プロローグ



俺の名前はパヴレ。

この戦争が始まる前まで、この国・・・ポゴレンのサッカーチームに所属していた。
自分で言うのも何だが、スタープレイヤーだった。

俺の蹴り上げたボールが相手のゴールネットを揺らすたびに歓声が沸きあがるんだ。
ああ、あれはとても心地の良い経験だった。俺の人生が充実に満ちていた事を示していた。

それがいつからだ。こんな惨めな生活を送らなければいけなくなったのは。
政府軍と反乱軍が対立しドンパチ戦争を始めたんだ。

ユーゴラスビアには5つの民族、4つの言語、それに3つの宗教があった。
ベルリンの壁崩壊以降、東側では共産党からの離脱と民主主義が高まっていた。
そしてそれを良しとしない勢力。多民族を束ねていたこの国で内戦が起きるのは時間の問題だったのだろう。


・・・どちらが悪いだとか、そういう事はどうでもいいんだ。いや、正確には考える余裕がない。
今の私は家を失っている。明日を生きるための食料すらない状況だ。
近いうちにこの街も冬を迎える。このまま冬が到来すれば間違いなく私は生き残れないだろう。いや、来週生きているかどうか怪しい状況だ。

悲観に暮れていたその時だった。私に幸運が訪れた。それはブルーノとマルコとの出会いだった。
ブルーノとマルコは親友でこの戦争が勃発した時すぐに助け合う事を決めたそうだ。
そしてその二人が物資を探し回っている途中で私は二人に出会った。
私が二人のグループに加わりたいと言うと彼等は何の躊躇いもなく受け入れてくれたのだ。
この戦時下に置いて誰かと一緒に行動できるというのは、それだけで気持ちが強くなる。二人にはいくら感謝しても足りないだろう。





この日私達は更に幸運な出来事に遭遇した。隠れ家を発見したのだ。家を持っていなかった私達にとってこれはとても幸運な出来事だ。
家がなければ安心して寝ることも出来ないし物資を貯め置く事も出来ない。何よりもこの先に到来するであろう冬を絶対に乗り切れない。
・・・ああ、マルコ。分かっているさ。確かにこの家はボロボロだ。壁に穴は空いているし砲撃が落ちてこない保証もない。
特にこの壁の穴はまずいだろう。夜に夜盗が入ってくる可能性が高まる。

でも、それまでずっと廃墟同然の場所で寝泊りしていた私達にとってこれでも十分すぎる。



この家に誰かが住んでいた形跡は残っていない。よかった、誰かが住んでいたらすぐに抜け出さなきゃいけないところだった。
家の中は荒れ果ててはいるがいくらかの物資や使えるものが残っている。もしかすると戦争が始まる前に国を出て行った人の家なのかもしれない。

さあ、まずはこの家を探索してみよう。
使える物資を残らず探し出して明日を生きる準備を整えよう。

それを戦争が終わるまで。続けるんだ。

生き延びよう。三人で。

・・・絶対にだ。


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