵3
「仮にかけてなかったとしても出れた自信はあったよ。」
W・L・C兵2
「ふーん。・・・・って、何を根拠に言ってるんだ?」
W・L・C兵3
「だって、自分の事は良く知ってる。」

そういうと目の前二人のW・L・C兵を思いっきり頭突きと蹴りを喰らわせて一瞬で気絶させる。

キュー
「にひひひ。まさか、誰もアタシがW・L・C兵に変装しているなんて思わないだろうなー。」

ヘルメットさえ被ってれば誰も気づかない。
・・・・ただ服装の関係上、胸がちょっと苦しい。

キュー
「片っ端から捜索するかー。それに装備や鞄は全部取られちゃってるようだし取り返さないと。」


とりあえず近くにあった自動ドアの前に立つ。・・・しかし開かない。

キュー
「あー、そうだったぜ。カードキーが必要だった。」

胸ポケットに入っていたカードキーを取り出し、照合させる。
ドアが横にスライドされた。

キュー
「奪った服の中に偶然入っていてよかったぜ。」






==W・L・C兵舎

どうやらここはW・L・C兵の寝床らしい。
ベッドと棚が一杯並んでいる。何人か寝ていたり遊んでいたりしていた。

W・L・C兵
「今度休暇取ったらこいつを売りに行こう。」
W・L・C兵2
「大丈夫なのか?勝手に盗って。もしかすると隊長の求めている物かもしれないぞ。」
W・L・C兵
「隊長は真っ先に小娘の手荷物を調べた。で、何も盗らずに行っちまったから要らないってことだろ。」
W・L・C兵2
「まぁ、そうか。しかしこの剣。ボロボロだな。売れるのか?」
W・L・C兵
「ボロいけど質は凄くいいぞ、この剣。」
キュー
「おーおー、よくわかってるじゃん。」

キューが魔法を唱えて二人のW・L・C兵の頭上に大きな石を落とした。ガンと鈍い音を立てて二人は気絶した。
・・・二人だけじゃなく、この室内にいた全てのW・L・C兵の頭の上に大きな石が落ちていた。
起きていたW・L・C兵は全員気絶し、眠っていたW・L・C兵は眠りから気絶へと変わった。

キュー
「アタシの荷物、返してもらうよ。」

キュピルの愛剣と散らばっていたキューのアクセサリーを取り返した。
・・・いくつかポーションやら魔法石やら消えているようだがその程度なら問題ない。

キュー
「さってと、他は何もなさそうだし行くかな。」

剣を腰に結び付けてW・L・C兵の持っていたアサルトライフルを適当に巻き上げて通路に戻る。



==通路


ひたすら通路を進み続け、適当に部屋の中に入って行く。
しかしどこの部屋も兵舎ばかりで、めぼしい物は見つからない。

キュー
「(あー・・・そろそろ、つまらなくなってきた・・・。
・・・・・ん?)」

その時今までと違う扉を見つけた。この扉だけ普通の家にもあるドアノブのついた扉になっている。
通路に誰もいない事を確認してドアノブをゆっくり回してちょっとだけドアを開き、部屋の中を覗く。


キュー
「じぃー・・・。」

・・・・かなり豪華な部屋だ。
・・・誰もいない?

その時突然ドアが大きく開いた。
覗いていただけにちょっとびっくりするキュー。

キュー
「わっ!」

前に転倒し急いで起き上がる。目の前にルイが立っていた。

ルイ
「・・・ここに連れてくるように頼んだけど一人で来るようにとは言ってないけど?」
キュー
「アーアー、これは失礼しました隊長殿ー。」
ルイ
「・・・・。」

突然ルイが銃器を取り出し、キューの頭を狙って撃った。
一瞬反応が遅れ、そのまま撃たれるがヘルメットが防いでくれた。しかしヒビが入りそのまま割れてしまった。

キュー
「あー!せっかく変装できていたのに!!」

文句を言っている隙にルイが更にキューの足を狙って二回発砲する。
所がキューはわざと放った銃弾を逆に蹴り飛ばし何故か跳ね返す。
跳ね返った二発の銃弾はルイの肩を貫通し持っていた銃を落としてしまう。

キュー
「たああぁぁっー!!」
ルイ
「っ!」

キューが突進しルイを転倒させる。
転倒したルイの上に馬乗りで乗っかり首を抑える。

キュー
「さぁー、大人しく降参しろー。さもないと首絞めて殺すぞ〜。」

もはや悪者としか思えない台詞を吐く。
ルイがキューの腕を掴んで引き離そうとするが凄まじい力でルイの首を抑えているため動かせない。

ルイ
「・・・・・・・・・・」
キュー
「・・・・!させないよ!!」

ルイが何か小声で魔法を呟いたのを聞きとった。思いっきりルイの首を絞める。
しかし咳き込む事なくそのまま唱え続け何か強力な衝撃波を出してキューを吹き飛ばした。
近くの小さなタンスの角に頭をぶつける。

キュー
「いてっ!」

その衝撃でタンスの上から何か落ちてきた。

キュー
「ん。」

・・・綺麗な箱だ。

ルイ
「!」

ルイが凄まじい勢いでキューに接近し、持っていた綺麗な箱を奪い返そうとした。
これが大切なものだとすぐに分かり、接近してくるルイのお腹に飛び込んで頭突きを喰らわす。

キュー
「カウンター!」
ルイ
「っ!」

よろけるルイに飛び膝蹴りを顎にぶつけ後ろに転倒させる。
再びルイがまた倒れさっきと同じように馬乗りに乗ってルイの首を絞める。
今度は何の躊躇を見せずにルイの首を強く絞める。
最初の数秒は激しい抵抗を見せたが徐々に抵抗が薄れて行き、そして十五秒後には完全に動かなくなった。

キュー
「あー、やっと気絶してくれた・・・。」

大動脈さえ数十秒間の間絞めてしまえばあっさりと人は気絶する。
・・・ルイが気絶している間に色々この部屋を物色しよう。

まずはルイの手荷物から。

キュー
「この強そうな銃器はアタシが貰うぜ。」

ルイの持っていたデザートイーグルを奪う。
・・・他にもルイの体を部分的に守っている特殊な防具を剥ぎ取る。

キュー
「さてと、後はポケットだなー。」

ルイのポケットを全て探る。

・・・・。

・・・・・・・・・。

キュー
「ん?」

鍵が出てきた。
・・・カードキーではなく、豪華な装飾が施された鍵でもなく、錆ついたオンボロの鍵・・・。

キュー
「何だこれ?」

・・・・でもルイが持っているということはきっと大切な鍵なのだろう。
自分のポケットにしまう。
後はルイから出てきたのは自身のマナを強化する魔法石と銃弾だけだった。それら全て盗む。

キュー
「ルイはこんなもんかなー。」

起きてもしばらく行動できないように魔法でロープを召喚し、ルイを簀巻にする。
簀巻にした後は部屋にあったトイレに閉じ込めた。
トイレから中々出られないように棚やらタンスやら魔法で動かしてドアを塞ぐ。

キュー
「よーし。他にも何かこの部屋にないかなー。」

・・・大きな机と座り心地のよさそうな椅子。
机の引き出しを調べる。
・・・一通の手紙と豪華な装飾が施された鍵。

キュー
「んー?」

手紙を開いて中身を読む。









                    』


キュー
「んー・・・?何も書かれていないじゃないかー。」

・・・これから書く所だったのだろうか?
とりあえずメモ書き用に貰っちゃおう。
後はこの豪華な装飾の施された鍵の使い道・・・。

キュー
「・・・あ、そうだ!」

さっきルイが取り返そうとした重要そうな綺麗な箱。
さっそく蓋を開けようとしたら鍵がかかっていた。

キュー
「・・・・そうだ、直感。」

さっき手に入れた豪華な装飾の施された鍵を鍵穴に挿して回してみる。
・・・開いた。

キュー
「じゃじゃーん。・・・・・お〜〜〜!」

綺麗な箱の中にはルビーとラピスラズリが入っていた。

キュー
「これは・・・双月の陣に埋め込まれていたルビーだね。
そしてこれは・・・ラピスラズリかな?一瞬サファイアかと思ったけど。
・・・12月の誕生石。これにもルビーと同じようにこの世界の物じゃない強い魔力が秘められている。」

・・・どうやらこの綺麗な箱に誕生石を保管していたようだ。
取り返しただけじゃなく、新しい誕生石を一つ手に入れた。・・・しめた感はある。

キュー
「・・・さてと、他の部屋を巡ってみるかな。」

通路の様子を伺ってW・L・C兵が一人でやってくるまで待ち伏せし、一人で現れた部屋の中に引きずり込んで
ボコボコにし、再びヘルメットを盗んでW・L・C兵に変装した。

キュー
「よーし。」

通路に戻ろうとした時、一つ妙な違和感を覚えた。

キュー
「・・・・ん?」













==キューのアジト



琶紅
「ファンさん、どうです?場所は掴めましたか・・・?」
ファン
「・・・・ダメです、反応がありません。」
琶紅
「・・・ぬぅー・・・。ファンさんの力を持ってしてもキューさんの場所が特定できないなんて!」
ファン
「アノマラド大陸でしたら例え地下に居たとしても必ず突きとめる事ができるのですが・・・。」
琶紅
「・・・もしかして・・・・。」
ファン
「大体予想がついていると思いますが・・・。・・・もしかするとキューさんは今アノマラド大陸にいないかもしれません。」
琶紅
「それじゃキューさんを助ける事が出来ないじゃん!!」
ファン
「・・・しかしキューさんの事です。そう簡単にはやられたりはしないでしょう。今頃もしかするとルイさんを倒して
誕生石を取り返しているかもしれませんよ?」
琶紅
「うーん・・・。・・・私もそんな気がしてきた。」
ファン
「・・・しかし困りましたね。」
琶紅
「ん?何で?」
ファン
「もしキューさんが今アノマラド大陸にいないとすれば緊急テレポートもテレポートも使えませんね。
詠唱初めにまず自身の座標位置を割り出し、次のテレポートしたい場所の座標を指定。
最後にそこまでの距離と障害物から必要なマナとその出r・・・」
琶紅
「あー!私に魔法の説明されても全然わかりません!!三行で!!」
ファン
「テレポート
アノマラド大陸以外じゃ
使えません」
琶紅
「理解!・・・・・・って!それじゃキューさん帰れないじゃないですか!」
ファン
「そうなりますね・・・。」
琶紅
「・・・うぅぅ・・・結局助けに行けない・・・。せっかく私の戦闘能力の高さを見せる時が来たって言うのに・・」
ファン
「確かに琶紅さんは一応輝月さんな訳ですから実力あるのかもしれませんが琶月さんの能力が
輝月さんの能力を殺してはいないですよね?」
琶紅
「そ、そんなことない!きっと!多分!!」
ファン
「・・・段々自信喪失していませんか?」
琶紅
「うぅぅ・・・。」












==???・ルイの部屋




キュー
「じぃー・・・・。」

・・・・拭いきれない妙な違和感。
この壁・・・何故か怪しい。

そう、ここの一部分の壁だけ壁紙の背景が微妙にずれている。

キュー
「私の部屋じゃないから破っちゃおう。」

キューが違和感を覚えていた壁をビリビリに破る。
・・・破れた壁紙の先に錆ついた扉が現れた。

キュー
「なるほどー。このボロボロの扉の上から壁紙を張ってたんだ。一体何を隠していたのかな?」

扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。
・・・・ボロボロの扉・・・。

キュー
「この扉を空ける方法は二つ!私が本気出してぶっ壊す!
もう一つの方法。それはこのボロボロの鍵を試してみる!
・・・でも今はこの扉を無性に吹き飛ばしたい気分!おりゃぁー!!」

キューが魔法で自信の力を倍増させ思いっきり錆ついた扉を蹴り破ろうとする。
しかし見た目に反して異常な硬さを誇っておりただ足が痛くなっただけだった。

キュー
「いててて!・・・・むぅー!」

もう一度蹴ろうとしたが大人しく錆ついたオンボロの鍵を鍵穴に差し込む。
・・・・見事に入り、そのまま鍵も開いた。
扉の先はひんやりとした冷たく、重い空気が充満していた。
・・・石の階段が地下へと続いていた。

キュー
「・・・何があるんだろう。」

武器を抜刀して慎重に階段を下りていく。

・・・・。


・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




しばらく下りて行くと松明の光が見えた。
どうやら一番下まで下ったようだ。

キュー
「・・・・牢屋?」

・・・牢屋が四つあった。
・・・・。手前に見える二つの牢屋の一つには骨だけが残っており、もう一つの牢屋には何もなかった。
奥に進み残り二つの牢屋を確かめる。
・・・その時、一つの牢屋に誰か居るのに気付いた。

キュー
「・・・・ん?」

・・・・牢屋の隅で誰か一人、うずくまっていた。
・・・・寒いのかずっとガタガタ震えている。

キュー
「おーい、大丈夫かー?」

キューの声に気付いたのかハッと顔を上げる。
その顔を見てキューが驚く。

キュー
「・・・・え!?」
ルイ
「・・・・あ・・あ・・。あの・・!!」

牢屋の中に閉じ込められていたルイが立ちあがり鉄格子の元まで走って来た。

ルイ
「だ、誰だか知りませんけどここから・・ここから出してください・・・!助けてください!!」
キュー
「・・・ね、ねぇ!ちょっとまって!ルイだよね!?」
ルイ
「え・・・?どうして私の名前を・・・?」
キュー
「・・・さっき上にもルイが・・・。トイレに閉じ込めたはずなのに何で今度は牢屋に閉じ込められているの?」
ルイ
「あの私にそっくりな人はルイじゃありません!偽物です!!」
キュー
「え、え、え、えええええええーーー!!!!?・・て・・・ってことは・・・?」
ルイ
「・・・もうここに何十年もの間・・・閉じ込められて・・・。・・・気が狂いそうでした・・・・。」
キュー
「ちょっと鉄格子から離れて!今助ける!」

ルイが鉄格子から離れる。
キューがキュピルの愛剣を抜刀し構える。

ルイ
「・・・・!!そ、その剣・・・キュピルさんの・・・!?」
キュー
「一閃!」

キュピルと全く同じ技の一閃を使う。鉄格子がバラバラになりカランコロンと音を立てながら落ちた。

キュー
「もう大丈夫!逃げよ!ルイ!」
ルイ
「あ、あの!!だ、誰だか知りませんけど・・・ありがとうございます・・・。でも・・何でキュピルさんの剣を・・・?」
キュー
「・・・ルイ。詳しい話をするだけの時間はないけど私はキュー。キュピルの娘!」
ルイ
「・・・え、え・・・!!?キュ、キューさん!!?」
キュー
「おうー。あのキューだぜー。さ、行こう。」

ルイの手を握る。・・・凄く冷たい。体が冷え切ってしまっている。
こんな状態で何十年も閉じ込められていたなんて・・・。


キュー
「(・・・・って、ことは・・・。あの上にいたルイは・・・誰・・・?)」

少なくとも扉を隠し、こんな所でルイを閉じ込めていたということは上に居るルイは偽物だろう。
偽物なら殺しても問題ないが・・・・。

キュー
「・・・・・・・。」


本来ならこのまますぐ脱出場所を探してすぐに脱出する所だが・・・。
まだこのW・L・C隊の本拠点で探さなければ行けない物がある。

・・・どうしていつも目の前に現れるのか。
何故誕生石のある場所にすぐ現れるのか。

何か誕生石を探す方法を持っているのか?


少なくともこれを見つけ出さない事には忍び込んだ意味がなくなる。


キュー
「ルイ。ちょっと訳あってまだこの拠点で探さなければいけない物がある。」
ルイ
「それは一体・・・?」
キュー
「・・・アタシはもう一回ここの拠点をうろうろするけどルイはどうする?もう一回牢屋に戻って捕まってる振りを・・・」
ルイ
「い、嫌です!!絶対に嫌です!!も、もうあんな所に・・・」

ルイが急に泣きだしキューの腕にしがみつく。

キュー
「わ、わかったわかった!アタシが悪かった!でも、このまま通路に出てもルイは武器持ってないから・・・。
・・・・あ、そうだった。」

キューのポケットから上のルイが持っていたデザートイーグルを取り出す。

キュー
「はい、ルイ。」
ルイ
「・・・あ!これは・・・!!」
キュー
「これはルイの物?」
ルイ
「これは私の物です!」
キュー
「戦える?」
ルイ
「・・・大丈夫です・・!!やります!!」
キュー
「うん、大丈夫そうだね。じゃ、上に戻るよ。」


そういうと再び階段を上り始めた。


・・・・・まだこの拠点で探さなければいけない物は多い。




続く。





追伸

ちょっと全体的に短くてごめん。



第七話


隊長格らしき部屋から綺麗な箱を奪取。鍵を使って箱を開けてみると中にはルビーとラピスラズリが入っていた。
二つとも、ガーネットとアメジストと同じ魔力を持っていた。
そして隠された扉の奥に捕えられていたもう一人のルイ・・・。




キュー
「てやぁっー!!」

キューがガトリングガンを持って通路にいるW・L・C兵を一掃する。

キュー
「にひひ、さっきの倉庫にこんないい武器があったなんてな〜。おらおらおら〜。」

豪快に銃弾をぶっ放し続ける。・・・その時、通路の奥から妙な音が聞こえてきた。

キュー
「ん・・・?」

すぐ目の前の曲がり角から2.5mぐらいの作業用ロボットに乗ったW・L・C兵が現れた!
ただの作業用ロボットかと思えば両碗にガトリングガンが装填されていた。
キューにガトリングガンを向け一気に掃射してきた!

キュー
「ひゃー!流石にロボットはないない!ルイー!何処に行ったのー!!?」
ルイ
「ここです!RPG-7!!」

昔、キュピルと共に戦った時によく使ったロケットミサイルを発射する。
ロボットに激突し、装甲を貫いて爆発した。

ルイ
「よし!」
キュー
「おー、閉じ込められていても腕は衰えていないもんだな〜。」
ルイ
「ふふふ・・・。」

が、その時。爆炎の中から別の作業用ロボットが現れ大きな巨剣を前に突き出して突進してきた!

キュー
「危ない!」
ルイ
「わっ!」

キューがルイを思いっきり持ち上げて天井にぶつける。そしてキュー本人はロボットの股の下をスライディングで潜り
攻撃を辛うじて回避する。その数秒後、ルイが頭上が落ちてきた。

ルイ
「痛っ!」
キュー
「生きてるから気にしないー。」
ルイ
「まだ何も言っていません・・・。」

すぐに作業用ロボットがこっちに振り返り、左腕に装填されているガトリングガンを連射しながら再び突進してきた!

キュー
「あらよっと〜!」

キューがガトリングガンの攻撃を全て避け、作業用ロボットのコクピットの上に乗っかる。

W・L・C兵
「うわ!!」
キュー
「にひひ、そのロボット。頂戴!」

キューがキュピルの愛剣でコクピットの窓ガラスを無理やり壊す。そしてコクピットからW・L・C兵を無理やり追い出した。

キュー
「奪った!試運転!!」

キューが今放り投げたW・L・C兵に向けてガトリングガンを掃射する。ハチの巣にされたW・L・C兵は即死した。

キュー
「えーっと、このペダルは何だー?」

右足にあるペダルを踏む。踏んだ瞬間、背中に装填されていたエンジンから火が引き出し、物凄い速度で
通路を突進し始めた!

ルイ
「キューさん!壁にぶつかりますよ!!」
キュー
「わっわっ!止まんない!」

そのまま壁に激突し、隣の部屋まで貫通してからやっと停止した。

W・L・C兵
「貴様ぁっー!」

吹っ飛んできたロボット目掛けてW・L・C兵がアサルトライフルを連射する。
銃弾がエンジンに命中しロボットは爆発してバラバラに吹っ飛んだ。
その爆発にW・L・C兵も巻き込まれ全員致命傷を負った。

キュー
「ぐはー・・。」
ルイ
「大丈夫ですか!?」

ルイが出来た穴を潜ってキューの元まで移動する。
ロボットから転げ落ちて床の上でグッタリするキュー。しばらくしてすぐに立ち上がった。

キュー
「免許が必要!!」
ルイ
「元気ですね・・・。流石キュピルさんの娘です。」
キュー
「ん?」

目の前に大きな台座がある。
台座の上には見覚えのあるマナの球体が浮かんでいる。・・・これは・・・。

キュー
「おぉー。ワープポイントだ。」
ルイ
「ワープポイント・・懐かしい・・。ナルビクにありましたよね。」
キュー
「今でも普通に街にあるけどなー。どれどれ。」

キューがワープポイントの上に乗る。乗った瞬間、ワープ装置が発動しキューを何処かに飛ばした。
その光景を見たルイが慌ててキューの後を追った。







==ナルビク


キュー
「・・・・あれ?」
ルイ
「こ・・ここは・・・!!!」

活気あふれる港町。・・・最後に来た時と何ら変わらないナルビク・・・。


キュー
「・・・・お、おかしいなー?ナルビクに戻って来ちまったのか・・・?」

ルイが突然走りだした。

キュー
「お、おいおいー!何処に行くの?」

キューの問いにも答えずに何処かに走る。
すぐにルイの後を追う。

走り続けるルイの後を追い続けるとある場所で立ち止まった。

ルイ
「え・・・そ、そんな・・・。」

ルイの立ち止った場所。・・・そこは・・・。
・・・つい二年前まで、キュピルのクエストショップと住み慣れた家があった場所・・・。
今では全く違う建物が建ってしまっている。

ルイ
「キュ、キューさん。まさかリフォームしたのですか?」
キュー
「・・・ルイ。念のため言っておくけど・・・。
・・・アノマラドに大量のモンスターが襲来してからもう150年も経ってるんだよ。」
ルイ
「・・・ひゃ、150年・・・?」
キュー
「・・・その10年後にお父さんは謎の一言を残して作者と共に失踪。
・・・そしてルイも一緒に居なくなった・・・。・・・ルイが行方不明になってから140年も経ってたんだよ・・?」
ルイ
「・・・ちょ、ちょっとまってください・・・。・・・キュピルさんが『俺が居なくなれば作者も居なくなる』っていう置き手紙を
トラバチェスの拠点に置いてあって・・・それを見てすぐに追いかけた時・・・。私は・・・。私・・は・・・・・。」
キュー
「・・・気が付いたらあの牢屋にいた?」
ルイ
「・・・・・。」

ルイがこくりと頷く。

キュー
「・・・どのくらい長い間、あの牢獄の中に居たの?」
ルイ
「・・・わかりません・・・。でも・・・とても長い時間だったのは確かです・・・。」

・・・キューがまだ八歳だった頃。
まだ普通にキュピルがクエストショップを営んでいた時代。

・・・確かにその時のルイの姿をよく覚えていた。
・・・あの頃のルイと比べると・・・少し老けてはいる。

見た目で既に30前後だというのは分る。

キュー
「・・・・・ルイ。行こう。」
ルイ
「行くって、何処にですか・・?」
キュー
「・・・今の私のアジト。・・・そこに皆がいるよ。」
ルイ
「皆・・って・・。・・・もしかして・・・!!!」
キュー
「・・・ごめん。言いかえる。琶月と輝月とファンがいるよ。
・・・お父さんは居ない・・・。他の皆はもう全員死んじゃった・・・。」
ルイ
「・・・ジ、ジェスターさん・・もですか?」
キュー
「あ・・・。ジェスターの事すっかり忘れてた・・・。皆の事は大体知ってるんだけど唯一ジェスターの情報だけ
全く掴めていなくて・・・。うーん、どこにいるんだろう。」
ルイ
「・・・わかりました。とりあえず・・・キューさんのアジトに行きましょう。」
キュー
「うん。」

キューがテレポートを唱える。
ルイの手を握り締め、一緒にキューのアジトへと飛んでいく。









==キューのアジト



キュー
「ただいま。」
琶紅
「わあああああああ!!キューさんが無事に帰って来たー!!!わああああん!!」
キュー
「わっ!!ちょ、ちょっと琶紅!何でそんなに泣いてるの!!」
ファン
「無性に凄く不安だったそうです。好かれていますね。」
キュー
「う、うーん・・・。何だか変な気分・・・。」
琶紅
「ぐすんぐすん・・すぴーんすぴーん・・・。」
ルイ
「き、輝月さんが物凄く琶月さんみたいな事になってる・・・。」
琶紅
「ああああああああああああああ(ry
・・・って、何でルイがいるの!!!」

ファン
「ル、ルイさん!!」
ルイ
「ファンさん、お久しぶりです。・・・少し色が薄くなりましたか?」
ファン
「歳ですね。」
琶紅
「何でルイがいるの?何で?何で?」
キュー
「まるでルイが居て欲しくない様な発言。

・・・龍泉卿でW・L・C兵に掴まった後・・・」


W・L・C兵本拠点らしき場所での出来事を一通り話す。

偽物のルイ。ルビーを取り返し、同時に新しい誕生石を手に入れた事。
隠された扉にもう一人のルイが監禁されていた事。
そしてワープポイントでナルビクまで戻って来た事・・・。


琶紅
「え、え、え!!?ってことは・・・・。今まで戦ってきたルイさんは・・・偽物だったんですか!?」
キュー
「うん、そうだと思う。」
琶紅
「わぁ!よかった!!どうしてルイさんが敵なんだろうってずっと思ってたけど偽物だったんですね!納得!!」
ルイ
「それにしても私の偽物が隊長だったなんて、ちょっと・・・。こう、度し難いですね・・・。」

ルイが懐かしい仕草で首を少し傾げて困った表情をする。

キュー
「でも、これで全力で戦える!倒しちゃっても偽物なら問題ないもんね。」
琶紅
「うんうん。」
ルイ
「・・・キューさん。ちょっと色々お話を伺いたいのですけれど・・・。」
キュー
「最後まで言わなくても分るよ。・・・今何が起きてるか・・・だよね?」
ルイ
「はい。」
キュー
「とりあえずまずは身近な所から。じゃーん。」
琶紅
「はい?」

キューが琶紅の後ろに立って両肩を掴む。

キュー
「ついに輝月が琶月並にデレました〜。わぁ〜。」
琶紅
「あんぎゃぁぁぁああ!」

キューが思いっきり琶紅の両肩を強く握りしめる。ジタバタと暴れるがしっかりと抑えられている。
暫くした後、解放してあげる。

琶紅
「強く掴まなくてもいいじゃないですか!!」

琶紅が駄々っ子パンチしながらキューに突撃する。
しかし本人には全く効いていない。

キュー
「ね?」
ルイ
「輝月さん・・・随分と性格変わりましたね・・・。」
ファン
「ルイさん。嘘です。騙されてはいけません。」

ルイ
「え?」
キュー
「あうち・・・。ファン〜。せっかく楽しんでたんだからいいじゃないかー。」
ファン
「これ以上やりますと混乱しそうなので・・・。ルイさん、彼女の名前は琶紅さんです。輝月さんと似ていますが
厳密に言いますと違います。」
ルイ
「違う・・・っということは姉妹とかそういうのですか?」
ファン
「・・・長くなりますけどしっかり説明しておきます。かくかくしかじか
キュー
「便利な一言だなー。」





数十分後



ルイ
「そんなことが・・・。っということは輝月さんと琶月さんの本当の姿・・・っということですか?」
ファン
「それで合っています。」
ルイ
「弱体化しましたね・・・」

琶紅
「あああああああああ!!!!!怒った!!!!」

キュー
「怒った所で私の餌食になる!がおー!」
琶紅
「あんぎゃああああー!!」

キューが琶紅の頭に噛みつく。

ルイ
「仲良いですね・・・。」
ファン
「輝月さんと琶月さんの記憶はしっかり受け継がれているようなので、実質的にお二人の付き合いは
百年近くに及びますからね。超えていませんけど。」
ルイ
「百年・・・。・・・改めて時代の流れを強く感じます・・・。」
ファン
「僕は単純に長寿ですし、琶月さんは不死身体質のお陰で歳を取らなくなりました。
琶紅になった今、不死身体質が受け継がれているのかどうかはちょっと定かではありませんが・・・。
キューさんは幽霊刀のお陰で非常にゆっくりのペースで歳が進行しています。」
ルイ
「私はきっとあと20年もすれば立派なおばあさんですね・・・。」
キュー
「50歳じゃお婆さんっというよりは、オバサンって感じだけどなー。」
ルイ
「おばさんよりお婆さんの方が上品で素敵なのでおばさんはやめてください!」
キュー
「へーへーっと。」
ファン
「ルイさん。お疲れとは思いますが・・・いくつかお話を伺いたい事があります。」
ルイ
「はい?」
ファン
「キュピルさんが居なくなった後、ルイさんも同時に行方不明になりましたが・・・。あの時、何があったのか。
そして今に至るまでの経緯を教えてください。」
琶紅
「そ、そうだよ!!あの時何でルイ消えちゃったの!?」
キュー
「その時には既にアタシはお父さんの手によって未来に戻されてたからよくわからないなー・・・。」
琶紅
「キュピルさんの手によってって・・・表現がまるで(ry」
ルイ
「わかりました・・・。覚えている限りの事を話します。」
ファン
「・・・一応出来事を可能な限り振り返ってみましょう。そろそろこれまでの出来事をまとめた方が良いです。」

そういうとファンは一旦自室に戻った後、クリアファイルを持ってきた。

琶紅
「それは何?」
ファン
「これまでの経緯を全て書き記した書類です。キュピルさんがクエストショップを創設した時から頼まれて
今の今まで書き続けています。」
キュー
「おぉー。ファンが異様に記憶力が良い理由はそいつのお陰なのかー?」
ファン
「そうですね。流石の僕もこれ等の出来事は全て覚えている訳ではいないので。」
ルイ
「まめな性格っていいですね。」
ファン
「本題に入ります。アノマラド大陸に大軍のモンスターが来襲した年を歴1年と表現します。」
キュー
「歴1年?・・・ってことはアタシが未来に戻されちゃったのは歴2年って所かな?」
ファン
「その通りです。・・・キュピルさんの意向でキューさんを未来に返すように頼まれギーンさんと協力して
未来に返しました。」
ルイ
「その時の出来事はしっかり覚えています。・・・別れの前日にキュピルさんはキューさんに愛剣を渡しましたね・・。」
琶紅
「・・・でも、確かその後って問題が起きてたような・・・。」

ファン
「琶紅さんの仰った通り、未来に返そうとした所、問題が起きました。
・・・が、歴を順に追って振りかえっていきたいので後述という事にしておきます。
歴2年にはもう一つ、些細な事かもしれませんが僕にとって重大な事が起きました。」
ルイ
「・・・ジェスターさんがエユさんの元に帰った・・・ですか?」

ファンがキョトンとした顔でルイを見つめる。

ファン
「よく覚えていますね。僕は今書類を見て思い出した所でしたのに。」
キュー
「・・・もうアタシはその頃には居なかったからよくわかんないんだよなー。」
ルイ
「ふふふ・・・。有能なメイドは記憶力も(ry」
ファン
「次に進みます。」
ルイ
「ファンさんが冷たい・・・。」

キュー
「歳。」
ファン
「違います。」
琶紅
「ジェスターがエユって人の所に帰っちゃったのはあれだったよね・・・。確か安全な場所に移すためにーとか
そんな記憶がある。」
ファン
「正解です。ジェスターさん本人は自分が戦力外告知されたのだと勘違いし激怒しましたが最終的にエユさんの
元にも居たかったらしいので行ってしまいましたね。」
ルイ
「私の癒し系が居なくなった時はちょっと寂しかったです・・・・。」
キュー
「歴2年はこれで終わり?」
ファン
「そうですね。次は歴3年です。」
琶紅
「・・・私がまだ輝月と琶月だった時代。・・・輝月が薬物中毒に陥っていた事が発覚して・・・
琶月が輝月を殺した。・・・・・・・・。」

殺された時の記憶と殺した時の記憶が二つ残っている。琶紅としては相当複雑な気持ちで居るらしい。
輝月なら間違いなく琶月を慰めただろう。琶月なら間違いなく自分を責めただろう。

ファン
「正当防衛です。それに輝月さんは生きていますから今は気にしない方がいいと思います。」
琶紅
「・・・そうだね。」
ファン
「もう一つ気になるのはその年以降、琶月さんが不死身体質になった事ですね。歳もとらなくなりましたし。」
キュー
「この歳に有能な盾が誕生したのかー。」
琶紅
「ああああああああ!!!!!(ry」

ルイ
「・・・ファンさん。私の記憶では・・・この歴は・・・。」
ファン
「・・・そうです。一度エユの元に戻ったはずのジェスターさんが一人で戻ってきました。」
キュー
「出来るだけ詳しい事言って。・・・アタシはこの時の事あまり知らないんだ。」
ファン
「分りました。・・・っと、言っても今言った通り何の前触れもなくジェスターさんが一人で僕達の家に戻ってきました。
突然の出来事でしたからビックリしましたしエユさんと連絡も取りましたが・・・繋がりませんでしたね。」
ルイ
「何度も魔法と電話を使って連絡を取りましたけれど・・・・。」
琶紅
「・・・オルランヌに住んでたっけ?エユとジェスターは。」
キュー
「呼び捨て。」
琶紅
「ご、ごめんなさい!エユさんとじぇ・・・」
キュー
「あ、別に呼び捨てでもいいんだけどね。」
琶紅
「・・・・・・・・。」
ファン
「エユさんとジェスターさんはオルランヌに住んでいました。」
琶紅
「オルランヌって歴3年の頃はまだ滅んでいなかったっけ?」
ファン
「滅んでいません。オルランヌが滅んだのは歴6年です。滅んでから来たのであれば理由はつくのですが・・。」
キュー
「ジェスターはその後どうしたの?・・・前に軽く説明貰ったけど・・・その年に確かジェスターって音信不通に・・・。
それしか聞いていないから詳しくお願い。」
ファン
「はい。・・・ジェスターさんが突然戻って来た後はずっとキュピルさんの部屋に居ました。
キュピルさんも二日間、丸々自室から出てきませんでした。」
キュー
「呼んだりお父さんの部屋に入ったりしなかったの?」
ルイ
「何度も呼びましたし入ろうともしたのですけれども・・・・。・・・応答しませんし、鍵もかかってたので・・・。」
琶紅
「・・・中で何かが起きてるって思わなかったの?」
ファン
「・・・一度だけ、ジェスターさんのすすり泣く声とそれを励ますキュピルさんの声だけ聞こえたので
一応中にいるのは分ってたので・・・・。」
キュー
「その後どうなったの?」
ファン
「・・・驚くべきことにジェスターさんが戻ってから三日目に入った瞬間。ジェスターさんは行方不明になりました。
キュー
「・・・何で行方不明になったのか分らないの?」
ファン
「・・・全く分りません。」
ルイ
「キュピルさんが部屋から出てきてジェスターさんの様子を一番に聞いたら・・・キュピルさんが
『・・ジェスターはエユの元に帰った』の一言だけで・・・。いつ帰ったのか、何で帰ったのか他の事は一切
話してくれませんでした・・・・。」
ファン
「それ以降、ジェスターさんもエユさんも音信不通になりました。行方は現在も分っていません。」
キュー
「・・・ジェスター・・・。」
琶紅
「・・・私の唯一、色々遊んでくれる人だったのに・・・。」
キュー
「それはちょっとコミュニケーション能力に異常が(ry」

琶紅
「あああああああああああ!!!!
だって皆私を苛めるんです!!」


キュー
「違う違う〜。皆琶月が可愛かったんだよ〜。琶紅の方が可愛いけど!がぶっ!」
琶紅
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!!」

キューがまた琶紅の頭を噛む。

琶紅
「何で噛むんですか!!!」
キュー
「愛情表現。飴と鞭の飴の部分。」
琶紅
「絶対に嫌です。」


ファン
「・・・次行きますよ。」
キュー
「うん。」
ファン
「・・・とは、言いましたがここから先はめぼしい出来事は少ないです。
強いて言えば歴4年にハイアカン滅亡、歴6年にオルランヌとサンスルリアとレンムが滅亡。
歴8年でアノマラド大陸の主要都市が陥落し、歴9年にはトラバチェスの主都以外滅亡、陥落。」
ルイ
「大きな出来事だと思いますけど・・・・。」
ファン
「大きいと言えば大きいのですが個人的な繋がりは薄いですから。しかしその次の歴10年
・・・ここが非常に重要なポイントとなる歴です。」
琶紅
「・・・きっとここにいる人皆分る。」
ルイ
「・・・キュピルさんの失踪。」
ファン
「・・・ルイさん、貴方の失踪した歴でもあります。・・・もうちょっと振り返ってから詳しい説明お願いします。」
ルイ
「分りました。」
キュー
「・・・お父さんは『俺が居なくなれば作者も居なくなる』っていう置き手紙を残していなくなったんだよね・・?」
ファン
「はい。・・・その置き手紙をみたルイさんがキュピルさんの跡を追い・・共に失踪。」
琶紅
「でも、この時トラバチェスはもう陥落寸前だったよね・・・。」
ファン
「琶紅さんが仰った通り、この時トラバチェスは陥落寸前でした。
今までキュピルさんとルイさんとヘルさん、そしてギーンさんにテルミットさん。
この5人がトラバチェスの城門を守っていたのですがキュピルさんとルイさんが消えた事により防衛が
極めて絶望的な事になり・・・。」
琶紅
「・・・ヘルさんが死ぬまで城門を守り続けた。」
キュー
「・・・退くに退けなかった。・・・うーん・・・。」
ファン
「ヘルさんが戦死した結果、とうとう城門を守りきる事が出来なくなり敗北を覚悟したその時でした。
・・・突然モンスターが全員テレポートで居なくなり陥落は免れました。」
琶紅
「それどころかそれ以降モンスターは来なくなった。・・・突然の出来事で全然実感がわかなかったけど
長い長い戦争は終わった・・・。作者も居なくなった・・・・。」
ファン
「・・・それが歴10年の出来事です。」
ルイ
「・・・・・・・。」
キュー
「・・・その後は何があったの?そこから先、アタシは知らない。」
ファン
「・・・めぼしい事は特にありません。・・・僕と琶月さん。そしてテルミットさんとディバンさん。
・・・生き残った僕達はナルビクに戻り、再びクエストショップを営みながら日常生活に戻りました。」
琶紅
「・・・ディバンさんもテルミットさんも十数年後に老死。」
キュー
「・・・他は?」
ファン
「歴72年にやっと大きな出来事が起きました。
・・・キューさんの帰還です。」
キュー
「・・・あー、歴72年だったんだ。起きたらいきなり未来に来てたんだもん。びっくりした。」
琶紅
「びっくりしたのはこっちですよ・・・。ある時、キューさんがキュピルさんの部屋から出てきた訳ですから・・・。
それもあの頃の姿のままで!!」
ルイ
「あの頃の姿のまま・・?っということは・・歴2年の時の姿・・・8歳のキューさんですか!?」
ファン
「そうです。・・・キュピルさんの愛剣と幽霊刀を持って普通に出てきたものですから
一瞬夢を見ているのかと思っていました。」
キュー
「・・・ここでちょっといいかな?」
ファン
「どうぞ。」
キュー
「何でアタシは歴72年に来たの?・・・さっき問題が起きたって言ってたよね?」
ファン
「本来はキューさんを元居た時代に帰そうとしました。ギーンさんの協力を得て
未来に送り返そうとしたその時でした。突然ナルビクにモンスターが襲来してきました。」
ルイ
「あの時は何とか迎撃できましたけど・・・確か途中で中断する事が出来ず、結果的に不完全のままで
送り飛ばしてしまったんでしたっけ・・・?」
キュー
「えー!!なんだよ、なんだよ〜。」
ファン
「実際の所、不純物の混じったマナが大量に漂い始めこのまま詠唱を続けていましたら間違いなくキューさんは
とんでもない場所にワープさせられていました。辛うじて歴72年に飛ばせたっという感じがあります。」
キュー
「・・・・問題ってのは分った。・・分ったんだけどさ・・・。・・・重要な事に気がつかない?」
ルイ
「重要な事・・・ですか?」
キュー
「そう。私がまだ子供だった頃、過去のお父さんに手紙を渡すために未来のお父さんに頼まれて過去に来たんだよ?」
琶紅
「・・・・・ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

キュー
「琶紅うるさい!がぶっ!!」
琶紅
「あんぎゃあぁぁ!!って、毎回毎回噛まないでください!!痛いんです!!!」
キュー
「ごめんごめん〜。・・・でも気付いたみたいだね。」
ルイ
「・・・・あ!!」
ファン
「・・・!」
キュー
「気付いた?・・・お父さんは歴10年から居なくなっちゃったんだよ?
アタシが過去に送り込まれた時は既に8歳だったから必然的に歴十年に辿りつく前に
どこかでアタシは八歳になってなきゃいけない。」
琶紅
「でもキュピルさんは娘を持つどころか結婚・・・相手すら・・・。・・・ルイさん?」
ルイ
「わ、私は〜・・・。出来る事ならキュピルさんと添い遂げたかったのですが、その・・残念ながら・・・。」

ルイが照れながら答える。

キュー
「・・・そう、つまり・・・。・・・アタシは何処で産まれたの?
もっと言えばアタシはお父さんの手によって育てられたんだよ?
完全に時系列にあっていないよね?

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ルイ
「・・・・これは一体・・・・。」
ファン
「・・・今まで全く気がつきませんでした。簡単な出来事程気付かないものですね・・・。」
キュー
「・・・まさか自分に謎があるなんて思ってもいなかった。・・・自分の事も調べないと・・・。」
ファン
「この事は書類に書かないといけませんね。」

ファンが新しい紙を取り出し今の内容を紙に書き記す。

ファン
「・・・キューさん。一応歴72年以降の出来事を喋りますね。」
キュー
「うん。」
ルイ
「お願いします。私が分らないので・・・。」
ファン
「歴72年。この年から僕と琶月さんとキューさんの三人生活が始まりました。
確かキューさんはこの年からしばらく幽霊刀を意図的に封印しましたよね?」
キュー
「うん。」
ルイ
「・・・封印ですか?」
キュー
「幽霊刀を持ってると歳を取らなくなっちゃって・・・。子供のままだと凄く不便なんだ。
子供扱いもされるし。今なら別にいいんだけど。だからアタシが二十歳になるまで一切触らない事にしたんだー。」
ファン
「そして歴84年。キューさんがめでたく二十歳になった時に幽霊刀を再び取り出し年齢を意図的に止めましたね。
これはただ単純に年齢をあげたくなかったからですか?」
キュー
「うん。深い意味はないよー。・・・でも今思えば18歳にしておけばよかった・・・・。」
琶紅
「どっちも変わらない気がします・・・。」
キュー
「でもここから先の出来事は全部覚えている。
歴148年。W・L・C隊が襲来。・・・泣く泣くクエストショップとお父さんの家を後にしたよね。」
ファン
「あまりにも突然の奇襲で全く対処できませんでしたね・・・。」
琶紅
「今なら返り討ちにする自信あるのに!!」
ルイ
「・・・許せないです。」
キュー
「で、仕方なく私のアジトをここに作ったんだよね〜。
そして歴150年。今の年。ここから先の説明ってファンから聞いた?」
ルイ
「えーっと、ガーネットとかアメジストとか・・そういった話しですか?」
キュー
「そうそう!それなら大丈夫そうだね。」
ファン
「これで一通りの出来事を振り返りました。
お世辞にも過去の出来事を全て把握しきれているとは言い難いです。
現にキューさんの謎が残っていますし。」
キュー
「少しずつ、謎が解き明かされていくといいね・・・。・・・でも今から謎がちょっと分るんじゃないのかな?」
ルイ
「・・・今度は私に何が起きたのか説明する番ですね?」
キュー
「うん。」
ルイ
「分りました。」

ファンが書類を取り出す。
メモ書き万全だ。

ルイ
「・・・先程の歴を基準にして話しますね。便利ですので。」
ファン
「わかりました。」
ルイ
「歴10年。・・・キュピルさんの置き手紙を見てキュピルさんの後を追った私ですが・・・。
・・・勿論、キュピルさんが何処に行ったのか知りません。ですが、作者の元に行ったのではっと直感で思い
モンスターの襲来してくる方向へと向けてひたすら走り続けました・・・。
・・・ただ、ある時。突然モンスターがテレポートで居なくなり・・・気がつけば私もテレポートの対象に入っていました。」
ファン
「・・・ちょうどヘルさんが戦死した直前の出来事ですね。」
ルイ
「テレポートで飛ばされた場所・・・。そこは牢獄でした・・・・。
・・・真っ暗で目の前の鉄格子が何本か立ってて・・後ろに大きな鏡が一つあるだけの場所・・・。」
キュー
「私がルイを助け出した場所?」
ルイ
「いえ・・・そことは違います。・・・まるでブラックホールに放りだされたかのような錯覚に陥りました・・・。
目の前に確かに鉄格子が何本か立っているのですが・・・壁がなくて・・・。何もない所に鉄格子が
生えているような感じでした。鏡も宙に浮いている感じでした・・・。」
琶紅
「・・・それ牢獄なの?脱出できるんじゃ・・・」
ルイ
「できませんでした・・・。見えない壁にぶつかって・・・。そんな訳のわからない牢獄で・・・
数日間過ごしました・・。・・・看守も居ませんでしたし・・水やご飯が与えられることもありませんでした・・・。」
キュー
「・・・餓死しそうになったの?」
ルイ
「それが・・・不思議なことにお腹も減りませんでしたし喉も渇きませんでした。
眠くもなりませんでしたし、脱獄しようと必死に暴れても疲れる事もありませんでした。
・・・それなのに思考だけは正常で・・・ただただ長い時間が過ぎていきました・・・。」

・・・・・・・。

ルイ
「・・・・そんな生活が・・・一体どれだけの時間が続いたのでしょうか・・・。
一度も眠らず・・・一度もご飯も水も口にせず・・・誰かと会話することもなく・・・・。
ただただ長い時間を過ごして・・・。・・・気がつけば髪も今のように長くなりましたし・・・
・・・鏡をずっと見続けて・・・気がつけば段々と老けて行く私がそこに・・・。」

・・・・。

ルイ
「・・・・きっとそれが何年も続いて・・・・。」
キュー
「・・・・よく気が狂わなかったね。アタシだったら・・それはちょっとヤバイかも・・・。」
ファン
「その状態で正常な思考を保てたというのが不思議でありません。」
ルイ
「確かにそうですね。・・・何故か気がおかしくなることはありませんでした・・・。
・・・・もうどれだけの時間が経ったのか、わからなくなっていたある日の事です。
突然周りの景色が変わりました。」
キュー
「周りの景色が変わった?牢獄から抜け出せたの?」
ルイ
「いえ・・・新しく移った場所も結局牢獄でした。・・・場所はキューさんが助けに来てくれたあの場所です。」
キュー
「・・・あの寒かった場所かー・・・。」
琶紅
「・・・寒いのは・・・。」
ルイ
「・・・本当に寒かったです。・・・氷点下ギリギリの気温と思われる場所で・・・ただただずっとガタガタ震えて・・。
・・・・・でも、気がつくと私の向かい側にあった牢獄にもう一人の誰かが閉じ込められていました。」
キュー
「・・・もう一人の誰か?・・・それってもしかして・・・。」
ファン
「・・・先程、キューさんが話してくれた偽物のルイさんのことですか?」
ルイ
「・・・はい。・・・偽物の私が向かい側の牢獄でずっと立っていました。
・・・私を元に作られたクローン人間かのように・・・体つきも顔つきも何もかも私にそっくりで・・・。
でも私と唯一違ったのは・・・無口な所・・・。何を語りかけても何を喋っても助けを乞うても
偽物の私は何一つ喋らず・・・ただずっと立っていました・・・・。」
キュー
「・・・・・・・。」
ルイ
「・・・・また長い長い時間が経ったある時・・・。・・・牢獄の扉が開く音が聞こえました。
私がすぐに鉄格子に目をやりましたが・・・開いたのは向かい側の牢獄でした。」
ファン
「誰かが牢獄の扉を開けたのですか?」
ルイ
「いえ・・・。・・・一人でに勝手に開きました。」
ファン
「・・摩訶不思議な事ばかり起きていますね。」
ルイ
「・・・偽物の私はそのまま私の元まで歩み寄って来て・・・。
助けてくれるのかと思いきや・・・。凄い目付きで一回睨まれた後、そのまま何処かに行ってしまいました・・・。」
キュー
「・・・そういえば偽物のルイ・・・。W・L・C隊と接触して大分経ってから合ったなぁ・・・。
・・・フードを被った偽物のルイと出会ったのは歴150年だし・・・。・・・っということはその扉が開いたのは
歴150年当たりなのかな・・・。」
ファン
「定かではありませんが可能性としてはありますね。」
ルイ
「・・・また長い長い月日が経ったある時、誰かが階段から降りてくるのが聞こえました。
・・・それがキューさんです。後はキューさんがご存知の通りです。」
キュー
「・・・・なるほど。確かにそんな気の狂いそうな程牢獄の閉じ込められてたら・・・
閉じ込められてた振りでも中に入りたくないよね・・・もし私が戻って来なかったら・・とか考えると・・・。」
ルイ
「・・・・はい・・・。・・・これで私の話は終わりです。」
ファン
「・・・・困りましたね。」
琶紅
「何で?」
ファン
「・・・・謎が何一つ解き明かされていません。」

キュー
「・・・むしろ謎が深まったって感じだよね。」
ルイ
「ごめんなさい・・・。」
ファン
「謝る事はありません。・・・キューさん。」
キュー
「ん?」
ファン
「・・・・これから先はどうしますか?今回、大きく過去を振り返りましたが
引き続き誕生石を集めますか?」
キュー
「・・・・段々色んな事が分ってきてるけど結局、出来る事は誕生石集めしかないよ。
・・・もう一度W・L・C隊の本拠点に忍び込めれたら・・・今度こそ色々探ろうと思うけど・・・
二度はないよねー・・。」
琶紅
「・・・・・。」
ルイ
「・・・あぁ・・・・感覚的に十数年ぶりに眠気がやってきました・・・。
・・・・ファンさん、寝ても良いですか?」
ファン
「構いません。ゆっくり寝て疲れと心を癒してください。」
琶紅
「どこで寝かせる?部屋は私とキューさんとファンさんの三つしかありませんし・・・・。」











==夜



ルイ
「zzzz・・・・zzz・・・・」







ファン
「zzzz・・・・・・・」







キュー
「ねぇ、何で私と琶紅が一緒に寝ることになってるの?」

琶紅
「だって私リビングのソファーで寝たくないです!!キューさんの部屋で一緒に寝させてください!怖いです!
キュー
「レズだー!琶月だーーー!!琶月だー!!琶月だーーー!!!」

琶紅
「ああああああああああああああ何で私の琶月の名前三回(ry」







ファン
「(五月蠅いですね)」








続く


まさに説明「回」



第八話



ルイと合流し、失踪した後の話を聞くが分った事は何一つない状況。
何処にあるか分らない誕生石を再び探し始めるキュー達。


しかしルイと合流した結果、一日当たりの探索範囲が広がり少しは作業効率が上がったようだ。


そんなある日。




==キューのアジト


キュー
「ただいまー。あーあー、今日も誕生石の情報掴めなかったぜ。聞きこみに言ったら普通に宝石店紹介されちゃった。」
ファン
「普通はそうなりますね。」
キュー
「琶紅とルイはまだ帰ってないの?」
ファン
「まだ聞きこみ調査しているようです。」
キュー
「働き者だね〜。」
ファン
「働くのとはまたちょっと違う気がしますが・・・。」

その時、ルイが帰って来た。

ルイ
「今戻りました。キューさん、ちょっといいですか?」
キュー
「ん?」
ルイ
「カーディフの魔法商店はご存知ですか?」
キュー
「んー、知らない。」
ルイ
「そこの魔法商店を営んでいるカミラさんがその人の未来を見通せるだとか、探し物を見つけてくれるだとか
色んな噂があるのですが・・・ちょっと行って誕生石の事聞いてみたらどうですか?」
ファン
「カミラさんですか。」
キュー
「ん?ファンは知ってるの?」
ファン
「知ってますよ。確かキュピルさんもカミラさんに占ってもらった事があった記憶があります。
その時、大切な仲間と厄介な仲間が来るとか言われたそうですが、キュピルさん曰く本当に大切な仲間が来たと
言っていましたね。キューさんの事を言ってましたよ。確かに当たる事で有名らしいですけど・・。確か記憶では・・」

ファンの言い分を遮ってキューが喋る。

キュー
「アタシは仲間じゃなくて娘。」
ファン
「屁理屈はいいです。それより話の腰を(ry」

キュー
「お父さんも占ってもらった事があるって・・・カミラって人今何歳?」
ファン
もういいです。歳は分りませんが・・・。」
キュー
「少なくともヨボヨボを遥かに超えたお婆さんだよね?」
ルイ
「今でも噂が流れているっという事は何か不思議な力で若さを保っているのかもしれませんよ?」
キュー
「まー、それが一番濃い線だな〜。ギーンだって生きてる訳だし。」
ルイ
「え!!ギーンさん生きてるんですか!?」
キュー
「うん、生きてるよ。もう老人の域入ってるけど勘とか頭の回転は全然鈍ってない。」
ルイ
「へ、へぇー・・・。何と言うか・・・しぶといですね・・・。」
ファン
「昔からルイさんはギーンさんが苦手ですね。」

ルイ
「よーし、とりあえずカミラって人に会ってみようかな〜。カーディフに行けばいいんだよね?」
ルイ
「はい、そうですよ。」
キュー
「よーし!行ってくる!」
ファン
「一応僕も行きます。ルイさんはどうしますか?」
ルイ
「自分で仕入れてきた情報ですので・・・私も付いていくことにします。」
キュー
「全員だね。よし、レッツGO〜。」


全員アジトの外に出てテレポートを唱え、カーディフへと移動する。











・・・数分後






琶紅
「ただいま〜!・・・・あれ?誰も居ない?そう・・・。」







==カーディフ



キュー
「夕方になるとカーディフも涼しくなるねぇ〜。」
ファン
「夜になると涼しいを通りすぎて寒くなりますよ。」
キュー
「いつも疑問に思うんだよな〜。何で昼はあんなに暑いのに夜になると寒いのかって。」
ファン
「環境の問題ですね。とにかく空気が乾燥している上に熱を保持する物が殆どないので。
ケルティカやトラバチェスとかですとコンクリートが熱を保持して夜でも暑いときは暑いです。」
キュー
「へぇ〜。」
ルイ
「あ、キューさん。ここの建物ですよ。『魔法商店・永遠のハーリド』」
キュー
「ハーリドって何?」
ファン
「とある別世界にいる正統カリフ時代で生きていた武将ハーリド・イブン=アル=ワリードの事でしょうか?」
キュー
「冗談で聞いてのに本当に答え帰って来た・・・。」

ルイ
「相変わらず流石ですよね・・・。」
ファン
「?」



==魔法商店・永遠のハーリド



キュー
「こんにちは。・・・いや、もうこんばんわかな?」
カミラ
「・・・・ようこそ、永遠のハーリドへ。
・・・・あら・・・。久しぶりね。」
キュー
「え?何処かで会ったっけ?」
カミラ
「違う。・・・変わった運命を辿っている人に出会ったのが久しぶりだったのよ。
・・・最後にそんな人に出会ったのは150年前だったかしら。」
ファン
「キュピルさんの事でしょうか?」
カミラ
「さぁ・・・。名前は聞いていないから知らないわ。それで、ご用件は?」
キュー
「ある探し物してるんだ。その探し物がどこにあるのか占って欲しい。」
カミラ
「それは難しい話ね。」
キュー
「やっぱり難しい?」
カミラ
「出来なくないわ。その『物』という意味でならすぐに割り出せる。だけど仮に貴方が鉛筆を失くしたとしましょう。
私の占いで割り出せる物は『鉛筆その物』。・・・つまり世界中に散らばっている鉛筆全ての場所を示すことになる。」
キュー
「・・・つまりどういうこと?三行で!!」
ファン
「私の鉛筆を探してください
鉛筆の場所を占いで探す
世界中に存在する鉛筆が示された。
どれが自分のか特定無理。」
キュー
「四行じゃん・・・。」
ファン
「あ、本当です。」

ルイ
「つまり一意の物じゃなければ特定することは難しいってことですね。」
キュー
「ふーん。でもその点は大丈夫だね。これかなり限られているはずだから。」

そういうとキューはポケットからガーネットを取り出した。

カミラ
「・・・宝石?」
キュー
「ただの宝石じゃないよ。その宝石にはこの世界の物じゃない特殊なマナが秘められている。
アタシ達はこの特殊なマナが秘められている宝石を探しているんだ。だからいくつ出てきても良い、
だって全部集めようとしているからね。」
カミラ
「・・・なるほどね。そういうことならお役にたてると思うわ。そのガーネットを貸して頂戴。」

キューがガーネットを貸す。

カミラ
「・・・さっそく占うわ。」

そういうとカミラが袖に隠していた手を前に出し水晶玉に手を触れる。
魔法を詠唱し水晶玉にマナを注ぎ込む。・・・水晶玉の色彩が不規則に変化していく。

キュー
「・・・・・お。」

水晶玉に段々ある大陸図が浮かび上がった。アノマラド大陸だ。
そのまま眺め続けていると大陸に緑色の斑点が現れた。

カミラ
「この緑色の斑点が浮かんでいる場所に貴方が持っていた特殊な宝石があるわ。」
キュー
「カーディフに一個あるよ?」
ルイ
「これは今私達が持ってる奴ですね。」
キュー
「おー!こんな所に宝石が三つも固まってる!」
ファン
「それは僕達のアジトがある場所ですね。」
キュー
「何だよ何だよー!」
ファン
「紛らわしいので僕が地図で分りやすく、正しく修正しておきます。」

そういうとファンが地図を広げ緑色のペンで点を書き始めた。






キュー
「これって本当にここにあるの?」
カミラ
「信じるも信じないも貴方次第。占いというのはそういうもの。」
キュー
「・・・まぁー、雲を掴むような話だけど何の情報もないよりかはマシか〜。」
ルイ
「・・・一部とんでもない場所にありますね。ケルティカやトラバチェス、ブルーコーラルはまだいいとしても・・。
・・・一つは海の中にありますし、もう一つは・・必滅の地に・・・。」
キュー
「・・・必滅の地にやっぱりあったかー。これはちょっと面倒だなー・・・。」
ファン
「キューさんには言いましたが東部地方へワープで行ける場所はハイアカンのみです。
もしレコルダブルや必滅の地、サンスルリアへ探索するのであればハイアカンを経由して
長期的にアジトを空ける必要があります。」
キュー
「・・・まずは西部から集めていこうかな。」
カミラ
「考えがまとまった所でいいかしら?」
キュー
「ん?」
カミラ
「お代。10万Seed。」

キュー
「・・・・・・・・。」


ファン
「(キューさんに話の腰を折られて言えませんでしたが、カミラさんは有能ですがお代が・・・)」












==カーディフ・酒場


キュー
「あーあー!10万Seedも消えちゃったー!!最悪ー!」
ルイ
「とか言いながら高いお酒飲んでる時点で・・・・。」
キュー
「これは別!」
ファン
「しかし、もし本当にこの場所に誕生石があるのならば安い出費だったと僕は思いますよ。
もし僕達の手で全て見つけ出さなければならなかったとすれば労力も時間もお金も更にかかったはずですから。」
キュー
「まー、そうなんだけど・・・。とりあえずご飯食べる!お腹減った!」

そういうとキューは出された肉料理に手をつける。
ファンとルイが一度顔を見合わせ、二人も食事に手をつけた。

ファン
「ところでキューさん。」
キュー
「ん?」
ファン
「西部から誕生石を集めるのは良いのですが、どこの場所から行きますか?」
キュー
「んー。」

キューが地図を広げる。

キュー
「てっとり早くトラバチェスから。ギーンと協力すればすぐ見つかりそう。」
ルイ
「・・・私はギーンさんとあまり会いたくないのでお先にケルティカの方探索しようかな・・・。」
ファン
「そんなにギーンさんが苦手ですか?」
ルイ
「絶対年齢の事だとか、何が起きたとか、年齢の事とか聞かれますから!!」
ファン
「年齢がそんなに気になりますか。ギーンさんの方が10倍も歳取っていますが・・・。」
キュー
「ついでに二手に分かれるのは今はよした方がいいよ。ルイがW・L・C隊に監禁されていたってことは
何らかの理由があってずっと閉じ込めてた訳だし。また掴まって閉じ込められるのは嫌でしょ?」
ルイ
「・・・それだけは絶対に嫌です・・・。」
キュー
「ま、どうしてもギーンに合いたくないって言うならアジトでお留守番してたらどうかな。」
ルイ
「うーん・・・それはそれでお役に立てなくて何だか・・・。」
キュー
「まー、ルイの好きにしていいぜー。あーあー、ルイと会ったらお父さんにも会いたくなってきたぜ。
そういえば明日お父さんと会う約束してたっけかなー。」
ルイ
「えええっ!!?」


ルイがキューの襟首を掴み揺らす。

ルイ
「何でもっと早く言わなかったのですか!!キュピルさん生きていたんですか!!?」
キュー
「じょ、冗談だz・・あばばばばばばばばばばばばばbbbbbbbbbbbb」

しばらくしてルイがキューを揺らすのをやめた。

ルイ
「冗談・・・。言ってはいけない嘘もあるんですよ!!」
キュー
「何でルイがこんなに必死なの?」

ルイ
「キューさんもいずれ分ります。」
キュー
「はいはい・・・。・・・おっと、もうこんな時間か。んじゃトラバチェスにでも行くか〜。」
ファン
「今からですか?てっきり明日かと思いましたが・・・。」
キュー
「善は急げってね。」
ファン
「(果たして善なのでしょうか・・・)」
キュー
「よーし!アタシは先にギーンに会って話つけてくる!ファン達はゆっくり食べてていいよ〜。」

そういうとキューはテレポートを詠唱しトラバチェスへと移動した。


店員
「金払わずに退散とかマジギレ三秒前なんすけど?
あ゙?
ファン
「ヒ、ヒェェェ!すぐ払います!払います!!」
ルイ
「こ、怖い怖い怖い!!」











==トラバチェス




ギーン
「・・・・こんなものか。」

ギーンが令状を書き記し終える。
ここ最近、トラバチェスを拠点として悪巧みを行う輩が増えてきている。
対策を考えなければいけない。

ギーン
「・・・ふっ、平和だな。」

ギーンにとって雑作もない事。
・・・その時、警報が鳴り響いた。



侵入者!!侵入者!!ターゲットは腰まで伸びた黒い髪の女性だ!!
現在ターゲットは塔の外壁にいる!至急迎撃せよ!


ギーン
「・・・・またあいつか。」


っということは、王室に来るだろう。テレポートを唱えて王室に移動する。





==トラバチェス・王室


キュー
「よぉー、ギーン。いやー玉座の座り心地いいな〜?」
ギーン
「おい、そこは俺の席だ。どけ。」
キュー
「そうだな、お年寄りには席を譲らなきゃいけないもんなー。」
ギーン
「・・・・・・からかいにきたのか?」
キュー
「違う違う。」
トラバチェス兵
「そこの小娘!動くな!!」
ギーン
「おい、またお前か。忘れたのか?こいつが来たら無条件で通せと。」
トラバチェス兵
「覚えています!覚えています!!だが、この小娘!何も言わずにいきなり外壁を!!」
ギーン
「もういい、下がれ。」
トラバチェス兵
「はっ・・・。」

そういうとトラバチェス兵は下がった。

ギーン
「お前はもう少しマシな方法でここまで来い。」
キュー
「善処しまーす。」
ギーン
「・・・で、何の用だ?」

その時、目の前にテレポートポータルが現れた。誰かがここにワープしようとしてきている。

ギーン
「・・・ここの王室に直接飛んで来れる奴はあいつしかいないな。」

そういうとテレポートポータルからファンが現れた。

ファン
「こんばんわ。」
ギーン
「ここ最近、よく会うな。」
ファン
「そうですね。しかしびっくりしました。ギーンさん、王室の呪文抵抗のプロトコルを入れ替えたのですね。
お陰でここまでワープするのに手間取りました。」
キュー
「何言ってるのか分んない。」
ファン
「家の鍵が変わったと思えばいいですよ。」
ギーン
「ここは家じゃないぞ。・・・・ん、どうしたファン。テレポートポータル閉じないのか?部外者が来るぞ。」
ファン
「おかしいですね。もうすぐ来ると思うのですが・・・。」

その時、テレポートポータルからルイが現れた。

ルイ
「お、お久しぶりです・・・・。」
ギーン
「なっ!!?」

ギーンが久々に驚いた顔をする。
姿勢が前のめりになり椅子の肘かけを思いっきり叩く。

ギーン
「ルイ!!?・・・若いな。」
ルイ
「色々ありまして・・・。」
ギーン
「そうか。・・・ルイがここに居るということはあいつは?キュピルもいるのか?」
キュー
「お父さんはいないよ。何でここにルイがいるのかというと・・・。」



キューがルイを救出した経緯を話す。




ギーン
「ふん・・・。気に食わないな。」
ルイ
「何ですって!」
ギーン
「お前が救出されたことじゃない。キューが相変わらず重大な事を隠して一人でやっていることが気に食わん。」
キュー
「まーまー。余裕ってこと。」
ギーン
「・・・まあいい。で、ここに来たからには俺に用があるんだろう?何の用だ。」
キュー
「前、ギーンにガーネットとアメジスト見せたよね?」
ギーン
「ああ。」
キュー
「あの宝石に宿っていたこの世界の物じゃない特殊なマナ。その特殊なマナが宿った宝石が
ここトラバチェスにもあることが分ったんだ。」
ギーン
「ほぉ。」
キュー
「その宝石探しを手伝って欲しいんだ〜。」
ギーン
「・・・・具体的な場所はどこだ。」
ファン
「ここですね。」

ファンがアノマラド大陸地図を開いてギーンに見せる。

ギーン
「おい、大雑把すぎてわからねーぞ。」
キュー
「だからギーンに頼っているのに・・・。」
ギーン
「・・・・くそが。」
ルイ
「相変わらず口が悪いですね・・・。」
ギーン
「ふん、とにかくその周辺は都市や村が何一つないトラバチェスの唯一の荒野だ。
ここ最近モンスターに襲われたという報告の後が絶えないな。」
ルイ
「何でそんな荒野を放置しているのですか?悪政ですか!!」
ギーン
「黙れ。狩り場を殲滅してどうする。これも若者のためだ。」
ルイ
「・・・・・・。」
キュー
「そんな場所なら確かに誕生石ありそうだな〜。よーし、さっそく行こう!」
ギーン
「だが地図が大雑把すぎる。正確な場所には行けないぞ。」
キュー
「大体でいいよ。」

そういうとギーンはテレポートを詠唱しテレポートポータルを目の前に召喚する。

ギーン
「先に行くぞ。」

ギーンがテレポートポータルの上に乗っかり先に移動する。
続いてキュー、ファン、ルイが乗っかり後に続いた。











==トラバチェス・荒野エリア



到着した瞬間、凄まじい砂嵐に襲われた。

キュー
「うっ!」

目に砂が入り痛い。
口を開けると口の中に砂が入る。

ルイ
「バリア!」

ルイがバリアを広範囲に張って砂嵐から皆を守る。

ファン
「ありがとうございます。」
キュー
「こんなに酷い場所だとは思っていなかった・・・。
砂嵐のせいで視界最悪。しかもいよいよ夜。・・・まともに探せるかな・・・」
ギーン
「・・・大分正確にテレポート出来たな・・・。この砂嵐のせいでテレポートの座標がずれやすいのだが
誤差は全くないな。」
キュー
「ファン〜?ここから誕生石まで大体どのくらい?」
ファン
「・・・地図上ですと今まさに緑の点の上にいますね。確かに正確なテレポートです。」
キュー
「えー?ってことは今ここに誕生石があるってこと?」
ファン
「・・・そうなりますね。かなり正確です。・・・もう目の前に誕生石が転がっていても不思議ではないのですが・・。」
ルイ
「・・・ガセだったのでしょうか?」
ギーン
「考えてみれば貴様らの情報源を聞いていなかったな。何故そこに誕生石があると分った?」
キュー
「占い!」
ギーン
「・・・・・張り倒すぞ。」
キュー
「あーん。」
ギーン
「真面目に張り倒すぞ。」

キュー
「ちぇ〜。ないんだったら帰ろうよ。」

ギーンが帰りのテレポートを詠唱しようとした瞬間。突然地響きが四人を襲った。

ルイ
「わ!何ですか!?」
ファン
「地震ですか?」
ギーン
「トラバチェスは海面に面しているが海底プレートは全く動いていないはずだ。
トラバチェスに地震は起きない。だからあんな耐震0の塔を建築できる。」
キュー
「自分で言っちゃってる。じゃぁ、この揺れ何?」

その時、突然地面の砂が大きく盛り上がり坂道になり始めた。
・・・地面から何かが現れている!?

キュー
「わ!」

そのままドンドン盛り上がり四人は尻餅をついた。そのまま後ろに転がる。
とうとう坂道は角度70℃近くになり、即座にギーンがミニテレポートを唱えて安全な場所まで避難する。
ファンとルイもミニテレポートを唱えて即座に安全な場所まで避難する。
キューだけそのまま転がり続け、気がつけば角度は90℃になっておりそのまま垂直に落下する。
頭から砂に埋まるが即座に起き上がる。

キュー
「何だ何だ!」

地面から現れたのは超巨大なサンドゴーレムだった。
大きさ大体50メートルくらいだろうか。・・・超でかい。

キュー
「どっひゃー!でけー!」
ルイ
「キューさん!大丈夫ですか!?」
キュー
「うん、大丈夫。」
ギーン
「おい、奴の額を見てみろ。」

超巨大なサンドゴーレムの額に何かが光り輝いている。
・・・五月の誕生石、エメラルドだ!!



キュー
「おー!ついに見つけた!」

キューがキュピルの愛剣を抜刀する。

キュー
「一閃!」

キューが勇敢にも超巨大なサンドゴーレムに斬りかかる。
ズバッと一刀両断し一撃でサンドゴーレムが崩れる。
サンドゴーレムが断末魔を上げながら崩れ、ただの砂になってしまった。

キュー
「何だ何だ、手ごたえないなぁ〜。」
ギーン
「・・・!」

再び地響きが起きた。
また地面が盛り上がり始めた。即座にミニテレポートで避難する(今度はキューも避難した。
さっき倒したと思ったサンドゴーレムが再び地面から現れた。

ファン
「砂を集めて自己再生していますね。宝石の力でしょうか?」
キュー
「あれじゃ何回斬っても無駄ってこと?」
ファン
「・・・元々砂は空気みたいなものですから斬ってもあまり意味はないでしょう。」
キュー
「むー・・・。」
ルイ
「それなら魔法とかどうでしょうか!」

ルイが魔法を唱える。目の前に巨大な炎の塊を生み出し巨大なサンドゴーレムに向けて飛ばす。

ルイ
「メガバースト!!」

剛速球で炎の塊は飛んで行きサンドゴーレムにぶつかった。
激しく炎上しまたサンドゴーレムは崩れた。
・・・しばらく反応がなかったが、再びキュー達の足元が盛り上がり始めた。

キュー
「結構地味な攻撃してくるなー。」
ギーン
「どけ、ルイ。お前の魔法は低級だ。」
ルイ
「キッ!!」

ルイがギーンを睨む。しかし動じていない。

ギーン
「一旦ミニテレポートで下がるぞ。」

ギーンがミニテレポートで後ろに下がる。三人もすぐに避難する。

ギーン
「これが本当の魔法だ。ニューバースト!!」

ギーンが杖を前に出し超巨大な白色のレーザービームを打ち出す。

キュー
「で、でかい!!」
ファン
「サンドゴーレムを飲みこむ事ができるぐらい大きいですよ!!」

そのまま超巨大な白色レーザービームは砂であるサンドゴーレムを一瞬で蒸発させた。
レーザービームが撃ち終わるとそこには何も残っていなかった。

ギーン
「こんなものだな。」
ルイ
「・・・誕生石ごと焼きつくしてどうするんですか!!」
ギーン
「・・・・そこまで考えていなかった。」
ルイ
「首相失格失格!退陣!退陣!」
ギーン
「お前・・・昔よりうざくなったな・・・。貴様にニューバースト当ててやってもいいんだぞ?」
ルイ
「うっ・・・。」

一応自分より実力が上なのは認めているらしい。
・・・ところが再び地面が盛り上がり始めた。

ギーン
「なっ!?」
キュー
「うわ!また来る!」

またミニテレポートを唱えて少し遠くの所まで避難する。
しばらくするとさっき蒸発したサンドゴーレムがまた目の前に現れた。

ファン
「全く手ごたえありませんね・・・。先程は砂ごと蒸発させたのにも関わらず、また砂を集めて
復活しましたね・・・。」
ギーン
「ちっ!奴の再生能力をなんとかしなければならないな。」

今までやられっぱなしのサンドゴーレムだが、仕返しと言わんばかりに巨大な拳を作り
キュー達目掛けて拳を振り下ろした!直径10メートルの超巨大な拳がキュー達を襲う。

ルイ
「バリア!」
ファン
「バリア!」

二人がバリアを張り攻撃を防ぐ。が、防いだ瞬間バリアにヒビが入り今にも割れそうだ!

キュー
「せいやっ!!」
ギーン
「馬鹿!よせ!!」

キューが剣を上に向けて思いっきりジャンプする。
自分からバリアを壊し、そのままサンドゴーレムの拳を貫く。
そのままサンドゴーレムの拳を一瞬で切り刻み、ただの柔らかい砂に変わった

ギーン
「ぐわっ!」
ファン
「ヒエェェェ!」

砂が三人に振りかかる。物凄い量の砂が振り、肩まで埋まる。

ファン
「岩盤浴を思い出しました。」
ルイ
「こんな時に何を言っているのですか!」


キュー
「うおりゃぁっー!」

キューが再びサンドゴーレム本体をバラバラにする。
サンドゴーレムはまたただの砂になった。

キュー
「ふぅ・・・。」

・・・が、数秒後。
キューの足元が再び盛り上がり始める。

キュー
「まだ復活するのかよー!」

キューが走って避難する。
が、その時目の前に超巨大な手が現れキューを掴んだ!

キュー
「うっ!」

そのままキューを思いっきり握りつぶす。
あまりの痛みにキューが悲鳴を上げる。

ルイ
「キューさん、今助けます!」

ルイがデザートイーグルを取り出し超巨大な手目掛けて連射する。

キュー
「痛い!!」

ファン
「ルイさん、砂貫通してキューさんに命中してますよ!」
ルイ
「え、あ・・・。」
ギーン
「馬鹿が!水でもぶっかけてろ!!そうすりゃ泥になって崩れる!!」

ギーンが水魔法を唱える。突然どこからともなく大きな津波が押し寄せキュー事津波で押し流した。
キューを握りしめていた巨大な手は水に濡れ、ドロドロになって崩れ落ちた。
ファンがすぐにキューの元まで走る。

ファン
「キューさん!大丈夫ですか!?」
キュー
「・・・・・全くもう!痛いし撃たれるし濡れるし最悪!」

キューがピョンとその場で起き上がる。

ファン
「相変わらず無敵ですね。あんな攻撃喰らってもピンピンしているなんて。」
キュー
「ふふーん。罠にかかっても死なないもーん。」
ギーン
「だったら突撃しろ。」
キュー
「でも痛いんだよ?」
ルイ
「それよりキューさん。今の水でサンドゴーレムは復活できなくなったのでは・・・。」

・・・今足元は水で濡れている。
・・・ところが泥から細い手が沢山伸び、ルイの足を掴む。

ルイ
「ひぃっ!!」

ルイが銃で細い手を撃ちぬく。泥が飛散してその場で消えた。
・・・どうやら泥になっても復活できるようだ。

キュー
「むぅー・・・一体どうすればいいの?何度攻撃しても復活するし向こうはノーリスクで攻撃できる・・・。」
ファン
「普通のサンドゴーレムは体内にマナを溜めこんで、何らかの理由でバラバラになっても
そのマナを使って復活します。通常はこんなにも早く復活はしないのですが・・・。
恐らくあの誕生石の力を借りてこんなにも早く復活しているのでしょう。」
ギーン
「ならあの誕生石を壊すという手はどうだ?」
キュー
「壊したら意味がない!」
ルイ
「それに先程ギーンさんニューバーストで誕生石ごと焼きつくそうとしましたよね?」
ファン
「結果は今でもサンドゴーレムの額に誕生石が埋め込まれたままですが。」

再び地面が盛り上がり始めた。ミニテレポートで避難しようとするがキューだけ唱えずその場に残る。

キュー
「むぅー、こうなったら!!」


キューが盛り上がる砂の中央に立つ。・・・ちょうどサンドゴーレムの頭の上に立っている。
すぐ目の前に誕生石がある。

キュー
「おらー!!」

キューが素手で誕生石に触れる。そしてそのまま思いっきり引っこ抜く!
引っこ抜いた瞬間サンドゴーレムが雄たけびを上げ、暴れ始めた!

キュー
「わっ!」

頭から振り落とされた。
落ちている途中、サンドゴーレムの強烈なパンチを喰らう。
そのまま50m程吹っ飛ぶ。

ルイ
「キュ、キューさん!」

吹っ飛んだキューがよろよろと手を上にあげる。
・・・・誕生石を握りしめている。

ルイ
「ナイスです!キューさん!」

・・・その時、砂が一瞬動いた。

ギーン
「・・・!!早くキューを回収して撤退するぞ!!」
ルイ
「え?」

キューの周りに無数の砂の手が現れ、キューを掴んだ。

キュー
「え?」

そのままキューを砂の中へと引きずり込んだ。

キュー
「!」


ギーン
「くそ!遅かったか!」
ルイ
「キューさん!」

・・・叫んでも返事がない。
ルイが砂を手で彫るが勿論意味はない。

ギーン
「ちっ!結局誕生石は取り戻されちまったな・・・。」
ファン
「このままではいくらキューさんでも窒息してしまいますよ!」
ギーン
「ファン、キューはどれくらい強い?」
ファン
「昔、お風呂代わりに溶岩に浸かった事があります。極楽だとか言っていましたね。」
ギーン
「ただの化け物だな。・・・だったら大丈夫だろう。」

そういうとギーンが杖を地面に向ける。

ルイ
「・・・まさか?」
ギーン
「ニューバースト!!」

ギーンが地面に向けてニューバーストを放つ。物凄い光と熱気が溢れ瞬く間に砂が蒸発して行く。
その最中、断末魔が聞こえた。・・・サンドゴーレムの断末魔。
・・・10秒程照射し続け、最後に超巨大な爆発を起こしてニューバーストは止まった。

ギーン
「くっ・・・。」

長時間照射した結果、体に少し反動が来ているらしい。年齢も年齢なので少し辛いらしい。
・・・ギーンのすぐ足元にぽっかりと穴が空いている。

ギーン
「キューはいるか?」

ファンが穴を覗く。
・・・・・穴の最下層にキューが大の字で倒れている。

キュー
「・・・・砂から脱出しようとジャンプしようとした瞬間。突然目の前に白い閃光が・・・。」
ギーン
「流石化け物だな。俺のニュークリアを喰らって喋れるとはな。」

キューが即座に起き上がって穴から抜け出し、ギーンを張り倒す。

ギーン
「ぐあっ。」
キュー
「今のは痛かったんだよ!!熱かったんだよ!!!死ぬかと思った!!!!」
ギーン
「生きてるからいいだろう。それより誕生石は?」

キューがバッと目の前につきつける。

キュー
「ま、何だかんだで簡単に誕生石手に入ったけどね。」
ファン
「あれで簡単だったんですか・・・。確かに時間で見ますとたったの20分程度ですけど・・・。」
キュー
「あー・・・でも疲れたしクタクタ・・・。ファン〜。帰ろう〜。誕生石も手に入ったし。」
ギーン
「・・・キュー。」
キュー
「んー?」
ギーン
「・・・幽霊刀はどうした?手元にないのか?」
キュー
「あー・・・部屋に置いてある。」
ギーン
「何故使わない?使えばさっきのサンドゴーレムも倒せたんじゃないのか?」
キュー
「・・・・・・・・幽霊刀は強すぎるからダメ。」
ギーン
「そんな事言っている場合か?もしこの場に俺が居なかったらどうなっていた?
今頃お前は砂の中で窒息していたぞ。」
キュー
「・・・・・いいの!」

そういうとキューはテレポートを唱えアジトに帰った。

ルイ
「あぁ、キューさん!待ってください!」

そういうとルイもテレポートでアジトに戻って行った。

ギーン
「あいつらめ・・・。俺に用がなくなりゃお礼の一つも言わずに帰りやがる・・・!!!」
ファン
「自由な人ですから・・。でもギーンさんの協力のお陰で簡単に手に入りました。ありがとうございます。」
ギーン
「お前だけだ。礼を言ってくれるのは。」
ファン
「ひとまず僕も疲れたので帰りますね。」
ギーン
「ああ、じゃあな。」
ファン
「お疲れ様です。」

そういうとファンもテレポートを唱えてキューのアジトに戻って行った。

ギーン
「・・・俺も戻るか。」

ギーンがテレポートを唱えるが何も起きない。そして気付く。


ギーン
「・・・くそが!!MP切れだ!!」







==キューのアジト


キュー
「た、ただいまー・・」

キューがへろへろの状態でアジトに戻る。

琶紅
「キュ、キューさーん!!」
キュー
「ぎゃぁっー!」

琶紅がキューに飛びつく。

琶紅
「一人で寂しかったです!!何処行ってたんですか?
そうそう、キューさん!キューさん!ご飯用意してありますよ!ふふふ・・・。」
キュー
「あ、もうご飯食べた。」
琶紅
「え゙っ。・・・あ!そうそう!お風呂も沸かしてありますよ!気が利くでしょー?」
キュー
「砂風呂に入ったから汚れなんてもうない。疲れたから寝る!」
琶紅
「え゙っ。・・・あ、えーっと・・・。そうだ・・。今日もルイさん私の部屋で寝るんですよね?
またキューさんの所でねかs・・・」

キューが琶紅をスルーして部屋の中に入り、存在しないはずなのに鍵がかかる音が聞こえた。

琶紅
「あああああああああ!!!!!」
ルイ
「今戻りました。」
ファン
「ただいまです。」
琶紅
「ルイさんー!ファンさんー!!キューさんに何故か嫌われています!もうだめだー!」
ルイ
「そ、そういう日もありますよ・・・。・・・私も疲れたので寝ますね。」
琶紅
「あ、ご飯・・・あります・・けど・・・。あ、お風呂も・・・。」
ルイ
「今日はいいです。おやすみなさい。」

そういうとルイが琶紅の部屋に入り寝る準備に入る。

琶紅
「・・・・・・・。」
ファン
「とりあえずサランラップで保存しておきましょうか。お風呂は僕も今日はいいです。
・・・疲れたので寝ますね。それではおやすみなさい。」

そういうとファンは自室に入った。



・・・・・・・。


琶紅
「・・・・・いただきまーす・・・。」




一人で寂しくご飯を食べる琶紅。




琶紅
「・・・・・ぐすん・・・・・ぐすん・・・。ひっく・・・。」









キュー
「(泣いてる琶紅も可愛い〜)」


ドアの隙間からニタニタと笑うキューだった。
・・・ただのドS。


キュー
「(・・・おっと、エメラルド。ちゃんと宝石箱にいれておかないと)」


そういうとキューは宝石箱の中にエメラルドを入れる。
・・・これで五つ。


キュー
「じゃ、おやすみ〜。」










続く










ギーン
「(・・・ゴク、ゴク)」

クソ不味いマナポーションを飲み干す。
・・・そしてテレポートで戻るギーンだった。

ギーン
「(もう二度とキューの手伝い何かしない・・・)」



今度こそ続く





第九話




ファン
「・・・・やはり、大陸図に沿っていますね・・・・。」

ファンが手に入れた誕生石に顕微鏡をかけて隅々まで分析する。
・・・ガーネット、アメジストと同じようにルビー、ラピスラズリ、エメラルドの中にも
図(と、言っても一本の線にしか見えないのだが)が刻み込まれていた。
それぞれアノマラド大陸のある一部分の大陸線に沿っている。

ファン
「一致する部分をペンでなぞっておきますか。」

ファンが宝石の色と同じペンを取り出し大陸の線を塗る。


ファン
「・・・・こんな所でしょうか?」






キュー
「何書いてるのー?」
ファン
「先程調べた誕生石の中にあった図です。ガーネット、アメジストと同じくアノマラド大陸の線を描いていますね。」
キュー
「んー、いつか一周するのかな。」
ファン
「かもしれませんね。これが何の意味をしているのか分りませんが。」
キュー
「・・・緑色の線はエメラルドで、赤色の線はルビー。この青い奴はラピスラズリ?」
ファン
「正解です。ここまである共通点があることに気がつきませんか?」
キュー
「共通点?」
ファン
「ガーネットとラピスラズリは例外として、残り三つの誕生石。それぞれ手に入った場所と
宝石に埋め込まれていた図。・・・気がつきませんか?」
キュー
「・・・・あ・・。そういえばどこも見つけた場所の近くだね。」
ファン
「その通りです。アメジストはナルビクで見つけました。そしてアメジストに埋め込まれていた図は
ちょうどナルビクの近くです。エメラルドはトラバチェスで見つけました。エメラルドに埋め込まれていた図は
同じくトラバチェスの近くです。ルビーは龍泉卿とガーネットの境目で見つけました。
そしてルビーに埋め込まれていた図はまさにその近くです。」
キュー
「・・・もし、全ての誕生石がその共通点を持っていたとしたら・・・。」
ファン
「ガーネットはオルランヌ。ラピスラズリはレンムの西部地方で見つけられた事になりますね。」
キュー
「一番気になるガーネットの送り主。その送り主はオルランヌに住んでいるってこと?」
ファン
「そうとは限りませんよ。オルランヌで手に入れただけで住んでいる場所は別かもしれません・」
キュー
「うーん、そっかー。でも否定は会議を進まなくさせる要因の一つ!!」
ファン
「それは同意ですが、今のは流石に否定しておかないと余計な時間かけてしまいそうでしたので・・・。」
キュー
「えー。」

その時キューがある白い点に気がついた。

キュー
「・・・ん?この白い点何?トラバチェスの所にあるけど、エメラルドがあった場所だよね?」
ファン
「修正液です。もう見つけたのでマークしておく必要はないかなっと思ったので。」
キュー
「なーんだ。・・・じゃぁ、何でアジトにある緑色の点は消さないの?」
ファン
「消した方がいいですかね?」
キュー
「んー、まぁ私はどっちでもいいんだけどねー。」
ファン
「気が向いたら消しておきます。所で今日も誕生石探しに行きますよね?」
キュー
「もちろん!」
ファン
「西部で残っているのはクラドの近くにある場所とケルティカですが・・。どちらから?」
キュー
「あんまり難しい事は考えたくないから手っ取り早くケルティカから。
・・・ってか、普通にケルティカ市内じゃん。街にあるってことだよね?」
ファン
「そうなりますね。」
キュー
「よーし、とりあえず今日はケルティカに行くかな〜。」
ファン
「分りました。」

その時琶紅がルイと一緒に部屋から出てきた。

琶紅
「キューさーん!聞いてくださいよ!!ルイさん、私の部屋を完全に自分の物にしようとしてるんですよー!!」
ルイ
「琶月さんなら何とかなりますよ。」
琶紅
「私は琶月じゃない!!琶紅です!!それに呼称は輝月!!あの輝月!!」
ルイ
「うーん、確かに見た目は輝月さんに近いんですけど・・・どうしても内面が・・・。」
琶紅
「もう立ち直れない・・・。」

キュー
「まーまー、昨日はそっけなく扱っちゃってごめんね。」

キューが琶紅の背中によりかかる。

キュー
「今日は一緒にケルティカに行こうよ。」
琶紅
「また盾にされる、もうだめだ〜!」
キュー
「あらら・・・。」


色々トラウマが残っているらしい。
キューが時計に目をやる。

キュー
「・・・時刻は午前10時かー。よーし、そろそろケルティカに行くかな。」
琶紅
「え?ケルティカに行くのですか?」
キュー
「さっきケルティカに行くって言ったじゃん・・・。」
琶紅
「行きます!行きます!!」
ファン
「ケルティカに何かあるのですか?」
琶紅
「はい!実は・・・・。」










==ケルティカ_ブティック・ミユロゼの衣装堂



琶紅
「じゃじゃーん!どうですか?似合いますか?」
キュー
「お〜。今時の女の子って感じ。」
琶紅
「この服もいいな〜。あ、これも可愛い!!どう思います?キューさん。」
キュー
「ふあぁ〜・・・。」
琶紅
「目の前で堂々とアクビしないでください・・・。興味なさそうですね・・・」

キュー
「(今頃、ファンとルイはアジトでのんびりしてるんだろうなぁ〜・・・)」

ターフ
「お客様、こちらのお洋服も似合いかと。」

店員が何やら派手なドレスを持ってやってきた。
・・・これからパーティに行く訳じゃないのだけれども・・・。

キュー
「うーん・・・アタシは誕生石探しに来たのに・・・。」
ターフ
「誕生石ですか?それならば、こちらのお洋服なんてどうでしょうか。
ドレスの中央に埋め込まれた透き通るように綺麗な四月の誕生石、ダイヤモンドのついたお洋服ですよ。」
キュー
「あ〜、アタシはただの誕生石を探してるわけ・・じゃ・・・」

・・・・その服からあからさまに強い魔力を感じる。

キュー
「うっ・・まさか・・・ちょ、ちょっとそれ見せて!!」
ターフ
「ご試着なされますか?あちらでどうぞ〜♪」

キューがその場で立ちつくして誕生石をマジマジと見る。

キュー
「は、琶紅〜〜!!こ、こんな所に特別な魔力が宿った誕生石がーーーー!!!」
琶紅
「え、ええええええ!!?」

琶紅もキューの持っているドレスに飛びつく。

ターフ
「お気に召されましたか?こちら創設者のミユロゼ様が最後に自ら縫った至極かつ最高傑作の衣装でございます。
美しい方はより一層美しく、そうでない方もそれなりに見栄えます。」
キュー
「最後の一言本当に要らない。」

琶紅
「それなりに・・・・。」
キュー
「この誕生石手に入れるにはこのドレス買うしかなさそうだね。よーし、買った!!」
ターフ
「ありがとうございます!」
琶紅
「あ、キューさん。名札見せてください。」
キュー
「あ、そうだ。いくらだろう。」

そういうとキューが名札を手に取る。



¥125,000,000






キューと琶紅が何度も0の数を数える。

キュー
「あれ・・・。おかしいなぁ・・。ちょっと目がつかれてる・・・?」

ターフ
「こちら1億2500万Seedでございます♪」
キュー
「こんなの高すぎて買えるわけないじゃん!!!」

琶紅
「こ、ここに半額クーポンがありますよ!これで半額に・・・」
ターフ
「申し訳ございません。こちらのドレスは対象外となっております。」
琶紅
「あうぅ・・・。」
キュー
「値下げ値下げ!バーゲン!」
琶紅
「キューさん、見苦しいです。」


・・・結局、どれだけ言っても当然値下げしてもらえるはずがなく渋々琶紅用に一着だけ服買って
店を出る二人だった。







琶紅
「わーいわーい!」
キュー
「でも何だかんだで可愛いね。」
琶紅
「わーいわーい!!」

より一層喜ぶ琶紅。

キュー
「・・・うーん、それにしても参ったね・・・。あんなに高いなんて・・・。」
琶紅
「ファンさんと相談してみます?」
キュー
「相談するにしても・・・。・・・・あ!!」
琶紅
「何か良い案でも思いついたのですか?」
キュー
「うん!ちょっとテレポート唱えるよ〜。」

キューがテレポートを唱える。行き先は・・・・・。




















ギーン
「ふざけるな。」



キュー
「ひぃ〜。」
琶紅
「ギャー!!!」


ギーンの罵声を浴びてひっくり返る二人。


ギーン
「そんなドレス一着のために国家予算を削って貴様らに渡せるわけがないだろうが!!
そもそも貴様等!前回のサンドゴーレムの件といい双月の陣の件といい礼がないぞ!!」
キュー
「まーまーまー!!本当は心から感謝してるんだよ?ギーン様!」
ギーン
「ふんっ!どうだか・・・」
キュー
「それに・・さ!ほら!私が探してる誕生石がそのドレスに埋め込まれているんだよ?
必要なアイテムなんだよ!!」
ギーン
「いいか?俺は何故その誕生石を集めなければいけないのか知らない身だぞ。貴様が話さないからな。
俺からすればとち狂って高い宝石を集める頭のイカレタ野郎にしか見えん。」
キュー
「あー!!人には言っていい事と悪い事があるんだよ!!」
琶紅
「そーだそーだ!」
ギーン
「・・・何故特殊な魔力を宿った誕生石を集めている。その理由を言え。理由によっちゃ考えてやってもいい。」
琶紅
「今回の一件の裏に実は作s・・・」

琶紅が言いかけるがキューが琶紅にドロップキックをお見舞いして発言を阻止する。

琶紅
「ギャーーーーーーー!!!!」
ギーン
「おい、キュー!!いい加減にしろ!!何故そこまでして俺に説明しない!」
キュー
「あ、今の足が滑っただけ。」
琶紅
「嘘です!絶対嘘です!!!」
キュー
「あーあー、わかったよ。アタシの口から説明する。」

二人とも静かになった。

キュー
「おっほん。実は・・・・。」

ギーン
「・・・・・・。」
琶紅
「・・・・・・・。」





キュー
「やっぱ秘密。」






三秒後。白色の巨大レーザービームと共に王室から叩きだされた二人であった。









==キューのアジト



キュー
「全くもう!!レディーの顔に傷でもついたらどうする気なんだろう!!」
琶紅
「原因は絶対キューさんです・・・。」
ファン
「キューさん、ギーンさんではありませんが何故ギーンさんに説明しないのですか?
作者が関わっているのですよ?報告して軍を出動させて人d・・・」
キュー
「それが一番ダメなの。」
琶紅
「・・・どういうことですか?」
キュー
「・・・ギーンは何でもかんでも軍を出動させる。
今回の件だって確かに裏で作者が関わっているけどまだ大事になってない。むしろ全く話題にすら上がらない。
だけどそこで軍がしょっちゅう出動したらどうなる?ちょっとずつ自体は大事になっていくよ。」
ファン
「・・・・。」
キュー
「・・・これはアタシ達だけの問題。
・・・お父さんが唯一アタシに残した問題。表で騒がれる内容なんかじゃない。」

いつも陽気な雰囲気を出し続けているキューだがこの時だけはその雰囲気が消えていた。

ファン
「・・・わかりました。可能な限り僕達だけで頑張ってみましょう。
流石にギーンさんの協力は必要かもしれませんが・・・。」
琶紅
「あの・・・。そういえばルイさんが見当たらないようですが・・・。」
ファン
「ルイさんは今パレンシア海岸に行っています。」
琶紅
「えー、何で・・・。」
ファン
「パレンシア海岸の近くに誕生石があります。海の中ですが、どうにかして手に入れられないか調査しに行って
貰っています。本人は有力な情報を掴むまで帰らないと仰っていたので当分戻らないかと・・・。」
琶紅
「わ〜い!私の部屋が久々に使える〜!」
キュー
「あ、もう琶紅の部屋はルイの部屋に変わったよ。」
琶紅
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

キュー
「嘘。」
琶紅
「キューさんが言うと嘘に聞こえないから困ります・・・。」
ファン
「先にケルティカに存在する誕生石から考えましょうか。」
キュー
「そうだね・・・。どうやってあの誕生石を手に入れようかな・・・。
当たり前だけどあんな大金用意できないよ。」
ファン
「・・・・一つだけ、考えがあります。」
キュー
「おー!流石ファン〜!」
ファン
「・・・ですが、キューさんの意思に大きく反した策です。」
キュー
「・・・まさか盗むとか・・強奪とか?」
ファン
「いえ、キューさんの手を汚すことなく手に入れる方法です。」
キュー
「・・・何?」
ファン
「W・L・C隊を逆に囮に使うのです。」

琶紅
「・・・つまりW・L・C隊にあの店を襲わせて誕生石を奪取させる。そして奪取した所を
キューさんが奪取・・・って事ですか?」
ファン
「正解です。」
キュー
「うーん・・・。・・・確かに色々問題はあるけど・・・根本的な所から問題があるよ。」
ファン
「何ですか?」
キュー
「W・L・C隊って今まで一度も民間人が反応したケースがないんだよね・・・。
それにW・L・C隊も民間人を襲う気配は今の所殆どないし・・・出現する所も民間人が少ない場所だったり・・・
一部例外あったけど。」
ファン
「・・・・そうですね、W・L・C隊も僕達の行動を読めていた場合、
キューさんが誕生石を手に入れた所を襲撃するでしょう。」
琶紅
「じゃー、一体どうすんの〜!」
キュー
「ところでファン。」
ファン
「何ですか?」
キュー
「言っておくけど、私はファンが思っているより善人じゃないよ?」

















==ケルティカ_ブティック・ミユロゼの衣装堂



深夜のケルティカ。
ミユロゼの衣装堂の窓ガラスの前でキューがしゃがんで何か工作を行っていた。

キュー
「マイナーバースト。」

キューが低級炎魔法を唱え指の上に炎の玉を召喚する。
その炎を窓ガラスに当て熱し始める。
・・・しばらくすると窓ガラスは熱くなり始め、触れれば火傷する熱さになった。

キュー
「ウォーターT。」

今度は低級水魔法を唱える。キューの指さきから水があふれ出る。
熱された窓ガラスが冷たい水に触れた瞬間、突然音も立てずにヒビが入った。
キューが小さくガッツポーズを取るとヒビの入った窓ガラスを軽く叩いて壊し中に侵入する。

キュー
「にひひひ、簡単に入れちゃった。」
ファン
『うまく行ったようですね。どうですか?不思議に思いませんか?』

ファンが魔法でメッセージを送って来た。

キュー
『うん、確かに不思議。何でヒビが入るの?』
ファン
『一種の科学ですね。窓ガラスが熱されることにより分s・・・』
キュー
『ごめん、聞いても分らないだろうからやっぱいい』
ファン
『そうですか。』

キューが店内に入る。入った瞬間、速攻で暗黒魔法を唱え店内に存在する防犯用具、トラップを全て停止、解除する。

ファン
『僕としてはどうしてその魔法を唱えればトラップが無効化されるのかとても知りたいです。見た事ない魔法です。』
キュー
『一種の科学。』
ファン
『・・・嘘ですよね?』
キュー
『うん。』

キューがまっすぐにガラスケースの中に飾られた超高級ドレスの元まで移動する。

キュー
「よーし。」

キューがガラスケースに触れる。が、触れた瞬間。





EMERGENCY!!






キュー
「わっ!!」

突然けたたましい警報音が鳴り響いた。

ファン
『キューさん!先程の魔法でトラップは解除できたのではなかったのですか!!?』
キュー
『わかんない!何故か知らないけどトラップが生きてた!!』

どうせ警報が鳴ってしまったのならば・・・。
ガラスケースを壊していっそのことダイヤモンドを奪ってしまおう。
そう思って思いっきりガラスケースを叩き割ろうとするが、拳がガラスケースにぶつかった瞬間
強烈な魔力によって吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

キュー
「うっ!・・・こ、これは一旦体勢整えたほうがいいかな?」

キューが慌てて店内から脱出しようとするが突然檻が天井から落下し中に閉じ込められた。

キュー
「あああああ!!しまったー!!!」






ファン
「琶紅さん!とんでもないことにキューさんが掴まってしまいましたよ!」
琶紅
「待っててください!キューさん!!」

琶紅が刀を持って飛び出す。






琶紅
「キューさーん!」
キュー
「あぁ・・。ファンじゃなくて琶紅が来た。これは一緒に捕まるかもしれない。」
琶紅
「酷い。」


落ち込む琶紅。

琶紅
「・・・って、落ち込んでいる場合じゃなかった!今助けますよ!」

琶紅が刀を抜刀し檻に向かって突進する。

琶紅
「一閃!!」



ガキーン!!




琶紅
ああああああああ!!刀が折れた!!!



キュー
「双月の陣が消滅して輝月と琶月が合体したけど実力も完全に琶月寄り。
目利きはよかったのにあの実力は何処へ・・・・。」
琶紅
「うっ、うっ・・・うわあああああああん!!!」
キュー
「何で琶紅が泣くの!!!第一助けに来なくても出れるから!!」
琶紅
「え?」

キューが鉄格子を掴み力を入れて引っ張るとバキッと音を立てて鉄格子が壊れた。

琶紅
「ば、ば、化け物だーーーーー!!!」




折れた鉄格子の棒が琶紅のすぐ隣を飛んで行った。



琶紅
「ヒィィイィィ!ごめんなさいっ!!!」
警備隊
「強盗犯がこの中にいる!」
キュー
「あ、警備隊が来てる。」

もうちょっとすれば警備隊が中に突入するだろう。

キュー
『ファンー、先逃げてて。』
ファン
『もうアジトにいます』
キュー
『ひとでなし!!』


キューが琶紅の腕を掴むとすぐに緊急テレポートを唱えて脱出した。


警備隊
「突撃ー!!・・・・む、誰もいない・・・。」











==キューのアジト

キュー
「強奪はダメでした!」
ファン
「見ればわかります。」
キュー
「むー。最近ファンが冷たい。」
ファン
「・・・すみません。」
キュー
「謝られても!」
琶紅
「キューさんが最近私に対して冷たい。」
キュー
「ふーん。」
琶紅
「あああああああああ(ry」

あああああああ!!!っと叫ぶ度に両手で頭を掴んでショックを受ける動作をする。
その姿を見てニヤニヤするキュー。

ファン
「キューさん、琶紅さんで楽しむのは良いのですが今後どうしますか?」
琶紅
「楽しむのは良いってどういうことですか!」
キュー
「んー・・・。でも今回の一件できっとしばらく警備されるよね・・・。ますます取り難くなった・・・。」
琶紅
「無視された、もうだめだー!」

その時、ルイが帰って来た。

ルイ
「ただいま戻りました。」
ファン
「おや、随分早く戻ってきましたね。もう情報手に入れてきたのですか?」
ルイ
「はい!!なんとパレンシア海岸の近くに海岸警備隊の基地がありまして
お話を伺い、多少の嘘も絡めて事情を話した所何と潜水艦を出してくれることになりました!!」
キュー
「おおぉぉ!!ルイ凄い!よくそこまで行動したね!琶紅とは大違い!!」
琶紅
「あああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

ルイ
「ふふふ・・・。」
キュー
「ファンー。ケルティカはしばらく諦めてすぐに手に入りそうなこっちから行かない?」
ファン
「そうですね。当分ケルティカの警備は薄くならないでしょうからそれが賢明です。」
ルイ
「何かあったのですか?」
ファン
「かくかくしかじか。」



ルイ
「キューさんの力をもってしても盗めないなんて、何だか不思議なガラスケースですね・・・。」
キュー
「店員は普通に持ってきたから普通に開くと思った・・・・。」
とりあえず今日はもう夜遅いから寝て、明日の朝早くに行こう〜。」
ルイ
「分りました!それでは、寝る支度に入りますね。」

そういってルイは琶紅の部屋には行った。

琶紅
「だからそこは私の部屋です!!!!」

琶紅が駄々っ子パンチをしながら突撃していく。
ルイは苦笑いしている。

キュー
「じゃ、おやすみー。」
ファン
「おやすみなさい。」

キューも自室に入り、すぐに寝た。





キュー
「(結構ここまで順風満帆。この調子でドンドン集められたらいいな〜)」

宝石箱にチラッと目をやる。
・・・・ここからでも宝石の魔力を感じ取れる。
・・・そしてその横に置いてある写真立てに目が行った。

・・・150年前の色褪せた古い写真。
クエストショップの皆とキュピル達が写っている写真・・・。
キュピルのすぐ隣で堂々と仁王立ちして立つキューの姿も居た。その後ろでジェスターが万歳している。
これから写真を取る時だというのにヘルと輝月は喧嘩しており、テルミットと琶月が必死に引き離している。
その横でルイが巻き添えを喰らって白々しい目で二人を睨み、ディバンが苦笑している。
・・・そしてタイマーが短くしすぎて間に合わなかったのか、ファンは前足だけが写真に写っていた。


・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。


キュー
「(・・・やっぱり歳取ると感傷的になっちゃって、だめだね。)」

毛布の中にうずくまるようにして眠る体勢に入った。


















==翌日




キュー
「おっはようー!」
ルイ
「おはようございます。」
ファン
「おはようございます。」

既に食卓には朝ごはんが用意されていた。ルイがいると色々家事をやらずに済む。

キュー
「よーし、今日の目標は誕生石を海からすくい上げて手に入れるぞー!」
ファン
「威勢がありますね。僕も今日は手に入る気がします。」
ルイ
「早く全ての誕生石が集まるといいですね。・・・所で全ての誕生石が集まったら何か起きるのですか?」
キュー
「あー・・・作者を倒すキーアイテムになるってのしか知らなくて・・・具体的な所は殆ど分ってない・・・。
全部集めたら龍が出てきて願いを三つ叶えたりしてくれないかな?」
ファン
「色々まずいのでやめてください。」


その時琶紅が部屋から出てきた。
・・・・何故か顔が真っ青だ。

キュー
「ん?どうしたの?」
琶紅
「・・・キュ、キューさん。やっぱり今日行くのやめませんか?」
キュー
「えー、何で?」
琶紅
「その・・・潜水艦が沈没する夢見まして・・・。嫌な予感が・・・あああ!もうだめだー!」

その事を話すとキューが大爆笑した。

キュー
「アハハハハハハハ!!!沈没しても私は生還する自身あるから別に全然いいよ。琶紅は分らないけど」
琶紅
「あああああああああああああああああ!!!!!!!
もう私、潜水艦乗りません!!!」
ルイ
「大丈夫だとは思いますけど・・・。」
ファン
「・・・まぁ見てみなければ分らないですけど大丈夫でしょう。」
ルイ
「それでは私は先に伺って出発する事を伝えに行きますね。」
キュー
「うん、わかった。あ、場所だけ教えて。」
ルイ
「ここです。」

ルイがクラド周辺地図を取り出しパレンシア海岸(1)を示した。

キュー
「いつのまにそんなところに海岸警備隊の基地があったんだ・・・。たまに通るけど全然知らなかった・・・。」
ファン
「僕も知りませんでした。何時頃出来た基地なんでしょうか。」
ルイ
「30分後程に来て頂ければすぐに出発できると思います。では先に行っていますね。」

ルイが軽く会釈した後テレポートと唱えて移動した。

キュー
「やっぱり行動出来る人はいいね〜。」
琶紅
「うっ、うぅぅ・・・。」
キュー
「も〜、そういう所全部ひっくるめて可愛い!!」
琶紅
「ぎゃぁぁー!」

キューが琶紅の背中から抱きつき、これでもかってぐらい力を入れる。

キュー
「遊ぶのはここまでにして準備しようっと。」
琶紅
「何が起きてもいいように完全な装備でお願いします!
・・・・ああああ!やっぱり私は行きたくない!!」
ファン
「別に留守番しても大丈夫ですよ。」
琶紅
「・・・うぅぅ・・・。でも最近何も活躍していない・・これじゃ役立たず・・・。」
キュー
「え?今更?」
琶紅
「あああああああああ!!!!!!!!!!
もう立ち直れない!!」

そういうと琶紅は部屋の隅でうずくまってしまった。

キュー
「あちゃー、やりすぎた。」
ファン
「・・・とりあえずキューさんは装備の準備をしていてください。」
キュー
「うん。」




==キューの部屋




・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・。


キュー
「(・・・何故かな・・。琶紅の言う通り、今日に限って少し嫌な予感がする・・・。)」

別に潜水艦が沈没しようが大破しようが爆発しようが生還する自信はある。
けどそれ以前の嫌な予感。
・・・昨日呟いた一言を思いだす。



順風満帆



キュー
「(・・・うまく行きすぎてる?)」


・・・。


キュー
「(・・・まぁ、でもいっか。何が起きても逃げれる自信あるし)」

もちろん、皆と一緒に逃げれる自信。



キュー
「・・・・・・・・あ。」


その時、幽霊刀が目に入った。
・・・最後の使ったのは双月の陣の時。

・・・。

キュー
「(今日だけ持って行こうっと)」


幽霊刀を腰に結び付ける。
・・・抜刀していなくても幽霊刀から強い力を感じる。・・・体が軽くなる。

キュー
「よし、無敵!」

後は時間がくるまでゆっくりしよう。








そして30分が経過した。


琶紅は結局、潜水艦が怖いのか留守番することに。
ファンは琶紅が少し落ちついてから行くことになった。


キュー
「じゃ、行ってきまーす!」
琶紅
「ぐすんぐすん、いってらっしゃい・・・。」
キュー
「普通にいってらっしゃいは言ってくれるんだ。」



そう呟くとキューはテレポートを唱えパレンシア海岸へと移動する。




==パレンシア海岸1




到着するとパレンシア海岸は霧に包まれていた。寒い。

キュー
「ひゅぅ〜・・・。寒い・・・。パレンシア海岸に霧がかかってるなんて珍しい事もあるんだ・・・。」

その時、ルイの声が聞こえた。

ルイ
「キューさーん!」
キュー
「あ、ルイ。どう?潜水艦出してくれそう?」
ルイ
「はい!出して貰えますよ!もう準備出来ています!」
キュー
「準備が早いね。凄く助かる。」
ルイ
「ふふふ・・・助けて貰ったお礼は一杯しないといけませんからね!」
キュー
「おー。やる気を感じる。それで潜水艦って何処にあるの?」
ルイ
「海岸警備隊の基地から発進しますので建物まで案内します。」
キュー
「うん、わかった。」


ルイが先導して霧の中を突き進む。・・・視界がとても悪い。


キュー
「何でこんなに霧が出ているの?」
ルイ
「湿度も凄く高いですよね・・・。一応海の中でしたら霧とかは関係ないみたいなので・」
キュー
「まー、そうだよなー。海の中でも霧があったら嫌だよなー。」
ルイ
「あ、あるみたいですよ。」
キュー
「え?」
ルイ
「と、いっても地上のような霧ではなく海の中に小さな気泡が沢山溢れ出て視界が悪くなる事はあるそうです。
特に海の流れが激しくなったりすると起きるようです。」
キュー
「へぇー。」
ルイ
「キューさんにテレポートしてもらった場所は海岸警備隊の基地のすぐそこなのでもうすぐ到着しますよ。」

そういった瞬間、目の前にそこそこの大きさの海岸警備隊の基地が現れた。

キュー
「おぉー、結構大きいんだ。」
ルイ
「そうですね、何時頃出来たのでしょうか・・・。
・・・あ、そういえば今になって気がつきましたけど琶紅さんとファンさんは?」
キュー
「琶紅は潜水艦が怖くて来ない。ファンは琶紅を慰めてから来るよ。」
ルイ
「警備員の人から話聞いて待って貰えるか聞いてみましょうか?」
キュー
「そうだね。」

二人とも海岸警備隊の基地の中に入る。



==海岸警備隊・基地




海岸警備員
「お待ちしておりました。お話はお伺いしております。キュー様ですね?」
キュー
「うん。」
海岸警備員
「海に大切な宝石を落としたとお聞きしております、喜んで協力させていただきます。」
キュー
「ありがとう。一つ質問があるんだけど、どうやって宝石を回収するの?」
海岸警備員
「今回発進させる潜水艦は本来海の中に落ちているゴミを回収するための潜水艦です。
潜水艦にアームが装着されており、そのアームを動かして宝石を回収します。」
キュー
「おー。凄いね。」
ルイ
「あの、この後一名遅れてくる方がいらっしゃるのですが少々お待ちしてもらってもよろしいですか?」

少し海岸警備員が悩む表情を見せる。

海岸警備員
「・・・うーん、申し訳ないのですがこの後、通常勤務があるので時間的に難しい話です。」
キュー
「別に絶対に乗せなきゃいけない訳じゃないから出発しちゃおうか。ファンならきっと分ってくれるよ。」
ルイ
「そうですね。それではお願いします。」
海岸警備員
「分りました。こちらへどうぞ。」


海岸警備員が潜水艦へと案内する。
ちょっと進んだ所の角を曲がりすぐ近くにあるハッチのついた扉を開ける。
扉を空けると地下へと続く梯子が現れ、その梯子を下りていく。
そのまま降り続けていくと地下水の上に浮かぶ潜水艦があった。

キュー
「おぉー!あれかー!」
ルイ
「結構大きいですね。」

縦4m、横7m、幅は5mと言ったところだろうか。もう少し小さい物を想像していた。

海岸警備員が潜水艦へと入口の蓋を空ける。

海岸警備員
「どうぞお乗りください。」
ルイ
「失礼します。」
キュー
「何だかドキドキする。」

キューが潜水艦に乗る。乗った瞬間、魔力が失われていくのを感じた。

キュー
「ん?何で呪文抵抗が張られているの?」
ルイ
「あれ・・・本当ですね。」
海岸警備員
「マナは機器に影響が出るので呪文抵抗を張っています。」
キュー
「ふーん。」
海岸警備員
「そちらの椅子におかけになってください。」

キューとルイが硬い椅子の上に乗る。
横になろうと思えば寝れる大きさだ。

海岸警備員
『潜水艦R-1、発進許可お願いします』

無線先から発進を許可する声が聞こえた。
許可を受けた瞬間、潜水艦のエンジンがかかり水の中を潜り始めた。

キュー
「おぉー!これから海底に行くんだね。」
ルイ
「海の中ってちょっと怖いですよね・・・。」
海岸警備員
「それでは目的地へと移動を開始します。」

潜水艦が一定距離まで潜ると目の前の鉄のハッチが現れた。
しばらくして横にスライドして開かれ基地の外へと出た。





キュー
「お、ピティーチャップ。」

キューが潜水艦の中に取りつけられているモニターに目をやる。
モニターにはヒトデの形をしたモンスターが泳いでる。
・・・実はこのモンスター。よくみると中に小人がいる。
しばらく眺めていると潜水艦に激突し、そのままどこかに逃げてしまった。

ルイ
「キューさん。一つ良いですか?どうしても気になる事がありまして・・・・。」

ルイが小さな声で話しかけてきた。

キュー
「ん?」
ルイ
「・・・何故キューさんはそんな強い力を持っているのですか?
私の中に残っているキューさんのイメージは・・このぐらい小さくてジェスターさんと同じぐらいの身長で
わーわー遊びまわって強いというイメージが全くなかったのですが・・・・。」
キュー
「ルイ。人は成長すれば強くなる物なんだぜ。」
ルイ
「それにしては成長の度合いが化け物染みてます・・・。明らかに死んでしまう攻撃を受けても平然としていますし
キューさんの繰り出す一撃一撃は全て即死級の威力を持っています。一体どこからそんな力を・・・?」
キュー
「秘密。」
ルイ
「また秘密ですか?」
キュー
「うん。こればかしは秘密なんだ。」
ルイ
「・・・でも秘密っということはその力を保持しているのには何らかの理由があるんですね?」
キュー
「鋭いね。」
ルイ
「教えてください、キューさん。キューさんの持つその力。作者と似ています。」
キュー
「・・・アタシが持つ力が作者と似ているだって?」
ルイ
「だってそうじゃないですか・・・。どんな攻撃を受けても蘇る。キューさんの繰り出す一撃一撃全てが即死級。
・・・作者だって同じです。作者は死んだと思っても何度でも蘇り、作者の繰り出す一撃は
大陸を消滅させる事だって可能な攻撃。・・・似ているとは思いませんか?」
キュー
「アタシは作者とは一度も対面したことないから分らない。・・・でもちょっと気に食わない。
何でいきなりそんな事聞いてくるの?」
ルイ
「もしかすると作者を倒すヒントになるかもしれないと思ったからです。」
キュー
「・・・作者を倒すヒント・・・ねぇ・・?」

キューがあからさまにルイを疑うような目で見る。
・・・ここで話しても大丈夫?

ルイ
「・・・・何ですか?」
キュー
「・・・わかった、教えてあげる。最近、ルイの洞察力が凄く鋭いからルイに一つかけてみるよ。
作者を倒す切っ掛けに繋がれば万々歳だしね。」
ルイ
「ありがとうございます。」
キュー
「・・・全部この幽霊刀のお陰。」

そういうとキューが幽霊刀を軽く叩く。

ルイ
「・・・え?幽霊刀・・・?・・・でもキューさん。サンドゴーレム戦の時もそうでしたけど
幽霊刀なんて持っていませんでしたよね?」
キュー
「前にお父さんに言われた事がある。『幽霊刀は使用者の体質を変化させる』って。
・・・てっきり寿命だけ長くなるかと思ったら基礎能力もこんなに上昇してたなんてね。
この状態で幽霊刀を抜刀すると、それこそさっきルイが言った『化け物』になるよ。」
ルイ
「え・・・見た目が変化するんですか?」
キュー
「そう言う訳じゃないよ。本当にアタシでも信じられない力を持つ。
・・・大陸一つ破壊しようと思ったら出来ちゃいそうなぐらい。」
ルイ
「・・・そんな幽霊刀を持ち歩いていて怖くなりませんか?」
キュー
「別に怖くないよ。自分でコントロール出来ているから。これがもし勝手に力が暴走して
自分でもコントロールできなくなったら怖いだろうけどね。
・・・お父さんはその幽霊刀の力をコントロール出来なかったみたいだけどね。突然気が暗くなったり
妙な事言いだす事が多かったけど。」
ルイ
「・・・そういえば以前キューさんが二十歳になった時、幽霊刀の封印を解いて年齢を意図的に止めたっと
仰っていましたけど・・・。自分から幽霊刀を封印したのですか?」
キュー
「まだあの頃は8歳だったから全然力持ってなかったけどファンの協力も得て一緒に封印したよ。
封印したら幽霊刀の力は一気に失われてただの少女になっちゃったけどね。」
ルイ
「・・・ただの少女になったって・・・。つまり幽霊刀の力が消えたのですか?」
キュー
「そう。」
ルイ
「・・・今も幽霊刀を封印したら、キューさんの持っている力は消えると思いますか?」
キュー
「そこは分らないな〜。でも封印したらきっと凄く弱くなるよ。」
ルイ
「・・・今まで不思議に思っていました。何故キューさんは死なないのかと。」
キュー
「それどういう意味?死んで欲しいの?」
ルイ
「でも、ありがとうございます。・・・やっと打開策が見つかりました。」
キュー
「・・・どういうこと?一体何の打開策?」
ルイ
「率直に言います。キューさん、貴方は邪魔な存在です。

その時、背後から突然誰かが襲いかかり前に倒れて顔面を強く打つ。

キュー
「うっ!!」

キューが怯んでいる隙に腰に結び付けていた幽霊刀をルイに盗られた。
・・・本来適合者でなければ触れただけで全身を貫くような痺れを襲うはずだが何故かルイは平然と持っている。

キュー
「か、返せー!!」

キューが暴れて抑えてくる人を吹き飛ばそうとした。どうぜ海岸警備隊だろう。
そう思って吹き飛ばそうとしたが全く動じない。不思議に思い乗りかかっている人物に目をやる。

・・・ルイがいる。

キュー
「・・・ルイが二人!?・・・あ・・しまった・・・!!」

・・・今、キューを抑えているルイの目付きは鋭く無表情だ。
・・・間違いない、偽物のルイ・・・W・L・C隊のルイだ!!

キュー
「偽物の分際で!!」

全力で抑えてくる偽物のルイを弾き飛ばそうとする。が、弾き飛ばそうとした瞬間。体が異常に重くなり始めた。

キュー
「あれ・・な・・なに・・?」
ルイ
「キューさん。自らキューさんの弱点を教えてくださってありがとうございます。お陰で一番厄介な人物を
楽に仕留める事が出来ます。」

ルイが目の前に魔法陣を召喚しそこに幽霊刀を放り込む。
魔法陣が反応し幽霊刀が黒い光に包まれ始めた。・・・封印する気だ!!
封印されたら間違いなくキューはただの一般人に戻る。

キュー
「離せええええーーーー!!」

幽霊刀を封印する前に思いっきり暴れ、やっとの事で抑えている偽物のルイを弾き飛ばした。
すぐに魔法陣を消そうとするが偽物のルイが銃を発砲し背中に直撃する。

キュー
「うっ・・・!!」

背中を撃たれた瞬間、体が一気に重くなった。・・・既に幽霊刀の力が徐々に消え始めている。
それに加え、体も麻痺し動かなくなってきた。・・・さっきの弾に毒でも塗られていた・・?

キュー
「何で・・・何でせっかく助けたのに・・・。偽物のルイに・・加担しているの・・・!!」
ルイ
「・・・キューさん。・・・私を本物のルイだと思っているようですが・・・・。私は偽物ですよ?
キュー
「え・・・?」
偽ルイ
「・・・今貴方の後ろに立っているルイ。・・・向こうが本物。」





・・・今まで何度も対峙してきたフードを被り鉄のお面を着けていた者・・いや、ルイ。
・・・あのルイが本物・・・?







牢屋から助け出し、様々な情報を与えてくれたルイが・・偽物?







キュー
「・・・嘘だ・・!だったら・・何で牢屋に・・閉じ込められていたの・・・!!
それに・・!!アタシが有利になるような情報だって一杯・・・!!」
偽ルイ
「キューさん。貴方なら隠された扉を発見でき、そして私を本物だと勘違いして救うだろうと踏んでいたからです。
有益な情報を与えたのは釣り餌のようなものです。・・・キューさん、釣り餌を飲みこみましたね。針が貴方の喉に
引っかかっています。お陰でキューさん。貴方のアジトの場所も分り、そして重要な情報も全て知ることもできました。」


そういうと偽ルイはアジトにあるはずの重要な書類と宝石箱を見せる。


キュー
「・・・あ・・!!そ、それは・・・!!」
偽ルイ
「・・・キューさん。貴方の負けです。」

そういうと偽ルイは魔法陣を動かし、幽霊刀を完全に封印させた。
・・・力が一気に無くなり、非力な女性へと化した。

キュー
「うっ・・・・。」
偽ルイ
「・・・キューさん。貴方の活躍もここでお終いです。」

偽ルイが銃を潜水艦の中で乱射する。潜水艦に穴が空き浸水し始めた。
浸水し始めたのを確認すると偽ルイは呪文抵抗が張られているのにも関わらずテレポートを唱え、
その場からいなくなった。



・・・・・・。


迂闊だった。



確かにおかしいと思った。




ルイを助けてから次から次へと事はうまく運び

気がつけばW・L・C隊すら見かけなくなった。



ルイ
「・・・・。」
キュー
「ルイ・・・何で・・・何でルイが作者側にいるの・・・。なん・・・・で・・・・。」





・・・本物を見つけたと思ったら偽物だった。




全てを一度に失った。




少しずつ、元のメンバーが戻って行っていたのに。





ショックだった。






徐々に浸水してきた海水が増えてきた。うつ伏せから仰向きへと姿勢を変え必死に呼吸する。
・・・耳まで浸水してきた。

・・・まだ目の前にルイが突っ立っている。


キュー
「・・・ルイ・・・・。・・・・どうして・・・なの・・・・・。」
ルイ
「・・・・」


ルイが何も言わず銃をキューに向ける。
そしてキューの肩に発砲する。

キュー
「っっー!!」

歯を食いしばる。

今まで命の危機なんて殆ど感じないで生きてきていた。

小さい頃、幾度か経験した事はあったが全てキュピルに助けて貰っていた。




今、これまでにない危機を感じている。




ルイ
「・・・どこかで、お父さんに会えたらいいね。」
キュー
「・・・・・どういうこと・・・!?」


しかしそれだけ言うと本物のルイもテレポートを唱えて何処かに消えてしまった。

・・・潜水艦に残ったのはキュー、一人。


・・・・ついに海水が顔まで浸水してきた。このままでは息ができないため、気力を振り絞って立ち上がる。


キュー
「はぁ・・・・うっ・・・っ・・・はぁ・・・。」



・・・・その時、不幸中の幸いか呪文抵抗が薄れていくのを感じた。



・・・マナが復活し始めた・・・・!



だが幽霊刀の力を失ったキューに強力な魔法を唱える力や、魔法を複数唱える気力も残っていない。


回復魔法を唱えた所で現状を打開出来るとは思えない。

テレポートは力が失われてしまった以上、唱える事もできない。


極端に力が低下している。


それだけじゃない。ルイに撃たれた銃弾に塗られていた毒が全身に回り、いよいよ指先も動かしづらくなってきていた。


・・・・絶望的な状況。


しかし、例え力を失い気力すら消えかかっていてもキューの人格だけは存在していた。



キュー
「(・・・・無茶な方法・・・生きて帰れる保証なんて何一つ・・ない・・けど・・・。
・・・・何もやらずに・・して死ぬよりマシ・・・!お父さんだって・・そうやって何度も生還してきたんだ・・・。)」


キューがある魔法を唱え始める。





石化魔法。




一度唱えたら誰かが魔法を解除してくれるまで治る事のない魔法。






この魔法は簡単な魔法だ。それ故に解除も簡単。




石化している間は体の機能が完全に停止し、コールドスリープのような役割も果たす。



完全に浸水しきっても石化さえしてしまえば命は繋いでいける。誰かがすくい上げて解除さえしてくれれば。





しかし体は石化しても、意思は覚醒し続けている。





石化していても周りで何が起きているのか判断したり、




何かを考え続ける事は出来る。




しかし誰にも見つからない場所で石化すれば、やがて耐えられない衝動にかられ



気はふれておかしくなり精神崩壊だって簡単に引き起こす。









・・・・・ファンやギーンに託すしかない。



キューが石化魔法を唱え終える。

すぐに足が硬い岩へと変わり、徐々に膝、腿、腰へと登って行く。


キュー
「(・・・・・見つけてくれるかな・・・・)」


お腹、胸、肩。


もう首から下は岩へと変わった。
体のバランスが取れなくなりそのまま前に倒れる。


そして完全に体が石化する前に一言だけ呟いた。


キュー
「琶紅・・・ファン・・・・。」


そして体全身石化し、体の機能は停止した。



キュー
「(・・・大丈夫・・・・絶対見つけて・・・くれる・・・・)」





キューがそう心の中で呟く。






















しかし待てど待てど、誰かがくる気配は全くなかった。





















・・・・・一日が過ぎ







・・・・・一週間が過ぎ






・・・・・一カ月が過ぎ







・・・・・・半年が過ぎた。





・・・・潜水艦は錆つき、海の生物が出入りするようになっていた。



その潜水艦の中で、ひたすら誰かがすくい上げてくれるのを待つキュー。



早く・・・。




全てが手遅れになる前に・・・・。






すくい上げて・・・・。





































しかし、キューの願いは届かず一生とも思える時間を海の中で過ごした。


















この時、既に10年経過していた・・・。













続く





追伸


物語は後期へと突入。


第十話










クラド自衛隊長
「おーし、沈没した潜水艦を引き上げたな?」


クラド自衛隊が何人か集まり潜水艦を引き上げていた。
偶然、ここで漁を行っていた住民が潜水艦を沈没しているのを発見し報告したらしい。

クラド自衛隊長
「中に死人はいたか?」
クラド自衛隊
「いえ、人は一切乗っておらず脱出した形跡が残されていました。恐らく無事かと。」
クラド自衛隊長
「そうかそうか。死人はいなかったのか。それはよかった。・・・しかし報告の一つぐらい残して欲しいもんだ。
10年間も海に潜水艦を残していたなんてな。」
クラド自衛隊
「いらないってことですよね?中には色んな物が転がっていましたが。」
クラド自衛隊長
「ほぉ、どんな物が転がっていたんだ?」
クラド自衛隊
「そうですね。剣や石像に昔の機器がいくつか転がっていましたね。もうすぐ運び出されると思います。」

しばらくすると引き揚げた潜水艦から色んな物が運び出された。
その中に、悲しそうな表情をした女性の石像も運び出されていた。

クラド自衛隊長
「あの石像。悲しそうな表情をしているな。どうせ石像を作るならもっと楽しそうな石像を作ればいいものを。」
クラド自衛隊
「藤壷やら苔やら一杯張り付いていて気持ち悪いですね・・・。」

クラド自衛隊の何人かが苔や色々ひっついた物を剥がす。

クラド自衛隊長
「お、意外とよくできた石像じゃないのか?かなり細部に渡って作られている。これは職人魂を感じるな。」
クラド自衛隊
「こっちの剣を見てくださいよ、隊長。これ、もしかしてあの伝説のモナ怒りの血じゃないですか?」
クラド自衛隊長
「・・・こりゃ驚いた。まさにお宝じゃないか!」
クラド自衛隊
「こんな貴重な物を回収しないなんて、この潜水艦の持ち主。きっと金持ちなんでしょうね。」
クラド自衛隊長
「よし、残された物品も回収してクラドに引き上げだ。」
クラド自衛隊
「了解。・・・・ところで隊長。」
クラド自衛隊長
「何だ?」
クラド自衛隊
「この石像。どうします?」
クラド自衛隊長
「とりあえずクラドに持ち帰るが・・・持ち帰った後の事を聞いてるんだよな?」
クラド自衛隊
「はい。」
クラド自衛隊長
「流石にこいつはもう汚れていて売るにしても売れなさそうだな・・・。余程マニアックな人じゃなきゃな・・。
クラドに飾るにしてもこんな悲しそうな顔をした女性の石像なんて気味が悪い。」
クラド自衛隊
「隊長。隊長さえよければこの石像。俺が貰ってもいいですか?」
クラド自衛隊長
「お、こりゃ物好きな奴もいたな。ははん、さてはお前。この女性に惚れたな?」
クラド自衛隊
「ち、違いますって!!」
クラド自衛隊長
「ハッハッハ!おい!皆、聞いてくれ!この若造と来たらこの女性の石像に恋しちまったんだとさ!!」


ハハハハハハ!


クラド自衛隊
「ち、ちくしょおぉ〜・・・。」

適当に茶化しながらクラド自衛隊は物品を運びながらクラドへと戻って行った。










==クラド




夜10時。今日は大きな潜水艦を引き上げた。
・・・その中には貴重な剣などが捨てられており小さな村であるクラドとしては貴重な資産となった。


クラド自衛隊
「ただいま。」
眼鏡をかけた青年
「・・・おかえり。」
クラド自衛隊
「おいおい、フィーゼ。今日も一日中家に引きこもっていたんじゃないだろうな?」
フィーゼ
「・・・僕の勝手だろ、兄さん。」

フィーゼが溜息をつく。・・・そして目の前にある本を1ページ進める。

・・・弟、フィーゼは小さいころからずっと家に引きこもり時々外に出たかと思えば近くの魔法商店で
買い物しただけで碌に体を動かそうとしない。
それ故に、ひ弱な見た目もしているし、ずっと近くの本を見ているせいで目付きも半目で暗い雰囲気を感じる。
自分とは対照的で髪の毛もまるで雪を被ったかのように真っ白だ。

クラド自衛隊
「やれやれ・・・。我が弟よ。魔術師を目指すのは構わないが
一日中本を読んでいたって魔術師になれるわけじゃないんだぞ。」
フィーゼ
「・・・そういう兄さんこそ、自衛隊に入れば憧れの冒険家になれる訳じゃない。」
クラド自衛隊
「・・・兄ちゃんはもう冒険家は諦めたんだよ。」
フィーゼ
「・・・知ってる。」

フィーゼの兄。・・・・シジューゼが溜息をつく。

シジューゼもフィーゼと同じように昔、夢を持っていた。
フィーゼの夢は魔術師になることだが兄、シジューゼの夢は冒険家になることだった。
・・・結果は見ての通りだが、その時の名残か体型は筋肉質で勇ましく、弟とは違って
清々しい青年のイメージを与える。

シジューゼ
「全く、弟のために汗水流して働いているというのになぁ・・・。俺もいつかフィーゼみたいに白髪になるのか・・。」

何故かフィーゼは産まれた時から白髪だった。
兄であるシジューゼは燃える心を映すかのように赤い髪だったが近頃、脱色してオレンジ色になってきている。

フィーゼ
「・・・・・・・。」

フィーゼがまた本を1ページ進める。

シジューゼ
「・・・そうだ、フィーゼ。今日は面白い話しがある。」
フィーゼ
「・・・何?」
シジューゼ
「今日な、クラドの海域で潜水艦が沈没していることがわかってな。引き上げたんだ。
そしたら何とびっくり、美しい女神像と超高価な剣が潜水艦の中で眠っていたのさ。
あぁ、あの時は冷静な自分を見せていたが心の中では大興奮だった。まるで冒険している気分だった!」
フィーゼ
「・・・ふーん。」
シジューゼ
「それでな、隊長に話しをつけてそのお宝を持ち帰って来た!ちょっと待ってろ。」

そういうとシジューゼが一旦家の外に出る。
・・・そしてしばらくするとシジューゼよりちょっと小さい女性の石像を運んできた。・・・所々汚れているが
かなり精密に作られているのが分る。

シジューゼ
「はぁ・・はぁ・・。結構重いな、こいつ・・・。どうだ!フィーゼ!いかにもお前が目指している魔術師の石像って
感じじゃないのか?お前さえよければこいつを飾ってもいいんだぞ。」

フィーゼが立ちあがって女性の石像をマジマジと見つめる。

・・・・・。

凄く悲しそうな表情をしている。
何故か見ているこっちまで泣きたくなる。

フィーゼ
「・・・兄さん。ちょっと離れて。」
シジューゼ
「ん?わかった。」

シジューゼが女性の石像から離れる。
フィーゼが一度軽く咳すると、何かの魔法を唱え始めた。

フィーゼ
「解術。」

フィーゼの指先が白く光り女性の石像に触れる。
触れた瞬間、岩がボロボロと剥がれ落ち、中から像そっくりの女性が現れた。

シジューゼ
「な、なんだなんだ!!?」

岩が完全に剥がれ落ち、女性が目を開ける。
そして数秒後、泣き崩れながら喋った。

キュー
「・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・。辛かった・・・・寂しかった・・・・!」
フィーゼ
「・・・兄さん。さっき兄さんが運んできたのは石像じゃない。・・・石化魔法で石化された人間。」
シジューゼ
「つ、つまり・・そのなんだ。お前がいう・・・魔法って奴で石にされていた・・・ってことなのか?」
フィーゼ
「そう。・・・酷く体力を消耗している。・・・私の部屋で休むといい。」

そういうとフィーゼがキューを連れて部屋に入れる。
・・・しばらくしてフィーゼが部屋から出てきた。

フィーゼ
「兄さん。さっき高価な剣を潜水艦から発見されたって言ったよね?」
シジューゼ
「あ、あぁ・・。」
フィーゼ
「その剣は今どこにある?」
シジューゼ
「隊長の家にあるはずだ。明日売却される予定だが・・・。」
フィーゼ
「取り返してくる。」
シジューゼ
「と、取り返してくるって・・・お前の物じゃないだろ!?」
フィーゼ
「・・・状況も読めないの?兄さんは。」
シジューゼ
「・・・はっ・・!そ、そういうことか!そういうことなら兄ちゃんに任せろ!」

そういうとシジューゼは家から飛び出し隊長の家へと向かった。


・・・・・・。

フィーゼ
「・・・・。」


・・・何かが始まる。心がそう感じ取った。












キュー
「ヒック・・・ぐすっ・・・・っ・・・・。」

ベッドの中で丸くなり涙を流すキュー。



・・・想像以上に辛かった。



キュー
「ファン〜・・・。琶紅ぅ〜・・・。」















==翌日


シジューゼ
「・・・・・・。」
フィーゼ
「・・・・・・・。」

フィーゼが読んでいる本を1ページ進める。

シジューゼ
「・・・な、なぁ・・。フィーゼ?」
フィーゼ
「・・・・なに?兄さん。」
シジューゼ
「・・・俺・・いや、兄ちゃん驚いちまった。お前・・いつのまにか魔法、扱えるようになってたんだな・・・。」
フィーゼ
「・・・・。」
シジューゼ
「弟ってのは知らないうちに自分が思っているよりも成長しているもんなんだな・・・・。」



ガチャ


その時、キューがフィーゼの部屋から出てきた。
顔には泣いた痕が残っていたが元気そうな表情になっていた。

シジューゼ
「お、おう!おはよう!」
フィーゼ
「・・・・・・・・。」
キュー
「・・・昨日はありがとうございました。」

キューがぺこりと一礼する。

フィーゼ
「・・・礼は兄さんに言ってくれ。私はただ魔法を解除しただけ。ここに運んできたのは兄さんだから。」
シジューゼ
「お、おいおい!こんなおおきな手柄を俺にくれるってのか!?い、いやはや。いい弟を持ったな・・・俺も・・・。
そ、そうだ。お譲さん!名前はなんて言うんだ?」
キュー
「キュー。キューって言います。」
シジューゼ
「そうか、キューって言うのか!・・・キュー、これはキューの剣なんだろ?ほら。」

シジューゼが机の上に乗せていたキュピルの愛剣を手に取り、キューに握らせる。

キュー
「あ・・・これは・・・・。・・・うん、確かにアタシの剣。・・・よかった・・・無くなってなくて・・・・・。」

キューがまた無言で泣く。

フィーゼ
「・・・泣かせた。」
シジューゼ
「え、ええっ!!?お、俺女性を泣かしちまったのか!?や、やべぇーな!そ、そのなんだ!すまねぇ!!」
キュー
「・・・ありがとう。」

いよいよ収集がつかなくなり、フィーゼが一度咳をしてからキューに話しかける。

フィーゼ
「・・・キューさん・・だっけ?・・・一体何があったのか。何故石化していたのか。
・・・貴方がよければ私に話して貰いたい。・・・・不思議な話だが他人事とは思えない。」

10年間。海の中で過ごしてきたキューが久しぶりに感じ取った暖かさ。
あの頃のキューが持っていた勇ましい性格は消え、大人しくなってしまった。

キューは無謀にも昨日初めてあった人に全て洗いざらい話してしまった。


・・・昔、キューの父がとある強敵と戦っていた事。

・・・その強敵が父と共に消え・・・

その強敵の手先が突然現れ襲ってきた事。


そして誕生石を集めていた事。



しかしそんなある時。昔仲間だった一人の女性を救いだし共に誕生石を集めていたある時。


その女性が偽物だったということが分り、策略にはまって潜水艦と一緒に海の底へと沈められそうになった。


そして自ら石化魔法を自分に唱え、海の中で10年。石となって眠り続けていた。



10年前のキューならば警戒心が強すぎて話さなかっただろう。


しかし心が弱っていたのか、つい昨日あったばかりの二人の青年に全て話した。


話しを聞いていた二人の兄弟は途中、一度顔を見合わせた後。ずっとキューの目をみて話しを聞いていた。


キューが全てを話し終えると暫く沈黙が流れた。一番最初に口を開いたのはシジューゼだった。


シジューゼ
「・・・つまり・・・。160年前。アノマラドに大量のモンスターが集結して襲ってきたのは・・・
一人の強敵の仕業だったってことなのか・・・?」
キュー
「・・・・そう。」
フィーゼ
「・・・本で読んだ事がある。しかし原因は何も分っていなかった。・・・まさか裏で手を引いている者がいたとは。」
シジューゼ
「その強敵が今また復活しようとしていてキューはそれを阻止しようとしていた。ところが手先が現れて
潜水艦と共に沈められた・・・って事・・・だよな?」
キュー
「・・・・うん・」

シジューゼが暫く目を閉じ、拳を振るわせる。歯を食いしばり一粒の涙を流す。


シジューゼ
「・・・待っていた・・・。俺はこの日を・・・待ち続けた・・・。」


・・・そして決意を決めたかのように立ち上がり叫んだ。


シジューゼ
「決めた!!俺はキューと共に誕生石を集める!!旅に出るぞ!!

シジューゼが長年、夢を見続けていた冒険家という道が、今すぐ目の前に現れていた。


過去にも冒険家を目指し、何度か旅に出た事があった。


しかし目的のない旅。何の物語もない旅は彼の意欲を失わせた。



シジューゼ
「・・・フィーゼ。家の事、頼むぜ。ちょっと俺は隊長の所まで行ってくる!」
フィーゼ
「・・・兄さん。僕も行くよ。」
シジューゼ
「何だって?」
フィーゼ
「・・・兄さんだけじゃ心配だ。僕もいなければ危険だろう?」
シジューゼ
「ま、まぁ・・・お前が居れば俺も寂しくはないな。」
キュー
「・・・ありがとう。・・・だけど二人が想像している以上にとても苦しくて辛い旅・・・。
・・・これは私・・・私が解決しなければいけない出来事・・・。それに二人には関係ない事・・・。」



・・・10年前。琶紅とファンにも似たような事を言った記憶がある。



キュー
「・・・これはアタシ達だけの問題。
・・・お父さんが唯一アタシに残した問題。表で騒がれる内容なんかじゃない。」





シジューゼ
「そんなの関係ない!今世界はまた危機に陥ろうとしているんだろう!?だったら関係ないはずがないじゃないか!」

シジューゼがキューの手を握る。

シジューゼ
「協力させてくれ。頼む!」
フィーゼ
「・・・習得した魔法を活用するいいチャンス。」

フィーゼがまた本のページを進める。


・・・・何故だろう。



シジューゼの言葉はどこかキュピルに似ている所がある。




・・・・。



キュー
「・・・うん、わかった。ありがとう。」
シジューゼ
「いよっしゃ!旅の支度だ!!」

そういうとシジューゼは辞表届けをすぐに書いて家を飛び出した。
フィーゼは部屋から適当に魔法用具を取り出し、荷物に入れる。



キュー
「(・・・ファン。琶紅。・・・アタシ、とても運が良いみたい。凄くいい人に出会えたよ)」









==クラド自衛隊長の家




クラド自衛隊長
「いきなり辞表届けなんか持ってきやがって!!何を考えているんだ!?」
シジューゼ
「隊長!!申し訳ありません!しかし私には今、やらねばならない使命が出来たのです!
旅に出なければいけないのです!!」
クラド自衛隊長
「また旅か!!そういって何度辞表届けを出し、また再就職したと思っている!?」
シジューゼ
「・・・2回?」
クラド自衛隊長
「シジューゼ。俺は言ったぞ。次はないと思えってな。・・・ここでお前が辞表するというなら
もう二度とお前の席を用意してやらないぞ。それでもいいのか!?」
シジューゼ
「・・・はい!」

隊長が困った顔をする。

クラド自衛隊長
「・・・ったく・・・。お前がいないと普段の仕事がつまらなくなるじゃないか・・・。最近の連中は皆
自分の事しか考えていない・・・。・・・ま、人間それが普通なのかもしれんがなぁ・・・。
・・・シジューゼ。一体何が起きてお前を旅に駆らせたのか俺には分らん。
・・・だが今回だけは口だけじゃないみたいだな。」

隊長がシジューゼの後ろの方を指差す。
シジューゼが後ろを振り返る。

フィーゼ
「兄さん。もう支度済ませたから早く支度して。」
シジューゼ
「早いな・・・!」
クラド自衛隊長
「フィーゼ。お前も一緒に旅に出るのか。」
フィーゼ
「・・・はい。」
クラド自衛隊長
「外の世界を知らないお前が旅に出る。・・・それも兄のように。
・・・わかった。お前等兄弟そろって旅に出るなら俺はもう止めん。・・・シジューゼ、これを持っていけ。」

そういうとクラド自衛隊長は棚から何かを取り出し、それを封筒につめて渡した。

シジューゼ
「隊長、これは・・?」
クラド自衛隊長
「退職金だ。・・・それでクラドの一流の装備でも買ってこい。」
シジューゼ
「た、隊長!!」
クラド自衛隊長
「その代わりだ!!お前に初めて出来たその旅の目的を達成するまで二度と帰ってくるんじゃねーぞ!!」
シジューゼ
「!。・・・隊長、気付いていたのですか?私に初めて旅の目的が出来たと言う事を・・・!?」
クラド自衛隊長
「歳よりを舐めるな。そのぐらいお見通しだ。・・・・・じゃあな、シジューゼ。元気でいろよ。」
シジューゼ
「・・・はい!隊長!」










==一時間後



シジューゼ
「キューさん!待たせた!旅の支度は済ませた!」

シジューゼが冒険者の服を着て部屋から出てきた。
背中にはタワーシールドとロングソードを背負い更に大きな冒険者のリュックサックを背負っている。
フィーゼは必要最低限の荷物しか持っておらず、比較的軽装だった。

フィーゼ
「・・・兄さん。ばててもしらないよ?」
シジューゼ
「兄を舐めるな、二度は冒険に出ているんだぞ。」

キューがキョトンとしながらシジューゼを見る。・・・そして喋った。

キュー
「・・・・多分ばてるかも。」











==クライデン平原4



シジューゼ
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぐあっ!」

シジューゼが飛び出た石に躓き転ぶ。

シジューゼ
「・・・ちょっと休憩しよう。旅は急いではいけない。」
フィーゼ
「兄さん。まだクラドを出て一時間だけど?」
シジューゼ
「お前・・・いつも部屋に引きこもっている癖になんでそんなに体力があるんだ・・・。」
キュー
「フィーゼ君、たまにリバイタルを唱えてスタミナを回復していたよ。」
フィーゼ
「・・・キューさん。貴方も魔法が使えるのですか?」
キュー
「うん。アタシは使えるよ。」

そういうとキューは魔法を唱え、シジューゼにリフレッシュをかけた。
傷と疲れが癒され、瞬く間に元気になった。

シジューゼ
「こ、これは・・・!!力がみなぎってくる!すげぇー!!」
キュー
「これで大丈夫そうだね。こっちだよ。」

キューが再び歩きはじめる。



今、一行はキューのアジトがあった場所に向かっている。

もし、二人がまだ無事でいるならばアジトにいる可能性が非常に高い。
アジトが綺麗であればそこをまだ拠点にしている可能性が高い。


本来ならばテレポートを唱えてすぐにアジトに向かいたいところだが幽霊刀が封印され
力が失われてしまった以上、一般人と同じように歩いて向かうしか方法はない。


シジューゼ
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・。」
キュー
「あらら・・・。」

もうシジューゼが疲れている。
・・・キューの魔法の質も落ちているようだ。
フィーゼがシジューゼにリバイタルを唱えスタミナを回復させる。





・・・そして旅を始めて六時間後。日は暮れはじめ、旅を出て初めての夜を迎える。






キュー
「今日はここまでにして休憩しよ!」

キューが近くの倒木に腰をかける。
シジューゼも重たい荷物を全部降ろして横になる。

シジューゼ
「だぁー!疲れたー!だがこれこそ旅って感じだな!」
フィーゼ
「・・・・・・。」

フィーゼが鞄から本を取り出し、栞を頼りにページを開く。

キュー
「マイナーバースト。」

キューが適当に薪木を集めて火をつける。
すぐに暖を取れる程度の焚火が出来あがった。

シジューゼ
「フィーゼ。空を見てみろよ。綺麗な星が見えるだろう?
兄ちゃんはな、この星を見るために冒険していた事もあったんだぞ。」
フィーゼ
「・・・その時は一カ月で戻って来た。」
シジューゼ
「うっ・・・・。・・・ま、まぁ、一カ月も同じ星を見続けると飽きてな・・・・。」

シジューゼが横になりながら星を見る。


・・・・。無限に広がる星空。


キュー
「・・・今見えてる星の殆どは最低でも1光年かけて私達の元に届いて光っている。」
シジューゼ
「1光年ってどのくらいの距離をかけて届いてるんだろうなぁ・・・。・・・100Kmぐらいか?」

シジューゼが水筒を取り出し水を飲む。

フィーゼ
「・・・・一光年で進む光の距離は9460730472580800m。・・・約9兆4600億Km」
シジューゼ
「ぶはっ!!きゅ、9兆4600億Km・・・!!?たったの1光年でか!?」

シジューゼが目を丸くして答える。

キュー
「・・・凄いよね。そんな距離、アタシ達人間にはとても進み切れない距離。
そんな距離を星達は1年かけてアタシ達の元まで進んで光り続けている・・・・。
もしかしたら今、アタシ達が見ているあの星は別の惑星で誰かが見ているかもしれないね。」

キューがにっこり笑う。

シジューゼ
「(・・・やべ・・。俺、キューさんに惚れそう・・・・。凄くロマンティストじゃないか?)」

シジューゼがフィーゼにひそひそと話す。

フィーゼ
「・・・キューさん。兄さんが貴方のk・・・」
シジューゼ
「くぁwせdrftgyふじこlp;!!!!」


言葉にならない事を喋りながらフィーゼの首を絞める。
フィーゼが目を丸くして兄を退けようと踏ん張る。それを遠くからキューが見て笑う。




・・・・一日目が終わった。








それから数日が経過した。















キュー
「んーー!よいしょっと!!」

キューが地面に隠れていた鉄の蓋をあける。
・・・キューのアジトとなる入口。・・・こんなにも重かっただろうか・・・。

キュー
「ここがアタシのアジト。・・・皆いるかな。」

キューが心配そうな声を出しながら階段を下りていく。

シジューゼ
「す、すげーなぁ・・・。これこそ、俺が冒険小説を読んで憧れた秘密基地・・・・。」
フィーゼ
「・・・・・」

フィーゼが階段を見る。・・・。

フィーゼ
「・・・最近使われた跡はない。」
シジューゼ
「っ・・・・。」

シジューゼが少し悲しそうな表情をしてフィーゼの顔をみる。その後、下りていくキューの後ろ姿を見つめる。




==キューのアジト



・・・キューのアジトは汚れていた。

電気は付かず、机の脚も数本折れていた。
アジトは誰かが侵入し攻撃された跡もあった。

・・・よくそこで皆と座って一緒に喋りながらご飯を食べた場所・・・・。


・・・・ファンが大陸地図を広げて一緒に作戦を立てた場所・・・。



水も出ず、埃はつもっており、ただ廃墟とかしたアジト。


キュー
「・・・・・・・・・。」

シジューゼ
「・・・キュ、キューさん。・・・まぁ・・・落ち込む事ないさ・・・。」

キューが無言で自分の部屋に入る。



==キューの部屋


部屋は酷く散らかっていた。誰かが火を付けた跡もある。

・・・・そこでもう一度キューが泣き崩れる。

・・・開いたドアの後ろからシジューゼとフィーゼがキューの背中を見つめる。


・・・二人が想像していた上に


キューは過酷な運命を背負っていると感じた。



フィーゼ
「・・・壁に沢山のマナの跡が残っている。・・・襲撃された跡、ここは一度も使われていない。」
シジューゼ
「・・・キューさんの仲間は攻撃された跡、一度もここを使っていないってことなのか・・・。
キューさんの帰りを待てなかった・・・か・・・」


キュー
「・・・あっ・・・。」

ふいに顔をあげるとヒビの入った写真立てが目に入った。


・・・・クエストショップの皆とキュピル達が写った写真。

すぐに立ち上がり写真立てから写真を引き抜く。


・・・半分焦げており、撃ちぬかれた跡もあるが一部分は無事だ。


・・・綺麗にキュピルとキューだけが残っていた。・・・他はもう何が写っているのか良く見えない。

キュー
「・・・・お父さん・・・。」


・・・キューが焦げた写真をポケットの中に入れる。
他に何かアジトに残っている物はないだろうか。



フィーゼ
「・・・兄さん。」
シジューゼ
「どうした?」
フィーゼ
「・・・ここに地図がある。」
シジューゼ
「地図?」


フィーゼが棚から地図を取りだす。
そして地図を広げる。












酷く汚れていて何が写っているのかよくわからない。

×印や何か線で引かれているのは辛うじてわかるのだが・・・。


シジューゼ
「・・・一体何のための存在しているのかわからない地図だ・・・。汚れすぎていてよく分らない。」
フィーゼ
「・・・リサイクル。」

フィーゼが魔法を唱え緑色の光を地図に当てる。すると、瞬く間に地図は元の状態へと復元されていった。











シジューゼ
「お、おぉ・・!!お前本当に凄いな!見直した!」

フィーゼが溜息をつく。・・・実は前からこの程度の魔法なら扱えていた。
ただ兄が気付いてくれなかっただけ。
その時、キューがやってきた。


キュー
「あ!!それは!!」

キューが地図をフィーゼから受け取る。

シジューゼ
「キューさん、その地図は一体?」
キュー
「・・・間違いない・・・。ファンが持っていた地図だ・・・。・・・私が最後に見たときより色が塗られている・・・・。」
シジューゼ
「ファン・・?・・・キューさんのファン・・?」
キュー
「ううん。ファンっていう名前の仲間がいたの。・・・これは誕生石を見つけた場所と
誕生石に彫り込まれていた線をなぞった物・・・。
・・・・海にある誕生石は回収できたんだ・・・。ってことは一回海に来たの・・・?
・・・それにブルーコーラルにあった誕生石も回収されてる・・・。」


・・・・・。


フィーゼがファンの部屋に入り、手当たり次第物色を始める。
・・・・物色すると、貴重な魔法アイテムを見つけ、少し嬉しそうな顔をしながら鞄の中に入れる。

シジューゼ
「・・・お、おい。許可なしに勝手に貰うのは・・・。」
フィーゼ
「別に・・?問題ないと思うけど。」
シジューゼ
「む、むぅ・・・。」

少し罰の悪そうな顔をするシジューゼ。

フィーゼ
「・・・ん・・?」

その時、かなり綺麗な状態で残っている一つの書類を見つけた。
・・・物凄く綺麗だ。こんな荒らされてしまった中でここまで綺麗に残っているのは奇跡に近い。

フィーゼ
「・・・キューさん。ここに綺麗な書類が残っている。」
キュー
「え?見せて。」

キューがフィーゼから綺麗な書類を受け取る。そして中身をみる。


キュー
「・・・これは・・・ファンがこれまで何が起きていたかメモを取っていた書類だ・・・。」



歴1年----

・アノマラドに大量のモンスターが来襲。

・キュー、キュピルからキュピルの愛剣を貰う。

歴2年----

・キュー、未来に戻される。ところが送り込まれた年ではなく、歴72年に飛ばされた。
 原因はモンスターの襲来。
・ジェスター、エユの元に引き取られる。

・ジェスターとエユ。音信不通に。



・・・・懐かしい。
私とファン、琶紅とルイで過去の事を話しあった時にまとめた書類だ。

・・・・。



歴148年-----

・W・L・C隊襲来。キューのクエストショップとキュピルの家が焼かれる。

・キューのアジトを作る。




歴150年-----

・元、キューの家+クエストショップに新しく出来た家に住んでいた住民から謎の手紙を受け取る
 中身にはガーネットがあり作者を倒す鍵となる事が書かれていた。

・双月の陣消滅、琶月と輝月が合体して琶紅となり双月の陣の力から解放された。

・偽物のルイ(訂正:実は本物。)と対峙。しかしある時、W・L・Cの本拠点に行くと牢獄に監禁されていたもう一人のルイがいた。
 そのルイを救出し味方になる(訂正:実は偽物)。そのルイから正確な昔の情報を手に入れた。

・キュー、行方不明。それと同時に一部の書類、宝石箱も喪失



・・・訂正された文章がある。どうやら一緒にいたルイは偽物だったということはファン達の方でも気付いたようだ。


・・・しかし歴150年。・・・キューが行方不明扱いになっていた・・・。


キュー
「・・・・・・・。」








・・・・そこから先は何も書かれていなかった。

恐らくW・L・C隊が襲撃して書く暇がなかったのだろう。


・・・・荷物の殆どが置かれている所を見るとかなり慌てて脱出したようだ・・・。







シジューゼ
「・・・キューさん。」




・・・・・・・。





ここで諦めるわけにはいかない。



例え幽霊刀が無くなり力を失ったとしても。





絶対に諦めるわけにはいかない。



今こうやって自分はしっかり生きている。





命をつなぐ事が出来た。






作者を倒し、今度こそ。




物語 に 終止符 を打たなければいけない。



キュー
「・・・・行こう。」
フィーゼ
「・・・・。」



キュー
「再び誕生石を集めに。」





キューがアジトから出ようとする。

シジューゼ
「もう行くのか?・・・その・・・なんというか・・。きっともうここには戻らないんだよな?
もう少し思い出に浸ってもいいじゃないのか?」
キュー
「・・・思い出は全部終わってから浸る。」

そういうとキューはアジトから出た。
フィーゼがファンの部屋から物色し終えたようだ。

シジューゼ
「・・・はぁ〜、キューさんって美人だし可愛いしカッコイイよなぁ〜。」

フィーゼがどうでもよさそうな顔をしながら地上に出る。
シジューゼも、はっと我に帰り地上に出る。





==クライデン平原4


シジューゼ
「よっしゃ、冒険第二部開始だぜ!」
フィーゼ
「・・・間隔短い。」
シジューゼ
「別に良いだろ?次の目的地は何処何だ?」
キュー
「・・・今の私には力が無い・・・。もし、W・L・C隊と接触したらとても危ない・・・。
・・・まずは頼れる人に頼りに行く。トラバチェスに行くよ!!」
シジューゼ
「ト、トラバチェス!!ここから一体何週間かかるんだ?」
フィーゼ
「・・・一カ月。」
シジューゼ
「な、長旅になるな・・・。」
キュー
「フィーゼ君。さっきファンの部屋から色んなアイテム物色してたよね?」
フィーゼ
「・・・していた。」
シジューゼ
「ほらみろ。説教が始まるぞ。だから兄さんは勝手に人の物を盗るなっと・・・。」
キュー
「確かファンのアイテムに神鳥の羽っていうアイテムがあったはず。それ使ってナルビクにワープしよう。」
フィーゼ
「うん。」

フィーゼが三枚の白い羽を取り出す。・・・使用すると一度行った事のある場所なら簡単にワープできる便利アイテム。
ただし、範囲はアノマラド南部と中央アルミド限定という問題点がある。

キュー
「よーし、ナルビクにワープするよー。」
シジューゼ
「・・・・あ、あのさ。キューさん。」
キュー
「ん?」
シジューゼ
「・・・ナルビクにワープするにはきっと何らかの理由があるんだろうけど・・・ちょっと問題点があってさ・・。」
キュー
「何かあったの?」
シジューゼ
「俺は言ったことあるんだが・・・フィーゼはクラドから一度も出た事なくてな・・・。ナルビクに行った事ないんだ。」
キュー
「それならアタシと手繋いでワープしようか。これでアタシが使用すれば一緒にワープできるから。」
シジューゼ
「いぃっ!?」

キューがフィーゼと手をつなぐと、さっそく神鳥の羽を使用しナルビクへとワープした。
・・・・大分遅れてシジューゼもワープした。

シジューゼ
「ち、ちくしょおぉ〜・・・。」







==ナルビク


10年ぶりに訪れたナルビク。
・・・ところが、キューのイメージと大きくかけ離れた街になっていた。

キュー
「・・・あ、あれ・・・!?」

ナルビクの街は崩壊しており、もはや廃墟としか呼べない場所になっていた。
・・・ワープポイントはまだ機能しているようだが・・・。

フィーゼ
「・・・ここがナルビク?」
キュー
「・・・お、おかしいなぁ・・・。ナルビクってもっと・・こう・・活気がある街じゃなかったっけ・・・。」

・・・・皆で過ごしてきたナルビク。
・・・・なぜこうも壊滅的な状況になっている?

シジューゼ
「・・・俺が最後にナルビクに来たのは6年前・・・。6年前はまだ活気ある港町だったんだが・・・。」
キュー
「・・・・一体何でこんなことに・・・。」
シジューゼ
「・・・まさか・・・キューさんが言っていたW・L・C隊とかいう奴の仕業か!?」
キュー
「でも・・・今まで何もない所をこんな風に襲う組織でもなかったし・・・。
・・・・それともここに何かあったのかな・・・。」


その時、地響きが鳴った。


シジューゼ
「うお、地震か!?」
キュー
「この地響き・・・。自然の物じゃない・・・!」
フィーゼ
「・・・・。」

フィーゼが魔法の杖を前に構える。

シジューゼ
「お、おいおい。何構えてんだよ。」
フィーゼ
「・・・モンスターが来る。」
シジューゼ
「モ、モンスター!?」

シジューゼも慌ててロングソードとタワーシールドを構える。・・・そんな構えで動けるのだろうか?
キューはまだ武器を抜刀していない。


目の前の建物を破壊して何かが飛び降りてきた。


シジューゼ
「シ、シールド!」

シジューゼが盾を構えて飛び散って来た岩を全て防ぐ。・・・盾はかなり質の良い物らしい。
フィーゼとキューは普通に歩いて避けた。

三人の前に巨大な剣を構えたモンスターが飛び降りてきた。




・・・デビルジュネラル。




キュー
「・・・デビルジュネラル。凄く久々に見た。」


・・・最後に見たときはまだ自分が八歳だった時・・・。あの時はジェスターが一緒にいたっけ。


シジューゼ
「で、でかい!!」
フィーゼ
「・・・バースト!」

フィーゼがバーストを唱え炎の弾を複数召喚する。

フィーゼ
「行けっ!」

召喚した複数の炎の弾をまとめてデビルジュネラルにぶつける。
・・・しかし全く効果がない。

フィーゼ
「・・・効果が無い・・・?」
シジューゼ
「フィーゼ!もっとこう・・・ドカーンと行く超強い魔法はないのか!?」
フィーゼ
「・・・まだ僕は完璧な魔術師じゃない。今のが現状で唱えられる一番強い魔法。」
キュー
「ありゃりゃ・・・。」

流石のキューも今のが現状で唱えられる一番強い魔法と聞いてガックシと来る。
フィーゼは魔術としての素質、才能は多いにあるがまだその才能は開花していないようだ。
デビルジュネラルがゆっくり接近し、フィーゼに向かって巨剣を振り下ろした!

全員蜘蛛の子を散らすように逃げ回り、攻撃を回避する。
巨剣がアスファルトを砕き、穴があいた。

シジューゼ
「な、なんてやつだ・・・。だがあんな重い巨剣。そう簡単に持ち上げられるはずがない!」

そういうとシジューゼがロングソードを構えてデビルジュネラルに向かって突撃する。

キュー
「あ!危ない!!」

シジューゼのロングソードがデビルジュネラルに振り落とされる。ところが思いっきり硬い鎧に弾かれ
反動で後ろに転倒する。即座にデビルジュネラルが巨剣を持ち上げ、横薙ぎに巨剣を振り回す。

シジューゼ
「うおぉっ!?」

シジューゼが伏せて攻撃を回避する。すると今度は巨剣を振り上げ、縦に降ろしてきた!
慌てて盾を置いてその場から逃げる。
盾が置いてあった場所にデビルジュネラルの巨剣が振り落とされ、タワーシールドはぺしゃんこになってしまった。

シジューゼ
「あ、あのタワーシールドが・・・一発でぶっ壊れちまった・・・。こいつ・・敵う敵なのか・・・!?」
キュー
「・・・・・・・。」

今の自分には力が無い。


全て幽霊刀の力に頼って来た・・・・。


だけど力は失せても技術は衰えていないはずだ。



キュピルの愛剣をキューが抜刀する。


シジューゼとフィーゼが後ろで待機し固唾を飲んで見守る。


キュー
「今度はアタシの番!!」

キュピルの愛剣を構える。
デビルジュネラルが横薙ぎに巨剣を振って来た!
キューがジャンプすると、その巨剣の上に着地し、もう一度ジャンプしてデビルジュネラルの肩に乗っかる。

フィーゼ
「・・・!?」
シジューゼ
「す、すげぇっ!!」


キュー
「せいやぁっーー!!」

思いっきりキュピルの愛剣を振り落す。鎧事斬り裂き直接本体にダメージを与えた。
・・・しかし与えただけで致命傷ではない。・・・幽霊刀の力さえあれば・・・こんな敵・・・。

デビルジュネラルがその場で高速回転し、キューを振り落す。
振り落とされたキューがシジューゼにぶつかる。

シジューゼ
「おっと、大丈夫か!?」

シジューゼがキューをキャッチして受け止める。

キュー
「大丈夫。ありがとう。・・・ごめん、今のアタシ達には敵わない敵だ。一旦逃げよう。」
シジューゼ
「・・・・わかった。」
フィーゼ
「ミスト。」

フィーゼが魔法を唱え霧を散布する。
視界が一気に悪くなる。

キュー
「二人は先にナルビクから脱出して。二人が脱出したと分ったらアタシも脱出する。」
シジューゼ
「そ、そんな事出来るか!仲間を見捨てるなど!!」
キュー
「うーん・・。こんな事言うのも何だけど力が落ちててもアタシと二人には力の差が開きすぎてる。
ここはアタシが引き付けるのが賢明だと思う。・・・ってか、見捨てる訳じゃないんだけど・・・。」
フィーゼ
「・・・兄さん。キューさんの言う通りだ。ここはキューさんに任せて撤退しよう。」
シジューゼ
「だ、だけどなぁ・・!」
キュー
「良いからさっさと行けー!」

キューがシジューゼの尻を思いっきり蹴り飛ばす。力がないと言ってる癖に大分強い。そのまま5mぐらい吹き飛ぶ。

シジューゼ
「おわぁっ!!?」
フィーゼ
「だから言ったのに。」

フィーゼが小走りで戦闘から離脱する。ミストの効果もあって楽に離脱できた。

シジューゼ
「く、くそぉ〜・・・。」

シジューゼもフィーゼの後を追う。




キュー
「よいしょっと。」

デビルジュネラルの攻撃を楽に回避する。
攻撃するならともかく、回避程度なら十分反応していける。
・・・自分の持っている実力が全て幽霊刀のお陰じゃない事を知ると少し安心する。

キュー
「(もう二人とも脱出出来た感じだね・・・。よし、アタシも脱出しようかな)」

次の攻撃を回避したら離脱しよう。
デビルジュネラルが巨剣を振り上げ、勢いよく降ろしてきた。
攻撃を回避し、次の攻撃が来る前に急いで離脱する。


・・・その時、ミストの影に隠れて誰かが立っていたような気がした。

キュー
「・・・誰!?」

・・・・しかし、影は消え無くなってしまった。


キュー
「・・・・・・・・。」

とにかく今は離脱しよう。





==クライデン平原1



シジューゼ
「はぁ・・・はぁ・・。ここまでくれば大丈夫だろう・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」
シジューゼ
「・・・キューさん、大丈夫だろうか・・。」
キュー
「おーい。」

キューがやってきた。無傷のようだ。

シジューゼ
「無事だったか!」
キュー
「ふぅ・・・。・・・多分デビルジュネラルはアタシ達の事見失ったと思う。」
シジューゼ
「・・・デビルジュネラルの奴め・・・。いきなりボスが現れなくたっていいじゃないか。ちくしょう・・。」
キュー
「まさかナルビクがあんな事になってるなんて思っても居なかった・・・。
・・・マジックテレポートサービスを使用してスムーズに行こうと思ったんだけどこれじゃだめだね・・・。」
フィーゼ
「・・・・どうする?」
キュー
「・・・歩いて行くしかないね。一カ月かかっちゃうかもしれないけどそれしかないよ。」
シジューゼ
「一カ月の長旅か・・・。別に俺は構わないけど食料の問題が気になるな・・・。」
フィーゼ
「食料の心配はいらない。」

そういうとフィーゼは何か魔法を唱え始めた。神秘的な光が両手に集まり次第に一つの物質へと変化していった。

フィーゼ
「リコールフード。」

フィーゼの手にはハムが乗っかったパンが現れた。
更にもう一度別の魔法を唱えると今度は水の入った瓶が現れた。

キュー
「す、すごい!アタシこんな魔法初めて見た!それって超高位魔法なの?」
フィーゼ
「別に・・・。超下位魔法だよ。」
キュー
「え?何で・・・。そんな凄い魔法が下位な訳ないじゃん。」
フィーゼ
「・・・試しに食べてみて。」

そういうとフィーゼがキューにパンと水を渡す。キューがパンを一口かじる。

キュー
「・・・・うぎゃぁー!!ま、マズッ!!ってか苦い!!」

キューが慌てて水を飲む。・・・が

キュー
「ぶはっ!!まずい!!!苦い!!!」

・・・・全部苦いようだ。

フィーゼ
「・・・だから偉大な魔術師は皆こんな魔法使わない。」
キュー
「だ、だから誰も使わないんだ・・・。・・・何かゴムの味がする・・・。」
フィーゼ
「でも体に害はない。お腹も膨れる。」
キュー
「・・・う、うぅ〜ん・・・。」
シジューゼ
「・・・食いたくねぇ・・。」


・・・・しかし頼らざるを得ない。

二人ともナルビクを後にしトラバチェスを目指し始めた。



また長い長い旅が始まる。




続く



第十一話



長い長い旅。

いつもならテレポートで一瞬に飛んで行けるトラバチェス。


しかし、力を失ったキューは自らの足でナルビクからトラバチェスまで歩いて行く。



これが普通。・・・そう、普通の人。








==夜




大きな焚火の周りでゆっくり寛ぐ三人。
フィーゼは相変わらず本を読んでおり、シジューゼはストレッチしている。

キュー
「・・・・・。」


焚火を一心に見つめ続ける。
・・・自分が海の中で石化し、10年が経過してしまった。



・・・毎日毎日、朝と夜を数え続けた。


・・・この10年の間でアノマラド大陸は大きく変わってしまっているかもしれない。


・・・・作者は復活してしまったのだろうか・・・。

琶紅やファンは生きているのだろうか・・・・。


そしてルイ・・・。・・・今も作者の手先として動いているのだろうか・・。



キュー
「・・・・・。」
シジューゼ
「キューさん。さっきから何か考えているようだけど何を考えている?」
キュー
「10年前の事。・・・一緒にアジトで住んでいた仲間二人は元気かなーって。」
シジューゼ
「キューさんの仲間の話し、聞かせてくださいよ。俺すっげー気になります。」

フィーゼが一度顔を上げシジューゼの顔を見る。その後、もう一度本に目を落とす。

シジューゼ
「俺より強い仲間だったんですか?」
キュー
「んー・・・。正直な所二人ともシジューゼさんより強いと思う。」
シジューゼ
「ぐぅぅ・・・。」

・・・正直な所、まだ琶紅の方が強い気がする。

シジューゼ
「すみません、頼りなくて。」
キュー
「気にして無いよ。一人よりは遥かにいいから・・・。」

潜水艦での出来事が少しトラウマとして残ってしまっている。


・・・・・・。


キュー
「・・・・・・・・。」
シジューゼ
「その・・作者っていう奴だっけか?今回の旅のラスボスは・・・。」
キュー
「うん。」
シジューゼ
「その作者って奴はどこまで分っているんだ?」
キュー
「アタシは一度も会った事ないから分らない。でも凄く強いってのは聞いてるし
何度殺してもまた蘇ってきてるんだって。だから作者と一番対峙したアタシのお父さんとこれから向かう
トラバチェスの首相が凄く苦戦していた。」
シジューゼ
「・・・キューさんのお父さんは物凄く強い人だったんだな。」
キュー
「うん、凄く強かった。あんまり真面目な印象はなかったけどお父さんが居なくなってから
初めてその偉大さに気付いたよ。」

・・・・・・。

シジューゼ
「キューさんのお母さんも強い人だったのか?」
キュー
「・・・アタシ、お母さんが誰なのか分らないんだ。何処に居るのか・・・それどころか、誰がお母さんなのかすら知らない。」
シジューゼ
「・・・悪かった。」
キュー
「別にいいよ。」

・・・自分の母・・・。・・・・八歳の頃は、いつかルイが自分の母になるんじゃないかと思っていた。
・・・だけど今考えるとそれはないと思えている。

・・・ルイは自分の母ではない。・・・それだけは確実に言える自信がある。


・・・なら誰が母?必然的にキュピルと親しかった人が母になるはずだが・・・。



キュー
「(・・・輝月・・・。・・・まさかね。)」

まず絶対ない。

キュー
「(・・・琶月?・・・もっとない。
・・・それならジェスター?・・・絶対にない・・・)」

上記二人だったら確実に自分のお父さんはロリコンってことになる。

・・・・誰が母なのか分らない。


フィーゼ
「・・・・キューさん。気になっていたのですが、その寝癖のような髪の毛は癖毛なのですか?」
キュー
「うん、これは癖毛。小さいころから何回髪を梳かしても直らないんだ。水に入っても直らない。」

特に頭の上の方は凄い。この癖毛を利用してワックスで固めて昔ジェスターの髪型を真似したことがあったぐらいだ。

フィーゼ
「・・・質問に答えてくれてありがとう。」
キュー
「じゃー、今度はアタシから質問。いつもその本読んでるけど何の本?」
フィーゼ
「魔術の本。・・・読んで魔法を覚えている。」

そういうとフィーゼは目の前に小さな魔法陣を召喚し、小さな妖精を一匹召喚する。
召喚された妖精は一度辺りをきょろきょろ見回した後、風化して消えてなくなってしまった。

フィーゼ
「・・・まだ魔法が安定していない。」
キュー
「魔法は繰り返し練習するより仕組みをいかに早く理解するかで上達の度合いが違うかな。」
フィーゼ
「・・・覚えておくよ。」
キュー
「さーてと。もう夜も遅いから今日は寝るね。おやすみなさい。」
シジューゼ
「おやすみ、良い夢をな。」



・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


・・・焚火の火が弱まって来た。
シジューゼが足で焚火の火を消すと、眠る体勢に入った。フィーゼも気がつけば寝落ちしてしまったようだ。


・・・もうすぐ明日だ。疲れを残さないためにもシジューゼも早く寝る。







ナルビクを立ってから三週間が経過していた。











==シュトローゼ道



トラバチェスの首都へと続く道。
この辺りまで来ると道はアスファルトに固められたやや近代的な道へと変わって行く。

ただし、旅の者からすると地が堅いため足首を傷めやすくモンスターと遭遇した場合
派手な行動をしてアスファルトと擦れれば痛いため、あまり評判のよくない道である。



シジューゼ
「ひゅぅ〜・・・。ここが噂のシュトローゼ道って所か・・・・。こんなに長い旅をしたのは初めてだぜ・・・。」
フィーゼ
「・・・モンスターにも全く遭遇していない。・・・運がいいみたい。」
キュー
「そうだね。まだ二体しか遭遇してない所を見ると本当に運がいいみたい。」

遭遇したモンスターは全て倒してきた。

シジューゼ
「トラバチェスまで後どのくらいなんだ?」
フィーゼ
「300Kmぐらい。」
シジューゼ
「げぇっ・・・。まだそんなにあるのか・・・。」
キュー
「でもペースとしては悪くないよ。頑張れば後四日か五日で辿りつくんじゃないかな。」
シジューゼ
「あぁ・・・キューさん。トラバチェスについたら美味い店探そうよ・・・。俺もうゴム味の肉と水なんで嫌だ・・・。」
キュー
「う、うん・・・。アタシもあの味は・・流石に・・・。」
フィーゼ
「・・・慣れれば問題ない。現に僕は慣れた。」
シジューゼ
「そういう問題じゃないっつの!」

キューが荷物から双眼鏡を取り出す。

キュー
「んー・・・・。・・・・・まだ見えないかー・・・。」
シジューゼ
「ん?何が?」
キュー
「トラバチェスに大きな塔があってその最上階に王室があるんだけど・・・。
結構でかい塔だけど流石に300Kmも離れてたら見えないかー。」
フィーゼ
「・・・100Kmぐらいにならないと見えないと思うよ。」
キュー
「ありゃ・・・。まだまだ先かー・・。」

キューが苦い表情する。
・・・キュー自身もこの長旅に少しずつ疲れてきているようだ。フィーゼとシジューゼは全く問題ないようだが。

・・・・その時、何かエンジンのような音が聞こえた。

キュー
「・・・ん?」
暴走族
「おらおら、どけやおら!!」
キュー
「わっ!!」

突然後ろからバイクに乗った不良青年達がシュトローゼ道を爆走する。

シジューゼ
「うわっ!あぶねーだろ、このやろ!!」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼが近くに合った先が尖った石を地面の上に置き、逃げる。
バイクがその上を見事に通り、タイヤに突き刺さってパンクした。バランスが崩れ乗っていた不良が転倒した。

シジューゼ
「プッ、だせぇ。」
暴走族
「あ?」

一斉にバイクが止まり、全員武器を取り出して三人に接近する。
・・・大体15人ぐらいってところだろうか・・・。


暴走族
「オイ、てめーのせいでタイヤがパンクしたぞおらぁぁ!!
シジューゼ
「どわぁっー!?」

最後の叫びにシジューゼが怯む。フィーゼは相変わらず無表情だ。

シジューゼ
「は、はん!!んなの、お前の技量が足りなかったってことだろ!俺達に八つ当たりするのは
お門違いだぜ。行こう、キューさん、フィーゼ。」

そういうとシジューゼがトラバチェスに向かって再び歩き出す。ところが目の前に別のヤンキーが立ちふさがり
シジューゼの行く手を阻む。



ヤンキー
「人のタイヤパンクさせといて何とんずらしようとしてるんじゃぁわらぁぁっっ!!」


ヤンキーが思いっきりシジューゼを叩き飛ばす。
硬いアスファルトに叩きつけられる。

シジューゼ
「いってぇ・・・。くっそ、痛い目に会いたくなかったらそこをどけ!」

シジューゼがロングソードを抜刀して威嚇する。

シジューゼ
「言っておくが俺はデビルジュネラルと対峙して生きて帰って来た男だぞ!お前ら何か一瞬で倒してやる!!」
キュー
「ありゃりゃ・・・・。」

キューが困った表情を見せる。フィーゼに至っては「ヤレヤレ・・」っと言った顔をしている。

ヤンキー
「・・・それがどうした?」
シジューゼ
「は?」
ヤンキー
「おい!ボス!!」

そういうと暴走族のボスらしき人が現れヤンキーの後ろに立った。
するといきなりヤンキーの後頭部を殴る。

ヤンキー
「ってぇ!!」
ボス
「わいに向かって何 おい! ゆうとんじゃおらあああskdじゃskldじゃs!!!!」


後半何言っているのか分らなかった。・・・薬でもやっているのだろうか。


ヤンキー
「さ、さーせん!おい!うちのボスはな!あのクノーヘンと対峙してノーダメージで倒した男なんだぞ!!」
シジューゼ
「いぃっ!!?あのクノーヘンをノーダメージで倒した・・・だと!!?」
キュー
「(嘘だ・・・・)」
フィーゼ
「(嘘だね。)」


キューとフィーゼが顔を見合わせる。・・・お互いの考えが一致しているのを確認する。


ボス
「しにとーなきゃ金払ってけやおらあぁぁああああああああおんsだsだぼえおbsjけおあえぼえええ!!



すると他のヤンキーや不良青年達がキューやフィーゼにも群がる。


不良青年
「へへっ、そこの女。いい体してんじゃん。俺と遊ぼうぜ。」

そういうとキューの肩を両手で鷲掴みにする。

キュー
「あーあー、こういう奴と比べるといかに友人Aって人が紳士だったかよくわかる。てやぁっー!!」

キューが不良青年の足先を思いっきり踏みつぶす。怯んだ所を思いっきり不良青年の急所を蹴る。




不良青年
「あがぁっ!!?」





キュー
「男失格!」

そのまま不良青年は泡吹いて倒れた。

ヤンキー
「やろー!ぶっつぶしてやらああぁぁぁっっーー!!」

一斉に襲ってきた。
フィーゼの元に不良青年が一度に四人襲いかかる。

不良青年
「死にさらせ!!」
フィーゼ
「・・・・・。」

不良青年の攻撃をサッと横に回避する。回避した所にデブが立っており、顔面に直撃した。

不良デブ
「あがぁがgぁgぁうgぁgぁgぁうxがうgぁうぁっ!!!」



狂ったような叫び声を上げながら武器を振り回す。

ヤンキー
「お、おい!あぶね!ちゃんと前見て攻撃しろ、デブが!!」
シジューゼ
「うおぉぉー!」

シジューゼがロングソードを振り回しながら突撃する。
デブが真っ二つに斬られ、ヤンキーの右腕にも深く刺さる。

ヤンキー
「うぼおおおぉぉぉぉぉえぇぇぁあぁぁぁっっっっあああああーーー!!」



ヤンキーが痛みに悶える。

ボス
「フンガアァァッッッーーーーー!!!!」




敵のボスがアイアンメイスを取り出し、おもむろに振り回し始めた。

シジューゼ
「くっ!?」

ロングソードで攻撃を防ぐが弾かれてしまった。慌てて拾いに行く。

不良青年2
「拾わせるかよぉぉぉおおお!!」
フィーゼ
「バースト。」
不良青年2
「あちっ!あちぃぃぃいいい!!」

火が服に燃え移り、そのまま全身火だるまとなって大火傷を追う。
誰かに助けを求め、仲間の元へと走るが結果的に火が燃え広がるだけでより多くの損害を与えた。

シジューゼ
「よしっ。」

シジューゼがロングソードを拾い直す。
ボスが重いメイスを振り回したせいか疲れて動きがかなり鈍っている。全身汗まみれだ。
・・・今がチャンスだ。

シジューゼ
「見えた・・!」

シジューゼがアドリブに身を任せて新技をお見舞いする。

シジューゼ
「ひっさぁーっつ!!ストリームアタックッーー!!」

シジューゼがロングソードを勢いよく投げる。ボスの腹に突き刺さる。
ボスが怯むと一般人の割には早い速度でボスに接近し、重みのあるパンチを連続でお見舞いする。

シジューゼ
「おらおらおらぁー!!」

最後に腹に突き刺さったロングソードを抉る(えぐる)ようにして引き抜き、最後に思いっきり重みのあるパンチを
顔面にお見舞いする。

ボス
「ぐええぼぁえぇぁぁっぁおあしにじにさざらせぇてうっぁっあぇおぉぉえええええ!!!」


シジューゼ
「うわっ!汚ね!!」

ボスが口から何か色々吐き出す。思わずシジューゼが怯んでしまう。
怯んだ瞬間、チャンスと言わんばかりにボスの猛反撃が始まった。
アイアンメイスでシジューゼの腕を強打する。

シジューゼ
「ぐぅっ!!」

その時、物凄い殺気がボスの後ろから感じた。ボスの攻撃が止まり、殺気を感じた方に振りかえる。


キュー
「で、残ってるのは君だけなんだけどどうする?」

キューの後ろには叩きのめされてボロ雑巾のように捨てられた不良仲間達が転がっていた。
・・・一度に10人やっつけたらしい。

ボス
「ほ、ほげぇぇっっーー!!
ほげええええええええ!!!


口から色んな物を吐きだしながら叫ぶ。


キュー
「あー・・・気持ち悪い・・・。シジューゼさん。」
シジューゼ
「は、はい!」
キュー
「さっきの「なんちゃらアタック」。磨けば良い技になるかも。アタシがリメイクしてあげる。」

キューがキュピルの愛剣を前に投げつける。再びボスの腹に突き刺さる。
突き刺さった瞬間、シジューゼより遥かに早い速度で大接近し、腹に突き刺さった剣を引き抜き
そこそこの速さで剣を振り回しボスを滅多切りにした!・・・最後に顔面を思いっきり蹴り飛ばし
数メートル吹き飛んだ所でボスは息絶えた。

キュー
「ふん!」
シジューゼ
「す、すごいぜ!!キューさん、かっこよすぎる!!」

シジューゼがガッツポーズを取る。

シジューゼ
「その技!参考にさせてもらうぜ!名付けて『キュー・ストレート・アタック!』」
キュー
「え、えー・・・。もうちょっとセンスのある技名にしてよ・・・。これじゃ琶紅と同等じゃん・・・。」

もし、この場に琶紅が居たら猛抗議してきただろう。

フィーゼ
「・・・・兄さん、キューさん。」
シジューゼ
「ん?」

フィーゼがバイクを起こしている。

シジューゼ
「・・・なるほど。」









シジューゼ
「ハハハハ!実は俺、クラドで自衛隊にまだ入っていた頃仕事でよくバイクを運転してな!」
キュー
「う、うぅぅ・・・。何だか凄く心細い・・・・。」

キューがシジューゼの体をしっかり抱きしめる。かなり速度が出ており
いつ転倒するか気がしれない。その後ろをフィーゼが何故か普通に運転してきている。

キュー
「いつも魔法で移動してたからこんなスピードの出る乗り物なんて乗った事ないよ・・・・。」
シジューゼ
「キューさん、しっかり俺に掴まっててくださいよ!」

そういうとシジューゼは更に速度を飛ばし、キューは目を瞑ってしがみつく。

キュー
「あぁー!怖い!!」
シジューゼ
「(やべ、俺超頼られてる!良い所みせないと!)」
フィーゼ
「・・・・・・。」

シジューゼの横をフィーゼが追い抜かしてく。

シジューゼ
「はっ!!?何でフィーゼの方が早いんだ!?」
フィーゼ
「・・・・技術。」
シジューゼ
「くそぉー!負けるかー!」
キュー
「安全運転でお願いしまーーーーす!!!」



ついにキューが耐えられなくなり叫ぶ。
・・・しかし聞こえなかったのか速度が落ちる事はなかった。







それから二時間後。すぐにトラバチェスに到着した。





==トラバチェス



キュー
「うっ、うぅぅ・・・・。」

キューがへろへろになりながら歩く。

シジューゼ
「だ、大丈夫か?」

シジューゼがバイクを駐輪場にセットしながら答える。

キュー
「・・・言ったよね・・・安全運転でお願いって・・・・・。」
フィーゼ
「・・・ごめん。」

思わずフィーゼが謝る。
キューが二度三度深呼吸する。

キュー
「・・・ふぅ・・・もう大丈夫。」

トラバチェスは10年経っても、さほど差が感じられない。少し綺麗になっただろうか?
中央に巨大な塔が聳え立っているのも相変わらずである。

キュー
「あの塔の最上階に行くよ。」
フィーゼ
「・・・トラバチェスの王室?」
シジューゼ
「キュ、キューさんはトラバチェスの首相とお知り合いだったんだっけか・・・。凄いよな・・・。
実はキューさんってお嬢様だったり・・します?」
キュー
「ううん。私は普通の家で産まれた普通の娘だよ。いたって平凡の娘。強いて言えばちょっと貧乏だった。」

そういうと早歩きで塔に向かう。・・・早く知り合いに会いたい。

シジューゼとフィーゼが走ってキューの後を追う。






==トラバチェス・塔入口


トラバチェス兵
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。どこぞの馬の骨か分らん奴を入れる訳にはいかん!」
キュー
「・・・・・・・。」
トラバチェス兵
「・・・はっ・・!も、もしやお前は・・・!!」
キュー
「またギーンに怒られたくなかったら中に入れさせて。今回は前みたいにベランダ登る力が無いから・・・。」
トラバチェス兵
「・・・立ち入りを許可する・・・。・・・そこの後ろ二人は?」
キュー
「アタシの新しい仲間。一緒に連れてくよ。」
トラバチェス兵
「・・・・了解した。ギーン殿にはあらかじめこちらから連絡を入れておく。」
キュー
「うん、お願い。」

キューが塔の中に入る。シジューゼもぎこちない動きしながら中に入って行く。
フィーゼは相変わらずの無表情である。


・・・塔の中に入るといきなり目の前に魔術師が現れた。

トラバチェス魔術師
「ギーン殿がお呼びです。テレポートで飛ばします。」
キュー
「お願い。」

魔術師が魔法を唱え三人を王室へと飛ばす。






==トラバチェス・王室



王室に辿りつく。・・・玉座には更に老けたギーンが座っていた。


ギーン
「キュー・・・。一体今まで何処で何をしていた。・・・ファンと琶紅が慌てていたぞ。」
キュー
「・・・何が起きたの?」
ギーン
「・・・話をする前に後ろ二人は誰だ。」

シジューゼが一歩前に出て敬礼する。

シジューゼ
「クラド元自衛隊大佐のシジューゼと申します!!お会いできて光栄です!」
フィーゼ
「・・・兄さん。階級なんてなかったはずだ・・・。それにそんなに偉くなかったよね。」
シジューゼ
「うっ・・・そ、その・・・。俺みたいな一般人がこんなお偉い人と会っていいのか凄く不安になっちまって・・・。」

ギーン
「・・・・・・。」
キュー
「アタシを助けてくれた人達。・・・助けてくれてなかったら今ここにいないよ。」
ギーン
「ほぉ?お前が助けられたとは珍しい事もあるんだな・・・。」
キュー
「二人はもう全部知ってるから普通に話を進めても問題ないよ。」
ギーン
「・・・そうか。」

ギーンが不服そうな顔をするが、関係なしに話を進める。

キュー
「今、どうなっているの?」
ギーン
「・・・結論から言う。作者が復活した可能性が高い。」
キュー
「・・・・・・・。」
シジューゼ
「くそっ・・・!ラスボスがついに目覚めてしまったか・・・。」
フィーゼ
「・・・兄さん。一旦僕達は黙ろう。」

ギーンが溜息をついてから再び喋る。

ギーン
「ファンから話しは聞かせてもらったぞ。本人は相当うろたえていたがな。チームのリーダーでもある
お前を失った訳だからな。琶紅とかいう奴も『この先・・・私は生きていけるのかな・・・。』っと
お先真っ暗な顔をしていたぞ。」
キュー
「琶紅・・・・。」

確かに、あのメンバーで考えると今までの戦闘は殆どキューが担当していたから
暗い考えになってしまっても不思議ではない。

ギーン
「・・・何故俺に話さなかった?・・・っていう野暮な質問は飛ばさん。どうせキュピルと同じ考えだ。
問題の作者だが・・・今の所目立った動きは見せていない。特に大きな問題も起きていないしな。
・・・だがこれまでのように何か悪巧みを考えているとしたらそれはかなり厄介だ。
・・・今、奴の悪巧みを阻止するだけの力がもう残されていない。」
キュー
「どうして?」
ギーン
「平和ボケだな。モンスターもキュピルがまだ居た時代と比べれば弱くなったし戦争も起きなければ
争いもない。必然的に全国民は戦いを忘れ平和に生きてきた。・・・結果、戦いの技術を失い
キュー、お前のような実力者は極僅かになってしまった。今、過去と同じ戦争を繰り広げれば間違いなく
一瞬で国は滅ぶな。」
キュー
「・・・・ちょっと悲しいね。」
ギーン
「少なくとも大陸全体で考えれば平和というのは良い事だ。だが、全てが良い事とは限らないとはよく言った物だ。」
キュー
「ギーン。ファンと琶紅は今どうしているの?何処に居るの?」
ギーン
「あの二人が最後にここに来たのは9年前だ。・・・その時は大陸に散らばった誕生石を
自分達の力だけで集めるとか言っていたな。アジトを捨てて東部に行くと言っていた。」
キュー
「じゃぁ二人がアジトを襲撃されたのは知らない?」
ギーン
「お前が拠点としていたアジトの事か?」
キュー
「うん。」
ギーン
「・・・襲撃されたっといった話しは聞いていないな。ファンも知らないと思うぞ。」
キュー
「・・・・よかった・・・。」

てっきり襲撃されたからアジトを捨てたのかと思ったがそういう訳ではなかったようだ。
しかしいずれ戻る事を前提としていたのか貴重品を大分残していた・・・。

ギーン
「キュー。お前の身に何があった?今度は教えろ。」
キュー
「うん。今度は教える。」


・・・サンドゴーレム戦の後の事を全てギーンに話す。

ルイの事・・・。


幽霊刀が封印され力が無くなってしまった事・・・。


潜水艦が沈没し石化魔法を唱えて10年間、眠り続けていた事・・・。


そしてシジューゼ、フィーゼに助けて貰った事。



ギーン
「・・・なるほど。・・・10年間、時間をロストしたのは痛いな。」
キュー
「うん・・・。かなり後れをとった・・・。」
ギーン
「・・・この後どうする気だ?」
キュー
「引き続き誕生石を探すよ。奪われた誕生石も全部取り返す。」
ギーン
「誕生石を全て集めた所でどうする気だ。全て集まれば作者を倒せる訳ではないのだろう?」
キュー
「でも誕生石は作者を倒すキーアイテム。集めないと絶対に倒せない。」
ギーン
「おい。誰がそんな事を言った。」
キュー
「・・・私宛に届いた手紙に書いてあった。」
ギーン
「送り主は誰だ。」
キュー
「・・・・わからない。」
ギーン
「誰が言ったか分らない手紙を信じるのか?誰かが悪戯で書いていたらどうする。」
キュー
「でもW・L・C隊が誕生石を集めているのは事実だし手紙には特殊なガーネットが一緒に含まれていた。
悪戯じゃ絶対にできない。」
ギーン
「・・・一体送り主は誰なんだ・・・。」
キュー
「・・・・・。」
ギーン
「まぁいい。俺はもうこの歳だ。動くことすらままならん・・・。
俺はあくまでも助言しか出来ない。」
キュー
「ねぇ、ギーン。・・・一つ、相談があるの。」
ギーン
「・・・言ってみろ。」
キュー
「・・・さっき幽霊刀が封印された事は言ったよね?」
ギーン
「ああ。」
キュー
「封印された結果、アタシの力は10年前と比べると酷く弱くなった・・・。
・・・八歳の頃の自分に戻ってしまった感じだよ。・・・そこまでじゃないかもだけど。」
ギーン
「・・・お前の持っていたあの超人的な能力が消えたのか?」
キュー
「うん・・・。」
ギーン
「・・・まずいな。・・・あのキュピルを超える力。作者と渡り合えるかもしれないと
期待していたが・・・仕方ないな。・・・封印されたと言ったな?」
キュー
「言ったよ。」
ギーン
「ならば封印を解く事はできるか?」
キュー
「アタシの記憶上、魔法陣で幽霊刀を封印していたのは覚えているから・・・。
多分その魔法陣を壊してもう一度幽霊刀を手にすれば力が戻るかも。」
ギーン
「その魔法陣は何処にある。俺が直々に封印を解いてやる。」

ギーンが重たい腰をゆっくりと持ち上げる。・・・やはり老衰してきている。

キュー
「えーっと・・・場所は・・・。潜水艦の中・・・。」

キューが振り返りシジューゼに目を合わせる。

シジューゼ
「・・・潜水艦の中に魔法陣のような物なんてあったっけかな・・・・。」

シジューゼが後ろ髪を掻きながら答える。

シジューゼ
「・・・うーん・・・。なかった記憶が・・・。」
ギーン
「・・・やっぱりか。奴らの事だ、万が一に備えて魔法陣を別の所に移した可能性が高いな。」

ギーンが再び玉座に座る。

キュー
「そんな事できるの?」
ギーン
「出来る。・・・奴らのアジトにでも移されていれば厄介だな・・・・。」
キュー
「・・・・・・・。」
ギーン
「誕生石を集め直すと言ったな?次に何処へ行く気だ。」
キュー
「西部でまだケルティカに誕生石が一個だけ残ってる。・・・物凄く高く売られてるけど。」
ギーン
「・・・10年前のあの馬鹿みたいな要求はそのためか。」
キュー
「うん。・・・えーっと、もしかしてお金出してくれる?」
ギーン
「寝言は寝てから言え。そんな大金、国の予算から削れる訳ないだろうが。」
キュー
「じゃー!今から寝る!!」
ギーン
「吹き飛ばすぞ。

キュー
「あー!タイムタイム!今またニューなんちゃらって技貰ったら絶対死んじゃうから!!」
ギーン
「ふん・・・。・・・ケルティカの方は俺の方が何とかしてやる。キュー、お前は東部の方の誕生石を集めてこい。」
キュー
「本当に?・・・じゃぁケルティカは任せて東部行くよ。あ、そうそう。もう一つお願いがあるんだけど・・・。」
ギーン
「何だ?」
キュー
「力失っちゃったからテレポート使えないんだ・・・。だから何かテレポートとか簡単に出来る物ないかな・・?」
ギーン
「・・・それならこれを使えばいい。」

そういうとギーンは白く光るクリスタルをキューに投げつける。

ギーン
「それはシルフの風だ。条件はあるがワープポイントと全く同じ働きをしてくれる。」
キュー
「条件って?」
ギーン
「野外に居る事だ。建物の中に居たり洞窟の中、地下にいるとダメだ。
野外にさえいればどこでも、何度でも使える。例えば建物の屋上やベランダ。そんな所だな。」
キュー
「わかった!ありがとう!これでさっそくハイアカンに行くよ!」
ギーン
「待て、キュー。」
キュー
「ん?」
ギーン
「良い忘れていたがここから東部は魔法で行く事は出来ないぞ。」
キュー
「あ・・・・。・・・もしかして必滅の地・・・?」
ギーン
「そうだ。確かに10年前ならハイアカンを経由して東部へと移動してそこから自由にテレポート出来た。
だが必滅の地の領域が更に広がった結果、もう西部から東部。東部から西部へと魔法は完全に移動できないぞ。」
キュー
「・・・じゃー、ここから東部に行くには歩いて行くしかないってこと?」
ギーン
「そうだ。」
キュー
「じゃーこのシルフの風意味ないじゃん!!」
ギーン
「知るか、クソが・・。ない知識でも絞って使うんだな。」
キュー
「あー!あー!酷い酷い!!ダメ首相!税金の無駄遣い!!小沢一郎!!

ギーンが杖を構えニューバーストの発射態勢に入ったため、即座にシジューゼとフィーゼを連れて窓から飛び降り
落下中にシルフの風を使ってトラバチェスのワープポイントへ逃げた。



ギーン
「・・・・ふん。」


・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ギーン
「ケルティカの誕生石・・・。そしてキュー、奴の幽霊刀・・・か。久々に大きな仕事が入ったな。」








==トラバチェス・ワープポイント


シジューゼ
「と、突然あんな事するもんだから俺はつい集団自殺でもするのかと思ったぜ・・・。」
フィーゼ
「・・・兄さん、シルフの風の効果。ちゃんと聞かなかった?聞いていればすぐに分ると思うのに。」
シジューゼ
「ああ聞いたさ!聞いたけどすぐに頭が回転するものか!」
キュー
「まーまー。生きてるんだからいいじゃんー。」
シジューゼ
「・・・ま、そうだな。それにさっきの飛び降り方。まるで勇者になった気分だった。」

シジューゼがさっきの出来事を思い返し、また一人で感動する。

キュー
「(・・・うーん、それにしてもここから歩いて行かないといけないんだ・・・)」

キューがアジトから持ちだした大陸地図を広げる。








キュー
「(・・・必滅の地を歩いて通るのは今の私達の実力だと自殺行為だ・・・・)」


恐らく何処を歩いているのか分らないまま強力なモンスターに襲われ、死に絶えるだろう。
・・・他の手段を用いて東部に行く方法・・・。


キュー
「(・・・・あ。海・・・?)」



・・・・船・・・または飛行船を使って海の上を横断する・・・?


・・・・・。


フィーゼ
「トラバチェスの南東に港町があるけど。」
キュー
「あ、もしかして何考えているのか分っちゃった?」

フィーゼが頷く。・・・まだ子供のように見えるのに随分と思考が優れている。

キュー
「(ねーねー、シジューゼさん。フィーゼ君って今何歳なの?)」
シジューゼ
「え?」

シジューゼが少し間を置いてから喋った。

シジューゼ
「(15歳)」
キュー
「・・・へぇ〜?」

キューがもう一度フィーゼを見る。フィーゼはどうでもよさそうな顔をしている。

キュー
「あ、そういえばシジューゼさんの年齢聞いてなかった。何歳なの?」
シジューゼ
「俺は21だぜ!」
キュー
「割と歳離れてるね。」
シジューゼ
「よく言われるんだよな・・・これが・・・。それでキューさん。これからどうするんだい?」
キュー
「ここ首都から南東にある『デカルト港』っていう港町まで歩いて行くよ。
多分一週間ぐらいで到着するんじゃないのかな?」
フィーゼ
「・・・一日で到着する。」
キュー
「え?」
フィーゼ
「バイク。」














キュー
「・・・・・・・・・・・。」

















==トラバチェス・外



キュー
「さぁー!冒険出発!!」
シジューゼ&フィーゼ
「・・・・・・・・。」


キューの右手には沢山のお金が入った袋を持っている。
・・・バイクを売却した。



フィーゼ
「(・・・・バイクで移動したかった)」


続く



第十二話



残された誕生石を集めに行くためにアノマラド大陸、東部へと向かう。
しかし歩いて行くと道中、必滅の地を通る必要があり現在の実力では明らかに危険だと判断し
トラバチェス南東にある港町へと向かう一行。

海を渡ってハイアカンに行く予定だ。




==直積道



デカルト港へと続く道を歩いて行く。

デカルト港はトラバチェスの街の中でも比較的大きい方らしく首都と結ぶこの道は
かなり丁寧に舗装されている。そのお陰でモンスターが出る事もなく人とすれ違う事も多い。
時々トラックが通る時もある。


シジューゼが地図を見ながら首をかしげる。

シジューゼ
「なぁ、フィーゼ。直積道って何だ?」
フィーゼ
「・・・二つの集合A・Bに対して、Aの元aとBの元bとの組によって作られる集合。{(a,b)}。A×Bで表す。」
シジューゼ
「・・・何を言っているのかさっぱりわからないなぁ・・・。」
キュー
「とても簡単に言うと『全ての組み合わせ』って感じかなぁ・・・。
ちなみに直積って言葉とデカルト積って言葉は全く同じ意味だよ。」
シジューゼ
「それならデカルト道でもいい気がするんだけどなぁー。」


そんな雑談話をしながら進んで行く。

直積道は舗装されているためモンスターが出ないのは良いが、地形の関係上カーブが多く
直線で行かないため少し到着まで時間がかかるのが問題点だ。



その時。




キュー
「・・・・あああああああ!!!!」





突然キューが叫んだ。

シジューゼ
「うわっ!何だ何だ!?敵か!?」
フィーゼ
「・・・・・・・。」
キュー
「何で私歩いているんだろう!!!」

フィーゼ
「哲学?」

シジューゼ
「ぶはっ。何なんだ、この会話。」

シジューゼが笑いだす。

キュー
「違う違う!シルフの風持ってるんだから歩かないで早くこれ使えばよかった!!」
シジューゼ
「・・・・!そうか!それがあればすぐに到着できるな!!」
フィーゼ
「・・・僕と兄さんは一度もデカルト港に行った事ないけどキューさんはあるの?」
キュー
「あ・・・・。そっか・・・。これってワープポイントと全く同じ役割を果たしているんだっけ・・・?」
フィーゼ
「うん。だから一度行って到着しないとワープ出来ないよ。」
キュー
「・・・さ、歩こう歩こう!」

キューが元気よく腕を振って歩きだす。
シジューゼとフィーゼが顔を見合す。

シジューゼ
「キューさん、段々元気出てきたな。」
フィーゼ
「・・・そうだね。」

気がつけばキューが大分先に進んでいた。二人とも小走りでキューの後を追う。




直積道を歩き始めて五時間経過した。
辺りは段々暗くなり、明りなしで移動するには厳しくなってきた。

シジューゼ
「山岳地帯だから夜になると平地よりも暗くなるんだなぁ・・・。
月の明りの重要さがよくわかるぜ。」
キュー
「月かー・・・。」

キューが月を探す。・・・山に隠れて見えない。

キュー
「うーん。」
シジューゼ
「月がどうかしたのか?」
キュー
「なーんか昔、アタシのお父さんが紅い月がどうたらこうたら言っていた記憶があって。
紅い月って見た事ないけど月って色が変わるの?」
フィーゼ
「・・・環境によって色が変わってみえるだけ。
例えばトラバチェスだと地の属性マナが強いから茶色く見える。」
シジューゼ
「・・・茶色ってあんまり綺麗な色じゃないな。」
フィーゼ
「紅い月は古くから争いの警告として言い伝えられてきている・・・。
でも、実際の所は環境マナが一度に何処かで使われたりするとマナが異常反応起こして
月の光との間で見ると紅く見えるだけの事。
・・・だけど、実際の所一度に環境マナが減るってのはよくない。」
キュー
「うーん、分ったような分らない様な・・・。」

キューが腕を組みながら歩く。その時。


急に宙に浮いた感覚に襲われた。


キュー
「!?」


体が浮いたのではなく、崖から落ちたようだ。
持ち前の反射神経ですぐに崖をつかむ。

キュー
「び、びっくりしたぁ・・・。」

足元を見る。・・・断崖絶壁。落ちたら即死だったかもしれない。

シジューゼ
「キューさん!」

シジューゼがキューの腕を掴んで引き上げる。

シジューゼ
「うおおおぉぉぉぉー!!!」
フィーゼ
「・・・そこまで頑張らなくても。」

勢いよく引っ張り上げ、キューを崖から持ちあげる。

キュー
「ありがとう。あーびっくりしたー・・・。何で目の前に崖が・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼがライトを唱えて明りを灯す。・・・マッチの火のように明りが小さい。
その小さな明りで地図を照らす。

フィーゼ
「・・・ここに橋があるようだけど。」
キュー
「橋?」
シジューゼ
「柵も設置しないで危ないな・・・。ってことはどっかに橋があるってことか。」
フィーゼ
「・・・目の前に橋があるはずなんだけど。」
キュー
「・・・・もしかして橋・・・。」
シジューゼ
「・・・・・・・。」

・・・・・。


キュー
「・・・うーん!分んない!!もしかしたら暗くて見えないだけかもしれないし。
とりあえず今日はここで一晩過ごそうよ。」
シジューゼ
「賛成だ。ついでに疲れたしなぁ・・・。」

フィーゼも頷く。トラバチェス首都から随分と歩いたものだ。
崖から離れた所にテント設置し今日はゆっくり休むとする。

シジューゼ
「よーし、飯作ろうぜ飯ー!!おっと、ゴム飯はいらないぞ。」
フィーゼ
「・・・・・・。」
キュー
「今日は豪華な携帯食を持ってきたよー。」
シジューゼ
「お、豪華な携帯食?」
キュー
「うんうん。トラバチェスでバイク売ったついでにってね。じゃーん!」

キューがリュックから冷凍パックを取り出す。・・・そんな物を何時の入れたのか。
蓋を空け、キューが手を突っ込む。そして冷凍パックから冷気と共に赤い生肉を取り出した。

シジューゼ
「おぉぉ!!肉だ!」
キュー
「今日はキャンプの醍醐味カレーにしようと思う。」
シジューゼ
「こいつはたまんないぜ!」
フィーゼ
「(・・・完成するのはきっと2時間後かな。)」

二人がせっせと料理の支度する中、フィーゼは魔術の本を開き読み始める。

シジューゼ
「おいこら、フィーゼ。お前も手伝え!キューさんも手伝ってるんだぞ。」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼが軽くため息をつき、渋々手伝った。


・・・・フィーゼの予測通り、カレーライスにありつけるのに二時間弱かかり完成した頃には
シジューゼが空腹で倒れていた。






・・・・。



==翌日





朝六時。

早起きして早々にテントを片付ける。

キュー
「よーし、出発しよう!・・・・って言いたいんだけど・・・。」

・・・目の前に橋らしきものは見当たらない。

シジューゼ
「フィーゼ、本当に橋はここにあるのか?」
フィーゼ
「うん。」
シジューゼ
「おっかしいなぁ・・・。」

シジューゼが崖に近寄り、崖下を覗く。

シジューゼ
「・・・・・ん。」

・・・・よくみると崖下に木の破片が散らばっていた。何だろう、これは。
双眼鏡を取り出し、覗くと木の破片だけでなくロープなども散らばっているのが分った。
・・・どうやら最悪のケースに遭遇してしまったようだ。

シジューゼ
「・・・最悪だ、橋が落ちている。」
キュー
「ええええーーー!!」

キューも双眼鏡を手に取り、崖下を覗く。
・・・確かに橋らしきものが落ちている。

キュー
「あーあ・・・・。」

もし、手元に幽霊刀があればこんな崖ぐらい。ジャンプして飛び越えられるのに(割とそれでも無理があるが
・・・・さて、どうするか。

フィーゼ
「・・・・でも昨日は何人かの人や車とすれ違ったよね?」
シジューゼ
「・・・・!そ、そういえばそうだな。・・・ってことは・・・つい最近橋が落ちたのか?」
フィーゼ
「何でそういう結論に辿りつくのか・・・。・・・迂回ルートがあるんじゃないの?戻って来た人はいないし。」
シジューゼ
「あぁ・・・。」
キュー
「でも地図を見ると他に迂回ルート何かないみたいだけど・・・・。」

・・・・・。

そういえば途中から反対側から人が急に来なくなっていた。
橋が落ちている事に気付き、引き返したのだろうか。
逆にこちら側からデカルト港へ向かう旅人や車とは遭遇していないが・・・・。

シジューゼ
「どうしたものか・・・・。ここからジャンプして届く距離じゃないしな・・・。」

ここから向かい岸まで大体20mはあるだろう。かなりある。

キュー
「・・・あ。」
シジューゼ
「ん?」

キューが何か思いついたようだ。
ひたすら向かい側にある岩と、こちら側にある岩を見つめている。

キュー
「・・・この方法を取れば渡れるかも・・・。」

キューがリュックからループを取り出す。

キュー
「アタシが崖を降りて、渡ってそしてまた登って岩に結び付ければロープを伝って行けるんじゃないかな?」
シジューゼ
「・・・危険すぎる!」
キュー
「昔のアタシなら絶対出来た!!」
フィーゼ
「・・・魔法で落下速度を軽減させる事は出来るからそれで向かい崖に飛びつくってのは?」
シジューゼ
「フィーゼ・・・お前そんな魔法も使えたのか。」
フィーゼ
「『フォールダウン』・・・。結構簡単な魔法。」

フィーゼがキューにフォールダウンを唱える。キューの足元を中心に強風が吹き始めた。
試しにキューがジャンプすると、ゆっくりと降下した。確かにこれならば
向かい岸とまでは言わなくとも、向かい『崖』に飛びつく事が出来るかもしれない。

キュー
「よーし!荷物は置いて行くから一緒に持ってきてね。」
シジューゼ
「む、無茶はしないでくれよ!」

シジューゼが心配そうに声をかける。キューが「大丈夫、大丈夫」と頷きながら岩にロープを巻きつける。
フィーゼがもう一度フォールダウンを唱える。
キューが唱えられた事を確認すると、勢いをつけて向かい岸へとジャンプした。

キュー
「てええええーーーーーい!!!」

そのまま慣性に乗り、中々の速さで向かい崖へと飛んでいく。
ゆっくり、ゆっくりと降下しつつも崖へと近づいて行く。
そして数秒後。そのまま激突するかのように向かい崖へと辿りついた。

キュー
「いだっ!」

思いっきり体をぶつけ、そのまま後ろに倒れそうになるが必死にしがみつく。
ここで落ちたら流石に洒落にならない。
しばらく痛みに悶え、痛みが引くまで待つ。

シジューゼ
「あぁ、心配だ・・・。キューさん崖に張り付いたまま動かなくなったぞ・・・。まさか何かあったんじゃ・・・。」
フィーゼ
「心配しすぎだよ、兄さん。それよりロープちゃんと渡れる?」
シジューゼ
「俺はクラド自衛隊だ!そんなの訓練で何度も経験している!」
フィーゼ
「・・・・。・・・ほら、キューさん崖を登り始めたよ。」
シジューゼ
「お!よかった・・・。」


数分後。キューが向かい岸まで登りきり、近くに合った大きな岩にロープを結び付ける。
ピンと張りつめたロープが無事結べた。

キュー
「このロープにしがみついてこっちまで渡れるー?」

・・・とはいうものの。
実際ロープは大分細く、紐が解けないか相当不安だ。

シジューゼ
「こ、これは大分怖いな・・・。・・・だ、大丈夫だ!!」

シジューゼが荷物を背負い、ロープに跨る。

シジューゼ
「よし、いくぞ。」

シジューゼがロープを膝を肘で抑え、手を前にのばして体を前に引きずる。
初めはよかったが中盤まで来るとロープが段々揺れはじめバランスが安定しなくなってきた。

シジューゼ
「うわっ!落ちっ・・!?」
キュー
「あ!」

体勢を崩し、ロープから落ちる。
・・・っと、思いきや辛うじて手だけはしっかりロープを掴んでいた。
・・・そのまま手だけでぶら下がり、向かい岸へと渡って行く。

シジューゼ
「くっ・・・。俺は大丈夫だ。だけど運動オンチのフィーゼがここを渡りきれるか不安だっ・・・!!」

シジューゼが汗だくになりながら叫ぶ。そしてフィーゼのいる崖へと目を移す。
・・・・ところがフィーゼがいない。

シジューゼ
「・・・・?」
フィーゼ
「兄さん、僕なら既にキューさんの所に居るよ。」
シジューゼ
「は!?」

気がつくとフィーゼが既に対岸へと渡っていた。一体いつ!!?
シジューゼが必死に腕と手を動かして進み、やっとの思いで対岸まで渡った。

シジューゼ
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・。ちょっと死ぬかと思った・・・。・・・フィーゼ、一体どうやって渡った!!」
キュー
「えーっとね・・・。フィーゼ君。普通にフォールダウン唱えてこっちに飛んで来ちゃった・・・・。」
シジューゼ
「・・・崖飛び越えて、登って来たのか?」

フィーゼが頷く。
・・・・兄が思っているより弟は運動オンチではないようだ。

シジューゼ
「・・・・・。」
キュー
「・・・・さ、ささ。行こう行こう。目指せデカルト港!!」

キューがロープを放置してデカルト港へと歩く。
フィーゼも深いため息を一回ついてその後を追う。







キュー
「・・・・。」
シジューゼ
「・・・・。」
フィーゼ
「・・・・。」


目の前に車や旅人が盛んに通行している。
今、三人がやってきた道の所に看板が置いてあった。


『この先、橋が落下しているため通行できません。迂回ルートを通ってください』


・・・・・・。


シジューゼ
「やっぱり迂回ルートがあったのか・・・。」
キュー
「でも迂回ルートがあったのなら絶対気付いてたよね・・・。何で分らなかったんだろう・・・。」
フィーゼ
「・・・夜だった上に月が崖に隠れて凄く暗かったのが原因だと思うけど。」
キュー
「・・・・・・・・・・。」





キューが再び無言で歩きだす。
二人とも無言で再び歩き始めた。





・・・・とはいえど、盛大な近道にはなったらしく予定通り、一週間でデカルト港に辿りつく事が出来た。







==デカルト港



キュー
「あぁー・・・やっとついたね・・・。」
シジューゼ
「ああ・・・。ここがデカルト港か・・・。」

流石のシジューゼも疲れてしまったらしい。
途中から携帯食が底をつき、ゴム飯を食べる羽目になった。(フィーゼは何ともないようだが

キュー
「早めに宿取って今日はもう寝よう・・・。」
フィーゼ
「・・・宿探すよ。」

フィーゼが自身にリバイタルをかけスタミナを回復させる。
シジューゼもフィーゼの後を追い一緒に宿を探し始める。
キューはその場で近くのベンチに座る。

キュー
「ふぅ・・・・。」

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

キュー
「・・・・・・ん・・・?」

チラッと薄目を開け、人の流れを見る。
・・・その中で今、一瞬だけ長くて赤い髪が見えたような・・・・。


・・・・・。


キュー
「・・・・・・。」

すぐに立ち上がり、すぐに人ごみの中に入って長くて赤い髪の人を探し始める。
目立つ色だからすぐに見つかるはずだ。

ちょっと高い所に立ち、一生懸命探す。

・・・居た!

今、高い建物の角を曲がった。
人ごみをかき分けるようにして進み、高い建物の角を曲がる。

・・・曲がったまではよかったものの、そこから見失ってしまった。

キュー
「うぅぅ・・・。・・・今のもしかして・・・琶紅・・・?」

だとしたらどれだけ嬉しい事だろうか。
琶紅と早く会いたい・・・。

・・・その後、もう一度探すが見つからず、結局元居たベンチの所まで戻る。





シジューゼ
「あ、おい。フィーゼ。キューさん戻って来たぞ。」
フィーゼ
「ん。」
キュー
「ごめん。今ちょっと見知った人が居た気がして・・・。」
シジューゼ
「会ったのですか?」
キュー
「ううん・・。見失っちゃった・・・。前に話した『琶紅』って人に似てたんだけど・・・。
人が凄く多くて見失っちゃった・・・。」
シジューゼ
「そうか・・・。それにしても本当に人の多い所だ。こんだけ沢山の人が居ればその琶紅って人も
いるかもしれない!仲間が増えると嬉しいな・・・。」
フィーゼ
「・・・それより早く宿。」
シジューゼ
「あぁ、そうだった!キューさん、宿の予約取ろうとしたら全員集まらないと予約受け付けないって言われたんだ!
速く行きましょう。」
キュー
「うん、わかった。」




その後、ベンチから数十メートル離れた所にあるやや小さい宿に入り部屋を取る。
シジューゼが二部屋取ろうとしたが資金が勿体ないのでキューが一部屋でいいと言い結局一部屋になった。

シジューゼ
「テントで寝る時も毎回思ったが・・・俺等、男と一緒に寝て嫌ではないのですか?」
キュー
「ん?別に何とも思わないよ。それに良い人だしね。」
シジューゼ
「い、良い人・・・。」

シジューゼが視線を激しく逸らし何か考えている。

フィーゼ
「・・・・・・。」




部屋は一応三人用って事でそこそこの広さを取っている。
普通の一人用の部屋と比べればそれなりに高いが二つの部屋を取るよりかは安い。

キュー
「よーし。荷物は置いてっと。せっかくデカルト港に来た訳だから三日間ぐらいはここに滞在しない?」
シジューゼ
「お!それはいいな!これこそ冒険の醍醐味って奴だよな!」
フィーゼ
「・・・ハイアカン行きの船のチケット探してくる。」
キュー
「あ、フィーゼ君。」
フィーゼ
「・・・・?」

フィーゼが振り返る。

キュー
「フィーゼ君は結構真面目だと遊んで来てもいいんだよ?」
フィーゼ
「・・・大丈夫。帰りに少し色んな店回ってくるから。」

少しだけ笑みを浮かべてフィーゼが部屋から出る。

シジューゼ
「弟の奴はいつもあんな感じでちょっと気持ち悪いかもしれないけど許してやってくれ。」
キュー
「そう?別に気持ち悪くないけど・・・。」
シジューゼ
「え?あ、そうか・・・。」
キュー
「?」
シジューゼ
「おっと、俺は少し街を歩き回ってくる。」
キュー
「何だかんだでシジューゼさんも元気だね。」
シジューゼ
「新しい街に来たって実感が沸いて来たからな!」

そういうとシジューゼも重たい荷物だけ置いて部屋から飛び出て行った。

キュー
「(アタシは何しようかな)」

・・・もう一度街を歩き回って琶紅っぽい人を探す?
それとも面白そうな所を探す?

・・・・・。

一旦ベッドの上で横になり考える。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


キュー
「・・・・やっぱり私も街を歩き回ってみようっと。」

即座に起き上がり、剣と財布を持って外に出た。









適当に歩き回っていると気になる店を一つ見つけた。

キュー
「あ・・・。」

・・・ペットショップ。

・・・ペットっという言葉に懐かしみを感じる。
そして出てくるのはジェスター。

キュー
「ちょっと中に入ってみようっと・・・。」




==デカルト港・ペットショップ


中に入るとペット育成に関する様々なアイテムが置かれていた。一部何に使うのか全く分らない物まであるが・・・。
店内に入ってうろうろ歩きまわっていると店員がキューの元にやってきた。

ペットショップ店員
「いらっしゃいませ!!お客様はペットをお持ちではないようですね?」
キュー
「え?あ、はい。」
ペットショップ店員
「それでしたら、こちらの方をご覧になられてはどうでしょうか?」

ペットショップの店員がある所までキューを誘導させる。
二重扉になっている通路を通ると、そこにはたくさんのペットが遊びまわっていた。
明月・・・リブリオ・・・ゼリッピ・・・クルノ・・イニュイト・・・。そしてジェスター。


キュー
「・・・・あれ?」


今、キュピルのジェスターっぽいジェスターを見かけたような・・・。


・・・・!


白い髪に白い服。そして黒い目に黒い靴・・・。


キュー
「ジ、ジェスター!」
ペットショップ店員
「?」

キューが白いジェスターの所に飛びつく。
白いジェスターがびっくりし、近くの箱に身を潜める。・・・こっちをじーっとみている。

キュー
「あ・・・そっか・・。色が全く同じジェスターなだけだよね・・・。」
ペットショップ店員
「あまりペットを驚かせないでください。」
キュー
「ごめんなさい。ちょっと前に飼っていたジェスターと凄くそっくりだったので・・・。」
ペットショップ店員
「・・・そうでしたか。」

まだ白いジェスターがキューの方をじーっと見つめている。
仕草もなんとなく似ている。

キュー
「・・・いいや。ちょっと用事があるので失礼しますね。」
ペットショップ店員
「そうですか?お帰りはあちらでございます。」
キュー
「ありがとう。」

二重扉になっている通路を再び通り、ペットショップから出て行った。







店を出ると少し騒がしかった。
・・・何か起きているのだろうか?


よくみると通路の真ん中で人だかりが出来ていた。

キュー
「ん・・・?」



シジューゼ
「ぐわっ!・・・く、くそぉ〜・・・」

双剣を持った女性がシジューゼを薙ぎ払った。

双剣を持った女性
「ふふふ・・・。お兄さんには悪いけど、アタイの圧勝のようね?」
シジューゼ
「く、くそぉー・・・。見た目だけじゃなかったかぁ・・・。」
キュー
「・・・シジューゼさん。一体何やってるの?」
シジューゼ
「はっ!キュ、キューさん!い、いやぁ・・・。この人に勝てれば賞金100KSeedくれるって言うもんだからつい・・・。」
双剣を持った女性
「そこのボサボサ髪の子。アタイと勝負しないかい?」
シジューゼ
「悪いけどキューさんは滅茶苦茶強いぞ!」
キュー
「あ・・・そういうのはアタシが幽霊刀を手に入れてからに・・・・。」
双剣を持った女性
「へぇー?そいつは楽しみだね?でもアタイに負けたら1k払ってもらうよ。」
キュー
「え、遠慮しておk・・・」
シジューゼ
「キューさん!!俺はキューさんの本気を見てみたいです!!1k払いますから戦ってください!!」
キュー
「何、そのアタシが絶対に負けるかのような台詞。」

シジューゼ
「そ、そういうわけじゃありませんが・・・。」
双剣を持った女性
「マ、怪我したくなければとっとと帰ることね?」
シジューゼ
「お願いします!キューさん!!」
キュー
「う、うーん・・・・。」

・・・一応念のため戦いのルールだけ確認しておこう。

キュー
「・・・戦いのルールだけ確認していい?」
双剣を持った女性
「お、その気にでもなったのかな?戦いのルールはシンプル!
一つ!アイテムは使用禁止。
二つ!相手を殺さない事。
裏を返せばアイテムを使わず、かつ相手を殺さなければ何したって良いってわけさ。」
キュー
「ふーん・・・・。・・・じゃー参加しようかなー?」
シジューゼ
「お!ついにキューさんの本気が見れるぜ!!」

幽霊刀なしに何処まで戦えるか。一度自分でも再認識したほうがよさそうだ。
今後の参考にもなる。

・・・・それに上手く行けば・・・勝てるかもしれない。

キュー
「(・・・今この人は確かに言った。アイテムを使わず、かつ相手を殺さなければ何したって良いって・・・。
・・・つまり、これからこの人の出る行動は・・・・)」



双剣を持った女性
「準備はイイ?」
キュー
「あー、ちょっとまったー!」

キューがシジューゼの耳元でコソコソと何かを呟いた。


シジューゼ
「・・・・え?そんな事起きるのか・・・?」
キュー
「うん。絶対。そしたらお願いね。」
シジューゼ
「・・・わ、わかりました。」
キュー
「後・・・。」

もう一回コソコソと何か呟く。

シジューゼ
「・・・そ、それは・・・。」
キュー
「いいの!!!」
シジューゼ
「・・・案外キューさん黒いな・・・。」
キュー
「にひひひ。アタシはそんな人だよ。」

・・・久々にこの笑い方で笑った。ちょっとずつ威勢が戻ってきてる。

双剣を持った女性
「何時までコソコソ話してるんだ?とっとと始めちまうよ。」
キュー
「うん。準備はいいよ!」

キューがキュピルの愛剣を抜刀する。

双剣を持った女性
「アタイの名前は『リズルハ』。ハイアカン生まれの双剣使い!!」

そういうと双剣を持った女性・・・リズルハは目にもとまらぬ速さでキューの元へ突進した。



キュー
「(大丈夫。多分勝てる・・・・。・・・・・よね?)」





続く。



第十三話


双剣を持った女性。リズルハがキューに勝負を挑んできた。
リズルハのある言葉に反応してキューがその勝負を引き受けたが・・・?







フィーゼ
「・・・・・。」

ハイアカン行きへの船のチケットを手に入れたフィーゼ。
・・・あまり良い席ではないが旅の費用は節約しなければならない。
帰りに何か面白い店が無いか街をぶらついていると人だかりが出来ている事に気がついた。

フィーゼ
「・・・・?」

人ごみの中を割って入るとキューと褐色肌の女性が戦っていた。

フィーゼ
「兄さん。一体キューさんは何やっているの?」
シジューゼ
「おぉ!フィーゼか!良い所にきたな!!今キューさんが本気で戦っているぞ!」
フィーゼ
「・・・ふーん。」



キュー
「はぁ・・・はぁ・・・。」
リズルハ
「おっと、息が切れてきてるね!」

ここぞとばかりにリズルハが双剣を前に飛ばす。

キュー
「わっ!」

慌てて横にステップを踏んで攻撃を避ける。その瞬間、リズルハが視界から消えた。

キュー
「(・・・!?)」
リズルハ
「そこっ!!」
キュー
「わっ!!」

突然、目の前に現れキューの顔面を思いっきり殴る。
今、下から湧いて出てきたかのようにも見えたが早すぎて見えなかった。
後ろに吹き飛び、地面に叩きつけられるが即座に横に転がって起き上がる。
キューが倒れた場所にさっきの双剣が刺さって落ちた。

キュー
「凄い機敏な人・・・。」


あの攻撃がどうしても避けれない。
双剣を前に投げつけられ、その攻撃を避けるが避けた先に必ずリズルハが現れ直接攻撃を仕掛けてくる。
キューが移動した先を確認してからリズルハが奇襲しにきている・・・。


フィーゼ
「・・・劣勢なんだ。」
シジューゼ
「そ、そんなことはない!!た、ただ・・・突然テレポートでもしたかのように消えていなくなる・・・。」
フィーゼ
「・・・あの褐色肌の人。ハイアカン生まれの人なんじゃないの?」
シジューゼ
「・・・フィーゼ。本当によくわかったな・・・。どうしてそう思ったんだ?」
フィーゼ
「・・・あの人の動き。人間の目では理解できない速度で動いているように見えているけど・・・。
・・・影に潜って、影から出ている。本に乗っていたシャドウ族の動きに凄く似ている。」
シジューゼ
「シャドウ?シャドウって・・影だよな?何なんだ、そりゃ・・・。」
フィーゼ
「一言で言えば人間じゃない。」
シジューゼ
「・・・は?・・・ってゆうか、お前・・・。あのリズルハって奴が何処に消えたのか見えるのか!?」
フィーゼ
「・・・僕には動体視力が思ったよりあるみたい。」
シジューゼ
「戦士じゃないお前にはあって、何で俺にはその動体視力が無いんだよ・・」



キュー
「よーし・・・それなら・・・。」

キューがわざと大振りに攻撃を仕掛ける。当然リズルハはその攻撃を避ける。
避ける先を読んでキューが素早く剣を横に振る。ところが、リズルハはそこにはいなかった。

キュー
「・・・・・。」
リズルハ
「後ろさ!!」
キュー
「今度はそれも読んでいた!!」
リズルハ
「!?」

キューがその場で飛び上がる。飛んだキューの足元に双剣が飛んでいく。
そして大きく後ろに宙返りしながら剣を下に突き出し、リズルハの元へ落ちていく。

キュー
「たあああぁぁぁっっ!!」

今、リズルハの肩に剣が刺さった。
リズルハはその後横に逃げたが今確実にダメージを与えた。

リズルハ
「ひゅぅ〜・・・。中々大技を放ってくれるネ・・・。」

リズルハの肩を確認する。・・・・無傷?



シジューゼ
「何でだ!?今確かにリズルハの肩にキューさんの剣が刺さったはず・・・。」
フィーゼ
「キューさん。」

フィーゼがキューの元に近寄る。

キュー
「ん?あ、フィーゼ君・・・。」
フィーゼ
「ちょっと教えたい事が。」
リズルハ
「あんた!今試合中よ!!どきな!」

リズルハが双剣を前に飛ばす。その瞬間、キューが剣を頭上に高く上げる。
それを確認したシジューゼが前に飛び出しロングソードで双剣を叩き落とす。

シジューゼ
「さぅっ、させるか!!」
フィーゼ
「噛んだ」
キュー
「今噛んだね。かっこよかったのに。」
シジューゼ
「く、くぅぅ〜・・・。」
リズルハ
「あんた等・・・試合の妨害するなんて・・・。どういうことさ!!」
キュー
「さっき言ったよね?アイテムを使わない事と相手を殺さなければ何でも良いって?
ほら、私はルール違反してないよ!味方呼んだだけ。」
シジューゼ
「そういうことだったのか・・・。」
キュー
「にひひひ。」

リズルハが何も言わずに前に飛び出し、飛び蹴りしながら突進してきた!
シジューゼとキューが攻撃を避け、二人の間スレスレにリズルハが飛んでいく。
攻撃が外れたリズルハだが、そのまま前に飛びながらシジューゼとキューの髪の毛を掴み
思いっきり引っ張って前に投げ飛ばす。

キュー
「ぎゃあぁぁぁっっ!!」
シジューゼ
「いぃぃっっ!!?」

あまりの痛みに自ら投げ飛ばされる体勢に入り、そのまま地面に叩きつけられる。

キュー
「お、女の子の髪引っ張るなんて・・・。琶月だったら絶対激怒している!!!」
シジューゼ
「いっででで・・・。俺ハゲてないよな?な?」
キュー
「う、うん。大丈夫だよ。」

リズルハ
「これに懲りたら早く場外に出ることだね!!」
フィーゼ
「・・・よいしょっと。」
リズルハ
「ぅぎゃぁっ!!」

フィーゼがリズルハの影にナイフを突き立てる。

キュー
「!」
シジューゼ
「・・・?ぎっくり腰か?」
キュー
「そんな訳ないでしょ・・・。」
シジューゼ
「じょ、冗談だって・・・。」

リズルハ
「お・・オマエェェ・・・!!」
フィーゼ
「・・・本当にシャドウ族だった。何でここに。ハイアカンからどうやって。」
リズルハ
「ソノ、ナイフヲ、ヒキヌケェェェッ!!」

突然リズルハの姿が消えた。・・・いや、影に潜った。さっきの攻撃で動きが鈍り今、明確に影に潜ったのがわかった。
リズルハの異常行動に回りのギャラリーがざわめき始めた。

フィーゼ
「キューさん。この人は人間じゃない。下手に勝負を長引かせても不利。」
キュー
「どういうこと?」
フィーゼ
「モンスターって考えると一番分りやすいと思うよ。」

フィーゼがモンスターっと喋ると周りのギャラリーが一斉に逃げ始めた。
どうりで人間離れの動きをしていた訳だ。(キュー自身も人間離れした動きもあったが

シジューゼ
「おいおいおい!結界石仕事しろよな!」
フィーゼ
「・・・だからどうやって入って来たのか・・・。」
シジューゼ
「第一、影に潜って奇襲とか卑怯だ!!」

その時、シジューゼとフィーゼの足元から突然リズルハが現れた。

シジューゼ
「うわっ!」
フィーゼ
「!!」
リズルハ
「この試合のルールはアイテムを使わない事、そして人を殺さなきゃ何でもありって言ったよ!!」

双剣を振り回しながら勢いよく飛び出し、シジューゼとフィーゼを切り刻む。
突然の奇襲に対応できず、二人とも攻撃をまともに喰らいその場に座り込む。

シジューゼ
「くそっ!迂闊だった・・・!!」
キュー
「(・・・迂闊だったの?)」
シジューゼ
「キューさん!気をつけてくれ!こいつ・・強い!」
キュー
「うん。知ってる。」


さっき飛び出したはずのリズルハが何処にも見当たらない。

キュー
「・・・・・?」

・・・・今、目の前にある自分の影が一瞬動いた。

キュー
「私の影に成りすますなぁーー!!」

キューが剣を前に振り落とす。その瞬間、影が真っ二つに斬り裂かれそのまま何処かに消えた。

キュー
「今度は何処から来るの・・・・。」
フィーゼ
「・・・・・・・。」

フィーゼが額から血を流しながら無言で立ち上がる。

シジューゼ
「・・・おまえ・・ちょっとかっこつけてないよな?」
フィーゼ
「兄さん。こんな時に何?」
シジューゼ
「え、い、いや!なんでもない!それより次が来るぞ!」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼが魔法を唱え始めた。

キュー
「一体何をする気なの?」
フィーゼ
「・・・影がある所にしか潜ったり出てきたりしない。だから・・・。」

フィーゼが手を高々と上に上げる。白く光るエネルギー弾が次々と現れ辺り一面を強く照らし始めた。
建物によって出来た影、人の影、物の影全てが光に寄って照らされ僅かな影も消滅した。
その瞬間、突然リズルハが地面から飛び出してきた。

リズルハ
「ちっ・・・影を消すなんてやるじゃん・・・。」
フィーゼ
「影がなければ地面に潜る事が出来ない。奇襲は封じた。」
シジューゼ
「よっしゃ、叩くなら今だな!!」

シジューゼが特攻する。

キュー
「あ!でも影がなくてもあの人は・・・」

キューの予測通り、リズルハが双剣を華麗に操ってシジューゼを撃退する。

シジューゼ
「ぐあっ!」
キュー
「・・・だから言ったじゃん。」
シジューゼ
「くそっ・・・。」

その時、キューの中である作戦が閃いた。

キュー
「でも今度はアタシの番!たああぁー!!」

キューもシジューゼと同じように特攻する。
キューが持っていたキュピルの愛剣とリズルハの双剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
お互い素早い連撃を繰り出し攻撃しあい、防ぎ合うが・・・。

リズルハ
「甘いよ!!」
キュー
「うっ!」

僅かな隙を突かれ強烈なサイドキックを喰らう。そのまま過剰とも言えるほど吹き飛び
近くの木箱に激突。ガラガラと音を立てて崩れて言った。

フィーゼ
「・・・・!影が・・・。」

木箱と木箱の間に一定範囲に影が出来あがった。即座にリズルハが自分の影に潜りこむ。
そして二秒後、キューが作った木箱の影からリズルハが飛び出て来た!・・・ところが

リズルハ
「!!!」

飛び出した瞬間、リズルハが強烈な痛みに襲われ動きが止まった。
・・・リズルハの影にキュピルの愛剣が深く刺さっていた。

キュー
「こんな影が狭いんだからここしか出て来れないよね。狙い撃ちに合うって思わなかったの?」
リズルハ
「・・・・・・・・。」

リズルハが一旦退散し、もう一度別の場所から現れその場に座りこむ。
見た目からでは分らないが、かなりのダメージは負っているらしい。

リズルハ
「・・・アタイの負けさ。アタイ自身の短期のせいでシャドウ族だということも自らばらした。
サ、目の前に忌々しきモンスターが座りこんでいる。トドメなら今だが?」
キュー
「忘れたの?この試合のルールはアイテムを使わないこと、そして人を殺さない事って。殺したりなんかしないよ。」
リズルハ
「・・・・・・。」

リズルハが影に潜って逃げようとした瞬間、キューがリズルハの影を踏んだ。

リズルハ
「ッ!」
キュー
「逃げないで。一つ忘れてる。」
リズルハ
「・・・何サ。」











キュー
「100KSeed頂戴。」










==定食屋



キュー
「うーん・・・・。」

キューが机にぐったり寄りかかる。キューの肘の横には100K入った通貨袋が置かれている。

シジューゼ
「キューさん。疲れてるのは分りますが食べないとスタミナ回復しないぜ。」
フィーゼ
「・・・この魚。あんまり新鮮じゃないね。港町なのに。」
リズルハ
「全くその通りだね。どうかしてるよ。」
キュー
「ドサクサに紛れて何でいるの。」


リズルハが肘をつきながらフォークを指でくるくる回す。

リズルハ
「オヤオヤ?そこの白い坊ちゃんから何も話しは聞いていないのカイ?」
キュー
「え?フィーゼ君が?」
フィーゼ
「・・・言うの忘れてた。キューさん、このシャドウ族の人。仲間にしたいんだけどいい?」
キュー
「え。」

キューが呆気にとられる。シジューゼもフォークで刺した魚を膝の上に落とし一人で落胆し始めた。

フィーゼ
「・・・今日、最新のアノマラド大陸地図を立ち読みしたけど必滅の地が拡大してて
レコルダブルからサンスルリアに行くのにどうしても必滅の地を通らなければいけなくなってる。
・・・だから仲間は増えたことに越したことはないって思って。」
リズルハ
「マ、利害一致してるはずサ。」
キュー
「・・利害一致?もしかしてリズルハもサンスルリアに行きたいとか・・・。」
リズルハ
「そんなもんじゃない。・・・いずれ教えてあ・げ・る。」

リズルハが魅了するかのような目付きでキューを睨む。

キュー
「まぁ・・・リズルハ・・・さん?」
リズルハ
「リズルハでいい。」
キュー
「リズルハが仲間になってくれるのは少し心強いかな・・・。あの勝利はある意味偶然みたいなもんだったし・・。
でも・・・。う〜ん・・・。」

キューがあんまり納得していない。・・・微妙にリズルハの事を信用できないらしい。

シジューゼ
「・・・一応、弟は間違った行動を取った事は一度もないからなぁ・・・。俺は信じるとするか。」
キュー
「フィーゼ君とシジューゼさんがそう言うなら・・。・・・・ん?」

・・・その時、窓から特徴のある赤くて長い髪の人が通ったのが一瞬見えた。

キュー
「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
リズルハ
「ビクッ」

リズルハが驚いて椅子から転げ落ちる。
キューが即座に立ちあがり、店の外に飛び出す。

フィーゼ
「・・・無銭飲食?」
シジューゼ
「な訳ないだろ!」
店員
「カーディフから引っ越してまたバイト始めたのに再び無銭飲食に出会うとかマジギレ寸前なんすけど。ア?」

シジューゼ
「は、払っ、払う!!!」







==デカルト港


キュー
「今度こそ見失わない・・・!」

今は夜で人通りも少ない。少し視界が悪いが逃がす事はないはずだ。
キューが全力で走って長くて赤い髪の人を追う。
以前と同じように長くて赤い髪の人が建物の曲がり角を曲がる。
数秒後にキューもその角を曲がる。

キュー
「あれ・・・・。」

所がどういう訳か再びまた見失ってしまった。
・・・道は直進にずっと続いておりすぐ何処かに再び曲がれるような道はない。

キュー
「えー・・・・・・。」

・・・一体どうして急に消えるのだろうか・・・。








==宿


リズルハ
「フーン、金ないのか。」

リズルハは安い宿を半目でにらむかのように見つめる。

シジューゼ
「ぐっ・・・少し腹が立つが・・・冒険っていうのは個性な仲間が集まってくる物だ・・・。何も問題ない。
我慢するんだ、俺・・・・。」
キュー
「(シジューゼって琶月と同じぐらい中二病だよね・・・。・・・琶紅も中二病なのかなー?)」

キューが悩みだす。それを見てシジューゼが頭の上に?を浮かべる。

フィーゼ
「・・・・ベッド三つしかないけど。」
リズルハ
「オヤオヤ?そいつは困ったねぇ〜・・?白い坊ちゃん。アタイと一緒に寝るかい?」

リズルハが誘惑するような目付きで細い指でフィーゼの額を突く。
キューがどう切り返すか興味津津に見ている。

フィーゼ
「それでいいならいいけど。」
キュー
「ぶはっ!」

キューが勝手に一人で吹きだす。
全員の注目を集めるがキューが手を前に突き出して「何でもない」っとポーズを取る。

リズルハ
「・・・別に魅了された訳でもなさそうだな・・・アンタ・・・。色々呆れた・・・。」
フィーゼ
「?」

フィーゼが眠そうな目付きで頭の上に?を浮かべる。

フィーゼ
「・・・モンスターに性別ってあるの?」
リズルハ
「あるに決まってるでしょ!!!このドアホ!!」

リズルハが不機嫌そうに地面に潜る・・・正確には自分の影と一体化し姿を消した。

キュー
「ベッドいらないじゃん。」

シジューゼ
「・・・・。」

シジューゼがどう反応を帰せばいいのか分らないらしく、とりあえずロングソードを取り出して剣を研ぎ始めた。
・・・地面から首から上だけを出してリズルハが喋った。

リズルハ
「オレンジボウヤ。」
シジューゼ
「は?俺の事か?俺にはシジューゼっていう立派な名前があってだな・・・。」
リズルハ
「オレンジ。」
シジューゼ
「・・・・・・・。」

悪化した。

シジューゼ
「・・・なんだ・・・。」

シジューゼが溜息つきながら答える。

リズルハ
「アンタ、アタイとの戦いの時ボロボロだったけど手入れも下手くそすぎる。」
シジューゼ
「なにぃ!!いいか!これはクラド自衛隊の隊長から教わった研ぎ方でな!素人には分らない研ぎ方なんだよ!!」
リズルハ
「んじゃ、その隊長さんは素人ってことさね。」
シジューゼ
「くっそぉ〜・・・!」

シジューゼがワナワナと怒りに震える。・・・でも実力差は確かなものなので反論できないようだ。

キュー
「う、うーん。」

リズルハがシジューゼに正しい研ぎ方を教えている。
・・・拒絶しているのか輪を作ろうとしているのか全く分らないが・・・敵意がなくなっているのは確かだ。

キュー
「あ、そうだ。」

キューが思い出したかのようにフィーゼに尋ねる。

キュー
「フィーゼ君。船のチケットって買ったんだよね?」
フィーゼ
「うん。」
キュー
「ちょっと見せて貰っていい?」
フィーゼ
「うん。」

フィーゼがポケットから三枚の船のチケットを見せる。


ハイアカン行き・・・tomorrow 13:00。


キュー
「・・・・これ明日の船じゃん・・・。三日間ぐらい滞在しようと思ったのに・・・・。」
フィーゼ
「・・・明日の船逃すと一カ月来なくなるから。」
キュー
「え!?そうなの!?」
フィーゼ
「うん。必滅の地の影響みたい。」
キュー
「・・・海にも影響があるんだ・・・。どういう影響があるのかは知らないけど・・・。」
フィーゼ
「ダメだった?」
キュー
「ううん、そんなことないよ。明日を逃すと来月になっちゃうなら逆に取ってくれてありがとう。」

・・・ただ、明日の午前中に琶紅らしき人物を見つけるのは困難を極める。

キュー
「とりあえず今日はもうアタシ寝るね。疲れたから。」

・・・朝早く起きて琶紅らしき人をもう一度探そう。

フィーゼ
「うん。おやすみ。」


リズルハ
「いいかい?剣ってのはソモソモ・・・」
シジューゼ
「そんなうんちくと砥石の接点が見当たらない!」
リズルハ
「人の話は最後まで聞きナ!!」
キュー
「うるさーい!!!」





・・・・微妙にこの先が不安になるキューだった。






・・・そして翌日。







==デカルト港

シジューゼ
「うおぉー!ついに海を横断するぞー!」
フィーゼ
「・・・・横断?」
キュー
「そんな大陸から大陸まで移動する訳じゃないんだから・・・。」
シジューゼ
「いやいや、分ってない。分ってないな!大船に乗って海を渡り次の国へと渡る・・・。
俺が小さいころから夢見ていた冒険の決まりごとが次々と現れてきているんだ・・・。感動するぜ・・・。」
キュー
「うーん・・・。・・・そういえば前々から気になっていたんだけど、アノマラド大陸以外にも大陸ってあるの?」
シジューゼ
「ある。オーシャン大陸にナスラード大陸・・・モンテスマ地方にヤフトマー辺境!」
キュー
「(・・・どっかで聞いた事がある気がする。特にお父さんから聞いた事があるような・・・)」

シジューゼ
「キューさんが探している誕生石ってのはアノマラド大陸外にもあるのですか?」
キュー
「ううん。アノマラド大陸だけにあるよ。」
シジューゼ
「そうか・・・。」
キュー
「機会があったら外の世界にも行ってみたいね。」
シジューゼ
「その時は俺も誘ってくれ!!」
フィーゼ
「・・・兄さん、キューさんの足引っ張っちゃダメだよ。」
シジューゼ
「うっ・・・。」
リズルハ
「アッハハハハ、アンタ弱いからなー!」
シジューゼ
「く、くっそぉ〜・・・。」
キュー
「(シジューゼってちょっと偉いよね。ヘルみたいにすぐ手出したりしないし琶月みたいにすぐ落ち込まない)」
シジューゼ
「・・・?」
キュー
「何でもない。さ、船に乗ろ。」

シジューゼが真っ先に船に乗り、次にリズルハがフィーゼの影と同化して船に乗り込む。・・・無銭乗車。
キューが船に乗る前にもう一度街の方へ振りかえる。

キュー
「・・・・・・。」
船員
「お客さん、早く乗ってくれ。もうアンタが最後だ。」
キュー
「あ、ごめんなさい。」

キューが船に乗る。
・・・結局あの赤い髪の人を見つけることは出来なかった。
すぐに船の甲板へと登り街を一望出来る場所へ移動する。

キュー
「・・・・・・・。」

・・・またアノマラド西部に戻ってきたら探そう。その時まで居るかどうか微妙だけれど・・・。

・・・・船の帆が開いた。風をしっかり受け止め船がゆっくり動き始めた。
底の方から魔力も感じ始めた。・・・魔法で風を呼び起こしているようだ。

シジューゼ
「動きだしたな!」

シジューゼが船内から出てきた。・・・手には携帯望遠鏡を持っている。

シジューゼ
「名残惜しいのですか?キューさん。」

シジューゼが携帯望遠鏡を覗きながら喋る。

キュー
「うん・・・。前にも話したけど琶紅に凄く似ていた人が街に居て・・・。
結局会えずじまいだったから・・・。」
シジューゼ
「・・・・・旅は一期一会って言うがこの場合、ちょっと違うよな・・・。何て言えばいいのか・・・。」
キュー
「・・・・ん?」

その時、港に長くて赤い髪の人が見えた。

キュー
「あ!!!貸して!!!」
シジューゼ
「いでっ!」

キューが強引にシジューゼの持っていた望遠鏡を奪い取り、長くて赤い髪の人を見る。

・・・・男の人だった。

キュー
「なーんだ・・・。そもそも性別が違った・・・。何で気付かなかったんだろう・・・。」
シジューゼ
「髪がかなり特徴的な人物・・・?勘違いするのも無理ないですって、キューさん。」

そのまま覗き見ていると男は大きくジャンプして建物の屋根に上り、そのまま何処かに行ってしまった。
・・・元々そういう能力を持っていた人間だったようだ。

キュー
「はぁ・・・。」

・・・もし、これが本当に琶紅だったら今から船を飛び降りてでも会いに行ったのだが・・・。

フィーゼ
「・・・琶紅って人は女だったんだ。男かと思ってた。」
シジューゼ
「うお、フィーゼ!お前いつからそこに。」
フィーゼ
「兄さんと一緒に来たんだけど・・・。」
シジューゼ
「・・・・・・・。」
キュー
「何で琶紅が男だと思ったの?」
フィーゼ
「・・・異常に過剰反応して探しているから恋人かと思ってた。」
シジューゼ
「こ、こぉいびとぉぉおおおお!!!???」



シジューゼがその場に座り込み、胸に手を当てて深く深呼吸する。

キュー
「ま、まさかぁ!アタシに恋人なんていないよ!」
フィーゼ
「・・・・よかったね。」
キュー
「え?何が?」
シジューゼ
「ああ!」
キュー
「・・・?・・・うーん、アタシはそういうの無縁だったから・・。」
リズルハ
「・・・ドウデモイイケド、船内に戻ってくんない?熱くて敵わないんだけド・・・。」
フィーゼ
「・・・・・・・。」

フィーゼが黙って船内に戻って行った。

キュー
「二日ぐらいかかるみたいだからゆっくりしようか。」
シジューゼ
「ああ、船の旅を思う存分楽しむぜ。」




・・・当分アノマラド西部には戻って来れないだろう。
唯一の旧知に会えたギーンとも暫くは会えない。


キュー
「(アノマラド東部・・・。ブルーコーラル以外、行った事ないからどんな世界があるんだろう?)」


親しみなれた世界から離れ、新しい国へと足を運び始めた。



続く






オマケ1


==船内・部屋

フィーゼが用意した部屋の中へ入る。

キュー
「ただいまー・・・って、なにこれ!!?」

部屋の中には大量の人間が居た。・・・滅茶苦茶むさ苦しい。

フィーゼ
「Fクラスの部屋。共同で使う部屋。」
キュー
「ま、まさか・・・ここで二日間寝泊まりするわけ・・じゃ・・・・。」
フィーゼ
「・・・・。」

フィーゼがコクリと頷く。

キュー
「・・・・・・・うぅぅ・・・女の子、アタシ一人しかいないんだけど・・・着替えもできない・・・。」

リズルハ
「アタイは?」
キュー
「例外。」







オマケ2


==出港してから三時間後。


キュー
「zzzz・・・・zzzz・・・・・。」
リズルハ
「zzzz・・・・・・・zz・・・・。」

二人とも一定のスペースを取って昼寝をしていた。

シジューゼ
「・・・フィーゼ・・・」
フィーゼ
「・・・何?」
シジューゼ
「何か・・・凄く気持ちわりぃ・・・なんだこれ・・・おぉえぇ・・・。」
フィーゼ
「・・・船酔いだね。」
シジューゼ
「ま、まじかよ・・・き、気持ち悪い・・・おぇっぷ!・・・キューさん寝てて助かった・・。
こんなカッコ悪い所見られずに済む・・・。お、おえええぇぇ・・・」
オヤジ
「おい、坊主!!ここで吐くんじゃねーぞ、おらぁー!」
キュー
「え!?琶紅!!?」

キューが飛び起きる。






シジューゼ
「         」








今度こそ続く



第十四話





トラバチェス、デカルト港からハイアカン行きへの船に乗りアノマラド東部を目指す一行。
途中、リズルハというシャドウ族と呼ばれる人外も一時的かどうかは不明だが仲間に加わった。



キュー
「うーん。」


キューが集団部屋で大陸地図を大きく広げる。
近くに居た労働者らしき人物がキューを嫌そうな目で見るがキューは全く動じない。

シジューゼ
「(キューさん、マナー違反何ですが・・・)」






キュー
「うーん・・・・。」
シジューゼ
「・・・キューさんのアジトにあった大陸地図・・・か?」

シジューゼがゲッソリとした顔つきで地図を眺める。・・・船酔いが収まらないらしい。

キュー
「うん。前にも説明した通り・・・アノマラド東部に誕生石が四つあってその誕生石を集めなきゃいけない。
けど、この地図は何年も前の状態のままだから、もうないかもしれない・・・。」
シジューゼ
「・・・作者とやらを倒すキーアイテム。それが誕生石・・・か・・・。一体誕生石にどんな力が秘められているんだろうな。
聖剣みたいなものなのか?」
キュー
「そこまでファンタチックな代物じゃないと思う。

・・・でも案外そうかもしれない。・・・ってか、シジューゼさん、寝てなくていいの?顔凄いよ。」
シジューゼ
「ぅぇぇ・・・。」

シジューゼがバタンと横になる。

フィーゼ
「・・・・・・。」

フィーゼが部屋に戻って来た。

キュー
「誕生石一つ一つに確かな力が宿ってる・・・無尽蔵に魔力が溢れてた。だけどこの世界の魔力じゃなかったし
扱える人は私の知っている限りじゃ居ない。あのギーンですら無理だった・・・。」

キューがひっそり小さな声でひとり言を呟く。・・・父親譲り。

リズルハ
「ふーん、誕生石ネェ?」
キュー
「げっ。」

さっきまでリズルハが居なかったから大丈夫だろうと思ったら単純にフィーゼの影に寄生していただけだった。

リズルハ
「・・・・ン?」

リズルハがキューを押しのけて地図を見る。

リズルハ
「・・・ふーん。」

リズルハが何かに気付いたかのように喋る。

キュー
「何か分ったの?」
リズルハ
「別に?」
キュー
「・・・・・・。」

・・・・謎が多い人物。当分この話はしないでおこう、そう心に決めるキュー。

フィーゼ
「・・・もうすぐハイアカンにつくよ。」
シジューゼ
「お、ついに来るか・・・!早く船から降りたい・・・!!」

シジューゼが飛び上がり、そして酔いが加速して再び倒れる。

キュー
「女性も私一人しか居ないしね・・・。早く降りたい・・・。」
リズルハ
「だからアタイだって女性っつてるだろ!」
キュー
「えー・・・。」
リズルハ
「影を縛り付けて二度とここから出られないようにしてやるよ。」

キュー
「あー!ごめんごめん!!」



・・・・そして一時間後。




一行はハイアカンに到着した。




==ハイアカン・港


キュー
「ついたーー!!!!」

キューが背伸びし日光に当たる。

キュー
「う〜ん、暖かいね〜。
ねぇ、フィーゼ君。ここの街はなんて名前なの?」
フィーゼ
「ドリームファクター。」
シジューゼ
「・・・なんじゃそりゃ。」
フィーゼ
「ハイアカンっという国にブルーコーラルっていう街があるって思ってる人多いけど本当は
ブルーコーラルっという国にハイアカンっていう街がある。」
キュー
「え!?そうだったの!?」

フィーゼがこくりと頷く。

キュー
「そうだったんだー・・・。びっくり・・・。で、何でドリームファクターって名前なんだろう。」
リズルハ
「観光産業が盛んだからさ。どこもかしこもブルーコーラルに輸出される物ばかり製造している。
見渡してみろ、工場ばっかりだ。おー、おぞましぃ。」

リズルハに言われた通りシジューゼとキューが辺りをきょろきょろと見回す。
・・・確かに工場の多さが少し目立つ。
シジューゼが何回か深呼吸を繰り返しながら喋る。

シジューゼ
「この街の有名な物は?」
リズルハ
「工場。」
シジューゼ
「・・・この街で冒険者にとって有名な物は?」
リズルハ
「工場」
シジューゼ
「この街で最もシンボルとなるものは?」
リズルハ
「工場。」
シジューゼ
「この街で住民からも冒険者からも喜ばれる物は!!」
リズルハ
「工場。」
シジューゼ
「・・・・・・・。」


キュー
「工場が街のシンボルだなんてちょっと変わってるね・・・。トラバチェスみたい。」
フィーゼ
「トラバチェスは兵器製造。ここは娯楽産業。」
キュー
「まぁ、確かにこっちのが平和でいいけどねー・・・。」
リズルハ
「・・・8年前まではここも工場は殆どなかったが。」
キュー
「え?そうなの?」

リズルハが頷く。

リズルハ
「昔は皆、手作業でブルーコーラルで使われる物を生産していたが今は全て機械による自動生産。
マ、アタイには関係ない話しだけどね。」
キュー
「ふーん・・・。どうしていきなりそうなっちゃったんだろう。」

一行が街を歩きながらそんな事を考える。

フィーゼ
「・・・8年前。とある人物がブルーコーラルの象徴である誕生石を欲し、誕生石と引き換えに
機械による生産技術を教えたっと言われてるけど。」
シジューゼ
「・・・誕生石!?」
キュー
「・・・そんな大がかりな技術を知ってて誕生石を欲しがる人物・・・ま、まさか!!その人物の名前は知ってる!?」
フィーゼ
「・・・・本には書いてなかった。」
リズルハ
「ボウヤは知らないだろうけどアタイ走ってるよ。確かファンって名前だったはず。」
キュー
「やっぱり!!!」



まさかこんな所でファン達の足取りがつかめるとは思ってもいなかった。
8年前。確かにファンはここに来た。そしてファンが誕生石を手に入れた。

キュー
「その後、ファンは何処に行ったのか知らない!?」
リズルハ
「サァネ。アタイが知ってるのはここまで。」
キュー
「・・・でもファンがしっかり誕生石一個集めれてよかった。」

その後、心の中で呟く。

キュー
「(全部敵の手に渡ってないか心配だった・・・。)」

誕生石を集めているということはリズルハに知られてしまった(というより口が滑ってしまった。
それ以上の事は知られないようにしよう。

キュー
「・・・皆、疲れていないよね?疲れていなければレコルダブルに向こうと思うんだけど・・・。」
シジューゼ
「・・・いや、一日休みたい・・・。体がまだ揺れてる気がする・・・。」
キュー
「あー、そうだよね・・・。じゃー適当な宿取って一日だけ休もうか。」
リズルハ
「止めておきナ。とっとと次の街に行く方が賢明だ。」
シジューゼ
「何でだよ・・・。俺を苦しめたいから言っているんじゃないだろうな・・・?」
リズルハ
「あんたを苦しめて何の得になるのさ。マ、忠告を聞くも聞かないもあんた等の自由だけど。」
キュー
「・・・シジューゼさんにお任せするよ。」
シジューゼ
「・・・・わりぃ、やっぱり一日休みたい。」
リズルハ
「軟弱。」
シジューゼ
「何か言ったか?」
リズルハ
「言った。軟弱と。」
シジューゼ
「もういい。」

適当に宿を探し、一泊だけ泊まることにした。

キュー
「(・・・リズルハの警告って一体何なんだろう)」


微妙に落ちつかないキュー。





==夜



シジューゼ
「zzz・・・・・zzz・・・。」

船酔いで衰弱しきっていたのかずっと睡眠を取っているシジューゼ。
フィーゼはさっきからずっと本を読んでいる。

・・・そしてキューはドリームファクターの街を歩き回っていた。







キュー
「(・・・ドリームファクターの英雄・・・・)」

街の中央に大きな石像が立っていた。・・・ファンの石像・・・。

キュー
「(・・・ファンは今何処にいるのかな・・・)」

・・・ファンはルイ以上にしぶとく生きてくれてるはずだ。
どんな時でも頭を動かして物ごとの打開策を得る力を持っている。

・・・キューが10年間、海の中で沈んでいた間にファンは一体どんな行動を取ったのだろうか。

今、分っている事はキューに変わって誕生石を集めようとしていたこと。


キュー
「(・・・でも・・・どうして・・・)」


・・・どうしても知りたい事が一つだけあった。

何故、キューを助ける事を後回しにして先に誕生石を集めることにしたのか。

ルイがファン達を襲撃してキューが死んだなどといった嘘の情報を流したのだろうか。
それとも、別の理由があったのだろうか。

キュー
「・・・・琶紅も元気かな・・・・。」

・・・そういえば、琶紅は今成長しているのだろうか?
琶月の頃は何故か死なない体質になり、それと同時に体の成長も止まってしまった。
今は成長しているのだろうか?だとすれば今琶紅は25歳。
・・・もしかすると見た目だけでは判別できない程に変わってしまっているかもしれない。

キュー
「・・・・・・・・。」
リズルハ
「どんなにファンって人が気になんの?物好きだねぇ・・・・。」
キュー
「ファンはね、家族の一人なの。」

いつ、リズルハが来たのかは突っ込まなかった。

リズルハ
「フーン?家族?・・・とてもじゃないけど人間に見えないけどね。」
キュー
「言い方変えれば義兄弟って感じ。」
リズルハ
「はーん・・・なるほどね。」
キュー
「・・・今何処に居るんだろう。」
リズルハ
「・・・・そろそろか。」

唐突にリズルハが変な事を言う。

キュー
「ん?そろそろって一体何が?」
リズルハ
「・・・耳を抑えな。」
キュー
「?」

キューが耳を手で抑える。その瞬間、突然爆音が鳴り響き始めた。

キュー
「な、なに!?爆撃!?」

地響きがするぐらいの強烈な爆音。
リズルハが目を細めながら答える。

リズルハ
「・・・工場が一斉に稼働し始めたのサ。」
キュー
「・・・工場が一斉に稼働・・・?な、なんでこんなに音がでかいの?う、うるさい!!」

あまりの五月蠅さに少しでも音のしない場所へと移動するために宿へと駆け込む。
部屋に入り込むとシジューゼが飛び起きていた。

シジューゼ
「キューさん!!敵襲ですか!?」
フィーゼ
「・・・工場の音みたいだ。」
シジューゼ
「こ、工場だって・・・?何でこんなに音がうるさいんだ!?」
リズルハ
「ファンとかいう奴の提供した製造技術は大した物だった。
奴が書き記した設計図を手にしたドリームファクターの連中等はすぐに量産。
・・・ダガちぃーとばかし奴等には難しい設計図だったみたいらしく、どいつもこいつも
製造はしてくれるものの音がうるさいのサ。」
キュー
「・・・ここに住んでいる住民はそれでいいと思っているの?」
リズルハ
「ここに住んでいる人達は全員ここで働いている人達。それ以外の人は皆他の街へ逃げたヨ。」
キュー
「・・・・・。」

少し複雑な気持ちになるキュー。

シジューゼ
「こいつは溜まったもんじゃない!!早くこの街から出ようぜ!」

五月蠅さに耐えられないらしく、この街から出るように提案するシジューゼ。

キュー
「うん、そうだね・・・。アタシもちょっとこの五月蠅さで寝れるとはとても思えない・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼが無言で立ち上がり荷物をまとめる。同意らしい。

リズルハ
「ナ?言ったろ?やめたほうがいいってサ。」
シジューゼ
「一番最初に言いやがれ!」
リズルハ
「言ったサ。一番最初にね。」
シジューゼ
「だから内容をだな・・・・。」
キュー
「早く出よ・・・五月蠅い・・・。」





・・・とっとと荷物をまとめ宿の料金を払ってこの街から逃げるようにして出て行く。







・・・・ドリームファクターから実に5Km離れてやっと音が聞こえなくなった。





シジューゼ
「はぁ・・・やっと聞こえなくなった・・・。」
キュー
「まだ耳鳴りがする・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」
リズルハ
「・・・・・。」
キュー
「(・・・ん・・・?リズルハ・・・?)」

一瞬だったが、リズルハの表情が険しい事にキューが気付いた。
・・・キュピル並に観察力が高い。

シジューゼ
「くそぉ〜・・・。・・・だがリズルハの言う事も分るような気がするな・・。
あんな爆音が毎日毎日鳴り響いていたら住民はすぐに引っ越しちまうな。」
リズルハ
「・・・・・・・。」
フィーゼ
「・・・地図。」

フィーゼがキューの袖を引っ張る。

キュー
「え、あ。うん、はい。」

キューが地図を差し出す。・・・しばらくフィーゼが地図を眺めた後。

フィーゼ
「・・・北北西143Km先に誕生石。」
シジューゼ
「・・・お前地図見ただけでどうしてすぐにそんな事が分るんだ。」
フィーゼ
「読む物だったら何でも。」
リズルハ
「その場所にいくなら気を付けるんだナ。モンスターが強力だ。」
キュー
「アタシは大丈夫!・・・シジューゼさん、大丈夫?」
シジューゼ
「うっ・・・お、俺だって・・俺だってレベルは上がっているはずだ!」
キュー
「(クラドからここまで全然戦闘がなかった気がするけど・・・)」
フィーゼ
「・・・ちょっと不安かな。」
シジューゼ
「ま、まぁ。・・・いざとなったらリズルハも助けてくれるんだろ?」
リズルハ
「悪いけどアタシはモンスターとは戦わない。アタシ自身がモンスターだからネ。」
シジューゼ
「一体何のために仲間になったんだ・・・。」
リズルハ
「アンタ達が向かう場所に用がある。だから暇つぶしになると思ってついてきてるだけ。」
シジューゼ
「俺達は利用されているっていうことか!」
キュー
「そこまで深刻に考えなくていいと思うよ・・・。とりあえず今日はここで休もうよ。まだ耳鳴りがする・・・。」
シジューゼ
「そ、そうだな。」





テントを張り、見張りを交代しながらその夜を過ごした・・・。







そして翌日。

一行は北北西へと向けて歩き始めた。

リズルハは道中、強力なモンスターが居ると言っていたがモンスターに遭遇する事は殆どなく
順調に北北西へと進んで行った。


キュー
「う〜ん、あんまり草生えてないね・・・。ちょっとこの辺砂っぽくて喉がイガイガする・・・。」
リズルハ
「必滅の地の影響だ。アタイ等モンスターにとって住みやすくなってきてるネ。ククク。」
キュー
「・・・本当にこれが住みやすいの?」
リズルハ
「人さえ来なければ住みやすい。人間は必滅の地に近寄らないからナ。」
シジューゼ
「好き好んであんな地獄のような場所には行きたくないな・・・。と、いっても噂に聞いた話だけじゃ何とも
言えないけどな・・・。」
フィーゼ
「・・・ナルビクで出会ったデビルジュネラルみたいなモンスターが一杯。」
シジューゼ
「勘弁してほしいな・・・・。」




そしてドリームファクターから歩いて90Km地点に辿りついた。


段々景色が変わって来た。
これまでは多くはなかったが草木がたまに生えており、傾斜も少なかったのだが
突然砂漠のような場所に辿りつき傾斜も激しくなって来た。


キュー
「皆、足を取られないように気をつけて。あまり深く沈まないように。深く沈んじゃうと
足を持ち上げるのにいつもより多くの体力を消費しちゃうから。」
シジューゼ
「ああ、大丈夫だ。それよりフィーゼが心配だ。」

フィーゼが裸足で砂の上を歩いている。・・・何故?

リズルハ
「足怪我してもアタイは知らんぞ。」
フィーゼ
「・・・こっちのほうが歩いてて楽。」

フィーゼにとって砂浜を歩いているような物なのだろうか。
・・・風が吹いて来た。

キュー
「うっ・・・!」
シジューゼ
「大丈夫ですか、キューさん。」
キュー
「目に砂が入った・・・。」
フィーゼ
「・・・・。」

フィーゼが眼鏡をかけ直す。目に砂が入るのを防止しているようだ。

キュー
「・・・・ん・・・。」

今、皆が居る所とは違う方から音が聞こえた。・・・砂を踏む音。
誰かいる・・・?

しかし砂嵐によって視界が塞がれてしまい誰がいるのか把握できない。

キュー
「・・・誰かいる・・?」
シジューゼ
「キューさん、今何て言いました?砂嵐のせいで声がよく聞き取れない!」
キュー
「今、誰かいt・・・。」

その時、突然キューの足首を何者かが掴み砂の中へと引きずりこんだ。

キュー
「!!」

シジューゼ
「・・・・ん?キューさん?キューさん!?」
リズルハ
「早く逃げたほうがいい。」
シジューゼ
「は?どういうことだよ!」
リズルハ
「必滅の地に生息しているモンスターがすぐ傍にいる。たった今あの娘が砂の中へと引きずり込まれた。
もう死んでいるかもしれないナ・・・。」

リズルハが若干残念そうな顔をしながら言う。

リズルハ
「・・・・・・・・。」
シジューゼ
「くそ、ふざけた事ぬかすな!フィーゼ、すぐ近くに敵がいるかどうか分るか!?」

フィーゼが生命体を感知する魔法を唱える。

フィーゼ
「・・・・いる。すぐ目の前の砂の中。」
シジューゼ
「いぃっ!!?」

それを聞いてすぐにシジューゼが後ろにバックステップする。

フィーゼ
「・・・・そのまま北北東に凄い勢いで逃げて行った。」
リズルハ
「逃げて行ったんじゃない。あの娘を自分の巣に連れて帰っているだけ。」
シジューゼ
「おいおいおい!!それってかなりまずいんじゃないのか!?」
リズルハ
「アタイなら諦めるね。」
シジューゼ
「お、追うぞ!!キューさんが死んだらこの旅は終わっちまう!!フィーゼ、モンスターの場所を教えてくれ!!」
リズルハ
「・・・・・・・。」





キュー
「うっ、くっ・・・!!」

砂の中で物凄い勢いで引きずられている。口の中に砂が沢山入る。
そのまま為すすべもなく引っ張られ突然空洞のような所に辿りついた。
空洞に辿りついた瞬間、解放されそのまま勢いよく転がった。体勢をすぐに整え、口の中に入っている砂を吐きだす。

キュー
「っ・・・・。」

すぐにキュピルの愛剣を抜刀する。・・・狭い空洞。空洞の中に誰もいない。ただあるのは人の骨と思われる物だけ。

キュー
「どこ・・。どこにいるの・・・・。」

キューにしては珍しく焦っていた。
仲間からはぐれ、幽霊刀の力がない今。想像以上に弱くなった自分で何処まで戦えるか不安になっている。
その時、四方八方から沢山のモンスターが現れた。
モグラに人間の手足をくっつけたかのような気色悪い見た目をしている。
鼻が異様に鋭く簡単に突き刺せそうな形をしている。

キュー
「(狭い・・・。)」

歩幅が大体30歩ぐらいしかない。それでいてキューと同じぐらいの大きさをしたモンスターが六体もいる。

キュー
「・・・・・。」

一体目のモンスターがゆっくりキューに近づいて来た。
先制攻撃を仕掛けるためにキューが真っ先に前に飛び出し、モンスターの鋭く尖った鼻を斬り落そうとする。
ところがまるで鉄を叩いてしまったかのように弾かれてしまった。

キュー
「えっ!」

すぐにモンスターが反撃してきた。鋭く尖った鼻でキューの肩を貫こうとする。
間一髪の所で避ける事が出来たが二体目、三体目のモンスターが同じく鋭く尖った鼻で一斉に突いて来た。
慌てて一体目のモンスターの鼻を掴んで鉄棒のようにぶら下がって勢いをつけて前にジャンプする。
三体目のモンスターが一体目のモンスターの体にぶつかり貫いた・・・・っと、思いきや弾かれていた。

キュー
「(あのモンスター・・・。体もあの鼻のように硬いの・・?)」

・・・・かなりまずい。もし、そうだとすればこの剣では敵にダメージを与えられないかもしれない。

キュー
「(・・・怖い・・・。)」

恐怖を感じたのは何時以来だろうか。少なくとも記憶に残っているのはキューが八歳の時。
ジェスターと一緒にドッペルゲンガーの屋敷に忍び込んだ時以来だ。

・・・今、その時と同じぐらい恐怖を感じている。


・・・しかしあの時は皆が助けに来てくれた。

・・・あのメンバーで助けに来てくれるかどうか・・実力的にかなり疑問が残る。



キュー
「・・・・あ。」

冷静に考えてみれば・・・あのモンスターの弱点っぽそうな所が一つだけある。
すぐにその場所を攻撃しようと思ったが逆に攻撃されたため、その場でジャンプして攻撃を回避する。
攻撃してきたモンスターの鼻の上に着地し、そのままモンスターの目に向けて剣を突き出した。
思いっきり目に刺さり血しぶきを上げながらモンスターが後ろに倒れた。

キュー
「よし!」

敵の攻撃出来そうな場所を発見した。
流石に目まで鋼鉄のように硬い訳ではないようだ。
すると、モンスター五体が一斉に喚きだし狂ったようにキューに向けて突進してきた!
鋭い鼻で突き刺そうとしたり、尖った爪でキューの肩を引っ掻こうとした。
しかし冷静に敵の攻撃を見極めて攻撃を回避し、一体ずつ目を狙って攻撃する。
時々妨害されたが、それでも確実に一体ずつ仕留めることに成功している。


キュー
「とりゃあぁぁっ!!」

キューが再び剣を前に突き出し目を貫く。
これで四体目だ。後二体!

その時、突然砂が天井から大量に降ってきた。

キュー
「わっ!!」

上を見上げるとぽっかりと大きな穴が空いていた。穴からシジューゼが飛び降りてきた。

シジューゼ
「助けに来たぜ!!」
キュー
「危ない!!」

キューがシジューゼを思いっきり蹴り飛ばし自身も離脱する。
シジューゼが立っていた所にモンスターの鋭い爪が襲いかかった。

シジューゼ
「あ、あぶねぇ・・・。」
キュー
「敵の弱点は目!それ以外は通用しないよ!」
シジューゼ
「お、おう!」

シジューゼがロングソードを構える。
構えた瞬間、穴から照明弾が飛んできた。フィーゼの魔法だ。
普段土の中で生活しているモグラのようなモンスターにとって普通の明りが眩しく感じるらしく
モンスターが怯んだ。

シジューゼ
「いまだ!!」

シジューゼが前に走りだし、飛び上がってロングソードを前に突き出した。
モンスターの目を貫き、そのままモンスターを倒した。

シジューゼ
「いよっしゃ!次だ!」
キュー
「もう終わったよ。」

キューが剣を振って血を吹き飛ばす。その後ろにはモンスターが倒れていた。
そして布で血を拭きとり鞘に納める。

キュー
「フィーゼ君と良い連携してたね。」
フィーゼ
「・・・照明弾放ってなかったら兄さんは死んでた。」
シジューゼ
「べ、別に無くたって俺は生きていた!!」
リズルハ
「フーン・・・。キュー、アンタ生きてるとは思ってなかったよ。」
キュー
「流石の私もちょっと怖かったよ・・・。一瞬死んだかと思った・・・。」

キューが安堵の表情を見せた溜息する。
上からロープが垂れ紐に掴まって空洞から離脱する。




キュー
「早く、次の街に行こう!結構ここは危険!」

ちょっとトラウマになったらしく、キューが早歩きで砂の上を歩いて行く。

フィーゼ
「北西25Km進んだ所に街。」
キュー
「急ごう!」
シジューゼ
「キューさん!走ると危険だ!」

すると、突然またキューの姿が消えた。

シジューゼ
「キューさん!!」
キュー
「うっ・・・ごめん・・。転んだ・・・。」

足元に転がっていた大きい岩に気付かなかったらしく、砂に埋まっていた。

シジューゼ
「なんだ・・・よかった・・・。てっきりまたあのモグラみたいなモンスターにやられたかと思った・・・。」
キュー
「・・・ごめん。ちょっとアタシ疲れてるのかも。シジューゼさんに先頭渡すよ。」
シジューゼ
「お、俺!?・・・よ、よし・・・!」

シジューゼがロングソードを無意味に抜刀し先頭に立つ。そして北西へと向けて歩きだした。

このまま順調に進めばよかったのだがそういう訳には行かなかった。
突然キューの足元からウォスウォムが現れ首元から酸性の液を吹きだして攻撃してきた!

キュー
「アタシばっかり!!」

キューが剣を振って攻撃を退ける。
すぐにシジューゼもロングソードを振り回して迎撃する。しかし攻撃の精度が悪い。
すると今度はサンドゴーレムが現れシジューゼの前に立ちはだかった。再びロングソードを振るが
剣先がぶれていて大したダメージを与えていない。

リズルハ
「あんた見ているだけでイラつく攻撃している!せめてアタイが見ててもイラつかない攻撃にしてくれ。」

リズルハが少し離れた所で座って眺めている。

シジューゼ
「うるさい!今そんな余裕はない!第一お前も手伝え!!」
リズルハ
「言ったはずサ。アタイはモンスター。モンスター同士戦うつもりはないッテネ。」
シジューゼ
「くそ!!」
リズルハ
「・・・・でもあんた等に今ここで死なれるとアタイにとってちょっと困る。せめて正しい剣の降り方は教えてあげる。」

リズルハが立ち上がり、シジューゼの傍に移動する。

シジューゼ
「何だ!」
リズルハ
「腰を落として姿勢を低くして前に飛び出てみナ。」
シジューゼ
「・・・・こうか。」

シジューゼが姿勢を低くして前に飛び出す。

リズルハ
「相手の懐に潜り込んで一気に剣を持ちあげ足元から首にかけて引き裂くように剣を振り上げろ!!」

シジューゼがサンドゴーレムの懐に潜り込み、アッパーを繰り出すかのように剣を思いっきり振りあげ
サンドゴーレムの顎を破壊する。

リズルハ
「アタイ等、シャドー族に伝わる技。敵の懐に潜り込んで大ダメージを与える魔の技。」
シジューゼ
「こいつはいいな!」

シジューゼが調子に乗って何度も同じ技を繰り出す。敵の攻撃を上手く潜り抜け、懐に潜り込んで
深く剣を突き刺して切り上げる。時々クリーンヒットし、クリーンヒットしたサンドゴーレムが真っ二つに割れてしまった。

シジューゼ
「いよっしゃ!!」
キュー
「終わった?」

キューの周囲にはたくさんのウォスウォムの死体が転がっていた。

シジューゼ
「ああ、終わったぜ!俺も強くなったな!無傷だ!」
リズルハ
「・・・本気で言っているのカ?」
シジューゼ
「事実だろ。」
フィーゼ
「・・・・・・。」

フィーゼが溜息をついている。

キュー
「・・・フィーゼ君が何度も回復魔法をシジューゼさんに放ってたよ・・。」
シジューゼ
「な・・・・。・・・・す、すまん。ありがとう!」
フィーゼ
「いいよ、別に。」
リズルハ
「ほら、さっさとイキナ。夜になると危険だ。」
キュー
「そうだね。」

再びシジューゼが先頭に立って北西へと向かう。
・・・途中、再び何度か戦闘になったが難なく撃退し無事必滅の地に最も近い街。『追われし街』へと辿りついた。






==追われし街



キュー
「つ、ついたぁ〜・・・。」

砂の上にいくつもの建物が並んでいる。
・・・一応結界石が置かれておりモンスターの侵入は防げているようだ。
しかしリズルハは普通に街の中に入れている。

リズルハ
「ここは『追われし街』。ドリームファクターから追い出されるかのように逃げた者達が住む街サ。」
シジューゼ
「・・・追われし街。そんな名前の街に俺は住みたくないな・・・。」
フィーゼ
「・・・昔はドリームファクターと追われし街の間に安全な道があった。・・・でも今は必滅の地の影響で
モンスターが巣食っていて危険な道になっている。」
シジューゼ
「そうなのか・・・。こんな街もあるんだな・・・。」
キュー
「宿を探そうか。その後ちょっと雑貨屋があればよって周辺の地図を買おうと思う。」
シジューゼ
「わかった。」

シジューゼが宿を探し始める。

キュー
「(さってと・・・・。)」

・・・・ここから15Km離れた所に誕生石がある。
もしかすると既にファンやルイが取って行ってしまっている可能性がある。
しかし、実際に行ってみなければわからない。


・・・。

キュー
「(・・・何だか凄く苦労しそう。)」


キューの直感がそう告げる。




追われし街。・・・何故だかキューにとって、その街の名前が自分にも当てはまってしまうようにも感じた。



続く



第十五話


必滅の地に侵食され始めている道を通り、実に143Kmもの距離を歩いた。
道中、強いモンスターに襲われはしたものの無事撃退する事が出来た。

そして一行は『追われし街』へと辿りついた。
ドリームファクターの工場の騒音から逃げるようにして作られた避難所に近い街。



==追われし街


シジューゼ
「宿は一体どこだ?」

シジューゼが街の中を歩き回る。
街と言うよりはどちらかというと村と言ったほうが近い。
地面は少し固まった土、草木は殆ど生えておらず写真で見たカーディフに若干近い。
建造物の殆どがコンクリートで作られた建物。

シジューゼ
「お・・・ここが宿か?」

お世辞にも綺麗な建物とは言えないが無いよりはマシだ。
宿の中にさっそく入る。



==宿


建物の中は外見からでは想像できない以上に綺麗だった。
絨毯が敷かれており壁紙なども張られているお陰で汚れが全く見当たらない。

シジューゼ
「(・・・高くないよな?)」

恐る恐るカウンターに歩き話しかける。

シジューゼ
「・・・あの、ここに宿泊したいのですが。」
オーナー
「あんた・・・もしかして旅の者か?」
シジューゼ
「そうですが。」
オーナー
「どこから来た?」
シジューゼ
「ドリームファクターっという街から。」
オーナー
「そうか・・あの街からか。・・・あの街の夜は過ごしたか?」
シジューゼ
「過ごしました。・・・寝れるもんじゃないですね。」
オーナー
「全くだ。あの工場。街や国の発展に大いに貢献しているが我々住民からすれば堪ったもんじゃない。
それよりあんた。道中大丈夫だったのか?」
シジューゼ
「強力なモンスターに何回か遭遇はしましたか撃退出来ました。」
オーナー
「あんた強いんだな。」
シジューゼ
「いやぁ・・・仲間がいるので。俺は対して強くない。」
オーナー
「生きてここまで来れてるだけで十分だ。ここ数年の間、必滅の地の領域が広がりだし
この街にやってくる者、出て行く者は殆どいない。正確には危険すぎて行き来出来ないだけなんだがな。」

その時、宿の階段からゴテゴテに重装備した人物が2人現れた。
・・・一人だけ刀しか装備していない女性がいるが。

巨大アックスを装備した男
「オーナー。いい宿だったぜ。」
オーナー
「そいつはよかった。もう行っちまうのか?」
巨大アックスを装備した男
「いや、この街のクエストショップにいい仕事があったからな。当分ここに残るつもりだ。」
オーナー
「・・・良い仕事と言えばあの依頼の事か。ここ街のためだ、どうか頑張ってくれ。」
赤い髪の女性
「・・・モンスターの特徴を教えてほしいかな。」

刀だけを装備した赤い髪の女性が喋る。
腰まで長く伸びておりかなり特徴的な女性だ。・・・あのパーティの中で一人だけ確実に存在が浮いている。

オーナー
「黒いモンスターだよ。私は旅人から話ししか聞いていないから本当の事かどうか知らんが・・・。
目にもとまらぬ速さで攻撃を仕掛けてくるそうだ。・・・そして奴等は人の影に入りこむ事が出来るそうだ。」
シジューゼ
「(・・・影に入りこむ事が出来る?・・・リズルハみたいにか?)」
赤い髪の女性
「・・・わかった、ありがとう。」
大きな杖とフードを被った魔術師
「アンタ達、そろそろ行くよ。・・・で、琶紅はまたその装備でいいんだね?」

魔術師らしき人物が赤い髪の女性に話しかける。

琶紅
「私はこれでいいよ。そんなにゴテゴテに装備したら早く動けないと思うし・・・。」
シジューゼ
「(・・・琶紅?・・・何だっけか・・・何かどっかでその名前を聞いたな・・・。・・・思い出せないな・・・。)」
巨大アックスを装備した男
「いつもの事だ。行こう。」

そういうと三人は行ってしまった。

シジューゼ
「(随分と装備がしっかりしてたなぁ〜・・・羨ましいなぁ〜・・・。)」
オーナー
「ああいった冒険者達がいるからこの街は今も存続していられる。」
シジューゼ
「クエストショップにある依頼のことですか?」
オーナー
「そうだ、アンタはもう見たのか?」
シジューゼ
「いえ・・まだ。」
オーナー
「ここからたった15km離れた所にシャドー族と呼ばれるモンスターの村が存在している。
奴等の街には物資が豊富にあって略奪してもらっている。その物資を私達だけが知っている秘密の裏ルートから
高く売ってこの街を存続させているという訳だ。」
シジューゼ
「そうなのか。」
オーナー
「アンタも腕に自身があるなら仲間を連れて挑戦してみるといい。・・・ただ、死なない程度にな。奴等は強い。」
シジューゼ
「(もう知ってる・・・)」
オーナー
「そんで・・・アンタはここに泊まる予定か?」
シジューゼ
「そ、そうだった。ここに三人泊まるから一部屋用意してくれ。」
オーナー
「分った。一泊6000Seedだ、最後にまとめて払ってくれ。」
シジューゼ
「(・・・やっぱり高いな・・・)」






キュー
「あ、クエストショップ。」

追われし街を歩き回っているとクエストショップを見つけた。
・・・懐かしい、自分の父親が経営していた時期もあったっけか。

キュー
「どんな依頼があるのかな。」
フィーゼ
「・・・。」

フィーゼが財布の中を確認する。
・・・あまりない。

フィーゼ
「・・・良いのがあったらやったほうがいいかな。」
キュー
「もうバイク売ったお金なくなっちゃうんだ・・・。」

キューとフィーゼがクエストショップの中に入る。リズルハは何処へ行ったのだろうか。
もしかするとキューかフィーゼの影に隠れているのかもしれないが・・・。


==追われし街・クエストショップ


クエストショップの中に入ると巨大なアックスを持った男がカウンター越しにいるゴーグルを着けた爺さんと
話しをしていた。


ゴーグルを着けた爺さん
「行くのか、生きて帰ってこい。」
巨大なアックスを装備した男
「俺はどんな時でもこのアックス一つで生き延びてきた。ちゃんと戻ってくるよ、金のためにもな。」
ゴーグルを着けた爺さん
「それでいい。かぁっかぁっかぁっ。」

変な笑いを上げている。
二人を無視してキューとフィーゼがクエストショップの中にある掲示板を眺める。

キュー
「(・・・どれも報酬が凄く高い・・・)」

一つ当たり平均で100K近くにもなる依頼ばっかりだ。
中には500Kもの報酬がやってくる依頼もある・・・。こんなに高額な理由は一体・・・。
暫く眺めていると巨大なアックスを装備した男が掲示板に張り付いてある依頼書を数枚剥がし
そのまま外に出て行った。

ゴーグルを着けた爺さん
「お主等も旅人かえ?」
キュー
「うん、そうだよ。」
ゴーグルを着けた爺さん
「ここ最近旅人が多く来てええの。で、お主等もシャドー族を狩りに来たのか?」
キュー
「・・・シャドー族を狩りに?」
ゴーグルを着けた爺さん
「うむ。ここから北西15Km行った所にシャドー族の住む村がある。奴等はこの大陸でも貴重な物資を隠し持っておる。
その物資をここに持ちかえれば金になる。」
キュー
「ふーん・・・。」
ゴーグルを着けた爺さん
「・・・それは奴等にとっても同じようじゃがの。」
キュー
「・・・同じような事?」
ゴーグルを着けた爺さん
「奴等もたまにこの街に襲撃を仕掛けてくるんだよ。目当ては何だか分らんがの。」
キュー
「・・・・・・。」

ふとリズルハの事が気になってきた。
今何処にいるのだろうか。

フィーゼ
「・・・地図のこの場所ってシャドー族の村がある場所?」

フィーゼが簡易地図をゴーグルを着けた爺さんに見せる。
・・・フィーゼが今指差している場所は誕生石があると分っている場所だ。

ゴーグルを着けた爺さん
「おぉ、そうじゃそうじゃ、そこじゃよ。ここからそんなに遠くはないぞ。」
フィーゼ
「・・・ありがとう。」
キュー
「フィーゼ君。一回街の中央に行こ。シジューゼさんが待っているかも。」
フィーゼ
「わかった。」
ゴーグルを着けた爺さん
「気が向いたら引きうけておくれよ。」




==追われし街



シジューゼ
「ん、キューさん。」
キュー
「あ、待たせちゃったかな。見つかった?」
シジューゼ
「はい、見つかりましたよ。割と豪華な場所でした。」
キュー
「へぇ・・・ちょっと意外。何でだろ。」
リズルハ
「あんた等全員もう知っての通り、この街は迫害されたかのように逃げ出した住民達が
シャドー族の村を襲撃して自分達の肥やしにしてるのサ。その宿もアタイ等の物を売っぱらって買ったんだろ。」
シジューゼ
「お前は完全な被害者なのか?」
リズルハ
「・・・アタイはまだ良い方さ。こうやって人に化ける事が出来るからナ。
他の奴等は・・・ちょっとばかし無理があるね。」
キュー
「気が付いたらシャドー族が可哀相な人達って事になってるけどシャドー族だってここを襲撃してるみたいだけど。」
リズルハ
「抵抗。アンタ達も自分の街がやられているのを見て黙っている訳にはいかないはずサ。」
キュー
「(・・・何だろう。何か腑に落ちない点がある・・・。)」
シジューゼ
「とりあえず今日は休もう。俺は疲れた・・・・。」
キュー
「そうだね。とりあえず今日はもう休もう。」
リズルハ
「アタイはこの街で見つかるとちょっと厄介だからネ。アンタの影に潜り込ませてもらうよ。」

そういうとリズルハはフィーゼの影に潜りこむ。フィーゼはただ瞬きするだけだった。




==宿




部屋も外見からは想像できないぐらいに綺麗だった。
ベッドはふかふかで床は絨毯で敷かれており旅の疲れを癒すには最適だった。

シジューゼ
「おぉ、凄いな!クラドの宿とは段違いだ。」
キュー
「はぁー・・・疲れた〜。」

キューがバタッとベッドの上で寝そべる。
フィーゼがカーテンの隙間から外の様子を覗いている。

フィーゼ
「・・・・・。」

窓の外から先程の巨大なアックスを装備した男と魔術師らしき人物が一人、そして赤い髪の女性が見える。
そのまま北西の出入り口を通って行き出発していった。

リズルハ
「デ、アンタ達はここから北西15Kmにあるシャドー族の村に行くのかい?」
キュー
「アタシが探している誕生石がそこの村にあるみたい。だから行くよ。」
シジューゼ
「どうやって手に入れるんですか?」
キュー
「・・・とりあえずリズルハみたいに話せば分る人達なら交渉したいと思う。」
リズルハ
「分らず屋だったら略奪かい?」
キュー
「あんまり悲観的な事言わないで。何かさっきから焦ってない?」
リズルハ
「別ニ?正直に言うとアタイは村から追放されたモンスターだからね。あの村がどうなろうとアタイの知ったこっちゃない。」
キュー
「リズルハ。アタシ達と一緒に行動するって行った時目的があるって言ったよね。
目的地って実はここなんじゃないの?」
リズルハ
「どうしてそう思った?」
キュー
「最初に私がリズルハにサンスルリアに行きたいとか?って聞いた時『そんなんじゃない』って言ってたよね。
ってことはサンスルリアが目的地じゃないってのはすぐ分る。
フィーゼ君がリズルハに純粋に戦力として欲しがったから声をかけたと思うけど
明確な目的がちゃんとあるならアタシ達の行き先を知らなければ一緒についていこうって思わないよね?
ねぇ、フィーゼ君。アタシ達が向かう先って教えてあげたんだよね?」

フィーゼがコクリと頷く。

キュー
「アタシ達が一番最初に辿りつく目的地はシャドー族の村ってのはリズルハは知ってた。
ってことはずっとアタシ達と一緒に共に行動しているとシャドー族の村に辿りつくってのは明確。
リズルハは追放された身にも関わらずアタシ達と一緒に来るってことはやっぱりシャドー族の村に何か
用があるんじゃないの?」
リズルハ
「アンタの推測はサンスルリアが目的地じゃないっという所から始まってるが、もしかしたらサンスルリアの隣にある
街がアタイの目的地かもしれないゾ?ソレニアタイがその気になればアンタ達が用を済ませるまでここでずっと
待つ事だって出来る。」
キュー
「今言ったね。『その気になれば』って。本当にシャドー族の村が目的地じゃなければここで留まるのは確実だよね。
なのに今行く前提じゃなければ使えない言葉を使ったね。」
リズルハ
「・・・・・・・。」
キュー
「他にも裏が取れそうな発言が一杯あったよ。ドリームファクターの時だってシャドー族と接点のある事ばかり
詳しく知ってたよね。ファンが製造技術を提供した結果、騒音の激しい工場が立ち並び、結果そこの住民が
ここ追われし街に逃げてきた。その結果、追われし街の住民は生きるためにシャドー族の村に
攻撃を仕掛けるようになった。そして一番の敵である追われし街の事についてもリズルハはよく知ってた。
まだあるよ、リズルハが・・・」
リズルハ
「もうイイ。認める。アタイは確かにシャドー族の村に用があった。」
キュー
「やっぱり。何のために?」
リズルハ
「・・・そうだね、もうちょっとアンタ達を眺めて問題ないって思ったら教えるヨ。今はまだ教えられない。」
キュー
「・・・そう。でもいきなり背中を斬りかかるような真似だけはやめてよ。」
リズルハ
「保障できない願いだナ。」
シジューゼ
「何だって!」
フィーゼ
「・・・・・・。」
シジューゼ
「お前は一体どっちに付くつもりなんだ?」
リズルハ
「サァネ。気が向いた方に付こうかナ。」

シジューゼが警戒心を剥きだしにするがすぐにキューが間に入って落ちつかせる。

キュー
「シジューゼさん。冒険らしくなってきたね。」
シジューゼ
「・・・冒険らしく?」
キュー
「冒険って何が起きるか分らないよね。」

そういうとキューはベッドに飛び込み、横になる。

キュー
「・・・時間は今午後2時・・・。ちょっと一時間仮眠・・・。」
シジューゼ
「おやすみなさい、キューさん。」
リズルハ
「・・・・・・・。」
フィーゼ
「・・・・あ、この魔法いいかも。」
シジューゼ
「フィーゼ、強い魔法を覚えてくれよ。」
フィーゼ
「・・・兄さんこそ、強い技を覚えてよ。」
リズルハ
「アンタ、キューとかいう小娘と比べると圧倒的に力の差が激しいからネェ?特訓した方がいいんじゃない?」
シジューゼ
「うっ、ぐっ・・・。み、認めるさ・・・。俺はキューさんより実力は遥かに下だ。
・・・よーし、特訓だ!!!俺は絶対に強くなるぞ!!」
キュー
「(うるさい・・・)」












==シャドー族の村・辺境


巨大なアックスを装備した男
「もうすぐでシャドー族の村に辿りつくな。」
大きな杖とフードを被った魔術師
「こっちは準備いいよ。いつでも強力な魔法を放つ事が出来る!」
琶紅
「いきなりチャージ状態維持してたら疲れない?反撃されたら・・ちょっときついような・・・。」
大きな杖とフードを被った魔術師
「問題ないね。今からあの村を一気に滅ぼすから!」

そういうと魔術師が杖を前に突き出す。

巨大なアックスを装備した男
「行け!潰せ!」
大きな杖とフードを被った魔術師
「ニューバーs・・・」

超巨大な魔法を放とうとした瞬間だった。突然魔術師の影から何かが飛び出し辺りに血飛沫が舞った。
魔術師の大動脈から血が噴き出し、痙攣しながら倒れた。

巨大なアックスを装備した男
「!?」
琶紅
「影・・・!」

琶紅が真っ先に反応し、ステップを繰り出す。
一見何の意味のない行動に見えるがさっきまで琶紅が立っていた場所から突然黒い物体が飛び出し
長く伸びた爪を振り回しながら空へと飛んで行った。
巨大なアックスを装備した男は反応が遅れシャドーの攻撃をまともに喰らうが重装備した鎧のお陰で致命傷は免れた。

巨大なアックスを装備した男
「このやろうぉおお!!」

アックスを手に持ち、ブンと大きく横に薙ぎ払う。
重装備ながらも機敏に動きシャドー族を斬り払った。真っ二つに黒い物体が裂かれそのまま粒子化して消えて行った。

巨大なアックスを装備した男
「やったぜ!」
琶紅
「ガッツポーズ取ってる暇はないって!!一杯いるよ!!」

気がつけば琶紅がシャドー三体と同時に相手していた。

巨大なアックスを装備した男
「琶紅!!今俺が全部薙ぎ払ってやる!伏せろ!!」

琶紅が伏せるのではなく後ろに大きくバックステップする。その直後、全長2mにも及ぶ大きなアックスが
凄まじい勢いで薙ぎ払いを行い琶紅の近くに居たシャドー族三体をまとめて斬り払った。

巨大なアックスを装備した男
「いよし、次だ!」
琶紅
「・・・・あれ!?」

今さっき倒した三体のシャドー族が粒子化し何処かに飛散して消えて行った・・・かと思いきや粒子が融合し
獣のような形を形成してシャドーが再び目の前に現れた。
巨大なアックスを装備した男の真正面からいきなり凄まじい勢いで突進し兜を牙らしきもので思いっきり噛み割る。

巨大なアックスを装備した男
「う、うわあぁぁっっ!!」

頑丈な兜が割れ、素顔が露わになる。割と歳を取った青年。
そのまま兜ごと男の頭を噛み頭蓋骨ごと砕こうとする。

琶紅
「だ、だめ!!やめて!!!」

琶紅が慌てて刀を前に突き出し獣の形をしたシャドーを突き刺そうとする。が、突然横から別のシャドーが現れ
琶紅にタックルを喰らわせ転倒させる。

琶紅
「う、うぅっ・・・!!」

すぐに転倒から復帰し迎撃の構えを取る。人型のシャドーが爪を前に突き出して突進してきた!
それを刀で受け流し、強烈な反撃を叩きこむ。

琶紅
「反!!」

致命傷を受けたシャドーはそのまま粒子化し何処かに飛散して消えて行った。
すぐに琶紅の仲間である男を助け出しに行こうとするが既に悲惨な結末を迎えておりすぐに視線を逸らした。
が、逸らした先に

琶紅
「あ・・・・。」

大量のシャドーが待ち構えていた。・・・その数、目視で簡単に30は超えている。

琶紅
「む、無理・・無理・・・・。逃げなきゃ・・・!」

琶紅が慌てて逃げ出そうとした時、魔術師がゆっくりと動き、最後の力を振り絞って杖を握る。

大きなフードを被った魔術師
「ニュー・・・バー・・・スト・・・。」

杖の先端から突如、巨大なレーザービームとも言える魔道弾がシャドーを一気に焼きつくす。
あまりの熱気に地面すら蒸発させ、白い閃光が通り過ぎた後には何も残っていなかった。

















キュー
「zzz・・・・zzz・・・。」

突如、窓から白い光が入りこんだ。

シジューゼ
「うわっ!眩しい!!」
リズルハ
「・・・・あれは・・!?」
フィーゼ
「・・・ニューバースト。・・・初めて見た。凄い。」

白い閃光が追われし街の横を通り過ぎる。そのまま何処かに飛んで行ってしまった。

シジューゼ
「ぐっ・・・。・・・・光は収まったか・・・?」

あまりの眩しさに目がチカチカする。

キュー
「うぅ〜ん・・・。・・・何か今目蓋越しに凄い光を当てられた気がするんだけど誰か悪戯した?」
フィーゼ
「・・・シャドー族の村からニューバーストが飛んできた。あと5℃角度がずれてたらこの街に直撃してた。」
キュー
「・・・ニュー・・バースト?」

どっかで聞いた事のある魔法・・・。

・・・・。

脳裏に浮かんだのはギーンが放った超巨大な魔法。

キュー
「あああ!!」
シジューゼ
「うわ、どうしたんですか!?」
キュー
「そんな凄い魔法を放てる人は・・・一人しかいない!!」

すぐにキューが身支度し始める。

フィーゼ
「どこ行くの。」
キュー
「シャドー族の村に!!」
シジューゼ
「い、いきなりですか!?」
キュー
「気になる事が起きたらすぐに行動する!これがアタシの信条!!」

そういうと剣を手に取り、小さなアイテムだけ持って宿から飛び出した。

シジューゼ
「くっ、あのまま頬っておく訳にはいかないよな!?」

シジューゼもロングソードと軽い鎧を持って外に飛び出す。
リズルハはフィーゼの影に身をひそめ、リズルハも兄に負けない速度で走って追いかける。



弓を持った狩人
「さっきの白い閃光。危なかったな。ちょっとこっちにずれてたらこの街は消し飛んでたかもしれない。」
鍛冶職人
「あれは恐らく2時間前にここを出発して行った魔術師の魔法だろうな。功名な魔術師じゃなければ出せない魔法だ。
今頃シャドー族の村は消し炭になってるかもしれないな。」
弓を持った狩人
「ん・・・。もし、そうだとしたら何故こっちに閃光が飛んで来たんだ?」
鍛冶職人
「・・・言われてみればそうだな。何でだ?」


さっきの魔法で少し街がざわついている。
お構いなしにキューがシャドー族の村目掛けて走り出す。

鍛冶職人
「おっと、お譲ちゃん。もしやシャドー族の村にでも行く気か?」
キュー
「そう!」

そのまま走り去ろうとするキューに突如、弓を持った狩人がキューの後を追う。

弓を持った狩人
「ちょうどいい、僕も同行させてくれ。チームは多い方が安心だろ?」
キュー
「勝手にしていいよ。」

とりあえずもし、今ここにギーンが来ているなら早く会いに行きたい。
・・・運が良いのか悪いのか分らないが誕生石を集めるためにギーンがシャドー族の村を焼き払った可能性もある。

キュー
「(・・・まさかW・L・C隊じゃないだろうけど・・)」

・・・とにかく誕生石のあるあの村でこんな大きな魔法が放たれたのだからただ事じゃない。
シジューゼとフィーゼも魔法の力を借りてやっと追い付き、気がつけばリズルハ含めて5人パーティになっていた。

シジューゼ
「誰だ?」
弓を持った狩人
「シャドー族狩りに行くんだろ?便乗させてくれ。金がない。」
シジューゼ
「そいつは大変だな・・・。金が無い生活って辛いよな。」
弓を持った狩人
「君も貧乏を経験した事があるのか。空腹ってのは通りすぎると腹痛に変わるよな。僕の名はミハイル。よろしく。」
シジューゼ
「シジューゼだ。あっちの白い髪は俺の弟、フィーゼだ。」
フィーゼ
「・・・・・。」
シジューゼ
「優秀な魔法使いだが無口なのがちょっとたまに傷だ。」

兄から優秀な魔法使いと言われちょっと嬉しかったのか小さな笑みを一瞬だけ浮かべた。

キュー
「置いて行くよ。」

キューが走る速度をあげる。あの小柄な体型にどこにそんな持久力があるのか。(と、いっても大の大人だが

シジューゼ
「せ、せっかく冒険のお決まりの一つ、キャラバンを体験していたのに。」
フィーゼ
「・・・ちょっと違う。」
リズルハ
「(・・・・・・)」






==シャドー族の村・辺境



村が見えてきた。

到着まで残り1Kmという所で二人の死体が転がっている事に気がついた。一人は頭部が悲惨な事になっていた。

シジューゼ
「うっ・・・こ、こいつは・・・。」
ミハイル
「・・・死後大体一時間・・・。」
キュー
「激闘を繰り広げた後があるね。・・・この杖からニューバーストを出したのかな?・・・だとしたら
ギーンじゃないんだ・・・。」

その時、フィーゼの影からリズルハが飛び出て来た。

ミハイル
「・・・!!シャドー族!!」
リズルハ
「待ちナ。大人しくアタイの忠告を聞きな。今すぐ動け、足を止めるんじゃないヨ。」

キューが大人しく命令に従い走り出す。その直後、キューの居た所から
一人のシャドーが飛び出し爪を突き出してきた!もし棒立ちしていたら串刺しになっていただろう。
それを見た他三人もすぐにステップし攻撃に備える。

ミハイル
「君は一体・・・!?」

ところが、そこにはリズルハの姿はなかった。足元から続々とシャドー族が飛び出し串刺しにしようとする。
シジューゼとミハイルが左へステップし、フィーゼとキューは右へ走って攻撃を回避する。
ちょうど二組が分断されるように攻撃をし、気がつけば声が届かない位置まで離れてしまった。

キュー
「フィーゼ君!ちょっと危険な事になってきた!アタシが何体か戦って迎撃するから魔法で援護して!」
フィーゼ
「わかった。」

キューがキュピルの愛剣を構え、襲い来るシャドー族を迎撃する。爪と剣がぶつかり合い金属音が鳴り響く。

キュー
「金属音・・・この爪も凄い硬い・・・!」

すぐに押し出し、素早く突きを繰り出す。しかし爪で受け止められ、凄まじい力で剣を放り投げられてしまう。

キュー
「あ!!」
フィーゼ
「念動力。」

フィーゼが魔法を唱え、空中で剣を操作し、そのまま落下してシャドーに突き刺した。

フィーゼ
「・・・へぇ、使い勝手いいんだね・・・。念動力。」
キュー
「ありがとう!」

突き刺さった剣を引き抜き、トドメの一撃を加える。致命傷を受けたシャドーの一人が粒子化し何処かに飛んで行った。


キュー
「次!」







一方、シジューゼとミハイルは実力不足という事もありシャドー相手に大苦戦していた。

ミハイル
「貫け!矢!」

弓を精一杯引き、矢を放つ。人型シャドーの胴体に命中し穴がぽっかり空いたがすぐに黒い物体が穴を塞いだ。

ミハイル
「やっぱり矢が効かない・・!一瞬でバラバラにするような攻撃をしないと!」
シジューゼ
「や、やってやる!!ミハイル!俺の後ろを守ってくれ!」

シジューゼがリズルハに教わった技を繰り出す。体勢を低くし、一気に接近し、
足と腰に力を入れ飛び上がるようにして人型シャドーの足から顎まで剣で一気に切り上げてバラバラにする。

ミハイル
「シジューゼ!囲まれてる!!」
シジューゼ
「やべ!」

接近し、一体撃破したのはいいが敵陣に入りこみ気がつけば囲まれていた。
ミハイルが必死に矢を放ちシジューゼを守ろうとしているが限界がある。
四体のシャドーが同時に爪を前に伸ばしシジューゼを串刺しにしようとする。

シジューゼ
「うおぉぉ!!?」

あまりの恐怖にその場で屈む。運が良い事に攻撃を回避した。しかし次の一撃が避けれない。
その時、突然一太刀でシャドー族を薙ぎ払いバラバラにしてシジューゼの危機を救った。

シジューゼ
「誰だ!?」

膝ぐらいまで長く髪が伸びた赤い髪の女性が刀を振るう。

琶紅
「大丈夫!?」
シジューゼ
「あ、あんたは・・・確か琶紅とか言う奴の・・・。」
琶紅
「え、何で名前知ってるの?」
シジューゼ
「宿ですれ違った時に大きな杖を持った人がそう呟いたのを盗み聞きした。」
ミハイル
「雑談してる暇はないぞ、シジューゼ!!」

2体のシャドーが拳を振り上げシジューゼを叩きつぶそうとしてきた。
ミハイルが矢で一体退ける。もう一体は琶紅の超反応で迎撃しシジューゼの危機を救う。

シジューゼ
「す、すまない。二度も助けられた。」
琶紅
「ここは危険!一旦追われし街に逃げるよ!」
シジューゼ
「いや、逃げるわけにはいかない!俺の仲間が今別の所で戦っている!奴等の攻撃で分断されちまった・・・。」
琶紅
「早く合流しないと・・・。私もこの敵の戦力差にずっと逃げてたから・・・。」
シジューゼ
「向こう側だ、行こう!」






キュー
「一閃!」

大きく踏み出し、一瞬にしてシャドーをバラバラにする。
今、戦いは優勢に動いている。

・・・・そう思っていたが、そうでない事に気付かされた。
バラバラにされたシャドーは粒子化し何処かに飛散していっているが粒子がシャドー族の村に飛んで行き、
そこから新たなシャドーがドンドン現れている事に気付いた。

キュー
「これって今までずっと無意味に倒してたってこと?」
フィーゼ
「・・・・かもしれない。」
キュー
「リズルハにはあんな強い技持ってなかったよ!!」

キューが一旦戦闘を中止し離脱を図る。

キュー
「シャドー族の村に突撃するよ!」
フィーゼ
「どうして、危険だ!一旦追われし街に撤退したほうが・・・。」
キュー
「今半分くらいシジューゼとミハイルがシャドーを惹きつけてくれてる!敵が半分減っている間に
さっくり誕生石を奪ってくる!!」

キューがシャドー族の村に入って行く。

フィーゼ
「キューさん・・!」

フィーゼがキューの後を追う。ところが目の前に突如シャドーが現れ行く手を阻む。

フィーゼ
「っ・・・!」

体術を持たないフィーゼにとって絶体絶命を迎えていた。
簡易バリアを張り、前方からの攻撃を防ぐがすぐに割れてしまった。再び簡易バリアを張り攻撃を防ぐが
前方からの攻撃しか防いでくれないため横から奇襲してきたシャドーの攻撃を防ぐ事が出来なかった。

フィーゼ
「・・・ピンチだ・・。」

キューはフィーゼのピンチに気付いていないようだ。本人自身、かなり切羽詰まっているのがよくわかる。

フィーゼ
「一時的に凌がないと・・・!」

フィーゼがポケットから閃光弾を取り出し地面に叩きつける。一瞬だけ眩い光が辺りを覆いシャドーの目を眩ませた。
その隙に両手でシャドーを押して転倒させ敵陣から抜け出す。
抜け出した瞬間、目の前に赤い髪の女性が突進してきた。

琶紅
「一閃!!」

一太刀でシャドーを薙ぎ払いバラバラにして粒子化させる。粒子化したシャドーはそのままシャドー族の村に
飛んで行った。・・・・恐らくまた少し時間が経過すればあの村から復活したシャドーが襲ってくる。

シジューゼ
「フィーゼ!!大丈夫か!!」
フィーゼ
「・・・大丈夫。危なかったけど。」
琶紅
「凄いね、一人でずっと凌いでたんだ。」

琶紅が他に居たシャドーも薙ぎ払い粒子化させる。・・・辺りにシャドー族は居なくなった。刀を鞘に納める。
・・・しかしいつ、地面から奇襲してくるか分らないため油断はできない。

フィーゼ
「・・・二人、仲間がいたけど一人はあの村の中に走って行った。」
琶紅
「え!?」
フィーゼ
「・・・村にある誕生石を奪取するなら今しかないって踏んだみたい。」
シジューゼ
「・・・村の中に走って行った人は絶対キューさんだよな?」

キューという言葉を聞いて琶紅の顔色が変わった。

琶紅
「オレンジ髪の人!!今何て言った!!!!!????」
シジューゼ
「オドルロルロルロ!?!?!?」

凄まじい力でシジューゼを揺さぶる。まともな発音ができない。

ミハイル
「琶紅さん、落ちついて!」
フィーゼ
「琶紅・・・?」

フィーゼが琶紅という言葉に反応する。

フィーゼ
「・・・もしかして・・キューさんが探していた人物?」
シジューゼ
「そ、そうだ!!どうも引っかかる名前だって思ったらキューさんが探していた人の名前だ!!
君があの琶紅さんなのか!!?」
琶紅
「きゅ・・・キューさんが・・・生きてた・・・!生きてた!!!!!!!」

琶紅がぷるぷると震えだし、刀を再び抜刀して咆哮を上げる。


琶紅
「キューさん!!!
今会いに行きます!!!!」




そういって琶紅が凄まじいスピードでシャドー族の村に突っ込んで行った。

ミハイル
「助けに行くんじゃなくて会いに行くの!?」
シジューゼ
「くっ・・・一度に色んな出来事が起きて頭の整理が追い付かない・・・。だが今やらなければ行けない事は
キューさんの後を追って助ける事だ!急ごう!!」

全員、琶紅・・・もといキューの後を追う。

フィーゼ
「(・・・・リズルハさんは何処に行ったんだろう?)」

突如消えたリズルハ。
・・・今どこに。


続く



第十六話


シャドー族の村に突撃したキュー。その後を追う琶紅。





==???



リズルハ
「・・・・・・。」

キュー達が村周辺で大暴れしてもらっている間にこっそり村に侵入する事が出来た。
同族とはいえど完全に気配を殺せば見つかり難い。

ただの瓦礫にしか見えない数々の家を通りすぎ、ある瓦礫の隙間に入る。
瓦礫の下に更に小さな隙間がありその隙間を影となって潜りこむ。
隙間を通り抜け、地下の天井に辿りつく。そしてそのまま水滴のように影が落ち、落ちた所からリズルハが現れた。
暗い地下だがリズルハにとって暗いというのは全く問題にならない。


・・・ここに来たのはこれで二回目だ。



そう、一回目のあの時。



リズルハはここに忍び込んだ事が、ばれてしまいこの村から永久追放された。

そして今、再びここに忍び込み目的の物を盗み出そうとしている。


リズルハ
「・・・あれか。」


前に進み続けると、広いホールのような場所に辿りついた。
ホールの中央に巨大な悪魔のような石像が立っており、その手には誕生石が握られている。

・・・今度こそ、誕生石を手に入れる。


そうすれば、この村を迫害しようとしてくる者達を抹殺する事が出来る。


迫害しようとしてくる者達だけじゃない。出来底のない中途半端なシャドーとして産まれた自分を罵り、差別し
そして村の癌そのものである気に入らない同族を抹消する事が出来る・・・。



全て自分の好きなように出来る。



その時、リズルハの後ろに誰かが現れた。



「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ。」


リズルハ
「・・・追放されてからこの村に立ち入るのに苦労したサ。」


「シャドー族の者じゃなければあの誕生石を引っこ抜く事は出来ん。
お前が引っこ抜き私に渡してもらえれば良い。」


リズルハ
「ちゃんと約束の代価は支払ってくれるのだろうナ?」


「当然だ。」


リズルハ
「・・・・・。」


リズルハが地面に潜り、誕生石を握りしめている大きな像の前に瞬間移動した。
そして石像が握りしめている誕生石を握りしめると、そのまま勢いよく引っこ抜いた。
その瞬間、シャドー族にはそぐわない白色の光が溢れだした。


「・・・六月の誕生石。ムーンストーン。」

白く輝くその石。真珠と違い中が透き通って見える不思議な石。


リズルハ
「さぁ、取ったよ。アタイに力をくれよ?」

「・・・先にその誕生石を渡せ。」

リズルハ
「いーや、先にアタイに力を渡しな。」

「・・・・・・。」


男は前に手を突き出すと電撃のような物を飛ばす。
それがリズルハにぶつかった瞬間、突然地鳴りがしはじめた。

リズルハ
「・・・!・・・いいじゃん・・・これがアンタの言う力・・・。」


「・・・お前の弱点を消しとばす力だ。・・・これでお前は『死なない』」


リズルハ
「フーン。・・・確かに、そうだろうネ。ほらよ・・・。」

リズルハがムーンストーンを男に投げつける。

「・・・・・後はお前の好きにするがいい。」

リズルハ
「そうさせてもらうサ。」










==シャドー族の村・地上



キュー
「一閃!!」

襲い来るシャドーを一太刀で薙ぎ払う。だが薙ぎ払った所で再び復活してすぐにまた・・・。
・・・その時、シャドーに異変が現れた。

キュー
「え?」

斬ったシャドーが突然蒸発するかのように空に登って行き、そのまま弾けて消えていってしまった。
・・・粒子化ではなく、本当に消えてしまった。
更に斬っていない他のシャドー同様に突然苦しみだし、空に登って弾けて消えて行ってしまった。

キュー
「・・・突然何が起きたの・・?」

・・・気がつけば、晴れている。
さっきまで黒い暗雲が空を覆っていたのだがいきなり快晴になった。

キュー
「・・・もしかして、影がなくなって・・・・居場所がなくなったの?」

その時、凄まじい地鳴りがし始めた。
強烈な揺れに思わずその場に座り込むキュー。すると突然、近くの地面が地割れを起こし
地割れによって出来あがった崖からリズルハが飛び出て来た。・・・これまでと比べると格段にオーラが違う。

キュー
「リズルハ・・・!」
リズルハ
「オヤ?キューじゃないか。そんな所で座りこんでどうしたんだイ?」
キュー
「・・・・・・。」
リズルハ
「あー、ソウカイソウカイ。そういえばあんたのお目当ては誕生石だったネェ。あれはもう無いヨ。」
キュー
「無い?どういうこと?」

「何年振りだろうな?キューよ。」

もう一人、地割れから誰かがスゥーっと登ってきた。・・・シルクハットを被り、タキシードを着た男・・・。

キュー
「誰?」
シルクハットを被った男
「おぉ、私の名をまだ知らないか。だが私の名を知ったらお前は平常では居られなくなるな。」
キュー
「そんな事より、誕生石がないってどういうこと?」
シルクハットを被った男
「誕生石は今さっき。このリズルハという出来底のないシャドー族から貰った所だ。」

そういうとシルクハットを被った男が六月の誕生石であるムーンストーンを見せつける。

キュー
「・・・!W・L・C隊!?」
シルクハットを被った男
「W・L・C隊は今や私の物ではない。あれはルイのものだ。」
キュー
「貴方の物じゃない?ルイのもの・・?・・・・まさか!!」

シルクハットを被った男の正体にキューが気付く。

シルクハットを被った男
「ようやく気付いたか?・・・キュピルの娘よ!」
キュー
「作者!!!!」



突如、キューが抜刀しいきなり作者に向けて斬りかかった。
作者が目の前にバリアを張りキューの攻撃を防ぐ。

作者
「おぉ、幽霊刀の力に頼らずにしてその力。やはり蛙の子は蛙だな。
ルイに封印され、10年の時を経て復活したようだがその実力。面白い。」
キュー
「アンタをここで倒せば全部終わる!!!」

まるで幽霊刀の力を引き出しているかのようにキューが素早く動き、強烈な一撃を連続で叩きこむ。

作者
「ふむ、憎き敵を見つけるとすぐに倒そうとするのも親と同じだな。キュピルはきちんと躾けをしなかったのだな。」

作者がバリアを自ら壊す。壊れた瞬間、キューが更なる一撃を叩きこもうと前に踏み込むがその直後。
作者の指先から稲妻の如く光る電撃を飛ばしてきた。
ところがその攻撃を先読みしていたのかキューが身を翻して回避し、作者の腕を深く斬りつけた!

作者
「ぐぅっ!?」
キュー
「トドメだ!!!!」
作者
「甘いぞ!」

作者がテレポートでキューの後ろに回り人とは思えない凶悪な力でキューの背中を叩き飛ばした。
物凄い勢いで吹き飛び瓦礫に激突して止まる。

リズルハ
「アンタ、続きはアタイにやらせてくれないか?」
作者
「・・・?何故だ?」
リズルハ
「コイツにはちょいとばかし恨みがあってね・・・。」
作者
「ほぉ、恨みか。・・・・・・・。」
キュー
「う、恨み・・・?」

キューがよろよろと立ちあがる。今の一撃で相当のダメージを受けたようだ。立ち上がるのにかなり必死だ。
作者が少し考えた後。

作者
「まぁいい、好きにするといい。
・・・キュー。今は場所が悪い。・・・次の場所で待っておるぞ。」
キュー
「つ、次の・・場所・・?」

そういうと作者は一瞬で消えてしまった。


リズルハ
「ククク・・・・。いいねぇ、この感覚!誰にも負けない気がするヨ。」
キュー
「・・・・・・。」

明らかに気迫が違う。・・・幼少時代、全盛期含め今まで戦ってきた中でも上位に位置するレベルだ・・・。

リズルハ
「サァーテ・・・。恨み、晴らさせて貰う。」
キュー
「待って・・・!いつ恨み何か売った!?」
リズルハ
「アンタがファンの仲間だと知った瞬間からサ!!」

リズルハから凄まじいオーラが溢れる。来る・・・!
キューが身構えたその時、リズルハとは別に凄まじい気迫で何かが近づいてきている事に気がついた。

キュー
「なに・・・?」
リズルハ
「ン・・・?」



琶紅
「キューさああーーーーん!!!」





突然、赤い髪の女性・・・琶紅がキューに飛びつき、抱きついて来た!
条件反射でそのまま投げ飛ばしてしまう。


琶紅
「ギャッ!!!」
キュー
「・・・あああああああ!!!!!!!」


投げ飛ばした相手を見てキューが驚く。


今、一番会いたかった人物が目の前にいた。


10年前、あの時の琶紅と何一つ変わっていない。


見た目も仕草も行動も。


が、逆にそれがある違和感を覚えさせた。


キュー
「(・・・え?10年も経ってるのに老けてない?)」
琶紅
「うぅぅ・・・会っていきなり投げ飛ばすなんて酷いです・・・。でも生きてて良かった・・・!!」

琶紅がまた抱きつこうとするが額を押して拒否する。

キュー
「待って、周りの状況から考えて死にそう・・・。」
琶紅
「えっ。」

琶紅の後ろからリズルハが飛んできた。すぐにキューが琶紅ごと突き飛ばしリズルハを巻き込む。
味方を犠牲にして飛んできた攻撃に流石に予測できなかったのか一緒に倒れる。
同時に琶紅とリズルハが立ち上がる。
一瞬リズルハと琶紅が目を合わせるが、琶紅は目を逸らしてキューの方を見る。頭の上に?を浮かべている。

キュー
「琶紅!その女は敵!」
琶紅
「!」

まぬけにも敵だと思っていなかったのかリズルハが琶紅の肩にナイフを突き刺す。

琶紅
「ギャアァァァァァッッッッーーーーーーー!!!!」
キュー
「・・・ぷっ。」

笑いごとではないのだがあまりにも叫び声が昔のまんまだったため笑いを抑える事が出来なかった。
しかし、笑っている場合じゃない。すぐにキューが前に飛び出しキュピルの愛剣を前に突き出す。
リズルハの頭を直接突こうとするが地面に素早く潜って攻撃を回避する。

琶紅
「痛い!痛い!!」
キュー
「琶紅!ふざけてるのかわからないけどリズルハは強いよ!!」
琶紅
「・・・キューさん、いざとなったら私をまた盾にしてください!」
キュー
「どういうこと!?」

琶紅
「琶月の頃と同じように私、歳も取らなければ死なない事が分ってるんです!」






キュー
「えええええええええええ!!!!!!!!」







キューが驚きの声に琶紅が一瞬ビクッと驚く。その瞬間、リズルハが琶紅の足元から勢いよく飛び出し
ナイフを乱舞させながら琶紅を切り刻む。


琶紅
「っっっ!!!!」


物凄い激痛に琶紅が苦痛の表情を見せる。
思わず片膝がつく。

リズルハ
「・・・心臓を刺したのに生きていル?不思議な人間も居たもんだネェ・・・。もしやアンタもモンスターなのカイ?」
琶紅
「・・・私はモンスターじゃない!」

琶紅が即座に後ろに振りかえり素早く刀を振る。その太刀筋は輝月を思い出させるものがあった。質が向上している。
刀がリズルハの腕をかすった。かすったリズルハの腕から黒い泡が吹き出したがすぐに元通りになった。
すぐにリズルハが反撃に乗り出し琶紅をタックルで突き飛ばす。キューが即座にリズルハの影を剣で突き刺そうとするがナイフを何本も前に投げキューの動きを制限する。剣でナイフを弾き飛ばした瞬間、
突然ナイフから黒い影が飛び出しキューを拘束する。そして機械に押しつぶされているかのような圧迫感に襲われる。
あまりの痛みに思わず悲鳴を上げるが肺が圧迫され声が出ない。琶紅とリズルハが激戦を繰り広げている。
救援は期待できそうにない。

その時、一本の矢がキューを巻きつけている影に刺さった。その瞬間、矢が白く光り出し
キューを巻きつけていた影が蒸発した。
圧迫から解放され、咳き込むキュー。

ミハイル
「間に合ったか!」
フィーゼ
「・・・対シャドー用にぴったりの協力技。」

ミハイルの放った矢にフィーゼが光属性を付与させシャドー族に対して絶大の威力を誇る矢にしていた。
激戦を繰り広げている琶紅とリズルハの間にシジューゼが割り込む。

シジューゼ
「おーらっしゃぁ!!」

得意の突撃で二人の間に距離を作らせる。リズルハがナイフをシジューゼに向けて投げつけるが
全力で走って回避する。

琶紅がリズルハから離れた瞬間、突然琶紅から凄まじい気迫を感じた。

琶紅
「必殺・・・!」
キュー
「・・・!合わせるよ!」

キューも剣を構える。
リズルハがその場から一旦離脱しようとするがミハイルが矢を乱射し放った矢にフィーゼが光属性を付与させる。
リズルハの足元に沢山の光属性が付与された矢が落ちる。ジャンプして攻撃を回避するリズルハだが
着地地点の近くにキューと琶紅が飛び出していた。
そしてリズルハが着地した瞬間、二人が目の前にいた。

琶紅
「一閃!!」
キュー
「一閃!!」


代々伝わる一閃と父から教えて貰った一閃。二つの一閃がリズルハに直撃しあまりの威力に
リズルハの体が三つにバラバラになる。
あまりの酷さに直視することが出来ない。

シジューゼ
「うっ・・・こいつはひでぇや・・・。見てられねぇ。」
フィーゼ
「・・・・・・・待って、終わってない!」

視線を逸らさずに最後まで見ていたフィーゼが珍しく叫ぶ。
バラバラになったはずのリズルハの体が黒い影となり、三つの黒い影がくっつき地面から
完全の姿で再びリズルハが現れた。

ミハイル
「あんな凄い攻撃を受けて無傷!?」
キュー
「忘れてた・・・影を攻撃しないと意味がないんだった・・・。」
ミハイル
「影?しかし、シャドーは影そのものだ・・!今二人が攻撃したのは・・・。」
リズルハ
「モチロン、アタシは影。二人が攻撃したのもきっと影なんだろうネェ?
でもアタシは『出来底のないシャドー』。沢山の不純物を含んじゃって完全なシャドーじゃないのサ。
普通のシャドー族が受ける制約をアタシは受けないのサ。・・・アタシの体は影じゃない。」
キュー
「リズルハの影を狙って!」
シジューゼ
「えーっと、今までのシャドーは本体そのものが影だからそのまま攻撃していればよかったんだよな・・・?
で、この場合リズルハの影を狙わなければいけないってことだから・・・えーっと、なんだ?どこ攻撃すればいいんだっけ?」
フィーゼ
「・・・リズルハがごく普通の人間だと思ってごく普通に影踏みみたいに影を攻撃すればいいよ。」

のんきに二人が会話している間に琶紅とキューが再び前に飛び出しリズルハを抑えつけようとしていた。
二人の猛攻に流石のリズルハも防戦一方だ。そこにシジューゼがゆっくり近づき、リズルハの影を突き刺そうとする。
ところがリズルハの影が本体とは全く違う動きをし始め、シジューゼの剣を避けると、剣に巻き付き凄まじい力で
へし折ってしまった。

シジューゼ
「あぁぁ!!俺のロングソードが!!ちくしょう!!」

フィーゼがポケットから短剣を取り出しリズルハを突き刺す。・・・が、頭に血が上ってしまい
影ではなく本体を攻撃してしまった。ぽっかりリズルハの体に穴が空いたがすぐに元通りになり
リズルハが後ろ蹴りをシジューゼに浴びせる。


ミハイル
「そうだ、フィーゼ君!一か八かに賭けてみよう!」
フィーゼ
「・・・何を?」
ミハイル
「フィーゼ君、君の魔法と知識を少し貸してくれ!」

そういうとミハイルはフィーゼの腕を引っ張って何処かに連れて行ってしまった。

リズルハ
「ちっ!どいつもこいつもちょこまかト!!」
琶紅
「・・・!危ない、キューさん!」

リズルハがナイフを大量に投げつける。・・・どこからそんなナイフがあるのかと思いきやナイフが黒い。
どうやら影で出来たナイフのようだ。琶紅がキューを突き飛ばし自らが身代わりになる。

琶紅
「うぅぅっ!!!」
キュー
「琶紅!・・・って心配してみたけど死なないんだよね。今のうちに逃げようっと。」
琶紅
「ああああああ!!!!非情!!!」


琶紅に突き刺さったナイフが爆発し黒い爆風が巻き起こる。
キューが逃げた先に琶紅が吹っ飛んできた。

キュー
「わっ!」

吹っ飛んできた琶紅を避ける。そのまま転がり続け瓦礫にぶつかる。

琶紅
「ギャッ!酷い!!」
シジューゼ
「だ、大丈夫か?」

たまたま近くに居たシジューゼが琶紅の事を心配する。

琶紅
「キューさんのチームについに優しい人が現れた・・うぅぅ。」

琶紅がすぐに起き上がり再び戦線に戻る。

シジューゼ
「・・・俺より年下に見える女の子があんなにダメージを受けても戦線に立っている・・・。
・・・年上で男である俺がもっと頑張らないと!!うおおおお!!」

シジューゼの士気が急上昇し、前に飛び出す。そのまま姿勢を低くしてリズルハに接近する。
それに気付いたリズルハがナイフを前に投げて迎撃するが琶紅が叩き落とす。
そしてリズルハの目の前に辿りつくと一気に剣を前に突き出し、そのままえぐるようにして剣を上に斬り上げ
高くジャンプする。

シジューゼ
「うおぉぉぉぉおおお!!」
リズルハ
「ふんっ!アタイが教えてやった技じゃんか。下手だネェ?」
シジューゼ
「まだだ!!」
リズルハ
「・・・!?」

高くジャンプして終わりかと思いきや、もう一度剣を振り下げ2撃目を繰り出す。

シジューゼ
「派生・ジャンプ斬り!!!」

リズルハを頭から剣で斬り降ろす。
一旦リズルハの体がバラバラになり、影になって地面に潜りシジューゼから距離を離す。
体勢を整えるつもりだ。

キュー
「逃がさないよ!」

キューがすぐに接近しリズルハの黒い影を剣で突き刺す。突き刺した瞬間、地面からリズルハの悲痛の声が上がった。
すぐに琶紅とシジューゼも便乗して影に剣と刀を突き刺す。シジューゼに到ってはグリグリとえぐっている。
影から黒い泡が噴き上がる。
このままえぐっていれば勝てる、そう思った瞬間。黒い泡が突然大きく膨れ上がり破裂して三人を吹き飛ばした。

シジューゼ
「ぐあっ!?」

影から再びリズルハが現れた。・・・悲痛の声を上げていたがダメージを受けたようには見えない。

琶紅
「ダメージが入っていない!?」
リズルハ
「へぇ〜?これがあのタキシードを着た男から貰った力か。フーン、確かに、影を攻撃されても何ともないなら
アタシは一生死ななそうだねぇ。」
キュー
「作者から力を貰った・・・!?」

・・・厄介なことになった。
初めてリズルハと戦った時、シャドー族と分りフィーゼの助言もあって影を攻撃して何とか勝利することができた。
・・・しかし実体は勿論、影を攻撃してもダメとなると一体どこを攻撃すればいい?

三人がじわじわと後ずさりする。

リズルハ
「ククク?急にアタイが無敵だと知った瞬間、恐ろしくなったのカイ?」
シジューゼ
「無敵は反則だ・・・。」
キュー
「すぐ私の近くに無敵がもう一人いるけど・・・。」
琶紅
「反則でごめんなさい。」

リズルハ
「その二人をまずバラバラに斬った後に、アタイと赤髪のお前と永遠に戦い続けようカイ?」
琶紅
「キューさんをバラバラにさせません!!」
シジューゼ
「(俺の名前がない・・・・)」

しかし、いよいよ手段がなくなってきた。一撃にかけることもできない。

リズルハ
「アンタが疲れるまでアタイは戦い続けてやるサ。疲れたその時、アンタはここで死ぬ。」

リズルハがまた前に飛び出してきた。キューを切り刻もうとするが琶紅がキューの前に立って身代わりになる。
刀で攻撃を防ぐがやはり完全に防ぎきれていない。疲れ知らずのリズルハを抑えつける方法が見当たらない。

シジューゼ
「キューさん!!どうする!?」
キュー
「・・・影を攻撃した時、リズルハは痛みを感じた・・・。・・・こうなったら痛みで屈服させる!!」

無理難題とも思える攻撃方法。しかし逃がしてくれないなら今はそれしかない。
再び影を狙って攻撃するが、そもそも影に攻撃が命中する事事態レアケースだ。
リズルハの影は実体と違って時々全くちがう動きを見せ、それどころか影が浮き上がって直接殴ってきたりする。

シジューゼ
「喰らえ!!」

シジューゼがリズルハに教わった必殺技を再び繰り出す。ところが。

リズルハ
「二度も通用しない!」
シジューゼ
「っっ!!!?」

シジューゼの胸にリズルハの双剣が刺さった。

キュー
「シジューゼさん!!」
琶紅
「あれ、私がやられた時その台詞言ってもらえなかった・・・・。」


双剣が引き抜かれ、思いっきり蹴り飛ばされる。トドメと言わんばかりにリズルハが追い打ちをかけようとするが
即座にキューと琶紅が阻止する。

リズルハ
「まずは一人。」
キュー
「うぅぅっ!!」

キューが凄む。・・・ルイの魔法によって石化してしまった自分を助けてくれた恩人。
その恩人がやられるとやはり怒りがわき上がってくる。

キュー
「とりゃあぁぁぁっっっ!!!」
リズルハ
「!?」

キューが渾身の力を込めてリズルハの双剣を叩き飛ばす。リズルハが後ろによろめいた。






ミハイル
「いまだ!!!!!」
フィーゼ
「シャドウスティッチ。」


ミハイルの放った矢が赤黒く光る。




遥か彼方からミハイルの放った矢が飛んできた。
そして矢はリズルハの影に突き刺さった。


リズルハ
「っ!!・・・何か特殊な矢を放ったようだけど、アタイは死なない!!」

リズルハが再び動き出そうとしたその時、異変が現れた。

キュー
「・・・・?」
リズルハ
「・・・っ!?・・・!!!」

リズルハが一生懸命体を動かそうとしている。しかし足が動かない。

リズルハ
「・・・どういうことさ!!!」
キュー
「あれは・・一体何の魔法・・・?」
リズルハ
「クソ、動け!!アタイの体一体どうなっちまったんサ!!」

リズルハが一生懸命動こうとするが体が動かない。影に影響のない行動はできるようだが・・。(喋る等
その時、ミハイルとフィーゼがやってきた。

ミハイル
「よかった、命中したみたいだ。」
リズルハ
「アンタ、一体アタイに何をしたのサ!!」
フィーゼ
「・・・ミハイルさんが放った矢にシャドウスティッチを付与させた。
・・・対象の影を射止めて 身動きがとれないようにする技。」
リズルハ
「そんな技・・・!!」

リズルハがさっきから体を動かそうとするがやはり動かない。

フィーゼ
「・・・リズルハさん。・・・一体貴方はこの村に何の用事があったんですか?」
キュー
「・・・この村に用事があると言ってたね・・?」

フィーゼとキューがリズルハに問いかける。
その間に琶紅とミハイルがシジューゼの容態を確認する。

リズルハ
「・・・・・・・・。」
フィーゼ
「リズルハさん。・・・残念だけどシャドウスティッチはシャドウ族にとって天敵のような魔法。
普通の人間だったら効果は長く続かないけどシャドウ族は抜いてもらわない限り永遠に動けないよ。」
キュー
「だってさ。話してよ。」
リズルハ
「・・・・・・フン!」

話す気はないらしい。

フィーゼ
「・・・・・。・・・リズルハさん。・・・空が見えますか?・・・晴れてますよ。」
リズルハ
「・・・・!?な、ナンデだ・・?何でここシャドー族の村で晴れてるんダ・・!?」
キュー
「・・・どういうこと?」
フィーゼ
「シャドー族の村には代々伝わる秘宝があるって言い伝えがあったんだけど・・・。
それがキューさんが探していた誕生石。・・・ムーンストーン。
そのムーンストーンの力を借りてシャドー族の村に暗雲を強制的に作り出していた。
・・・リズルハとは違って本当のシャドーは日の光を浴びた瞬間。自身が影で出来ているから消滅しちゃうんだ。」
キュー
「・・・だからあの時・・・沢山いたシャドーが消滅しちゃったんだ・・・。」
リズルハ
「・・・・そんな話、アタイは知らない!!」
フィーゼ
「・・・おかしい。何でシャドー族である当の本人が知らないんだろう・・・。有名な話なのに。」
リズルハ
「っ・・・!」

今の言葉にリズルハが反応した。キューがこれまで知った情報をまとめて色々問いつめる。

キュー
「・・・リズルハ。・・・『出来底のない不完全なシャドー族』って自分で言ってたけど
フィーゼ君が話した事を知らない理由ってリズルハが出来底のない不完全なシャドーと何か関係があるんじゃないの?」
リズルハ
「どうしてそう思うのサ。」
キュー
「・・・リズルハは『迫害』って言葉に凄く敏感だった。ドリームファクターの時からずっと思っていたけど
迫害される者に対して凄く気持ちが敏感になっていたよね。・・・リズルハが不完全なシャドーだったから
同族のシャドーから迫害されてその気持ちがよくわかるから『迫害』っという言葉に敏感だったんじゃないの?」
リズルハ
「所詮推測!」
フィーゼ
「・・・普通、シャドー族は自分の村から絶対に離れたりしない。だけどリズルハは最初トラバチェスで会った。
・・・追放されたってのが分る。」
リズルハ
「・・・・・。」
フィーゼ
「追放された理由って何?不完全なシャドー族だったから?」
リズルハ
「・・・あの誕生石を盗もうとしたのサ。」
キュー
「何で?」
リズルハ
「・・・あのタキシードを着た男から言われたのさ・・!あの誕生石を渡せば力をくれるってね。」
キュー
「・・・あの人が?自分で手に入れられそうなのに・・・。」

作者にしては随分と煩わしい手段だ。何故リズルハに頼んだのだろうか。

リズルハ
「・・・シャドー族じゃなければ引っこ抜けない代物らしい、あの誕生石は。」
フィーゼ
「・・・・・・力を手に入れてどうしたかったの?」
リズルハ
「アタイを迫害しようとする者を皆殺しにしたかった!
・・・不完全なシャドーとして嘲笑った同族。そして元はハイアカンにあったアタイの村を
レコルダブルにおいやったドリームファクターの住民共を!!」
キュー
「・・・やっぱり自分を迫害しようとする者が許せなかったんだ・・・。」
リズルハ
「同族はアタイが不完全だと知って罵り、迫害し、何一つ教えてくれなかったサ。」
フィーゼ
「シャドー族全員を殺したかったの?」
リズルハ
「・・・違ウ。・・・確かにアタイを迫害しようとする者は多かった。だけど全員が全員じゃなかったサ。
・・・アタイを理解してくれるシャドーの何体かが追われし街からの狩人によって殺されちまったガ・・・。
・・・まさか・・シャドー族の村が晴れちまうなんてネェ。結局皆殺しにしちまったネ。」
フィーゼ
「・・・・・・もう一個気になる事がある。トラバチェスで会った時、何故・・ついていこうと思った?」
リズルハ
「あんたからシャドー族の村に向かうという事を知ったからサ。シャドー族に向かうということは
追われし街の住民共みたいにアタイ等の物資を狙って売り飛ばすのが目的だと最初は思ったのサ。
途中、誕生石に用があるってのが分ったけどどの道、アタイの村でドンパチやることになる。
村が騒ぎになっている間にこっそり再び忍び込んで誕生石を盗もうと思ったのサ。」
キュー
「アタシ達を囮にする予定だったんだ。一応成功したみたいだけど・・・。」
フィーゼ
「・・・誕生石を盗み、タキシードを着た者から力を貰った。これからアタイを迫害した同族、
ドリームファクターの住民。・・・そしてドリームファクターの住民を迫害させる切っ掛けを作った
ファンの仲間であるアンタ。皆殺しにしてやろうと思ったのに。・・・アタイはここからもう動けないんだナ・・・。」

フィーゼとキューが顔を見合わせる。

キュー
「・・・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」

お互いかなり複雑な心境だと言う事が読み取られる。


リズルハから未だに矢を引き抜けばすぐにでもそれを実行しようという意欲が感じられる。


キュー
「・・・リズルハ。」
リズルハ
「・・・何?」
キュー
「リズルハが誕生石を渡した相手はこのアノマラド大陸を滅茶苦茶にしようとしてる人だよ。
・・・極端な事を言えば、アノマラド大陸の住民全てを迫害しようとしている。」
リズルハ
「・・・・違う。」
キュー
「・・・・え?」
リズルハ
「・・・あのタキシードを着た者の目的はそんな事じゃなかったサ。
アタイはあの男の目的を知っている。
・・・あの者の目的はアンタを・・」

その時、リズルハの体が粉々に砕け散った。

キュー
「!!!!」
フィーゼ
「!!?」

すぐ目の前に作者が現れた。

作者
「なんという事だ。危うく貴様が私の目的を口走ろうとした。そんな事は許してはおけん。」
キュー
「作者!!!」
作者
「やはりキュー。お前はここで死ぬような人間じゃなかったな?流石キュピルの娘。実に流石だ。」
キュー
「作者ああぁぁぁぁーーー!!!」

キューが吶喊(とっかん)する。
一瞬の間にキューと作者の間合いが短くなりキューが剣を前に突き出す。
しかし作者が前に手を突き出すとそれを手のひらで受け止めてしまった。

作者
「キュー。・・・早く私を楽しませてくれるような存在になれ。キュピルのようにな。ククク・・・。」

それだけ言うと作者は再び消えてしまった。

その場に残ったのは何もない。
リズルハの死体は残らず、他のシャドー族のように一瞬宙に浮かびそのまま弾けて消えて行ってしまった。

フィーゼ
「・・・・。・・・リズルハは不完全なシャドー族じゃなかった。・・・シャドー族じゃなければ手に入れられない誕生石を
手に入れ、そしてシャドー族と同じ死に方をした。」




シジューゼ
「うっ・・・ここは・・・?」
琶紅
「あ、よかった・・・!気付いた!」
シジューゼ
「あいってててて・・・!!!何か体が滅茶苦茶いてぇ・・・。・・・そうだ、キューさんは・・・!?」

シジューゼが二人を押しのけて起き上がる。


・・・キューが両膝を地面について空に向かって泣き叫んでいた。
ただその姿をシジューゼは立ったまま視線をそらさずにずっと見続けていた。














ゴーグルを着けた爺さん
「へぇ、あのシャドー族の村を壊滅させるなんて恐れ入ったよ。ほら、こいつは報酬金だ。」

そういうとゴーグルをつけた爺さんはシジューゼに札束が沢山入った袋を渡す。
・・・およそ1MSeedある。
シャドー族の村を壊滅させたことによって殆どの依頼を達成してしまったからだ。
その袋を持ってシジューゼはミハイルの元に移動する。

シジューゼ
「約束だ、ほら。500KSeedだ。」

シジューゼが500KSeed渡す。

ミハイル
「僕は・・ただ君達の援護しかしてないのにこんなに貰っていいのかい?」
シジューゼ
「・・・いいんだ。もっと言えばこのお金は受け取りたくない。・・・キューさんもそう言っている。
だけど俺達は冒険家だ。やっぱりお金は必要になる。・・・とにかくその半分は貰ってくれ。トドメは
お前が刺したようなものだしな。」
ミハイル
「君の弟君の魔法がなければ僕の放った矢はただの矢だった。弟君に改めて感謝するよ。」

今ここにフィーゼはいないがミハイルがお辞儀をする。

ミハイル
「君はこれから何処に行くんだい?」
シジューゼ
「サンスルリアの最北東にある岬に行く。」
ミハイル
「サンスルリアの最北東にある岬・・・。・・・ここから500Km以上も離れている場所じゃないか!」
シジューゼ
「ああ。・・・しかも道中必滅の地の領域を通らなければいけない。
下手すれば半年はかかるかもしれないな・・。」
ミハイル
「それは大変だ・・・・。」
シジューゼ
「ミハイルはどうするんだ?」
ミハイル
「私は産まれがドリームファクターなものだからこのままここに残っていつか帰れる日を待つよ。
お金もたくさんあるからね。」
シジューゼ
「そうか。・・・短い付き合いだったけど君に出会えてよかったよ。これが冒険の醍醐味だな。」
ミハイル
「そうだね。じゃ・・またどこかで会えたらよろしくね。」
シジューゼ
「こちらこそだ。」

そういうと二人は握手し、シジューゼはクエストショップを後にした。





追われし街の出口に三人、人が立っていた。


フィーゼ、キュー。・・・そして新たに加わったメンバーの一人、琶紅

シジューゼ
「キューさん!お待たせしました!」
キュー
「うん。・・・そいじゃ、サンスルリアの最北東にある岬目指して頑張ろっか!」
シジューゼ
「はい。」
琶紅
「は〜い!!」
フィーゼ
「・・・・・・。」

こうして、四人は追われし街を後にし、サンスルリア目指して出発した。









絶滅してしまったシャドー族。


今、シャドー族の村では二本の双剣と棒きれを組み合わせて作ったリズルハを模った影があった。





続く




オマケ


シジューゼ
「・・・・・・。」
キュー
「・・・ところで、シジューゼさん。」
シジューゼ
「ん?どうかしました?」
キュー
「・・・ちょっとシジューゼさん。一皮むけてきたね。修羅場超えてきてすっごく冒険者らしくなってきたよ。
顔つきがカッコよくなってきた。」

それを聞いてシジューゼが一瞬固まる。
そして次の瞬間、黙って後ろで大きなガッツポーズを取った。

琶紅
「キューさん。私は?私はどう?10年間、頑張って来たんだよ?ねーねー?」
キュー
「なんか苛めたくなってきた!!!」
琶紅
「は、迫害だーーー!!!」

キュー
「次のキャンプで私のいなかった10年間で何があったのか洗いざらい話してもらうからね!!」




第十七話



シジューゼ
「これでも喰らえ!」

シジューゼが短剣を前に突き出しシルクレンサーの武器を叩き落とそうとする。
ところが逆に長い半月槍で思いっきり叩き落とされてしまった。

シジューゼ
「うわっ!!?」

シジューゼの短剣が後ろに高く吹き飛ぶ。
その直後、シジューゼを飛び越すように琶紅が高くジャンプし空中で吹き飛ばされた短剣を手に取る。

琶紅
「喰らえー!」

琶紅が短剣を前に投げつける。しかしシルクレンサーが再び半月槍で弾く。
が、弾いたことに寄って生まれた隙をすかさず琶紅が追撃をかけてきた。

琶紅
「一閃!!」

着地と同時に刀で強烈な一閃を繰り出す。
シルクレンサーに直撃した瞬間、風化して消えてなくなってしまった。

琶紅
「どうです?どうです?私も強くなりましたよ!!」
キュー
「本当だ・・・あの琶紅がここまで強くなってる・・・。」
シジューゼ
「昔はどのくらいの実力だったんですか?」

シジューゼが琶紅から短剣を受け取りながら答える。

キュー
「んー、今のシジューゼさんと同じぐらい?」
シジューゼ
「まじか・・・。ってことは俺も修練積めば琶紅さんぐらい強くなれるのか?」
キュー
「うーん・・・。センスの問題。でも琶紅は戦いのセンスがボロボロだったのに・・・。」
琶紅
「し、失礼なー!!」
キュー
「輝月の持っていたセンスがやっと開花したのかな?」
シジューゼ
「輝月?」
キュー
「身内話だから気にしないで。」
フィーゼ
「・・・・ん。」

フィーゼが何かに気付いたようだ。

フィーゼ
「・・・厚い雲。」
琶紅
「・・・あ、本当だ。」

これから進む道に厚い雲で覆われている。恐らく向こうは今頃雨が降っているだろう。」

シジューゼ
「風向きを考えると・・・これからこっちに南下してくるな。」
キュー
「じゃー、今日はここにテントをしっかり張って休もうか。昨日の疲れもちょっとだけ残ってるし。」
シジューゼ
「了解です。フィーゼ、テント張るぞ。」
フィーゼ
「・・・。」

フィーゼが本にしおりを挟むとテント張りを手伝い始める。初めのころは全くテントが張れなかったフィーゼだが
今は少しだけ手伝えるレベルまで上昇している。やはり何事も経験なのだろうか。

琶紅
「こうやってまたキューさんと一緒に生活出来るなんて夢みたいです・・・。」
キュー
「夢だったりして。」
琶紅
「嫌な事言わないでください!!本当に夢だったらどうするんですか!」
キュー
「目が覚めたらお父さんもジェスターもルイも輝月も皆居てクエストショップがあったらどうする?」
琶紅
「あ・・・。・・・それだったら醒めて欲しいです・・・。」
キュー
「過去に満足して今に満足していないなんて人生失格!!!退場!!」
琶紅
「ああああああああ!!!!」



シジューゼ
「・・・あの二人は昔からああだったのか?」
フィーゼ
「だと思うよ。」
シジューゼ
「キューさんに初めて会った頃。可愛くて大人しい大人の人だと思っていたけど思ったよりヤンチャだったんだなぁ。」
琶紅
「・・・はっ、何キューさんをジロジロ見てるんですかー!!」
シジューゼ
「み、見てない見てない!!」
フィーゼ
「(見てる・・・)」

シジューゼとフィーゼがテントを張っている間にキューが大陸地図を開く。





レコルダブル、シャドー族の村にあった誕生石は作者に取られてしまった。
残る場所はレンムとケルティカ。そして必滅の地とサンスルリアの最北東・・・。


琶紅
「あ、その地図・・・!!」

琶紅が地図を覗き見る。

琶紅
「キューさんのアジトに置いて来た地図じゃないですか!」
キュー
「うん。一回アジトに戻って地図とか道具とか色々持って来たんだよ。」
琶紅
「最近アジトに戻ってないから何だかホームシックになってきた・・・。ぐすん・・。」
キュー
「・・・アジト。襲撃された跡があったよ。」
琶紅
「えっ!?」

琶紅が驚いた表情でこっちを見る。

琶紅
「しゅ、襲撃って!?」
キュー
「その様子だと知らないみたいだね・・・。
・・・多分W・L・C隊とかだと思うんだけど・・・荒らされた跡が残ってたし
その時琶紅もファンもいなかったからやられたのかと思った・・・。」
琶紅
「・・・キューさんが居なくなってから一カ月ぐらいずっと探し続けていたんですけど・・・ファンさんがキューさんの
後を継ぐという事でアノマラド大陸東部へと向かったんですけど・・・。」
キュー
「向かったんだけど?」
琶紅
「・・・・・・・・。」

琶紅が顔を逸らす。その時、何かあったのだろうか。

キュー
「・・・ん?」

・・・雨が降ってきた。

シジューゼ
「うおー!雨が降って来たぞー!フィーゼ!そっちの杭はもう打ったか!?」
フィーゼ
「打った。」
シジューゼ
「後はテントの骨をこうやって・・・。」

シジューゼがテキパキとテントを組み立てていく。そして

シジューゼ
「よし!キューさん!琶紅さん!出来ましたよ!」
キュー
「琶紅。話しの続き、テントの中で聞かせて。」
琶紅
「・・・はい。」






==テント





今までは三人だけでこのテントの中で過ごしていたが(リズルハがいた時はフィーゼの影に同化していた)
琶紅が加わったためテントの中が少し狭く感じられる。

キュー
「荷物置いて全員横になってもまだ寝返りできる感じかな?」
フィーゼ
「・・・これ以上仲間が増えると溢れそう。」
シジューゼ
「まだ二人ぐらいは入るんじゃないのか?二人入ったら横になれなくなるかもしれないけどな・・・。」

キューが琶紅に向き直る。

キュー
「さっきの話しの続き。聞かせて。ファンがアノマラド東部に向かった後琶紅はどうしたの?」

シジューゼとフィーゼも聞き耳を立てる。

琶紅
「・・・どうしてもキューさんの捜索を打ち切るのが諦められなくて・・・。私はアノマラド大陸西部に残りました。」
キュー
「え?・・・ってことはファンは一人でアノマラド東部に行ったってこと?」
琶紅
「そうです・・。勿論行く前にギーンさんとは相談しましたよ。」

確かシジューゼ達と一緒にトラバチェスに向かった時、ギーンも9年前に琶紅とファンが訪れたとは言っていた。

琶紅
「相談した結果、ファンさんはギーンさんからいくつかの装備を借りて一人で大陸東部に向かいました。」
キュー
「琶紅は?」
琶紅
「・・・私は・・一人西部に残ってキューさんのアジトを拠点にして再び捜索しようとしたその時に・・・。
ルイさんが突然アジトに戻ってきて・・・。」

ルイ。すっかりルイの事を忘れていた。

キュー
「そうだ!!ルイ!!ねぇ、琶紅!私が居なくなってからルイには会った!?」
琶紅
「・・実は、キューさんが居なくなった時同時にルイさんも居なくなって・・・。
二人してどこかに消えてしまっただけに突然あの時、ルイさんが戻ってきてビックリしました。
ルイさんの手には三月の誕生石、アクアマリンを持っていまして・・・ちょうど海にあるあの誕生石です。」
キュー
「あぁ・・・。」

・・・嫌な記憶が蘇る。

キュー
「琶紅、ルイは・・・。」
琶紅
「分っています。・・・暫くの間、アクアマリンの事について調べていたんですけど・・・。
ある日突然キューさんが大事に持っていた宝石箱もろとも突然消えて・・・他にも今までの出来事を記録した書類が
消えてしまったり!凄く不思議に思ってたんですが・・・・ある時、
ファンさんが十一月の誕生石、カラーレストパーズを手に入れたっていう話もルイさんから聞いて・・。
その後・・・・。」
キュー
「・・・その後?」
琶紅
「ルイさんがいきなり銃で・・・頭を・・撃って・・・。」

琶紅が手のひらで自分の頭を摩る。

シジューゼ
「あ、頭を撃たれた!?なのに生きているのか!?」
琶紅
「私、どんな怪我を負っても絶対に死なない上に歳も取らないんです。
こう見えても実は165歳なんですよ!」
シジューゼ
「うちの婆さん以上か・・・。」
フィーゼ
「・・・お婆さん。」
琶紅
「お婆さん言わない!!!」

キュー
「ま、まーまー。それを言ったらアタシももう何歳になっちゃうのかな?きっと60歳は過ぎてるよ。」
シジューゼ
「いぃぃっ!!?そ、そうなのか!?」
キュー
「私も訳あってちょっと年齢止めてた時期あったから。若さは大事〜。」
シジューゼ
「ああぁ・・世の中って凄いんだな・・・。」
フィーゼ
「・・・・・・。」

フィーゼが凄く小さな声で「羨ましい」っと呟いたようにも聞こえたがあえてそれ以上聞かないでおいた。

キュー
「それで・・・。頭撃たれてどうしたの?その時死ななかったんだよね?」
琶紅
「はい。・・・ただ、その時。撃たれたショックだったのかそれとも何か魔法でもかけられてたのか
分らないんですけど・・・気を失ってしまって・・・。次に目が覚めたらオルランヌに居ました・・・。」
キュー
「オルランヌ?何で?」
琶紅
「私も分りません!目が覚めたらポケットに手紙が一枚入っていましたから
誰かが助けてくれたのかもしれませんけど・・。」
キュー
「手紙?」
シジューゼ
「フィーゼ、オルランヌってどういう国なんだ?」
フィーゼ
「・・・魔法大国。」
シジューゼ
「魔法か・・・。偉大なる魔術師が琶紅さんを救ってあげたとか?」
キュー
「流石にそれはない。」


キューがビシッと言う。シジューゼが項垂れる。

キュー
「その手紙って今もある?」
琶紅
「あります!あります!」

琶紅が小さな袋から手紙を一通渡す。・・・大分くしゃくしゃになっている。
手紙の内容に目を通す。



『琶紅へ

お久しぶりです。大丈夫ですか?
一杯お話したいけれど手早く送らないと見つかりそうなので省略します。。
キューさんが復帰するのに時間がかかりそうなので変わりに誕生石を集めてください。
ファンが頑張って誕生石を集めているみたいだけど限界があります。
作者がもうすぐ復活します。それまでに早く誕生石を集めてください。

                                   お元気で』



・・・・どこかで見た事のある文面。・・・確か・・・。


キュー
「・・・あ!!これガーネットを送ってきた人と同一人物じゃないの!?」
琶紅
「やっぱりキューさんもそう思います?」
キュー
「絶対そうだよ!でも何でアタシとファン、そして琶紅の状況が分ったんだろう・・・。
それに琶紅のポケットの中に手紙が入っていたんだよね?ってことは琶紅が気を失っている間に
一度あったことになるのかな?」
琶紅
「多分そうだと思います。・・・何故だか分らないけどその手紙に従ったほうがいいって思って・・・。
仲間を集めて誕生石を集める旅に私も出ました。それが9年前の出来事です。」
フィーゼ
「・・・要約してみた。」

フィーゼが紙を前に差し出す。

・ファンと琶紅が別行動して誕生石を集める旅に出た。
・ルイという人物に裏切られた。

キュー
「うん、大体合ってる。旅に出た後何かあった?」
琶紅
「・・・キューさんに合うまでずーーーーーっと誕生石を探す旅に出てました。
その間、色々な事がありましたけどキューさんと関わりそうな出来事はあと一つだけです。
これを受け取ってください。」

琶紅が再び小さな袋から何か取り出してきた。
オリーブグリーン色の鉱石・・・。八月の誕生石、ペリドットである。

キュー
「あ!誕生石!」
シジューゼ
「何だって!?」
フィーゼ
「・・・・・見たい。」

今までキーアイテムとされていた誕生石。初めてそれを見たシジューゼとフィーゼが食い付いた。

琶紅
「キューさん。私が手に入れたペリドットの誕生石の意味は運命の絆だそうです。
・・・何だか偶然じゃない気がしますよね。」
キュー
「・・・・・。」
琶紅
「・・・運命の絆。・・・私が最も不思議に思うのはいつもキュピルさんとキューさんの周りにはたくさんの
仲間がいるって事なんですよね。私も勿論、キューさんの魅力に魅かれて付いてっています。
シジューゼさんとフィーゼさんもきっとそうなんですよね?」
シジューゼ
「お、おう。」
フィーゼ
「・・・うん。」


こうやって振り返ってみると、今回の一連の出来事には様々な人物が関わってきた。


それこそ、琶紅とキューがまだキュピルの所に来る以前から始まった今回の事件。



キュー
「・・・長く続いたけど。もうすぐ終わるよ。きっと。」
琶紅
「キューさん。もしもですよ。もしも作者を倒して・・・全てが終わったら。
キューさんはその後どうします?」
キュー
「え?・・・う〜ん。・・・・もしかしたら旅に出るかもね。」
シジューゼ
「旅ですか?何処に旅するのですか?レンム地方とかですか?」
キュー
「ううん。きっとアノマラド大陸の外。・・・沢山の思い出があるけどきっと多分戻って来ないかな。」


・・・それはそれで少し寂しい気もするけど。
まぁ、当分先の話しではある。

キュー
「もう一回地図を確認するよ。」




キュー
「レンム地方頭部にある誕生石は琶紅が手に入れたんだよね?」
琶紅
「はい!」
キュー
「ケルティカの誕生石は多分ギーンがきっと何とかしてくれてると思う。
・・・ってことは残りは必滅の地の誕生石とサンスルリアの誕生石だけ。
必滅の地は最後に回そう。サンスルリアの誕生石から先に手に入れるよ。」
シジューゼ
「了解。」
琶紅
「・・・キューさん。」
キュー
「ん?」
琶紅
「・・・誕生石。殆どルイさんとか作者とかに持ってかれていますけど・・・どうします・・?」
キュー
「・・・うーん。・・・いつかの時みたいに無茶できないかな?」
フィーゼ
「・・・無茶?」
琶紅
「あんな無茶はやめてください!」
キュー
「幽霊刀さえあればなぁ〜・・・。・・・ん?」

段々外の風が強くなっている事に気がついた。

キュー
「シジューゼさん。外の風が強くなってきてる。杭しっかり打ってあるよね?」
シジューゼ
「・・・念のため確認してきます。」
キュー
「私も確認するよ。」

そういってテントの外に出るためジッパーを降ろすと・・・。














シジューゼ+キュー
「なんじゃこりゃあああぁぁぁっっっーーーー!!?」





外は猛吹雪になっており白銀の世界に覆われていた。

シジューゼ
「ふ、吹雪じゃないか!!さっきまで普通に晴れていて・・・雪も何も・・・!?」
キュー
「とりあえず支えをもう一本増やしたほうがいいかもしれない。テキパキ動こう!」

シジューゼとキューがもう一本杭と紐を持ってテントの骨組みを支え始める。

琶紅
「わっ・・・凄い雪・・・。」
フィーゼ
「・・・・・そっか、ここは山脈の間。」
琶紅
「山脈の間?」
フィーゼ
「・・・最も天候移りが激しい場所。サンスルリアとレコルダブルの間に大きな山脈があって
大陸の中で最も天候の移り変わりが激しい場所。時々レンムから風が冷たい風が吹いて雪になる時がある。
ある時は必滅の地から砂嵐が吹いてくる時も。その時は日照りが厳しい。」
琶紅
「キューさんに出会う前までは魔術師のテレポートのお陰で楽に移動できていたけど・・・
こんな道通らないといけないなんて・・・」

その時、テントの中に冷たい風が入り雪が沢山入る。

琶紅
「ギャァッー!!」
フィーゼ
「兄さん、作業はまだかかりそう?」

シジューゼ
「もう終わる!キューさん、そっちは?」
キュー
「もう終わるよー!」

二人とも補強を終えすぐにテントの中に入る。・・・極寒の寒さだった。

シジューゼ
「ふぅ・・・。一体何なんだ、ありゃ。」
キュー
「・・・サンスルリアに向かうのにかなり苦労しそうだね・・・。フィーゼ君。ここから先どういう道通るの?」
フィーゼ
「レコルダブルとサンスルリアの関係はあんまりよくなくて道は一切整備されていない。
・・・だから山脈を通るしかないけど山脈を通るには激しい天候の移り変わりに耐えないといけない。」
シジューゼ
「恐ろしい場所だな・・・。」
フィーゼ
「それだけじゃないよ。・・・最近必滅の地の広がりもあって道中、必滅の地のモンスターに襲われる可能性も
凄く高い。・・・足元も棘のような地面ばっかりで崖登りに匹敵する道もある。
・・・そこで飛行型モンスターに襲われたら全滅は免れないかも。」
琶紅
「大丈夫、私は死なないよ〜。」

一秒後、キューにボコボコにされた。

琶紅
「ぐすん・・・・。殴らなくてもいいのに!!」
キュー
「天誅!!・・・それでフィーゼ君。現状その山脈をアタシ達だけで超えられると思う?」

しばらくフィーゼが考え・・・そして。


フィーゼ
「・・・20%ぐらいかな。残り八割はただじゃすまないかも。」
キュー
「・・・あ〜もう〜!一体どうすればいいの!!」
琶紅
「テレポートが使えれば・・・。・・・キューさん確か幽霊刀を封印されてしまって・・、
力が殆ど消えてしまったんでしたっけ・・?」
キュー
「うん。歩いている時に話した通りだよ。」
シジューゼ
「カクカクしかじかに匹敵するな。」

琶紅
「えっ?」
シジューゼ
「えっ?って・・・いや、えっもなにも・・・。」
琶紅
「えっ?」
シジューゼ
「わかった、俺が悪かったからそんな怖い目でこっちを見ないでくれ・・・。」
琶紅
「ふふふ・・・。」
キュー
「いい加減にしよう。」


キューが琶紅をあえてテントの隅に追いやって熟考しだす。
琶紅がギャーギャー騒ぐが無視する。

キュー
「・・・山脈を通らないでサンスルリアに行く方法はない?」
フィーゼ
「・・・あるけど必滅の地を通る必要が出てくる。」
キュー
「うーん・・・参ったね・・・。逆転の発想で先に必滅の地に行くっていう方法もあるけど・・・。
・・・必滅の地に行く時はアタシ達だけじゃなくてギーンとかもっとたくさんの仲間を連れて行きたい・・・。
どうすればいいかな・・・。」


琶紅
「テレポート!テレポート!」
フィーゼ
「・・・そんな凄い魔法。僕はまだ使えない。」
琶紅
「ミニテレポート!ミニテレポート!」
フィーゼ
「・・・5mだけ移動できるよ。」
琶紅
「短い!!」
シジューゼ
「5mだけテレポートして一体どうしろって言うんだ・・・。」

キュー
「テレポートは当然誰も出来ない・・・。」


琶紅
「ワープ!ワープ!」
シジューゼ
「ワープとテレポートって何がどう違うんだ?」
琶紅
「あ、それ私も気になる。」
フィーゼ
「・・・・・さぁ。」
琶紅
「えーー!」
フィーゼ
「・・・でもワープポイントとかきっとあるはず。サンスルリアの首都はサンスルー。
首都にならきっとあると思うけど・・・。」
琶紅
「あ!私サンスルーのワープポイントに登録してあるよ!」

キュー
「ワープポイント・・?」

シジューゼ
「そうか、ワープポイントか!それならクラドの名産品。神鳥の羽で移動しようぜ!
琶紅さんが行けるなら琶紅さんが使う時皆で手をつなげば・・・!」
フィーゼ
「・・・兄さん。神鳥の羽はアノマラド南西でしか使えないよ。」
シジューゼ
「うっ・・・ふ、不良品め〜・・。」
フィーゼ
「・・・自分の村の特産品を罵ってどうする。」

キュー
「・・・・・。」





キュー
「あああああああああああああ!!!!!!!!」





突然キューが大声をあげ全員びっくりする。

琶紅
「び、びっくりしたー!!どうしたんですかキューさん!」
キュー
「確かあれがあったはず!!!」

キューがガサゴソと鞄を漁る。そして。


キュー
「あった!!シルフの風!!


ギーンから貰ったアイテム。登録したワープポイントに何度でも行く事が出来る便利アイテム。
必滅の地を跨ぐワープは不可能だがここからならギリギリいけるはず・・・。

キュー
「琶紅、これ使ってサンスルーに行けないか試してみて。」
フィーゼ
「・・・試したらここには戻れなくなりますよ。」
キュー
「・・・あ、そうだった・・。」
フィーゼ
「・・・全員で手をつないで発動しないとサンスルーにいけない。」
キュー
「試すにしてもテントとか片付けないといけないね・・・。・・・大変だけど片付けよう!」
シジューゼ
「せ、せっかく二重に杭張ったのに!まぁ仕方ないか・・・。」


シジューゼとキューが外に飛び出し杭を外し始める。その間に琶紅とフィーゼがテント内の荷物を背負って外に飛び出す。

・・・10分後、テントは小さく丸められ骨組みも収納された。

キュー
「琶紅、使ってみて。」

琶紅とキューが手をつなぎ、キューとフィーゼが手をつなぎ、フィーゼとシジューゼが手をつなぐ。

シジューゼ
「・・・フィーゼ。俺と立ち位置交換してくれ・・・。」
フィーゼ
「時間ない。」


その一秒後、琶紅がシルフの風を使用しサンスルーに移動した。











==サンスルー





サンスルーのワープポイントに到着した。無事ワープしてこれた!

キュー
「やった!!危険な山脈を通らずに済んだ!!」

四人の肩や髪には雪が積もっている。エルティボから来たのかと勘違いされそうだ。

シジューゼ
「おお、ここがサンスルーか!」

なんといってもサンスルーについて最初に目につくのはすぐ目の前にある大きな大聖堂だろう。
とにかくサンスルーは宗教文化が根強くサンスルー生まれの住民全員が
毎日この大きな大聖堂でお祈りをしている。

時刻は午後8時。今日のお祈りの時間は既に終わっている。
夜とはいえ人目は多く酒場など今が一番賑わっている店もある。

キュー
「とりあえず宿取ろうか〜。」
シジューゼ
「そうですね。例の如く俺が宿探してきます。」

そういうとシジューゼが宿を探しに走り始めた。

キュー
「・・・ちょっと大聖堂覗いてきていい?」
琶紅
「あ、私も!」
フィーゼ
「・・・サンスルリア生まれ以外の人が大聖堂に入る時はある条件を満たさないと入れない。」
キュー
「ある条件?」
フィーゼ
「一つ、サンスルリアの宗教を深く信仰している事。
二つ、非武装である事。
三つ、人を殺めていない事。」

・・・二つ目まではとりあえず、そう見せかける事は出来る。
しかし三つ目は・・・。

キュー
「・・・それって自己申告で入るの?」
フィーゼ
「・・・大聖堂に住むと言われている神が判断するらしい。
条件を満たしていない人が入ると雷が落ちてくるみたい。」
キュー
「・・・行けー!琶紅!」
琶紅
「雷に打たれたくないです!!!」

キュー
「死なないんだからいいじゃん。」
琶紅
「痛いのは嫌です!!」
キュー
「痛くないよ。痺れるだけ。」
琶紅
「もう嫌ー!」


・・・・そんなやり取りをしていること15分。シジューゼが戻ってきた。


シジューゼ
「お待たせしました。キューさん。」
琶紅
「シジューゼさん!!あの大聖堂に入ってください!!」
シジューゼ
「・・・は?」
琶紅
「武器は持って入る事です!!・・・ってあれ?武器とか防具は?」
シジューゼ
「もう宿に預けちゃいました。とりあえずあの大聖堂に入ればいいのですか?」
琶紅
「そ、そうです!!」
キュー
「さり気なく琶紅が酷い事してる。」
フィーゼ
「・・・・見損なった。」
琶紅
「あああああああああ!!!!」


シジューゼが大聖堂に入る。しかし何も起きなかった。

キュー
「あれ?何にもないね。」
琶紅
「・・・もしかして信仰してるとか?」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼも大聖堂に入る。フィーゼも問題なく入れた。

琶紅も中に入るとした時、神父に止められた。

神父
「武器は持ちこまないように。・・・どうしても大聖堂に入りたいのであればそこのロッカーに預けなさい。」
キュー
「大聖堂の雰囲気ぶち壊し。」


キューと琶紅がロッカーに武器を預ける。

琶紅
「大丈夫かな・・・雷に打たれないかな・・・。・・・怖いーーー!!キューさん!手繋いで入りましょう!!」
キュー
「やだ。本当に降ってくるならアタシ絶対雷に撃たれるから。」

「いつになったら入るんだよ〜。早く入れ。」

その時、キューと琶紅の後ろに立っていた男一人が二人を大聖堂へと突き飛ばす。



ガガガッ!!!




突如、巨大な雷がキューと琶紅の脳天に直撃しそのまま気絶して前に倒れた。

神父
「この者。人を殺めたことがあるようだ。例えそれが事故、正当防衛だとしても人の命を奪った事には変わりない。
この者を大聖堂に踏みいれる資格なし。」

「お、こいつはわりぃーな。ハハハ。」

そういって男が大聖堂に入って姿を消した。

シジューゼ
「キュ、キューさん!?ってか俺入れたぞ!?俺もトラバチェスへ向かう道中とかで殺したぞ!?」
神父
「ふむ?っということはそやつは辛うじて生きていたってことじゃな。人を殺めていない事に感謝するがいい。」
シジューゼ
「そ、そうなのか・・・?だがモンスターは確実に殺めた・・・。」
神父
「モンスターは対象外だ。あのような忌々しき生き物は絶滅するがいい。」
シジューゼ
「・・・・。」

一瞬シジューゼの脳裏にリズルハが思い浮かんだ。
・・・確かにろくな奴じゃなかったが・・・。

シジューゼ
「・・・・行こう、フィーゼ。琶紅さんとキューさんを宿に連れて行こう。」
フィーゼ
「・・・念動力。」

フィーゼが魔法で琶紅を持ち上げる。シジューゼはキューを背負う。
すっかり二人とものびてしまった。・・・死んではいないようだが。

神父
「・・・人を殺めた事のある女子二人とそうではない男二人か。・・・珍しい事もある。」






==宿


フィーゼ
「・・・・。」

二人をベッドの上に寝かせる。
当分目覚めそうにない。

シジューゼ
「やれやれ。・・・フィーゼ、二人は大丈夫なのか?」
フィーゼ
「・・・死にはしないよ。・・・ただ目覚めは最悪かも。」
シジューゼ
「どうして?」
フィーゼ
「・・・聖なる雷に撃たれた者は心のうちに秘めている大きな悔いに向き直させられる。
懺悔させるのが目的みたいだけど。」
シジューゼ
「・・・キューさんの大きな悔い・・・。」
フィーゼ
「(琶紅さんはどうでもいいんだ・・・)」
シジューゼ
「・・・とりあえず俺達も寝る支度に入っちまうか。」
























キュー
「・・・・あれ・・・ここは・・・?」

気がつけば真っ暗な空間に居た。
・・・最後に自分はどこにいたっけか・・・・。
その時、後ろから誰かが近づいてきている事に気がついた。

キュー
「・・・誰?」

振り返る。

キュー
「・・・・あ・・・。」

そこには絶対に会えないと思っていた人物が立っていた。
・・・キュピル・・・・。

キュピル
「・・・・・・。」
キュー
「お、お父さん!!何でお父さんがここに!!?」
キュピル
「いや、言うべき点はそこじゃないな。」
キュー
「どういうこと?」
キュピル
「・・・キュー。幽霊刀はどうした?」
キュー
「うっ・・・・。」
キュピル
「・・・・まさか失くしたとでも言うのか?」
キュー
「な、失くしてなんかいないよ!た、ただ・・・。」
キュピル
「・・・・ただ?」
キュー
「い、今手元にないだけ!!」
キュピル
「手元にないだけか。・・・その割にはキューからはプレッシャーが感じられない。
その様子だと完全に手元から幽霊刀を失ったようだが。
・・・キュー。幽霊刀の力を借りずに作者を倒せるとでも思っているのか?」
キュー
「・・・・・・。」
キュピル
「・・・はぁ・・・。」

キュピルが思いっきり溜息をつく。

キュピル
「・・・ルイ、どう思う。」
キュー
「え?」

横からルイが出てきた。

ルイ
「・・・何度か戦いましたけど幽霊刀の力を借りても私と互角、あるいはそれ以下・・・。
キュピルさん。・・・非常に残念ですけれど・・・キュピルさんの期待に答えられないと思います。」

キューの心に深く刺さる。

キュー
「そんなことはない!!絶対にお父さんの期待に答える!!!
絶対すぐに・・・すぐに幽霊刀取り戻して・・・作者も倒して・・・・。」
キュピル
「作者も倒して・・か。・・・本当に出来るのか?」
キュー
「出来る!!!」
キュピル
「ルイにすら勝てないのに?」
キュー
「そ、それは・・・・。」
キュピル
「・・・キュー。」





「・・・もうお前が思っているような状況じゃなくなっているんだ。」











キュー
「わ、わあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」





キューが思いっきり叫びながら起き上がる。
シジューゼとフィーゼがビクッとキューを見つめる。

シジューゼ
「お、おはようございます。キューさん。・・・あまり良い目覚めじゃないようで・・・。」
キュー
「はぁ・・・はぁ・・・。・・・今何時・・・?」
シジューゼ
「午前八時ですよ。」
キュー
「・・・汗でびっしょり・・・。」


・・・とても嫌な夢をみた・・・。
もっとも気になる事を夢でピシャリと言われてしまった・・・。
・・・幽霊刀を失くした今の自分に果たして何ができるのか・・・。

改めて、まさか夢で言われてしまうなんて・・・。

心の柱にもなっていた自分の父にも言われどうにかなりそうだった。


・・・何処かで泣き声が聞こえる。

キュー
「・・・・あれ、琶紅は?」
フィーゼ
「・・・凄く嫌な夢を見たみたいでトイレで泣いています。」
シジューゼ
「何でも自分のお師匠さんを殺してしまった夢を見てしまったとか・・・。辛い夢だな・・・。」
キュー
「(・・・輝月・・。)
・・・はぁ・・・何でこんな悪い夢みたんだろう・・・。」
フィーゼ
「・・・実は・・・。」


フィーゼが昨日の大聖堂の雷について話す。


キュー
「えー!!雷に打たれるとそういう夢見るの!?」
シジューゼ
「一体どんな夢見たんですか?」
キュー
「人には言いたくないとっても気にしている部分。・・・はぁ・・・。」

キューが起き上がる。髪の毛が汗でびっしょりだ。

キュー
「シャワー浴びる!!・・・琶紅ー!ドア開けてー!シャワー浴びる!!」

ユニットバスだからシャワー浴びるにはまずドアを空けて貰わないといけない。
しばらくして琶紅が泣きながらドアを開けキューに抱きついて来た。

琶紅
「わあああああああん!!!!」
キュー
「・・・よりによって嫌な夢見ちゃったよね・・・。」
フィーゼ
「・・・サンスルリアはこういう祟りが一杯あるから気をつけないといけない。」
キュー
「・・・ここ以外にもあるってこと?」
フィーゼ
「うん。」
キュー
「・・・そのたびにこんな目には合いたくないよ・・・。」

とりあえずシャワーを浴びて心を落ち着かせようとする。

・・・何だか今回も非常に疲れる気がしてきた。




続く。





追伸

段々一話一話が短くなってきている気がするのは気のせい。



第十八話


サンスルリアの首都、サンスルーに到着したキュー一行。
サンスルリアは非常に信仰が厚く神の教えに背く行動は即時厳罰される。
大聖堂に入ろうとしたキューと琶紅だがサンスルーの教えを背く行動をしていたため天誅を喰らい
一番自分が気にしている悪夢を見せられた。



琶紅
「・・・・・・・・・・。」
キュー
「大丈夫。輝月はそんなに心の狭い人じゃなかったじゃん。それに輝月って自分の事じゃん。
ほーら、自分に叱られて落ち込まない。」
琶紅
「ぐすん・・・・・。」
シジューゼ
「は・・?自分の事?どういうことだ?」

当事者ではないシジューゼとフィーゼにとって、キューの今の発言は何を言っているのかよくわからなかったようだ。
琶紅がキューの肩に頭を乗せてよりかかる。流石にキューも今だけは突き飛ばさないであげていた。

キュー
「フィーゼ君。次の誕生石がある場所ってここから北東だよね?」
フィーゼ
「うん。」
キュー
「首都サンスルーから大体どのくらい?」
フィーゼ
「・・・・。」

フィーゼが地図を広げて確認する。

フィーゼ
「・・・大体200Kmかな。」
キュー
「・・・ワープで大幅に近道できたけどそれでもまだまだ遠いね・・・。」
シジューゼ
「またバイクみたいな便利な乗り物が欲しい所だな・・・。」

一瞬フィーゼがキューを見る。

キュー
「バイク売ってなかったとしてもここまで持って来れないよ!!」

フィーゼが目を逸らす。

キュー
「ねぇ、琶紅。サンスルリアで他の街にも移動したことある?」
琶紅
「あります・・・。」
キュー
「どこどこ!?」
琶紅
「スリアっていう街とシンクっという街です・・・。」
キュー
「えーっと、それってサンスルーより北東に位置している?」
フィーゼ
「・・・南と西。」
キュー
「ダメじゃん!!」
琶紅
「わあああああ!!ごめんなさい!!!!!」

夢のせいか琶紅が異様に謝る。必死にキューに抱きついて許しを乞うが逆に怒りを買いそうになる。

キュー
「わかった!わかったから!」
琶紅
「うぅぅ・・・。ぐすん・・・。」
シジューゼ
「早い所この街から出たほうがいいかもしれない。琶紅さんにとってトラウマの街になってしまった。」
キュー
「シジューゼさん、悪いけど食料とか水とか買ってきてくれない?今日中にこの街を出発するよ。」
シジューゼ
「分りました!」

そういうとシジューゼは部屋から飛び出て行った。

フィーゼ
「・・・移動距離を縮める方法が無いか探してくる」。」

フィーゼも外に出る。・・・寝癖が立ったままだがいいのだろうか。


・・・・・・。


琶紅
「・・・・そういえば・・・。」
キュー
「ん?」
琶紅
「キューさんも雷・・撃たれたんですよね?」
キュー
「うん、撃たれたよ。」
琶紅
「・・・キューさんも悪夢を?」
キュー
「うん、見た。」
琶紅
「・・・どんな夢を見たのか聞いてもいいですか?」
キュー
「・・・アタシが一番気にしてる事言われた。
お父さんから作者を倒せるのか?ってね。幽霊刀を失くしたアタシが作者を倒せるのかって。
アタシが倒せる!って言ってもルイすら勝てない癖にって言われて。」
琶紅
「倒せます。絶対に。」

琶紅が即答する。

琶紅
「キューさんはキュピルさんの意思を継いで今こうやって動いているのですから・・・。
神様もきっとこんな所で見捨てたりなんかしませんよ。」
キュー
「その神からこんな夢見せられたんだけどね。」
琶紅
「そ、そうですけど・・・。」
キュー
「・・・本当の事、言うと今のアタシじゃ絶対作者には勝てない。」
琶紅
「どうしてそう思うんですか?」
キュー
「・・・何でだろうね。強さとかそういうのじゃないと思う。・・・作者を倒すには
強さじゃなくて何か他の物が必要な気がする・・・。」
琶紅
「・・・・・。」
キュー
「でも、もし力以外の物が必要だったら一体それは何なんだろうね。
お父さんも、ギーンもまだ見つけられていない何か。」
琶紅
「・・・キュピルさん。一度行方不明になった事があります。」
キュー
「・・・聞いた事しかないけど、お父さんが狂気化したルイの作った黒い渦に飛び込んだ時の話し?」
琶紅
「そうです。・・・確かに、キュピルさんがその黒い渦を破壊した。破壊したのですが突然キュピルさんが
居なくなってしまいました。」
キュー
「・・・・・。」
琶紅
「三カ月経過した頃。突如キュピルさんが自分の部屋から戻ってきました。
そしてキュピルさんはこう言いました。





「俺は決めた。どんな異常経験を積もうが、どんな人生を歩もうが俺は生きて行く。
そう、例えそれがそのような道を歩ませようと仕向けられていても。
例えそれが誰かが仕組んだものだとしても。
もう永遠に生きると決めた俺には何の関係もない。

結局。限られた極々短い時間で生きなければいけなかったから俺は自由な道を歩みたかったんだ。
自分の時間を最大限有効活用できる人生。戦いなんてやめてずっと平和を謳歌する人生。
でもな。

永遠に生きると決めた俺にそんなものは別に要らない。

永遠だ。

・・・誰かが俺を作りだしてそして俺を戦いの道へ突き進ませようとしてその壮絶な人生を遠くから眺めて
楽しんでいたとしても。

俺が永遠に生きたらそいつは何時の日か飽きて忘れる。

その日が来るまで。


俺は何度だって戦ってやるさ。何度だって絶望の淵を繰り返してやるさ。
操り人形の紐が切れるその日まで。



・・・以上、ひとり言。・・・おっと、一言言い忘れてたね」




キュー
「・・・永遠に生きる・・・。・・・きっと幽霊刀の力の事・・・。」

・・・・・。

琶紅
「・・・キューさん。・・・キュピルさんが言っていた『操り人形の紐』って一体何の事だと思いますか?
キュピルさんは誰にも行方不明になっていた三ヶ月間の事を話さなかったみたいで・・・。」
キュー
「・・・・・。」

当然キューに聞かれても分らない。・・・それは父、本人に聞かなければ・・・。

キュー
「・・・わからない。・・・でもお父さんが永遠に戦うって誓ってた。幽霊刀と一緒にって。
・・・なのにアタシに幽霊刀を・・・。・・・・・。」

・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

キュー
「・・・・お父さん・・・。」

キューが体育座りする。膝の間に顔をうずめて目を閉じる。
・・・もし、今キュピルが生きているとするなら。

キュピルは今何を考えているのだろうか。まだ自分の事を覚えていてくれているのだろうか。

どこかで今も戦っているのだろうか。

それとも別世界で皆の事を忘れて幸せに暮らしているのだろうか。



・・・・。



琶紅
「・・・・・。」
キュー
「・・・琶紅?」

キューが顔をあげて琶紅の顔色を伺う。

琶紅
「・・・キューさん。・・・何故だか分らないのですが・・・感じるんです。」
キュー
「・・・感じるって何が?」
琶紅
「・・・終わりが・・です。」
キュー
「終わり?」
琶紅
「はい。・・・何が終わるのか・・分らないですけど・・・。ただ、この大陸での話しが終わってしまう気がして・・。」
キュー
「何の話し?」
琶紅
「・・・何でもないです。私もよくわからないで喋っていましたから。」
キュー
「・・・・?」

・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

キュー
「考えてても仕方がない!」

キューがばっと立ち上がり、愛剣を手に取る。

キュー
「ちょっとでも強くなれるように。まずは身の回り道具をしっかり手入れしようっと。」

そういうと砥石を持って剣を研ぎ始める。

キュー
「・・・・・・。」
琶紅
「その剣。もう何十年も使っていますよね。」

そのせいか剣が昔より大分細くなっている。剣というより刀に近くなってきている。

キュー
「大丈夫。まだまだ使えるよ。」

その時、突然部屋にテレポートポータルが開いた。

キュー
「え?」

テレポートポータルからフィーゼが現れた。

フィーゼ
「・・・使えるかも。」
キュー
「あ!!もしかしてテレポートが使えるようになった!?」
フィーゼ
「・・・残念だけど違う。これ。」

そういうとフィーゼが見せたのはエスケープカード。緊急離脱するために使われる物だ。
自身を中心にある一定の範囲にランダムに飛ばされるやや使いづらい物だが・・・・。

フィーゼ
「・・・本に書いてあった事試したら範囲内なら正確に飛べた。」
キュー
「ほんと!?それってテレポートっぽい事が出来るようになったってことだよね?」
フィーゼ
「・・・うん。」

いきなりとんでもない物を見つけてきてくれた。これで移動時間も大幅に短縮できるだろう。

琶紅
「・・・あれ、ところでそのエスケープカード一枚で何キロメートル先まで飛べるの?」
フィーゼ
「1Km。」


キュー
「・・・・。」
琶紅
「・・・・・。」


フィーゼ
「200枚買えばいいと思う。」
キュー
「一枚いくら?」
フィーゼ
「5k」
キュー
「えーっと、二百枚買うと・・・・。」

・・・・。

キュー
「えええ!!?百万Seed!!!?」









シジューゼ
「キューさん、食料と水買ってきました。・・・その一杯ある茶色いカードは何ですか?」
キュー
「一枚5kもするとてもとても貴重なカード」

フィーゼ
「50枚ある。」
シジューゼ
「・・・まさか無駄遣いか!!」


シジューゼがそういった瞬間、枕がシジューゼ目掛けて飛びまくった。







そして昼三時。


一行はサンスルーから出て北東にある誕生石目指して出発した。


キュー
「エスケープカードは50枚!つまり50Kmまで短縮できる!」
シジューゼ
「もっと早く言ってくれれば俺は痛い目に合わなかった・・・。」

何故かキューが投げた枕は滅茶苦茶威力があり洒落にならなかった。

キュー
「(無視)」

琶紅
「さっそく使います?」
キュー
「あ、まだ使わない。道が平坦な間は歩いて行って絶壁とか危険な道に差し掛かったら使うよ。」
琶紅
「は〜い。」
フィーゼ
「・・・一枚使うのに詠唱で大体3分かかる。」
キュー
「結構早いね。もうちょっと遅いかと思った。」
シジューゼ
「弟がどんどん優秀な魔術師になる一方で俺はちゃんと優秀な剣士になれているのだろうか・・・。」
キュー
「ナイーブにならない、ならない。」

キューがシジューゼの背中をバシバシ叩く。
便乗して琶紅もバシバシ叩く。
無視してそのまま歩き続けるシジューゼだが300mぐらいずっと叩かれながら歩いてやっと止めるように訴える。

キュー
「素直に言えばすぐやめたのに。」
琶紅
「そーだそーだ!」
シジューゼ
「・・・・・ち、ちくしょぉ〜・・・。」

深いため息をつかいながら空を見上げる。その時、上に何か居るのに気付いた。

シジューゼ
「ん?」
キュー
「ん?」

キューも空を見る。つられて琶紅とフィーゼも空を見る。
・・・巨大な鳥が一匹飛んでいる。・・・いや、フクロウ?よくわからないがとにかく大きな鳥が一匹飛んでいる。

琶紅
「あれ何?」
フィーゼ
「・・・グリフォン。肉食的でよく旅人が餌食になっている。」
琶紅
「あー!!襲ってくるかもしれない!エスケープエスケープ!!」
キュー
「楽しちゃだめ!」
琶紅
「ぎゃあああぁぁぁ!」


キューが琶紅の髪の毛をクシャクシャにする。
気がつけばグリフォンは北東にある森へ飛んで行った。

シジューゼ
「・・・フィーゼ、あの森の中を俺達は通るのか?」
フィーゼ
「うん。」
シジューゼ
「森か・・・。そういえば今回の冒険を始めてから森へ入るのには随分久しいな。
最後はセルバス平原か。そう考えると俺達、本当に遠い所まで来た・・・。」
キュー
「森は方角が狂いやすいから気をつけないとね。」

そのまま一行は歩き続け、そしてサンスルーから15Km離れた所にある森の中へと入って行った。





==サイレント・フォレスト


サイレント・フォレスト。名前の通り、音のない森。
あまりにも木々が厚過ぎ音すら通さない程密集している森。
森の範囲は50数Kmにまで広がっており非常に広い。

・・・風の音はおろか、虫の鳴き声すら聞こえない。

シジューゼ
「凄い静かだ・・・。」
キュー
「ちょっと寒くなってきた。」
琶紅
「道に迷わないで行けますよね?」
フィーゼ
「運。」
琶紅
「ああああああぁぁぁぁ!!出ます!!この森から出ます!!!」


背を向けて逃げようとする琶紅の首を掴んで逃がさないキュー。

キュー
「死なない体質なのに何でそんな怖がりなの。」

琶紅
「・・・言われてみれば。」

クルッと向き直る琶紅。

キュー
「琶紅がやる気になった!これでモンスターが来ても盾になってくれるね。」
琶紅
「やっぱり帰ります!!」
キュー
「どこに?海に?」
琶紅
「もう嫌だ。」


ギャーギャー騒ぐ琶紅とキューを余所に草の根をかき分けて進むシジューゼとフィーゼ。

シジューゼ
「しっかし狭い道だ・・・。いつ本道から逸れるか分らないな・・・。」
フィーゼ
「・・・・ん。」

・・・何かいる?

キュー
「ほら、琶紅!先頭に立つ!」
琶紅
「・・・私は死なない!!もうどうにでもなれー!!」

そういうとフィーゼとシジューゼを追い抜かして琶紅が先頭に立つ。

フィーゼ
「・・・あ、さっきそこに何かいたけど。」

突然琶紅の目の前に全長1m程の巨大な蜘蛛がジャンプして現れた。

琶紅
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」



蜘蛛を見た瞬間、叫びまくる。その叫び声に驚いたのか巨大な蜘蛛が反射的に琶紅に攻撃を仕掛ける。
琶紅の腕に触れた瞬間、物凄い力で蜘蛛を叩きつぶす。

琶紅
「あああああああ!!触ったああああああああああ!!
ああああああああああああああああああ!!」


キュー
「うるさい」




キューが琶紅の後頭部を強く叩く。不意打ちだったらしくそのまま気絶してキューの傍に倒れる。

キュー
「・・・10年経っても何一つ変わってない・・。」

シジューゼ
「見事な一撃だなぁ・・・。」

シジューゼが気絶している蜘蛛を調べる。何処をどう叩けば蜘蛛を気絶させることができるのか・・・。」

フィーゼ
「・・・兄さん。その蜘蛛。毒蜘蛛だから気をつけて。」
シジューゼ
「いぃぃっ!?」

シジューゼが慌てて飛び退く。

シジューゼ
「グロテスクな見た目通りって事か・・・怖いな・・・。」

たまに足がピクピク動いている。気持ち悪い。

シジューゼ
「・・・ってことはだ・・。」

シジューゼがリュックから使い捨てのゴム手袋を嵌め、片手に空の瓶を持つ。
蜘蛛の牙を瓶の中に入れて頭を軽く叩く。

キュー
「何やってるの?」
シジューゼ
「以前、クラドにも毒蜘蛛が襲来してきた時があったんだ。俺はその時後処理の班だったんだ。
蜘蛛の毒を抜いて次の狩り、防衛に役立たせるって。」

牙から毒が分泌されドンドン溜まって行く。しばらくすると瓶一杯に紫色の液体が貯まった。
コルクでしっかり閉め漏れないようにプラスチックのケースの中に入れる。

シジューゼ
「このケースが役立つ日が来てよかった。一度も使わないで冒険終えるかと思った。」
キュー
「そのケースは何?」
シジューゼ
「密閉箱。早い話本当に蓋を空けようと思わない限り絶対に自然に箱が空いたりしないケース。
危険な物を入れ足りする時に使うケースだ。」

そういうと瓶が入ったケースをリュックにしまう。

シジューゼ
「強大な敵に立ち向かった時に使えればいいな。」
フィーゼ
「・・・大分時間かかったから早く行こう。」

そういうとフィーゼが再び草の根をかき分けて進み始めた。

シジューゼ
「・・・琶紅さんをどうしますか?」
キュー
「アタシが背負って行くから大丈夫。荷物ちょっとだけ持って。」
シジューゼ
「分りました。」

そういうとシジューゼは琶紅の荷物を持ちフィーゼの後を追い始める。キューも琶紅を背負って進み始めた。






歩きだして二時間。日も暮れはじめいよいよ視界が悪くなってきた。

キュー
「フィーゼ君、どこか適当な広さに出たら今日はそこでテント張ろ。森は暗くなるのが速いから。」
フィーゼ
「・・・わかった。」

今の所、道中に現れたモンスターは最初の毒蜘蛛一匹だけだ。
しかしモンスターがいると分った以上、油断はできない。恐らくテントを張ったとしても
見張りを交代でつけることになるか・・・。

適当な広さを探し始めて30分。ずっとテントを張るのに適さない道が続く。そもそも道ではなくなり始めている。

シジューゼ
「だめだ、テントを張るだけのスペースが見つからない。」
フィーゼ
「・・・・・・。」
シジューゼ
「そもそも考えてみたらこの森に入ってからテントを張るだけのスペースをまだ見た事ない気がするな・・・。」
キュー
「うーん、だったら最終手段使っちゃうかー。草をとりあえずテントが張れる分だけ刈っちゃおう。
小さな岩があったらどける。小さな木があったら斬って薪にしちゃう。他のがあったら相談して。」
シジューゼ
「わかりました。」

シジューゼが短剣を取り出し草を刈り始めた。
キューも琶紅を適当な所で寝かして草を刈りはじめる。


・・・更に30分経過した。

夜7時になってやっとテントが張れる分だけのスペースが確保できた。
しかしテントと木々の間は僅か10cm程度しかない。

シジューゼ
「こりゃ一種の通行止めだな・・・。」
キュー
「多分この時間になったら人も通らないよ。ご飯作ろう〜。一人だけモンスターが来ないか見張りお願い。」
シジューゼ
「俺が見張りやります。」

シジューゼが近くの木の上にちょっとだけよじ登りテントの回りが見えるように視界を確保する。
フィーゼはキューと一緒に調理の準備をする。

キュー
「こらー!いつまで寝たふりしている。」
琶紅
「私この森にいる間はずっと気絶していたいです・・・うぅぅ・・。蜘蛛には嫌な思い出があるんですーーー!!」
キュー
「・・・・?」


フィーゼ
「・・・・・・・。」

火を焚きその周りに石を積みその上に鍋を置く。
本を読みながら鍋の中に入っているシチューをかき回す。
調理しているのだが魔術師の本を読んでいるためまるで薬剤でも調合しているかのように見える。

シジューゼ
「不味く見える・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」
シジューゼ
「・・・・ん?」

シジューゼが上を見上げる。・・・今日の昼に見たグリフォンがまた飛んでいる。

シジューゼ
「キューさん、上空にまたグリフォンがいます。」
キュー
「ん?・・・ちょっとアタシのいる位置だと葉が邪魔で見えない・・・。
でも襲ってこないと思う。ここで急降下して奇襲した所で木々にぶつかるのが落ちだし・・・。」
シジューゼ
「俺もそう思います。」
琶紅
「蜘蛛はーー!?蜘蛛はきてないよね!!?」
シジューゼ
「大丈夫です、来てませんって。」
琶紅
「はぁ・・・。」

・・・そして数十分後。夕飯が完成した。










==深夜



キュー
「うーん。」
フィーゼ
「ここをこう通るのが賢明だと思う。」
キュー
「でも今道はこっちの方格にずっと来ているよ。こっちに出るのは難しいんじゃないのかな・・・?」

フィーゼとキューがテントの中で明日、どの道を進むか決めている。

フィーゼ
「・・・道なき道を歩くのも必要だと思う。」
キュー
「んー・・・。本来道から逸れると危険が一杯あるんだけど・・・。例えばモンスターの巣に直面したりね。
だけどここの道。道のようで道じゃなかったりするからなぁ〜・・・。」
フィーゼ
「・・・作者が既に復活して時間も惜しいと思う。だからやっぱりこの道を通って最短路を選ぶのがいいかも。」
キュー
「・・・確かにそうだね。下手に遅れて先に取られちゃ意味がないし・・・このぐらいは通れないと
作者には勝てないよね。あ、エスケープカード使うっていう手もあるよね。」
フィーゼ
「・・・使う?」
キュー
「・・・んー。・・・本当に無理って思った時に使おっか・・・。とりあえず明日はこの道を進むってことで。」
フィーゼ
「・・・わかった、おやすみ。」
キュー
「切り替え早いね・・・。」

フィーゼがその場で横になり寝始める。

キュー
「シジューゼさんー?そろそろ交代の時間だけど交代するー?」

・・・・。

キュー
「・・・・あれ?シジューゼさん?」

キューがテントの外に出る。

シジューゼ
「zzz・・・・ぐがぁ〜・・・・。」
キュー
「・・・・・。」





キューが鞘を片手に持ち・・・・。





シジューゼ
「いってええぇぇっっっーーーー!!」










==翌日


キュー
「見張りが寝ちゃうなんて信じられない!」
琶紅
「そーだそーだ!」
キュー
「見張りを降りた琶紅に文句言う資格なし!!」
琶紅
「そ、そんなぁー!」
シジューゼ
「昨日は疲れててそのまま寝ちまったんだ・・・わりぃ・・・。」

シジューゼがドンドン先に進んで行く。あまり突っ込まれたくないらしい。
昨日、フィーゼと相談してこの道を通ると決めたがやはり険しい。険しいというより木々だらけで時々
木によじ登る必要性が出てくるぐらいだ。

・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



シジューゼ
「・・・・・キューさん。」
キュー
「分る。・・・何か感じる。」

音も何もしないこの森。

だけど何かを感じる。


一言で言えば 「気配」。



キュー
「・・・・・・。」

気配はする。時にはその気配が強くなったり弱くなったり。
しかしどんだけ耳を澄ませても何の音も聞こえない。
聞こえるのは自分達の足音。

・・・・。

足音?

琶紅
「キューさん・・・。」
キュー
「・・・気付いた?」
琶紅
「勿論・・・。」
シジューゼ
「・・・俺達、今草の根を分けて進んでいるんだが・・・。草の擦れる音すら聞こえない・・・。
本当に聞こえてくるのは俺達の声と土を踏む足音だけだ・・・。・・・・ん・・。」

・・・・。足音すら聞こえなくなった。
草を踏んでも、土を踏んでも、枝を踏み割っても何の音もしない。

キュー
「・・・なにこれ、凄く居心地悪い・・・。」

聞こえるのは自分達の声。全ての音が聞こえなくなっているのではないだけに非常に変な違和感を感じる。

フィーゼ
「・・・魔力。」
キュー
「え?・・・・・あ。」

・・・気配だけじゃなく今度は魔力も感じ始めた。

すると突然、薄らと暗いこの森で前方から明りが見え始めた。

シジューゼ
「・・・出口か?」
キュー
「・・・流石にまだ50Kmは歩いていないはず。何だろう。」

・・・明りに向かって進む。すると木々のない開けた場所に出た。

琶紅
「ここは・・・どこ?」
フィーゼ
「・・・・・。」

フィーゼが地図を確認する。

フィーゼ
「・・・サイレント・フォレストの中央。」
キュー
「ってことは25Km歩いて来たってこと?」
フィーゼ
「うん。」
キュー
「この森の中央に木々がないって・・・まるで台風の目みたいだね・・・。」
シジューゼ
「・・・何かあそこにないか?」
キュー
「ん?」

500mぐらい離れた場所に何かある。

・・・・石像?

台座の上にグリフォンの形をした像があり足には何か宝石のような物を掴んでいる。
宝石から強い魔力を感じる。

キュー
「これって・・・・。・・・・まさか・・・!!?」


キューがグリフォンの足にはまっている宝石を引っこ抜く。
・・・一瞬探し求めている誕生石かと思ったが違う。ただ魔力が込められた輝いている石だった。

キュー
「・・・なにこれ?」

その瞬間、突然音が聞こえ始めた。
木々の揺れる音、風の音、そして・・

何かが急降下してくる音。

キュー
「びっくりしたぁ・・・。この石の力で音を聞こえなくさせていたのかな?」
シジューゼ
「・・・・!キューさん、上に!!」

すぐにキューが横に飛んで転がる。
その直後、キューの居た場所にグリフォンが急降下してきていた。
そしてすぐにまた何処かに飛んで行った・・・かと思いきや再び鋭い足の爪をこちらに向け急降下してきた!

キュー
「この石でも守っているの?」
シジューゼ
「くっ!」

シジューゼもキューの回避行動を真似して飛び前転で避ける。
反撃に移ろうとしたがすぐにまた上空に登り攻撃が届かない。

琶紅
「先制堂々降りて勝負しろ〜!」

すると今度は琶紅目掛けてグリフォンが急降下してきた!

琶紅
「私は死なない!!」

琶紅が刀を前に突き出し、急降下してくるグリフォンを迎撃しようとする。
・・・が、大きな翼で刀叩き飛ばし両足で琶紅の頭を掴む。

琶紅
「ギャアァァァァーーー!!」

すぐにフィーゼが遠距離魔法を唱えて飛んでいくグリフォンを撃墜しようとするが避けられてしまう。
グリフォンの石像の真上まで高く飛ぶとそこから琶紅を離し落下させた。
シジューゼが受け止めようとするが石像が邪魔で受け止める事が出来ない。
そのまま背中から石像にぶつかり、物凄い呻き声を上げながら地面の上を転がる。

琶紅
「し、死ぬぅ〜・・・・。」


キュー
「さっき死なないって言ったじゃん・・・。」
シジューゼ
「あんな高さから落ちて死んでない事がびっくりだ・・・。」

またグリフォンが急降下してきた。

キュー
「すれ違いざまに・・・斬る!」

急降下してくるグリフォンの足をギリギリの所で避ける。
そしてすれ違いざまに剣をグリフォンの足の付け根に当て思いっきり斬る。
手ごたえあり。グリフォンが足の付け根から出血しながら空に飛ぶ。

キュー
「かかってこ〜い!」

グリフォンが必死に羽を羽ばたかせる。懸命に飛ぼうとしている・・のかと思いきや違う。
翼から羽が沢山抜け落ち、そして鋭く尖った羽の芯がこちらに向き直って落ちてきた!

フィーゼ
「・・・魔力反応ある。」

フィーゼが冷静に前方にバリアを張って対処する。そのバリアにシジューゼとキューが隠れる
・・・が、張った瞬間何故かフィーゼが逃げだした。
その数秒後、何本かの羽がバリアに当たった瞬間砕けて壊れてしまった。

シジューゼ
「おい、バリアにしては弱すぎるぞ!」
キュー
「ルイとかファンみたいな強力なバリアじゃないことすっかり忘れてた・・・!」

シジューゼは硬い鎧に守られ、キューは避けながらグリフォンの石像まで退避し隠れる。

琶紅
「アヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ!!」


倒れていた琶紅に沢山の羽が突き刺さる。

キュー
「我慢!」
琶紅
「酷い!!」

琶紅がむくりと起き上がってキューと一緒に石像の裏に隠れる。

琶紅
「痛いのは嫌なんです!!」
キュー
「痛いのが好きな人は異常だから。」

そういうと琶紅の体に突き刺さった羽をむしり取る。・・・W・L・C隊の鉄の矢のように硬い。

琶紅
「ぎゃあぁぁ!!」
シジューゼ
「キューさん、危ない!」
キュー
「え?・・わ!!」

気がつけばグリフォンがすぐそこまで降下してきていた。
剣でガードしようとしたが先にグリフォンの足の爪が腕に刺さった。

キュー
「ぅっ・・・思っていたより頭いい・・・。」

再びグリフォンが羽を撒き散らしながら空に逃げる。禿げるのを待つのも手かもしれないが減っている気がしない。
雨のように降り注ぐ硬い羽を剣で弾く。

キュー
「空に逃げられちゃうと攻撃ができない・・・。」

流石に空に向けて剣を投げたら何処に落ちるか分ったものじゃない。

キュー
「でも使い捨ての武器なら今一杯ある!」

キューが地面に刺さっているグリフォンの羽を引き抜き、投げつける。
・・・が、届かずに何処かに落ちた。

キュー
「だ、だめかー・・。」

グリフォンがずっと空にいる。さっきの攻撃で降りると危険と判断したのだろうか。
しばらくするとグリフォンの傷が癒え始めた。

フィーゼ
「・・・再生能力を持っている。」
琶紅
「えーー!卑怯だ卑怯だ!」
シジューゼ
「キューさん、あのグリフォンはさっきキューさんが引き抜いた石を守っているとかそういうのだったりしますか?」
キュー
「うーん、わかんない!元に戻せば見逃してくれるかな?」

キューが一旦グリフォンの石像に石を嵌める。再び衝撃波のような物が飛んで行き無音になった。
・・・が、グリフォンがまたしても羽を撒き散らし攻撃してきた!
音が聞こえないため余計性質が悪いので再び石を引き抜いて回避する。

キュー
「だめだった!」
琶紅
「グリフォンの傷も完治しちゃってるしどうするのー!」
シジューゼ
「・・・に、逃げるか!」
キュー
「それがいいかも。戦いに付き合う義務なんてないよ。」

全員すぐに石像から離れて元々の進行方向へ逃げる。
グリフォンが逃がすまいと再び急降下し足で琶紅の頭を鷲掴みにする。

琶紅
「ギャァッー!!」
キュー
「琶紅だから大丈夫!逃げよう!」

琶紅
「ああああああ!!!助けてええええ!!!!」


琶紅がジタバタ暴れる。抜刀しグリフォンの足を突き刺す。
しかし足は硬く弾かれてしまった。キューが斬った足の付け根に刀を突き刺し抉る。
今の攻撃が効いたのかグリフォンが琶紅を落とした。

琶紅
「わー、助かったー。」

・・・が、高度20mの所から落とされ今度はお腹を下にして落ちる。
このまま落ちれば草原の上・・・が、すぐ目の前に石。

琶紅
「あ。」


ゴン


石に顎をぶつけた。
再び琶紅が悶えてごろごろ転がる。

琶紅
「くぁwせdrftgyふじこlp;!!!」


キュー
「流石に可哀相になってきた。」

キューが倒れている琶紅の元まで戻り抱きかかえて逃げる。

琶紅
「く、くひのなはひって・・ひ、ひたい・・・!!」
キュー
「何言ってるのかわかんない!」

再びグリフォンが急降下してきた。今度は鋭く尖ったくちばしを前に突き出して落ちてきた!
逃がしたくないようだ。

キュー
「む、顔を前に突き出したのが最後!!」

キューが琶紅をグリフォンの方へ投げ飛ばす。
琶紅が絶叫しながら刀を引き抜きがむしゃらにグリフォンを迎撃しようとする。グリフォンの気が琶紅に移った。
すぐにキューも剣を抜いてグリフォンの方へと突進する。
グリフォンのくちばしが琶紅の腹へと突き刺さる。また琶紅が絶叫をあげる。
その瞬間、グリフォンのすぐ横にキューが剣を前に突き出して突進してきていた。

キュー
「眼つぶし!!」

グリフォンの目にキューの剣が突き刺さった。激しく唸りながら琶紅を放り飛ばし
羽を激しく羽ばたかせて琶紅とキューを吹き飛ばす。

シジューゼ
「キューさん、今援護します!くそ、これでも喰らいやがれ!」

シジューゼがバッグから紫色の液体が入った瓶を投げつける。
グリフォンが翼で瓶を叩き割るが衝撃で中に入った猛毒が飛び散り皮膚に付着する。
皮膚に付着した瞬間、蒸気があがり皮膚を焦がし始めて行った。

シジューゼ
「酸性毒だ、ありゃ効果抜群だな。」
キュー
「早く逃げよ。そろそろ琶紅に負担かけられない。」

琶紅がわんわん鳴き叫びながらキューの背中にしがみつく。もう痛い目にあいたくないらしい。
そのままグリフォンに気付かれる前に森の中に逃げ追撃を振り切る。
何とか逃げ切れたか・・・・?







==一時間後


琶紅
「もう怒りましたあああああああ!!!」



琶紅が刀をぶんぶん振り回しながらキューを追い掛ける。

キュー
「わぁーーー!!落ちついて琶紅!!琶紅のお陰で助かったんだよ!!」
琶紅
「いくら私が死なないからってあんな役回りはもう二度とごめんです!!!
キューさんの事大好きですけどこんな事するんでしたったら同じ目にあってもらいますよ!!!」

琶紅がバッと刀を前に突き出す。慌ててシジューゼがナイフで弾く。
それを見て琶紅が驚く。

シジューゼ
「ま、まぁまぁ!落ちつけって!キューさんの言う通り琶紅さんの死なない体質で俺達は助かったんだ・・・。
琶紅さんのお陰で俺達は生き延びた、これ以上感謝し尽くせないぐらい感謝してる!
だからキューさんの事許してやってくれって。」
琶紅
「・・・・やだああああーーー!!!!」

再び琶紅が刀を振り回す。シジューゼが後ろに退きながらナイフで攻撃を防ぐ。

シジューゼ
「た、助けてくれーー!!」
キュー
「おーおー、シジューゼさん凄いよ!あの琶紅の攻撃をナイフ一本で防いでる!!腕上達してるじゃん!」
シジューゼ
「今はどうでもいい!フィーゼ!助けてくれ!」
フィーゼ
「・・・稽古だと思えば・・・。」
シジューゼ
「俺は琶紅さんと違って突き刺さったら死ぬんだって!!う、うわあぁ!!」

ついにナイフが弾き飛ばされてしまった。

琶紅
「覚悟ーーーー!!」
シジューゼ
「俺は味方だあああーーーー!!?」

その時、弾かれたナイフが何かに刺さった。刺さった何かが叫んだ。

シジューゼ
「ん?」
琶紅
「へ?」

草影から超巨大な蜘蛛が現れた。最初に現れた蜘蛛の比じゃない。

琶紅
「・・・・・・・・。」


琶紅がそれを見て無言のまま気絶する。

シジューゼ
「た、助かった・・・って、助かってない!!」
キュー
「迎撃迎撃!」

キューが迎撃しようとした瞬間蜘蛛の牙から毒が噴射された。それを見た瞬間キューが速攻で退避する。

キュー
「逃げよう〜〜っと」
フィーゼ
「・・・・賢明。」
シジューゼ
「琶紅さんどうするんですかーー!!?」
キュー
「・・・今回の件は悪かったら森に出るまで私が担ぐよ。」

そう言うと今度は巨大な毒蜘蛛から逃げながら森の外へと逃げ出す一行。


サイレント・フォレスト。

沈黙が破られたこの森は今、かつてない騒がしさに包まれていた。




続く




オマケ

キュー
「はぁ・・・はぁ・・・やっと森から出られた・・・。結局アタシが手に入れたこの石は何なの・・・。」

気絶している琶紅を担いでここまで逃げてきた。息も絶え絶えだ。
何故かシジューゼは今にも気絶しそうなほど疲れている。

フィーゼ
「・・・俗に言うお宝。換金アイテム。
琶紅
「え?お宝?きゃあぁー!!」
キュー
「・・・・・・。」



深いため息をつくキューだった。



第十九話


サイレント・フォレストから抜け出しちょっと変わった石を手に入れたキュー。
特に重要な石ではないらしく無駄にグリフォンに襲われて嫌な目にあった一行。

キュー
「急がば回れって言葉を改めて思い知った気がする・・・。」
フィーゼ
「エスケープ使うよ。」
キュー
「うん。」


フィーゼの詠唱が終わりエスケープを発動する。
今いる道はかなり険しくモンスターも手ごわい。
地形が余りにも戦闘に適していないためエスケープを使ってショートカットしていた。



そして移動すること数十キロメートル。



目的地まで残り5Kmまでやってきた。

琶紅
「んん〜!ついにここまで来ましたね!!」
シジューゼ
「あぁ・・・道中とても長かった。」
琶紅
「キューさん、あともうちょっとで誕生石ゲットですよ!」
キュー
「そんなに上手く手に入れられるかな・・・。誕生石がすんなり手に入った記憶がないんだけど・・・。」
琶紅
「ありますよ。ガーネット!」
キュー
「あー、はいはい。」
琶紅
「キューさんが冷たい。」


フィーゼが地図を広げながら歩いている。

フィーゼ
「・・・・もうすぐ街に辿りつく。」
シジューゼ
「街?こんな辺境の地に街があるのか?」
フィーゼ
「うん。サンスルーの次に大きい街。」
キュー
「そんな大きい街があるんだ・・・。回りは海に囲まれてるし交通の便も悪いから
とても経済的な街とは思えない・・・。」
フィーゼ
「・・・サンスルリア人が崇めている神様はその街に住んでいると言われてるから。
とても信仰深いサンスルリア人にとってそこの街が活気づくのはある意味当然なのかもしれない。」
キュー
「へぇ〜・・・。」
琶紅
「ところでその街ってなんて言う名前ですか?」
フィーゼ
「デーモン街」
琶紅
「あ、悪魔じゃん!!サンスルリア人が崇めている神様って悪魔だったの!?やだーー!!」
フィーゼ
「地図を良く見て。」

フィーゼが琶紅に地図を見せる。・・・街の上に daemon と書かれていた。

琶紅
「デーモン・・・やっぱり悪魔じゃん!!」
フィーゼ
「それは 『demon』。今僕達が向かっている街の名前は 『daemon』。
daemonは守護神っていう意味。」
琶紅
「そ、そうなんだ・・・。・・・aがあるかないかでこんなにも違うんだね・・・。」
シジューゼ
「守護神が住む町か。いかにサンスルリア人が信仰深いがよくわかる街だなぁ。」
キュー
「・・・・ん?何か聞こえない?」

キューに言われ全員耳を澄ませる。

・・・聞こえてくるのは鐘の音。

フィーゼ
「信仰の鐘が鳴ってる。」
琶紅
「信仰の鐘?」
フィーゼ
「毎日午前七時と午後三時に信仰の鐘がなる。その鐘が鳴っている間は皆祈りを捧げている。」
キュー
「本当に信仰深いね・・・。」
フィーゼ
「・・・キューさんと琶紅さんは気を付けたほうがいいよ。」
琶紅
「え?何で?」
フィーゼ
「サンスルリア人が崇めている神の掟を破っているから。」
キュー
「・・・もしかして人を殺めた事があるかどうか云々の・・?」

フィーゼがコクリと頷く。

フィーゼ
「サンスルーよりもっと信仰深い街だから建物入るときは気をつけた方が良いかも。特に大聖堂には。」
琶紅
「言われなくてももう大聖堂には入らない!」

シジューゼが目を細める。

シジューゼ
「・・・門が見えてきたな!」
キュー
「・・・フィーゼ君。この街から誕生石まで後何キロメートルぐらいある?」
フィーゼ
「0Km。街の中で誕生石がある。」
キュー
「えぇ・・・。街の中にあるの?何だか嫌な予感しかしない・・・。
・・・・早い所誕生石手に入れてギーンの所に帰ろ・・・。何だか雷に撃たれそうで落ちつかないし・・。」
シジューゼ
「俺もキューさんが嫌な目に合う所は見たくない。了解しました!」
琶紅
「あれ、私は?」

シジューゼ
「も、もちろん琶紅さんも!」
琶紅
「絶対忘れてた・・・。いじけちゃうもん・・。ぐすんぐすん。」

やれやれと溜息をつきながら街に入る一行。
門を潜り街に足を踏み入れた瞬間。




ピシッ





細い雷がキューと琶紅の脳天に落下し、その場でバタリと倒れてしまった。

シジューゼ
「うおっ!?」
フィーゼ
「・・・まさか街に入った瞬間に裁き受けるなんて思っていなかった・・・。
ここの街、怖いかもしれない。」
シジューゼ
「とにかく宿に早い所寝かせたほうがいいんじゃないのか!?」
フィーゼ
「街から出すべきだと思う。」
シジューゼ
「あ、そうか・・・。とにかく急いでテントを張ってそこで寝かせよう。」

再び門を潜りデーモン街から出る。
デーモン街から少し離れた所にテントを張りキューと琶紅を寝かせる。

シジューゼ
「いきなり二人がやられちまったな・・・。フィーゼ、二人はまだ悪夢を見るのか?」
フィーゼ
「・・・多分。」
シジューゼ
「何とかして起こせないのか?」

シジューゼが琶紅とキューの肩を揺する。勿論起きる気配はない。

フィーゼ
「・・・揺すっても起きないよ。目が覚めるまで待つしかない。」
シジューゼ
「・・・・・。」

シジューゼが少し考えた後。

シジューゼ
「何にしてもキューさんと琶紅さんが起きても街に入れないのは事実だ・・・。
それなら考えを逆転させて二人が起きる前に俺達が誕生石を手に入れる!」
フィーゼ
「兄さんならそう言うと思った。・・・これ」
シジューゼ
「ん?」

フィーゼが地図をシジューゼに渡す。

フィーゼ
「サンスルーで買ってきたデーモン街の地図。この地図によるとデーモン街の一番最北東に
デーモン(daemon)の石像があるみたい。その石像が誕生石を握りしめているみたいだ。
・・・街の人々が崇めている石像が持っているから普通の手段で手に入れるのは非常に難しいかもしれない。」
シジューゼ
「・・・盗み、破壊も検討しなければいけないってことか。しかし壊したら天罰喰らいそうだな・・・。
あの街で人々が崇めている石像を壊したら死刑になりかねないな・・・。
だけどこのアノマラド大陸に危機が迫ってるんだろ?だったら誕生石入手を優先させたほうがいいよな。」
フィーゼ
「・・・とりあえず慎重に調べたほうがいいと思う。」
シジューゼ
「勿論だ。いきなり無理やり壊して入手しようだなんて思っていない。
それと・・・。」

シジューゼが倒れているキューと琶紅に目をやる。

シジューゼ
「・・・俺かフィーゼどっちかはテントに残った方がいいよな?」
フィーゼ
「うん。」
シジューゼ
「よし、まずは俺が調べて来る!」

そういうとシジューゼは勢いよくテントから飛び出す・・・が、フィーゼに止められた。

シジューゼ
「何だ?」
フィーゼ
「武器は置いたほうがいい。デーモン街の人達は武器を嫌う。」
シジューゼ
「そ、そうか。」

シジューゼが腰につけているナイフと短剣をテントの中に置いて行く。

シジューゼ
「新しい武器が欲しいな・・。ロングソードは折れたまんまだしな・・・。」
フィーゼ
「・・・・・・。」
シジューゼ
「分ってるって、行ってくる。」

そういうとシジューゼはテントから飛び出しデーモン街へと向かった。






・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





キュー
「・・・ん・・・・。」

頭が重い。思考もはっきりとしない。

・・・海の上を漂っている感覚。


ここは・・・・一体?


「・ュ・・・さ・・・。」

・・・・・ん?

「キュ・・・さん!」


琶紅
「いい加減起きてください、キューさん!!」

琶紅がキューを蹴る。

キュー
「あーーー!!!蹴った!!!揺すって起こせばいいのに!!!!」

キューが飛び上がって琶紅に捨て身タックルをお見舞いする。

琶紅
「ぎゃああぁぁぁぁ・・・って、遊んでる場合じゃないんです!!」
キュー
「ん?」
琶紅
「周りを見てください。ここどこですか?」

辺りを見回す。真っ暗な闇の中に色んな物が存在している。
・・・・城壁らしき物、その中に存在する大聖堂・・・だけど地面らしきものはなく
ただ真っ暗な闇の中でポツンと存在している。

無重力にも感じられ上へ飛んだり下へ潜ったりできそうな感覚。

キュー
「随分と不思議な所に来ちゃったね・・・。・・・一体どこなんだろうここ・・・。」
琶紅
「・・・・そもそもどうして私達はここに来たんですか?どうやって来たんだろう・・・。」
キュー
「どうやってって・・・そりゃ勿論・・・ってあれ・・・?」

・・・直前まで何があったか思い出せない。
・・・琶紅に言われた通り、どうして二人はここにいる?

キュー
「・・・えーっと、とりあえず思いだせる所から思いだしていかなきゃ・・・。」
琶紅
「ここに来た理由は・・・・・。」
キュー
「えーっとえーっと。」

「ここに来た理由を忘れてどうする!!」

キュー
「あれ?」

突然後ろから声が聞こえた。・・・自分より遥かに背が高い人・・・。キュピルが居た。

キュピル
「キュー、居なくなったから心配したぞ。」
キュー
「あ、お父さん!!」

キュピルがキューの頭の上に手を乗せ髪をしわくちゃにする。

「琶月、そこにおったのか。」

琶月
「あ、その声・・師匠!!」
輝月
「全く、ただ後ろを付いてゆく事も出来んとは・・・。お主、人間か?」
琶月
「ああああ!!酷い!!!」
キュー
「・・あれ・・?琶紅・・。そんなに髪短かったっけ?」
琶月
「え?・・・そういうキューさんこそ・・・何か背が小さくないですか?」

気がつけば、キューの姿は八歳の頃に戻っており姿、髪、服装全てが昔に戻っていた。
だけどそれが異常だと気付かない。

キュー
「おーおー冗談言ってくれるぜ。なーお父さん?」

言葉遣いも昔に戻っている。

キュピル
「よくわからんが・・・それよりジェスターとルイとファンが先に中に入っている。俺達も続くぞ。」
輝月
「琶月、今度こそ遅れるでないぞ?」
琶月
「はい、師匠!絶対に遅れません!!」
キュー
「本当かなー?」
琶月
「う、うぅぅ・・・。」

城壁に近づき門を潜る。
門を潜った所で何かを思い出す。

キュー
「ん・・?そういやアタシ。ここで雷に撃たれた記憶が・・・。」
キュピル
「何馬鹿な事言ってるんだ。・・・む、キュー。」
キュー
「お?」

キュピルがキューに近づく。

キュピル
「どうして俺の愛剣をキューが持ってるんだ?」
キュー
「・・・おろ?本当だ!」
キュピル
「キューはこっちを持っててくれ。」

そういうとキュピルは幽霊刀をキューに渡しいつもの愛剣はキュピルが持って行ってしまった。
・・・この幽霊刀・・・。何か変。・・・力を感じない。
いや、愛剣をキュピルに持っていかれた瞬間何かが抜け落ちて行くような感覚に襲われた。

キュピル
「どうした?キュー。」
キュー
「・・・ううん、なんでもないぜ。」

キュピルの後をキューが追って行く。
輝月と琶月もキュピルの後を追って行く。

・・・真っ暗な世界、宙に浮かんでいるかのように思える壁と建物。

塗りかえられている記憶。

この不思議な出来事にキューと琶紅はまだ気付いていない。








==デーモン街


デーモン街を歩き回るシジューゼ。
信仰の鐘が鳴り終えるその時までサンスルリア人はずっと祈りを捧げていた。

シジューゼ
「本当に信仰深い・・・。クラドじゃ考えられないなぁ・・・。」

フィーゼから貰ったデーモン街の地図を頼りに誕生石のありかを探す。
しかしデーモン街は広く裏道も多いため中々思ったように目的地にたどり着けない。

シジューゼ
「あれ、おっかしいな・・・。俺こんなに地図に弱かったかな・・・。」
神父らしき人
「そこの旅人。」
シジューゼ
「ん、はい?」
神父らしき人
「何処か探し物でも?」
シジューゼ
「ここデーモン街で誕生石が飾られている有名な場所を探しているのですが・・・。」
神父らしき人
「それは大聖堂の事ですな。ちょうど私も大聖堂へ戻る所です。よろしければご案内致しますぞ。」
シジューゼ
「それはとても助かります。」

神父らしき人・・・もとい神父に大聖堂の元まで案内される。
途中、広い道を横断したが馬車が何台も通行しておりそのスケールの大きさにビックリするシジューゼ。

シジューゼ
「(こんな大陸の端でこんなにも街が賑わっているなんて凄いな・・・)」

歩く事10分。大聖堂の前へと案内された。

神父らしき人
「どうぞ、お入りください。」
シジューゼ
「失礼します!」



==大聖堂


大聖堂の中に入って真っ先に目につくのは、全長8mはあろう超巨大な石像だった。
石像の右手には青色に輝くサファイアが握りしめられていた。

シジューゼ
「で、でけぇ・・・!」
神父
「あの石像こそ、サンスルリアをお守りしているデーモン様でございますぞ。」

先程の人とは違う神父が現れた。
琶紅並に長い髪に長い髭。髪と髭は白く老人らしさを醸し出していた。

神父
「ここデーモン街には初めて訪れたか?」
シジューゼ
「はい。」
神父
「サンスルリアに良い伝わるデーモン様の伝説はご存知ですかな?」
シジューゼ
「デーモンの伝説?」
神父
「うむ。160年前、大量のモンスターが首都サンスルーを襲撃してきた事がある。」
シジューゼ
「・・・160年前・・・アノマラド大陸全土が危機に陥った不可解な事件か。」
神父
「ほぉ、若いというのに歴史にお詳しいのですな。」
シジューゼ
「(キューさんから聞いた話なんだけどな・・・。)」
神父
「サンスルリアの全軍を集結させモンスターを迎撃していたが無限に湧いてくるモンスターに太刀打ちできず
他国に援軍を要請した。しかし当時、今ほどではないにしろ必滅の地がマナをかき乱し移動を阻害し
援軍は不可能、あるいは数週間の時間がかかるという返答が返ってきた。
間もなくしてサンスルーは陥落。首都に住んでいた住民は全てここデーモン街へと避難してきた。」
シジューゼ
「ふむ・・・。」
神父
「軍を含めた全てのサンスルリア住民がここデーモン街へ集結した。しかしモンスターの追撃は止む事を知らず
デーモン街にも攻撃を仕掛けてきた。退く道はなく背水の陣となった当時のサンスルリア軍は必至の防衛を見せた。
しかし程無くしてついに城壁も陥落。デーモン街も今まさに陥落しようとした瞬間。
海より我らの神、デーモン様が降臨なさったのだ!」
シジューゼ
「はぁ・・・。」

急に胡散臭くなってきたと感じるシジューゼ。

神父
「青く光輝くデーモン様は前線へと立つと神の呪文を唱えた。
天には稲光する暗雲の渦が現れサンスルリア全土に裁きの雷を落としたのです!」

神父が段々と高揚していっているのが分る。

神父
「裁きの雷を受けたモンスターは一瞬にして全滅!こうしてサンスルリアの危機は去ったのであった。」
シジューゼ
「(随分と後半の展開が速かったな・・・。)」
神父
「しかしこの話には続きがあるのです。」
シジューゼ
「続き?」
神父
「裁きの雷を受けたのはモンスターだけではなかったということだ。」
シジューゼ
「・・・・・?」
神父
「モンスターの他に裁きの雷を受けた者。それは我々人間だ。」
シジューゼ
「人間?・・・あぁ、そういうことか。」
神父
「もうお気づきになられたかな?そう、全員が裁きの雷を受けた訳ではない。
人を殺した事がある者、犯罪を犯した者のみが裁きの雷を受けたのだ。
裁きの雷を受けた犯罪者は長い間悪夢に魘され目が覚めた時。
これまでの自分の行いを悔い改め全うな生き方をする事を心に誓った。
われらの神デーモン様が犯罪者に説教をしたのであろう。」
シジューゼ
「(説教をした・・・っという訳じゃなさそうだが・・・)
裁きの雷を放ったデーモンはその後どうなったんだ?」
神父
「裁きの雷を放ったデーモン様の姿は徐々に小さくなり、そして最後には青い宝石。サファイアとなったのだ。
我々はそのサファイアをこうして崇め続け、デーモン様もこの街に犯罪者が入ればすぐに裁きの雷を落としてくれる。
今も我々サンスルリア人とデーモン様は深く繋がっておるのだ。
これが代々伝わるデーモン様の伝説だ。」
シジューゼ
「・・・そしてそこに飾られている石像がデーモンで手に握りしめているサファイアが・・・?」
神父
「デーモン様である。」
シジューゼ
「なるほど・・・。」

・・・・・相当貴重な誕生石だという事は分った。
あれは迂闊に盗める代物ではないな・・・。
いや、下手すると盗んだ瞬間に裁きの雷を受けて目が覚めたときには牢獄に入れられているかもしれない。

シジューゼ
「(これは例えキューさんが起きていたとしてもかなり入手するのは困難だな・・・)」
神父
「毎日午前九時と午後三時に、ここ大聖堂で信仰の鐘を鳴らしておる。
そなたも明日の午前九時と午後三時にここでお祈りしに来るが良い。」
シジューゼ
「分りました。」

一応そう返事しておく。

シジューゼ
「面白いお話ありがとうございました。しばらくここで祈りを捧げても良いですか?」
神父
「おぉ、他国の者でありながら素晴らしい心構えだ。ゆっくり祈りを捧げてゆくと良い。」

そういうと神父は他の所に移動して行った。

シジューゼ
「・・・・どうしたものか・・・」

石像に一番近いベンチに座り考え込む。
・・・魔法は一切使えないせいかあの誕生石から魔力は感じられない。

シジューゼ
「・・・・・・・。」
















==???




真っ暗な世界をひたすら歩き続ける。
もう何キロメートル歩いただろうか?

キュー
「なーお父さん?」

・・・・・。

キュー
「あれ?お父さん?」

さっきまでぴったりくっ付いて歩いていたのに居なくなっていた。

キュー
「琶月ー?輝月ー?」
琶月
「何?」
キュー
「なーんだ、琶月だけいるのかー。」
琶月
「あああー!!そのいかにも戦力にならなさそうな台詞!!今にぎゃふんと言わせてやるー!!」

琶月がぶんぶんと腕を振る。

キュー
「にひひひ、絶対無理だと思うぜ。」
琶月
「う、うぅぅ・・・。」
キュー
「ところでアタシ達の目的ってなんだったっけ?」
琶月
「目的?・・・えーっと・・・・。・・・・あれ?」

・・・目的を知らない。

もっと言えば何故ここにいるのかも分らない。

キュー
「・・・さっきからそれだけ浮かんでこないんだよなぁ〜・・・。
何でアタシ達はここにいるんだろう。」
琶月
「・・・・・・・。」

琶月も考える。

キュー
「シジューゼとフィーゼなら分るかな。
・・・・ん?シジューゼとフィーゼって誰?」
琶月
「ボケ突っ込み?」
キュー
「乗り突っ込みの間違いだろ〜。」
琶月
「いいえ!ボケ突っ込みです!!」
キュー
「乗り突っ込みだー!!」

どうでもいい事で喧嘩する。

キュー
「・・・はぁ・・はぁ・・・喧嘩なんでやめようぜー・・・。」
琶月
「賛成賛成!」

再び真っ暗な世界を歩き続ける。
・・・目の前に何かある。
・・・城壁?

キュー
「お、でかい壁だなー。こいつはちょっと登れないぜ。」
琶月
「門を潜ったあの城壁と同じ城壁かな?だとすると一番奥まで歩いたってことなのかな・・・。」
キュー
「んー、とりあえず壁に沿って歩いて行けば必ず出口が見つかるぜ。」
琶月
「迷路なのかな、これ・・・。」

とりあえず壁にそって歩きはじめる。

・・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

段々と足取りが重くなってきた。

キュー
「・・・何か疲れてきた・・。」
琶月
「師匠ー・・・どこにいるんですかー・・・。」
キュー
「・・・一生ここに閉じ込められたりしないよな・・・?」
琶月
「・・・え!?キューさん帰り道知ってるんじゃなかったの!?」
キュー
「知るはずがないぜ。ここにどうやって来たのかすら分らないんだからなー。
・・・そういう琶月こそ知ってるんじゃなかったの・・か・・?」
琶月
「知らない。」
キュー
「・・・・・・・。」
琶月
「・・・・・・・。」

急に強い不安に襲われ、その場に座り込んで二人して泣き始めた。












==デーモン街・大聖堂



シジューゼ
「・・・・・・・。」

気がつけば夕方になっていた。

シジューゼ
「やべ、もうこんな時間か。キューさん起きたかな。」
フィーゼ
「兄さん、ずっとそこにいたの?」
シジューゼ
「ん、フィーゼ・・・。誰か一人テントに残る予定じゃなかったのか?」
フィーゼ
「罠張っておいたから大丈夫。」
シジューゼ
「・・・そうなのか?」
フィーゼ
「・・・・あれが探している誕生石?」
シジューゼ
「ああ。」

デーモンが握りしめている誕生石に指差す。

フィーゼ
「・・・・・?」
シジューゼ
「どうした?」
フィーゼ
「・・・魔力を感じない。普通の宝石・・・?」
シジューゼ
「・・・そんなまさか。まだまだ見習い魔術師だから魔力を感じられないだけじゃないのか?」
フィーゼ
「・・・キューさんから誕生石を見せて貰ったけど魔力を感じる事は出来た。
あれ程強い魔力なら兄さんでもちょっとは分ると思うけど。」
シジューゼ
「なら、あれは本当に違う宝石なのか?」
フィーゼ
「もう少し詳しく調べないと分らないと思う。でもその線はとても濃いよ。」
シジューゼ
「参ったな・・・・。なら一体どこにあるんだ。まさか・・・作者が先に来てすり替えたとか!?」
フィーゼ
「・・・・あるかもしれないよ。」
シジューゼ
「・・・とにかくあれが偽物である証拠を探さなければいけないな・・・。
さっきの神父に聞けば何か分るか・・?」





神父
「デーモン様がお持ちになられているサファイア?」
シジューゼ
「そうです、先程お聞きしたあのデーモンの伝説。デーモンがサファイアになった後ずっとあの石像が
握りしめているんですか?途中傷がついたからとかでサファイアを交換してたりしてませんよね?」
神父
「勿論、そのような事はしておらん。それにしても随分と長い事祈りを捧げていたようだ。
少し疲れたのでは?デーモン様の無理な祈りは望んでおらん。今日は帰ってゆっくり休むと良い。」
シジューゼ
「・・・・。」

とりあえず礼をして神父から離れる。

シジューゼ
「・・・あの伝説が本当ならとてつもない魔力を感じそうなんだけどなぁ・・・。」
フィーゼ
「・・・・・。」
シジューゼ
「有効期限が切れたとか?」
フィーゼ
「フッ。」

フィーゼが鼻で笑う。

シジューゼ
「・・・・お前さり気なく酷いな。」
フィーゼ
「別に・・・。兄さんにしては面白い事言ったって思っただけだから。」
シジューゼ
「してはって何だ、してはって。」
フィーゼ
「・・・神父さんが言った通り今日はもう休もうよ。旅の疲れも残ってる。」
シジューゼ
「・・・ま、そうだな。今日何だかんだでエスケープ含めて70Kmぐらい進んだからな・・・。」

段々と辺りが暗くなり始めてきた。
完全に暗くなるちょっと前にテントへと戻る二人。

シジューゼ
「・・・・ん?」
フィーゼ
「?」

大聖堂を出ようとしたその時、石板が目に入った。
今まで無視してたけど何かデーモンの伝説に関する事が書かれていないだろうか。

シジューゼ
「(例えば、本物は別の所に飾られています・・・とかな。あるかもしれない)」

フィーゼもなんとなく察知したらしく一緒に石板を読み始める。

・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。

殆どの事は神父が話していた事だった。

シジューゼ
「・・・わりぃ、テントに帰るか。ん?フィーゼ?」

気がつけば横に居たはずのフィーゼが居なくなっていた。

フィーゼ
「・・・デーモンの裁き。」

フィーゼが別の石板を読んでいた。

シジューゼ
「裁き?」
フィーゼ
「・・・・・。」


『デーモンの信仰、掟を破った者には裁きの雷が落ちる事だろう。
デーモンの説教は重く、暗く、長い長い年月を要する事もある。
しかし、教えに従いこれまでの事を悔い自らを改め直せばデーモンの祝福と共に
再びこの世に舞い降りる事ができるだろう』


フィーゼ
「・・・・キューさんと琶紅さんは今デーモンの説教を受けているはず。」
シジューゼ
「説教って・・・隊長のマシンガン説教みたいなあれか?」
フィーゼ
「口で説教してたらきっと優しいほうだと思うよ。」
シジューゼ
「・・・どういうことだ?」
フィーゼ
「・・・気になるならデーモンの説教受けてみる?」
シジューゼ
「いや、遠慮しておく・・・。
・・・・・・。」

シジューゼがもう一度デーモンの石像を見る。

シジューゼ
「・・・なぁ、フィーゼ。」
フィーゼ
「・・・何、兄さん。」
シジューゼ
「・・・あと30分だけ考えていいか?」
フィーゼ
「物好きだね、兄さんも。」
シジューゼ
「そう言わずに付き合ってくれよ。」
フィーゼ
「・・・お腹減った。」
シジューゼ
「お前、心の中で相当俺に悪態ついてるんじゃないのか・・・?」
フィーゼ
「別に。」

とりあえずデーモンの石像の前にあるベンチに座り、再びどうすれば誕生石が手に入るか考える。





==???




琶月
「ぐすんぐすん・・・」
キュー
「・・・・歩こ・・・。もしかしたら出口見つかるかもしれないし・・・。」
琶月
「・・・そうだね。」

随分長い事泣いた後、再び立ち上がり歩きはじめる。
・・・・壁に沿って歩く。

・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

真っ暗な空間の中にポツンと壁だけがあるだけの世界。

・・・。

・・・・・・・・。

また随分と長い距離を歩いた。

琶月
「・・・・あれ?何かある・・・?」
キュー
「・・・・お!

目の前に大聖堂が現れた。
もしかすると出口かもしれない。
二人とも走って大聖堂の中に飛び込む。


大聖堂に飛び込んだ瞬間、光に包まれ二人は何処かに飛ばされた。






==????




キュー
「おーおー、今の光は何だ?・・・・琶月ー?おーい、琶月ー!」

・・・琶月がいない。
しかしその前に今いる場所に強い違和感を覚える。

キュー
「ここはどこなんだ・・・?」

「・・・イレギュラーな存在・・・。」

キュー
「ん?」

何処からともなく声が聞こえた。
・・・辺りを見回すが誰もいない。気のせい?

「・・・キュー。貴方はこの世界にとってイレギュラーな存在だ。
この世界に存在してはいけない。」

キュー
「おーおー!いきなり話しかけてくればとんでもない事言ってくれるなー!アタシに死ねって言ってるのか!」

「その通りだ。」

キュー
「うっ、な、なんだって・・・。」

「私はデーモン。サンスルリアを守護する神。
・・・キュー。貴方はアノマラド大陸の者ではない。すぐにこの世界から消えるべきだ。」

キュー
「知らない人に死ねって言われてすぐ死ぬ人何て誰もいない!」

「・・・出来ることなら貴方の父、キュピルと共に事が起きる前に本当の世界に帰すべきだった・・・。」

キュー
「・・・お父さん?本当の世界?」

「貴方の父はこの世界の住人ではない、とある異次元からやってきたイレギュラーな存在だ。
そのイレギュラーな存在がまたイレギュラーな者を呼んだ。
貴方が今、誕生石を集めアノマラド大陸を救おうとしているが貴方がこの世界に残り続ける限り
永遠にアノマラド大陸は危機に晒され続ける。何度も同じイレギュラーに襲われる。」

キュー
「・・・今ここで作者を倒しても、また作者は復活するって言いたいのか!」

「そうだ。お前がこの世界、アノマラド大陸にいる限り何度でも作者は蘇り
そして何度でもお前の大事な仲間は危機に晒され続ける。一人例外はいるが・・・。」

キュー
「例外?」

「琶紅だ。」

キュー
「何で琶紅は例外なの?」

「琶紅は既に死んでいる。死者がまた死ぬことはない。」

キュー
「し、死んだ・・・!?・・・デーモンと言ったね!!まさかデーモンが!!!」

「違う。琶紅・・正確に言うと琶月は157年前。師匠を殺害した際、その己の行いを後悔し自殺した。」

キュー
「だけど琶月は死ななかった!」

「琶月はその時死んだ。」

キュー
「聞こえなかった?琶月は生きてる!死んでたら琶紅もいないはずだよ!!」

「157年前。輝月が薬物によって身も心も汚し正常な思考が出来なくなっていた。
再び自身に薬物を投与しようとした際、琶月にその場を見られた。
輝月は琶月にも薬物を投与しようとしたが師匠に教わった反撃技で輝月を殺した。
たった一分間の出来事の間に琶月は強い精神的ショックを受け自殺を図った際にも
今の出来事は全て夢だと思い続けて死んだ。・・・強い怨念を残して琶月は死んだのだ。
強烈な怨念が魂を実体化させていた・・・ただそれだけのことだったのだ。」

キュー
「・・・・じゃ、じゃぁ・・・今まで琶月・・・琶紅が攻撃を受けても死ななかったり
歳も取らないのは・・・・。」

「既に死んでいるからだ。」

キューが動揺する。
・・・しばらくして

キュー
「・・・でも、逆に聞いて安心した。何が起きても絶対に琶紅は安全って事なんだね。」

「果たしてそうだろうか。」

キュー
「・・・どういうこと?」

「死にたくても死ねない。その状況がどれ程危険な事か分るだろうか?」

キュー
「わかんない!・・・むしろ、琶紅だったら不老不死は喜ぶ気がする。」

「・・・不老不死というのは時には拷問になるのだ。
もし、琶紅が作者に捕まれば?」

キュー
「・・・どうなるって言うの。」

「作者の楽しみは『狂気の人生』だ。・・・不老不死な存在は作者にとって格好のターゲットかもしれない。
まだマークしていないようだが、もし作者が琶紅をマークし捕まえて気が狂うまで拷問をかけられたら?
人類が滅ぶまで牢獄に閉じ込められたら?」

キュー
「絶対にそんなことはさせない!!そうならないためにも作者を倒す!!」

「言ったはずだ、キューがこの世界に存在し続ける限り作者は何度でも蘇りまた襲いかかってくると。」

キュー
「・・・・・それなら発想を逆転させて質問するよ。・・・どうすれば作者を倒せるの?」

「・・・作者を倒す術は・・・ない。」

キュー
「嘘だ!!じゃーアタシが誕生石を集めていたのは一体何のためだったの!!」

「誕生石を集めていた事に意味はある。だがそれが作者を倒す鍵とはならない。
キュー、もし作者を倒すつもりで誕生石を集めていたのであればそれは無駄っという事だ。」

キュー
「そ、そんな・・・・・。」

・・・心の支えとなっていたものが突然なくなった。
・・・足の力が抜けその場にペタンと座りこむ。

「琶紅だけではない。ギーンやシジューゼ、フィーゼ、そしてファン。
アノマラド大陸に住む全ての者が作者の脅威に晒されている。
・・・キュー、お前は存在すらしてはいけない。」

キュー
「っ・・・うっ・・・ぅっ・・・えぐっ・・・。」

心の支えが折れた後に更にそんな事を言われれば泣きたくなる。

「お前が元の世界に帰れば琶紅はこれから先も脅威に晒されずに生きていける。
アノマラド大陸に住む者全てが平和に暮らせる。」


しばらく間をおいて


「今すぐにアノマラド大陸から出ていけ。」

強烈なプレッシャーに圧倒され、後ろに倒れる。
・・・目の前に白い扉が現れた。

「私の持つ全ての力を使えば貴方を元の世界に返す事が出来る。さぁ、帰るのだ。
お前が居るべき本当の世界へ。」

キュー
「・・・行けば・・・行けば全てが円満に行くんだよね・・・・?
琶紅も幸せに暮らせるんだよね・・・・?」

キューが涙目になりながら答える。

「そうだ。さぁ、行け。」


キューが立ちあがる。

白い扉に向かって歩きはじめる。


「安心していい。今は居ないがいずれちゃんとキュピルとルイも元の世界へ連れて帰らせる。
・・・その先で三人仲良く暮らせばいい。」


キュー
「・・・わかった・・・。」


キューが白い扉に手をかける。














その瞬間だった。




突然白い扉が粉々に砕かれ暗黒の世界に白い閃光が走った。
違和感が全て消え、記憶も全て元通りになり、姿も大人の姿に戻った。


「・・・っ!?ま、まさか!?」



作者
「危ない危ない・・・。危うくキューを完全に手放す所だったではないか・・・。・・・・貴様は死んでいい!!!」


作者も同様に声は聞こえるが姿は見えない。
・・・しばらくしてデーモンの断末魔が響いた。












==大聖堂


パキッ


ヒビの入る音が聞こえた。

シジューゼ
「・・・今の音なんだ?」
フィーゼ
「・・・・!誕生石から強い魔力を感じる。」
シジューゼ
「・・・本当だ・・・。俺も感じるぞ・・・。魔力って・・・ゾワゾワした感じがするんだな・・・。」

バキバキッ・・・

シジューゼ
「・・・なぁ、石像にヒビ入っていないか・・・?」
フィーゼ
「・・・砕ける。」
シジューゼ
「うわ、逃げろ!」

デーモンの石像にヒビが入り、粉々に砕けてしまった。そしてシジューゼの前に誕生石・・サファイアが転がった。

フィーゼ
「・・九月の誕生石。」

神父
「一体何事でs・・・ど、どひぃぃぃゃやぁぁぅっっっ!!?デェ、デェーーモン様がああぁぁぁぁあああぁぁ・・・・。」

神父が叫んだ後、その場で気を失ってしまった。

シジューゼ
「・・・とっとと、逃げよう!」

シジューゼが誕生石を拾い走ってテントに戻って行く。















==???



作者
「キュー。この世界を見捨てて逃げ出そうとは・・・・。今頃キュピルもカンカンだろうな?」
キュー
「・・・・・・・。」

作者がキューに近づく。一歩、近づいてくるたびにキューが後ろに一歩下がる。

作者
「おぉ、私が怖いのか?それはいけない。キュピルは私に対して強い殺意を感じた。
それだというのにキュー、お前からは恐怖心しか感じられない。それではキュピルも悲しむではないか。」
キュー
「く、来るな・・・!」

キューが愛剣を抜刀しようとする。・・・・ところが手元にない。

キュー
「あ、あれ・・・!?」
作者
「・・・ククク、あのデーモンという奴も面白い事してくれたな。キュピルの愛剣を失くさせるとは。
困ったなぁ?キュー。お前が大切に・・大切にしていた愛剣が無くなってしまったぞ?
武器がない、幽霊刀の恩恵もない。さぁ、どうする?」
キュー
「う、うぅっ・・・。」

後ずさりしていると見えない壁にぶつかった。

作者
「この世界は私が乗っ取った。この場にいるのは私とキューだけだ・・・。」
キュー
「・・・アタシを殺す気?」
作者
「殺す?そんなことはしない!キューが死ねば私の楽しみが一つ減ってしまうではないか!
・・・しかし。・・・精神は死んだも同然になるかもしれんがな。ククク・・・。」
キュー
「・・・・・。・・・・・!!?」

瞬きした瞬間、すぐ目の前に作者が接近していた。人差し指でキューの額を思いっきり押され後頭部を打ちつける。
逃げようとするが物凄い力で頭を抑えつけられ逃げられない。

キュー
「い、痛っ・・・・!!?」
作者
「この時を待ちわびた。何十年もの間、復活の時を待ち力を取り戻しそして親子代々揃って
私の手中に納める・・・。素晴らしい・・・。」

作者の指先が光る。

作者
「まずはその記憶を塗り返させて貰う。なに、心配する事はない・・・。
すぐに私が新たに用意した小さな世界で狂った人生を歩んでもらうだけだ・・・。
私を楽しませてくれ、ククク・・・・。」


キュー
「い、嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!




作者を蹴り飛ばそうとするが足すら動かない。

作者
「・・・・・ぬっ!?」
キュー
「?」



突然作者が後ろにバックステップする。
キューの目の前を何かが通った。

琶紅
「キューさん!!」
作者
「・・・・誰だ?どうやって私の世界に?」
琶紅
「私は!・・・えーっとえーっと、世界最強の不死身の侍!!
・・・気が付いたらここにいた・・・・。」
作者
「不死身か。では試しに拷問にかけてみようではないか。」
琶紅
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!キューさん!とりあえず逃げましょうよ!」
キュー
「うぅっ・・・あ、頭が・・・痛い・・・。」
作者
「逃げる?何処へ逃げる?この世界は私がコントロールしているのだぞ。その気になれば
この空間ごと押しつぶして貴様等を圧迫死させることができる!」
琶紅
「中二病!!中二中二!!!」
作者
「・・・・今まで見た事ない性格している。・・・・面白い。」
キュー
「琶紅・・・・。」
琶紅
「何?」

琶紅がよそ見する。その瞬間作者の手からエネルギー弾が飛び出し琶紅に直撃した。
一瞬のうちに遥か数百メートルまで吹き飛んだ。

琶紅
「・・・・・・・・(死んだふり」
作者
「どうやら確かに死なないようだ。」
キュー
「琶紅・・・逃げよう・・・。今はまだ勝てない・・・!」
作者
「逃げるか!しかし逃れられる事は出来ないぞ!!」

逃げようとしたがキューの周りに透明な壁が作られキューを囲む。
すぐに壁にぶつかり方向転換して逃げるが一歩踏み出す間もなくぶつかり完全に閉じ込められてしまった。
キューがパニックに陥って壁をドンドンと叩く。

作者
「これでお終いだ・・・。今度こそ、私の作りだした世界へと連れて行く。」


作者が両手を広げ魔法を唱えたその瞬間。
空間にヒビが入った。

作者
「・・・何だ!?」
キュー
「・・・か、辛!!!」
琶紅
「え?・・・・ぎゃあぁぁぁっ!!」











==テント


フィーゼ
「早急にここから離れる必要がある。」
シジューゼ
「ああ、こうなったら二人には悪いがスペシャルドリンクで目を覚ますしかない!」

シジューゼがハバネロの瓶を一本開けキューの口の中に突っ込む。

シジューゼ
「こいつは通常のハバネロの100倍辛いスペシャルドリンクだ。これ飲んで目覚まさない奴はいない。」











数秒後。


倒れているキューの目がカッと開き、物凄い断末魔を上げながらテントから飛び出して行った。
その数秒後。琶紅も同様にして飛び出しテントからちょっと離れた所で再び気絶してしまった。

フィーゼ
「兄さん、また気絶してしまった!」
シジューゼ
「今のは反射神経みたいなものだ。完全に目を覚ますのに10分はかかる!」
フィーゼ
「・・・・。」
キュー
「10分もいらなーーーーい!!!!」
シジューゼ
「うおっ!」

キューがヒーヒー言いながら涙を流す。

キュー
「こ、ここはー!!?・・・現世!!シジューゼが起こしてくれたの!?」
シジューゼ
「お、おう!」
キュー
「心の底からありがとう!!!」

キューがバッとシジューゼに抱きつく

シジューゼ
「う、うわぁっ!?」

シジューゼが反射神経でキューを突き飛ばす。

キュー
「あー!人の好意を台無しにした!」
琶紅
「はひぃー!はひぃぃー!!」

琶紅が必死に辛さをアピールしているが誰も触れてくれない。

シジューゼ
「お、おおお、お、お、お俺は!!」
フィーゼ
「・・・キューさん。訳あって早くここから離れる必要があります。エスケープ使いますよ。」
キュー
「え?」

フィーゼが誕生石をキューに見せる。それを見たキューが瞬間的に状況を読み取り

キュー
「分った!すぐテント片付ける!琶紅、手伝って!」
琶紅
「はらはらはらはらひぃぃーーー!!」



・・・・数分後、エスケープで即座にデーモン街から脱出した一行。


結果的にフィーゼ達が誕生石を手に入れた。



しかし。




キュー
「(・・・・・・どうしよう。
・・・・あの出来事が・・・心に深く残ってて・・・・・)」

シジューゼ
「・・・キューさん?どうかしましたか?・・・・震えてますよ。」
キュー
「な・・・なんでもない・・・・。」
シジューゼ
「・・・・・。」


作者に対する恐怖心が確実に大きくなっていた。





続く




追伸


最終話が近くなってまいりました。
ところでシジューゼがキューにハバネロソースを飲ませるやり取り。元ネタがあります。分る人は間違いなく30↑



第二十話


残りの誕生石はケルティカにある誕生石と必滅の地にある誕生石だけとなった。
しかしいくつかは作者の手に渡っており全ての誕生石が手元に持ってくるにはかなり難しい状況だ。

キュー
「(・・・・・・)」

・・・・・。



作者
「殺す?そんなことはしない!キューが死ねば私の楽しみが一つ減ってしまうではないか!
・・・しかし。・・・精神は死んだも同然になるかもしれんがな。ククク・・・。」


作者
「まずはその記憶を塗り替えさせて貰う。なに、心配する事はない・・・。
すぐに私が新たに用意した小さな世界で狂った人生を歩んでもらうだけだ・・・。
私を楽しませてくれ、ククク・・・・。」



キュー
「(・・・・幽霊刀・・・仮に持っていたとしても・・・・。・・・精神を攻めて・・・私を欲してるんだったら・・・。
・・・・・幽霊刀があっても・・・何も防げない・・・・?)」






シジューゼ
「キューさん、何を考えているんですか?」

シジューゼに問いかけられハッとする。

キュー
「何でもないよ!とりあえず今私達が出来そうな事は殆どやった。一回トラバチェスに戻ってギーンと相談しに行こう。」
シジューゼ
「もう一度あの首相と話しをすることになるのか・・・。緊張するな。あの頃と比べて俺は成長しただろうか。」
フィーゼ
「以前より哲学的になったと思う。」
シジューゼ
「そ、そうか?」
フィーゼ
「(褒めてないけど)」
琶紅
「ギーンさん・・・。随分と長い事合っていないから少しだけ緊張します。」
キュー
「(問題はアノマラド東部の主要な場所全部通ったのにファンに出会えなかったって事だけ・・・。
一体ファンは何処に行っちゃったんだろう・・・・)」

キューが鞄からシルフの風を取り出す。

キュー
「今居る場所からワープする場所を直線状に引いて必滅の地があるとワープできないんだったよね?」

キューが大陸地図を広げる。





キュー
「今私達はちょうど東北の少し飛び出てる場所近くにいるから
シルフの風を使って一気にドリームファクターまで一旦ワープしてその後トラバチェスに移動しよう。」
シジューゼ
「帰りは楽でいいな!」
キュー
「よーし、さっそく使うよ!荷物まとめた?」
琶紅
「もちろん!」
キュー
「じゃ、ワープ!」



ドリームファクターを経由し、トラバチェスへと移動する一行。
トラバチェスまで移動するのにものの一分もかからなかった。

トラバチェスからデーモン街まで移動するのに数カ月かかったあの道が一分・・・。





==トラバチェス


数カ月ぶりに戻ってきたトラバチェス。街の景観は一切変わっていなかった。

キュー
「変わってないなぁー。」
琶紅
「10年前と比較しても何も変わっていませんね・・・。」
キュー
「ギーンに会いに行こう。」

トラバチェス首都中央に聳え立つ禍々しい塔へと向かう。








==トラバチェス・王室




ギーン
「禍々しい塔か。・・・この杖でぶん殴るぞ。」
キュー
「何でアタシの心の声を読みとれたの。」

ギーン
「ふん。」
キュー
「鼻で笑うなー!」
ギーン
「一人、懐かしい奴がいるな。」
琶紅
「お久しぶりです!」
ギーン
「・・・ファンがいないな。」
キュー
「アノマラド東部の主要な場所は回ったんだけど・・・ファンには出会えなかった・・・。
琶紅と出会えたのも奇跡に近かったから・・・。」
ギーン
「・・・そうか。それで、どうだ。誕生石は手に入れてきたのか?」
キュー
「手に入れてきた。・・・・二個だけ。」
ギーン
「・・・二個だと?随分と少ないな。」
キュー
「途中・・・嫌なトラブルがいくつかあったよ。・・・作者に遭遇した。」

それを聞いたギーンの表情が一気に険しい物となった。

ギーン
「・・・ちっ、もう本格的に行動を始めたか。今の力で数回退いたのか?」
キュー
「二回遭遇したんだけど・・・一回は作者の方から退いたよ。・・・二回目はシジューゼが助けてくれた。」
シジューゼ
「え、あ、は?お、俺がキューさんを・・・作者から助けた?」
キュー
「あ・・・そういえば裁きの雷受けた後の事話してなかった・・・。
・・・そう、せっかくだから裁きの雷を受けた時の話をギーンにも聞いてもらう。」

デーモン街で裁きの雷を受け、デーモンと直接話をした事を話す。

その際、キューがアノマラド大陸に残り続ける限りアノマラドは何度でも作者の脅威に晒され続けるっと言われ
別の世界へ飛ばされようとした瞬間にデーモンの世界に作者が介入しデーモンを抹殺。
作者の世界の中で危うく屈服しかけた事も話す。ただ、琶紅が既に死んだ人物であることは隠しておいた。
いや、言う必要はない。

・・・・そしてどうあがいても・・・今のキューでは作者を倒せない事。
・・・誕生石は作者を倒すキーアイテムではない事も話す。

一応アノマラド東部へ行っている間に何が起きたかも全て話す。

ギーン
「・・・・・・。」

ギーンが考える動作をする。

シジューゼ
「危ない所だったんだな・・・。・・・キューさん、いくら神とはいえど信じる事なんてないですって!」
ギーン
「楽天的、かつ愚民的思考だな。シジューゼ。」

初めてギーンに名前を言われ、そして自分に向かって問いかけられた。
庶民と首相。圧倒的地位の差ゆえに今の言葉はシジューゼにとって非常に重い言葉だった。

シジューゼ
「ぐ、愚民的思考だって・・・!?」
ギーン
「何故デーモンの発言を嘘と断定する。断定するならそれなりの証拠はあるんだろうな。」
シジューゼ
「・・・・ない。」
ギーン
「・・・・こういう状況だからこそ。どんなに悪い事実でも真に受け止め考えなければいけない。」
シジューゼ
「なら良い考えがあるんですか!?俺達は誕生石を集めていた、ところがその誕生石は
作者を倒すキーアイテムではなかった!」
フィーゼ
「兄さん。・・・少し落ちついて考えたほうがいいよ。」
琶紅
「・・・でも・・・。・・・今まで集めていた誕生石が・・・作者を倒すキーアイテムじゃなかったなんて・・・。
・・・少し・・・ショック・・・。・・・ううん、かなりショック・・・。」

琶紅が無表情で呟く。

ギーン
「ふん。どこぞの馬の骨か知らん奴から送られた手紙を信じきるからこうなるんだ。」

ギーンがバッと何かをキューに投げつける。それをキューが片手でキャッチする。
・・・四月の誕生石、ダイヤモンド。

ギーン
「・・・国家権限を用いてそれ相応の宝石を交換して貰った。だがそんな石ころ一つが何の役に立つ。」
キュー
「・・・確かにあの手紙一枚を信じるのは少し無理があったのかもしれない。
だけど何の手掛かりもない状態で突然あの手紙が送られてきた。その手紙の指示通り誕生石を集めた。
あの時と比べれば色々進展しているはずだよ!」
ギーン
「ああ進展したな。悪い方向にな。」
キュー
「・・・ねぇギーン。ちょっと気が立ってない?」
ギーン
「・・・・・・。」

ギーンが深いため息をつく。

ギーン
「・・・すまない。少し冷静になろう。俺も歳だ。・・・・・・・・。」

ギーンが何か考えている。

ギーン
「・・・・キュー。」
キュー
「何?」
ギーン
「・・・一つ聞きたい。もし今別世界へいける扉があればお前はその扉を潜るか?」
キュー
「潜ればアノマラド大陸が救われるとしたら?」
ギーン
「そうだ。」
キュー
「・・・現に潜ろうとしたよ。」
ギーン
「・・・・・・・・。」

ギーンが深く悩む。

ギーン
「・・・・そうやってキュピルもこのアノマラド大陸から姿を消した。
『俺が居なくなれば作者も居なくなる』っと勝手に抜かしやがって・・・。
結局あいつが居なくなっただけで作者は再び現れた。こっちは貴重な人物を失っただけだ。」
キュー
「・・・・お父さん・・・。」
ギーン
「・・・・・・・。」
フィーゼ
「・・・デーモンは言ったんだよね?誕生石は作者を倒すキーアイテムではないって。
でも集める事事態には意味があるって。・・・倒すまでには至らなくても一時的に作者を封じ込める事が
出来るのかもしれない。人間にとってそれが永遠と思えるほど長く封じ込められるのかもしれない。」
ギーン
「・・・確かにデーモンの発言は意味深だな。・・・・。」
キュー
「・・・誕生石を全部、集めようよ。ここまで来たんだったら・・・その望みにかけてみるのもいいと思う。」
ギーン
「いくつか奴に誕生石を奪われているんだろ?」
琶紅
「全ての誕生石をこっちの手元に置くには・・・やっぱり作者のいるアジトに襲撃を仕掛けないといけない・・?」
シジューゼ
「そんな事出来るのか・・・?」
ギーン
「・・・キューが作者に対して怯えている。かなり無理があるな。」
キュー
「お、怯えて何かいないよ!!」
ギーン
「ふん。・・・お前はキュピルと比べると数百倍格下だ。」

格下判定を喰らいキューが怒りだす。

キュー
「そんな事ない!私は・・・私は・・・。」
ギーン
「・・・キュー。」
キュー
「・・・何?」
ギーン
「・・・作者に対して何が怖い?死か?」
キュー
「・・・死は・・そんなに怖くないよ・・。でも・・作者と対峙した時・・。
作者は・・・私を殺すとかなんかじゃなくて・・・作者が面白いようにきっと私を改造していく・・・ルイみたいに・・・。
お父さんの事とか・・・琶紅の事とか・・皆の事を忘れられてしまう・・そう分った瞬間・・・急に怖くなって・・・。」
シジューゼ
「キュ、キューさん・・・。」

キューが怖くなったと発言しそれを聞いたシジューゼが少し動揺する。

ギーン
「・・・・・。」

ギーンの表情がより険しい物となる。

ギーン
「・・・キューが幽霊刀を取り返し、力を再び手に入れても今のキューでは負ける可能性が高すぎる。
キュピルのように決意が何一つない。ただ目の前の出来事を消化する。作業をしているような感覚だ。」
キュー
「・・・・・・。」
ギーン
「・・・・ふん。・・・堕ちたな、キュー。」

ギーンが杖で地面を二回叩く。その瞬間、目の前に何かの刀が現れギーンがそれをキューに投げつけた。
キューがその刀を受け取る。

キュー
「・・・!!!!」

今、キューが握りしめている物。それは幽霊刀。

ギーン
「お前が石化し沈んでいた場所を探索し封印されている幽霊刀を見つけ出した。
封印を解除し幽霊刀を取り戻したが・・・。今のお前では幽霊刀を持っていたとしても作者に敵う見込みがない。」
キュー
「・・・・・・・・。」

キューが無言になる。

琶紅
「・・・ちょ、ちょっとギーンさん!!キューさんの自信が・・・余計に・・・。」
ギーン
「・・・部屋を貸してやる。そこで一日じっくり今の状況を踏まえて考えろ。そして自分の中の答えを見つけて
俺に言ってみろ。・・・ミーア、この四人を客室に案内してやってくれ。」

突然天井から包帯を全身に巻いた誰かが降りてきた。

ミーア
「・・・承知。こっちだ。」

歩いて客室まで案内される。



ギーン
「・・・・・・・・。」




==塔・通路

琶紅
「・・・あ、あの。ミーアさん・・。お久しぶりです。私の事分りますか・・・?」
ミーア
「・・・何百年ぶりだろうな、琶月。」
琶紅
「あれ!?私の事分ったんですか!?こんなにも姿が変わったのに!」
ミーア
「・・・フ、姿が変わった?よく言う。髪が伸びただけで何も変わっていない。
琶紅と言われていたが改名でもしたのか?」
琶紅
「あ、え?そうなの?ほんと?私顔変わってないの?」

琶紅が自分の姿をマジマジと見る。

シジューゼ
「顔じゃなくて姿みてどうするんだ・・・。」
琶紅
「あ、そっか。」
ミーア
「・・・キュー。」
キュー
「・・・・何?」
ミーア
「・・・私もギーンも全盛期と比べてすっかり力が衰えた。
もうこのアノマラド大陸を支える者がいない。・・・160年前までは沢山の人がこの大陸を支えてくれていた。
・・・ルーンの子供達、キュピル達、そして私達。様々な出来事が交差しながら私達は混じり合い
そしてこの大陸を何度も危機から救った。
・・・だが英雄である彼等はこの世を去り、そしてキュピル達も殆どが行方不明、あるいは死んだ。
キュー。この大陸を支えろとは言わない。・・・しかし、この大陸を支えれるのはキュー。お前しかいない。」
キュー
「・・・・・・・・。」
ミーア
「・・・・ここから五つ。並んでいるドアが客室に繋がっている。好きに使っていい。」

そういうとミーアはジャンプし天井にぶつかると思ったその瞬間にはいなくなっていた。

シジューゼ
「あれで力が衰えたって言うのかよ・・・!俺より全然凄そうな奴だったぞ・・・!」
フィーゼ
「・・・・・・。」
キュー
「・・・・。」
シジューゼ
「・・・な、何か俺言ったか?」
フィーゼ
「そういう意味で黙ってたんじゃないと思うよ。」
キュー
「・・・・・・・。」

キューがドアの前で突っ立っている。

シジューゼ
「・・・・?」

キューが無言で幽霊刀を抜刀する。その瞬間、体全身に懐かしい力が蘇り
霊感が高まり、感覚が研ぎ澄まされ、五感が冴えだす。
誰が見てもキューが突然、力が身についたのが分る。

シジューゼ
「な・・・なんだ・・・?この感覚・・・?まるで電気に直接手で触れたような・・・。」
琶紅
「10年前。キューさんはあのオーラを醸し出しながら誕生石を集めていた。
・・・でも・・・その時と何かが違う・・・。」
シジューゼ
「す、すげぇ・・・。あれが・・・選ばれし者って奴なのか?」
フィーゼ
「兄さん、また夢みたいな事を言っている。」
キュー
「・・・・。」

幽霊刀を鞘に戻す。それでも力は消えていない。

キュー
「ちょっと一人でじっくり考えてくる。・・・また明日・・ね。」


シジューゼ
「・・・・キューさん・・・。」




==塔・客室




キュー
「・・・・・・。」


ベットに飛び込み、うつ伏せに寝る。

キュー
「(・・・・・・。)」

作者は・・・狂気な人生を見て楽しむらしい。
今までキュピルに対しても何に対しても実行に移してきたのは狂気な人生を楽しむためらしい。
今回の作者のターゲットは今まで明確になっていなかったが前回の一件で明らかにキューを狙っているのが分った。

・・・何処にでも現れ、圧倒的な力を持ち、そして・・・

キュー
「(・・・私が壊れる所を見たがっている・・・)」


・・・人道に反した行動。とても常人では考えられない狂った思考。
いつ、自分が廃人になるか。考えるだけで嫌な汗をかく。


キュー
「・・・・・待って・・・・。」

キューがはっと何かに気付き顔をあげる。
鼓動が激しくなる。

キュー
「・・・作者は何処にでも現れる事が出来る・・・・。
あのデーモン・・・神の世界にだって入って来れた・・・。
・・・・なら・・・・。」







今、私が一人で居る所に襲撃をかけようと思えばかけられる・・・?








バッと起き上がり、すぐに部屋から飛び出そうとする。
しかし気が動転しており壁にぶつかり頭を打ち付ける。

キュー
「は、早く・・早く皆が居る所に逃げないと・・・!!」

急いで立ち上がりドアへと向かう。ドアノブを掴もうとするが空を掴みドアに頭を再び打ちつける。
一瞬目眩に襲われ頭を振る。


ガチャ


ドアが開き誰かが入ってきた。



作者



キュー
「ひっ・・・・!!?」



琶紅
「きゅ、キューさん・・・。今凄い音が聞こえたので来たんですけど・・・。
そんな所で何してるんですか?」
キュー
「はっ・・・・はっ・・・・っ・・・。」


あまりにも気が動転していたためか琶紅を作者と見間違えた。


キュー
「・・・・・。」


しばらく琶紅の顔を見つめ続けた後、深いため息をついた後立ち上がる。

キュー
「・・・・はぁ・・・危うく自分を見失う所だったよ・・・。・・・本当にアタシ、作者の事が怖くなってる。」
琶紅
「怖くない人なんていませんって!私ですら怖いんですから・・・。」
キュー
「『私ですら』って何、私ですらって。琶紅の心って毛が生えてるの?
・・・あ、そっか。いつもわざと苛めても全然なんともないもんなぁ〜。」
琶紅
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!って、苛めって自分で把握していたんですか!!
苛め反対!!!反対ーーー!!」

琶紅がキューをポカポカ叩く。腕で攻撃を防ぐ。
すると琶紅がキューの腕を掴んで下げさせる。

琶紅
「キューさん。」
キュー
「ん?」
琶紅
「・・・確かに作者は怖いですよ。・・・それに今まで集めていた誕生石もどんな効果を持っているのか
全く分っていません・・・。だけど集める事に意味はあるっていう確証は得られたじゃないですか。
・・・幽霊刀を取り戻したんです、キューさんは。それなら!必滅の地に行って誕生石を手に入れに行きましょうよ!
そうすればきっと・・・何かが進展するはずです!!」
キュー
「どうしてそう思うの?」
琶紅
「・・・わかりません・・・。最近・・何だか急に頭が冴える事があって・・・。
なんていうか・・・直感・・って言えばいいんでしょうか・・・?何だか人間じゃないような事言ってますけど・・・。」

・・・琶紅は既に死んでいる、いわば幽霊。

・・・何故だか信頼できる台詞に聞こえてきた。

キュー
「・・・必滅の地にいけば進展あり・・・かー。」
琶紅
「・・・キューさん?」
キュー
「・・・そうだね、明日になったらすぐ必滅の地に行こう。じっとしてるのは怖いからね。
それこそギーンに目の前の事を作業しているって言われてもね。」

キューがグッと親指を上に立ててポーズを取る。それを見て琶紅が少し安心した表情を見せる。

琶紅
「・・・それじゃ、キューさん。今日はもう夜遅いのでまた明日。」
キュー
「うん、おやすみ・・・って言ってもアタシ達ずっとデーモン街で寝てたけどね。」
琶紅
「う、うぅ〜ん・・・そ、そうですけど・・・。」

琶紅が何かブツブツ呟きながら自室に戻って行った。




キュー
「(・・・大丈夫。・・・大丈夫・・・・・)」


ベットの中に潜り心の中でひたすら呟く。

・・・一人になるとやはり心細い。だけど自分に自己暗示するかのようにひたすら大丈夫と心の中で呟く。






そして明日になった。






==塔・王室


ギーン
「少し表情がよくなったな。」
キュー
「おうおうー、幽霊刀を取り戻したからな!天下のキュー様のお戻りだー!!」
ギーン
「・・・こいつ。そういえば幽霊刀の礼を聞いていないな。」
キュー
「えー・・・。・・・ありがとうさぎ!」
ギーン
「ニューバースト浴びせるぞ!!」
キュー
「私のAC(アーマークラス)は最強です。」

ギーンが本当にニューバーストを浴びせようとしてきたので慌てて制止させる。

キュー
「ごめんごめん!冗談だって!ありがとう!」
ギーン
「ちっ!」

シジューゼ
「トラバチェス首相もキューには翻弄されるんだなぁ・・・。」
フィーゼ
「・・・・何か違う気がする。」
琶紅
「昔のキューさんに戻ってる〜!」

ギーン
「それでキュー。結論は出したか?」
キュー
「結論なんて出してないよ。」
ギーン
「何だと。」
キュー
「だけど必滅の地に行って誕生石を取りに行ってくる。」
ギーン
「・・・必滅の地か。」
キュー
「大丈夫!幽霊刀があるからどんな敵も一撃だよ!勿論作者も!」
ギーン
「ふん、よく言う。・・・不本意だが俺も行こう。最近体が鈍っているからな。貴様のためじゃないぞ。」
キュー
「あ、ツンデレギーン。」

再びギーンが杖をキューに向けてきたので慌てて制止する。今度は琶紅も介入してきた。

シジューゼ
「トラバチェスの首相はツンデレっと。よし。」

が、シジューゼが書いたメモが発火し消えてしまった。
それにシジューゼが驚く。

ギーン
「くそが!・・・とにかく必滅の地に行くぞ!ミーア!」

ミーアが何処からともなく現れた。

ミーア
「・・・必滅の地か。ワープで行くのは無理だな。」
ギーン
「そうだ。それにこの人数だ。装甲車を用意させてそれで行くぞ。」
ミーア
「招致した。」


琶紅
「・・・装甲車・・・。・・・う、う〜ん・・・。」
キュー
「ん?どうかしたの?」
琶紅
「・・・何か懐かしい気がしただけ。」








==装甲車



ヴィックス
「ヒャッハー!!久々の戦場だおらぁ!!」
ボロ
「ヒャッハーとか今時の雑魚でも言わないですよ隊長!」
ガムナ
「隊長は雑魚以下って事っすか!?」
ヴィックス
「お前等ロケットランチャーの弾丸になりたいか。」




琶紅
「でた、三馬鹿。・・ってか何で生きてるの!!」




ヴィックス
「ヒント:首相の延命魔法。」
ガムナ
「ヒント:首相の肉体改造。」
ボロ
「ヒント:首相の人体実験。」
ギーン
「肉片になりたいか?」
ボロ
「肉が食いてーっす。」
ギーン
「今すぐ肉片にしてやる。」


ギーンが杖を前に向けた瞬間、装甲車が必滅の地のモンスターと激突し派手に装甲車が転がった。

ヴィックス
「首相のせいでよそ見運転しちまった!!」
ボロ
「免許剥奪確定っすね。」
ガムナ
「隊長未だに車の免許持ってないから!」
ボロ
「ヒャッハー言うだけあって本当に隊長は雑魚だった。」
ヴィックス
「今すぐ殺す」

ギーン
「良いからさっさと装甲車を起き上がらせろ。」



三人ともギーンに蹴られて外に出る。
キュー達も外に出てモンスターを引き付ける。


シジューゼ
「く、くそ・・!!外に出るだけで・・・体力が・・・!」
フィーゼ
「・・・魔力もすぐに消える。必滅の地・・・怖い所だね。」
シジューゼ
「俺達はモンスターを相手するんじゃなくて装甲車置きあがらせるのを手伝おう。とても戦略になるとは思えない!」


琶紅
「一閃!!」

琶紅が甲殻虫らしき大きな敵に向けて幽霊刀を振る。
しかし硬い足に弾かれてしまった。

琶紅
「わっ!」
キュー
「たあああぁぁぁーー!!」

今度はキューが物凄い勢いで突進し攻撃を仕掛ける。

キュー
「引き裂く!!」

一瞬のうちに六回の連撃を浴びせ殻をバラバラにし本体に強烈な一撃を浴びせる。

琶紅
「もう一回、一閃!!」

殻を失った敵にもう一度一閃を仕掛ける。今度は攻撃が通り体液を撒き散らしながら死んだ。

キュー
「よし!」

シジューゼ
「おーらっしゃぁー!!」
ヴィックス
「うっしゃぁー!!」

二人だけで装甲車をもう一度ひっくり返して元に戻す。

ガムナ
「もうあの二人だけでいいんじゃないのか?」
ボロ
「流石必滅の地のモンスター。」
ヴィックス
「嬲り殺す。」
ギーン
「とっとと発進させろ!」



何度も何度もギーンにケツを蹴られすぐに運転席に戻る三人。


ヴィックス
「チッ!!必滅の地じゃ魔法つかえねーくせに・・・!・・・あ、今の『チッ』は首相の真似な。」
ボロ
「満点!!」
ガムナ
「似すぎて一瞬見分けがつかなかった・・・!?」
ヴィックス
「チッ!」
ボロ
「はぁ?」


数秒後、ギーンの杖から火の塊が飛び出し三人とも絶叫した。

シジューゼ
「暇しないな。」
フィーゼ
「今のどうやって魔法を・・?」
ギーン
「チャージだ。今回は一切ここで詠唱する事が出来ない。だから事前に杖に魔法をチャージしてきた。」
ヴィックス
「そんな貴重な魔法を俺達のためだけに解放させてあざーっす!!」

数秒後、今度はギーンの杖がヴィックスの頭を殴った。

キュー
「本当に暇しないね。琶紅は知ってるの?この人達。」
琶紅
「キュピルさんとかも知ってますよ。・・・って、キューさんこの人達に会った事ありますから。
キュー
「え!?」
琶紅
「しかも八歳の時に。」
ガムナ
「おぉ、誰かと思えばあのキュピルの娘さんの可愛い可愛いお譲ちゃんか!!」
ボロ
「大きくなったなぁ!そこの赤い髪のまな板よりナイスばでーになったな。」
ヴィックス
「俺の娘の娘の方が数倍可愛い。」
ボロ
「隊長の娘の娘もうババアじゃないっすか。」
ガムナ
「ババーン!!あ、今の効果音な。」

ヴィックスが肘打ちでボロとガムナの鼻を殴りつける。二人が悲鳴を上げながら倒れる。
そして琶紅がボロに対して踏みつける。

ギーン
「お前等後一回でも喋ったら無休無給だ。」


ヴィックス
「・・・・・・・・・・・・むきゅーwむきゅーwむきゅきゅ〜w」


五秒後。装甲車がもう一回ひっくり返った。










==数時間後



ヴィックス
「首相。つきました。」
ガムナ
「長くて辛い戦いだった。」
ボロ
「俺達はまた一つの死線を潜り抜けた。」

モンスターと戦った訳でもないのに超ボロボロになっている三馬鹿。

シジューゼ
「誕生石のある場所に辿りついたのか?」
フィーゼ
「違うよ。ここは必滅の地に存在するベースキャンプみたいな所。マナが一切存在しないのは相変わらずだけど
モンスターがいないんだ。」
シジューゼ
「オアシスみたいなもんか・・・。」
キュー
「ん、待って!誰かいる!!」
ギーン
「こんな所にか?」

全員装甲車の中から外の様子を伺う。

・・・テントが張られてある。それも大分大きい。

キュー
「・・・テントだ。」
ヴィックス
「バカンスか?」
ボロ
「羨ましいな。」
ガムナ
「いくら何でもそれはないわ・・・。」
ボロ
「何こいつ、一人真面目ぶりやがって。」
ヴィックス
「罰としてお前見てこい。」
ガムナ
「ぐわっ!」

ヴィックスがガムナをドアから放り投げる。
渋々ガムナがテントの中の様子を見に来る。



・・・・数十秒後。



ガムナ
「隊長ー!!二人います!!ここに住んでいる模様!!」
ギーン
「なに?ここに住んでいるだと?」
シジューゼ
「すげぇな・・・。ただでさえ行く事事態が自殺行為なこの場所で・・住んでるとはな・・・。」
ガムナ
「というか俺この二人知ってます!!敵じゃありません!」
ギーン
「何だと。」

全員ぞろぞろと装甲車から降りテントの中にいる人物を確認する。



・・・・見覚えのある姿。



キュー
「あ、ああああああああああああ!!!!!」

ファン
「・・・!!キューさん!!」
ルイ
「・・・・・!?」

テントの中にファンとルイがいた。

キュー
「ル、ルイまで!!」
ギーン
「何だと!!」

ギーンが即座に杖を前に向け琶紅やキューも武器を抜刀して戦闘態勢に入る。

ルイ
「・・・・待って!今は襲うつもりはありません。」
キュー
「・・・どういうこと?」
ファン
「少し話すと長い事になります。それよりキューさん・・・生きていたんですね。」
キュー
「おうおうー!勝手に人を死なせるなー!・・・でもそこのルイに危うく殺されかけたんだけどね。」

キューが敵意の籠った目付きでルイを睨む。

ルイ
「・・・あの時は・・・仕方が無かった。・・・それにキュピルさんはこんな事望んでいない・・・。」
キュー
「・・・え?お父さん?」
ギーン
「お互い報告したい事が山積みのようだな。順に追って説明する必要がありそうだ。
順序を考えると先にキューから今までの出来事を話した方が良い。」
キュー
「・・・・わかった。」

キューがファンとルイに潜水艦に乗って沈められた所から主要な出来事を全て話した。
特にシジューゼに助けられた事、作者に遭遇した事、誕生石を二つ手に入れた事、デーモンとのやり取りは
強調して伝えた。

ルイ
「・・・そう、やっぱり作者はキューさんが目当てなんですね。」
琶紅
「・・・・・。」
ギーン
「次にファンだ。今まで何処で何をしていた。」
ファン
「キューさんが行方不明になり、アノマラド東部へ向かって誕生石を集めていました。
ドリームファクターで一つ誕生石を手に入れて次に必滅の地にある誕生石を手に入れようとしていたのですが・・・。
思うように事態は進まず気がつけば8年間経過していました。」
琶紅
「8年間ずっとここに居たんですか!?」
ファン
「そうですね。食料や水は全て僕が発明した機械に調達を任せているので皆さんが思っている程苦労していません。」
ギーン
「随分とあっさりしてるな・・・。一度戻って顔を見せてくれたほうがよかった。」
ファン
「そうしたかったのですが何分ここを出ると物凄く危険だったので迂闊に出れなくて。」
ギーン
「・・・・・。・・・次にルイだな。おい、ルイ。俺の記憶では貴様は何度もキュー達を襲い作者側についていたはずだ。」
キュー
「それどころか私の元に一回戻ってきたと思わせて裏切った!」
ルイ
「・・・ここが必滅の地で本当によかったです。」
琶紅
「どういうこと?」
ルイ
「ここならば作者からの監視を逃れる事が出来るからです。」

ギーン
「監視だと?」

シジューゼ
「俺達は部外者・・・か?」
フィーゼ
「大人しく聞いていた方がいいと思うよ。兄さん。」

ルイ
「そうです。・・・まず始めに大前提として申し上げておきます。
私は作者に洗脳なんかされていません。」

すぐにギーンとキューが意義を唱えた。

キュー
「嘘だ!W・L・C隊を従えて何度もアタシ達を襲ったじゃん!!」
ルイ
「あれは作者をごまかすためにそうやったのです!!
そしてキューさん達を襲ったのにはもう一つだけ理由があります!!」
琶紅
「もう一つの・・・理由?」
ルイ
「キューさん達が誕生石を集めていると聞いたキュピルさんがすぐにキューさんを退かせるように私に
お願いをしてきたので力づくで大人しくさせるために襲いました。」
ギーン
「待て、キュピルは生きているのか!?」

ルイ
「生きています。しっかり自我も持っていていつもキューさんの事を心配しています。」
キュー
「ねぇ、ルイ!!お父さんに会わせてくれる事とかって出来る!!?」
ルイ
「・・・作者の世界に自由に行き来出来る私じゃないと無理です。連れて来ようと思えば連れて行けますが・・・
今そんな事すればずっとキュピルさんと練ってきた計画が台無しになります。」
ギーン
「その計画ってのは何だ?」
ルイ
「・・・作者を倒す事です。」


チーム内が一瞬ざわついた。

シジューゼ
「あの作者を・・・倒す事が出来るのか!?」
フィーゼ
「デーモンが無理だと言っていたのに・・・。」
ルイ
「・・・正確には倒すというより追い払う・・・封印するっていうのが正しい表現になります。
そしてそれを実現するために必要なアイテムが『誕生石』です。」

・・・誕生石。

ルイ
「・・・ですが・・・作者は誕生石を使えば自分を封印させる事を可能であることを最初から知っていたので
キュピルさんの致命的な一撃を喰らって回復を図っていた時から私に誕生石を集めるように命令してきました。
その時に私は誕生石がどういうものであるかを知りました。
・・・最初から作者の傍についていると見せかけて傷付いたキュピルさんを影で助けていたのですが・・・
何とか作者の監視を逃れながら計画を練る事が出来ました。」
ギーン
「その計画とやらは俺達が仮に介入しなかったとしても二人だけで出来る計画なのか?」
ルイ
「・・・いえ、三人居なければ達成できません。」
ギーン
「三人?なら後もう一人は誰だ。」




ルイが少し間を置いてから喋った。






ルイ
「ジェスターさんです。」




衝撃的な一言に知っている人は驚きの声をあげた。




続く



第二十一話


必滅の地のベースキャンプに到着。
何人もの仲間を連れて最後の誕生石を手に入れに来たがその道中にルイとファンに遭遇。

そしてジェスターの存在。



琶紅
「え!!!?ジ、ジェスターって生きてるの!!?」
キュー
「ジ、ジェスター・・・!!」
ギーン
「馬鹿な・・・。あのジェスターに何ができるんだ・・・!」
ルイ
「いいえ。今回の作戦はジェスターさんがいなければ完遂できません。」
琶紅
「え、えっと〜・・。ジェスターさんには一体どんな事を任せているのですか?」
ルイ
「誕生石の解放です。」

ギーン
「誕生石の解放だと?」
ファン
「僕も少し信じ難い話しでしたが誕生石の潜在能力をジェスターさんは引き出す事ができるそうです。
その力を使えば作者をアノマラド大陸に二度と来ないようにする事が出来る・・などを話していました。」
キュー
「ファンとルイはもうジェスターに会ったの!?」
ファン
「いえ、僕もルイさんも会っていません。全てこの手紙でやり取りしています。」

そういうとファンは手紙を見せた。内容は先程ルイが話した通りの事。
・・・そして文面、文脈を見ると・・・これは・・。

キュー
「・・・これ・・・アタシが今まで何通か貰ったあの手紙と似てる・・・。」
ファン
「初めてキューさんの所に手紙と同ガーネットを送りつけてきた人物。それはジェスターさんだったようです。」
キュー
「・・・ごめん。アタシの最後の記憶通りだとジェスターってこんなに凄い事やってくる人じゃなかった。」
琶紅
「ジェスターさんが突然行方不明になった理由とかって聞いたのですか?」
ファン
「・・・聞きましたよ。」
ギーン
「作者と関係あるのか?」
ファン
「大いに関係あります。」
ギーン
「今すぐ話せ。」
ファン
「・・・話すのであれば・・。キューさんとそこの旅人らしき二人。あと兵士の席の外して頂けると助かります。」
シジューゼ
「・・・え?・・・俺とフィーゼ・・あとこの兵士たちは分るんだが・・・何でキューさんまで席を外さなきゃいけないんだ?」
キュー
「そ、そうだそうだ!アタシは立派な関係者だぞー!」
ルイ
「いずれキューさんにも話す日が来ます。ですが今は話す時ではありません。」
キュー
「・・・な、なんだよー・・。」

琶紅がチラッとキューを見る。・・・聞いたらいかにも話してあげるとでも言ってあげそうな目だ。

キュー
「・・・分ったよ。外に出るよ・・・。」
ファン
「すみません。キューさん。」

キュー、そしてシジューゼとフィーゼ。最後に三馬鹿がテントの外に出る。







キュー
「あーあー!何でアタシは仲間はずれなんだよー!」
シジューゼ
「キューさんは今までの出来事の中心人物のはずだよな・・・?何故疎外されたんだ・・・。」
フィーゼ
「・・・とりあえず僕達はこの後の準備をしよう。必滅の地のモンスターは強い。
だから出来る限りの準備、そして皆のためにご飯を用意してあげようかな。」
シジューゼ
「・・・ま、そうだな。考えても仕方がない。」
キュー
「考えたい。」

シジューゼ
「ま、まぁまぁ・・・。」
キュー
「・・・ん?三馬鹿達はー?」

ボロ
「隊長。俺等の事すっかり三馬鹿って呼ばれてるんすけど。」
ヴィックス
「誤解だな。二馬鹿の間違いだ。」
ガムナ
「さっすが隊長!勿論馬鹿じゃないのは俺の事ですよね?」
ボロ
「いや、俺だろJK・・・。」
ヴィックス
「そんな事で争っているお前等が二馬鹿だ。とっとと装甲車の点検するぞ。」
ボロ
「うっわー・・・隊長が糞真面目・・・引くわー・・・。」
ガムナ
「俺・・必滅の地から戻ってきたらこの隊から抜けるんだ・・・。」
ヴィックス
「いいから点検しろ!」
ガムナ
「隊長に不備があります!今すぐ交換しましょう!!」


数秒後、工具が飛びあった。



キュー
「・・・三馬鹿。」
シジューゼ
「面白い人達だなぁ・・・。」


その時、テントから凄まじい叫び声が聞こえた。
全員驚いたような声。

キュー
「な、何!?敵!?」
フィーゼ
「衝撃的な事実を聞いたような感じの声だった。多分敵が来たとかじゃないと思うよ。」
キュー
「・・・・・。」

それを聞いて余計そわそわするキュー。何故自分だけ省かれたのか・・・。

フィーゼ
「・・・・風が止んだ・・?・・・・あれを見て。」
シジューゼ
「何だ?」

・・・常に強風が吹いているここ必滅の地で風が止んだ。
砂嵐が止み、月の光や星に照らされて奥の奥まで見える。

・・・ここから数十キロメートル離れた場所に何か巨大な塔が見える。

シジューゼ
「あれ・・・トラバチェスにある塔か?」
キュー
「方角が違うしあんなに大きくない。・・・あの塔は・・・何?」
フィーゼ
「・・・必滅の塔。」
シジューゼ
「必滅の塔?・・・そういえば有名な冒険伝記に何か書いてあった記憶があるな・・・。
兄弟に位置する塔が二つあるんだっけか・・・。」
フィーゼ
「・・・影の塔。慟哭の塔。その二つの塔の兄弟に位置する必滅の塔。」
キュー
「・・・影の塔・・・慟哭の塔・・・。昔お父さんが言った事あるって聞いた気がする。」
フィーゼ
「最上階に何があるのか、まだ誰も知らない。・・・・・・・・・。」

フィーゼが大陸地図を見る。

フィーゼ
「・・・あの必滅の塔に誕生石が存在している。」
キュー
「あの塔を登るんだ・・・・。」

・・・・。

・・・・・・・・・・・。

シジューゼ
「何だかそわそわするな。装備の点検でもするか。」
フィーゼ
「・・・ご飯の支度は?」
キュー
「アタシが手伝うよ。」

シジューゼがトラバチェスで新しく手に入れた武器を抜刀する。
・・・シルバーロングソード。

シジューゼ
「こいつなら悪魔だろうが幽霊だろうが斬る事が出来る・・・。すげぇぜ・・・。クラドじゃ絶対手に入らなかった代物だ。
よく砥石で研いでおかないとな。」
キュー
「銀の武器なら幽霊斬れるってのは初めて聞いた・・・。」
シジューゼ
「え?迷信なのか!?」
キュー
「さ、さぁ・・・。試した事ないから何とも・・・。」
フィーゼ
「試しに斬りに行ったらどう。兄さん。」
シジューゼ
「切れなかった事を考えると怖いからやめておく・・・。」

シジューゼがずっと塔を眺めている。

シジューゼ
「・・・もしキューさんに合わなければ俺はこんな所に来ていなかっただろうな・・・。」
キュー
「あれ?もしかして嫌だった?」
シジューゼ
「そんな訳ないさ。俺の小さいころからの夢だった冒険がこんなにも毎日出来ているんだ。
・・・・ただ実際に冒険して分ったんだ。・・・やっぱり冒険者ってのは誰でもなれる訳じゃないって。
もしキューさん・・・琶紅さんがいなければ俺はこんな危険な場所には来れないし
冒険の王道でもある国王に会う事だって出来ない。そしてラスボスもいない。」
フィーゼ
「・・・兄さん。この冒険が終わったらどうするの?」
シジューゼ
「・・・大人しくクラドで働いて生活するか。」
キュー
「あれ?てっきりまた冒険にいくぞーとか言うと思ったのに。」
シジューゼ
「ハハハ、いやぁ昔の俺だったらきっとそう言っていたな。
キューさんはどうするんですか?この冒険が終わったら・・・何処かでひっそり暮らすのですか?」
キュー
「・・・私はシジューゼさんと逆かな。」
シジューゼ
「逆?」
キュー
「そう。アノマラド大陸から飛び出してもっともっと広い外の世界を見に行きたい。
他の大陸の事は知らないけどきっとあるはず。船に乗って国を越えて・・・ね。」
シジューゼ
「・・・いいですね。」
キュー
「全部事が終わったらシジューゼさんも一緒についてきてもいいけど・・・来る?」

フィーゼがシジューゼに目で何か伝えている。
しかしシジューゼが横に首を振る。

シジューゼ
「いや、嬉しいお誘いだけど遠慮するよ。さっきも言った通り冒険ってのは選ばれた人だけがやっていい事だと
分ったんだ。クラドに旅人が来たら一杯話しを聞いて一杯今回の冒険の事を話す。伝記にするのもいいな!」
キュー
「あー・・・伝記にするのはちょっとやめてほしいかなー・・・。」

その時、テントから皆出てきた。全員気の抜けた表情をしており特に琶紅の口がぱくぱく動いている。
すぐにキューが琶紅をとっ捕まえて装甲車の影に連れて行く。

キュー
「琶紅!話し全部聞いたんだよね?こっそりアタシに内容全部教えて。」
琶紅
「あわわわわわわわわわ・・・・・・・。・あわわわわわわわわ・・・・。」
キュー
「え?何?何なの?ねぇったら!!」
琶紅
「ほ、本当だ・・・言われてみたら・・・キューさんの髪・・・。」
キュー
「え、何?アタシの髪がどうかしたの?」
琶紅
「ガクッ・・・・。」
キュー
「・・・。そんなにショックな事聞いたの・・・?・・・まさか作者とか・・・。」
ギーン
「安心しろ。ジェスターの失踪理由は作者が確かに絡んでいたがあの驚きの声は
作者意外に対する事だ。気にする事はない。・・・いや、流石の俺も動揺はしたがな・・・。」
キュー
「アタシに関係あることでしょ?だからアタシを外に追い出した!」
ギーン
「関係ないと言えば嘘になる。だがファンの言う通り今は知らないほうがよさそうだ。
安心しろ、いつか知る日は来るだろう。」
キュー
「何その大雑把な約束!!」

フィーゼ
「皆、夜ご飯出来たよ!」

フィーゼが珍しく大声をあげて皆を集合させる。

ヴィックス
「飯だ飯だ!!作業中止!!」

すぐに三馬鹿が焚火の前に群がる。

ボロ
「カレーか。まぁキャンプ定番だよな。」
琶紅
「はっ、ご飯〜!!」

気絶した琶紅がすぐに飛び起き焚火に近寄る。

琶紅
「うわっ!オイル臭!!・・・あんた等〜!!」
ボロ
「装甲車のエンジン点検すればこうなる。まな板も点検してみろ、気持ちが分るぞ。」
ガムナ
「俺はまな板を点検したい。」

ボロ
「うわっ!お前そういう趣向かよ!!まな板はねーよ!」

琶紅がボロとガムナに向かって刀を振り回す。

フィーゼ
「琶紅さん。」
琶紅
「何!!」
フィーゼ
「食べ終わったらこの沢山ある、まな板片付けて。」

三馬鹿から「よく言った!!!」っという歓喜が上がる。
フィーゼは頭の上に?を浮かべている。

シジューゼ
「いや、おまえわざと言っただろ。」

琶紅
「わーーーーん!!皆して私を苛めるーーー!!!わあああーーーーーん!!」
ファン
「琶紅さん、カレー用意してあげましたから食べてください。」

琶紅が泣きながらカレーにがっつく。

ヴィックス
「そうだ!男は黙って食え!」
ボロ
「がっつき、がっつけ!」
ガムナ
「そうすれば大きくなる!二つの意味で。」

もう一回琶紅が刀を抜刀して三人を追いかけまわす。

ギーン
「・・・・・・・。」
キュー
「あれ、珍しい。三馬鹿を怒らないんだね。」
ギーン
「何か言ったか?」
キュー
「って、耳栓つけてたんだ・・・・。」

ギーンが目を瞑ってもくもくとカレーを食べる。威圧感のある老体の癖してカレーというミスマッチ。

ルイ
「・・・・・・。」
ファン
「ルイさんは食べないのですか?」
ルイ
「・・・こんな風に大勢の人と一緒にご飯を食べるのは何十年ぶりなんだろうって思いまして。
出来ることなら160年前に戻ってまた幸せに暮らしたいです・・・。」
キュー
「・・・結局ルイは本当にアタシ達の方に付いているの?また裏切るとかそういう計画だったら本当に怒るよ。」
ファン
「キューさん。疑う気持ちはよくわかりますがもう安心しても大丈夫です。僕が保障します。」
キュー
「ふーん・・・・。」
ルイ
「・・・ごめんなさい、キューさん。実は・・潜水艦の一件は本当にキューさんを殺しそうになって・・・
キュピルさんに凄く怒られたんですよ・・・。もしそれで本当に殺していたら私はキュピルさんとはもう
一生口を聞いてくれなかったかもしれません。」
キュー
「あ、そうだった!ねぇお父さんは本当に生きているの!?」
ルイ
「はい、生きていますよ。作者の世界にずっと閉じ込められていますけど・・・ちゃんと生きていますよ。
ただ作者の世界ということもあって迂闊に会話はできないのが・・・ちょっと・・・寂しいです。
向こうではキューさんの敵であること、作者の味方であることを演じなければいけないので・・・。
どんなマナも魔法も遮断するここ必滅の地でなければ気を許す事が出来ない状態です。」
キュー
「・・・そっか。一応お父さんは生きているんだ。・・・ってことは・・・。
ルイはお父さんが行方不明になった後の出来事を知っている・・・?」
ルイ
「・・・知っていますよ。」
キュー
「・・・お父さんが行方不明になった後の話し聞かせて。」
ルイ
「わかりました。・・・メモを残し最後の砦であるトラバチェスから飛び出して作者と共にアノマラドの世界から
居なくなった事はもうご存知だと思いますが・・・その後は作者の世界でずっとキュピルさんは戦っていました。」
キュー
「確かお父さんがいなくなったのと同時にルイも居なくなったって聞いたんだけど・・・どうして?」
ルイ
「それは・・・ちょっと分りません・・・。私も気が付いたら作者の世界に居たので・・・。
ただその時は本当に作者から時々洗脳を受けて操られた時があったので・・・。
念のためもう一度言っておきますがもう作者の洗脳は振り切りました。」
キュー
「どうして振り切れたの?」
ルイ
「大雑把に言いますとキュピルさんのお陰です。・・・いつ、どのタイミングで洗脳が切れたのかは
分りませんけれど・・・。」
キュー
「・・・・・・。・・・その後は?」
ルイ
「キュピルさんと作者の長い長い激闘の末、最後にキュピルさんが作者に対して致命的な一撃を与えて
作者を沈黙させることに成功しました。」
キュー
「・・・沈黙させただけで完全には倒せなかったってこと?」
ルイ
「・・・そうですね。作者を沈黙させた後はしばらく私とキュピルさんはずっと作者の世界に閉じ込められていました。
こちらの世界に戻る方法を完全に断たれていたので・・・。
長い長い年月が経過しても私とキュピルさんは容姿から何まで全く変わらずそのまま数十年が経過しました。
・・・そしてある時、作者の意思が再び復活しアノマラド大陸に攻撃を仕掛けてきました。」
ファン
「それが一番最初のW・L・C隊です。」
キュー
「あの時のW・L・C隊はとにかくアタシを捕まえようと凄く必死だったね・・・。」
ルイ
「作者の当初の予定ではキューさんを捕まえて前の私みたいに記憶を塗り替えさせて
キュピルさんを一度黙らせる予定だったようです。私達もその事を知り何とか
アノマラド大陸に行く方法はないかと模索したある時、作者が何者かが誕生石を集めている事に気付き
即座にアノマラドにある誕生石を全て手に入れるようにW・L・C隊に命令しました。
その時、ちょうどW・L・C隊の前隊長がキューさんの攻撃によって死亡し作者が次の隊長は私になれと指示し
洗脳・・・してきたのですがまだ力が衰えている状態だったのでキュピルさんの協力もあって
何とか洗脳されずに済みました。ところが作者は私の事を洗脳している状態だと思いこみをし
これを利用する手はないっと考えてW・L・C隊の隊長を引き受けました。」
キュー
「・・・・・。」
ファン
「キューさん、何か考え事ですか?」
キュー
「・・・ううん。何でもない。その後は?」
ルイ
「その後は作者からアノマラド大陸と作者の世界へ行き来する力を貰い
ひとまず本当に洗脳されていると思わせるために誕生石を集めていました。
勿論その時は何故誕生石を集めるのか分らなかったのですが・・・・。
・・・ある時W・L・C隊の一人が私に手紙を持ってきました。
その手紙には誕生石を全て集めれば作者を倒す事が出来るとの事が書かれていました。
手紙の事をキュピルさんに何とか伝え全て手に入れたら私が裏切って一気に倒すっという作戦を立てたのですが
途中キューさんも誕生石を集めている事が発覚し、もしキューさんが誕生石を守り抜き続いたら
いずれ作者の力が回復しピンポイントにキューさんだけを狙って攻撃を仕掛けにいくかもしれない・・・。
そう考えた私とキュピルさんはキューさんを退かせ誕生石を強奪してスムーズに作者を倒そうと
試みたのですが・・・・。思ったよりキューさんが強かったです・・・。」
キュー
「アタシから言わせてもらうとすればルイも相当強かったと思うよ。・・・アタシが知ってるルイが
あんなに強くなかった気がする。」
ルイ
「ふふっ、また作者が復活するのは分っていましたからね。幸いにも閉じ込められていた作者の世界には
マナが沢山溢れていたのでキュピルさんと何十年も特訓しましたから。」
キュー
「ふーん・・・・。ところでルイが貰った手紙ってまだ残ってるの?」
ルイ
「・・・途中、キューさんが私の部屋に襲撃を仕掛けて手紙を持って行ってしまったと思うのですが・・・。」
キュー
「・・・あ!!あの何も書かれていないただの白紙って・・・」
ルイ
「その手紙です。作者に気付かれないようにカモフラージュしていたのですが・・。」
キュー
「あの白紙ってその手紙だったんだ・・・。・・・ところであの偽物のルイは?」
ルイ
「私が幻術で作りあげた偽物です。キューさんから誕生石を奪うための奇策だったのですが・・・。
・・・・変に私とキューさんの戦いが長引いてしまいある意味最悪な事態になってしまいましたね・・・。」
キュー
「ルイが悪い!!」
ルイ
「で、でもお互い本気でぶつかったから作者を騙せている訳ですから・・・。よしと・・してくれませんよね・・。」
ファン
「キューさん。通常の方法で僕達にこの事を伝えるのはかなり難しかったそうです。
それこそ必滅の地でなければこのような事を絶対話せなかったそうです。」
琶紅
「ずっと聞いていましたけど、実際にキューさんは潜水艦の中で石化して
10年間自由に動けたはずですよね、ルイさん。でも全ての誕生石を集める事が出来なかったようですけど・・・。」
ルイ
「・・・途中、作者が復活してしまい私の行動をより深く監視出来るようになってしまい
迂闊に動けなくなってしまったのが一番の原因です。・・・もっといいますと・・・
いくつか入手方法の分らない誕生石がいくつかあって・・・。」
シジューゼ
「デーモン街で手に入れた誕生石は奇跡としか言いようがなかったな・・・。」
フィーゼ
「シャドー族の村で手に入る予定だった誕生石も伝記によるとシャドー族のみが立ち入れる場所に
飾られているらしいから手に入るかどうか少し怪しかったかもね。」
琶紅
「私が手に入れたあのペリドットも・・・ううぅ・・・。」

何か普通では手に入らない出来事でもあったのだろうか・・・。

ギーン
「あの衣装堂のダイヤモンドも簡単に盗める代物ではないらしいな。
少し拝見させてもらったが凄い罠が仕掛けられていたぞ。」
キュー
「現にアタシそこ失敗してるからね・・・。
・・・結局、偶然に偶然が重なってここまでやって来れたってのは少しあるかもしれないけど・・・。」

・・・・・・。

キュー
「・・・何だか疲れちゃったなぁー・・・。まだまだ聞きたい事は一杯あるんだけど・・・。
今日はもう寝るよ。必滅の塔は明日行くんだよね?」
ギーン
「ああ。」
キュー
「わかった。行く時起こしてね。」

キューが皿を砂の上に置いて数歩移動してから立ち止まる。

キュー
「・・・そういえば何処で寝ればいいの?」
ファン
「テント使っていいですよ。」
キュー
「じゃー遠慮なく。」

キューがテントの中に入る。

琶紅
「・・・・・・・・。」
ルイ
「・・・ん?どうかしましたか?」
琶紅
「・・・いや、何でもないです。」

・・・・・。

琶紅
「(ずっとキューさんとルイさんの話を聞いていたけど・・・・。
・・・本当にルイさんは最初から洗脳されていなかったのかな・・・・。
もし、されてないとしたら・・・双月の陣のあの件を考えると・・・ちょっとルイさんが怖く見える・・・。)」

本気で殺しにかかってきたルイ。
とてもキューを誕生石の件から退かせるためとは思えない程の殺意と実力。
現に琶月と輝月はある意味で死亡した。

琶紅
「・・・・・・・。」

このルイ・・・怖い。









危険な場所である必滅の地に唯一とも言えるこのモンスターが存在しないオアシスで
それぞれの思考が交差する。





そして翌日。






ヴィックス
「首相、装甲車の点検終わりました。」
ギーン
「そうか。それならもう行くとしよう。おい、琶紅。キューを起こせ。」
琶紅
「は、はいー!」
ファン
「必滅の塔を登りに行くのですね?」
ギーン
「勿論だ。」
ファン
「僕がこの必滅の塔を登れなかった最大の原因は戦う力を持っていなかった事です。
ルイさんと合流した後でも塔に存在するモンスターは非常に強く太刀打ちできませんでした。
・・・ですが、今このメンバーなら行けるかもしれません。」
ギーン
「塔の構造はどうなっている。」
ファン
「入るたびに変わるので把握しきれていません。」
ギーン
「・・・そうか。」
シジューゼ
「この装甲車は必滅の塔の入り口までしか行けないってことなのか・・・?」
ヴィックス
「おーっと、そう言う事もあろうかとこいつは改造してある。階段ぐらいだったら登っちまうぜ!」
ボロ
「通常の装甲車の三倍の出力!」
ガムナ
「のぼれねー階段なんてないな!!」
フィーゼ
「三倍なら赤く・・・いや、何でもない。」
シジューゼ
「・・・????」

しばらくするとテントの中からキューと琶紅、そしてルイが出てきた。

キュー
「よく寝た・・・。」
琶紅
「もう何時でも出発の準備は出来ているみたいです。」
ギーン
「そうか。準備の出来た奴から装甲車に乗れ。必滅の塔に向かうぞ。」
ルイ
「・・・・」

ルイが腰に着けている大きなバックパックから一瞬にして銃器の部品を取り出し三秒で組み立てる。
そして異色なカスタマイズをしているAKL-47を点検する。

ルイ
「・・・私は大丈夫です。」

ルイが装甲車に乗る。

ファン
「魔法が使えないので何処までお役にたてるか分りませんが頑張ります。」

ファンも装甲車に乗る。

シジューゼ
「ついに決戦って感じだな・・・。」
フィーゼ
「・・・・・・・。」

二人も装甲車に乗る。

キュー
「・・・最後の誕生石を手に入れにいこう、琶紅。」
琶紅
「はい!」

二人が装甲車に乗る。

ギーン
「全員乗ったな。おい、三馬鹿。発進させろ。」
ヴィックス
「これは酷い。おい、ガムナ!機関銃いつでも撃てるようにポジションにつけ!ボロ、お前はミサイルだ!」
ガムナ&ボロ
「イエッサー!」

装甲車のエンジンがかかり勢いよく発進した。
凄まじい速度で砂の上を走り必滅の塔へと向かう。

安全地帯を抜け、モンスターに襲われる可能性がある場所へと出る。
突然目の前に何体かのモンスターが現れたりするが装甲車に搭載されている機関銃とミサイルで
一時的に怯ませそのままスルーして必滅の塔へと向かう。

シジューゼ
「やっぱり近代兵器は強いな・・・!俺も銃覚えてみようかな。」
ルイ
「素人が使うと肩の骨外れますよ。」
シジューゼ
「いぃっ・・!?・・・そ、そうなのか・・・。」
ギーン
「この調子なら30分もしないうちに辿りつくな。」
キュー
「・・・ねぇ、ルイ。」
ルイ
「はい?」
キュー
「・・・・ごめん、何でもない。」
ルイ
「?」


・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

装甲車が急ブレーキをかけた。

ヴィックス
「首相、つきました。必滅の塔に。」
ボロ
「こいつはでけぇな・・・。上を見上げても何処まで伸びているのか分らない・・・。」
ギーン
「装甲車は中に入れそうか?」
ヴィックス
「入口をぶっ壊せば入れると思います。」
ギーン
「壊せ。」
キュー
「凄い大胆な行動。」

ヴィックス
「ボロ、ミサイルを発射させろ!」
ボロ
「イエッサー!」

装甲車に搭載されているミサイルが発射される。
入口の石壁にぶつかり大爆発を起こす。入口の壁がボロボロと崩れ落ちる。

ヴィックス
「よし、中に突撃だ!!」

全員固唾を飲む。
・・・この塔そのものから威圧感を感じる。























==必滅の塔













中に入った瞬間、視界が真っ暗になった。


キュー
「うわ、真っ暗!何があるのか分らない!ライトないの!?」

・・・・・。

キュー
「・・・・あれ?皆?」

・・・・・・・。

また真っ暗な世界に来てしまったのか。

キュー
「・・・またデーモンの世界だとかそういうのに類似した場所なのかな・・・。
今度は必滅の世界〜みたいな・・・。」

すると突然景色が変わりある場所に辿りついた。


・・・・懐かしい。


クエストショップだ。




キュピル、ジェスター、ファン、ルイ。

ヘル、テルミット、輝月、琶月、ディバン。

そしてキュー。

皆いる。



・・・ただその場にいるだけで幸せを感じる。


ところが徐々に周りから人が居なくなっていく。

人が一人消えていくたびに何処か不安を覚え

最後にはキュピルとキュー以外全員消えてしまった。


キュピル
「キュー。」
キュー
「何?お父さん。」

キュピル
「・・・いつからこうなってしまったんだろうな。」
キュー
「・・・どういうこと?」

キュピル
「何時から俺達はずっと作者と戦い続ける事になってしまったんだろうな。」
キュー
「・・・アタシは分らないよ。お父さんが40歳過ぎても作者の脅威に晒され続けていた。
何かの手紙を持たされて子供だったアタシはまだお父さんが二十歳の頃の世界に連れて行かれた。」
キュピル
「その手紙の内容にはこう書かれていた。
『娘を頼む。その子は未来を変える唯一の希望だ。作者から守ってくれ』
・・・俺は未来の自分からキューを守るように言われた。
そして当の本人であるキューには未来を変える事の出来る唯一の希望でもあったそうだ。
・・・ここで考えなければいけないのは、もし。仮にキューが過去に戻って居なかったらどうなっていたのか。」
キュー
「・・・どうなっていたと思う?お父さん。」
キュピル
「・・・ここが重要な所になるが・・・。・・・仮にキューが過去に戻っていなかったとしても
未来は同じだったと思うんだ。」
キュー
「・・・未来は同じ・・?」
キュピル
「そうだ。・・・キューが過去に戻って居ようが居まいが作者は結局襲撃してくる。
そしてアノマラド大陸に大量のモンスターが押し寄せ一度滅びかける。
キューは未来に戻され、俺は行方不明になり、そして仲間の殆どが死ぬか行方不明になった。
これはもう免れない出来事だったんだ。」
キュー
「・・・・・。」
キュピル
「未来は同じ。だけど分岐点は必ずあったはずだ。
そう、キューを未来に送るか否か。
結局俺はキューを安全に守りきる自信がないと逃げ腰になりファンに頼んでキューを未来へ
送り返そうとした。」
キュー
「だけど途中モンスターが襲撃してきてアタシは正しい未来に帰って来れなかった。」
キュピル
「あの時、俺は完全に逃げ腰になっていた。もし、キューを未来に送り返さずに守っていれば
未来は変わっていたのかもしれない。それこそ未来の俺が言ったように・・・。」
キュー
「お父さん。・・・お父さんが得意だったように物ごとを逆転して考えてみたらどう?」
キュピル
「・・・逆転して考える?」
キュー
「アタシを未来に送った事によって未来が変わったって。」
キュピル
「どうしてどう言える?」
キュー
「だって今までの出来ごとをまとめるとどうしても一つだけ矛盾点が残ってるから。」
キュピル
「・・・矛盾点?」
キュー
「アタシが過去の世界に飛ばされた時の年齢は8歳。そしてそれから10年後にお父さんは行方不明になった。
お父さんが30何歳かの時にアタシが生まれてお父さんが40何歳かの時にアタシは過去に飛ばされた。
でもその前にお父さんは行方不明になった。これって大きな矛盾点だよね。
そこから考えられる事って一つしかないよね。」
キュピル
「・・・・なるほど・・。俺がキューを未来に送り返したことによって未来が分岐した・・っと・・?」
キュー
「そう言う事。もし、アタシが未来の所に送り返されて居なかったらお父さんは行方不明にもならず
40歳過ぎてもずっと作者の脅威に晒され続けていた。だけど今はほら!もうすぐで誕生石が全部集まる。
誕生石が全部集まれば作者を永遠に封印出来るらしいからもう少しでこの脅威からおさらばできるよ!」
キュピル
「・・・キュー。もう一つだけ。・・・もう一つだけ考えられる事が残っている。」
キュー
「・・・考えられる事?」
キュピル
「俺は作者の世界にずっと閉じ込められている。年齢も変わらずに・・・ただずっと。
もしかすると事を終えて作者の世界から抜け出して歳を重ねてきた時に
キューが産まれてそして再び作者の脅威に晒されたのかもしれないぞ。」
キュー
「じゃーお父さんに聞くよ。」

キューが間を置いてから喋る

キュー
「お父さんは現時点でアタシの母親が誰なのか知ってる?
もし、知ってるんだったら・・・後から提示したその考えられる事ってのは成り立たなくなるよ。
なぜならその前にアタシを産んだってことになるから。まだ産んでないなら母親だって分らないよね。」

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


キュピル
「・・・・・知っている。
キュー
「・・・アタシのお母さんは誰なの?」





キュピル
「もう少し・・・・もう少し待てば分るさ。」




急に世界が遠くなっていく。



キュー
「あ、待って!!お父さん!!」





頭の中に、父の言葉が直接響く。そして重くのしかかる。







「キュー。真実はもうすぐそこまで来ている。
だけど真実を知った時。救いようのない絶望感に襲われるかもしれない。
そう、確かに作者を倒す事が出来る。だけど、その代償はあまりにも大きな物。
全てが無になってしまう。

・・・・だけど、そこで作者の誘惑や、自身の感情に負けないでほしい。

むしろ、その逆の気持ちであってほしい。


無の中から有を作り出す。その気持ちを・・・。

















キュー
「・・・っ・・!!」


ばっと起き上がる。ここはどこだ?


・・・雷雲轟く雲の中。

冷たい風が吹き荒れ一瞬の稲光の後に見える一筋の光。


赤色の光、黄色の光、青い光、緑色の光。


一筋の光が様々な色に変色している。



光の正体。




キュー
「・・・10月の誕生石。オパール。」



気がつけば必滅の塔最上階に居た。


回りを見渡すとここが屋上である事がすぐ分かる。

入口らしきものは見当たらずまるで閉鎖された屋上。


どうやってここに来たのか。



自分以外誰もいない。



キュー
「・・・・・。」

稲光を頼りにオパールの元へと近づく。

・・・虹色に光る宝石。


オパールに触れ、台座から引っこ抜く。



引っこ抜いた瞬間。凄まじい強風が吹いた。

キュー
「うっ!」

凄まじい強風に立つことすらままならない。
その場に伏せ吹き飛ばされないようにしっかり台座にしがみつく。

・・・そして数十秒後。風が止んだ。


キュー
「・・・ぅ・・・。」

・・・・明るい。

顔を見上げる。


・・・晴天。

さっきまでの雷雲が信じられない。



まるで昼間のナルビクの砂浜で日向ぼっこしているような懐かしくて暖かい気持ち。


キュー
「・・・・・あ・・・。」

・・・マナが蘇る感覚。


・・・・・。


必滅の地の砂嵐が止みマナが流れるようになった。






それに気付いた瞬間、誰かがワープしてきた。


ギーン
「キュー!!」
キュー
「あ、ギーン。」
ギーン
「突然装甲車から消えたかと思えばそこに居やがって!!
キュー、すぐにトラバチェスに逃げるぞ。」
キュー
「・・・作者が来るんだね?」
ギーン
「そうだ、ここ必滅の地で魔法が使えるようになった。すぐに誕生石を奪いに来るぞ。」


「なるほど・・・。必滅の地とやらに行けない原因はその誕生石が原因だったのか・・・。」


不気味な声が響く。

ギーン
「テレポート!」
作者
「させんっ!!」

作者が何か怪しげな空間を展開させる。
さっきまでの晴天が嘘のように暗くなった。

しかし怪しげな空間が展開しきる前にギーンの詠唱の方が速く終了し
その場から離脱した。




==必滅の地・ベースキャンプ


テレポートした先は必滅の地のベースキャンプだった。
移動した先に装甲車があり全員そこで待機していた。

琶紅
「キューさん!」
キュー
「あ、琶紅!」
琶紅
「突然消えたから心配しましたよ!!魔法が突然使えるようになったので
テレポートでここまで戻ってきたのですけど・・・・。キューさんを置いて逃げるような感じがして・・・・。」
キュー
「大丈夫!ほら!誕生石を手に入れてきたよ!」

ファンが誕生石を見た瞬間、ハッと何かに気付く。

ファン
「・・・ついに本当の決戦が始まりますね。」
キュー
「決戦?」
ファン
「もう必滅の地にも作者が介入できる土地になってしまいましたから言う事は出来ませんが・・。
しばらく待っていれば必ず救援が来ます。それまで待ちましょう。」
キュー
「・・・何を言っているのか分らないけど・・・一番来てほしくないのが来るよ。」

再び怪しげな空間が展開され始めた。

作者
「やぁやぁ・・・諸君。・・・ついにアノマラド大陸全ての誕生石を手に入れたようだな。」

作者が突然目の前に現れた。全員武器を抜刀し身構える。

作者
「・・・・ふむ。ここにルイがいるような気がしたのだが居ないようだな。
ここ暫く奴の足取りが掴めん。」

・・・そういえば確かにルイがここにいない。
まぁしかし当然と言えば当然だろう。

必滅の地で魔法が使えるようになった今、作者の介入が出来るようになった。
つまり今ここでルイと一緒にいると計画が台無しになってしまう。

作者
「キューよ。・・・この数年間の冒険はどうだ?楽しかったか?」
キュー
「え?」

突然そんな事を聞かれ困惑する。

作者
「・・・まぁ良い。・・・そろそろ私もこの世界に飽きが出始めている。
私の目的はキュー。お前だけだ。」
琶紅
「キューさんには指一本触れさせませんよ!!」

琶紅がバッと前に出る。

作者
「そういえばお前は死なない不思議な人間だったな。・・・いや、現世に縛り付けられた幽霊か。」
琶紅
「え?」
作者
「・・・面白い。面白いが・・・この世界の人物に興味はない。」
ギーン
「ふん。興味がないと言っておきながらよくここまで滅茶苦茶にしてくれたものだ。」
ヴィックス
「そうだそうだー!!」
ガムナ
「てめーのせいで俺等は首相に肉体改造されて寿命延ばされたんだぞおらー!」
ボロ
「定年退職させろこのやろう!!!」

作者が全く興味を示していない。そもそも聞こえたかどうかすら怪しい。

作者
「・・・貴様は・・私の世界を一度壊してくれた人間か。」
シジューゼ
「え、お、俺か!!?」
作者
「どうやって私の世界を一度壊したのか知らないが・・・後少しの所でキューを
私の手中に納める事が出来たのだ。それを邪魔した償いを受けて貰おう。・・・じっくり嬲り殺してやる。」
シジューゼ
「くっ・・これがラスボスの威圧感か・・・!!」
フィーゼ
「・・・・・・。」

フィーゼが無言で魔術本を開く。フィーゼから高い集中力が感じられる。

作者
「・・・・どうやら、これが最後の戦いになりそうだな。」
ギーン
「ああ、その通りだ!ここで貴様の束縛から解放してみせる!!」
キュー
「・・・最後の戦い・・・。」


最後。



生き残るか。




死ぬか。






続く





第∞話


・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




とても長い長い人生だった。


普通の人間では生きられない年齢にまで達成してしまった。


それはこの世界にいるからなのか。

それとも幽霊刀の力がまだ残っているのか。


俺はまだ生きるのか。



それともそろそろ終わりが近づいているのか。




目の前に白い光が集まり始めた。




キュピル
「・・・・・・?」



白い光が一気に弾け飛び、光の中から白い髪の毛の子が出てきた。



ジェスター
「キュピル。皆が作者と戦い始めた。誕生石も全部集まったよ。」


・・・158年ぶりにジェスターと会う。

あの頃のジェスターは子供だった。


・・・今、目の前に居るジェスターは・・・俺の知らないジェスターだ。

・・・・Lv5、ジェスター。



キュピル
「もう少し待てばルイが誕生石を強奪してくるはずだ。それまで待つ。」
ジェスター
「ルイはもうだめだよ。自分が消滅すると聞いて怖くなっちゃったみたい。」
キュピル
「・・・まさか?」
ジェスター
「残念だけどまた作者の傍に戻ると思うよ。」
キュピル
「洗脳はされていないはずだ。」
ジェスター
「うん。されていないよ。・・・自らの意思で作者の傍につこうとしてる。・・・キュピルと一緒にいたいがためにね。」
キュピル
「・・・そうか。・・・ジェスター。本当に俺達は無になってしまうのか?」
ジェスター
「・・・ごめん、ちょっと急ごう。作者が少し違和感に気付き始めている。」
キュピル
「わかった。早く誕生石を取り返しに行こう。」

そういうとキュピルは魔法を唱え、白銀に光る剣を召喚する。

ジェスター
「キュピル魔法使えるようになったんだ。
キュピル
「ジェスターもな。」



キュピルが白銀に光る剣を一振りする。

真っ暗な世界が一瞬にして壊れ、W・L・C隊の基地が現れた。


・・・W・L・C。We Lost contact。

我々は接触を失った。


このW・L・C隊は作者が作りだした限りなく人形に近い兵士。


外部との接触が断たれたこの空間。


W・L・C隊はルイが名付けた物だ。



キュピル
「・・・・欲の強いルイめ。」



W・L・C隊が異常に気付き、攻撃を仕掛けてくる。
キュピルも応戦し的確な剣さばきで一瞬にしてW・L・C隊を壊滅させる。

ジェスター
「魔法唱える必要なかった。」
キュピル
「ルイの部屋はこっちだ。」

キュピルが先導しジェスターがその後に続く。

・・・左右にスライドする扉の前に立つ。


前に立ち、扉がスライドする。



ルイ
「・・・・・・。」

キュピル
「・・・・ルイ。」

ルイが宝石箱を持って立ちつくしている。


ルイ
「・・・・・。」

キュピル
「それを持ってキュー達の所に行けば終わりだ。作者も・・・・俺達も。」


ルイ
「・・・キュピルさん・・・・。私は・・・。」


キュピル
「ルイ。早くキューの所に行k・・・」


ルイ
「い、嫌です!!!」



ルイが誕生石が入っている宝石箱を机の引き出しにしまう。


キュピル
「どうしてだ、ルイ!その誕生石を早くキュー達の元に持っていかなければ・・・計画が台無しになるぞ!!
いくらキュー達とはいえど本気になった作者の前じゃ30分も持たない!」
ルイ
「キュピルさん・・・。・・・誕生石が全て揃った時・・・・私達はどうなるんでしたっけ・・・。」

ジェスター
「無になるんだよ。」

扉から隠れていたジェスターが歩いてやってくる。

ルイ
「・・・・!?ジェスターさん・・・?!」
ジェスター
「誕生石が全て集まり、12の力が解放された時。私達は無に帰るの。」
ルイ
「無に帰る。それって死ぬって事じゃないですか・・・!!作者を倒すのに私達まで死ぬ必要があるんですか・・・!!
私は・・死ぬのが怖いです・・!キュピルさんとも離れたくありません!!そんな自爆みたいな事・・・私はしません!」」
ジェスター
「・・・自爆なんかじゃないよ。・・・言い方を変えると、一度リセットさせるんだ。」
ルイ
「・・・リセット?」
ジェスター
「そう。私達は一度・・・・。」

その時、空間が歪む感覚がした。

ジェスター
「・・・!作者が異変に気づいた!」
キュピル
「ルイ、もう時間がない!早くその誕生石を持ってこっちに来い!」
ルイ
「・・・・・・。」
キュピル
「ルイ!!!!」

キュピルが走ってルイの元まで行く。
ルイが銃器を取り出し、キュピルに向ける。

ルイ
「・・・仮に私が誕生石をここで渡さなくても・・・。作者の世界で私は永遠に生きる事が出来る。
キュピルさんも永遠に生きる事が出来る。・・・作者に従えば出来ない事は・・・ない・・。」
キュピル
「飼いならされてるんじゃねぇ!!!」

ルイがハッとしキュピルに向けて銃弾を放つ。迎撃するかのようにキュピルが剣を投げる。
銃弾がキュピルの肩に直撃し、剣がルイの胴体に突き刺さる。

ルイ
「っぁ・・・!!」
キュピル
「っ・・・・。」

キュピルが困惑の顔をする。・・・痛みによるものだけではない。


ジェスターがすぐに机の引き出しから宝石箱を取り出す。


ジェスター
「行こう、キュピル。」
キュピル
「ああ。」
ルイ
「い・・・行かないで・・・・ください・・・。・・・・キュピルさん・・・!!」
キュピル
「・・・・ルイ・・・。」

ジェスターが魔法を唱え始める。

ルイ
「キュピル・・・さん・・・。」
キュピル
「・・・また会える。きっと。」

ジェスターが魔法が詠唱を終えキュピルとジェスターが白い光に包まれる。この作者の世界から抜け出す。

・・・・さぁ、150年ぶりに外の世界に出るぞ。















作者
「・・・・・・少し本気を出し過ぎたか。」


・・・・死屍累々。



キュー
「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・!!」

キューが右肩を左手で抑える。血が止まらない。

作者の放った一つの黒い弾。
弾け飛んだ瞬間、凄まじい熱が放出され近くに居た者は・・・・・。

琶紅
「キューさん・・・・!!」

琶紅が片足を引きずりながらキューに近づく。

琶紅
「大丈夫です。どんな攻撃を受けても私は死にません!・・・私がキューさんを・・・守ります!」

琶紅が刀を構えて前に立つ。

・・・・。

琶紅とキュー以外に生きている者。


・・・・キューが辺りを見回す。


今、やっとそういう余裕が出てきた。




シジューゼが焼死している。



フィーゼも焼死している。




ギーンが大量の針が突き刺さって死んでいる。




ヴィックス、ガムナ、ボロは見当たらないが装甲車が近くで炎上している。




・・・・・そしてファンが無残にも砂の上で横たわり息絶えている。




キュー
「・・・・・・。」

キューの幽霊刀がこれ以上ないぐらい強く光る。

作者
「冒険はもうお終いだ、キュー。・・・ククク。」

作者がキューに近づく。琶紅が前に飛び出し一閃を繰り出す。
しかし作者が初めて肉弾戦を繰り広げ琶紅の攻撃を軽く受け流してから強烈な蹴りを浴びせる。
吹き飛び、キューの近くを転がる。

琶紅
「まだ・・・まだ終わって・・・っ・・・!」

鈍い痛み。一番嫌な痛み。

作者
「キューよ。お前の父が待っているぞ。・・・さぁ、行こうではないか。」
キュー
「・・・・。」

キューが無言で幽霊刀を振る。作者にかすったかと思ったが微妙に当たっていない。

作者
「おぉ、そこまでのダメージを受けて居ながらまだそれだけの余裕があるか。流石はキュピルの娘。
しかし暴れられては困るな。・・・・一度その両腕をもぎ取ってやるか?・・・何安心するがいい、
ちゃんと新しい腕をつけてやろう。」
キュー
「く、来るな!!」

恐ろしくなったキューが再び幽霊刀を振り回す。

琶紅
「一閃!!」

懲りずに琶紅がまた一閃を繰り出す。今度はあえて作者が棒立ちで攻撃を受ける。
足に深い傷を負わせるが数秒後、すぐに回復してしまった。

琶紅
「な、なんで・・・・。」
作者
「・・・・少し困ったことになったな。」
琶紅
「え?」

その時、目の前に白い光が現れた。

・・・・白い光からキュピルと・・・ジェスターが現れた。


琶紅
「きゅ、キュピルさん!!ジェスターさんも!!!!」
キュー
「お・・お父さん・・・!!」
キュピル
「キュー!・・・くたばれ作者!!」
作者
「ぬぅっ!?ジェスターめ、どこぞに潜伏していたと思えば!!?」

キュピルが即座に作者に斬りかかる。
作者もそれに応戦するが怒涛の攻撃を前にして作者は防戦一方になる。

ジェスター
「キュー。」
キュー
「ジェスター・・・!」
ジェスター
「凄く大きくなったね。・・・色々話したい事はお互いあると思うけど。
・・・キュピルが作者を抑えている間に誕生石貰うよ。」

ジェスターが両手を広げて魔法を唱える。
・・・キューの持っている誕生石が中に浮かび上がる。

ファンが持っていたカラーレストパーズが浮かび上がる。


シジューゼが持っていたサファイアが浮かび上がる。



12の誕生石を全て浮かび上がる。



作者
「・・・・!!!させるか!!!!」

作者が即座にジェスターに攻撃を仕掛ける。
今までに見た事のない動き、キューと琶紅も反応が遅れ作者の攻撃をスルーしてしまう。
作者の右手が赤く燃えジェスターを薙ぎ払おうとした瞬間。バリアによって作者が弾かれてしまった。

作者
「なに・・・!?」
キュピル
「俺を忘れていては困る。」

キュピルが後ろから作者に奇襲を仕掛ける。
作者がすぐに振りかえり前方にバリアを張って防ぐ。

キュー
「援護するよ、お父さん!!」

キューが幽霊刀で作者の背中を斬ろうとする。しかしまたバリアによって弾かれてしまった。






作者
「・・・・うおらああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!」





作者が物凄い叫び声を上げながら闇色のオーラを展開させる。


瞬く間に四人を包み込む。




時が止まる。





・・・いや、一人だけ止まって居ない。




キュー
「何・・・・。」



幽霊刀が激しく共鳴している。この闇色のオーラと相殺しあっている。




作者
「・・・キュー。今すぐ、その剣でジェスターを斬れ・・・!私の攻撃ではジェスターを倒す事はできん!!
その幽霊刀でジェスターを斬れ!!」
キュー
「嫌だ!」

やるわけがない。

作者
「いいか・・・。今ジェスターがやろうとしている事は世界の崩壊だぞ・・・!
お前等が一番恐れていた世界の崩壊だぞ!!!!
お前の父、キュピルが私からの攻撃を幾度も防ぎ切り
ギーンがアノマラド大陸全てに存在する国と連携を取り合ってモンスターを迎撃し
このアノマラド大陸を守り続けていた事を・・・このジェスターはあっさりと裏切って
アノマラド大陸だけではなく世界を崩壊させようとしているぞ!!!!!」



キューが黙って話を聞く。



作者
「・・・ククク、なるほど・・・。忌々しいキュピルのジェスターめ。
私を倒す策がこれしかないと踏んで自爆を選んだか。
世界を崩壊させ、私を巻き込ませ全てを無に還らせようとしているのか・・・。
確かに無に還されては私もただではすまない。・・・いや、それこそ貴様等が待ちに待ち望んだ
作者の死が訪れるかもしれない。・・・だが私だけではないぞ。キュー、お前もだ。
いや、お前だけではない!キュピル、ジェスター、琶紅!!
そしてこのアノマラド大陸に住む者全員・・・。
この世界に住む者全員が無に還され、そして永遠に消えてなくなるぞ!!!


キューが振り返りジェスターの方を見る。


・・・両手を広げたまま制止している。


作者
「ジェスターを斬らなくていいのか?ククク・・・。
やっと・・・やっとお前が愛する父にも会え、お前が今まで知りたがっていた母にも会い・・・・。」

キューが作者の話を遮る。

キュー
「待って!!母にも会いって・・・・どういうこと・・・!?」
作者
「そこのジェスターがお前の母だ!!!貴様のその髪を見て気付かなかったか!!?
その異様な癖毛!!比べてみるがいい!!!ジェスターの面影があるということを!!!」
キュー
「ま、まって・・・そ、そんな・・・・!!!?いや、嘘だ!!!!」
作者
「嘘なものか!!では聞こう!!その髪が一度たりとも真っすぐ降りた事があったか!!?
その癖毛を失くす事が出来たか!!?無いだろう!!なぜならばそれはジェスターの血を
受け継いでいるからだ!!!」
キュー
「っっ・・・!!」

・・・・ってことは・・・・。


作者
「とんだ茶番だな。今までお前は誰が母親だと思っていた?
口に出しはしなかったものの、ずっとルイが母親とでも思っていたか?
・・・それは違う。お前の母はそこに立ちつくしているジェスターだ。」


キュー
「・・・・・。」


作者
「・・・人間とジェスターのハーフであるお前を産み赤子のお前を連れて
ジェスターはオルランヌへと失踪した。ここまでは私も把握していた部分だ。
ところが奴は突然この世界から失踪した!赤子のお前を連れて!
・・・・とても残念だがそこから先は私も把握しきれてはいない。
・・・お前は人の子ではない。

いや、それこそ。

禁忌とされている生き物だ。この怪物が。」


キューが作者を睨む。


作者
「キュピルは望みを託したかったのだろう。お前が何処かで産まれなければ
お前という者は存在しなくなる。・・・キュピルもとち狂ったものだ・・・。」

作者が少し間を置いてから喋る。

作者
「・・・キュー。ジェスターを殺せとは言わん。だが奴を斬り、その幽霊刀で
ジェスターの詠唱を妨害しろ!そして世界の崩壊を防げ。
そうすればお前と父と母を連れて私の世界へ案内しよう。三人仲良く暮らせてやってもいい。」

キューが作者を睨む。

作者
「おっと、信じられない顔をしているようだな。
・・・では別の選択肢を用意してやる・・・。」

作者が両手を広げる。・・・二つの映像が浮かび上がる。


作者
「貴様に人生最後の選択肢を用意してやる。」


右の選択肢にはキュピルとジェスターとキューが映っている。
・・・作者の世界。狂った世界ではあるが三人は絶対に引き離される事なくお互いを必要としながら生きている。
・・・『生きている』


だが左の選択肢には何も映って居ない。


ただ真っ暗な映像。


作者
「右はお前が今ここでジェスターを斬った時の選択肢だ。
私の世界の中で貴様等三人は時には苦しみ、時には狂い、時には必要としながら生きていく事が出来る。
その中で幸せを感じることもあろう・・・。そして何より。・・・貴様等は生きる事が出来る。私の世界の中で。
だが今ここでジェスターを斬らなければ左の世界になる。
誕生石の力が解放され、アノマラド大陸・・・世界は崩壊し無になる。
お前等は無になるのを恐れて私と戦い続けたはずだ。・・・こんな形で無にしていいのか?」


・・・・。


「無になるんじゃない。・・・一度無になって無の中から有を作る・・・それがジェスターさんの考え。」


作者
「・・・!!?」

時の止まったこの空間にルイが入りこんできた。今にも息絶えそうだ。


ルイ
「キュー。・・・誕生石を解放させたら世界は確かに無になる・・・。無になるけれど・・・。
また新しく作ることも出来る。そう、世界の誕生。・・・左の映像みたいに真っ暗な世界なんて続かない。
・・・この世界が出来て・・・アノマラド大陸が作られて・・・人が産まれ・・そして国が出来る。
その中で私達は再び産まれてこの世界に立つ事が出来る・・・そう、この世界で産まれた人達は。
・・・だけど私やキュピルさん。そしてキュー・・・。他の世界から来た私達はまたこの世界に
誕生する事は出来ない。だってイレギュラーな存在だから。・・・だからその左の映像に映っているのは私達の未来。」


キュー
「・・・新しく作り出す・・・。それは誰がやるの・・・?」


ルイ
「・・・・・わからない。」




・・・・・・。




作者
「分ったか?キュー。・・・そろそろ決断の時だ。時を止めるのが難しくなってきた。
ジェスターを斬り、生きるか。それとも、世界を無に帰しこの世界から消えるか!」

















『俺達は、イレギュラーだ。』




『イレギュラーがこの世界に迷い込んだ結果、この世界は平和ではなくなってしまった』




『償おう。』




『キュー。』








キュー
「・・・・・・・。」




キューが幽霊刀を地面に突き刺し、仁王立ちする。






作者とルイが驚き、キューを見つめる。



キューがニッと笑い、泣きながら叫んだ。




キュー
「にひひひ!最後は私の大好きなお父さんのように。
凛々しく、かっこよく。無になろっかな!!
ばいばい!!琶紅!ばいばい!!皆!!!」










幽霊刀から白い光が飛び出した。



時を止めていた闇のオーラが壊され消える。







時が進みだす。






12の誕生石が合わさる。








誕生石が物凄いエネルギーへと変わり、辺りを覆う。






キューが死んだ。





キュピルが死んだ。






ジェスターも死んだ。






ルイも死んだ。





作者も死んだ。






必滅の地が消える。




トラバチェスが消える。



ナルビクが消える。




アノマラドが消える。





アノマラド大陸が消える。





世界が消える。








全てが無に還った。

















無になった。



















・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




・・・聞こえる?



・・・。


・・・答えなくてもいいから、聞いてね。





今。全てのエネルギーが貴方に集まった。




貴方はエネルギーの塊。





後は貴方がそのエネルギーを好きな風に使うだけ。




貴方が望めば世界はまた作られる。




貴方が望めばアノマラド大陸はまた作られる。



貴方が望めばまたナルビクが出来るの。



貴方が望めばまたトラバチェスが出来あがるの。





貴方が望めば・・・・・・。






・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







私は全てのエネルギーを手に入れた。



私はエネルギーの塊。




私はそのエネルギーを好きな風に使える。




私が望めば世界はまた作られる。




私が望めばアノマラド大陸はまた作られる。



私が望めばまたナルビクが出来る。



私が望めばまたトラバチェスが出来あがる。





私が望めば・・・・・・何だってできる。








私は作者になった。





全てを作りあげる者になった。







まずは世界を作ろう!



そしてアノマラド大陸を作るんだ。





私の記憶に残っているアノマラド大陸を作ろう。








そうだ。地図だ。













誕生石に刻まれていた線を頼りにアノマラド大陸を作ろう!









・・・世界が出来あがり、アノマラド大陸が浮かび上がる。





次に人を作るんだ。




凄まじいスピードで時が進む。




・・・街が出来た。



・・・国が出来た。






私の記憶の通り。地図の通り。







時が進む。





あっという間にアノマラド大陸が発展していく。









私は作者。







望めば何だって出来る。










ほら。





私の知っている人が『この世界で』産まれたよ。



私の知っている人のために、あの人も作ろう。


ほら、あの人も『この世界で』産まれたよ。



二人は離れさせちゃいけない。






そうだちょっとだけ。ある人達の運命を弄ってあげよう。






今まで皆頑張って来たんだから。




そのぐらいのご褒美はいいでしょ?





・・・うん。




これで完成!





もう私が何も手を加えなくても大丈夫。








ちゃんと上手くやっていけてるかな?












ナルビクに存在するクエストショップを覗き見る。







あ、お父さんだ。




ルイもいる。



二人は幼馴染。

もちろん、この世界で産まれたよ。





・・・・ジェスターもちゃんといるしファンもいる。





・・・・うん。琶月もちゃんといる。琶月が大好きな輝月もいる。





皆幸せそう。







もう大丈夫だね。






二度と争いは起きないから。







幸せに暮らしてね。








私は作者。





私が望めばどんな事でも出来る。






そう、私の消滅も。





もうこの世界は私の力がなしでもやっていける。



成長していける。





私が無用な介入をしない限り争いは起きない。







もう私は要らない。






作者はもう必要としていない。






・・・・じゃぁ。








無に還ろう。









大丈夫、私は怖くない。







だって、自分の存在をしっかり残したから。







そのぐらいの自分へのご褒美。あってもいいよね?






大丈夫。





私は怖くない。







ばいばい。・・・お父さん。





ばいばい。・・・お母さん。




ばいばい。・・・皆。










もう誰もあの出来事を覚えていない。








あの戦い、記憶、そして歴史と一緒に私は消えよう。
















とても癖毛の激しい黒髪の作者が消えた。












一つの物語が今。完全に消えた。



























ナルビクの出入口に小さい子が一人仁王立ちしている。




「おー、ここがナルビクかー!明るいなー!それで、お父さんの家はどこだー?」





クエストショップに誰かが入る。




・・・クエストショップの店主が黙々とデスクワークをこなしている。


入ってきた小さい子が目の前にやってきてやっと誰かが来た事に気付く。







「あぁ、これは大変失礼しました。本日はどういったご用件・・・」


「よぉっー!!!『また』会えたな!!」

「・・・・は?」

・・・八歳ぐらいの身長の子がいきなり机の上に乗っかり堂々とビシッと指差す。
黒い髪に黒い瞳・・・。癖毛がかなり激しい。







キュー
「さぁー!アタシが誰だか分かるかな?いや、絶対分かるはずだ!!分らなかったらぶっ飛ばす!
・・・・おーっと、先に宣言しておくけど「アタシを守ってくれー」って書いてある手紙なんか届けにきてないぜ。
未来からだって来ていない。突然その辺にパッと誕生したとってもとっても可愛いお父さんの子だぜ。にひひひ!」

























「何この超電波な子。間違いなく頭が狂ってる」






「ひ、酷いぜ!!!」














ジェスターのひとり言   fin


後書き



物心がついた時からキューはキュピルと作者との戦いに巻き込まれていました。
過去へ飛ばされ、昔の父に育てながら平和を満喫する。
でもすぐにその平和は消えてなくなりまたキュピルと作者の戦いが始まります。

今回の物語はキュピルと作者の戦いに一旦終止符が打たれた後から始まりました。

突然襲来してきたW・L・C隊。
一体何故W・L・C隊はキューを襲うのか。
その原因を探ると裏に作者の手が引いている事にキュー達は気付きます。
再び作者を倒すためにキュー達は立ち上がり父がやり残したことを完遂させようとします。


この物語の中心人物である作者には由来が存在しています。
その由来は主にLinuxやUnix等で使われる『スーパーユーザー(rootユーザー)』という言葉です。
Linuxにおいてスーパーユーザーとは神に等しい物であり
一般ユーザーはスーパーユーザーからの命令には何一つ逆らう事ができません。
スーパーユーザーは全ての権限を持ち、全ての物を作り出す事が出来、全ての物を消すこともできます。
一般ユーザーを消去しようとすれば一瞬で消去する事が出来、それを阻止する術は
一般ユーザーには存在しません。ただその事実を受け入れるのみです。

このスーパーユーザーと一般ユーザーは今回の登場人物に当てはめる事が出来ます。

当然のことながら作者がスーパーユーザーであり、その他の登場人物が一般ユーザーです。

作者は強大な力を持ち、一般人では手も足も出す事ができません。
最終的には物凄い力を持ったキュピルが襲いかかっても致命傷を与える事が精一杯でした。


そんな神に等しい作者を最終的にキューは作者を倒せたのでしょうか?
今回の物語では誕生石の力を解放させ全てを無に還し、無の中から全てを作り出す力を手に入れ
そしてキューは作者となり新しいアノマラド大陸を作りあげ自ら消滅していきました。

実はこれをスーパーユーザーと一般ユーザーに当てはめる事が出来ます。
ある時。一般ユーザーがスーパーユーザーを名乗り出し、一般ユーザーを作り出してから
自らをremove(消去)させたのです。一般ユーザーが突然スーパーユーザーを名乗り出す過程には
様々な経路が存在するでしょう。ハッキングから情報漏洩に物理破壊。色んな手段が存在します。


もう一度言いますがスーパーユーザーは一般ユーザーにどんな命令を下すこともできます。
それこそ嫌がらせをしようと思えば可能です。スーパーユーザーを作者に当てはめますと
まさに作者がキュピル達に嫌がらせ(その域を超えていますが)しそれに対して抵抗するという形です。

嫌がらせをしてくるスーパーユーザーが消滅しさぞ一般ユーザーは喜ぶでしょう。
ところがスーパーユーザーが消滅すると実は一般ユーザーも同時に全て消滅してしまうのです。
全てにおいて管理者の存在なしに一般ユーザーだけを作りあげることはとても難しい事です。


キューは皆が望むアノマラド大陸を作りあげました。新しいアノマラド大陸で生まれ変わったキュピル達は
きっと新しい物語を歩む事でしょう。

そしてキューは自らを消滅させました。



もしもです。




キューがスーパーユーザーだとし、キューが作りあげた者が一般ユーザーだったら?






キューは自ら作り出し、一瞬にして自ら消したことになります。








・・・・っという風に考えてみるのも面白いと思います。色んな推測ができますね。
最後にキュピルとキューが再開するシーンが流れてジェスターのひとり言は完結しています。

これはキューが消滅する前に起きた出来事でその後二人は消えてしまったのか。


それともキューが消滅した後の出来事で二人はその後も幸せに暮らせたのか。





この後書きを読んだ後は様々な終わり方が存在することになります。




・・・最後に。そもそも作者とは作品を作った人に対して言われる名称であり固有名詞ではありません。

つまり作者は何処にでもいます。そして作者はスーパーユーザーと同等の権限を持っています。



そしてスーパーユーザーの存在なしに一般ユーザーは存在しません。





キューが消滅した後の世界。・・・一体、その世界はどうなったんでしょう?





最終話ではなく∞話と書かれています。






貴方はあれこれ考える事が出来ます。





あれこれ考えた結果、一つの結論に辿りつき納得しこの物語の最後を決めつける事が出来ます。







つまり今。





貴方は作者になりました。